説明

ポリカプラミド系製糸材料

【課題】本発明は、ミクロサイズのゲル状物質が少ないポリカプラミド系製糸材料を製糸原料として使用することで、細繊度品種を高速で製糸する場合でも、糸切れ発生回数が少ない製糸操業性に優れたポリカプラミド糸を得ることを課題とする。
【解決手段】主としてカプラミド単位からなるポリカプラミド樹脂を含むポリカプラミド系製糸材料であって、ポリカプラミド系製糸材料1gあたり長径1μm以上10μm以下のミクロゲルの個数が1000個以下であることを特徴とするポリカプラミド系製糸材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維用原料に好適に用いられるポリカプラミド系製糸材料および上記ポリカプラミド系製糸材料を使用したポリカプラミド糸に関する。さらに詳しくは、ゲル状物質が少ないポリカプラミド系製糸材料およびそれを使用した糸切れ発生回数が少ない、単糸繊度の細いポリカプラミド糸に関する。
【背景技術】
【0002】
ナイロンは、ポリエステルとともに衣料用、産業用等の繊維用途あるいは樹脂成形用途として幅広く用いられており、強度、耐久性、耐熱性、ストレッチ性、染色堅牢性に優れている。ナイロンのうち、ポリカプラミドは汎用ポリアミドとして、品質面、コスト面からも優れており、生産量の大きなウエイトと占めている。
【0003】
一般にポリカプラミドを含むポリカプラミド系製糸材料は酸化されやすく熱安定性が低いポリカプラミド樹脂はポリヘキサメチレンアジパミド樹脂に比べて架橋構造の形成は緩慢であるが、280℃で12日加熱すると、不溶、不融のものに変化することが知られている。例えば、ポリカプラミド樹脂の重合時、装置に滞留部が生じることは否めない。この滞留部でポリマが徐々にゲル化し、装置内に付着する。また、トラブル発生のための緊急停機などにより、配管詰まりや槽内のポリマが固化することがある。このように固化したポリマを溶解させるために、ポリカプラミド樹脂が流動しない状態で長期加熱を行わなければならない。この長期加熱により、熱分解、酸化分解、ゲル化などの分解や分岐反応などが起こりうる。
【0004】
上記のような設備不良やトラブル等以外の正常なポリカプラミド系繊維材料の製造過程においても、ポリカプラミド樹脂中に含まれるゲルに起因して製糸操業性が悪化する場合がある。例えば高粘度のポリカプラミドを得るために減圧下で重合を行ったり、攪拌しながら重合を行う場合は、ポリカプラミドが飛散し気相部の重合反応器壁面に付着しやすく、壁面に付着したポリカプラミドが、長期にわたる加熱によってゲル化が進行し、それが重合反応器壁面から剥がれ落ちて製品に混入する場合である。
また、生産量変更等での液面変動により、長期間ポリカプラミドが気相部に露出する場合も、同様にゲル化物が製品に混入する恐れがある。
【0005】
このようなゲル状物質は、溶融紡糸の際、紡糸装置内のパックのフィルターにより除去されると考えられていた。しかしながら、紡糸装置内パックのフィルターを通過するポリカプラミド系製糸材料においても、糸切れ増加等により操業性が不良になり、最悪の場合製糸できなくなる場合がある。すなわち、ポリカプラミド系製糸材料を用いて溶融紡糸した際、濾圧上昇を伴わない場合でも、糸切れ増加等により操業性が不良になり、最悪の場合製糸できなくなる場合がある。また、糸品質としては、強度や伸度が低下し、実用的に使用できない糸となる。
一方、衣料用ポリカプラミド繊維の分野では総繊度40〜90デシテックス、単糸繊度2〜5デシテックスが中心であったが、近年は高い柔軟性・優れた風合いを有する2デシテックス以下の細繊度・マルチフィラメント糸の需要が拡大傾向にある。このような細繊度・マルチフィラメント糸は、生産性の観点から、高速で製糸することが望まれる。
【0006】
しかしながら、上記細繊度糸を高速で紡糸する場合、上記糸切れ増加等による操業性不良が従来の紡糸よりも顕著に発生する。
【0007】
そこで本発明者らが検討した結果、ポリカプラミド系製糸材料を溶融紡糸する際、ポリカプラミド系製糸材料中のミクロサイズのゲル(ミクロゲル)が多いと、糸切れ増加等の製糸不良が発生することが判明した。その傾向はポリカプラミド系製糸材料中や繊維中にミクロゲルが増加するほど、また紡糸する糸の繊度が細く、紡糸速度が高速になるほど、より製糸操業性に大きく影響し、糸切れが多発することも判明した。すなわち濾圧上昇を伴わない糸切れ増加等の製糸不良の原因は、糸切れ等製糸操業性に影響を与えないと考えられていた微細なゲル(ミクロゲル)が原因であり、これが少ないポリカプラミド樹脂組成物を使用することが重要であることが判明した。
【0008】
一方、ゲル状物質の少ない高品質のポリカプラミド樹脂組成物を得る方法として、例えば特許文献1および特許文献2では、ナイロン樹脂に異物として含まれるイオン交換樹脂の混入濃度やその長径、または原料となるナイロン樹脂ペレットに含まれる微粉末含有量を制限することで、ゲル状の少ないナイロン樹脂を得る方法を提案している。ここでいうポリカプラミド樹脂組成物は、主としてフィルム用途であるため、ゲルは50μm以上の形状のものを計数しているが、溶融紡糸用の口金パックは通常濾過精度が10μm〜60μmのものを使用していることから(濾過精度10μmとは、10μm以上の異物を95%以上除去するということである)、溶融紡糸時の糸切れには50μm以下のゲルが大きく影響していることが明らかであり、紡糸技術とは本質的に異なるものである。
【0009】
特許文献3では、ポリヘキサメチレンアジパミド樹脂を他のナイロン成分と共重合させて、結晶性をコントロールすることによって、ゲル化を抑制し、糸切れ、毛羽の発生が少ないナイロン繊維を得る方法を提案している。しかし、ポリマがポリヘキサメチレンアジパミド樹脂に限定されており、ポリヘキサメチレンアジパミドと比べて結晶化しにくいポリカプラミド樹脂組成物では、糸切れ抑制は期待できない。
【0010】
特許文献4では、ポリヘキサメチレンアジパミドのゲル化を抑制する目的で、イソフタル酸を微量共重合し、酸化チタンにマンガン化合物を被覆したものを重合時に添加することで、ゲル化速度が遅いポリヘキサメチレンアジパミド樹脂組成物の製造方法を提案している。しかし、ポリカプラミドはポリヘキサメチレンアジパミドと比較して一般的にゲル化の進行が遅く、また、10μm以上のゲル状不溶解物質が目視で観察できる時間を指標としている該発明は、ポリカプラミドの製糸操業性の指標とするには不十分であった。
【特許文献1】特開2007−31630号公報(〔0041〕〜〔0044〕段落および実施例)
【特許文献2】特開2007−185950号公報(請求項、〔0021〕段落、および実施例)
【特許文献3】特開2007−254945号公報(〔0020〕〜〔0025〕段落及び実施例)
【特許文献4】特開2002−054025号公報(〔0010〕段落及び実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明では繊維用材料としてミクロゲルが少ないポリカプラミド系製糸材料、およびそれを使用した糸切れ発生回数が少ないポリカプラミド繊維を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、以下に示す本発明に至った。即ち、本発明は下記の構成を有する。
【0013】
1.主としてカプラミド単位からなるポリカプラミド樹脂組成物であって、ミクロゲ
ルの個数がポリカプラミド樹脂組成物1gあたり長径1μm以上10μm以下の
ミクロゲルの個数が1000個以下であることを特徴とする製糸用ポリカプラミ
ド樹脂組成物。
【0014】
2.ポリカプラミド系製糸材料が、単糸繊度2デシテックス以下のポリカプラミド繊維を、3500m/分以上の製糸速度で生産する際に、原料として用いることを特徴とする上記1記載のポリカプラミド系製糸材料。
【0015】
3.ε−カプロラクタムを主成分とするポリカプラミド製糸材料の原料を重合反応器を用いて重合する際、重合反応器より吐出されるポリカプラミド系製糸材料中の長径1μm以上10μm以下のミクロゲルの個数がポリカプラミド系製糸材料1gあたりの1000個以下となるように制御することを特徴とするポリカプラミド系製糸材料の製造方法。
【0016】
4.上記1項または2項記載の製糸材料を溶融紡糸する際、製糸速度を3500m/分以上、単糸繊度を2デシテックス以下とするポリカプラミド繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明を用いれば、ミクロゲルが少ないポリカプラミド系製糸材料を製糸工程にて使用することによって、2デシテックス以下の細繊度糸を高速で製糸した場合でも、糸切れ、濾圧上昇等の製糸トラブルが少なく、製糸収率に優れたポリカプラミド繊維が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明について説明する。
【0019】
本発明で用いるポリカプラミド系製糸材料で用いるポリカプラミドは、ε−カプロラクタムを単位として、80モル%以上を含むものであり、さらに好ましくは90モル%以上含むものである。その他の成分としては繊維形成可能なナイロンであれば特に制限されないが、例えば、ポリドデカノアミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンアゼラミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカノアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリヘキサメチレンテレフタラミド、ポリヘキサメチレンイソフタラミド等を構成するモノマであるアミノカルボン酸、ジカルボン酸、ジアミンなどの単位が挙げられる。
【0020】
カプロラクタムを主原料とするポリカプラミドは通常、カプロラクタムを少量の水の存在下に加熱することによって製造される。
【0021】
本発明で使用する重合反応器は、特に限定するものではなく、公知の重合反応器を使用できる。具体的には、連続式常圧重合装置、回分式重合装置などの液相重合装置が挙げられるが、液面変動が少ない連続式常圧重合装置が好ましく、またポリマの流れが悪く、長時間滞留するような箇所がない構造であることが重要である。
【0022】
連続常圧重合装置を使用した場合、重合加熱温度は240〜270℃の範囲で6〜18時間かけて重合を行うことが好ましい。ε−カプロラクタムの重合は、前半はε−カプロラクタムの開環反応、付加反応、重縮合反応を速く進めるため高い温度で行い、最終的には重合平衡の関係から固化しない程度の比較的低い温度とすることが効率的に生産を行うために重要であり、前記観点より、直列に連結された2つ以上の重合反応器を使用し、加熱温度を重合の前半と後半で分けて重合反応をすすめることが望ましい。
【0023】
必要に応じて後述する各種添加剤を重合前、重合途中の段階あるいは重合後の段階で加えていても構わない。上記方法により重合を終えたナイロン6ポリマは、冷却固化後、ペレタイズ化し、ペレット中に含まれるモノマ、オリゴマの抽出除去、さらに水分を除去するための乾燥などを行った後、ミクロゲル評価、および製糸用材料として使用する。
【0024】
繊維用途としては、つや消しや不透明性付与する目的で酸化チタンが広く添加されており、本発明のポリカプラミド系製糸材料においても添加してもかまわない。酸化チタンの添加方法としては
(1)重合前あるいは重合中に酸化チタンを原料系に添加する重合時添加法、
(2)重合後、混練機等により、酸化チタン粉末をナイロン樹脂に練り込むアフターダリング法
(3)マスターバッチと呼ばれる高濃度の酸化チタンを含有するポリカプラミド系製糸材料を製造し、それと酸化チタン含有率が低いまたは酸化チタンを含有しないポリカプラミド系製糸材料をブレンドして製糸し、所定量の酸化チタンを含有する糸品種を製造するチップブレンド法が代表的な方法として用いられているが、このうち、重合時添加法は、酸化チタンをポリマ中に導入する後工程を必要としないため、熱履歴をうけることが少なく、品質面、コスト面で優れている。
【0025】
本発明で使用する酸化チタンは、ポリカプラミドの添加剤として用いられるもので
あればよく、結晶形態が異なるルチル型でもアナターゼ型でもよい。また、分散性向上の目的で酸化チタンの表面をAl、Zn、Si等で処理したものであってもよい。勿論、前処理として、サンドグラインダー等で処理し、粗大粒子をカットしたものでもよい。
【0026】
また、本発明においては、酸化チタンの分散性をさらに高めるために、分散向上剤を添加することができる。使用する分散向上剤としては界面活性剤など、通常酸化チタンの分散向上に用いられるいずれのものを用いてもかまわない。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系等があり、いずれを使用しても構わないが、酸化チタンの水中の帯電状態から、アニオン系界面活性剤が好ましい。
酸化チタンを添加する場合は、ポリカプラミドの耐候性を向上させるため、耐候剤を添加することが好ましい。耐候剤としては、例えば、マンガン化合物が用いられる。マンガン化合物としては、塩化マンガン、硼酸マンガン、ピロリン酸マンガン、次亜燐酸マンガン、珪酸マンガン、コハク酸マンガン、吉草酸マンガン、ヨウ化マンガン、燐酸水素マンガン、酢酸マンガン、シュウ酸マンガン、酒石酸マンガン、クエン酸マンガン、安息香酸マンガン、サルチル酸マンガン、グリセロリン酸マンガン、乳酸マンガン、フェノールスルホン酸マンガン等が挙げられる。
このマンガン化合物の添加量は、ポリマの用途に応じた量とすればよく、一般的にはポリカプラミド系製糸材料に対して、マンガン換算で2〜20ppmの範囲で用いられる。
【0027】
重合時の粘度安定化のために、モノカルボン酸やモノアミンを添加してもよく、中でも酢酸が安価であること等により好ましく使用できる。上記モノカルボン酸あるいはモノアミンの添加量は、ポリマの用途に応じた量とすればよく、一般的には、モノマに対して0.1〜1.0モル%である。
【0028】
なお、本発明で溶融紡糸に用いるポリカプラミド系製糸材料の重合度は、98%硫酸中の相対粘度ηrで表すと、好ましくは2.0〜4.0であり、さらに好ましくは2.5〜3.5である。また、該ポリカプラミド系製糸材料は固相重合によってηrを上記好適な値にすることもできる。ηrが2.0より小さい場合、溶融粘度低すぎるため溶融紡糸が困難である。また、ηrが4.0より大きい場合、加熱溶融時にポリマが劣化しやすくなる。
【0029】
また、本発明のポリカプラミド系製糸材料には必要に応じ本発明の目的を阻害しない範囲内で、公知の末端基調整剤、耐熱剤、制電剤等を配合してもよい。
【0030】
本発明のポリカプラミド系製糸材料は下式を満たすものである。
ミクロゲル数≦1000個/g
ミクロゲル数:目開き5μmのフィルターを使用し、ポリカプラミド系製糸材料を融点+40℃の条件で溶融濾過した際に、ポリカプラミド系製糸材料1g相当の濾過面積(濾過面積/濾過したポリカプラミド系製糸材料の量(g))に捕捉した長径1μm以上10μm以下のミクロゲルの個数
ミクロゲル数が1000個/gを越えるポリカプラミド系製糸材料を使用した場合には、製糸収率が悪化する。好ましくは、長径1μm以上10μm以下のミクロゲルが800個/g以下である。また計上するミクロゲルのサイズは、長径1μm以上10μm以下のものとする。10μmを越えるのものは、大半が溶融紡糸用の口金パックで捕捉できること、また1μm未満のミクロゲルは、一般的に繊維用途として、ポリカプラミド系製糸材料に添加している添加剤と同等のサイズであり、糸切れに寄与しないレベルである。上記観点から、好ましくは3μm以上10μm以下のミクロゲルが、300個/g以下である。
【0031】
本発明においては、ミクロゲル数が上記1000個/g以上を越えた場合は、当該ポリカプラミド系製糸材料を製品と区分することとし、重合反応器の液面、重合反応器や配管の加熱温度等を調整して改善することが望ましい。改善が認められない場合は、重合反応器内を洗浄することで、ポリカプラミド系製糸材料中のミクロゲル数を1000個/g以下となるように制御することが必須である。上記洗浄は、その重合体を溶解する溶媒で洗浄する方法、重合体を解重合してモノマやオリゴマにする分解液で洗浄する方法、ブラシやサンドペーパーを用いて、機械的に研磨する方法が一般的に行われている。本発明においても、目的を阻害しない範囲内で公知の洗浄液を使用してよいが、機械的に研磨し、ゲルやポリマを取り除く方法は、剥がれ落ちたゲルや異物が完全に取り除けず、製品に混入する恐れがあるため、好ましくない。洗浄液としては、モノマであるε−カプロラクタムおよび/または酢酸の水溶液で重合反応器を洗浄することが特に好ましい。
【0032】
洗浄は、重合反応器から吐出されるポリカプラミド系製糸材料中のミクロゲル数が上記範囲になるまで行う。
【0033】
また、製糸工程で使用する前に、添加剤を重合後混練機等によりポリカプラミド系製糸材料に練り込む場合は、練り込み後のポリカプラミド系製糸材料のミクロゲルが上記範囲内である必要があり、添加剤の混練によりミクロゲルが増加する場合は、混練機を洗浄することが望ましい。
【0034】
また上記の式に従い、ポリカプラミド系製糸材料中の添加剤の含有量または、添加剤そのものが異なるポリカプラミド系製糸材料をブレンド使用する場合においても、ポリカプラミド系製糸材料中のミクロゲル数の範囲を決定することができる。ミクロゲルは本発明が課題とする糸切れの主要因であるため、ブレンドで使用した場合でもそれぞれに含まれるブレンド後のミクロゲルの総和が、同様の影響を及ぼすことが考えられるためである。
【0035】
本発明においては、長径1μm以上10μm以下のミクロゲルの個数が1000個/g以下であるポリカプラミド系製糸材料を溶融紡糸することで、糸切れが少なく、製糸操業性が良好なポリカプラミド糸を得ることが可能となる。
【0036】
本発明のポリカプラミド系製糸材料を用いてなる繊維に特に制限は無く、モノフィラメント、マルチフィラメントおよびステープルのいずれの形態でもかまわないが、本発明のポリカプラミド系製糸材料は、単糸繊度が2デシテックス以下、特に0.5〜1.5デシテックスであるポリカプラミド糸を、生産性の観点から3500m/分以上、好ましくは4000m/分以上の製糸速度で得る場合の原料として用いる場合にその効果が特に顕著であるため、最適である。すなわち、製糸速度が高速になるほど糸にかかる引取張力が増加すること、またポリカプラミド糸の単糸繊度が細くなるほど、従来の方法では検知できなかった10μm以下のポリカプラミド系製糸材料中のミクロゲルが及ぼす影響が大きくなるため、上記条件で紡糸する際の糸切れ抑制効果が顕著である。
【0037】
本発明のポリカプラミド系製糸材料の製造方法は、特に限定されるものではないが、それ自体は一般的な溶融紡糸により製造することができる。また、溶融紡糸による製造方法について、二工程法(未延伸糸を一旦巻き取った後に延伸する方法)で得られるものよりも、一工程である高速紡糸法(製糸速度を3000m/min以上のように高速として実質的に延伸工程を省略する方法、POYの製造)、高速紡糸延伸法(紡糸−延伸工程を連続して行う方法)により得られたものの方が、好ましい。
【0038】
本発明のポリカプラミド系材料を溶融し、紡糸パックへ流入し、紡糸口金より吐出されたポリカプラミド繊維は、冷却、固化され、交絡処理、油剤が付与された後、1000〜5000m/minで引き取られ、POYの場合は実質的に延伸なしで巻き取り、延伸糸の場合は、伸度が35〜65%の範囲となるように適宜延伸倍率を設定して延伸を行い、巻き取ることにより製造される。この方法においては、高速紡糸法および高速紡糸延伸法のいずれも、製糸速度が3500m/分以上であることが、効果が顕著に現れるため好ましい。
【0039】
この際の製糸速度は、紡糸して巻き取るまでのいずれかの段階で上記速度以上であってもよいし、一旦巻き取った糸を延伸その他の処理を施して、再度巻き取る際のいずれかの段階で上記速度以上であってもよい。つまり、製糸工程のいずれかの工程で、上記速度以上で引き取る場合に製糸速度3500m/分以上であればよい。上限としては、7000m/分以下であることが好ましい。7000m/分以上であると、糸揺れが大きくなり、糸切れの増加や毛羽の増加となり生産性が低下する。なかでも特に効果が顕著である溶融紡糸方法としては、ペレットを溶融し、吐出孔から吐出し、冷却、給油、交絡の後、1000m/分以上の速度で紡糸引取りし、一旦巻き取ることなく引き続いて熱延伸し、3500m/分以上の速度で紡糸巻き取る高速直接熱延伸法による製糸方法(この方法においては、延伸して巻き取る際の速度が3500m/分以上)や、ペレットを溶融し、吐出孔から吐出し、冷却、給油後、実質的に延伸なしで3500m/分以上で巻き取る高速製糸法が好ましい。
【0040】
特に、本発明のポリカプラミド繊維の糸条繊度は、単糸繊度が2デシテックス以下の細繊度であるため、生産性の点から、3500m/分以上の高速直接延伸法、高速紡糸法で製造することが望ましい。本発明のポリカプラミド系製糸材料を用いることにより製糸収率が高く、糸切れ回数が3回/t以下とすることが可能である。好ましい態様においては、1回/t以下とすることも可能である。
【実施例】
【0041】
以下の実施例中の物性は、次のようにして求めた。
【0042】
ミクロゲルの個数(個/g):ペレット240gを融点+40℃で溶融し、目開き5μm、濾過面積3.1cmのフィルターで1時間ろ過し、ミクロゲルを捕捉する(1.3g/cm・min)。PEA(フェノール83.5%、片山化学工業株式会社製)20mlを取り出したフィルターに加え、常温下で1昼夜かけて、フィルター内で固化したポリマを溶解し、ミクロゲルを取り出す。このミクロゲルを含む溶剤をメンブレンフィルター(目開き0.45μm)で減圧濾過した。ここで、メンブレンフィルターの濾過面積は960mmであり、ポリカプラミド樹脂組成物1g中に含まれるミクロゲルは、濾過面積4mm2に存在する計算である(960mm/240g)。ろ過後のサンプルを蛍光顕微鏡(200倍)観察し、代表的な視野をデジタル画像(視野0.04mm2)に取り込んだ。イメージアナライザー(Win ROOF、三谷商事社製)を使用し、上記デジタル画像中の輝点の個数および、各輝点の長径を自動計数した。長径が1μm以上10μm以下の輝点について5視野観察した合計数をさらに20倍にして、濾過面積4mm2(ポリカプラミド系製糸材料1g)あたりのミクロゲルの個数とした。
【0043】
ろ過圧力上昇速度(MPa/hr):ペレットを融点+40℃で溶融し、目開き5μmのフィルターで1.3g/cm・minの速度で濾過した。ろ過状態が安定した1.25時間後からさらに1時間ろ過を行い、この単位時間あたりの濾過圧力の上昇速度をろ過圧力上昇速度とした。
【0044】
糸切れ回数:生産量1t当たりの糸切れ回数を求め、糸切れ頻度を回/tで示した。糸切れ回数と操業性良否の判断基準は、3回/t以下:生産可能、3〜8回/t:操業性が悪いが、生産は製糸条件の適正化により生産可能、8回/t以上:操業性が悪く生産に耐えるものではない。
【0045】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0046】
(実施例1)
図1に本発明で使用した重合装置の概略図を、図2に製糸評価に用いた溶融口金パックの断面概略図を示す。
【0047】
水分を1wt%含むεカプロラクタムを30kg/hrの量で連続的に、温度計4を備えた体積0.2mの第1の重合反応器1に供給し、加熱温度を270℃に設定し、重合を行った。第1の重合反応器1下部から、供給量に対応する重合中間体を排出し、凝縮器3と温度計5を備えた体積0.08mである第2の重合反応器2へ供給した。第2の重合反応器2の加熱温度を250℃に設定し、常圧下で連続重合を行い、重合反応生成物であるポリカプラミドの排出を開始した。重合反応器1の容量の1.5倍のε−カプロラクタムを供給した時点より、ペレタイズ化し、ポリカプラミド系製糸材料を得た。
【0048】
得られたポリカプラミド系製糸材料は、95℃の熱水により16時間処理し、低分子量成分を除去後、さらに水分率0.05重量%以下となるよう常法にて乾燥し、
ミクロゲル評価用のサンプルとした。
【0049】
乾燥後のポリカプラミド系繊維材料を270℃で溶融後、図2に示す溶融口金パック7に供した。溶融したポリカプラミド系繊維材料(ポリマ)は、分配板8によりパック内ポリマ流路全体に拡流される。次にポリマは濾砂9、フィルター10によって中に含まれる微小な異物を濾過されて耐圧板11に到達する。耐圧板11は濾砂9、フィルター10を支持し、ポリマの濾過圧による部材の変形、破損を防止する。次に耐圧板に設置されたポリマ流路によりポリマが輸送されて口金12に供給され、円形口金孔13からフィラメント状に吐出後、18℃の冷風で冷却、給油した後に、表1に示す紡糸速度で引き取り、実質的に延伸しないで巻き取り、表1に示す糸条繊度、フィラメント数のポリカプラミドマルチフィラメント(POY)を得た。
【0050】
このポリカプラミド系製糸材料のミクロゲル数、濾圧上昇速度、および紡糸速度、ポリカプラミド繊維の繊度、糸条数および糸切れ回数を表1に示した。
【0051】
(実施例2、比較例1)
図3に示す重合装置を使用した。
【0052】
水分を1wt%含むεカプロラクタムを30kg/hrの量で連続的に温度計4を備えた体積0.2mの第1の重合反応器1に供給し、加熱温度を270℃に設定し、重合を行った。第1の重合反応器1下部から、供給量に対応する重合中間体を排出し、減圧ライン6および温度計5を備えた体積0.08mである第2の重合反応器2へ供給した。重合反応器2では、26.7kPaの減圧下で、加熱温度を250℃に設定し、連続重合を行い、重合反応生成物であるポリカプラミドを排出、ペレタイズ化した。実施例2ではペレタイズ化を開始した10日後にサンプリングしたポリカプラミド系製糸材料について、比較例1ではペレタイズ化を開始した180日後にサンプリングを行い請求項1と同様に、低分子除去、乾燥後に、ミクロゲル評価および製糸評価を行った。結果を表1に示した。
【0053】
(実施例3)
比較例1にてペレタイズ化を開始した180日後にポリカプラミド系製糸材料をサンプリングした後に、ε-カプロラクタムの供給を停止し、重合反応器1および2の中にあるポリカプラミドを全量排出した。続いて、酢酸を10mol%含むε−カプロラクタム20kgを第1の重合反応器1に投入し、230℃で1日加熱し、重合反応器内を洗浄した。続いて上記酢酸を含んだε-カプロラクタムを第2の重合反応器2へ供給し、同様に230℃で1日加熱することで重合反応器を洗浄し、その後全量排出した。
【0054】
洗浄後は、実施例1と同様の操作を行った。このポリカプラミド系製糸材料のミクロゲル数、濾圧上昇速度、および紡糸速度、ポリカプラミド繊維の繊度、糸条数および糸切れ回数を表1に示した。
(実施例4〜8、比較例2〜6)
図1に示す重合反応器を使用した。
【0055】
水分を1wt%含むε-カプロラクタムを30kg/hrの量で連続的に体積0.2mの第1の重合反応器1に供給し、加熱温度を270℃に設定し、重合を行った。第1の重合反応器1下部から、供給量に対応する重合中間体を排出し、体積0.08m3である第2の重合反応器2へ供給した。第2の重合反応器2の加熱温度を250℃に設定し、常圧下で連続重合を行い、重合反応生成物であるポリカプラミドを排出した。
【0056】
続いて、緊急停機のモデル実験のためε-カプロラクタムの供給、第1の重合反応器1、第2の重合反応器2の加熱および、ポリカプラミドの排出を停止し、第1の重合反応器1および第2の重合反応器2をポリカプラミドの融点以下まで下げ、固化させた。
固化したポリカプラミドが存在する第1の重合反応器1および第2の重合反応器2を、表2、表3に示す溶融温度および日数をかけて加熱を行った。ポリカプラミドが完全に溶融したことを確認し、第1の重合反応器1の温度を270℃、第2の重合反応器2の温度を250℃に設定し、原料供給およびポリカプラミドの吐出を開始した。
第1の重合反応器1の容量の1.5倍のε−カプロラクタムを供給した時点より、ペレタイズ化し、ポリカプラミド系製糸材料を得た。以降の操作は実施例1と同様であり、ポリカプラミドを重合反応器内で一旦固化させた後の再溶融温度、溶融時間および、得られたナイロン系製糸材料のミクロゲル数、濾圧上昇速度、および紡糸速度、ポリカプラミド繊維の繊度、糸条数および糸切れ回数について、実施例は表2、比較例は表3に示した。
(比較例7)
図3に示す重合反応器を使用した。
排出後の酢酸で重合反応器を洗浄する代わりに、重合反応器を解体し、ブラシをかけて重合反応器壁面を洗浄した以外は実施例3と同様の操作を行った。結果を、表1に示した。
【0057】
実施例はいずれも、ポリカプラミド系繊維材料が、本発明のミクロゲル数を満足しており、その結果溶融紡糸時の糸切れ回数が少ないことが分かる。一方、比較例は、いずれも本発明のミクロゲル数を満たさず、これを溶融紡糸した場合、糸切れが多いことが分かる。
緊急停機のモデル実験のため実施した実施例4〜8、比較例2〜6では、固化したポリカプラミドの溶融温度が高く、かつ溶融時間が長いほど、ミクロゲルが増加し、それに従い、溶融紡糸時の糸切れも増加していることから、ミクロゲルの個数を制御することで、糸切れが抑制されることが分かった。
また、実施例3と比較例1の結果より、ミクロゲルの数が本発明を満たさず、溶融紡糸時の糸切れが多い場合でも、重合反応器を停機後に洗浄することでミクロゲルの数が本発明を満たした結果、溶融紡糸時の糸切れが減少したことから、ポリカプラミド系繊維材料のミクロゲルの制御が可能であることが分かった。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明はミクロゲルが少ないポリカプラミド系製糸材料を製糸用途、特に細繊度品種を高速で製糸する際に使用することで、糸切れ等の製糸トラブルを減少し、製糸収率に優れたポリカプラミド繊維を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例1で使用した重合装置の概略図である。
【図2】実施例で使用した溶融口金パックの断面図である。
【図3】実施例2で使用した重合装置の概略図である。
【符号の説明】
【0063】
1:第1の重合反応器
2:第2の重合反応器
3:凝縮器
4、5:温度計
6:減圧ライン
7:溶融口金パック
8:分配板
9:濾砂
10:フィルター
11:耐圧板
12:口金
13:円形口金孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主としてカプラミド単位からなるポリカプラミドを含むポリカプラミド系製糸材料であって、ポリカプラミド系製糸材料1gあたりの長径1μm以上10μm以下のミクロゲルの個数が1000個以下であることを特徴とするポリカプラミド系製糸材料。
【請求項2】
ポリカプラミド系製糸材料が、単糸繊度2デシテックス以下のポリカプラミド繊維を、3500m/分以上の製糸速度で生産する際の原料として用いられることを特徴とする請求項1記載のポリカプラミド系製糸材料。
【請求項3】
ε−カプロラクタムを主成分とするポリカプラミド製糸材料の原料を重合反応器を用いて重合する際、重合反応器より吐出されるポリカプラミド系製糸材料中の長径1μm以上10μm以下のミクロゲルの個数がポリカプラミド系製糸材料1gあたりの1000個以下となるように制御することを特徴とするポリカプラミド系製糸材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載の製糸材料を溶融紡糸する際、製糸速度を3500m/分以上、単糸繊度を2デシテックス以下とするポリカプラミド繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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