説明

ポンピングチューブの取付構造

【課題】流体圧送の過程でポンピングチューブが押圧ローラとの摩擦発熱或いは変形による発熱により温度上昇して層間剥離し、早期に寿命に到ってしまう問題を解決する。
【解決手段】ケーシング10の半円状の挟圧面12に沿ってポンピングチューブ16を回曲状態で配設し、ロータ28の先端部に設けた押圧ローラ34にてポンピングチューブ16を押し潰しながら押圧ローラ34を走行させることで、ポンピングチューブ16内の流体を絞り出して圧送する形式のスクィーズ式ポンプにおけるポンピングチューブ16の取付構造において、挟圧面12の内側に位置するポンピングチューブ16の回曲部分16-1の外周長を挟圧面12の内周長よりも短くしてそれらの間に隙間Sを生ぜしめ、ポンピングチューブ16の熱を放熱させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はスクィーズ式ポンプにおけるポンピングチューブの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば建設現場等でモルタルやセメントミルク等の流体を圧送するポンプとしてスクィーズ式ポンプが広く用いられている。
このスクィーズ式ポンプでは、ケーシングの内周の半円状の挟圧面に沿って弾性を有するポンピングチューブを回曲状態で配設し、回転するロータの先端部に設けた押圧ローラにてポンピングチューブを押し潰しながら、押圧ローラをポンピングチューブ及び挟圧面に沿って走行させ、ポンピングチューブ内の流体を絞り出して圧送する。
図4はその具体例を示している(図4ではスクィーズ式ポンプの要部であるケーシング,ポンピングチューブ及びロータを表している)。
【0003】
同図において200は金属製のケーシングで、内周に半円状の挟圧面202を備えている。
204は挟圧面202に沿って配設されたゴムチューブ(ゴムホース)から成るポンピングチューブで、半円状の挟圧面202の内側の回曲部分が挟圧面202全周長に亘り挟圧面202に密着させられている。
ここでポンピングチューブ204は、内面ゴム層と外面ゴム層とそれらの間の補強層との積層構造を成している。補強層は通常、補強繊維を編組して構成してある。
尚、図4において204Aはポンピングチューブ204における吸込側の端を、また204Bは吐出側の端を表している。
【0004】
ポンピングチューブ204は、各端部の内側にスクィーズ式ポンプ本体側のパイプ206を挿入した状態で、固定具208により各端部が固定されている。
210は回転するロータで、回転軸212周りに回転するアーム214と、その先端部に相対回転可能に設けられた押圧ローラ216とを有している。
【0005】
このスクィーズ式ポンプでは、回転するロータ210の先端部に設けた押圧ローラ216にてポンピングチューブ204をケーシング200の挟圧面202と協働して押し潰しながら、押圧ローラ216をポンピングチューブ204及び挟圧面202に沿って図中反時計回りに走行させ、これによりポンピングチューブ204内の流体を絞り出して圧送する。
【0006】
ポンピングチューブ204は、押圧ローラ216の通過後に自身の弾性力及び図示を省略するガイドローラにて元の形状に復元し、その際に発生する負圧により吸込側から流体を吸い込む。そしてその吸い込んだ流体が、その後回動してくる押圧ローラ216による絞り作用でポンピングチューブ204内を供給先に向けて圧送される。
【0007】
スクィーズ式ポンプにおける上記のポンピングチューブ204は、強い圧縮力による押潰しと、押圧ローラ216通過後の形状復元とを連続的に且つ繰り返し行うものでその使用条件は過酷であり、その変形の繰返しにより内面ゴム層と補強層、或いは補強層と外面ゴム層とが層間剥離し、早期に寿命に到ってしまう問題がある。
特に押圧ローラ216による摩擦と押潰し変形の繰り返しによってポンピングチューブ204に熱が発生して籠るようになり、そのことが層間剥離を助長してしまう。
【0008】
熱が発生且つ籠ることによりポンピングチューブ204は、その温度が100℃にも達することがあり、これに伴って内面ゴム層と補強層,補強層と外面ゴム層、或いは補強層が複数の層から成っている場合には各層を接着している接着剤の接着力が低下し、繰返し変形による層間への大きな歪みの発生と接着力の低下とが相俟って層間剥離が助長されてしまうのである。
【0009】
而してポンピングチューブ204が層間剥離を生じてしまうと、押圧ローラ216通過後においてポンピングチューブ204が良好に元の形状に復元することができず、流体に対する圧送能力が低下ないし失われてしまい、引き続きこれを使用することができなくなってしまう。
【0010】
下記特許文献1には、熱により繊維補強層とゴム層との接着力の低下を防ぐために、ケーシングの外面に冷却用のフィンを設けたり、冷却用の空気を送風するためのファンを設けたり、或いは冷却用の媒体を外部のタンクとケーシングに形成した流路との間を循環させる循環装置等を設ける点が開示されているが、これらの場合冷却のための装置が大掛かりとなり、必然的に構造も複雑化してしまう問題がある。
【0011】
一方下記特許文献2には、押圧ローラが回転により熱を持つようになることから、これを冷却するためにケーシングに冷却ジャケットを設けた点が開示されている。
但しこのものは冷却対象が押圧ローラである点で本発明と異なったものである。
【0012】
【特許文献1】特許第3756468号公報
【特許文献2】実用新案登録第2513950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は以上のような事情を背景とし、流体圧送の過程でポンピングチューブが押圧ローラとの摩擦発熱或いは変形による発熱により温度上昇して、そのことによりポンピングチューブが層間剥離して早期に寿命に到ってしまう問題を解決することのできるスクィーズ式ポンプにおけるポンピングチューブの取付構造を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
而して請求項1のものは、内周に半円状の挟圧面を備えたケーシングの該挟圧面に沿って弾性を有するポンピングチューブを回曲状態で配設し、回転するロータの先端部に設けた押圧ローラを該ポンピングチューブに押し付けて該ポンピングチューブを該挟圧面とともに挟圧し押し潰しながら該押圧ローラを該ポンピングチューブ及び該挟圧面に沿って走行させることで、該ポンピングチューブ内の流体を絞り出して圧送する形式のスクィーズ式ポンプにおける前記ポンピングチューブの取付構造であって、前記ポンピングチューブの、前記ケーシングの半円状の挟圧面の内側に位置する回曲部分の該挟圧面に沿った外周長を該挟圧面の内周長よりも短くし、前記押圧ローラの位置する部位では該押圧ローラと該挟圧面とによる該ポンピングチューブの隙間無い挟圧を確保する一方、該押圧ローラの位置していない部位で該ポンピングチューブと該挟圧面との間に少なくとも周方向に部分的に隙間形成する状態に該ポンピングチューブを取り付けたことを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0015】
以上のように本発明は、ケーシングの半円状の挟圧面の内側に位置するポンピングチューブの回曲部分の外周長を挟圧面の内周長よりも短くし、押圧ローラの位置する部位では押圧ローラと挟圧面とでポンピングチューブを隙間なく挟圧する一方、他の部位ではポンピングチューブと挟圧面との間に少なくとも周方向に部分的に隙間形成する状態にポンピングチューブを取り付けるもので、この発明によれば、ポンピングチューブとケーシングとの間に生ぜしめた隙間によって、ポンピングチューブの熱を効果的に放熱させることができ、その放熱作用によりポンピングチューブの温度上昇を有効に抑制することができる。
【0016】
例えば従来にあってはポンピングチューブの温度上昇が90℃以上にも達していたのが、本発明によればその温度上昇を70℃程度に抑制できることが確認されている。
これにより、ポンピングチューブの温度上昇による層間剥離を良好に抑制し得て、ポンピングチューブの使用寿命を長寿命化することができる。
【0017】
一方で本発明では、ロータの押圧ローラの位置する部位ではポンピングチューブを押圧ローラとケーシングの内周の挟圧面とで隙間なく挟圧するため、ロータの回転により即ち押圧ローラの走行により、ポンピングチューブ内の流体を従来と同様の吐出圧で吐出し圧送することが可能で吐出性能即ち圧送性能の低下をもたらさない特長を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10はスクィーズ式ポンプの金属製のケーシングで、内周に半円状の挟圧面12を備えている。
図中12a,12bはその挟圧面12の始端及び終端を表している。
ケーシング10は、これら始端12a,終端12bのそれぞれ図中左側に、始端12a,終端12bに続いて左右方向に延びる互いに平行なストレート面をなすガイド面14を有している。
【0019】
16はケーシング10の内周に沿って配設されたゴムチューブ(ゴムホース)からなるポンピングチューブである。
ポンピングチューブ16は、図1(B)に示しているように内面ゴム層18と、外面ゴム層20と、中間の補強層22との積層構造をなしており、それら各層が加硫接着にて互いに固着されている。
ここで補強層22は、補強繊維を編組してなる編組層を複数積層して構成してある。これら各編組層もまた互いに接着固定されている。
補強層22はポリアミド糸,ポリエステル糸その他の有機繊維から成る糸を用いて構成することができる。
【0020】
この実施形態において、内面ゴム層18,外面ゴム層20は天然ゴムからなっているが他の材質のゴム材にて構成することもできる。
尚、図1において16Aはポンピングチューブ16における吸込側の端を、また16Bは吐出側の端を表している。
【0021】
ポンピングチューブ16は、各端部の内側にスクィーズ式ポンプ本体側のパイプ24を挿入した状態で、固定具26により各端部が固定されている。
28は回転するロータで、回転軸30周りに回転するアーム32と、その先端部に相対回転可能に設けられた押圧ローラ34とを有している。
尚、図1(B)においてd,dはそれぞれポンピングチューブ16における内径,外径を表しており、また図1(A)中dはケーシング10の半円状をなす挟圧面12の内径を表している。
【0022】
このスクィーズ式ポンプでは、回転するロータ28の先端部に設けた押圧ローラ34にてポンピングチューブ16をケーシング10の挟圧面12と協働して押し潰しながら、押圧ローラ34をポンピングチューブ16及び挟圧面12に沿って図中反時計周りに走行させ、これによりポンピングチューブ16内のモルタルやセメントミルクその他の流体を絞り出して圧送する。
【0023】
このときポンピングチューブ16は、押圧ローラ34の通過後に自身の弾性力及び図示を省略するガイドローラにて元の形状に復元し、その際に発生する負圧により吸込側から流体を吸い込み、そしてその吸い込んだ流体が図2にも示しているようにその後再び回動してくる押圧ローラ34による絞り作用でポンピングチューブ16内を供給先に向けて圧送される。
【0024】
この実施形態では、ケーシング10内周の半円状をなす挟圧面12の内側に位置するポンピングチューブ16の回曲部分16-1の外周長(軸30周りの挟圧面12に沿った外周長)が、挟圧面12の内周長よりも短くなるようにポンピングチューブ16の全長が定めてあり、これによりポンピングチューブ16と、ケーシング10の挟圧面12との間に隙間Sが生ずるようになしてある。
【0025】
但し押圧ローラ34の位置する部位ではポンピングチューブ16は、押圧ローラ34と挟圧面12とで隙間なく挟圧される。ポンピングチューブ16の長さが予めそのように定められている。
【0026】
尚ポンピングチューブ16と挟圧面12との間の隙間Sは、押圧ローラ34の位置する部位を除いて、半円状をなす挟圧面12全長に亘って生じるようになすこともできるし、或いは押圧ローラ34の位置する部位以外の部位でポンピングチューブ16の外面が挟圧面12に対し部分的に接触し、他の部分で隙間Sが生じるようになしておくこともできる。
但し何れの場合においてもポンピングチューブ16の回曲部分16-1の外周長を挟圧面12の内周長よりも20mm以上短くし、隙間Sにおける挟圧面12の径方向の寸法Lを図1に示す状態で30mm以上となしておくことが望ましい。
【0027】
以上のように本実施形態によれば、ポンピングチューブ16とケーシング10との間に生ぜしめた隙間Sによって、ポンピングチューブ16の熱を効果的に放熱させることができ、その放熱作用によりポンピングチューブ16の温度上昇を有効に抑制することができる。
これにより、ポンピングチューブ16の温度上昇による層間剥離を良好に抑制し得て、ポンピングチューブ16の使用寿命を長寿命化することができる。
【0028】
一方で本実施形態では、ロータ28の押圧ローラ34の位置する部分ではポンピングチューブ16を押圧ローラ34とケーシング10の内周の挟圧面12とで隙間なく挟圧するため、ロータ28の回転により即ち押圧ローラ34の走行によりポンピングチューブ16内の流体を従来と同様の吐出圧で吐出し、圧送することが可能で、吐出性能即ち圧送性能の低下をもたらさない。
【0029】
<実験例>
ポンピングチューブ16として図1(B)に示す内径dが63.5mm,外径dが100mmで長さが従来の長さのもの(ポンピングチューブ16がケーシング10の内周の挟圧面12に対し全周に亘り密着する長さのもの)よりも20mm短いものを用い、ポンピングチューブ16取付状態の下で、図3に示すようにポンピングチューブ16とケーシング10の内周の挟圧面12との間に大きさLの隙間Sを生ぜしめた(ケーシング10における内周の挟圧面12の図1(A)に示す内径dは670mm)。尚、Lは隙間Sの径方向寸法が最大となる部位の値である(ポンピングチューブ16を上記のように正規のものよりも20mm短くすることでLの値は30mmとなる)。
このようにしてポンピングチューブ16を取り付けた状態の下で、回転数40回転/分でロータ28を回転させ、流体としての水の圧送試験を行った。
【0030】
尚この圧送試験では、図3(A)に示しているようにポンピングチューブ16と挟圧面12との間の隙間Sは、ポンピングチューブ16を押し潰している押圧ローラ34の後側(図中下側)の部位で発生し、押圧ローラ34の進行方向前方ではポンピングチューブ16は挟圧面12に対して密着状態となる。
そして図3(B)に示すように一対の押圧ローラ34が丁度挟圧面12の始端12aと終端12bとに位置したところで、ポンピングチューブ16と挟圧面12との間に、挟圧面12のほぼ全周に亘って微小な隙間がそれらの間に生ずる。
【0031】
尚、ポンピングチューブ16として従来の長さのものを用い、ポンピングチューブ16がケーシング10の内周の挟圧面12に対し全周に亘り密着するように取り付けたものにおいても同様の試験を行った(比較例)。
この試験は、1日で8時間の連続運転を行い、ポンピングチューブ16が使用寿命に達したことを確認できるまで繰返し実施した。
また併せてポンピングチューブ16の温度測定も行った。この温度測定は運転中の装置を一旦停止し、ポンピングチューブ16の表面温度を測定することにより行った。
その結果が以下の表1に示してある。
【0032】
【表1】

【0033】
表1の結果に示しているように比較例の場合、ポンピングチューブ16の温度は93℃まで上昇し、また寿命は74時間であった。ここで使用寿命は、吐出圧が1.0PMaから低下し、同吐出圧力を維持できなくなった時点を以って使用寿命とした。このような吐出圧力の低下はポンピングチューブ16が層間剥離を起こすことにより生ずる。
これに対して実施例の場合、ポンピングチューブ16の到達温度は70℃で比較例に較べて大幅に減少しており、またこれに伴って使用時間も81時間まで延び、使用寿命が比較例に較べて約10%延長した。
【0034】
以上のようにケーシング10の半円状をなす挟圧面12と、その内側に位置するポンピングチューブ16との間に隙間Sを生ぜしめることで、ポンピングチューブ16の温度上昇が効果的に抑えられ、またこれに伴ってポンピングチューブ16の使用寿命が効果的に延びることが理解できる。
【0035】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態であるポンピングチューブの取付構造を示した図である。
【図2】同実施形態における図1とは異なる作動状態の図である。
【図3】実施例におけるポンピングチューブの取付構造を示した図である。
【図4】従来のポンピングチューブの取付構造を示した図である。
【符号の説明】
【0037】
10 ケーシング
12 挟圧面
16 ポンピングチューブ
16-1 回曲部分
28 ロータ
34 押圧ローラ
S 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に半円状の挟圧面を備えたケーシングの該挟圧面に沿って弾性を有するポンピングチューブを回曲状態で配設し、回転するロータの先端部に設けた押圧ローラを該ポンピングチューブに押し付けて該ポンピングチューブを該挟圧面とともに挟圧し押し潰しながら該押圧ローラを該ポンピングチューブ及び該挟圧面に沿って走行させることで、該ポンピングチューブ内の流体を絞り出して圧送する形式のスクィーズ式ポンプにおける前記ポンピングチューブの取付構造であって
前記ポンピングチューブの、前記ケーシングの半円状の挟圧面の内側に位置する回曲部分の該挟圧面に沿った外周長を該挟圧面の内周長よりも短くし、前記押圧ローラの位置する部位では該押圧ローラと該挟圧面とによる該ポンピングチューブの隙間無い挟圧を確保する一方、該押圧ローラの位置していない部位で該ポンピングチューブと該挟圧面との間に少なくとも周方向に部分的に隙間形成する状態に該ポンピングチューブを取り付けたことを特徴とするポンピングチューブの取付構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−30524(P2009−30524A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195257(P2007−195257)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)