説明

ポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法、及びポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体

【課題】 本発明は、曲げたわみ性に優れ、空隙率が高いと共に嵩密度が低く、軽量なポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明のポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法は連通した空隙を有するポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法であって、筒状のポリオレフィン系樹脂発泡芯層と該発泡芯層を被覆するポリオレフィン系樹脂外層とからなると共に、特定の要件を満足するポリオレフィン系樹脂多層発泡粒子を、
成形金型内に充填し、スチームを成形金型内に導入して、成形金型内の前記多層発泡粒子を加熱し、融着させて、型内成形することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法、及びポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体に関し、詳しくは連通した空隙を有するポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法、及びポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
空隙を有するポリオレフィン系樹脂発泡成形体は、透水性、通気性、吸音性等の特性に優れ、適度な剛性と弾力性を持っていることから排水資材や建造物における壁材、自動車内装材などに、その用途を広げている。更に、近年の用途拡大に伴い、空隙を有するポリオレフィン系樹脂発泡成形体に対する要求性能がより高くなっている。即ち、透水性や通気性、吸音性等の特性向上のために空隙率が高いものが求められ、さらに、耐久性や耐衝撃性などの観点から、発泡粒子同士の融着強度が強く、曲げたわみ性に優れる発泡粒子成形体が求められている。
【0003】
一方、従来より、空隙率の高いポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体を得る方法として、貫通孔を有する筒状の熱可塑性樹脂発泡粒子を用いて発泡粒子成形体を成形する方法等が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、貫通孔を有するポリオレフィン系樹脂発泡粒子を用いて、空隙を有する成形体を得ることが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、ポリプロピレン系樹脂から形成される芯層と、該芯層より融点の低いポリプロピレン系樹脂から形成される外層とからなる、筒状のポリオレフィン系樹脂発泡粒子を用いることにより、高い空隙率の発泡粒子成形体を得ることが可能であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−108441号公報
【特許文献2】特開2004−68016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の発泡粒子を用いて型内成形することにより、空隙を有する発泡粒子成形体を得ることは可能となった。しかしながら、さらに空隙率が高く、且つ嵩密度が低い発泡粒子成形体を得ようとすると、発泡粒子の二次発泡を抑制する条件で型内成形を行い、空隙率の低下を避けて成形する必要があり、曲げたわみ性に優れる融着強度を有する発泡粒子成形体を得ることに関しては課題を残すものであった。
また、特許文献2の発泡粒子を用いて型内成形すれば、空隙率が高く、融着強度を従来よりも高めることは可能であった。しかしながら、内圧を付与したとしても、曲げたわみ性に優れ、空隙率が高く且つ嵩密度がさらに低い、軽量なポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体を得るという観点からは課題を残すものであった。
【0008】
本発明は、曲げたわみ性に優れ、空隙率が高く且つ嵩密度が低い、軽量なポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法、及び曲げたわみ性に優れ、空隙率が高く且つ嵩密度が低い、軽量なポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下に示すポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法、ポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体が提供される。
[1]
連通した空隙を有するポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法であって、筒状のポリオレフィン系樹脂発泡芯層と該発泡芯層を被覆するポリオレフィン系樹脂外層とからなると共に、下記(a)〜(d)の要件を満足するポリオレフィン系樹脂多層発泡粒子を、
成形金型内に充填し、スチームを成形金型内に導入して、成形金型内の前記多層発泡粒子を加熱し、融着させて、型内成形することを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法。
(a)ポリオレフィン系樹脂多層発泡粒子の見掛け密度が10〜200g/Lである。
(b)ポリオレフィン系樹脂多層発泡粒子2〜10mgを熱流束示差走査熱量測定法により、10℃/分の昇温速度で23℃から220℃まで加熱したときに得られるDSC曲線が、ポリオレフィン系樹脂に固有の吸熱ピークAと、該吸熱ピークAの高温側に1つ以上の吸熱ピークBとを有し、該吸熱ピークBの融解熱量が50J/g以下である。
(c)ポリオレフィン系樹脂多層発泡粒子の発泡芯層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点(Tc)と前記多層発泡粒子の外層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点(Ts)とが下記(1)式を満足する。
Tc(℃)>Ts(℃)・・・(1)
(d)ポリオレフィン系樹脂多層発泡粒子が下記(2)及び(3)式を満足する。
MIN≧ 1.0(mm) ・・・(2)
MIN /DMIN≦0.70 ・・・(3)
(但し、dMIN は前記多層発泡粒子の筒孔の方向に垂直な断面における最小の孔径(mm)であり、DMIN はdMIN を得た断面の最小の外径(mm)である。)
[2]
前記多層発泡粒子の見掛け密度と嵩密度との関係が下記(4)式を満足することを特徴とする[1]に記載のポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法。
40 ≦((見掛け密度―嵩密度)÷見掛け密度)×100 ≦ 70 ……(4)
[3]
型内成形時の成形蒸気圧を0.3MPa(G)以下とすることを特徴とする[1]又は[2]に記載のポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法。
[4]
前記ポリオレフィン系樹脂発泡芯層と前記ポリオレフィン系樹脂外層とを構成する樹脂がポリプロピレン系樹脂であり、該発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率(Mc)と、該外層を構成するポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率(Ms)とが下記(5)及び(6)式を満足することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法。
Mc ≦ 1300 (MPa) ・・・(5)
Mc−Ms ≦ 600 (MPa)・・・(6)
[5]
筒状のポリオレフィン系樹脂発泡芯層と該発泡芯層を被覆するポリオレフィン系樹脂外層とからなると共に、下記(7)式を満足する多層発泡粒子を型内成形して得られる、嵩密度10〜100g/L、空隙率20%以上50%未満のポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体であって、
該発泡粒子成形体2〜10mgを熱流束示差走査熱量測定法により、10℃/分の昇温速度で23℃から220℃まで加熱したときに得られるDSC曲線が、ポリオレフィン系樹脂に固有の吸熱ピークCと、該吸熱ピークCの高温側に1つ以上の吸熱ピークDとを有し、該吸熱ピークDの融解熱量が50J/g以下であり、
該発泡粒子成形体の最大曲げたわみ量Y(mm)が下記(8)及び(9)式を満足することを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体。
Tc(℃)>Ts(℃) ・・・・(7)
(但し、Tcは前記発泡芯層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点であり、Tsは前記外層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点である。)
Y ≧ 5 ・・・・(8)
Y ≧ −0.2X+20 ・・・・(9)
(但し、YはJIS K7221−2(1999)の曲げ試験における最大曲げたわみ量(mm)であり、Xはポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体の嵩密度(g/L)である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体(以下、単に発泡粒子成形体ともいう。)の製造方法によれば、特定のポリオレフィン系樹脂発泡芯層とポリオレフィン系樹脂外層とからなる、筒状の多層発泡粒子を使用すると共に、前記多層発泡粒子の高温ピーク熱量を低く制御することにより、幅広い成形蒸気圧において型内成形を行うことが可能となる。特に、低い成形蒸気圧で型内成形を行う場合には、型内成形時に空隙率が低下することを抑制しつつ、発泡粒子同士を融着させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の多層発泡粒子の第1回目のDSC曲線のチャートの一例を示す図である。
【0012】
本発明のポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体は、成形体を構成する発泡粒子同士が、曲げたわみ性に優れる融着強度を有しているにもかかわらず、高い空隙率を有するものである。更に、該発泡粒子成形体は、嵩密度が低く、軽量性に優れ、曲げたわみ性などの耐久性に優れた発泡粒子成形体である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法、ポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体について詳細に説明する。
【0014】
本発明の製造方法においては、ポリオレフィン系樹脂で構成されるポリオレフィン系樹脂発泡芯層(以下、単に発泡芯層ともいう。)と、該発泡芯層を被覆するポリオレフィン系樹脂外層(以下、単に外層ともいう。)とからなるポリオレフィン系樹脂多層発泡粒子(以下、単に多層発泡粒子ともいう。)が用いられる。なお、該発泡芯層を被覆するポリオレフィン系樹脂外層は発泡芯層の全体を覆っている必要はなく、本発明の所期の効果を損なわないかぎり、例えば、筒状発泡粒子の小口部分など、外層に覆われていない部分があっても構わない。
【0015】
前記多層発泡粒子を構成するポリオレフィン系樹脂としては、その重合用単量体がオレフィンを主成分とするものであれば、その組成、合成法に特に制限はないが、好ましくはオレフィン成分が50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上含有するものである。該ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリブテン系樹脂、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0016】
前記ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンと他のコモノマーとの共重合体、あるいはこれらの樹脂の中から選ばれる2種以上の混合物が挙げられる。さらに、前記共重合体としては、例えば、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−エチレン−ブテンランダム共重合体などが例示される。
また、前記ポリエチレン系樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体などが例示される。
【0017】
本発明においては、前記ポリオレフィン系樹脂の中でも、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂を選択して発泡芯層及び外層を構成することがより好ましく、特に、発泡芯層と外層との接着性の観点からは、ポリプロピレン系樹脂が発泡芯層及び外層を構成することが好ましい。
【0018】
なお、発泡芯層及び外層のポリオレフィン系樹脂には、本発明の所期の効果を損なわない範囲内において、ポリオレフィン系樹脂以外の他の合成樹脂、合成ゴム及び/又はエラストマー等を添加することができる。ポリオレフィン系樹脂以外の他の合成樹脂、合成ゴム及び/又はエラストマーの添加量は、ポリオレフィン系樹脂100重量部当り、35重量部以下であることが好ましく、より好ましくは20重量部以下であり、更に好ましくは10重量部以下であり、5重量部以下であることが最も好ましい。
【0019】
前記ポリオレフィン系樹脂以外の他の合成樹脂としては、ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体等のスチレン系樹脂等が例示される。
【0020】
前記合成ゴムとしては、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−1−ブテンゴム、プロピレン−1−ブテンゴム、スチレン−ブタジエンゴムやその水添物、イソプレンゴム、ネオプレンゴム、ニトリルゴム等が例示される。前記エラストマーとしては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体エラストマーやその水添物等が例示される。
【0021】
また、前記ポリオレフィン系樹脂には、所望に応じて各種添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、たとえば、酸化防止剤、紫外線防止剤、帯電防止剤、難燃剤、金属不活性剤、顔料、染料、核剤、あるいは気泡調整剤等を挙げることができる。気泡調整剤としては、たとえばホウ酸亜鉛、タルク、炭酸カルシウム、ホウ砂、水酸化アルミニウムなどの無機粉体が例示される。
【0022】
本発明において使用される多層発泡粒子において、外層のポリオレフィン系樹脂の融点Ts(℃)が発泡芯層のポリオレフィン系樹脂の融点Tc(℃)より低いこと、即ち、下記(1)式を満足することを要する。
Tc(℃)>Ts(℃)・・・(1)
この構成を満足することにより、より幅広い成形蒸気圧で型内成形を行っても、発泡粒子同士の融着が良好なものとなる。また、前記多層発泡粒子の発泡芯層部分のみからなる筒状の発泡粒子の最低成形蒸気圧(成形圧)よりも低めの蒸気圧のスチームで型内成形を行う場合には、発泡粒子同士の融着がさらに良好なものとなる。即ち、型内成形時の発泡粒子同士の融着性が該外層を構成するポリオレフィン系樹脂により向上するので、低い蒸気圧のスチームでも、曲げたわみ性に優れる融着強度を有する発泡粒子成形体を得ることができる。
【0023】
尚、発泡芯層を構成する樹脂のみからなる発泡粒子を型内成形する場合には、発泡芯層を構成する樹脂の融点Tcに合わせた成形蒸気圧の範囲内において型内成形が行われることになる。本発明においては、外層を構成する樹脂の融点Tsを低くすることにより、従来、融着不良が起きるような低い成形蒸気圧で型内成形を行なっても、融着性に優れる発泡粒子成形体を得ることができる。故に、前記TsとTcの融点差[Tc−Ts]が大きいほど、融着が可能となる温度を低くすることができ、型内成形時の成形蒸気圧をより低くすることが可能となる。かかる観点から、外層のポリオレフィン系樹脂の融点Ts(℃)は、発泡芯層のポリオレフィン系樹脂の融点Tc(℃)より3℃以上低い(Tc−Ts≧3)ことが好ましく、5℃以上低い(Tc−Ts≧5)ことがより好ましく、10℃以上低いこと(Tc−Ts≧10)が更に好ましい。一方、融点差の上限は、融点差が大きすぎると型内成形時に発泡芯層と外層が剥離して、外層を構成する樹脂が金型に付着してしまい、生産効率が低下してしまうおそれがあることから、概ね、45℃であること(45≧Tc−Ts)が好ましく、より好ましくは35℃(35≧Tc−Ts)である。
【0024】
前記発泡芯層と外層が共にポリプロピレン系樹脂からなる場合、型内成形性の観点から、発泡芯層を構成する樹脂の融点Tcは、110℃〜170℃であることが好ましく、成形蒸気圧をより低くする観点からは160℃以下であることが好ましい。
【0025】
本明細書における融点の測定は、発泡芯層、外層のそれぞれを構成するポリオレフィン系樹脂2〜10mgを、示差走査熱量測定装置を用いて10℃/分の速度で23℃から220℃まで加熱(第1回加熱)し、220℃の温度で10分間保持した後、10℃/分の冷却速度で220℃から30℃まで冷却し、再度10℃/分の加熱速度で30℃から220℃まで加熱(第2回加熱)したときに得られるDSC曲線(第2回加熱のDSC曲線)の吸熱ピークの頂点温度で表される。DSC曲線に複数の吸熱ピークがある場合には、最大面積の吸熱ピークの頂点温度を採用する。上記示差走査熱量測定はJIS K7121(1987年)に準拠して測定される。
【0026】
なお、前記外層を構成するポリオレフィン系樹脂が融点を示さない樹脂からなる場合には、融点の代わりにビカット軟化点により、多層発泡粒子を構成する芯層と外層の樹脂を決定することができる。前述の融点の場合と同様の理由で芯層を構成する樹脂のビカット軟化点は80〜160℃が好ましく、より好ましくは100〜150℃である。また、芯層を構成する樹脂と外層を構成する樹脂とのビカット軟化点差の上限は45℃が好ましく、より好ましくは40℃である。一方、ビカット軟化点差の下限は3℃が好ましく、より好ましくは5℃、更に好ましくは10℃である。
【0027】
本明細書において、ビカット軟化点の測定は、JIS K7206(1999年)に基づいて、A50法で測定される。
【0028】
本発明に用いられる多層発泡粒子の見掛け密度は、10〜200g/Lである。多層発泡粒子の見掛け密度が小さすぎると、得られる発泡粒子成形体の収縮が大きくなり、発泡粒子成形体を製造することが困難となる。一方、多層発泡粒子の見掛け密度が大きすぎると、曲げたわみ性に優れる発泡粒子成形体を得ることが困難となる虞がある。かかる観点から、多層発泡粒子の見掛け密度の下限は12g/Lが好ましく、多層発泡粒子の見掛け密度の上限は150g/Lが好ましく、100g/Lがより好ましい。
【0029】
多層発泡粒子の見掛け密度は、23℃のアルコールの入ったメスシリンダーを用意し、アルコール(例えばエタノール)を入れたメスシリンダー内に、相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて2日放置した約500mlの発泡粒子群(発泡粒子群の重量W(g))を、金網などを使用して沈め、水位の上昇分から発泡粒子群の体積V(L)を求め、発泡粒子群の重量を発泡粒子群の体積で除す(W/V)ことにより求めることができる。
【0030】
本発明の多層発泡粒子においては、前記多層発泡粒子2〜10mgを熱流束示差走査熱量測定法により、10℃/分の昇温速度で23℃から220℃まで加熱したときに得られるDSC曲線(第1回加熱のDSC曲線)が、ポリオレフィン系樹脂に固有の吸熱ピークA(以下、単に「固有ピーク」ともいう)と、該固有ピークの高温側に1つ以上の吸熱ピークB(以下、単に「高温ピーク」ともいう)とを有し、該高温ピークの融解熱量(以下、単に高温ピーク熱量ともいう。)が50J/g以下であることを要する。該高温ピーク熱量が大きすぎる場合には、発泡粒子の二次発泡性が過剰に抑制されてしまい、幅広い成形蒸気圧、特に、低い成形蒸気圧では、十分な融着強度を得ることが困難となり、曲げたわみ性に優れ、嵩密度が低い発泡粒子成形体を得ることが困難となるおそれがある。即ち、本発明においては、該高温ピーク熱量を小さく調整することにより、型内成形時に空隙率が低下しない程度、且つ曲げたわみ性に優れる融着強度を有する程度に、発泡粒子を二次発泡させて、発泡粒子同士を融着し、型内成形を行う。該高温ピークの上限は、40J/gが好ましく、より好ましくは30J/g、更に好ましくは23J/gである。一方、該高温ピークの下限は、二次発泡しすぎて空隙率が低下する虞があることから、好ましくは2J/g、より好ましくは3J/g、更に好ましくは5J/g、特に好ましくは10J/gである。
【0031】
前記第1回加熱のDSC曲線と、固有ピーク熱量、高温ピーク熱量の測定は、JIS K7122(1987年)に準拠する測定方法により次のように行なう。
まず、発泡粒子2〜10mgを採取し、示差走査熱量測定装置によって23℃から220℃まで10℃/分で昇温測定を行なう。かかる測定により得られたDSC曲線の一例を図1に示す。
【0032】
図1のDSC曲線には、発泡粒子を構成するポリオレフィン系樹脂に由来する固有ピークAと、該固有ピークの高温側に高温ピークBが示され、高温ピークBの熱量はそのピーク面積に相当するものであり、具体的には次のようにして求めることができる。
【0033】
まず、DSC曲線上の80℃に相当する点αと、発泡粒子の融解終了温度Tに相当するDSC曲線上の点βとを結ぶ直線(α−β)を引く。尚、上記融解終了温度Tとは、高温ピークBの高温側におけるDSC曲線と高温側ベースラインとの交点をいう。
【0034】
次に上記の固有ピークAと高温ピークBとの間の谷部に当たるDSC曲線上の点γからグラフの縦軸と平行な直線を引き、前記直線(α−β)と交わる点をσとする。高温ピークBの面積は、DSC曲線の高温ピークB部分の曲線と、線分(σ−β)と、線分(γ−σ)とによって囲まれる部分(図1において斜線を付した部分)の面積であり、これが高温ピークの熱量に相当する。
【0035】
尚、高温ピークBは、上記のようにして測定した第1回加熱時のDSC曲線には認められるが、第2回目に昇温して得られたDSC曲線には認められない。第2回加熱時のDSC曲線には、発泡粒子を構成するポリオレフィン系樹脂に固有の吸熱曲線ピークのみが認められる。
【0036】
尚、発泡粒子の固有ピークと高温ピークを上記の通り示差走査熱量測定装置によって測定するに際しては、発泡粒子1個当たりの重量が2mg未満の場合は、総重量が2〜10mgとなる複数個の発泡粒子をそのまま測定に使用すればよく、また、発泡粒子1個当たりの重量が2〜10mgの場合には、発泡粒子1個をそのまま測定に使用すればよく、また、発泡粒子1個当たりの重量が10mgを超える場合には、1個の発泡粒子を、発泡粒子の中心を通る切断面で切断して得た重量が2〜10mgとなる切断試料1個を測定に使用すればよい。ただし、この切断試料は、1個の発泡粒子を、カッター等を使用して切断したものであるが、故意に発泡粒子の外層の部分が多く含まれるなど、発泡粒子全体における外層の部分と発泡芯層の部分との割合が大きく変わるように試料を切り出して切断試料とすることは当然避けるべきである。切断試料の作製例としては発泡粒子1個当たりの重量が18mgの場合には、任意の方向に向けた発泡粒子を垂直方向の真中より水平に切断すれば2個のほぼ同じ形状の約9mgの切断試料が得られ、各切断試料は、当初から有する発泡粒子の外層部と発泡芯層部との割合は変わらない。このようにして得られた2個の切断試料の内の1個を上記の通り固有ピークと高温ピークの測定に使用すればよい。
【0037】
また、本発明に用いられる多層発泡粒子は、筒状であり、下記(2)及び(3)式を満足する多層発泡粒子である。
MIN≧ 1.0(mm) ・・・(2)
MIN /DMIN≦0.70 ・・・(3)
但し、dMIN は多層発泡粒子の貫通した筒孔の方向に垂直な断面における最小の孔径(mm)であり、DMIN はdMIN を得た断面の発泡粒子の最小外径(mm)である。
【0038】
上記の筒状の発泡粒子を用いることにより、発泡粒子成形体に収縮が発生することなく、空隙率の高い発泡粒子成形体を得ることができる。
尚、本発明において前記したポリオレフィン系樹脂多層発泡粒子の形状が筒状であるとは、円柱、楕円柱、角柱等の柱状発泡粒子の柱の上下方向を貫通する1又は2以上の筒孔を少なくとも有する形状のものであればよい。上記形状の中でも、製造安定性の観点からは、円柱状の発泡粒子が好ましい。
【0039】
前記dMIN /DMINは0.70以下である。前記dMIN /DMINが大きすぎる場合には、DMINに対して、dMIN が大きくなりすぎ、筒状の発泡粒子の樹脂部分が薄肉となることから、安定して発泡粒子を二次発泡させることが困難になり、たとえ高い内圧を付与したとしても、多層発泡粒子の成形性や融着性が低下し、安定的に発泡粒子成形体を得ることが困難となる。また、筒状の発泡粒子の強度が十分得られ、収縮などがない発泡粒子成形体が得られるという点から、前記dMIN /DMINは0.65以下であることが好ましく、0.60以下であることがより好ましい。
また、dMIN /DMINは、発泡粒子の孔径が発泡粒子の外径に対して相対的に小さくなり、高い空隙率の発泡粒子成形体を得ること困難になるという観点からは、0.20以上であることが好ましく、さらには、0.30以上であることがより好ましい。
【0040】
前記発泡粒子のdMIN /DMINが(3)式を満足し、高い空隙率の発泡粒子成形体を得るためには、前記筒状の発泡粒子における、貫通した筒孔の方向に垂直な断面における最小の孔径(dMIN)が1.0mm以上であることを要する。dMINが小さすぎる場合には、発泡粒子の孔径が小さすぎることにより、高い空隙率の発泡粒子成形体を得ることが困難となる。かかる観点から、前記dMINの下限は1.1mmであることが好ましく、1.2mmであることがより好ましい。
また、前記dMINの上限は、孔径が大きすぎると発泡粒子の強度が低下するという観点からは、3.5mmが好ましく、3.3mmがより好ましい。尚、dMINは、多層発泡粒子の貫通した筒孔の方向に垂直な任意の断面において孔径を測定した場合に、最小値となる孔径(mm)を意味する。
【0041】
本発明の製造方法においては、多層発泡粒子の見掛け密度と嵩密度との関係が下記(4)式を満足することが好ましい。
40 ≦[(見掛け密度―嵩密度)÷見掛け密度]×100 ≦ 70・・・・(4)
尚、本明細書において、「(見掛け密度―嵩密度)÷見掛け密度×100」で表される多層発泡粒子の見掛け密度と嵩密度の関係を多層発泡粒子の空間率(%)という。
【0042】
前記多層発泡粒子の空間率は、多層発泡粒子を成形金型内に充填した際の多層発泡粒子間に生じる空間に関連する数値である。
【0043】
ここで、前記多層発泡粒子の嵩密度は次のようにして求められる。
前記多層発泡粒子の嵩密度は、成形直前の発泡粒子を無作為に抜き出し、気温23℃、相対湿度50%の大気圧下において、容積1Lのメスシリンダーの中に、静電気を除去しつつ自然堆積状態となるように多数の発泡粒子を1Lの目盛まで収容し、次に、収容された発泡粒子の重量を測定することにより求めることができる。
【0044】
本発明の製造方法においては、多層発泡粒子の発泡芯層部分のみからなる筒状の発泡粒子の最低成形蒸気圧よりも低い成形蒸気圧のスチームを用いることが好ましい。本発明によれば、該スチームを用いて成形金型内の前記多層発泡粒子を加熱し、発泡粒子を成形金型に充填した際の、発泡粒子間に生じる空間を維持しつつ、十分な融着強度を有する程度に発泡粒子を2次発泡させて、曲げたわみ性の良好な発泡粒子成形体を得ることができる。従って、多層発泡粒子の空間率が高いほど、最終的に得られる発泡粒子成形体の空隙率もより高くすることが可能となる。
【0045】
前記空間率が前記範囲内であれば、高い空隙率と曲げたわみ性に優れる発泡粒子成形体をより容易に得ることができる。空間率が低すぎる場合には、発泡粒子成形体の空隙率を高く維持しようとすると成形蒸気圧をより下げなければならず、その結果融着強度が低下するおそれがある。一方、空間率が高すぎる場合には、発泡粒子同士の接触が著しく減少して融着強度が低下し、成形金型への発泡粒子の充填性が低下するおそれがある。空間率の下限は45%であることがより好ましく、空間率の上限は60%であることがより好ましい。
【0046】
本発明の製造方法においては、特に、型内成形時に、多層発泡粒子の空間率と発泡粒子成形体の空隙率との差が小さくなるようにして型内成形することが、成形体の空隙率を高く維持することができる観点から好ましい。具体的には、前記発泡粒子の空間率と発泡粒子成形体の空隙率との差:(発泡粒子の空間率−発泡粒子成形体の空隙率)が20以下となることが好ましい。
【0047】
本発明の製造方法においては、幅広い成形蒸気圧にて型内成形が可能となり、さらには、前記多層発泡粒子の発泡芯層部分のみからなる筒状の発泡粒子の最低成形蒸気圧よりも低い蒸気圧のスチームを成形金型内に導入して、成形金型内の多層発泡粒子の加熱、融着を行うことが可能となる。
これは、本発明に用いられる多層発泡粒子の外層を構成する樹脂融点Ts(℃)が、発泡芯層を構成する樹脂融点Tc(℃)より低いために可能となる成形条件である。特に、前記多層発泡粒子を用い、上記のような低い成形蒸気圧で型内成形を行うことにより、型内成形時に発泡粒子成形体の空隙が過度に減少してしまうことを抑制しつつ、多層発泡粒子同士を十分に融着させることが可能となり、得られる発泡粒子成形体が優れた曲げたわみ性を有することとなる。
【0048】
さらには、上記のような低い成形蒸気圧で型内成形することにより、型内成形時に、発泡粒子を成形金型に充填した際の発泡粒子間に生じる空間が、そのまま維持されて発泡粒子成形体となるため、発泡粒子成形体全体が均一に加熱され易くなることから生産安定性が向上し、得られる発泡粒子成形体の品質安定性が向上する。具体的には、発泡粒子成形体に、局所的に、曲げたわみ性が低下した部分が生じることが少なくなることから、生産安定性や発泡粒子成形全体の曲げたわみ性が向上する。
【0049】
尚、多層発泡粒子の発泡芯層部分のみからなる筒状の発泡粒子の最低成形蒸気圧とは、基材樹脂が、本発明の多層発泡粒子の芯層を構成する基材樹脂と同じであり、且つ該発泡芯層部分と発泡倍率、発泡粒子径、発泡粒子の筒形状、および発泡粒子の高温ピーク熱量が、同じ或いは略同じである、筒状の発泡粒子(このような発泡粒子を本明細書では、「多層発泡粒子と対応する単層発泡粒子」という。)を型内成形した場合に、後述する(8)及び(9)式を満足する、良好な発泡粒子成形体が得られる、最低の成形蒸気圧を意味する。
【0050】
さらに、本発明の多層発泡粒子を型内成形する際の成形蒸気圧は、0.3MPa(G)以下であることが好ましい。ここで、0.3MPa(G)はゲージ圧を意味する。上記範囲では、従来のポリプロピレン系樹脂発泡粒子に用いられる成形機の一般的な耐圧性能を超えることがない成形が可能となる。また、より嵩密度が低い発泡粒子成形体や、より複雑な形状を有する発泡粒子成形体など、収縮が起こり易く、製造が難しい発泡粒子成形体であっても、容易に成形することが可能となる。
上記観点から、成形蒸気圧が0.2MPa(G)以下であることが好ましく、成形蒸気圧が0.2MPa(G)である場合には前記Tcが150℃以下であることが好ましい。
なお、成形蒸気圧の下限は、所望される融着強度が得られる範囲であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン系樹脂からなる発泡粒子の場合には、概ね0.1MPa(G)である。
【0051】
前記ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂である場合、発泡芯層を構成する樹脂のメルトフローレイト(MFR)は0.1〜30g/10分であることが好ましい。上記範囲内であれば、樹脂粒子製造工程時における押出機への負荷が過大となって樹脂の混練状態が悪化することや、溶融樹脂の張力が低下して発泡粒子を得る際に、連続気泡となることがなく、本発明の発泡粒子成形体を得ることが可能な発泡粒子を製造することがより容易になる。かかる観点から、MFRの下限は0.5g/10分が好ましく、1.0g/10分がより好ましい。また、その上限は、25g/10分が好ましく、20g/10分がより好ましい。また、外層を構成する樹脂のメルトフローレイト(MFR)は、発泡芯層と外層の樹脂のメルトフローレイトが大きく異なると、発泡芯層と外層が剥離しやすくなる虞があるため、芯層と同程度のものが好ましく、具体的には0.1〜30g/10分であることが好ましい。外層を構成する樹脂のMFRの下限は0.5g/10分が好ましく、1.0g/10分がより好ましい。また、その上限は、25g/10分が好ましく、20g/10分がより好ましい。
【0052】
前記ポリオレフィン系樹脂がポリエチレン系樹脂からなる場合、発泡芯層を構成する樹脂のメルトフローレイト(MFR)は、前記ポリプロピレン系樹脂と同様の理由で、0.1〜20g/10分であることが好ましい。また、MFRの下限は0.5g/10分が好ましく、1.0g/10分がより好ましい。その上限は、15g/10分が好ましく、10g/10分がより好ましい。また、外層を構成する樹脂のメルトフローレイト(MFR)は、発泡芯層と同程度のものが好ましく、0.1〜20g/10分であることが好ましい。
【0053】
メルトフローレイト(MFR)の測定は、ポリプロピレン系樹脂についてはJIS K7210(1999年)の試験条件M(温度230℃、荷重2.16kg)に基づいて行い、ポリエチレン系樹脂についてはJIS K7210(1999年)の試験条件D(温度190℃、荷重2.16kg)に基づいて行なうことができる。
【0054】
本発明において使用される多層発泡粒子の発泡芯層を構成しているポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂である場合には、該ポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率:Mc(MPa)が1300MPa以下であること、即ち下記(5)式が満たされることが好ましい。該ポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率が上記範囲内であれば、十分な融着強度が得られる二次発泡性を有することから、より低い成形蒸気圧で、より融着強度が高く、曲げたわみ性に優れる発泡粒子成形体を得ることができる。
Mc ≦ 1300 (MPa) ・・・(5)
【0055】
該曲げ弾性率は、より好ましくは1100MPa以下、更に好ましくは1000MPa以下のものが用いられる。なお、該曲げ弾性率の下限は概ね500MPaである。
【0056】
また、同様に、発泡芯層を構成するポリオレフィン系樹脂がポリエチレン系樹脂である場合には、該ポリエチレン系樹脂の曲げ弾性率(MPa)の上限が500MPa以下であることが好ましい。また、下限は概ね200MPaである。
【0057】
さらに、前記発泡芯層を形成しているポリオレフィン系樹脂の曲げ弾性率:Mc(MPa)と外層を形成しているポリオレフィン系樹脂の曲げ弾性率:Ms(MPa)との差は、600MPa以下であること、即ち下記(6)式が満たされることが好ましい(ただし、該McとMsの差は0MPa以上である)。該McとMsの差が上記範囲内であれば、発泡粒子の発泡芯層と外層との間に剥離が生じ難くなり、より低い成形蒸気圧で、融着強度が高く、曲げたわみ性に優れる発泡粒子成形体を得ることができる。
Mc−Ms ≦ 600 (MPa)・・・(6)
かかる観点から、前記曲げ弾性率の差:Mc−Msは500MPa以下であることが好ましい。また、前記曲げ弾性率の差の下限は、50MPaであることが好ましい。
【0058】
尚、前記曲げ弾性率は、JIS K 7171(1994年)に記載の測定法に準拠して測定される。
【0059】
本発明に用いられる多層発泡粒子においては、発泡芯層を構成する樹脂と外層を構成する樹脂との重量比(重量%の比)は、好ましくは99.5:0.5〜80:20であり、より好ましくは99:1〜80:20、さらに好ましくは96:4〜90:10である。発泡芯層を構成する樹脂と外層を構成する樹脂との重量比が上記範囲内であれば、外層の厚みが薄すぎることにより融着性改善効果が得られ難くなったり、発泡粒子全体に対する外層の割合が多くなって発泡粒子成形体の機械的物性が低下したりすることがなく、多層発泡粒子をより容易に製造することができる。
【0060】
多層発泡粒子の外層の厚みは、前記発泡芯層と外層の重量比とも関連するものであるが、多層樹脂粒子を発泡させたときに外層に気泡が生じ難くなるという観点からは薄い方が好ましい。しかし、余りに薄すぎると多層発泡粒子同士の融着性改善効果が小さくなるばかりか、発泡芯層を十分に包むこと自体が困難となるおそれがある。従って、外層の厚みは、発泡前の多層樹脂粒子の段階で5〜500μmであることが好ましく、10〜100μmがさらに好ましい。また、多層樹脂粒子を発泡させて得られる発泡粒子、更に発泡粒子成形体を構成する発泡粒子における外層の厚みは、0.1〜200μmが好ましく、0.5〜50μmであることがさらに好ましい。なお、外層は非発泡状態であることが好ましい。
【0061】
本発明に用いられる多層発泡粒子1個当りの平均重量は0.1〜5.0mgが好ましく、0.3〜2.0mgがより好ましく、0.5〜1.8mgが更に好ましい。該平均重量が上記範囲内であれば、金型への充填性が向上することから、より複雑な形状の発泡粒子成形体を得ることが可能となる。なお、本発明の方法によれば、粒子重量が小さな多層発泡粒子であっても、従来より低い成形蒸気圧で型内成形することにより、加熱による発泡粒子成形体の収縮を抑制することができる。また、より複雑な形状の成形体を安定して得ることができる。該平均重量は、複雑な成形体を得ることができるという観点からは、1.6mg以下であることがさらに好ましい。
なお、発泡粒子の上記平均重量は、発泡粒子を得るための樹脂粒子の1個当たりの平均重量を、目的とする発泡粒子の重量に合わせることにより調整することができる。また、発泡粒子の平均重量は、無作為に選んだ200個の発泡粒子の重量(mg)を200で除した値である。
【0062】
本発明の製造方法において、発泡粒子を通常行われる大気圧下での養生工程を経た後、加圧可能な密閉容器に充填し、空気などの加圧気体により加圧処理して発泡粒子内の圧力(以下発泡粒子の内圧ということがある)を高める操作を行い、内圧が付与された発泡粒子を用いて型内成形することができる。
但し、本発明で用いる多層発泡粒子は融着性に優れていることから、従来よりも発泡粒子に付与する内圧を低くしても、融着強度が高く、且つ嵩密度が低い発泡粒子成形体を得ることができる。
具体的には、発泡粒子成形体の空隙率の低下を防ぐという観点からは、前記多層発泡粒子の内圧は、0.15MPa(G)以下(0MPa(G)を含む)として型内成形することが好ましく、より好ましくは0.1MPa(G)以下、更には大気圧下で養生したままの、実質的に内圧を付与しない状態で、型内成形を行うことが好ましい。
【0063】
なお、発泡粒子に付与された内圧の測定は、内圧が高められた成形直前の発泡粒子群の重量Q(g)とし、48時間経過後の発泡粒子群の重量をU(g)として、該重量Q(g)とU(g)の差を増加空気量W(g)とし、式P=(W÷M)×R×T÷V、より発泡粒子の内圧P(MPa(G))が計算できる。ただし、上式中、Mは空気の分子量であり、Rは気体定数、Tは絶対温度、Vは発泡粒子群の見掛け体積から発泡粒子群中に占める基材樹脂の体積を差し引いた体積(L)である。
【0064】
本発明の製造方法で用いられる型内成形法としては、従来公知の方法を使用することができる。発泡粒子を型内成形する一対の成形型を用い、大気圧下又は減圧下に発泡粒子を成形金型キャビティー内に充填し、型閉めし、成形金型キャビティー体積を5〜70%減少するように圧縮し、次いで型内にスチーム等の熱媒を供給して加熱を行い、発泡粒子を加熱融着させる減圧成形法による方法(例えば、特公昭46−38359号公報)、また、圧縮ガスにより大気圧以上に加圧したキャビティー内に、当該圧力以上に加圧した発泡粒子を充填した後、キャビティー内にスチーム等の熱媒を供給して加熱を行い、発泡粒子を加熱融着させる圧縮充填成型法(特公平4−46217号公報)により成形することもできるが、本発明の製造方法においては、成形型内に発泡粒子を充填する際に、発泡粒子間に空間が形成されるように充填を行い、型内成形することが好ましい。
【0065】
次に、本発明に用いられる多層発泡粒子の製造方法について説明する。
該多層発泡粒子は、ポリオレフィン系樹脂で構成される芯層と、該芯層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点Tc(℃)より低い融点Ts(℃)のポリオレフィン系樹脂で構成される外層とからなる多層樹脂粒子を、後述する方法により発泡させることにより得ることができる。
【0066】
該多層樹脂粒子は、例えば、芯層形成用押出機と外層形成用押出機の2台の押出機を共押出ダイに連結し、芯層形成用押出機には、芯層形成用のポリオレフィン系樹脂と、必要に応じて供給される添加剤とを溶融混練し、一方の外層形成用押出機には外層形成用のポリオレフィン系樹脂と、必要に応じて供給される添加剤とを溶融混練し、それぞれの溶融混練物を前記ダイ内で合流させて、非発泡状態の筒状の芯層と、該筒状の芯層の外側表面を被覆する非発泡状態の外層とからなる鞘芯型の複合体を形成し、押出機先端に付設された口金の細孔から該複合体をストランド状に押出し、ペレタイザーで粒子の重量が所定の重量となるように切断することにより、筒状のポリオレフィン系樹脂芯層と該芯層を被覆するポリオレフィン系樹脂外層とからなる多層樹脂粒子を得ることができる。
【0067】
本発明に用いられる多層発泡粒子は、例えば、前記多層樹脂粒子を次のように発泡させることにより得ることができる。
【0068】
前記芯層と外層からなる多層樹脂粒子を、オートクレーブ等の密閉容器内において水やアルコール等の水性媒体に分散させ、芯層を形成するポリオレフィン系樹脂の軟化温度以上の温度に加熱し、発泡剤を圧入して多層樹脂粒子に発泡剤を含浸させる。次に、密閉容器内の圧力を発泡剤の蒸気圧以上の圧力に保持しながら、密閉容器内の水面下の一端を開放し、多層樹脂粒子と水性媒体とを同時に容器内よりも低圧の雰囲気下に放出する(以下、分散媒放出発泡方法という。)ことにより、多層樹脂粒子を発泡させて、発泡粒子を得ることができる。尚、通常、取り扱い上の観点から前記した水性媒体は水が好ましい。
【0069】
前記分散媒放出発泡方法においては、容器内で加熱された場合に多層樹脂粒子同士が容器内で互いに融着しないように、分散媒体中に分散剤を添加することが好ましい。前記分散剤としては、容器内での多層樹脂粒子の融着を防止するものであればよく、有機系、無機系を問わず使用可能であるが、取り扱い易さから微粒状無機物が好ましい。例えば、アムスナイト、カオリン、マイカ、クレー等の天然又は合成粘土鉱物や、酸化アルミニウム、酸化チタン、塩基性炭酸マグネシウム、塩基性炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、酸化鉄等を1種または数種の組み合わせで使用してもよい。尚、分散剤は、通常多層樹脂粒子100重量部当り、0.001〜5重量部程度使用される。
【0070】
更に、前記分散媒放出発泡方法においては、分散剤の分散力を強化する分散強化剤(分散剤の添加量が少ない場合であっても、容器内における多層樹脂粒子同士の融着を防止する機能を有する。)を分散媒体中に添加してもよい。このような分散強化剤としては、40℃の水100ccに対して少なくとも1mg以上溶解し得る無機化合物であって、該化合物の陰イオンまたは陽イオンの少なくとも一方が2価または3価である無機物質が好ましい。このような無機物質としては、たとえば、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄等が例示される。
尚、分散強化剤は、通常多層樹脂粒子100重量部当り0.0001〜1重量部程度使用される。
【0071】
発泡剤としては、例えば、プロパン、ブタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、シクロブタン、シクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素類、クロロフロロメタン、トリフロロメタン、1,2−ジフロロエタン、1,2,2,2−テトラフロロエタン、メチルクロライド、エチルクロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素などの有機系物理発泡剤や、窒素、酸素、空気、二酸化炭素、水といったいわゆる無機系物理発泡剤が例示される。また有機系物理発泡剤と無機系物理発泡剤を併用することもできる。上記物理発泡剤の中でも、窒素、酸素、空気、二酸化炭素、水の群から選択される1又は2以上の無機系物理発泡剤を主成分とするものが好適である。更に、これらの中でも発泡粒子の見掛け密度の安定性、環境負荷やコストなどを考慮すると、二酸化炭素、窒素や空気が好ましい。また、発泡剤として水を使用する場合は、多層樹脂粒子を密閉容器中に分散させるための分散媒体として使用する水をそのまま利用すればよい。
【0072】
なお、前記分散媒放出発泡方法における物理発泡剤の容器内への充填量は、使用する発泡剤の種類と発泡温度と目的とする発泡粒子の見掛け密度に応じて適宜選択される。具体的には、例えば発泡剤として二酸化炭素を使用し、分散媒体として水を使用した場合、発泡開始直前の安定した状態にある密閉容器内の圧力、すなわち密閉容器内空間部の圧力(ゲージ圧)が、0.6〜6MPa(G)となるようにすることが好ましい。尚、一般的に、目的とする発泡粒子の見掛け密度が小さいほど前記容器内の空間部の圧力は高くすることが望ましく、目的とする発泡粒子の見掛け密度が大きいほど空間部の圧力は低くすることが望ましい。
【0073】
前記分散媒放出発泡方法における物理発泡剤の容器内への充填は、多層樹脂粒子に発泡剤を含浸させることができれば、昇温と同時に充填しても、昇温の途中に充填しても、発泡開始直前の安定した状態において充填しても構わない。
【0074】
前記分散媒放出発泡方法における、多層発泡粒子の高温ピーク熱量の具体的な調節方法としては、例えば、多層樹脂粒子を水性媒体に分散させて加熱する際に、芯層のポリオレフィン系樹脂の融解終了温度(Tce)以上とならないように昇温し、該樹脂の融点(Tc)より20℃以上低い温度以上、融解終了温度(Tce)未満の範囲内の任意の温度(Ta)で昇温を止めて、その温度(Ta)で十分な時間、好ましくは10〜60分程度保持し、その後、融点(Tc)より15℃低い温度から融解終了温度(Tce)+10℃の範囲の任意の温度(Tb)に加熱し、その温度(Tb)で昇温を止め、当該温度でさらに十分な時間、好ましくは10〜60分程度保持してから、多層樹脂粒子を密閉容器内から低圧下に放出して発泡させることが好ましい。
なお、融解終了温度(Tce)は、前記高温ピークBの高温側におけるDSC曲線と高温側ベースラインとの交点として求められる融解終了温度Tと同様にして求められる。
【0075】
前記分散媒放出発泡方法において、温度Ta、Tb、及び保持時間を上記のように設定することが好ましいのは、発泡粒子の高温ピークの大小が、主として、発泡粒子を製造する際の樹脂粒子に対する前記温度Taと該温度における保持時間および前記温度Tbと該温度における保持時間、ならびに昇温速度に依存するからである。
【0076】
一般的に、発泡粒子の前記高温ピークの熱量は、温度Ta又はTbが前記温度範囲内において低い程、保持時間が長い程、大きくなる傾向を示す。通常、前記発泡工程における昇温速度は0.5〜5℃/分が採用され、昇温速度が遅いほど前記高温ピーク熱量は大きくなる傾向を示す。これらの点を考慮して予備実験を繰り返すことにより、所望の高温ピーク熱量を示す発泡粒子の製造条件を容易にかつ正確に知ることができる。
【0077】
尚、以上説明した樹脂粒子の発泡時の温度調整範囲は、発泡剤として無機系物理発泡剤を使用した場合の適切な温度範囲である。有機系物理発泡剤が併用された場合には、その種類や使用量に応じてその適切な温度範囲は、上記温度範囲よりもそれぞれ低温側にシフトする傾向がある。
【0078】
発泡剤を含浸させた多層樹脂粒子を発泡させる方法としては、以上説明した分散媒放出発泡方法に限定されるものでなく、前記した発泡剤を用いて、特開平4−372630号に記載されているように発泡剤を含浸させた発泡性多層樹脂粒子を加熱蒸気や、熱風等の加熱媒体により発泡させる方法でもよい。
【0079】
本発明において用いられる多層発泡粒子は、前述した方法により好ましく製造される。得られた多層発泡粒子は、発泡状態の発泡芯層と、その表面に外層が被覆して形成された多層構造を有し、外層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点が、芯層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点より低いものである。
【0080】
なお、前記発泡剤の添加量、発泡温度を調整することにより、多層発泡粒子の見掛け密度を10〜200g/Lの範囲に調整することができる。
【0081】
次に、本発明の発泡粒子成形体について説明する。
従来、前記「多層発泡粒子と対応する単層発泡粒子」を型内成形する場合、十分な融着強度を得るためには、発泡粒子を十分に加熱して発泡粒子同士を融着させる必要があった。従って、加熱により発泡粒子が必要以上に二次発泡してしまうため、筒状の発泡粒子の筒孔部分が潰れて、発泡粒子成形体の空隙率は低下する傾向があった。一方、より高い空隙率の発泡粒子成形体を得ようとして、低い成形蒸気圧で型内成形すると、発泡粒子成形体の空隙率を高く維持することはできるが、発泡粒子の二次発泡が過度に抑制されることから発泡粒子同士の融着が不足することとなり、曲げたわみ性に優れ、空隙率が高く且つ嵩密度が低い、軽量な発泡粒子成形体を得ることに関しては、従来技術は課題を残していた。
【0082】
本発明の発泡粒子成形体は、筒状のポリオレフィン系樹脂発泡芯層と該発泡芯層を被覆するポリオレフィン系樹脂外層とからなると共に、下記(7)式を満足する多層発泡粒子を型内成形して得られる、嵩密度10〜100g/Lのポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体である。
Tc(℃)>Ts(℃) ・・・・(7)
(但し、Tcは前記発泡芯層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点であり、Tsは前記外層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点である。)
【0083】
この構成が満たされる多層発泡粒子が型内成形されると、発泡粒子同士の融着性が外層を構成するポリオレフィン系樹脂によって向上するので、本発明の発泡粒子成形体は、曲げたわみ性に優れたものとなる。
【0084】
更に、本発明の発泡粒子成形体においては、その空隙率が20%以上50%未満であり、その最大曲げたわみ量Y(mm)は下記(8)、(9)式を満足する。
Y ≧ 5 ・・・・(8)
Y ≧ −0.2X+20 ・・・・(9)
(YはJIS K7221−2(1999)の曲げ試験における最大曲げたわみ量(mm)であり、Xはポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体の嵩密度(g/L)である。)
【0085】
本発明の発泡粒子成形体は、前記(8)式を満足し、最大曲げたわみ量が5mm以上であることから、曲げ破壊(折れ)が生じ難く、荷重がかかった場合に早期に破壊されることがなく、衝撃エネルギーの吸収性や、吸音性、建築資材としての施工性なども向上したものである。また、耐久性の観点からは、該最大曲げたわみ量は、10mm以上であることが好ましく、より好ましくは15mm以上である。このような本発明の発泡粒子成形体は、例えば、嵩上げ材やリブを有する発泡粒子成形体には好適なものとなる。
【0086】
さらに、本発明の発泡粒子成形体は、その最大曲げたわみ量が前記(9)式を満足することから、発泡粒子成形体の嵩密度に対応した、十分な融着強度を有する、排水資材や建造物における壁材、自動車内装材等としての実用性に耐えうるものである。この観点から、発泡粒子成形体の最大曲げたわみ量は、下記(10)式を満足することが好ましい。
Y ≧ −0.2X+25 ・・・・(10)
【0087】
尚、発泡粒子成形体の最大曲げたわみ量は、発泡粒子同士の融着強度が高いほど大きくなる傾向にある。また、発泡粒子成形体の最大曲げたわみ量は、発泡粒子成形体の嵩密度の影響も受け、嵩密度が高くなるほど、最大曲げたわみ量は小さくなる傾向がある。本発明の発泡粒子成形体は前記(9)式の関係式を満足する融着強度を有し、優れた曲げたわみ性を発現するものである。
【0088】
本発明の発泡粒子成形体の最大曲げたわみ量の測定方法は、JIS K7221−2(1999年)に記載している方法で測定することができる。なお、最大曲げたわみ量とは、試験片が破壊した時の曲げたわみ量を意味するものである。
【0089】
前記発泡粒子成形体の嵩密度は10〜100g/Lである。該嵩密度が10g/L未満では、発泡粒子成形体の圧縮強度、引張強度などの機械的強度が低下しすぎる虞がある。一方、該嵩密度が100g/L超では、発泡粒子成形体の軽量性が低下し、また、曲げたわみ性が低下する虞がある。かかる観点から、該嵩密度の上限は75g/Lが好ましく、より好ましくは60g/L、更に好ましくは45g/Lである。また、その下限は12g/Lが好ましく、より好ましくは15g/Lである。
なお、該発泡粒子成形体の嵩密度は、発泡粒子成形体の重量(g)を発泡粒子成形体の外形寸法から求めた体積(L)により除した値から求めることができる。
【0090】
また、本発明の発泡粒子成形体の空隙率は20%以上、50%未満である。該空隙率が低すぎる場合には、透水性、通気性、吸音性等の特性が低下しすぎる虞がある。一方、該空隙率が高すぎる場合には、曲げたわみ性、圧縮強度、引張強度等の機械的強度が低下しすぎる虞がある。上記観点から、該空隙率は、25〜45%であることが好ましい。
【0091】
本発明における発泡粒子成形体の空隙率は下記(11)式によって算出される。
空隙率(%)=〔(H−I)/H〕×100 ・・・ (11)
但し、Hは発泡粒子成形体の外形寸法(例えば、20mm×15mm×80mmの全面カットサンプル)から算出される体積(cm)であり、Iは発泡粒子成形体の空隙部を除いた体積(cm)である。Iは、発泡粒子成形体をアルコール(例えばエタノール)中に沈めた時の、体積の増量分として、発泡粒子成形体の空隙部を除いた体積を測定することによって求めることができる。
【0092】
更に、本発明の発泡粒子成形体においては、該発泡粒子成形体2〜10mgを熱流束示差走査熱量測定法により、10℃/分の昇温速度で23℃から220℃まで加熱したときに得られるDSC曲線(第1回加熱のDSC曲線)が、ポリオレフィン系樹脂に固有の吸熱ピークC(以下、固有ピークともいう)と、該固有ピークの高温側に1つ以上の吸熱ピークD(以下、高温ピークともいう)とを有し、該高温ピークの融解熱量が50J/g以下である。
【0093】
該構成により、型内成形時に空隙が減少しない程度、且つ曲げたわみ性に優れる融着強度を有する程度に、多層発泡粒子を二次発泡させて型内成形することが可能となり、十分な融着強度を有し、曲げたわみ性に優れ、嵩密度が低い発泡粒子成形体となる。該高温ピーク熱量が大きすぎる場合には、型内成形時の発泡粒子の二次発泡が過度に抑制されることから、発泡粒子の融着強度が低くなり、発泡粒子成形体の曲げたわみ性が低下する虞がある。該高温ピークの熱量は、2〜40J/gが好ましく、より好ましくは3〜30J/g、更に好ましくは5〜20J/gである。
【0094】
本発明の発泡粒子成形体の示差走査熱量測定によって得られる、上記融解熱量は、発泡成形体の中心部から切り出した試験片を用いて、前述の多層発泡粒子の測定方法と同様にして測定することができる。
なお、高温ピークの融解熱量は型内成形前後で殆ど変化することがなく、前記多層発泡粒子の高温ピークの融解熱量が50J/g以下であれば、得られる発泡粒子成形体の高温ピーク熱量も50J/g以下となる。
【0095】
本発明の発泡粒子成形体は、従来得ることができなかった、嵩密度が低く軽量で、高い空隙率を有すると共に、曲げたわみ性に優れる発泡粒子成形体である。
【実施例】
【0096】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明する。
【0097】
実施例、比較例で用いた原料樹脂のポリオレフィン系樹脂を表1に示す。
【表1】

【0098】
実施例1〜11
内径65mmの芯層形成用押出機および内径30mmの外層形成用押出機の出口側に多層ストランド形成用ダイが取付けられた押出機を用い、表2に示す芯層を形成するポリオレフィン系樹脂、及び外層を形成するポリオレフィン系樹脂を、それぞれの押出機に供給し、溶融混練して溶融混練物としてから、前記多層ストランド形成用ダイに導入しダイ内で合流してダイ先端に取付けた口金の小孔から、外層と芯層の2層(鞘芯形状)からなり、芯層に貫通孔を有する円筒形状のストランドとして押出し(芯層の重量%:外層の重量%=95:5)、押出されたストランドを水冷し、ペレタイザーで表2に示す重量となるように切断し乾燥して円筒形状の多層樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子を構成する樹脂、樹脂粒子の物性などを表2に示す。
なお、芯層のポリオレフィン系樹脂には、気泡調整剤としてホウ酸亜鉛の含有量が1000重量ppmとなるようにマスターバッチを調製して供給した。
【0099】
前記で得られた多層樹脂粒子800gと分散媒体の水3Lを、5Lの密閉容器内に仕込み、分散媒中に前記多層樹脂粒子100重量部に対し、分散剤としてカオリン0.3重量部、界面活性剤(商品名:ネオゲン、第一工業製薬株式会社製、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.4重量部(有効成分として)、及び硫酸アルミニウム0.01重量部をそれぞれ添加し、密閉容器内に発泡剤として二酸化炭素を表2に示す量圧入し、撹拌下に表2に示す発泡温度より5℃低い温度まで加熱昇温して15分間保持して高温ピーク熱量を調整し、さらに表2に示す発泡温度まで加熱昇温して再度15分間保持した後、容器内容物を大気圧下に水と共に放出して、表2に示す見掛け密度の多層発泡粒子を得た。得られた多層発泡粒子の物性などを表2に示す。なお、実施例9については、2段発泡法を採用し、先ず見掛け密度30g/Lの発泡粒子を得た後、通常行われる大気圧下での養生工程を経て、該発泡粒子を別の密閉容器に充填し、加圧工程後にスチームで加熱して、見掛け密度19g/Lの多層発泡粒子を得た。得られた多層発泡粒子の物性を表2に示す。
【0100】
前記で得られた多層発泡粒子を、必要に応じて表2に示す条件で加圧気体(空気)により発泡粒子内の内圧を高める加圧処理を行なってから、縦250mm×横200mm×厚さ50mmの平板成形金型に充填し、スチーム加熱による型内成形を行って、板状発泡粒子成形体を得た。なお、加熱方法は両面の型のドレン弁を開放した状態でスチームを5秒間供給して予備加熱(排気工程)を行った後、表2に示す成形蒸気圧より0.08MPa(G)低い圧力で一方加熱を行い、さらに表2に示す成形蒸気圧より0.04MPa(G)低い圧力で逆方向から一方加熱を行った後、表2に示す成形蒸気圧で、両面から本加熱を行った。加熱終了後、放圧し、30秒間空冷した後、型を開放し型内成形体を型から取り出した。得られた発泡粒子成形体を80℃のオーブンにて12時間養生して、ポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体を得た。得られた成形体の物性を表2に示す。
【0101】
比較例1〜4
表1に示す樹脂を用い、ダイ先端に取付けた口金の小孔のサイズを変更した以外は、実施例1と同様にして、表3に示す物性の多層樹脂粒子を得た。該多層樹脂粒子を表3に示す条件以外は実施例1と同様にして発泡させ、表3に示す多層発泡粒子を得た。該多層発泡粒子を用い、表3に示す成形条件以外は実施例1と同様にして、発泡粒子成形体を得た。得られた成形体の物性を表3に示す。
【0102】
参考例1〜4
芯層形成用押出機のみを用いて、表3に示す芯層を形成するポリオレフィン系樹脂を押出機に供給し、溶融混練して溶融混練物としてから、ダイに導入し、ダイ先端に取付けた口金の小孔から、単層の円筒形状のストランドとして押出した。押出されたストランドを水冷し、表3に示す重量となるようにペレタイザーで切断し乾燥して筒状の単層樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子の物性などを表3に示す。さらに、表3に示す成形条件以外は実施例1と同様にして、発泡粒子成形体を得た。得られた成形体の物性を表3に示す。なお、参考例2,4における成形蒸気圧は、それぞれ樹脂3、樹脂4の最低成形蒸気圧に相当するように設定した。
【0103】
【表2】

【0104】
【表3】

【0105】
以下に、物性の測定方法、評価方法を示す。
【0106】
曲げ弾性率は、JIS K 7171(1994年)に記載の測定法に準拠して測定した。該曲げ弾性率は、厚み4mm×幅10mm×長さ80mmの樹脂試験片を、室温23℃、湿度50%の恒温室内に24時間以上放置後、支点間距離64mm、圧子の半径R5.0mm、支持台の半径R5.0mm、試験速度2mm/min、室温23℃、湿度50%の条件で、オートグラフAGS−10kNG(島津製作所製)試験機により測定し、算出された値(5点以上)の平均値を採用した。
【0107】
ビカット軟化点は、JIS K7206(1999年)に基づいて、A50法で測定した。測定試験片としては、ポリオレフィン系樹脂を230℃で5MPaに加圧することにより気泡が混入しないようにして縦20mm×横20mm×厚み3mmの試験片を作製し、該試験片をアニーリング処理せずに測定に用いた。測定装置としては、株式会社上島製作所製「HDT/VSPT試験装置 MODEL TM−4123」を使用した。
【0108】
発泡粒子に付与された内圧の測定は次のようにして行なった。内圧が高められた成形直前の発泡粒子群を加圧タンク内から取り出してから60秒以内に、発泡粒子は通過させないが空気は自由に通過させるサイズの針穴を多数穿設した70mm×100mm程度のポリエチレン製袋の中に収容して気温23℃、相対湿度50%の大気圧下の恒温室に移動し、続いて発泡粒子群を袋ごと恒温室内の秤に載せて重量を読み取った。その重量の測定は、上記した発泡粒子群を加圧タンク内から取出してから120秒後に行なった。このときの重量をQ(g)とし、続いて発泡粒子群を袋ごと同恒温室に48時間放置した(発泡粒子内の加圧空気は時間の経過と共に気泡膜を透過して外部に抜け出すため発泡粒子群の重量はそれに伴って減少し、48時間後では平衡に達しているため実質的にその重量は安定する)。上記48時間後に再度発泡粒子群を袋ごと重量を測定し、このときの重量をU(g)とし、続いて直ちに同恒温室内にて袋から発泡粒子群の全てを取り出して袋のみの重量を読み取り、その重量をZ(g)とした。上記のいずれの重量も0.0001gまで読み取った。Q(g)とU(g)の差を増加空気量W(g)とし、下記(12)式より本発泡粒子の内圧P(MPa(G))を計算した。
P=(W÷M)×R×T÷V ・・・ (12)
ただし、上式中、Mは空気の分子量であり、ここでは28.8(g/モル)の定数を採用した。Rは気体定数であり、ここでは0.0083(MPa・L/(K・mol))の定数を採用した。Tは絶対温度を意味し、23℃の雰囲気が採用されているので、ここでは296(K)の定数である。Vは発泡粒子群の見掛け体積から発泡粒子群中に占める基材樹脂の体積を差し引いた体積(L)である。
【0109】
本発明の発泡粒子成形体の最大曲げたわみ量は、JIS K7221−2(1999年)に記載の方法で測定した。具体的には、発泡粒子成形体から、全面をカットした120×25×20mmのサンプル片を切り出し、支点間距離を100mm、試験速度を10mm/minとして島津製作所製オートグラフ装置により測定した。
【0110】
融着強度の評価
実施例、比較例で得られた発泡粒子成形体の融着強度の評価方法は、以下のとおりである。
発泡粒子成形体の最大曲げたわみ量Y(mm)と発泡粒子成形体の嵩密度X(g/L)が下式関係を満足することを基準として評価した。
◎:Y≧5且つY ≧ −0.2X+25
○:Y≧5且つ−0.2X+20 ≦ Y < −0.2X+25
×:Y<5又はY < −0.2X+20

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連通した空隙を有するポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法であって、
筒状のポリオレフィン系樹脂発泡芯層と該発泡芯層を被覆するポリオレフィン系樹脂外層とからなると共に、下記(a)〜(d)の要件を満足するポリオレフィン系樹脂多層発泡粒子を、
成形金型内に充填し、スチームを成形金型内に導入して、成形金型内の前記多層発泡粒子を加熱し、融着させて、型内成形することを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法。
(a)ポリオレフィン系樹脂多層発泡粒子の見掛け密度が10〜200g/Lである。
(b)ポリオレフィン系樹脂多層発泡粒子2〜10mgを熱流束示差走査熱量測定法により、10℃/分の昇温速度で23℃から220℃まで加熱したときに得られるDSC曲線が、ポリオレフィン系樹脂に固有の吸熱ピークAと、該吸熱ピークAの高温側に1つ以上の吸熱ピークBとを有し、該吸熱ピークBの融解熱量が50J/g以下である。
(c)ポリオレフィン系樹脂多層発泡粒子の発泡芯層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点(Tc)と前記多層発泡粒子の外層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点(Ts)とが下記(1)式を満足する。
Tc(℃)>Ts(℃)・・・(1)
(d)ポリオレフィン系樹脂多層発泡粒子が下記(2)及び(3)式を満足する。
MIN≧ 1.0(mm) ・・・(2)
MIN /DMIN≦0.70 ・・・(3)
(但し、dMIN は前記多層発泡粒子の筒孔の方向に垂直な断面における最小の孔径(mm)であり、DMIN はdMIN を得た断面の最小の外径(mm)である。)

【請求項2】
前記多層発泡粒子の見掛け密度と嵩密度との関係が下記(4)式を満足することを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法。
40 ≦((見掛け密度―嵩密度)÷見掛け密度)×100 ≦ 70 ……(4)
【請求項3】
型内成形時の成形蒸気圧を0.3MPa(G)以下とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法。
【請求項4】
前記ポリオレフィン系樹脂発泡芯層と前記ポリオレフィン系樹脂外層とを構成する樹脂がポリプロピレン系樹脂であり、該発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率(Mc)と、該外層を構成するポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率(Ms)とが下記(5)及び(6)式を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法。
Mc ≦ 1300 (MPa) ・・・(5)
Mc−Ms ≦ 600 (MPa)・・・(6)
【請求項5】
筒状のポリオレフィン系樹脂発泡芯層と該発泡芯層を被覆するポリオレフィン系樹脂外層とからなると共に、下記(7)式を満足する多層発泡粒子を型内成形して得られる、嵩密度10〜100g/L、空隙率20%以上50%未満のポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体であって、
該発泡粒子成形体2〜10mgを熱流束示差走査熱量測定法により、10℃/分の昇温速度で23℃から220℃まで加熱したときに得られるDSC曲線が、ポリオレフィン系樹脂に固有の吸熱ピークCと、該吸熱ピークCの高温側に1つ以上の吸熱ピークDとを有し、該吸熱ピークDの融解熱量が50J/g以下であり、
該発泡粒子成形体の最大曲げたわみ量Y(mm)が下記(8)及び(9)式を満足することを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体。
Tc(℃)>Ts(℃) ・・・・(7)
(但し、Tcは前記発泡芯層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点であり、Tsは前記外層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点である。)
Y ≧ 5 ・・・・(8)
Y ≧ −0.2X+20 ・・・・(9)
(但し、YはJIS K7221−2(1999)の曲げ試験における最大曲げたわみ量(mm)であり、Xはポリオレフィン系樹脂発泡粒子成形体の嵩密度(g/L)である。)

【図1】
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【公開番号】特開2012−126816(P2012−126816A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278987(P2010−278987)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】