説明

マイクロアレイシステム、およびマイクロアレイの製造方法

マイクロアレイの作製方法。前記方法は少なくとも1つの基準を有する基板上にマイクロビーズの母集団を配置する工程を含む。前記母集団は少なくとも2つの亜集団、好ましくは多数の亜集団からなり、各々が少なくとも1種の標的分析物に特異的に結合可能な既知の活性物質を含む。前記亜集団は、互いに別々の期間に順次配置される。前記方法は各亜集団を配置した後に基板のイメージを作成する工程も含む。次いで、基準を参照として用いて前記イメージを比較して、各イメージ間の相違に基づいてマイクロビーズ各々の位置を決定し、亜集団およびその既知の活性物質を同定する。前記マイクロアレイを使用するためのシステムも開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全般的に流体試料中の標的分析物の存在を同定するためのマイクロアレイに関する。本発明はマイクロアレイの製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロアレイは一般に生体分子を平坦な基板上に配置することにより製造される。公知のマイクロアレイ製造方法は2つの方法に分けられる:
1)生体分子の位置は、基板上への生体分子のトランスファーに先立って指定される(「規則的生体分子配置(ordered biomolecule deposition)」);および
2)生体分子の位置は、基板上にランダムに割り当てられる(「ランダム生体分子配置(random biomolecule deposition)」)。
【0003】
規則的生体分子配置は、圧倒的に最も一般的なマイクロアレイ製造方法である。詳細な実験の記載は:Schena,M.,“DNA Microarrays”,Oxford University Press,2001に示されている。技術的概説は:Vivian G.,et al.“Making and reading microarrays”,Nature Genetics 21,15−19,1999にも示されている。公知のマイクロアレイ製造方法においては、分析物標的生体分子の基板へのトランスファーはロボットにより実行され、規則的アレイが作成される。通常、生体分子は緩衝液中に溶解される。典型的なトランスファー量は0.1nl〜1mlである。生体分子の例は、DNA、オリゴヌクレオチドおよびタンパク質である。
【0004】
生体分子溶液を基板上へスポットするためには様々な技術が利用可能である。スポッティング技術は2つの群に分けられる:
1)プリンターと表面との間に物理的接触が無い技術;および
2)印刷チップ(printing tip)と基板との間の物理的接触を利用する技術。
【0005】
第1の群の技術は、圧電誘起圧力もしくは熱誘起圧力によって小滴が生成され、加速されるバブルジェット(登録商標)技術、またはモーター駆動のマイクロシリンジを用いた液滴生成によるバブルジェット(登録商標)技術に基づいている(Okamoto T.,et al.“Microarray fabrication with covalent attachment of DNA using Bubble Jet technology”,Nature Biotechnology,18,438−441,2000)。
【0006】
第2の群の技術では、物理的接触により、小容量の試料溶液を保持して、この溶液の一部を基板上へトランスファーすることができる印刷チップを用いる。トランスファーされる容量は、印刷チップの形状、溶媒の性質および基板の疎水性に依存する。
【0007】
前記技術の全てにおいて、プリントヘッドまたはプリントピンは、グループ(通常8〜64)に分けられて、並行して複数の試料を印刷することができる。並行して印刷されるスポットの距離は、プリントヘッドまたはプリントピンの物理的サイズにより決定される。これにより、並行プリント工程における最小スポット距離は2〜5mmに制限される。高スポット密度を達成するためには、xおよび/またはy方向に小さいオフセットで多重印刷を行う必要がある。
【0008】
上記の公知の方法の全てにおいて、印刷されるスポットの数は、プリントヘッドと印刷工程との積に対して直線的であり、したがってアレイの大量製造は制限されている。
【0009】
製造時間は、製造されるチップの数、および印刷される具体的な生体認識因子の数に応じて直線的に増加する。アレイ密度は印刷機器の精度により制限される。ロボットに基づいた技術の欠点は、高スポット密度のアレイを多数製造するのに長い時間を必要とすることである。
【0010】
他のマイクロアレイ製造技術は、マイクロアレイ基板上への直接ポリマー合成に基づいており、国際公開第9210092号ならびに米国特許第5,405,783号および第5,770,722号に記載されている。これらの開示技術はオリゴヌクレオチドに限定されており、フォトリソグラフィ(photolithography)を利用している。前記開示技術は、極めて多数(数千)の異なるオリゴヌクレオチド配列が必要とされる場合にのみ経済的である。
【0011】
ランダム生体分子配置においては、生体分子スポットは基板上にランダムに作成される。一般的な手法では、マイクロビーズの混合物または亜集団群から作製されたマイクロビーズが用いられる。あるマイクロビーズがどの亜集団に属するかを決定するために、全てのマイクロビーズが符号化される必要がある。マイクロビーズを符号化する技術は、異なる色のフルオロフォア(fluorophore)で標識すること、異なる色を有するマイクロマイクロビーズで標識すること(国際公開第2004066210号 HYBRID RANDOM BEAD/CHIP BASED MICROARRAY)、金属タグにより標識すること(Lockhart,D.J.,et al.“Multiplex Metallica”,Nature Biotechnology,19,1122−1123,2001)、高周波数タグにより標識すること、蛍光エネルギー移動タグにより標識すること(Tong,A.K.,et al.“Combinatorial fluorescence energy transfer tags for multiplex biological assays”,Nature Biotechnology,19,756−759,2001)、オリゴヌクレオチドタグにより標識すること、または量子ドットで標識すること(Han,M.,et al. “Quantum−dot−tagged microbeads for multiplexed optical coding of biomolecules”,Nature Biotechnology 19,631−635,2001)に基づく。光学的サイン(optical signature)(蛍光など)による符号化は、さらに国際公開第0016101号、同第0061281号、および同第9853093号に記載されている。平面基板の代わりに遠位末端に色素を結合した光ファイバー束を利用する方法が米国特許第5,244,636号および同第5,250,264号に記載されている。光ファイバーを用いる利点は、異なる色素を用いることにより生じうる光の干渉の問題が回避されることである。
【0012】
表面近傍マイクロビーズの光制御動電アセンブリ(light−controlled electrokinetic assembly of microbeads near surfaces)(LEAPS)(Li et al.Tissue Antigens 63:518−528)として知られる方法により、エッチングされたシリコン素子内の高密度ビーズアレイチップに、多数のポリスチレンビーズ(〜3.2μm)をアセンブルすることができる。この方法においては、シリコンウエハーの裏側が金属電極と接触するよう設置される。次いで対極がウエハー表面上に分注された懸濁ビーズ溶液と接触する。交流電流を用いて、ビーズをチップ上の所定の低インピーダンス領域へと動かすことができる。約4000ビーズのアレイを300μm×300μmの領域内に配置して、ヒト白血球抗原遺伝子複合体の一塩基多型(SNP)解析に適用することに成功している。解析時間は報告されていないが、個々にアドレス可能な数千ものビーズをアセンブルする能力によって、このビーズアレイチップはハイスループットSNPジェノタイピングのための魅力的なプラットフォームとなっている。
【0013】
公知の方法において、個々のスポットまたはビーズの情報は、全てのビーズが基板上にランダムに配置された後、通常はアレイが分析に用いられるのと同時に読み取られる。マイクロビーズは復号化され、復号化データは、分析物に起因するマイクロビーズ特性変化を読み取ることにより得られるデータと組み合わせられる。符号化されたマイクロビーズを復号化するための自動情報処理は、国際公開第0047996号に記載されている。
【0014】
国際公開第0047996号に開示されるように、このような方法に関連した復号化手順の欠点は、復号化工程が複雑で時間がかかる可能性があるということである。国際公開第0047996号において、復号化工程には、固定化結合リガンドを含むマイクロビーズのランダムアレイに第1の複数の復号化結合リガンド(decoding binding ligands)が加えられて、第1のデータイメージが作成されることが必要とされる。第1の登録データイメージを作成するために基準(fiducial)が用いられる。第2の複数の復号化結合リガンドがマイクロビーズのランダムアレイに加えられ、第2のデータイメージが作成される。基準を用いて第2の登録データイメージが作成される。次いでコンピューターシステムを用いて第1および第2の登録データイメージを比較し、少なくとも2つの生物活性物質の位置を同定する。しかし、国際公開第0047996号に開示される復号化結合リガンドの使用には、重大な欠点がある。特に、全てのマイクロビーズの符号化コードを読み取るのに長い時間が必要とされ、Nolan J.P.et al. “Suspension array technology:evolution of theflat−array paradigm”,Trends in Biotechnology,20,9−12,2002にも議論されている。
【0015】
さらに、符号化システムの開発は困難であり、多くの処理工程を要する。符号化されたマイクロビーズを復号化するためには読み取り装置が必要とされる。例えば、異なるフルオロフォアにより作成されたマイクロビーズ暗号は多波長測定を必要とし、その結果、複数の光源およびフィルターが必要となる。これらの装置は精巧で高価である。上記の要素すべてにより、マイクロアレイの製造は、より複雑で、時間がかかり、実施費用の高いものになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第92/10092号
【特許文献2】米国特許第5,405,783号
【特許文献3】米国特許第5,770,722号
【特許文献4】国際公開第2004/066210号
【特許文献5】国際公開第00/16101号
【特許文献6】国際公開第00/61281号
【特許文献7】国際公開第98/53093号
【特許文献8】米国特許第5,244,636号
【特許文献9】米国特許第5,250,264号
【特許文献10】国際公開第00/47996号
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Schena,M.,“DNA Microarrays”,Oxford University Press,2001
【非特許文献2】Vivian G.,et al.“Making and reading microarrays”,Nature Genetics 21,15−19,1999
【非特許文献3】Okamoto T.,et al.“Microarray fabrication with covalent attachment of DNA using Bubble Jet technology”,Nature Biotechnology,18,438−441,2000
【非特許文献4】Lockhart,D.J.,et al.“Multiplex Metallica”,Nature Biotechnology,19,1122−1123,2001
【非特許文献5】Tong,A.K.,et al.“Combinatorial fluorescence energy transfer tags for multiplex biological assays”,Nature Biotechnology,19,756−759,2001
【非特許文献6】Han,M.,et al. “Quantum−dot−tagged microbeads for multiplexed optical coding of biomolecules”,Nature Biotechnology 19,631−635,2001
【非特許文献7】Li et al.Tissue Antigens 63:518−528
【非特許文献8】Nolan J.P.et al. “Suspension array technology:evolution of theflat−array paradigm”,Trends in Biotechnology,20,9−12,2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記の欠点のうちの1または複数を克服する、または少なくとも改善する、マイクロアレイ製造方法を提供する必要がある。
【0019】
上記の欠点のうちの1または複数を克服する、または少なくとも改善する、標的分析物の存在を同定するためのシステムを提供する必要がある。
【0020】
製造後にマイクロアレイを復号化する必要の無い、マイクロアレイ作製方法を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
第1の態様によれば:
マイクロビーズの母集団を少なくとも1つの基準を有する基板上に配置する工程であって、前記母集団が少なくとも2つの亜集団からなり、各亜集団が少なくとも1種の標的分析物に特異的に結合可能な既知の活性物質を含み、前記亜集団が互いに別々の期間に順次配置される当該工程;
各亜集団の配置後ごとに前記基板のイメージを作成する工程;および
前記基準を参照として用いて前記イメージを比較し、各イメージ間の相違に基づいてマイクロビーズ各々の位置を決定して、前記亜集団およびその既知の活性物質を同定する工程
を含む、マイクロアレイ製造方法が提供される。
【0022】
有利なことに、比較工程によりマイクロビーズの復号化が可能となり、この工程では前記少なくとも1つの基準に対するマイクロビーズ各々の位置、およびその各々の亜集団が決定される。より有利なことには、イメージング工程が前記マイクロビーズの順次配置工程の間で行われる。
【0023】
有利なことに、前記方法には、基板上に全てのマイクロビーズが設置された後にマイクロアレイを復号化する工程が含まれない。復号化はマイクロアレイの製造中に基板上にマイクロビーズを配置しながら行われる。
【0024】
有利なことに、マイクロビーズをランダムに基板上に配置することができる。
【0025】
有利なことに、前記方法では、マイクロビーズ各々の位置、およびその各々の母集団を決定するために、復号化結合リガンドなどの識別子またはタグを用いる必要がない。したがって、一実施形態では、前記方法には、復号化結合リガンドなどの識別子またはタグを用いてマイクロアレイを復号化する工程が含まれない。
【0026】
一実施形態においては:
第1の亜集団のマイクロビーズを少なくとも1つの基準を有する基板上に配置し、前記亜集団が少なくとも1種の標的分析物に特異的に結合可能な活性物質を含み;
前記の第1の亜集団のマイクロビーズをイメージングし;
第2の亜集団のマイクロビーズを前記基板上に配置し、前記の第2の亜集団は、前記第1の母集団の標的分析物とは異なる少なくとも1種の標的分析物に特異的に結合可能である既知の活性物質を含み;
前記第1の亜集団および第2の亜集団のマイクロビーズをイメージングし;
前記第1の亜集団および第2の亜集団のイメージを比較して、前記少なくとも1つの基準に対するマイクロビーズ各々の位置、およびその亜集団を決定すること;
を含む、マイクロアレイの製造方法が提供される。
【0027】
したがって、活性物質は各亜集団に対して既知であるので、マイクロビーズの化学的機能または生物学的機能を測定するために、さらなる復号化工程を行う必要がない。
【0028】
前記方法は、前記マイクロビーズおよびマイクロビーズの位置およびその亜集団を示すデータを記録する工程を含んでいてもよい。記録工程は、コンピューターの記憶部内に前記データを記録することを含んでいてもよい。
【0029】
活性物質は生物活性物質であってもよい。生物活性物質はタンパク質または核酸であってもよい。
【0030】
本方法は、前記マイクロビーズを化学的反応基で官能化する工程を含んでいてもよい。
【0031】
本方法は、各亜集団の配置後、前記基板に付着しなかったマイクロビーズを除去することを含んでいてもよい。本方法は、前記基板上に少なくとも1つの基準を形成する工程を含んでいてもよい。
【0032】
本方法は、前記マイクロビーズを基板上に封じ込めることを容易にするために前記基板内に3次元構造を形成する工程を含んでいてもよい。3次元構造は実質的に平坦な基板に形成されたくぼみであってもよい。
【0033】
互いに別々の期間における前記亜集団の順次配置は、1〜10,000回行われてもよい。
【0034】
本発明の第2の態様によれば:
試料中の1種または複数種の標的分析物の存在を同定するためのマイクロアレイシステムであって、
少なくとも1つの基準を有する基板表面上に配置されたマイクロビーズのランダムな母集団であって、前記母集団が少なくとも2つの亜集団からなり、各亜集団が少なくとも1種の標的分析物に特異的に結合可能な既知の活性物質を含み、前記亜集団が互いに別々の期間に順次配置されたものである当該母集団;
前記少なくとも1つの基準に対するマイクロビーズ各々の位置およびその亜集団を記録する記憶部であって、前記マイクロビーズ各々の位置およびその亜集団が前記互いに別々の順次配置期間の間で前記マイクロビーズのイメージを比較することにより決定されたものである当該記憶部;
前記試料との接触時における前記マイクロビーズの変化を検出するための検出器;および、
前記記憶部に問い合わせを行い、前記検出器から受け取ったデータを比較し、各マイクロビーズ各々の位置およびその亜集団に基づいて前記試料中の前記1種または複数種の標的分析物の存在を同定するためのプログラム命令に応答するプロセッサー;
を含む、当該マイクロアレイシステムが提供される。
【0035】
有利なことに、マイクロビーズの復号化は、前記システムの製造時に行われているため、前記マイクロアレイシステムがアセンブルされる時点では実施されない。
【0036】
前記マイクロアレイシステムは、前記記憶部内に保管するための復号化データを含んでいてもよく、この復号化データは前記基準に対する前記マイクロビーズ各々の位置および既知の活性物質を示すデータを含む。復号化データは、インターネットなどのコンピューターネットワークを介して転送するためのフォーマットであってもよい。前記復号化データにアクセスするために識別子が必要とされてもよい。
【0037】
第3の態様によれば、試料中の1種または複数種の標的分析物の存在を同定するためのシステムにおいて用いられるマイクロアレイが提供される。前記マイクロアレイは少なくとも1つの基準を有する基板表面上に配置されたマイクロビーズのランダムな母集団を含み、前記母集団が少なくとも2つの亜集団からなり、各亜集団が少なくとも1種の標的分析物に特異的に結合可能な既知の活性物質を含み、前記亜集団の各々は互いに別々の期間に順次配置されて、前記別々の配置期間に取得された比較イメージから前記基準に対するマイクロビーズ各々の位置およびその亜集団を決定することが可能となる。第4の態様によれば、試料中の標的分析物を同定するための方法が提供され、前記方法は、
第3の態様で定義される前記マイクロアレイに前記試料を接触させる工程;
前記活性物質が前記試料中に存在する標的分析物に結合したことの指標となる変化をした前記マイクロビーズ亜集団を同定する工程;および
前記変化を示す前記マイクロビーズの位置および既知の活性物質に基づき、前記試料中に存在する任意の標的分析物の存在を同定する工程;
を含む。
【0038】
前記変化は光学的変化であってもよい。前記試料を分析するための方法は、前記マイクロビーズと前記標的分析物との結合を示す光学的サインを提供する工程を含んでいてもよい。
【0039】
添付の図面は開示される実施形態を例示し、開示される実施形態の原理を説明するために用いられる。しかし、図面は例示のみを目的としたものであり、本発明の範囲を定義するものではないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】開示される実施形態にしたがってマイクロアレイを製造する製造工程の概略図である。
【図2】試料のアプライ後にマイクロアレイを復号化するフローチャートの概略図である。
【図3】図3Aは、開示される実施形態にしたがってガラス基板上にアセンブルされたマイクロビーズの原子間力顕微鏡写真である。ガラス基板は、ポリアリルアミン塩酸塩によるコーティングによって正に荷電された。マイクロビーズは負電荷を帯びており、クーロン力によって固定される。図3B(i)は、第1の亜集団の3次元マイクロビーズ構造が、表面に形成されたゲルパッド(gel pad)基板上に形成されることを示す。図3B(ii)は、ゲルパッド基板上の第2の亜集団の3次元マイクロビーズ構造を示す。図3B(iii)は、標的分析物への結合により蛍光を呈する第1のサブグループの蛍光イメージを示す。図3Cは、マイクロウェルの3次元構造を有する基板上に固定されたポリスチロールマイクロビーズの走査電子顕微鏡写真を示す。
【図4】図4は、2種の標的分析物に対して別々の時間間隔で取得されたマイクロアレイ像を示す。図4Aは、抗IgG−FITCとインキュベートした後のIgGビーズからのシグナルを示す。図4Bは、Cy3標識オリゴ標的とインキュベートした後のオリゴビーズからのシグナルを示す。図4Cは、IgGビーズ、オリゴビーズおよびネガティブコントロールビーズからのシグナルを示す。図4Dおよび4Eに示すように、2種の異なるフィルターを用いてFITCおよびCy3シグナルを別々に可視化した。図4Dでは、Cy3シグナルをフィルタリングするフィルターが用いられ、IgGビーズのみが検出される。図4Eでは、FITCシグナルをフィルタリングするフィルターが用いられ、オリゴビーズのみが検出される。しかし、分析を行うために、2種の異なる色素が必要とされる訳ではない。
【発明を実施するための形態】
【0041】
定義
本明細書で用いられる次の単語および用語は以下に示された意味を有するものとする。
【0042】
本明細書で用いられる「マイクロアレイ」または「アレイ」という用語は、固相基板上のマイクロビーズ配置を指し、各マイクロビーズは、1種または複数種の標的分析物と結合しうる選択された生物活性物質を有する。マイクロビーズのサイズおよび基板のサイズに応じて、通常、マイクロアレイは2億から10億以上ものマイクロビーズを含む。
【0043】
本明細書で用いられる「ランダムアレイ」という用語は、各マイクロビーズが、通常、再現不可能な様式で基板上に任意に配置されるように製造されたアレイを指す。
【0044】
「マイクロビーズ」または「微小粒子」という用語、およびそれらの文法上の変化語は、マイクロメートルサイズの個別のマイクロビーズであって、直径が約0.1μm〜約1000μmの範囲であるものを指す。
【0045】
本明細書で用いられる「母集団」という用語は、マイクロアレイ上に配置されたマイクロビーズの全母集団を指す。本明細書で用いられる「亜集団」という用語は、母集団中の、全てが同一の活性物質を含むマイクロビーズの一群を指す。
【0046】
「活性物質」という用語は、標的分析物と反応しうる、または標的分析物に媒介的に結合する、任意の化学物質または生物学的作用物質を指す場合がある。活性物質は生物学的活性を示してもよく、明細書中で「生物活性物質」と呼ばれる場合がある。生物活性物質の例には、タンパク質、オリゴペプチド、有機小分子、配位錯体、細胞、細胞片、ウイルス粒子、抗原、多糖、およびポリヌクレオチドが含まれ、これらはマイクロビーズに付着または結合することができる。
【0047】
「標的分析物」という用語は、前記活性物質に結合しうる被検出物質を指す。標的分析物の例には、これらに限定されないが、核酸、ポリヌクレオチド、薬物、ホルモン、タンパク質、酵素、抗体、炭水化物、および抗原が含まれる。
【0048】
「特異的結合物質」という用語は、ある種の物質に対して特異的な親和性を有する物質を指す場合がある。例えば、試料中の標的分析物は、活性物質との特異的な結合反応を行うことが可能である。特異的物質と特異的結合物質との組み合わせの例には、抗原とそれに対応する抗体分子、核酸配列とその相補的配列、エフェクター分子とレセプター分子、酵素と阻害因子、糖鎖含有化合物とレクチン、抗体分子とその抗体に特異的な他の抗体分子、レセプター分子とそれに対応する抗体分子などの組み合わせが含まれる。特異的結合物質の他の例には、特異的結合活性が損なわれない程度に化学的に修飾された化合物、および他の成分に結合する化合物の複合体が含まれる。このような種類の特異的結合物質と特異的物質との組み合わせの例には、化学的にビオチン修飾された抗体分子またはポリヌクレオチドとアビジン、アビジン結合抗体分子とビオチンなどの組み合わせが含まれる。
【0049】
本明細書で用いられる「タンパク質」という用語は、共有結合した2つ以上のアミノ酸として定義することができ、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、およびペプチドが含まれる。
【0050】
本明細書で用いられる「アミノ酸」および「ペプチド」という用語は、それぞれ、天然および合成のアミノ酸およびアミノ酸鎖を指す。
【0051】
特に特に規定がない限り、「含んでいる」および「含む」という用語、ならびにそれらの文法上の変化語は、「非限定」または「包括的な」文言を表すことを意図し、これらは記載された要素を含むが、記載されていない要素をさらに含むことも許容する。
【0052】
本明細書で用いられる「約」という用語は、製剤の成分の濃度においては、通常、記載された値の±5%、普通には記載された値の±4%、記載された値の±3%、または記載された値の±2%、より普通には記載された値の±1%、およびさらに普通には記載された値の±0.5%を意味する。
【0053】
本開示を通して、いくつかの実施形態は数値幅の形式で開示される場合がある。当然のことながら、範囲の形式での記載は単に便宜上のもので、簡潔にするためであって、開示される数値幅を固定された範囲であると解釈してはならない。したがって、数値幅の記載は、この数値幅内の全ての可能な下位数値幅、および個々の数値を具体的に開示しているものと見なされるべきである。例えば、1〜6という数値幅の記載は、具体的に、1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6などの下位数値幅、およびその数値幅内の個々の数字、例えば1、2、3、4、5、および6を開示していると見なされるべきである。これは数値幅の大きさに関わりなく適用される。
【0054】
マイクロアレイシステム、マイクロアレイの製造方法、および前記マイクロアレイを用いて標的分析物を同定する手順の、例示的で非限定的な実施形態が以下に開示される。
【0055】
マイクロアレイの製造方法が開示される。本方法は、マイクロビーズの母集団を少なくとも1つの基準を有する基板上に配置する工程を含む。前記母集団は少なくとも2つの亜集団、好ましくは多数の亜集団からなり、各々が少なくとも1種の標的分析物に特異的に結合可能な既知の活性物質を含む。亜集団は、互いに別々の期間に順次配置される。前記方法は、各亜集団を配置した後に基板のイメージを作成する工程も含む。次いで、参照として前記基準を用いて前記イメージを比較して、各イメージ間の相違に基づいてマイクロビーズ各々の位置を決定し、亜集団およびその既知の活性物質を同定する。したがって、符号化/復号化手順はマイクロアレイの製造工程中に実行され、その製造後には実行されない。これは既知の活性物質の亜集団が別々の配置期間に順次配置され、各亜集団の配置後ごとに基板のイメージが取得されるためである。一実施形態では、少なくとも1つの基準に対するマイクロビーズ各々の位置が記録される。イメージはそれぞれの亜集団の配置工程の間に取得されるため、連続するイメージの間の相違を比較することにより、マイクロビーズ各々の位置のみならず、それに含まれる活性物質も知ることが可能となる。したがって、基板上の各マイクロビーズの化学的または生物学的活性物質は既知であるので、マイクロビーズが基板上に配置された後はマイクロアレイのいかなる復号化も行う必要もない。
【0056】
前記方法は基板を提供する工程を含んでいてもよい。基板はシリコン、プラスチック、ガラス、セラミック、ゴム、ポリマーまたはこれらの複合材料からなる群より選択されてもよい。一実施形態では、基板はシリコン、または二酸化ケイ素もしくは窒化ケイ素である。
【0057】
他の実施形態では、基板は疎水性または親水性の表面を有する。有利なことに、疎水性または親水性の前記表面は前記標的分析物を含む試料液体を引き寄せるために利用され、場合によっては不要な液体を破棄するために利用されてもよい。例えば、標的分析物が含水液体中に存在する場合、標的分析物をマイクロビーズに引き寄せることを促進するために、基板は親水性であってもよい。
【0058】
基板の例は、シリコン、変性シリコン、ガラスおよび変性ガラスまたは官能化ガラス、無機ガラス、プラスチック、アクリル、ポリスチレン、およびスチレンのコポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン、ポリウレタン、テフロン(登録商標)、多糖、ナイロン、ニトロセルロース、樹脂、シリカ、シリカ系材料、炭素、ならびに金属からなる群より選択される。好ましくは、一実施形態では、基板は自己蛍光を発さない。
【0059】
基板はその表面上に3次元的特徴を有していてもよい。前記3次元的特徴は、マイクロビーズを基板上に封じ込めることを容易にする、格子、線、くぼみ、ウェル、およびゲルパッド構造からなる群より選択されてもよい。一実施形態では、3次元的特徴はマイクロビーズの空間的位置の基準として役割を果たしてもよい。
【0060】
配置工程はマイクロビーズと基板との間に付着を形成する工程を含んでいてもよい。マイクロビーズの基板上への付着は、静電相互作用、イオン結合、共有結合、水素結合、疎水性相互作用、親水性相互作用および双極子間相互作用からなる群より選択される化学的相互作用に依存していてもよい。
【0061】
マイクロビーズの基板上への付着に先立って、基板は化学的反応基で官能化されてもよい。有利なことに、基板の化学的な官能化はマイクロビーズの基板への付着を促進しうる。
【0062】
化学反応基の例は、チオール、カルボキシル、脂肪族および芳香族アミン、カルボン酸、アルデヒド、アミド、クロロメチル基、ヒドラジド、ヒドロキシル基、スルホン酸および硫酸からなる群より選択されてもよい。官能化により化学的に修飾される部位を、マイクロビーズに共有結合的に、または非共有結合的に付着させるために用いてもよい。好ましくは、官能化は基板の特性にいかなる望ましくない変化も引き起こさない。
【0063】
マイクロビーズと基板との間に付着を形成する工程は、接着性物質を基板およびマイクロビーズの少なくとも1つに塗布する工程を含んでいてもよい。一実施形態では、接着性物質は基板に塗布される。使用できる接着剤の例には、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系、およびエポキシ系接着性物質が含まれる。最も好ましくは、接着性物質は、有意な自己蛍光を有さない。
【0064】
一実施形態では、前記方法は、基板に接着性のコーティングを施す工程を含んでいてもよい。他の実施形態では、前記方法は、基板上への配置前に、マイクロビーズに接着性のコーティングを施す工程を含んでいてもよい。
【0065】
前記方法は、あらかじめ作製されたマイクロビーズを基板上に配置する工程を含んでいてもよい。前記方法は、前記配置工程において基板に接着しなかったビーズを基板表面から除去する工程を含んでいてもよい。前記方法は、前記除去工程後に基板表面をイメージングする工程を含んでいてもよい。
【0066】
前記方法は基準を基板上に形成する工程を含んでいてもよい。複数の基準を基板上に提供してもよい。有利なことに、基準により、前記マイクロビーズの別々の期間における順次配置の間に取得された異なるイメージ間の均一で安定な比較が可能になる。好ましくは、異なるイメージを比較する際の不整合性を軽減するために複数の基準が用いられる。
【0067】
基準は多くの形態をとりうる。一実施形態では、基準は固有の光学的サインまたは他の検出可能な特徴を有するビーズであってもよい。他の実施形態では、基準は基板上の1または複数の明瞭な辺縁(edge)の形態であってもよい。さらに他の実施形態では、基準は基板表面上に見出される凹凸あってもよい。
【0068】
前記方法は、前記基準に対する、付着したマイクロビーズ各々の位置を記録する工程を含んでいてもよい。記録はコンピューターの記憶部内で行われてもよい。基準に対するマイクロビーズ各々の位置は、コンピューターの記憶部内のデータとして、単一マイクロビーズ各々の空間的位置とその対応する亜集団とを含んだデータ表(以後、「符号化/復号化データ表」と呼ぶ)の形式で記録されてもよい。したがって、符号化/復号化データ表は、基板上のマイクロビーズの位置とそのそれぞれの亜集団とを符号化しており、基準を参照して基板上のマイクロビーズの位置とそのそれぞれの亜集団とを決定するための復号化手段として用いることができる。上記のように、各亜集団はそれ自身に固有の既知の活性物質をマイクロビーズ上に有しており、それにより試料内に存在しうる特定の標的分析物を検出する能力を有する。
【0069】
好ましくは、マイクロビーズの各々と関連した位置および識別子データは、コンピューターの記憶部内の符号化/復号化データ表に記録されてもよい。したがってそれは、基準に対するマイクロビーズの位置、およびその官能性を決定することによってマイクロアレイを復号化するコンピュータープログラムの命令のもとで働くプロセッサーによって、容易にアクセスすることができる。コンピューターが読み取り可能な記憶部は、ランダムアレイからのデータイメージを受け取ることができるコンピューターコードを含み得る取得モジュール、および少なくとも1つの基準を用いてデータイメージを登録して登録データイメージを作成することができるコンピューターコードを含んだ登録モジュールを有していてもよい。登録データイメージは、必要に応じて記憶モジュール内に保存されてもよい。さらなるデータイメージを受け取ってさらなる登録データイメージを作成するために、同一のコンピューターコードを用いても、異なるコードを用いてもよく、この登録データイメージも保存されてもよい。好ましくは、コンピューターが読み取り可能な記憶部は、登録データイメージを比較してそれらの間の相違を決定し、アレイの復号化と標的分析物検出との両者を可能にすることができるコンピューターコードを含んだ比較モジュールをさらに含んでいてもよい。少なくとも2つの登録データイメージの比較により、アレイ上の少なくとも2つの固有の生物活性物質の位置の同定が可能になる。
【0070】
例えば、第1の亜集団(データセット「RDI−1])と、連続する第2の亜集団(データセット「RDI−2」)との間で登録データイメージが比較される。RDI−1には存在せず、RDI−2に位置する新たなマイクロビーズは、連続する第2の亜集団由来であると決定され、RDI−1に存在したがRDI−2には存在しなかったものは、第1の亜集団由来であると決定される。同様に、次の亜集団のイメージが比較され、それらの個々の亜集団群に当てはめられる。各亜集団1、2、・・・、nの位置および既知の活性物質を示すデータが符号化/復号化データ表に蓄積される。
【0071】
特定の基板に対する符号化/復号化データ表が、1種または複数種の標的分析物を潜在的に含んだ試料を分析することを所望する利用者に対して提供されてもよい。一実施形態では、利用者はマイクロアレイ上に位置する識別子(例えばシリアル番号など)を有するマイクロアレイを購入してもよい。利用者は識別子を利用して符号化/復号化データ表にアクセスすることができる。例えば、マイクロアレイと共に供給されるコンピュータープログラムに識別子を入力することにより、識別子が符号化/復号化データ表のロックを解除して、マイクロアレイを復号化することが可能となる。または、利用者は、(例えばそれをダウンロード可能にすることにより)符号化/復号化データ表へのアクセスを供与する、供給者のインターネットサイトに識別子を入力してもよい。これは、マイクロアレイの供給者がマイクロアレイに固有の符号化/復号化データ表へのアクセスを制御することが可能になることから、特に有利である。
【0072】
マイクロアレイの符号化、および復号化は製造工程において行われることから、マイクロアレイの作製者はマイクロアレイの使用を厳密に管理でき、不当なコピーを防止することができると想定される。符号化/復号化データ表がエンドユーザーに供給された時点で資金を受け取る場合には、マイクロアレイの販売に対して作製者が支払いを受けられる仕組みであってもよい。
【0073】
一実施形態では、開示されるマイクロビーズは不規則な形状のマイクロビーズであっても規則的な形状のマイクロビーズであってもよい。マイクロビーズは、微小球体、微小カプセル、微小ロッド(microrod)、微小立方体、および微小管からなる群より選択される形状も有していてもよい。最も好ましくは、前記マイクロビーズは微小球体である。大きな表面積が望まれる場合、マイクロビーズは多孔性であってもよい。典型的なマイクロビーズは、プラスチック、セラミック、ガラス、ポリスチレン、メチルスチレン、アクリルポリマー、常磁性体、トリアゾル(thoria sol)、カーボングラファイト、二酸化チタン、ラテックスもしくはセファロースなどの架橋デキストラン、セルロース、ナイロン、架橋ミセル、およびテフロン(登録商標)から選択される材料、または、ペプチド、核酸および有機質部分(organic moiety)合成に用いられるものと同様な組成物を用いて形成される。
【0074】
マイクロビーズのサイズは、約100nm〜約500μmの範囲であってもよい。より好ましくは、マイクロビーズのサイズは約1μm〜約10μmの範囲である。各マイクロビーズは、マイクロビーズ構造に付着したり、内部に組み込まれたりしている複数の活性物質から構成されていてもよい。一実施形態では、各マイクロビーズは単一の種類の生物活性物質を含む。
【0075】
一実施形態では、前記マイクロビーズに付着させる生物活性物質は、有機および無機化合物からなる群より選択されてもよい。好ましくは、生物活性物質は有機化合物である。他の実施形態では、生物活性物質はタンパク質である。前記タンパク質は、天然のタンパク質であっても合成的に合成されたタンパク質であってもよい。
【0076】
生物活性物質は、天然のタンパク質であっても天然のタンパク質由来の断片であってもよい。タンパク質を含む細胞抽出物、またはタンパク質性細胞抽出物のランダムもしくは制御された消化物を生物活性物質として用いてもよい。他の実施形態では、生物活性物質は核酸である。核酸は天然のものであっても合成的に合成されたものであってもよい。核酸は1本鎖であっても2本鎖であってもよく、2本鎖配列または1本鎖配列の部分を両方含んでいてもよい。核酸は、ゲノムDNAおよびcDNA、RNA、またはハイブリッドであってもよい。
【0077】
生物活性物質として用いられる天然の生体分子は、細菌、菌、植物および動物抽出物または産物の形態であってもよい。生物活性物質は、マイクロビーズへの付着に先立って、通常の化学的、物理的および生化学的手段により修飾されてもよい。
【0078】
生物活性物質は直接マイクロビーズ上で合成されてもよく、または作製後に合成して付着させてもよい。一実施形態では、生物活性物質をマイクロビーズに付着するためにリンカーが用いられ、より良好な付着が提供され、柔軟性の増大により標的分子との相互作用が改善されて、望ましくない結合または非特異的結合が減少する。マイクロビーズ上への生物活性物質の付着は、静電相互作用、イオン結合、共有結合、水素結合、および双極子相互作用からなる群より選択される化学的相互作用に依存していてもよい。マイクロビーズへの生物活性物質の付着に先立って、結合を促進するための化学反応基を用いてマイクロビーズを官能化してもよい。
【0079】
一実施形態では、標的分析物は有機分子であっても無機分子であってもよい。標的分析物は、ヌクレオチド配列、タンパク質、脂質部分、炭水化物部分、酵素、抗体および抗原からなる群より選択されてもよい。他の実施形態では、標的分析物は、環境汚染物質(例えば農薬、殺虫剤、毒素など);化学物質(例えば溶媒、ポリマー、有機物質など);治療用分子(例えば治療薬物および乱用薬物、抗生物質など);生体分子(例えばホルモン、サイトカイン、タンパク質、核酸、脂質、炭水化物、細胞膜抗原および受容体(神経受容体、ホルモン受容体、栄養受容体、および細胞表面受容体)、またはそれらのリガンド);細胞全体(例えば原核細胞(病原性細菌など)、および哺乳動物腫瘍細胞などの真核細胞など);ウイルス(例えばレトロウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、レンチウイルスなど);および胞子からなる群より選択される。標的分析物は核酸であってもタンパク質(例えば免疫グロブリン、酵素、ホルモンおよびサイトカイン)であってもよい。標的分析物の生物活性物質への特異的な結合は、静電相互作用、イオン結合、共有結合、水素結合および双極子相互作用からなる群より選択される化学的相互作用に依存するものであってもよい。
【0080】
標的分析物を潜在的に含む試料を分析するためにマイクロアレイを用いる場合、マイクロビーズおよび標的分析物のうちの少なくとも1つに光学的サインが付加されてもよい。有利なことに、光学的サインは、マイクロビーズの位置の同定、およびそれに続くマイクロビーズ上の生物活性物質の同定を促進するために用いることができる。光学的サインは、活性物質が標的分析物に結合すると光学的変化を示しうる。一実施形態では、光学的サインは、前記標的分析物を含んだ試料がマイクロビーズの活性物質に結合した後に適用される。
【0081】
光学的サインは標的分析物に結合されていてもよく、この標的分析物がマイクロビーズ上の対応する生物活性物質に結合する。光学的サインは、標的分析物に直接結合されていてもリンカー分子によって標的分析物に間接的に結合されてもよい。
【0082】
一実施形態では、光学的サインはレポーター色素の混合物であってもよく、好ましくは蛍光である。レポーター色素混合物の組成の変動は、出力光学シグナルの強度を変化させ、固有の光学的サインの可能な範囲を広範なものにする。
【0083】
前記方法は、光学的サインを光学検出器などの検出器で検出する工程を含んでいてもよい。光学検出器はコンピューターの記憶部に信号を送ることができ、そして記憶部はコンピュータープロセッサーによりアクセスされてイメージファイルが作成される。マイクロビーズが光学的サインを示しているイメージファイルと関連したデータは、次いで符号化/復号化データ表のデータと比較される。光学的サインを示すこれらのマイクロビーズは標的分析物に結合したものである。前記マイクロビーズの亜集団に対する活性物質は符号化/復号化データ表から既知であるため、試料中の標的分析物を同定することができる。
【0084】
一実施形態において、符号化/復号化データ表を用いてマイクロアレイ情報を復号化することによって試料中の標的分子を検出するための方法は以下の工程を含む。
i)1種または複数種の標的分析物を含む試料をマイクロアレイとともにインキュベートする工程。
ii)光学的サインを、蛍光もしくは色素、またはナノゴールドもしくは量子ドットで標識された生体分子の形態で加え、バイオアッセイの性能を促進してマイクロビーズ表面で光学的サインを生成する工程。この生体分子は、オリゴヌクレオチドもしくは標的分子、またはdNTPもしくは酵素基質である。
iii)検出器を用いて光学的サインからマイクロアレイを光学的に読み取る工程。顕微鏡もしくはスキャナー、またはデジタルカメラもしくはビデオカメラシステムの使用により、または写真フィルムの使用により、表面に光学的サインを有するマイクロビーズの全ての位置を検出および決定する。符号化/復号化データ表は、全マイクロビーズの空間的位置をそれらの各亜集団に固有の活性物質とともに含むコンピューターの記憶部から回収することができる。
iv)符号化/復号化データ表および光学的マイクロアレイ読み取りから作成したデータ表からのデータを用いて復号化し、これら2つのデータ表を組み合わせて比較し、2つのデータセット中の対応するマイクロビーズを同定してこのマイクロビーズおよび試料中のそれらの標的分析物を同定することによって、試料中の標的分析物の検出を行う工程。復号化工程はコンピューター内のソフトウェアを用いることにより自動化することができ、および/または復号化データセット情報の一部が特定の利用者に制限されていてもよく、および/または復号化データセットもしくは復号化データセットの一部が利用者にインターネットまたは無線通信手段により伝達されてもよい。
【0085】
一実施形態では、マイクロビーズに基づいたランダムマイクロアレイの製造方法、およびその後の復号化は以下の工程を含む。
i)基板材料を提供する工程。基板材料は多数のチップ(例えば100〜10000)からなっていてよく、または後に多数のチップに四角く切られてもよい。
ii)識別番号などの基準を、単一チップ各々の領域上に付与する工程。例えば、レーザー刻印装置を用いることによって付与する。同時に、基準、またはxおよびy位置(例えば0,0)を定義する参照座標が基板上に刻まれてもよい。
iii)基板表面上に接着層を提供する工程。
iv)生体認識または酵素反応に基づいたバイオアッセイを行うための、特定の既知の生物活性物質を有するマイクロビーズの各亜集団に対応するバルク組成物懸濁液を調製する工程。
v)十分な数のマイクロビーズが各チップの領域上に固定されるよう、マイクロビーズの第1の亜集団で基板を処理する工程。典型的にはその数は5〜20である。
vi)緩く固定されているマイクロビーズを除去する工程。
vii)固定されたマイクロビーズをイメージングし、対応するチップ番号と共に、各単一マイクロビーズおよびチップに対応するxおよびy位置の値を記憶部内の復号化データ表に保存する工程。
viii)2〜n個の所望の数のマイクロビーズ亜集団を用いて、工程iv)〜vi)を反復する工程。
ix)亜集団1〜nのイメージファイルをデータ処理する工程。その後、1〜n個の各マイクロビーズ亜集団に対する各単一マイクロビーズのx、y位置の値を用いて、各単一チップに対する復号化データ表を作成する工程。
x)チップをチップホルダーもしくはチップデバイス、またはフローチャンバーもしくはインキュベーションチャンバーに取り付けて包装する工程。
【0086】
本発明の限定されない例を具体例によりさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定解釈されるものではない。
【0087】
図1においては、開示されるマイクロアレイの製造工程を示す概略図が示される。準基板(sub−substrate)(チップm〜mx)からなる基板(1)が提供され、少なくとも1つの基準が提供される。
【0088】
第1の工程(A)において、基板は、少なくとも1種の標的分析物に結合しうる第1の活性物質を含む、第1のマイクロビーズ亜集団(n1)(白丸で図示する)で処理される。亜集団n1の各マイクロビーズは同一の生物活性物質をその表面に含む。
【0089】
第2の工程(B)において、固定されなかったマイクロビーズは基板から分離、または洗い流される。
【0090】
第3の工程(C)において、固定されたマイクロビーズがイメージングされ、少なくとも1つの基準に対するこれらのx,y座標位置が、バッチ番号(例えばn1)およびチップ番号(例えばm26)と関連したデータセット内に、符号化/復号化データ表の形式で保存される。
【0091】
続く工程(D)から(x)において、亜集団n2〜nxに対して、所望の数のマイクロビーズ亜集団が基板上にアプライされるまで、工程(A)から(C)に記載された工程が順次反復される。工程の最後に、「nx」個のバッチを有する基板と、各バッチに対する全てのx,y粒子位置を含んだ符号化/復号化データ表とが生ずる。
【0092】
図2においては、開示されるマイクロアレイが復号化される工程、および試料中の分析物が同定方法についての概略図が示される。復号化処理は一連の工程において行われる。
【0093】
第1の工程(A)において、開示される一実施形態により製作されたマイクロアレイ、および製作工程において作成されたマイクロアレイに固有の復号化データ表が提供される。
【0094】
第2の工程(B)において、潜在的な標的分析物を含む試料は、マイクロアレイと共にインキュベートされる。試料中の標的分析物の、マイクロビーズ上の対応する活性物質へのいずれの結合も、(i)ポリメラーゼによるハイブリダイゼーションおよび伸長、および/または(ii)抗体抗原相互作用、および/または(iii)酵素反応に基づいている。標的分析物がマイクロビーズ上の活性物質と結合および相互作用する際に、光学的サインが生ずる。次にマイクロアレイは洗浄され、マイクロビーズに対する非特異的結合が除去されて、その結果マイクロアレイ上に存在する望ましくない光学的サインが除去される。
【0095】
次の工程(C)において、ビデオまたはCCDカメラを用いて、表面に光学的サインを有するマイクロビーズの(少なくとも1つの基準に対する)x,y座標位置が検出され、読み取りデータがコンピューターに入力されて、読み取りデータ表が作成される。
【0096】
次の工程(D)において、符号化/復号化データ表は読み取りデータ表と組み合わされて比較され、それによりマイクロアレイが復号化され、試料中に存在する標的分析物が同定される。
【0097】
I)チップ当たりのデータファイルサイズの計算
以後、「チップ」という語は、アレイまたはマイクロアレイの四角く切られた一部を意味する。
【0098】
各チップのデータセットはn個のサブセットからなり、nはチップの作成に用いられたマイクロビーズ亜集団の数である。各データサブセットは、亜集団由来の全てのマイクロビーズのx,y位置を決定する。データセットによって、チップ上のマーカー構造の形態である基準に対するxおよびy位置により、各マイクロビーズを符号化することが可能になる。
【0099】
例えば、チップは2mm×2mmの寸法を有する四角形であり、マイクロビーズの直径は5μmであり、平均マイクロビーズ距離は5μmである。これは次のように計算される:
2mmあたりのマイクロビーズの平均数=2000mm/(5μm+5μm)=200。
したがって、チップあたりの平均マイクロビーズ数は:200×200=40000
亜集団あたりのマイクロビーズの平均数(sub−pn)は、亜集団の数がn個であるとき:sub−pn=40000/n。
【0100】
高解像度ビデオカメラは2048ピクセル×2048ピクセルの解像度を備える。2mm×2mmの可視領域の光学解像度は約1μmである。コンピュータースキャナーは4800×4800dpi(1インチ当たりドット数)の標準的な解像度を有する。光学解像度は約5.3μmである。この解像度は、6μmより大きい直径を有するマイクロビーズのマイクロビーズ位置を決定するのに十分である。コンピュータースキャナーを使用のためには、マイクロビーズは適切には100〜500μmの直径を有するべきである。
【0101】
ピクセル数2048は212に相当する。2048までの数を保存するには、12ビットが必要とされる。マイクロビーズ各々の位置はそのxおよびy値に対して12ビット数によって決定され得る。1個のマイクロビーズは24ビットつまり3バイトを必要とする。したがって、40000個のマイクロビーズ全ての位置を保存するためには、120000バイトつまり117キロバイトが必要とされる。このデータ量であれば任意のデータ媒体に保存することも、インターネットを介してすぐにアクセスすることもできる。
【0102】
データ量はマイクロビーズの数と共に増加し、マイクロビーズのサイズの減少と共に増加する。例えば、1μmのマイクロビーズを平均マイクロビーズ距離1μmで有する2mm×2mmチップは、106個のマイクロビーズを保持することができる。各マイクロビーズは約6バイトを必要とする。全部で約7.6Mバイトとなる。
【0103】
II)ビーズに基づいたアレイの調製
マルチチップの製造
上記の順次工程において、基板表面上に懸濁液を単にアプライすることにより、またはマイクロビーズ懸濁液を用いてエアブラシ法を行うことにより、例えば20cm×20cmのサイズの基板をマイクロビーズ粒子懸濁液で処理してマイクロアレイを形成する。
【0104】
マイクロビーズの全亜集団がアプライされて符号化/復号化データ表が作成された後、基板は2mm×2mmの単一チップに四角く切られ、最大で計10000個のチップが同時に作成される。単一チップの各々は、復号化データ表からの補正データを前記チップと一致させるための識別子を有している必要がある。
【0105】
ビーズに基づいたアレイの取り付け
アレイはホルダー、流動装置、側流(lateral flow)装置、横断流(transversal flow)装置に取り付けることができる。いずれの場合もアレイは試料、および試薬と接触させられる。試薬は、それらを例えば側方流装置または移動流(transferal flow)装置内の放出パッドから放出することにより、またはそれらをアレイの表面上に配置することにより、あるいはそれらをアレイへのアプライに先立って試料と混合することにより提供される。透明な窓がアレイの上の10〜500μmの距離に取り付けられ、分析物/試薬混合液を満たすことができる空洞が形成される。この空洞は流路の一部であってもよい。
【0106】
試料アプライ手順
アプライ前、または装置内で、試薬は試料と混合される。典型的な側流型装置において、試料は毛細管力により装置を通って添加、輸送される。試薬は通常、放出パッドから放出されてマイクロアレイに到達するためには、このパッドを介して試料が移動する必要がある。マイクロアレイ上へ試料を継続的に輸送するために、マイクロアレイの裏面に吸収パッドが設置されていてもよい。アレイからの試料および試薬は、毛細管力に基づいた輸送、および/またはバッファーもしくは水を用いた洗浄、および/または遠心力により除去される。
【0107】
読み取り手順
試料とインキュベーションし、未反応成分を分離した後、アレイは、蛍光測定、反射測光法、および透過測光発光測定により読み取ることができる。パーソナルコンピューターにより操作可能な最先端のスキャナーまたは光学式ドライブが光学検出器として用いられる。読み取りデータは、使用されるスキャナーに特異的に適合させたキャリブレーションまたはソフトウェアプログラムを用いて、改変または補正することができる。読み取りの間に、次のデータが得られる:
(i)全マイクロビーズの強度またはシグナルを含むイメージ;
(ii)全てのマイクロビーズに対する、基準の位置をマーク(mark)の形態で含んだイメージ;
(iii)アレイの製造と関連する情報、特に亜集団数、製造日、アレイ数、および/またはアレイを用いた分析に必要とされる任意の他の情報もしくはエンコードされた情報、を含んだイメージ。
【0108】
上記情報を含むイメージから、次のデータが作成されうる。
i)マークに対して定義されたx,y位置における全てのビーズの強度/シグナル
ii)アレイを用いた分析に必要とされる任意の他のデータ、特に補正符号化データセットをアレイに関連づけるためのデータ。
【実施例】
【0109】
実施例1
この実施例では、マイクロビーズに基づいたマイクロアレイの、一塩基多型(SNP)検出への応用について説明する。
【0110】
紫外線光重合を用いて、ポリアクリルアミドゲルパッドのアレイをガラススライド表面上に作製した。それぞれの別個のゲルパッドは、さらに微小柱(micropillar)の四角いアレイから成っている。特定のSNPを標的としたオリゴヌクレオチドプローブと別々に結合させることにより4セットのビーズを調製した。これらの4種のプローブは、標的SNP部位におけるATGCの全てのおこりうる一塩基置換を含んでいた。結合ビーズの第1のセットを、ロボットディスペンサーによるマイクロターゲッティング(micro−targeting)を用いて特定のゲルパッド上に固定した。緩く固定されたビーズを、残りの固定ビーズがCCDカメラシステムを用いてイメージングされる前に洗い流した。このイメージから全ての固定ビーズの位置を復号化し、データをコンピューター記憶部内に保存した。次いで、結合ビーズの第2セットに対して、同一のゲルパッド上でこの過程を順次反復した。
【0111】
次に、標的SNPのオリゴヌクレオチドを含んだ最適化ハイブリダイゼーションバッファーを、固定ビーズ上にアプライした。次に、ビーズからのハイブリダイゼーション陽性シグナルを、CCDイメージングシステムを用いて検出した。ビーズは既にその位置に基づいて復号化されているため、これらのシグナルは同定された。これにより、標的SNPを容易に検出することが可能になった。ハイスループットジェノタイピングプラットフォームのために、4セットのビーズをゲルパッド上に固定する本方法を反復することにより、多数のSNPの多重検出が達成されうる。第2のSNP部位をターゲッティングするための他の4セットのビーズを同様な方法で別のゲルパッド上に固定したが、これらは図中には示していない。
【0112】
実施例2
この実施例では、マイクロビーズに基づいたマイクロアレイの、環境試料中の糞便汚染指標細菌(fecal indicator bacteria)検出への応用について説明する。
【0113】
10種類の糞便汚染指標細菌の16S rRNAを標的とする20セットのプローブを設計した。各糞便汚染指標細菌は、中央部分で1塩基が相違する、1対の完全一致(PM)およびミスマッチ(MM)プローブにより標的化された。実施例1の記載と同様の方法を用いて、PMプローブと結合した10セットのビーズを異なるゲルパッド上に固定し、各ゲルパッド内のビーズの位置を特徴付けした。これをMMプローブと結合したビーズに対しても反復し、各ゲルパッドが特定の糞便汚染指標細菌を標的化するためのプローブペアと結合したビーズを含むようにした。これら2セットのビーズを、その空間コードに基づいて識別した。
【0114】
糞便汚染指標細菌を含むと疑われる環境試料を調製し、固定ビーズとハイブリダイズさせた。10個のゲルパッドのそれぞれに対する、PMプローブとMMプローブとの間の相対的なハイブリダイゼーションシグナルに基づき、未知の環境試料における糞便汚染指標細菌の存在を検出した。このシステムは、他のゲルパッド上にさらにビーズセットを固定することによって、10種類を超える糞便汚染指標細菌を検出するよう容易に拡張することができる。
【0115】
実施例3
この実施例では、抗体抗原相互作用を用いた抗体に基づいたアッセイと、DNA/DNAまたはDNA/RNAハイブリダイゼーションを用いたDNAに基づいたアッセイとを、同一チップ上で並行して行った際の性能を示す。
【0116】
ビオチン化による抗体の調製:
抗体(ポリクローナルマウスIgGおよびポリクローナルマウス抗IgG)を約2mg/mlに希釈した。ビオチン−NHS(10mg/ml、DMSO中に溶解)を、1:1、5:1、および10:1(Mビオチン:M抗体)のモル比で抗体溶液に添加した。反応チューブを25℃で一晩インキュベートした。ビオチン化抗体をゲル濾過カラム(D−Saltデキストラン脱塩カラム、Pierce社)を用いて精製した。ビオチン化抗体をPBSに溶解し、−20℃で貯蔵した。
【0117】
抗体のFITC結合のためのプロトコル:
抗体(ポリクローナルマウスIgGおよびポリクローナルマウス抗IgG、Arista Biological inc.)を約2mg/mlに希釈した。FITC(10mg/ml、DMSO中に溶解)を、5:1、10:1、および20:1(Mビオチン:M抗体)のモル比で抗体溶液に添加した。反応物をチューブ内において25℃で一晩インキュベートした。FITC−抗体をゲル濾過カラム(D−Saltデキストラン脱塩カラム、Pierce Biotechnology Inc.)を用いて精製した。FITC−抗体をPBSに溶解し、−20℃で貯蔵した。
【0118】
抗体コートマイクロビーズ(亜集団1)の調製:
抗体の固定化には、直径9.95μmのストレプトアビジンコートポリスチレンビーズ(Bangs Laboratories社、インディアナ州フィッシャーズ)を用いた。ビオチン化抗体を、前記ビーズ懸濁液に、もとのマイクロビーズ1μLあたり0.5μgの量で添加した(2.5倍過剰量)。25℃で一晩インキュベートした。未結合の抗体をPBST−B(1×PBS、0.05% Tween−20、1% ウシ血清アルブミン)を用いて2〜3回、使用前に洗い流した。次いで、図4Aに示すように、これらのビーズを基板上へ配置した。
【0119】
オリゴヌクレオチド官能化マイクロビーズ(亜集団2)の調製:
オリゴヌクレオチドの固定化には、直径9.95μmのストレプトアビジンコートポリスチレンビーズ(Bangs Laboratories社、インディアナ州フィッシャーズ)を用いた。100μLのストックビーズ(固形物1%)をTTLバッファー(100mM Tris−HCl、pH8.0、0.1% Tween20、1M NaCl)中で3回リンスし、沈殿させ、次いで20μLのTTL中に再懸濁した。これに続き、0.5μLのストックプローブ(0.5μg/μl)をマイクロビーズの結合能に対して過剰量加えた。この結合能は、マイクロビーズ1mgあたり約330ngのDNAであることが分かった。5’末端がビオチン化された捕捉プローブ(5’−GCCCTCACGATCTCTTCC−3’)を、室温で12時間穏やかに混合することにより、ビオチン−ストレプトアビジン結合を介してマイクロビーズ上に固定化した。固定化後、マイクロビーズをリンスし、沈殿させ、TTEバッファー(100mM Tris−HCl、pH8.0、0.1% Tween20、20mM EDTA)中で80℃で10分間再懸濁して、不安定なビオチン−ストレプトアビジン結合を除いた。次いで、図4Bに示すように、これらのビーズを、抗体コートマイクロビーズを含むマイクロアレイに加えた。
【0120】
ビーズに基づいたアレイの作製:
上述のように、抗体コートビーズのビーズ亜集団(亜集団1)(図4A)、およびオリゴヌクレオチドコートビーズのビーズ亜集団(亜集団2)(図4B)をマイクロアレイ基板上に配置した。ネガティブコントロールであり、どのような活性物質も含まないマイクロビーズの第3の亜集団を、基板上へ配置してもよい(図4C)。装置は、Bind Silane(GE Healthcare社、ニュージャージー州ピスカタウェイ)によってあらかじめ処理された、ガラススライド上に作製された19×24のポリアクリルアミドゲルパッドのアレイ(Corning社、ニューヨーク州コーニング)からなっていた。ゲルパッドは300μmの水平および縦ピッチを有しており、各ゲルパッドはさらに、10μmの水平および縦ピッチを有する微小柱(10×10×10μm)の10×10アレイを含んでいた。
【0121】
光重合処理を用いてゲルパッドのアレイを作成した。アクリルアミド溶液でコートしたシラン処理ガラススライド上にフォトマスクを固定し、クロスリンカー(UVC500、Hoefer社、カリフォルニア州サンフランシスコ)内で45分間、紫外線照射した。紫外線により露光されて重合が生じたアクリルアミド溶液の領域では、ガラス表面上にゲルパッドが形成された。ゲルパッドの高さ10mmは、フォトマスクとガラススライドとの間にしっかり挟まれたテフロン(登録商標)スペーサーにより測定された。重合後、ガラススライドを0.1M NaBH4中で30分間処理し、ゲルパッドの自己蛍光を減少させた。Biochip Arrayer(PerkinElmer社、マサチューセッツ州ボストン)を用いて5nLの別個の種類のビーズ(約9000ビーズ/μL)をゲルパッド上に供給した。もしくは、正確性に劣り、ビーズが同時に複数のゲルパッドを覆うが、ピペットを用いて手作業でビーズをスポットすることもできる。
【0122】
それぞれのスポットされた単一ビーズの位置を、その空間アドレス(spatial address)を決定するために、位相差像により記録した。そして、特定の標的を検出するための全てのビーズ亜集団が同一のゲルパッド上に固定化されるまでこれを反復した。次いで、試料の流入のために、微小流体モジュールで装置に蓋をした。あるいは、モジュールを使用せずにスポットされたビーズ上にバッファーをアプライすることもできる。ポリジメチルシロキサン(PDMS)モジュールを一般的なソフトリソグラフィー技術を用いて作製した。
【0123】
同時的なDNAアッセイおよびイムノアッセイ
抗原、および相補的DNAを含んだ試料をアレイとともにインキュベートした。試料は、0.1ng/μLのCy3標識化DNA標的(5’−AGGAAGAGATCGTGAGGGCA−3’)およびFITC標識化抗IgG、500mM NaCl、ならびにPBS−Tバッファーを含んでいた。10μLの試料をビーズマイクロアレイ上にスポットした。30分間のインキュベーション後、アレイを500mM NaClとPBS−Tとを含む20μlの溶液で簡単にリンスし、次いで蛍光顕微鏡によりシグナルを記録した。マイクロビーズに結合したFITC標識化抗IgGは、図4Dにおいて励起蛍光の円として示されている。マイクロビーズに結合したCy3標識化DNAは、図4Eにおいて励起蛍光の円として示されている。各マイクロビーズの正確な位置は既知であるため、試料中の標的分析物を同定する過程で複数の光学的サインを用いる必要がないということに注目すべきである。この実施例におけるFITCおよびCy3標識の使用は、単に説明を目的とするためのものである。
【0124】
実施例4
既知の第1の生物活性物質を含んだ第1の亜集団のマイクロビーズを基板に添加し、次いで洗浄し、データイメージを取得し(図3Bi)、符号化/復号化データ表の形式で保存する。次に既知の第2の生物活性物質を含んだ第2の亜集団のビーズを別の基板に加え、その後洗浄し、データイメージを取得し(図3Bii)、符号化/復号化データ表の形式で保存する。次にこの2つの符号化/復号化データ表を組み合わせ、以下の表1に示す符号化/復号化データ統合表を形成する。基準(図3Bに示すX=0,Y=0)に対する各々のマイクロビーズの位置は、以下の表1に示す符号化/復号化データ統合表のデータを比較することにより決定することができる。蛍光色素に結合した潜在的標的分析物を含んだ試料をマイクロビーズのマイクロアレイに添加する。マイクロアレイを洗浄し、蛍光顕微鏡下で観察し(図3Bii)、イメージを記録して以下の表1に示す符号化/復号化データ統合表と比較して、試料中に存在する標的分析物を同定する。
【0125】
各マイクロビーズのx,y位置の値を含んだ復号化データセットを作成する;図3Bに対するデータセットの例を以下の表1に示す。
【0126】
図3B(i)において、第1のバッチの各ビーズが基板上に提供される。図3B(ii)において、第2のバッチの各ビーズを「x」で図中に示す。したがって、コンピュータープログラムは、図3B(i)および図3B(ii)に示すイメージを調査し、第2の亜集団に属する追加のビーズを決定する。上部左側の隅に示す大きな「X」は基準である。
【0127】
表1.図3Bに示すマイクロビーズの復号化データ表。特定の亜集団に由来し、生体認識分子/生物活性物質で被覆されたマイクロビーズ。図3B(iii)に示すように、第1のバッチが蛍光色素による発光で示されている。図3B(i)〜(iii)では説明のために2つのバッチ(マイクロビーズの亜集団)のみを示していることが理解されるべきである。実際は、1基板上で数百の亜集団を用い、それによってより多数の標的分析物を同定することができる。
【表1】

【表2】

*第2イメージからのデータ読み取りは、亜集団1および2の両者由来のマイクロビーズのx,y位置を含む。このデータは、亜集団1由来のマイクロビーズの効果的な固定を検証するために用いられうる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
当然のことながら、本明細書に開示されるマイクロアレイを製作方法は、費用効率が高い製造方法であり、単純な読み取り装置の使用しか必要としない。
【0129】
有利なことに、開示される方法において、マイクロビーズマイクロアレイはその製造工程中に復号化される。このことは、アレイがその作成後に復号化される公知の最先端のマイクロビーズマイクロアレイ技術とは対照的である。
【0130】
より有利なことに、符号化/復号化工程が製造工程内に組み入れられ、復号化データがアレイと共に提供されるため、復号化手順が不要であり、より迅速に分析が行われる。
【0131】
有利なことに、開示されるマイクロビーズマイクロアレイは、多波長測定の必要が無く、非常に単純な読み取り装置で利用することができる。
【0132】
有利なことに、開示されるマイクロビーズに基づいたマイクロアレイにより、i)アレイの利用者が分析データへのアクセスすることが制限されるが、特定の分析物に対する復号化データセットが利用者に開示された後の任意の時点において分析データを作成することができる、および、ii)電子メール、インターネット、携帯電話、郵便またはデータ転送の他の手段によって符号化データセットを送付することにより、ユーザーが分析データへアクセスすることが可能になる。
【0133】
より有利なことに、符号化データを提供することによる分析データへのアクセスの制御により、政府、企業または病院施設における、より安全なデータ交換が可能になる。例えば、場所「A」において測定が行われるが、場所「A」では分析データを作成することができない。測定データは場所「B」に転送され、復号化データセットと組み合わせられて、分析データが作成される。他の例では、個人「P1」により提供された試料を用いて測定が行われる。個人「P1」または他の個人「P2」がデータセットを提供しない限り、どのような理由であっても測定結果から分析データを作成することはできない。
【0134】
有利なことに、分析データへのアクセスを制御することは、潜在的な商業的可能性を提供し得る。例えば、マイクロアレイ読み取り値が全ての標的分析物に対する全ての分析データを含みうるが、利用者は本人が代金を支払った特定の分析物のみに対してアクセス(復号化データ)を与えられる
【0135】
有利なことに、分析は復号化手順を必要とせず、非常に迅速に行われるため、非ポリープ性大腸癌、乳癌、アルツハイマー病、嚢胞性線維症、結核、クラミジア、およびHIVなどの疾患の検出を迅速に行うことができる。より有利なことに、開示されるマイクロアレイは、法医学的な「DNAフィンガープリンティング」照合の速度も改善しうる。
【0136】
本発明と同等の形態を記載するように正当な努力を払ったが、上述の開示を読んだ当業者が本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく本発明を様々に改変および応用し得ることは明白であり、また全てのこのような改変および応用は添付の請求の範囲の範囲内に含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロアレイの製造方法であって、
マイクロビーズの母集団を少なくとも1つの基準を有する基板上に配置する工程であって、前記母集団が少なくとも2つの亜集団からなり、各亜集団が少なくとも1種の標的分析物に特異的に結合可能な既知の活性物質を含み、前記亜集団が互いに別々の期間に順次配置される当該工程;
各亜集団の配置後ごとに前記基板のイメージを作成する工程;および、
前記基準を参照として用いて前記イメージを比較し、各イメージ間の相違に基づいてマイクロビーズ各々の位置を決定して、前記亜集団およびその既知の活性物質を同定する工程
を含む当該方法。
【請求項2】
前記マイクロビーズ各々の位置およびその亜集団を示すデータを記録する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記記録工程がコンピューター記憶部内に前記データを記録することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記活性物質が生物活性物質である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記生物活性物質が、タンパク質、核酸、酵素、細胞、ウイルス粒子および抗体からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記マイクロビーズを化学反応基で官能化する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記マイクロビーズが100nm〜500μmの範囲内のサイズである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
各亜集団の配置後に前記基板に付着しなかったマイクロビーズを除去することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記基板上に少なくとも1つの基準を形成する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記基板が、シリコン、プラスチック、ガラス、セラミック、ゴム、ポリマーまたはこれらの複合材料からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記マイクロビーズを基板上に封じ込めることを容易にするために前記基板内で3次元構造を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記3次元構造が実質的に平坦な基板に形成されたくぼみである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
互いに別々の期間における前記亜集団の順次配置が1〜10,000回行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記マイクロビーズと前記標的分析物との結合を示すための光学的サインを提供する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
試料中の1種または複数種の標的分析物の存在を同定するためのシステムにおいて用いられるマイクロアレイであって、
前記マイクロアレイが少なくとも1つの基準を有する基板表面上に配置されたマイクロビーズのランダムな母集団を含み、前記母集団が少なくとも2つの亜集団からなり、各亜集団が少なくとも1種の標的分析物に特異的に結合可能な既知の活性物質を含み、
前記亜集団の各々が互いに別々の期間に順次配置されて、前記別々の配置期間に取得された比較イメージから前記基準に対するマイクロビーズ各々の位置およびその亜集団を決定することが可能となる、当該マイクロアレイ。
【請求項16】
試料中の1種または複数種の標的分析物の存在を同定するためのマイクロアレイシステムであって、
少なくとも1つの基準を有する基板表面上に配置されたマイクロビーズのランダムな母集団であって、前記母集団が少なくとも2つの亜集団からなり、各亜集団が少なくとも1種の標的分析物に特異的に結合可能な既知の活性物質を含み、前記亜集団が互いに別々の期間に順次配置されたものである当該母集団;
前記少なくとも1つの基準に対するマイクロビーズ各々の位置およびその亜集団を記録する記憶部であって、前記マイクロビーズ各々の位置およびその亜集団が前記別々の順次配置期間の間で前記マイクロビーズのイメージを比較することにより決定されたものである当該記憶部;
前記試料との接触時における前記マイクロビーズの変化を検出するための検出器;および、
前記記憶部に問い合わせを行い、前記検出器から受け取ったデータを比較し、マイクロビーズ各々の位置およびその亜集団に基づいて前記試料中の前記1種または複数種の標的分析物の存在を同定するためのプログラム命令に応答するプロセッサー;
を含む、当該マイクロアレイシステム。
【請求項17】
前記記憶部内で保存するための復号化データを含み、前記復号化データは前記マイクロビーズ各々の前記基準に対する位置および既知の活性物質を示すデータを含む、請求項16に記載のマイクロアレイシステム。
【請求項18】
前記復号化データがコンピューターネットワークを介して転送するためのフォーマットである、請求項17に記載のマイクロアレイシステム。
【請求項19】
前記復号化データにアクセスするために識別子が必要とされる、請求項17に記載のマイクロアレイシステム。
【請求項20】
試料中の標的分析物を同定するための方法であって:
請求項15に記載の前記マイクロアレイに前記試料を接触させる工程;
前記活性物質が前記試料中に存在する標的分析物に結合したことの指標となる変化をした前記マイクロビーズ亜集団を同定する工程;および
前記変化を示す前記マイクロビーズの位置および既知の活性物質に基づき、前記試料中に存在する任意の標的分析物の存在を同定する工程;
を含む当該方法。
【請求項21】
前記変化が光学的変化である請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記マイクロビーズと前記標的分析物との結合を示す光学的サインを提供する工程を含む、請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−536009(P2010−536009A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−522740(P2009−522740)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【国際出願番号】PCT/SG2007/000232
【国際公開番号】WO2008/016335
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(509034605)ナショナル ユニバーシティ オブ シンガポール (4)