説明

ポリマー薄膜およびその製造方法

【課題】連鎖重合によって硬化する組成物により得られる硬化型ポリマー薄膜を提供する。
【解決手段】多官能ビニル芳香族共重合体(A)を含む組成物を連鎖重合により硬化させてなるポリマー薄膜であって、前記多官能ビニル芳香族共重合体(A)は、ジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位およびモノビニル芳香族化合物単量体(b)由来の構造単位を有し、ジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位を10モル%以上含有し、かつ、ジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位の全量の内、式(a1)で表される構造単位が50モル%以上であり、Mnが600〜100,000であり、Mw/Mnが2.0〜100.0であり、ガラス転移温度が20℃以上である溶剤可溶性の多官能ビニル芳香族共重合体であることを特徴とする、ポリマー薄膜。式(a1)


(式中、R1は炭素数6〜30の芳香族炭化水素基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー薄膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自己支持性を有する薄膜の製造方法が種々検討されており、水面キャスト法、シランカップリング剤を用いた界面反応法等が知られている。しかし、これらの方法により得られる薄膜は、通常、機械的な強度に乏しく、また得られる薄膜の精度にも限界がある。
一方、生体脂質の薄膜は、分子自体が持つ自己組織化能によって製膜における精度は極めて高いが、機能性薄膜として使用するには機械的な強度が不足している。そのため、生体脂質の薄膜は、多層の膜からなる構造とする必要があり、一般的な実用性には優れていない。
また、薄膜形成方法として知られている、ラングミュア・ブロジェット法(Langmuir Blodgett, LB)法やレイヤーバイレイヤー法(layer-by-layer、LbL)は、作製操作が煩雑であり、また、多くの欠陥を含む微結晶ドメインの集合体となることも多く、その実用性は高くない。すなわち、これらの方法では、表面積が大きく、かつ、強度の高い膜を得ることは困難である。
【0003】
一般に、薄膜、特に、自己支持性を有する薄膜は、その表面積が大きくなるにつれ、膜表面に欠陥が生じやすくなる。また、自己支持性膜と言われているものの中には、多孔質の支持体等を基板として必要とするものが多い。
例えば、非特許文献1には、例えば、犠牲層の上に、カルボン酸基を有するポリマーとアミノ基を有するポリマーをLbL (Layer-by-Layer)法を用いて積層させ、その後に架橋させ、さらには犠牲層を取り除くことによりナノ薄膜を作製するものである。しかしながらこの方法は積層に多大なる時間がかかり、また、使用可能なポリマーも限られている。
一方、非特許文献2及び3には、 金属アルコキシドの加水分解、あるいはそれと同時に行われるアクリルモノマーの光重合を使用した金属酸化物あるいは金属酸化物とポリマーのハイブリッド薄膜を形成する方法が開示されている。しかしながら、金属酸化物単体に関しては 小さなサイズしかできない、あるいは、ハイブリッド型の薄膜で大面積のものは、不可能ではないものの手法として煩雑であるというものであった。
【0004】
また、熱可塑性樹脂を含む組成物を用いて形成したポリマー薄膜ではなく、連鎖重合、特に、ラジカル重合によって、硬化する組成物を用いて得られる硬化型ポリマー薄膜であれば、該ポリマー薄膜の構造単位として利用できる単量体の範囲が広まるという観点から工業的な価値が高いと考えられる。しかしながら、このような組成物を用いてポリマー薄膜を得ようとすると、例えば、ラジカル重合に対するビニル基の選択性が低いことや、モノマーが低分子量で液状の樹脂が多いために、薄膜化の過程でのハンドリングが困難であるといった問題がある。さらに、体積収縮率が大きく、硬化後の薄膜に欠陥を生じやすい等の、工業的実施にあたって問題があった。
【0005】
【非特許文献1】Angew. Chem. Int. Ed. 2000, 39, No.6
【非特許文献2】Nature Mater. 2006, 5, p.494-501.
【非特許文献3】Soft Mater. 2006, 2, p.119-125.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明は、上記課題を解決することを目的とするものであって、連鎖重合、特に、ラジカル重合によって硬化する組成物により得られる硬化型ポリマー薄膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の下、発明者が鋭意検討を行った結果、下記手段により、上記課題を解決しうることを見出した。
(1)多官能ビニル芳香族共重合体(A)を含む組成物を連鎖重合により硬化させてなるポリマー薄膜であって、
前記多官能ビニル芳香族共重合体(A)は、ジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位およびモノビニル芳香族化合物単量体(b)由来の構造単位を有し、該多官能ビニル芳香族共重合体(A)がジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位を10モル%以上含有し、かつ、ジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位の全量の内、式(a1)で表される構造単位が50モル%以上であり、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が600〜100,000であり、重量平均分子量(Mw)とMnの比(Mw/Mn)が2.0〜100.0であり、示差走査熱量計(DSC)によって測定されるガラス転移温度が20℃以上である溶剤可溶性の多官能ビニル芳香族共重合体であることを特徴とする、ポリマー薄膜。
式(a1)
【化1】


(式中、R1は炭素数6〜30の芳香族炭化水素基を示す。)
(2)前記モノビニル芳香族化合物単量体(b)がエチルビニルベンゼンおよび/またはスチレンである、(1)に記載のポリマー薄膜。
(3)前記多官能ビニル芳香族共重合体(A)がその末端の一部にエーテル結合を介した鎖状炭化水素基、エーテル結合を介した芳香族炭化水素基またはアルコール性水酸基を有し、前記エーテル結合及びアルコール性水酸基由来の酸素含有量が0.1〜5.0重量%である、(1)または(2)に記載のポリマー薄膜。
(4)膜厚が、100nm以下である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載のポリマー薄膜。
(5)前記連鎖重合は、ラジカル重合である、(1)〜(4)のいずれか1項に記載のポリマー薄膜。
(6)支持体上に、少なくとも、多官能ビニル芳香族共重合体(A)を含む組成物を層状に設け、該層状に設けた組成物中の前記多官能ビニル芳香族共重合体(A)を連鎖重合して硬化させた後、前記支持体と前記組成物を分離させることを含むポリマー薄膜の製造方法であって、
前記多官能ビニル芳香族共重合体(A)は、ジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位およびモノビニル芳香族化合物単量体(b)由来の構造単位を有し、該多官能ビニル芳香族共重合体(A)がジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位を10モル%以上含有し、かつ、ジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位の全量の内、式(a1)で表される構造単位が50モル%以上であり、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が600〜100,000であり、重量平均分子量(Mw)とMnの比(Mw/Mn)が2.0〜100.0であり、示差走査熱量計(DSC)によって測定されるガラス転移温度が20℃以上である溶剤可溶性の多官能ビニル芳香族共重合体であることを特徴とする、ポリマー薄膜の製造方法。
式(a1)
【化2】


(式中、R1は炭素数6〜30の芳香族炭化水素基を示す。)
(7)支持体の表面に、犠牲層を設け、該犠牲層の表面に、多官能ビニル芳香族共重合体(A)を含む組成物を層状に設け、該層状に設けた組成物中の前記多官能ビニル芳香族共重合体(A)を連鎖重合して硬化させた後、前記支持体と前記組成物を分離させることを含むポリマー薄膜の製造方法であって、
前記多官能ビニル芳香族共重合体(A)は、ジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位およびモノビニル芳香族化合物単量体(b)由来の構造単位を有し、該多官能ビニル芳香族共重合体(A)がジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位を10モル%以上含有し、かつ、ジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位の全量の内、式(a1)で表される構造単位が50モル%以上であり、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が600〜100,000であり、重量平均分子量(Mw)とMnの比(Mw/Mn)が2.0〜100.0であり、示差走査熱量計(DSC)によって測定されるガラス転移温度が20℃以上である溶剤可溶性の多官能ビニル芳香族共重合体であることを特徴とする、ポリマー薄膜の製造方法。
式(a1)
【化3】


(式中、R1は炭素数6〜30の芳香族炭化水素基を示す。)
(8)前記連鎖重合は、ラジカル重合である、(6)または(7)に記載のポリマー薄膜の製造方法。
(9)前記組成物は、さらに、ラジカル重合開始剤を含む、(6)〜(8)のいずれか1項に記載のポリマー薄膜の製造方法。
(10)前記犠牲層の除去は、該犠牲層を溶解することにより行う、(6)〜(9)のいずれか1項に記載のポリマー薄膜の製造方法。
(11)前記成物は、スピンコーティング法またはディップコーティング法により、前記支持体上に層状に設ける、(6)〜(10)のいずれか1項に記載のポリマー薄膜の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、連鎖重合によって硬化する組成物を用いてのポリマー薄膜の提供が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本発明のポリマー薄膜は、多官能ビニル芳香族共重合体(A)(以下、単に「共重合体(A)」ということがある)を含む組成物を連鎖重合により硬化させてなるポリマー薄膜である。ここで、共重合体(A)は、ジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位およびモノビニル芳香族化合物単量体(b)由来の構造単位を有し、該多官能ビニル芳香族共重合体(A)がジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位を10モル%以上含有し、かつ、ジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位の全量の内、式(a1)で表される構造単位が50モル%以上であり、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が600〜100,000であり、重量平均分子量(Mw)とMnの比(Mw/Mn)が2.0〜100.0であり、示差走査熱量計(DSC)によって測定されるガラス転移温度が20℃以上である溶剤可溶性の多官能ビニル芳香族共重合体であることを特徴とする。
【0010】
共重合体(A)は、ジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位およびモノビニル芳香族化合物単量体(b)由来の構造単位を有するが、ジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位を10モル%以上含有し、10〜99.5モル%含有することが好ましく、15〜99モル%含有することがより好ましく、20〜95モル%含有することがさらに好ましく、25〜85モル%含有することが特に好ましい。ジビニル芳香族化合物(a)の使用量を10モル%以上とすることにより、得られるポリマー薄膜の耐熱性及び耐薬品性を向上させることができる。
また、共重合体(A)中におけるモノビニル芳香族化合物単量体(b)由来の構造単位は、上記ジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位以外の範囲内で、材料・反応条件等に応じて定められるが、例えば、0.5〜90モル%の範囲内で用いることができる。このような範囲で用いることにより、機械的特性、加工性及び屈折率等の光学的特性を向上させることができるという利点がある。
【0011】
本発明における共重合体(A)は、ジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位として、式(a1)で表される構造単位を含む。
式(a1)
【化4】


(式中、R1は炭素数6〜30の芳香族炭化水素基を示す。)
ここで、R1は好ましくは、炭素数6〜30の芳香族炭化水素基であり、より好ましくは炭素数6〜12の芳香族炭化水素基である。本発明の共重合体(A)には、式(a1)で表される構造単位が2種類以上含まれていてもよい。
【0012】
このような式(a1)で表される構造単位を構成するモノマーとしては、 m−ジビニルベンゼン、p−ジビニルベンゼン、1,3−ジイソプロペニルベンゼン、1,4−ジイソプロペニルベンゼン等を用いることができるが、これらに制限されるものではない。これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。これらの中でも、コスト、耐薬品性及び得られたポリマーの耐熱性の点でジビニルベンゼン(m−及びp−異性体の両方)がより好ましい。
本発明の共重合体において、式(a1)で表される構造単位は、ジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位の10モル%以上を含むが、好ましくは15モル%以上である。10.0モル%未満では、硬化後の薄膜の耐熱性及び耐薬品性が不足する。
【0013】
本発明において、モノビニル芳香族化合物単量体(b)由来の構造単位は、共重合体(A)の機械的特性、加工性及び屈折率等の光学的特性を改善するものであり、スチレン、エチルビニル芳香族化合物等の核アルキル置換スチレン、エチルビニル芳香族化合物以外の核アルキル置換芳香族ビニル化合物、α-アルキル置換スチレン等から形成することができる。
【0014】
モノビニル芳香族化合物単量体(b)から生じる構造単位が共重合体(A)中に導入されることによって、共重合体のゲル化を防ぎ、溶媒への溶解性を高めることができるばかりではなく、本発明の製造方法によって得られるポリマー薄膜の破断伸びといった機械的特性を改善することができる。具体的には、コスト、ゲル化防止及び得られたポリマーの耐熱性の点でスチレンおよび/またはエチルビニルベンゼン(m−及びp−異性体の両方)等を好ましく用いることができる。
【0015】
共重合体(A)の数平均分子量Mnは、600〜100,000であり、好ましくは700〜50,000である。Mnが600未満であると共重合体(A)の粘度が低すぎるため、薄膜の形成が困難になり、加工性も低下してしまう。また、Mnが100,000以上であると、ゲルが生成したり、他の樹脂成分との相溶性が低下しやすくなり、シート等に成形した場合、外観の低下や物性の低下を招く。本発明における数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定される。
【0016】
共重合体(A)の分子量分布(Mw/Mn)の値は2.0〜100.0であり、好ましくは2.5〜50.0、より好ましくは2.5〜20.0、さらに好ましくは2.5〜10.0である。Mw/Mnが2.0未満であると、犠牲層との密着性が低下してしまう。一方、Mw/Mnが100.0を越えると、共重合体(A)を使用した硬化性樹脂組成物の粘度が上昇することに伴う加工特性の悪化、他の樹脂成分との相溶性の低下に伴う外観や物性の低下といった問題点を生ずる。
【0017】
共重合体(A)は、示差走査熱量計(DSC)によって測定されるガラス転移温度(Tg)が20℃以上であり、好ましくは30℃以上であり、より好ましくは40℃以上である。20℃未満では、製膜時にピンホールなどの欠陥を生じ、製膜が困難になる。
【0018】
本発明における共重合体(A)は、溶剤可溶性である。ここで、溶剤可能性とは、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタンおよびクロロフォルムの少なくとも1種に可溶であることをいい、好ましくは、いずれにも可溶であることをいう。このように、溶剤可能性でなければ、薄膜化が極めて困難になる。
【0019】
本発明では、共重合体(A)がその末端の一部にエーテル結合を介した鎖状炭化水素基、エーテル結合を介した芳香族炭化水素基またはアルコール性水酸基を有し、前記エーテル結合及びアルコール性水酸基由来の酸素含有量が0.1〜5.0重量%であることが好ましく、0.2〜4.0重量%であることがより好ましく、0.3〜3.0重量%であることがさらに好ましい。該酸素含有量を0.1重量%以上とすると、犠牲層との密着性が向上する傾向にあり好ましい。一方、酸素含有量を5.0重量%以下とすることにより、本発明の製造方法により得られるポリマー薄膜の機械的特性が向上する傾向にあり好ましい。
これらの酸素含有量は、NMR分析によって測定される。有利には、NMR分析と元素分析を併用して測定される。
【0020】
ポリマー薄膜の製造方法
本発明のポリマー薄膜は、上記共重合体(A)を含む組成物を支持体上に、層状に設け、該層状に設けた組成物中の前記共重合体(A)を連鎖重合させた後、前記支持体と前記組成物を分離させることによって、製造される。
本発明で用いる組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、他の重合性/非重合性化合物を含んでいてもよい。例えば、多官能アクリレート化合物と単官能アクリレートモノマーを併用することが挙げられる。このような手段を採用することにより、塗布性やコーティング性を向上させることができる。このような化合物は、本発明で用いる組成物に含まれる樹脂成分中、50重量%以下であることが好ましい。
また、本発明で用いる組成物の、E型粘度計によって測定した粘度が、0.01cps以上であることが好ましく、0.1〜10cpsであることがより好ましく、0.5〜10cpsであることがさらに好ましい。このような粘度とすることにより、塗布性をより向上させることができる。
【0021】
本発明では、共重合体(A)が、得られるポリマー薄膜の50〜100重量%の範囲で含まれるように、組成物を調整することが好ましい。
【0022】
本発明では、本発明で用いる組成物を連鎖重合により硬化させるが、重合方法は、共重合体(A)のビニル基が架橋結合を形成するものであれば、公知の連鎖重合方法を広く採用できる。連鎖重合としては、ラジカル重合(リビングラジカル重合等を含む)およびイオン重合が挙げられ、適用できる多官能モノマーの種類が多くかつ幅広い硬化条件を取ることができるという点でラジカル重合が好ましい。しかしながら、一般にラジカル重合等のビニル基同士の付加反応による重合反応による硬化反応は、エポキシ化合物等の重付加反応による硬化反応と比較して、炭素−炭素結合生成に伴う樹脂の体積収縮が大きいという問題があった。しかしながら、本発明で採用する共重合体(A)を用いた場合、ラジカル重合等の付加反応により重合させても、モノマーと比較して大きな分子量を持つ多官能のオリゴマーであるため、体積収縮率を小さくでき、生成したポリマー薄膜に欠陥が少ないという利点がある。従って、工業的にその利用価値は非常に高いと言うことができる。
本発明では、連鎖重合開始剤を用いた重合が好ましく、連鎖重合開始剤を用いた光重合または熱重合がより好ましく、連鎖重合開始剤を用いた光ラジカル重合または熱ラジカル重合がさらに好ましく、連鎖重合開始剤を用いた光ラジカル重合が特に好ましい。二成分系の電子移動型の酸化還元反応(red-ox、レドックス反応)を用いる方法も同様に好ましい。
【0023】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン類、アセトフェノン類、アントラキノン類、チオキサントン類、ケタール類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキサイド類等が挙げられる。ベンゾイン類としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどが挙げられる。アセトフェノン類としては、例えば、アセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−フェニルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパン−1−オンなどが挙げられる。アントラキノン類としては、例えば、2−エチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、2−アミルアントラキノンなどが挙げられる。チオキサントン類としては、例えば、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントンなどが挙げられる。ケタール類としては、例えば、アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどが挙げられる。ベンゾフェノン類としては、例えば、ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4'−メチルジフェニルサルファイド、4,4'−ビスメチルアミノベンゾフェノンなどが挙げられる。ホスフィンオキサイド類としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。また、具体的には、市場より、チバ・スペシャリティケミカルズ社製イルガキュア184(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)、イルガキュア907(2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−(4−モルフォリニル)−1−プロパノン)、BASF社製ルシリンTPO(2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)等を容易に入手できる。
【0024】
熱ラジカル重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物およびアゾ系重合開始剤が挙げられる。有機過酸化物の例としては、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、アセチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、ジ−tert−ブチルパーオキシド、tert−ブチルパーベンゾエート、シクロヘキサノンパーオキシド等が挙げられる。またアゾ系重合開始剤の例としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリル等が挙げられる。
これらの連鎖重合開始剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
これらの連鎖重合開始剤は、共重合体(A)に対し0.5〜5重量%の割合で用いることが好ましい。
【0025】
光重合開始剤を用いて光重合を行う場合、例えば、波長300nm〜500nm、強度1mJ/cm2・s〜1J/cm2・s、30秒〜10分の光照射を行うことが好ましい。
熱重合開始剤を用いて熱重合を行う場合、例えば、80〜150℃、1分〜10分の加熱を行うことが好ましい。
【0026】
本発明における連鎖重合は、連鎖重合開始剤を用いない、光重合(例えば、UV光照射)、熱重合(例えば、加熱)、放射線重合(例えば電子線)等の重合方法であってもよい。
連鎖重合開始剤を用いない直接の光照射による光重合を行う場合、250nm以下の短波長で、10mJ以上の強度で光照射することが好ましい。
加熱による熱重合を行う場合、120℃以上で2時間加熱することが好ましい。
電子線照射により放射線重合を行う場合、10mJ/cm2・s、10秒〜2分、光照射することが好ましい。
【0027】
本発明の組成物には、重合構造形成に関与しない、膜に機能を持たせるための物質を含んでいてもよい。このような物質としては、有機化合物、無機化合物のいずれでもよく、例えば、色素、顔料、金属微粒子、金属酸化物微粒子、有機微粒子、有機低分子、有機ポリマー、デンドリマー、生体分子、カーボンナノチューブ、フラーレン、カーボンブラック、および粘土鉱物から選択される少なくとも1種が挙げられる。
色素としては、ローダミンやピレン、ポルフィリンなどに代表される一般的な蛍光性色素の他、アゾベンゼンやスピロピランのような一般的な機能性色素なども用いることができる。顔料としては、アゾ顔料やフタロシアニンブルーなどの多環式系顔料、あるいはニッケルチタンエローのような無機顔料が、金属微粒子としては、金超微粒子や銀超微粒子、プラチナ微粒子にタングステン微粒子などが挙げられる。金属酸化物微粒子としては、酸化アルミニウムや酸化チタン、酸化珪素に酸化スズなどが挙げられる。有機微粒子としては、ポリスチレンラテックスや(メタ)アクリルアミド粒子、ジビニルベンゼンで重合したポリスチレン微粒子などが挙げられる。有機低分子としては、カルバゾール誘導体やTTF(tetrathiafulvalene)誘導体、キノン類誘導体、チオフェンやピロール誘導体などの各種機能性分子が挙げられる。有機ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミドなどの結晶性ポリマーや、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホンなどのアモルファスポリマーが挙げられる。生体分子としては、DNAやタンパク質、リン酸質にグルコース、ATPなどが挙げられる。粘土鉱物としては、ゼオライトやカオリナイト、モンモリロナイトにクロライト等が挙げられる。デンドリマーとしては、PMMA型デンドリマーやチオフェン型デンドリマー、ポリ(アミドアミン)デンドリマーが挙げられる。
これらの物質は、本発明で用いる組成物中に、0.01〜80重量%の範囲で用いることが好ましい。また、これらの物質は、得られるポリマー薄膜の0.1〜40重量%の範囲で含まれていることが好ましい。
このように、本発明の製造方法では、種々の物質を含んだ薄膜として用いることができる。例えば、色素を含んだポリマー薄膜は、光学材料に用いることができる。また、金属酸化物を含んだポリマー薄膜は、層間絶縁膜に用いることができる。
【0028】
本発明のポリマー薄膜の製造方法では、本発明で用いる組成物を、支持体上に層状に設けている。また、本発明で用いる組成物は、通常、溶媒中に、樹脂や他の物質等を添加して調整する。ここで、用いる溶媒は、特に定めるものではないが、例えば、クロロフォルム、シクロヘキサノン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、乳酸エチル等を用いることができる。
本発明のポリマー薄膜の製造方法では、本発明で用いる組成物を1つの層状にして連鎖重合させることにより、1つの層内で高い強度と柔軟性を併せ持つ重合構造を形成させることができる。すなわち、従来に比して著しく強度が高く、かつ、自己支持性を有し、さらに、表面積の大きなポリマー薄膜の製造が可能になる。また、異なる種類の重合物層を重ねることも可能である。
ここで、本発明で用いる組成物は、支持体上に直接に設けてもよいし、後述する犠牲層等、何らかの層を設けた上に設けてもよい。
また、本発明で用いる組成物を設ける面の表面は洗浄しておくことが好ましい。洗浄は、酸含有液、好ましくは、ピラニア溶液で洗浄しておくとよい。このような操作を含むことにより、重合した樹脂組成物(本発明のポリマー薄膜)を支持体から分離することがより容易にできる。層状に設ける方法としては、スピンコーティング法、ディップコーティング法等の薄層を設ける方法が広く採用できる。
スピンコーティング法を採用する場合、回転数600〜8000rpmで行うことが好ましい。
また、本発明における膜厚は、本発明で用いる組成物中における樹脂の濃度やスピンコートの条件等により調整することができる。
【0029】
本発明のポリマー薄膜の製造方法では、本発明で用いる組成物を連鎖重合させた後、該組成物からなる層を支持体から分離する工程を有する。分離する方法は公知の方法を採用することができる。
好ましくは、支持体の表面に犠牲層を設け該犠牲層を除去することにより行うことができる。犠牲層を設ける方法および除去する方法は、本発明のポリマー薄膜に損傷を与えない方法であれば、いかなる方法であってもよい。好ましくは、本発明で用いる組成物からなる層、すなわち、ポリマー薄膜が溶解せずに犠牲層のみを溶解する溶媒に浸漬して該犠牲層を溶解する方法である。この方法を採用する場合、犠牲層とポリマー薄膜の間に切り込みを入れておくことが好ましい。このような手段を採用することにより、溶媒がより浸透しやすくなり好ましい。
【0030】
本発明における犠牲層は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、特に定めるものではないが、例えば、犠牲層の主成分として、有機溶媒に溶解するポリマーを採用し、支持体ごと、有機溶媒に浸漬して、犠牲層を溶解する方法が好ましく採用される。すなわち、犠牲層が溶解され、支持体とポリマー薄膜が分離される。
ここで、主成分とは、例えば、犠牲層調整時の犠牲層の80重量%以上が、有機溶媒に溶解するポリマーであることをいう。
犠牲層の厚さとしては、100nm〜10μmが好ましい。このような範囲とすることにより、犠牲層を容易に除去できる。
また、本発明では、犠牲層として、外的な刺激によって溶媒への溶解度が不溶から可溶へと変化するポリマーを好ましく用いることができる。このようなポリマーは、好ましくは架橋性ポリマーであり、より好ましくは熱架橋性−光分解性ポリマーまたは光架橋性−熱分解性ポリマーである。熱架橋性−光分解性ポリマーとしては、例えば、ビニルエーテルと、水酸基または酸性ポリマーと、光酸発生剤との組み合わせからなるものが挙げられる。具体的には、例えば、特開平9−274320号公報や特開2004−117878号公報に記載のものが挙げられる。一方、光架橋性−熱分解性ポリマーとしては、例えば、側鎖にエポキシ基を有するポリマーが挙げられる。具体的には、Chem. Mater. 2002, 14, 334-340に記載のものが挙げられる。このような熱架橋性−光分解性ポリマーまたは光架橋性−熱分解性ポリマーを採用することにより、本発明で用いる組成物を犠牲層上に設ける際に、ほとんどすべての溶媒を使用することができるという利点がある。
【0031】
ここで、支持体としては、ガラス、シリコンウェハー、マイカ、金基板等を採用できる。また、犠牲層としては、ポリヒドロキシスチレン、ポリスチレンスルフォネート、半導体用レジスト材料、熱重合性のポリマー等を採用できる。犠牲層の作製に用いる溶媒としては、本発明のポリマー薄膜に損傷を与えない溶媒であることが好ましい。但し、溶媒が完全に揮発した後に本発明で用いる組成物を層状に設ける場合等、本発明の趣旨を逸脱しない限り、この要件は必須ではない。
【0032】
本発明の方法により得られるポリマー薄膜は、従来の方法では得られなかった有意な特性を有している。
まず、本発明の製造方法を採用することにより、自己支持性を有するポリマー薄膜が得られる。ここで自己支持性とは、基板を取り除いても該ポリマー薄膜層が薄膜の形態を保つことをいう。
さらに、本発明では、以下の性質を有するポリマー薄膜を製造することができる。
(1)膜の厚さが、例えば100nm以下、さらには30nm以下としても自己支持性を有するポリマー薄膜
(2)表面積が100mm2以上のポリマー薄膜
(3)アスペクト比 (厚さに対する膜サイズ比)が104以上、さらには106以上、特には107以上のポリマー薄膜
(4)支持体に対し、1%以下の寸法精度を有する、寸法安定性に優れたポリマー薄膜
(5)例えば1MPa以上、さらには10MPa以上の強度を有するポリマー薄膜
(6)半永久的(例えば、1年以上)自己支持性を維持させることができるポリマー薄膜
(7)例えば、0.1%以上の極限伸縮張率を有する、柔軟性に優れたポリマー薄膜
(8)得られるポリマー薄膜中、共重合体(A)由来の成分が20〜99.9重量%を占めるポリマー薄膜
(9)ヤング率が200MPa以上であるポリマー薄膜
(10)強度が10MPa以上であるポリマー薄膜
(11)体積収縮率が5%以下であるポリマー薄膜、ここでの体積収縮率とは、硬化に伴う体積の変化率をいう。
さらに、本発明の製造方法により得られるポリマー薄膜は、重合していない直鎖ポリマー薄膜や、2層の間で重合構造を形成させてなるポリマー薄膜では決して得られなかった十分な機械的強度を有している。
【0033】
本発明のポリマー薄膜の厚さは、用いる用途に応じて適宜定めることができるが、例えば、3nm〜100nmであり、好ましくは10nm〜50nmとすることができる。このような膜厚とすることにより、厚膜では達成できなかった柔軟さを持たせることができ、物質透過性を高めることができ、さらに、緻密な保護膜として使用することができる。
【0034】
本発明のポリマー薄膜は、上述のとおり、該ポリマー薄膜自身に機能性を持たせても良いが、該ポリマー薄膜の表面に機能性層を設けることにより、また、機能性材料を付着させることにより、機能性を持たせることもできる。このような機能性層としては、金属層やポリマー層、金属酸化物層が挙げられる。また、機能性材料としては、色素(特に、ローダミンイソチオシアネート、フルオレスカミン、ダンシルクロリド、ダブシルクロリドのような、官能基を有した色素)、顔料、液晶分子や金属微粒子、さらには半導体微粒子や酸化物微粒子が挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。また、合成例1の共重合体に関する測定結果は、以下に示す方法により試料調製及び測定を行ったものである。
【0036】
1)ポリマーの分子量及び分子量分布
可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の分子量及び分子量分布測定は、GPC(東ソー製、HLC−8120GPC)を使用し、溶媒:テトラヒドロフラン(THF)、流量:1.0ml/min、カラム温度:40℃の条件で測定を行った。共重合体の分子量は単分散ポリスチレンによる検量線を用い、ポリスチレン換算分子量として測定を行った。
【0037】
2)ポリマーの構造
日本電子製JNM-LA600型核磁気共鳴分光装置を用い、13C−NMR及び1H−NMR分析により決定した。溶媒としてクロロフォルムd1を使用した。NMR測定溶媒であるテトラクロロエタン-d2の共鳴線を内部標準として使用した。
【0038】
3)ポリマーの熱重量減少率
セイコーインスツルメンツ製、TG/DTA6200測定装置を用い、ポリマー10mgを秤量し、200ml/分の窒素気流下、昇温速度10℃/分で昇温、スキャンすることにより求めた。熱重量減少率は、ポリマー初期重量に対する300℃での重量減少分の百分率とした。
【0039】
合成例1
ジビニルベンゼン28.5モル(4059ml)、エチルビニルベンゼン1.5モル(213.7ml)、スチレン10.0モル(1145.8ml)、ベンジルアルコール16モル(1655.7ml)、酢酸エチル4.80モル(468.9ml)、トルエン7111ml(誘電率:2.3)及びシクロヘキサン6222ml(誘電率:2.02)を30Lの反応器内に投入し、30℃で6.4モルの三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を添加し、5時間反応させた。重合反応を水酸化カルシウム2845gで停止させた後、ろ過を行い、5Lの蒸留水で3回洗浄した。重合溶液にブチルヒドロキシトルエンを8.0g溶解させた後、40℃で1時間エバポレーターを使用して濃縮した。室温で反応混合液を大量のメタノールに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をメタノールで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、共重合体(A)3356g(収率:67.8重量%)を得た。
【0040】
得られた共重合体(A)のMwは6230、Mnは2100、Mw/Mnは2.97であった。13C−NMR及び1H−NMR分析を行うことにより、共重合体(A)はエーテル末端、インダン末端及びアルコール末端に由来する共鳴線が観察された。NMR測定結果より算出される全含酸素末端中に占めるエーテル末端の割合は79.4モル%であった。NMR測定結果より、エーテル末端及びアルコール末端に由来する酸素含有量を算出したところ2.3重量%であった。また、共重合体(A)の元素分析を行った結果、C:90.5重量%、H:7.6重量%、O:2.4重量%であり、NMR測定結果と良い一致を示した。元素分析結果と標準ポリスチレン換算の数平均分子量から算出される可溶性多官能ビニル芳香族重合体へのエーテル結合を介した鎖状炭化水素基または芳香族炭化水素基の導入量は3.4(個/分子)であった。また、ジビニルベンゼン由来の構造単位を合計45.3モル%、及びスチレン由来の構造単位とベンジルアルコール由来の構造とエチルビニルベンゼン由来の構造単位を合計54.7モル%含有していた。また、共重合体(A)に含まれるインダン構造は全ての単量体の構造単位の合計に対して5.5モル%存在していた。また、TMA測定の結果、Tgは289℃、軟化温度は300℃以上であった。TGA測定の結果、300℃に於ける熱重量減少率は0.3重量%であった。
共重合体(A)はトルエン、キシレン、THF、ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロフォルムに可溶であり、ゲルの生成は認められなかった。また、共重合体(A)のキャストフィルムは曇りのない透明なフィルムであった。
【0041】
実施例1
合成例1で得られた共重合体(A)および下記光重合開始剤をクロロフォルムに溶解させて塗布溶液を作製した。光重合開始剤は、共重合体の5重量%となるようにした。
光重合開始剤(Darocure4265(製造元:Ciba-Geigy)、下記化合物の1:1の混合物):
【化5】

【0042】
図1に示す手順に従って、ポリマー薄膜を作製した。ここで、図1中、1は基板を、2は犠牲層を、3は本発明で用いる組成物からなる層を、4は光照射装置を、5は本発明で用いる組成物を光照射した後のポリマー薄膜を示している。
まず始めに、シリコンウェハー基板(サイズ:4x4cm)上に犠牲層としてポリビニルフェノール(PHS)層をスピンコートにより設けた(厚さ:約100nm)(図1の(a))。次に、上記塗布溶液を、2000rpm、60sスピンコートして、犠牲層上に本発明で用いる組成物からなる層を設けた(図1の(b))。層の厚さは20nmとした。本発明で用いる組成物からなる層に、光照射装置を用いて、波長300nmの光を真空中で30秒間照射した(図1の(c))。ここで、光源には水銀ランプを用い、スライドガラスを通して露光を行った。得られたポリマー薄膜をエタノールに浸積することによって、犠牲層が溶解しポリマー薄膜を分離した(図1の(d))。
得られたポリマー薄膜の走査型電子顕微鏡写真(SEM)を図2に示した。図2は、ポリマー薄膜を、多孔質アルミナ基板上に移し替え、測定を行ったものであり、図2(a)は横から見た図であり、(b)は上から見た図である。図2(a)の結果から、得られたポリマー薄膜の膜厚が約50nmであることが分かった。また、図2(b)は、得られたポリマー薄膜の中で、最も欠陥のある箇所を選んで撮影したものであるが、図2(b)に示すとおり、殆ど欠陥が認められなかった。また、得られたポリマー薄膜は、少なくとも、4cm×4cmのサイズを有することが確認された。さらに、上記操作過程を通じて、これより大きなポリマー薄膜の製造も可能であることが示唆された。また、本実施例において、ラジカル重合を進行させたが、目視によっては、体積収縮が認められなかった。
また、上記製造工程において光照射前後(上記図1(b)および(c)の段階)における本発明で用いる組成物からなる層のフーリエ変換赤外分光法(FT−IR)を測定した。その結果、図1(b)の段階では認められた810cm-1付近のビニル基が、光照射後の図1(c)の段階では、消失していた。よって、ジビニルベンゼン−エチルビニルベンゼン−スチレン共重合体のビニル基間に、架橋反応が形成されていることが確認された。
【0043】
また、得られたポリマー薄膜について、SIEBIMM法(strain-induced elastic buckling instability measurement method)によって、ヤング率を測定したところ、280MPaであった。さらに、得られたポリマー薄膜の操作を通じて、該ポリマー薄膜は、十分な機械的強度を有することが確認された。
【0044】
比較例1
実施例1において、光照射を行わなかった他は同様に行った。この結果、ポリマー薄膜が得られなかった。具体的には、エタノールに浸積する工程において、小片化してしまった。これは、前記操作過程を考慮して検討したところ、機械強度の不足によると考察された。
【0045】
比較例2
高分子量ポリスチレンについて、実施例1と同様にヤング率の測定を試みたところ、測定中に垂直方向に破断が起こった。ポリスチレンは、架橋反応を有していないことから、本発明のポリマー薄膜においては、架橋反応がポリマー薄膜の性能の向上に関与していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明により、自己支持性を有し、かつ、高い強度を有し、さらに、柔軟性に優れたポリマー薄膜を製造することが期待できる。また、本発明では、特に、ラジカル硬化系組成物により得られる硬化型ポリマー薄膜であって、薄膜化時のハンドリング性に優れ、体積収縮率が小さいことに由来して欠陥のないポリマー薄膜を得ることが可能になる。さらにまた、ラジカル重合によって、ポリマー薄膜を製造し、かつ、樹脂の体積収縮率を小さくすることができる。
加えて、本発明のポリマー薄膜は、耐熱性、耐薬品性、耐熱水性等の特性に優れているという理由から、水処理膜、分離膜及びイオン交換膜等用途に特に好ましく利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施例におけるポリマー薄膜の製造方法のスキームを示す。
【図2】実施例1におけるSEM観察の結果を示す。
【符号の説明】
【0048】
1 基板
2 犠牲層
3 本発明で用いる組成物からなる層
4 光照射装置
5 ポリマー薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多官能ビニル芳香族共重合体(A)を含む組成物を連鎖重合により硬化させてなるポリマー薄膜であって、
前記多官能ビニル芳香族共重合体(A)は、ジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位およびモノビニル芳香族化合物単量体(b)由来の構造単位を有し、該多官能ビニル芳香族共重合体(A)がジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位を10モル%以上含有し、かつ、ジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位の全量の内、式(a1)で表される構造単位が50モル%以上であり、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が600〜100,000であり、重量平均分子量(Mw)とMnの比(Mw/Mn)が2.0〜100.0であり、示差走査熱量計(DSC)によって測定されるガラス転移温度が20℃以上である溶剤可溶性の多官能ビニル芳香族共重合体であることを特徴とする、ポリマー薄膜。
式(a1)
【化1】


(式中、R1は炭素数6〜30の芳香族炭化水素基を示す。)
【請求項2】
前記モノビニル芳香族化合物単量体(b)がエチルビニルベンゼンおよび/またはスチレンである、請求項1に記載のポリマー薄膜。
【請求項3】
前記多官能ビニル芳香族共重合体(A)がその末端の一部にエーテル結合を介した鎖状炭化水素基、エーテル結合を介した芳香族炭化水素基またはアルコール性水酸基を有し、前記エーテル結合及びアルコール性水酸基由来の酸素含有量が0.1〜5.0重量%である、請求項1または2に記載のポリマー薄膜。
【請求項4】
膜厚が、100nm以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマー薄膜。
【請求項5】
前記連鎖重合は、ラジカル重合である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリマー薄膜。
【請求項6】
支持体上に、少なくとも、多官能ビニル芳香族共重合体(A)を含む組成物を層状に設け、該層状に設けた組成物中の前記多官能ビニル芳香族共重合体(A)を連鎖重合して硬化させた後、前記支持体と前記組成物を分離させることを含むポリマー薄膜の製造方法であって、
前記多官能ビニル芳香族共重合体(A)は、ジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位およびモノビニル芳香族化合物単量体(b)由来の構造単位を有し、該多官能ビニル芳香族共重合体(A)がジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位を10モル%以上含有し、かつ、ジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位の全量の内、式(a1)で表される構造単位が50モル%以上であり、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が600〜100,000であり、重量平均分子量(Mw)とMnの比(Mw/Mn)が2.0〜100.0であり、示差走査熱量計(DSC)によって測定されるガラス転移温度が20℃以上である溶剤可溶性の多官能ビニル芳香族共重合体であることを特徴とする、ポリマー薄膜の製造方法。
式(a1)
【化2】


(式中、R1は炭素数6〜30の芳香族炭化水素基を示す。)
【請求項7】
支持体の表面に、犠牲層を設け、該犠牲層の表面に、多官能ビニル芳香族共重合体(A)を含む組成物を層状に設け、該層状に設けた組成物中の前記多官能ビニル芳香族共重合体(A)を連鎖重合して硬化させた後、前記支持体と前記組成物を分離させることを含むポリマー薄膜の製造方法であって、
前記多官能ビニル芳香族共重合体(A)は、ジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位およびモノビニル芳香族化合物単量体(b)由来の構造単位を有し、該多官能ビニル芳香族共重合体(A)がジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位を10モル%以上含有し、かつ、ジビニル芳香族化合物単量体(a)由来の構造単位の全量の内、式(a1)で表される構造単位が50モル%以上であり、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が600〜100,000であり、重量平均分子量(Mw)とMnの比(Mw/Mn)が2.0〜100.0であり、示差走査熱量計(DSC)によって測定されるガラス転移温度が20℃以上である溶剤可溶性の多官能ビニル芳香族共重合体であることを特徴とする、ポリマー薄膜の製造方法。
式(a1)
【化3】


(式中、R1は炭素数6〜30の芳香族炭化水素基を示す。)
【請求項8】
前記連鎖重合は、ラジカル重合である、請求項6または7に記載のポリマー薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記組成物は、さらに、ラジカル重合開始剤を含む、請求項6〜8のいずれか1項に記載のポリマー薄膜の製造方法。
【請求項10】
前記犠牲層の除去は、該犠牲層を溶解することにより行う、請求項6〜9のいずれか1項に記載のポリマー薄膜の製造方法。
【請求項11】
前記成物は、スピンコーティング法またはディップコーティング法により、前記支持体上に層状に設ける、請求項6〜10のいずれか1項に記載のポリマー薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−126904(P2009−126904A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301668(P2007−301668)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】