説明

ポリカーボネートオリゴマーおよびその製造方法

【課題】クロロホーメート基末端濃度が高く、末端窒素含有量の少ない均一なポリカーボネートオリゴマーを提供する。
【解決手段】一般式(1)に示す構造単位を含み、オリゴマー末端の95%以上がクロロホーメート基に由来し、末端窒素含有量5ppm以下、数平均分子量1000〜5000のポリカーボネートオリゴマー。



(X、X’は水素原子、ハロゲン原子またはメチル基、Rは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボニル基、アセチル基又は炭素数1〜20のアルキル基。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネートオリゴマー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリカーボネートの製造法として芳香族ジオールのアルカリ水溶液を不活性有機溶媒の存在下、ホスゲンと反応させてポリカーボネートオリゴマー(以下、「オリゴマー」と云う)を生成させ、反応混合物から水相を分離除去してオリゴマーを含有する有機溶剤相(以下、「油相」と云う)を得、これに重合触媒、アルカリ水溶液を加えて重合を行い高分子量のポリカーボネートを得る方法が知られている。
例えば、特許文献1にはホスゲン化反応を10℃以下、特許文献2では2℃〜30℃、特許文献3では第1反応器を10℃〜25℃、第2反応器を10℃〜30℃の低温で反応させる方法が提案されている。
また、特許文献4には、芳香族ジオールの水酸基に対するアルカリ金属原子のグラム当量比を0.9〜1.5としてホスゲンと反応させ反応終了後のpHを5〜10となるまでオリゴマー化反応を行う方法が提案されている。
さらに、特許文献5では、重合触媒として水溶性のものと油溶性のものを併用し高分子量化を図ることが提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭55−052321号公報
【特許文献2】特開昭58−108226号公報
【特許文献3】特開昭62−167321号公報
【特許文献4】特開平03−109420号公報
【特許文献5】特開昭61−238823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の報告では、芳香族ジオールとしては、その殆どが2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)使用でのオリゴマー製法に関する記述が主であり、それ以外の芳香族ジオールを使用したオリゴマー及びその製造法について具体的に示されているものは少ない。
その理由の一つは、仮に芳香族ジオールの種類が異なったとしても、同条件下で略同品質相当のオリゴマーが製造出来得ると推測しているところにある。ところが、使用する芳香族ジオールによっては、芳香族ジオールのアルカリ水溶液を調製する段階に於いても芳香族ジオールの溶解度が他と全く異なったり、またホスゲンとの反応性の違いから目的とするオリゴマーが得られず、その結果、重合反応での高分子量化が不完全となったり、ポリマー洗浄工程での洗浄性が低下する等、高品質の製品が得られないことが多い。
【0005】
例えば、特許文献1〜特許文献3に記載されているような低温で反応させる方法では、特定の芳香族ジオールのアルカリ水溶液を予冷すると溶解度が低下し芳香族ジオールが析出して均一な反応ができなくなり、実際上オリゴマーを得ることは困難な場合がある。
また、特許文献4に記載されているような方法では、オリゴマー化反応終了後、油相と水相の界面に中間相が発生してしまい水相分離が困難となり、この状態で重合すると不純物残留により高分子量化せず製品品質が劣る問題がある。
さらに、特許文献5に記載されているような方法では、高分子量化は達成できるものの、実施例中に記載されている温度条件下(20℃)での芳香族ジオール(BPZ)溶解は実際上困難である。また、使用した触媒の分離回収に多大の労力がかかるばかりでなく、オリゴマーと水相を分離せずに重合反応させるため、水相分離しない場合に比べ、全反応液量が2倍以上となり設備の大型化が避けられないという問題がある。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものである。
即ち、本発明の目的は、クロロホーメート基末端が高く、しかも末端窒素含有量の少ない均一なポリカーボネートオリゴマーを提供することにある。
また、本発明の別の目的は、特定構造を有する芳香族ジオールを使用したポリカーボネートオリゴマーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、下記構造を有する芳香族ジオールを使用して品質の優れたオリゴマーを取得するには、
【0008】
【化1】

【0009】
前記芳香族ジオールのアルカリ水溶液を特定条件下で調整した後にホスゲンと接触反応させ、無触媒下で反応終了後のpHが10〜12となるまでオリゴマー化反応させることによって、反応終了後の反応混合物からの水相分離が容易となり、高品質で均一なオリゴマーを再現良く得ることを見いだし本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明によれば、第一に、請求項1では、下記一般式(1)で表される構造単位を含む数平均分子量が1000〜5000のポリカーボネートオリゴマーであって、該オリゴマー末端の95%以上がクロロホーメート基に由来する基であり、且つ分子末端に結合した窒素量が5ppm以下であることを特徴とするポリカーボネートオリゴマーが提供される。
【0011】
【化2】

【0012】
(一般式(1)中、X、X’は水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を示し、Rは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボニル基、アセチル基又は炭素数1〜炭素数20のアルキル基を示す。)
【0013】
第二に、請求項2では下記一般式(2)で表される芳香族ジオールのアルカリ水溶液を不活性有機溶媒の存在下、ホスゲンと反応させ、得られる反応混合物から水相を分離除去してポリカーボネートオリゴマーを製造する方法において、
(イ)アルカリ金属水酸化物濃度が3.0重量%〜6.0重量%のアルカリ水溶液中に前記芳香族ジオールの水酸化物に対するアルカリ金属原子のグラム当量比が1.5〜2.0となるように調整した芳香族ジオールのアルカリ水溶液を40℃〜50℃の温度範囲に維持した状態でホスゲンと接触反応させ、
(ロ)無触媒下で反応終了後のpHが10〜12となるまでオリゴマー化反応を行う
ことを特徴とする請求項1記載のポリカーボネートオリゴマーの製造方法が提供される。
【0014】
【化3】

【0015】
(一般式(2)中、X、X’は水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を示し、Rは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボニル基、アセチル基又は炭素数1〜炭素数20のアルキル基を示す。)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、オリゴマー化反応終了後に得られる反応混合物からの水相分離除去が容易であり、しかも末端クロロホーメート分率が高く末端窒素が少ない均一なポリカーボネートオリゴマーが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。
本実施の形態が適用されるポリカーボネートオリゴマーは、前述した一般式(1)で表される構造単位を含む数平均分子量が1000〜5000のポリカーボネートオリゴマーであって、該オリゴマー末端の95%以上がクロロホーメート基に由来する基であり、且つ分子末端に結合した窒素量が5ppm以下であることを特徴としている。
【0018】
本実施の形態においては、前述した一般式(1)で表される構造単位を含むポリカーボネートオリゴマーは、前述した一般式(2)の芳香族ジオールが用いられる。一般式(2)で示される芳香族ジオールの具体例としては、下記に示す構造のものがあげられる。
【0019】
【化4】

【0020】
しかし、以上記載した化合物は例示であって、本実施の形態における一般式(2)の化合物のすべてを示すものではなく、本実施の形態には、一般式(2)を満たす全ての化合物が適用可能である。
【0021】
また、本実施の形態において使用する芳香族ジオールは、純度が高いことが好ましく、99.5%以上がより好ましい。特に窒素含有量はポリカーボネートの品質上少ない事が好ましく5ppm以下であることが必要である。
【0022】
芳香族ジオールは水及び水溶性の金属水酸化物と共に水相を形成する。金属水酸化物としては、通常水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物が用いられ、またハイドロサルファイト等の還元剤を少量添加してもよい。
本実施の形態において、アルカリ水溶液のアルカリ金属水酸化物濃度を3.0重量%〜6.0重量%とし、しかも芳香族ジオールの水酸化物に対するアルカリ金属原子のグラム当量比が1.5〜2.0となるように調整する必要がある。従って、アルカリ水溶液中の該芳香族ジオールの濃度はこれらの関係より適宜選択される範囲となる。ここで重要なことは上記両者の条件を同時に満足させる必要があり、単に上記何れかの条件のみを選定しただけでは本発明の効果は達成しえない。
【0023】
例えば、アルカリ水溶液のアルカリ金属水酸化物濃度が3.0重量%〜6.0重量%の範囲にあっても芳香族ジオールの水酸化物に対するアルカリ金属原子のグラム当量比が1.5未満になると、本実施の形態で使用する芳香族ジオールは溶解しにくくなり、この状態でホスゲンと反応させても均一なオリゴマーは得られない。一方、2.0を超えると芳香族ジオールの溶解は容易となるが、ホスゲンの分解反応が急激に増加するばかりでなくオリゴマー化反応終了後多量のアルカリが残存するため反応混合物からの水相分離が困難となり好ましくない。
【0024】
また、芳香族ジオールの水酸化物に対するアルカリ金属原子のグラム当量比が1.5〜2.0の範囲にあってもアルカリ水溶液のアルカリ金属水酸化物濃度を3.0未満でホスゲンと反応させると、水酸基末端が増加したオリゴマーとなり高分子量化反応の際に低分子物が増加するため好ましくない。一方、6.0重量%を超えると結果的には上記以上にホスゲンの分解が増加し反応混合物からの水相分離も更に困難となるため好ましくない。
【0025】
また、本実施の形態において、調製した芳香族ジオールのアルカリ水溶液は40℃〜50℃の温度範囲に維持した状態でホスゲンと接触反応させる必要がある。40℃未満では芳香族ジオールが析出し始め供給配管が閉塞したり、芳香族ジオールがスラリー状態のままホスゲンと接触するため、ホスゲンが未反応の状態で反応器出口から吹き抜ける現象が起きるため好ましくない。一方、50℃を超えるとホスゲン化の反応温度の制御が困難となりホスゲンの分解反応が極端に増加するため好ましくない。
【0026】
また、本実施の形態においては、任意の分岐剤もポリカーボネートの原料とすることができる。使用される分岐剤は、3個またはそれ以上の官能基を有する種々の化合物から選ぶことができる。適当な分岐剤としては、3個またはそれ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物が挙げられ、例えば、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノール、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)プロパン及び1,4−ビス(4,4’−ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼンが挙げられる。また、3個の官能基を有する化合物である、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、トリメシン酸、塩化シアヌルも使用しうる。中でも、3個またはそれ以上のフェノール性ヒドロキシ基を持つものが好適である。分岐剤の使用量は、目的とする分岐度によっても異なるが、通常、芳香族ジオール類に対し、0.05モル%〜2モル%の量で使用される。
【0027】
本実施の形態において、分子量調節剤として使用されるモノフェノール類には、種々のフェノール類、例えば、通常のフェノールのほか、p−t−ブチルフェノール及びp−クレゾールのような炭素数1〜炭素数20のアルキルフェノール、並びにp−クロロフェノール及び2,4,6−トリブロモフェノールのようなハロゲン化フェノールが含まれる。なかでも、フェノール、及びp−イソプロピルフェノール、p−ドデシルフェノール、p−t−ブチルフェノール等のパラ位に炭素数1〜炭素数20のアルキル基が置換したフェノール類が、更に好適である。モノフェノール類の使用量は、目的とする縮合体の分子量によっても異なるが、通常、原料芳香族ジオール類に対して、0.5重量%〜10重量%の量で使用される。
【0028】
使用する有機溶媒としては、反応温度及び反応圧力において、ホスゲン及びカーボネートオリゴマー、ポリカーボネート等の反応生成物は溶解するが、水を溶解しない(水と溶液をつくらないという意味で)任意の不活性有機溶媒を含む。
【0029】
代表的な不活性有機溶媒には、ヘキサン及びn−ヘプタンのような脂肪族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ジクロロプロパン及び1,2−ジクロロエチレンのような塩素化脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン及びキシレンのような芳香族炭化水素;クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン及びクロロトルエンのような塩素化芳香族炭化水素;その他ニトロベンゼン及びアセトフェノンのような置換芳香族炭化水素が含まれる。
【0030】
中でも、塩素化された炭化水素、例えば塩化メチレンまたはクロロベンゼンが好適に使用される。これらの不活性有機溶媒は、単独であるいは他の溶媒との混合物として使用することができる。
【0031】
ホスゲンは、液状またはガス状で使用される。温度管理の観点からはホスゲンは液状であることが好ましく、反応温度において液状を保ち得る反応圧力が選択される。ホスゲンの好ましい使用量は、反応条件、特に反応温度及び水相中の芳香族ジオール金属塩の濃度によっても影響は受けるが、芳香族ジオール類の1モルに対するホスゲンのモル数で、通常、1〜2、好ましくは1〜1.5である。この比が大きすぎるとホスゲンの損失が多くなり、かつ、停止剤同士の縮合物の生成が認められるようになり好ましくない。一方、小さすぎると、CO基が不足し、適切な分子量伸長が行われなくなり好ましくない。
【0032】
本実施の形態においては、二相界面縮合法を採用した場合、ホスゲンとの接触に先立って有機相と水相とを接触させ、乳濁液を形成させるのが特に好ましい。乳濁液を形成させるためには、通常の撹拌翼を有する撹拌機の外、ホモジナイザ、ホモミキサ、コロイドミル、フロージェットミキサ、超音波乳化機等の動的ミキサや、静的ミキサ等の混合機を使用するのが好ましい。乳濁液は通常、0.01μmから10μmの液滴径を有し、乳化安定性を有する。
【0033】
乳化の状態は通常ウェーバー数或いはP/q(単位容積当たりの付加動力値)で表現できる。ウェーバー数としては、好ましくは10,000以上、さらに好ましくは20,000以上、最も好ましくは35,000以上である。また、上限としては1,000,000以下程度で十分である。また、P/qとしては、好ましくは200kg・m/リットル以上、さらに好ましくは500kg・m/リットル以上、最も好ましくは1,000kg・m/リットル以上である。
【0034】
乳濁液とホスゲンとの接触は、前記乳化条件よりも弱い混合条件下で行うのがホスゲンの有機相への溶解を抑制する意味で好ましく、ウェーバー数として10,000未満、好ましくは5,000未満、さらに好ましくは2,000未満である。また、P/qとしては、200kg・m/リットル未満、好ましくは100kg・m/リットル未満、さらに好ましくは50kg・m/リットル未満である。ホスゲンとの接触は、管型反応器や槽型反応器にホスゲンを導入することによって達成することができる。
【0035】
ポリカーボネートの分子量は、モノフェノール等の分子量調節剤の添加量で決定される。ただし、分子量制御性の点からその添加時期はカーボネート形成性化合物の消費が終了した直後から、分子量伸長が始まる前での間が好ましい。カーボネート形成性化合物の共存下でモノフェノール類を添加するとモノフェノール類同士の縮合物(炭酸ジフェニル類)が多く生成し、目標とする分子量のポリカーボネート樹脂が得られにくく、一方、モノフェノール類の添加を極端に遅らせた場合、分子量制御が困難となるばかりか分子量分布の低分子側に特異な肩を持った製品となり、成型時にはな垂れを生じたりするような弊害が多くあまり好ましくない。
【0036】
オリゴマー化反応においては無触媒下で行う必要がある。縮合触媒の存在下例えば、一般的に用いられるトリエチルアミンを添加して反応を行うと、反応混合物からの水相分離は容易になるものの、水相中のアルカリ濃度が高い為に添加したトリエチルアミンの殆どが油相中に分配され、また、トリエチルアミンがオリゴマー末端クロロホーメートと反応し熱的に不安定なウレタン結合を形成しオリゴマー段階で既に末端窒素の多いオリゴマーしか得られない。末端窒素の多いオリゴマーを重合して高分子量のポリカーボネートとした場合、高温成形時に着色し色調良好な製品は得られず、電気写真感光体用のバインダー樹脂として用いた場合帯電異常を示し好ましくない。通常のビスフェノールAのアルカリ水溶液を用いてオリゴマー化する際には反応終了後のpHが7〜8とほぼ中性となるため、上記のような問題は起こりにくいが、本発明に使用する芳香族ジオールのアルカリ水溶液はアルカリ濃度が高いためこの状態で触媒添加しても反応終了後のpHは7〜8とはならない。
【0037】
無触媒下で反応終了後のpHが10〜12となるまでオリゴマー化反応を行う必要がある。pH10未満となるまで無触媒下で反応を行うと、水酸基末端が増加しクロロホーメート末端の高いオリゴマーは得られにく反応混合物からの水相と油相の界面に中間相が発生しやすくなり分離困難となる場合がある。一方、pH12を反応混合物が乳化し水相と油相の分離が出来なくなるため好ましくない。
【0038】
オリゴマーを得るときの反応温度は、80℃以下、好ましくは60℃以下が好ましい。また反応時間は反応温度によっても左右されるが通常0.5分〜10時間、好ましくは1分〜2時間である。反応温度が高すぎると、副反応の制御ができず、ホスゲン原単位が悪化する。一方、低すぎると、反応制御上は好ましい状況ではあるが、冷凍負荷が増大して、その分コストアップとなり好ましくない。
【0039】
有機相中のオリゴマー濃度は、得られるオリゴマーが可溶な範囲であればよく、具体的には、10重量%〜30重量%程度である。有機相の割合は芳香族ジオールのアルカリ金属水酸化物水溶液、即ち水相に対して0.2〜1.0の容積比であることが好ましい。
【0040】
このような条件下でオリゴマー化反応を行うと反応終了後のオリゴマーの溶存する有機相と水相との分離が容易となり、得られたカーボネートオリゴマーの数平均分子量は1000〜5000となり、オリゴマー末端の95%以上がクロロホーメート基に由来する基であり、且つ分子末端に結合した窒素量も5pmm以下となるため、重縮合反応によって均一な高分子量ポリカーボネートを再現よく得ることが可能となる。
【実施例】
【0041】
以下実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例によって限定されるものではない。また、実施例中の各測定値は以下の方法により求めたものである。
(1)オリゴマー末端クロロフォーメート基濃度(CF)
オリゴマー溶液を塩化メチレンで希釈した後、アニリンと純水を添加し、フェノールフタレインを指示薬として規定度のNaOHにて滴定し求めた。
(2)オリゴマー末端フェノール性OH基濃度(OH)
オリゴマー溶液を塩化メチレンで希釈した後、四塩化チタン、酢酸溶液を加え発色させ分光光度計(株式会社日立製作所製 UV−160型)を用い、546nmの波長での吸光度を測定した。別に該オリゴマー製造時に使用した芳香族ジオールの塩化メチレン溶液を用い、吸光係数を求め、オリゴマーの末端フェノール性OH基量を定量した。
【0042】
(3)オリゴマー末端停止剤基量(PTBP)
オリゴマー中の全停止剤量から遊離停止剤量を差し引いた量を停止剤末端基量とした。
(i)全停止剤量
オリゴマー溶液に1規定水酸化カリウムーメタノール溶液を加え65℃、1時間アルカリ加水分解して、下記液体クロマトグラフィー(LC)条件により測定し予め求めた面積補正係数よりサンプル中の全停止剤量を算出した。
カラム:Nucleosil ODS 5μm 4.6mmφ*150mm
溶離液:アセトニトリル/水(1/1 v/v)
検出器:UV270nm
(ii)遊離停止剤量
オリゴマー溶液を下記液体クロマトグラフィー(LC)条件により測定し予め求めた面積補正係数よりサンプル中の遊離停止剤量を算出した。
カラム:Nucleosil 100A 4.6mmφ*250mm
溶離液:A液)ノルマルヘキサン/テトラヒドロフラン(1/1v/v)B液)テトラヒドロフラン100%
A液)からB液)の30分直線グラジェント
検出器:UV270nm
【0043】
(4)オリゴマー数平均分子量(Mn)
下式によりオリゴマーの数平均分子量を算出した。
Mn=106/(総末端基量(μeq/g)×1/2)
総末端基量(μeq/g)=CF+OH+PTBP
(5)クロロホーメート基分率
下記式により、クロロホーメート基分率を算出した。
クロロホーメート基分率(%)=(末端クロロホーメート基濃度/総末端基量)×100
(6)オリゴマー末端に結合した窒素量(OG−N)
オリゴマー溶液10mlを0.05規定硝酸水溶液10mlで5分間振とう洗浄し遊離窒素を除去したのちpHが中性となるまで純水で3回洗浄したオリゴマー溶液をホットプレート上で濃縮乾固し、三菱化学(株)製、全窒素分析計(TN−10)によりオリゴマー末端に結合した窒素量を測定した。
【0044】
[実施例1]
濃度3.37重量%の水酸化ナトリウム水溶液に、前述した化合物(1)の芳香族ジオールを溶解して7.0重量%にした水溶液(Na/OHグラム当量比=1.5)を45℃に調整し119kg/時、及び5℃に冷却した塩化メチレン45.5kg/時の有機相を、各々内径6mm、外径8mmのステンレス製配管に供給し、同配管内で混合し、さらにホモミキサー(特殊機化株式会社製、製品名T.KホモミックラインフローLF−500型)を用いて、乳化し、乳濁液を調製した。
【0045】
このようにして得られた、芳香族ジオールのナトリウム塩の水溶液(水相)と塩化メチレン(有機相)の乳濁液を、ホモミキサーから分岐する内径6mm、外径8mmの配管で取出し、これに接続する内径6mm、長さ34mのテフロン(登録商標)製パイプリアクターにおいて、ここに別途導入される0℃に冷却したパイプより供給された液化ホスゲン4.4kg/時と接触させた。
【0046】
上記乳濁液は、ホスゲンとパイプリアクター内を1.7m/秒の線速にて20秒間流通する間に、ホスゲン化、オリゴマー化反応を行った。このとき、反応温度は、それぞれ55℃になるように調整しいずれも次のオリゴマー化槽に入る前に35℃まで外部冷却を行った。このようにしてパイプリアクターより得られるオリゴマー化された乳濁液及びp−t−ブチルフェノールの10重量%の塩化メチレン溶液を0.49kg/時でさらに内容積50リットルの撹拌機付き反応槽に導き、窒素ガス雰囲気下30℃で撹拌し、オリゴマー化することで、水相中に存在する未反応の芳香族ジオールのNa塩を完全に消費させたところ反応液のpHは10.9となり、オーバーフローした反応液は静置分離槽で水相と有機相に完全に分離し、オリゴマーの塩化メチレン溶液を得た。このときのオリゴマー物性値を表1に示した。
【0047】
[実施例2]
濃度5.95重量%の水酸化ナトリウム水溶液に化合物(1)の芳香族ジオールを溶解して9.5重量%にした水溶液(Na/OHグラム当量比=1.9)を48℃に調整し119kg/時、及び5℃に冷却した塩化メチレン61.5kg/時の有機相を、各々内径6mm、外径8mmのステンレス製配管に供給し、同配管内で混合し、さらにホモミキサー(特殊機化株式会社製、製品名T.KホモミックラインフローLF−500型)を用いて、乳化し、乳濁液を調製した。
【0048】
このようにして得られた、芳香族ジオールのナトリウム塩の水溶液(水相)と塩化メチレン(有機相)の乳濁液を、ホモミキサーから分岐する内径6mm、外径8mmの配管で取出し、これに接続する内径6mm、長さ34mのテフロン(登録商標)製パイプリアクターにおいて、ここに別途導入される0℃に冷却したパイプより供給された液化ホスゲン5.9kg/時と接触させた。
【0049】
上記乳濁液はホスゲンとパイプリアクター内を1.7m/秒の線速にて20秒間流通する間に、ホスゲン化、オリゴマー化反応を行った。このとき、反応温度は、それぞれ55℃になるように調整しいずれも次のオリゴマー化槽に入る前に35℃まで外部冷却を行った。このようにしてパイプリアクターより得られるオリゴマー化された乳濁液及びp−t−ブチルフェノールの10重量%の塩化メチレン溶液を2.4kg/時でさらに内容積50リットルの撹拌機付き反応槽に導き、窒素ガス雰囲気下30℃で撹拌し、オリゴマー化することで、水相中に存在する未反応の芳香族ジオールのNa塩を完全に消費させたところ反応液のpHは11.8となり、オーバーフローした反応液は静置分離槽で水相と有機相に完全に分離し、オリゴマーの塩化メチレン溶液を得た。このときのオリゴマー物性値を表1に示した。
【0050】
[実施例3]
濃度4.34重量%の水酸化ナトリウム水溶液に化合物(12)の芳香族ジオールを溶解して7.8重量%にした水溶液(Na/OHグラム当量比=1.7)を46℃に調整し、119kg/時、及び5℃に冷却した塩化メチレン50.5kg/時の有機相を、各々内径6mm、外径8mmのステンレス製配管に供給し、同配管内で混合し、さらにホモミキサー(特殊機化株式会社製、製品名T.KホモミックラインフローLF−500型)を用いて、乳化し、乳濁液を調製した。
【0051】
このようにして得られた、芳香族ジオールのナトリウム塩の水溶液(水相)と塩化メチレン(有機相)の乳濁液を、ホモミキサーから分岐する内径6mm、外径8mmの配管で取出し、これに接続する内径6mm、長さ34mのテフロン(登録商標)製パイプリアクターにおいて、ここに別途導入される0℃に冷却したパイプより供給された液化ホスゲン4.4kg/時と接触させた。
【0052】
上記乳濁液はホスゲンとパイプリアクター内を1.7m/秒の線速にて20秒間流通する間に、ホスゲン化、オリゴマー化反応を行った。このとき、反応温度は、それぞれ55℃になるように調整しいずれも次のオリゴマー化槽に入る前に35℃まで外部冷却を行った。このようにしてパイプリアクターより得られるオリゴマー化された乳濁液及びp−t−ブチルフェノールの10重量%の塩化メチレン溶液を1.6kg/時でさらに内容積50リットルの撹拌機付き反応槽に導き、窒素ガス雰囲気下30℃で撹拌し、オリゴマー化することで、水相中に存在する未反応の芳香族ジオールのNa塩を完全に消費させたところ反応液のpHは11.6となり、オーバーフローした反応液は静置分離槽で水相と有機相に完全に分離し、オリゴマーの塩化メチレン溶液を得た。このときのオリゴマー物性値を表1に示した。
【0053】
[実施例4]
濃度3.14重量%の水酸化ナトリウム水溶液に化合物(6)の芳香族ジオールを溶解して9.0重量%にした水溶液(Na/OHグラム当量比=1.5)を43℃に調整し119kg/時、及び5℃に冷却した塩化メチレン42.5kg/時の有機相を、各々内径6mm、外径8mmのステンレス製配管に供給し、同配管内で混合し、さらにホモミキサー(特殊機化株式会社製、製品名T.KホモミックラインフローLF−500型)を用いて、乳化し、乳濁液を調製した。
【0054】
このようにして得られた、芳香族ジオールのナトリウム塩の水溶液(水相)と塩化メチレン(有機相)の乳濁液を、ホモミキサーから分岐する内径6mm、外径8mmの配管で取出し、これに接続する内径6mm、長さ34mのテフロン(登録商標)製パイプリアクターにおいて、ここに別途導入される0℃に冷却したパイプより供給された液化ホスゲン3.9kg/時と接触させた。
【0055】
上記乳濁液はホスゲンとパイプリアクター内を1.7m/秒の線速にて20秒間流通する間に、ホスゲン化、オリゴマー化反応を行った。このとき、反応温度は、それぞれ55℃になるように調整しいずれも次のオリゴマー化槽に入る前に35℃まで外部冷却を行った。このようにしてパイプリアクターより得られるオリゴマー化された乳濁液及びp−t−ブチルフェノールの10重量%の塩化メチレン溶液を0.45kg/時でさらに内容積50リットルの撹拌機付き反応槽に導き、窒素ガス雰囲気下30℃で撹拌し、オリゴマー化することで、水相中に存在する未反応の芳香族ジオールのNa塩を完全に消費させたところ反応液のpHは10.5となり、オーバーフローした反応液は静置分離槽で水相と有機相に完全に分離し、オリゴマーの塩化メチレン溶液を得た。このときのオリゴマー物性値を表1に示した。
【0056】
[比較例1]
濃度2.7重量%の水酸化ナトリウム水溶液に化合物(1)の芳香族ジオールを溶解し6.5重量%にした水溶液(Na/OHグラム当量比=1.3)は53℃以上でないと析出した為55℃に調整し119kg/時、及び5℃に冷却した塩化メチレン45.5kg/時の有機相を、各々内径6mm、外径8mmのステンレス製配管に供給し、同配管内で混合し、さらにホモミキサー(特殊機化株式会社製、製品名T.KホモミックラインフローLF−500型)を用いて、乳化し、乳濁液を調製した。
【0057】
このようにして得られた、芳香族ジオールのナトリウム塩の水溶液(水相)と塩化メチレン(有機相)の乳濁液を、ホモミキサーから分岐する内径6mm、外径8mmの配管で取出し、これに接続する内径6mm、長さ34mのテフロン(登録商標)製パイプリアクターにおいて、ここに別途導入される0℃に冷却したパイプより供給された液化ホスゲン4.0kg/時と接触させた。
【0058】
上記乳濁液はホスゲンとパイプリアクター内を1.7m/秒の線速にて20秒間流通する間に、ホスゲン化、オリゴマー化反応を行った。このとき、反応温度は、それぞれ55℃になるように調整しいずれも次のオリゴマー化槽に入る前に35℃まで外部冷却を行った。このようにしてパイプリアクターより得られるオリゴマー化された乳濁液及びp−t−ブチルフェノールの10重量%の塩化メチレン溶液を0.56kg/時でさらに内容積50リットルの撹拌機付き反応槽に導き、窒素ガス雰囲気下30℃で撹拌し、オリゴマー化することで、水相中に存在する未反応の芳香族ジオールのNa塩を完全に消費させたところ反応液のpHは9.2となり、オーバーフローした反応液は静置分離槽で水相と有機相に完全に分離したが界面に中間相が認められた。このときのオリゴマー物性値を表1に示した。
【0059】
[比較例2]
濃度7.0重量%の水酸化ナトリウム水溶液に化合物(1)の芳香族ジオールを溶解し13.5重量%にした水溶液(Na/OHグラム当量比=1.5)を45℃に調整し119kg/時、及び5℃に冷却した塩化メチレン59.5kg/時の有機相を、各々内径6mm、外径8mmのステンレス製配管に供給し、同配管内で混合し、さらにホモミキサー(特殊機化株式会社製、製品名T.KホモミックラインフローLF−500型)を用いて、乳化し、乳濁液を調製した。
【0060】
このようにして得られた、芳香族ジオールのナトリウム塩の水溶液(水相)と塩化メチレン(有機相)の乳濁液を、ホモミキサーから分岐する内径6mm、外径8mmの配管で取出し、これに接続する内径6mm、長さ34mのテフロン(登録商標)製パイプリアクターにおいて、ここに別途導入される0℃に冷却したパイプより供給された液化ホスゲン8.5kg/時と接触させた。
【0061】
上記乳濁液はホスゲンとパイプリアクター内を1.7m/秒の線速にて20秒間流通する間に、ホスゲン化、オリゴマー化反応を行った。このとき、反応温度は、それぞれ55℃になるように調整し、いずれも次のオリゴマー化槽に入る前に35℃まで外部冷却を行った。このようにしてパイプリアクターより得られるオリゴマー化された乳濁液及びp−t−ブチルフェノールの10重量%の塩化メチレン溶液を0.94kg/時でさらに内容積50リットルの撹拌機付き反応槽に導き、窒素ガス雰囲気下30℃で撹拌し、オリゴマー化することで、水相中に存在する未反応の芳香族ジオールのNa塩を完全に消費させたところ反応液のpHは12.2となり、オーバーフローした反応液は乳化しており静置分離槽で水相と有機相の分離が出来なかった。
【0062】
[比較例3]
比較例2のオリゴマー化において、触媒としてトリエチルアミンの2重量%の水溶液0.27kg/時を添加した以外は比較例2と同様の操作を行った。オーバーフローした反応液は静置分離槽で水相と有機相に完全に分離したがオリゴマー末端窒素が24.8ppmと高かった。このときのオリゴマー物性値を表1に示した。
【0063】
[比較例4]
実施例4のオリゴマー化において、触媒としてトリエチルアミンの2重量%の水溶液0.13kg/時を添加した以外は比較例2と同様の操作を行った。オーバーフローした反応液は静置分離槽で水相と有機相に完全に分離したがオリゴマー末端窒素が16.2ppmと高かった。このときのオリゴマー物性値を表1に示した。
【0064】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造単位を含む数平均分子量が1000〜5000のポリカーボネートオリゴマーであって、該オリゴマー末端の95%以上がクロロホーメート基に由来する基であり、且つ分子末端に結合した窒素量が5ppm以下であることを特徴とするポリカーボネートオリゴマー。
【化1】

(一般式(1)中、X、X’は水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を示し、Rは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボニル基、アセチル基又は炭素数1〜炭素数20のアルキル基を示す。)
【請求項2】
下記一般式(2)で表される芳香族ジオールのアルカリ水溶液を不活性有機溶媒の存在下、ホスゲンと反応させ、得られる反応混合物から水相を分離除去してポリカーボネートオリゴマーを製造する方法において、
(イ)アルカリ金属水酸化物濃度が3.0重量%〜6.0重量%のアルカリ水溶液中に前記芳香族ジオールの水酸化物に対するアルカリ金属原子のグラム当量比が1.5〜2.0となるように調整した芳香族ジオールのアルカリ水溶液を40℃〜50℃の温度範囲に維持した状態でホスゲンと接触反応させ、
(ロ)無触媒下で反応終了後のpHが10〜12となるまでオリゴマー化反応を行う
ことを特徴とする請求項1記載のポリカーボネートオリゴマーの製造方法。
【化2】

(一般式(2)中、X、X’は水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を示し、Rは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボニル基、アセチル基又は炭素数1〜炭素数20のアルキル基を示す。)

【公開番号】特開2007−119691(P2007−119691A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316854(P2005−316854)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】