説明

ポリカーボネート樹脂の製造方法

【課題】二酸化炭素を炭素源として利用するという、資源活用および環境保護を配慮した、ポリカーボネート樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】光学活性コバルト錯体触媒の存在下、場合により求核剤を用いて、二酸化炭素とエポキシドを交互共重合させることを特徴とする、ポリカーボネート樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂の製造方法に関し、より詳しくは、光学活性コバルト錯体触媒の存在下、場合により求核剤を用いて、二酸化炭素とエポキシドを交互共重合させるポリカーボネート樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂を含む合成樹脂の製造分野において、二酸化炭素を炭素源として利用することは、資源活用および環境保護の観点から重要な課題である。また、ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、軽量性、透明性、耐熱性等の優れた特性を有し、なかでも、脂肪族ポリカーボネート樹脂は生分解性であることから、環境負荷が低く、またその特性から医療用材料としても重要な樹脂といえる。
【0003】
従来より、二酸化炭素とエポキシドの共重合反応によりポリカーボネート樹脂を製造する方法は知られている。そして、この二酸化炭素とエポキシドの共重合反応に用いられる触媒としては、主に、亜鉛錯体(非特許文献1)、アルミニウム錯体(非特許文献2)、ポルフィリン錯体(特許文献1)、サレン錯体(非特許文献3)がある。
【0004】
亜鉛錯体には、その原料であるジエチル亜鉛が自然発火しやすいため取り扱いが難しく、さらに高価であるという問題があり、また、アルミニウム錯体には、反応条件として高温高圧を必要とすることから、製造コストがかかるという問題がある。そして、ポルフィリン錯体には、合成が比較的困難であること、および、触媒として用いた場合、錯体が着色していることから、その色が生成物にも残ってしまうという問題がある。
【0005】
資源活用および環境保護の観点から、二酸化炭素とエポキシドの共重合反応によるポリカーボネート樹脂の工業化の実現は急務である。そのため、上記問題点を解決する優れた触媒を用いたポリカーボネート樹脂の製造方法の確立が強く望まれている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−241247号公報
【非特許文献1】G.-W. Coates他、J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 14284-14285
【非特許文献2】W.Kuran, T.Listos, M.Abramczyk, and A.Dawidek, J.Macromol.Sci., Pure Appl.Chem., A35, 427-437 (1998)
【非特許文献3】G.-W. Coates他、Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 5484-5487
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来のポリカーボネート樹脂の製造方法における上記課題を解決したポリカーボネート樹脂の製造方法を提供することである。本発明の別の目的は、従来にない高い諸物性を発揮し、新規用途の開発に寄与する完全交互共重合体としてのポリカーボネートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成するため鋭意検討した結果、一般式(1)で表されるエポキシドを、二酸化炭素と、一般式(2)または一般式(3)で表される光学活性コバルト錯体との存在下で反応させることにより、穏やかな条件下、高収率でポリカーボネート樹脂が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、
1.一般式(1):
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R1およびR2は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、または置換もしくは非置換の芳香族基であるか、またはR1とR2が互いに結合して置換もしくは非置換の環を形成してもよい)
で表されるエポキシドを、二酸化炭素と、一般式(2)または一般式(3):
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R3およびR4は、同一でも異なっていてもよく、互いに独立して、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換の芳香族基、または置換もしくは非置換の芳香族複素環基であるか、または2個のR3同士もしくは2個のR4同士が、互いに結合して置換もしくは非置換の環を形成してもよく、そしてR5、R6およびR7は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルケニル基、置換もしくは非置換の芳香族基、置換もしくは非置換の芳香族複素環基、アシル基、置換もしくは非置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは非置換の芳香族オキシカルボニル基、または置換もしくは非置換のアラルキルオキシカルボニル基であり、R6およびR7は、互いに結合して置換または非置換の脂肪族環を形成してもよく、そして、一般式(3)中のX-は、塩を形成し得る陰イオン対を表す)
で表される光学活性コバルト錯体との存在下で反応させることを含む、一般式(4):
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、R1およびR2は上記のとおりである)
で表されるポリカーボネート樹脂の製造方法、
【0016】
2.一般式(1)において、R1およびR2のうちの一方が水素原子で、もう一方が置換または非置換のアルキル基である、上記1.に記載の製造方法、
【0017】
3.一般式(1)で表されるエポキシドが、以下:
【0018】
【化4】

【0019】
からなる群より選択される、上記1.に記載の製造方法、
【0020】
4.一般式(2)および一般式(3)において、R3とR4が水素原子または置換もしくは非置換の芳香族基であるか、または2個のR3同士もしくは2個のR4同士が互いに結合して置換もしくは非置換の環を形成してもよく、そしてR5、R6およびR7が水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシカルボニル基、または置換もしくは非置換のアラルキルオキシカルボニル基である、上記1.〜3.のいずれかに記載の製造方法、
【0021】
5.一般式(3)において、X-がOBzF5-、OBz-、NO3-、OCOCF3-、F-またはI-である、上記1.〜4.のいずれかに記載の製造方法、
【0022】
6.一般式(2)および一般式(3)で表される光学活性コバルト錯体が以下:
【0023】
【化5】

【化6】

【0024】
からなる群より選択される、上記1.〜5.のいずれかに記載の製造方法、
【0025】
7.求核剤を使用する、上記1.〜6.のいずれかに記載の製造方法、
8.一般式(1):
【0026】
【化7】

【0027】
(式中、R1およびR2は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、または置換もしくは非置換の芳香族基であるか、またはR1とR2が互いに結合して置換もしくは非置換の環を形成してもよい)
で表されるエポキシドと二酸化炭素とが交互に結合して得られたポリカーボネートであって、H−NMR分析により検出可能なエーテル結合成分を含まないポリカーボネート、ならびに
9.エチレンオキシドと二酸化炭素とが交互に結合して得られたポリエチレンカーボネートであって、H−NMR分析により検出可能なエーテル結合成分を含まないポリエチレンカーボネート
に関する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の方法によれば、二酸化炭素を炭素源として利用し、安価かつ合成が容易なコバルト触媒を使用して、ポリカーボネート樹脂を高収率で製造することができる。また、触媒の活性および選択性が高く、反応条件として高温高圧を必要としないことから、製造コストを抑えることかできる。さらに、本発明によるポリカーボネートは、完全交互共重合体であることにより従来にない高い諸物性を発揮し、新規用途の開発に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明について詳細に説明する。
原料として用いられる一般式(1):
【0030】
【化8】

【0031】
で表されるエポキシドにおいて、R1およびR2は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、または置換もしくは非置換の芳香族基であるか、またはR1とR2が互いに結合して置換もしくは非置換の環を形成してもよい。
【0032】
1およびR2のアルキル基としては、炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状の置換または非置換のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、iso−ペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、1−メチル−1−エチル−n−ペンチル基、1,1,2−トリメチル−n−プロピル基、1,2,2−トリメチル−n−プロピル基、3,3−ジメチル−n−ブチル基、n−ヘプチル基、2−ヘプチル基、1−エチル−1,2−ジメチル−n−プロピル基、1−エチル−2,2−ジメチル−n−プロピル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられ、より好ましくはメチル基である。該アルキル基は、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルファニル基、シアノ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン原子、芳香族基等から選択される1または2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0033】
1およびR2の置換または非置換の芳香族基としては、炭素数6〜10の置換または非置換の芳香族基が好ましく、例えば、フェニル基、インデニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基等の置換または非置換の芳香族炭化水素基が挙げられ、より好ましくはフェニル基である。該芳香族基は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基等から選択される1または2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0034】
1とR2は、互いに結合して置換または非置換の環を形成してもよく、好ましくは炭素数4〜10の置換または非置換の脂肪族環を形成してもよい。例えば、R1とR2が−(CH24−を介して互いに結合した場合、シクロヘキサン環を形成する。このように形成された環は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基等から選択される1または2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0035】
上記一般式(1)で表されるエポキシドの中で特に好ましいものの具体例としては、下記式(1−1)〜(1−4)のものが挙げられる。
【0036】
【化9】

【0037】
触媒として用いられる光学活性コバルト錯体は、一般式(2):
【0038】
【化10】

【0039】
で表される。ここで、R3およびR4は、同一でも異なっていてもよく、互いに独立して、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換の芳香族基、または置換もしくは非置換の芳香族複素環基であってよい。
【0040】
3およびR4の置換または非置換のアルキル基としては、炭素数1〜10の直鎖または分岐鎖状の置換または非置換のアルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。該アルキル基は、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルファニル基、シアノ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン原子、芳香族基等から選択される1または2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0041】
3およびR4の置換または非置換の芳香族基としては、炭素数6〜10の置換または非置換の芳香族基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基等の置換または非置換の芳香族炭化水素基が挙げられる。該芳香族基は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基等から選択される1または2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0042】
3およびR4の置換または非置換の芳香族複素環基としては、炭素数5〜10の置換または非置換の芳香族複素環基が好ましく、例えば、フリル基、チエニル基、ピリジル基、ピロリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリミジル基、ピリダジニル基、ピラリジニル基、キノリル基、イソキノリル基等の置換または非置換の芳香族複素環基が挙げられる。該芳香族複素環基は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基等から選択される1または2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0043】
また、2個のR3同士または2個のR4同士は、互いに結合して置換または非置換の環を形成してもよく、好ましくは炭素数4〜10の置換または非置換の脂肪族環を形成してもよい。例えば、R3とR4が−(CH24−を介して互いに結合した場合、シクロヘキサン環を形成する。このように形成された環は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基等から選択される1または2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0044】
さらに、R5、R6およびR7は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルケニル基、置換もしくは非置換の芳香族基、置換もしくは非置換の芳香族複素環基、アシル基、置換もしくは非置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは非置換の芳香族オキシカルボニル基、または置換もしくは非置換のアラルキルオキシカルボニル基である。
【0045】
5、R6およびR7の置換または非置換のアルキル基としては、炭素数1〜10の直鎖または分岐鎖状の置換または非置換のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖状の置換または非置換のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。該アルキル基は、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルファニル基、シアノ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン原子、芳香族基等から選択される1または2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0046】
5、R6およびR7の置換または非置換のアルケニル基としては、炭素数2〜10の直鎖または分岐鎖状のアルケニル基が好ましく、より好ましくは炭素数2〜6の直鎖または分岐鎖状のアルケニル基、例えば、ビニル基、2−プロペニル基等が挙げられる。該アルケニル基は、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルファニル基、シアノ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン原子、芳香族基等から選択される1または2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0047】
5、R6およびR7の芳香族基としては、炭素数6〜10の置換または非置換の芳香族基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基等の置換または非置換の芳香族炭化水素基が挙げられる。該芳香族基は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基等から選択される1または2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0048】
5、R6およびR7の置換または非置換の芳香族複素環基としては、炭素数5〜10の置換または非置換の芳香族複素環基が好ましく、例えば、フリル基、チエニル基、ピリジル基、ピロリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリミジル基、ピリダジニル基、ピラリジニル基、キノリル基、イソキノリル基等の置換または非置換の芳香族複素環基が挙げられる。該芳香族複素環基は、例えば、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、ハロゲン原子基、ニトロ基、シアノ基等から選択される1または2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0049】
5、R6およびR7のアシル基としては、炭素数1〜20のアシル基が好ましく、例えば、ホルミル基、アセチル基、トリフルオロアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基等の脂肪族アシル基、ベンゾイル基、3,5−ジメチルベンゾイル基、2,4,6−トリメチルベンゾイル基、2,6−ジメトキシベンゾイル基、2,4,6−トリメトキシベンゾイル基、2,6−ジイソプロポキシベンゾイル基、1−ナフチルカルボニル基、2−ナフチルカルボニル基、9−アントリルカルボニル基等の芳香族アシル基等が挙げられる。
【0050】
5、R6およびR7の置換または非置換のアルコキシカルボニル基としては、炭素数2〜20の置換または非置換のアルコキシカルボニル基が好ましく、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、n−オクチルオキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、シクロオクチルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基が挙げられる。該アルコキシカルボニル基は、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルファニル基、シアノ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン原子、芳香族基等から選択される1または2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0051】
5、R6およびR7の置換または非置換の芳香族オキシカルボニル基としては、炭素数7〜20の置換または非置換の芳香族オキシカルボニル基が好ましく、例えば、フェノキシカルボニル基が挙げられる。該芳香族オキシカルボニル基は、例えば、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、ハロゲン原子基、ニトロ基、シアノ基等から選択される1または2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0052】
5、R6およびR7の置換または非置換のアラルキルオキシカルボニル基としては、炭素数7〜20のアラルキルオキシカルボニル基が好ましく、例えば、ベンジルオキシカルボニル基、フェネチルオキシカルボニル基等が挙げられる。該アラルキルオキシカルボニル基は、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルファニル基、シアノ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン原子、芳香族基、アルコキシアルキレンオキシ基、例えばメトキシエチレンオキシ基等から選択される1または2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0053】
さらに、R6およびR7は、互いに結合して環を形成してもよく、好ましくは炭素数4〜10の置換または非置換の脂肪族環を形成してもよい。例えば、R6とR7が−(CH24−を介して互いに結合した場合、シクロヘキサン環を形成する。このように形成された環は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基等から選択される1または2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0054】
前記一般式(2)で表される光学活性コバルト錯体の中で特に好ましいものの具体例としては、下記式(2−1)〜(2−11)のものが挙げられる。
【0055】
【化11】

【0056】
【化12】

【0057】
【化13】

【0058】
また、本発明において、前記一般式(2)で表される光学活性コバルト錯体から誘導して得られる、一般式(3):
【0059】
【化14】

【0060】
で表される光学活性コバルト錯体も、本発明の方法で用いる光学活性コバルト錯体として有効であり、ここでR3、R4、R5、R6、R7は前記一般式(2)について定義した通りであり、X-は、塩を形成し得る陰イオン対を表す。
【0061】
上記一般式(3)におけるX-としては、I-、SbF6-、CF3SO3-、p−CH364SO3-、BF4-、OCOCF3-、NO2-、NO3-、CH3CO2-、OBz-、OBzF5-、OBz(3,5CF3-、OBz(3,5Cl)-、OBz(4Me2N)-、OBz(4tBu)-、F-、Cl-、Br-、OH-、PF6-、BPh4-、SbF6-、ClO4-、OTf-、またはOTs-等が挙げられ、好ましくOBzF5-、OBz-、NO3-、OCOCF3-、またはI-である。
【0062】
前記一般式(3)で表される光学活性コバルト錯体の中で特に好ましいものの具体例としては、下記式(3−1)〜(3−14)のものが挙げられる。
【0063】
【化15】

【0064】
【化16】

【0065】
【化17】

【0066】
本発明の方法において製造されるポリカーボネート樹脂は、一般式(4):
【0067】
【化18】

【0068】
で表され、ここでR1およびR2は上記のとおりである。
【0069】
一般式(4)で表されるポリカーボネート樹脂の分子量は、好ましくは約1,000〜100,000、より好ましくは約2,000〜50,000、特に好ましくは約2,500〜40,000での範囲である。
【0070】
前記一般式(4)で表されるポリカーボネート樹脂の中で特に好ましいものの具体例としては、下記式(4−1)〜(4−4)のものが挙げられる。
【0071】
【化19】

【0072】
本発明の方法においては、求核剤を使用することができる。
求核剤は重合開始剤として働くが、求核剤を使用しない場合は痕跡量の水が重合開始剤として働いているものと考えられる。
【0073】
求核剤としては、ビス(トリフェニルホスフォラニリデン)アンモニウムクロリド(PPNCl)、ピペリジン、ビス(トリフェニルホスフォラニリデン)アンモニウムフルオリド(PPNF)、ビス(トリフェニルホスフォラニリデン)アンモニウムペンタフルオロベンゾエート(PPNOBzF5)、nBu4NCl、nBu4NBr、nBu4NBr3、nBu4NI、nBu4NOAc、Ph3P等が挙げられ、好ましくはPPNCl、PPNF、PPNOBzF5またはnBu4NClであり、より好ましくはPPNFである。
【0074】
本発明において用いる二酸化炭素の使用量に特に制限はないが、通常二酸化炭素雰囲気下、または二酸化炭素加圧条件下で反応を行う。このうち、好ましい二酸化炭素圧は0.1MPa〜10MPa、更に好ましくは0.1MPa〜2MPaの範囲である。また、窒素やアルゴン等の反応に顕著な影響を与えない不活性ガスと二酸化炭素との混合ガス下で反応を行うこともできる。
反応温度は、通常−40℃〜50℃が好ましく、更には0℃〜30℃が好ましい。
反応時間は、反応条件により異なるが、通常1〜100時間である。
【0075】
また、本発明においては、必要に応じて溶媒を使用することができる。用いられる溶媒としては、使用されるエポキシド、二酸化炭素、光学活性コバルト錯体、求核剤と反応しないものであれば特に制限はなく、例えば炭化水素類、エーテル類、エステル類、ケトン類、ハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。具体的には、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン等が挙げられ、好ましくはクロロホルムである。これらは単独で用いても、2種以上混合して用いてもかまわない。溶媒の使用量としては、原料であるエポキシドに対して質量比で0.5〜100、好ましくは1〜50の範囲で添加することができる。
【0076】
本発明の方法により得られるポリカーボネートは、完全交互共重合体であることにより従来にない高い諸物性を発揮し、新規用途の開発に寄与するものと考えられる。特に、本発明によるポリカーボネートは、後述の実施例(図3)が示すように、比較的低温で熱分解し、かつ、その分解残渣がほとんど無い。このように加熱分解性に優れた本発明によるポリカーボネートは、例えば、脱脂、焼成工程を経て製造されるセラミックやガラスからなる各種成形体を製造するためのバインダー樹脂として有用である。さらに、本発明によるポリカーボネートは、元来優れている耐衝撃性、軽量性、透明性、耐熱性、生分解性等の諸物性において従来のポリカーボネートより高品質であるため、従来よりポリカーボネートが用いられている各種用途において有利に適用することができる。
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない(ここで、ケトイミナトコバルト錯体については上記具体例の番号により示すものとする)。
【実施例】
【0077】
(プロピレンオキシドとCOの交互共重合)
実施例1
ステンレス耐圧容器に、ケトイミナトコバルトペンタフルオロベンゾエート錯体(3−1)0.0143mmolおよびビス(トリフェニルホスフォラニリデン)アンモニウムフルオリド(PPNF)0.0143mmolを入れ、プロピレンオキシド28.6mmolを加えた後、二酸化炭素を圧力をかけて注入し、全圧が2.0MPaとなるように調整した。室温で48時間反応させた後、二酸化炭素を抜き、この反応混合物について、1H−NMRにより分析を行った。1H−NMR分析は、溶媒として重クロロホルムを、内部標準にはテトラメチルシランを用い、温度22℃で実施した。また、1H−NMR測定装置には日本電子株式会社製のJOEL−EX270およびGX−400を用いた。
【0078】
得られた反応混合物には、二酸化炭素とプロピレンオキシドとが交互に反応したポリカーボネートが99%以上存在しており、二酸化炭素とプロピレンオキシドとが1分子ずつ反応した環状カーボネートはほぼ生成していなかった。さらに、1H−NMRにより、ポリカーボネート鎖に含まれるカーボネート結合の割合は99%以上であり、すなわち、生成物は完全な交互共重合体であった。得られたポリカーボネートの収率は72%であり、また13C−NMRにより頭−尾(Head−to−Tail)結合選択性は92%であった。得られたポリカーボネートをGPCで分析したところ、数平均分子量Mnは16800、分子量分布Mw/Mnは1.2(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0079】
実施例2
上記実施例1において、PPNFをビス(トリフェニルホスフォラニリデン)アンモニウムクロリド(PPNCl)に変更した以外は同様にして反応を行った。このとき得られた反応混合物には、38%程度の環状カーボネートが含まれていた。収率は54%、頭−尾結合選択性は92%、Mnは15700、Mw/Mnは1.2(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0080】
実施例3
上記実施例1において、PPNFをビス(トリフェニルホスフォラニリデン)アンモニウムペンタフルオロベンゾエート(PPNOBzF5)に変更した以外は同様にして反応を行った。このとき得られた反応混合物には、99%以上の選択性でポリカーボネートであった。収率は64%、頭−尾結合選択性は92%、Mnは25400、Mw/Mnは1.7(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0081】
実施例4
上記実施例1において、PPNFをテトラ−n−ブチルアンモニウムクロリドに変更した以外は同様にして反応を行った。このとき得られた反応混合物には、4%程度の環状カーボネートが含まれていた。収率は43%、頭−尾結合選択性は91%、Mnは17900、Mw/Mnは1.0(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0082】
実施例5
上記実施例1において、PPNFをトリフェニルホスフィンに変更した以外は同様にして反応を行った。このとき得られた反応混合物は、99%以上の選択性でポリカーボネートであった。収率は10%、頭−尾結合選択性は85%、Mnは4400、Mw/Mnは1.1(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0083】
(求核剤の検討)
実施例6〜17
上記実施例1において、求核剤を変更した以外は特に明記しない限り、同様にして反応を行った。結果を下表に示す(標準ポリスチレン基準、クロロホルム)。
【0084】
【表1】

【0085】
実施例18
上記実施例1において、ケトイミナトコバルトペンタフルオロベンゾエート錯体をケトイミナトコバルトベンゾエート錯体(3−2)に変更した以外は同様にして反応を行った。このとき得られた反応混合物は、99%以上の選択性でポリカーボネートであった。収率は85%、頭−尾結合選択性は91%、Mnは26400、Mw/Mnは1.7(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0086】
実施例19
上記実施例1において、ケトイミナトコバルトペンタフルオロベンゾエート錯体をケトイミナトコバルトニトラート錯体(3−3)に変更した以外は同様にして反応を行った。このとき得られた反応混合物は、99%以上の選択性でポリカーボネートであった。収率は81%、頭−尾結合選択性は91%、Mnは16900、Mw/Mnは1.2(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0087】
実施例20
上記実施例1において、ケトイミナトコバルトペンタフルオロベンゾエート錯体をケトイミナトコバルトトリフルオロアセテート錯体(3−4)に変更した以外は同様にして反応を行った。このとき得られた反応混合物は、99%以上の選択性でポリカーボネートであった。収率は82%、頭−尾結合選択性は91%、Mnは26500、Mw/Mnは1.7(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0088】
実施例21
上記実施例1において、ケトイミナトコバルトペンタフルオロベンゾエート錯体をケトイミナトコバルトヨージド錯体(3−5)に変更した以外は同様にして反応を行った。このとき得られた反応混合物には、36%程度の環状カーボネートが含まれていた。収率は50%、頭−尾結合選択性は77%、Mnは4200、Mw/Mnは1.0(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0089】
実施例22
上記実施例1において、ケトイミナトコバルトペンタフルオロベンゾエート錯体をケトイミナトコバルトヨージド錯体(3−6)に変更した以外は同様にして反応を行った。このとき得られた反応混合物には、43%程度の環状カーボネートが含まれていた。収率は41%、頭−尾結合選択性は76%、Mnは8200、Mw/Mnは1.4(標準ポリスチレン基準、クロロホルム)であった。
【0090】
実施例23
上記実施例1において、ケトイミナトコバルトペンタフルオロベンゾエート錯体をケトイミナトコバルト(II)錯体(2−1)に変更した以外は同様にして反応を行った。このとき得られた反応混合物には、3%程度の環状カーボネートが含まれていた。収率は57%、頭−尾結合選択性は92%、Mnは20700、Mw/Mnは1.4(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0091】
錯体における配位子の検討(実施例24〜28)
上記実施例1において、錯体を変更し、またPPNFをPPNClに変更した以外は、特に明記しない限り、同様にして反応を行った。結果を下表に示す(標準ポリスチレン基準、クロロホルム)。
【0092】
【表2】

【0093】
(錯体における陰イオン対の検討)
実施例29〜41
上記実施例1において、ケトイミナトコバルトペンタフルオロベンゾエート錯体(3−1)の陰イオン対を変更し、またPPNFをPPNClに変更した以外は、特に明記しない限り、同様にして反応を行った。結果を下表に示す(標準ポリスチレン基準、クロロホルム)。
【0094】
【表3】

【0095】
実施例42
上記実施例1において、無溶媒であるところをテトラヒドロフラン溶媒2mLに変更した以外は同様にして反応を行った。このとき得られた反応混合物には、7%程度の環状カーボネートが含まれていた。収率は52%、頭−尾結合選択性は88%、Mnは13700、Mw/Mnは1.2(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0096】
実施例43
上記実施例1において、無溶媒であるところを塩化メチレン溶媒2mLに変更した以外は同様にして反応を行った。このとき得られた反応混合物には、4%程度の環状カーボネートが含まれていた。収率は28%、頭−尾結合選択性は89%、Mnは9200、Mw/Mnは1.5(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0097】
実施例44
上記実施例1において、無溶媒であるところをクロロホルム溶媒2mLに変更した以外は同様にして反応を行った。このとき得られた反応混合物には、6%程度の環状カーボネートが含まれていた。収率は86%、頭−尾結合選択性は82%、Mnは12300、Mw/Mnは1.3(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0098】
実施例45
上記実施例1において、反応時間を5時間に変更した以外は同様にして反応を行った。このとき得られた反応混合物には、10%程度の環状カーボネートが含まれていた。収率は6%、頭−尾結合選択性は91%、Mnは4461、Mw/Mnは1.2(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0099】
実施例46
上記実施例1において、反応時間を10時間に変更した以外は同様にして反応を行った。このとき得られた反応混合物は、99%以上の選択性でポリカーボネートであった。収率は29%、頭−尾結合選択性は91%、Mnは15600、Mw/Mnは1.1(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0100】
実施例47
上記実施例1において、反応時間を15時間に変更した以外は同様にして反応を行った。このとき得られた反応混合物は、99%以上の選択性でポリカーボネートであった。収率は34%、頭−尾結合選択性は91%、Mnは17300、Mw/Mnは1.0(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0101】
実施例48
上記実施例1において、反応時間を24時間に変更した以外は同様にして反応を行った。このとき得られた反応混合物は、99%以上の選択性でポリカーボネートであった。収率は56%、頭−尾結合選択性は93%、Mnは17400、Mw/Mnは1.0(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0102】
実施例49
上記実施例1において、反応時間を72時間に変更した以外は同様にして反応を行った。このとき得られた反応混合物は、99%以上の選択性でポリカーボネートであった。収率は69%、頭−尾結合選択性は92%、Mnは33500、Mw/Mnは1.7(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0103】
実施例50
上記実施例1において、耐圧容器を予め減圧加熱乾燥した以外は同様にして反応を行った。このとき得られた反応混合物は、99%以上の選択性でポリカーボネートであった。収率は83%、頭−尾結合選択性は93%、Mnは31000、Mw/Mnは1.6(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0104】
実施例51
上記実施例10において、耐圧容器を予め減圧加熱乾燥した以外は同様にして反応を行った。このとき得られた反応混合物には、2%程度の環状カーボネートが含まれていた。収率は69%、頭−尾結合選択性は92%、Mnは17200、Mw/Mnは1.0(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0105】
比較例1
上記実施例1において、ケトイミナトコバルトペンタフルオロベンゾエート錯体を用いない以外は同様にして反応を行ったが、反応は全く進行しなかった。
【0106】
(シクロヘキセンオキシドとCOの交互共重合)
実施例52
ステンレス耐圧容器に、ケトイミナトコバルトペンタフルオロベンゾエート錯体(3−1)0.0143mmolおよびビス(トリフェニルホスフォラニリデン)アンモニウムフルオリド(PPNF)0.0143mmolを入れ、シクロヘキセンオキシド14.8mmolを加えた後、二酸化炭素を圧力をかけて注入し、全圧が2.0MPaとなるように調整した。30℃で48時間反応させた後、二酸化炭素を抜き、この反応混合物について、1H−NMRにより分析を行った。
【0107】
得られた反応混合物には、二酸化炭素とシクロヘキセンオキシドとが交互に反応したポリカーボネートが99%以上存在しており、二酸化炭素とシクロヘキセンオキシドとが1分子ずつ反応した環状カーボネートはほぼ生成していなかった。さらに、1H−NMRにより、ポリカーボネート鎖に含まれるカーボネート結合の割合は99%以上であり、すなわち、生成物は完全な交互共重合体であった。得られたポリカーボネートの収率は58%であった。また得られたポリカーボネートをGPCで分析したところ、数平均分子量Mnは6000、分子量分布Mw/Mnは1.4(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0108】
実施例53
上記実施例52において、PPNFをビス(トリフェニルホスフォラニリデン)アンモニウムクロリド(PPNCl)に変更し、反応時間を48時間から65時間に変更した以外は同様にして反応を行った。収率は57%、Mnは5100、分子量分布Mw/Mnは1.1(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0109】
実施例54
上記実施例52において、溶媒としてトルエンを0.5mL加えた以外は同様にして反応を行った。収率は69%、Mnは6000、分子量分布Mw/Mnは1.1(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0110】
実施例55
上記実施例52において、ケトイミナトコバルトペンタフルオロベンゾエート錯体(3−1)をケトイミナトコバルトヨージド錯体(3−5)に変更した以外は同様にして反応を行った。収率は29%、Mnは4500、分子量分布Mw/Mnは1.1(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0111】
実施例56
上記実施例52において、ケトイミナトコバルトペンタフルオロベンゾエート錯体(3−1)をケトイミナトコバルトヨージド錯体(3−5)に変更し、またPPNFをPPNClに変更した以外は同様にして反応を行った。収率は5%、Mnは1900、分子量分布Mw/Mnは1.1(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0112】
実施例57
上記実施例52において、ケトイミナトコバルトペンタフルオロベンゾエート錯体(3−1)をケトイミナトコバルトヨージド錯体(3−5)に変更し、またPPNFをPPNClに変更し、さらに溶媒としてトルエンを0.5mL加えた以外は同様にして反応を行った。収率は70%、Mnは4300、分子量分布Mw/Mnは1.1(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0113】
実施例58
上記実施例52において、ケトイミナトコバルトペンタフルオロベンゾエート錯体(3−1)をケトイミナトコバルトヨージド錯体(3−5)に変更し、また溶媒としてトルエンを0.5mL加えた以外は同様にして反応を行った。収率は39%、Mnは1500、分子量分布Mw/Mnは1.2(標準ポリスチレン基準、THF)であった。
【0114】
実施例52〜58の結果を下記表にまとめる。
【0115】
【表4】

【0116】
(エチレンオキシドとCOの交互共重合)
実施例59
内容積50mLのオートクレーブにケトイミナトコバルトヨージド錯体(3−5)5.8mg (10μmol)、PPNF5.4mg (10μmol)、塩化メチレン1.0mL、エチレンオキシド1.56g (35mmol)を仕込み、二酸化炭素を充填し(2.0MPa)、25 ℃で48時間反応させた。その後、脱圧し、希塩酸、メタノールを加え反応を停止させた。内容物を希塩酸で洗浄し、メタノールに注ぎ、白色沈殿物を得た。これをろ過し、減圧乾燥して、ポリエチレンカーボネート1.94gを得た。このポリカーボネートをGPC(ポリスチレン標準)で分析したところ、数平均分子量Mnは22000であり、またMw/Mnは1.16であった。また、H−NMRによる分析結果から、ポリエチレンカーボネートとエチレンカーボネート(環状カーボネート)の比は100:0であった。なお、触媒活性は173g/g触媒(コバルト錯体とPPNFの合計量)であった。
【0117】
実施例60
内容積50mLのオートクレーブにケトイミナトコバルトヨージド錯体(3−5)5.8mg (10μmol)、PPNCl5.7mg (10μmol)、塩化メチレン1.0mL、エチレンオキシド1.50g (34mmol)を仕込み、二酸化炭素を充填し(2.0MPa)、25 ℃で48時間反応させた。その後、脱圧し、希塩酸、メタノールを加え反応を停止させた。内容物を希塩酸で洗浄し、メタノールに注ぎ、白色沈殿物を得た。これをろ過し、減圧乾燥して、ポリエチレンカーボネート0.86gを得た。このポリカーボネートをGPC(ポリスチレン標準)で分析したところ、数平均分子量Mnは8700であり、またMw/Mnは1.20であった。また、H−NMRによる分析結果から、ポリエチレンカーボネートとエチレンカーボネート(環状カーボネート)の比は48:52であった。なお、触媒活性は74g/g触媒(コバルト錯体とPPNClの合計量)であった。
【0118】
実施例61
内容積50mLのオートクレーブにケトイミナトコバルトテトラフルオロボレート錯体(3−13)5.4mg (10μmol)、PPNCl5.7mg (10μmol)、塩化メチレン1.0mL、エチレンオキシド1.16g (26mmol)を仕込み、二酸化炭素を充填し(2.0MPa)、25 ℃で48時間反応させた。その後、脱圧し、希塩酸、メタノールを加え反応を停止させた。内容物を希塩酸で洗浄し、メタノールに注ぎ、白色沈殿物を得た。これをろ過し、減圧乾燥して、ポリエチレンカーボネート0.08gを得た。このポリカーボネートをGPC(ポリスチレン標準)で分析したところ、数平均分子量Mnは4600であり、またMw/Mnは1.24であった。また、H−NMRによる分析結果から、ポリエチレンカーボネートとエチレンカーボネート(環状カーボネート)の比は75:25であった。なお、触媒活性は7g/g触媒(コバルト錯体とPPNClの合計量)であった。
【0119】
実施例62
内容積50mLのオートクレーブにケトイミナトコバルトフルオリド錯体(3−14)4.7mg (10μmol)、PPNCl5.7mg (10μmol)、塩化メチレン1.0mL、エチレンオキシド1.02g (23mmol)を仕込み、二酸化炭素を充填し(2.0MPa)、25 ℃で48時間反応させた。その後、脱圧し、希塩酸、メタノールを加え反応を停止させた。内容物を希塩酸で洗浄し、メタノールに注ぎ、白色沈殿物を得た。これをろ過し、減圧乾燥して、ポリエチレンカーボネート1.04gを得た。このポリカーボネートをGPC(ポリスチレン標準)で分析したところ、数平均分子量Mnは15000であり、またMw/Mnは1.13であった。また、H−NMRによる分析結果から、ポリエチレンカーボネートとエチレンカーボネート(環状カーボネート)の比は100:0であった。なお、触媒活性は100g/g触媒(コバルト錯体とPPNClの合計量)であった。
【0120】
実施例63
内容積50mLのオートクレーブにケトイミナトコバルトヨージド錯体(3−5)5.8mg (10μmol)、PPNF5.4mg (10μmol)、塩化メチレン1.0mL、エチレンオキシド10.37g (250mmol)を仕込み、二酸化炭素を充填し(2.0MPa)、25 ℃で48時間反応させた。その後、脱圧し、希塩酸、メタノールを加え反応を停止させた。内容物を希塩酸で洗浄し、メタノールに注ぎ、白色沈殿物を得た。これをろ過し、減圧乾燥して、ポリエチレンカーボネート2.45gを得た。このポリカーボネートをGPC(ポリスチレン標準)で分析したところ、数平均分子量Mnは63000であり、またMw/Mnは1.17であった。また、H−NMRによる分析結果から、ポリエチレンカーボネートとエチレンカーボネート(環状カーボネート)の比は100:0であった。なお、触媒活性は219g/g触媒(コバルト錯体とPPNFの合計量)であった。得られたポリエチレンカーボネートのH−NMR分析、DSC分析およびTGA分析の結果を、それぞれ図1、図2および図3に示す。
【0121】
実施例64
内容積50mLのオートクレーブにケトイミナトコバルトヨージド錯体(3−5)5.8mg (10μmol)、PPNF5.4mg (10μmol)、塩化メチレン1.0mL、エチレンオキシド9.97g (230mmol)を仕込み、二酸化炭素を充填し(2.0MPa)、40 ℃で48時間反応させた。その後、脱圧し、希塩酸、メタノールを加え反応を停止させた。内容物を希塩酸で洗浄し、メタノールに注ぎ、白色沈殿物を得た。これをろ過し、減圧乾燥して、ポリエチレンカーボネート3.45gを得た。このポリカーボネートをGPC(ポリスチレン標準)で分析したところ、数平均分子量Mnは38000であり、またMw/Mnは1.41であった。また、H−NMRによる分析結果から、ポリエチレンカーボネートとエチレンカーボネート(環状カーボネート)の比は70:30であった。なお、触媒活性は338g/g触媒(コバルト錯体とPPNFの合計量)であった。
【0122】
比較例2
Empower社から入手したポリエチレンカーボネート(商品名:QPAC25)のH−NMR分析、DSC分析およびTGA分析の結果を、それぞれ図4、図5および図6に示す。
【0123】
実施例63で得られたポリエチレンカーボネートは、H−NMR分析において、エーテル結合に由来するピーク(3.6ppm付近)を実質的に含まない(図1)。図1中、3.7ppm付近にわずかに見えるピーク(1%以下)は、ポリエチレンカーボネートの末端メチレン基のプロトンに由来するピークである。したがって、このポリエチレンカーボネートは、エチレンオキシドと二酸化炭素とが一つずつ交互に重合している完全交互共重合体であるといえる(エーテル結合が存在したとしてもH−NMR分析の検出限界以下の量である)。対照的に、市販のポリエチレンカーボネート「QPAC25」は、H−NMR分析において、末端プロトン由来のピーク(3.7ppm付近)の他に、エーテル結合に由来するピーク(3.6ppm付近)を3〜5%程度含有している(図4)。すなわち、このポリエチレンカーボネートは、エチレンオキシド同士が結合している部分を含む。
【0124】
実施例63で得られたポリエチレンカーボネートは、DSC分析において、ガラス転移温度Tgが17.5℃であった(図2)。一方、市販のポリエチレンカーボネート「QPAC25」は、DSC分析において、ガラス転移温度Tgが15.7℃であった(図5)。また、実施例63で得られたポリエチレンカーボネートは、TGA分析において、250℃付近で実質的に全部が分解したことが示された(図3)。一方、市販のポリエチレンカーボネート「QPAC25」は、TGA分析において、300℃を超えても5%程度が分解されず、完全分解には350℃以上を要することが示された(図6)。このように、本発明によるポリエチレンカーボネートは、完全交互共重合体であるが故に、従来存在するポリエチレンカーボネートとは顕著に異なる熱特性を具備していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明による方法は、二酸化炭素を炭素源として利用したポリカーボネート樹脂製造の工業化に有用である。また、本発明によるポリカーボネートは、完全交互共重合体であることにより従来にない高い諸物性を発揮し、新規用途の開発に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】実施例63で合成されたポリエチレンカーボネートのH−NMR分析結果を示すグラフである。
【図2】実施例63で合成されたポリエチレンカーボネートのDSC分析結果を示すグラフである。
【図3】実施例63で合成されたポリエチレンカーボネートのTGA分析結果を示すグラフである。
【図4】市販のポリエチレンカーボネートのH−NMR分析結果を示すグラフである。
【図5】市販のポリエチレンカーボネートのDSC分析結果を示すグラフである。
【図6】市販のポリエチレンカーボネートのTGA分析結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(式中、R1およびR2は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、または置換もしくは非置換の芳香族基であるか、またはR1とR2が互いに結合して置換もしくは非置換の環を形成してもよい)
で表されるエポキシドを、二酸化炭素と、一般式(2)または一般式(3):
【化2】

(式中、R3およびR4は、同一でも異なっていてもよく、互いに独立して、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換の芳香族基、または置換もしくは非置換の芳香族複素環基であるか、または2個のR3同士もしくは2個のR4同士が、互いに結合して置換もしくは非置換の環を形成してもよく、そしてR5、R6およびR7は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルケニル基、置換もしくは非置換の芳香族基、置換もしくは非置換の芳香族複素環基、アシル基、置換もしくは非置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは非置換の芳香族オキシカルボニル基、または置換もしくは非置換のアラルキルオキシカルボニル基であり、R6およびR7は、互いに結合して置換または非置換の脂肪族環を形成してもよく、そして、一般式(3)中のX-は、塩を形成し得る陰イオン対を表す)
で表される光学活性コバルト錯体の存在下で反応させることを含む、一般式(4):
【化3】

(式中、R1およびR2は上記のとおりである)
で表されるポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項2】
一般式(1)において、R1およびR2のうちの一方が水素原子で、もう一方が置換または非置換のアルキル基である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
一般式(1)で表されるエポキシドが、以下:
【化4】

からなる群より選択される、請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
一般式(2)および一般式(3)において、R3とR4が水素原子または置換もしくは非置換の芳香族基であるか、または2個のR3同士もしくは2個のR4同士が互いに結合して置換もしくは非置換の環を形成してもよく、そしてR5、R6およびR7が水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシカルボニル基、または置換もしくは非置換のアラルキルオキシカルボニル基である、請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
一般式(3)において、X-がOBzF5-、OBz-、NO3-、OCOCF3-、F-またはI-である、請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
一般式(2)および一般式(3)で表される光学活性コバルト錯体が以下:
【化5】

【化6】

からなる群より選択される、請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項7】
求核剤を使用する、請求項1〜6のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項8】
一般式(1):
【化7】

(式中、R1およびR2は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、または置換もしくは非置換の芳香族基であるか、またはR1とR2が互いに結合して置換もしくは非置換の環を形成してもよい)
で表されるエポキシドと二酸化炭素とが交互に結合して得られたポリカーボネートであって、H−NMR分析により検出可能なエーテル結合成分を含まないポリカーボネート。
【請求項9】
エチレンオキシドと二酸化炭素とが交互に結合して得られたポリエチレンカーボネートであって、H−NMR分析により検出可能なエーテル結合成分を含まないポリエチレンカーボネート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−215529(P2009−215529A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208678(P2008−208678)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度イノベーション実用化開発費助成金(大学発事業創出実用化研究開発事業)、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】