説明

ポリカーボネート樹脂組成物、及びこれを用いた成形品、フィルム、プレート、射出成形品

【課題】優れた透明性及び強度を併せ持ち、建築材料分野、電気・電子分野、自動車分野、光学部品分野等において好適に用いることができるポリカーボネート樹脂組成物及びポリカーボネート樹脂成形品を提供すること。
【解決手段】構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含有し、ガラス転移温度が145℃未満であるポリカーボネート樹脂と、衝撃強度改質剤とを含むポリカーボネート樹脂組成物、これを成形してなるポリカーボネート樹脂成形品である。ポリカーボネート樹脂組成物は、該ポリカーボネート樹脂組成物から成形される厚さ3mmの成形体の全光線透過率が60%以上である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂と衝撃強度改質剤とを含むポリカーボネート樹脂組成物、これを成形してなる成形品、フィルム、プレート、射出成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは一般的に石油資源から誘導される原料を用いて製造される。しかしながら、近年、石油資源の枯渇が危惧されており、植物などのバイオマス資源から得られる原料を用いたポリカーボネートの提供が求められている。また、二酸化炭素排出量の増加、蓄積による地球温暖化が、気候変動などをもたらすことが危惧されていることからも、使用後の廃棄処分をしてもカーボンニュートラルな、植物由来モノマーを原料としたポリカーボネートの開発が求められている。
【0003】
従来、植物由来モノマーを原料とした種々のポリカーボネートが開発されている。
例えば、植物由来モノマーとしてイソソルビドを使用し、炭酸ジフェニルとのエステル交換により、ポリカーボネートを得ることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、イソソルビドと他のジヒドロキシ化合物との共重合ポリカーボネートとして、ビスフェノールAを共重合したポリカーボネートが提案されており(例えば、特許文献2参照)、更に、イソソルビドと脂肪族ジオールとを共重合することにより、イソソルビドからなるホモポリカーボネートの剛直性を改善する試みがなされている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
一方、脂環式ジヒドロキシ化合物である1,4−シクロヘキサンジメタノールを重合したポリカーボネート(例えば、特許文献4、5参照)や、イソソルビドと炭酸ジフェニルとのエステル交換により得られたポリカーボネートにゴム質重合体を添加したポリカーボネート(例えば、特許文献6参照)も提案されている。
さらには、イソソルビドと炭酸ジフェニルとのエステル交換により得られたポリカーボネートにスチレン系樹脂を添加したポリカーボネートが提案されている(特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】英国特許第1079686号明細書
【特許文献2】特開昭56−55425号公報
【特許文献3】国際公開第04/111106号パンフレット
【特許文献4】特開平6−145336号公報
【特許文献5】特公昭63−12896号公報
【特許文献6】国際公開第08/146719号パンフレット
【特許文献7】特開2007−70438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、植物由来モノマーとしてイソソルビドを使用し、炭酸ジフェニルとのエステル交換により得られる前述のポリカーボネートは、褐色であり、透明性という観点において満足できるものではない。
また、脂環式ジヒドロキシ化合物である1,4−シクロヘキサンジメタノールを重合した前述のポリカーボネートは、その分子量が高々4000程度と低く、ガラス転移温度が低いものが多い。
【0007】
また、イソソルビドと炭酸ジフェニルとのエステル交換により得られたポリカーボネートにゴム質重合体を添加したポリカーボネートは、ガラス転移温度が高いため、実用的な強度を有する分子量のものを得ようとした場合、溶融粘度が高くなりすぎ、工業的な方法での重合が困難になるだけでなく、得られたポリカーボネートの流動性が不足して成形が困難となったり、流動性を確保しようとして成形温度を高くするとポリカーボネートの着色、分子量の低下、及び分解ガスの発生等を招いたりするという問題がある。一方、流動性を確保するために分子量を下げると、耐衝撃性等の強度に劣るポリカーボネートしか得られず、たとえゴム質重合体を添加してもその効果は限定的である。また、スチレン系樹脂を添加したポリカーボネートは、全光線透過率の点で満足できるものではない。
【0008】
このように、従来より、植物などのバイオマス資源から得られる原料を用いたポリカーボネート樹脂が種々提案されてきたが、透明性及び強度を併せ持つことが要求される建築材料分野、電気・電子分野、自動車分野、光学部品分野等において満足に用いることができるものはなかった。
【0009】
特にスイッチ保護用透明カバー、消し忘れ防止のための点灯式スイッチ、樹脂製盾、二輪車前面のスクリーン、採光用透明建材、カーポート屋根等の用途においては、透明性及び強度を併せ持つことが要求される。しかし、バイオマス資源から得られる原料を用いたポリカーボネート樹脂において、これらの用途に充分に適したものは得られていない。
【0010】
本発明の目的は、前記従来の課題を解消し、優れた透明性及び強度を併せ持ち、建築材料分野、電気・電子分野、自動車分野、及び光学部品分野等において好適に用いることができるポリカーボネート樹脂組成物及びポリカーボネート樹脂成形品を提供しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが検討を行った結果、特定の部位を有するジヒドロキシ化合物由来の構造単位を含有し、所定のガラス転移温度を有するポリカーボネート樹脂と衝撃強度改質剤とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、所定の物性を満たしたものであれば、建築材料分野、電気・電子分野、自動車分野、光学部品分野等において好適に用いることができる、透明性及び強度に優れたポリカーボネート樹脂組成物を実現できることを見出し、本発明の第1の態様を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明の第1の態様の要旨は下記[A1]〜[A11]に存する。
[A1] 構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含有し、ガラス転移温度が145℃未満であるポリカーボネート樹脂と、衝撃強度改質剤とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、
該ポリカーボネート樹脂組成物から成形される厚さ3mmの成形体の全光線透過率が60%以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(但し、前記一般式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)
[A2] 前記ポリカーボネート樹脂100重量部に対する前記衝撃強度改質剤の含有量が1重量部以上25重量部未満であることを特徴とする[A1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[A3] 前記衝撃強度改質剤がブタジエンを含有する共重合物であることを特徴とする[A1]又は[A2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[A4]構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、複素環基を有するジヒドロキシ化合物であることを特徴とする[A1]〜[A3]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[A5]複素環基を有するジヒドロキシ化合物が、下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする[A4]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】

[A6]前記ポリカーボネート樹脂において、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有量は1mol%以上かつ90mol%未満であることを特徴とする[A1]〜[A5]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[A7]前記ポリカーボネート樹脂が、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を更に含むことを特徴とする[A1]〜[A6]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[A8] 前記脂肪族ジヒドロキシ化合物が、脂環式ジヒドロキシ化合物であることを特徴とする[A7]記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[A9] 前記ポリカーボネート樹脂において、ビスフェノール化合物に由来する構造単位の含有量は0mol%以上かつ1mol%未満であることを特徴とする[A1]〜[A8]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[A10] [A1]〜[A9]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形品。
[A11] 前記ポリカーボネート樹脂成形品が、射出成形法により成形して得られることを特徴とする[A10]に記載のポリカーボネート樹脂成形品。
【0013】
本発明の第1の態様によれば、優れた透明性及び強度を併せ持ち、建築材料分野、電気・電子分野、自動車分野、光学部品分野等において好適に用いることができるポリカーボネート樹脂組成物及びポリカーボネート樹脂成形品を提供することができる。
【0014】
また、本発明者らは上述の背景技術における次のような問題点に着目した。
即ち、従来広く用いられてきた芳香族ポリカーボネート樹脂の場合には樹脂そのものの耐衝撃性に優れていたが、イソソルビドを使用する場合には芳香族ポリカーボネート樹脂と比べて耐衝撃性に劣り、改良が必要となる。この問題に対し、ガラス転移温度の高いポリカーボネート樹脂とゴム質重合体とを含有するポリカーボネート樹脂組成物が耐衝撃性を高めるものとして提案されている(上記特許文献6参照)。
【0015】
しかしながら、特許文献6に明確に記載されているポリカーボネート樹脂組成物は、イソソルビドの単独重合体、又はイソソルビドと、少量の1,3−プロパンジオールや1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン等とを共重合したポリカーボネート樹脂を用いたものであり、これらのポリカーボネート樹脂を用いたポリカーボネート樹脂組成物の場合、耐衝撃性、即ち、一般的な物性値としての耐衝撃値は改良されるものの、耐面衝撃性、即ち、より実用物性に近い評価である耐面衝撃値や延性破壊率の改良効果が低く、Office Automation(OA)機器、電子電気部品、精密機器部品の筐体、自動車内外装部品等の用途には適さないという課題が見出された。
【0016】
そこで、本発明の第2の態様の目的は、耐面衝撃性、耐衝撃性等に優れたポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品を提供することにある。
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、ガラス転移温度(Tig)が所定値よりも低く、特定構造を有するポリカーボネート樹脂、及びコア・シェル構造からなる衝撃強度改質剤を含有するポリカーボネート樹脂が、優れた耐面衝撃性、耐衝撃性等を有することを見出し、本発明の第2の態様に到達した。
【0018】
即ち、本発明の第2の態様の要旨は下記[B1]〜[B13]に存する。
[B1] 構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有し、ガラス転移温度(Tig)が145℃未満であるポリカーボネート樹脂と、コア・シェル構造からなる衝撃強度改質剤とを含む、ポリカーボネート樹脂組成物。
【化3】

(ただし、上記式(1)で表される部位が−CH2−O−Hの一部である場合を除く。)
[B2] 前記ポリカーボネート樹脂100重量部に対して前記衝撃強度改質剤を0.05〜50重量部含む、[B1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[B3] 前記ポリカーボネート樹脂が環状構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む、[B1]又は[B2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[B4] 前記ポリカーボネート樹脂が下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む、[B3]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化4】

[B5] 前記衝撃強度改質剤のシェル層が(メタ)アクリル酸アルキルよりなる[B1]〜[B4]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[B6] 前記衝撃強度改質剤のコア層が、アクリル酸アルキル、シリコーン・アクリル複合体、ブタジエン、及びブタジエン−スチレン共重合体からなる群から選ばれる1種以上よりなる、[B5]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[B7] 前記ポリカーボネート樹脂の還元粘度が0.4dL/g以上1.4dL/g以下である、[B1]〜[B6]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[B8] 前記ポリカーボネート樹脂が脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む、[B1]〜[B7]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[B9] 前記ポリカーボネート樹脂が、全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して前記脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を20mol%以上含む、[B7]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[B10] 前記ポリカーボネート樹脂が、5員環構造を有するジヒドロキシ化合物及び6員環構造を有するジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む、[B1]〜[B9]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[B11] 前記ポリカーボネート樹脂が、シクロヘキサンジメタノール類とテトラシクロデカンジメタノール類とからなる群より選ばれる少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む、[B1]〜[B10]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[B12] [B1]〜[B11]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られる、ポリカーボネート樹脂成形品。
[B13] 前記ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形して得られる、[B12]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂成形品。
【0019】
本発明の第2の態様によれば、耐面衝撃性、耐衝撃性等に優れたポリカーボネート樹脂組成物及びそのポリカーボネート樹脂成形品を提供することができる。また、本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物の好ましい態様にあっては、色相、耐熱性、耐光性、成形性、機械的強度等の種々の物性にも優れたものとなる。
【0020】
次に、本発明の第3の態様について説明する。本発明の第3の態様は、次のような背景に鑑みてなされたものである。
従来において、芳香族ポリカーボネート樹脂は優れた耐熱性、耐衝撃性、透明性を有するエンジニアリングプラスチックとして、自動車、OA機器分野などの種々の用途に幅広く使用されている。一方、芳香族ポリカーボネート樹脂は一般的に石油資源から誘導される原料を用いて製造されているが、石油資源の枯渇が危惧されている近年の情勢を考えると、植物などのバイオマス資源から得られる原料を用いたプラスチック成形品の提供が求められている。また、二酸化炭素排出量の増加、蓄積による地球温暖化が、気候変動などをもたらすことが危惧されていることからも、使用後の廃棄処分をしてもカーボンニュートラルな、植物由来モノマーを原料としたプラスチックからのプラスチック成形品資材部品の開発が求められており、特に大型成形品の分野においてはその要求は強い。
【0021】
そこで、このような要求に応えるべく、上述の特許文献1には、植物由来モノマーとしてイソソルビドを使用し、炭酸ジフェニルとのエステル交換により、ポリカーボネートを得ることが提案されている。また、上述の特許文献2には、イソソルビドと他のジヒドロキシ化合物との共重合ポリカーボネートとして、ビスフェノールAを共重合したポリカーボネートが提案されており、更に、上述の特許文献3には、イソソルビドと脂肪族ジオールとを共重合することにより、イソソルビドからなるホモポリカーボネートの剛直性を改善する試みがなされている。一方、上述の特許文献4および上述の特許文献5には、脂環式ジヒドロキシ化合物である1,4−シクロヘキサンジメタノールを重合したポリカーボネートが、多数提案されている。
【0022】
このようにイソソルビドを用いたカーボネート重合体の提案はなされているが、まだ、大型成形品に適用するための耐熱性、耐衝撃性を満足する樹脂は提供されていない状況である。また、これらの文献にて開示されているのは、ガラス転移温度、さらには基本的な機械的特性のみで、上述の大型成形品向けに重要な耐衝撃性については充分に開示されていない。
【0023】
そこで、このような問題を解決すべく、上述の特許文献7には、イソソルビドを含有するポリカーボネート樹脂100質量部に対して、付加重合型ポリマーを25〜400質量部の割合で配合してなる樹脂組成物が開示されている。また、上述の特許文献6には、イソソルビドを含有するポリカーボネート樹脂100質量部に対して、ゴム質重合体1〜30質量部の割合で配合してなる樹脂組成物が開示されている。
【0024】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術において得られたポリカーボネートは、褐色であり、幅広い分野での使用に耐え得る外観を有するものではない。また、特許文献2および特許文献3に開示されている技術においては、機械強度、特に耐衝撃性に劣るため、幅広い分野において使用するには不十分であった。加えて、特許文献4および特許文献5に開示されているポリカーボネートの数平均分子量は4,000程度であり、一般的な芳香族ポリカーボネート樹脂と比較して低く、耐衝撃性、耐熱性に劣るものが多い。
【0025】
さらに、特許文献7に開示されている技術においては、イソソルビドを含有するポリカーボネートにアクリロニトリル−ブタジエン−スチレングラフト共重合体(以下、ABS樹脂ともいう)を配合することで耐衝撃性の向上を図っているものの、劇的な耐衝撃性向上効果は見られず、また、ABS樹脂を配合することによる透明性の低下を生じるため、幅広い分野で使用することは困難である。加えて、特許文献6に開示されている技術においては、ゴム質重合体による耐衝撃性向上効果はABS樹脂と比較して高いものの、透明性の低下は不可避であり、特許文献1と同様に用途が限定される。
【0026】
以上のように、前述した技術においては、透明性、耐熱性、耐衝撃性の全てに優れた樹脂組成物を提供することは非常に困難であった。
そこで本発明の第3の態様の目的は、このような課題に鑑み、透明性、耐熱性、耐衝撃性の全てに優れた樹脂組成物を提供することにある。
【0027】
本発明の第3の態様の要旨は、下記の通りである。
[C1] 構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(b)とを含むポリカーボネート樹脂(A)と、スチレン含有量が10質量%以上、40質量%以下である軟質スチレン系樹脂(B)からなる衝撃強度改質剤とからなる混合物(X)を主成分とするポリカーボネート樹脂組成物であって、前記混合物(X)中に占める(B)の割合が1質量%以上、20質量%以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化5】

(但し、前記一般式(1)で表される部位が−CH2−O−Hの一部である場合を除く。

【0028】
本発明の第3の態様によれば、透明性、耐熱性、耐衝撃性を兼ね備えた樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明において、「重量%」と「質量%」、「重量ppm」と「質量ppm」、及び「重量部」と「質量部」は、それぞれ同義である。
(第1の態様)
以下、本発明の第1の態様を詳細に説明する。尚、本発明の第1の態様は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。
【0030】
<ポリカーボネート樹脂組成物>
ポリカーボネート樹脂組成物は、構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(以下、「本発明のジヒドロキシ化合物」と称することがある。)に由来する構造単位を含有し、ガラス転移温度が145℃未満であるポリカーボネート樹脂と、衝撃強度改質剤とを含み、厚さ3mmの成形体の全光線透過率が60%以上である。
【0031】
【化6】

【0032】
但し、前記一般式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。
すなわち、前記ジヒドロキシ化合物は、二つのヒドロキシル基と、更に前記一般式(1)の部位を少なくとも含むものを言う。
【0033】
前記ポリカーボネート樹脂組成物において、前記全光線透過率が60%未満の場合には、建築材料分野、電気・電子分野、自動車分野、光学部品分野等において好適に用いることが困難になるおそれがある。前記全光線透過率は好ましくは70%以上がよく、より好ましくは80%以上がよい。
また、実現の困難性という観点から、全光線透過率の上限は94%である。
【0034】
前記全光線透過率は、前記ポリカーボネート樹脂組成物におけるジヒドロキシ化合物のモル比率、衝撃強度改質剤の種類または含有量等を調整することにより制御することができる。
【0035】
以下、本発明の第1の態様のポリカーボネート樹脂組成物の詳細について説明する。
<ジヒドロキシ化合物>
前記ポリカーボネート樹脂は、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも有する。
前記ポリカーボネート樹脂において、前記構造単位の含有量は1mol%以上かつ90mol%未満であることが好ましい。
前記構造単位の含有量が上述の範囲から外れて少なすぎる場合には、耐熱性が不足し、熱により成形部材が変形するおそれがある。一方、上述の範囲から外れて多すぎる場合には、高分子量とすることが困難となるため、耐衝撃性が不足し、成形部材使用時に破断するおそれがある。前記ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有量は30mol%以上がより好ましく、50mol%以上がさらにより好ましい。また、前記ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有量はより好ましくは80mol%未満、さらに好ましくは70mol%未満、さらにより好ましくは65mol%以下がよく、最も好ましくは60mol%以下がよい。
【0036】
構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(本発明のジヒドロキシ化合物)としては、分子構造の一部に前記一般式(1)で表されるものを含んでいれば特に限定されるものではないが、具体的には、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのオキシアルキレングリコール類、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基が前記一般式(1)で表される部位であるジヒドロキシ化合物が挙げられる。又下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコール、下記一般式(3)で表されるスピログリコール等の環状エーテル構造を有する化合物等の複素環基の一部が前記一般式(1)で表される部位であるジヒドロキシ化合物が挙げられるが、複素環基の一部が前記一般式(1)で表される部位であるジヒドロキシ化合物が好ましい。下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。また、下記一般式(3)で表されるジヒドロキシ化合物としては、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン(慣用名:スピログリコール)、3,9−ビス(1,1−ジエチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、3,9−ビス(1,1−ジプロピル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、ジオキサングルコールなどが挙げられる。
これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
これらのジヒドロキシ化合物のうち、資源として豊富に存在し、容易に入手可能であるという観点から、複素環基を有する化合物がより好ましく、下記一般式(2)の化合物が特に好ましく、種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが、入手及び製造のし易さ、光学特性、成形性の面から最も好ましい。
【0037】
【化7】

【0038】
【化8】

【0039】
前記一般式(3)中、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素数1〜炭素数3のアルキル基である。
【0040】
尚、イソソルビドに代表されるような構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物は、酸素によって徐々に酸化されやすい。このため、保管や、製造時の取り扱いの際には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤を用いたり、窒素雰囲気下にしたりすることが肝要である。イソソルビドが酸化されると、蟻酸をはじめとする分解物が発生する。例えば、これら分解物を含むイソソルビドを用いてポリカーボネート樹脂を製造すると、得られるポリカーボネート樹脂に着色が発生したり、物性を著しく劣化させる原因となる。また、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られないこともあり、好ましくない。また、蟻酸の発生を防止するような安定剤を添加してあるような場合、安定剤の種類によっては、得られるポリカーボネート樹脂に着色が発生したり、物性を著しく劣化させたりする。
【0041】
そこで、本発明のジヒドロキシ化合物には安定化剤を用いることが好ましい。安定剤としては、還元剤、制酸剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、pH安定剤、熱安定剤等の安定剤を用いることが好ましく、特に酸性下ではジヒドロキシ化合物が変質しやすいことから、塩基性安定剤を含むことが好ましい。このうち還元剤としては、ナトリウムボロハイドライド、リチウムボロハイドライド等が挙げられ、制酸剤としては水酸化ナトリウム等のアルカリが挙げられる。このようなアルカリ金属塩の添加は、アルカリ金属が重合触媒となる場合があるので、過剰に添加し過ぎると重合反応を制御できなくなり、好ましくない。
【0042】
塩基性安定剤としては、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations 2005)における1族又は2族の金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硼酸塩、脂肪酸塩や、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性アンモニウム化合物、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等のアミン系化合物が挙げられる。その中でも、その効果と後述する蒸留除去のしやすさから、ナトリウム又はカリウムのリン酸塩、亜リン酸塩が好ましく、中でもリン酸水素2ナトリウム、亜リン酸水素2ナトリウムが好ましい。
【0043】
これら塩基性安定剤のジヒドロキシ化合物中の含有量に特に制限はないが、少なすぎるとジヒドロキシ化合物の変質を防止する効果が得られない可能性があり、多すぎるとジヒドロキシ化合物の変性を招く場合があるので、通常、ジヒドロキシ化合物に対して、0.0001重量%〜1重量%、好ましくは0.001重量%〜0.1重量%である。
【0044】
また、これら塩基性安定剤を含有したジヒドロキシ化合物をポリカーボネート樹脂の製造原料として用いると、塩基性安定剤自体が重合触媒となり、重合速度や品質の制御が困難になるだけでなく、初期色相の悪化を招き、結果的に得られるポリカーボネート樹脂成形品の耐光性を悪化させるため、ポリカーボネート樹脂の製造原料として使用する前に塩基性安定剤をイオン交換樹脂や蒸留等で除去することが好ましい。
【0045】
特に、ジヒドロキシ化合物がイソソルビド等、環状エーテル構造を有する場合には、酸素によって徐々に酸化されやすいので、保管や、製造時には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤等を用いたり、窒素雰囲気下で取り扱うことが肝要である。イソソルビドが酸化されると、蟻酸等の分解物が発生する場合がある。例えば、これら分解物を含むイソソルビドをポリカーボネート樹脂の製造原料として使用すると、得られるポリカーボネート樹脂の着色を招く可能性があり、また、物性を著しく劣化させる可能性があるだけではなく、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られないことがある。
【0046】
上記酸化分解物を含まないジヒドロキシ化合物を得るために、また、前述の塩基性安定剤を除去するためには、ジヒドロキシ化合物の蒸留精製を行うことが好ましい。この場合の蒸留とは単蒸留であっても、連続蒸留であってもよく、特に限定されない。蒸留の条件としてはアルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気において、減圧下で蒸留を実施することが好ましく、熱による変性を抑制するためには、250℃以下、好ましくは200℃以下、特には180℃以下の条件で行うことが好ましい。
【0047】
このような蒸留精製により、本発明のジヒドロキシ化合物中の蟻酸含有量を20重量ppm以下、好ましくは10重量ppm以下、特に好ましくは5重量ppm以下にすることにより、ポリカーボネート樹脂製造時の重合反応性を損なうことなく、色相や熱安定性に優れたポリカーボネート樹脂の製造が可能となる。蟻酸含有量の測定はイオンクロマトグラフィーを使用し、以下の手順に従い行われる。以下の手順では、代表的なジヒドロキシ化合物として、イソソルビドを例とする。
【0048】
イソソルビド約0.5gを精秤し50mlのメスフラスコに採取して純水で定容する。標準試料として蟻酸ナトリウム水溶液を用い、標準試料とリテンションタイムが一致するピークを蟻酸とし、ピーク面積から絶対検量線法で定量する。
イオンクロマトグラフは、Dionex社製のDX−500型を用い、検出器には電気伝導度検出器を用いた。測定カラムとして、Dionex社製ガードカラムにAG−15、分離カラムにAS−15を用いる。測定試料を100μlのサンプルループに注入し、溶離液に10mM−NaOHを用い、流速1.2ml/分、恒温槽温度35℃で測定する。サプレッサーには、メンブランサプレッサーを用い、再生液には12.5mM−HSO水溶液を用いる。
【0049】
前記ポリカーボネート樹脂は構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位以外に、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を更に含むことが好ましく、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を更に含むことが好ましい。この場合には、柔軟性を付与することができる。
【0050】
<脂肪族ジヒドロキシ化合物>
脂肪族ジヒドロキシ化合物として、例えば、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、水素化ジリノレイルグリコール、水素化ジオレイルグリコール、後述の脂環式ジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
【0051】
<脂環式ジヒドロキシ化合物>
脂環式ジヒドロキシ化合物としては、特に限定されないが、通常、5員環構造又は6員環構造を含む化合物が挙げられる。脂環式ジヒドロキシ化合物が5員環構造又は6員環構造であることにより、得られるポリカーボネート樹脂の耐熱性が高くなる可能性がある。6員環構造は共有結合によって椅子形もしくは舟形に固定されていてもよい。脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素数は通常70以下であり、好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下である。炭素数が過度に大きいと、耐熱性が高くなるが、合成が困難になったり、精製が困難になったり、コストが高価になる傾向がある。炭素数が小さいほど、精製しやすく、入手しやすい傾向がある。
【0052】
5員環構造又は6員環構造を含む脂環式ジヒドロキシ化合物としては、具体的には、下記一般式(I)又は(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物が挙げられる。
HOCH−R−CHOH (I)
HO−R−OH (II)
(但し、式(I),式(II)中、R及びRは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数4〜炭素数20のシクロアルキル構造を含む二価の基を表す。)
【0053】
前記一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるシクロヘキサンジメタノールとしては、一般式(I)において、Rが下記一般式(Ia)(式中、Rは水素原子、又は、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数12のアルキル基を表す。)で示される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0054】
【化9】

【0055】
前記一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるトリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノールとしては、一般式(I)において、Rが下記一般式(Ib)(式中、nは0又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。
【0056】
【化10】

【0057】
前記一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるデカリンジメタノール又は、トリシクロテトラデカンジメタノールとしては、一般式(I)において、Rが下記一般式(Ic)(式中、mは0、又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノール等が挙げられる。
【0058】
【化11】

【0059】
また、前記一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるノルボルナンジメタノールとしては、一般式(I)において、Rが下記一般式(Id)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール等が挙げられる。
【0060】
【化12】

【0061】
一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるアダマンタンジメタノールとしては、一般式(I)において、Rが下記一般式(Ie)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,3−アダマンタンジメタノール等が挙げられる。
【0062】
【化13】

【0063】
また、前記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるシクロヘキサンジオールは、一般式(II)において、Rが下記一般式(IIa)(式中、Rは水素原子、置換又は無置換の炭素数1〜炭素数12のアルキル基を表す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−メチル−1,4−シクロヘキサンジオール等が挙げられる。
【0064】
【化14】

【0065】
前記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるトリシクロデカンジオール、ペンタシクロペンタデカンジオールとしては、一般式(II)において、Rが下記一般式(IIb)(式中、nは0又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。
【0066】
【化15】

【0067】
前記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるデカリンジオール又は、トリシクロテトラデカンジオールとしては、一般式(II)において、Rが下記一般式(IIc)(式中、mは0、又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,6−デカリンジオール、1,5−デカリンジオール、2,3−デカリンジオール等が用いられる。
【0068】
【化16】

【0069】
前記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるノルボルナンジオールとしては、一般式(II)において、Rが下記一般式(IId)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,3−ノルボルナンジオール、2,5−ノルボルナンジオール等が用いられる。
【0070】
【化17】

【0071】
前記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるアダマンタンジオールとしては、一般式(II)において、Rが下記一般式(IIe)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては具体的には、1,3−アダマンタンジオール等が用いられる。
【0072】
【化18】

【0073】
上述した脂環式ジヒドロキシ化合物の具体例のうち、シクロヘキサンジメタノール類、トリシクロデカンジメタノール類、アダマンタンジオール類、ペンタシクロペンタデカンジメタノール類が好ましく、入手のしやすさ、取り扱いのしやすさという観点から、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールが特に好ましい。
【0074】
尚、前記例示化合物は、本発明の第1の態様に使用し得る脂環式ジヒドロキシ化合物の一例であって、何らこれらに限定されるものではない。これらの脂環式ジヒドロキシ化合物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0075】
前記ポリカーボネート樹脂において、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位とのモル比率は、任意の割合で選択できるが、前記モル比率を調整することで、撃強度(例えば、ノッチ付きシャルピー衝撃強度)が向上する可能性があり、更にポリカーボネート樹脂の所望のガラス転移温度を得ることが可能である。
【0076】
前記ポリカーボネート樹脂において、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位とのモル比率は、80:20〜30:70であることが好ましく、70:30〜40:60であるのが更に好ましい。前記範囲よりも構造の一部に前記一般式(1)で表わされる部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位の割合が多いと着色しやすくなり、逆に構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位の割合が少ないと高分子量とすることが困難となり、衝撃強度を向上させることが困難になり、又、ガラス転移温度が低下する傾向がある。
【0077】
前記ポリカーボネート樹脂においては構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位に加えて、更にその他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含んでいても良い。その他のジヒドロキシ化合物としては、芳香族系ジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
【0078】
芳香族系ジヒドロキシ化合物としては、ビスフェノール化合物(本発明の第1の態様においては置換、非置換を含む)が挙げられ、具体的には、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等の芳香族環上に置換基を有しないビスフェノール化合物;ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン等の芳香族環上に置換基としてアリール基を有するビスフェノール化合物;ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−(sec−ブチル)フェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)シクロヘキサン等の芳香族環上に置換基としてアルキル基を有するビスフェノール化合物;ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジベンジルメタン等の芳香族環を連結する2価基が置換基としてアリール基を有するビスフェノール化合物;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル等の芳香族環をエーテル結合で連結したビスフェノール化合物;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン等の芳香族環をスルホン結合で連結したビスフェノール化合物;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド等の芳香族環をスルフィド結合で連結したビスフェノール化合物等が挙げられるが、好ましくは2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」と略記することがある。)が挙げられる。
【0079】
上述のビスフェノール化合物に由来する構造単位の含有量は、0mol%以上かつ1mol%未満が好ましく、0mol%以上かつ0.8mol%未満がより好ましく、0mol%以上かつ0.5mol%未満がさらにより好ましい。ビスフェノール化合物に由来する構造単位の含有量が多すぎる場合には、着色が顕著になってしまうおそれがある。
【0080】
上述のその他のヒドロキシ化合物は1種を単独で用いられていてもよく、2種以上を混合して用いられていてもよい。
【0081】
(炭酸ジエステル)
本発明の第1の態様におけるポリカーボネート樹脂は、一般に用いられる重合方法で製造することができ、その重合方法は、ホスゲンを用いた界面重合法、炭酸ジエステルとエステル交換反応させる溶融重合法のいずれの方法でもよいが、重合触媒の存在下に、ジヒドロキシ化合物を、より環境への毒性の低い炭酸ジエステルと反応させる溶融重合法が好ましい。
前記ポリカーボネート樹脂は、上述した本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換反応させる溶融重合法により得ることができる。
用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記一般式(4)で表されるものが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0082】
【化19】

【0083】
一般式(4)において、A1及びA2は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数18の脂肪族基、または、置換若しくは無置換の芳香族基である。
前記一般式(4)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びジ−t−ブチルカーボネート等が例示されるが、好ましくはジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートであり、特に好ましくはジフェニルカーボネートである。なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合があり、重合反応を阻害したり、得られるポリカーボネート樹脂の色相を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留などにより精製したものを使用することが好ましい。
【0084】
炭酸ジエステルは、溶融重合に使用した全ジヒドロキシ化合物に対して、0.90〜1.20のモル比率で用いることが好ましく、0.95〜1.10のモル比率で用いることがより好ましく、0.96〜1.10のモル比率で用いることがさらにより好ましく、特に好ましくは、0.98〜1.04のモル比率で用いることがよい。
このモル比率が0.90より小さくなると、製造されたポリカーボネート樹脂の末端ヒドロキシル基が増加して、ポリマーの熱安定性が悪化し、ポリカーボネート樹脂組成物を成形する際に着色を招いたり、エステル交換反応の速度が低下したり、所望の高分子量体が得られない可能性がある。
また、モル比率が1.20より大きくなると、同一条件下ではエステル交換反応の速度が低下し、所望とする分子量のポリカーボネート樹脂の製造が困難となるばかりか、製造されたポリカーボネート樹脂中の残存炭酸ジエステル量が増加し、この残存炭酸ジエステルが、成形時、或いは成形品の臭気の原因となり好ましくない場合があり、重合反応時の熱履歴を増大させ、結果的に得られたポリカーボネート樹脂の色相や耐候性を悪化させる可能性がある。
【0085】
更には、全ジヒドロキシ化合物に対する、炭酸ジエステルのモル比率が増大すると、得られるポリカーボネート樹脂中の残存炭酸ジエステル量が増加し、これらが紫外線を吸収してポリカーボネート樹脂の耐光性を悪化させる場合があり、好ましくない。本発明のポリカーボネート樹脂に残存する炭酸ジエステルの濃度は、好ましくは200重量ppm以下、更に好ましくは100重量ppm以下、特に好ましくは60重量ppm以下、中でも30重量ppm以下が好適である。ただし、現実的にポリカーボネート樹脂は未反応の炭酸ジエステルを含むことがあり、ポリカーボネート樹脂中の未反応の炭酸ジエステル濃度の下限値は通常1重量ppmである。
【0086】
<エステル交換反応触媒>
前記ポリカーボネート樹脂は、上述のように本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と前記一般式(4)で表される炭酸ジエステルをエステル交換反応させて製造することができる。より詳細には、エステル交換反応させ、副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得られる。この場合、通常、エステル交換反応触媒存在下でエステル交換反応により溶融重合を行う。
【0087】
前記ポリカーボネート樹脂の製造時に使用し得るエステル交換反応触媒(以下、「触媒」と称する場合がある)としては、例えば長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations 2005)における1族または2族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。好ましくは1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が使用される。
1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
また、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の形態としては通常、水酸化物、又は炭酸塩、カルボン酸塩、フェノール塩といった塩の形態で用いられるが、入手のし易さ、取扱いの容易さから、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩が好ましく、色相と重合活性の観点からは酢酸塩が好ましい。
【0088】
1族金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩等が挙げられ、中でもセシウム化合物、リチウム化合物が好ましい。
【0089】
2族金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられ、中でもマグネシウム化合物、カルシウム化合物、バリウム化合物が好ましく、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物が更に好ましい。
【0090】
塩基性ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、あるいはストロンチウム塩等が挙げられる。
【0091】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0092】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0093】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
【0094】
上記の中でも、長周期型周期表第2族の金属化合物及びリチウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物を触媒として用いるのが、得られるポリカーボネート樹脂の透明性、色相、耐光性等の種々の物性を優れたものとするために好ましい。
【0095】
また、上記ポリカーボネート樹脂の透明性、色相、耐光性を特に優れたものとするために、触媒が、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物であるのが好ましい。
【0096】
前記触媒の使用量は、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の場合、重合に使用した全ジヒドロキシ化合物1モルに対して、金属換算量として、好ましくは0.1μモル〜300μモル、より好ましくは0.1μモル〜100μモル、さらに好ましくは0.5μモル〜50μモル、更により好ましくは1μモル〜25μモルの範囲内である。
【0097】
上記の中でもリチウム及び長周期型周期表における2族からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を用いる場合、特にはマグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物を用いる場合は、金属量として、前記全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、好ましくは0.1μmol以上、更に好ましくは0.5μmol以上、特に好ましくは0.7μmol以上とする。また上限としては、好ましくは20μmol、更に好ましくは10μmol、特に好ましくは3μmol、最も好ましくは2.0μmolである。
【0098】
触媒の使用量が少なすぎると、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造するのに必要な重合活性が得られず、充分な破壊エネルギーが得られない可能性がある。一方、触媒の使用量が多すぎると、得られるポリカーボネート樹脂の色相が悪化するだけでなく、副生成物が発生したりして流動性の低下やゲルの発生が多くなり、脆性破壊の起因となる場合があり、目標とする品質のポリカーボネート樹脂の製造が困難になる可能性がある。
【0099】
<ポリカーボネート樹脂の製造方法>
前記ポリカーボネート樹脂は、本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換反応により溶融重合させることによって得られるが、原料であるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは、エステル交換反応前に均一に混合することが好ましい。
混合の温度は通常80℃以上、好ましくは90℃以上であり、その上限は通常250℃以下、好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下である。中でも100℃以上120℃以下が好適である。混合の温度が低すぎると溶解速度が遅かったり、溶解度が不足する可能性があり、しばしば固化等の不具合を招き、混合の温度が高すぎるとジヒドロキシ化合物の熱劣化を招く場合があり、結果的に得られるポリカーボネート樹脂の色相が悪化し、耐光性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0100】
また、ジヒドロキシ化合物(1)を含むジヒドロキシ化合物と前記式(4)で表される炭酸ジエステルとを混合する操作は、酸素濃度10体積%以下、更には0.0001体積%〜10体積%、中でも0.0001体積%〜5体積%、特には0.0001体積%〜1体積%の雰囲気下で行うことが、得られるポリカーボネート樹脂の色相悪化防止の観点から好ましい。
【0101】
前記ポリカーボネート樹脂は、触媒を用いて、複数の反応器を用いて多段階で溶融重合させて製造することが好ましいが、溶融重合を複数の反応器で実施する理由は、溶融重合反応初期においては、反応液中に含まれるモノマーが多いために、必要な重合速度を維持しつつ、モノマーの揮散を抑制してやることが重要であり、溶融重合反応後期においては、平衡を重合側にシフトさせるために、副生するモノヒドロキシ化合物を十分留去させることが重要になるためである。このように、異なった重合反応条件を設定するには、直列に配置された複数の反応器を用いることが、生産効率の観点から好ましい。前記反応器は、上述の通り、少なくとも2つ以上であればよいが、生産効率などの観点からは、3つ以上、好ましくは3〜5つ、特に好ましくは、4つである。反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせのいずれの方法でもよい。
【0102】
更には、留出するモノマーの量を抑制するために、重合反応器に還流冷却器を用いることは有効であり、特に未反応モノマー成分が多い重合初期の反応器でその効果は大きい。還流冷却器に導入される冷媒の温度は使用するモノマーに応じて適宜選択することができるが、通常、還流冷却器に導入される冷媒の温度は該還流冷却器の入口において45℃〜180℃であり、好ましくは80℃〜150℃、特に好ましくは100℃〜130℃である。還流冷却器に導入される冷媒の温度が高すぎると還流量が減り、その効果が低下し、低すぎると、本来留去すべきモノヒドロキシ化合物の留去効率が低下する傾向にある。冷媒としては、温水、蒸気、熱媒オイル等が用いられ、蒸気、熱媒オイルが好ましい。
【0103】
重合速度を適切に維持し、モノマーの留出を抑制しながら、最終的に得られるポリカーボネート樹脂の色相や熱安定性、耐光性等を損なわないようにするためには、前述の触媒の種類と量の選定が重要である。
【0104】
前記ポリカーボネート樹脂の製造にあたっては、前記反応器が2つ以上であれば、その反応器中で、更に条件の異なる反応段階を複数持たせる、連続的に温度・圧力を変えていくなどしてもよい。
【0105】
前記ポリカーボネート樹脂の製造において、触媒は原料調製槽、原料貯槽に添加することもできるし、反応器に直接添加することもできるが、供給の安定性、溶融重合の制御の観点からは、反応器に供給される前の原料ラインの途中に触媒供給ラインを設置し、好ましくは水溶液で供給する。
【0106】
重合条件としては、重合初期においては、相対的に低温、低真空でプレポリマーを得、重合後期においては相対的に高温、高真空で所定の値まで分子量を上昇させることが好ましいが、各分子量段階でのジャケット温度と内温、反応系内の圧力を適切に選択することが、得られるポリカーボネート樹脂の色相や耐光性の観点から重要である。例えば、重合反応が所定の値に到達する前に温度、圧力のどちらか一方でも早く変化させすぎると、未反応のモノマーが留出し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのmol比を狂わせ、重合速度の低下を招いたり、所定の分子量や末端基を持つポリマーが得られなかったりして結果的に本発明の目的を達成することができない可能性がある。
【0107】
エステル交換反応の温度は、低すぎると生産性の低下や製品への熱履歴の増大を招き、高すぎるとモノマーの揮散を招くだけでなく、ポリカーボネート樹脂の分解や着色を助長する可能性がある。
【0108】
前記ポリカーボネート樹脂の製造において、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを触媒の存在下、エステル交換反応させる方法は、通常、2段階以上の多段工程で実施される。具体的には、第1段目のエステル交換反応温度(以下、「内温」と称する場合がある)は好ましくは140℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは180℃以上、さらにより好ましくは200℃以上であることがよい。また、第1段目のエステル交換反応温度は、好ましくは270℃以下、より好ましくは240℃以下、さらに好ましくは230℃以下、さらにより好ましくは220℃以下であることがよい。第1段目のエステル交換反応における滞留時間は通常0.1時間〜10時間、好ましくは0.5時間〜3時間であり、第1段目のエステル交換反応は、発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施される。第2段目以降はエステル交換反応温度を上げていき、通常、210℃〜270℃、好ましくは220℃〜250℃の温度でエステル交換反応を行い、同時に発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げながら最終的には反応系の圧力が200Pa以下、通常0.1時間〜10時間、好ましくは0.5時間〜6時間、特に好ましくは1時間〜3時間重縮合反応が行われる。エステル交換反応温度が過度に高いと、成形品としたときに色相が悪化し、脆性破壊しやすい可能性がある。エステル交換反応温度が過度に低いと、目標とする分子量が上がらず、又分子量分布が広くなり、衝撃強度が劣る場合がある。又、エステル交換反応の滞留時間が過度に長いと、脆性破壊しやすい場合がある。滞留時間が過度に短いと、目標とする分子量が上がらず衝撃強度が劣る場合がある。
【0109】
副生したモノヒドロキシ化合物は、資源有効活用の観点から、必要に応じ精製を行った後、炭酸ジエステルや、各種ビスフェノール化合物の原料として再利用することが好ましい。
【0110】
特にポリカーボネート樹脂の着色や熱劣化あるいはヤケを抑制し、衝撃強度が高い良好なポリカーボネート樹脂を得るには、全反応段階における内温の最高温度が255℃未満、より好ましくは250℃以下、特に225℃〜245℃であることが好ましい。また、重合反応後半の重合速度の低下を抑止し、熱履歴によるポリカーボネート樹脂の熱劣化を最小限に抑えるために、反応の最終段階でプラグフロー性と界面更新性に優れた横型反応器を使用することが好ましい。
【0111】
また、衝撃強度の高いポリカーボネート樹脂を企図し、分子量の高いポリカーボネート樹脂を得るため、出来るだけ重合温度を高め、重合時間を長くする場合があるが、ポリカーボネート樹脂中の異物やヤケが発生し、脆性破壊しやすくなる傾向にある。よって、衝撃強度が高くすることと脆性破壊をしにくくすることの双方を満足させるためには、重合温度を低く抑え、重合時間短縮のために高活性の触媒の使用、適正な反応系の圧力の設定等が好ましい。更に、反応の中途あるいは反応の最終において、フィルター等により反応系で発生した異物やヤケ等を除去することも脆性破壊をしにくくするために好ましい。
【0112】
なお、前記式(4)で表される炭酸ジエステルとして、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートを用いてポリカーボネート樹脂を製造する場合は、フェノール、置換フェノールが副生し、ポリカーボネート樹脂中に残存することは避けられないが、フェノール、置換フェノールも芳香環を有することから紫外線を吸収し、耐光性の悪化要因になる場合があるだけでなく、成形時の臭気の原因となる場合がある。ポリカーボネート樹脂中には、通常のバッチ反応後は1000重量ppm以上の副生フェノール等の芳香環を有する芳香族モノヒドロキシ化合物が含まれているが、耐光性や臭気低減の観点からは、脱揮性能に優れた横型反応器や真空ベント付の押出機を用いて、ポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量を好ましくは700重量ppm以下、更に好ましくは500重量ppm以下、特には300重量ppm以下にすることが好ましい。ただし、工業的に完全に除去することは困難であり、ポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の下限は通常1重量ppmである。尚、これら芳香族モノヒドロキシ化合物は、用いる原料により、当然置換基を有していてもよく、例えば、炭素数が5以下であるアルキル基等を有していてもよい。
【0113】
また、1族金属、中でもリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、特にはナトリウム、カリウム、セシウムは、使用する触媒からのみではなく、原料や反応装置から混入する場合があるが、これらの金属がポリカーボネート樹脂中に多く含まれると色相に悪影響を及ぼす可能性があるため、本発明のポリカーボネート樹脂中のこれらの化合物の合計量は、少ない方が好ましく、ポリカーボネート樹脂中の金属量として、通常1重量ppm以下、好ましくは0.8重量ppm以下、より好ましくは0.7重量ppm以下である。
【0114】
ポリカーボネート樹脂中の金属量は、従来公知の種々の方法により測定可能であるが、湿式灰化等の方法でポリカーボネート樹脂中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、Inductively Coupled Plasma(ICP)等の方法を使用して測定することが出来る。
【0115】
前記ポリカーボネート樹脂は、上述の通り溶融重合後、通常、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化される。
ペレット化の方法は限定されるものではないが、最終重合反応器からポリカーボネート樹脂を溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させてペレット化させる方法、最終重合反応器から溶融状態で一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法、又は、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させて一旦ペレット化させた後に、再度一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法等が挙げられる。
その際、押出機中で、残存モノマーの減圧脱揮や、通常知られている、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、難燃剤等を添加、混練することも出来る。
【0116】
押出機中の、溶融混練温度は、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度や分子量に依存するが、通常150℃〜300℃、好ましくは200℃〜270℃、更に好ましくは230℃〜260℃である。溶融混練温度が150℃より低いと、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が高く、押出機への負荷が大きくなり、生産性が低下する。300℃より高いと、ポリカーボネートの熱劣化が激しくなり、分子量の低下による機械的強度の低下や、着色や、ガスの発生や、異物の発生、更にはヤケの発生を招く。前記異物やヤケの除去のためのフィルターは該押出機中あるいは押出機出口に設置することが好ましい。
【0117】
前記フィルターの異物除去の大きさ(目開き)は、99%以上の異物を除去するという濾過精度を目標として、通常400μm以下、好ましくは200μm以下、特に好ましくは100μm以下である。フィルターの目開きが過度に大きいと、異物やヤケの除去に漏れが生じる場合があり、ポリカーボネート樹脂を成形した場合、脆性破壊を起こす可能性がある。また前記フィルターの目開きは、上記ポリカーボネート樹脂組成物の用途に応じて調整することができる。例えばフィルム用途に適用する場合には、欠陥を排除するという要求から前記フィルターの目開きは40μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
更に、前記フィルターは複数個を直列に設置して使用してもよく、又リーフディスク型ポリマーフィルターを複数枚積層した濾過装置を使用してもよい。
【0118】
又、押出成形されたポリカーボネート樹脂を冷却しチップ化する際は、空冷、水冷等の冷却方法を使用するのが好ましい。空冷の際に使用する空気は、HEPAフィルター(JIS Z8112で規定されるフィルターが好ましい。)等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用し、空気中の異物の再付着を防ぐのが望ましい。より好ましくはJIS B 9920(2002年)に定義されるクラス7、更に好ましくはクラス6より清浄度の高いクリーンルームのなかで実施することが好ましい。水冷を使用する際は、イオン交換樹脂等で水中の金属分を取り除き、更にフィルターにて水中の異物を取り除いた水を使用することが望ましい。用いるフィルターの目開きは種々あるが、10〜0.45μmのフィルターのものが好ましい。
【0119】
前記ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)は、145℃未満が好ましい。この範囲を超えてガラス転移温度が高すぎる場合には、着色し易くなり、衝撃強度を向上させることが困難になるおそれがある。また、この場合には、成形時において金型表面の形状を成形品に転写させる際に、金型温度を高く設定する必要がある。そのため、選択できる温度調節機が制限されてしまったり、金型表面の転写性が悪化したりするおそれがある。
前記ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、より好ましくは140℃未満、さらにより好ましくは135℃未満がよい。
また、前記ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は通常90℃以上であり、好ましくは95℃以上がよい。
【0120】
前記ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度を145℃未満とする方法としては、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合を少なくしたり、耐熱性の低い脂環式ジヒドロキシ化合物を選定したり、ビスフェノール化合物等の芳香族系ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合を少なくしたりする方法等が挙げられる。
本発明の第1の態様において、前記ガラス転移温度は、後述の実施例に記載の方法で測定されたものである。
【0121】
前記ポリカーボネート樹脂の重合度は、溶媒としてフェノールと1,1,2,2,−テトラクロロエタンの重量比1:1の混合溶媒を用い、ポリカーボネート濃度を1.00g/dlに精密に調整し、温度30.0℃±0.1℃で測定した還元粘度(以下、単に「還元粘度」と記す場合がある。)として、好ましくは0.40dl/g以上、更に好ましくは0.42dl/g以上、特に好ましくは0.45dl/g以上であるが、上記ポリカーボネート樹脂組成物の用途によっては、0.60dl/g以上、更には0.85dl/g以上のものが好適に用いられる場合がある。又好ましくは2.0dl/g以下、更に好ましくは1.7dl/g以下、特に好ましくは1.4dl/g以下である。ポリカーボネート樹脂の還元粘度が過度に低いと、機械的強度が弱くなる場合があり、ポリカーボネート樹脂の還元粘度が過度に高いと、成形する際の流動性が低下し、サイクル特性を低下させ、成形品の歪みが大きくなり熱により変形し易い傾向がある。
【0122】
前記ポリカーボネート樹脂を溶融重合法で製造する際に、着色を防止する目的で、リン酸化合物や亜リン酸化合物の1種又は2種以上を重合時に添加することができる。
【0123】
リン酸化合物としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸トリアルキルの1種又は2種以上が好適に用いられる。これらは、全ヒドロキシ化合物成分に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下添加することが好ましく、更に好ましくは0.0003モル%以上0.003モル%以下添加することが好ましい。リン化合物の添加量が前記下限より少ないと、着色防止効果が小さく、前記上限より多いと、透明性が低下する原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりする。
【0124】
又、亜リン酸化合物としては、下記に示す熱安定剤を任意に選択して使用できる。特に、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトの1種又は2種以上が好適に使用できる。これらの亜リン酸化合物は、全ヒドロキシ化合物成分に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下添加することが好ましく、更に好ましくは0.0003モル%以上0.003モル%以下添加することが好ましい。亜リン酸化合物の添加量が前記下限より少ないと、着色防止効果が小さく、前記上限より多いと、透明性が低下する原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりすることもある。
【0125】
リン酸化合物と亜リン酸化合物は併用して添加することができるが、その場合の添加量はリン酸化合物と亜リン酸化合物の総量で、先に記載した、全ヒドロキシ化合物成分に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下とすることが好ましく、更に好ましくは0.0003モル%以上0.003モル%以下である。この添加量が前記下限より少ないと、着色防止効果が小さく、前記上限より多いと、透明性が低下する原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりすることもある。
【0126】
又、このようにして製造されたポリカーボネート樹脂には、成形時等における分子量の低下や色相の悪化を防止するために熱安定剤の1種又は2種以上が配合されていてもよい。
【0127】
かかる熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸、及びこれらのエステル等が挙げられ、具体的には、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。なかでも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、及びベンゼンホスホン酸ジメチルが好ましく使用される。
【0128】
かかる熱安定剤は、溶融重合時に添加した添加量に加えて更に追加で配合することができる。即ち、適当量の亜リン酸化合物やリン酸化合物を配合して、ポリカーボネート樹脂を得た後に、後に記載する配合方法で、更に亜リン酸化合物を配合すると、重合時の透明性の低下、着色、及び耐熱性の低下を回避して、更に多くの熱安定剤を配合でき、色相の悪化の防止が可能となる。
【0129】
これらの熱安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.0001重量部〜1重量部が好ましく、0.0005重量部〜0.5重量部がより好ましく、0.001重量部〜0.2重量部が更に好ましい。
【0130】
<衝撃強度改質剤>
本発明の第1の態様のポリカーボネート樹脂組成物は、前記ポリカーボネート樹脂と、衝撃強度改質剤とを含有する。特に、本発明の第1の態様の特徴の一つは、前記ジヒドロキシ化合物由来の構造単位を含有し、ガラス転移温度が145℃未満である前記ポリカーボネート樹脂と、衝撃強度改質剤との組み合わせにある。
即ち、ガラス転移温度145℃未満の前記ポリカーボネート樹脂は、着色が少なく、耐熱性及び耐衝撃性においてバランスのとれた樹脂ではあるが、実用的には耐衝撃性のさらなる改良が必要となる場合がある。そこで、本発明の第1の態様のポリカーボネート樹脂組成物においては、前記ポリカーボネート樹脂と共に前記衝撃強度改質剤を含有させることにより、上述の欠点を改良し、耐熱性と耐衝撃性の両立を達成したものである。さらに、前記ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度を145℃未満とすると、低い溶融粘度のままで高い還元粘度を達成することができる。そして、かかるポリカーボネート樹脂と衝撃強度改質剤とを組み合わせることにより、ガラス転移温度が145℃以上の場合と比較して、相乗的に耐衝撃性を向上させることができる。その上、本発明の第1の態様のポリカーボネート樹脂組成物においては、溶融粘度を抑えたまま、還元粘度を高くすることにより、成形性と耐衝撃性の両立も容易となる。また、本発明の第1の態様のポリカーボネート樹脂組成物においては、衝撃強度改質剤を含有しているにもかかわらず、透明性を大きく損なうこともない。
【0131】
前記ポリカーボネート樹脂においては、前記ポリカーボネート樹脂100重量部に対する前記衝撃強度改質剤の含有量が1重量部以上25重量部未満であることが好ましい。
前記衝撃強度改質剤の含有量が上述の範囲から外れて少なすぎる場合には、充分な衝撃強度の改質効果が得られず、成形部材が破断するおそれがある。一方、上述の範囲から外れて多すぎる場合には、良好な成形性が損なわれて成形時にヤケが発生したり、透明性が損なわれたりするおそれがある。前記衝撃強度改質剤の含有量は、より好ましくは20重量部未満、さらに好ましくは15重量部未満がよい。
【0132】
前記衝撃強度改質剤としては、通常知られる耐衝撃強度を向上するものを使用することが可能であり、例えばゴム弾性を有する材料を用いることができる。
耐衝撃強度改質剤としては、エラストマーを用いることが好ましく、中でも熱可塑性のエラストマーを用いることが好ましい。熱可塑性エラストマーとしては、各種共重合樹脂が用いられるが、ガラス転移温度が通常0℃以下、中でも−10℃以下のものが好ましく、−20℃以下のものがより好ましく、更には−30℃以下のものが好ましい。
より具体的には、衝撃強度改質剤としては、例えばSB(スチレン−ブタジエン)共重合体、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレンブロック)共重合体、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)共重合体、MBS(メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン)共重合体、MABS(メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)共重合体、MB(メチルメタクリレート−ブタジエン)共重合体、ASA(アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム)共重合体、AES(アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン)共重合体、MA(メチルメタクリレート−アクリルゴム)共重合体、MAS(メチルメタクリレート−アクリルゴム−スチレン)共重合体、メチルメタクリレート−アクリル−ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート−アクリル−ブタジエンゴム−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−(アクリル−シリコーンIPNゴム)共重合体、及び天然ゴム等を用いることができる。
【0133】
好ましくは、前記衝撃強度改質剤はブタジエンを含有する共重合物であることがよい。
この場合には、前記ポリカーボネート樹脂との組み合わせにおいて特に顕著な衝撃強度改質効果を得ることができる。
【0134】
ブタジエンを含有する共重合物としては、具体的には、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレンブロック)共重合体、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)共重合体、MBS(メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン)共重合体、MABS(メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)共重合体、MB(メチルメタクリレート−ブタジエン)共重合体、メチルメタクリレート−アクリル−ブタジエンゴム共重合体等がある。
【0135】
前記ポリカーボネート樹脂組成物は、前記ポリカーボネート樹脂と前記衝撃強度改質剤とを混合することにより製造することができる。
具体的には、例えばペレット状の前記ポリカーボネート樹脂と、前記衝撃強度改質剤とを押出機を用いて混合し、ストランド状に押出し、回転式カッター等でペレット状にカットすることによりポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。
前記ポリカーボネート樹脂組成物のノッチ付シャルピー衝撃強度は、15kJ/m2以上が好ましく、20kJ/m2以上がより好ましく、25kJ/m2以上がさらに好ましく、40kJ/m2以上がさらにより好ましく、49kJ/m2以上が特に好ましい。また、実現の困難性という観点から、前記ポリカーボネート樹脂組成物のノッチ付シャルピー衝撃強度の上限は200kJ/m2である。
【0136】
前記ノッチ付シャルピー衝撃強度は、前記ポリカーボネート樹脂組成物における分子量、ジヒドロキシ化合物のモル比率、衝撃強度改質剤の種類または含有量等を調整することにより、制御することができる。
【0137】
前記ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度は300Pa・s以上が好ましい。溶融粘度が上述の範囲から外れて低すぎる場合には、機械的強度が不足し、射出成形等の成形後に金型から取り出す際に成形品が割れたり、成形品の使用時にクラックが発生したりするおそれがある。前記ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度は、より好ましくは450Pa・s以上、さらに好ましくは500Pa・s以上がよい。
また、前記ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度は800Pa・s以下が好ましい。溶融粘度が上述の範囲から外れて高すぎる場合には、強度の高いポリカーボネート樹脂組成物を工業的に製造することが困難になるおそれがある。また、この場合には、流動性の悪化や成型温度の上昇による着色、分子量の低下、分解ガスの発生等を招きやすくなるおそれがある。前記ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度は、より好ましくは700Pa・s以下、さらに好ましくは640Pa・s以下がよい。
【0138】
前記ポリカーボネート樹脂と前記衝撃強度改質剤との混合時には、必要に応じて適宜下記の酸化防止剤、離型剤等の添加剤を添加することができる。
前記ポリカーボネート樹脂組成物には、酸化防止の目的で通常知られた酸化防止剤の1種又は2種以上を配合することができる。
【0139】
酸化防止剤を用いる場合には、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、通常0.0001重量部以上1重量部以下であり、好ましくは0.001重量部以上、より好ましくは0.01重量部以上であり、また、通常1重量部以下であり、好ましくは0.5重量部以下、より好ましくは0.3重量部以下である。
【0140】
酸化防止剤の含有量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対し、上記下限以上であると成形時の着色抑制効果が良好となる傾向があるが、酸化防止剤の含有量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対し、上記上限より多いと射出成形時における金型への付着物が多くなったり、押出成形によりフィルムを成形する際にロールへの付着物が多くなったりすることにより、製品の表面外観が損なわれるおそれがある。
【0141】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、ホスフェイト系酸化防止剤及びイオウ系酸化防止剤からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましく、フェノール系酸化防止剤及び/又はホスフェイト系酸化防止剤が更に好ましい。
【0142】
フェノール系酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンなどの化合物が挙げられる。
【0143】
これらの化合物の中でも、炭素数5以上のアルキル基によって1つ以上置換された芳香族モノヒドロキシ化合物が好ましく、具体的には、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなどが好ましく、ペンタエリスリトール−テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが更に好ましい。
【0144】
ホスフェイト系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。
【0145】
これらの中でも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが更に好ましい。
【0146】
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ビス[2−メチル−4−(3−ラウリルチオプロピオニルオキシ)−5−tert−ブチルフェニル]スルフィド、オクタデシルジスルフィド、メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプト−6−メチルベンズイミダゾール、1,1’−チオビス(2−ナフトール)などが挙げられる。上記のうち、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)が好ましい。
【0147】
又、前記ポリカーボネート樹脂組成物には、シート成形時の冷却ロールからのロール離れ、或いは射出成形時の金型からの離型性をより向上させるため等に、本発明の目的を損なわない範囲で離型剤が配合されていてもよい。
【0148】
かかる離型剤としては、一価又は多価アルコールの高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸、パラフィンワックス、蜜蝋、オレフィン系ワックス、カルボキシ基及び/又はカルボン酸無水物基を含有するオレフィン系ワックス、シリコーンオイル、オルガノポリシロキサン等が挙げられる。離型剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0149】
高級脂肪酸エステルとしては、炭素数1〜炭素数20の一価又は多価アルコールと炭素数10〜炭素数30の飽和脂肪酸との部分エステル又は全エステルが好ましい。かかる一価又は多価アルコールと飽和脂肪酸との部分エステル又は全エステルとしては、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸モノグリセリド、ベヘニン酸ベヘニル、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリルステアレート、パルミチルパルミテート、ブチルステアレート、メチルラウレート、イソプロピルパルミテート、ビフェニルビフェネ−ト、ソルビタンモノステアレート、2−エチルヘキシルステアレート等が挙げられる。なかでも、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ベヘニン酸ベヘニルが好ましく用いられる。離型性と透明性の観点から離型剤としてより好ましいのはステアリン酸エステルである。
【0150】
ステアリン酸エステルとしては、置換又は無置換の炭素数1〜炭素数20の一価又は多価アルコールとステアリン酸との部分エステル又は全エステルが好ましい。かかる一価又は多価アルコールとステアリン酸との部分エステル又は全エステルとしては、エチレングリコールジステアレート、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ステアリン酸ステアリル、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリルステアレート、ブチルステアレート、ソルビタンモノステアレート、2−エチルヘキシルステアレートなどがより好ましい。なかでも、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ステアリルステアレートが更に好ましく、エチレングリコールジステアレート、ステアリン酸モノグリセリドが特に好ましい。
【0151】
高級脂肪酸としては、置換又は無置換の炭素数10〜炭素数30の飽和脂肪酸が好ましい。なかでも無置換の炭素数10〜炭素数30の飽和脂肪酸がより好ましく、このような高級脂肪酸としては、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等が挙げられる。炭素数16〜18の飽和脂肪酸が更に好ましく、このような飽和脂肪酸としてパルミチン酸、ステアリン酸などが挙げられるが、ステアリン酸が特に好ましい。
【0152】
離型剤を用いる場合には、その配合量はポリカーボネート樹脂100重量部に対し、通常0.001重量部以上、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.1重量部以上であり、また、通常2重量部以下、好ましくは1重量部以下、より好ましくは0.5重量部以下である。離型剤の含有量が過度に多いと成形時に金型付着物が増える場合があり、大量に成形を実施した場合には金型の整備に労力を要する可能性があり、また、得られる成形品に外観不良をきたす可能性がある。ポリカーボネート樹脂組成物中の離型剤の含有量が上記下限以上であると成形時、成形品が金型から離型しやすくなり、成形品が取得しやすいという利点がある。
【0153】
又、前記ポリカーボネート樹脂組成物は、紫外線による変色は従来のポリカーボネート樹脂に比較して著しく小さいが、更に改良の目的で、本発明の目的を損なわない範囲で、紫外線吸収剤、光安定剤の1種又は2種以上が配合されていてもよい。
【0154】
ここで、紫外線吸収剤としては、紫外線吸収能を有する化合物であれば特に限定されない。紫外線吸収能を有する化合物としては、有機化合物、無機化合物が挙げられる。なかでも有機化合物はポリカーボネート樹脂との親和性を確保しやすく、均一に分散しやすいので好ましい。
【0155】
紫外線吸収能を有する有機化合物の分子量は特に限定されないが、通常200以上、好ましくは250以上である。また。通常600以下、好ましくは450以下、より好ましくは400以下である。分子量が過度に小さいと、長期間使用での耐紫外線性能の低下を引き起こす可能性がある。分子量が過度に大きいと、長期間使用での樹脂組成物の透明性低下を引き起こす可能性がある。
【0156】
好ましい紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、サリチル酸フェニルエステル系化合物、シアノアクリレート系化合物、マロン酸エステル系化合物、シュウ酸アニリド系化合物などが挙げられる。なかでも、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物、マロン酸エステル系化合物が好ましく用いられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0157】
ベンゾトリアゾール系化合物のより具体的な例としては、2−(2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−ヘキシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−ヘキシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ドデシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−t−ドデシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、メチル−3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどが挙げられる。
【0158】
ベンゾフェノン系化合物としては、2,2’−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノンなどのヒドロキシベンゾフェノン系化合物などが挙げられる。
【0159】
マロン酸エステル系化合物としては、2−(1−アリールアルキリデン)マロン酸エステル類、テトラエチル−2,2’−(1,4−フェニレン−ジメチリデン)−ビスマロネートなどが挙げられる。
【0160】
トリアジン系化合物としては、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシ−4−イソオクチルオキシフェニル)−s−トリアジン、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール(チバガイギー社製、Tinuvin1577FF)などが挙げられる。
【0161】
シアノアクリレート系化合物としては、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2’−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレートなどが挙げられる。
【0162】
シュウ酸アニリド系化合物としては、2−エチル−2’−エトキシ−オキサルアニリド(Clariant社製、SanduvorVSU)などが挙げられる。
【0163】
かかる紫外線吸収剤、光安定剤の含有量は、紫外線吸収剤の種類に応じて適宜選択することが可能であるが、ポリカーボネート樹脂組成物全体に対して、紫外線吸収剤を0.001重量%〜5重量%含有することが好ましく、ポリカーボネート100重量部に対して、0.01重量部〜2重量部が好ましい。
【0164】
又、前記ポリカーボネート樹脂組成物には、黄色味を打ち消すためにブルーイング剤の1種又は2種以が配合されていてもよい。ブルーイング剤としては、従来のポリカーボネート樹脂に使用されるものであれば、特に支障なく使用することができる。一般的にはアンスラキノン系染料が入手容易であり好ましい。
【0165】
具体的なブルーイング剤としては、例えば、一般名Solvent Violet13[CA.No.(カラーインデックスNo.)60725]、一般名Solvent Violet31[CA.No.68210]、一般名Solvent Violet33[CA.No.60725]、一般名Solvent Blue94[CA.No.61500]、一般名Solvent Violet36[CA.No.68210]、一般名Solvent Blue97[バイエル社製「マクロレックスバイオレットRR」]、及び一般名Solvent Blue45[CA.No.61110]等が代表例として挙げられる。
【0166】
これらブルーイング剤の含有量は、通常、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.1×10−4重量部〜2×10−4重量部が好ましい。
【0167】
又、前記ポリカーボネート樹脂組成物は、上記の添加剤の他、本発明の目的を損なわない範囲で、周知の種々の添加剤、例えば、難燃剤、難燃助剤、加水分解抑制剤、帯電防止剤、発泡剤、染顔料等を含有した樹脂組成物であってもよい。又、例えば、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アクリル、アモルファスポリオレフィン等の合成樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等の生分解性樹脂等が混合された樹脂組成物であってもよい。
【0168】
前述のポリカーボネート樹脂組成物と前述のような各種の添加剤等との配合方法としては、例えばタンブラー、V型ブレンダー、スーパーミキサー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等で混合・混練する方法、或いは、例えば塩化メチレン等の共通の良溶媒に溶解させた状態で混合する溶液ブレンド方法等があるが、これは特に限定されるものではなく、通常用いられるブレンド方法であればどのような方法を用いてもよい。
【0169】
こうして得られるポリカーボネート樹脂は、これに各種添加剤等が添加され、直接に、或いは溶融押出機で一旦ペレット状にしてから、押出成形法、射出成形法、圧縮成形法等の通常知られている成形方法で、所望形状に成形することができる。
【0170】
[ポリカーボネート樹脂成形品]
上述のごとく前記ポリカーボート樹脂組成物を成形することにより、ポリカーボネート樹脂成形品を得ることができる。
好ましくは、前記ポリカーボネート樹脂成形品は、射出成形法により成形されたものであることがよい。
この場合には、複雑な形状の前記ポリカーボネート樹脂成形品が作成可能となる。そして、複雑な形状に成形すると応力集中部が発生し易くなるが、前記ポリカーボネート樹脂組成物においては上述のごとく衝撃強度の改質効果が得られるため、応力集中による破断を抑制することができる。
【0171】
(第2の態様)
以下、本発明の第2態様の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の第2の態様の実施態様の一例(代表例)であり、本発明の第2の態様はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されるものではない。尚、本明細書において、「〜」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。また、本明細書において「置換基」という表現を用いる場合、特に明記しない限りは当該置換基の種類は限定されるものではなく、分子量200までのものを意味するものとする。
【0172】
〔ポリカーボネート樹脂組成物〕
本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物は、下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(以下「ジヒドロキシ化合物(1)」と称す場合がある。)に由来する構造単位を有し、ガラス転移温度(Tig)が145℃未満であるポリカーボネート樹脂と、コア・シェル構造からなる衝撃強度改質剤とを含むことを特徴とする。
【0173】
【化20】

【0174】
(ただし、上記式(1)で表される部位が−CH2−O−Hを構成する部位である場合を除く。)
【0175】
本発明の第2の態様は、上記ジヒドロキシ化合物(1)に由来する構造単位を有し、ガラス転移温度(Tig)が145℃未満であるポリカーボネート樹脂と、コア・シェル構造から成る衝撃強度改質剤とを配合することにより、前記特許文献2に記載のポリカーボネート樹脂組成物では得られなかった、耐衝撃性試験、耐面衝撃試験における脆性破壊率等の改良効果が得られるとの知見に基づくものである。このような優れた改良効果が得られる作用機構の詳細は明らかではないが、特定のガラス転移温度(Tig)を有するポリカーボネート樹脂を選択することで、コア・シェル構造からなる衝撃強度改質剤との分散性が高まることによるものと考えられる。
【0176】
[ポリカーボネート樹脂]
本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物に用いるポリカーボネート樹脂(以下、「本発明のポリカーボネート樹脂」と称す場合がある。)は、下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(ジヒドロキシ化合物(1))に由来する構造単位を有し、ガラス転移温度(Tig)が145℃未満である。
【0177】
【化21】

【0178】
(ただし、上記式(1)で表される部位が−CH2−O−Hを構成する部位である場合を除く。)
【0179】
本発明のポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物(1)と炭酸ジエステルとを原料として、エステル交換反応により重縮合させて得ることができる。
【0180】
<ガラス転移温度(Tig)>
本発明のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tig)は145℃未満であるが、このガラス転移温度(Tig)は好ましくは140℃以下、より好ましくは135℃以下、更に好ましくは130℃以下であり、一方、好ましくは70℃以上、より好ましくは75℃以上、更に好ましくは80℃以上である。ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が高すぎるとき、そのポリカーボネート樹脂は分子量(還元粘度)が高すぎることを意味し、このために衝撃強度改質剤との配合性が悪くなり、ポリカーボネート樹脂組成物の耐面衝撃性改良効果が不十分となる傾向にある。一方、ガラス転移温度が低すぎるとき、そのポリカーボネート樹脂は耐熱性が低すぎることを意味する。
【0181】
なお、本発明の第2の態様において、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tig)は、以下の方法で測定されたものをさす。
(ガラス転移温度(Tig)の測定)
示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製の「DSC220」)を用いて、ポリカーボネート樹脂約10mgを10℃/minの昇温速度で加熱してDSC曲線を測定する。次いで、JIS−K7121(1987年)に準拠して、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分における曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度である補外ガラス転移開始温度を求め、これをガラス転移温度(Tig)とする。
【0182】
前述の如く、ポリカーボネート樹脂は、原料として通常ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとが用いられるが、炭酸ジエステルとしては使用可能なものが少ないため、本発明のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tig)を145℃未満とするためには、通常ポリカーボネート樹脂の製造に用いるジヒドロキシ化合物を選択することが考えられる。
例えば、ジヒドロキシ化合物(1)として、ガラス転移温度が145℃未満のものを選択することが考えられる。また、ジヒドロキシ化合物(1)として、イソソルビドを単独で用いたポリカーボネート樹脂では通常ガラス転移温度が145℃より高いものとなるため、イソソルビドを使用する場合には、よりガラス転移温度が低くなるようにイソソルビド以外のジヒドロキシ化合物の種類及び組成比を適宜選択して共重合することが考えられる。
特に、以下に詳述するポリカーボネート樹脂の原料として用いるジヒドロキシ化合物の中でも好ましい化合物を選択し、また、好ましい組成比とすることが望ましい。
【0183】
<原料>
(ジヒドロキシ化合物)
ジヒドロキシ化合物(1)としては、構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のオキシアルキレングリコール類、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有する化合物、下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコール、下記式(5)で表されるスピログリコール、下記式(6)で表されるジヒドロキシ化合物、等の環状エーテル構造を有する化合物が挙げられるが、中でも、入手のし易さ、ハンドリング、重合時の反応性、得られるポリカーボネート樹脂の色相の観点からは、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましい。また、耐熱性、耐光性の観点からは、下記式(2)に代表される糖アルコール、下記式(5)で表されるスピログリコール、下記式(6)で表されるジヒドロキシ化合物等の環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物が好ましく、下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される糖アルコール、下記式(5)で表されるスピログリコール等の、複数の環からなる環状エーテル構造、好ましくは2つの環からなる環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物がより好ましい。最も好ましいのは下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコールである。これらは得られるポリカーボネート樹脂の要求性能に応じて、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0184】
【化22】

【0185】
上記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0186】
これらのジヒドロキシ化合物(1)のうち、芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物を用いることが、得られるポリカーボネート樹脂の耐光性の観点から好ましく、中でも植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが、入手及び製造のし易さ、耐光性、光学特性、成形性、耐熱性、カーボンニュートラルの面から最も好ましい。
【0187】
また、ポリカーボネート樹脂中における全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する、ジヒドロキシ化合物(1)に由来する構造単位の割合は、10mol%以上であることが好ましく、20mol%以上であることがより好ましく、30mol%以上であることが更に好ましい。一方、ジヒドロキシ化合物(1)に由来する構造単位は、ポリカーボネート樹脂中における全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して60mol%より少なく、55mol%以下が好ましい。ジヒドロキシ化合物(1)に由来する構造単位を上記所定量とすることにより、ポリカーボネート樹脂の色調、耐光性等が優れたものとなる。
【0188】
また、本発明のポリカーボネート樹脂は、本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物としたときに耐面衝撃性改良効果、耐衝撃性改良効果を得るために、ジヒドロキシ化合物(1)に由来する構造単位に加えて、脂肪族ジヒドロキシ化合物(2つのヒドロキシ基以外が脂肪族炭化水素よりなるジヒドロキシ化合物)に由来する構造単位を含むことが好ましい。ポリカーボネート樹脂において、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を導入するためには、前記ジヒドロキシ化合物(1)と同様に、ポリカーボネート樹脂の原料として脂肪族ジヒドロキシ化合物を用いて共重合すればよい。
【0189】
脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物、分岐脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物等が挙げられ、これらの中でも脂環式ジヒドロキシ化合物が好ましい。
【0190】
以下に本発明の第2の態様で用いることができる脂肪族ジヒドロキシ化合物の具体例を挙げるが、以下の脂肪族ジヒドロキシ化合物は1種のみで使用することも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0191】
直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール等が挙げられる。分岐脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール等が挙げられる。
【0192】
脂環式ジヒドロキシ化合物は、環状構造の炭化水素骨格と2つのヒドロキシ基を有する化合物であり、ヒドロキシ基は、環状構造に直接結合していてもよいし、アルキレン基のような置換基を介して環状構造に結合していてもよい。また、環状構造は単環であっても多環であってもよい。脂環式ジヒドロキシ化合物の好適なものとしては、以下に挙げる5員環構造を有する脂環式ジヒドロキシ化合物、6員環構造を有する脂環式ジヒドロキシ化合物等が挙げられる。脂環式ジヒドロキシ化合物として、5員環構造を有する脂環式ジヒドロキシ化合物又は6員環構造を有する脂環式ジヒドロキシ化合物を用い、これらに由来する構造単位をポリカーボネート樹脂に導入することにより、得られるポリカーボネート樹脂の耐熱性を高めることができる。
【0193】
脂環式ジヒドロキシ化合物の炭素数は通常70以下であり、好ましくは50以下、更に好ましくは30以下である。この炭素数が多いほど、得られるポリカーボネート樹脂の耐熱性が高くなる傾向にあるが、ポリカーボネート樹脂の合成が困難になったり、精製が困難になったり、コストが高くなることがある。一方、脂環式ジヒドロキシ化合物の炭素数が少ないほど、精製しやすく、原料調達が容易である。
【0194】
5員環構造を有する脂環式ジヒドロキシ化合物としては、トリシクロデカンジオール類、ペンタシクロペンタデカンジオール類、2,6−デカリンジオール、1,5−デカリンジオール、2,3−デカリンジオール等のデカリンジオール類、トリシクロテトラデカンジオール類、トリシクロデカンジメタノール類、ペンタシクロペンタデカンジメタノール類等が挙げられる。
【0195】
6員環構造を有する脂環式ジヒドロキシ化合物としては、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−メチル−1,4−シクロヘキサンジオール、2−メチル−1,4−シクロヘキサンジオール等のシクロヘキサンジオール類、4−シクロヘキセン−1,2−ジオール等のシクロへキセンジオール類、2,3−ノルボルナンジオール、2,5−ノルボルナンジオール等のノルボルナンジオール類、1,3−アダマンタンジオール、2,2−アダマンタンジオール等のアダマンタンジオール類、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等のシクロへキサンジメタノール類、4−シクロヘキセン−1,2−ジオール等のシクロヘキセンジメタノール類、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール等のノルボルナンジメタノール類、1,3−アダマンタンジメタノール、2,2−アダマンタンジメタノール等のアダマンタンジメタノール類等が挙げられる。
【0196】
以上に挙げた脂環式ジヒドロキシ化合物の中でも、シクロヘキサンジメタノール類、トリシクロデカンジメタノール類、アダマンタンジオール類、ペンタシクロペンタデカンジメタノール類が好ましく、シクロヘキサンジメタノール類、トリシクロデカンジメタノールが特に好ましい。
【0197】
シクロヘキサンジメタノール類及び/又はトリシクロデカンジメタノール類を用いると、得られるポリカーボネート樹脂組成物の耐面衝撃性が優れたものとなる。シクロヘキサンジメタノール類の中では1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
【0198】
ポリカーボネート樹脂が、ジヒドロキシ化合物(1)に由来する構造単位と、脂環式ジヒドロキシ化合物等の脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位との両方を含むことにより、ポリカーボネート樹脂の透明性、耐衝撃性を改善することができるだけではなく、柔軟性、耐熱性、成形性等、種々の物性を改善する効果を得ることも可能である。
【0199】
本発明のポリカーボネート樹脂における脂環式ジヒドロキシ化合物等の脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合が少な過ぎるとポリカーボネート樹脂組成物としたときにポリカーボネート樹脂中での衝撃強度改質剤の分散性が悪くなり、耐面衝撃性の改良効果が得られにくくなる傾向にあり、一方、多過ぎるとポリカーボネート樹脂の還元粘度が高くなり、成形する際の流動性が低下し、生産性や成形性が悪くなるおそれがある。特に、ポリカーボネート樹脂中における全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を20mol%以上とすることにより、ポリカーボネート樹脂組成物としたときの耐衝撃性が優れたものとなる。ポリカーボネート樹脂中における、全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する、脂環式ジヒドロキシ化合物等の脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合は、40mol%より多く、45mol%以上が好ましい。一方、ポリカーボネート樹脂中における全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する脂環式ジヒドロキシ化合物等の脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位は、好ましくは90mol%以下、より好ましくは80mol%以下、更に好ましくは70mol%以下である。
【0200】
尚、本発明のポリカーボネート樹脂においては、ジヒドロキシ化合物(1)に由来する構造単位と、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位とのいずれとも解される構造単位が含まれうる。このような構造単位を含有する場合、ジヒドロキシ化合物(1)に由来する構造単位を有し、かつガラス転移温度(Tig)が145℃未満である、という条件を満たした上で、ジヒドロキシ化合物(1)に由来する構造単位とも、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位とも解されうる構造単位を任意に位置づければよい。
【0201】
本発明のポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物(1)及び脂肪族ジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物(以下、「その他のジヒドロキシ化合物」と称することがある。)に由来する構造単位を含んでいてもよい。
【0202】
その他のジヒドロキシ化合物としてより具体的には、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン等の芳香族ビスフェノール類が挙げられる。ただし、ポリカーボネート樹脂の耐光性の観点からはその他のジヒドロキシ化合物としては、分子構造内に芳香環構造を有さないものが好ましい。これらその他のジヒドロキシ化合物についても、得られるポリカーボネート樹脂の要求性能に応じて、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0203】
本発明のポリカーボネート樹脂がその他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む場合、その他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の、ポリカーボネート樹脂中の全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する割合は、本発明の第1の態様のポリカーボネート樹脂組成物に用いるポリカーボネート樹脂における場合と同様である。
【0204】
本発明のポリカーボネート樹脂の製造に用いるジヒドロキシ化合物は、還元剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤、熱安定剤等の安定剤を含んでいてもよいが、それらは本発明の第1の態様のポリカーボネート樹脂組成物に用いるポリカーボネート樹脂における場合と同様である。
【0205】
(炭酸ジエステル)
本発明のポリカーボネート樹脂は、上述したジヒドロキシ化合物(1)を含むジヒドロキシ化合物と前記式(4)で表される炭酸ジエステルを原料として、エステル交換反応により重縮合させて得ることができるが、この場合の炭酸ジエステルに係る技術は、本発明の第1の態様のポリカーボネート樹脂組成物に用いるポリカーボネート樹脂におけるものと同様である。
【0206】
<エステル交換反応触媒>
本発明のポリカーボネート樹脂は、通常、ジヒドロキシ化合物(1)を含むジヒドロキシ化合物と前記式(4)で表される炭酸ジエステルとをエステル交換反応させて製造されるが、この場合のエステル交換反応触媒に係る技術は、本発明の第1の態様のポリカーボネート樹脂組成物に用いるポリカーボネート樹脂におけるものと同様である。
【0207】
<ポリカーボネート樹脂の製造方法>
本発明のポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物(1)を含むジヒドロキシ化合物と前記式(4)で表される炭酸ジエステルとをエステル交換反応させて製造されるが、この場合のポリカーボネート樹脂の製造方法に係る技術は、本発明の第1の態様のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に用いるポリカーボネート樹脂におけるものと同様である。
【0208】
<ポリカーボネート樹脂の物性>
本発明の第2の態様におけるポリカーボネート樹脂の各種物性は、本発明の第1の態様のポリカーボネート樹脂組成物に用いるポリカーボネート樹脂におけるものと同様である。
尚、本発明の第2の態様におけるポリカーボネート樹脂の還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート樹脂濃度を0.6g/dLに精密に調製し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度管を用いて測定する。
【0209】
更に本発明の第2の態様におけるポリカーボネート樹脂中の下記式(8)で表される末端基の濃度の下限量は、通常20μeq/g、好ましくは40μeq/g、特に好ましくは50μeq/gであり、上限は通常160μeq/g、好ましくは140μeq/g、特に好ましくは100μeq/gである。
【0210】
【化23】

【0211】
ポリカーボネート樹脂中の上記式(8)で表される末端基の濃度が高すぎると、重合直後や成形時の色相が良好であっても、紫外線曝露後の色相の悪化を招く可能性があり、逆に低すぎると熱安定性が低下する恐れがある。
【0212】
上記式(8)で表される末端基の濃度を制御するには、原料であるジヒドロキシ化合物(1)を含むジヒドロキシ化合物と前記式(4)で表される炭酸ジエステルのmol比率を制御する他、エステル交換反応時の触媒の種類や量、重合圧力や重合温度を制御する方法等が挙げられる。
【0213】
また、本発明の第2の態様におけるポリカーボネート樹脂中の芳香環に結合した水素のmol数を「X」、芳香環以外に結合したHのmol数を「Y」とした場合、芳香環に結合した水素のmol数の全水素のmol数に対する比率は、X/(X+Y)で表されるが、耐光性には上述のように、紫外線吸収能を有する芳香族環が影響を及ぼす可能性があるため、本発明のポリカーボネート樹脂のX/(X+Y)は0.1以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05以下、特に好ましくは0.02以下、好適には0.01以下である。ポリカーボネート樹脂のX/(X+Y)は、1H−NMRで定量することができる。
【0214】
[衝撃強度改質剤]
本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物は、上述したポリカーボネート樹脂と、コア・シェル構造からなる衝撃強度改質剤とを含有することを特徴とする。なお、本明細書において、「コア・シェル構造からなる衝撃強度改質剤」とは最内層(コア層)とそれを覆う1以上の層(シェル層)から構成され、コア層に対して共重合可能な単量体成分をシェル層としてグラフト共重合したコア・シェル型グラフト共重合体である。
【0215】
本発明の第2の態様で用いるコア・シェル構造からなる衝撃強度改質剤は、通常、ゴム成分と呼ばれる重合体成分をコア層とし、これと共重合可能な単量体成分をシェル層としてグラフト共重合したコア・シェル型グラフト共重合体が好ましい。
このコア・シェル型グラフト共重合体の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などのいずれの製造方法であってもよく、共重合の方式は一段グラフトでも多段グラフトであってもよい。但し、本発明の第2の態様においては通常、市販で入手可能なコア・シェル型エラストマーをそのまま使用することができる。市販で入手可能なコア・シェル型エラストマーの例は後に列挙する。
【0216】
コア層を形成する重合体成分は、ガラス転移温度が通常0℃以下、中でも−10℃以下が好ましく、−20℃以下がより好ましく、更には−30℃以下が好ましい。コア層を形成する重合体成分の具体例としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリブチルアクリレートやポリ(2−エチルヘキシルアクリレート)、ブチルアクリレート・2−エチルヘキシルアクリレート共重合体などのポリアルキルアクリレート、ポリオルガノシロキサンゴムなどのシリコーン系ゴム、ブタジエン−アクリル複合体、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN(Interpenetrating Polymer Network)型複合ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体やエチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体などのエチレン−αオレフィン系共重合体、エチレン−アクリル共重合体、フッ素ゴムなど挙げることができる。これらは、単独でも2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、ポリブタジエン、ポリアルキルアクリレート、ポリオルガノシロキサン、ポリオルガノシロキサンとポリアルキルアクリレートとからなる複合体、ブタジエン−スチレン共重合体が好ましい。
【0217】
シェル層を構成する、コア層の重合体成分とグラフト共重合可能な単量体成分の具体例としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド化合物;マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸化合物やそれらの無水物(例えば無水マレイン酸等)などが挙げられる。これらの単量体成分は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物が好ましく、より好ましくは(メタ)アクリル酸エステル化合物である。(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等が挙げられ、これらの中でも比較的入手しやすい(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルが好ましく、(メタ)アクリル酸メチルがより好ましい。ここで、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」と「メタクリル」とを総称するものである。
【0218】
本発明の第2の態様で用いるコア・シェル構造からなる衝撃強度改質剤は、なかでもポリブタジエン含有ゴム、ポリブチルアクリレート含有ゴム、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴムから選ばれる少なくとも1種の重合体成分をコア層とし、その周囲に(メタ)アクリル酸エステルをグラフト共重合して形成されたシェル層からなる、コア・シェル型グラフト共重合体が特に好ましい。上記コア・シェル型グラフト共重合体において、コア層の重合体成分を40重量%以上含有するものが好ましく、60重量%以上含有するものがさらに好ましい。また、シェル層の(メタ)アクリル酸エステル成分は、10重量%以上含有するものが好ましい。
【0219】
これらコア・シェル型グラフト共重合体の好ましい具体例としては、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(MABS)、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体(MB)、メチルメタクリレート−アクリルゴム共重合体(MA)、メチルメタクリレート−アクリルゴム−スチレン共重合体(MAS)、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−(アクリル・シリコーン複合体)共重合体等が挙げられる。
【0220】
このようなコア・シェル型グラフト共重合体としては、例えば、ローム・アンド・ハース・ジャパン社製の「パラロイド(登録商標)EXL2602」、「パラロイド(登録商標)EXL2603」、「パラロイド(登録商標)EXL2655」、「パラロイド(登録商標)EXL2311」、「パラロイド(登録商標)EXL2313」、「パラロイド(登録商標)EXL2315」、「パラロイド(登録商標)KM330」、「パラロイド(登録商標)KM336P」、「パラロイド(登録商標)KCZ201」、三菱レイヨン社製の「メタブレン(登録商標)C−223A」、「メタブレン(登録商標)E−901」、「メタブレン(登録商標)S−2001」、「メタブレン(登録商標)W−450A」「メタブレン(登録商標)SRK−200」、カネカ社製の「カネエース(登録商標)M−511」、「カネエース(登録商標)M−600」、「カネエース(登録商標)M−400」、「カネエース(登録商標)M−580」、「カネエース(登録商標)MR−01」等が挙げられる。
【0221】
これらのコア・シェル型グラフト共重合体等のコア・シェル構造からなる衝撃強度改質剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0222】
本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物では、本発明のポリカーボネート樹脂100重量部に対して、上述のようなコア・シェル構造からなる衝撃強度改質剤を0.05〜50重量部含むことが好ましく、0.1重量部以上含むことがより好ましく、0.5重量部以上含むことが更に好ましく、一方、40重量部以下であることがより好ましく、30重量部以下であることが更に好ましく、25重量部以下であることが特に好ましい。コア・シェル構造からなる衝撃強度改質剤の配合量が多すぎると得られる成形品の外観不良や耐熱性の低下が生じる傾向があり、一方、配合量が少なすぎると耐面衝撃性、耐衝撃性の改良効果が発現しにくくなる。
【0223】
[酸化防止剤]
本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物は更に酸化防止剤を含有することが好ましいが、酸化防止剤の使用に係る技術は、本発明の第1の態様のポリカーボネート樹脂組成物におけるものと同様である。
【0224】
[離型剤]
本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物は、離型剤を含むことが好ましいが、離型剤の使用に係る技術は、本発明の第1の態様のポリカーボネート樹脂組成物におけるものと同様である。
【0225】
[その他の樹脂]
本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物には、成形加工性や諸物性のさらなる向上・調整を目的として、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂(以下、単に「その他の樹脂」と称することがある。)を使用することも出来る。その他の樹脂の具体例としては、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル、ポリアミド、ポリオレフィン、線状のランダム及びブロック共重合体のようなゴム状改質剤などが挙げられる。尚、ここで言う「ゴム状改質剤」とは本明細書で言うところの「衝撃強度改質剤」は含まないものとする。
【0226】
その他の樹脂を配合する場合、その配合量としては、本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物全体に対して、1重量%以上、30重量%以下の割合で配合することが好ましく、3重量%以上、20重量%以下の割合で配合することがより好ましく、5重量%以上、10重量%以下の割合で配合することがさらに好ましい。
【0227】
[充填剤]
本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物には本発明の目的を損なわない範囲で充填剤、酸性化合物、紫外線吸収助剤、ブルーイング剤、熱安定剤、光安定剤、帯電防止剤などを適宜配合することが可能である。ただし、以下にあげる成分は使用可能なものの代表例であり、本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物に以下に挙げるもの以外の成分を配合することを妨げるものではない。
【0228】
本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物には本発明の目的を損なわない範囲で充填剤を配合することができる。本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物に配合することのできる充填剤としては無機充填剤及び有機充填剤が挙げられる。
【0229】
充填剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂組成物全体に対し、0重量%以上100重量%以下である。充填剤の配合量は、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下、更に好ましくは35重量%以下である。充填剤を配合することによりポリカーボネート樹脂組成物の補強効果が得られるが、その配合量が過度に多いと、得られる成形品の外観が悪くなる傾向がある。
【0230】
無機充填剤としては、例えば、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、シリカ、アルミナ、酸化チタン、硫酸カルシウム粉体、石膏、石膏ウィスカー、硫酸バリウム、タルク、マイカ、ワラストナイトなどの珪酸カルシウム;カーボンブラック、グラファイト、鉄粉、銅粉、二硫化モリブデン、炭化ケイ素、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素、窒化ケイ素繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、チタン酸カリウム繊維、これらのウィスカーなどが挙げられる。これらの中でも、ガラスの繊維状充填剤、ガラスの粉状充填剤、ガラスのフレーク状充填剤;各種ウィスカー、マイカ、タルクが好ましい。より好ましくは、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスミルドファイバー、ワラストナイト、マイカ、タルクであり、特に好ましくはガラス繊維及び/又はタルクである。以上に挙げた無機充填剤は1種のみで用いることもできるが、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0231】
ガラス繊維、ガラスミルドファイバーとしては、熱可塑性樹脂に使用されているものであればいずれも使用できるが、特に、無アルカリガラス(Eガラス)よりなるものが好ましい。ガラス繊維の直径は、好ましくは6μm〜20μmであり、より好ましくは9μm〜14μmである。ガラス繊維の直径が過度に小さいと補強効果が不充分となる傾向がある。また、過度に大きいと、得られる成形品の外観に悪影響を与えやすい。
また、ガラス繊維としては、好ましくは、長さ1mm〜6mmにカットされたチョップドストランド、長さ0.01mm〜0.5mmに粉砕されて市販されているガラスミルドファイバーが挙げられる。これらは単独又は両者を混合して用いてもよい。
【0232】
ガラス繊維は、ポリカーボネート樹脂との密着性を向上させるために、アミノシラン、エポキシシランなどのシランカップリング剤等による表面処理、あるいは取扱い性を向上させるために、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等による集束処理を施して使用してもよい。
【0233】
ガラスビーズとしては、熱可塑性樹脂に使用されているものであればいずれも使用できる。中でも、無アルカリガラス(Eガラス)よりなるものが好ましい。ガラスビーズは、粒径10μm〜50μmの球状のものが好ましい。
【0234】
ガラスフレークとしては、鱗片状のガラスフレークが挙げられる。ポリカーボネート樹脂組成物に配合後のガラスフレークの最大径は、一般的には1000μm以下、好ましくは1μm〜500μmであり、且つアスペクト比(最大径と厚みとの比)は通常5以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは30以上である。
【0235】
有機充填剤としては、例えば、木粉、竹粉、ヤシ澱粉、クルク粉、パルプ粉などの粉末状有機充填剤;架橋ポリエステル、ポリスチレン、スチレン・アクリル共重合体、尿素樹脂などのバルン状ないし球状有機充填剤;炭素繊維、合成繊維、天然繊維などの繊維状有機充填剤が挙げられる。
【0236】
炭素繊維としては、特に限定されず、例えば、アクリル繊維、石油又は炭素系特殊ピッチ、セルロース繊維、リグニン等を原料として焼成によって製造されたものであって、耐炎質、炭素質、黒鉛質などの種々のものが挙げられる。炭素繊維のアスペクト比(繊維長/繊維径)の平均は、好ましくは10以上であり、より好ましくは50以上である。アスペクト比の平均が過度に小さいと、ポリカーボネート樹脂組成物の導電性、強度、剛性が低下する傾向がある。炭素繊維の径は3μm〜15μmであり、上記のアスペクト比に調整するために、チョップドストランド、ロービングストランド、ミルドファイバーなどのいずれの形状も使用できる。炭素繊維は、1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0237】
炭素繊維は、本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物の特性を損なわない限りにおいて、ポリカーボネート樹脂との親和性を増すために、例えばエポキシ処理、ウレタン処理、酸化処理などの表面処理が施されてもよい。
【0238】
[酸性化合物又はその誘導体]
本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物は更に酸性化合物又はその誘導体を含有していてもよい。
【0239】
酸性化合物又はその誘導体を使用する場合、酸性化合物又はその誘導体の配合量は、ポリカーボネート樹脂組成物全体に対し、0.00001重量%以上0.1重量%以下、好ましくは0.0001重量%以上0.01重量%以下、さらに好ましくは0.0002重量%以上0.001重量%以下である。酸性化合物又はその誘導体の配合量が上記下限以上であると、射出成形する際に、ポリカーボネート樹脂組成物の射出成形機内の滞留時間が長くなった場合における着色抑制の点で好ましいが、酸性化合物又はその誘導体の配合量が多過ぎると、ポリカーボネート樹脂組成物の耐加水分解性が低下する場合がある。
【0240】
酸性化合物又はその誘導体としては、例えば、塩酸、硝酸、ホウ酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、アジピン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、アゼライン酸、アデノシンリン酸、安息香酸、ギ酸、吉草酸、クエン酸、グリコール酸、グルタミン酸、グルタル酸、ケイ皮酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、シュウ酸、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ニコチン酸、ピクリン酸、ピコリン酸、フタル酸、テレフタル酸、プロピオン酸、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルホン酸、マロン酸、マレイン酸などのブレンステッド酸及びそのエステル類が挙げられる。これらの酸性化合物又はその誘導体の中でも、スルホン酸類又はそのエステル類が好ましく、中でも、p−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸ブチルが特に好ましい。
【0241】
これらの酸性化合物又はその誘導体は、上述したポリカーボネート樹脂の重縮合反応において使用される塩基性エステル交換触媒を中和する化合物として、ポリカーボネート樹脂組成物の製造工程において添加することができる。
【0242】
[紫外線吸収剤]
本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、紫外線吸収剤を配合することができるが、紫外線吸収剤の使用に係る技術は、本発明の第1の態様のポリカーボネート樹脂組成物におけるものと同様である。
【0243】
[ブルーイング剤]
本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物には、ポリカーボネート樹脂や紫外線吸収剤に起因する成形品の黄色味を打ち消すためにブルーイング剤を配合することができるが、ブルーイング剤の使用に係る技術は、本発明の第1の態様のポリカーボネート樹脂組成物におけるものと同様である。
【0244】
[光安定剤]
本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物及びポリカーボネート樹脂成形品の耐光性をさらに向上する目的で、本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物に光安定剤を配合することができる。
【0245】
かかる光安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン−2,4−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルアミノ)−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6)−テトラメチル−4−ピペリジル−1、6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物などが挙げられる。なかでもビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートが好ましい。
【0246】
このような光安定剤を用いる場合、光安定剤は、本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物全体に対して、0重量%以上、2重量%以下の割合で配合することができるが、0.005重量%以上、0.5重量%以下の割合で配合することが好ましく、0.01重量%以上、0.2重量%以下の割合で配合することがより好ましい。かかる範囲で光安定剤を配合することにより、ポリカーボネート樹脂組成物表面への光安定剤のブリード、得られる成形品の機械特性低下を生じることなく、本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品の耐光性を向上することができる。
【0247】
[その他の添加剤]
本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲でさらに帯電防止剤を含有することができる。さらに、本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物には、上記以外に、熱安定剤、着色剤、滑剤、可塑剤、相溶化剤、難燃剤、難燃助剤、加水分解抑制剤、帯電防止剤、発泡剤等の各種の添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で配合してもよい。
【0248】
[各種添加剤の添加時期・添加方法]
ポリカーボネート樹脂組成物に配合する上述の酸化防止剤、離型剤、充填剤、酸性化合物又はその誘導体、紫外線吸収助剤、ブルーイング剤、熱安定剤、光安定剤、帯電防止剤などの各種の添加剤の添加時期、添加方法は特に限定されない。添加時期としては、例えば、エステル交換法でポリカーボネート樹脂を製造した場合は重合反応終了時;さらに、重合法に関わらず、ポリカーボネート樹脂、他の配合剤との混練途中などのポリカーボネート樹脂又はポリカーボネート樹脂組成物が溶融した状態;押出機等を用い、ペレット又は粉末などの固体状態のポリカーボネート樹脂組成物とブレンド・混練する際などが挙げられる。添加方法としては、ポリカーボネート樹脂に各種成分を直接混合又は混練する方法;少量のポリカーボネート樹脂組成物又は他の樹脂等と各種成分を用いて作成した高濃度のマスターバッチとして添加することもできる。
【0249】
[製造方法]
本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物は、上記ポリカーボネート樹脂とコア・シェル構造からなる衝撃強度改質剤、更に必要に応じて配合される他の樹脂や各種の添加剤等の原料を、同時に、又は任意の順序で、タンブラー、スーパーミキサー、フローター、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、押出機等で混合することにより製造することができる。
【0250】
〔ポリカーボネート樹脂成形品〕
本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物を成形することにより本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂成形品が得られる。
【0251】
本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂成形品は、ポリカーボネート樹脂、衝撃強度改質剤及び必要に応じてその他の樹脂や添加剤等の原料を直接混合し、押出機或いは射出成形機に投入して成形するか、又は、前記原料を、二軸押出機を用いて溶融混合し、ストランド形状に押出してペレットを作製した後、このペレットを押出機或いは射出成形機に投入して成形することにより製造することができる。
【0252】
成形方法は特に限定されず、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法等の通常知られている方法を採用することができるが、成形品形状の自由度の観点から射出成形法が好ましい。
【0253】
本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られる本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂成形品は、特に耐面衝撃性、耐衝撃性等に優れることから、OA、電子電気部品、精密機器部品の筐体、自動車内外装部品としての用途に好適に用いることができる。
【0254】
(第3の態様)
以下、本発明の第3の態様の実施形態の1つの例としてのポリカーボネート樹脂組成物(以下、適宜、単に「樹脂組成物」という)について説明する。但し、本発明の第3の態様の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0255】
なお、本明細書において、「主成分とする」とは、樹脂組成物を構成する樹脂の作用・効果を妨げない範囲で、他の成分を含むことを許容する趣旨である。さらに、この用語は、具体的な含有率を制限するものではないが、樹脂組成物の構成成分全体の50質量%以上、好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であって100質量%以下の範囲を占める成分である。
【0256】
<ポリカーボネート樹脂(A)>
本発明の第3の態様に用いるポリカーボネート樹脂(A)としては、構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a)を含むポリカーボネート樹脂が用いられる。
【0257】
【化24】

【0258】
(但し、前記一般式(1)で表される部位が−CH2−O−Hの一部である場合を除く。)すなわち、前記ジヒドロキシ化合物は、二つのヒドロキシル基と、更に前記一般式(1)の部位を少なくとも含むものを言う。
【0259】
構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物としては、分子構造の一部が前記一般式(1)で表されるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有する化合物、下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコール、下記一般式(3)で表されるスピログリコール等の環状エーテル構造を有する化合物が挙げられる。下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。また、下記一般式(3)で表されるジヒドロキシ化合物としては、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン(慣用名:スピログリコール)、3,9−ビス(1,1−ジエチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、3,9−ビス(1,1−ジプロピル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカンなどが挙げられる。
これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0260】
【化25】

【0261】
【化26】

【0262】
(前記一般式(3)中、R1〜R4はそれぞれ独立に、炭素数1から炭素数3のアルキル基である。)
【0263】
前記の中でも工業的に入手が容易であり、植物原料由来であるイソソルビドを用いることが最も好ましく、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0264】
本発明の第3の態様に用いるポリカーボネート樹脂(A)は、前記構造単位(a)以外の構造単位として、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(b)を有することが重要である。前記ポリカーボネート樹脂(A)中に占める前記構造単位(b)の割合は特に限定されないが、耐熱性の点から30モル%以上、80モル%以下であることが好ましく、40モル%以上、80モル%以下であることがより好ましく、50モル%以上、80モル%以下であることがさらに好ましい。前記構造単位(b)の割合をかかる範囲内とすることでポリカーボネート樹脂(A)の耐熱性低下、軟質化を防止でき、幅広い用途で使用が可能となる。
尚、脂環式ジヒドロキシ化合物の中でも、工業的に入手が容易である、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
【0265】
さらに、本発明の第3の態様に用いるポリカーボネート樹脂(A)は、前記構造単位(a)、及び、前記構造単位(b)以外の構造単位を含むこともでき、例えば、国際公開第2004/111106号パンフレットに記載の脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位や、国際公開第2007/148604号パンフレットに記載の脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を挙げることができる。
【0266】
前記脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の中でも、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタジオール、及び1,6−ヘキサンジオールから選ばれる少なくとも1種以上の化合物に由来する構造単位を含むことが好ましい。
【0267】
前記脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の中でも、5員環構造又は6員環構造を含むものであることが好ましい。6員環構造は共有結合によって椅子形又は舟形に固定されていてもよい。5員環構造又は6員環構造である脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことにより、得られるポリカーボネートの耐熱性を高くすることができる。脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素原子数は通常70以下であり、好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下である。
【0268】
前記5員環構造又は6員環構造を含む脂環式ジヒドロキシ化合物としては、上述の国際公開第2007/148604号パンフレットに記載のものを挙げることができ、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオール及びペンタシクロペンタデカンジメタノールを好適に例示することができ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0269】
前記ポリカーボネート樹脂(A)の分子量の指標である還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.60g/dlに精密に調整し、温度20.0℃±0.1℃で測定され、通常、0.20dl/g以上1.0dl/g以下で、好ましくは0.30dl/g以上0.80dl/g以下の範囲内である。
【0270】
前記ポリカーボネート樹脂(A)の還元粘度が0.20dl/g以上であることによって、本発明の第3の態様の樹脂組成物を各種形状に成形した際の機械的強度が十分なものとなるため好ましい。また、前記ポリカーボネート樹脂(A)の還元粘度が1.0dl/g以下であることによって、成形する際の流動性が良く、生産性が向上するだけでなく、流れムラ等の外観不良を生じにくいため好ましい。
【0271】
前記ポリカーボネート樹脂(A)は、一般に用いられる重合方法で製造することができ、ホスゲン法、炭酸ジエステルと反応させるエステル交換法のいずれでもよい。なかでも、重合触媒の存在下に、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物と、シクロヘキサンジメタノールと、必要に応じて用いられるその他のジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを反応させるエステル交換法が好ましい。エステル交換法は、前記構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物と、シクロヘキサンジメタノールと、必要に応じて用いられるその他のジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを塩基性触媒、さらにはこの塩基性触媒を中和する酸性物質を添加し、エステル交換反応を行う製造方法である。
【0272】
炭酸ジエステルの代表例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーネート、ビス(ビフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなどが挙げられる。これらのうち、特にジフェニルカーボネートが好ましく用いられる。
【0273】
<軟質スチレン系樹脂(B)>
本発明の第3の態様に用いる軟質スチレン系樹脂(B)は、スチレン重合体ブロックと共役ジエン系重合体ブロックからなるブロック共重合体であり、前記軟質スチレン系樹脂(B)中に占めるスチレン含有量が10質量%以上、40質量%以下であることが重要である。含有量の下限としては、より好ましくは15質量%、さらに好ましくは20質量%である。また、含有量の上限としては、より好ましくは35質量%、さらに好ましくは30質量%である。
スチレン含有量がかかる範囲にあることで、優れた耐衝撃性を付与することが可能となる。
【0274】
前記軟質スチレン系樹脂(B)に用いる共役ジエン系重合体ブロックとしては、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン等の単独重合体、それらの共重合体、または、共役ジエン系モノマーと共重合可能なモノマーをブロック内に含む共重合体等を用いることができる。具体的にはスチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SIS)等があげられる。具体的な商品としては、クレイトンポリマー社製「クレイトンD」シリーズ、アロン化成社製「AR−100」シリーズ等があげられる。
【0275】
なお、前記ブロック共重合体はピュアブロック、ランダムブロック、テーパードブロック等を含み、共重合の形態については特に限定されない。また、そのブロック単位も繰り返し単位がいくつも重なっても構わない。具体的にはスチレン・ブタジエンブロック共重合体の場合、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン・ブタジエンブロック共重合体のようにブロック単位がいくつも繰り返されても構わない。
【0276】
また、前記SBSやSISの共役ジエン系重合体ブロックの二重結合の一部、または、全部を水素添加した水素添加スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体(SEBS)、水素添加スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SEPS)を用いることもできる。具体的な商品としては、旭化成ケミカルズ社製「タフテックH」シリーズ、クレイトンポリマー社製「クレイトンG」シリーズ等があげられる。
【0277】
加えて、前記軟質スチレン系樹脂に極性を有する官能基を付与することも可能である。極性を有する官能基の具体例としては、酸無水物基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、カルボン酸塩化物基、カルボン酸アミド基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸塩化物基、スルホン酸アミド基、スルホン酸塩基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、オキサゾリン基などが挙げられる。
これらの中でも、酸無水物基やエポキシ基を付与することが好ましく、酸無水物基としては無水マレイン酸に由来する官能基が特に好ましい。このような官能基を付与することで、ポリカーボネート樹脂(A)と軟質スチレン系樹脂(B)との相容性が向上し、軟質スチレン系樹脂(B)がポリカーボネート樹脂(A)中に微分散するため、より効果的に耐衝撃性を向上することができる。
【0278】
前記極性を有する官能基を付与した軟質スチレン系樹脂としては、SEBS、SEPSの変性体が好ましく用いられる。具体的には、無水マレイン酸変性SEBS、無水マレイン酸変性SEPS、エポキシ変性SEBS、エポキシ変性SEPSなどが挙げられる。具体的な商品としては、旭化成ケミカルズ社製「タフテックM」シリーズ、JSR社製「ダイナロン」シリーズ、ダイセル化学工業社製「エポフレンド」シリーズ等が挙げられる。
【0279】
また、前記軟質スチレン系樹脂(B)の230℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)は、1g/10分以上、10g/10分以下であることが好ましい。MFRの下限としては、より好ましくは2g/10分、さらに好ましくは4g/10分である。またMFRの上限としては、より好ましくは8g/10分、さらに好ましくは6g/10分である。前記軟質スチレン系樹脂(B)のMFRがかかる範囲内であれば、ポリカーボネート樹脂(A)との分散性が良く、透明性、耐衝撃性に優れた樹脂組成物を提供することができる。
【0280】
本発明の第3の態様における混合物(X)中に占める前記軟質スチレン系樹脂(B)の割合は1質量%以上、20質量%以下であることが重要である。下限としては、より好ましくは3質量%、さらに好ましくは5質量%である。また、上限としては、より好ましくは18質量%、さらに好ましくは15質量%である。混合物(X)中に占める軟質スチレン系樹脂(B)の割合がかかる範囲を下回る場合、十分な耐衝撃性向上効果が得られない場合があり、一方、軟質スチレン系樹脂(B)の割合がかかる範囲を上回る場合、樹脂組成物の過剰な軟質化を生じ、耐熱性が低下する場合がある。
【0281】
また、前記ポリカーボネート樹脂(A)の平均屈折率と前記軟質スチレン系樹脂(B)の平均屈折率の差(「(A)の平均屈折率」−「(B)の平均屈折率」)は、−0.015以上、+0.015以下であることが好ましく、−0.013以上、+0.013以下であることがより好ましく、−0.010以上、+0.010以下であることがさらに好ましい。ポリカーボネート樹脂(A)と軟質スチレン系樹脂(B)の平均屈折率の差がかかる範囲内であれば、特に透明性に優れた樹脂組成物を提供することができる。
【0282】
なお、前記ポリカーボネート樹脂(A)、及び、前記軟質スチレン系樹脂(B)の平均屈折率は以下の方法を用いて算出した。
厚み100μmに成形したサンプルをアタゴ社製アッベ屈折計を用いて、ナトリウムD線(589nm)を光源とし、JIS K7142(2008年)に基づき雰囲気温度23℃にてn=5で測定を行い、屈折率の平均値を算出し平均屈折率とした。
【0283】
<熱安定剤>
本発明の第3の態様の樹脂組成物には、成形時における分子量の低下や色相の悪化を防止するために熱安定剤を配合することができるが、熱安定剤の使用に係る技術は、本発明の第1の態様のポリカーボネート樹脂組成物におけるものと同様である。
【0284】
<酸化防止剤>
本発明の第3の態様の樹脂組成物には、酸化防止の目的で通常知られた酸化防止剤を配合することができるが、酸化防止剤の使用に係る技術は、本発明の第1の態様のポリカーボネート樹脂組成物におけるものと同様である。
【0285】
<滑剤>
また、本発明の第3の態様の樹脂組成物に対して表面滑性の付与を目的として、滑剤を配合することができる。前記滑剤としては、一価または多価アルコールの高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸、パラフィンワックス、蜜蝋、オレフィン系ワックス、カルボキシ基および/またはカルボン酸無水物基を含有するオレフィン系ワックス、シリコーンオイル、オルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0286】
前記滑剤としては、本発明の第1の態様における上述の離型剤と同様のものを同様に用いることができる。
【0287】
<紫外線吸収剤、光安定剤>
また、本発明の第3の態様の樹脂組成物の耐候性をさらに向上する目的で、紫外線吸収剤、光安定剤を配合することができるが、紫外線吸収剤、光安定剤の使用に係る技術は、本発明の第1の態様のポリカーボネート樹脂組成物におけるものと同様である。
【0288】
<エポキシ系化合物>
さらに、本発明の第3の態様の樹脂組成物の耐加水分解性をさらに向上するため、エポキシ系化合物を配合することができる。エポキシ系化合物の具体例としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシ−6'−メチルシクロヘキシルカルボキシレート、2,3−エポキシシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4−(3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキシル)ブチル−3',4'−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチレンオキシド、シクロヘキシルメチルー3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−6'−メチルシロヘキシルカルボキシレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAグリシジルエーテル、フタル酸のジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸のジグリシジルエステル、ビス−エポキシジシクロペンタジエニルエーテル、ビス−エポキシエチレングリコール、ビス−エポキシシクロヘキシルアジペート、ブタジエンジエポキシド、テトラフェニルエチレンエポキシド、オクチルエポキシタレート、エポキシ化ポリブタジエン、3,4−ジメチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、3,5−ジメチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、3−メチル−5−t−ブチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、オクタデシル−2,2−ジメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、N−ブチル−2,2−ジメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、シクロヘキシル−2−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、N−ブチル−2−イソプロピル−3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキシルカルボキシレート、オクタデシル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、2−エチルヘキシル−3',4'−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4,6−ジメチル−2,3−エポキシシクロヘキシル−3',4'−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4,5−エポキシ無水テトラヒドロフタル酸、3−t−ブチル−4,5−エポキシ無水テトラヒドロフタル酸、ジエチル−4,5−エポキシ−シス−1,2−シクロヘキシルジカルボキシレート、ジ−N−ブチル−3−tブチル−4,5−エポキシ-シス−1,2−シクロヘキシルジカルボキシレートなどが挙げられる。ビスフェノールAジグリシジルエーテルが相溶性などの点から好ましい。前記エポキシ系化合物の配合量としては、本発明の第3の態様の樹脂組成物100質量部に対して、0.0001質量部以上、5質量部以下の割合で配合することが好ましく、0.001質量部以上、1質量部以下の割合で配合することがより好ましく、0.005質量部以上、0.5質量部以下の割合で配合することがさらに好ましい。かかる範囲でエポキシ系化合物を配合することにより、エポキシ系化合物のブリード、樹脂組成物からなる各種成形品の機械特性低下を生じることなく、樹脂組成物の耐加水分解性を向上することができる。
【0289】
本発明の第3の態様の樹脂組成物には、前記以外にも、可塑剤、顔料、染料、充填剤等の添加剤をさらに配合することもできる。
【0290】
本発明の第3の態様の樹脂組成物を厚み0.1mmに成形した場合におけるJIS K7105(1981年)に基づき測定したヘーズは、10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。ヘーズがかかる範囲内にあることで、透明性が必要とされる様々な用途に広く用いることが可能である。
【0291】
<樹脂組成物の用途>
本発明の第3の態様の樹脂組成物は、フィルム、プレート、または、射出成形品等に成形することができる。具体的には、ポリカーボネート樹脂(A)、軟質スチレン系樹脂(B)及び、必要に応じてその他の樹脂や添加剤等の原料を直接混合し、押出機或いは射出成型機に投入して成形するか、または、前記原料を二軸押出機を用いて溶融混合し、ストランド形状に押出してペレットを作成した後、このペレットを押出機或いは射出成型機に投入して成形する方法を挙げることができる。いずれの方法においても、ポリカーボネート系樹脂の加水分解による分子量の低下を考慮する必要があり、均一に混合させるためには後者を選択するのが好ましい。そこで、以下後者の製造方法について説明する。
【0292】
ポリカーボネート樹脂(A)、軟質スチレン系樹脂(B)及び、必要に応じてその他の樹脂や添加剤を十分に乾燥して水分を除去した後、二軸押出機を用いて溶融混合し、ストランド形状に押出してペレットを作成する。この際、各原料の組成比や配合割合によって粘度が変化すること等を考慮して、溶融押出温度を適宜選択することが好ましい。具体的には、成形温度は200℃以上、260℃以下が好ましく、210℃以上、250℃以下がより好ましく、220℃以上、240℃がさらに好ましい。
【0293】
前記方法にて作製したペレットは、十分に乾燥させて水分を除去した後、以下の方法でフィルム、プレート、または、射出成形品の成形を行うことができる。
【0294】
フィルム及びプレートの成形方法としては、ロール延伸、テンター延伸法、チューブラー法、インフレーション法のほか、フィルムやプレートの成形方法として一般的なTダイキャスト法、プレス法などを採用することができる。
【0295】
なお、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいい(JIS K6900)、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明の第3の態様において文言上両者を区別する必要がないので、本発明の第3の態様においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0296】
また、射出成形体の成形方法は、特に限定されるものではなく、例えば熱可塑性樹脂用の一般射出成形法、ガスアシスト成形法及び射出圧縮成形法等の射出成形法を採用することができる。その他目的に合わせて、前記の方法以外でインモールド成形法、ガスプレス成形法、2色成形法、サンドイッチ成形法等を採用することもできる。
【0297】
本発明の第3の態様の樹脂組成物から得られたフィルム、プレート、または、射出成形品は、透明性、耐熱性、耐衝撃性に優れるため、本発明の第3の態様の樹脂組成物の用途は特に制限されるものではないが、例えば、建材、内装部品、透明フィルム、樹脂被覆金属板用フィルム、成形(真空・圧空成形、熱プレス成形など)用フィルム、着色プレート、透明プレート、シュリンクフィルム、シュリンクラベル、シュリンクチューブや、自動車内装材、家電製品筐体、各種部品、OA機器部品等の射出成形品等に使用できる。
【実施例】
【0298】
以下、実施例により本発明の第1の態様を更に詳細に説明するが、本発明の第1の態様は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
以下において、ポリカーボネート樹脂組成物及び成形品の物性ないし特性の評価は次の方法により行った。
【0299】
(1)試験片作成方法
ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを、熱風乾燥機を用いて、80℃で6時間乾燥した。次に、乾燥したポリカーボネート樹脂組成物のペレットを射出成形機(日本製鋼所社製J75EII型)に供給し、樹脂温度240℃、金型温度60℃、成形サイクル40秒間の条件で、射出成形板(幅60mm×長さ60mm×厚さ3mm)および機械物性用ISO試験片を成形した。
【0300】
(2)全光線透過率及びヘーズ測定
前記(1)で得られた射出成形板についてJIS K7105(1981年)に準拠し、ヘーズメーター(日本電色工業社製NDH2000)を使用し、D65光源にて前記試験片の全光線透過率およびヘイズを測定した。
【0301】
(3)ノッチ付シャルピー衝撃
前記(1)で得られた機械物性用ISO試験片についてISO179(2000年)に準拠してノッチ付シャルピー衝撃試験を実施した。
【0302】
(4)ガラス転移温度
示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製の「DSC220」)を用いて、ポリカーボネート樹脂約10mgを10℃/minの昇温速度で加熱してDSC曲線を測定した。次いで、JIS−K7121(1987年)に準拠して、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分における曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度である補外ガラス転移開始温度を求め、これをガラス転移温度とした。
【0303】
(5)還元粘度
ポリカーボネート樹脂のペレットを塩化メチレンからなる溶媒を用いて溶解し、0.6g/Lの濃度のポリカーボネート溶液を調整した。次いで、森友理科工業社製のウベローデ型粘度管を用いて、温度20.0±0.1℃で測定を行い、溶媒の通過時間t0と溶液の通過時間tとから次式(α)より相対粘度ηrelを算出し、相対粘度ηrelから次式(β9より比粘度ηspを算出した。なお、式(β)中のη0は溶媒の粘度である。
ηrel=t/t0 ・・・(α)
ηsp=(η−η0)/η0=ηrel−1 ・・・(β)
そして、比粘度ηspをポリカーボネート溶液の濃度c(g/dL)で割って、還元粘度η(η=ηsp/c)を算出した。この値が高いほど、分子量が大きいことを意味する。
【0304】
(6)溶融粘度
東洋精機製のキャピログラフを用い、ダイス長10.0mm、ダイス径1.0mm、溶融温度240℃にて剪断速度を任意に変更して測定し、得られた溶融粘度曲線より剪断速度600sec-1での溶融粘度を読み取った。
【0305】
以下の実施例の記載の中で用いた化合物の略号は次の通りである。
ISB:イソソルビド(ロケットフルーレ社製、商品名POLYSORB)
CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール(イーストマン社製)
DPC:ジフェニルカーボネート(三菱化学社製)
【0306】
(衝撃強度改質剤)
メタブレンC−223A:MBS(三菱レイヨン社製)
パラロイドEXL2603:ブタジエン−アクリル酸アルキル−メタクリル酸アルキル共重合物(ローム・アンド・ハース・ジャパン社製)
【0307】
(酸化防止剤)
アデカスタブ2112:ホスファイト系酸化防止剤(ADEKA社製)
アデカスタブAO−60:フェノール系酸化防止剤(ADEKA社製)
(離型剤)
S−100A:ステアリン酸モノグリセリド(理研ビタミン社製)
【0308】
(実施例A1)
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した重合反応装置に、ISBとCHDM、蒸留精製して塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたDPCおよび酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でISB/CHDM/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.50/0.50/1.00/1.3×10-6になるように仕込み、十分に窒素置換した(酸素濃度0.0005vol%〜0.001vol%)。
【0309】
続いて熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始し、内温が100℃になるように制御しながら内容物を融解させ均一にした。その後、昇温を開始し、40分で内温を210℃にし、内温が210℃に到達した時点でこの温度を保持するように制御すると同時に、減圧を開始し、210℃に到達してから90分で13.3kPa(絶対圧力、以下同様)にして、この圧力を保持するようにしながら、さらに60分間保持した。
【0310】
重合反応とともに副生するフェノール蒸気は、還流冷却器への入口温度として100℃に制御された蒸気を冷媒として用いた還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を重合反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は続いて45℃の温水を冷媒として用いた凝縮器に導いて回収した。
【0311】
このようにしてオリゴマー化させた内容物を、一旦大気圧にまで復圧させた後、撹拌翼および前記同様に制御された還流冷却器を具備した別の重合反応装置に移し、昇温および減圧を開始して、60分で内温220℃、圧力200Paにした。その後、20分かけて内温230℃、圧力133Pa以下にして、所定撹拌動力になった時点で復圧し、内容物をストランドの形態で抜出し、回転式カッターでペレット(ポリカーボネート樹脂)にした。
【0312】
次に、得られたポリカーボネート樹脂のペレットと、更に下記の表1に示した組成となるように衝撃強度改質剤としてメタブレンC−223A、離型剤としてS−100A、更に酸化防止剤としてアデカスタブAO−60及びアデカスタブ2112とを2つのベント口を有する日本製鋼所社製2軸押出機(LABOTEX30HSS-32)を用いて、出口の樹脂温が250℃になるようにストランド状に押し出し、水で冷却固化させた後、回転式カッターでペレット化した。この際、ベント口は真空ポンプに連結し、ベント口での圧力が500Paになるように制御した。得られたペレット状のポリカーボネート樹脂組成物の分析結果、および前記方法よる評価結果を後述の表1に示す。
【0313】
(実施例A2)
衝撃強度改質剤としてパラロイドEXL2603を5重量部添加した以外は、実施例A1と同様に行った。
【0314】
(実施例A3)
実施例A1のISBとCHDMのモル比率を変え、衝撃強度改質剤としてメタブレンC−223Aを10重量部添加した以外は、実施例A1と同様に行った。
【0315】
(比較例A1)
実施例A1の衝撃強度改質剤を添加しない以外は、実施例A1と同様に行った。
【0316】
(比較例A2)
実施例A3の衝撃強度改質剤を添加しない以外は、実施例A3と同様に行った。
【0317】
【表1】

【0318】
表1より知られるごとく、実施例A1〜A3においては、比較例A1及びA2に比べて、60%以上という高い全光線透過率を示し、高いノッチ付シャルピー衝撃強度を示した。したがって、実施例A1〜A3のポリカーボネート樹脂成形品は、優れた透明性と衝撃強度を兼ね備え、建築材料分野、電気・電子分野、自動車分野、光学部品分野等において好適に用いることができる。
【0319】
以下、実施例により本発明の第2の態様を更に詳細に説明するが、本発明の第2の態様はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。尚、下記の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と下記実施例の値または実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0320】
以下において、ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の製造に用いた各原料や添加剤は、以下の略号で示す。
【0321】
ISB:イソソルビド
TCDDM:トリシクロデカンジメタノール
CHDM:1,4−ヘキサンジメタノール
DPC:ジフェニルカーボネート
C−223A:三菱レイヨン社製「メタブレンC−223A」(コア層がブタジエン−スチレン共重合体、シェル層がメタクリル酸メチルのコア・シェル型グラフト共重合体のエラストマー(衝撃強度改質剤))
EXL2603:ロームアンドハース社製「パラロイドEXL2603」(コア層がブタジエン重合体、シェル層がアルキル酸アルキル-メタクリル酸アルキル共重合体のコア・シェル型グラフト共重合体のエラストマー(衝撃強度改質剤))
AS2112:ADEKA社製「アデカスタブ2112」(ホスファイト系酸化防止剤)
IRGANOX1010:BASFジャパン社製「イルガノックス1010」(ヒンダードフェノール系酸化防止剤)
E−275:日油社製「ユニスターE−275」(ジステアリン酸グリコール)
S−100A:理研ビタミン社製「S−100A」(ステアリン酸モノグリセリド)
【0322】
また、ポリカーボネート樹脂の物性及びポリカーボネート樹脂組成物の物性は以下の方法で測定及び評価した。
【0323】
[ポリカーボネート樹脂の物性]
1)ガラス転移温度(Tig)の測定
示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製の「DSC220」)を用いて、ポリカーボネート樹脂約10mgを10℃/minの昇温速度で加熱してDSC曲線を測定した。次いで、JIS−K7121(1987年)に準拠して、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分における曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度である補外ガラス転移開始温度を求め、これをガラス転移温度とした。
【0324】
2)還元粘度の測定
溶媒として塩化メチレンを用いて溶解し、0.6g/dLの濃度のポリカーボネート樹脂溶液を調製した。森友理化工業社製ウベローデ型粘度管を用いて、温度20.0℃±0.1℃で測定を行い、溶媒の通過時間t0と溶液の通過時間tから次式(i)より相対粘度ηrelを求め、相対粘度から次式(ii)より比粘度ηspを求めた。
ηrel=t/t0 (i)
ηsp=(η−η0)/η0=ηrel−1 (ii)
比粘度を濃度c(g/dL)で割って、還元粘度ηsp/cを求めた。
この値が高いほど分子量が大きい。
【0325】
[ポリカーボネート樹脂組成物の物性]
1)破壊点歪の評価
ISO 527(1993年)による引張り試験法に従い、破壊点歪を測定した。破壊点歪は値が大きいほど優れているものと評価される。
【0326】
2)破壊呼び歪の評価
ISO 527(1993年)による引張り試験法に従い、破壊点呼び歪を測定した。破壊呼び歪は値が大きいほど優れているものと評価される。
【0327】
3)脆性破壊率の評価
デュポン式落錘衝撃試験機を用いて、温度23℃の雰囲気下で厚み1mm、100mm×100mmの成形片に所定の高さから重錘を落下させて、その破壊形態を確認した後、脆性破壊率を測定した。脆性破壊率は値が小さいほど優れているものと評価される。
【0328】
[製造例1]
撹拌翼及び100℃に制御された還流冷却器を具備した重合反応装置に、ISBとTCDDM、蒸留精製して塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたDPC及び酢酸カルシウム1水和物を、mol比率でISB/TCDDM/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.50/0.50/1.00/1.3×10-6になるように仕込み、十分に窒素置換した(酸素濃度0.0005体積%〜0.001体積%)。
【0329】
続いて熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始し、内温が100℃になるように制御しながら内容物を融解させ均一にした。その後、昇温を開始し、40分で内温を210℃にし、内温が210℃に到達した時点でこの温度を保持するように制御すると同時に、減圧を開始し、210℃に到達してから90分で13.3kPa(絶対圧力、以下同様)にして、この圧力を保持するようにしながら、さらに60分間保持した。
【0330】
重合反応とともに副生するフェノール蒸気は、還流冷却器への入口温度として100℃に制御された蒸気を冷媒として用いた還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を重合反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は続いて45℃の温水を冷媒として用いた凝縮器に導いて回収した。
【0331】
このようにしてオリゴマー化させた内容物を、一旦大気圧にまで復圧させた後、撹拌翼及び前記同様に制御された還流冷却器を具備した別の重合反応装置に移し、昇温及び減圧を開始して、60分で内温220℃、圧力200Paにした。その後、20分かけて内温230℃、圧力133Pa以下にして、所定撹拌動力になった時点で復圧し、内容物をストランドの形態で抜出し、回転式カッターでペレット(ポリカーボネート樹脂)にした。
【0332】
[製造例2]
ISBとTCDDMのmol比率を変えISB/TCDDM=0.70/0.30(mol比率)としたこと以外は製造例1と同様に行った。
【0333】
[製造例3]
TCDDMを用いず、ジヒドロキシ化合物としてISBのみを用いたこと以外は製造例1と同様におおなった。
【0334】
製造例1〜3で得られたポリカーボネート樹脂の全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する各ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合と、ガラス転移温度(Tig)及び還元粘度を表2にまとめて示す。
【0335】
【表2】

【0336】
[実施例B1〜B6、比較例B1〜B5]
製造例1〜3において製造したポリカーボネート樹脂のペレットを用いて表3〜表5に示す配合で各添加剤を添加し、2つのベント口を有する日本製鋼所社製2軸押出機(LABOTEX30HSS-32)を用いて、出口の樹脂温が250℃になるようにストランド状に押し出し、水で冷却固化させた後、回転式カッターでペレット化した。この際、ベント口は真空ポンプに連結し、ベント口での圧力が500Paになるように制御した。得られたペレット状のポリカーボネート樹脂組成物の前記方法よる評価結果を表3〜表5に示した。なお、実施例B1〜B6においては、厚さ3mmの成形体の全光線透過率が60%以上であることを確認している。
【0337】
【表3】

【0338】
【表4】

【0339】
【表5】

【0340】
以上の結果より、本発明の第2の態様のポリカーボネート樹脂組成物によれば、耐面衝撃性、耐衝撃性等に優れたポリカーボネート樹脂成形品が得られることが分かる。なお、実施例B1〜B6は、厚さ3mmの成形体の全光線透過率が60%以上であることを確認している。
【0341】
以下に、本発明の第3の態様の実施例を示すが、これらにより本発明の第3の態様は何ら制限を受けるものではない。
なお、本明細書中に表示される原料及び試験片についての種々の測定値及び評価は次の様にして行った。ここで、フィルムの押出機からの流れ方向を縦方向、その直交方向を横方向と呼ぶ。
【0342】
(1)ヘーズ(曇価)
JIS K7105(1981年)に基づいて、全光線透過率および拡散透過率を測定し、ヘーズを以下の式で算出した。厚み0.1mmでのヘーズが10%以下であるものを合格とした。
[ヘーズ]=[拡散透過率]/[全光線透過率]×100
【0343】
(2)引張破断強度・伸度
JIS K7127(1999年)に準じて、温度23℃、試験速度200mm/分の条件で試験片の縦方向について測定した。引張破断強度が50MPa以上、引張破断伸度が100%以上のものを合格とした。
【0344】
(3)破壊エネルギー
ハイドロショット高速衝撃試験器(島津製作所社製「HTM−1型」)を用いて、縦方向100mm×横方向100mm×厚み0.1mmの大きさに切り出したシートを試料とし、クランプで固定し、温度23℃でシート中央に直径が1/2インチの撃芯を落下速度3m/秒で落として衝撃を与え、試料が破壊するときの破壊エネルギー(kgf・mm)を測定した。破壊エネルギーが50kgf・mm以上のものを合格とした。
【0345】
(4)TMA軟化温度
長さ5mm×幅5mm×厚み0.1mmの評価用サンプルを用いて、JIS K7196(1991年)に基づき、TMAによる軟化温度の測定を行った。雰囲気温度23℃、相対湿度50%、圧子への圧力0.5N、昇温速度5℃/分にてTMA曲線を測定し、圧子が侵入を始めるよりも低温側に認められる直線部分を高温側に延長し、侵入速度が最大となる部分の接線の低温側への延長との交点を針侵入温度とし、この値から軟化温度を算出した。TMA軟化温度は70℃以上を合格とした。
【0346】
(5)平均屈折率の差
実施例・比較例で使用した各材料を厚み100μmに成形したサンプルを、アタゴ社製アッベ屈折計を用いて、ナトリウムD線(589nm)を光源とし、JIS K7142(2008年)に基づき雰囲気温度23℃にてn=5で測定を行い、屈折率の平均値を算出し平均屈折率とした。ポリカーボネート樹脂(A)の平均屈折率と軟質スチレン系樹脂(B)(又は(B)の代わりに使用した樹脂)の平均屈折率の差(「(A)の平均屈折率」−「(B)の平均屈折率」)を計算し、−0.015以上、+0.015以下である場合を合格とした。なお、(A)のみ用いる場合や、一方の平均屈折率が測定不能である場合については表6に「−」と記載した。
【0347】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
<PC1>
イソソルビドに由来する構造単位/1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位=70/30モル%、
(ガラス転移温度=120℃、還元粘度=0.56dl/g、平均屈折率=1.500)
<PC2>
イソソルビドに由来する構造単位/1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位=50/50モル%
(ガラス転移温度=101℃、還元粘度=0.57dl/g、平均屈折率=1.501)
【0348】
[軟質スチレン系樹脂(B)]
<TPS1>
旭化成ケミカルズ社製タフテックH1052
(SEBS、スチレン含有量=20質量%、平均屈折率=1.508、MFR=5.0g/10分)
<TPS2>
旭化成ケミカルズ社製タフテックM1913
(無水マレイン酸変性SEBS、スチレン含有量=30質量%、平均屈折率=1.511、MFR=5.0g/10分、酸価=10mgCH3ONa/g)
<TPS3>
旭化成ケミカルズ社製タフテックM1943
(無水マレイン酸変性SEBS、スチレン含有量=20質量%、平均屈折率=1.498、MFR=8.0g/10分、酸価=10mgCH3ONa/g)
<TPS4>
旭化成ケミカルズ社製タフテックH1051
(SEBS、スチレン含有量=42質量%、平均屈折率=1.520、MFR=0.8g/10分)
【0349】
(実施例C1)
PC1、及び、TPS1を混合質量比95:5の割合でドライブレンドした後、φ40mm同方向二軸押出機を用いて220℃で混練した後、Tダイより押出し、次いで約120℃のキャスティングロールにて急冷し、厚み0.1mmのフィルムを作製した。得られたフィルムについて、ヘーズ、引張破壊強度・伸度、破壊エネルギー、TMA軟化温度の評価を行った。結果を表6に示す。
【0350】
(実施例C2)
PC1、及び、TPS1を混合質量比90:10の割合でドライブレンドした以外は実施例C1と同様の方法でフィルムの作製、評価を行った。結果を表6に示す。
【0351】
(実施例C3)
PC1、及び、TPS2を混合質量比85:15の割合でドライブレンドした以外は実施例C1と同様の方法でフィルムの作製、評価を行った。結果を表6に示す。
【0352】
(実施例C4)
PC1、及び、TPS3を混合質量比80:20の割合でドライブレンドした以外は実施例C1と同様の方法でフィルムの作製、評価を行った。結果を表6に示す。
【0353】
(実施例C5)
PC2、及び、TPS3を混合質量比90:10の割合でドライブレンドした以外は実施例C1と同様の方法でフィルムの作製、評価を行った。結果を表6に示す。
【0354】
(比較例C1)
PC1を単独で用い、実施例C1と同様の方法でフィルムの作製、評価を行った。結果を表6に示す。
【0355】
(実施例C6)
PC1、及び、TPS4を混合質量比90:10の割合でドライブレンドした以外は実施例1と同様の方法でフィルムの作製、評価を行った。結果を表6に示す。
【0356】
(実施例C7)
軟質スチレン系樹脂(B)の代わりに、テクノポリマー社製テクノABS110(ABS樹脂、MFR(220℃、10kg荷重)=22g/10分)を用い、PC1、及び、テクノABS110を混合質量比90:10の割合でドライブレンドした以外は実施例C1と同様の方法でフィルムの作製、評価を行った。結果を表6に示す。
【0357】
(実施例C8)
軟質スチレン系樹脂(B)の代わりに、三菱レイヨン社製メタブレンS2006(シリコーンアクリル複合ゴム、平均屈折率=1.464)を用い、PC1、及び、メタブレンS2006を混合質量比90:10の割合でドライブレンドした以外は実施例C1と同様の方法でフィルムの作製、評価を行った。結果を表6に示す。
【0358】
(実施例C9)
PC1、及び、TPS1を混合質量比70:30の割合でドライブレンドした以外は実施例C1と同様の方法でフィルムの作製、評価を行った。結果を表6に示す。
【0359】
【表6】

【0360】
表6から明らかである通り、実施例C1〜C5の配合組成の樹脂組成物を用いて作製されたフィルムは、いずれも優れた透明性、耐衝撃性、耐熱性を有していた。また、実施例C1〜C9は、厚さ3mmの成形体の全光線透過率が60%以上であることを確認している。一方、比較例C1の配合組成の樹脂組成物を用いて作製されたフィルムは、透明性、耐衝撃性、耐熱性の少なくとも1つの特性が実施例と比較して劣っていた。
このことから、本発明の第3の態様の樹脂組成物は、透明性、耐衝撃性、耐熱性の全てに優れた樹脂組成物であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含有し、ガラス転移温度が145℃未満であるポリカーボネート樹脂と、衝撃強度改質剤とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、
該ポリカーボネート樹脂組成物から成形される厚さ3mmの成形体の全光線透過率が60%以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(但し、前記一般式(1)で表される部位が−CH2−O−Hの一部である場合を除く。)
【請求項2】
前記衝撃強度改質剤が、ガラス転移温度(Tig)−10℃以下の共重合体からなるエラストマーを含むことを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記エラストマーが熱可塑性エラストマーであることを特徴とする請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記衝撃強度改質剤がブタジエンを含有する共重合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリカーボネート樹脂100重量部に対する前記衝撃強度改質剤の含有量が1重量部以上25重量部未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有し、ガラス転移温度(Tig)が145℃未満であるポリカーボネート樹脂と、コア・シェル構造からなる衝撃強度改質剤とを含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】

(ただし、上記式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)
【請求項7】
前記衝撃強度改質剤のコア層は、ガラス転移温度(Tig)−10℃以下の共重合体からなるエラストマーであることを特徴とする請求項6に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
前記エラストマーが熱可塑性エラストマーであることを特徴とする請求項7に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
前記衝撃強度改質剤のコア層が、アクリル酸アルキル、シリコーン・アクリル複合体、ブタジエン、及びブタジエン−スチレン共重合体からなる群から選ばれる1種以上よりなることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリカーボネート樹脂100重量部に対して前記衝撃強度改質剤を0.05〜50重量部含むことを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項11】
前記ポリカーボネート樹脂が環状構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項12】
構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、複素環基を有するジヒドロキシ化合物であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項13】
前記複素環基を有するジヒドロキシ化合物が下記式(2)で表される化合物であることを特徴とする請求項12に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化3】

【請求項14】
前記ポリカーボネート樹脂が脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項15】
前記脂肪族ジヒドロキシ化合物が脂環式ジヒドロキシ化合物であることを特徴とする請求項14に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項16】
前記ポリカーボネート樹脂が、全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して前記脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を20mol%以上含むことを特徴とする請求項14又は請求項15に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項17】
前記ポリカーボネート樹脂において、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有量は1mol%以上かつ90mol%未満であることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項18】
前記ポリカーボネート樹脂の還元粘度が0.4dL/g以上1.4dL/g以下であることを特徴とする請求項1〜17のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項19】
構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(b)とを含むポリカーボネート樹脂(A)と、スチレン含有量が10質量%以上、40質量%以下である軟質スチレン系樹脂(B)からなる衝撃強度改質剤とからなる混合物(X)を主成分とするポリカーボネート樹脂組成物であって、
前記混合物(X)中に占める前記軟質スチレン系樹脂(B)の割合が1質量%以上、20質量%以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化4】

(但し、前記一般式(1)で表される部位が−CH2−O−Hの一部である場合を除く。)
【請求項20】
前記ポリカーボネート樹脂(A)と前記軟質スチレン系樹脂(B)の平均屈折率の差(「(A)の平均屈折率」−「(B)の平均屈折率」)が−0.015以上、+0.015以下であることを特徴とする請求項19に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項21】
前記軟質スチレン系樹脂(B)が、部分水素添加、または、完全水素添加されていることを特徴とする請求項19又は20に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項22】
前記軟質スチレン系樹脂(B)は、極性を有する官能基が付与されていることを特徴とする請求項19〜21のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項23】
前記極性を有する官能基が、無水マレイン酸に由来する官能基であることを特徴とする請求項22に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項24】
前記ポリカーボネート樹脂組成物を厚み0.1mmに成形したときのJIS K7105に基づき測定したヘーズが10%以下であることを特徴とする請求項19〜23のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項25】
請求項1〜24のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形品。
【請求項26】
前記ポリカーボネート樹脂成形品が、射出成形法により成形して得られることを特徴とする請求項25に記載のポリカーボネート樹脂成形品。
【請求項27】
請求項1〜24のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られるフィルム。
【請求項28】
請求項1〜24のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られるプレート。

【公開番号】特開2012−214666(P2012−214666A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150214(P2011−150214)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】