説明

ポリカーボネート樹脂積層板の製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はポリカーボネート樹脂積層板の製造方法に関する。更に詳しくは、ポリカーボネート樹脂本来の優れた特性を損なうことなく外観が良好で実質的に反りがなく且つ再利用可能なポリカーボネート樹脂積層板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ポリカーボネート樹脂板は色調や透明性に優れ且つ高い衝撃強度を有するがゆえに広範な用途に多量使用されている。しかしながら、ポリカーボネート樹脂板には例えば耐候性に劣るとか、帯電し易いとかの欠点があり、かかる欠点を改善するために紫外線吸収剤や帯電防止剤等の改質剤を配合することが知られている。また、着色するために無機や有機の着色剤を配合したり、色調を改善するために蛍光増白剤を配合することが知られている。しかしながら、かかる改質剤や着色剤をポリカーボネート樹脂板に配合するには種々の問題がある。例えば紫外線吸収剤を配合して耐候性を改善するには、紫外線吸収剤を多量配合する必要があるため高価になる。また、改質剤や着色剤によってはポリカーボネート樹脂に悪影響を及ぼし、ポリカーボネート樹脂の特性を損なうことがある。更には、改質剤や着色剤を変更する毎に使用した装置を清掃する必要があり、少量多品種の生産には適さない。
【0003】これらの問題を解決するために、改質剤や着色剤を配合したアクリル樹脂製フイルムを貼着又は熱圧着等により積層することが知られている。一方、熱可塑性樹脂製の板やフイルムを製造する際には、一般に溶融押出した後その耳部を裁断し、この裁断屑や不良品等を粉砕して原料樹脂に混合して再利用することが行われている。しかしながら、改質剤や着色剤を配合したアクリル樹脂製フイルムを積層したポリカーボネート樹脂積層板の裁断屑や不良品等を原料ポリカーボネート樹脂に混合して再利用すると、得られる製品は乳白色になり、ポリカーボネート樹脂本来の優れた色調及び透明性が損なわれるため、裁断屑や不良品等の再利用ができない。更に、アクリル樹脂製フイルムを積層したポリカーボネート樹脂積層板を加熱して曲げ加工すると、ポリカーボネート樹脂の加工温度が高いので表面のアクリル樹脂が軟化して表面荒れが生じたり、光沢や透明性が損なわれる等の問題もある。
【0004】ポリカーボネート樹脂を板状に溶融押出しする際に、紫外線吸収剤を配合したポリカーボネート樹脂層を共押出しすることが知られている。この方法によれば裁断屑や不良品等の再利用が可能になり、加熱曲げ加工も容易になる。しかしながら、この方法では、共押出しするための設備や装置が必要になり、経済的負担が増大して生産原価が高くなる不利益がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、改質剤や着色剤を配合したポリカーボネート樹脂製フイルムを積層した、ポリカーボネート樹脂本来の優れた色調、透明性、衝撃強度等を損なうことなく改質や着色され且つ再利用や加熱曲げ加工が容易なポリカーボネート樹脂板を容易に且つ経済的に提供することである。
【0006】本発明者は、ポリカーボネート樹脂板に、改質剤や着色剤を配合したポリカーボネート樹脂フイルムを熱圧着すれば、上記目的が達成できることに着目し、溶融押出し直後のポリカーボネート樹脂板にポリカーボネート樹脂フイルムを熱圧着することを試みた。しかしながら、ポリカーボネート樹脂はアクリル樹脂に比して軟化点が高く且つ硬いので熱圧着し難く、高温で熱圧着する必要があるため得られた積層板は反りが大きく平面性が悪く、また熱圧着した積層面に凹凸や気泡が発生して商品価値のある積層板は得られなかった。更にこの熱圧着について鋭意検討を重ねた結果、特定のポリカーボネート樹脂フイルムを使用し、特定の条件で熱圧着すれば、上記目的が達成し得ることを究明し、本発明を完成した。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、ポリカーボネート樹脂板の少くとも一面に、該ポリカーボネート樹脂板の粘度平均分子量より5,000以上低い粘度平均分子量を有する厚さ20〜100μのポリカーボネート樹脂フイルムを、該ポリカーボネート樹脂フイルムの軟化点より60℃低い温度〜10℃低い温度で熱圧着することを特徴とするポリカーボネート樹脂積層板の製造方法である。
【0008】本発明で得られるポリカーボネート樹脂積層板を図で説明する。図1はポリカーボネート樹脂板の一面にポリカーボネート樹脂フイルムを熱圧着したポリカーボネート樹脂積層板の斜視図であり、図2はポリカーボネート樹脂板の両面にポリカーボネート樹脂フイルムを熱圧着したポリカーボネート樹脂積層板の斜視図である。図中1はポリカーボネート樹脂板、2はポリカーボネート樹脂板より粘度平均分子量が5,000以上低いポリカーボネート樹脂フイルムである。
【0009】本発明でいうポリカーボネート樹脂は二価フェノールとカーボネート前駆体を溶液法又は溶融法で反応させて得られる。ここで使用する二価フェノールとしては2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)を対象とするが、その一部又は全部を他の二価フェノールで置換してもよい。他の二価フェノールとしては、例えば1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)サルファイド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等があげられる。カーボネート前駆体としては例えばホスゲン、ジフェニルカーボネート、ジ−p−トリルカーボネート、フェニル−p−トリルカーボネート、ジ−p−クロロフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、上記二価フェノール類のビスクロロホーメート等があげられ、なかでもホスゲンやジフェニルカーボネートが特に好ましい。かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、適当な分子量調節剤、加工性改善のための分岐剤、反応を促進するための触媒を使用してもよく、また必要に応じて着色剤、例えば亜燐酸エステル、燐酸エステル、ホスホン酸エステル等の安定剤0.001〜0.1重量%、例えばテトラブロムビスフェノールA、テトラブロムビスフェノールAの低分子量ポリカーボネート、デカブロモジフェニルエーテル等の難燃剤1〜20重量%を添加してもよい。
【0010】本発明で基板として使用するポリカーボネート樹脂板は、その分子量が粘度平均分子量で表して通常17,000〜40,000、好ましくは18,000〜30,000であり、その厚さは通常0.5mm以上、好ましくは1〜20mm程度である。
【0011】ポリカーボネート樹脂板に熱圧着するポリカーボネート樹脂フイルムは、その粘度平均分子量がポリカーボネート樹脂板の粘度平均分子量より5,000以上低く且つその厚さが20〜100μであることが必要である。その粘度平均分子量がポリカーボネート樹脂板の粘度平均分子量より5,000以上低くなく且つ20μより薄いと、熱圧着して得られるポリカーボネート樹脂積層板の外観が悪化したり、擦り傷や引っ掻き傷等によって熱圧着したポリカーボネート樹脂フイルムが剥れ易くなる。また、その粘度平均分子量がポリカーボネート樹脂板の粘度平均分子量より5,000以上低くなく且つ100μより厚いと、熱圧着時に抱き込む空気の脱気が困難になり、得られる積層板に気泡が発生したり、反りが生じるようになる。ポリカーボネート樹脂フイルムの粘度平均分子量は通常12,000〜35,000、好ましくは13,000〜20,000である。
【0012】かかるポリカーボネート樹脂フイルムを製造するには任意の方法が採用され、通常T-ダイ法、流延法、インフレーション法等によって容易に製造される。このフイルムの製造に使用するポリカーボネート樹脂は特に制限されないが、軟化点が基板として使用するポリカーボネート樹脂板より高くないものが好ましく、基板として使用するポリカーボネート樹脂板と同種のポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0013】上記ポリカーボネート樹脂フイルムには所望の改質剤や着色剤を配合することができる。改質剤や着色剤としては例えば紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、光拡散剤、顔料、染料等があげられる。
【0014】紫外線吸収剤としては、例えば2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(メタクリロイルオキシエトキシ)ベンゾフェノン/メタクリル酸メチル共重合体、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール及び他の2−ヒドロキシベンゾフェノンやベンゾトリアゾールの誘導体、2,4−ジヒドロキシベンゾイルフラン、サリチル酸フェニルエステル、レゾルシンジサリチレート、ベンジルベンゾエート、スチルベン、β−メチリウムベリフェロン及びそのベンゾエート、イミノエステル系の2,2′−パラ−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)等があげられ、他に市販されている紫外線吸収剤のなかで昇華性の少いものも使用できる。その配合量は1〜10重量%、好ましくは3〜7重量%である。
【0015】本発明にあっては、上記ポリカーボネート樹脂フイルムを基板のポリカーボネート樹脂板の一面又は両面に熱圧着する。熱圧着するには任意の方法が採用されるが、特に押出し直後のポリカーボネート樹脂板に熱圧着する方法が好ましい。熱圧着温度はポリカーボネート樹脂フイルムの軟化点より60℃低い温度から10℃低い温度である。熱圧着温度がこの範囲より低いと充分な接着力が得られ難く、この範囲より高いと基板のポリカーボネート樹脂板が変形して商品価値のある積層板が得られ難い。熱圧着圧力は、熱圧着に使用する装置によって異なり、一概に決め難い。例えば押出し直後のポリカーボネート樹脂板を2個のロールにより挟持し、この挟持部にポリカーボネート樹脂フイルムを挿入して連続的に熱圧着する装置では通常0.03kg/cm2 以上の圧力、好ましくは0.05〜5kg/cm2 の圧力で挟持すればよい。
【0016】
【実施例】以下に実施例をあげて本発明を更に説明する。なお粘度平均分子量、反り及び衝撃強度を下記の方法で測定した。
(a)粘度平均分子量:ポリカーボネート樹脂0.7g を塩化メチレン100mlに溶解し、20℃でオストワルド粘度計により比粘度(ηsp)を測定し、下記関係式[1]及び[2]より極限粘度[η]から粘度平均分子量(M)を算出した。
ηsp/C=[η]+K[η]2 C ……[1]
但し、K=0.45、C=0.7 [η]=1.23×10-40.83 ……[2]
(b)反り(%):JIS K 6911準拠して測定した。数値の高い程反りは大きくなる。
(c)衝撃強度(kgfcm/cm):(株)オリエンテック製の試験片作成機 IDT−3型により厚さ3mmに削った後ノッチ付アイゾット衝撃強度を ASTM D-790で測定した。
【0017】
【実施例1〜4及び比較例1〜4】
(A)ビスフェノールAとホスゲンから常法によって得た表1記載の粘度平均分子量14,000〜24,000のポリカーボネート樹脂粉末を、スクリュー径60mmのT-ダイ付押出機によりシリンダー温度240〜280℃、T-ダイ温度250〜290℃でT-ダイより下方向に吐出し、温度140℃に調節した径300mmの鏡面冷却ロールにより引取り、幅600mmで表1記載の厚さのポリカーボネート樹脂フイルムを得た。
【0018】(B)ビスフェノールAとホスゲンから常法によって得た表1記載の粘度平均分子量21,500〜28,500のポリカーボネート樹脂粉末を、スクリュー径90mmのT-ダイ付押出機によりシリンダー温度260〜290℃、T-ダイ温度240〜310℃で幅600mm、厚さ5mmの板に押出し、その表面温度が175℃である位置を、径300mmの160℃の温度に保持した2個のロールにより0.5kg/cm2 の圧力で挟持し、板の上面に上記(A)で得た所定のポリカーボネート樹脂フイルムを挿入して熱圧着した。得られた積層板の外観、反り及び衝撃強度を表1に示した。
【0019】
【実施例5】実施例1(A)のポリカーボネート樹脂フイルム作成時に紫外線吸収剤2,2′−パラ−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)を5重量%添加混合して紫外線吸収剤含有ポリカーボネート樹脂フイルムを得、この紫外線吸収剤含有ポリカーボネート樹脂フイルムを使用する以外は実施例1と同様にして熱圧着した。得られた積層板の外観、反り及び衝撃強度を表1に示した。
【0020】
【実施例6】実施例5で得たポリカーボネート樹脂積層板を、(株)朋来鉄工所製の朋来式粉砕機 M-D型により粉砕し、得られた粉砕物のみを使用して実施例5と同様にして幅600mmで厚さ5mmの板に押出すと共に、実施例5で使用した紫外線吸収剤含有ポリカーボネート樹脂フイルムを実施例5と同様にして熱圧着した。得られた積層板の外観、反り及び衝撃強度を表1に示した。
【0021】
【表1】


【0022】
【発明の効果】本発明によれば、改質剤や着色剤を配合したポリカーボネート樹脂製フイルムを積層した、ポリカーボネート樹脂本来の優れた色調、透明性、衝撃強度等を損なうことなく改質や着色され且つ再利用や加熱曲げ加工が容易なポリカーボネート樹脂板を容易に且つ経済的に提供することができ、その奏する効果は格別なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明により得られるポリカーボネート樹脂積層板の一例を示す斜視図
【図2】本発明により得られるポリカーボネート樹脂積層板の別の一例を示す斜視図
【符号の説明】
1 ポリカーボネート樹脂板
2 ポリカーボネート樹脂フイルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリカーボネート樹脂板の少くとも一面に、該ポリカーボネート樹脂板の粘度平均分子量より5,000以上低い粘度平均分子量を有する厚さ20〜100μのポリカーボネート樹脂フイルムを、該ポリカーボネート樹脂フイルムの軟化点より60℃低い温度〜10℃低い温度で熱圧着することを特徴とするポリカーボネート樹脂積層板の製造方法。
【請求項2】 前記ポリカーボネート樹脂板およびポリカーボネート樹脂フイルムは共にビスフェノールAから製造されるポリカーボネート樹脂である請求項1記載のポリカーボネート樹脂積層板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【特許番号】特許第3443139号(P3443139)
【登録日】平成15年6月20日(2003.6.20)
【発行日】平成15年9月2日(2003.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−201465
【出願日】平成5年8月13日(1993.8.13)
【公開番号】特開平7−52252
【公開日】平成7年2月28日(1995.2.28)
【審査請求日】平成11年8月2日(1999.8.2)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【参考文献】
【文献】特開 平6−64123(JP,A)