説明

ポリマーセメントモルタル製埋設型枠

【課題】 通常のコンクリート製品同様材齢1日で脱型可能である生産効率に優れたポリマーセメントモルタル製埋設型枠を提供する。
【解決手段】 エチレン性不飽和カルボン酸単量体、芳香族ビニル単量体及び/又は(メタ)アクリル酸エステル単量体から選ばれる1種以上の単量体を含む単量体組成物を乳化重合して得られる水性樹脂分散体であり、該水性樹脂分散体が2段階以上の乳化重合で得られるものであって、1段目に使用するエチレン性不飽和カルボン酸単量体(a−1)と最終段に使用するエチレン性不飽和カルボン酸単量体(a−最終)との質量比(a−最終)/(a−1)が4〜8である水性樹脂分散体と早強ポルトランドセメント、細骨材のみからなる骨材、高性能減水剤、および消泡剤とからなることを特徴とするポリマーセメントモルタル製埋設型枠。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート打設時には型枠として用い、コンクリート打設後はコンクリートが型枠と一体化して強固な合成構造となる埋設型枠に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、壁、床、柱、梁等の構築において、現場におけるコンクリート打設時には型枠として用い、コンクリート打設後は型枠を解体することなく現場打ちコンクリートと型枠が一体化して強固な合成構造を形成するために用いられる型枠は、所謂、埋設型枠、埋込型枠、永久型枠等と称され、コンクリートの現場打ち工法と比較して、現場工事の省力化、工期短縮、品質向上等を図ることが可能であり、建築分野に限らず、橋げたやダム等の土木構造物にも適用範囲が広がりつつある。このような型枠部材としては、主としてコンクリート又は鋼材が利用されており、コンクリート製埋設型枠は、鋼製型枠と比べて、耐久性や、防錆のための維持修繕費、美観性に優れる。一方、通常強度のコンクリートは、その材料特性から部材厚さが大きくなり、型枠の重量が大となり、運搬等において大きな機械力を使用しなければならない欠点を持っている。一方、補強材として立体トラス筋を使用したり、プレストレストの導入により、ある程度の小断面で充分な強度を持たせることを可能としているが、これらにおいても、市販型枠のコンクリート圧縮強度は60〜80MPa、曲げ強度は6〜10MPa程度であり、さらに断面厚さを低減し、広幅で長尺型枠とするには部材寸法に限界がある。また、コンクリートが耐久性に優れているとはいえ、腐食作用、凍結融解作用、あるいは化学作用が厳しい環境におけるコンクリート構造物の型枠として使用するためには、例えば、海水による侵食、摩耗、凍結融解による剥離の発生等の課題が残る。
【0003】
これらの課題を解決するためセメントに水性樹脂分散体を配合したモルタル組成物、いわゆるポリマーセメント組成物が、一般のセメントモルタルに比較して、強度や耐凍害性に優れているため用いられている。特許文献1にはセメント100重量部と少なくとも2段階以上の乳化重合で作られた水性エマルジョンであって、最外層の樹脂が少なくとも1種のエチレンオキシド基を有する不飽和単量体と少なくとも1種のエチレン性不飽和単量体の共重合体であることを特徴とする多段階樹脂エマルジョンを樹脂固形分で3〜40重量部とからなるポリマーセメント組成物が提案されている(特許文献1)。このポリマーセメント組成物によれば、セメントモルタルの耐水性、曲げ、圧縮強さに対する改良が記載されているが、28日間養生後の結果であり、またその後の7日間の水中浸漬により曲げ強度、圧縮強度とも大幅に低下している。
【0004】
【特許文献1】特開平8−217513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンクリート製品では、型枠を早く外し、製品の出荷を早めるために従来より促進養生、特に、蒸気養生がよく行われている。工場の設備の中で型枠費の占める割合が大きいので、硬化促進によって型枠の回転を早くして量産化方式をとると、それだけ経済的に有利になる。特に、肉厚の薄い埋設型枠の場合、部材厚が薄ければ薄いほど、部材寸法が大きければ大きいほど、脱型時に高い曲げ強度が必要である。しかし、従来のポリマーセメントモルタルは、材齢1日で所要の曲げ強度が得られず、通常のコンクリート製品ように型枠に打設後一日で脱型することは困難であった。特に埋設型枠のように薄さを要求されるものでは十分な曲げ強度が必要とされる。したがって、本発明は、このような課題を解決することを目的とし、通常のコンクリート製品の製造のように蒸気養生が可能であり、材齢1日(脱型直後)で優れた高曲げ強度、高圧縮強度特性を有し、通常のコンクリート製品同様材齢1日で脱型可能である生産効率に優れたポリマーセメントモルタル製埋設型枠を提供することを目的とする。また、海水による侵食、酸に対する耐久性に優れたポリマーセメントモルタル製埋設型枠を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特殊な水性樹脂分散体、早強ポルトランドセメント、細骨材のみからなる骨材、高性能減水剤、消泡剤及び水とからなるポリマーセメントモルタルが、蒸気養生により材齢1日で脱型可能な所要の曲げ強度を得ることができるので通常のコンクリート製品と同様に効率的に生産できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、エチレン性不飽和カルボン酸単量体、芳香族ビニル単量体及び/又は(メタ)アクリル酸エステル単量体から選ばれる1種以上の単量体を含む単量体組成物を乳化重合して得られる水性樹脂分散体であり、該水性樹脂分散体が2段階以上の乳化重合で得られるものであって、1段目に使用するエチレン性不飽和カルボン酸単量体(a−1)と最終段に使用するエチレン性不飽和カルボン酸単量体(a−最終)との質量比(a−最終)/(a−1)が4〜8である水性樹脂分散体と早強ポルトランドセメント、細骨材のみからなる骨材、高性能減水剤、および消泡剤とからなることを特徴とするポリマーセメントモルタル製埋設型枠(請求項1)である。
【0007】
そして、前記水性樹脂分散体(固形分)とセメントの質量比が5〜22%以下であることを特徴とする請求項1記載のポリマーセメントモルタル製埋設型枠である(請求項2)。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、通常のコンクリート製品同様一日で脱型可能であり、効率的に生産できる。また、曲げ強度に優れ、通常のコンクリート製埋設型枠よりも薄くでき、したがって軽量な埋設型枠を提供できる。さらに、耐久性に優れる埋設型枠を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のポリマーセメントモルタル製埋設型枠およびその製造方法について説明する。
【0010】
本発明において用いられる結合材は、早強ポルトランドセメントが特に好ましい。早強ポルトランドセメントを用いることにより、蒸気養生によって一日で脱型可能な、優れた曲げ強度特性を得ることができる。
【0011】
本発明に用いられる骨材は、細骨材のみである。該細骨材は、特に限定されるものではなく、通常コンクリート製品に使用される細骨材であれば良い。例えば、静岡県小笠産陸砂(表乾密度2.60g/cm)が例示される。
【0012】
本発明に用いられる水性樹脂分散体は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸のモノエステル、フマル酸のモノエステル、イタコン酸のモノエステルなどのエチレン性不飽和モノカルボン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸が挙げられる。好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸から選ばれる1種以上のエチレン性不飽和カルボン酸である。
本発明の水性樹脂分散体で用いられる芳香族ビニル単量体としては、例えばスチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレンなどが挙げられる。好ましくはスチレンである。
【0013】
また、(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェニルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート等が挙げられる。好ましくは、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートである。
【0014】
本発明に使用される水性樹脂分散体は通常の乳化重合法によって得られる。乳化重合の方法に関しては特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。すなわち、水性媒体中で単量体組成物、界面活性剤、ラジカル重合開始剤および必要に応じて用いられる連鎖移動剤等の他の添加剤成分などを基本組成成分とする分散系において、単量体組成物を重合する方法である。乳化重合に際しては、供給する単量体組成物の組成を二段階以上とすることが好ましい。二段階以上にすることにより、セメントモルタル硬化物の曲げ・圧縮強さが改善される。ここでいう単量体組成物の組成を二段階以上の供給とは、単量体組成物の1段目を重合した後、次いでさらに単量体組成物を供給し2段目の重合するものであり、これを繰り返すものである。本発明での単量体組成物の供給は、2または3段階が好ましく、さらに好ましくは2段階である。
【0015】
本発明に使用される水性樹脂分散体の好ましい粒子径は50〜400nmであり、さらに好ましくは100〜200nmである。粒子径が400nm以上になると、セメント粒子間の充填効果やボールベアリング効果が低減されるため、本発明の目的である高強度ポリマーセメントモルタルをつくる観点から適用されない。
【0016】
また、本発明に使用される水性樹脂分散体の固形分としては、30〜70質量%であることが好ましく、さらに好ましくは45〜70質量%である。固形分が30質量%より小さいと、水性樹脂分散体に含まれる水量と細骨材に付着する表面水量だけで、ポリマーセメントモルタルの単位水量を上回る恐れがあるため、現実的ではない。
【0017】
水性樹脂分散体の配合量は、セメント100質量部に対して固形分換算で5〜22質量部が好ましく、8〜14質量部がより好ましい。水性樹脂分散体の配合量がセメント100質量部に対して固形分換算で5質量部未満では、流動性が低下し、曲げ強度が低下するので、好ましくない。一方、水性樹脂分散体の配合量がセメント100質量部に対して固形分換算で22質量部を超えると、水性樹脂分散体の補強効果による曲げ強度の増加分よりも、セメント硬化体の占める量の減少による曲げ強度の低下分のほうが大きくなるため、ポリマーセメントモルタル複合体としての曲げ強度が低下し始める。
【0018】
本発明に使用される高性能減水剤としては、通常コンクリートに用いられるAEでない高性能減水剤であれば何でもよいが、減水効果の高いものが望ましい。例えば、ポリカルボン酸エーテル系高性能減水剤が例示される。
【0019】
本発明に使用される消泡剤としては、シリコーン系エマルジョンや特殊非イオン界面活性剤が例示される。一般に、セメントモルタル中にセメント混和用ポリマーエマルジョンを混入して攪拌すると著しく発泡し、必要以上の空気連行を伴うため、緻密な高強度ポリマーセメントモルタル硬化体をつくるには、適当な消泡剤を添加する必要がある。消泡剤の添加方法としては、予めポリマーエマルジョンの製造時に添加してもよく、ポリマーエマルジョンの製造時に添加せずポリマーセメントモルタル練り混ぜ時に添加してもよく、また、ポリマーエマルジョンの製造時に一部添加し、ポリマーセメントモルタル練り混ぜ時にさらに添加することもできる。
【0020】
消泡剤の配合量は、セメント100質量部に対して0.2〜2質量部が好ましい。消泡剤の配合量がセメント100質量部に対して0.2質量部未満では、ポリマーセメントモルタルの連行気泡を十分に消すことができず、その結果、曲げ強度が低下するので、好ましくない。一方、消泡剤の配合量がセメント100質量部に対して2質量部以上になると、連行気泡の大部分がすでに消されているため、あまり効果がなく、不経済になる。
【0021】
次に、製造方法について説明する。
製造方法は、特に限定されるものではなく、通常のコンクリート製埋設型枠を製造する方法に準ずれば良い。
すなわち、各材料を計量し、先ずセメントと細骨材とをミキサーに投入・攪拌(空練り)し、更に水性樹脂分散体、水、減水剤、消泡剤を加えて練り混ぜる。そして該混練物を鉄筋を配置した所定の型枠に充填し、該混練物のフレッシュ性状によって無振動締固め、振動締固めの何れかを行い、蒸気養生後、脱型してポリマーセメントモルタル製埋設型枠を製造する。
蒸気養生の方法としては、通常の一般的方法に従えば良く、例えば、前置2時間、昇温速度20℃/時、65℃で3時間保持、その後自然放冷する方法が例示される。
尚、本発明のポリマーセメントモルタル製埋設型枠の養生方法としては、蒸気養生以外の養生方法でも製造できるが、材令1日で脱型可能な曲げ強度を得るためには蒸気養生が良い。
【0022】
(試験1)
本発明の実施例として本発明に係るポリマーセメントモルタルを用いる供試体を以下の材料を使用し、表1の割合で配合して以下のように製造した。
セメント:早強ポルトランドセメント
細骨材:静岡県小笠郡浜岡町産陸砂(表乾密度2.60g/cm、FM2.75)
本発明の水性樹脂分散体:(固形分50%)
高性能減水剤:ポリカルボン酸エーテル系高性能減水剤
消泡剤:特殊非イオン界面活性剤
水:水道水
【0023】
表1の割合で配合したポリマーセメントモルタルを容量2立方メートルの2軸ミキサーを使用して練り混ぜ量1立方メートルで練り混ぜを行い、型枠に充填後、型枠振動機で微振動締固めを行い成型した。その後、一次養生として蒸気養生を行い、その条件は20℃で前置き2時間とし、20℃/時で昇温させ、65℃で3時間保持し、その後自然放冷させ、24時間で脱型した。その後、二次養生として20℃相対湿度80%の気中養生を所定材齢まで行った(実施例1)。また、実施例2は二次養生として所定材齢まで水中養生を行った。
【0024】
また、比較例として表1に記載の配合及び前述の養生方法で製造した各供試体を用いて曲げ強度試験(JIS A 1171-2000)、圧縮強度試験(JIS A
1108-1999)を行った。その各種試験結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1の結果より、本発明に係るポリマーセメントモルタル製供試体(実施例1及び2)は、蒸気養生によって材齢1日で曲げ強度13N/mm以上であるのに対し、市販されている代表的なポリマー、ポリアクリル酸エステルエマルション(比較例1)、エチレン酢酸ビニルエマルション(比較例2)、スチレンブタジジェンゴムラテックス(比較例3)を使用し、蒸気養生したものは10N/mm以下の曲げ強度しか得られなかった。また、本発明に使用する水性樹脂分散体と普通ポルトランドセメントを使用し、蒸気養生を行った比較例4では、材齢1日の曲げ強度が8.5N/mmしか得られず、コンクリートを型枠に打設後1日で脱型するのは困難である。さらに、蒸気養生ではなく、通常の常温で養生した場合には(比較例5)、材齢1日では十分な強度が得られず測定不可能だった。実施例2については、一次養生後、二次養生として水中養生をおこなった。表1の結果から、本発明に係るポリマーセメントモルタル製のものは水中で劣化せず、耐水性に優れることがわかった。
【0027】
(試験2)
前記実施例1及び比較例6で製造した各供試体を用いて耐酸性試験を行った。耐酸性試験は、浸漬する供試体容積の3倍で濃度5%、20℃塩酸溶液に、供試体相互の間隔及び試験槽の底から距離を3cm以上あけるようにして供試体を28日間完全に浸漬した。その後、試験液から取り出し、水道水で洗浄し、清潔な湿布で拭い、速やかに圧縮強度試験(JIS A 1108−1999)を行った。なお、試験液は、1週間ごとに完全に交換するものとした。その結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2から濃度5%の塩酸中に28日間浸漬した供試体の圧縮強度残存率は、本発明のポリマーセメントモルタルを用いる供試体(実施例1)が73.3%であるのに対し、普通コンクリート製供試体(比較例6)が36.8%である。本発明のポリマーセメントモルタル製埋設型枠は、普通コンクリート製品より極めて優れた耐酸性を有することがわかる。
【0030】
以上詳細に説明したように、本発明のポリマーセメントモルタル製埋設型枠は、水硬性結合材として早強ポルトランドセメントを使用した場合、大部分のコンクリート製品と同様に蒸気養生によってコンクリート打設後1日で高い曲げ強度が得られるので脱型が可能であり、効率的に生産でき、また、耐水性、耐酸性等の耐久性に優れる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体、芳香族ビニル単量体及び/又は(メタ)アクリル酸エステル単量体から選ばれる1種以上の単量体を含む単量体組成物を乳化重合して得られる水性樹脂分散体であり、該水性樹脂分散体が2段階以上の乳化重合で得られるものであって、1段目に使用するエチレン性不飽和カルボン酸単量体(a−1)と最終段に使用するエチレン性不飽和カルボン酸単量体(a−最終)との質量比(a−最終)/(a−1)が4〜8である水性樹脂分散体と早強ポルトランドセメント、細骨材のみからなる骨材、高性能減水剤、および消泡剤とからなることを特徴とするポリマーセメントモルタル製埋設型枠。
【請求項2】
前記水性樹脂分散体(固形分)とセメントの質量比が5〜22%であることを特徴とする請求項1記載のポリマーセメントモルタル製埋設型枠。

【公開番号】特開2008−88633(P2008−88633A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−267070(P2006−267070)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)