説明

ポリヒドロキシ酪酸精製方法

【課題】低コストで大量生産に適し、かつ簡便な操作で高純度のポリヒドロキシ酪酸を精製することのできるポリヒドロキシ酪酸精製方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るポリヒドロキシ酪酸精製方法は、微生物に産生させたポリヒドロキシ酪酸を精製するポリヒドロキシ酪酸精製方法であって、前記ポリヒドロキシ酪酸を産生させた前記微生物を含む水溶液を細胞破砕装置にかけて前記微生物を破砕し、前記ポリヒドロキシ酪酸を含む不溶性残渣と、水溶性不純物とを得た後、前記不溶性残渣を中性の水溶液に懸濁して前記ポリヒドロキシ酪酸を含む懸濁液を得(破砕懸濁工程S1)、この懸濁液に酵素および界面活性剤を加えて混和し(混和工程S2)、混和した懸濁液に含まれるポリヒドロキシ酪酸を沈殿させ(沈殿工程S3)、沈殿させた前記ポリヒドロキシ酪酸を洗浄液で洗浄する(精製工程S4)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヒドロキシ酪酸を産生させた微生物からポリヒドロキシ酪酸を精製するポリヒドロキシ酪酸精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なプラスチックは、石油などの化石原料から製造されており、化学的に安定な物質であるため広く使用されている。しかし、化学的に安定な物質であるため、廃棄された場合には土壌中や水中の微生物による生分解を受けにくく、永年に亘って環境中に残存することになる。また、石油などから製造されているため、焼却すると有毒ガスを排出したり、多量の二酸化炭素を排出したりするため、環境保全の観点から好ましくない。
【0003】
このような状況を鑑みて、近年では、微生物等によって比較的容易に生分解される生分解性プラスチックが脚光を浴びている。生分解性プラスチックは、使用時は一般的なプラスチックと同じような機能を有し、使用後は自然界の土壌中や水中に生息する微生物によって低分子化合物に生分解され、最終的には水や二酸化炭素に生分解される。
【0004】
このような生分解性プラスチックの一つに脂肪族ポリエステルがある。なかでも、ポリヒドロキシ酪酸(polyhydroxybutyrate)は、微生物による生分解性がよく、例えば、シノリゾビウム(Sinorhizobium)属などの根粒菌のほか、特許文献1に記載されているように、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、アチオロージウム(Athiorhodium)属、アゾトバクター(Azotobacter)属、バチルス(Bacillus)属、ノカルジア(Nocardia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、リゾビウム(Rhizobium)属、スピリルム(Spirillum)属など、種々の微生物によって比較的容易かつ大量に産生することができるので、今後、多方面で大いに使用されると考えられている。
【0005】
ここで、微生物によって産生されたポリヒドロキシ酪酸を精製する一般的な方法として、クロロホルムなどの有機溶媒を用いて抽出して精製するソックスレー抽出法があるが、これよりも簡便な方法として、前記した特許文献1には、3−ヒドロキシブチレートポリマー(ポリヒドロキシ酪酸と同義)含有微生物細胞からの3−ヒドロキシブチレートポリマー以外の細胞物の除去方法が記載されている。
【0006】
特許文献1に記載されている除去方法は、3−ヒドロキシブチレートポリマー含有微生物細胞の水性懸濁液を少なくとも1種の可溶化剤で消化することにより該細胞中の3−ヒドロキシブチレートポリマー以外の細胞物質を可溶化させ、次いで3−ヒドロキシブチレートポリマーを含む不溶性残留物を懸濁液から分離することからなる、3−ヒドロキシブチレートポリマー含有微生物細胞からの3−ヒドロキシブチレートポリマー以外の細胞物を除去するものである。そして、水性懸濁液を消化する消化工程において、(i)その消化工程が、可溶化剤としてタンパク質分解酵素組成物を用いる一またはそれ以上の段階を含み、そして水性懸濁液をその消化工程の前または消化工程中かつそのタンパク質分解酵素での消化段階の前に100℃以上の温度にまで加熱すること、(ii)(a)その消化工程が、可溶化剤としてホスホリパーゼを用いる少なくとも一つの段階をも含むか、または(b)酵素での消化後に不溶性残留物を過酸化水素で処理することを特徴としている。
【0007】
また、特許文献2には、生体内に合成保持された高分子微粒子を、そのままの形状で取得することができ、それを成形工程を経ずにそのまま微粒子状での用途に利用可能とすることを目的として、高分子微粒子を有する生体を取得する工程と、該生体と、該高分子微粒子以外の生体成分を可溶化する可溶化剤と、を接触させて該高分子微粒子を含む混合物を得る工程と、該混合物から該高分子微粒子を回収する工程と、回収された高分子微粒子を該高分子微粒子の融点以下の温度で乾燥させて、該高分子微粒子の形状を保ったままの高分子微粒子の乾燥品を得る工程と、を有することを特徴とする高分子微粒子の製造方法が記載されている。
【0008】
そして、この特許文献2には、この高分子微粒子がポリヒドロキシアルカノエートを主成分とし、このポリヒドロキシアルカノエートがポリヒドロキシ酪酸またはポリヒドロキシ吉草酸であること、この可溶化剤として次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素濃度0.05〜5重量%)を用いること、この可溶化剤と生体を接触させる前に、pH9以上のアルカリ水溶液と生体を接触させること、可溶化剤と生体を接触させる前に、生体成分を分解する酵素(リゾチーム)を含んだ水溶液と生体を接触させること、および、可溶化剤と生体を接触させる前に、生体を加圧破砕あるいは超音波破砕すること、遠心分離による濃縮と水による洗浄で高分子微粒子の洗浄、回収を行うことが記載されている。
【0009】
【特許文献1】特許第1776982号(特許請求の範囲第1項、第2頁左欄第1行目から第10行目、第3頁右欄第15行目から第5頁右欄第32行目)
【特許文献2】特開2000−166587号公報(請求項1、4、5、7、8、10〜13、段落番号0027、0028)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ソックスレー抽出法は、例えば、1kgのポリヒドロキシ酪酸を抽出するのに、最低でも1kgのクロロホルムを必要とするので高コストとなるだけでなく、クロロホルムなどの有機溶媒を大量に用いるので環境保全の観点から大量生産に適さないという問題がある。
【0011】
また、特許文献1に記載の3−ヒドロキシブチレートポリマー含有微生物細胞からの3−ヒドロキシブチレートポリマー以外の細胞物の除去方法では、水性懸濁液をその消化工程の前または消化工程中かつそのタンパク質分解酵素での消化段階の前に100℃以上の温度にまで加熱する必要があるため操作が煩雑となる。また、不溶性残留物中の3−ヒドロキシブチレートポリマーの含量、すなわち純度が良くないため、製品の原料として工業的に用いる場合、得られた3−ヒドロキシブチレートポリマーをさらに精製する必要があるという問題がある。
【0012】
そして、特許文献2に記載の高分子微粒子の製造方法では、高分子微粒子以外の生体成分を可溶化する可溶化剤(次亜塩素酸ナトリウム)や、生体成分を分解する酵素(リゾチーム)が適切でない(リゾチームは、主として、細胞壁などのペプチドグリカンのβ1→4結合を加水分解する酵素である。)ために、脂質やタンパク質などを可溶化させることができず、最終産物中に脂質やタンパク質が混入する可能性がある。
遠心分離による濃縮と水による洗浄を所定回数繰り返すことで、最終産物中に混入する脂質やタンパク質を除去し得るが、そのような操作は煩雑であるだけでなく、大量生産に適さないという問題がある。
また、高分子微粒子以外の生体成分を可溶化させる反応を促進させるためにpH9以上のアルカリ水溶液を用いることが記載されているが、そのような操作をすると、使用したpH9以上のアルカリ水溶液を廃棄する際に、これを中和する作業が必要となるため、操作が煩雑となるだけでなく、時間的にも費用的にもコストが嵩むという問題がある。
【0013】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、低コストで大量生産に適し、かつ簡便な操作で高純度のポリヒドロキシ酪酸を精製することのできるポリヒドロキシ酪酸精製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決した本発明に係るポリヒドロキシ酪酸精製方法は、微生物に産生させたポリヒドロキシ酪酸を精製するポリヒドロキシ酪酸精製方法であって、前記ポリヒドロキシ酪酸を産生させた前記微生物を含む水溶液を細胞破砕装置にかけて前記微生物を破砕し、前記ポリヒドロキシ酪酸を含む不溶性残渣と、水溶性不純物と、を得た後、前記不溶性残渣を中性の水溶液に懸濁して前記ポリヒドロキシ酪酸を含む懸濁液を得、この懸濁液に酵素および界面活性剤を加えて混和し、混和した懸濁液に含まれるポリヒドロキシ酪酸を沈殿させ、沈殿させた前記ポリヒドロキシ酪酸を洗浄液で洗浄するものである。
【0015】
このように、本発明に係るポリヒドロキシ酪酸精製方法は、ポリヒドロキシ酪酸を産生させた微生物を細胞破砕装置で破砕することで、微生物に内包されているポリヒドロキシ酪酸を水溶液中に放出させる。このポリヒドロキシ酪酸は水溶液に不溶性であるので、微生物由来の不溶性の物質(例えば、脂質や不溶性のタンパク質など)とともに不溶性の残渣(不溶性残渣)として得ることができる。つまり、微生物由来の水溶性の不純物(水溶性不純物)と分別して得ることができる。そのため、水溶性不純物を廃棄等することで、ある程度精製されたポリヒドロキシ酪酸を得ることができる。そして、この不溶性残渣を中性の水溶液に懸濁して、ポリヒドロキシ酪酸を含む懸濁液を得る。その後、この懸濁液に酵素および界面活性剤を加えて混和することで、懸濁液中のポリヒドロキシ酪酸以外の不溶性の物質を分解して溶液中に可溶化させるとともに、ポリヒドロキシ酪酸を沈殿させる。そして、沈殿させたポリヒドロキシ酪酸を洗浄液で洗浄することによって、これを高純度に精製することができる。
【0016】
本発明に係るポリヒドロキシ酪酸精製方法は、破砕懸濁工程と、混和工程と、沈殿工程と、精製工程と、を含んでなる。
このように、本発明に係るポリヒドロキシ酪酸精製方法は、破砕懸濁工程によって、容器に入れられた、ポリヒドロキシ酪酸を産生させた微生物を含む水溶液を細胞破砕装置にかけて微生物を破砕して、ポリヒドロキシ酪酸を含む不溶性残渣と、水溶性不純物と、を得た後、この不溶性残渣を中性の水溶液に懸濁してポリヒドロキシ酪酸を含む懸濁液を得る。そして、混和工程によって、破砕懸濁工程で得た懸濁液に、酵素および界面活性剤を加えて混和し、次いで、沈殿工程によって、混和した懸濁液を30℃から50℃で10分間から2時間静置して、微生物由来のポリヒドロキシ酪酸以外の不溶性残渣を可溶化させて懸濁液に溶解させるとともにポリヒドロキシ酪酸を沈殿させる。そして、精製工程によって、容器内の懸濁液を廃棄し、容器内に沈殿させたポリヒドロキシ酪酸を少なくとも1回以上洗浄液で洗浄するという簡便な操作で、ポリヒドロキシ酪酸を高純度に精製することができる。
【0017】
ポリヒドロキシ酪酸を産生させる微生物としては、根粒菌を用いるのが好ましく、前記根粒菌としては、シノリゾビウム属を用いるのがより好ましく、シノリゾビウム・フレディイを用いるのがさらに好ましい。
【0018】
このように、ポリヒドロキシ酪酸を産生させる微生物として根粒菌を用いると、本発明に係るポリヒドロキシ酪酸精製方法のように簡便な操作であっても高純度に精製されたポリヒドロキシ酪酸を得ることができる。また、根粒菌の中でもシノリゾビウム属を用いると、前記したような簡便な操作で高純度に精製したポリヒドロキシ酪酸を確実に得ることができ、シノリゾビウム・フレディイを用いると、前記したような簡便な操作で高純度に精製されたポリヒドロキシ酪酸をより確実に得ることができる。
【0019】
本発明で用いる界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤を用いるのが好ましい。
このように、本発明に係るポリヒドロキシ酪酸精製方法では、界面活性剤として陰イオン界面活性剤を用いると、微生物の細胞質膜や、細胞質中に存在する脂質などを分解し、懸濁液に可溶化させることができる。したがって、懸濁液に陰イオン界面活性剤を加えて混和した後に、その懸濁液を廃棄するだけでポリヒドロキシ酪酸以外の物質を効率良く除去することができる。
【0020】
そして、本発明で用いる陰イオン界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、およびステアリル硫酸ナトリウムのうちの一つまたは二つ以上を含むものを用いるのが好ましい。
このような陰イオン界面活性剤を用いれば、微生物の細胞質膜や、細胞質中に存在する脂質などをより良好に分解し、懸濁液に可溶化させることができ、また、水などの極性の高い溶媒に不溶なタンパク質なども変性させることが可能であり、これを懸濁液に可溶化させることもできる。したがって、懸濁液に陰イオン界面活性剤を加えて混和した後に、その懸濁液を廃棄するだけでポリヒドロキシ酪酸以外の物質をより効率良く除去することができる。
【0021】
本発明で用いる酵素としては、リポタンパク質リパーゼおよび中性プロテアーゼのうち少なくとも一種であるのが好ましい。
このような酵素を用いると、脂質やタンパク質などのポリヒドロキシ酪酸以外の物質を分解して懸濁液に可溶化させることができる。したがって、懸濁液に陰イオン界面活性剤を加えて混和した後に、その懸濁液を廃棄するだけでポリヒドロキシ酪酸以外の物質をさらに効率良く除去することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るポリヒドロキシ酪酸精製方法によれば、低コストで大量生産に適し、かつ簡便な操作で高純度のポリヒドロキシ酪酸を精製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の特徴は、破砕した微生物を酵素および界面活性剤によって処理し、懸濁液(中性の水溶液)中に可溶化させることで、微生物中に蓄えられたポリヒドロキシ酪酸(polyhydroxybutyrate;以下、単に「PHB」と称する。)、またはPHBを主体とするポリエステル化合物を高純度に精製する点にある。
【0024】
なお、前記したPHBを主体とするポリエステル化合物とは、微生物がPHBを産生するとともに、PHBと共重合し得る他の脂肪族ポリエステル、例えば、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリリンゴ酸などを不可避的または意図的に含む、PHBを主体としたポリエステル化合物またはその誘導体を意味する。また、他の物質などを不可避的に含むポリエステル化合物とは、用いた微生物株がPHBを産生する際に副産物として、前記した脂肪族ポリエステルのいずれかを産生するために、これが含まれてしまう場合のポリエステル化合物を意味し、他の物質などを意図的に含むポリエステル化合物とは、例えば、遺伝子組み換え等の技術を用いて、PHBとともに前記した脂肪族ポリエステルのいずれかを産生させるように形質転換した微生物株を作製し、かかる微生物株によって産生された、前記した脂肪族ポリエステルのいずれかを含むPHBを主体とするポリエステル化合物を意味する。以下、「PHB」または「PHBを主体とするポリエステル化合物」を総称して、単に「PHB」という。
【0025】
なお、本発明では、PHBを産生させた微生物を用いてPHBを得るものであるが、微生物の取り扱いや微生物からPHBを精製する際に行う必要な操作について、発明を実施するための最良の形態および実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いることができる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いることができる。また、当業者であれば本明細書の記載および前記した標準的なプロトコール集などの記載から容易に本発明を再現することができる。
【0026】
以下、本発明に係るPHB精製方法を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
前記した特徴を有する本発明に係るPHB精製方法は、具体的には、PHBを産生させた微生物を含む水溶液を細胞破砕装置にかけて微生物を破砕し、PHBを含む不溶性残渣と、水溶性不純物と、を得た後、得られた不溶性残渣を中性の水溶液に懸濁してPHBを含む懸濁液を得、この懸濁液に酵素および界面活性剤を加えて混和し、混和した懸濁液に含まれるPHBを沈殿させ、沈殿させたPHBを洗浄液で洗浄することにより、PHBを高純度に精製する。
【0027】
より具体的には、破砕懸濁工程S1と、混和工程S2と、沈殿工程S3と、精製工程S4と、を含んでなるPHB精製方法を例示することができる。以下、各工程の内容について、図1を参照して説明する。なお、図1は、本発明に係るPHB精製方法の一実施形態の各工程のフローを示す図である。
【0028】
破砕懸濁工程S1は、容器に入れられた、PHBを産生させた微生物を含む水溶液を細胞破砕装置にかけて、この微生物を破砕し、PHBを含む不溶性残渣と、水溶性不純物とを得た後、水溶性不純物を除去して不溶性残渣のみを得、この不溶性残渣を後記する中性の水溶液に懸濁して、PHBを含む懸濁液を得る工程である。
【0029】
なお、破砕懸濁工程S1における、容器に入れられた、PHBを産生させた微生物を含む水溶液としては、かかる微生物を培養した培養液をそのまま用いることも可能であるが、微生物の破砕操作を迅速且つ確実に行うため、かかる微生物を培養した後、遠心分離や限外濾過によって微生物のペレットを得、このようにして得たペレットを後記する容器に入れた後に、後記する水溶液で懸濁したものを用いるのが好ましい。本発明においては前記したような操作(すなわち、PHBを産生させた微生物を含む水溶液を得る工程)も破砕懸濁工程S1に含まれる。なお、得られたペレットを後記する水溶液で懸濁する場合は、ペレットが固形物として確認できない程度に懸濁すればよく、懸濁濃度の高低は特に限定されるものではない。なお、ここでの遠心分離は、PHBを産生させた微生物を沈殿させて回収することができればよく、特に限定されるものではないが、例えば、15000回転/分(rpm)、3分間で行うことができる。
【0030】
ここで用いる容器としては、PHBを産生させた微生物を含む溶液が漏洩等しないように保持できる容器であれば特に限定されるものではなく、例えば、ビーカーや試験管、三角フラスコなどの各種の容器を用いることができるほか、かかる微生物を培養した培養瓶やバイオリアクターであってもよい。
【0031】
また、PHBを産生させた微生物としては、例えば、PHBを産生させた根粒菌を用いるのが好ましく、そのような根粒菌としては、例えば、シノリゾビウム属(Sinorhizobium属)を用いるのが好ましく、シノリゾビウム・フレディイ(Sinorhizobium fredii)を用いるのがより好ましい。かかる微生物を用いると、増殖期から微生物体内でPHBの産生が開始されるので比較的多量のPHBを得ることができ、また、培養過程でPHB含有率が下がりにくく、培養液のpHコントロールをしなくてもよいので好適である。しかし、本発明で用いることのできるPHBを産生させた微生物はこれらに限定されるものではなく、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、アチオロージウム(Athiorhodium)属、アゾトバクター(Azotobacter)属、バチルス(Bacillus)属、ノカルジア(Nocardia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、リゾビウム(Rhizobium)属、スピリルム(Spirillum)属などを用いることもでき、さらに、遺伝子組み換え等の技術により形質転換させた微生物を用いることもできる。
なお、これらの微生物によるPHBの産生は、各種の微生物に適した培養方法で培養したり、培養中に必要な操作等を行ったりすることにより適宜に産生させることができる。そのため、PHBを産生させる方法については特に限定されるものではない。
【0032】
また、細胞破砕装置にかける際の水溶液としては、操作の簡便化、低コスト化の観点から、水、蒸留水、純水、滅菌水などを用いることができるが、後記する中性の水溶液を用いてもよい。
【0033】
細胞破砕装置としては、前記した微生物の細胞壁や細胞膜などを破壊し、当該微生物に内包されているPHBを前記した水溶液中に放出させることのできる装置であればよく、例えば、微生物を高圧・高速で小さな固定穴に通すことで微生物を破砕する高圧細胞破砕装置を好適に用いることができる。かかる高圧細胞破砕装置を用いると、微生物の破砕処理が早く、大量処理ができ、かつ安価で行うことができる。なお、本発明で用いることのできる細胞破砕装置は、これに限定されるものではなく、超音波によって微生物を破砕する超音波細胞破砕装置、ビーズによって微生物を破砕するビーズ式細胞破砕装置、ホモジナイザーなども好適に用いることができる。
【0034】
そして、細胞破砕装置にかけて、PHBを含む不溶性残渣と、水溶性不純物と、を得た後、水溶性不純物を除去し、PHBを含む不溶性残渣のみを得るためには、静置あるいは遠心分離するなどして不溶性残渣を沈殿させ、上清をデカントで廃棄することで行うことができるほか、濾別することなどによっても行うことができる。
このようにして得られた不溶性残渣のみを中性の水溶液に懸濁して、PHBを含む懸濁液を得る。
【0035】
かかる中性の水溶液は、pH6〜8程度のバッファーを用いると環境負荷が少なく好適であるが、後記する酵素の至適pHなどの関係からpH5〜6程度のバッファーやpH8〜9程度のバッファーであれば用いることができる。このようなバッファーとしては、例えば、リン酸バッファーやトリス塩酸バッファーなどを挙げることができる。リン酸バッファーは、例えば、0.01〜0.3Mとするのが好ましく、0.05〜0.1Mとするのがより好ましい。また、トリス塩酸バッファーは、例えば、0.01〜0.3Mとするのが好ましく、0.05〜0.1Mとするのがより好ましい。
【0036】
次工程の混和工程S2は、破砕懸濁工程S1で得た懸濁液に、酵素および界面活性剤を加えて混和する工程である。
破砕懸濁工程S1で得ることのできた懸濁液には、微生物由来の脂質やタンパク質、糖類などのPHB以外の物質が含まれている。
特に、脂質は疎水性部分を含み得るため、PHBとともに精製されるおそれがあり、その結果として、PHBの純度を低下させる可能性がある。したがって、本発明では、中性条件下で脂質をできる限り取り除く必要がある。
また、タンパク質には、水のような極性の高い溶媒に可溶なタンパク質(可溶性タンパク質)と、例えば、リポタンパク質や糖タンパク質などのように、翻訳後修飾を受けて複合タンパク質とならなければ、極性の高い溶媒に可溶化しないタンパク質(不溶性タンパク質)がある。このような不溶性タンパク質も前記した脂質と同様、PHBとともに精製されるおそれがあり、PHBの純度を低下させる可能性がある。したがって、本発明では、中性条件下でこのようなタンパク質をできる限り取り除く必要がある。
【0037】
混和工程S2で混和する酵素は、加水分解酵素を用いるのが好ましく、中性条件下で失活しない加水分解酵素を用いるのがより好ましく、中性条件に至適pHを有する加水分解酵素を用いるのがさらに好ましい。また、加水分解酵素としては、脂質分解酵素やタンパク質分解酵素を用いるのが好ましく、中性条件下で失活しない脂質分解酵素やタンパク質分解酵素を用いるのがより好ましく、中性条件に至適pHを有する脂質分解酵素やタンパク質分解酵素を用いるのが好ましい。このような脂質分解酵素やタンパク質分解酵素を用いると、脂質やタンパク質を加水分解して、懸濁液に可溶化させることが可能となる。
【0038】
かかる脂質分解酵素としては、リポタンパク質リパーゼ(lipoprotein lipase)を用いるのが好ましい。リポタンパク質リパーゼは、細胞質に含まれている中性脂肪の一つであるトリアシルグリセロールを分解してグリセロールと脂肪酸を生成することにより、脂質を懸濁液中に可溶化させることができる。このようなリポタンパク質リパーゼとしては、例えば、微生物(Microorganism)由来やシュードモナス属(Pseudomonas sp.)由来のリポタンパク質リパーゼ(EC3.1.1.34)などを用いることができ、東洋紡社製の製品名LPL−314、LPL−311などを好適に用いることができる。
【0039】
また、前記したタンパク質分解酵素としては、pH6〜8の中性条件下でタンパク質を分解することのできる中性プロテアーゼ(neutral protease)を用いるのが好ましいが、pH5程度の弱酸性条件下でタンパク質を分解することのできるプロテアーゼや、pH9程度の弱アルカリ性条件下でタンパク質を分解することのできるプロテアーゼも用いることができる(説明の便宜上、以下、これらを「中性プロテアーゼ」という。)。中性プロテアーゼを用いることにより、懸濁液に不溶であった不溶性タンパク質を可溶化することができる。また、中性プロテアーゼを用いることにより、溶液(懸濁液)をpH5よりも小さい酸性またはpH9よりも大きいアルカリ性に調整する作業をする必要がなくなり、さらに、廃棄する際の中和作業自体を省くか、または省力化することができるので操作が簡便となるだけでなく、低コスト化を図ることができる。なお、このようなタンパク質分解酵素は、エンドペプチダーゼ、エキソペプチダーゼの別を問わず用いることができる。
【0040】
このような中性プロテアーゼとしては、例えば、リゾープス・オリゼ(Rhizopus oryzae)由来、またはアスペルギルス・メレウス(Aspergillus melleus)やアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)などのアスペルギルス属(Aspergillus sp.)由来、またはバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)やバチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)などのバチルス属(Bacillus sp.)由来の中性プロテアーゼなどを用いることができ、例えば、東洋紡社製の製品名NEP−701、天野エンザイム社製の製品名ペプチダーゼR、プロテアーゼP「アマノ」3G、プロテアーゼNL「アマノ」、プロテアーゼN「アマノ」G、プロテアーゼA「アマノ」G、プロテアーゼS「アマノ」G、ウマミザイムG、ノボザイムズ社製の製品名アルカラーゼ、サビナーゼ、エバラーゼ、ニュートラーゼ、Novozym243などを好適に用いることができる。
【0041】
混和工程S2で混和する界面活性剤は、中性条件下で溶液(懸濁液)中の細胞質膜を分解して可溶化したり、脂質を可溶化したりすることができ、また、不溶性タンパク質に結合して可溶化させたりすることができるものであればよく、そのような界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤を好適に用いることができる。このような陰イオン界面活性剤としては、高級アルコール系、脂肪酸系、直鎖アルキルベンゼン系、アルファオレフィン系、ノルマルパラフィン系のいずれをも用いることが可能であるが、中でも、高級アルコール系の陰イオン界面活性剤を用いるのが好ましい。高級アルコール系の陰イオン界面活性剤としては、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウムなどを用いるのが好ましい。アルキル硫酸エステルナトリウムとしては、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いるのが好ましいが、オクチル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、およびステアリル硫酸ナトリウムのうち一つを用いることができるほか、これらの中から選択された二つ以上を併用することができる。
【0042】
なお、本発明で用いることのできる界面活性剤は、これらに限定されるものではなく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどの非イオン界面活性剤や、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシドなどの両性イオン界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩などの陽イオン界面活性剤なども用いることが可能である。
【0043】
前記した界面活性剤の濃度は、中性条件下で前記した効果を奏することができれば特に限定されるものではない。ドデシル硫酸ナトリウムを用いる場合は、例えば、1〜10g/Lとするのが好ましい。ドデシル硫酸ナトリウムの濃度が1g/Lよりも少ないと、ドデシル硫酸ナトリウムの濃度が低すぎるために前記した効果を十分に奏することができない。また、ドデシル硫酸ナトリウムの濃度が10g/Lよりも大きいと、もはや前記した効果が飽和してしまい、経済的に無駄である。
【0044】
本発明の混和工程S2においては、酵素と界面活性剤とを懸濁液に同時に加えて混和してもよいが、これらを異時に加えて混和してもよい。
酵素と界面活性剤とを同時に加えて混和する場合、酵素と界面活性剤とを厳密な意味で同時に懸濁液に加えて混和することに限定されず、多少の時間差を許容するものである。このように、酵素と界面活性剤とを懸濁液に同時に加えて混和すると、操作を簡便かつ迅速に行える利点がある。
一方、酵素と界面活性剤とを異時に加えて混和するとは、例えば、懸濁液に酵素を加えた後にこれらを混和する操作を行い(酵素混和工程(図示せず))、その後に界面活性剤を加えて混和する(界面活性剤混和工程(図示せず))というように、酵素の添加および混和をする操作と、界面活性剤の添加および混和をする操作と、をある程度の時間差をもって行うことをいう。このように、酵素と界面活性剤とを懸濁液に異時に加えて混和する、より好ましくは、酵素を界面活性剤よりも早期に懸濁液に加えて混和すると、界面活性剤によって酵素が早期に失活する可能性を低減させることができる。したがって、酵素と界面活性剤とを異時に加えて混和する場合、酵素による処理および界面活性剤による処理をより確実に行い得る利点がある。
【0045】
混和工程S2における混和操作は、酵素および界面活性剤を懸濁液に加えた後に、これらが均一となるように全体を混和させる。このとき、酵素の失活を防ぐため、界面活性剤を加えた懸濁液が泡立たないよう静かに混和するのがより好ましい。
【0046】
次工程の沈殿工程S3は、混和工程S2で混和した懸濁液を、例えば、30℃から50℃で10分間から2時間静置することで、混和工程S2で加えた酵素および界面活性剤によって懸濁液中の微生物由来の脂質やタンパク質などのPHB以外の不溶性残渣を分解して可溶化させ、これを懸濁液に溶解する一方、懸濁液中のPHBのみを沈殿させる工程である。
【0047】
ここで、静置してPHBを沈殿させる場合、静置する温度が30℃よりも低いと、PHB以外の不溶性残渣を十分に分解して可溶化することができないおそれがある。また、静置する温度が50℃を超えると、酵素が失活しやすくなるので、懸濁液中のPHB以外の不溶性残渣を十分に分解して可溶化することができないおそれがある。
【0048】
静置する時間が10分間より短いと、加えた酵素の量にもよるが、酵素による加水分解反応が十分に行われないおそれがあり、精製したPHBに微生物由来の脂質やタンパク質などの不溶性残渣が残留してしまうおそれがある。また、静置する時間が2時間よりも長いと、酵素による反応が終息してしまうため、時間的コストの観点から好ましくない。なお、静置する時間は、より好ましくは30分間から90分間である。
【0049】
PHBの沈殿は、静置することで自然になされるものであるが、懸濁液中のPHBの大きさが小さいほど沈殿しにくくなる傾向がある。そのため、PHBの収量をより向上させたい場合は、遠心分離を行ってもよい。遠心分離の条件は適宜に設定し得るが、例えば、1000〜20000rpm、5〜10分間程度で行うことができる。
【0050】
そして、次工程の精製工程S4は、沈殿工程S3後、容器内の懸濁液を廃棄した後、容器内に沈殿させたPHBを少なくとも1回以上洗浄液で洗浄してPHBを精製する工程である。
懸濁液は、デカントで簡単に廃棄することができるが、例えば、アスピレーション等の他の手段によっても廃棄することができる。なお、懸濁液を廃棄する際は、沈殿したPHBを廃棄してしまわないため、例えば、適宜の孔径を有するフィルターなどを用いて懸濁液のみを廃棄するようにするとよい。
洗浄液は、例えば、蒸留水、純水、超純水、滅菌水などを好適に用いることができるが、PHBの変性を伴わないでPHBを洗浄できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコールや、水と低級アルコールの混合溶液なども用いることができる。
【0051】
以上に説明したように、本発明のPHB精製方法によれば、酵素と界面活性剤を好適化して中性条件下でも良好に作用させることができたので、クロロホルムなどの有機溶媒を用いる必要もなく、また、PHB以外の不溶性残渣を可溶化(消化)させるために100℃以上の温度で加熱する必要もなく、低コストで大量生産に適し、かつ簡便な操作で高純度のPHBを精製することができる。また、アルカリ水溶液を用いず、中性の水溶液を用いるので、使用した水溶液を廃棄する際にかかる水溶液を中和する必要もない点でも、操作が簡便となり、かつ時間的にも費用的にも低コスト化を図ることができる。
【0052】
なお、このようにして精製したPHBの乾燥品を得たい場合は、前記した精製工程S4後、精製したPHBを乾燥させる乾燥工程(図示せず)を行うとよい。PHBの乾燥は、自然乾燥、凍結乾燥などによって行うことができるが、内圧が高くなることで雰囲気温度が上昇することを防止し、PHBの変性を防止するため、および乾燥時間短縮のため真空乾燥するのが好ましい。
【実施例】
【0053】
次に、本発明のポリヒドロキシ酪酸精製方法について、本発明の要件を満たす実施例と、本発明の要件を満たさない比較例とを対比して、具体的に説明する。
【0054】
(1)PHBを得るための材料および用法
まず、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門(NBRC)より提供して頂いたシノリゾビウム・フレディイIFO-14780(Sinorhizobium fredii IFO-14780)を、前々培養(5mL)、前培養(100mL)、本培養(3L)ともに、下記表1および表2に示す組成の培養液で培養した。表1および表2に示す各試薬のうち、酵母エキスは和光純薬社製のものを用いた。なお、その他の試薬は、特級試薬であれば各社から販売されているものを用いることができる。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
前々培養および前培養は、30℃、150rpmの条件で24時間旋回振とうにて行い、本培養は、前培養完了後、3Lの培養液に、前培養で培養した培養液(100mL)を3本分投入し、ファーメンターにてpH7を維持しつつ、30℃、250〜500rpmの撹拌速度で48時間行った。ファーメンターでの撹拌速度は、溶存酸素にあわせて任意で設定した。前々培養は5mL容フラスコ(バッフルなし)で行い、前培養は500mL容フラスコ(バッフル付き)を使用した。本培養で用いたファーメンターは、MBS社製CULLAN CLN−10000を使用し、滅菌には、EYELA社製のオートクレーブを使用した。滅菌条件は、120℃、20分間であった。
【0058】
このようにして培養した本培養の培養液から50mL採取し、15000rpmで3分間の遠心分離を行い、ペレット状の湿菌体(シノリゾビウム・フレディイ)と、上澄み液と、に分離し、上澄み液を除去した。なお、遠心分離機は、KUBOTA社製6200を用いて、15000rpm、3分間の条件で行った。そして、得られたペレット状の湿菌体が十分に懸濁されるように、50mLの蒸留水を加えて混和し、シノリゾビウム・フレディイを含む水溶液を得た。
【0059】
かかる水溶液に含まれるシノリゾビウム・フレディイの破砕は、高圧細胞破砕装置であるConstantSystems社製ワンショットモデルを用いて、0.28GPa(40kpsi)の圧力で2回行った。
シノリゾビウム・フレディイを破砕した後、KUBOTA社製6200を用いて、15000rpm、3分間の条件で遠心分離を行い、上澄み液(水溶性不純物)を除去し、ペレット状の不溶性残渣を得た。かかる遠心分離による操作を3回繰り返した。
【0060】
得られたペレットから5mgずつ28個のマイクロチューブに分取して、0.1Mリン酸バッファー(KHPO、NaOH、pH7)を1.5mL加えてサンプル1〜28とした。
【0061】
かかるサンプル5〜28に対して、下記表3に示す脂質分解酵素およびタンパク質分解酵素の少なくとも一方と、界面活性剤とを添加した。比較対象のため、サンプル1、2には、界面活性剤のみを添加し、サンプル3、4には、脂質分解酵素、タンパク質分解酵素、界面活性剤のいずれも添加しなかった。
【0062】
ここで、界面活性剤は、ナカライテスク社製のドデシル硫酸ナトリウム(表3においてSDSと表記する。)を用いた。
酵素は、東洋紡社製のNEP−701およびLPL−301、天野エンザイム社製のYL−NL、大和化成社製のTunicase(登録商標)、ナカライテスク社製の塩化リゾチーム(Lys−Cl)、和光純薬社製のリゾチーム(Lys)を用いた。
なお、NEP−701は中性プロテアーゼであり、LPL−311はシュードモナス属(Pseudomonas sp.)由来のリポタンパク質リパーゼであり、YL−NLは酵母の細胞壁を分解するプロテアーゼであり、Tunicase(登録商標)はグルカナーゼとプロテアーゼの混合製剤であり、塩化リゾチームおよびリゾチームはムコ多糖類を加水分解する酵素である。
本発明では、酵素および界面活性剤ごとに2連で検討した。なお、表3において、「−」および「0」は、酵素や界面活性剤を含有していないことを示す。
【0063】
【表3】

【0064】
表3に示すサンプル1〜28を静かに混和した後、40℃で1時間静置した。そして、マイクロチューブ内の懸濁液をピペッティングにより廃棄して、シノリゾビウム・フレディイの産生したPHBを含む不溶性残渣を得た。その後、1.5mLの蒸留水で3回洗浄し、洗浄したPHBを真空乾燥機で真空乾燥した。
【0065】
(2)純度の測定
次に、こうして得られたサンプル1〜28のPHBをガスクロマトグラフィーにかけてPHBの純度を、G. Braunegg, B.Sonnleitner, R. M. Lafferty, Europian Journal of Applied Microbiology and Biotechnology, 6, 29-37 (1978)に準じて、以下のようにして測定した。まず、予め調製した1mLのメチルエステル反応液(ナカライテスク社製のメタノール97mL、濃硫酸3mL、安息香酸0.29g(いずれもナカライテスク社製))と、1mLのクロロホルム(ナカライテスク社製)と、精確に秤量した5mgのサンプル1〜28のPHBと、を容器に入れて密封し、100℃で4時間反応させた。水冷後、蒸留水を1mL入れて激しく撹拌した。その後、静置して水層と有機溶剤層とを分離した後、有機溶剤層をガスクロマトグラフィーで分析した。なお、ガスクロマトグラフィーで使用したカラムは、ジーエルサイエンス社製GC14A SUSID3φ×1m Reoplex400 15% Chromosorb WAW 60/80を用いた。ガスクロマトグラフィーの条件は、インジェクター温度200℃、FID検出器温度200℃であった。
【0066】
算出されたサンプル1〜28のPHBの純度と、前記したように酵素および界面活性剤ごとに2連で検討しているので、酵素および界面活性剤ごとの純度の平均(以下、「純度(平均)」とする。)を算出して下記表4に示した。本発明においては、純度(平均)が98%以上であるものを合格(実施例(表4の備考欄参照))とし、純度(平均)が98%未満のものを不合格(比較例(表4の備考欄参照))とした。
【0067】
【表4】

【0068】
表4に示すように、サンプル7、8、11、12は、純度(平均)がそれぞれ98%以上となり合格(実施例)となった。これは、酵素や界面活性剤の選定がよかったため、これらが良好に作用したためと考えられる。
一方、サンプル1〜6、9、10、13〜28は、純度(平均)がそれぞれ98%未満となり不合格(比較例)となった。これは、酵素や界面活性剤の選定がよくなかったため、これらが良好に作用できなかったためと考えられる。
【0069】
以上、本発明のポリヒドロキシ酪酸精製方法について、発明を実施するための最良の形態および実施例を示して具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に何ら限定されるものではなく、その権利範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、当業者であれば、本発明の発明を実施するための最良の形態および実施例の記載に基づいて容易に変更、改変して本発明のポリヒドロキシ酪酸精製方法と均等な方法を得ることができ、そのようなものも本発明のポリヒドロキシ酪酸精製方法に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係るPHB精製方法の一実施形態の各工程のフローを示す図である。
【符号の説明】
【0071】
S1 破砕懸濁工程
S2 混和工程
S3 沈殿工程
S4 精製工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物に産生させたポリヒドロキシ酪酸を精製するポリヒドロキシ酪酸精製方法であって、
前記ポリヒドロキシ酪酸を産生させた前記微生物を含む水溶液を細胞破砕装置にかけて前記微生物を破砕し、前記ポリヒドロキシ酪酸を含む不溶性残渣と、水溶性不純物と、を得た後、前記不溶性残渣を中性の水溶液に懸濁して前記ポリヒドロキシ酪酸を含む懸濁液を得、この懸濁液に酵素および界面活性剤を加えて混和し、混和した懸濁液に含まれるポリヒドロキシ酪酸を沈殿させ、沈殿させた前記ポリヒドロキシ酪酸を洗浄液で洗浄することを特徴とするポリヒドロキシ酪酸精製方法。
【請求項2】
微生物に産生させたポリヒドロキシ酪酸を精製するポリヒドロキシ酪酸精製方法であって、
容器に入れられた、前記ポリヒドロキシ酪酸を産生させた前記微生物を含む水溶液を細胞破砕装置にかけて前記微生物を破砕して、前記ポリヒドロキシ酪酸を含む不溶性残渣と、水溶性不純物と、を得た後、前記不溶性残渣を中性の水溶液に懸濁してポリヒドロキシ酪酸を含む懸濁液を得る破砕懸濁工程と、
前記破砕懸濁工程で得た前記懸濁液に、酵素および界面活性剤を加えて混和する混和工程と、
前記混和工程後、混和した前記懸濁液を30℃から50℃で10分間から2時間静置して、前記微生物由来の前記ポリヒドロキシ酪酸以外の不溶性残渣を可溶化させて前記懸濁液に溶解させるとともに前記ポリヒドロキシ酪酸を沈殿させる沈殿工程と、
前記沈殿工程後、前記容器内の懸濁液を廃棄し、前記容器内に沈殿させたポリヒドロキシ酪酸を少なくとも1回以上洗浄液で洗浄して精製する精製工程と、
を含むことを特徴とするポリヒドロキシ酪酸精製方法。
【請求項3】
前記微生物が、根粒菌であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のポリヒドロキシ酪酸精製方法。
【請求項4】
前記根粒菌が、シノリゾビウム属であることを特徴とする請求項3に記載のポリヒドロキシ酪酸精製方法。
【請求項5】
前記根粒菌が、シノリゾビウム・フレディイであることを特徴とする請求項3に記載のポリヒドロキシ酪酸精製方法。
【請求項6】
前記界面活性剤が、陰イオン界面活性剤であることを特徴とする請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載のポリヒドロキシ酪酸精製方法。
【請求項7】
前記陰イオン界面活性剤が、ドデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、およびステアリル硫酸ナトリウムのうちの一つまたは二つ以上を含むことを特徴とする請求項6に記載のポリヒドロキシ酪酸精製方法。
【請求項8】
前記酵素が、リポタンパク質リパーゼおよび中性プロテアーゼのうち少なくとも一種であることを特徴とする請求項1から請求項7のうちいずれか一項に記載のポリヒドロキシ酪酸精製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−193940(P2008−193940A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31688(P2007−31688)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】