説明

ポリ乳酸マルチフィラメント延伸糸の分繊方法

【課題】ポリ乳酸マルチフィラメントを強伸度低下や糸切れ無く安定して分繊する方法を提供すること。
【解決手段】ドラムパッケージから分繊してモノフィラメントを巻き取るに際し、糸条走行方向とは逆方向に引取速度の0.5〜1.0倍の周速度で回転する開繊ローラーでマルチフィラメントを開繊させてボビンに巻き取ることを特徴とする分繊用ポリ乳酸マルチフィラメント延伸糸の分繊方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチフィラメントをモノフィラメントに分繊する方法に関するものであり、詳しくはポリ乳酸マルチフィラメント延伸糸のドラムパッケージから、強伸度低下や糸切れ無く安定してモノフィラメントを分繊する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、分繊して得られるモノフィラメントは、単一で紡糸延伸したモノフィラメントに比較すると著しく安価に製造できることから、モノフィラメントの製造方法としては主流となっている。
【0003】
近年、特にティーバックや水切りネットなどの衛生資材用織編物については、使い捨てされることが殆どであることから、生分解性を有するポリ乳酸繊維を用いた商品化の試みが活発になっている。しかしながら、ポリ乳酸ポリマーを用いた繊維は一般的にポリエチレンテレフタレート繊維やポリアミド繊維に比べて、高摩擦特性を有し、かつ対摩耗性が低いことが知られている。このため、分繊用ポリ乳酸マルチフィラメントから衛生資材用途に適したモノフィラメントを安定的に分繊することは極めて困難であった。
【0004】
従来、分繊方法については、種々提案されており、例えば、実質的に無撚り状態で巻かれた未延伸マルチフィラメント糸のパッケージから未延伸マルチフィラメントを引出しローラーにより無撚り状態で引出し、引出しローラーと最終延伸ローラーとの間で、一段又は複数段で延伸して延伸マルチフィラメントとし、延伸マルチフィラメントを一旦巻き取ることなく連続してモノフィラメント糸あるいはマルチフィラメント糸に分繊して巻き取る連続延伸分繊方法において、延伸マルチフィラメント糸を最終延伸ローラーと最終延伸ローラーの下流に配設された分繊点固定ローラーとの間で複数本のモノフィラメント糸あるいはマルチフィラメント糸に分繊し、分繊されたフィラメント糸を分繊点固定ローラーの下流に等間隔に配設された複数個の引取ローラーにより個別に引き取った後、引取ローラーに対応して個別に配設された巻き取り装置により巻き取る方法である(特許文献1参照)。
【0005】
この方法では、ポリアミドやポリエチレンテレフタレートを用いたマルチフィラメントを用いた場合には問題無いものの、延伸工程と分繊巻き取り工程を連続して行うために、巻き取り張力が必然的に高くなってしまい、張力や擦過に対して非常に脆いポリ乳酸マルチフィラメントを用いた場合には、巻き取られた分繊子糸の強伸度低下や長手方向均一性、同時に巻き取った個々の子糸間での物性バラツキが大きくなるといった問題がある。また、
延伸して直ちに分繊して巻き取るために、巻き取り直後に延伸応力の緩和が進行するために、巻き締まりによるパッケージ崩れやパッケージ表内層間の物性ムラが発生しやすいといった問題がある。
【0006】
他の提案として、マルチフィラメント糸を分繊するに際し、分繊点を水(又は溶剤)面又は水(又は溶剤)中に存在せしめ、且つ分繊された糸を液中でスウエームガワ、スポンジ、フエルト等硬質でない物質の表面に接触させて分繊された糸に付着している原糸オイル、スカム等を除去したあと、オイリングする分繊方法などである(特許文献2参照)。
【0007】
この方法をポリ乳酸マルチフィラメントに用いた場合、分繊された糸を水や溶剤中に浸漬するために、水分除去用スポンジで繊維表面に付着した水分は除去されるものの、繊維構造中に浸透した水分は除去できず、含水分率が過剰に高くなり脆化が進行する懸念が大きく、また、スウエームガワなどで走行糸条を擦過させるために、擦過による強伸度低下を抑制することが困難であり、次工程で製織編する際の糸切れや織り上がった製品の強度が不十分なものとなるといった問題がある。
【特許文献1】特開平3−36165号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開昭53−114938号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題を解決し、ポリ乳酸マルチフィラメントを強伸度低下や糸切れ無く安定して分繊する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するための本発明は、ポリ乳酸マルチフィラメント延伸糸のドラムパッケージから分繊してモノフィラメントを巻き取るに際し、糸条走行方向とは逆方向に、引取速度の0.5〜1.0倍の周速度で回転する開繊ローラーで、マルチフィラメントを開繊させて巻き取ることを特徴とするポリ乳酸マルチフィラメント延伸糸の分繊方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の分繊用ポリ乳酸マルチフィラメント延伸糸の分繊方法によれば、分繊工程やティーバックや水切りネット用途を製織編する際の糸切れ、あるいは分繊工程での強伸度低下や分繊収率の低下を抑制し、衛生資材用途に好適なポリ乳酸モノフィラメントを安定して得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
なお、本発明におけるポリ乳酸マルチフィラメント延伸糸とは、数平均分子量82000〜150000、光学純度95〜98%のポリ−L乳酸ポリマーを使用した延伸糸である。
【0013】
マルチフィラメント延伸糸を得る方法は特に限定されるものではないが、製造コストや延伸均一性の観点からは未延伸糸を一旦巻き取ることなく連続して延伸する直接紡糸延伸法によりを得ることが好ましい。
【0014】
また、ポリ乳酸繊維の特徴として一般的に知られている過剰延伸や延伸予熱不足あるいは過張力の際に発生する白濁化現象を抑制するために、多段延伸法を用いることが好ましい。
【0015】
また、分繊性や製織性、製織後の布帛強度を保持する観点から、分繊用ポリ乳酸マルチフィラメント延伸糸の強度は3.0cN/dtex以上、また前記白濁化現象を抑制するためには4.5cN/dtex以下であることが好ましい。より好ましい強度は3.5cN/dtex以上、4.0cN/dtex以下である。
【0016】
マルチフィラメントの伸度や沸水収縮率は、分繊性や製織性、製織後の布帛の寸法安定性の観点から、伸度35〜55%、沸水収縮率25%以下であることが好ましく、より好ましくは伸度45%以下、沸水収縮率20%以下の範囲である。
【0017】
本発明のポリ乳酸マルチフィラメント延伸糸は、分繊時の解舒撚り数の増大を抑制し、分繊工程での糸条交絡や糸条走行張力変化を抑制する目的で、パッケージ径を大きく、かつパッケージ両端部の距離は小さくすることが好ましく、またパッケージ端部と中央部での径変化を無くし解舒撚り数や解舒張力の変化を抑制することが重要なことから、端部にテーパー形状を有さないドラムパッケージとする。
【0018】
本発明において、ドラムパッケージから引き出したマルチフィラメント糸条は、糸条走行方向とは逆方向に回転する開繊ローラーで、マルチフィラメントを交絡させずに開繊させる。糸条走行方向とは逆方向に回転させることで、開繊点で糸条の走行方向に掛かる張力を低減し、交絡無くモノフィラメント一本一本に分割することが容易になる。なお、開繊ローラーは糸条の走行方向とは逆方向に回転させるために、当然のことながら従動式ではなく、独立した駆動モーターで任意の速度で回転させることができるものでなくてはならない。
【0019】
また、開繊ローラーは糸条擦過による強伸度低下を抑制するために、走行糸条と接糸する部分は鏡面でないことが好ましい。本発明の開繊ローラーの具体例を図1および図2、および図3に示す。図1では表面粗度3S〜6S程度の梨地メッキ加工を施した梨地開繊ローラー(A)を用いており、図2ではステンレスワイヤーを等間隔に円筒状に張った円筒形状のワイヤー開繊ローラー(J)を用いた例である。また、図3は、開繊ローラーを回転方向を模式的に表したものであり、(K)は分繊糸条の走行方向を示す矢印記号であり、(L)は開繊ローラーの回転方向を示す矢印記号である。
【0020】
開繊ローラーの周速度は、十分な開繊性を得るために、引取速度の0.5〜1.0倍である。0.5倍を下回る周速度の場合は、開繊性が著しく低下し、分繊点での糸条交絡が発生して撚り付きによる糸切れが発生する。また、1.0倍を超えて高速の場合は、開繊部分で張力が過剰に低下し実質的に分繊して巻き取ることができない。より好ましくは0.8倍以上、の速度である。なお、本発明における引取速度とは、開繊ローラーの下に引取ローラーを設置する場合は、引取ローラー周速度、引取ローラーを介さない場合は、巻き取り周速度を示す。
【0021】
本発明の分繊糸条の引取速度は、ポリ乳酸モノフィラメントを工業的に安価なコストでかつ糸切れ無く安定して分繊を行うために、200〜700m/分であることが好ましく、より好ましくは400m/分以上、600m/分以下である。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお、実施例中の評価は以下の方法に従った。また、実施例では、分繊前のマルチフィラメントを親糸、分繊後のモノフィラメントを子糸と略す。
1.分繊性
フィラメント数10のポリ乳酸マルチフィラメント延伸糸10kgのドラムパッケージ100個を糸切れやパッケージ崩れなく1kgのポリ乳酸モノフィラメントボビンパッケージに分繊できた割合を満管率(%)で表し、○および△を合格とした。
○:満管率80%以上
△:満管率70%以上
×:満管率70%未満
2.強伸度バラツキ
東洋ボールドウィン社製テンシロン引張試験機UTM−III−100を使用して、試料長20cm、引張速度20cm/分で、分繊された子糸ボビン巻き量1kgすなわち最表層部と、巻き量500gすなわち中層部、さらには巻き量100gすなわち内層部の3箇所について各10回測定し、これを1回の分繊で得られる子糸10本全数について実施し、○および△を合格とした。変動率は下式により算出した。
【0023】
変動率(%)=(測定値の標準偏差/測定値の平均値)×100
○:変動率2.0%未満
△:変動率2.0%以上〜3.0%未満
×:変動率3.0%以上
3.沸水収縮率
JISL1013の方法に従い、ボイルバス温度99.8±0.2℃、浸漬時間15分、カセ巻き回数10回、カセ原長56cm、測定荷重1.8cN/dtexで測定した。
【0024】
実施例1
カーギル・ダウ社製ポリーL乳酸ポリマー6201Dを用いて、紡糸温度220℃にて、表面温度60℃の第1ホットローラー、表面温度95℃の第2ホットローラー、表面温度105℃の第3ホットローラー、表面温度135℃の第4ホットローラーを有する多段型直接紡糸延伸機を用いて、トータル延伸倍率4.4倍、巻き取り速度3000m/分で得られた繊度265dtex、フィラメント数10、強度3.8cN/dtex、伸度39.0%、沸水収縮率14.5%のポリ乳酸マルチフィラメント延伸糸10kgのドラムパッケージを親糸とし、図1に示す分繊装置にて繊度26.5dtexのポリ乳酸モノフィラメントを分繊して子糸を得た。分繊時の引取速度は500m/分、糸条走行方向と逆方向に回転する表面粗度4Sの梨地開繊ローラー周速度400m/分とした。
【0025】
分繊満管率87%と良好な分繊性が得られ、得られた子糸の強伸度変動率は、各ボビン間、およびボビン内長手方向のいずれも良好であり2.0%未満であった。結果をまとめて表1に示す。
【0026】
実施例2
実施例1と同様の方法で引取速度200m/分、開繊ローラー速度200m/分とした。分繊満管率74%と問題ない分繊性が得られ、得られた子糸の強伸度変動率は、各ボビン間、およびボビン内長手方向のいずれも良好であり2.0%未満であった。
【0027】
実施例3
実施例1,2と同一の親糸を用い、図2に示す分繊装置にて引取速度700m/分、開繊ローラー速度350m/分で分繊した。分繊満管率は70%であり、得られた子糸の強伸度変動率は、各ボビン間、およびボビン内長手方向のいずれも問題なく、3.0%未満であった。
実施例4
カーギル・ダウ社製ポリーL乳酸ポリマー6201Dを用いて、紡糸温度220℃にて、表面温度75℃の第1ホットローラー、表面温度120℃の第2ホットローラを有する一段型直接紡糸延伸機を用いて、トータル延伸倍率3.0倍、巻き取り速度3000m/分で得られた繊度265dtex、フィラメント数10、強度3.5cN/dtex、伸度44.5%、沸水収縮率18.6%のポリ乳酸マルチフィラメント延伸糸10kgのドラムパッケージを親糸とし、図2に示す分繊装置にて、引取速度400m/分、開繊ローラー速度400m/分で分繊した。
【0028】
分繊満管率89%であり、得られた子糸の強伸度変動率は、各ボビン間、およびボビン内長手方向のいずれも良好であり、2.0%未満であった。
【0029】
実施例5
実施例4の親糸の紡糸方法において、第1ホットローラー温度を85℃とし、延伸倍率を2.8倍に変更した繊度265dtex、フィラメント数10、強度3.1cN/dtex、伸度48.7%、沸水収縮率24.0%のポリ乳酸マルチフィラメント延伸糸10kgのドラムパッケージを親糸とし、図2に示す分繊装置にて、引取速度600m/分、開繊ローラー速度600m/分で分繊した。
【0030】
分繊満管率76%であり、得られた子糸の強伸度変動率は、各ボビン間、およびボビン内長手方向のいずれも問題なく3.0%未満であった。
【0031】
比較例1
実施例1と同様の方法で、開繊ローラーの回転方向を糸条走行に対して従方向として分繊した。開繊ローラー下流で糸条交絡による糸切れが発生したため、分繊満管率は56%と工業的に分繊するレベルでは無く、得られた子糸の強伸度変動率は、各ボビン間での変動が大きく、特に同時に分繊した子糸10本のうち、分繊装置における両端で巻き取った子糸と中心付近で巻き取った子糸で強伸度差が大きく、変動率は3.0%を超えた。更に、得られた子糸について、親糸強伸度に対比して、高強度・低伸度化しており、また子糸数本を電子顕微鏡で側面観察した結果、繊維表面に他子糸走行糸条との交絡によるものと見られる変形部分が多く見られたことから、分繊装置両端で巻き取った子糸は、糸条交絡により過張力が掛かりやすく冷延伸されたものと推定する。
【0032】
比較例2
実施例1と同様の方法で、引取速度500m/分、開繊ローラー速度600m/分で分繊を試みたが、開繊ローラー上流部で糸条が過剰に弛み、同時に開繊ローラー下流で引取糸条が破断してしまい、実質的には分繊することができなかった。
【0033】
比較例3
実施例3と同様の方法で、引取速度600m/分、開繊ローラー速度200m/分で分繊した。得られた子糸の強伸度変動率は、各ボビン間、およびボビン内長手方向のいずれも問題ないレベルであったものの、比較例1と同様に開繊ローラー下流で糸条交絡による糸切れが発生したため、分繊満管率62%と工業的に分繊するレベルでは無かった。
【0034】
比較例4
実施例1に用いた分繊装置から、開繊ローラー(A)を取り外して、引取速度500m/分で分繊したが、分繊ガイド下流で著しい糸条交絡による糸切れが多発し分繊満管率38%となり、また、得られた子糸の強伸度変動率は、各ボビン内長手方向での変動が著しく大きく、3.0%を超えてしまった。また、得られた子糸について、親糸強伸度に対比して、低強度・低伸度化しており、子糸数本を電子顕微鏡で側面観察した結果、繊維表面に擦過傷が多く見られたことから、開繊ローラーを用いなかったために、分繊ガイド下流での糸条交絡が発生し分繊ガイド上での過張力による擦過が発生したものと推定する。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の分繊方法に用いる分繊装置の一具体例を示す図
【図2】本発明の分繊方法に用いる分繊装置の他の一具体例を示す図
【図3】本発明における開繊ローラーの回転方向を表す説明図
【符号の説明】
【0038】
(A)梨地開繊ローラー
(B)親糸ドラム
(C)分繊親糸糸条
(D)分繊糸道ガイド
(E)分繊ガイド
(F)開繊ローラー駆動モーター
(G)子糸引取糸条
(H)引取ローラー
(I)子糸ボビンパッケージ
(J)ワイヤー開繊ローラー
(K)分繊糸条の走行方向を示す矢印記号
(L)開繊ローラーの回転方向を示す矢印記号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸マルチフィラメント延伸糸のドラムパッケージから分繊してモノフィラメントを巻き取るに際し、糸条走行方向とは逆方向に、引取速度の0.5〜1.0倍の周速度で回転する開繊ローラーで、マルチフィラメントを開繊させて巻き取ることを特徴とするポリ乳酸マルチフィラメント延伸糸の分繊方法。
【請求項2】
巻き取り速度が200〜700m/分であることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸マルチフィラメント延伸糸の分繊方法。
【請求項3】
ポリ乳酸マルチフィラメント延伸糸の強度3.0〜4.5cN/dtex、伸度35〜55%、沸水収縮率25%以下であることを特徴とする請求項1または2記載のポリ乳酸マルチフィラメント延伸糸の分繊方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−152478(P2006−152478A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−343619(P2004−343619)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】