説明

マイクロインジェクション装置

【課題】 細胞等の被導入体への導入物質の導入を、複数の注入針で効率良く確実に行うことができて、処理効率の向上が可能なマイクロインジェクション装置を提供する。
【解決手段】 複数の注入針11をそれぞれ個別に移動可能に移動させる複数の搬送手段4を設ける。容器12の内部の画像を、顕微鏡3を通して顕微鏡視野範囲Vで撮像する撮像手段2と、画像から顕微鏡視野範囲Vの各被導入体Tの位置を判定する位置判定手段81を設ける。定められた規則Rに従って各注入針11の搬送手段4の負荷が均等化されるように、各注入針11が担当する顕微鏡視野V内での担当範囲Eを決定する担当範囲演算手段82を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、顕微鏡下で、細胞等の被導入体内に遺伝子制御因子等の導入物質を微小な注入針により導入するマイクロインジェクション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な細胞内への物質導入方法には、エレクトロポレーション(電気的)、リポフェクション(化学的)、ベクター法(生物的)、マイクロインジェクション法(機械的)、レーザインジェクション(光学的)がある。電気的な方式は、大電流によって細胞膜を破るため細胞の損傷が大きい。化学的方式は、導入できる遺伝子に制限があり、導入効率が低い。生物的方式は導入できる遺伝子の種類に制限があり、また安全性の問題といった欠点があった。マイクロインジェクション法はインジェクション位置を高精度で制御することで確実に細胞内に物質を注入することが出来る特長がある。キャピラリ(微小針)を用いてマイクロインジェクションを行う方法が特許文献1に記載されている。
【0003】
細胞内に遺伝子を導入する方法には上記の方式が挙げられるが、確実性と効率性の両方を有した技術はまだ無い。細胞1個1個に遺伝子を注入するマイクロインジェクション法は最も確実な方法であるが、その操作には熟練と時間を要し、そのためスループットが低いことが問題であった。マイクロインジェクション法のスループットを高くする手法として特許文献2に上げられるように多数の注入針を規則的に配列したマイクロキャピラリーアレイを開発し、これに対応した位置にチャンバーを有するマイクロチャンバーアレイを用いて、一括注入を試みた例がある。
【0004】
図31に、マイクロインジェクション法を適用した装置の従来例を示す。このマイクロインジェクション装置では、被導入体である細胞を収容したシャーレ90を容器載置台91で把持し、シャーレ90の内部の局部平面画像を撮像手段92で撮像し、その平面画像を画像処理手段93で処理することにより、細胞の位置情報を得る。この容器載置台91を、XYステージ装置からなる水平2軸方向の容器位置調整手段94によって移動させることで、注入針95の挿入方向に細胞が位置するように細胞の位置決めを行う。次に、注入針95を保持したマニピュレータを、Zステージ装置96を有する注入針搬送手段97によって注入針95の挿入方向に移動させる。このように、位置決めされた細胞に対して注入針95を突き刺し、注入針95の内部に充填された導入物質を細胞に導入する。これらの一連の動作は、制御装置98の制御により自動的に行なわれる。注入針搬送手段97には、超音波モータやボールねじが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2624719号公報
【特許文献2】特許第3035608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
細胞の形状、大きさ、弾性力が異なるため、細胞に対する注入針の位置制御を一括で行う特許文献2なとのマイクロキャピラリーアレイ方式では、多くの細胞に対して針が刺さらないか、或いは、多くの細胞を破壊するといった結果になっている。また、マイクロキャピラリーアレイを用いる方式は細胞をマイクロキャピラリーアレイと同位置に配列させる必要があるため、培養液内で移動可能な浮遊細胞のみに対応でき、培地やシャーレの底に付着した細胞には使用することができない。
【0007】
マイクロインジェクション法のハイスループット化のために注入物質の注入速度の向上やマニピュレータ(注入針の搬送手段)の位置決め速度の向上が図られている。現在1秒以下で1個の細胞の注入処理を実現したものがある。しかし、医療用途の要求では、導入物質の種類を問わないこと、導入効率が高いこと、及び、物質導入細胞を大量に供給できることが要求され、特に重要な物質導入細胞を大量に供給できる要求は現状では満たすことができない。
【0008】
複数の注入針を使用したくとも、現状は注入針を装備したマニピュレータの寸法が大きいためマニピュレータの複数配置が出来ないといった問題がある。また、現在のマイクロインジェクション装置では細胞の位置決めには細胞が入ったシャーレステージを稼動し、注入針を装備したマニピュレータは細胞に注入針を穿刺する方向のみに稼動するため、複数の細胞の位置決めを同時に行うことが出来なかった。
【0009】
例えば図31と共に前述したような現在のマイクロインジェクション装置では、細胞を位置決めするために細胞を収容したシャーレ90を支持する容器位置調整手段94を移動させ、注入針95を装備したマニピュレータを、細胞に注入針95を挿入する方向にのみ移動させるため、複数の細胞を位置決めして各細胞に注入針を同時に挿入することができなかった。
また、注入針95の搬送手段において、注入針95が、直行するX軸方向、Y軸方向の2自由度を移動する場合、例えばX軸移動機構上にY軸移動機構を積み重ねるように配置していた。そのため、X移動機構は注入針とY軸移動機構との両者を駆動することになるため、高速移動が困難であった。
【0010】
上記マニピュレータの寸法の小型化については、駆動源として圧電素子積層体を用いたり、その圧電素子積層体の動作を拡大する機構を用いることなどで解決したものを、本出願人は先に提案した(例えば、特願2010−077677号)。この提案例では、注入針を穿刺する方向のみではなく、水平面内での移動と、穿刺方向との両方の移動が可能とされており、複数の細胞への並行したインジェクション処理が可能となる。また、マニピュレータの小型化については、他にも考えられ、マニピュレータの複数配置は、実現可能性が高まっている。
【0011】
しかし、複数配置された各マニピュレータを用いてどの被導入体のインジェクション処理を行うかにつき、未解決であった。複数あるマニピュレータをどのように使い分けるかは、シャーレ内の全ての被導入体にインジェクション処理を行うにつき、処理の総時間に大きく影響する。
【0012】
この発明の目的は、細胞等の被導入体への導入物質の導入を、複数の注入針で効率良く確実に行うことができて、処理効率の向上が可能なマイクロインジェクション装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明のマイクロインジェクション装置は、内部に導入物質が充填された注入針11を被導入体Tに挿入することにより、被導入体T内に導入物質を導入するインジェクション処理を行うマイクロインジェクション装置であって、
前記被導入体Tの入った容器12の位置を調整する容器位置調整手段1と、この容器位置調整手段1で位置調整された容器12の内部の被導入体Tに対して複数の注入針11をそれぞれ個別に少なくとも2次元方向に移動可能に移動させる複数の搬送手段4と、前記容器位置調整手段1により位置調整された前記容器12の内部の画像を、顕微鏡3を通して顕微鏡視野範囲Vで撮像する撮像手段2と、この撮像手段2によって得られた画像から前記顕微鏡視野範囲Vの各被導入体Tの位置を判定する位置判定手段8と、この位置判定手段8で判定された各被導入体Tの位置の情報から、定められた規則Rに従って各注入針11の搬送手段4の負荷が均等化されるように、各注入針11が担当する前記顕微鏡視野V内での範囲Eを決定する担当範囲演算手段9と、この担当範囲演算手段9で決定された担当範囲Eの各被導入体Tに対して、前記位置判定手段8で判定された各被導入体Tの位置の情報から前記各搬送手段4に注入針11の移動を行わせる注入針移動制御手段88とを備えることを特徴とする。
【0014】
この構成によると、複数の注入針11をそれぞれ個別に少なくとも2次元方向に移動可能に移動させる複数の搬送手段4を設けたため、これら複数の注入針11を並行して動作させ、インジェクション処理を行うことができる。被導入体Tの入った容器12の位置を調整する容器位置調整手段1を設け、容器位置調整手段1により位置調整された前記容器12の内部の画像を、顕微鏡3を通して顕微鏡視野範囲Vで撮像する撮像手段2と、この撮像手段2によって得られた画像から前記顕微鏡視野範囲Vの各被導入体Tの位置を判定する位置判定手段8とを設けたため、顕微鏡視野範囲V毎に前記複数の注入針11でインジェクション処理を行って、容器12内の全ての被導入体Tのインジェクション処理を行うことができる。
この場合に、各注入針11が担当する顕微鏡視野V内での範囲Eを決定する担当範囲演算手段9を設け、この手段9は、定められた規則Rに従って各注入針11の搬送手段4の負荷が均等化されるように担当範囲を決定するものとしたため、顕微鏡視野V内の全体の被導入体Tに対して、一部の注入針11に負荷が偏ることなくインジェクション処理することができる。そのため、並行動作させる各注入針11が、顕微鏡視野V内で担当する全ての各被導入体Tへのインジェクション処理を完了する時間の差が少なくなる。したがって、被導入体Tへの導入物質の導入を、複数の注入針11で効率良く確実に行うことができて、処理効率の向上が可能となる。
【0015】
なお、前記の「負荷」は、注入針11の搬送手段の動作時間や動作回数に影響する要因の物理量であって、任意に定められた規則に従って計算される物理量であり、例えば、注入針11の移動する距離であっても、注入針11の移動する回数であっても、またこれらの距離や回数の両方を考慮した値であっても良い。
【0016】
この発明において、前記担当範囲演算手段9は、各注入針11が担当する範囲Eの面積がほぼ均等となるように、前記顕微鏡視野範囲Vの領域を分割するものであっても良い。担当する範囲Eの面積がほぼ均等であれば、各注入針11の搬送手段4の負荷が均等化され、各注入針11によるインジェクション処理の時間が均等化される。また、担当する範囲Eの面積をほぼ均等に分割するため、分割の演算処理が容易である。
【0017】
この発明において、前記担当範囲演算手段9は、各注入針11が担当する被導入体Tの数がほぼ均等となるように前記顕微鏡視野範囲Vの領域を分割するものであっても良い。担当する被導入体Tの数が等しければ、注入針11のインジェクション処理のための動作の回数が均等となるため、各注入針11によるインジェクション処理の時間が均等化される。
【0018】
この発明において、個々の注入針11毎に、担当する各被導入体Tへのインジェクション処理の動作における注入針11の総移動距離が最短になるように、被導入体11のインジェクション処理の順番を決定する挿入順決定手段10を設けても良い。
インジェクション処理の動作では、注入針11を挿入方向の待機位置にある状態で、注入針11が被導入体Tに対向する位置に来るように調整移動させ、注入針11を被導入体に挿入する挿入方向の動作、および被導入体Tを待機位置に戻す動作を繰り返すことになる。担当範囲E内の複数の被導入体Tにインジェクション処理を行う場合に、どの順に処理を行うかは、前記挿入方向の動作の時間への影響は少ないが、前記調整移動の距離が大きく異なり、移動時間の和が大きく変わる。そのため、注入針11の総移動距離が最短になるように順番を定めることで、担当範囲Eの全ての被導入体のインジェクション処理を行う総時間が短縮できる。
【0019】
前記挿入順決定手段10を設けた場合に、前記担当範囲演算手段9を次の構成としても良い。例えば、前記担当範囲演算手段9は、個々の注入針11の前記総移動距離がほぼ均等となるように前記顕微鏡視野範囲Vの領域を分割するものとする。
前記挿入順決定手段10を設けた場合は、個々の注入針11の総移動距離が定まる。このように定まる総移動距離を均等化させることで、各注入針11が担当するインジェクション処理の時間が均等化され、処理効率の向上が可能となる。
【0020】
前記挿入順決定手段10を設けた場合に、前記担当範囲演算手段9は、個々の注入針11の前記総移動距離と処理個数の積がほぼ均等となるように顕微鏡視野範囲Vの領域を分割するものであっても良い。インジェクション処理のための注入針11の移動に要する時間には、注入針11が被導入体Tに対向する位置に来るように調整移動させる時間と、注入針11を挿入方向に往復させる時間とがある。注入針11を挿入方向に往復させる時間は、処理個数に依存する。調整移動させる時間は、前記総移動距離に依存する。そのため、総移動距離と処理個数の積がほぼ均等となるように顕微鏡視野範囲の領域を分割することで、各注入針が担当するインジェクション処理の時間がより一層均等化され、処理効率のさらなる向上が可能となる。また、上記のように処理個数と総移動距離の両者から処理時間が決定されるが、両者の積を用いることで、処理個数と総移動距離を反映させた適切な領域分割が簡単に行える。
【0021】
前記挿入順決定手段10を設けた場合に、前記担当範囲演算手段9は、注入針11の移動時間と、注入針11が被導入体Tに挿入されている間に導入物質の充填のために停止させるインジェクション時間とを用い、インジェクション時間と移動時間との和である処理時間がほぼ均等となるように前記顕微鏡視野範囲Vの領域を分割するものとしても良い。
移動時間の他に、注入針11が導入物質の充填のために停止しているインジェクション時間を考慮することで、各注入針11が担当するインジェクション処理の時間がより一層均等化され、処理効率のさらなる向上が可能となる。
【0022】
この発明において、前記担当範囲演算手段9は、各注入針11を並行して動作させたときに注入針11同士の干渉が生じないことを優先条件とし、この優先条件下で前記顕微鏡視野範囲Vの領域を分割するものとしても良い。
各注入針11を並行して動作させたときに注入針同士の干渉が生じる場合は、並行動作させることができない。したがって、干渉が生じないことを優先条件し、この優先条件を充足する範囲で、他の条件、例えば担当する面積がほぼ均等、あるいは担当する被導入体の数がほぼ均等となるように顕微鏡視野範囲の領域を分割することが実際的である。
【0023】
この発明において、注入針11同士が干渉しないように、各注入針11の被導入体Tへのインジェクション処理の順番を決定する干渉回避手段79を設けても良い。これにより、注入針11同士の干渉の回避が確実となる。
【0024】
被導入体Tの大きさに応じて、顕微鏡視野範囲Vを調整する視野範囲調整手段86を設けても良い。顕微鏡視野範囲Vの調整は、例えば顕微鏡3の対物レンズの倍率変更により行う。被導入体Tの大きさにより、被導入体Tへの注入針11の挿入位置の精度の要求が変わる。そのため、被導入体Tが大きいときは顕微鏡視野範囲Vを広げて容器位置の変更回数を減らし、被導入体Tが小さいときは顕微鏡視野範囲Vを狭めて精度向上を図ることで、導入に必要な精度の低下を生じることなく、インジェクション処理の効率の向上を図ることができる。
【0025】
顕微鏡視野範囲Vに応じて前記容器位置調整手段1により容器12の位置を順次移動させ、容器12内の全領域で前記注入針11のインジェクション処理を行わせるように前記容器位置調整手段1および前記各注入針11の搬送手段4を制御する容器内全範囲処理手段100を設けても良い。これにより、容器12内の全ての被導入体Tに導入物質の導入を行うことができる。
【0026】
前記容器内全範囲処理手段100は、一つの顕微鏡視野範囲Vの全ての被導入体Tに対するインジェクション処理が行なわれた後、顕微鏡視野範囲Vに応じて前記容器12を前記容器位置調整手段1により順次移動させ、各回の移動後の位置における容器12内の被導入体Tに対するインジェクション処理を行わせるようにしても良い。この場合、被導入体Tの位置の記憶が、一つの顕微鏡視野範囲Vだけで済み、記憶容量が少なくて済む。
【0027】
前記容器内全範囲処理手段100を設けた場合に、前記各注入針11のインジェクション処理の順番を、定められた規則より決める挿入順決定手段10を備え、前記容器内全範囲処理手段100は、顕微鏡視野範囲Vに応じて前記容器位置調整手段1により容器12の位置を順次移動させ、複数回の移動先の各顕微鏡視野範囲Vまでの被導入体Tの位置を、インジェクション処理よりも前に、前記位置判定手段8により判定させ、かつ前記担当範囲演算手段9に各注入針11が担当する前記範囲Eを決定させ、前記挿入順決定手段10にインジェクション処理の順番を決定させるものとしても良い。
このように先行して移動先の被導入体Tの位置の情報を取得しておくことで、顕微鏡視野範囲Vのインジェクション処理時において、注入針の移動先の計算を先行して行うことができ、処理時間の短縮が図れる。
【0028】
前記容器内全範囲処理手段100を設けた場合に、前記各注入針11のインジェクション処理の順番を定められた規則より決める挿入順決定手段10を備え、前記容器内全範囲処理手段100は、顕微鏡視野範囲Vに応じて前記容器位置調整手段1により容器12の位置を順次移動させて前記容器12内の全被導入体Tの位置を、インジェクション処理よりも前に前記位置判定手段8により判定させ、かつ前記担当範囲演算手段9に各注入針11が担当する前記範囲Eを決定させ、前記挿入順決定手段10にインジェクション処理の順番を決定させるものとしても良い。
容器12内の全被導入体Tの位置を、インジェクション処理よりも前に前記位置判定手段8により判定させることで、より一層効率の良い領域分割やインジェクション処理順の決定等が行える。
【0029】
前記容器内全範囲処理手段100は、顕微鏡視野範囲Vに応じて前記容器位置調整手段1により容器12の位置を順次移動させ、現在の顕微鏡視野範囲Vの被導入体Tの位置を位置判定手段8により判定させると同時に、複数回前の顕微鏡視野範囲Vの各被導入体Tへのインジェクション処理を、前記注入針移動制御手段88による搬送装置4の移動によって行わせるようにしても良い。この構成の場合、被導入体Tの位置の演算をインジェクション処理中に行え、より一層効率良く全体のインジェクション処理を行うことができる。
【0030】
前記容器内全範囲処理手段100は、前記容器位置調整手段1により容器の12位置を順次移動させるときに、顕微鏡視野範囲Vに重複する部分Vaを持つように移動させるものとしてもよい。重複する部分Vaを持たせることで、顕微鏡視野範囲Vの境界付近の被導入体Tに対して未処理が生じることを防止できる。
【0031】
顕微鏡視野範囲Vに重複する部分Vaを持つように前記容器12を移動させる場合に、前記容器内全範囲処理手段100は、前記重複する部分Vaの面積が同じになるようにしても良い。重複する部分Vaの面積を同じとすることで、容器内の範囲を多数の顕微鏡視野範囲Vに区分する処理が容易になる。
【0032】
顕微鏡視野範囲Vに重複する部分Vaを持つように移動させる場合に、前記容器内全範囲処理手段100は、前記容器位置調整手段1により容器12の位置を順次移動させるときに、定められた規則により、顕微鏡視野範囲V内に基準となる被導入体To を決定し、その被導入体To が含まれる領域が重複するように移動させるものとしても良い。この構成の場合、重複する位置にある被導入体Toが基準であり、被導入体Toの位置が明確となる。
【0033】
この発明において、前記搬送手段は、進退自在に設置された移動体と、この移動体を移動させる進退駆動手段とを有し、前記進退駆動手段は、駆動源として、複数の圧電素子が積層されて積層方向に伸縮する圧電素子積層体を有するものとしても良い。駆動源として積層型の圧電素子を用いた場合は、搬送手段をより一層小型化できて、前記容器の周囲の限られたスペースに多数の搬送手段を配置でき、それだけ多数の注入針を使用することができてインジェクション処理の効率向上が可能となる。
【0034】
駆動源として前記圧電素子積層体を用いた場合に、前記搬送手段における前記圧電素子積層体を駆動源とする進退駆動手段は、圧電素子積層体を平行に配置し、これら複数の圧電素子積層体を、結合部材を介して伸縮方向に直列に接続しても良い。
このように複数本の圧電素子積層体を平行に配置して直列接続した場合、コンパクトな構成でより一層大きな変位が得られる。注入針の先端が、撮像手段によって得られた画像における所定視野内全域を移動可能にするためには、搬送手段による注入針の移動距離は1mm以上であることが望ましいが、上記の圧電素子積層体の配置,接続構成とすることで、大きなスペースを要することなく、注入針に必要な移動量を十分確保することができる。
【0035】
この構成の場合に、前記搬送手段における前記圧電素子積層体を駆動源とする進退駆動手段は、圧電素子積層体の伸縮をその伸縮方向と直交する方向の変位に拡大する拡大機構を有するものとしても良い。前記拡大機構は、例えばリンク機構とする。
拡大機構を有すると、注入針に必要な移動量を確保するうえで、より効果的なものとなる。リンク機構によると、簡単な構成の拡大機構とできる。
【0036】
また、前記圧電素子積層体を駆動源とする構成の場合に、前記搬送手段における前記圧電素子積層体を駆動源とする進退駆動手段は、圧電素子積層体の伸縮をその伸縮方向と平行な方向の変位に拡大する拡大機構を有するものとしても良い。前記拡大機構は、例えばリンク機構とする。 伸縮方向と平行な方向の変位に拡大するようにした場合も、注入針に必要な移動量を確保するうえで、より効果的なものとなる。
【0037】
圧電素子積層体の伸縮をその伸縮方向と直交する方向の変位に拡大する拡大機構を有する場合、および伸縮方向と平行な方向の変位に拡大する拡大機構を有する場合のいずれにおいても、前記リンク機構は、次の構成のものが採用できる。すなわち、前記リンク機構は、1つの固定ジョイントと2つの可動ジョイントと2つのリンクとからなるクランク・スライダ機構を有し、このクランク・スライダ機構は、前記圧電素子の伸長方向の変位を、前記2つの可動ジョイントおよび2つのリンクを介して、固定ジョイントの円周上の任意の方向に変換し更に変位を拡大可能としても良い。リンク機構をこの構成した場合、部品点数の削減や寸法の小型化が図れる。
【0038】
この発明において、前記搬送手段は、少なくとも第1の移動体と第2の移動体とを互いに直交する方向に進退自在とした2自由度を持っていて、第2の移動体に前記注入針を支持し、前記第1の移動体が第1のガイドを介して基台に直線方向に進退自在移動可能に設置され、第1の移動体の上に第2のガイドを介して第2の移動体が、前記直線方向と直交する方向に進退自在に設置され、前記第1の移動体および第2の移動体をそれぞれ進退させる第1の進退駆動手段および第2の進退駆動手段が前記基台に設置され、前記第2の進退駆動手段の出力部材が、第2の移動体に対して進退移動可能な方向と直交する方向に対して移動が自在に連結され、または接触するものとしても良い。
この構成の場合、前記搬送手段は、移動体と進退駆動手段を分離し、各自由度に対する進退駆動手段をいずれも基台に設置したため、搬送手段を小型化でき、また移動体の質量を低減できて搬送手段の高速駆動が可能となる。各自由度に対する進退駆動手段をいずれも基台に設置したが、基台に対して第1の移動体を介して設置される第2の移動体に対しては、第2の進退駆動手段の出力部材が、その進退移動可能な方向と直交する方向に対
して移動が自在に連結され、または接触するため、第1の移動体の移動した位置に係わらず、第2の進退駆動手段の進退駆動を第2の移動体に伝達することができる。
また、搬送手段を小型化できるため、細胞等の被導入体が入ったシャーレ等の容器の周辺に複数の搬送手段を配置することが実現容易となる。そのため複数の被導入体に対して注入針先端の位置決めを同時に行うことが出来、一度に多数の被導入体へのインジェクション処理を実行することが出来、ハイスループット化が可能となる。
【0039】
この発明において、被導入体が細胞であり、導入物質が、DNAおよびタンパク質等の遺伝子制御因子であっても良い。このような細胞への遺伝子制御因子の注入の場合に、この発明における、複数の注入針で効率良く確実に行うことができて、処理効率の向上が可能という利点が、効果的に発揮される。
【発明の効果】
【0040】
この発明のマイクロインジェクション装置は、内部に導入物質が充填された注入針を被導入体に挿入することにより、被導入体内に導入物質を導入するインジェクション処理を行うマイクロインジェクション装置であって、 前記被導入体の入った容器の位置を調整する容器位置調整手段と、この容器位置調整手段で位置調整された容器の内部の被導入体に対して、複数の注入針をそれぞれ個別に少なくとも2次元方向に移動可能な複数の搬送手段と、前記容器位置調整手段により位置調整された前記容器の内部を、顕微鏡を通して顕微鏡視野範囲で撮像する撮像手段と、この撮像手段によって得られた画像から前記顕微鏡視野範囲の各被導入体の位置を判定する位置判定手段と、この位置判定手段で判定された各被導入体の位置の情報から、定められた規則に従って各注入針の搬送手段の負荷が均等化されるように、各注入針が担当する前記顕微鏡視野内での範囲を決定する担当範囲演算手段と、この担当範囲演算手段で決定された担当範囲の各被導入体に対して、前記位置判定手段で判定された各被導入体の位置の情報から前記各搬送手段に注入針の移動を行わせる注入針移動制御手段とを備えるため、細胞等の被導入体への導入物質の導入を、複数の注入針で効率良く確実に行うことができて、処理効率の向上が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】(A)はこの発明の第1の実施形態にかかるマイクロインジェクション装置の概念構成の説明図、(B)はその容器内の顕微鏡視野範囲による分割の説明図、(C)はその顕微鏡視野範囲の担当範囲への分割の説明図である。
【図2】同マイクロインジェクション装置における搬送手段の配置構成を示す平面図である。
【図3】顕微鏡視野範囲の分割形態の一例を示す説明図である。
【図4】顕微鏡視野範囲の分割形態の他の例を示す説明図である。
【図5】顕微鏡視野範囲の分割形態のさらに他の例を示す説明図である。
【図6】顕微鏡視野範囲の分割形態のさらに他の例を示す説明図である。
【図7】(A)は容器内の全ての被導入体の位置をまとめて判定する動作の説明図、(B)は容器内の複数分割された範囲毎に被導入体の位置をまとめて判定する動作の説明図である。
【図8】(A),(B)はそれぞれ顕微鏡視野範囲の重複部分を持たせる形態の説明図である。
【図9】同マイクロインジェクション装置における搬送手段の他の配置構成を示す平面図である。
【図10】同マイクロインジェクション装置における搬送手段の側面図である。
【図11】同マイクロインジェクション装置における搬送手段のX軸移動機構およびY軸移動機構を示す一部省略平面図および正面図である。
【図12】同搬送手段のX軸移動機構およびY軸移動機構を示す平面図および正面図である。
【図13】同搬送手段の進退駆動手段の一例を示す断面図である。ある。
【図14】同マイクロインジェクション装置における容器位置調整手段の一例を示す平面図である。
【図15】同搬送手段の進退駆動手段における出力部材と移動体との接触部の一例を示す拡大平面図である。
【図16】同搬送手段の進退駆動手段における出力部材と移動体との接触部の他の例を示す拡大平面図である。
【図17】同マイクロインジェクション装置における搬送手段のX軸移動機構およびY軸移動機構の他の例を示す平面図および正面図である。
【図18】同マイクロインジェクション装置における搬送手段のX軸移動機構およびY軸移動機構のさらに他の例を示す平面図および正面図である。
【図19】同マイクロインジェクション装置における搬送手段のX軸移動機構およびY軸移動機構のさらに他の例を示す平面図および正面図である。
【図20】同マイクロインジェクション装置における搬送手段のX軸移動機構およびY軸移動機構のさらに他の例を示す平面図および正面図である。
【図21】同搬送手段におけるZ軸移動機構の一例の縦断面図とその制御系の概念構成のブロック図とを組み合わせて示す図である。
【図22】同搬送手段における進退駆動手段とその制御系の概念構成のブロック図とを組み合わせて示す他の例の図である。
【図23】同搬送手段における進退駆動手段とその制御系の概念構成のブロック図とを組み合わせたさらに他の例を示す図である。
【図24】同搬送手段における進退駆動手段とその制御系の概念構成のブロック図とを組み合わせたさらに他の例を示す図である。
【図25】同進退駆動手段におけるリンク機構の一構成例を示す平面図、(B)は同リンク機構の他の構成例を示す平面図およびその部分拡大断面図、(C)は同リンク機構のさらに他の構成例を示す平面図である。
【図26】同搬送手段における進退駆動手段とその制御系の概念構成のブロック図とを組み合わせたさらに他の例を示す図である。
【図27】同搬送手段の進退駆動手段におけるリンク機構のさらに他の構成例を示す平面図である。
【図28】同搬送手段における進退駆動手段とその制御系の概念構成のブロック図とを組み合わせたさらに他の例を示す図である。
【図29】同進退駆動手段のリンク機構の一構成例を示す平面図である。
【図30】同リンク機構の他の一構成例を示す平面図である。
【図31】従来例の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図8と共に説明する。図1は、このマイクロインジェクション装置の概念図を示す。このマイクロインジェクション装置は、内部に導入物質の充填された微小な注入針11を被導入体Tに挿入することにより、被導入体T内に導入物質を導入する装置である。被導入体Tは、例えば細胞である。この細胞は、人体の細胞であっても、他の任意の動物や植物等の生物の細胞であっても良い。
このマイクロインジェクション装置は、容器位置調整手段1と、複数の注入針11に対して個別に設けたマニピュレータである複数の搬送手段4と、これら各搬送手段4を注入準備位置と退避位置との間で進退させる搬送手段退避機構39と、撮像手段2と、顕微鏡3と、装置全体の動作を制御する制御装置5とを備える。
【0043】
容器位置調整手段1は、被導入体を収容するシャーレ等の容器12が載置状態に保持された容器載置台13を水平な直交2軸方向(X軸,Y軸方向)に移動させて容器12の位置を調整する手段であり、XYステージ装置6により構成される。
なお、この明細書でいうX軸、Y軸、Z軸は、マイクロインジェクション装置の全体における共通の座標系として定められる直角座標の各軸を表すが、搬送手段4については、それぞれ個別の装置説明での各自由度に対する軸として表す場合がある。
【0044】
撮像手段2は、顕微鏡3と共に、容器載置台13の上方の固定位置に、容器12を俯瞰するように1台だけ設置される。撮像手段2は、容器12の内部を局部的に拡大した平面視画像等の画像を、顕微鏡3を通して撮像するカメラなどであり、顕微鏡3の視野範囲V(図1(B))毎の撮像を行う。顕微鏡視野範囲Vは、容器位置調整手段1により容器12を移動させることで、容器12内の任意の位置が顕微鏡視野範囲Vとされる。例えば、図1(B)のように容器12内を区分した各範囲が顕微鏡視野範囲Vとされる。撮像した画像は、画像処理手段7によって処理される。顕微鏡3は、外部から与えられる入力信号によって対物レンズ(図示せず)の倍率などを調整することで、視野範囲の調整が可能な駆動式の倍率調整手段(図示せず)を有する。
【0045】
搬送手段4は、個々の注入針11をそれぞれ移動させるXYZステージ装置等からなる手段であり、複数設けられる。これら複数の搬送手段4は、図2に平面図で示すように、容器載置台13の上方に位置して、容器12を囲むように、容器12の中心に対して放射状に配置される。同図の例では、搬送手段4は、容器12の左右にそれぞれ複数個(例えば2個)ずつが等角度間隔で配置され、左右の搬送手段4は、互いに放射中心に対して同一直線上に対向して位置している。搬送手段4は、図9のように左右に3つが等角度間隔で並ぶように配置しても、さらに多数設けても良い。
【0046】
図1において搬送手段4は、3自由度を有する機構であり、注入針11を3次元方向に移動可能である。具体的には、搬送手段4は、注入針11を水平な直交2軸方向に移動させる機構と、注入針11を水平面に対して傾斜した直線方向に進退させる機構とからなる。搬送手段4のより具体的な構成は、後に詳しく説明する。なお、搬送手段4は、少なくとも2自由度、すなわち直交2軸方向の移動が可能であれば、複数設置して並行してインジェクション処理させることができる。
【0047】
制御装置5は、コンピュータおよびこれに実行されるプログラムにより構成され、これらによって、位置判定手段8、担当範囲演算手段9、挿入順決定手段10、目標位置決定手段80、容器内全範囲処理指令手段100、視野範囲調整手段86、容器移動間隔決定手段87、注入針移動制御手段88、および容器移動制御手段89が構成されている。さらに、干渉回避手段79を設けても良い。制御装置5は、この他に、キーボードやマウス等の手操作による入力手段や、通信回線や記録媒体から入力する入力手段、および画像の表示が可能な液晶表示装置等の表示手段(いずれも図示せず)が備えられ、または接続されている。
【0048】
位置判定手段8は、撮像手段2によって得られた画像から、顕微鏡3の視野範囲Vの各被導入体Tの位置を判定する手段である。撮像手段2によって得られた画像は、画像処理手段7によって2値画像等に処理され、位置判定手段8は、例えばその2値画像の黒点位置が被導入体Tの位置とする。被導入体Tの位置は、顕微鏡視野範囲内の直交2軸方向の座標位置として判定する。顕微鏡視野範囲Vと、容器12の位置との関係から、被導入体Tの容器12に対する座標位置や、容器位置調整手段1の基準位置に対する被導入体Tの座標位置が求まる。位置判定手段8で判定された各被導入体Tの位置は、位置判定手段8における位置記憶部8aに記憶される。
【0049】
担当範囲演算手段9は、顕微鏡視野V内における各注入針11が担当する範囲Eを決定する手段であり、位置判定手段8で判定されて位置記憶部8aに記憶された各被導入体Tの位置の情報から、定められた規則Rに従って担当範囲Eを決定する。この規則Rは各注入針11の搬送手段4の負荷が均等化されるように担当範囲Eを決定するものとされる。
【0050】
担当範囲演算手段9による担当範囲Eの決定は、例えば、図3、図4、図5、または図6に示すように行う。いずれの例においても、視野範囲Vを、この視野範囲V内に定めた放射中心Oの回りに、それぞれの分割範囲が各注入針11に近い位置となるように、放射状の分割線Lにより注入針11の個数分の分割範囲に分割し、その近い位置の分割範囲をその注入針11の担当範囲Vとすることを前提とする。放射中心Oは、視野範囲Vの中心、つまり図心としても良く、また任意に定めた点であっても良い。この前提下で各図のように定める。
【0051】
図3は、各注入針11が担当する面積がほぼ均等となるように、顕微鏡視野範囲Vの領域を、放射中心O回りの分割線Lで複数の担当範囲Eに分割する例である。放射中心Oは、視野範囲Vの中心としたが、視野範囲Vの中心から偏った位置としても良い。
図4は、各注入針11が担当する被導入体Tの数がほぼ均等となるように、顕微鏡視野範囲Vの領域を、放射中心O回りの分割線Lで複数の担当範囲Eに分割する例である。放射中心Oは、上記の例で視野範囲Vの中心としたが、視野範囲Vの中心から偏った位置としても良い。
図5は、個々の注入針11の搬送手段4による総移動距離がほぼ均等となるように、顕微鏡視野範囲Vの領域を、放射中心O回りの分割線Lで複数の担当範囲Eに分割する例である。この例も、放射中心Oは、視野範囲Vの中心としたが、視野範囲Vの中心からずれた位置としても良い。なお、総移動距離は、担当範囲E内の各被導入体Tへのインジョクション処理を行う順番が異なれば変わるため、総移動距離が最短となるインジョクション処理順をとる場合の総移動距離がほぼ均等となるようにする。総移動距離が最短となるインジョクション処理順は、挿入順決定手段10により演算される。この場合に、例えば、担当範囲Eを種々仮に定め、その各場合の総移動距離を比較することで、総移動距離がほぼ均等となる担当範囲Eを計算することができる。
【0052】
担当範囲演算手段9は、上記各例の他にも、種々の担当範囲Eを定める手法が採用できるが、これらについては、後にこのマイクロインジェクション装置の動作の説明欄で説明する。
【0053】
挿入順決定手段10は、個々の注入針11毎に、担当する各被導入体Tへのインジェクション処理の動作における注入針11の総移動距離が最短になるように、担当範囲E内における被導入体Tのインジェクション処理の順番を決定する手段である。
【0054】
目標位置決定手段80は、挿入順決定手段10で順番が決定された個々の被導入体Tに対し、注入針11を挿入する目標となる座標位置を決定する手段である。この座標位置は、被導入体Tの顕微鏡視野範囲V内での座標位置と、その顕微鏡視野範囲Vの容器位置に対する座標位置から定められる。容器位置は、容器位置調整手段1によって移動させられた位置である。
【0055】
注入針移動制御手段88は、目標位置決定手段80によって決定された目標の座標位置へ注入針11が移動するように搬送手段4を制御する手段である。注入針移動制御手段88は、個々の注入針11毎に設けた注入針個別制御部88aの総称である。これら注入針個別制御部88aを総称して注入針移動制御手段88と称する。注入針個別制御部88aは、個々の搬送手段4における、X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向の各駆動源の制御を行う。
【0056】
容器移動制御手段89は、入力された容器位置のXY方向の座標位置となるように、容器位置調整手段1の水平方向となる各軸方向(X方向,Y方向)の駆動源を制御する手段である。
【0057】
容器内全範囲処理指令手段100は、顕微鏡視野範囲Vに応じて、容器位置調整手段1により容器12の位置を順次移動させ、容器12内の全領域で注入針11のインジョクション処理を行わせるように容器位置調整手段1および各注入針11の搬送手段4を制御する手段である。この制御は、注入針移動制御手段88および容器移動制御手段89に指令を与えることで、注入針移動制御手段88および容器移動制御手段89を介して行う。例えば、図1(B)のように、容器12の全範囲を、顕微鏡視野範囲Vが縦横にマトリクス状に並ぶ領域に区分し、その区分された各顕微鏡視野範囲Vに順次位置するように、容器位置調整手段1で容器12を移動させて位置決めし、各容器12の停止位置でそのときの顕微鏡視野範囲Vに対して、各注入針11の搬送手段4を駆動させる。なお、容器12の範囲に顕微鏡視野範囲Vを配列にする場合に、後述のように重複範囲が生じても良い。
【0058】
容器内全範囲処理指令手段100は、この例では、一つの顕微鏡視野範囲Vにおけるインジョクション処理が終了するごとに、容器12の位置を移動させ、次の一つの顕微鏡視野範囲Vにおける被導入体Tの位置の判定、およびインジェクション処理を行う動作を繰り返すようにしている。この他に、後述の例のように、容器12内の全範囲や、その一部となる複数の顕微鏡視野範囲Vにおける被導入体Tの位置の判定をまとめて行うようにしても良い。
【0059】
視野範囲調整手段86は、被導入体Tの大きさに応じて、顕微鏡視野範囲Vを調整する手段である。被導入体Tの大きさは、例えば、画像処理手段7により処理された画像から判別される被導入体Tの平均的な大きさであっても良く、その場合、視野範囲調整手段86は、例えば前記被導入体Tの平均的な大きさを計算する機能を有するものとする。また被導入体Tの大きさは、制御装置5に対して入力手段(図示せず)から与えるようにしても良い。視野範囲調整手段86による視野範囲の調整は、例えば、顕微鏡3の有する倍率調整機構(図示せず)の駆動源に指令を与えることで行う。倍率調整機構は、対物レンズ(図示せず)の自動切替等によって倍率を調整する。
【0060】
容器移動間隔決定手段87は、図1(B)のように顕微鏡視野範囲Vで区分して、容器位置を隣の顕微鏡視野範囲Vに移動させるときに、その移動距離を、視野範囲調整手段86で調整された視野範囲に対応する距離とする手段である。
【0061】
干渉回避手段79は、挿入順決定手段10で各注入針の被導入体Tへのインジェクション処理の順番を決定するにつき、注入針11同士が干渉しないように処理順を決定させる手段である。なお、各注入針11の搬送装置4が、注入針11の相互の干渉が生じることがないように配置されている場合は、干渉回避手段79は設ける必要がない。しかし、微小な範囲で複数の注入針11を並行動作させるため、不測の干渉が生じないように、並行動作時に互いに離れた位置の被導入体Tにインジェクション処理を行うように、干渉回避手段79によって、挿入順決定手段10にインジェクション処理の順番を決定させるようにしても良い。
【0062】
次の上記構成のマイクロインジェクション装置の動作を説明する。インジェクション処理は、容器12内の全領域に対し行うが、顕微鏡視野範囲V毎に順次行う。まず、個々の顕微鏡視野範囲Vでのインジェクション処理について説明する。被導入体Tへの導入のための注入針11の水平方向(直交2軸方向)および注入方向の位置決めは、全て、個々の注入針11毎に設けられた搬送手段4で行う。そのため、容器12の周りに放射状に配置された複数の注入針11により、並行してインジェクション処理を行うことができる。
【0063】
処理に際して、まず、顕微鏡視野範囲Vの全ての被導入体Tに対し、撮像手段2で撮像し、画像処理手段7による画像処理を行って位置判定手段8により位置を判定し、位置記憶部8aに記憶する。なお、この位置判定は、後述のように容器12内の全領域についてまとめて行っても良いが、この実施形態では、顕微鏡視野範囲V内の全被導入体Tへのインジェクション処理が終了した後、容器12を容器位置調整手段1で近接した別の位置へ移動させ、その位置で被導入体Tの位置を画像処理よって認識し、インジェクション処理を行う動作を繰り返す。
【0064】
各注入針11が担当する顕微鏡視野V内での担当範囲Eは、担当範囲演算手段9によって、定められたように割り振る。この場合に、担当範囲演算手段9は、各注入針11の搬送手段4の負荷が均等化されるように、換言すれば、各注入針11の搬送手段3による動作量が均一化されるように担当範囲Eを決定し、各注入針11で並行にインジェクション処理を行う。これにより、総処理時間が短縮される。
【0065】
担当範囲Eの割り振りについては、例えば図3のように、各注入針11が担当する面積がほぼ均等となるように、顕微鏡視野範囲Vの領域を複数の担当範囲Eに分割する。図4のように、各注入針11が担当する被導入体Tの数がほぼ均等となるように、顕微鏡視野範囲Vの領域を複数の担当範囲Eに分割しても良い。図4では、分割線Lを顕微鏡視野範囲Vの中心を基準として僅かに回転させている。これは、担当範囲Eの面積が大きくなると搬送装置4の移動距離が長くなり処理時間に差が生じてしまうため、出来るだけ担当範囲Eの面積の差が無いようにするためである。ただし、図4の例は担当範囲の設定方法を限定するものではない。
【0066】
また、図5のように各注入針11の処理する領域(担当範囲E)における総移動距離がほぼ均一になるように、顕微鏡視野範囲V内を分割してもよい。図4と同様に、被導入体Tへの処理において、各注入針11の搬送手段4の移動距離に差が生じると、処理時間に差が生じてしまうため、位置記憶部8aの内容から、挿入順決定手段10は各注入針11につき、被導入体Tの処理順を決定し、その順番において総移動距離を計算し、総移動距離がほぼ均一になるように顕微鏡視野範囲V内を分割する。
【0067】
また、担当範囲演算手段9は、図3〜5と共に前述した分割方法に限らず、各注入針11の処理する領域(担当範囲E)における処理個数と総移動距離の積ができるだけ小さくなるように、顕微鏡視野範囲V内を分割してもよい。処理個数と移動距離の両者から処理時間は決定される。各注入針11の処理時間の相対的な比較を簡易的に行うために、両者の積を用いている。
【0068】
また、各注入針11の処理する担当範囲Eにおける処理時間がほぼ均一になるように、顕微鏡視野範囲V内を分割してもよい。この場合、担当範囲演算手段9により、インジェクション処理における、注入針11が被導入体T内にあって停止して導入物質の導入が完了するまで待つ時間と、注入針11の移動距離から処理時間を計算し、処理時間がほぼ均一になるように各注入針11の担当を決定する。
【0069】
また、前記担当範囲演算手段9は、各注入針11を並行して動作させたときに注入針11同士の干渉が生じないことを優先条件とし、この優先条件下で前記顕微鏡視野範囲Vの領域を分割するものとしても良い。例えば、図7に示すように干渉部分Iが生じる場合、同図のように分割する。各注入針11を並行して動作させたときに注入針同士の干渉が生じる場合は、並行動作させることができない。したがって、干渉が生じないことを優先条件し、この優先条件を充足する範囲で、他の条件、例えば担当する面積がほぼ均等、あるいは担当する被導入体の数がほぼ均等となるように顕微鏡視野範囲の領域を分割することが実際的である。その際、重複する領域を設けてもよいが、重複する領域ができるだけ小さくなるようにした方がよい。重複部分を設ける際、挿入順決定手段10は、注入針11同士が干渉しないように、被導入体Tへのインジェクションの順番を決定する。
【0070】
つぎに、容器12内の全領域へのインジェクション処理について説明する。顕微鏡視野範囲Vは、容器12内の一部の領域であるため、容器12を順次移動させ、容器12内の全領域においてインジェクション処理を行う必要がある。前述の例では、一つの顕微鏡視野範囲V内のインジェクション処理が終了する毎に、容器12を移動させて次の顕微鏡視野範囲V内の各被導入体Tの位置を判定し、インジェクション処理を行う動作を繰り返すようにしたが、次のようにまとめて被導入体位置の判定を行うようにしても良い。
【0071】
例えば、容器12内の全領域の処理を行うにあたって、容器内全範囲処理指令手段100は、先ず、図7(A)のように、最初に容器12を顕微鏡視野範囲Vに応じて順次移動させ、容器12内の全ての被導入体Tの位置を、位置判定手段8に判定させて位置記憶部8aに記憶させる。位置記憶部8aには、顕微鏡視野範囲Vと対応させて被導入体Tの位置を記憶させる。このように記憶させた情報を用い、担当範囲演算手段9による図3〜5等のような担当範囲Eの分割、挿入順決定手段10によるインジェクション処理の順番を計算する。
【0072】
ここで、一括で容器12内の全ての被導入体Tの位置を判定するようにしたが、位置記憶部8aの記憶容量や、担当範囲演算手段9等の処理速度に応じて、複数回先の被導入体Tの位置までを判定して記憶しておき、顕微鏡視野範囲Vのインジョクション処理中に、並行して複数回先の顕微鏡視野範囲Vの注入針11の担当範囲Eの計算、インジェクション処理の順番の計算を行うようにしても良い。図7(B)では、容器12内を4分割した例を示す。直線Mはその分割の境界線を示す。この様に、先行して移動先の被導入体Tの位置の情報を取得しておくことで、顕微鏡視野範囲Vのインジェクション処理中において移動先の計算を先行して行うことができ、処理時間の短縮が図れる。
【0073】
また、容器12を移動させる際には、今回の顕微鏡視野範囲Vと次回の顕微鏡視野範囲Vとに重複する部分Vaを設けても良く、これにより、顕微鏡視野範囲Vの境界付近の被導入体Tへの未処理が生じることを回避できる。ここで、重複する部分は、図8(A)に斜線範囲で示すように一定の面積としても良く、また図8(B)のように顕微鏡視野範囲Vから基準とする被導入体Tを、定められた適宜の方法で決定しておき、その基準とした被導入体To の移動距離を管理しても良い。これによっても、上記の重複する部分の面積を一定とする場合と同等の効果が得られる。なお、基準とする被導入体To は、例えば、顕微鏡視野範囲Vにおいて、もっとも右上の端にある被導入体TをToと定める。
【0074】
上記のように、容器12内の被導入体Tの位置の情報を取得しておき、インジェクション処理と同時に、並行して複数回先の顕微鏡視野範囲Vの計算を行うことで、総合的にインジェクション動作を短縮することが可能になった。
【0075】
次に、このマイクロインジェクション装置における前記制御装置5を除く部分であるマイクロインジェクション装置本体の各具体例を、図10〜図30と共に説明する。図10〜図14は、マイクロインジェクション装置本体の第1の具体例を示す。
第1の具体例につき、全体の構成の詳細な説明に先立って、特徴となる構成および作用効果を説明する。この具体例では、搬送手段4のX軸方向とY軸方向の直交2軸方向の移動につき、移動体41,42と進退駆動手段(動力部)45,46とを分離し、進退駆動手段(動力部)45,46を固定部に設置することで移動体の質量を低減でき、搬送手段の高速駆動を可能としている。
従来では、 注入針の搬送手段において、注入針が、直行するX軸方向、Y軸方向の2自由度を移動する場合、例えばX軸移動機構上にY軸移動機構を積み重ねるように配置していた。この場合X移動機構は注入針とY軸移動機構との両者を駆動するため高速移動が困難であった。この実施形態では、このような移動機構の積み重ねを回避し、軽量化による高速移動を実現している。
【0076】
また、従来では、注入針の駆動には、ボールネジや超音波モータが使用されていたが、この例では、注入針11の注入方向(Z軸方向)の移動に、圧電素子積層体19A,19B(図13)を用いた小型アクチュエータを組み合わせることによって、注入針11を駆動するマニピュレータである搬送装置4の小型化を図っている。圧電アクチュエータは、電気エネルギから機械エネルギに変換する変換効率が高く、印加する電圧を変えることにより、発生する変位を比較的簡単に可変することができ、制御性に優れた特徴がある。また、この例では、クランク・スライダ機構を用いているため、圧電素子積層体19A,19Bの変位を拡大することができる。
搬送装置2は、被導入体Tに対して少なくとも2自由度の駆動機構を持つことにより、注入針先端の位置決めが搬送装置2の単体で可能となる。搬送装置4の小型化により、細胞等の被導入体Tの入った容器12の周辺の限られたスペースに複数の搬送装置4配置することを可能とした。複数の搬送装置4は、同時に各注入針11の先端の位置決めを行うことを可能としている。
【0077】
また、位置決め制御は前記のように制御装置5(図1)で行うが、各注入針11が担当する担当範囲Eを決定し、各注入針11の搬送装置4の負荷を均等化させるようにしたため、より搬送装置4のより一層の小型化が可能になる。
【0078】
これらのマイクロインジェクション装置本体における搬送装置4の小型化の工夫と、複数の搬送装置4を、負荷を均等化して用いる制御上の工夫との組合せにより、容器12内の全ての被導入体Tにインジョクション処理を行うにつき、その処理時間の短縮を実現することができる。
すなわち、この実施形態によれば、マニピュレータである搬送手段4を小型化することが出来、細胞等の被導入体Tが入ったシャーレ等の容器12の周辺に、複数の搬送手段4を配置することができる。また、複数の被導入体Tに対して注入針11の先端の位置決めを同時に行うことが出来、一度に多数の被導入体Tへのインジェクション処理を実行することが出来て、ハイスループット化が可能となる。また、インジェクション処理を行うにあたって、各注入針11の担当範囲Eやインジェクション順番の計算を先行して行っておくことで、計算による待ち時間を減らし、時間短縮が図れる。
【0079】
マイクロインジェクション装置本体の各具体例の詳細な構成を説明する。図10〜図14は第1の具体例を示す。
図1において、容器位置調整手段1は、前述のように、被導入体を収容するシャーレ等の容器12が載置状態に保持された容器載置台13を水平な直交2軸方向に移動させて容器12の位置を調整する手段であり、XYステージ装置6により構成される。
【0080】
XYステージ装置6は、例えば図14に平面図で示すように、基台181にガイド182を介してY軸方向に移動自在に設置された下側可動台183と、この下側可動台183上のガイド184を介してX軸方向に移動自在に設置された上側可動台185と、上記下側可動台183および上側可動台185を可動方向に進退させる各軸の可動台駆動機構186,187とで構成される。可動台駆動機構186,187は、超音波モータやリニアモータであっても、モータとボールねじ等の回転・直線運動変換機構とでなるものであっても良い。上側可動台185に、図1の上記容器載置台13が設置され、または上側可動台185自体が、上記容器載置台13となる。
【0081】
図1において搬送手段4は3自由度を有する。そのうちの1自由度を担う移動機構は、容器載置台13に対して水平方向の直交する2方向(X軸方向,Y軸方向)のうち一方向(X軸方向)に、第1の移動体41共に注入針11を移動させるX軸移動機構14である。他の1つの自由度を担う移動機構は、水平方向の直交する2方向のうちの他の一方向(Y軸方向)に、第2の移動体42と共に注入針11を移動させるY軸移動機構15である。さらに他の1つの自由度を担う移動機構は、容器12の内部に向けて傾斜する方向となる注入針中心軸方向に注入針11を移動させるZ軸移動機構16である。
【0082】
図11に示すように、X軸移動機構14を構成する第1の移動体41は、搬送装置4の基台40に第1のガイド43を介して直線方向(X軸方向)に進退自在移動可能に設置されている。Y軸移動機構15を構成する第2の移動体42は、第1の移動体41の上に第2のガイド44を介して前記直線方向(X軸方向)と直交する直線方向(Y軸方向)に進退自在に設置されている。第1の移動体41および第2の移動体42は、それぞれ矩形の板状とされている。図1のように、第2の移動体42の上に、Z軸移動機構16が搭載されている。Z軸移動機構16は、注入針11の注入角度が下向きに傾斜した所定角度となるように設置される。また、基台40は、搬送手段退避機構39により進退させられる。
【0083】
図11において、第1の移動体41および第2の移動体42をそれぞれ進退させる第1の進退駆動手段45および第2の進退駆動手段46は、前記基台40に設置されている。第1の進退駆動手段45の出力部材45aは、第1の移動体41に対してこの第1の移動体41が進退移動可能な方向(X軸方向)と直交する方向(Y軸方向)に対して移動が自在に接触している。第2の進退駆動手段46の出力部材46aは、第2の移動体42に対してこの第2の移動体42が進退移動可能な方向(Y軸方向)と直交する方向(X軸方向)に対して移動が自在に接触している。
【0084】
第1のガイド43は、基台40上に設置されたレール43aと、第1の移動体41の下面に設けられて前記レール43aに沿って進退自在な直動転がり軸受等の被案内体43bとでなり、2個が互いに平行に設けられている。第2のガイド44は、第1の移動体41の上に設置されたレール44aと、第2の軌道体42の下面に設けられて前記レール44aに沿って進退自在な直動転がり軸受等の被案内体44bとでなり、2個が互いに平行に設けられている。第1,第2のガイド43,44のレール43aは、長さ方向に沿って案内溝(図示せず)が設けられており、直動転がり軸受からなる被案内体43b,44bは、前記案内溝に脱落不能に嵌まり込んだ転動体(図示せず)を有する。
【0085】
第1の進退駆動手段45は、出力部材45aを駆動手段本体45bで直線方向に進退させる手段である。駆動手段本体45bは、出力部材45aを進退させることができるものであれば良く、例えば、図13に示す圧電素子の積層体、超音波モータ、またはモータとボールねじ等送りねじ機構の組み合わせ等とされるが、この実施形態では図13の圧電素子の積層体の構成が用いられる。図13の構成については後に説明する。第2の進退駆動手段46は、出力部材46aを駆動手段本体46bで直線方向に進退させる手段であり、第1の進退駆動手段45と同様な構成とされる。
【0086】
進退駆動手段45,46の出力部材45a,45bは、移動部体41,42に単に接して移動力を与えるようにしているが、図12に示すように反対側から弾性体121,122によって押し付ける構造とすることで、正逆両方向に自在に駆動可能となる。具体的には、第1の進退駆動手段45の設置側とは反対側で、基台40に設けられた弾性体支持部40aと第1の移動体41との間に弾性体121を配置し、この弾性体121によって、第1の移動体41を第1の進退駆動手段45の出力部材45aに押し付けている。第2の移動体42に対しても、第2の進退駆動手段46の設置側とは反対側で、第1の移動体41に設けられた弾性体支持部41aと第2の移動体42との間に弾性体122を配置し、この弾性体122によって、第2の移動体42を第2の進退駆動手段46の出力部材46aに押し付けている。前記弾性体121,122は、例えばコイルばねとする。弾性体121,122は、ばね定数1N/ mm以下のばねを用いることが良い。
【0087】
ここで移動体41,42と進退駆動手段45,46の出力部材45a,45bの接触位置では移動方向と直角をなす面のどの方向にも移動自在となるように摩擦係数を低下させる施策を講じることが望ましい。その施策として、この例では、第1の進退駆動手段45の出力部材45aにおける、第1の移動体41と接する先端部は、図15に示すように半球状とされている。図示は省略するが、第2の進退駆動手段46の出力部材46についても、第1の進退駆動手段45と同様に、出力部材46aの先端部が球面状とされている。なお、出力部材45a,46aの先端部を球面状とする代わりに、これら出力部材45a,46aの先端部が接する第1の移動体41または第2の移動体42の側面を、互いの摺動方向に延びる半円柱状とし、出力部材45a,46aの先端部は平坦面としても良い。
【0088】
また、図15に示すように、進退駆動手段45,46の出力部材45a,46aと移動体41,42との接触部のいずれか一方または両方に、低摩擦化用のコーティング101を施しても良い。図示の例では、出力部材45a,46aにコーティング101を施している。このコーティング101としては、ダイヤモンドライクカーボン、二硫化モリブデン、フッ素樹脂、およびグラファイトのいずれかとすることが好ましい。
【0089】
図15の例のように前記半球状または半円柱状とする代わりに、図16に示すように、進退駆動手段45,16の出力部材45a,46aと、移動体41,42とが、ボールまたはローラ等の転動体49を介して接触するようにしても良い。図16の例では、転動体49はボールであり、出力部材45a,46aの先端に設けられた保持部材45aa,46aa内に、一部が突出するように回転自在に収容されている。
【0090】
図1のZ軸移動機構16の具体的構成例については、後に図21等と共に説明する。
【0091】
この構成のマイクロインジェクション装置によると、被導入体66を収容した容器12の位置を容器位置調整手段1で調整し、位置調整された容器12の内部の平面視画像を撮像手段2で撮像し、その画像から細胞位置を位置判定手段3で判定することで各注入針11の担当する細胞等の被導入体を決定する。このとき、拡大用のレンズにより前記容器12を局部的に拡大し、細胞等の被導入体の位置を画像処理することで、被導入体66の位置を精度良く認識できる。また、例えば、認識した細胞等の被導入体66の画像内での位置関係から、各注入針11で担当する被導入体66を決定することができる。このように各注入針11の担当する被導入体66を決定した後、各注入針11を個別の複数の搬送手段4で移動させて各被導入体66に注入針11をそれぞれ挿入することにより、各被導入体11に導入物質を導入する。
【0092】
搬送手段4は、被導入体66に対して少なくとも2自由度の駆動機構を持つため、注入針11の先端の位置決めが搬送手段4の単体で可能である。各々の搬送手段4が並行して動作しインジェクション動作を繰り返す。画像内の細胞への処理が終了した後、容器位置調整手段1により容器12を移動させ、近接した別の位置での細胞配置を画像処理によって認識し、前述のようにインジェクション動作を繰り返す。
【0093】
このように、細胞等の複数の被導入体66への導入物質の導入を同時に行うことができ、インジェクション処理の効率向上が可能となる。また、少なくとも2種類以上の種類の異なる注入物質を注入針毎に充填しておき、同じ被導入体66に順次導入することにより、被導入体66に複数種の導入物質のあらかた同時導入が可能となる。よって、注入針11の注入物質の入れ替えなく複数種の導入物質の導入ができ、インジェクション処理の効率向上が可能となる。
【0094】
特に、前記搬送手段4は、移動体41,42と進退駆動手段45,46を分離し、X軸,Y軸方向移動の各自由度に対する進退駆動手段45,46をいずれも搬送手段4の基台40に設置したため、搬送手段4を小型化でき、また移動体41,42の質量を低減できて搬送手段4の高速駆動が可能となる。各自由度に対する進退駆動手段45,46をいずれも基台40に設置したが、基台40に対して第1の移動体41を介して設置される第2の移動体42に対しては、第2の進退駆動手段46の出力部材46aが、その進退移動可能な方向と直交する方向に対して移動が自在に接触するため、第1の移動体41の移動した位置に係わらず、第2の進退駆動手段46の進退駆動を第2の移動体42に伝達することができる。
また、搬送手段4を小型化できるため、細胞等の被導入体が入ったシャーレ等の容器12の周辺に、図2等に示すように、複数の搬送手段4を配置することができる。そのため被導入体66に対して注入針11の先端の位置決めを同時に行うことが出来、一度に多数の被導入体66へのインジェクション処理を実行することが出来、ハイスループット化が可能となる。
【0095】
また、搬送手段4の各移動体41,42の進退駆動手段45,46につき、圧電素子の積層体とした場合は、次の効果が得られる。すなわち、従来は注入針の駆動には、ボールネジや超音波モータが使用されていたが、この実施形態では、圧電素子を用いた小型アクチュエータを組み合わせることによって注入針11を駆動する搬送手段4の小型化を図っている。圧電アクチュエータは、電気エネルギから機械エネルギに変換する変換効率が高く、印加する電圧を変えることにより、発生する変位を比較的簡単に可変することができ、制御性に優れた特徴がある。
【0096】
上記実施形態では、進退駆動手段45,46の出力部材45a,46aと移動体41,42の接触を維持する構成として、弾性体121,122を設けたが、図17に示すように永久磁石111〜114を設けても良い。すなわち、基台40と第1の移動体41とに、互いに向き合う磁極の向きが同じになるように第1,第2の永久磁石111,112を配置し、磁気反発力により第1の移動体41を第1の進退駆動手段45の出力部材45aに押し付けてもよい。また、第1の移動体41と第2の移動体42とに、互いに向き合う磁極の向きが同じになるように第2,第4の永久磁石113,114を配置し、磁気反発力により第2の移動体42を第2の進退駆動手段46の出力部材46aに押し付けてもよい。
【0097】
図18の例では、図17の例とは逆に、磁気吸引力が作用するように永久磁石111A〜114Aを設けている。すなわち、基台40と第1の移動体41とに、互いに向き合う磁極の向きが逆となるように第1,第2の永久磁石111A,112Aを配置し、磁気吸引力により第1の移動体41を第1の進退駆動手段45の出力部材45aに押し付けてもよい。また、第1の移動体41と第2の移動体42とに、互いに向き合う磁極の向きが逆になるように第2,第4の永久磁石113A,114Aを配置し、磁気吸引力により第2の移動体42を第2の進退駆動手段46の出力部材46aに押し付けてもよい。
【0098】
図19の例は、第2の進退駆動手段46の出力部材46aを第2の移動体42に対して単に接触させる代わりに、第2の進退駆動手段46の出力部材46aを第2の移動体42に対して、第1の移動体41の移動方向(X軸方向)に対し移動自在になるように第3のガイド115を介して連結している。第3のガイド115は、第2の移動体41に設けられたガイドレール115aと、このガイドレール115aに設けられた案内溝(図示せず)に対して転動体(図示せず)が嵌まり込んで脱落不能となった直動転がり軸受等の被案内体115bとからなる。その他の構成は、図12に示した例と同様である。このように第3のガイド115によって連結した場合、高速駆動時においても出力部材46aと移動体41が常に連結された状態を維持することができ、動作が安定する。出力部材46aと対向して設けられた第2の弾性体122は、第3のガイド115に対して予圧を与え、より一層の動作の安定を確保する。
【0099】
図20に示すように、さらに第4のガイド116を設けても良い。すなわち、第2の進退駆動手段46の出力部材46aと第3のガイド115とを、第1の移動体41の移動方向(X軸方向)に対し移動自在になるように、第4のガイド116を介して連結する。第4のガイド116は、第3のガイド115と同様に、案内溝(図示せず)付きのガイドレール116aと、このガイドレール116aの案内溝に対して転動体(図示せず)が嵌まり込んで脱落不能となった直動転がり軸受等の被案内体116bとからなる。ガイドレール116aは第3のガイド115の被案内体115bに取付けられ、被案内体116bが出力部材46aに取付けられる。このように第3のガイド115と第4のガイド116とを2段に設けた場合は、高速駆動時等における動作がより一層安定する。
なお、この例では、第1の移動体41と第1の駆動手段45の出力部材45aとの間にも、第1の移動体41の移動方向に対し直交方向に移動自在な第5および第6のガイド117,118が設けられている。これら第5および第6のガイド117,118は、第3,第4のガイド115,116と同様にガイドレールと被案内体とからなる。
【0100】
図21は、Z軸移動機構16の一構成例を示す。このZ軸移動機構16は、中空箱形の固定台17と、この固定台17の一端部において固定台17内から上方に突出するように設けられ注入針11を着脱自在に支持する針支持部材18と、前記固定台17内に配置され駆動源となる圧電素子積層体19A,19B1,19B2とを備える。針支持部材18は、注入針11を着脱自在に支持する構成とされ、注入針11の損傷や導入物質の交換等のために、注入針11を簡単に交換することができる。針支持部材18は、立片部18aおよび横片部18bを有する概形T字状で、その横片部18bが案内機構21を介して固定台17の上に注入針11の突出方向に移動自在に支持され、立片部18aが固定台17の一端部内向き面に板ばね等からなるばね部材20Aを介して支持されている。
【0101】
各圧電素子積層体19A,19B1,19B2は、複数の圧電素子19aを、それらの変位方向に積層して棒状体とした積層型圧電素子である。これら圧電素子積層体19A,19B1,19B2のうち、2つの圧電素子積層体19B1,19B2は、互いに直線上に配置されると共に締結部材47で直列に接続された連結体からなる1組の圧電素子積層体19Bとされる。この圧電素子積層体19Bと残る1組の圧電素子積層体19Aとは、前記積層方向に沿って互いに平行となるように上下に並列に配置され、これら2組の圧電素子積層体19A,19Bが締結部材48を介して直列に接続される。締結部材48は、上下の両圧電素子積層体19A,19Bの間にこれら両圧電素子積層体19A,19Bと平行に配置される長手方向部48aと、この長手方向部48aの両端において、上下方向に互いに逆方向となるように突出する各突部48b,48cと有する概形Z字状である。1組の圧電素子積層体19Aは、その一端が、前記締結部材48における固定台17の一端部側の突部48bに連結され、他端が固定台17の他端部に支持されている。締結部材48の突部48bと固定台17の一端部との間には、圧電素子積層体19Aに予圧を与える板ばね等のばね部材20Bが介在している。圧電素子積層体19Bの一端部、つまり圧電素子積層体19Bを構成する1つの圧電素子積層体19B1における締結部材47による連結部とは反対側の端部は、前記針支持部材18の立片部18aに連結されている。また、圧電素子積層体19Bの他端部、つまり圧電素子積層体19Bを構成する他の1つの圧電素子積層体19B2における締結部材47による連結部とは反対側の端部は、固定台17の他端部側に向く、前記締結部材48の突部48cに連結されている。圧電素子積層体19Bには、針支持部材18の立片部18aと固定台17の他端部との間に介装される板ばね等のばね部材20Aによって予圧が与えられる。これにより、2組の圧電素子積層体19A,19Bの積層方向への変位で、針支持部材18が注入針11の突出方向に進退可能である。
【0102】
前記圧電素子積層体19A,19Bのうち、圧電素子積層体19Aと、圧電素子積層体19Bにおける1つの圧電素子積層体19B2とは、針支持部材18の位置決め、つまり注入針11の位置決めのための駆動源として使用される。すなわち、これらの圧電素子積層体19A,19B2は、Z軸(挿入方向)位置制御部51から印加される電圧である位置決め信号によって変位する。
圧電素子積層体19A,19Bのうち、圧電素子積層体19Bにおける針支持部材18に直接連結される圧電素子積層体19B1は、針支持部材18を注入針11の挿入方向に振動させるための駆動源として使用される。振動付与用の圧電素子積層体19B1は、振動駆動手段54から印加される電圧である振動駆動信号によって、その変位が繰り返し変化する。
【0103】
Z軸位置制御部51は、位置指令部52から位置指令が電圧発生器53に与えられ、その位置指令に基づいて、電圧発生器53から圧電素子積層体19A,19B2に対応する電圧を印加する。Z軸位置制御部51は、図1の注入針移動制御手段88におけるZ軸の注入針個別制御部88aに設けられる。また、その位置指令部52は、図1の位置判定手段3によって得られた位置情報に基づいて、担当被導入体決定部87で定められる目標位置を前記位置指令とする。位置指令部52は、担当被導入体決定部87の一部として設けられたものであっても良い。
振動駆動手段54は、電圧発生器56から前記振動駆動信号として所定周波数の交番電圧を前記圧電素子積層体19B1に印加する。その交番電圧の周波数つまり針支持部材18に付与する振動の周波数は、周波数可変手段55から電圧発生器56への指令により切り換え可能とされている。
【0104】
図21のZ軸移動機構16は、図11のX軸移動機構14およびY軸移動機構15における第1の進退駆動手段45および第2の進退駆動手段46として使用することができる。その場合、針支持部材18の代わりに、図13のように出力部材45aを設ける。図13は、図11の例の第1の進退駆動手段45の具体例を示す。第2の進退駆動手段46についても、図13に示す例を用いることができる。
【0105】
次に、図11の例の第1の進退駆動手段45および第2の進退駆動手段46として使用可能な圧電素子利用の各構成例を、図22〜図30と共に説明する。
【0106】
図22において、進退駆動手段45は、固定台25と、可動片26と、駆動源となる2組の圧電素子積層体19C,19Dとを備える。固定台25は、X軸方向に延びる主枠部25aと、この主枠部25aの両端から幅方向(Y軸方向)に延びる一対の側枠部25b,25dと、側枠部25bの先端から主枠部25aと平行にX軸方向に延びる水平断面がL字状の副枠部25cとを有する中空箱形とされている。可動片26は、固定台25の一端の側枠部25bの先端から他端の側枠部25d側に向けて延び、水平断面がL字状の可動片26とされている。可動片26は、圧電素子積層体19C,19Dの変位を拡大する拡大機構となるものであって、固定台25と共に、金属や合成樹脂等の弾性材で形成されている。可動片26は、固定台25の一端の側枠部25bから主枠部25aと略平行に延びる主枠平行片部26aと、この主枠平行片部26aの他端から固定台25の他端の側枠部25dの内側に側枠部25dと平行に延びる側枠平行片部26bとでなる。固定台25の側枠部25bと可動片26の主枠平行片部26aとの接続部、および可動片26の主枠平行片部26aと側枠平行片部26bとの接続部は薄肉部26cとされている。また、可動片26の主枠平行片部26aの長手方向中間部も薄肉部26dとされている。これにより、可動片26の側枠平行片部26bは、その基端の薄肉部26cを揺動中心として屈曲するように揺動可能とされる。また、可動片26の主枠平行片部26aは、その長手方向中間部の薄肉部26dで折れ曲がっていて、その折れ曲がり角度の増減により、長手方向と直交する方向(Y軸方向)に、中間部が進退可能とされる。
【0107】
2組の圧電素子積層体19C,19Dは、共に積層型圧電素子であって、積層方向に沿って前記固定台25の主枠部25aと平行となるように前後に並列に配置される。これら2組の圧電素子積層体19C,19Dは、締結部材58を介して直列に接続される。締結部材58は、前後の両圧電素子積層体19C,19Dの間にこれら両圧電素子積層体19C,19Dと平行に配置される長手方向部58aと、この長手方向部58aの両端において、前後方向に互いに逆方向となるように突出する各突部58b,58cとを有する概形Z字状である。1組の圧電素子積層体19Cは、その一端が固定台25の側枠部25bに支持され、他端が固定台側枠部25d側に向く前記締結部材58の突部58bに連結されている。また、他の1組の圧電素子積層体19Dは、その一端が固定台側枠部25b側に向く前記締結部材58の突部58cに連結され、他端が可動片26の側枠平行片部26bに連結されている。固定台25の副枠部25cの先端の幅方向に延びる側部25caと前記締結部材58の突部58bとの間には、圧電素子積層体19Cに予圧を与える板ばね等のばね部材27Aが介在する。固定台25の側枠部25dと可動片26の側枠平行片部26bとの間には、圧電素子積層体19Dに予圧を与える板ばね等のばね部材27Bが介在する。また、固定台25の副枠部25cの先端の幅方向に延びる側部25caと可動片26の側枠平行片部26bとの間には、可動片26の側枠平行片部26bに予圧を与える板ばね等のばね部材27Cが介在する。これにより、2組の圧電素子積層体19C,19Dの積層方向への伸縮による変位で、可動片26の側枠平行片部26bが揺動し、その揺動変位が拡大されて主枠平行片部26aのY軸方向への変位となる。この変位はZ軸移動機構16を支持する上側可動支持体22(図11)に伝達され、これにより注入針11がY軸方向に移動可能である。
【0108】
同図の構成を第2の進退駆動手段46に適用した場合、2組の圧電素子積層体19C,19Dは、Y軸位置制御部59から印加される電圧である位置決め信号によって変位する。Y軸位置制御部59は、位置指令部60から位置指令が電圧発生器61に与えられ、その位置指令に基づいて、電圧発生器61から前記圧電素子積層体19C,19Dに対応する電圧を印加する。Y軸位置制御部59は、図1の注入針移動制御手段88におけるY軸の注入針個別制御部88aに設けられる。また、その位置指令部60は、図1の位置判定手段3によって得られた位置情報に基づいて、担当被導入体決定部87で定められる目標位置を前記位置指令とする。位置指令部60は、担当被導入体決定部87の一部として設けられたものであっても良い。
【0109】
第2の進退駆動手段46に適用する場合も、固定台25と可動片26との相対変位を測定するための図示しないセンサが内蔵される。このセンサとしては、前記圧電素子積層体19C,19Dに予圧を与える板ばね27A,27Bの歪みを検出する歪みセンサや、固定台25と可動片26とのギャップを測定する静電容量センサ、磁気センサ、光学式センサなどを用いることができる。
【0110】
図23は、第1の進退駆動手段45および第2の進退駆動手段46として使用可能な他の構成例を示す。第1の進退駆動手段45に適用した場合につき説明すると、この進退駆動手段45は、固定台35と、可動片36と、駆動源となる2組の圧電素子積層体19E,19Fとを備える。固定台35は、X軸方向に延びる主枠部35aと、この主枠部35aの両端から幅方向(Y軸方向)に延びる一対の側枠部35b,35dと、側枠部35bの先端から前記主枠部35aと平行にX軸方向に延びる水平断面がL字状の副枠部35cとを有する中空箱形とされている。可動片36は、固定台35の一端の側枠部35bの先端から他端の側枠部35d側に向けて延び、水平断面がL字状とされている。可動片36は、圧電素子積層体19E,19Fの変位を拡大する第1の拡大機構となるものであって、固定台35と一体に金属や合成樹脂等の弾性材で形成されている。可動片36は、固定台35の一端の側枠部35bから主枠部35aと略平行に延びる主枠平行片部36aと、この主枠平行片部36aの他端から固定台35の他端の側枠部35dの内側に側枠部35dと平行に延びる側枠平行片部36bとでなる。固定台35の側枠部35bと可動片36の主枠平行片部36aとの接続部、および可動片36の主枠平行片部36aと側枠平行片部36bとの接続部は薄肉部36cとされている。また、可動片36の主枠平行片部36aの長手方向中間部も薄肉部36dとされている。これにより、可動片36の側枠平行片部36bは、その基端の薄肉部36cを揺動中心として揺動可能とされる。また、可動片36の主枠平行片部36aは、その長手方向中間部の薄肉部36dで折れ曲がって長手方向と直交する方向(Y軸方向)に揺動可能とされる。ここまでの構成は、図22の例の場合と同様である。
【0111】
また、可動片36の主枠平行片部36aの長手方向中間部の薄肉部36dよりも側枠平行片部36b寄りの半部となる部分には、固定台35の側枠部35d側に延びて側枠部35dの基端近傍に連結される水平断面が逆L字状の可動枠部37が一体形成されている。この可動枠部37は圧電素子積層体19E,19FCの変位を拡大する第2の拡大機構となるものであって、可動片36の主枠平行片部36aと略平行な厚肉枠部37aと、この厚肉枠部37aから固定台35の側枠部35dの外側を側枠部35dと平行に延びる薄肉枠部37bとでなる。可動枠部37の厚肉枠部37aと薄肉枠部37bとの接続部、および薄肉枠部37bと固定台35の側枠部35bの基端近傍との接続部は、薄肉枠部37bよりもさらに薄い薄肉部37cとされている。また薄肉枠部37bの長手方向中間部も、さらに薄い薄肉部37dとされている。これにより、可動枠部37の薄肉枠部37bは、その長手方向中間部の薄肉部37dで折れ曲がって、中間部が長手方向と直交する方向(X軸方向)に進退可能とされている。
【0112】
図22の例と同様に、2組の圧電素子積層体19E、19Fは共に積層型圧電素子であって、積層方向に沿って前記固定台35の主枠部35aと平行となるように前後に並列に配置される。これら2組の圧電素子積層体19E,19Fは、締結部材62を介して直列に接続される。締結部材62は、前後の両圧電素子積層体19E,19Fの間にこれら両圧電素子積層体19E,19Fと平行に配置される長手方向部62aと、この長手方向部62aの両端において、前後方向に互いに逆方向となるように突出する各突部62b,62cとを有する概形Z字状である。1組の圧電素子積層体19Eは、その一端が固定台35の側枠部35bに支持され、他端が固定台側枠部35d側に向く前記締結部材62の突部62bに連結されている。また、他の1組の圧電素子積層体19Fは、その一端が固定台側枠部35b側に向く前記締結部材62の突部62cに連結され、他端が可動片36の側枠平行片部36bに連結されている。固定台35の副枠部35cの先端の幅方向に延びる側部35caと前記締結部材62の突部62bとの間には、圧電素子積層体19Eに予圧を与える板ばね等のばね部材38Aが介在する。固定台35の側枠部35dと可動片36の側枠平行片部36bとの間には、圧電素子積層体19Fに予圧を与える板ばね等のばね部材38Bが介在する。また、固定台35の副枠部35cの先端の幅方向に延びる側部35caと可動片36の側枠平行片部36bとの間には、可動片36の側枠平行片部36bに予圧を与える板ばね等のばね部材38Cが介在する。これにより、2組の圧電素子積層体19E,19Fの積層方向への伸縮による変位で、可動片36の側枠平行片部36bが揺動し、その揺動変位が拡大されて主枠平行片部36aのY軸方向への変位となる。この変位はさらに拡大されて可動枠部37における薄枠肉部37bのX軸方向への変位となる。この薄枠肉部37bが、図11の例における出力部材45aとなる。
【0113】
2組の圧電素子積層体19E,19Fは、X軸位置制御部63から印加される電圧である位置決め信号によって変位する。X軸位置制御部63は、位置指令部64から位置指令が電圧発生器65に与えられ、その位置指令に基づいて、電圧発生器65から前記圧電素子積層体19E,19Fに対応する電圧が印加される。X軸位置制御部63は、図1の注入針移動制御手段88におけるX軸の注入針個別制御部88aに設けられる。また、その位置指令部64は、図1の位置判定手段3によって得られた位置情報に基づいて、担当被導入体決定部87で定められる目標位置を前記位置指令とする。位置指令部64は、担当被導入体決定部87の一部として設けられたものであっても良い。
【0114】
図24は、第1の進退駆動手段45および第2の進退駆動手段46として使用可能な他の構成例を示す。ここでは、第2の進退駆動手段46に適用した場合につき説明する。この構成例でも、図22の構成例と同様に、固定台73と、駆動源となる2組の圧電素子積層体19G,19Hとを備える。固定台73は、X軸方向に延びる主枠部73aと、この主枠部73aの両端から幅方向(Y軸方向)に延びる一対の側枠部73b,73cとでなる。固定台73の一端の側枠部73bには、他端の側枠部73cに対向する伸縮方向移動体74がばね部材27Dを介してX軸方向に移動自在に支持されている。
【0115】
2組の圧電素子積層体19G,19Hは、共に積層型圧電素子であって、積層方向に沿って前記固定台73の主枠部73aと平行となるように前後に並列に配置される。これら2組の圧電素子積層体19G,19Hは、締結部材78を介して直列に接続される。締結部材78は、前後の両圧電素子積層体19G,19Hの間にこれら両圧電素子積層体19G,19Hと平行に配置される長手方向部78aと、この長手方向部78aの両端において、前後方向に互いに逆方向となるように突出する各突部78b,78cとを有する概形Z字状である。1組の圧電素子積層体19Gは、その一端が固定台73の側枠部73cに支持され、他端が前記伸縮方向移動体74側に向く締結部材78の突部78bに連結されている。また、他の1組の圧電素子積層体19Hは、その一端が固定台側枠部73c側に向く前記締結部材78の突部78cに連結され、他端が伸縮方向移動体74に連結されている。前記ばね部材27Dは、圧電素子積層体19Hに予圧を与える。これにより、圧電素子積層体19G,19Hの伸縮変位に応じて伸縮方向移動体74がX軸方向に変位可能である。
【0116】
この構成例では、圧電素子積層体19G,19Hの伸縮をその伸縮方向(X軸方向)と直交する方向(Y軸方向)の変位に拡大する拡大機構としてリンク機構75を設けている。このリンク機構75は、1つの固定ジョイント76で固定台側枠部73cに連結され、1つの可動ジョイント77Aで前記伸縮方向移動体74に連結される。
【0117】
図25には、前記リンク機構75の各種構成例を示す。図25(A)の構成例では、1つの固定ジョイント76と、2つの可動ジョイント77A,77Bと、3つのリンク81A,81B,81Cとでリンク機構75が構成される。
各固定ジョイント76および可動ジョイント77A,77Bは、それぞれ回動自在な節点を構成するジョイントであって、その回動中心が、圧電素子積層体19G,19Hの伸縮方向(X軸方向)およびその伸縮方向(X軸方向)と直交する方向(Y軸方向)のいずれに対しても垂直である。これについては、図25(B),(C)の各ジョイント76,77A,77B,77Cについても同様である。
第1および第2のリンク81A,81Bは、それぞれ一端が前記固定ジョイント76および第1の可動ジョイント77Aに連結されて他端が第2の可動ジョイント77Bで互いに連結される。第3のリンク81Cは、一端が第2の可動ジョイント77Bに連結され、他端が、前記直交する方向(Y軸方向)にのみ移動自在に、リニアガイド,直動軸受等の案内機構(図示せず)により拘束された可動部82となる。固定ジョイント76は、前記圧電素子積層体19G,19Hの固定側の端部が固定された固定台73の側枠部73cに対して位置固定とする。可動部82を案内する前記案内機構は、この固定台73に設けられている。第1の可動ジョイント77Aは、前記圧電素子積層体19G,19Hの伸縮側の端部と一体に移動可能な伸縮方向移動体74に設けられ、この伸縮方向移動体74と共に移動可能とする。前記第3のリンク81Cの可動部82が、このリンク機構75の変位拡大出力部となる。
【0118】
この構成によると、圧電素子積層体19G,19Hの伸縮により第1の可動ジョイント77AがX軸方向に変位し、この変位を拡大して第2の可動ジョイント77BがY軸方向に変位する。これに伴い第3のリンク81Cが回動角度を変えることで、その他端の可動部82が、前記リニアガイドなどの案内機構に案内されてY軸方向に変位する。
この場合に、固定ジョイント76や可動ジョイント77A,77Bに、転がり軸受を用いることで摩擦抵抗を低減し、その転がり軸受に適正予圧を与えることでガタツキを抑制して、精密な位置決めを実現できる。また、弾性変形部がないので設計が容易である。
【0119】
図25(B)の構成例では、1つの固定ジョイント76と、3つの可動ジョイント77A,77B,77Cと、3つのリンク81A,81B,81Cとでリンク機構75が構成される。この例は、図25(A)の構成例において、第3のリンク81Cの基端を連結する可動ジョイントを、第2の可動ジョイント77Bとは別位置である第3の可動ジョイント77Cとしたものである。
すなわち、固定ジョイント76に基端が連結された第1のリンク81Aの他端を、第1の可動ジョイント77Aに基端が連結された第2のリンク81Bの中間に第2の可動ジョイント77Bを介して連結する。第2のリンク81Bの先端に、第3の可動ジョイント77Cを介して第3のリンク81Cを連結する。第3のリンク81の先端を、伸縮方向(X軸方向)と直交する方向(Y軸方向)にのみ移動自在に、前記と同様な案内機構(図示せず)により拘束された可動部82とする。固定ジョイント76および第1の可動ジョイント77Aは、図25(A)の例と同様に、固定台73および伸縮方向移動体74にそれぞれ設けられる。図25(B)の例では、第3のリンク81Cの先端の可動部82が、リンク機構75の変位拡大出力部となる。
なお、第2の可動ジョイント77Bは、例えば、同図に断面を拡大して示すように、第1または第2のリンク81A,81Bのいずれか一方に固定された連結ピン121に、軸受122を介して第1または第2のリンク81A,81Bの他方に連結された構成とされる。軸受122は、いずれかのリンク81A,81Bに設けられた孔に嵌合して取付けられる。軸受122は、玉軸受等の転がり軸受および滑り軸受のいずれでも良いが、例えば予圧可能な転がり軸受とされる。
【0120】
この構成によると、圧電素子積層体19G,19Hの伸縮により可動ジョイント77AがX軸方向に変位し、この変位を拡大して別の可動ジョイント77CがY軸方向に変位し、これに伴い第3のリンク81Cが回動角度を変えることで、その先端の可動部82が、前記案内機構に案内されてY軸方向に変位する。
図25(A),(B)の構成例は、いずれも、各リンク81C,81B,81Cの寸法誤差や熱変形の影響が生じても、第3のリンク81Cの角度が独立して可変であることで吸収され、変位拡大出力部となる可動部82は、前記リニアガイド等の案内機構に沿ってY軸方向に直線方向に移動することができる。
なお、図25(A)の構成例では、第2の可動ジョイント77Bの位置で3つのリンク81A,81B,81Cが連結されるので、その軸方向に2つの軸受を並べて設けることが必要であり厚み方向の寸法が増大する。しかし、図25(B)の構成例の場合、可動ジョイント77B,77Cでは、その軸方向に1つの軸受122を設けるだけで良く、図25(A)の構成例の場合に比べて厚み寸法を1/2に低減できる。
【0121】
図25(C)の構成例では、1つの固定ジョイント76と、2つの可動ジョイント77A,77Bと、2つのリンク81A,81Bとでリンク機構75が構成される。
すなわち、固定ジョイント76に基端が連結された第1のリンク81Aの他端を、第1の可動ジョイント77Aに基端が連結された第2のリンク81Bの中間に第2の可動ジョイント77Bを介して連結する。図23(A),(B)の例と同様に、固定ジョイント76は固定台73の側枠部73cに連結され、第1の可動ジョイント77Aは伸縮方向移動体74に連結される。この構成例では、第2のリンクの先端の可動部82が、リンク機構75の変位拡大出力部となる。
この構成の場合、第2のリンク81Bの長さが第1のリンク81Aの2倍であって、リンク81Bの中央位置に第2の可動ジョイント77Bが配置されているため、可動部82は、リニアガイドなどの案内機構を設けることなく、移動方向が拘束される。その移動方向は、固定ジョイント76と第1の可動ジョイント77Aの中心を結んだ直線に対して直角の方向、つまり圧電素子積層体19G,19Hの伸縮方向(X軸方向)と直交する方向(Y軸方向)に変位自在とされる。
【0122】
この構成によると、圧電素子積層体19G,19Hの伸縮により可動ジョイント77AがX軸方向に変位し、この変位を拡大して第2のリンク81Bの先端である可動部82がY軸方向に変位する。この構成例は最もコンパクトなものとなる。この例の場合も、可動ジョイント77Bでは、その軸方向に1つの軸受を設けるだけで良く、図25(A)の構成例の場合に比べて厚み寸法を1/2に低減できる。
【0123】
図24の例では、図25(C)の例のリンク機構75が拡大機構として設けられている。その他の構成は、図22で示した例と同様である。
【0124】
図26は、第1の進退駆動手段45および第2の進退駆動手段46として使用可能な他の構成例を示す。ここでは、第1の進退駆動手段45に適用した場合につき説明する。この構成例でも、図24の例と同様に、固定台83と、駆動源となる2組の圧電素子積層体19I,19Jとを備える。固定台83は、X軸方向に延びる主枠部83aと、この主枠部83aの両端から幅方向(Y軸方向)に延びる一対の側枠部83b,83cとでなる。固定台83の一端の側枠部83bには、他端の側枠部83cに対向する可動体84がばね部材27Eを介してX軸方向に移動自在に支持されている。
【0125】
2組の圧電素子積層体19I,19Jは、共に積層型圧電素子であって、積層方向に沿って前記固定台83の主枠部83aと平行となるように前後に並列に配置される。これら2組の圧電素子積層体19I,19Jは、締結部材85を介して直列に接続される。締結部材85は、前後の両圧電素子積層体19I,19Jの間にこれら両圧電素子積層体19I,19Jと平行に配置される長手方向部85aと、この長手方向部85aの両端において、前後方向に互いに逆方向となるように突出する各突部85b,85cとを有する概形Z字状である。1組の圧電素子積層体19Iは、その一端が固定台83の側枠部83cに支持され、他端が前記可動体84側に向く締結部材85の突部85bに連結されている。また、他の1組の圧電素子積層体19Jは、その一端が固定台側枠部83c側に向く前記締結部材85の突部85cに連結され、他端が可動体84に連結されている。前記ばね部材27Eは、圧電素子積層体19Jに予圧を与える。これにより、圧電素子積層体19I,19Jの伸縮変位に応じて可動体84がX軸方向に変位可能である。
【0126】
この例では、圧電素子積層体19I,19Jの伸縮をその伸縮方向(X軸方向)と直交する方向(Y軸方向)の変位に拡大する第1の拡大機構として第1のリンク機構101を設けると共に、第1の拡大機構(第1のリンク機構101)により拡大された変位を圧電素子積層体19I,19Jの伸縮方向の変位に拡大する第2の拡大機構として第2のリンク機構102を設けている。これら両リンク機構101,102として、ここでは図17(C)に示したリンク機構75と同じ構成のものを用いている。なお、第2のリンク機構102は、第1のリンク機構101に対して、90°方向変換された姿勢とされる。
【0127】
すなわち、第1のリンク機構101は、1つの固定ジョイント106と、2つの可動ジョイント107A,107Bと、2つのリンク108A,108Bとで構成される。具体的には、一端が1つの固定ジョイント106で固定台83の側枠部83cに連結される第1のリンク108Aと、圧電素子積層体19I,19Jの伸縮に応じてその伸縮方向に変位する可動体84に一端が1つの可動ジョイント107Aで連結され、中間部が第1のリンク108Aの他端に他の1つの可動ジョイント107Bで連結される第2のリンク108Bとで構成される。第2のリンク108Bの他端が、圧電素子積層体19I,19Jの伸縮方向(X軸方向)と直交する方向(Y軸方向)に変位自在とされる。
【0128】
第2のリンク機構102も、1つの固定ジョイント116と、2つの可動ジョイント117A,117Bと、2つのリンク118A,118Bとで構成される。具体的には、一端が1つの固定ジョイント116で固定台83の側枠部83cに連結される第1のリンク118Aと、圧電素子積層体19I,19Jの伸縮に応じてその伸縮方向と直交するY軸方向に変位する前記第1のリンク機構101の第2のリンク108Bの他端に一端が1つの可動ジョイント117Aで連結され、中間部が第1のリンク118Aの他端に他の1つの可動ジョイント117Bで連結される第2のリンク118Bとで構成される。これにより、第1および第2のリンク機構101,102は、同一平面上で前記可動ジョイント117Aを介して2段に組み合わされる。この場合、第2のリンク機構102における第2のリンク118Bの先端が、変位拡大出力部である可動部119となり、圧電素子積層体19I,19Jの伸縮方向(X軸方向)に変位自在とされる。
【0129】
この構成によると、第1のリンク機構101において、圧電素子積層体19I,19Jの伸縮により可動ジョイント107AがX軸方向に変位し、この変位を拡大してリンク10Bの他端である可動ジョイント117AがY軸方向に変位する。また、第2のリンク機構102では、前記可動ジョイント117AのY軸方向の変位を拡大してリンク118Bの他端である可動部119が圧電素子積層体19I,19Jの伸縮方向(X軸方向)に変位する。その他の構成は、図23で示した例と同様である。
【0130】
なお、図26のX軸移動機構14では、第1および第2のリンク機構101,102として、図25(C)に示した構成例のものを可動ジョイント117Aを介して2段に組み合わせた場合を示したが、これに限らず図25(B)に示した構成例のものを可動ジョイントを介して2段に組み合わせても良い。その例を図27に示す。この例では、第2のリンク機構102は、第1のリンク機構101に対して、90°方向転換された姿勢となっている。
【0131】
図27の例では、第1のリンク機構101は、1つの固定ジョイント106と、3つの可動ジョイント107A,107B,107Cと、2つのリンク108A,108Bとを有するものとなる。第2のリンク機構102は、1つの固定ジョイント116と、3つの可動ジョイント117A,117B,117Cと、2つのリンク118A,118Bとを有するものとなる。第1のリンク機構101における可動部82と、第2のリンク機構102における第2のリンク118Bの基端とを可動ジョイント117Aで連結することにより、同一平面上で第1および第2のリンク機構101,102が2段に組み合わされる。第2のリンク機構102の第2のリンク118Bの先端が、変位拡大出力部である可動部119となり、圧電素子積層体19I,19Jの伸縮方向(X軸方向)に変位自在とされる。
【0132】
前記リンク機構75の他の構成例として、図28に示すように、リンク機構75は、1つの固定ジョイント76と2つの可動ジョイント77A,77Bと2つのリンク81A,81Bとからなるクランク・スライダ機構を有し、このクランク・スライダ機構は、前記圧電素子の伸長方向の変位を、前記2つの可動ジョイント77A,77Bおよび2つのリンク81A,81Bを介して、固定ジョイント76の円周上の任意の方向に変換し更に変位を拡大可能としても良い。
【0133】
図28(A)は、Y軸移動機構15の他の構成例を示す。この他の構成例にかかるY軸移動機構15も、図14の構成例と同様に、固定台73と、駆動源となる2組の圧電素子積層体19G,19Hとを備える。固定台73は、X軸方向に延びる一対の主枠部73a、73bと、この主枠部73a、73bの両端から幅方向(Y軸方向)に延びる一対の側枠部73c,73dと、4つの枠部を締結する側板73e とを有する。固定台73の一端の側枠部73cには、他端の側枠部73dに対向する伸縮方向移動体74がばね部材27Dを介してX軸方向に移動自在に支持されている。
【0134】
2組の圧電素子積層体19G,19Hは、共に積層型圧電素子であって、積層方向に沿って前記固定台73の主枠部73a、73bと平行となるように前後に並列に配置される。これら2組の圧電素子積層体19G,19Hは、締結部材78を介して直列に接続される。締結部材78は、前後の両圧電素子積層体19G,19Hの間にこれら両圧電素子積層体19G,19Hと平行に配置される長手方向部78aと、この長手方向部78aの両端において、前後方向に互いに逆方向となるように突出する各突部78b,78cとを有する概形Z字状である。1組の圧電素子積層体19Gは、その一端が固定台73の側枠部73cに支持され、他端が前記伸縮方向移動体74側に向く締結部材78の突部78bに連結されている。また、他の1組の圧電素子積層体19Hは、その一端が固定台側枠部73d側に向く前記締結部材78の突部78cに連結され、他端が伸縮方向移動体74に連結されている。前記ばね部材27Dは、圧電素子積層体19Hに予圧を与える。これにより、圧電素子積層体19G,19Hの伸縮変位に応じて伸縮方向移動体74がX軸方向に変位可能である。
【0135】
この例では、圧電素子積層体19G,19Hの伸縮をその伸縮方向(X軸方向)と直交する方向(Y軸方向)の変位に拡大する拡大機構としてリンク機構75を設けている。このリンク機構75は、1つの固定ジョイント76で固定台側枠部73dに連結され、1つの可動ジョイント77Aで前記伸縮方向移動体74に連結される。
この構成によると、圧電素子積層体19G,19Hの伸縮により可動ジョイント77AがX軸方向に変位し、可動ジョイント77Bが固定ジョイント76を中心にして回転運動する。よって第1のリンク81Aに固定された可動部82がY軸方向に変位する。したがって、固定ジョイント76の円周上の任意の位置に出力部を設定することで任意の方向に変位拡大することができる。よって、進退駆動手段45,46の部品点数の削減や寸法の小型化が可能になる。
【0136】
図28(B)は、第1の進退駆動手段45のさらに他の構成例を示す。この図28(B)のX軸移動機構14も図28(A)と同じ構成を有し、リンク81Aに固定された可動ジョイント77Bと可動部82の位置を変更することで、X軸方向に変位する。したがって、固定ジョイント76の円周上の任意の位置に出力部を設定することで任意の方向に変位拡大することができ、よって、Y軸移動機構15の部品点数の削減や寸法の小型化が可能になる。
【0137】
図29は、図28(A)、(B)で示す前記リンク機構75の構成例を拡大して示す。 図28の構成例では、1つの固定ジョイント76と、2つの可動ジョイント77A,77Bと、2つのリンク81A、81Bとでクランク・スライダ機構となるリンク機構75が構成される各固定ジョイント76および可動ジョイント77A,77Bは、それぞれ回動自在な節点を構成するジョイントであって、その回動中心が、圧電素子積層体19G,19Hの伸縮方向(X軸方向)およびその伸縮方向(X軸方向)と直交する方向(Y軸方向)のいずれに対しても垂直である。
【0138】
第1および第2のリンク81A,81Bは、それぞれ一端が前記固定ジョイント76および第1の可動ジョイント77Aに連結されて他端が第2の可動ジョイント77Bで互いに連結される。第1の可動ジョイント77Aは、前記圧電素子積層体19G,19Hの伸縮側の端部と一体に移動可能な伸縮方向移動体74に設けられ、この伸縮方向移動体74と共に移動可能とする。
【0139】
図30は、前記固定ジョイント76が第1の可動ジョイント77Aのスライド方向延長線上になく、オフセットを持っているオフセットクランク機構の構成を示す。
【符号の説明】
【0140】
1…容器位置調整手段
2…撮像手段
3…顕微鏡
4…搬送手段
5…制御装置
7…画像処理手段
8…位置判定手段
8a…位置記憶部
9…担当範囲演算手段
10…挿入順決定手段
11…注入針
12…容器
14…X軸移動機構
15…Y軸移動機構
16…Z軸移動機構
19A〜19J…圧電素子積層体
26…可動片(拡大機構)
36…可動片(第1の拡大機構)
37…可動枠部(第2の拡大機構)
40…基台
41…第1の移動体
42…第2の移動体
43…第1のガイド
44…第2のガイド
45…第1の進退駆動手段
45a…出力部材
46…第2の進退駆動手段
46a…出力部材
54…振動駆動手段
75…リンク機構(拡大機構)
76…固定ジョイント
77A,77B…可動ジョイント
81A〜81C…リンク
79…干渉回避手段
86…視野範囲調整手段
88…注入針移動制御手段
89…容器移動制御手段
100…容器内全範囲処理手段
101…第1のリンク機構(第1の拡大機構)
102…第2のリンク機構(第2の拡大機構)
106…固定ジョイント
107A,107B…可動ジョイント
108A,108B…リンク
115…第3のガイド
114…第4のガイド
121…第1の弾性体
122…第2の弾性体
E…担当範囲
V…顕微鏡視野範囲
Va…重複する部分
T…被導入体
To …基準となる被導入体
M…容器内の分割の境界線
L…顕微鏡視野範囲における分割線
O…顕微鏡視野範囲における中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に導入物質が充填された注入針を被導入体に挿入することにより、被導入体内に導入物質を導入するインジェクション処理を行うマイクロインジェクション装置であって、 前記被導入体の入った容器の位置を調整する容器位置調整手段と、この容器位置調整手段で位置調整された容器の内部の被導入体に対して、複数の注入針をそれぞれ個別に少なくとも2次元方向に移動可能な複数の搬送手段と、前記容器位置調整手段により位置調整された前記容器の内部を、顕微鏡を通して顕微鏡視野範囲で撮像する撮像手段と、この撮像手段によって得られた画像から前記顕微鏡視野範囲の各被導入体の位置を判定する位置判定手段と、この位置判定手段で判定された各被導入体の位置の情報から、定められた規則に従って各注入針の搬送手段の負荷が均等化されるように、各注入針が担当する前記顕微鏡視野内での範囲を決定する担当範囲演算手段と、この担当範囲演算手段で決定された担当範囲の各被導入体に対して、前記位置判定手段で判定された各被導入体の位置の情報から前記各搬送手段に注入針の移動を行わせる注入針移動制御手段とを備えることを特徴とするマイクロインジェクション装置。
【請求項2】
請求項1において、前記担当範囲演算手段は、各注入針が担当する面積がほぼ均等となるように、前記顕微鏡視野範囲の領域を分割するマイクロインジェクション装置。
【請求項3】
請求項1において、前記担当範囲演算手段は、各注入針が担当する被導入体の数がほぼ均等となるように前記顕微鏡視野範囲の領域を分割するマイクロインジェクション装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記注入針移動制御手段に、個々の注入針毎に、担当する各被導入体へのインジェクション処理の動作における注入針の総移動距離が最短になるように、被導入体のインジェクション処理の順番を決定する挿入順決定手段を設けたマイクロインジェクション装置。
【請求項5】
請求項1において、個々の注入針毎に、担当する各被導入体へのインジェクション処理の動作における注入針の総移動距離が最短になるように、被導入体のインジェクション処理の順番を決定する挿入順決定手段を設け、前記担当範囲演算手段は、個々の注入針の前記総移動距離がほぼ均等となるように前記顕微鏡視野範囲の領域を分割するマイクロインジェクション装置。
【請求項6】
請求項1において、前記注入針移動制御手段に、個々の注入針毎に、担当する各被導入体へのインジェクション処理の動作における注入針の総移動距離が最短になるように、被導入体のインジェクション処理の順番を決定する挿入順決定手段を設け、前記担当範囲演算手段は、個々の注入針の前記総移動距離と処理個数の積がほぼ均等となるように顕微鏡視野範囲の領域を分割するマイクロインジェクション装置。
【請求項7】
請求項1において、前記注入針移動制御手段に、個々の注入針毎に、担当する各被導入体へのインジェクション処理の動作における注入針の総移動距離が最短になるように、被導入体のインジェクション処理の順番を決定する挿入順決定手段を設け、前記担当範囲演算手段は、注入針の移動時間と、注入針が被導入体に挿入されている間に導入物質の導入のために停止させるインジェクション時間とを算出し、インジェクション時間と移動時間の和である処理時間がほぼ均等となるように前記顕微鏡視野範囲の領域を分割するマイクロインジェクション装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記担当範囲演算手段は、各注入針を並行して動作させたときに注入針同士の干渉が生じないことを優先条件とし、この優先条件下で前記顕微鏡視野範囲の領域を分割するマイクロインジェクション装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、注入針同士が干渉しないように、各注入針の被導入体へのインジェクション処理の順番を決定する干渉回避手段を設けたマイクロインジェクション装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、被導入体の大きさに応じて、顕微鏡視野範囲を調整する視野範囲調整手段を設けたマイクロインジェクション装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、顕微鏡視野範囲に応じて前記容器位置調整手段により容器の位置を順次移動させ、容器内の全領域で前記注入針のインジェクション処理を行わせるように前記容器位置調整手段および前記各注入針の搬送手段を制御する容器内全範囲処理手段を設けたマイクロインジェクション装置。
【請求項12】
請求項11において、前記容器内全範囲処理手段は、顕微鏡視野範囲の全ての被導入体に対するインジェクション処理が行なわれた後、顕微鏡視野範囲に応じて前記容器を前記容器位置調整手段により順次移動させ、各回の移動後の位置における容器内の被導入体に対してインジェクション処理を行わせるマイクロインジェクション装置。
【請求項13】
請求項11において、前記容器内全範囲処理手段を設けた場合に、前記各注入針のインジェクション処理の順番を定められた規則より決める挿入順決定手段を備え、前記容器内全範囲処理手段は、顕微鏡視野範囲に応じて前記容器位置調整手段により容器の位置を順次移動させ、複数回の移動先の各顕微鏡視野範囲の被導入体の位置を、インジェクション処理よりも前に、前記位置判定手段により判定させ、かつ前記担当範囲演算手段に各注入針が担当する前記範囲を決定させ、前記挿入順決定手段にインジェクション処理の順番を決定させるマイクロインジェクション装置。
【請求項14】
請求項11において、前記各注入針のインジェクション処理の順番を定められた規則より決める挿入順決定手段を備え、前記容器内全範囲処理手段は、顕微鏡視野範囲に応じて前記容器位置調整手段により容器の位置を順次移動させて前記容器内の全被導入体の位置を、インジェクション処理よりも前に、前記位置判定手段により判定させ、かつ前記担当範囲演算手段に各注入針が担当する前記範囲を決定させ、前記挿入順決定手段にインジェクション処理の順番を決定させるマイクロインジェクション装置。
【請求項15】
請求項11において、前記容器内全範囲処理手段は、顕微鏡視野範囲に応じて前記容器位置調整手段により容器の位置を順次移動させ、現在の顕微鏡視野範囲の被導入体の位置を位置判定手段により判定させると同時に、複数回前の顕微鏡視野範囲の各被導入体へのインジェクション処理を、前記注入針移動制御手段による搬送装置の移動によって行わせるマイクロインジェクション装置。
【請求項16】
請求項11ないし請求項15のいずれか1項において、前記容器内全範囲処理手段は、前記容器位置調整手段により容器の位置を順次移動させるときに、顕微鏡視野範囲に重複する部分を持つように移動させるマイクロインジェクション装置。
【請求項17】
請求項16において、前記容器内全範囲処理手段は、前記重複する部分の面積が同じになるようにするマイクロインジェクション装置。
【請求項18】
請求項16において、前記容器内全範囲処理手段は、前記容器位置調整手段により容器の位置を順次移動させるときに、定められた規則により、顕微鏡視野範囲内に基準となる被導入体を決定し、その被導入体が含まれる領域が重複するように移動させるマイクロインジェクション装置。
【請求項19】
請求項1ないし請求項18のいずれか1項において、前記搬送手段は、進退自在に設置された移動体と、この移動体を移動させる進退駆動手段とを有し、前記進退駆動手段は、駆動源として、複数の圧電素子が積層されて積層方向に伸縮する圧電素子積層体を有するマイクロインジェクション装置。
【請求項20】
請求項19において、前記搬送手段における前記圧電素子積層体を駆動源とする進退駆動手段は、圧電素子積層体を平行に配置し、これら複数の圧電素子積層体を、結合部材を介して伸縮方向に直列に接続したマイクロインジェクション装置。
【請求項21】
請求項20において、前記搬送手段における前記圧電素子積層体を駆動源とする進退駆動手段は、圧電素子積層体の伸縮をその伸縮方向と直交する方向の変位に拡大する拡大機構を有するマイクロインジェクション装置。
【請求項22】
請求項21において、前記拡大機構がリンク機構からなるマイクロインジェクション装置。
【請求項23】
請求項20において、前記搬送手段における前記圧電素子積層体を駆動源とする進退駆動手段は、圧電素子積層体の伸縮をその伸縮方向と平行な方向の変位に拡大する拡大機構を有するマイクロインジェクション装置。
【請求項24】
請求項23において、前記拡大機構がリンク機構からなるマイクロインジェクション装置。
【請求項25】
請求項22または請求項24において、前記リンク機構は、1つの固定ジョイントと2つの可動ジョイントと2つのリンクとからなるクランク・スライダ機構を有し、このクランク・スライダ機構は、前記圧電素子の伸長方向の変位を、前記2つの可動ジョイントおよび2つのリンクを介して、固定ジョイントの円周上の任意の方向に変換し更に変位を拡大可能としたマイクロインジェクション装置。
【請求項26】
請求項1ないし請求項25のいずれか1項において、前記搬送手段は、少なくとも第1の移動体と第2の移動体とを互いに直交する方向に進退自在とした2自由度を持っていて、第2の移動体に前記注入針を支持し、前記第1の移動体が第1のガイドを介して基台に直線方向に進退自在移動可能に設置され、第1の移動体の上に第2のガイドを介して第2の移動体が、前記直線方向と直交する方向に進退自在に設置され、前記第1の移動体および第2の移動体をそれぞれ進退させる第1の進退駆動手段および第2の進退駆動手段が前記基台に設置され、前記第2の進退駆動手段の出力部材が、第2の移動体に対して進退移動可能な方向と直交する方向に対して移動が自在に連結され、または接触するマイクロインジェクション装置。
【請求項27】
請求項1ないし請求項26のいずれか1項において、被導入体が細胞であり、導入物質が遺伝子制御因子であるマイクロインジェクション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2012−19754(P2012−19754A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161319(P2010−161319)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】