説明

ポリカーボネート樹脂

【課題】高Tg、高分子量のポリカーボネート樹脂を提供する。
【解決手段】1,4−シクロヘキサンジメタノールをジフェニルカーボネートによりカーボネート結合させてなるポリカーボネート樹脂。1,4−シクロヘキサンジメタノールとジフェニルカーボネートを、塩基性化合物触媒もしくはエステル交換触媒もしくはその双方からなる混合触媒の存在下、ジフェニルカーボネートと1,4−シクロヘキサンジメタノールとの仕込みモル比を0.97〜1.01として、二段以上の多段工程の溶融重縮合法により製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、その優れた透明性、耐熱性、低吸水性、耐薬品性、力学特性および寸法安定性から、CDあるいはDVDの基板、光学フィルム、光学シート、各種レンズあるいはプリズム等の光学材料用途に幅広く利用されている。シクロヘキサンジメタノールを用いたポリカーボネートは、種々知られている(特許文献1〜3参照)。しかし、それらはポリウレタンの原料として用いられるもので、低分子量、低Tgの常温液体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−145336号公報
【特許文献2】特開昭55−56124号公報
【特許文献3】特開平5−078461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、シクロヘキサンジメタノールを用いた高Tg、高分子量のポリカーボネート樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、1,4−シクロヘキサンジメタノールをジフェニルカーボネートによりカーボネート結合させてなる末端OH基量が500ppm以下のポリカーボネート樹脂に関するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリカーボネート樹脂は、他のポリカーボネートとブレンドすることにより光学用材料、眼鏡レンズ、車載レンズ、カバー、窓ガラス、タッチパネル、など幅広く光学材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のポリカーボネート樹脂は、1,4−シクロヘキサンジメタノールとジフェニルカーボネートとを塩基性化合物触媒もしくはエステル交換触媒もしくはその双方からなる混合触媒の存在下反応させる公知の溶融重縮合法が好適に用いられる。
【0008】
本発明で用いられる1,4−シクロヘキサンジメタノールは、もっとも一般的な製法すなわち、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルエステルを水素化した後蒸留して得られるものである。シス体を30〜40wt%含むものである。
【0009】
本発明のポリカーボネート樹脂の末端OH基量(末端OH基濃度)は500ppm以下であり、好ましくは100ppm以下である。末端OH基量が多すぎるとブレンドの際に反応し、分子量低下や着色の原因となる。これらの末端OH基量は、溶融重合時におけるジフェニルカーボネートと1,4−シクロヘキサンジメタノールの仕込みモル比を調節することにより達成できる。具体的には、溶融重合時におけるジフェニルカーボネートと1,4−シクロヘキサンジメタノールの仕込みモル比を0.97〜1.01とするのが好ましい。
【0010】
塩基性化合物触媒としては、特にアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物、含窒素化合物等があげられる。このような化合物としては、アルカリ金属およびアルカリ土類金属化合物等の有機酸塩、無機塩、酸化物、水酸化物、水素化物あるいはアルコキシド、4級アンモニウムヒドロキシドおよびそれらの塩、アミン類等が好ましく用いられ、これらの化合物は単独もしくは組み合わせて用いることができる。
【0011】
アルカリ金属化合物としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸セシウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸セシウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2ナトリウム、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2セシウム塩、2リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、リチウム塩等が用いられる。
【0012】
アルカリ土類金属化合物としては、具体的には、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸水素バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、フェニルリン酸マグネシウム等が用いられる。
【0013】
含窒素化合物としては、具体的には、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド等のアルキル、アリール、基等を有する4級アンモニウムヒドロキシド類、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミン等の3級アミン類、ジエチルアミン、ジブチルアミン等の2級アミン類、プロピルアミン、ブチルアミン等の1級アミン類、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、ベンゾイミダゾール等のイミダゾール類、あるいは、アンモニア、テトラメチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルアンモニウムテトラフェニルボレート等の塩基あるいは塩基性塩等が用いられる。
【0014】
エステル交換触媒としては、亜鉛、スズ、ジルコニウム、鉛の塩が好ましく用いられ、これらは単独もしくは組み合わせて用いることができる。具体的には、酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、酢酸スズ(II)、酢酸スズ(IV)、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジメトキシド、ジルコニウムアセチルアセトナート、オキシ酢酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラブトキシド、酢酸鉛(II)、酢酸鉛(IV)等が用いられる。これらの触媒は、ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して、10−9〜10−3モルの比率で、好ましくは10−7〜10−4モルの比率で用いられる。
【0015】
本発明に係る溶融重縮合法は、前記の原料、および触媒を用いて、加熱下に常圧または減圧下にエステル交換反応により副生成物を除去しながら溶融重縮合を行うものである。反応は、一般には二段以上の多段工程で実施される。
【0016】
具体的には、第一段目の反応を120〜220℃、好ましくは160〜200℃の温度で0.1〜5時間、好ましくは0.5〜3時間、常圧〜200Torrの圧力で反応させる。次いで、1〜3時間かけて温度を最終温度である230〜260℃まで徐々に上昇させると共に圧力を徐々に最終圧力である1Torr以下まで減圧し、反応を継続する。最後に1Torr以下の減圧下、230〜260℃の温度で重縮合反応を進め、所定の粘度に達したところで窒素により復圧し、反応を終了する。1Torr以下の反応時間は0.1〜2時間であり、全体の反応時間は1〜6時間、通常2〜5時間である。
【0017】
このような反応は、連続式で行っても良くまたバッチ式で行ってもよい。上記の反応を行うに際して用いられる反応装置は、錨型攪拌翼、マックスブレンド攪拌翼、ヘリカルリボン型攪拌翼等を装備した縦型であっても、パドル翼、格子翼、メガネ翼等を装備した横型であってもスクリューを装備した押出機型であってもよく、また、これらを重合物の粘度を勘案して適宜組み合わせた反応装置を使用することが好適に実施される。
【0018】
重合反応終了後、熱安定性および加水分解安定性を保持するために、触媒を除去もしくは失活させる。一般的には、公知の酸性物質の添加による触媒の失活を行う方法が好適に実施される。これらの物質としては、具体的には、p−トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸類、p−トルエンスルホン酸ブチル、p−トルエンスルホン酸ヘキシル等の芳香族スルホン酸エステル類、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩等の芳香族スルホン酸塩類、ステアリン酸クロライド、塩化ベンゾイル、p−トルエンスルホン酸クロライド等の有機ハロゲン化物、ジメチル硫酸等のアルキル硫酸、塩化ベンジル等の有機ハロゲン化物等が好適に用いられる。
【0019】
本発明に使用される触媒失活剤としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、フェニルリン酸、フェニルホスフィン、フェニルホスフィン酸、フェニルホスホン酸、ジフェニルホスフェート、ジフェニルホスファイト、ジフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィンオキシド、ジフェニルホスフィン酸、モノメチルアシッドホスフェート、モノメチルアシッドホスファイト、ジメチルアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスファイト、モノブチルアシッドホスフェート、モノブチルアシッドホスファイト、ジブチルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスファイト、モノステアリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート等のリン含有酸性化合物、p−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸エチル、p−トルエンスルホン酸プロピル、p−トルエンスルホン酸ブチル、p−トルエンスルホン酸ペンチル、p−トルエンスルホン酸ヘキシル、p−トルエンスルホン酸オクチル、p−トルエンスルホン酸フェニル、p−トルエンスルホン酸フェネチル、p−トルエンスルホン酸ナフチル等の芳香族スルホン酸化合物が挙げられる。
【0020】
このリン含有酸性化合物、芳香族スルホン酸化合物の添加量は、アルカリ金属化合物及び/またはアルカリ土類金属化合物触媒に対して中和当量の1/5〜20倍量、好ましくは1/2〜15倍量である。この添加量が少なすぎると所望の効果が得られず、過剰では耐熱物性、機械的物性が低下し適当ではない場合がある。
【0021】
また、芳香族スルホン酸ホスホニウム塩も好適に用いることができ、例えば、ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、p−トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、ブチルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、オクチルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラメチルホスホニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラエチルホスホニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラヘキシルホスホニウム塩等が挙げられる。
【0022】
この芳香族スルホン酸ホスホニウム塩の添加量は、ポリカーボネート樹脂に対して1〜300ppm、好ましくは10〜100ppmである。この添加量が少なすぎると所望の効果が得られず、過剰では耐熱物性、機械的物性が低下し適当ではない場合がある。
【0023】
触媒失活後、ポリマー中の低沸点化合物を0.1〜1Torrの圧力、200〜350℃の温度で脱揮除去する工程を設けても良く、このためには、パドル翼、格子翼、メガネ翼等、表面更新能の優れた攪拌翼を備えた横型装置、あるいは薄膜蒸発器が好適に用いられる。このようにして本発明のポリカーボネート樹脂を得ることができる。
【0024】
本発明のポリカーボネート樹脂のポリスチレン換算による重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000〜200,000であり、より好ましくは15,000〜150,000である。Mwが10,000より小さいと、ブレンドして得られるポリカーボネート樹脂組成物(以下、「ブレンド樹脂組成物」という場合がある)が脆くなる場合がある。Mwが200,000より大きいと、溶融粘度が高くなりブレンドの条件が厳しくなる場合があり、またブレンド樹脂組成物の射出成形条件が厳しくなり成形体にシルバーが生じる場合がある。
【0025】
また、本発明のポリカーボネート樹脂のMFR(260℃、2.16kg荷重)は特に制限されないが、好ましくは10〜100g/10分、より好ましくは20〜80g/10分である。
【0026】
本発明のポリカーボネート樹脂には、その物性を損なわない範囲で目的に応じ、各種公知の添加剤を加えることができる。例えば、熱安定化剤、加水分解安定剤、酸化防止剤、顔料、染料、強化剤、充填剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、可塑剤、流動性改良剤、帯電防止剤、抗菌剤等を添加することが好適に実施される。
【0027】
本発明のブレンド樹脂は、ペレット化した後、射出成形、圧縮成形、押出成形、中空成形等により成形品とすることができる。成形方法は従来公知の方法を用いることができる。
このようにして得られる成形品としては、具体的には平板、円板(射出、圧縮成形)ペレット、フィルム(押出成形)、ボトル(中空成形)などがある。
【実施例】
【0028】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に何らの制限を受けるものではない。なお、実施例の測定値は以下の方法あるいは装置を用いて測定した。
1)重量平均分子量(Mw):GPC(Shodex GPC system 11)を用い、ポリスチレン換算分子量(重量平均分子量:Mw)として測定した。展開溶媒にはTHFを用いた。
2)ガラス転移温度(Tg):示差熱走査熱量分析計(セイコー電子工業製)のSSC−5200(DSC)により10℃/minで測定した。
3)末端OH基定量:樹脂0.25gを乾燥塩化メチレン10mLに溶解し、次いでトリエチルアミン40μLを加えてアントラキノンカルボン酸無水物0.04gと室温で浸透し反応させたのち、水洗し過剰なアントラキノンカルボン酸無水物を除去し、さらに有機層から塩化メチレンを除去し、得られた固体をGPC分析した。OH末端既知サンプルによる一点検量線法によりピーク面積よりOH濃度を求めた(検出器UV;325nm)。
【0029】
実施例1
シクロヘキサンジメタノール(イーストマンケミカル社製)10.600kg(73.5モル)、ジフェニルカーボネート15.431kg(72.0モル)、および炭酸水素ナトリウム0.0152g(1.81×10−4モル)を攪拌機および留出装置付きの50リットル反応器に入れ、窒素雰囲気760Torrの下で1時間かけて215℃に加熱し撹拌した。
【0030】
その後、15分かけて減圧度を150Torrに調整し、215℃、150Torrの条件下で20分間保持しエステル交換反応を行った。さらに37.5℃/hrの速度で240℃まで昇温し、240℃、150Torrで10分間保持した。その後、10分かけて120Torrに調整し、240℃、120Torrで70分間保持した。その後、10分かけて100Torrに調整し、240℃、100Torrで10分間保持した。更に40分かけて1Torr以下とし、240℃、1Torr以下の条件下で10分間撹拌下重合反応を行った。
【0031】
反応終了後、反応器内に窒素を吹き込み加圧にし、生成したポリカーボネート樹脂をペレタイズしながら抜き出した。得られたポリカーボネート樹脂のMwは63,300、MFRは53.0g/10min、Tg=48℃、末端OH基量=55ppmであった。
【0032】
実施例2
仕込み量をシクロヘキサンジメタノール10.136kg(70.3モル)、ジフェニルカーボネート14.622kg(68.3モル)とした以外は、合成例1同様に重合を行った。得られたポリカーボネート樹脂(A2)のMwは160,000、MFR(260℃,2.16kg荷重)は5.0g/10min、Tg=49℃、末端OH基量=49ppmであった。
【0033】
比較例1
仕込み量をシクロヘキサンジメタノール9.844kg(68.3モル)、ジフェニルカーボネート14.699kg(68.6モル)とした以外は、合成例1同様に重合を行った。得られたポリカーボネート樹脂(A3)のMwは14,500、MFR(260℃,2.16kg荷重)は140.0g/10min、Tg=41℃と低く、末端OH基量=65ppmであった。
【0034】
比較例2
仕込み量をシクロヘキサンジメタノール10.344kg(71.73モル)、ジフェニルカーボネート14.724kg(68.7モル)とした以外は、合成例1同様に重合を行った。得られたポリカーボネート樹脂(A4)のMwは62,000、MFRは44.0g/10min、Tg=45℃と低く、また末端OH量1050ppmと多いため樹脂改質のための溶融混練の際好ましくない副反応の原因となる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のポリカーボネート樹脂は、他のポリカーボネートとブレンドすることにより光学用材料、眼鏡レンズ、車載レンズ、カバー、窓ガラス、タッチパネル、など幅広く光学材料として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4−シクロヘキサンジメタノールをジフェニルカーボネートによりカーボネート結合させてなる末端OH基量が500ppm以下のポリカーボネート樹脂。
【請求項2】
1,4−シクロヘキサンジメタノールとジフェニルカーボネートを溶融重縮合法に重合させてなり、且つジフェニルカーボネートと1,4−シクロヘキサンジメタノールの仕込みモル比が0.97〜1.01である請求項1記載のポリカーボネート樹脂。

【公開番号】特開2011−148999(P2011−148999A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280344(P2010−280344)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】