説明

ポリカーボネート繊維およびその製造方法、ならびに繊維集合物

【課題】繊度の小さいポリカーボネート繊維を得る。
【解決手段】1)繊維化前の粘度平均分子量が20000以下であり、繊維化前の分岐化度が0よりも大きいポリカーボネート樹脂、または2)繊維化前の粘度平均分子量が19000以下であり、分岐化度が0であるポリカーボネート樹脂と、縮合リン酸エステルとを含む混合物であって、縮合リン酸エステルの割合が10質量%以下である混合物を溶融紡糸することによって製造された繊維は、紡直繊度が例えば5.0dtex以下の細い繊維として提供することができ、そのまま補強用繊維として、または各種繊維製品の原料として、好都合に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネートを溶融紡糸することによって得られる、ポリカーボネート繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート(以下、「PC」と略すことがある)樹脂は、エンジニアリングプラスチックとして様々な分野に使用されている。ポリカーボネート樹脂は、具体的には、コンパクトディスク、携帯電話部品、自動車用ヘッドランプ、および光ファイバー等の材料として利用されている。ポリカーボネート樹脂それ自体の製造方法は、種々提案されている(特許文献5)。しかし、ポリカーボネート樹脂を繊維化する技術を開示した文献は少ない。
【0003】
特許文献1には、ポリカーボネート樹脂を溶融紡糸法で繊維化する技術が開示されている。特許文献2および特許文献3には、ポリカーボネート樹脂と他の成分を組み合わせた複合繊維が開示されている。しかし、特許文献1〜3において、実施例として製造された繊維はいずれも、繊度の大きい(即ち、太い)繊維であり、繊度の小さい繊維を製造する方法を具体的に開示していない。細繊度のポリカーボネート繊維を得る方法としては、メルトブローン法によりポリカーボネートの極細繊維不織布を得ることが開示されているものの(特許文献4)、この方法は、繊維それ自体を製品として提供するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭37−018328号公報
【特許文献2】特公昭48−013730号公報
【特許文献3】特開昭51−072610号公報
【特許文献4】特開平5−279947号公報
【特許文献5】国際公開パンフレットWO2008/090673号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶融紡糸法で細い繊維を製造するためには、樹脂を溶融して紡糸口金から吐出させ、冷却してフィラメントとしたときの繊度(一般に、「紡直繊度」と呼ばれる)を細くすること、および/またはフィラメントを延伸工程に付して細くすることが必要である。紡直繊度を小さくするためには、吐出した樹脂を比較的高い速度で引き取る必要がある。本発明者らが、一般的なポリオレフィンおよびポリエステルの溶融紡糸技術を適用して、ポリカーボネート樹脂を溶融紡糸したところ、紡直繊度が50dtex以上であるポリカーボネート繊維を得ることはできた。しかし、紡直繊度をさらに小さくしようとして、引き取り速度を高くすると、糸切れが発生し、紡直繊度を小さくすることはできなかった。
【0006】
また、延伸によって繊度の小さいポリカーボネート繊維を得るには、ポリカーボネート樹脂の特性を考慮すると、加熱しながら、延伸を行う必要がある。ポリカーボネート樹脂は、一般にそのガラス転移点が140〜150℃程度である。この温度以上で繊維を加熱すると、繊維同士の融着が極めて発生しやすい。融着が発生すると、製品としての繊維の価値は低下する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述のように、通常の溶融紡糸方法では、細繊度のポリカーボネート繊維を得ることができなかった。そこで、発明者らは、ポリカーボネート樹脂は、一般的なポリオレフィンおよびポリエステルに比べて、溶融粘度が高く、紡糸直後の糸条が細い繊度に変形するために使用できる時間(変形可能時間)が非常に短く、硬化し易いため、細繊度の繊維を得難いのではないかと考えた。さらに、本発明者らは、高い溶融粘度が、ポリカーボネート樹脂の分子量が高い点に由来するのではないかと考えた。
【0008】
一般に市販されているポリカーボネート樹脂は、15000以上の粘度平均分子量を有し、それよりも小さい分子量のポリカーボネート樹脂は、販売されていない、または比較的高価である。そのため、本発明者らは、市販のポリカーボネート樹脂の溶融紡糸性を向上させる方法を検討した。その結果、特定の成分をポリカーボネート樹脂に添加して、溶融紡糸を実施すると、良好に紡糸でき、かつ繊度の小さい繊維が得られること、および得られた繊維において数平均分子量が溶融紡糸前のそれより減少していることを見出し、本発明に至った。
【0009】
即ち、本発明は、10質量%以下の縮合リン酸エステル、およびポリカーボネート樹脂を含む、溶融紡糸法により製造された繊維を提供する。縮合リン酸エステルを含有させることにより、ポリカーボネート樹脂の溶融紡糸性が向上する。
【0010】
本発明の繊維は、縮合リン酸エステルとポリカーボネート樹脂から実質的に成ることが好ましい。そのような繊維は、ポリカーボネート樹脂の特性を良好に発揮する。
【0011】
本発明はまた、本発明のポリカーボネート繊維を含む、繊維集合物を提供する。本発明の繊維集合物は、ポリカーボネート樹脂の特性および縮合リン酸エステルにより付与される難燃性を有するものとなり、種々の製品において好都合に利用され得る。
【0012】
本発明はまた、本発明のポリカーボネート繊維を製造する方法であって、ポリカーボネート樹脂と縮合リン酸エステルとを混合すること、および得られた混合物を溶融紡糸することを含む、ポリカーボネート繊維の製造方法を提供する。この製造方法は、縮合リン酸エステルとポリカーボネート樹脂とを混合することによって、通常の溶融紡糸方法でポリカーボネート繊維を得ることを可能にし、特殊な装置または複雑な操作を必要としない。
【発明の効果】
【0013】
本発明の繊維は、ポリカーボネート樹脂を含む又はそれが大部分(例えば90質量%以上)占めるにもかかわらず、小さい繊度を有するものとして得られる。よって、本発明のポリカーボネート繊維は、例えば、ポリカーボネート樹脂の成形品を補強するための繊維として使用することができ、それにより、PC/PC複合材料を提供することができる。あるいは、本発明の繊維は、他の樹脂またはセメント製品を補強するための補強繊維として使用することができる。さらに、本発明の繊維は、一般的な繊維集合物(例えば、不織布等)の材料として利用することができる。
【0014】
本発明の繊維を含む繊維集合物は、ポリカーボネート樹脂が有する優れた特性(耐熱性、自己消火性、優れた寸法安定性、着色性、難燃性、引張強度、曲げ弾性、吸音性、断熱性および耐候性等)に加えて、縮合リン酸エステルがもたらす難燃性を有する。よって、本発明の繊維集合物は、ポリカーボネート樹脂の特性および/または高い難燃性を利用した製品(例えば、耐熱フィルター、カーテン、内装材、吸音材、断熱材、補強材および衣料製品)において、好ましく利用される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の繊維は、縮合リン酸エステルおよびポリカーボネート樹脂を含む、溶融紡糸法により製造された繊維である。この繊維の実施の形態を以下において説明する。
【0016】
(ポリカーボネート樹脂)
本発明の繊維において特定される、ポリカーボネート樹脂の数平均分子量、重量平均分子量、分岐化度および後述の末端OH基の割合等は、特に断りのない限り、いずれも繊維化後のものである、即ち、いずれも溶融紡糸した後に測定される。
【0017】
本発明の繊維を構成するポリカーボネート樹脂は、いずれの方法で得られたものであってよい。具体的には、ポリカーボネートは、ビスフェノール類のアルカリ水溶液とホスゲンとを有機溶媒の存在下で反応させる界面法、またはビスフェノール類と炭酸ジエステルとをエステル交換反応により重縮合反応させる溶融法のいずれで製造されたものであってよい。溶融法によれば、分岐化度の高いPC樹脂を得ることができる。縮合リン酸エステルと混合されていない場合、分岐化度が高い樹脂からなる繊維は、分岐していない樹脂からなる繊維よりも、100℃〜140℃の範囲において、より良好な寸法安定性を示す。
【0018】
本発明の繊維を構成するポリカーボネート樹脂と縮合リン酸エステルとの混合物の数平均分子量は、繊維を試料として、後述する手順に従ってゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される。本発明の繊維は、好ましくは、そのようにして測定されるポリカーボネート樹脂と縮合リン酸エステルとの混合物の数平均分子量が12000以下である繊維である。ポリカーボネート樹脂と縮合リン酸エステルとの混合物の数平均分子量は、5000〜12000であることがより好ましく、6000〜9000であることがさらにより好ましい。数平均分子量が5000未満であると、溶融紡糸中の樹脂の粘度が低くなりすぎて、紡糸をすることが難しくなる。数平均分子量が12000を超えると、溶融紡糸中の樹脂の粘度が高くなり、紡糸中の糸切れが多発し、細い繊維を得られないか、あるいは機械特性の劣った繊維しか得られない。
【0019】
[数平均分子量および重量平均分子量の測定方法]
試料10mgをテトラヒドロフラン5mLに加え、室温(25℃)で、緩やかに攪拌し、溶解させた。次に、試料を溶解させた溶液を、孔径が0.45μmのフィルターで濾過し、測定用試料溶液を得た。ゲル浸透クロマトグラフ装置 GPC(gel permeation chromatography)に測定用試料溶液を0.2mL注入して、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を測定する。また、得られた数平均分子量及び重量平均分子量からQ値(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)を算出した。
上記の測定は、検出器として、示唆屈折率検出器 RI(東ソー製8020型、感度32)を、カラムとして、TSKgelGMHXL(2本)、G2500HXL(1本)を、標準試料として、単分散ポリスチレンを用い、カラム温度を23℃として測定される。
【0020】
前述の数平均分子量および重量平均分子量は、繊維全体について測定されるものであり、より具体的には、ポリカーボネートの分子と縮合リン酸エステルの分子(さらに他の成分を含む場合はその成分)をすべて合わせた分子について測定される。したがって縮合リン酸エステル(一般に、ポリカーボネートより小さい分子量を有する)が多く含まれていると、測定される数平均分子量は小さくなる。そこで、繊維を構成する樹脂成分のみについて、より正確な数平均分子量を求めたい場合には、繊維の数平均分子量を測定した後、その測定値から、例えば、特定の分子量以上の分子について数平均分子量を算出することができる。特定の分子量は、使用する縮合リン酸エステルの分子量(および場合により含まれる他の成分の分子量)に基づいて決定され、例えば、800とすることができる。
【0021】
繊維化前の縮合リン酸エステルを含まないポリカーボネート樹脂は、一般に、上記範囲のような小さい数平均分子量を有していない。本発明の繊維は、ポリカーボネート樹脂と比較して低分子量である縮合リン酸エステルを含むため、縮合リン酸エステルとポリカーボネート樹脂を含む混合成分の数平均分子量は低下する。しかし、繊維化後のポリカーボネート成分の数平均分子量は繊維化前のそれと変化ないか、あるいは減少している。これにより、溶融紡糸される混合物の数平均分子量を重量平均分子量に対して、大きく減少させることができる。さらに、見かけ上(縮合リン酸エステルとポリカーボネート樹脂との混合成分)のQ値(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は大きくなるものの、ポリカーボネート成分のみのQ値は小さいままであることが、繊維化の向上に寄与していると考えられる。尤も、この考察は、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0022】
したがって、繊維化前の縮合リン酸エステルを含まないポリカーボネート樹脂(以下、単に、「繊維化前のポリカーボネート樹脂」ともいう)の数平均分子量または繊維化前のポリカーボネート樹脂と縮合リン酸エステルとの混合物の数平均分子量は、上記範囲外にあってよい。具体的には、繊維化前の数平均分子量は、12000を超えてよく、または15000以上であってよく、または18000以上であってよい。
【0023】
繊維化前のポリカーボネート樹脂はまた、20000以下の粘度平均分子量又は数平均分子量が15000以下であり、および0モル%よりも大きい分岐化度を有するものであってよい。そのような樹脂を用いると、上記所定の数平均分子量を有する、ポリカーボネート繊維を得ることができる。分岐化度は、好ましくは、0.1モル%〜0.8モル%の範囲内にある。分岐化度がこの範囲内にあると、溶融紡糸をより安定して実施することができる、ならびに/または縮合リン酸エステルの割合を小さくすることができる。分岐化度が0でないポリカーボネート樹脂は、より好ましくは16000以下の粘度平均分子量および0.1〜0.3モル%の分岐化度を有する。本発明の繊維の製造に適したポリカーボネート樹脂は、例えば、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社より販売されている、ノバレックスM7020A(粘度平均分子量15000、分岐化度0.2モル%、この商品は、2008年4月1日以降少なくとも本願の出願日までは、溶融法で製造されたポリカーボネート(分岐構造あり)として販売され、2008年3月31日以前に、界面法で製造されたポリカーボネート(分岐構造なし)である、商品名ノバレックス7020Aとは異なる)である。
【0024】
よって、本発明の繊維はまた、繊維化前の粘度平均分子量が20000以下又は繊維化前の数平均分子量15000以下であり、繊維化前の分岐化度が0よりも大きいポリカーボネート樹脂と、縮合リン酸エステルとを含む混合物であって、縮合リン酸エステルの割合が10質量%以下である混合物を溶融紡糸することによって得られる繊維として特定することができる。
【0025】
あるいは、繊維化前のポリカーボネート樹脂は、その粘度平均分子量が19000以下又は繊維化前の数平均分子量が15000以下であり、分岐化度が0であるものであってよい。そのような樹脂は、一般的に界面法によって製造され、上記所定の分岐化度を有する樹脂と比較して、溶融紡糸しにくく、長時間安定して紡糸することが困難である、および/または細い繊度に紡糸することが困難である。しかし、縮合リン酸エステルを混合することによって、そのような樹脂の溶融紡糸性が向上し、安定して紡糸することが可能となる、および/または細い繊度の繊維を得ることが容易となる。そのようなポリカーボネート樹脂は、例えば、三菱ガス化学株式会社より販売されている、商品名ユーピロンH4000(粘度平均分子量15000、分岐化度0モル%)である。
【0026】
よって、本発明の繊維はまた、繊維化前の数平均分子量が19000以下又は繊維化前の数平均分子量が15000以下であり、分岐化度が0であるポリカーボネート樹脂と、縮合リン酸エステルとを含む混合物であって、縮合リン酸エステルの割合が10質量%以下である混合物を溶融紡糸することによって得られる繊維として特定することができる。
【0027】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、ウベローデ粘度計を用いて、塩化メチレン中20℃の極限粘度[η]を測定し、以下の式より求められる。
ηsp/C=[η]×(1+0.28ηsp
[η]=1.23×10−4×(Mv)0.83
(式中、ηspは芳香族ポリカーボネートの塩化メチレン溶液について20℃で測定した比粘度であり、Cはこの塩化メチレン溶液の濃度である。塩化メチレン溶液としては、芳香族ポリカーボネートの濃度0.6g/dlのものを用いる)。
【0028】
ポリカーボネート樹脂の分岐化度は、ポリカーボネートの構造単位1モルに対する分岐構造単位の合計モル数の比(モル%)で表される。ポリカーボネートの構造単位は、例えば、特許文献5に記載されているとおり、下記式(a)で示されるものであり、分岐構造単位は、下記式(b)〜(e)で示されるものである。
【0029】
【化1】

【0030】
【化2】


(式(a)、(b)〜(e)中、Xは、単結合、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜炭素数8のアルキリデン基、炭素数5〜炭素数15のシクロアルキレン基、炭素数5〜炭素数15のシクロアルキリデン基又は、-O-,-S-,-CO-,-SO-,-SO2-で示される2価の基からなる群から選ばれるものである。)
【0031】
分岐化度は、特許文献5で説明されている方法で測定され、具体的には、次の手順に従って測定される。
試料(繊維1g)を、塩化メチレン100mlに溶解した後、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液18ml及びメタノール80mlを加え、さらに純水25mlを添加した後、室温で2時間撹拌して完全に加水分解する。その後、ここに1規定塩酸を加えて中和し、塩化メチレン層を分離して加水分解物を得る。
【0032】
次に、上記の加水分解物0.05gをアセトニトリル10mlに溶解し、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用し測定を行う。逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、溶離液としてアセトニトリルと10mM酢酸アンモニウム水溶液とからなる混合溶媒を用い、アセトニトリル/10mM酢酸アンモニウム水溶液比率を(20/80)からスタートし(80/20)までグラジュエントする条件下、カラム温度40℃で測定を行う。検出は波長280nmのUV検出器(株式会社島津製作所製、SPD-6A)を用いる。
【0033】
前述した式(a)〜(e)で表される構造単位は、式(f)〜(j)の化合物として検知される。構造単位の同定は、LC-MS(Agilent株式会社製Agilent-1100)及びNMR(日本電子株式会社製AL-400)を用いて行う。また、各構造単位の含有量は、各化合物の標準物質を用いて、(濃度/ピーク面積)の検量線を作成し、各構造単位の含有量を定量する。
【0034】

【0035】
ポリカーボネート樹脂は、好ましくは、その重量平均分子量が20000以上43000未満であり、より好ましくは、25000以上40000以下である。重量平均分子量は、前述のように、繊維を試料として、ゲル浸透クロマトグラフ装置 GPCを使用する方法で測定される。ポリカーボネート樹脂は、いずれのQ値(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)を有するものであってよく、例えば、Q値が1.1〜5.0の樹脂を用いることができる。ポリカーボネート樹脂のQ値は、好ましくは、3.00以下であり、より好ましくは、2.30以下である。
【0036】
繊維を構成する縮合リン酸エステルとポリカーボネート樹脂との混合物は、そのメルトフローレート(以下、MFRともいう)(JIS K 7210に準じて測定される、但し温度は300℃)が10〜200g/10分であることが好ましい。MFRがこの範囲外であると、溶融紡糸が困難となることがある。MFRが100〜190であることがより好ましく、MFRが140〜190であることがさらに好ましい。MFRがこれらの範囲内にあると、混合物の流動性に起因して、さらに繊維化が容易となる。
【0037】
ポリカーボネート樹脂は、全末端基中の水酸基(OH)の割合が200ppm〜800ppmであることが好ましい。水酸基の割合が800ppm以下であると、紡糸工程で加水分解を起こしにくく、安定して繊維を得やすい。水酸基の割合が200ppm以上であると、セルロース繊維との親和性が向上する、繊維処理剤とのとの親和性が向上する、染色しやすい、およびスルホン基等の官能基を導入しやすいという点で好都合である。全末端基の水酸基の割合は、四塩化チタン/酢酸法(Makromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)により比色定量を行って、測定される。測定値は、ポリカーボネート重量に対する末端OH基の重量をppm単位で表示する。
【0038】
(縮合リン酸エステル)
縮合リン酸エステルは、ハロゲン化リン(例えば、オキシ塩化リン)と、ポリヒドロキシル化合物(例えば、二価のフェノール系化合物)、及びヒドロキシル化合物(例えば、フェノール(またはアルキルフェノール))との反応生成物である。縮合リン酸エステルとしては、例えば、ペンタエリスリトールジホスフェート、レゾルシノールビス-ジフェニルホスフェート(RDP)、レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート(RDX)およびビスフェノールAビス-ジフェニルホスフェート(BDP)が挙げられる。縮合リン酸エステルは、ハロゲンを含有するものであってよい。好ましくは、環境への影響の観点から、ハロゲンを含有しないノンハロゲン縮合リン酸エステルが用いられる。縮合リン酸エステルは、難燃剤として使用されている。
【0039】
縮合リン酸エステルは、常温(25℃)で固体であることが好ましい。常温で気体又は液体であると、繊維中に含まれる縮合リン酸エステルが繊維表面から揮発又は染み出す場合がある。
【0040】
縮合リン酸エステルは、その数平均分子量が200〜2000であるものが好ましく用いられる。数平均分子量が200〜2000の縮合リン酸エステルを10質量%以下とポリカーボネート樹脂を含む混合物は紡糸性が向上する。そのような数平均分子量の縮合リン酸エステルは、ポリカーボネート成分の重量平均分子量を殆ど変化させずに、混合物の数平均分子量を大きく低下させ、それにより混合物の流動性を高くしたと予想される。尤も、この考察は、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0041】
縮合リン酸エステルの割合は、それと混合するポリカーボネート樹脂の種類、および最終的に得ようとする繊維の繊度等に応じて、選択される。縮合リン酸エステルは、当該エステル、ポリカーボネート樹脂、ならびに必要に応じて混合される他の樹脂および他の添加剤との混合物の全体の10質量%以下であり、0.5〜7質量%であることが好ましい。縮合リン酸エステルの割合が小さいと、混合物の流動性が小さくて、細い繊維を得ることが困難となることがある。縮合リン酸エステルの割合が10質量%を超えると、混合物の流動性が高くなりすぎて、溶融紡糸が困難となる。
【0042】
また、縮合リン酸エステルを混合していない繊維化前または繊維化後のポリカーボネート樹脂の数平均分子量が比較的小さい場合には、縮合リン酸エステルの割合を比較的少なくしてよい。あるいは、そのようなポリカーボネート樹脂の数平均分子量が比較的大きい場合には、縮合リン酸エステルの割合を比較的多くしてよい。例えば、繊維化前または繊維化後のポリカーボネート樹脂の数平均分子量が12000〜17000である場合、縮合リン酸エステルの割合は、0.5〜7質量%であることが好ましく、1〜5質量%であることがより好ましい。また、繊維化前または繊維化後のポリカーボネート樹脂の数平均分子量が17000〜22000である場合、縮合リン酸エステルの割合は、1〜9質量%であることが好ましく、2〜8質量%であることがより好ましい。繊維化前または繊維化後のポリカーボネート樹脂の数平均分子量が22000を超える場合、縮合リン酸エステルの割合は、2〜10質量%であることが好ましく、4〜10質量%であることがより好ましい。
【0043】
縮合リン酸エステルの好ましい割合は、ポリカーボネート樹脂の数平均分子量以外の物性およびその製造方法等に応じても変化する。例えば、前述のように、溶融法により製造され、繊維化前の分岐化度が0よりも大きいポリカーボネート樹脂を用いる場合、縮合リン酸エステルの割合は、1〜5質量%であることが好ましく、1〜4質量%であることがより好ましい。これに対し、界面法により製造され、繊維化前の分岐化度が0であるポリカーボネート樹脂を用いる場合、縮合リン酸エステルの割合は、2〜10質量%であることが好ましく、5〜7質量%であることがより好ましい。
【0044】
本発明においては、縮合リン酸エステルに代えて、リン酸エステルを用いることもできる。よって、本発明の繊維は、リン酸エステルおよびポリカーボネート樹脂を含む、溶融紡糸法により製造された繊維として特定することができる。リン酸エステルを用いる場合、リン酸エステルの含有量は、10質量%以下であり、好ましい含有量は、前述の縮合リン酸エステルを用いる場合と同様である。
【0045】
リン酸エステルは、下式で表される化合物である。

O=P[(OR1)(OR2)(OR3)]3

[式中、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数が1〜8のアルキル基、シクロアルキル基、及びフェニル基の群から選ばれる一つの有機基である。]
また、式中、R1、R2、R3で示す有機基は、置換されていなくても、置換されていてもよく、置換されている場合の置換基としては、炭素数が1〜8のアルキル基、アルコキシル基、アリール基、アリールオキシ基、スルホン基、カルボキシル基、ヒドロキシル基等がある。リン酸エステルは、モノマー、オリゴマー、ポリマー或いはこれらの混合物であってよい。リン酸エステルは、ハロゲンを含有するものであってよく、ハロゲンを含有しないものであってよい。好ましくは、環境への影響の観点から、ハロゲンを含有しないノンハロゲンリン酸エステルが用いられる。
【0046】
市販のノンハロゲンリン酸エステルとしては、大八化学工業株式会社から販売されている、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、クレジルジ2,6−キシレニルホスフェート等がある。これらはいずれも、リン酸エステルとして、本発明において用いることができる。
【0047】
また、本発明においては、前記縮合リン酸エステルおよび/または前記リン酸エステルに代えて、数平均分子量が200〜2000の化合物が用いられてよく、好ましくは、数平均分子量が500〜1000の化合物が用いられる。数平均分子量が200〜2000の化合物を用いる場合、数平均分子量が200〜2000の化合物の含有量は、10質量%以下であり、好ましい含有量は、前述の縮合リン酸エステルを用いる場合と同様である。あるいは、そのような化合物は、縮合リン酸エステルおよび/またはリン酸エステルとともに使用してよい。その場合、当該化合物とリン酸エステルとの混合物の含有量は、10質量%以下とする。
【0048】
数平均分子量が200〜2000の化合物は、ポリカーボネート樹脂と混合できるものであれば、特に限定されず、例えば、重合によりポリカーボネートを生成し得るモノマー、オリゴマー、及びポリマー、ならびに重合によりオレフィン、エステルおよびアミド等を生成し得るモノマー、オリゴマー及びポリマーから1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0049】
(他の成分)
本発明の繊維を、ポリカーボネート樹脂を他の樹脂とを混合した樹脂と、縮合リン酸エステルとを混合し、その混合物を溶融紡糸して製造する場合、ポリカーボネート樹脂の割合は、好ましくは混合物の50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、さらにより好ましくは70質量%以上である。本発明の繊維は、最も好ましくは、縮合リン酸エステルとポリカーボネート樹脂から実質的に成る。ここで、「実質的に」という用語は、通常、製品として提供される樹脂は安定剤等の添加剤を含むため、及び/又は繊維の製造に際して各種添加剤が添加されるため、縮合リン酸エステルとポリカーボネート樹脂のみから成り、他の成分を全く含まない形態の繊維が得られないことを考慮して使用している。通常、添加剤の含有量は、最大で15質量%である。
【0050】
ポリカーボネート樹脂と混合する他の樹脂は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のオレフィン系ポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6等のポリアミドなどのホモポリマーや共重合体である。また、ポリカーボネートと他の成分とのポリマーアロイを溶融紡糸してよい。さらに、必要に応じて、ワックス、粘着材、又は縮合リン酸エステルでない難燃剤等の添加剤を添加してもよい。添加剤の含有量は、好ましくは、10質量%以下である。
【0051】
(溶融紡糸による繊維化)
次に、本発明の繊維を、溶融紡糸法により製造する方法およびその繊維形態を合わせて説明する。
【0052】
縮合ポリエステルと、ポリカーボネート樹脂と、場合により用いられる他の成分との混合は、公知の混合装置を用いて実施することができる。公知の装置は、例えば、ヘンシェルミキサーおよびスーパーミキサー等である。あるいは、ポリカーボネート樹脂に必要に応じて添加される他の成分を、公知の単軸または2軸押出機等で溶融混合して、繊維化の前に、マスターバッチを得るようにしてよい。
【0053】
縮合リン酸エステルとポリカーボネート樹脂とを含む混合物の繊維化は、公知の溶融紡糸装置を用いて実施できる。紡糸温度は、250〜330℃であることが好ましい。このとき、所望の繊度および延伸を行う場合にはその条件に応じて、紡直繊度を決定する。本発明の繊維(特に、実質的に縮合リン酸エステルとポリカーボネート樹脂のみから成る繊維)は延伸させにくく、また、延伸処理に付しても得られる繊維の繊維強度を大幅に向上させることは難しい。したがって、延伸処理を経ずとも所望の繊度が得られるように、紡直繊度(引取繊度ともいう)が所望の繊度となるように、紡糸フィラメントを作製することが好ましい。本発明の繊維は、繊維化後の物性が所定のものとなるポリカーボネート樹脂を使用することにより、紡直繊度を、例えば3.0〜15.0dtex、より好ましくは、3.5〜10.0dtex、4.0〜5.0dtex、とすることができる。紡直繊度はより大きくしてよく、例えば、30dtex以上としてよい。1つの紡糸口金に設けられた同じ孔径のノズルから、同時に得られた紡糸フィラメントであっても、フィラメント間で紡直線度のばらつきが生じることがあり、ポリカーボネート樹脂を使用すると、この傾向がより強くなる。その場合には、紡直繊度の上限を設定して、所望の繊維が得られるようにする。上記において例示した繊度の紡糸フィラメントを得るために、例えば、紡糸口金の孔径が0.3〜1mmである場合において、紡糸時のドラフト倍率(延伸倍率)を、例えば、好ましくは100〜2000倍程度、より好ましくは200〜1500倍とする。紡糸ノズルの孔径は、上記ドラフト倍率を達成するために、適宜選択してよく、上記孔径に限定されない。
【0054】
また、本発明の繊維は、単一繊維、芯鞘型、サイドバイサイド型又は分割型等の複合繊維であってよい。本発明の繊維が複合繊維である場合、他の樹脂は、上述のポリカーボネート樹脂と混合する他の樹脂として例示したものを用いることができる。
【0055】
紡糸フィラメントは、必要に応じて、延伸処理に付してよい。ポリカーボネート樹脂を含む繊維は、前述のように、ガラス転移点が140〜150℃であることに起因して、延伸処理に付すことが難しい。また、ポリカーボネート樹脂の特性上、延伸処理に付しても繊維強度を向上させることができず、また、高い倍率で延伸することが難しい。その傾向は、ポリカーボネート樹脂の割合が高いほど、顕著となる。よって、紡糸フィラメントは延伸処理に付さなくともよい。延伸処理に付す場合には、延伸温度を130℃以上150℃以下の範囲内にある温度に設定し、延伸倍率を1〜3倍とすることが好ましく、2倍程度とすることがより好ましい。延伸方法は、乾式延伸法であることが好ましい。
【0056】
得られた延伸フィラメントには、所定量の繊維処理剤が付着させられる。さらに、必要に応じて、クリンパー(捲縮付与装置)で機械捲縮が与えられる。捲縮数は、例えば、カードで開繊されてウェブを形成する繊維、およびエアレイウェブを形成する繊維については、12山/25mm以上19山/25mm以下の範囲内にあることが好ましい。そのような繊維は、繊維長が10mmを超え、100mm以下である、ステープルファイバーの形態で提供される。あるいは、本発明の繊維は、繊維長が2〜10mm程度である、捲縮を有しない短繊維の形態としてよく、あるいは捲縮を有しない又は捲縮を有する、長繊維の形態で使用してよい。
【0057】
以上において説明した本発明の繊維は、例えば、樹脂成型品またはセメント等を補強するための補強用繊維として、使用することができる。本発明の繊維はまた、通常の繊維と同様の方法で各種繊維集合物を製造するのに利用することができる。繊維集合物は、ポリカーボネート樹脂の特性が発揮されるよう、本発明の繊維を好ましくは10質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらにより好ましくは80質量%以上含み、最も好ましくは、本発明の繊維のみから成る。繊維集合物には、例えば、紡績糸、長繊維、不織布、織物および編物が含まれる。不織布等の布帛は、ポリカーボネート樹脂の特性を利用して、例えば、フィルター、吸音材、断熱材、補強材、衣料製品、カーテンおよび内装材等として使用するのに適している。
【実施例】
【0058】
(試験1)
溶融法で製造したポリカーボネート樹脂(商品名ノバレックスM7020A、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)を用意した。この樹脂の繊維化前の粘度平均分子量は15000であり、数平均分子量は13000であり、分岐化度は0.2モル%であり、重量平均分子量は28500であり、Q値は2.18であり、末端OH基の割合は450ppmであった。縮合リン酸エステルとして、分子式が[OC(CHP(O)OCOP(O)[OC(CHで表される芳香族縮合リン酸エステル(商品名PX−200、大八化学工業(株))を用意した。
【0059】
縮合リン酸エステルの割合が2質量%となるように、ポリカーボネート樹脂と縮合リン酸エステルとを混合し、この混合物を、紡糸ノズル(孔径0.6mm:以下の試験においても同じ)を用い、紡糸温度を300℃として溶融押出し、紡糸ノズル付近の温度を25℃に冷却し、延伸倍率(紡糸ドラフト)を710倍として、繊度3.8dtexの紡糸フィラメントを得た。得られた紡糸フィラメントに繊維処理剤を付与した後、延伸フィラメントにスタッフィングボックス型クリンパーにて、16山/25mmの機械捲縮を付与した。そして、100℃に設定したエアスルー熱処理機にて約15分間、弛緩した状態で乾燥処理を施し、フィラメントを51mmの繊維長に切断して、ステープルファイバーを得た。溶融紡糸は、長時間安定して実施することができた。
【0060】
(試験2)
縮合リン酸エステルの割合を4質量%としたことを除いては、試験1で採用した手順と同じ手順で、繊度4.0dtexの紡糸フィラメントを得た後、繊維長51mmのステープルファイバーを得た。
【0061】
(試験3)
縮合リン酸エステルの割合を6質量%としたことを除いては、試験1で採用した手順と同じ手順で、繊度4.7dtexの紡糸フィラメントを得た後、繊維長51mmのステープルファイバーを得た。
【0062】
(試験4)
界面法で製造したポリカーボネート樹脂(商品名ユーピロンH4000、三菱ガス化学(株)製)を用意した。この樹脂の繊維化前の粘度平均分子量は21000であり、数平均分子量は13100であり、分岐化度は0モル%であり、重量平均分子量は28400であり、Q値は2.17であった。
【0063】
試験1で用いたものと同じ縮合リン酸エステルを用意し、これの割合が2質量%となるように、ポリカーボネート樹脂と縮合リン酸エステルとを混合した。この混合物を、紡糸温度を300℃として溶融押出し、紡糸ノズル付近の温度を16℃に冷却し、延伸倍率(紡糸ドラフト)を710倍として、繊度3.8dtexの紡糸フィラメントを得た。これを延伸温度を140℃、延伸倍率を1.7倍として、乾式延伸を施し、延伸した繊維に繊維処理剤を付与した後、延伸フィラメントにスタッフィングボックス型クリンパーにて、16山/25mmの機械捲縮を付与した。そして、100℃に設定したエアスルー熱処理機にて約15分間、弛緩した状態で乾燥処理を施し、フィラメントを51mmの繊維長に切断して、ステープルファイバーを得た。溶融紡糸は、長時間安定して実施することができた。
【0064】
(試験5)
試験4で用いたものと同じポリカーボネート樹脂および試験1で用いたものと同じ縮合リン酸エステルを用意し、縮合リン酸エステルの割合が2質量%となるように、ポリカーボネート樹脂と縮合リン酸エステルとを混合した。この混合物を、紡糸温度を300℃として溶融押出し、紡糸ノズル付近の温度を25℃に冷却し、延伸倍率(紡糸ドラフト)を600倍として、繊度4.7dtexの紡糸フィラメントを得た。得られた紡糸フィラメントに繊維処理剤を付与した後、延伸フィラメントにスタッフィングボックス型クリンパーにて、16山/25mmの機械捲縮を付与した。そして、100℃に設定したエアスルー熱処理機にて約15分間、弛緩した状態で乾燥処理を施し、フィラメントを51mmの繊維長に切断して、ステープルファイバーを得た。溶融紡糸は、長時間安定して実施することができた。
【0065】
(試験6)
縮合リン酸エステルの割合を4質量%としたこと、および紡糸ノズル付近の温度を25℃としたことを除いては、試験5で採用した手順と同じ手順で、繊度4.2dtexの紡糸フィラメントを得た後、繊維長51mmのステープルファイバーを得た。
【0066】
(試験7)
縮合リン酸エステルの割合を6質量%としたこと、および紡糸ノズル付近の温度を25℃としたことを除いては、試験5で採用した手順と同じ手順で、繊度3.5dtexの紡糸フィラメントを得た後、繊維長51mmのステープルファイバーを得た。
【0067】
(試験8)
界面法で製造したポリカーボネート樹脂(商品名ワンダーライトPC−175、旭化成(株)製))を用意した。この樹脂の繊維化前の粘度平均分子量は15000であり、分岐化度は0モル%であった。
【0068】
試験1で用いたものと同じ縮合リン酸エステルを用意し、これの割合が2質量%となるように、ポリカーボネート樹脂と縮合リン酸エステルとを混合した。この混合物を、紡糸ノズル付近の温度を25℃に冷却し、延伸倍率(紡糸ドラフト)を750倍として、繊度4.2dtexの紡糸フィラメントを得た。得られた紡糸フィラメントに繊維処理剤を付与した後、延伸フィラメントにスタッフィングボックス型クリンパーにて、16山/25mmの機械捲縮を付与した。そして、100℃に設定したエアスルー熱処理機にて約15分間、弛緩した状態で乾燥処理を施し、フィラメントを51mmの繊維長に切断して、ステープルファイバーを得た。溶融紡糸は、長時間安定して実施することができた。
【0069】
(試験9)
溶融法で製造したポリカーボネート樹脂(商品名ノバレックスM7022J、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)を用意した。この樹脂の繊維化前の粘度平均分子量は19500であり、数平均分子量は16800であり、分岐化度は0.2モル%であり、分岐化度は0.2モル%であり、重量平均分子量は39800であり、Q値は2.37であった。縮合リン酸エステルとして、実施例1で使用したものと同じものを用意した。
【0070】
縮合リン酸エステルの割合が2質量%となるように、ポリカーボネート樹脂と縮合リン酸エステルとを混合した。この混合物を、紡糸温度を300℃として溶融押出し、紡糸ノズル付近の温度を25℃に冷却し、延伸倍率(紡糸ドラフト)を400倍として、繊度7.7dtexの紡糸フィラメントを得た。得られた紡糸フィラメントに繊維処理剤を付与した後、延伸フィラメントにスタッフィングボックス型クリンパーにて、16山/25mmの機械捲縮を付与した。そして、100℃に設定したエアスルー熱処理機にて約15分間、弛緩した状態で乾燥処理を施し、フィラメントを51mmの繊維長に切断して、ステープルファイバーを得た。溶融紡糸は、長時間安定して実施することができた。
【0071】
(試験10)
試験1で使用した樹脂のみを使用して、紡糸ノズル付近の温度を16℃としたことを除いては試験1で採用した手順と同じ手順で、繊度4.0dtexの紡糸フィラメントを得た後、繊維長51mmのステープルファイバーを得た。
【0072】
(試験11)
試験4で使用した樹脂のみを用いて、紡糸ノズル付近の温度を25℃としたことを除いては試験5で採用した手順と同じ手順で、繊度7.0dtexの紡糸フィラメントを得た後、繊維長51mmのステープルファイバーを得た。
【0073】
(試験12)
試験9で使用した樹脂のみを用いて、試験9で採用した手順と同じ手順で、繊度10.0dtexの紡糸フィラメントを得た後、繊維長51mmのステープルファイバーを得た。
【0074】
試験1〜12で得た繊維から、数平均分子量および重量平均分子量、分岐化度を測定した。それらの測定方法は、先に説明した手順または規格に従って実施した。また、MFRを、JIS K 7210に準じて、測定温度を300℃として測定した。数平均分子量および重量平均分子量は、分子量が800以上である分子についても測定した。また、得られた繊維の強度及び伸度は、JIS L 1015に準じて、引張試験機を用いて、試料のつかみ間隔を20mmとしたときの繊維切断時の荷重値及び伸度を測定し、それぞれ単繊維強度及び繊維伸度とした。140℃収縮として、JIS L 1015:1999に準じて、つかみ間隔を100mmとし、処理温度140℃、処理時間15分間、初荷重0.018mN/dtexにおける単繊維乾熱収縮率を求めた。1%収縮温度として、JIS L 1015:1999に準じて、つかみ間隔を100mmとして、繊維を加熱したときに、試料が1%収縮した時点での処理温度を測定した。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
ポリカーボネート樹脂と難燃剤とを混合して紡糸することによって、繊度が5.0dtex以下の繊維を得ることができた(試験1〜9)。また、少なくとも試験1〜7で得た繊維から測定した、ポリカーボネート樹脂の数平均分子量は10000以下であり、Q値は2.5を超えていた。試験4および5は、延伸の有無において異なるのみであるところ、得られた未延伸の繊維および延伸後の繊維は、同程度の物性を示した。試験1〜9のいずれにおいても、分子量が800以上である分子の数平均分子量および重量平均分子量は、繊維化前のそれとほとんど変わりなく、また、縮合リン酸エステルを添加していない試験10の繊維化後の分子量とほとんど変わりなかった。
【0077】
試験10では、難燃剤を混合しなかったにもかかわらず、4.0dtexの繊維を得ることができた。しかし、試験10で使用したポリカーボネート樹脂に縮合リン酸エステルを混合すると、より細い繊維を得ることができ(試験1〜3)、縮合リン酸エステルの添加が溶融紡糸性の向上に寄与することが確認された。同様のことは、試験9および試験12の結果からも確認された。
【0078】
分岐化度が0であるポリカーボネート樹脂を使用した試験12においては、溶融紡糸条件をどのように変化させても、繊度を5.0dtex以下とすることができず、また、紡糸したフィラメントを延伸させることもできなかった。この樹脂に縮合リン酸エステルを混合すると、溶融紡糸性が向上した(試験4〜7)。試験した範囲では、縮合リン酸エステルの割合が大きいほど、良好に紡糸することができた。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のポリカーボネート繊維は、繊度が5.0dtex以下であり、そのまま、例えば、樹脂またはセメントの補強用繊維として提供することができ、また、各種繊維製品、例えば、糸、織物、編物および不織布の製造に好都合に用いられる。本発明の繊維を含む繊維製品は、ポリカーボネートの特性を利用して、例えば、耐熱フィルターを構成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縮合リン酸エステルおよびポリカーボネート樹脂を含み、縮合リン酸エステルの含有量が10質量%以下である、溶融紡糸法により製造されたポリカーボネート繊維。
【請求項2】
縮合リン酸エステルとポリカーボネート樹脂から実質的に成る、請求項1に記載のポリカーボネート繊維。
【請求項3】
数平均分子量が12000以下である、請求項1または2に記載のポリカーボネート繊維。
【請求項4】
ポリカーボネート繊維を製造する方法であって、ポリカーボネート樹脂と縮合リン酸エステルとを混合すること、および得られた混合物を溶融紡糸することを含む、ポリカーボネート繊維の製造方法。
【請求項5】
ポリカーボネート樹脂が、繊維化前の数平均分子量が20000以下であり、繊維化前の分岐化度が0よりも大きいポリカーボネート樹脂である、請求項4に記載のポリカーボネート繊維の製造方法。
【請求項6】
ポリカーボネート樹脂が、繊維化前の数平均分子量が19000以下であり、分岐化度が0であるポリカーボネート樹脂である、請求項4に記載のポリカーボネート繊維の製造方法。
【請求項7】
繊維化前の粘度平均分子量が20000以下であるか、あるいは繊維化前の数平均分子量が15000以下であり、繊維化前の分岐化度が0よりも大きいポリカーボネート樹脂と、縮合リン酸エステルとを含む混合物であって、縮合リン酸エステルの割合が10質量%以下である混合物を溶融紡糸することによって得られる、ポリカーボネート繊維。
【請求項8】
繊維化前の粘度平均分子量が19000以下であるか、あるいは繊維化前の数平均分子量が15000以下であり、分岐化度が0であるポリカーボネート樹脂と、縮合リン酸エステルとを含む混合物であって、縮合リン酸エステルの割合が10質量%以下である混合物を溶融紡糸することによって得られる、ポリカーボネート繊維。
【請求項9】
請求項1〜3、7〜8のいずれか1項に記載のポリカーボネート繊維を含む、繊維集合物。

【公開番号】特開2010−229597(P2010−229597A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79350(P2009−79350)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000002923)ダイワボウホールディングス株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】