説明

ポンプ装置

【課題】良好なエンジン始動を達成可能なポンプ装置を提供すること。
【解決手段】車両のエンジンのクランキング中において、ポンプ装置20の固有吐出量を減少させるべくカムリング20Cの偏心量を制御することで、固有吐出量が車両の走行状態、且つ、非操舵状態における固有吐出量よりも小さくなるように制御することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用操舵装置に作動液を供給するポンプ装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可変容量型のポンプ装置として、特許文献1に記載の技術が知られている。この公報には、カムリングを制御する制御バルブをソレノイドで駆動制御し、操舵時には吐出量を増大し、非操舵時は吐出量を減少させることにより、操舵性とポンプ負荷の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−92761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1にあっては、エンジン始動指令に基づくクランキング時におけるポンプ負荷の低減について何らの対策も施されていなかった。
【0005】
本発明の目的は、良好なエンジン始動を達成可能なポンプ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のポンプ装置では、車両のエンジンのクランキング中において、ポンプ装置の固有吐出量を減少させるべくカムリングの偏心量を制御することで、固有吐出量が車両の走行状態、且つ、非操舵状態における固有吐出量よりも小さくなるように制御することとした。
【発明の効果】
【0007】
よって、本発明にあっては、エンジンのクランキング中は、ポンプ装置の固有吐出量が制御されるため、クランキング中におけるポンプ負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1のポンプ装置及びその制御方法を採用した車両用操舵装置の全体システム図である。
【図2】実施例1の車両用操舵装置の制御構成を表す制御ブロック図である。
【図3】実施例1のマイコン内の制御構成を表すブロック図である。
【図4】実施例1の操舵角−第1ポンプ吐出流量算出部内で演算されるマップである。
【図5】実施例1の操舵角速度−第2ポンプ吐出流量算出部内で演算されるマップである。
【図6】実施例1のポンプ吐出流量とソレノイド電流特性の関係を表す特性図である。
【図7】実施例1のコントロールユニット内で実行されるポンプ流量制御処理を表すフローチャートである。
【図8】実施例1のクランキング・始動判定処理を表すフローチャートである。
【図9】実施例1のポンプ装置においてポンプ回転数Nとポンプ駆動に必要なトルクT(エンジン負荷トルクに相当する)との関係を表す特性図である。
【図10】実施例1のポンプ装置及びその制御方法を採用した車両用操舵装置のエンジン始動時における作動内容を表すタイムチャートである。
【図11】実施例2のクランキング・始動判定処理を表すフローチャートである。
【図12】実施例3のクランキング・始動判定処理を表すフローチャートである。
【図13】実施例4のクランキング・始動判定処理を表すフローチャートである。
【図14】実施例5のクランキング・始動判定処理を表すフローチャートである。
【図15】実施例6の車両用操舵装置の制御構成を表す制御ブロック図である。
【図16】実施例6のクランキング・始動判定処理を表すフローチャートである。
【図17】実施例7のクランキング・始動判定処理を表すフローチャートである。
【図18】実施例8のクランキング・始動判定処理を表すフローチャートである。
【図19】実施例8のクランキング・始動判定処理を表すタイムチャートである。
【図20】実施例9のエンジン始動時・目標吐出流量算出処理を表すフローチャートである。
【図21】実施例9のエンジン始動時・目標吐出流量算出処理を実行した際のタイムチャートである。
【図22】実施例10のエンジン始動時・目標吐出流量算出処理を表すフローチャートである。
【図23】実施例10のエンジン始動時・目標吐出流量算出処理を実行した際のタイムチャートである。
【図24】実施例11のエンジン始動時・目標吐出流量算出処理を表すフローチャートである。
【図25】実施例11のエンジン始動時・目標吐出流量算出処理を実行した際のタイムチャートである。
【図26】実施例12のエンジン始動時・目標吐出流量算出処理を表すフローチャートである。
【図27】実施例12のエンジン始動時・目標吐出流量算出処理を実行した際のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0009】
図1は実施例1のポンプ装置及びその制御方法を採用した車両用操舵装置の全体システム図である。ドライバが操作するステアリングホイール1には、ステアリングシャフト2が連結されている。ステアリングシャフト2には、ユニバーサルジョイント3を介してアッパー側中間シャフト4aが連結され、更にアッパー側中間シャフト4aには、ユニバーサルジョイント5を介してロアー側中間シャフト4bが連結されている。ロアー側中間シャフト4bにはピニオン軸6が接続されている。ピニオン軸6には、パワーシリンダ8の油圧制御を行う油圧制御弁23を介してピニオン(図示せず)が接続されている。油圧制御弁23は、ドライバの操舵トルクに応じて相対移動し、これにより油圧供給路及び油圧供給量を適宜切り換えるものである。
ピニオンは、ラック軸7と係合しており、ドライバの操舵角に応じてピニオンが回転し、この回転角(操舵角)に応じてラック軸7が左右に移動する。ラック軸7はパワーシリンダ8内にピストンを有し、ラック軸7を左方に移動させる場合には右側のパワーシリンダ室内に油圧を供給し、右方に移動させる場合には左側のパワーシリンダ室内に油圧を供給することで、操舵トルクをアシストする。ラック軸7の両端は図外のタイロッド等を介して操向輪が接続され、ドライバ操作に応じて転舵される。
【0010】
また、車両のエンジン(図示せず)には、クランクシャフトからベルト等を介して駆動されるオイルポンプ20が備えられている。このオイルポンプ20は可変容量型ベーンポンプであり、エンジンの回転と同期して回転するロータ20aと、ロータ20aの外周において径方向に出没自在に配置された板状のベーン20bと、ロータ20aの回転中心に対して所定範囲で偏心可能なカムリング20cと、これらロータ20a,ベーン20b及びカムリング20c(ポンプ要素)を収容するポンプ要素収容部20eを有するポンプハウジング20dと、を有する。ポンプハウジング20dは、ロータ20aを駆動する駆動軸20a1を軸支している。ポンプハウジング20dには、カムリング20cの偏心量を制御するソレノイドバルブ21を有する。
【0011】
オイルポンプ20の吐出油路20f上には図外のメータリングオリフィスが備えられ、このメータリングオリフィスのオリフィス開度はソレノイド21aにより可変制御可能に構成されている。制御バルブ21bは、制御バルブ21bの図1中左方に位置し、カムリング20c外周とポンプハウジング20d内周との間に形成された隙間への油圧供給を行う制御室と、制御バルブ21bの図1中右方に位置し、吐出圧が供給される吐出圧室とを有する。制御室はメータリングオリフィスの上流側と連通し、吐出圧室はメータリングオリフィスの下流側(高圧オイル供給路22側)と連通する。カムリング20cは初期状態において、スプリングにより偏心量が最大位置に付勢されており、回転数に応じて制御室内に導入される圧力が変更され、カムリング20cの偏心量を制御する。メータリングオリフィスのオリフィス開度を制御すると、ポンプ回転数に対する吐出流量特性(偏心量の変化特性)を変更することができると同時に、オイルポンプ20を駆動するのに必要なトルクも変更することができるものである。
【0012】
オイルポンプ20は、リザーバタンク27内の作動液を吸入するオイル供給路26と、オイルポンプ20の高圧吐出圧を油圧制御弁23に供給する高圧オイル供給路22と、油圧制御弁23から排出される作動油をリザーバタンク27へ帰還させるオイル帰還路25と、を有する。油圧制御弁23において、操舵トルクに応じた相対移動が行われると、左右のパワーシリンダ室と接続されたオイル供給/帰還路24a,24bが適宜切り換えられ、操舵状態に応じて高圧オイル供給路22とオイル帰還路25がそれぞれの油路24a,24bと接続される。
【0013】
コントロールユニット10には、ドライバの操舵角を検出する舵角センサ11の情報と、車両の速度を検出する車速センサ12の情報と、図外のエンジンを制御するエンジンコントロールユニット13の情報とが入力される。エンジンコントロールユニット13からは、セルモータによりクランキングが成されているか否かを判断するための情報、エンジン回転数情報等が入力される。コントロールユニット10は、バッテリ14とイグニッションスイッチ15を介して接続されており、イグニッションスイッチ15がオンとなると、コントロールユニット10の通電が開始され、所定の制御が実行される。尚、エンジン始動に伴うクランキングは、一般的なエンジン車両の場合には、ドライバのキー操作によってイグニッションオンから更にキーを回して、もしくはスタートボタンを押すことで所定の間、実行される。
【0014】
図2は実施例1の車両用操舵装置の制御構成を表す制御ブロック図である。舵角センサ11はドライバの操舵角を検出すると共に、この検出した値を所定周期で送信するCAN通信機能を有しており、CAN通信線CAN Busを介してコントロールユニット10に送信する。車速センサ12は、車輪のスリップ状態を適切な値にするためにホイルシリンダ圧を増減圧制御するABSコントロールユニットがその機能を代替する。ABSコントロールユニットは、接続された図外の車輪速センサにより検出された値に基づいて車速情報を演算し、ABSコントロールユニットが有するCAN通信機能によってCAN通信線CAN Busを介してコントロールユニット10に車速情報を送信する。エンジンコントロールユニット13はCAN通信機能を有しており、エンジンクランキング情報及びエンジン回転数情報を、CAN通信線CAN Busを介してコントロールユニット10に送信する。
【0015】
コントロールユニット10内には、各種マイコンを駆動するための定圧電源を供給する5Vレギュレータ101と、CAN通信機能を司るCANインターフェース102と、バッテリ14から供給される電源VIGNをPWM制御信号に基づいて所定電流に変換するスイッチング素子103(FETともいう)と、ソレノイド21aに流れる実電流Irealを検出するシャント抵抗105及びアンプ104と、所定演算処理を行ってスイッチング素子103に対しPWM制御信号を出力するマイコンMPUと、を有する。
【0016】
図3は実施例1のマイコン内の制御構成を表すブロック図である。CANインターフェース102を介して受信した車速センサ12の信号は、車速算出手段201により車速Vとして算出され、舵角センサ11の信号は、操舵角算出手段202により操舵角θとして算出され、操舵角速度算出手段203により算出された操舵角θに基づいて操舵角速度ωが算出される。
操舵角−ポンプ吐出流量算出部204では、検出された車速V(km/h)と操舵角θ(deg)とに基づいて第1ポンプ吐出流量(L/min)が設定される。図4は操舵角−第1ポンプ吐出流量算出部204内で演算されるマップである。車速V(km/h)に基づいて特性が選択されると、操舵角θ(deg)に応じた第1ポンプ吐出流量(L/min)が算出される。
操舵角速度−ポンプ吐出流量算出部205では、検出された車速V(km/h)と操舵角速度ω(deg/s)に基づいて第2ポンプ吐出流量(L/min)が設定される。図5は操舵角速度−第2ポンプ吐出流量算出部205内で演算されるマップである。車速V(km/h)に基づいて特性が選択されると、操舵角速度ω(deg/s)に応じた第2ポンプ吐出流量(L/min)が算出される。
目標電流算出部206では、操舵角−ポンプ吐出流量算出部204で設定された第1ポンプ吐出流量と操舵角速度−ポンプ吐出流量算出部205で設定された第2ポンプ吐出流量との和であるポンプ吐出流量に応じて、ソレノイド21aに通電するソレノイド電流が設定される。図6は実施例1のポンプ吐出流量とソレノイド電流特性の関係を表す特性図である。このソレノイド21aは、駆動軸20a1の回転速度が一定の場合、非通電状態のとき固有吐出量が最小となり、通電量が増大するほど固有吐出量が増大するように設定されている。尚、実施例1では操舵角θ及び操舵角速度ωとに基づいて固有吐出量を算出するように構成したが、更に、操舵角加速度dω/dtを用いて構成してもよい。
【0017】
クランキング・始動判定手段207では、エンジンコントロールユニット13からの情報に基づいてエンジンのクランキング・始動判定処理を実行する。具体的にはクランキング・フラグFcranking及びエンジン回転中・フラグFrunnningを設定する(詳細については後述する)。
第1流量切り換えスイッチ部208では、目標電流算出部206で算出された目標電流と、所定流量1に相当する第1目標電流とをクランキング・フラグに基づいて切り換える。ここで、所定流量1とは、通常制御において車速Vが0(km/h)、操舵角θが0(deg)、かつ、操舵角速度ωが0(deg/s)の時に算出されるポンプ吐出流量に対応するソレノイド電流値よりも低い電流値であり、オイルポンプ20で実現できる最低吐出流量Q1に相当する値である。実施例1の場合、第1ポンプ吐出流量は約2.4(L/min)であり、第2ポンプ吐出流量は約4(L/min)であることから、それらの和であるポンプ吐出流量6.4(L/min)に相当するソレノイド電流、約0.75(A)よりも低い電流値であり、0.2(A)である(図6参照)。
第2流量切り換えスイッチ部209では、第1流量切り換えスイッチ部208で設定された電流値と、所定流量2に相当する第2目標電流とをエンジン始動・フラグに基づいて切り換える。ここで、所定流量2とは、通常制御において車速Vが0(km/h)、操舵角θが0(deg)、かつ、操舵角速度ωが0(deg/s)の時に算出されるポンプ吐出流量に対応するソレノイド電流値よりも高い電流値である。実施例1の場合、第1ポンプ吐出流量は約2.4(L/min)であり、第2ポンプ吐出流量は約4(L/min)であることから、それらの和であるポンプ吐出流量6.4(L/min)に相当するソレノイド電流、約0.75(A)よりも高いソレノイド電流値であり、1.2(A)である(図6参照)。
【0018】
偏差演算部210aでは、最終的に決定された指令電流値とソレノイド電流算出手段212によって算出されたソレノイド実電流値Irealとの偏差を演算する。PI制御手段210では、偏差演算部210aにより演算された偏差に基づいてPWM制御量を演算する。PWM出力部211では、PI制御手段210により演算されたPWM制御量に基づいてソレノイド駆動手段であるスイッチング素子103に対しPWM制御指令信号を出力する。
【0019】
〔ポンプ流量制御処理〕
図7は実施例1のコントロールユニット内で実行されるポンプ流量制御処理を表すフローチャートである。
ステップ301では、イニシャライズを実行する。イニシャライズとは、メモリや各種フラグ,タイマ値等を初期化する処理である。
ステップ302では、ソレノイド実電流値Irealの読み込みを行う。
ステップ303では、操舵角θの読み込みを行う。
ステップ304では、操舵角速度ωの算出を行う。
ステップ306では、車速Vを読み込む。
ステップ307では、エンジン状態情報をエンジンコントロールユニット13から読み込む。
ステップ308では、クランキング・始動判定処理を実行する。尚、本制御処理については後述する。
【0020】
ステップ309では、エンジン回転中フラグFrunningがセットされているか否かを判断し、セットされているときはステップ310に進み、セットされていないときはステップ311へ進む。
ステップ310では、エンジン始動時目標吐出流量算出処理を実行する。具体的には、目標吐出流量を所定流量2に設定する(流量増大制御に相当)。
ステップ311では、クランキング・フラグFcrankingがセットされているか否かを判断し、セットされているときはステップ312に進み、セットされていないときはステップ313へ進む。
ステップ312では、クランキング時目標吐出流量算出処理を実行する。具体的には、目標吐出流量を所定流量1に設定する(流量低減制御に相当)。
ステップ313では、操舵角θに応じた目標吐出流量Qθ_CMDを算出する。
ステップ314では、操舵角速度ωに応じた目標吐出流量Qω_CMDを算出する。
ステップ315では、目標吐出流量QCMDを下記式より算出する。
QCMD=Qθ_CMD+Qω_CMD
【0021】
ステップ316では、ソレノイド指令電流ICMDを算出する。
ステップ317では、電流フィードバック制御量を算出する。
ステップ318では、PWM出力処理を実行し、ステップ302へ戻る。
【0022】
〔クランキング・始動判定処理〕
図8は実施例1のクランキング・始動判定処理を表すフローチャートである。図7に示すステップ308において実行される処理である。
ステップ501では、エンジン状態情報を取得し、エンジンが回転中か否かを判断する。具体的にはエンジンが自立回転を開始したことを表す所定回数以上か否かを判断し、所定回転数以上のときはエンジン回転中と判断し、所定回転数未満のときはエンジン回転中ではないと判断する。エンジン回転中と判断したときはステップ502へ進み、エンジン回転中ではないと判断したときはステップ507へ進む。
ステップ502では、クランキング・フラグFcrankingをクリアする。
ステップ503では、エンジン回転中タイマTrunnningをカウントアップする。
ステップ504では、エンジン回転中タイマTrunningが、エンジン回転が継続して発生している状態を表す閾値Trun_th以上か否かを判断し、Trun_th以上のときはステップ505へ進み、Trun_th未満のときはステップ506へ進む。Trun_th以上のときはエンジンが安定して自立回転を始めたと判断できる値である。
ステップ505では、エンジン回転中フラグFrunningをクリアする。
ステップ506では、エンジン回転中フラグFrunningをセットする。
【0023】
ステップ507では、エンジン状態情報を取得し、エンジンが停止中か否かを判断する。停止中と判断したときはステップ509へ進み、停止中ではないと判断したときはステップ508へ進む。
ステップ508では、エンジン状態情報を取得し、クランキング中か否かを判断する。クランキング中と判断したときはステップ509へ進み、それ以外のときは本制御フローを終了する。ここで、クランキング中とは、エンジンがセルモータによって回転している状態を表し、セルモータの駆動状態を読み込んでいるともいえる。
ステップ509では、クランキング・フラグFcrankingをセットする。
ステップ510では、エンジン回転中タイマTrunningをクリアする。クランキングが終了してからエンジン回転中タイマのカウントアップを行うためである。
ステップ511では、エンジン回転中フラグFrunningをクリアする。
【0024】
次に、作用について説明する。図9は実施例1のポンプ装置においてポンプ回転数Nとポンプ駆動に必要なトルクT(エンジン負荷トルクに相当する)との関係を表す特性図、図10は実施例1のポンプ装置及びその制御方法を採用した車両用操舵装置のエンジン始動時における作動内容を表すタイムチャートである。
時刻t1において、イグニッションスイッチがオンとされ、時刻t2においてセルモータの駆動信号が出力されると、クランキング中信号がオンとなる。それに伴って、エンジン回転数がセルモータの回転数と同じだけ上昇する。このとき、クランキング・フラグがオンとなり、また、エンジン回転中・フラグはオフであるため、所定流量1が設定、すなわち、流量低減制御が実行される。所定流量1は図9に示すQ1であり、ポンプ装置で実現できる最低の吐出流量特性である。これを達成するために、ソレノイド21aを非通電状態に維持する(第1ステップに相当)。これにより、エンジン負荷トルクは最小にすることができ、スムーズにクランキングを実行する。
時刻t21において、エンジン回転数が自立回転を開始し始めて、回転数がクランキングによる回転数よりも上昇し始めると、ポンプ吐出流量の増大に伴ってカム位置が偏心し始め、偏心量が減少する方向に移動する。
【0025】
時刻t3において、エンジンが自立回転を開始し、所定回転数を上回ると、クランキング・フラグがオフとされ(第2ステップに相当)、エンジン回転中・フラグがオンとされ、同時に、エンジン回転中タイマTrunningのカウントアップが開始される。これにより、目標吐出流量が所定流量2に変更、すなわち、流量増大制御が実行される。所定流量2は図9に示すQ2であり、ポンプ装置で実現できる最高の吐出流量特性である。これを達成するために、ソレノイド21aに最大電流値(約1.2A相当)が流される(第3ステップに相当)。
すなわち、ソレノイド21aには、クランキング終了後、固有吐出量が増大する方向にカムリング20cが移動するように制御される流量増大制御が行われることになる。クランキング中にベーンの飛び出し不良があった場合、一時的に流量を増大させることによりベーンの飛び出し性を向上することができる。また、油温が低い場合には、一時的に流量を増大させることにより、油温の上昇を早めることができる。
【0026】
時刻t4において、エンジン回転中タイマTrunningのタイマ値が閾値Trun_th以上になると、エンジン回転中・フラグFrunningがオフとされ、制御指令値は、所定流量2から通常制御による目標吐出流量Q3に変更される。
【0027】
以上説明したように、実施例1では下記に列挙する作用効果を奏する。
1−(1):車両用操舵装置に作動液を供給するポンプ装置であって、ポンプ要素収容部20eを有するポンプハウジング20dと、ポンプハウジング20dに軸支される駆動軸20a1と、ポンプ要素収容部20eに移動可能に設けられた環状のカムリング20cと、カムリング20c内に設けられ、駆動軸20a1の回転駆動によって吸入した作動液を吐出すると共に、駆動軸20a1に対するカムリング20cの偏心量の変化に伴い1回転当たりの吐出流量である固有吐出量を変化させるポンプ要素と、操舵状態及び車両速度に基づき駆動制御され、カムリング20cの偏心量を制御するソレノイド21aと、を備え、ソレノイド21aは、車両のエンジンのクランキング中において、固有吐出量が減少する方向にカムリング20cが移動するように制御される流量低減制御が行われる。
すなわち、エンジンのクランキング中に固有吐出量が減少する方向にカムリング20cが移動するようにソレノイド21aを制御することにより、クランキング中におけるポンプ負荷の低減を図ることができ、その結果、エンジン始動のためのセルモータの負荷を低減させることができる。
【0028】
2−(2):上記(1)に記載のポンプ装置において、カムリング20cは、クランキング中に偏心量が減少する方向に移動する。
エンジンのクランキング中にカムリングが偏心することにより、ポンプ負荷が低減し、セルモータの負荷を低減させることができる。
【0029】
3−(3):上記(1)に記載のポンプ装置において、ソレノイド21aは、クランキング終了後、固有吐出量が増大する方向にカムリング20cが移動するように制御される流量増大制御が行われる。
エンジンのクランキング中にベーンの飛び出し不良があった場合、一時的に流量を増大させることによりベーンの飛び出し性を向上させることができる。また、油温が低い場合には、一時的に流量を増大させることにより、油温の上昇を早めることができる。これにより、上記(1)もしくは(2)に記載の作用効果のうち、少なくとも一つを有するといえる。
【0030】
4−(4):上記(3)に記載のポンプ装置において、ソレノイド21aは、エンジンを制御するエンジンコントロールユニット13からの出力信号に基づき、流量増大制御が行われる。
エンジンコントロールユニットからの出力信号に基づき、ソレノイド21aを駆動制御することにより、より適切にソレノイド21aの制御を行うことができる。例えば、エンジンの始動完了を検出することにより、確実にエンジンの始動が完了した後にソレノイド21aの流量増大制御が行われるため、クランキング中にポンプ負荷が増大することがなく、よりセルモータ負荷を低減させることができる。
【0031】
5−(8):上記3−(3)に記載のポンプ装置において、ソレノイド21aは、クランキング開始時から所定時間経過後、流量増大制御が行われる。
クランキング時間は、おおよそ決まっているため、クランキング開始時から所定時間経過後に増大制御を行うことにより、簡便にエンジン始動後の流量増大制御を行うことができる。
【0032】
6−(11):上記1−(1)に記載のポンプ装置において、ソレノイド21aは、駆動軸20a1の回転速度が一定の場合、非通電状態のとき固有吐出量が最小となり、通電量が増大するほど固有吐出量が増大するように設けられる。
クランキング中に実施される固有吐出量減少制御におけるソレノイド通電量を抑制することができる。よって、クランキング時におけるバッテリ負荷を抑制することができる。
【0033】
7−(12):上記6−(11)に記載のポンプ装置において、ソレノイド21aは、クランキング中において非通電状態に維持される。
ソレノイド21aを非通電状態とすることにより固有吐出量の低減を図ると共に、バッテリ負荷の低減を図ることができる。
【0034】
8−(13):上記1−(1)に記載のポンプ装置において、ソレノイド21aは、クランキング中の流量低減制御における固有吐出量が車両の走行状態、且つ、非操舵状態における固有吐出量よりも小さくなるように制御される。
クランキング時におけるポンプ負荷の低減を図ると共に、走行中における操舵応答性を高めることができる。
【0035】
9−(15):車両用操舵装置に作動液を供給するポンプ装置であって、ポンプ要素収容部20eを有するポンプハウジング20dと、ポンプハウジング20dに軸支される駆動軸20a1と、ポンプ要素収容部20eに移動可能に設けられた環状のカムリング20cと、カムリング20c内に設けられ、駆動軸20a1の回転駆動によって吸入した作動液を吐出すると共に、駆動軸20a1に対するカムリング20cの偏心量の変化に伴い1回転当たりの吐出流量である固有吐出量を変化させるポンプ要素と、操舵角、操舵角速度または操舵角加速度を検出または推定し、操舵状態検出信号として操舵角θ、操舵角速度ωまたは操舵角加速度dω/dtを出力する操舵状態検出手段と、カムリング20cの偏心量を制御するソレノイド21aと、操舵状態検出信号及び車両速度に応じてソレノイド21aを駆動制御するソレノイド駆動信号を決定し、ソレノイド21aへ出力するコントロールユニット10と、を備え、コントロールユニット10は、車両のエンジンのクランキング中において、固有吐出量が減少する方向にカムリング20cが移動するようにソレノイド21aを制御する。これにより、上記1−(1)に記載のポンプ装置と同様の作用効果を得ることができる。
【0036】
10−(16):上記9−(15)に記載のポンプ装置において、コントロールユニット10は、エンジンを制御するエンジンコントロールユニット13からの出力信号に基づきエンジン始動を判断し、エンジン始動後、固有吐出量が増大する方向にカムリング20cが移動するようにソレノイド21aを制御する。これにより、上記3−(3)及び上記4−(4)に記載のポンプ装置と同様の作用効果を得ることができる。
【0037】
11−(17):上記9−(15)に記載のポンプ装置において、コントロールユニット10は、クランキング開始時から所定時間経過後、固有吐出量が増大する方向にカムリング20cが移動するようにソレノイド21aを制御する。これにより、上記5−(8)に記載のポンプ装置と同様の作用効果を得ることができる。
【0038】
12−(18):車両用操舵装置に作動液を供給するポンプ装置の制御方法であって、ポンプ装置は、ポンプ要素収容部20eを有するポンプハウジング20dと、ポンプハウジング20dに軸支される駆動軸20a1と、ポンプ要素収容部20eに移動可能に設けられた環状のカムリング20cと、カムリング20c内に設けられ、駆動軸20a1の回転駆動によって吸入した作動液を吐出すると共に、駆動軸20a1に対するカムリング20cの偏心量の変化に伴い1回転当たりの吐出流量である固有吐出量を変化させるポンプ要素と、操舵角、操舵角速度または操舵角加速度を検出または推定し、操舵状態検出信号として操舵角θ、操舵角速度ωまたは操舵角加速度dω/dtを出力する操舵状態検出手段と、通電量が増大するほどカムリング20cの偏心量が増大するようにカムリング20cの偏心量を制御するソレノイド21aと、操舵状態検出信号及び車両速度に応じてソレノイド21aを駆動制御するソレノイド駆動信号を決定し、ソレノイド21aへ出力するコントロールユニット10と、を備え、車両のエンジンのクランキング状態を検出し、クランキング中はソレノイド21aをカムリング4cの偏心量が減少する方向にソレノイド21aに対してソレノイド駆動信号を出力し維持する第1ステップと、クランキングの終了を検出する第2ステップと、クランキングの終了後、カムリング20cの偏心量が増大する方向にソレノイド21aに対してソレノイド駆動信号を出力する第3ステップと、を有する。これにより、上記1−(1)に記載のポンプ装置と同様の作用効果を得ることができる。
【0039】
13−(19):上記12−(18)に記載のポンプ装置の制御方法において、第2ステップは、エンジンを制御するエンジンコントロールユニット13からの出力信号に基づきクランキングの終了が検出される。これにより、上記4−(4)に記載のポンプ装置と同様の作用効果を得ることができる。
【0040】
14−(20):上記12−(18)に記載のポンプ装置の制御方法において、第2ステップは、クランキング開始から所定時間が経過したことをもってクランキングの終了と判断される。これにより、上記5−(8)に記載のポンプ装置と同様の作用効果を得ることができる。
【実施例2】
【0041】
次に、実施例2について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
〔クランキング・始動判定処理〕
図11は実施例2のクランキング・始動判定処理を表すフローチャートである。図7に示すステップ308において実行される処理である。
ステップ601では、エンジン状態情報を取得し、エンジンが回転中か否かを判断する。具体的にはエンジンが自立回転を開始したことを表す所定回数Nth以上か否かを判断し、所定回転数Nth以上のときはエンジン回転中と判断し、所定回転数Nth未満のときはエンジン回転中ではないと判断する。エンジン回転中と判断したときはステップ602へ進み、エンジン回転中ではないと判断したときはステップ609へ進む。
ステップ602では、エンジン回転始動判定タイマTstartをカウントアップする。
ステップ603では、エンジン回転始動判定タイマ値がエンジン始動判定時間Tstart_th以上か否かを判断し、Tstart_th以上のときはステップ604へ進み、それ以外のときはカウントアップが成されるまでカウントアップを継続する。
ステップ604では、クランキング・フラグFcrankingをクリアする。
ステップ605では、エンジン回転中タイマTrunnningをカウントアップする。
ステップ606では、エンジン回転中タイマTrunningが、エンジン回転が安定した状態を表す閾値Trun_th以上か否かを判断し、Trun_th以上のときはステップ607へ進み、Trun_th未満のときはステップ608へ進む。Trun_th以上のときはエンジンが安定して自立回転を始めたと判断できる値である。
ステップ609では、クランキング・フラグFcrankingをセットする。
ステップ610では、エンジン回転中タイマTrunningをクリアする。クランキングが終了してからエンジン回転中タイマのカウントアップを行うためである。
ステップ611では、エンジン回転始動判定タイマTstartをクリアする。
ステップ612では、エンジン回転中フラグFrunningをクリアする。
【0042】
すなわち、実施例1ではエンジン回転数が所定回転数以上になると目標吐出流量をQ1からQ2に変更することとした。これに対し、実施例2では、エンジン回転数が所定回転数Nth以上になると、エンジン始動が確実に行われ、自立回転を始めたと考えられる所定時間Tstart_thが経過したときに目標吐出流量をQ1からQ2に変更することとしている。これにより、更にエンジン始動時のポンプ駆動負荷を低減することが可能となり、更にエンジン始動性を向上することができる。
【実施例3】
【0043】
次に、実施例3について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
〔クランキング・始動判定処理〕
図12は実施例3のクランキング・始動判定処理を表すフローチャートである。図7に示すステップ308において実行される処理である。ステップ701〜702は図8のステップ501〜502と同じであり、ステップ704〜712は図8のステップ503〜511と同じである。よって、異なるステップについてのみ説明する。
ステップ703では、エンジンが暖機運転中か否かを判断し、暖機運転中のときはステップ707に進んでエンジン回転中フラグFrunningをセットし、それ以外のときはステップ704に進む。
ここで、暖機運転とは、エンジン水温等が低く、まだエンジンを自立回転させるにはエンジン内のフリクションロスが大きいと考えられるため、エンジン回転数を通常のアイドル回転数よりも所定回転数アップさせる状態のことをいう。一般に、車両を長時間放置後はエンジンの温度が低下しており、また、外気温が低い場合には、エンジンフリクションが高い傾向が強い。この場合には、エンジンフリクションを打ち負かすためにエンジンコントロールユニット13においてアイドル回転数をアップさせている。この場合、パワーステアリング装置を作動させる作動液の油温も低いと考えられ、やはり粘性抵抗が強いおそれがあり、違和感を招くおそれがある。そこで、暖機運転状態では、流量増大制御を実行し、パワーステアリング装置の作動油をより大きく循環させることで、油温の上昇を早めることができる。
以上説明したように、実施例3にあっては、実施例1の作用効果に加えて、下記の作用効果を得ることができる。
【0044】
15−(5):上記4−(4)に記載のポンプ装置において、ソレノイド21aは、エンジンの暖気運転状態において、流量増大制御が行われる。
暖気運転状態では、パワーステアリング装置の油温も低い状態である可能性が高い。この状態で流量増大制御を行うことにより、油温の上昇を早めることができる。
【実施例4】
【0045】
次に、実施例4について説明する。基本的な構成は実施例3と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
〔クランキング・始動判定処理〕
図13は実施例4のクランキング・始動判定処理を表すフローチャートである。図7に示すステップ308において実行される処理である。ステップ801〜802は図12のステップ701〜702と同じであり、ステップ804〜812は図12のステップ703〜712と同じである。よって、異なるステップについてのみ説明する。
実施例3では、ステップ703において暖機運転中か否かをエンジンコントロールユニット13からの情報に基づいて判断した。これに対し、実施例4では、ステップ803において、エンジン回転数がアイドル回転数を表す所定回転数NIdle_th以下か否かを判断する点が異なる。エンジン回転数がNIdle_thよりも高いと判断したときは、暖機運転に伴うアイドルアップが行われているため、ステップ807に進みエンジン回転中フラグFrunningをセットすることで所定流量2をセットし、流量増大制御を行う。一方、エンジン回転数がNIdle_th以下と判断したときは、アイドルアップしていないため、ステップ804以降に進み、所定条件が成立した後、所定流量2から通常制御に切り換える。
以上説明したように、実施例4にあっては、暖機運転状態をエンジン回転数に基づいて判断することで、実施例3と同様の作用効果を得ることができる。
【実施例5】
【0046】
次に、実施例5について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
〔クランキング・始動判定処理〕
図14は実施例5のクランキング・始動判定処理を表すフローチャートである。図7に示すステップ308において実行される処理である。ステップ1601〜1604は図8のステップ501〜504と同じであり、ステップ1607〜1613は図8のステップ505〜511と同じである。よって、異なるステップについてのみ説明する。
実施例1では、エンジン回転中タイマTrunningによって所定流量2に設定する、すなわち流量増大制御を実行する期間を設定した。これに対し、実施例5では、エンジン回転中タイマTrunningが所定時間Trun_thより短い場合であっても、ドライバによるアクセルペダル操作があった場合には、エンジン回転中フラグFrunningをクリアし、流量増大制御を行うことなく通常制御処理を実行する。アクセルペダル操作が無かった場合であっても、エンジン回転数が暖気運転状態を表す所定回転数以下のときは、暖機運転中ではなく、特にパワーステアリング装置の油温も低くないと判断して流量増大制御を実行しない点が異なる。
【0047】
ステップ1605では、アクセル操作が行われたか否かを判断し、アクセル操作が行われたと判断したときは、エンジン回転数がこれから上昇すると判断し、自然に吐出流量の増大が達成されることから流量増大制御は必要ないと判断してステップ1607に進み、エンジン回転中フラグFrunningをクリアする。
ステップ1606では、エンジン回転数が所定回転数NIdle_th未満か否かを判断し、所定回転数NIdle_th未満のときは、暖気運転中ではないと判断してステップ1607に進み、所定回転数NIdle_th以上のときは暖機運転中と判断してステップ1608に進む。
以上説明したように、実施例5あっては、実施例1の作用効果に加えて、下記の作用効果を得ることができる。
【0048】
16−(6):上記15−(5)に記載のポンプ装置において、ソレノイド21aは、アクセルペダル操作が無く、且つ、エンジン回転数が所定回転数NIdle_th以上のとき暖気運転状態であるとして、前記流量増大制御が行われる。
アクセル操作量とエンジン回転数に基づき暖気運転状態を検出することにより、簡便に暖気運転状態を判断することができる。
【実施例6】
【0049】
次に、実施例6について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。図15は実施例6の車両用操舵装置の制御構成を表す制御ブロック図である。実施例6では、コントロールユニット10に入力される信号として、CAN通信線CAN Busではなく、直接、センサ信号が入力される三つのセンサを追加した点が異なる。
外気温センサ16は、車外の気温を検出し、インターフェース106を介してマイコンMPUに入力する。エンジン水温センサ17は、エンジンの冷却水の温度を検出し、インターフェース107を介してマイコンMPUに入力する。パワーステアリング油温センサ18は、パワーステアリング装置の油温を検出し、インターフェース108を介してマイコンMPUに入力する。尚、これらのセンサ信号は、コントロールユニット10と直接的に接続される構成としたが、他のコントローラ等において検出し、CAN通信線CAN Busを介して信号を入力する構成としてもよい。
【0050】
〔クランキング・始動判定処理〕
図16は実施例6のクランキング・始動判定処理を表すフローチャートである。図7に示すステップ308において実行される処理である。ステップ901〜902は図8のステップ501〜502と同じであり、ステップ905〜913は図8のステップ503〜511と同じである。よって、異なるステップについてのみ説明する。
ステップ903では、パワーステアリング装置の油温Thを読み込む。
ステップ904では、油温Thが低温を表す所定油温Thrun_th以上か否かを判断し、所定油温Thrun_th以上のときはステップ905に進み、所定油温Thrun_th未満のときはステップ908に進み、油温を効率的に上昇させるべく所定流量2に設定し、流量増大制御を実行する。
尚、実施例6ではパワーステアリング装置の作動油の油温Thを検出したが、エンジン水温又は外気温を使用して判断してもよいし、これらを適宜組み合わせて判断してもよい。
以上説明したように、実施例6あっては、実施例1の作用効果に加えて、下記の作用効果を得ることができる。
【0051】
17−(7):上記15−(5)に記載のポンプ装置において、ソレノイド21aは、エンジンの水温又は油温を検出する温度センサの出力信号に基づき暖機運転状態であるとして、流量増大制御が行われる。
温度センサに基づき暖気運転状態を検出することにより、正確に暖機運転状態を判断することができる。
【0052】
18−(10):上記3−(3)に記載のポンプ装置において、ソレノイド21aは、エンジン水温、エンジン油温または操舵装置作動液温度が低いほど流量増大制御の実行時間が長くなるように制御されるように構成してもよい。具体的には、油温等を読み込み、油温が低いほどエンジン回転が安定した状態を表す閾値Trun_thを長く設定する。
このように、温度が低いほど流量増大制御の実行時間を長くすることにより、低温時において流量増大による油温上昇効果をより大きく得ることができる。
【実施例7】
【0053】
次に、実施例7について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
〔クランキング・始動判定処理〕
図17は実施例7のクランキング・始動判定処理を表すフローチャートである。ステップ1001〜1007は図8のステップ501〜507と同じである。よって、異なるステップについてのみ説明する。
【0054】
ステップ1007では、エンジン状態情報を読み込み、クランキング中か否かを判断する。クランキング中のときはステップ1008へ進み、クランキング中以外のときはステップ1009へ進む。
ステップ1008では、エンジン回転数が所定回転数NIdle_th以上か否かを判断し、所定回転数NIdle_th以上のときは、クランキング終了と判断してステップ1002へ進み、所定回転数NIdle_th未満のときはクランキングを継続すると判断してステップ1010に進む。
ステップ1009では、エンジン状態情報を読み込み、エンジンが停止中か否かを判断する。停止中と判断したときはステップ1010へ進み、それ以外のときは完全にエンジンが自立回転を始めた後と判断して本制御フローを終了する。
ステップ1010では、クランキング・フラグFcrankingをセットする。
ステップ1011では、エンジン回転中タイマTrunningをクリアする。
ステップ1012では、エンジン回転中フラグFrunningをクリアする。
【0055】
例えば、アイドルストップ車両などの場合、イグニッションオンの状態のまま、信号待ち等でエンジンのアイドリングを停止するアイドルストップ制御が実行される。この場合、エンジン再始動が即座に実行できる条件を満たしたときにアイドルストップが行われるのが一般的である。このとき、エンジン再始動指令が出力され、セルモータが作動すると、通常のエンジン始動時よりも素早くエンジンが自立回転を始めることが知られている。よって、実施例7では、このようなアイドルストップ車両に適用するにあたり、クランキング中であってもエンジン回転数が所定回転数NIdle_th以上になった場合には、即座にクランキング・フラグをクリアし、エンジン回転中タイマTrunningのカウントアップを開始することで、最適なポンプ装置の制御を実行できる。
【実施例8】
【0056】
次に、実施例8について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
〔クランキング・始動判定処理〕
図18は実施例8のクランキング・始動判定処理を表すフローチャートである。
ステップ1101では、エンジン状態情報を読み込み、エンジンが回転中か否かを判断する。回転中と判断したときはステップ1102に進み、それ以外のときはステップ1109へ進む。
ステップ1102では、エンジン回転数がエンジンストール発生の虞がある所定回転数NStop_th以下のときはステップ1112へ進み、NStop_thよりも大きいときはステップ1103へ進む。
ステップ1103では、クランキング・フラグFcrankingをクリアする。
ステップ1104では、エンジン回転数が自立回転を表す所定回転数NIdle_th以下か否かを判断し、NIdle_th以下のときはステップ1105へ進み、NIdle_thより大きいときはステップ1108へ進む。
ステップ1105では、エンジン回転中タイマTrunningをカウントアップする。
ステップ1106では、TrunningがTrun_th以上か否かを判断し、Trun_th以上のときはステップ1107へ進み、Trun_th未満のときは本制御フローを繰り返す。
ステップ1108では、エンジン回転中フラグFrunningをセットする。
ステップ1109では、エンジン状態情報を読み込み、クランキング中か否かを判断する。クランキング中と判断したときはステップ1110へ進み、それ以外のときはステップ1114へ進む。
ステップ1110では、エンジン回転数が自立回転を表す所定回転数NIdle_th以上か否かを判断し、NIdle_th以上のときはステップ1102に進んでエンジン回転中処理を実行し、NIdle_th未満のときはステップ1111に進む。
ステップ1111では、エンジン回転中タイマTrunningをクリアする。
ステップ1112では、クランキング・フラグFcrankingをセットする。
ステップ1113では、エンジン回転中フラグFrunningをクリアする。
ステップ1114では、エンジン状態情報を読み込み、エンジンが停止中か否かを判断する。停止中と判断したときはステップ1111に進み、エンジン作動中と判断したときは本制御フローを繰り返す。
【0057】
次に上記フローチャートの作用について説明する。図19は実施例8のクランキング・始動判定処理を表すタイムチャートである。時刻t1からt3までは実施例1と同じであるため、それ以降について説明する。
時刻t31において、エンジン始動後であっても、予想以上の負荷が発生したり、燃焼不足といった何らかの理由によってエンジン回転数が低下し始めると、ポンプ装置の吐出圧も低下すると共に、カムリング20cの偏心量も増大し、エンジン駆動負荷の増大を招く。
時刻t32において、エンジン回転数がNStop_th以下になると、クランキング・フラグFcrankingがセットされ、エンジン回転中・フラグFrunningがクリアされる。これにより、目標吐出流量は所定流量2(Q2)から所定流量1(Q1)に変更され、カムリング20cの偏心量は小さくなり、エンジン負荷が軽減される。
時刻t33において、エンジン回転数がNStop_thよりも大きくなると、クランキング・フラグFcrankingがクリアされ、その直後の時刻t34において、エンジン回転数が自立回転を表す所定回転数NIdle_thを越えるとエンジン回転中・フラグFrunningがセットされる。これにより、目標吐出流量は、再度、所定流量1(Q1)から所定流量2(Q2)に変更される。
アイドルアップ状態からエンジンの暖気が進行し、所定の条件を満たすと徐々にエンジン回転数が低下し始める。そして時刻t41において、エンジン回転数がNIdle_thエンジン回転中タイマTrunningのカウントアップが開始される。
時刻t42において、タイマ値がTrun_thに到達すると、エンジン回転中フラグFrunningがクリアされ、目標吐出流量は通常制御時に設定される目標吐出流量(Q3)に設定される。
【0058】
以上説明したように、実施例8にあっては下記の作用効果を得ることができる。
19−(14):上記1−(1)に記載のポンプ装置において、ソレノイド20cは、エンジン始動後、且つ、エンジン回転数が所定回転数NStop_th以下のとき、流量低減制御が行われる。
エンジンストール発生の虞をエンジン回転数で判断し、その場合、固有吐出量を低減させ、ポンプ負荷を低減させることにより、エンジンストールを抑制することができる。
【実施例9】
【0059】
次に、実施例9について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点につてのみ説明する。図20は実施例9のエンジン始動時・目標吐出流量算出処理を表すフローチャート、図21は実施例9のエンジン始動時・目標吐出流量算出処理を実行した際のタイムチャートである。実施例1では、目標吐出流量が所定流量1(流量低減制御)から所定流量2(流量増大制御)に変更する際、一気に変更する構成とした。これに対し、実施例9では、流量増大制御に切り換えるにあたり、通電量が漸増するように制御するものである。
【0060】
ステップ1201では、タイマカウンタTQをカウントアップする。
ステップ1202では、タイマカウンタTQのカウント値が所定時間T1未満か否かを判断し、所定時間T1未満のときはステップ1203へ進み、所定時間T2以上のときはステップ1204へ進む。
ステップ1203では、目標吐出流量Q=Qaに設定する。Qaとは、所定流量1よりも大きな値であり、最大吐出流量であるQ2の半分以下に設定された値である。所定時間T1の間はQaに設定することで、ある程度の応答性を確保しつつキャビテーションの発生を抑制する。
ステップ1204では、タイマカウンタTQのカウント値が所定時間T2より大きいか否かを判断し、所定時間T2より大きいときはステップ1205へ進み、それ以外のときはステップ1206へ進む。
ステップ1205では、目標吐出流量Q=Q2に設定する。Q2は所定流量2であり、最大吐出流量である。
ステップ1206では、下記式により算出される目標吐出流量Qを所定時間(T2−T1)かけて徐々にQaからQ2に増大させるように設定する。
Q={(Q2−Qa)/(T2−T1)}・(TQ−T1)+Qa
これにより、キャビテーションの発生を抑制する。
【0061】
以上説明したように、実施例9にあっては下記の作用効果を得ることができる。
20−(9):上記3−(3)に記載のポンプ装置において、ソレノイド21aは、流量増大制御において、通電量が漸増するように制御される。
流量増大制御の際、通電量を漸増させることにより、カムリングの移動が緩やかになり、急激な流量増大に伴うキャビテーションの発生を抑制することができる。
【実施例10】
【0062】
次に、実施例10について説明する。基本的な構成は実施例9と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。図22は実施例10のエンジン始動時・目標吐出流量算出処理を表すフローチャート、図23は実施例10のエンジン始動時・目標吐出流量算出処理を実行した際のタイムチャートである。実施例9ではQaからQ2に所定時間(T2−T1)かけて徐々に変更する構成とした。これに対し、実施例10では、所定流量勾配ΔQで上昇させ、所定時間(T2−T1)経過後、所定流量2(Q2)に変更するものである(図23参照)。ステップ1301〜ステップ1305までは、図13に示すステップ1201〜1205までと同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
ステップ1306では、下記式により算出される目標吐出流量Qを所定時間(T2−T1)かけて徐々にQaからQ2に増大させるように設定する。
Q=Q+ΔQ
これにより、実施例9と同様の作用効果を得ることができる。また、前回目標吐出流量値QにΔQを加算するだけであり、演算負荷を軽減することができる。
【実施例11】
【0063】
次に、実施例11について説明する。基本的な構成は実施例9と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。図24は実施例11のエンジン始動時・目標吐出流量算出処理を表すフローチャート、図25は実施例11のエンジン始動時・目標吐出流量算出処理を実行した際のタイムチャートである。実施例9ではQaからQ2に所定時間(T2−T1)かけて徐々に変更する構成とした。これに対し、実施例11では、上に凸の特性で流量を上昇させ、所定時間(T2−T1)経過後、所定流量2(Q2)に変更するものである(図25参照)。ステップ1401〜ステップ1405までは、図13に示すステップ1201〜1205までと同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
ステップ1406では、下記式により算出される目標吐出流量Qを所定時間(T2−T1)かけて、上に凸の特性で、徐々にQaからQ2に増大させるように設定する。
Q=(Q2−Qa)・(1−exp(−(TQ−T1)/τ))+Qa
ここで、τとは時定数であり、実験結果等に基づいて適宜設定する値である。これにより、実施例9と同様の作用効果を得ることができる。
【実施例12】
【0064】
次に、実施例12について説明する。基本的な構成は実施例11と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。図26は実施例12のエンジン始動時・目標吐出流量算出処理を表すフローチャート、図27は実施例12のエンジン始動時・目標吐出流量算出処理を実行した際のタイムチャートである。実施例11では目標吐出流量Qを所定時間(T2−T1)かけて、上に凸の特性で、徐々にQaからQ2に増大させる構成とした。これに対し、実施例12では、下に凸の特性で流量を上昇させ、所定時間(T2−T1)経過後、所定流量2(Q2)に変更するものである(図27参照)。ステップ1501〜ステップ1505までは、図13に示すステップ1201〜1205までと同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
ステップ1506では、下記式により算出される目標吐出流量Qを所定時間(T2−T1)かけて、上に凸の特性で、徐々にQaからQ2に増大させるように設定する。
Q=(Q2−Qa)・(1−exp(−(T2−TQ)/τ))+Qa
ここで、τとは時定数であり、実験結果等に基づいて適宜設定する値である。これにより、実施例9と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0065】
1 ステアリングホイール
8 パワーシリンダ
10 コントロールユニット
11 舵角センサ
12 車速センサ
13 エンジンコントロールユニット
14 バッテリ
15 イグニッションスイッチ
16 外気温センサ
17 エンジン水温センサ
18 パワーステアリング油温センサ
20 オイルポンプ
20a ロータ
20a1 駆動軸
20b ベーン
20c カムリング
20c ソレノイド
20d ポンプハウジング
20e ポンプ要素収容部
21 ソレノイドバルブ
21a ソレノイド
21b 制御バルブ
23 油圧制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用操舵装置に作動液を供給するポンプ装置であって、
ポンプ要素収容部を有するポンプハウジングと、
前記ポンプハウジングに軸支される駆動軸と、
前記ポンプ要素収容部に移動可能に設けられた環状のカムリングと、
前記カムリング内に設けられ、前記駆動軸の回転駆動によって吸入した作動液を吐出すると共に、前記駆動軸に対する前記カムリングの偏心量の変化に伴い1回転当たりの吐出流量である固有吐出量を変化させるポンプ要素と、
操舵状態及び車両速度に基づき駆動制御され、前記カムリングの偏心量を制御するソレノイドと、
を備え、
前記ソレノイドは、車両のエンジンのクランキング中において、前記固有吐出量が減少する方向に前記カムリングが移動するように制御される流量低減制御が行われるにあたり、固有吐出量が車両の走行状態、且つ、非操舵状態における固有吐出量よりも小さくなるように制御されることを特徴とするポンプ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のポンプ装置において、
前記カムリングは、クランキング中に偏心量が減少する方向に移動することを特徴とするポンプ装置。
【請求項3】
請求項1に記載のポンプ装置において、
前記ソレノイドは、前記駆動軸の回転速度が一定の場合、非通電状態のとき固有吐出量が最小となり、通電量が増大するほど固有吐出量が増大するように設けられることを特徴とするポンプ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のポンプ装置において、
前記ソレノイドは、クランキング中において非通電状態に維持されることを特徴とするポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2013−32155(P2013−32155A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−198251(P2012−198251)
【出願日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【分割の表示】特願2009−288784(P2009−288784)の分割
【原出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】