説明

ポリ乳酸系繊維用染色堅牢度向上剤

【課題】ポリ乳酸系繊維の染色堅牢度低下の問題に対して、染色堅牢度向上剤を提供する。
【解決手段】
下記一般式(1)で表される含窒素界面活性剤(A)90〜10重量%と炭素数1〜30である疎水基を1又は2以上有するホウ酸エステル系界面活性剤(B)(多価アルコール類を高級脂肪酸でエステル化した化合物とホウ酸との反応物、又はその反応物の塩、多価アルコール類をホウ酸エステル化したものに、高級脂肪酸を反応させて得られたもの等)10〜90重量%からなるポリ乳酸系繊維用染色堅牢度向上剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来の再生可能資源であるポリ乳酸系繊維用の染色堅牢度向上剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、衣料用途等の繊維としてはポリエステル系繊維あるいはポリアミド系繊維等が広く使用されてきた。しかしながら、近年、地球環境保全の観点から、これらの汎用プラスチック製品に替わる材料として、地球環境に優しい生分解性繊維であるポリ乳酸系繊維が注目を集めている。しかし、ポリ乳酸系繊維は脂肪族ポリエステル繊維で、芳香族ポリエステル繊維等に比べると融点が低く、更には耐加水分解性に劣るという欠点があり、溶融紡糸工程の際に繊維自体が分解を起こし強度が落ちてしまう。また、染色工程の際にも繊維自体が加水分解を起こし、強度や染色堅牢度の低下を招くため、染色の際には低温での処理を行わなければならず、これが原因で染色表面に未染着染料が多くなり染色堅牢度を低下させるといった問題を引き起こしていた。
【0003】
このような問題を解決する方法としては、染料の選択、染色後のソーピングにおいてソーピング温度を75〜98℃でpH2〜6の還元剤浴中で還元洗浄する方法(特許文献1)、繊維表面上にオルガノポリシロキサン及び/又はポリエチレンワックスを付与することを特徴とする方法(特許文献2)等が提案されている。また繊維構造物としては、芯部分が着色剤を含む生分解性樹脂で鞘部分は実質的に着色剤を含まない樹脂からなる芯鞘型複合繊維(特許文献3)、フッ素系及び/又はシリコン系化合物を主体とする樹脂皮膜を有した繊維構造物(特許文献4)等が提案されている。しかしながら、これらの方法では染色堅牢度が十分満足できるレベルではなく、製品の品質に問題を抱えているのが現状であった。更に、染色性向上添加剤を予め樹脂に添加する方法としては、特定の化合物を練りこむ方法(特許文献5)があるが、濃色化を向上させるだけで本発明の目的である染色堅牢度の向上は図れない。同様に、ポリエステル樹脂用改質剤(特許文献6)といった薬剤でも本発明の目的は達成できない。
【0004】
【特許文献1】特開2003−328280号公報
【特許文献2】特開2002−294569号公報
【特許文献3】特開2004−339647号公報
【特許文献4】特開2004−339663号公報
【特許文献5】特開平5−321027号公報
【特許文献6】特開平7−102152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、従来技術ではポリ乳酸系繊維の染色堅牢度が劣るといった問題点を解決する染色堅牢度向上剤を提供し、かつ本発明の染色堅牢度向上剤を使用することで実用上使用可能な耐加水分解性を有する繊維製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の界面活性剤組成物が上記の課題に対し優れた効果を発揮し、これをポリ乳酸系樹脂に添加した場合、紡糸性の低下なくポリ乳酸系繊維が得られ、かつ、その繊維は実用上使用可能な耐加水分解性を有し染色堅牢度を向上させることを見出し本発明に至った。
【0007】
すなわち本発明は、下記一般式(1)で表される含窒素界面活性剤(A)90〜10重量%と、炭素数が1〜30である疎水基を1又は2以上有するホウ酸エステル系界面活性剤(B)10〜90重量%からなる界面活性剤組成物からなるポリ乳酸系繊維用染色堅牢度向上剤を提供するものである。
【化1】

[Rは、炭素数が1〜30の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、アルキルアリール基、又はアリールアルキル基を示す。R、Rはそれぞれ独立して水素、又は炭素数が2〜30のアシル基を示す。mとnはm+n=0〜100となる0以上の整数を示す。Xは、
【化2】

を示す。Y、Zはそれぞれ独立して1種又は2種以上の−RO−(Rは炭素数2〜4のアルキレン基を示す。)である。YとZは互いに同一でも異なっていても良い。]
また、本発明の好ましい態様に、該ホウ酸エステル系界面活性剤が、多価アルコール類を高級脂肪酸でエステル化した化合物とホウ酸との反応物、又はその反応物の塩、更に本発明の別の好ましい態様に、該ホウ酸エステル系界面活性剤が、多価アルコール類とホウ酸でエステル化をした化合物と高級脂肪酸との反応物、又はその反応物の塩を含有することを特徴とした前記ポリ乳酸系繊維用染色堅牢度向上剤がある。本発明のポリ乳酸系繊維用染色堅牢度向上剤は、ポリ乳酸系樹脂に添加し溶融紡糸して得られるポリ乳酸系繊維において優れた効果を発揮する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の染色堅牢度向上剤をポリ乳酸系繊維に添加して得られたポリ乳酸系繊維は、染色の際低温で処理したものであっても、染色堅牢度の向上したポリ乳酸系繊維を得ることができ、かつその繊維は実用上使用可能な耐加水分解性を有する。従って最終製品及び溶融紡糸や染色といった加工工程での加水分解の問題点を解決でき、今後、衣料用、産業資材用途等の様々な用途に使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明に係る染色堅牢度向上剤は、含窒素界面活性剤(A)とホウ酸エステル系界面活性剤(B)とを組み合せて使用することが必要である。
【0010】
前記一般式(1)において、Rは炭素数1〜30であるが、好ましくは炭素数8〜22の範囲であれば良好な染色堅牢度が得られ、かつ耐加水分解性を有する。また樹脂加工工程において含窒素化合物の発煙による作業環境の悪化を招くことはない。更にRは直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、アルキルアリール基、又はアリールアルキル基のいずれでもよい。具体的には、カプリル基、2−エチルヘキシル基、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、イソステアリル基、オレイル基、リノレイル基、ベヘニル基等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
、Rはそれぞれ独立して水素、又は炭素数2〜30のアシル基であるが、好ましくはR、Rの少なくとも一方が水素であり、もう一方が炭素数8〜22の範囲であれば良好な染色堅牢度が得られ、又溶融紡糸工程において含窒素化合物の発煙による作業環境の悪化や紡糸性の低下を招くことはない。
mとnはm+n=0〜100なる0以上の整数を示すが、好ましくは1〜50、更に好ましくは1〜10、最も好ましくは1〜5である。
Xは、

である。
Yは、1種又は2種以上の−RO−を示す。Rは炭素数2〜4のエチレン、プロピレン、ブチレン等のアルキレン基であるが、好ましくはエチレン、プロピレンが良い。−RO−が2種以上の場合、それらはブロック付加又はランダム付加でも特に限定されない。Zは前記Yと互いに同一でも異なっていても良い。或いは、Y又はZは存在しなくても良い。
【0011】
本発明の含窒素界面活性剤の具体的な例として
含窒素界面活性剤(A−1)
【化3】

含窒素界面活性剤(A−2)
【化4】

含窒素界面活性剤(A−3)
【化5】

含窒素界面活性剤(A−4)
【化6】

含窒素界面活性剤(A−5)
【化7】

含窒素界面活性剤(A−6)
【化8】

含窒素界面活性剤(A−7)
【化9】

含窒素界面活性剤(A−8)
【化10】

が挙げられるがこれに限定されるものではなく、これらを単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0012】
本発明に係る含窒素界面活性剤は、公知の方法で得ることができるが、製法は特に限定されるものではない。
【0013】
本発明に係るホウ酸エステル系界面活性剤は、炭素数が1〜30である疎水基を1又は2以上有するものである。該ホウ酸エステル系界面活性剤は、多価アルコール類を高級脂肪酸でエステル化した化合物とホウ酸とを反応させることにより得ることができ、また多価アルコール類をホウ酸でエステル化した化合物と高級脂肪酸とを反応させても得ることができる。
【0014】
本発明に係るホウ酸エステル系界面活性剤は、多価アルコール類、高級脂肪酸、ホウ酸から合成でき、単量体、多量体、反応副生物などの複数の化合物の混合物として得られる。従って同じ原料を使用しても合成手順により最終化合物の構造は厳密には異なる。
【0015】
本発明に係る多価アルコール類には、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、アラビトール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ポリペンタエリスリトール、グルコース、ラクトース、単糖類、ショ糖及び/又はそれらのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド付加体、或いはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0016】
本発明に係る高級脂肪酸は炭素数が1〜30であり、飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸でも良く、直鎖もしくは分岐鎖を有していても構わない。具体的には、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、カプリン酸、ノナン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ドコサン酸、ベヘン酸等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。炭素数が8〜24であれば良好な染色堅牢度を発揮し、又溶融紡糸工程において界面活性剤の発煙による作業環境の悪化や紡糸性の低下を招くことはないため好ましい。
【0017】
本発明に係るホウ酸エステル系界面活性剤には、多価アルコール類の高級脂肪酸エステルとホウ酸との反応物及び多価アルコール類のホウ酸エステルと高級脂肪酸との反応物の塩が含まれる。具体的には、当該反応物のナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、又はアンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩が挙げられるが、好ましくはナトリウム塩、カリウム塩が良い。
【0018】
本発明に係る多価アルコール類を高級脂肪酸でエステル化した化合物とホウ酸とを反応させることにより得られるホウ酸エステル系界面活性剤は、公知の方法で得ることができる。
【0019】
多価アルコールと高級脂肪酸のエステル化反応は、公知の方法により行うことができ、その反応モル比は特に限定しないが、好ましくは多価アルコール1モルに対し高級脂肪酸は1.0〜2.0モルが良い。多価アルコールと高級脂肪酸との反応モル比により、モノエステル、ジエステル、又はトリエステル以上のエステルが得られる。分子蒸留によるモノエステルの純度が高い方が望ましいが、特にエステル化度に限定はなく、これらが混在していても良い。一方、多価アルコール類を高級脂肪酸でエステル化をした化合物に対するホウ酸の反応も公知の方法により行うことができ、その反応モル比も特に限定しないが、好ましくは多価アルコール類を高級脂肪酸でエステル化をした化合物1モルに対しホウ酸が0.1〜5.0モル、更に好ましくは0.5〜2.0モルが良い。
【0020】
上記方法により得られるホウ酸エステル系界面活性剤として、具体的にはグリセリンモノラウレートとホウ酸との反応物、グリセリンモノステアレートとホウ酸との反応物、グリセリンモノオレートとホウ酸との反応物、グリセリンジラウレートとホウ酸との反応物、グリセリンジステアレートとホウ酸との反応物、ジグリセリンモノラウレートとホウ酸との反応物、ジグリセリンモノステアレートとホウ酸との反応物、ジグリセリンモノオレートとホウ酸との反応物、ジグリセリンジラウレートとホウ酸との反応物、ジグリセリンジステアレートとホウ酸との反応物、ジグリセリントリラウレートとホウ酸との反応物、ポリグリセリンモノラウレートとホウ酸との反応物、ポリグリセリンジラウレートとホウ酸との反応物、ポリオキシエチレングリセリンモノラウレートとホウ酸との反応物、ポリオキシプロピレングリセリンモノラウレートとホウ酸との反応物、ソルビトールモノラウレートとホウ酸との反応物、ソルビトールモノステアレートとホウ酸との反応物、ソルビトールモノオレートとホウ酸との反応物、ポリオキシエチレンソルビトールモノラウレートとホウ酸との反応物、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレートとホウ酸との反応物、ペンタエリスリトールモノラウレートとホウ酸との反応物、ペンタエリスリトールモノステアレートとホウ酸との反応物、ペンタエリスリトールジラウレートとホウ酸との反応物、ショ糖モノラウレートとホウ酸との反応物、ショ糖モノステアレートとホウ酸との反応物、ショ糖モノオレートとホウ酸との反応物、ポリエチレングリコールモノラウレートとホウ酸との反応物、ポリプロピレングリコールモノラウレートとホウ酸との反応物、グリセリンモノラウレートとホウ酸との反応物のナトリウム塩、グリセリンモノオレートとホウ酸との反応物のナトリウム塩、グリセリンジステアレートとホウ酸との反応物のカリウム塩、ジグリセリンモノラウレートとホウ酸との反応物のナトリウム塩、ポリグリセリンモノステアレートとホウ酸との反応物のカルシウム塩、ソルビトールモノラウレートとホウ酸との反応物のナトリウム塩、ペンタエリスリトールモノステアレートとホウ酸との反応物のカルシウム塩等を例示することができるがこれに限定されるものではなく、これらを単独及び2種以上を併用させても良い。
【0021】
本発明に係る多価アルコール類をホウ酸でエステル化した化合物と高級脂肪酸とを反応させることにより得られるホウ酸エステル系界面活性剤は、公知の方法で得ることができる。
【0022】
多価アルコールとホウ酸とのエステル化反応は、公知の方法により行うことができ、その反応モル比は特に限定しないが、好ましくは多価アルコール1モルに対し高級脂肪酸は0.5〜2.0モルが良い。一方、多価アルコール類をホウ酸でエステル化をした化合物に対する高級脂肪酸の反応も公知の方法により行うことができ、その反応モル比も特に限定しないが、好ましくは多価アルコール類をホウ酸でエステル化をした化合物1モルに対し高級脂肪酸が1.0〜2.0モルが良い。
【0023】
上記方法により得られるホウ酸エステル系界面活性剤として、具体的にはグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンをベースにそれぞれ例えばグリセロールボレート−ラウレート、グリセロールボレート−パルミテート、グリセロールボレート−ステアレート、グリセロールボレート−オレエート、グリセロールボレート−イソステアレート、グリセロールボレート−ヒドロキシステアレート、アルキレンオキサイドを付加したポリオキシエチレングリセロールボレート−ラウレート、ポリオキシエチレングリセロールボレート−パルミテート、ポリオキシエチレングリセロールボレート−ステアレート、ポリオキシエチレングリセロールボレート−オレエート、ポリオキシエチレングリセロールボレート−イソステアレート、ポリオキシアルキレンボレート−ステアレート、ジグリセロールボレート−ラウレート、グリセロールボレート−ラウレートのナトリウム塩、ジグリセロールボレート−ステアレートのカリウム塩、ポリオキシエチレングリセロールボレート−イソステアレートのカルシウム塩などが例示できるがこれらに限定されるものではなく、これらを単独及び2種以上を併用させても良い。
【0024】
本発明の染色堅牢度向上剤は含窒素界面活性剤(A)90〜10重量%とホウ酸エステル系界面活性剤(B)10〜90重量%とから構成されることが必要であり、(A)70〜30重量%と(B)30〜70重量%とから構成されることが更に好ましい。含窒素界面活性剤(A)が90重量%を超えたり、含窒素界面活性剤(A)が10重量%未満の場合には十分な染色堅牢度を得られず、かつ耐加水分解性の低下を招く。
【0025】
ポリ乳酸系樹脂に対する本発明の染色堅牢度向上剤の添加量は0.05重量%〜10.0重量%であるが、好ましくは0.1重量%〜5.0重量%であり、更に好ましくは0.5重量%〜2.0重量%である。本発明に係わる染色堅牢度向上剤の含有量に比例して染色堅牢度は向上するが、10.0重量%以上を超えても染色堅牢度に大きな向上はなく、むしろ過剰添加によるコスト高、及び樹脂の機械的物性に影響をもたらすことになる。
【0026】
本発明の染色堅牢度向上剤は、ポリ乳酸系樹脂の水分による加水分解を防止する為に、予め乾燥させることが望ましい。好ましくは本発明の染色堅牢度向上剤中の水分量が1.0重量%以下である。
【0027】
本発明の染色堅牢度向上剤は、単独でもポリ乳酸系樹脂に使用することができるが、本発明の目的を損なわない範囲で、必要により本発明以外の公知のアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤を単独或いは2種以上併用させても良い。
【0028】
以下、本発明の染色堅牢度向上剤を添加するポリ乳酸系樹脂について説明する。
本発明の染色堅牢度向上剤に用いるポリ乳酸系樹脂の分子量は、重量平均分子量(Mw)で、6万〜100万が好ましく、8万〜50万が更に好ましく、10万〜30万が最も好ましい。一般的には、重量平均分子量(Mw)が6万より小さい場合、樹脂組成物を成形加工して得られた成形体の機械物性が充分でなかったり、逆に分子量が100万を越える場合、成形加工時の溶融粘度が極端に高くなり取扱い困難となったり、製造上不経済となったりする場合がある。
【0029】
分子量分布(Mw/Mn)も同様、実質的に成形加工が可能で、実質的に充分な機械物性を示すものであれば特に制限されないが、一般的には1.5〜8が良く、2〜6がより好ましく、2〜5が最も好ましい。
【0030】
本発明の染色堅牢度向上剤を添加するポリ乳酸系樹脂は、乳酸単位を50重量%以上、好ましくは75重量%以上を含有する重合体を主成分とする重合体組成物を意味するものであり、原料に用いられる乳酸類としては、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸又はそれらの混合物又は乳酸の環状2量体であるラクタイドを使用することが出来る。
【0031】
ポリ乳酸系樹脂中の乳酸単位の構成としては、L−乳酸、D−乳酸及びこれらの混合物があるが、その用途によって適宜選択することができる。ポリ乳酸系樹脂として、ポリ乳酸を用いる場合は、L−乳酸が主成分の場合は、D−乳酸:L−乳酸=1:99〜30:70であることが好ましい。又、D−乳酸とL−乳酸の構成割合が異なる2種類以上のポリ乳酸をブレンドすることも可能である。逆にD−乳酸が主成分の場合は、L−乳酸:D−乳酸=1:99〜30:70であることが好ましく、D−乳酸とL−乳酸の構成割合が異なる2種類以上のポリ乳酸をブレンドすることも可能である。
【0032】
本発明の目的を損なわない範囲において、その他の成分として乳酸以外の炭素数2〜10の脂肪族ヒドロキシカルボン酸、又は脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオールなどからなるもの、又テレフタル酸などの芳香族化合物を含有するものであっても良い。これらを主成分とするホモポリマー、コポリマーならびにこれらの混合物を含んでもよい。又本発明の物性を著しく損なわない範囲で他の樹脂を混合してもよい。
【0033】
本発明の染色堅牢度向上剤に用いるポリ乳酸系樹脂の製造方法は、公知の方法が用いられる。
例えば、
(1)乳酸又は乳酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸の混合物を原料として、直接脱水重縮合する方法(例えば米国特許5,310,865号に示されている製造方法)
(2)乳酸の環状二量体(ラクタイド)を溶融重合する開環重合法(例えば米国特許2,758,987号に開示されている製造方法)
(3)乳酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状二量体、例えばラクタイドやグリコライドとε-カプロラクトンを、触媒の存在下、溶融重合する開環重合法(例えば米国特許4、057,537号に開示されている製造方法)
(4)乳酸、脂肪族二価アルコールと脂肪族二塩基酸の混合物を、直接脱水重縮合する方法(例えば米国特許5,428,126号に開示されている製造方法)
(5)ポリ乳酸と脂肪族二価アルコールと脂肪族二塩基酸とのポリマーを、有機溶媒存在下に縮合する方法(例えば欧州特許公報0712880 A2号に開示されている製造方法)
(6)乳酸を触媒の存在下、脱水重縮合反応を行う事によりポリエステル重合体を製造するに際し、少なくとも一部の工程で固相重合を行う方法
等を挙げることができるが、その製造方法には特に限定されない。又少量のトリメチロールプロパン、グリセリンのような脂肪族多価アルコール、ブタンテトラカルボン酸のような脂肪族多塩基酸、多糖類等のような多価アルコール類を共存させて共重合させても良く、又ジイソシアネート化合物等のような結合剤(高分子鎖延長剤)を用いて分子量を上げてもよい。
【0034】
本発明の染色堅牢度向上剤のポリ乳酸系樹脂への添加時期は、溶融紡糸以前の任意の段階で、樹脂製造時あるいは製造後適当な工程で添加しても良いし、又紡糸時に樹脂ペレット又は溶融した樹脂に溶融混合しても良い。また、本発明の染色堅牢度向上剤は、溶融紡糸時の高温にさらされても分解して発煙したり、着色したりすることは殆どなく耐熱性に優れている。そのためポリ乳酸系樹脂の分子量低下を招くことはない。
【0035】
溶融紡糸による紡糸温度は重合体の種類や分子量により適宜設定出来るが、一般的には100〜300℃が好ましく、130〜250℃がより好ましい。100℃未満では溶融粘度が高くなり紡糸しにくい傾向があり、250℃以上では樹脂の分解が起こり易い傾向がある。紡糸後は、延伸、熱固定することにより好ましい物性を付与することが出来る。
【0036】
また、本発明の染色堅牢度向上剤を添加するポリ乳酸系樹脂には、通常ポリ乳酸系樹脂に用いられる添加剤、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、艶消し剤、顔料、着色剤、帯電防止剤、改質剤、末端封鎖剤等を本発明の効果に影響しない範囲で適宜添加してもよい。
【0037】
本発明の染色堅牢度向上剤を用いて製造されたポリ乳酸系繊維は、マルチフィラメント、モノフィラメント、ステープルファイバー、フラットヤーン、スパンボンド等として使用することが出来る。
【実施例】
【0038】
次に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。又下記比較化合物(1)及び(2)を実施例と比較した。
【0039】
<比較化合物(1):ノニオン界面活性剤>
グリセリンモノステアレート(東邦化学工業(株)製 アンステックス MG−100)
<比較化合物(2):アニオン界面活性剤>
ミリスチルスルホン酸ナトリウム(東邦化学工業(株)製 アンステックス HT−100)
【0040】
<含窒素界面活性剤(A−1)の合成>
ガラス製オートクレーブにラウリルアミン1モルを仕込み、N置換を行いエチレンオキサイド2.0モルを155℃、2時間を要し付加し上述の本発明の含窒素界面活性剤(A−1)を合成した。
【0041】
<含窒素界面活性剤(A−2)の合成>
ガラス製オートクレーブにジエタノールアミン1モルを仕込み、N置換を行いステアリン酸1.0モルを155℃、2時間を要し反応させ上述の本発明の含窒素界面活性剤(A−2)を合成した。
【0042】
<含窒素界面活性剤(A−3)の合成>
ガラス製オートクレーブにラウリルアミン1モルを仕込み、N置換を行いエチレンオキサイド2.0モルを155℃、2時間を要し付加し、その後、得られた化合物1.0モルにラウリン酸を0.8モル仕込み、Nガスを導入しつつ160℃に昇温し4時間エステル化を行ない上述の本発明の含窒素界面活性剤(A−3)を合成した。
【0043】
<ホウ酸エステル系界面活性剤(B−1)の合成>
ガラス製オートクレーブにグリセリン1.0モル及びラウリン酸1.0モルを仕込み、Nガスを導入しつつ水酸化カリウム0.3重量%の存在下、220〜250℃に昇温し5時間エステル化しグリセリンモノラウレート(副生成物としてジエステル以上のエステルも含む。以下同様の場合これと同じ。)を合成した。続いて合成したグリセリンモノラウレート1.0モルに対して1.0モルのホウ酸を仕込み、130〜135℃まで徐々に加熱脱水し、その後230℃まで徐々に昇温し、目的のグリセリンモノラウレートとホウ酸との反応物(B−1)を合成した。
【0044】
<ホウ酸エステル系界面活性剤(B−2)の合成>
ガラス製オートクレーブにグリセリン1.0モル及びホウ酸1.0モルを仕込み、Nガスを導入しつつ220〜250℃に昇温し5時間エステル化しグリセリンボレートを合成した。続いて合成したグリセリンボレート1.0モルに対して1.0モルのオレイン酸を仕込み、Nガスを導入しつつ水酸化カリウム0.3重量%の存在下、220〜250℃に昇温し5時間エステル化し、目的のグリセリンボレートオレート(副生成物としてジエステル以上のエステルも含む。以下同様の場合これと同じ。)(B−2)を合成した。
【0045】
<本発明の染色堅牢度向上剤>
本発明の含窒素界面活性剤(A−1)〜(A−3)とホウ酸エステル系界面活性剤(B−1)及び(B−2)を表1に示した配合比率(重量%)にて配合し、界面活性剤組成物(1)〜(6)として後記のテストに供する。
【0046】
ポリ乳酸樹脂[LACEA H−400(商品名:三井化学(株)販売)]100重量部に対して前述の本発明の染色堅牢度向上剤(1)〜(6)、比較化合物(1)及び(2)を表2に示した配合量で配合し、60℃、2mmHgの条件で24時間乾燥した。次いで、この混合物を二軸溶融押し出し機にて均一混練しチップ化した。このチップを前記の条件で乾燥し、通常の単軸紡糸装置を用いて250℃で紡糸し、次いで巻き取られた未延伸糸を最終的に得られる延伸糸の伸度が約30%になる延伸倍率にて80℃で延伸し、120℃で熱固定し延伸糸を得た。この延伸糸を用い経糸、緯糸ともにポリ乳酸であるサテン織物を製織した。
【0047】
<評価方法>
得られたポリ乳酸のサテン織物の性能評価は、具体的に下記の方法によって実施した。
【0048】
(1)分子量保持率(%)
東ソー(株)製クロマトカラム TSKgel SUPER HZM−M(×2本)を(株)島津製作所製クロマトグラフィーSCL−10Avpに装着し、溶離液クロロホルム、流速0.6ml/min.、カラム温度40℃、サンプル濃度0.05wt%、サンプル注入量50μl、検出器RIの条件で測定を行い、ポリスチレン換算で製膜フィルムの重量平均分子量を算出した。使用した標準ポリスチレンの重量平均分子量は、1090000、706000、355000、190000、96400、37900、19600、10200、5570、2630、870、500である。
分子量保持率を次式により求めた。
分子量保持率(%)=100×(界面活性剤添加の繊維の重量平均分子量)/(界面活性剤未添加の繊維の重量平均分子量)
【0049】
(2)強度保持率(%)
(cN/dtex)
(株)オリエンテック社製テンシロン引張試験機を用いて、試料長20cm、引張速度20cm/分の条件で測定し、強度保持率を次式により求めた。
強度保持率(%)=100×(熱水処理後の糸強度)/(熱水処理前の糸強度)
【0050】
(3)乾熱収縮率(%)
試料を110℃の熱風乾燥機中に10分間入れ、取り出して5分間風乾した後、乾熱収縮率を次式により求めた。
乾熱収縮率(%)=100×(初期試料長−収縮後の試料長)/(初期試料長)
【0051】
(4)紡糸性
12時間連続して操業を行い、以下の3段階で評価した。
○:良好
△:紡糸・延伸不調
×:紡糸できず
【0052】
また、得られたポリ乳酸サテン織物を下記条件にて染色を行い、染色布について上記(1)及び(2)の分子量保持率、強度保持率の性能評価と下記に示す染色堅牢度試験を実施した。
<染色条件>
染料 : Dianix Red AC−E01 1%o.w.f.
80%酢酸 : 0.3g/L
浴比 : 1:20
温度/時間 : 120℃×30min
染色機 : カラーマスター12型(辻井染機工業製)
【0053】
(摩擦堅牢度試験)
JIS L−0849(摩擦試験機II形)摩擦に対する染色堅牢度試験方法に準じて、乾燥、湿潤の摩擦堅牢度試験を行い、添付白布への汚染はグレースケールにて判定した。
【0054】
(洗濯堅牢度試験)
JIS L−0844(A−4法)洗濯に対する染色堅牢度試験方法に準じて洗濯堅牢度試験を行い、添付白布への汚染はグレースケールにて判定した。
【0055】
(水堅牢度試験)
JIS L−0846(B法)水に対する染色堅牢度試験方法に準じて水堅牢度試験を行い、添付白布への汚染はグレースケールにて判定した。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
上記実施例1〜8の結果に示されるように、本発明の染色堅牢度向上剤を添加して得られたポリ乳酸系繊維は、優れた染色堅牢度を発揮し、かつ最終製品及び溶融紡糸や染色といった実用上の加工工程での加水分解の問題点を解決でき、今後、衣料用、産業資材用途等の様々な用途に使用することが可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される含窒素界面活性剤(A)90〜10重量%と、炭素数が1〜30である疎水基を1又は2以上有するホウ酸エステル系界面活性剤(B)10〜90重量%からなるポリ乳酸系繊維用染色堅牢度向上剤。

[Rは、炭素数が1〜30の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、アルキルアリール基、又はアリールアルキル基を示す。R、Rはそれぞれ独立して水素、又は炭素数2〜30のアシル基を示す。mとnはm+n=0〜100となる0以上の整数を示す。Xは、

を示す。Y、Zはそれぞれ独立して1種又は2種以上の−RO−(Rは炭素数2〜4のアルキレン基を示す。)である。YとZは互いに同一でも異なっていても良い。]
【請求項2】
ホウ酸エステル系界面活性剤が、多価アルコール類を高級脂肪酸でエステル化をした化合物とホウ酸との反応物、又はその反応物の塩である請求項1に記載のポリ乳酸系繊維用染色堅牢度向上剤。
【請求項3】
ホウ酸エステル系界面活性剤が、多価アルコール類をホウ酸でエステル化をした化合物と高級脂肪酸との反応物、又はその反応物の塩である請求項1に記載のポリ乳酸系繊維用染色堅牢度向上剤。


【公開番号】特開2008−2020(P2008−2020A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−173295(P2006−173295)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【Fターム(参考)】