説明

ポリカーボネートジオール

【課題】ポリウレタン、熱可塑性エラストマーなどの原料として、または、塗料、接着剤などの構成材料として適したポリカーボネートジオールを提供する。さらに詳しくは、高い柔軟性を有するポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることが出来るポリカーボネートジオールを提供する。
【解決手段】−O−R−O−CO−なる繰り返し単位と末端ヒドロキシル基からなる脂肪族又は脂環族ポリカーボネートジオールであって、その70〜100モル%は、(B)−O−CHC(R)(R)CH−O−CO−及び(C)−O−(CH−O−CO−であり、(B)と(C)の割合が、モル比率で1:99〜40:60であり、数平均分子量が300〜10000であることを特徴とするポリカーボネートジオール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン、熱可塑性エラストマーなどの原料として、または、塗料、接着剤などの構成材料として適したポリカーボネートジオールに関する。さらに詳しくは、高い柔軟性を有するポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることが出来るポリカーボネートジオールに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートジオールは、例えば、ポリウレタンや熱可塑性エラストマーなどのソフトセグメントとして、耐加水分解性、耐候性、耐酸化劣化性、耐熱性などに優れた素材として知られている。しかしながら、1,6−ヘキサンジオールを原料としたポリカーボネートジオールは、結晶性のため、これを用いたポリウレタンは、柔軟性、弾性回復率が低いという欠点を有していた。これらの問題を解決するため、側鎖を有する多価アルコールを用いることにより、ポリカーボネートジオール分子の規則性を乱し、結晶性を低下させた脂肪族コポリカーボネートジオールが開示されている。
【0003】
例えば、脂肪族ジオールとして炭素数が3〜20の側鎖を有す多価アルコールと1,6−ヘキサンジオールを用いることを特徴とするポリカーボネートジオールが開示されている(特許文献1参照)。その実施例では、側鎖を有す多価アルコールとして、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、トリメチル−1,6−ヘキサンジオールが用いられている。
さらに、1つの側鎖を持つ多価アルコールを用いたポリカーボネートジオールとしては、主成分として2−メチル−1,3−プロパンジオールを用いるもの(特許文献2参照)、3−メチル−1,5−ペンタンジオールと1,9−ノナンジオールを用いるもの(特許文献3参照)、2−メチル1,8−オクタンジオールと1,9−ノナンジオールを用いるもの(特許文献4参照)が開示されている。また、2つの低級アルキル基で置換された多価アルコールを用いたポリカーボネートジオールとしては、2,4−ジアルキル−1,5−ペンタンジオールを用いるもの(特許文献5参照)、2,2−ジアルキル−1,3−プロパンジオールを用いるもの(特許文献6、7参照)が開示されている。
【0004】
上記に示す技術で得られたポリカーボネートジオールを用いた場合、ポリウレタンや熱可塑性エラストマーの柔軟性を目標の値まで改善することは困難であった。また、柔軟性が改良された場合も、強度が低下するなどの新たな問題も発生した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−49025号公報
【特許文献2】国際公開番号WO2006/088152号公報
【特許文献3】特許第1719721号明細書
【特許文献4】特許第2506713号明細書
【特許文献5】国際公開番号WO98/27133号公報
【特許文献6】特開2008−533273号公報
【特許文献7】特開2000−336140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ポリウレタン、熱可塑性エラストマーなどの原料として、または、塗料、接着剤などの構成材料として適したポリカーボネートジオールを提供することを目的とする。さらに詳しくは、高い柔軟性を有するポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることが出来るポリカーボネートジオールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有するジオールを原料として用いることにより、ポリカーボネートジオール分子の規則性を効率的に低下させるとともに、カーボネート結合間の相互作用を抑制して、強度低下などの問題を起こすことなく、柔軟性を有するポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることが出来ることを見いだし、本発明をなすに至った。
すなわち本発明は、下記(1)〜(4)の発明に関するものである。
(1) 下記式(A)で表される繰り返し単位と末端ヒドロキシル基からなるポリカーボネートジオールであって、式(A)で表される繰り返し単位の70〜100モル%は下記式(B)または(C)で表される繰り返し単位であり、そして
【0008】
【化1】

【0009】
【化2】

【0010】
【化3】

【0011】
上記式(B)と(C)の割合が、モル比率で1:99〜40:60であり、数平均分子量が300〜10000であることを特徴とするポリカーボネートジオール。
(2)上記式(C)の繰り返し単位が、下記式(D)で表される繰り返し単位であることを特徴とする、上記(1)に記載のポリカーボネートジオール。
(3) 初期柔軟度指数が、0.10以上0.85以下であることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載のポリカーボネートジオール。
(4) 強度指数が、1.01以上であることを特徴とする、上記(3)に記載のポリカーボネートジオール。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ポリウレタン、熱可塑性エラストマーなどの原料として、または、塗料、接着剤などの構成材料として最適であるポリカーボネートジオールを提供する。さらに詳しくは、高い柔軟性と強度を有するポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることが出来るポリカーボネートジオールを提供することができる効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明のポリカーボネートジオールは、2,2−ジアルキル置換−1,3−プロパンジオール(以降、2,2置換PDLと称す。)と側鎖を持たない脂肪族ジオールを原料にして得られる。
本発明において、2,2置換PDLとは、下記式(E)で表され、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−ペンチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオールなどが挙げられる。
【0014】
【化4】

【0015】
側鎖を持たない脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ナノジオール、1,10−ドデカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオールなどが挙げられる。2,2置換PDLおよび側鎖を持たない脂肪族ジオールから、1種または複数のジオールを選択して用いることが出来る。
【0016】
2,2置換PDLは、1つの炭素に2つのアルキル基が結合した嵩高い構造を有するため、その構造をポリカーボネートジオールに導入することで、分子の規則性が大きく低下する。さらに、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−ペンチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオールなどは、主鎖よりも多い炭素数の側鎖を有するため、分子間または分子内におけるカーボネート結合間の相互作用が阻害されやすい。上記の効果により、2,2置換PDLを原料に用いたポリカーボネートジオールは、高い柔軟性を有することとなる。さらに、嵩高い構造を有する2,2置換PDLと、側鎖を持たない脂肪族ジオールを組み合わせることで、得られるポリウレタンや熱可塑性エラストマーの柔軟性と強度を制御することが出来る。側鎖を持たないジオールとして、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールを用いた場合、柔軟性と強度のバランスが良くなるので好ましい。さらに、1,6−ヘキサンジオールを用いた場合、柔軟で高い破断強度を有するポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることが出来るので最も好ましい。
【0017】
ポリカーボネートジオール中の2,2置換PDLに由来する繰り返し単位(上記式(B))と側鎖を持たないジオールに由来する繰り返し単位(上記式(C))の割合(以降、共重合比率と称し、上記式(B):上記式(C)で表す。)は、モル比で1:99〜40:60である。2,2置換PDLに由来する繰り返し単位のモル比が40以下だと、ポリカーボネートジオールを用いて得られる、ポリウレタンや熱可塑性エラストマーの強度が不足する場合がなく好ましい。一方、2,2置換PDLに由来する繰り返し単位のモル比が1以上では、柔軟性が向上し、好ましい。共重合比率が3:97〜25:75である場合、柔軟で高い強度を有するポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることが出来るので好ましく、5:95〜15:85である場合、高い柔軟性と高い強度を併せ持つポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることが出来るため最も好ましい。
【0018】
さらに、2−メチル−1、8−オクタンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチルー1、5−ペンタンジオール、2,2−ジメチルー1,3−プロパンジオールなどの側鎖を持ったジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)−プロパンなどの環状ジオールから、1種類または2種類以上のジオールを原料として選択して用いることもできる。その量は、2,2置換PDLと側鎖を持たない脂肪族ジオールの合計量に対して、30モル%以下である。30%を超えると、得られるポリウレタンや熱可塑性エラストマーの強度が低下したり、柔軟性が低下するので好ましくない。
【0019】
また、1分子に3以上のヒドロキシル基を持つ化合物、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトールなどを少量用いることにも出来る。この1分子中に3以上のヒドロキシル基を持つ化合物を余り多く用いると、ポリカーボネートの重合反応中に架橋してゲル化が起きてしまう。したがって1分子中に3以上のヒドロキシル基を持つ化合物は、2,2置換PDLと側鎖を持たない脂肪族ジオールの合計量に対し、0.1〜5モル%にするのが好ましい。より好ましくは0.1〜2モル%、さらに好ましくは0.1〜0.5ル%である。
【0020】
本発明のポリカーボネートジオールを用いることで、柔軟性を有するポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることが出来る。本発明では、初期柔軟度指数を用いて柔軟性を表す。初期柔軟度指数は、下記の方法で求めた。ポリカーボネートジオールを100℃で1時間、50kPa以下で減圧乾燥した。ポリカーボネートジオールを0.1モルと1,4−ブタンジオール0.15モルをジメチルホルムアミド(DMF)600kgに溶解し、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を0.2モル加えて、80℃で6時間反応をさせ、ポリウレタンのDMF溶液を得た。得られたポリウレタンのDMF溶液を、ガラス板上に流延し、乾燥して厚さが0.07〜0.10mmのフィルムを得た。このフィルムを、10mm×80mmの短冊状に切り取り、23℃、50%RHの恒温室に5日養生したものを試験体として用いた。23℃、50%RHの恒温室において、テンシロン引張試験機(ORIENTEC製、RTC−1250A)を用いて、チャック間50mm、引張速度100mm/minで、試験体の引張試験を行い、得られた歪み量−引張応力曲線における初期の傾きよりヤング率を求めた。
【0021】
1,6−ヘキサンジオールのみをジオール原料として重合したポリカーボネートジオール(以降、C6ホモPCDと称す。)を用い、上記の方法で得られたヤング率に対する比として初期柔軟度指数と定義した(下記数式1を参照。)。なお、各試料につき5回の測定を行い、その平均値を用いて初期柔軟度指数を計算した。また、用いるC6ホモPCDの分子量は、評価を行うポリカーボネートジオールの分子量がC6ホモPCDの分子量の±2%以内とに入るように選定した。
初期柔軟度指数=B/A (1)
A:C6ホモPCDを用いて得られたヤング率
B:C6ホモPCD以外のポリカーボネートジオールを用いて得られたヤング率
【0022】
柔らかいという触感は、ポリウレタンの初期応力に相関する。初期応力が小さい方がより柔軟という感触を得ることができる。一般に、柔軟性が不足していると言われるC6ホモPCDを用いたポリウレタンに対し、ヤング率が低くなるほど、つまり初期柔軟度指数が小さくなるほど柔軟性が高いこととなる。通常は、初期柔軟度指数が0.10以上0.85以下であれば、柔軟なポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることが出来る。初期柔軟度指数が0.85以下であれば柔軟性が十分となり、0.10以上では初期応力が小さすぎることなく、用途によっては実用に耐えない場合があるということがなく、好ましい。初期柔軟度指数が0.20以上0.80以下であれば、さらに好ましく、0.30以上0.60以下であれば、高い柔軟性を有するポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることができるので最も好ましい。
【0023】
一方、強靱なポリウレタンや熱可塑性エラストマーも求められている。本発明では、得られるポリウレタンや熱可塑性エラストマーの強靱さを強度指数で表す。本発明の強度指数は、初期柔軟指数を求めるため行った引張試験における破断強度を用い、下記数式(2)を用いて表した。なお、破断強度は5回測定した平均値を用いた。
強度指数=D/C (2)
C:C6ホモPCDを用いて得られた破断強度
D:C6ホモPCD以外のポリカーボネートジオールを用いて得られた破断強度
強度指数が0.75以上である場合、ポリウレタンや熱可塑性エラストマーとして使用する場合、充分な強度が得られる。強度指数が1.01以上の場合、強靱なポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることができるので好ましく、1.10以上であればさらに好ましい。
本発明の初期柔軟度指数と強度指数を併せ持つ場合、柔軟性に加えて強靱さを併せ持つポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることが出来る。
【0024】
本発明のポリカーボネートジオールの製造方法は、特に限定されない。例えば、Schnell著、ポリマー・レビューズ第9巻、p9〜20(1994年)に記載される種々の方法で製造することが出来る。
本発明のポリカーボネートジオールは、カーボネートとして、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネートなどのジアルキルカーボネート、ジフェニルカーボネートなどのジアリールカーボネート、エチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、1,2−プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、1,3−ブチレンカーボネート、1,2−ペンチレンカーボネートなどのアルキレンカーボネートが挙げられる。これらの内から1種または2種以上のカーボネートを原料として用いることが出来る。入手のしやすさや重合反応の条件設定のしやすさの観点より、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジブチルカーボネートを用いることが好ましい。
【0025】
本発明のポリカーボネートジオールの製造は、触媒を添加しても良いし、添加しなくてもよい。触媒を添加する場合は、通常のエステル交換反応触媒から自由に選択することが出来る。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、チタン、コバルト、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ヒ素、セリウムなどの金属、塩、アルコキシド、有機化合物が用いられる。特に好ましいのは、チタン、スズ、鉛の化合物である。また、触媒の使用量は、通常はポリカーボネートジオール重量の0.00001〜0.1%である。
【0026】
本発明のポリカーボネートジオールにおいて、分子量は、数平均分子量で300〜10000である。数平均分子量が300以上では得られる熱可塑性ポリウレタンの柔軟性や低温特性が良好であり、10000以下であると得られる熱可塑性ポリウレタンの成型加工性が低下することがなく好ましい。好ましくは、数平均分子量で450〜5000の範囲である。より好ましくは、500〜3000である。
塗料や熱可塑性ポリウレタンは、本発明のポリカーボネートジオールとポリイソシアネートを用いて得ることができる。
【0027】
使用されるポリイソシアネートとしては、例えば2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、およびその混合物(TDI)、粗製TDI、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、粗製MDI、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート(NDI)、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、フェニレンジイソシアネート等の公知の芳香族ジイソシアネート、4,4’−メチレンビスシクロヘキシルジイソシアネート(水添MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキサンジイソシアネート(水添XDI)等の公知の脂肪族ジイソシアネート、およびこれらのイソシアネート類のイソシアヌレート化変性品、カルボジイミド化変性品、ビウレット化変性品等である。これらの有機ポリイソシアネートは、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いても構わない。またこれらの有機ポリイソシアネートは、ブロック剤でイソシアネート基をマスクして用いてもよい。
【0028】
また、所望により共重合成分として鎖伸長剤を用いることができる。鎖伸長剤としてはポリウレタン業界における常用の鎖伸長剤、すなわち水、低分子ポリオール、ポリアミン等が使用できる。例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,10−デカンジオール、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパン等の低分子ポリオール、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルジアミン、ジアミノジフェニルメタン等のポリアミンである。これらの鎖伸長剤は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いても構わない。
【0029】
塗料を製造する方法としては、業界で公知の製造方法が用いられる。例えば、ポリカーボネートジオールからなる主剤と有機ポリイソシアネートからなる硬化剤を塗工直前に混合する2液型溶剤系コーティング組成物、ポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート末端基を持つウレタンプレポリマーからなる1液型溶剤系コーティング組成物、ポリカーボネートジオール、有機ポリイソシアネートおよび鎖伸長剤とを反応させて得られるポリウレタン樹脂からなる1液型溶剤系コーティング組成物あるいは1液型水系コーティング組成物を製造することができる。
各種用途に応じて硬化促進剤(触媒)、充填剤、分散剤、難燃剤、染料、有機または無機顔料、離型剤、流動性調整剤、可塑剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、レベリング剤、着色剤、溶剤等を添加することができる。
【0030】
溶剤としては、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジオキサン、シクロヘキサノン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルセロソルブ、酢酸エチル、酢酸ブチル、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、水などから1種類選んでまたは複数の溶剤を混合して使用される。
【0031】
熱可塑性ポリウレタンを製造する方法としては、ポリウレタン業界で公知のポリウレタン化反応の技術が用いられる。例えば、本発明のポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートを大気圧下に常温から200℃で反応させることにより熱可塑性ポリウレタンを製造することができる。鎖延長剤を用いる場合は、反応の最初から加えておいてもよいし、反応の途中から加えてもよい。熱可塑性ポリウレタンの製造方法については、例えば、米国特許第5,070,173号を参照できる。
ポリウレタン化反応においては、公知の重合触媒や溶媒を用いてもよい。
熱可塑性ポリウレタンには、熱安定剤(例えば酸化防止剤)や光安定剤などの安定剤を添加することが望ましい。また、可塑剤、無機充填剤、滑剤、着色剤、シリコンオイル、発泡剤、難燃剤等を添加しても良い。
【実施例】
【0032】
本発明の数平均分子量は、無水酢酸とピリジンを用い、水酸化カリウムのエタノール溶液で滴定する「中和滴定法(JIS K 0070−1992)」によって水酸基価を決定し、下記数式(3)を用いて計算した。
数平均分子量=2/(OH価×10―3/56.1) (3)
【0033】
本発明における共重合比率は、以下の方法で決定した。100mlのナスフラスコにサンプルを1g取り、エタノール30g、水酸化カリウム4gを入れて、100℃で1時間反応する。室温まで冷却後、指示薬にフェノールフタレインを2〜3滴添加し、塩酸で中和する。冷蔵庫で1時間冷却後、沈殿した塩を濾過で除去し、GCを用いて、下記(B)の繰り返し単位に由来する2,2置換PDLと下記式(C)に由来するジオールを定量した。GC分析は、カラムとしてDB−WAX(米国、J&W製)をつけたガスクロマトグラフィーGC−14B(日本、島津製作所製)を用い、ジエチレングリコールジエチルエステルを内標として、検出器をFIDとして行った。なお、カラムの昇温プロファイルは、60℃で5分保持した後、10℃/minで250℃まで昇温した。なお、共重合比率は、上記の方法で得られた結果を用い、2,2置換PDLと側鎖を持たない脂肪族ジオールとのモル比(2,2置換PDLのモル数:側鎖を持たない脂肪族ジオールの全モル数)で表す。
【0034】
【化5】

【0035】
【化6】

【0036】
【化7】

【0037】
また、上記式(A)で表される繰り返し単位における、上記式(B)または(C)で表される繰り返し単位の割合(以降、主成分割合と称す。)は、共重合比率を求める方法で分析を行い、得られたGC分析結果を元に下記数式(4)により求めた。
主成分割合(モル%)=(E+F)/G×100 (4)
E:上記式(B)の繰り返し単位に由来する2,2置換PDLのモル数
F:上記式(C)の繰り返し単位に由来するジオールの全モル数
G:ジオールの全モル数
次に、実施例および比較例によって、本発明を説明する。
【0038】
[実施例1]
規則充填物を充填した精留塔と攪拌装置を備えた2Lのガラス製フラスコにエチレンカーボネートを660g(7.5mol)、2−ブチル−2−エチル−1、3−プロパンジオールを65g(0.4mol)、1,6−ヘキサンジオールを850g(7.2mol)仕込んだ。触媒としてチタンテトラブトキシド0.10gを加え、常圧で攪拌・加熱した。反応温度を140℃〜150℃、圧力3.0〜5.0kPaで、生成するエチレングリコールとエチレンカーボネートの混合物を留去しながら20時間反応を行った。その後、0.5kPaまで減圧し、エチレンカーボネートとジオールを留去しながら、150〜160℃でさらに10時間反応した。得られた共重合ポリカーボネートジオールを分析したところ、数平均分子量は1987であり、共重合比率は4:96であった。
【0039】
[実施例2]
実施例1において、2−ブチル−2−エチル−1、3−プロパンジオールの量を175g(1.1mol)、1,6−ヘキサンジオールを790g(6.8mol)とした以外は、同じ装置を用いて同条件で反応を行った。得られた共重合ポリカーボネートジオールを分析したところ、数平均分子量は2016であり、共重合比率は11:89であった。
【0040】
[実施例3]
実施例1において、2−ブチル−2−エチル−1、3−プロパンジオールの量を330g(2.1mol)、1,6−ヘキサンジオールを700g(5.9mol)とした以外は、同じ装置をもちいて同条件で反応を行った。得られた共重合ポリカーボネートジオールを分析したところ、数平均分子量は1978であり、共重合比率は21:79であった。
【0041】
[実施例4]
実施例1において、2−ブチル−2−エチル−1、3−プロパンジオールの量を445g(2.8mol)、1,6−ヘキサンジオールを650g(5.5mol)とした以外は、同じ装置を用いて同条件で反応を行った。得られた共重合ポリカーボネートジオールを分析したところ、数平均分子量は1992であり、共重合比率は27:73であった。
【0042】
[比較例1]
規則充填物を充填した精留塔と攪拌装置を備えた2Lのガラス製フラスコにエチレンカーボネートを660g(7.5mol)、1,4−ブタンジオールを660g(7.3mol)、1,6−ヘキサンジオールを130g(1.1mol)仕込んだ。触媒としてチタンテトラブトキシド0.120gを加え、常圧で攪拌・加熱した。反応温度を150℃から160℃へ徐々に上げながら、生成するエチレングリコールとエチレンカーボネートの混合物を留去しながら17時間反応を行った。その後、0.5kPaまで減圧し、ジオールとエチレンカーボネートを留去しながら、170℃でさらに10時間反応した。得られたポリカーボネートジオールを分析したところ、数平均分子量は2005であった。
【0043】
[比較例2]
比較例1において、エチレンカーボネートを660g(7.5mol)、1,5−ペンタンジオールを350g(3.4mol)、1,6−ヘキサンジオールを490g(4.2mol)を原料として用いた以外は、同じ装置を用いて同条件で反応を行った。得られたポリカーボネートジオールを分析したところ、数平均分子量は1971であった。
【0044】
[比較例3]
比較例1において、エチレンカーボネートを660g(7.5mol)、1,4−ブタンジオールを775g(8.6mol)を原料として用いた以外は、同じ装置を用いて同条件で反応を行った。得られたポリカーボネートジオールを分析したところ、数平均分子量は1982であった。
上記の実施例および比較例のポリカーボネートジオールにおいて、初期柔軟度指数と強度指数を求めた結果を下記表1に示す。なお、評価に用いたC6ホモPCDの分子量は1983であった。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
高い柔軟性を有する、ポリウレタン、熱可塑性エラストマーなどの原料に、または、塗料、接着剤などの構成材料として利用することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A)で表される繰り返し単位と末端ヒドロキシル基からなるポリカーボネートジオールであって、式(A)で表される繰り返し単位の70〜100モル%は下記式(B)または(C)で表される繰り返し単位であり、そして
【化1】

【化2】

【化3】

上記式(B)と(C)の割合が、モル比率で1:99〜40:60であり、数平均分子量が300〜10000であることを特徴とするポリカーボネートジオール。
【請求項2】
上記式(C)の繰り返し単位が、下記式(D)で表される繰り返し単位であることを特徴とする、請求項1に記載のポリカーボネートジオール。
【化4】

【請求項3】
初期柔軟度指数が、0.10以上0.85以下であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のポリカーボネートジオール。
【請求項4】
強度指数が、1.01以上であることを特徴とする、請求項3に記載のポリカーボネートジオール。

【公開番号】特開2010−241990(P2010−241990A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93726(P2009−93726)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】