説明

ポリ[2]カテナン化合物およびその単量体、ならびにそれらの製造方法

【課題】新規な構造を有するポリ[2]カテナンを提供する。
【解決手段】下記一般式(1)
【化1】


(式中、nは5〜10の整数、mは5〜10の整数、kは1〜100の整数を意味する。)で表されるポリ[2]カテナン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な高分子化合物、その単量体、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高分子エラストマーとしての高分子材料の研究が盛んに行われている。
【0003】
高分子エラストマーなどの形成には、高分子主鎖が高い運動性を有することが必要である。
【0004】
高分子主鎖への運動性の付与を目的として、カテナン化合物を連結した構造を有する高分子の合成が試みられている。カテナン化合物は、2以上の環状分子が鎖状に組み合わさって連結されている(インターロック構造)。カテナン化合物を連結して得られる高分子は、高分子鎖を構成する原子が相互に化学結合しその運動が束縛される従来の高分子に比べて、遥かに大きな運動の自由度を有すると考えられるので、新規かつ有用な特性を有する高分子として期待されている。
【0005】
このような高分子を得るために、環化反応によるインターロック構造の構築を繰り返し行うことにより、ポリカテナンと呼ばれる高分子の合成が試みられている。しかしながら、この方法では、環化反応に伴う収率の大幅な低下が避けられないため、高分子量のカテナンポリマーが得られたとの報告は成されていない。
【0006】
一方、カテナン化合物を化学結合で連結した構造を有するポリ[2]カテナンの合成例(例えば、特許文献1)も報告されているが、このような化合物の報告例はまだ少ない。
【特許文献1】特開平9−48849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、新規なポリ[2]カテナンおよびその単量体であるカテナン化合物、ならびにそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、2種類の二官能性[2]カテナンを共重合させることにより、高分子量のポリ[2]カテナンを合成することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち本発明は、2種類の二官能性[2]カテナンを共重合させることにより得られる共重合体であって、[2]カテナンが、エステル結合、アミド結合、又はトリアゾール結合などの化学結合によって相互に連結された構造を有するポリ[2]カテナンに関する。
【0010】
特に、本発明は、下記一般式(1)
【化1】

(ただし、式中nは5〜10の整数、mは5〜10の整数、kは1〜100の整数である。)で表されるポリ[2]カテナンに関する。
【0011】
さらに本発明は、下記一般式(2)
【化2】

(ただし、式中nは5〜10の整数である。)
で表されるジアジド[2]カテナンと下記一般式(3)
【化3】

(ただし、式中mは5〜10の整数である。)
で表されるジエチニル[2]カテナンとを1,3−双極子付加環化反応により重合させることを特徴とする、前記ポリ[2]カテナンの製造方法に関する。
【0012】
また本発明は、下記一般式(2)
【化4】

(ただし、式中nは5〜10の整数である。)
で表されるジアジド[2]カテナンに関する。
【0013】
さらに本発明は、式(4)
【化5】

で表されるアジドジアミンと、ClOC(CHCOCl(ただし、nは5〜10)の整数を表す。)との環化反応を行うことを特徴とする、前記ジアジド[2]カテナンの製造方法を含む。
【0014】
また本発明は、下記一般式(3)
【化6】

(ただし、式中mは5〜10の整数である。)
で表されるジエチニル[2]カテナンに関する。
【0015】
さらに本発明は、下記式(5)
【化7】

で表されるエチニルジアミンと、ClOC(CHCOCl(ただし、mは5〜10)の整数を表す。)との環化反応を行うことを特徴とする、前記ジエチニル[2]カテナンの製造方法を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る一般式(1)で表されるポリ[2]カテナンは、[2]カテナンがトリアゾール結合を介して連結された従来にない構造を有し、例えば高分子エラストマーなどの機能材料の原料として有用性が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
ポリ[2]カテナン
本発明に係る一般式(1)で表されるポリ[2]カテナンは、[2]カテナン同士がトリアゾール基を介して連結された従来にない構造を有する。
【0018】
本発明のポリ[2]カテナンにおいて、繰り返し単位数kに関しては特に制限がなく、後述する製造条件により変化させることが可能であるが、通常1〜100程度である。また、nとmは、後述する製造に際して使用する試薬に依存し、いずれも5〜10の整数である。なお、nとmは異なっていても同じであっても良い。
【0019】
本発明のポリ[2]カテナンは、繰り返し単位間にインターロック構造を有するので、複数の原子が化学結合のみで繋がっている従来の高分子化合物と比較して、分子の運動の自由度がはるかに大きいことから、新規な粘弾性特性を有するエラストマーなどとしての応用が期待される。
【0020】
ポリ[2]カテナンの製造方法
本発明の一般式(1)で表されるポリ[2]カテナンは上で説明した新規な化学構造、すなわち、[2]カテナン同士がトリアゾール基を介して連結された構造を有する。従ってかかる構造を有する重合体を製造することができる方法であれば特に制限されることはない。
【0021】
本発明では特に、ポリ[2]カテナンは、一般式(2)で表されるジアジド[2]カテナンと一般式(3)で表されるジエチニル[2]カテナンとを共重合することが好ましい。反応は、通常公知の1,3−双極子付加環化反応(クリック反応)である。参考文献として、Journal of Medicinal Chemistry 2006, 49, 467−470およびChemical Communication 2005, 4333−4335を参照することができる。
【0022】
原料であるジアジド[2]カテナンおよびジエチニル[2]カテナンの入手方法については特に制限されないが、後述する合成経路により、短工程かつ高収率に合成することができる。
【0023】
ジアジド[2]カテナンとジエチニル[2]カテナンによる1,3−双極子付加環化反応(クリック反応)においては、1価の銅触媒を使用して反応を行うことが好ましい。また、2価の銅触媒をアスコルビン酸などの還元剤と共に使用して、反応系内で1価の銅触媒を生成させても良い。なお、1価の銅触媒としては臭化銅、ヨウ化銅などが使用でき、2価の銅触媒としては硫酸銅などが使用できる。
【0024】
本発明にかかるポリ[2]カテナンの化学構造は、分子量測定、種々の分光学的測定により確認することができる。
【0025】
特に、通常公知のゲルパーミエイションクロマトグラフ(以下「GPC」とする)によって、ポリ[2]カテナンの分子量、分子量分布測定が可能である(kの値が決定される)。
【0026】
さらには必要な場合、特定のフラクションを赤外吸収スペクトル(以下、「IR」)や核磁気共鳴スペクトル(以下、「NMR」)等の詳細な分析のための試料とできる。
【0027】
IRにおいては、アジド基、エチニル基に基づく吸収が消失/減少することにより本発明のポリ[2]カテナンの生成が定性的に確認できる。またH−NMRにおいては、末端アセチレンのプロトンに基づく吸収が消失/減少することにより本発明のポリ[2]カテナンの生成が定性的に確認できる。
【0028】
ジアジド[2]カテナン
ジアジド[2]カテナン(化合物1)は、下記合成工程を経て合成することができる。
【化8】

【0029】
5−アミノイソフタル酸(化合物3)を出発原料として、ジアゾ化を経由したアミノ基のアジド基への変換により、5−アジドイソフタル酸(化合物4)を合成することができる。具体的には化合物3に酸性下、亜硝酸塩を作用させてジアゾ化した後、アジ化ナトリウムと反応させることにより、合成することができる。この際の条件としては、特に制限されるものではなく、通常公知の条件を採用することができるが、生じるジアゾニウム塩を安定化するため、ジアゾ化反応は通常0〜5℃程度で行うことが好ましい。
【0030】
続いて、5−アジドイソフタル酸(化合物4)と4−アミノベンジルアミンとのアミド結合形成反応を行うことにより、アジドジアミン(化合物5)を合成することができる。具体的には、化合物4に、脱水縮合剤としてカルボジイミド基を含む化合物の存在下、4−アミノベンジルアミンを添加する。カルボジイミド基を有する脱水縮合剤としては、特に制限されないが、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩などがあげられる。また、この際、脱水縮合を促進させ、かつ副反応を抑制するための添加剤として、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)やN−ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)などを使用することが好ましい。
【0031】
さらに、アジドジアミン(化合物5)とClOC(CHCOCl(ただし、nは5〜10の整数である。)との環化反応を行うことにより、目的とするジアジド[2]カテナン(化合物1)を合成することができる。ClOC(CHCOClは、市販品をそのまま用いることもできるし、容易に入手可能なα、ω−アルカンジオールやα、ω−アルカンジカルボン酸を出発原料として合成して用いることも可能である。反応は、公知の酸塩化物と第一級アミンによるアミド形成反応であり、その条件としては特に制限されるものではない。この際、生成する塩酸の中和を目的として、求核性の低い塩基(トリエチルアミン等)を使用するのが好ましい。
【0032】
反応の生成物には、ジアジド[2]カテナンの他に、インターロック構造を有しない環状化合物などが含まれる。シリカゲルクロマトグラフィーを用いることで、生成物からジアジド[2]カテナンの分離精製を行うことができる。
【0033】
ジアジド[2]カテナンの化学構造は、分子量測定、種々の構造解析手段により確認することができる。
【0034】
特に、NMR、IR、質量分析(以下、「MS」)等で決定することが可能である。
【0035】
例えば、H−NMRスペクトルによって、各プロトンに由来するピークを確認することができる。また、IRによって、アジド基などに基づく吸収を確認することができる。さらに、MS、特にMALDI TOF−MSを用いれば、ジアジド[2]カテナンの分子量(1163)付近にピークを観測することができる。
【0036】
また、上記反応で得られるインターロック構造を構築していない化合物とジアジド[2]カテナンのH−NMRを比較すると、ジアジド[2]カテナンでは各プロトンに由来するシグナルが高磁場側にシフトしている(David,A.L.et al.Angew.Chem.Int.Ed.Engl.1996,35,306−309.参照)。これにより、カテナン化合物(インターロック構造の構築)を確認することができる。
【0037】
ジエチニル[2]カテナン
ジエチニル[2]カテナン(化合物2)は、下記合成工程を経て合成することができる。
【化9】

【0038】
5−アミノイソフタル酸(化合物3)を出発原料として、ジアゾ化を経由したアミノ基のヨウ素による置換により、5−ヨードイソフタル酸(化合物6)を合成することができる。具体的には化合物3に酸性下、亜硝酸塩を作用させてジアゾ化した後、ヨウ化カリウム等のアルカリ金属ヨウ化物と反応させることにより、合成することができる。この際の条件としては、特に制限されるものではなく、通常公知の条件を採用することができるが、生じるジアゾニウム塩を安定化するため、ジアゾ化反応は通常0〜5℃程度で行うことが好ましい。
【0039】
続いて、化合物6のジカルボン酸をアルキルエステルに変換する。反応は通常公知のエステル生成反応を好ましく採用することができる。より具体的には、化合物6をメタノールなどのアルコールに溶解し、酸性条件下、加熱還流することによりヨードイソフタル酸ジメチル(化合物7)を合成することができる。
【0040】
化合物7に対し、トリメチルシリルアセチレンを用いて薗頭アセチレンカップリング反応(Sonogashira,K.et al.Tetrahedron lett.1975,50,4467などを参照)を行うことにより、ヨウ素をトリメチルシリルエチニル基に変換して、5−トリメチルシリルエチニルイソフタル酸ジメチル(化合物8)を得ることができる。具体的には、化合物7に、Pd(0)触媒、ヨウ化銅とアミンを加えた後、トリメチルシリルアセチレンを反応させる。反応後、シリカゲルクロマトグラフィーを用いることで、反応生成物から5−トリメチルシリルエチニルイソフタル酸ジメチル(化合物8)を分離精製することができる。
【0041】
続いて、化合物8のアルキルエステルを塩基性下で加水分解した後、トリメチルシリル基の除去を行うことにより、5−エチニルイソフタル酸(化合物9)を得ることができる。
【0042】
次に、5−エチニルイソフタル酸(化合物9)と4−アミノベンジルアミンとのアミド結合形成反応を行うことにより、エチニルジアミン(化合物10)を合成することができる。反応は、上記のアジドジアミン(化合物5)の合成と同様に行うことができる。
【0043】
さらに、エチニルジアミン(化合物10)とClOC(CHCOCl(ただし、mは5〜10の整数である。)との環化反応を行うことにより、目的とするジエチニル[2]カテナン(化合物2)を合成することができる。反応および精製は、ジアジド[2]カテナン(化合物1)の場合と同様に行うことができる。
【0044】
ジエチニル[2]カテナンの化学構造の確認に関しても、ジアジド[2]カテナンと同様に行うことができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0046】
なお、本実施例では、5−アミノイソフタル酸:東京化成工業(株)製(>98.0%)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール一水和物:東京化成工業(株)製(>97.0%)、ジシクロヘキシルカルボジイミド:東京化成工業(株)製(>98.0%)、4−アミノベンジルアミン:東京化成工業(株)製(>98.0%)、セバコイルジクロリド(ClOC(CHCOCl):関東化学(株)製(>97.0%、鹿特級)酢酸パラジウム:アルドリッチ製(98%)、ヨウ化銅:関東化学(株)製(>99.0%)トリフェニルホスフィン:和光純薬工業(株)製(>97%)、トリメチルシリルアセチレン:東京化成工業(株)製(>98.0%)、アスコルビン酸ナトリウム:関東化学(株)製(>98.0%、鹿特級)を使用した。
【0047】
また、本実施例の測定装置として、GPC:HLC−8121GPC/HT(東ソー(株)製)、FT−IR(KBr法):1600−FT−IR(パーキンエルマー(株)製)、FT−NMR:JNM−GX400(日本電子(株)製)、MALDI TOF−MS:Voyager RP−PRO(アプライドバイオシステムズ製)を使用した。
【0048】
(実施例1)ジアジド[2]カテナンの合成
上記一般式(2)におけるn=8のジアジド[2]カテナンを上記合成経路に従って合成した。
【0049】
5−アミノイソフタル酸(化合物3)0.90gを1.5N塩酸15mlに溶解させた溶液に、氷浴下で亜硝酸ナトリウム0.42g水溶液1mlを滴下し、30分間攪拌後、アジ化ナトリウム0.40g水溶液1mlを滴下して24時間攪拌した。反応終了後、生成した沈殿を濾過し、純水で洗浄することにより、白色固体の5−アジドイソフタル酸(化合物4)を収率85%で得た。
【0050】
5−アジドイソフタル酸0.83gと1−ヒドロキシベンゾトリアゾール一水和物1.29gをTHF10mlに溶解し、これにジシクロヘキシルカルボジイミド1.73gを含むTHF20ml溶液を滴下し、窒素下で6時間、氷浴中で攪拌した。反応後、生成した沈殿を濾過し、得られた濾液を4−アミノベンジルアミン0.95mlを含むTHF溶液20mlにゆっくりと滴下し、窒素下、室温で24時間攪拌した。反応終了後、減圧下で溶媒を半分になるまで除去した後、これにクロロホルムを加え、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて洗浄した後、有機層の溶媒を減圧下で除去することにより、淡黄色固体のアジドジアミン(化合物5)を収率51%で得た。
【0051】
アジドジアミン0.42gをアセトニトリル12mlに溶解し、さらにクロロホルム250mlを加え、これにセバコイルジクロリド0.21mlとトリエチルアミン0.31mlを含むクロロホルム溶液50mlを5時間かけて滴下し、窒素下、室温で24時間攪拌した。反応終了後、生成した沈殿を濾過し、濾液を1N塩酸、飽和炭酸水素ナトリウムの順で洗浄した。有機層の溶媒を減圧下で除去し、得られた残渣を分取薄層クロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=93:7(v:v))を用いて精製することにより、白色固体のジアジド[2]カテナンを収率6%で得た。
【0052】
図1(a)に、ジアジド[2]カテナンのH−NMRスペクトル(400MHz、DMSO−d)を示す。なお、図1(b)および(c)は、いずれも反応の生成物であり、インターロック構造を構築していない化合物のH−NMRチャートである。
【0053】
図1(a)と、(b)又は(c)とを比較すると、各プロトンのシグナル(特にセバコイル鎖のメチレンプロトンに由来するシグナル)が高磁場側にシフトしていることが分かり、得られた化合物がインターロック構造を有していることが分かる。
【0054】
また、質量分析(MALDI TOF−MS)の結果、1163(m/z)付近にピークが確認された。GPCによりDMFを展開溶媒として分析したところ、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は3.5×10であった。
【0055】
(実施例2)ジエチニル[2]カテナンの合成
上記一般式(3)におけるm=8のジエチニル[2]カテナンを上記合成経路に従って合成した。
【0056】
5−アミノイソフタル酸(化合物3)10.87gを1.5N塩酸15mlに溶解し、これに亜硝酸ナトリウム4.57g水溶液60mlを加えて30分間攪拌した後、ヨウ化カリウム19.92g水溶液60mlを加え、24時間攪拌した。反応混合物は吸引濾過し、沈殿を純水で洗浄後、減圧下で乾燥させることにより、黄土色固体の5−ヨードイソフタル酸(化合物6)を収率83%で得た。
【0057】
5−ヨードイソフタル酸2.92gをメタノール80mlに溶解し、これに濃硫酸2mlを加え、窒素下、24時間加熱環流した。反応終了後、減圧下で溶媒を除去し、得られた残渣に酢酸エチルを加え中性になるまで純水で洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで脱水した後、減圧下で溶媒を除去することにより、黄色固体の5−ヨードイソフタル酸ジメチル(化合物7)を収率90%で得た。
【0058】
5−ヨードイソフタル酸ジメチル0.64gと酢酸パラジウム0.023g、トリフェニルホスフィン0.081g、ヨウ化銅0.058gをTHF4mlに溶解し、これにトリエチルアミン2mlとトリメチルシリルアセチレン0.33mlを加え、窒素下、室温で24時間攪拌した。反応終了後、酢酸エチルを加えて生成した沈殿を濾過し、濾液は減圧下で溶媒を除去した。得られた残渣に純水を加え、生成した沈殿を濾過し、この沈殿をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=2:1)で単離精製し、茶色固体の5−トリメチルシリルエチニルイソフタル酸ジメチル(化合物8)を収率93%で得た。
【0059】
5−トリメチルシリルエチニルイソフタル酸ジメチル0.44gをエタノール30mlに溶解し、これに1N水酸化カリウム水溶液7.5mlを加え、1時間氷浴下で攪拌した。反応後、減圧下で溶媒を除去し、残渣を純水に溶かし、1N塩酸を加えて酸性にした後、生成した沈殿を濾過することにより、茶色固体の5−エチニルイソフタル酸(化合物9)を収率77%で得た。
【0060】
5−エチニルイソフタル酸0.76gと1−ヒドロキシベンゾトリアゾール一水和物1.26gをTHF10mlに溶解し、これにジシクロヘキシルカルボジイミド1.69gを含むTHF20ml溶液を滴下し、窒素下、氷浴中で6時間攪拌した。反応後、生成した沈殿を濾過し、得られた濾液を4−アミノベンジルアミン0.95mlを含むTHF溶液20mlにゆっくりと滴下し、窒素下、室温で24時間攪拌した。反応後、減圧下で溶媒を半分になるまで除去した後、これにクロロホルムを加え、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて洗浄し、有機層の溶媒を減圧下で除去することにより、茶色固体のエチニルジアミン(化合物10)を収率87%で得た。
【0061】
エチニルジアミン0.40gをアセトニトリル12mlに溶解し、さらにクロロホルム250mlを加え、これにセバコイルジクロリド0.21mlとトリエチルアミン0.31mlを含むクロロホルム溶液50mlを5時間かけて滴下し、窒素下、室温で24時間攪拌した。反応後、生成した沈殿を濾過し、濾液を1N塩酸、飽和炭酸水素ナトリウムの順で洗浄した。有機層の溶媒を減圧下で除去し、得られた残渣を分取薄層クロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=93:7)を用いて精製することにより、白色固体のジエチニル[2]カテナンを収率5%で得た。
【0062】
図2(a)に、ジエチニル[2]カテナンのH−NMRスペクトル(400MHz、DMSO−d)を示す。なお、図2(b)および(c)は、いずれも反応の生成物であり、インターロック構造を構築していない化合物のH−NMRチャートである。図2(a)と、(b)又は(c)とを比較すると、各プロトンのシグナル(特にセバコイル鎖のメチレンプロトンに由来するシグナル)が高磁場側にシフトしていることが分かり、得られた化合物がインターロック構造を有していることが分かる。
【0063】
また、質量分析(MALDI TOF−MS)の結果、1129(m/z)付近にピークが確認された。GPCによりDMFを展開溶媒として分析したところ、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は3.8×10であった。
【0064】
(実施例3)ポリ[2]カテナンの合成(1)
キャップ付試験管を用い、ジアジド[2]カテナン0.0104gとジエチニル[2]カテナン0.0102gをDMF100μlに溶解させた。これに硫酸銅五水和物1.1mgとアスコルビン酸ナトリウム3.6mgと水10μlとを加え、窒素下、室温で2日間攪拌した。反応後、純水を加え、生成した沈殿を濾過することにより、一般式(1)においてn=m=8のポリ[2]カテナンを黄色固体として得た。GPCによりDMFを展開溶媒として分析したところ、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分散度(Mw/Mn)は、ポリスチレン換算でそれぞれ37×10、44×10、1.19であった。
【0065】
(実施例4)ポリ[2]カテナンの合成(2)
キャップ付試験管を用い、ジアジド[2]カテナン0.0104gとジエチニル[2]カテナン0.0102gをDMF100μlに溶解させた。これに硫酸銅五水和物1.1mgとアスコルビン酸ナトリウム3.6mgと水10μlとを加え、窒素下、室温で2日間攪拌した。2日目に硫酸銅五水和物1.1mgとアスコルビン酸ナトリウム3.6mgを加えた後、さらに2日間攪拌した。反応後、純水を加え、生成した沈殿を濾過することにより、一般式(1)においてn=m=8のポリ[2]カテナンを黄色固体として得た。GPCによりDMFを展開溶媒として分析したところ、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分散度(Mw/Mn)は、ポリスチレン換算でそれぞれ31×10、49×10、1.58であった。
【0066】
(実施例5)ポリ[2]カテナンの合成(3)
キャップ付試験管を用い、ジアジド[2]カテナン0.0104gとジエチニル[2]カテナン0.0102gをDMF100μlに溶解させた。これに硫酸銅五水和物1.1mgとアスコルビン酸ナトリウム3.6mgと水10μlとを加え、窒素下、室温で2日間攪拌した。2日目に硫酸銅五水和物1.1mgとアスコルビン酸ナトリウム3.6mgを加えた後、さらに2日間攪拌した。4日目に硫酸銅五水和物1.1mgとアスコルビン酸ナトリウム3.6mgを加えたのち、さらに3日間攪拌した。反応後、純水を加え、生成した沈殿を濾過することにより、一般式(1)においてn=m=8のポリ[2]カテナンを黄色固体として得た。GPCによりDMFを展開溶媒として分析したところ、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分散度(Mw/Mn)は、ポリスチレン換算でそれぞれ46×10、60×10、1.31であった。
【0067】
上記各実施例で得られたカテナン化合物(原料)およびポリ[2]カテナンのIRスペクトルを図3に示した。図3より、ポリ[2]カテナン((c))では、アジド基に由来するピークが消失していることが分かる。また、ポリ[2]カテナンのH−NMRでは、末端アセチレンのプロトンに由来するピークが確認されなかった。
【0068】
本明細書で引用した全ての刊行物をそのまま参考として本明細書に取り入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のポリ[2]カテナンは、インターロック構造を有するカテナン分子がトリアゾール基を介して強固に連結された高分子を形成し、機械的特性、レオロジー特性に優れたポリマー、あるいは特異な機能を有するポリマーなどのスーパープラスチックとしての応用が期待される。例えば、新規な弾性特性を有するエラストマー、また、カテナンのインターロック構造による選択透過膜への応用などが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、環化反応の生成物のH−NMRスペクトル(400MHz、DMSO−d)である。図1(a)は、ジアジド[2]カテナンのH−NMRスペクトルであり、図1(b)および(c)は、インターロック構造を構築していない化合物のH−NMRチャートである。
【図2】図2は、環化反応の生成物のH−NMRスペクトル(400MHz、DMSO−d)である。図2(a)は、ジエチニル[2]カテナンのH−NMRスペクトルであり、図2(b)および(c)は、インターロック構造を構築していない化合物のH−NMRチャートである。
【図3】図3は、(a)ジアジド[2]カテナン、(b)ジエチニル[2]カテナン、(c)ポリ[2]カテナンのIRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(ただし、式中nは5〜10の整数、mは5〜10の整数、kは1〜100の整数である。)で表されるポリ[2]カテナン。
【請求項2】
下記一般式(2)
【化2】

(ただし、式中nは5〜10の整数である。)
で表されるジアジド[2]カテナンと下記一般式(3)
【化3】

(ただし、式中mは5〜10の整数である。)
で表されるジエチニル[2]カテナンとを1,3−双極子付加環化反応により重合させることを特徴とする、請求項1記載のポリ[2]カテナンの製造方法。
【請求項3】
下記一般式(2)
【化4】

(ただし、式中nは5〜10の整数である。)
で表されるジアジド[2]カテナン。
【請求項4】
下記一般式(3)
【化5】

(ただし、式中mは5〜10の整数である。)
で表されるジエチニル[2]カテナン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−84306(P2009−84306A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−251910(P2007−251910)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名:社団法人 日本化学会 関東支部 刊行物名:日本化学会 第1回関東支部大会(2007) 講演予稿集 発行年月日:平成19年9月13日
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】