説明

ポリオレフィン系樹脂水性分散体

【課題】 分散安定性に優れると共に、乾燥被膜の耐水性に優れるポリオレフィン系樹脂水性分散体を提供する。
【解決手段】 カルボキシル基を有するポリオレフィン系樹脂(A)及び水を含有してなり、前記ポリオレフィン系樹脂(A)を分散させるための界面活性剤を含まないことを特徴とするポリオレフィン系樹脂水性分散体。前記カルボキシル基の酸価は5〜300であることが好ましく、前記カルボキシル基の少なくとも一部が、アンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン及びエチルジメチルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の中和剤で中和されてなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂水性分散体に関する。更に詳しくは、自動車、電気・電子製品、建築及び包装材料等のさまざまな分野で使用される塗料・インキ用のバインダー、プライマー、コーティング剤及び接着剤として、またガラス繊維の集束剤として好適に使用できるポリオレフィン系樹脂水性分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂水性分散体は、電気特性、力学特性、化学特性及びリサイクル性等に優れていることから、自動車や家電等のさまざまな分野で接着剤、塗料・インキ用バインダー及びプライマー等に適用されることが期待されている。
例えば、エチレン、ビニルシクロヘキサン及び不飽和カルボン酸類の共重合体を分散質として有する水性エマルションが、成形性、耐熱性、耐溶剤性、機械的特性、接着性に優れた皮膜を与えることが開示されている(特許文献1参照)。
しかし、特許文献1に記載の水性分散体は分散安定性を向上させる目的で界面活性剤を使用しているため、塗膜の耐水性の低下や塗膜から界面活性剤がブリードアウトするという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−320400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は分散安定性に優れると共に、乾燥被膜の耐水性に優れるポリオレフィン系樹脂水性分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、本発明に到達した。即ち本発明は、カルボキシル基を有するポリオレフィン系樹脂(A)及び水を含有してなり、前記ポリオレフィン系樹脂(A)を分散させるための界面活性剤を含まないことを特徴とするポリオレフィン系樹脂水性分散体である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリオレフィン系樹脂水性分散体は、ポリオレフィン樹脂を分散させるために界面活性剤を使用することなく分散安定性に優れ、その乾燥被膜の耐水性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のポリオレフィン系樹脂水性分散体は、カルボキシル基及び/又はカルボン酸無水物基を有するポリオレフィン系樹脂(AP)を後述の方法により水に分散させることにより得られる。ポリオレフィン系樹脂(AP)がカルボン酸無水物基を有する場合、ポリオレフィン系樹脂(AP)を水に分散させることにより、カルボン酸無水物基が加水分解してカルボキシル基を有するポリオレフィン系樹脂(A)となる。
【0008】
本発明におけるポリオレフィン系樹脂(A)が、カルボキシル基を有することにより、ポリオレフィン系樹脂(AP)を分散させるための界面活性剤を含有することなく分散安定性に優れ、乾燥皮膜の耐水性に優れる水性分散体を得ることができる。
【0009】
カルボキシル基及び/又はカルボン酸無水物基を有するポリオレフィン系樹脂(AP)は、例えば以下の(1)〜(3)の方法により得ることができる。
(1)オレフィンとカルボキシル基又は酸無水物基を有するエチレン性不飽和モノマー(x)とを共重合する方法。
(2)オレフィンの(共)重合体に有機過酸化物等の存在下、カルボキシル基又は酸無水物基を有するエチレン性不飽和モノマー(x)をグラフト重合する方法。
(3)オレフィンの(共)重合体の減成物に有機過酸化物等の存在下、カルボキシル基又は酸無水物基を有するエチレン性不飽和モノマー(x)をグラフト重合する方法。
【0010】
上記(1)〜(3)の方法におけるオレフィンとしては、炭素数2〜18又はそれ以上の脂肪族不飽和炭化水素[例えばエチレン、プロピレン、(イソ)ブテン、ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、ヘプテン、ジイソブチレン、オクテン、ドデセン及びオクタデセン等のアルケン並びにブタジエン、イソプレン、1,4−ペンタジエン、1,6−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン及び1,11−ドデカジエン等のアルカジエン];炭素数4〜18又はそれ以上の脂環式不飽和炭化水素[例えばシクロヘキセン、(ジ)シクロペンタジエン、ピネン、リモネン、インデン、ビニルシクロヘキセン及びエチリデンビシクロヘプテン];炭素数8〜20の芳香族不飽和炭化水素[例えばα−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、フェニルスチレン、シクロヘキシルスチレン、ベンジルスチレン、ビニルトルエン、クロチルベンゼン、ビニルナフタレン及びポリビニル不飽和炭化水素(ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン及びトリビニルベンゼン等)等];等が挙げられる。
【0011】
カルボキシル基又は酸無水物基を有するエチレン性不飽和モノマー(x)としては、炭素数3〜10の不飽和カルボン酸(例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸及びシクロヘキセンジカルボン酸)及び炭素数4〜10の不飽和カルボン酸無水物(例えば無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、シクロヘキセンジカルボン酸無水物及びアコニット酸)等が挙げられる。
これらの(x)の内、不飽和ジカルボン酸の無水物、更に好ましいのは無水マレイン酸である。
【0012】
上記(2)又は(3)の方法におけるオレフィンの(共)重合体としては、上記オレフィンを通常の方法(例えば特開昭59−206409号公報、特開昭55−135102号公報等に記載の方法)により単独重合又は共重合したものが挙げられる。
【0013】
上記(2)又は(3)の方法における有機過酸化物としては、例えばベンゾイルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、ジアリルパーオキシジカーボネート及びt−ブチルパーオキシアリルカーボネートが挙げられる。
【0014】
上記(3)の方法におけるオレフィンの(共)重合体の減成物としては、上記オレフィンを通常の方法により単独重合又は共重合したものを、熱的、化学的又は機械的に減成して得られる減成物等が挙げられるが、熱減成を行うことにより、ポリオレフィン樹脂の末端又は内部に二重結合が多く生成し、(x)によるグラフト重合が起こりやすくなるため、熱減成して得られる減成物が特に好ましい。
【0015】
減成法に使用する、上記オレフィンを通常の方法により単独重合又は共重合したものの数平均分子量(以下、Mnと略記)は、(x)によるグラフト重合のしやすさの観点から、1,000〜500,000、更に好ましくは1,500〜300,000、特に好ましくは2,000〜100,000である。本発明における数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって、o−ジクロロベンゼンを溶媒として用い、標準ポリスチレンを基準にして135℃で測定される。
【0016】
オレフィンの(共)重合体の減成物における炭素1,000個当たりの二重結合数は、(x)によるグラフト重合のしやすさの観点から、好ましくは0.2〜10個、更に好ましくは0.3〜6個、特に好ましくは0.5〜5個である。また、二重結合数は1H−NMR(核磁気共鳴)により得られるスペクトル中の4.5〜6.0ppm間における二重結合由来のピークから算出できる。
【0017】
熱減成法には、上記オレフィンを通常の方法により単独重合又は共重合したものを窒素通気下で、有機過酸化物非存在下、通常300〜450℃で0.5〜10時間、連続的に熱減成させる方法、及び有機過酸化物存在下、通常180〜300℃で0.5〜10時間、連続的に熱減成させる方法が挙げられる。これらの内、減成物の二重結合の量が多く、(x)によるグラフト重合が起こりやすい前者の方法が好ましい。
【0018】
熱減成物のMnは、(x)によるグラフト重合のしやすさの観点から、好ましくは500〜40,000、更に好ましくは800〜30,000、特に好ましくは1,000〜20,000である。
【0019】
上記(1)〜(3)の方法におけるオレフィンの共重合部分の結合形式は、ランダム又はブロックのいずれでもよいし、これらの併用でもよい。また、オレフィンを(共)重合するに際して、モノマーとして(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜30)エステルや酢酸ビニルを一部併用することもできる。
【0020】
上記(2)又は(3)の方法でオレフィンの(共)重合体又はオレフィンの(共)重合体の減成物からカルボキシル基及び/又はカルボン酸無水物基を有するポリオレフィン系樹脂(AP)を得る具体的な製造方法としては、例えばオレフィンの(共)重合体又はオレフィンの(共)重合体の減成物と、カルボキシル基又は酸無水物基を有するエチレン性不飽和モノマー(x)とを加熱溶融、又は有機溶剤(s)[炭素数3〜18、例えば炭化水素(例えばヘキサン、トルエン及びキシレン)、ハロゲン化炭化水素(例えばジ、トリ又はテトラクロロエタン及びジクロロブタン)、ケトン(例えばアセトン及びメチルエチルケトン)及びエーテル(例えばエチル−n−プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル及びジオキサン)]に懸濁又は溶解させ、これに必要により、ラジカル開始剤(d)又は(d)を上記有機溶剤(s)に溶解させた溶液、連鎖移動剤(t)及び重合禁止剤(u)を加えて加熱撹拌する方法(溶融法、懸濁法及び溶液法)が挙げられ、好ましいのは溶融法及び溶液法である。
【0021】
溶融法での反応温度は、オレフィンの(共)重合体又はオレフィンの(共)重合体の減成物が溶融する温度であればよく、オレフィンの(共)重合体又はオレフィンの(共)重合体の減成物と(x)との反応性及び得られる(AP)の分解温度の観点から好ましくは120〜260℃、更に好ましくは130〜240℃である。
【0022】
溶液法での反応温度は、オレフィンの(共)重合体又はオレフィンの(共)重合体の減成物が溶媒に溶解する温度であればよく、オレフィンの(共)重合体又はオレフィンの(共)重合体の減成物と(x)との反応性、及び得られる(AP)の分解温度の観点から好ましくは50〜220℃、更に好ましくは110〜210℃、特に好ましくは120〜180℃である。
【0023】
連鎖移動剤(t)としては、例えば炭化水素[炭素数6〜24、例えば芳香族炭化水素(例えばトルエン、キシレン、エチルベンゼン及びイソプロピルベンゼン)及び不飽和脂肪族炭化水素(例えば1−又は2−ブテン、1−又は2−ヘキセン、1−ドデセン及び1−テトラデセン)];ハロゲン化炭化水素(炭素数1〜24、例えばジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素及び塩化ベンジル);アルコール(炭素数1〜24、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール及びアリルアルコール);チオール(炭素数1〜24、例えばメチルリオール、エチルチオール、プロピルチオール及び1−ドデシルチオール);ケトン(炭素数3〜24、例えばアセトン、メチルエチルケトン及びエチルブチルケトン);アルデヒド(炭素数2〜18、例えば2−メチル−2−プロピルアルデヒド及び1−オクチルアルデヒド);フェノール(炭素数6〜36、例えばフェノール、m−、p−又はo−クレゾール);キノン(炭素数6〜24、例えばヒドロキノン);アミン(炭素数3〜24、例えばジエチルメチルアミン、トリエチルアミン及びジフェニルアミン);及びジスルフィド(炭素数2〜24、例えばジエチルジスルフィド、ジ−1−プロピルジスルフィド及びジ−1−オクチルジスルフィド)が挙げられる。これらの内、オレフィンの(共)重合体又はオレフィンの(共)重合体の減成物との相溶性の観点から好ましいのは、炭化水素及びハロゲン化炭化水素、更に好ましいのは炭化水素、特に好ましいのは不飽和脂肪族炭化水素である。(t)の使用量は、(x)の重量に基づいて通常40重量%以下、オレフィンの(共)重合体又はオレフィンの(共)重合体の減成物と(x)との反応性及びオレフィンの(共)重合体又はオレフィンの(共)重合体の減成物との相溶性の観点から好ましくは0.05〜20重量%である。
【0024】
重合禁止剤(u)としては、無機化合物[例えば酸素、硫黄及び金属塩(例えば塩化第二鉄)]及び有機化合物[カテコール(炭素数6〜36、例えば2−メチル−2−プロピルカテコール)、キノン(炭素数6〜24、例えばp−ベンゾキノン及びデュロキノン)、ヒドラジン(炭素数2〜36、例えば1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジン)、フェルダジン(炭素数5〜36、例えば1,3,5−トリフェニルフェルダジン)、ニトロ化合物(炭素数3〜24、例えばニトロベンゼン)及び安定ラジカル{炭素数5〜36、例えば1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(DPPH)、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)及び1,3,5−トリフェニルフェルダジル}]が挙げられる。(u)の使用量は、(x)の重量に基づいて通常5重量%以下、オレフィンの(共)重合体又はオレフィンの(共)重合体の減成物と(x)との反応性及びオレフィンの(共)重合体又はオレフィンの(共)重合体の減成物と(x)との相溶性の観点から好ましくは0.01〜0.5重量%である。
【0025】
カルボキシル基又は酸無水物基を有するエチレン性不飽和モノマー(x)の使用量は、ポリオレフィン系樹脂(AP)の重量に対して3〜20重量%が好ましい。
【0026】
上記(1)〜(3)の方法の内、(x)によるグラフト重合のしやすさの観点から好ましいのは、(3)の方法である。
【0027】
ポリオレフィン系樹脂(AP)におけるカルボキシル基及びカルボン酸無水物基の含有量は、樹脂の酸価を測定することにより定量することができる。ポリオレフィン系樹脂(AP)の酸価は、分散性の観点から、5〜300であることが好ましく、更に好ましくは10〜280、特に好ましくは20〜260である。
【0028】
本発明におけるポリオレフィン系樹脂(AP)のMnは、好ましくは1,000〜2,000,000又はそれ以上、更に好ましくは1,500〜500,000、特に好ましくは2,000〜100,000である。
【0029】
ポリオレフィン系樹脂(AP)を製造するための装置は、撹拌又は混練可能なものであれば特に限定されず、コルベン、簡易加圧反応装置(オートクレーブ)及び一軸又は二軸の混練機等が使用できるが、混練強度、密閉性及び加熱能力の観点から、一軸又は二軸の混練機が好ましい。一軸又は二軸の混練機としては、ニーダー[(株)栗本鐵工製「KRCニーダー」等]、一軸混練機及び二軸押出機[池貝(株)製「PCM−30」等]等が挙げられる。
【0030】
ポリオレフィン系樹脂(AP)の製造に際しては、触媒、酸化防止剤、着色防止剤、遅延剤及び可塑剤等の添加剤を併用することができる。
【0031】
本発明のポリオレフィン系樹脂水性分散体は、ポリオレフィン系樹脂(A)、水並びに必要により上記有機溶剤(s)及びその他の添加剤を構成成分とする。ポリオレフィン系樹脂(AP)を水に分散させることによりポリオレフィン系樹脂(A)となり、(AP)がカルボン酸無水物基を有する場合、加水分解によりカルボン酸無水物基がカルボキシル基となる。
【0032】
ポリオレフィン系樹脂水性分散体中のポリオレフィン系樹脂(A)のカルボキシル基の含有量は、樹脂の酸価を測定することにより定量することができる。(A)の酸価は、分散性の観点から、5〜300であることが好ましく、更に好ましくは10〜280、特に好ましくは20〜260である。
【0033】
本発明におけるポリオレフィン系樹脂(A)のMnは、好ましくは1,000〜2,000,000又はそれ以上、更に好ましくは1,500〜500,000、特に好ましくは2,000〜100,000である。
【0034】
本発明のポリオレフィン系樹脂水性分散体中のポリオレフィン系樹脂(A)の体積平均粒子径は、分散安定性の向上の観点から、0.01〜5μmであることが好ましく、更に好ましくは0.01〜4μm、特に好ましくは0.02〜2μm、最も好ましくは0.03〜0.8μmである。体積平均粒子径は、(A)が有するカルボキシル基の量や、必要により使用する有機溶剤(s)の量等により制御することができる。
【0035】
本発明における体積平均粒子径は、レーザー回折粒度分布測定装置[例えば、LA−750(堀場制作所製)]又は光散乱粒度分布測定装置[例えば、ELS−8000(大塚電子株製)]を用いて測定できる。
【0036】
ポリオレフィン系樹脂水性分散体中のポリオレフィン系樹脂(A)が有するカルボキシル基を中和剤により中和することにより樹脂粒子の分散安定性が更に向上する。
【0037】
中和剤としては、例えばアンモニア、炭素数1〜10のアミン化合物及びアルカリ金属(ナトリウム、カリウム及びリチウム等)の水酸化物が挙げられる。
炭素数1〜10のアミン化合物としては、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン及びモノエタノールアミン等の1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン及びジエタノールアミン等の2級アミン並びにトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン及びトリエタノールアミン等の3級アミンが挙げられる。
【0038】
カルボキシル基の中和剤としては、生成するポリオレフィン系樹脂(A)の水性分散体の乾燥性及び乾燥後の耐水性の観点から、25℃における蒸気圧が高い化合物が好適である。このような観点から、アンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン及びエチルジメチルアミンが好ましく、更に好ましいのはアンモニア、モノエチルアミン、ジメチルアミン及びジエチルアミン、特に好ましいのはアンモニアである。
【0039】
中和剤の使用量は、ポリオレフィン系樹脂水性分散体の分散安定性の観点から、ポリオレフィン系樹脂(A)中のカルボキシル基1当量に対して、好ましくは0.1〜3当量であり、更に好ましくは0.5〜1当量である。
【0040】
ポリオレフィン系樹脂(A)の水への分散に際して上記有機溶剤(s)を使用することにより、ポリオレフィン系樹脂(A)の分散性を更に向上させることができる。
【0041】
有機溶剤(s)を使用する場合、その使用量は通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下である。尚、上述のポリオレフィン系樹脂(AP)の製造時を含めて、有機溶剤(s)を使用した場合には、環境汚染の観点からポリオレフィン水性分散体製造後に、これを好ましくは1000ppm以下、更に好ましくは500ppm以下、特に好ましくは100ppm以下まで留去することが好ましく、有機溶剤(s)を使用せず、有機溶剤を実質的に含まないことが最も好ましい。
【0042】
その他の添加剤としては、pH調整剤、破泡剤、抑泡剤、脱泡剤、酸化防止剤、着色防止剤、可塑剤及び離型剤等が挙げられる。
【0043】
本発明のポリオレフィン系樹脂水性分散体の固形分濃度は、分散安定性及び輸送コストの観点から、好ましくは10〜65重量%、更に好ましくは20〜55重量%である。
【0044】
本発明のポリオレフィン系樹脂水性分散体は、ポリオレフィン系樹脂(A)を必要により中和剤での中和し、水に分散させることで製造することができる。具体的には、分散混合装置として回転式分散混合装置を用いてポリオレフィン系樹脂(A)の溶融温度未満の温度で水中に分散させる方法等が挙げられる。前記方法を用いることにより、ポリオレフィン系樹脂の分散のための界面活性剤を使用することなく、更に分散安定性に優れるポリオレフィン系樹脂水性分散体を得ることができる。
尚、製造に当たっては、必要により任意成分である上記有機溶剤(s)及びその他の添加剤が併用される。
【0045】
中和剤を使用する場合は、水分散工程前、水分散工程中又は水分散後のいずれの時期に添加してもよいが、ポリオレフィン系樹脂(A)の分散安定性の観点から、水分散工程前又は水分散工程中に添加することが好ましい。
【0046】
上記方法を用いる場合、ポリオレフィン系樹脂(AP)の形状を0.2〜50mmの粒状又はブロック状にすることが回転式分散混合装置に供給し易いという観点から好ましく、その大きさは、更に好ましくは0.5〜30mm、特に好ましくは1〜10mmである。
【0047】
ポリオレフィン系樹脂(AP)を粒子状に調整する手段としては、裁断、ペレット化、粒子化又は粉砕する等の手段を用いることができる。この粒子状への調整は、水中又は水の非存在下において実施することができる。例えば、シート状に圧延したポリオレフィン系樹脂(AP)を角形ペレット機[(株)ホーライ製]で粒子状にする方法が挙げられる。
【0048】
粒子状に調整されたポリオレフィン系樹脂(AP)を、水等とともに回転式分散混合装置に導入するが、この装置の主たる分散原理は、駆動部の回転等によって粒子に外部から剪断力を与えて粉砕し、分散させるという原理である。またこの装置は、常圧又は加圧下で稼働させることができる。
【0049】
回転式分散混合装置としては、例えばTKホモミキサー[プライミクス(株)製]、クレアミックス[エムテクニック(株)製]、フィルミックス[プライミクス(株)製]、ウルトラターラックス[IKA(株)製]、エバラマイルダー[荏原製作所(株)製]、キャビトロン(ユーロテック社製)及びバイオミキサー[日本精機(株)製]が挙げられ、これらの2種類以上の装置を併用してもかまわない。
【0050】
回転式分散混合装置を用いてポリオレフィン系樹脂(AP)を分散混合処理する際の分散液の温度としては、分散体であるポリオレフィン系樹脂(AP)の分解や劣化等を防ぐ観点から、ポリオレフィン系樹脂(AP)の溶融温度未満、好ましくは溶融温度よりも5℃以上低い温度で室温以上の温度、更に好ましくは溶融温度よりも10〜120℃低い温度で室温以上の温度が、分散効率及び分解・劣化抑制の観点から好ましい。
【0051】
ポリオレフィン系樹脂(AP)と水との回転式分散混合装置内の滞留時間は、分解・劣化抑制の観点から0.1〜60分であることが好ましく、更に好ましくは10〜30分である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を以て本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下、部は重量部を意味する。
【0053】
<実施例1>
二軸混練機のKRCニーダーに、プロピレン80モル%、1−ブテン20モル%を構成単位とするポリオレフィン(Mn=70,000)100部を窒素雰囲気下で導入し、気相部分に窒素を通気しながら加熱溶融し、混練しながら360℃で5分間熱減成を行い熱減成物を得た。この熱減成物の炭素1,000個当たりの二重結合数は2個、Mnは1,1000であった。別の反応容器に上記熱減成物55部、無水マレイン酸45部及びキシレン100部を仕込み、窒素置換後、窒素通気下に130℃まで加熱昇温して均一に溶解した。ここにジクミルパーオキサイド0.5部をキシレン10部に溶解した溶液を滴下した後、キシレン還流温度まで昇温し、3時間撹拌を続けた。その後、減圧下(1.5kPa)でキシレン及び未反応の無水マレイン酸を留去して、1分子当たりに18個の酸無水物基を有し、Mnが12,500の酸無水物変性ポリオレフィンを得た。この酸無水物変性ポリオレフィン系樹脂100部を300℃に熱した加圧プレス機で圧延し、角形ペレタイザー[(株)ホーライ製]にて裁断した後、温度制御可能な耐圧容器にイオン交換水221部及びトリエチルアミン17部と共に仕込み、TKホモミキサー[プライミクス(株)製]を用いて180℃で40分間分散処理することにより本発明のポリオレフィン水性分散体を得た。
【0054】
<比較例1>

プロピレン−ブテン−エチレン3元共重合体(ヒュルスジャパン社製「ベストプラスト708」:プロピレン/ブテン/エチレンの重量比=64.8:23.9:11.3)100部をトルエン200部に溶解させた溶液と、イオン交換水420gにポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム5gを溶解させた溶液とをホモミキサーを用いて回転数12000rpmで10分間混合攪拌して水性分散体を得た。この水性分散体を60℃に加熱後、減圧下にトルエンを留去して、比較用のポリオレフィン系樹脂水性分散体を得た。
【0055】
実施例1及び比較例1で得られたポリオレフィン系樹脂の酸価を以下の方法で測定した結果を表1に示す。また、実施例1及び比較例1で得られた水性分散体におけるポリオレフィン系樹脂の固形分濃度、体積平均粒子径及びポリオレフィン系樹脂皮膜の耐水性を以下の方法で測定又は評価した結果を表1に示す。
【0056】
<樹脂の酸価>
本発明におけるポリオレフィン系樹脂の酸価(mgKOH/g)の測定法は以下の通りである。
(1)ポリオレフィン系樹脂にキシレンを加えて加熱して溶解後、N/10水酸化カリウムメタノール溶液で滴定する。
(2)次式を用いて酸価を決定する。
酸価(mgKOH/g)=(A×f×5.61)/S
但し、Aは0.1mol/L水酸化カリウム滴定用溶液のmL数、fは0.1mol/L水酸化カリウム滴定用溶液の力価、Sは試料採取量(g)である。
【0057】
<固形分濃度>
ポリオレフィン系樹脂水性分散体約1gをペトリ皿上にうすく伸ばし、精秤した後、循環式定温乾燥機を用いて130℃で、45分間加熱した後の重量を精秤し、加熱前の重量に対する加熱後の残存重量の割合(百分率)を計算することにより得ることができる。
【0058】
<体積平均粒子径>
ポリオレフィン系樹脂水性分散体を、イオン交換水でポリオレフィン系樹脂の固形分が0.01重量%となるよう希釈した後、光散乱粒度分布測定装置[ELS−8000(大塚電子(株)製)]を用いて測定する。
【0059】
<皮膜の耐水性>
ポリオレフィン系樹脂水性分散体を10cm×20cm×1cmのポリプロピレン製モールドに乾燥後の膜厚が0.2±0.1mmになる量を流し込み、常温で12時間乾燥後、更に120℃で2時間乾燥して得られた皮膜を、イオン交換水に24時間浸漬した後、取り出した皮膜の状態を目視評価する。全く変化しない場合は○、白化が見られる場合は×とする。
【0060】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のポリオレフィン系樹脂水性分散体は、耐水性に優れた被膜を与えることが可能であるため、自動車、電気・電子製品、建築及び包装材料等のさまざまな分野で使用される塗料・インキ用のバインダー、プライマー、コーティング剤及び接着剤として、またガラス繊維の集束剤として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有するポリオレフィン系樹脂(A)及び水を含有してなり、前記ポリオレフィン系樹脂(A)を分散させるための界面活性剤を含まないことを特徴とするポリオレフィン系樹脂水性分散体。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂(A)の酸価が5〜300である請求項1記載のポリオレフィン系樹脂水性分散体。
【請求項3】
前記カルボキシル基の少なくとも一部が、中和剤で中和されてなる請求項1又は2記載のポリオレフィン系樹脂水性分散体。
【請求項4】
前記中和剤が、アンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン及びエチルジメチルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の中和剤である請求項3記載のポリオレフィン系樹脂水性分散体。
【請求項5】
有機溶剤の含有量が1000ppm以下である請求項1〜4のいずれか記載のポリオレフィン系樹脂水性分散体。
【請求項6】
前記ポリオレフィン系樹脂(A)の体積平均粒子径が、0.01〜5μmである請求項1〜5のいずれか記載のポリオレフィン系樹脂水性分散体。

【公開番号】特開2012−172099(P2012−172099A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36702(P2011−36702)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】