説明

マイクロアレイ用基板および該基板を用いたマイクロアレイ

【課題】短時間で蛍光検出が可能で、ハンドリングが容易であるとともに、識別情報を付与できるマイクロアレイ用基板を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、基体上に、核酸またはペプチドと共有結合しうる官能基を有する固体支持体およびICチップが固定化されてなるマイクロアレイ用基板であって、基体がカーボンブラック配合プラスチック製であり、固体支持体の最大寸法が8mm以下である、前記マイクロアレイ用基板に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロアレイ用基板および該基板に核酸またはペプチドが共有結合してなるマイクロアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノム解析の進展により、種々の生物の生理反応に関与する生体分子が解明されてきた。これら生体分子には、DNA、蛋白質、糖鎖、細胞などがあり、機能や構造等が解明されたものは、創薬や臨床検査、食品検査、環境検査などの各種産業用途に利用される。
【0003】
臨床検査を始めとする検査では、以下の方法が一般的によく採用される。すなわち、検出したい生体分子(以下、アナライトと呼称する)と特異的に結合するプローブ分子(以下、リガンドと呼称する)を基板上に固定したデバイスに検体を接触させると、検体にアナライトが存在する場合、リガンドと結合してアナライトが基板上に捕捉されるので、この補足されたアナライトが検出される。
【0004】
上記のような検査方法においても、近年、高速化、自動化が求められ、数百〜数万の生体分子を同時に網羅的に計測する検出方法が要望されるようになり、これについても生体分子固定の集積化技術、いわゆる、MEMS技術を用いたデバイス設計が可能となり、いわゆるマイクロアレイとして、創薬研究やバイオ研究における網羅的解析に用いられている。
【0005】
デバイスとしてのマイクロアレイは、基板上に固定されるプローブ分子の種類により、DNAマイクロアレイ(DNAチップとも呼ばれる)、蛋白質マイクロアレイ(蛋白質チップとも呼ばれる)、細胞マイクロアレイ(細胞チップとも呼ばれる)等がある。
【0006】
解析は、マイクロアレイ上に、例えば、蛍光物質で予め蛍光標識を行なった検体を接触させ、その後にマイクロアレイを洗浄してから蛍光物質が発する蛍光シグナルを検出測定することにより検体に含まれるアナライトを同定または定量する。
【0007】
蛍光シグナルの検出は、スキャニングにより基板の蛍光強度の二次元分布を計測(バックグラウンド値)した後に、このバックグラウンド値を基準として各スポットの蛍光強度を画像解析により計測する。この時に、検出項目が数万種にも上るため、基板に固定された生体分子に関する情報は予めデジタルデータとしてコンピュータや、該コンピュータと接続されたサーバにアレイ情報として登録される。アレイ情報は、各スポットの位置情報と、アレイの各位置にスポットされた生体分子の種類、固定量、機能などからなる。一方、個々のマイクロアレイには、アレイを同定する識別情報(以下、IDと呼称する)が付与され、IDをリーダーで識別することにより、コンピュータもしくはサーバ内の対応するアレイ情報が読み出される。アレイ情報を登録したコンピュータ・サーバは、通常蛍光シグナル測定装置と連動しており、蛍光シグナル測定時にマイクロアレイのIDより、対応するアレイ情報を読み出し、各スポットの蛍光強度と予め登録されたマイクロアレイ固有のアレイ情報とを照合する。マイクロアレイのIDとしては、スライドグラスの端部に貼付されたバーコードラベルやインクジェットなどによるナンバリングが一般的である。
【0008】
一方、スライドグラスサイズのマイクロアレイでは測定領域が大きいために、蛍光を検出するためにレーザを走査させる必要がある。1〜5mm角の小さいマイクロアレイでは、レーザを全面に照射することができるので短時間に蛍光を検出することが可能であるが、ハンドリングが困難であるとともに、マイクロアレイにIDを付すことも困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、短時間で蛍光検出が可能で、ハンドリングが容易であるとともに、識別情報を付与できるマイクロアレイ用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、核酸またはペプチドと共有結合しうる官能基を有する最大寸法8mm以下の固体支持体およびICチップをカーボンブラック配合プラスチック製基体上に固定化することにより、識別情報が付与可能であって、短時間で蛍光検出が可能であるとともに、ハンドリングも容易なマイクロアレイが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)基体上に、核酸またはペプチドと共有結合しうる官能基を有する固体支持体およびICチップが固定化されてなるマイクロアレイ用基板であって、基体がカーボンブラック配合プラスチック製であり、固体支持体の最大寸法が8mm以下である、前記マイクロアレイ用基板。
(2)基体が凹部を有し、固体支持体が該凹部に固定化されている、(1)記載のマイクロアレイ用基板。
(3)固体支持体が、官能基として活性エステル基を有する、(1)または(2)記載のマイクロアレイ用基板。
(4)基体上に、固体支持体が複数固定化されている、(1)〜(3)のいずれかに記載のマイクロアレイ用基板。
(5)真空パックされている、(1)〜(4)のいずれかに記載のマイクロアレイ用基板。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載のマイクロアレイ用基板の固体支持体の官能基に核酸またはペプチドが共有結合してなるマイクロアレイ。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、短時間で蛍光検出が可能で、ハンドリングが容易であるとともに、識別情報を付与できるマイクロアレイが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のマイクロアレイ用基板においては、核酸またはペプチドを固定化するためのサイズの小さい固体支持体とICチップとが基体上に固定化される。サイズの小さい固体支持体は、ハンドリングが難しく、またICチップと一体化することも難しいが、これらを基体上に固定化して一体化することにより、ハンドリングが容易になるとともに、固体支持体とICチップを一体化することが可能になる。
【0014】
本発明のマイクロアレイ用基板における基体の材質は、カーボンブラック配合プラスチックである。通常のプラスチックは蛍光を検出するためにレーザを照射すると自家蛍光を発するために蛍光検出の妨げになるが、カーボンブラック配合プラスチック製の基体を用いることにより、自家蛍光を抑制することができる。カーボンブラック配合プラスチックは、カーボンブラックを含むプラスチックであって、レーザを照射したときに自家蛍光を発しないものであれば特に制限されない。
【0015】
カーボンブラックは、炭化水素の熱分解と不完全燃焼の組合せによって得られる微粉炭素をさす。カーボンブラックとしては、ガス状炭化水素炎を冷チャネル鋼にぶつけて作られカラーブラックとして使用されるチャネルブラック、熱分解で作られ粒子が大きく顔料として用いられるサーマルブラック、ファーネス炉で作られタイヤなどのゴム製品の補強剤として用いられるファーネスブラック等が含まれる。
【0016】
カーボンブラックは、黒色染料(あるいは黒色顔料)として、耐性、漆黒度および着色性に優れている。また、分散性や押し出し性を改良したものや微粒子タイプのものなど多種類あり、配合する対象であるプラスチックの物性に影響をあまり及ぼさないといった特徴がある。
【0017】
他の黒色染料としては、アニリンブラック(aniline black)やアイボリーブラックなどがあるが、耐性や保存性に劣る。例えば、アニリンブラックは本来アニリンが酸化されてできる黒い染料であるが、安定性が悪く緑色に変化する。
【0018】
カーボンブラックを配合するプラスチックは特に制限されない。プラスチックとしては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂を用いることができるが、熱可塑性樹脂の方が製造効率の観点から好ましい。熱可塑性樹脂としては、蛍光発生量の少ないものが好ましく、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の直鎖状ポリオレフィン、環状ポリオレフィン、含フッ素樹脂等が挙げられる。具体的には、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂(Acrylonitrile Butadiene Styrene 樹脂)、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。
【0019】
カーボンブラックが配合されたプラスチックには、プラスチックにカーボンブラックが均一に含まれる場合の他、表面にカーボンブラックが塗布されたような場合も包含される。
【0020】
通常、カーボンブラック配合プラスチックを得るには、まず、プラスチックの種類(好ましくはポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等)を選択して、これらのペレットとカーボンブラックを配合して加熱し、溶融混練させて、カーボンブラックが均一に配合されたペレットを得る。これをそのまま用いるかあるいはマスターバッチとして使用して、押し出し成型機や射出成型機などにより、種々の形態のカーボンブラック配合プラスチックを得る。
【0021】
プラスチックへのカーボンブラックの配合量は、通常、0.1〜20質量%、好ましくは3〜10質量%、さらに好ましくは5〜8質量%である。
【0022】
本発明のマイクロアレイ用基板における基体は、通常平板状であり、その大きさや形状は特に限定されないが、通常、幅0.1〜200mm、長さ0.1〜200mm、厚み0.1〜10mm程度である。本発明においては、固体支持体を作成後、これを切断分割して、基体上に固定化してもよい。
【0023】
基体は、固体支持体およびICチップを固定化するための粘着付与材を有するのが好ましい。粘着付与材とは粘着性を有する材料を意味し、例えば、タッキロール101(田岡化学)、ヒタノール1501(日立化成)、変性アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂(タッキロール130)、ヒタノール501等が挙げられる。あるいは、固体支持体およびICチップは、粘着テープまたは粘着剤により基体に固定化されていてもよい。粘着テープとしてはアクリル系、ポリイソブチレン、SBR、ブチルゴム、クロロプレンゴム、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラールが適用でき、粘着剤として安息香酸樹脂、ポリブテン、バミドチオンが適用できる。
【0024】
複数の固体支持体を1つの基体上に固定化してもよく、その場合、別種の固体支持体を必要に応じて必要な組合せで使用することができる。また、別種の核酸またはペプチドを固定化した固体支持体を、1つの基体上に複数固定化することもでき、多様な試験を一度に実施することができる。
【0025】
複数の固体支持体を固定化する場合は、基体上に整列して固定化される。整列して固定化されるとは、一定の秩序に基づいて配置されていること、例えば、スポッティング装置等の当技術分野において使用される装置において位置決めできるように配置されていることを意味する。例えば、一列に、格子状に、または放射線状に配置されている場合である。固体支持体が格子状に固定化されている場合、固体支持体相互間のピッチは、通常、0〜10mm程度である。複数の固体支持体が、基体上に整列して固定化されていることにより、複数種の固体支持体を一度にスポッティング装置等に設置し、装置の位置決め設定を行うことにより、そのまま核酸やペプチドを複数の固体支持体上にスポッティングすることができ、固体支持体への核酸またはペプチドの固定化操作を効率的かつ迅速に実施することができる。核酸またはペプチドが固定化された固体上の複数の固体支持体は、そのままハイブリダイズ反応、抗原抗体反応またはPCR反応等に使用してもよい。
【0026】
また、複数の固体支持体を固定化する場合であっても、基体上に固定化されるICチップは通常1つであり、1つのICチップに複数の固体支持体に関する識別情報が記録される。
【0027】
本発明の一実施形態では、基体は凹部を有し、この凹部に固体支持体が固定化される。このような凹部に固体支持体が固定化されることにより、固体支持体が基体から剥離しにくくなる。凹部の大きさは、固体支持体をその内部に保持できる大きさであれば特に制限されない。
【0028】
この凹部は、当技術分野で通常用いられる方法で作成することができる。例えば、第一層の上に粘着付与材を形成し、更にその上に凹部を有する第三層を形成することにより作成することができる。このような三層からなる基体は、当技術分野で通常用いられる方法により製造することができ、例えば、フォトリソグラフィー法、プレス成形、押出成形、鋳込成形、三層張り合わせ、射出成形等により製造することができる。また三層構造以外に、金属性の基体にプレス成形を施すことにより、凹部を形成することもできる。この場合、プレスによって形成された凹部の底面に固体支持体を固定化するための粘着付与材を存在させることが好ましい。
【0029】
本発明のマイクロアレイ用基板においては、上記の基体上に、核酸またはペプチドを固定化するための固体支持体およびICチップが固定される。固体支持体と合わせてICチップを固定化することにより、マイクロアレイの種類を同定し、また検体の情報を誤りなく保持することができ、解析の利便性と信頼性を向上させることができる。また、解析装置がICチップ内の情報を利用して効率よく動作し、また解析結果をICチップ内に書き込むことができる。
【0030】
固体支持体およびICチップを基体上に固定化する場合の配置等は、両者を一体として固定化することができ、固体支持体における蛍光の検出が妨げられず、またICチップにおけるデータ通信が妨げられない限り特に制限されない。例えば、固体支持体およびICチップが基体からはみ出していてもかまわない。
【0031】
ICチップは、外部装置と電気的に接触してデータ通信するための端子部を有する構成としてもよく、または表面に外部装置と非接触で信号交換するためのアンテナコイルを有するICタグとしてもよい。ICチップは、内部に情報を記憶するメモリと外部と信号を交信するための制御回路、また無線交信のための高周波回路を含む。アンテナコイルは、例えば、ICチップ表面に渦巻き状に形成された構成とすることができる。ICチップは、通常大きさが例えば20mm角と小さなものである。
【0032】
また、ICチップの設け方としては、例えば、基体上に直接設ける方法と、予めICチップを設けたプラスチックフィルム、予めICチップを樹脂材料で被覆したインレットを基体に貼付する方法等がある。予めICチップを設けたプラスチックフィルム、予めICチップを樹脂材料で被覆したインレットを用いる場合に、基体に貼着する接着剤としては、熱硬化型やUV硬化型接着剤が好ましい。また、ICチップを基体上に直接設ける場合、基体に凹部を設けその中にICチップを埋設して基体とICチップを不可分に構成することにより、チップ外れなどの不具合を防止することができる。
【0033】
ICチップに記憶される情報またはマイクロアレイのIDに対応してデータベースに記憶される情報としては、生産関連情報(QCデータ)、例えば、仕入情報、固体支持体の情報(官能基の種類、担体の材質など)、製造日、対照の基準値、ロットナンバー、固定化された核酸やペプチドの情報;出荷情報、例えば、付属品情報、性能情報、有効期限、保存条件、発送日、納品先、輸送業者;ユーザー情報、例えば、使用日、検体情報、解析結果;管理情報、例えば、受信日時、異常発見時の自動連絡先などが挙げられる。
【0034】
以下本発明のマイクロアレイ用基板の使用態様の一例を説明する。本発明のマイクロアレイ用基板は、ICチップに外部リーダライタによってIDが書き込まれて供給されると共に、前記IDに対応するマイクロアレイ情報もまた、例えば、CD-ROM等の形態でデジタルデータベースとして提供される。そして、マイクロアレイ用基板上の固体支持体に核酸やペプチドが固定化される際に、IDからマイクロアレイ情報を取り込むとともに、固定化された核酸やペプチドの情報がマイクロアレイ情報のデータベースに追加される。マイクロアレイに検体を接触させた後、蛍光強度を計測する際には、ICチップに書き込まれたIDを外部リーダライタにより読み取ると共にマイクロアレイ解析データベースに実験条件や検体の条件を入力し、得られた実験結果、例えば、実験日、実験者等を履歴として外部リーダライタでICチップに書き込む。IDからマイクロアレイ情報をマイクロアレイ解析データベースに取り込むと共に、検体の生体情報の解析を行う。マイクロアレイは、数回の繰り返し使用が可能であるため、IDと書き込まれた実験結果の履歴から以前のデータを読み出すことにより、新規データとの比較検討が容易になる。このようなICチップのIDを使ってのデータの照合や解析は、SNP解析による疾患研究や診断のような多数のサンプルを処理するような場合に、アレイとデータとの照合が簡易かつ短時間で行えるために好適である。
【0035】
本発明のマイクロアレイ用基板に固定化される固体支持体は、核酸またはペプチドを固定化するためのものであり、核酸またはペプチドと共有結合しうる官能基を有する。本発明においてペプチドには、オリゴペプチド、ポリペプチドおよび蛋白質が包含され、核酸にはDNAおよびRNAが包含される。核酸またはペプチドと共有結合しうる官能基としては、当技術分野で公知のものを使用できる。核酸を固定化する場合は、アミノ基、エポキシ基、カルボジイミド基、ホルミル基または活性エステル基を導入するのが好ましい。ペプチドを固定化する場合は、アミノ基、カルボジイミド基、エポキシ基、ホルミル基、金属キレートまたは活性エステル基を導入するのが好ましい。活性エステル基は、エステル基のアルコール側に酸性度の高い電子求引性基を有して求核反応を活性化するエステル群、すなわち反応活性の高いエステル基を意味するものとして、各種の化学合成、例えば、高分子化学、ペプチド合成等の分野で慣用されているものである。実際的には、フェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N-ヒドロキシアミンエステル類、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等がアルキルエステル等に比べてはるかに高い活性を有する活性エステル基として知られている。このような活性エステル基としては、例えば、p-ニトロフェニルエステル基、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル基、コハク酸イミドエステル基、フタル酸イミドエステル基、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミドエステル基等が挙げられるが、p-ニトロフェニルエステル基またはN-ヒドロキシスクシンイミドエステル基が好ましい。
【0036】
本発明のマイクロアレイ用基板において、基体に固定化する固体支持体の最大寸法は8mm以下、好ましくは1〜8mm、さらに好ましくは2〜6mmである。最大寸法とは、固体支持体における最も長い直線距離であり、例えば、四角形の平板の場合は対角線の長さに相当し、円形の平板の場合は直径の長さに相当する。固体支持体は、通常平板状であり、好ましくは1〜5mm角、より好ましくは2〜3mm角の平板状である。このようにサイズの小さい固体支持体を用い、これに核酸やペプチドを固定化することにより、スライドグラスのような大きなサイズの固体支持体に固定化するときのように、蛍光検出の際にレーザで走査する必要がなく、蛍光検出を短時間で効率的に実施することができる。
【0037】
本発明においては、担体上に核酸またはペプチドと共有結合しうる官能基を有する固体支持体を用いるのが好ましい。担体の形状は、上記の固体支持体の形状が得られるように選択される。担体の材料は特に制限されないが、例えば、単結晶シリコン、アモルファスシリコン、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素などに代表されるシリコン材料、ガラス、繊維、木材、紙、セラミックス、プラスチック(例えば、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂(Acrylonitrile Butadiene Styrene 樹脂)、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂)、金属(例えば、ステンレス、ニッケル、チタン、アルミニウム)が挙げられる。本発明においては、担体の材料としてシリコン材料、特に単結晶シリコンを用いるのが好ましい。ここで単結晶シリコンには、部分部分でごくわずかに結晶軸の向きが変わっているものや(モザイク結晶と称される場合もある)、原子的尺度での乱れ(格子欠陥)が含まれているものも包含される。シリコン材料を用いることにより、固体支持体を小型化できるとともに、核酸やペプチドを強固に固定化することができる。シリコン材料としては、半導体の分野で通常用いられるような半導体用シリコン基板と同様のものを使用できる。
【0038】
担体として、表面にダイヤモンドライクカーボン層を有するものがさらに好ましい。ダイヤモンドライクカーボンは、ダイヤモンドとカーボンとの混合体である不完全ダイヤモンド構造体を総称し、その混合割合は、特に限定されない。ダイヤモンドライクカーボン層は、化学的安定性に優れておりその後の化学修飾や分析対象物質との結合における反応に耐えることができる点、分析対象物質と共有結合によって結合するためその結合が安定である点、UV吸収がないため検出系UVに対して透明性である点、及びエレクトロブロッティングの際に通電可能な点において有利である。また、分析対象物質との結合反応において、非特異的吸着が少ない点においても有利である。
【0039】
ダイヤモンドライクカーボン層の形成は、公知の方法、例えば、マイクロ波プラズマCVD(Chemical Vapor Deposit)法、ECRCVD(Electric Cyclotron Resonance Chemical Vapor Deposit)法、ICP(Inductive Coupled Plasma)法、直流スパッタリング法、ECR(Electric Cyclotron Resonance)スパッタリング法、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、EB(Electron Beam)蒸着法、抵抗加熱蒸着法、イオン化蒸着法、アーク蒸着法、レーザ蒸着法などにより行うことができる。ダイヤモンドライクカーボン層の厚みは、1nm〜100μmであることが好ましい。
【0040】
担体へのアミノ基の導入は、例えば、担体を塩素ガス中で紫外線照射して塩素化した後、アンモニアガス中で紫外線照射することにより実施できる。または、メチレンジアミン、エチレンジアミン等の多価アミン類を、塩素化した担体と反応させることによって実施することもできる。あるいは、アンモニアプラズマ、エチレンジアミンプラズマで担体表面を処理することによっても実施することができる。
【0041】
カルボキシル基の導入は、例えば、上記のように導入されたアミノ基に適当なカルボン酸を反応させることにより実施できる。カルボキシル基を導入するために用いられるカルボン酸としては、例えば、ハロカルボン酸、例えば、クロロ酢酸、フルオロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸、2-クロロプロピオン酸、3-クロロプロピオン酸、3-クロロアクリル酸、4-クロロ安息香酸;ジカルボン酸、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸;多価カルボン酸、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、トリメリット酸、ブタンテトラカルボン酸;ケト酸またはアルデヒド酸;ジカルボン酸のモノハライド、例えば、コハク酸モノクロリド、マロン酸モノクロリド;無水フタル酸、無水コハク酸、無水シュウ酸、無水マレイン酸、無水ブタンテトラカルボン酸などの酸無水物が挙げられる。
【0042】
前記のようにして導入されたカルボキシル基は、シアナミドやカルボジイミド(例えば、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド)などの脱水縮合剤とN-ヒドロキシスクシンイミドなどの化合物で活性エステル化(スクシンイミジル化)することができる。この処理により、アミド結合を介して炭化水素基の末端に、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル基等の活性エステル基が結合した基を形成することができる。
【0043】
エポキシ基の導入は、例えば、上記のように導入されたアミノ基に適当な多価エポキシ化合物を反応させることによって実施できる。あるいは、ダイヤモンドライクカーボン層が含有する炭素=炭素2重結合に有機過酸を反応させることにより得ることができる。有機過酸としては、過酢酸、過安息香酸、ジペルオキシフタル酸、過ギ酸、トリフルオロ過酢酸などが挙げられる。
【0044】
ホルミル基の導入は、例えば、上記のように導入されたアミノ基に、グルタルアルデヒドを反応させることにより実施できる。
【0045】
ヒドロキシル基の導入は、例えば、上記のように塩素化された担体に、水を反応させることにより実施できる。
【0046】
カルボジイミド基の導入は、例えば、上記のように導入されたアミノ基に、カルボジイミド類を反応させることにより実施できる。
【0047】
金属キレートの導入は、例えば、上記のように導入されたアミノ基に、クロロ酢酸等のハロカルボン酸を添加してキレート配位子を導入することにより実施できる。
【0048】
上記のようにして得られた固体支持体に核酸またはペプチドをスポッティングすることにより、固体支持体上の官能基に核酸またはペプチドを共有結合させることができ、マイクロアレイが得られる。本発明において、マイクロアレイ用基板は、基体上の固体支持体に核酸またはペプチドが固定化される前の状態をさし、マイクロアレイは、基体上の固体支持体に核酸またはペプチドが固定化された後の状態をさす。
【0049】
また、上記のようにして官能基が導入された固体支持体は、空気中に放置したり、または単に容器中に密封保存しただけでは、固定化できる核酸またはペプチドの量が著しく低下するため、基体上に固体支持体およびICチップが固定化された本発明のマイクロアレイ用基板を真空パック用袋に入れ、真空パックすることが好ましい。真空パックすることにより、核酸やペプチド等の固定化量の低下を顕著に防止することができる。
【0050】
真空パック用袋の材料としては、水および酸素を通さないものであれば、特に制限はなく、例えばポリエチレン、ポリエステル等の単層フィルム、ポリエチレンとポリエステルのラミネートフィルムあるいはこれらの樹脂にアルミニウムなどの金属をラミネートまたは蒸着したものが挙げられる。
【0051】
また、真空パック用袋に用いるフィルムの厚みも特に限定されず、内容物の重量等に応じて適宜の機械的強度のものを用いることができるが、通常20〜300μmの厚さのものが好適である。20μm未満の場合、機械的強度が不足する傾向があるからであり、また300μmを超えると、取扱性が劣るからである。真空パック用袋の形態としては、真空パック用袋を構成するフィルムが2枚重なっていて、その3辺がラミネートされているような構造が好ましい。
【0052】
真空パックを開封後、マイクロアレイ用基板の固体支持体に核酸やペプチドを固定化してもよいし、核酸またはペプチドが固定化された固体支持体が基体に固定化されたマイクロアレイ用基板を真空パックしてもよい。
【実施例】
【0053】
以下、製造例、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
(製造例1)
厚さが0.625mm、直径が2.5インチのシリコンウエハにNd-YAGレーザで、深さが0.4mmの格子溝(3mm×3mm)を入れた。このシリコンウエハにイオン化蒸着法によって、メタンガス95体積%と水素5体積%を混合したガスを原料として、加速電圧0.5kVでダイヤモンドライクカーボン層を10nmの厚みに形成した。その後に、アンモニアガスを5cm3/分の割合でチャンバーに挿入した。作動圧を2Paとしてアンモニアプラズマでダイヤモンドライクカーボン層表面を処理することによりアミノ化した。
【0055】
その後、表面処理層のアミノ基に多価カルボン酸として無水ブタンテトラカルボン酸を縮合した後に、0.1Mリン酸緩衝液(pH6)300mlに0.1Mの1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミドと20mMのN-ヒドロキシスクシンイミドを溶解した活性化液中に30分間浸漬することによって活性エステル基を有する固体支持体を得、100℃、1×10-2torrで乾燥した。このようにして得た固体支持体をダイシングフィルムに貼り付け、CHIP MATRIX ENPANDER (TECHNOVISION. INC.)で個々の3mm角に分割した。
【0056】
(実施例1)
製造例1で得られた固体支持体(3)を、25mm×75mmの基体(1)上に固定化し、さらに、基体上にICチップ(2)を固定化することにより、マイクロアレイ用基板(4)を製造した(図1)。
【0057】
(実施例2)
製造例1で得られた固体支持体(3)8個を、櫛形の基体(1)上に固定化し、さらに基体上にICチップ(2)を固定化することにより、マイクロアレイ用基板(4)を製造した(図2)。実施例2の態様では、8個の固体支持体上の蛍光を自動的かつ連続的に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明のマイクロアレイ用基板の一実施形態を表す平面図である。
【図2】本発明のマイクロアレイ用基板の一実施形態を表す平面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 基体
2 ICチップ
3 固体支持体
4 マイクロアレイ用基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に、核酸またはペプチドと共有結合しうる官能基を有する固体支持体およびICチップが固定化されてなるマイクロアレイ用基板であって、基体がカーボンブラック配合プラスチック製であり、固体支持体の最大寸法が8mm以下である、前記マイクロアレイ用基板。
【請求項2】
基体が凹部を有し、固体支持体が該凹部に固定化されている、請求項1記載のマイクロアレイ用基板。
【請求項3】
固体支持体が、官能基として活性エステル基を有する、請求項1または2記載のマイクロアレイ用基板。
【請求項4】
基体上に、固体支持体が複数固定化されている、請求項1〜3のいずれか1項記載のマイクロアレイ用基板。
【請求項5】
真空パックされている、請求項1〜4のいずれか1項記載のマイクロアレイ用基板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載のマイクロアレイ用基板の固体支持体の官能基に核酸またはペプチドが共有結合してなるマイクロアレイ。

【図1】
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【図2】
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