マイクロウェルアレイチップおよび細胞の回収方法
【課題】蛍光標識付抗原の蛍光観察により行う細胞のスクリーニングに用いるのに適した細胞チップおよび目的細胞を特異的かつ効率的に特定し、回収する方法を提供する。
【解決手段】基板の表面に複数のマイクロウェルを有するマイクロウェル層を有し、1つのマイクロウェルに1つの生体細胞のみを収容する形状と寸法を有し、マイクロウェルの底面に磁性膜を有し、磁性膜以外の磁性部材を有さず、磁性膜の表面およびマイクロウェル層の表面は、遮光膜およびシリカ膜またはパリレン膜からなる多層膜を有する、マイクロウェルアレイチップ。このマイクロウェルアレイのマイクロウェルに検体細胞を収容し、目的細胞を回収する方法。
【解決手段】基板の表面に複数のマイクロウェルを有するマイクロウェル層を有し、1つのマイクロウェルに1つの生体細胞のみを収容する形状と寸法を有し、マイクロウェルの底面に磁性膜を有し、磁性膜以外の磁性部材を有さず、磁性膜の表面およびマイクロウェル層の表面は、遮光膜およびシリカ膜またはパリレン膜からなる多層膜を有する、マイクロウェルアレイチップ。このマイクロウェルアレイのマイクロウェルに検体細胞を収容し、目的細胞を回収する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロウェルアレイチップおよびこのチップへの細胞の収納方法、このチップを用いる細胞の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明者は、これまでシリコン型細胞チップを開発し、すでにその製造方法および抗体スクリーニングシステムにおける特許を取得している(特許文献1、2)。
【0003】
特許文献1に記載の発明は、基板の一方の主表面に複数個のマイクロウェルを有し、前記マイクロウェルは、1つのマイクロウェルに1つの生体細胞のみが収容される形状及び寸法を有し、かつ底面を有するシリコン製のマイクロウェルアレイチップであって、前記マイクロウェルの側壁を含む内面がフロロカーボン膜で被覆されており、かつ1個のマイクロウェルに収容した1個の生体細胞がマイクロウェルから回収されるように用いられる、マイクロウェルアレイチップである(請求項1)。
【0004】
一方、特許文献3には、裏側に磁石が配置され、基板上に磁気ビーズを配置することができる構造を有する細胞固定化基板およびこの基板を用いた細胞の基板への固定化方法が記載されている。請求項1に記載の細胞固定化基板は、基板の任意の特定位置に細胞が固定化されている細胞固定化基板であって、基板の近傍に磁石が配置され、前記磁石により細胞と結合する磁気ビーズが基板に固定され、そして、この磁気ビーズを介して、細胞は分離が自在に基板の任意の特定位置で固定化されているものである。請求項11に記載の細胞固定化方法は、基板の任意の特定位置に細胞を固定化する細胞固定化方法であって、(1)基板の近傍に磁石を配置して、前記磁石により細胞と結合する磁気ビーズを基板に固定化するステップ;(2)細胞を播種して、前記磁気ビーズに細胞を結合させるステップ;および(3)前記磁気ビーズを介して、磁力で基板の任意の特定位置に細胞を固定化するステップ;を含むものである。
【0005】
特許文献4および非特許文献1には、磁気ポールによってその頂上に細胞を固定する方法が提案されている。特許文献4の請求項62には、液体媒体から目的生物粒子の収集方法が記載され、目的生物粒子と結合する外表面を有する磁気応答性タグを上記液体媒体に分散し、次いでこの媒体に磁場を加えて、磁気応答性タグの流れを生じさせ、次いで磁気ポールを有するカートリッジを上記媒体に置き、目的粒子を収集する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4069171号
【特許文献2】特許第4148367号
【特許文献3】特開2006−6281
【特許文献4】WO 01/87458
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“Cell culture arrays using magnetic force-based cell patterning for dynamic single cell analysis”, K.Ino et.al. , Lab on chip, 2008, 8, 134-142
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、今後の臨床における展開を考慮するとシリコン型チップの性能では不十分であることがわかってきた。特許文献1に記載のマイクロウェルアレイチップは、ターゲットとする細胞を効率よくマイクロウェルに収容する機能を有しておらず、重力による細胞の沈降のみにより細胞をマイクロウェルに収容するものである。1回の細胞の播種における細胞の利用率は10%以下であった。そのため、サンプル中に含まれる細胞を効率的に利用できないという課題があった。ウェルに入らなかった細胞を回収し3回程度繰り返し播種することで利用率を向上させる試みもなされている。しかし、この方法によると、細胞の鮮度が落ちる場合があり、また、より少ない採血が必要となる検査用途には応用できなかった。できるだけ少ない採血で患者に負担をかけず、短時間で効率よく細胞を収納できる細胞チップが望まれていた。
【0009】
特許文献3に記載の細胞固定化基板を用いる細胞の固定方法では、磁気ビーズは細胞と結合する機能を有するが、細胞が能動的に磁気ビーズに吸引される機能はない。但し、特許文献3に記載の細胞固定化基板は、特許文献1に記載のマイクロウェルアレイチップと異なり、1つのウェルまたは1つの基板上に1つの細胞を固定化するものではなく、細胞集団を固定化するものであるから、細胞利用効率の非効率という問題が生じる技術ではない。
【0010】
特許文献4に記載の方法によると、目的粒子としての細胞を磁気ポールに強制的に捕捉することが可能である。しかし、特許文献4に記載のカートリッジは、細胞を1つずつ正確に分離するものではない。磁気によって生体細胞を規則正しく固定化する方法が試されているものの、チップ上に播種した細胞を高い利用率で1細胞ずつ規則正しく配列し、なおかつそれを回収し、さらにチップ表面が抗体親和性に優れるものはなかった。
【0011】
特許文献2に記載の細胞スクリーニング法を効果的に利用しようとしたとき、チップ表面は抗体親和性に優れたものである必要がある。本手法によるスクリーニングは、チップ表面の抗体などのタンパク質に結合する蛍光標識付抗原などの蛍光を観察することにより行うため、チップ表面により多くの抗体などのタンパク質が結合することにより感度が向上するものである。しかしながら、例えばチップ基板材料であるシリコン、ガラス、樹脂などの表面は抗体などのタンパク質結合能が本手法に対して十分とはいえず、チップ表面に固定された物質を高感度で観察する必要があるシステムには適していない。
【0012】
そこで本発明の目的は、少量のサンプルで、短時間に効率よくサンプル中の細胞を収納でき、かつチップ表面の抗体などのタンパク質に結合する蛍光標識付抗原などの蛍光を観察することにより行う細胞のスクリーニングに用いるのに適した細胞チップを提供することにある。
【0013】
即ち、本発明の目的は、播種した細胞を高効率で強制的にマイクロウェルへ1細胞ずつ収容させることができ、さらにそれらを容易に蛍光観察系において回収でき、表面の抗体結合性の高いマイクロウェルアレイチップを提供することにある。
【0014】
さらに本発明の目的は上記マイクロウェルアレイチップを用いて、検体細胞を効率よく収容する方法、及び収容した細胞から、さらにチップ表面の抗体などのタンパク質に結合する蛍光標識付抗原などの蛍光を観察することにより目的細胞を特異的かつ効率的に特定し、回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは磁気を使った能動的な方法で細胞を効率よく収納し、かつチップ表面の抗体などのタンパク質に結合する蛍光標識付抗原などの蛍光を観察することにより行う細胞のスクリーニングを利用して目的細胞を回収できることを見出して本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、細胞の利用率は90%以上に向上し、従来のシリコンチップを大きく超える細胞スクリーニング性能を持つ細胞チップを提供できる。さらに本発明の細胞チップは、蛍光観察や細胞スクリーニングにも適したものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1に、25×25のマイクロウェルを1つのクラスタとして、そのクラスタが縦横に3個ずつ配列されたマイクロウェルアレイチップの平面図を示す。
【図2】図2に本発明のマイクロウェルアレイチップの一例の断面図を示す。
【図3】図3に磁性膜形状の例を示す。
【図4】図4に、マイクロウェルの底面に設けた磁性膜(マイクロウェル底面のみに局在)により、磁束をマイクロウェル内へ収束させることが可能であることを示す説明図である。
【図5】図5に蛍光標識付き抗体を表面に結合した結果を示す。
【図6】図6は従来方法によるスクリーニングと磁気ビーズ修飾/磁気吸引によるスクリーニングにより採取した細胞からの遺伝子増幅の比較結果(目的の抗体遺伝子のバンドに矢印)である。
【図7】図7に実施例1の製造方法例を示す。
【図8】図8に実施例2の製造方法例を示す。
【図9】図9に実施例3の製造方法例を示す。
【図10】図10に実施例4の製造方法例を示す。
【図11】図11に実施例5の製造方法例を示す。
【図12】図12は、実施例6における磁気吸引した細胞の検出結果である。
【図13】図13は、実施例7におけるシリコン製マイクロウェルアレイチップと本発明によるマイクロウェルアレイチップに細胞を収容したものである。
【図14】図14は、実施例8におけるシリコン製マイクロウェルアレイチップと本発明によるマイクロウェルアレイチップを用いてヒト末梢血リンパ球からIgG抗体分泌細胞を検出した結果ある。
【図15】図15には実施例9で検出した抗体分泌細胞を回収した例を示す。
【図16】図16Aは、実施例9における培養上清中のヒトIgG抗体を定量したELISAの結果を、図16Bは、実施例9におけるHA抗原に結合した培養上清中のIgG抗体を検出したELISAの結果を示した。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<マイクロウェルアレイチップ>
本発明のマイクロウェルアレイチップは、基板の少なくとも一方の主表面にマイクロウェル層を有し、
前記マイクロウェル層が有する複数のマイクロウェルは、1つのマイクロウェルに1つの生体細胞のみを収容する形状と寸法を有し、
前記マイクロウェルの底面の一部または全部に磁性膜を有し、前記磁性膜以外の磁性部材を有さず、
前記磁性膜の表面および前記マイクロウェル層の表面は、マイクロウェル層を構成する材料からの自家蛍光を抑える遮光膜およびシリカ膜またはパリレン膜からなる多層膜を有する。
【0019】
本発明のマイクロウェルアレイチップは、好ましくは、前記マイクロウェル層は感光性樹脂または熱可塑性樹脂からなる。
【0020】
本発明のマイクロウェルアレイチップは、好ましくは、前記基板と前記マイクロウェル層との間に下地電極層を有する。
【0021】
本発明のマイクロウェルアレイチップは、好ましくは、前記下地電極と前記マイクロウェル層との間に反射防止膜を有する。
【0022】
以下本発明のマイクロウェルアレイチップについて図面に基づいて説明する。
【0023】
<マイクロウェル層>
本発明のマイクロウェルアレイチップは、基板の少なくとも一方の主表面にマイクロウェル層を有する。マイクロウェル層は複数のマイクロウェルを有し、かつ各マイクロウェルは、1つのマイクロウェルに1つの生体細胞のみを収容する形状と寸法を有する。
【0024】
上記生体細胞は、例えば、リンパ球であることができ、本発明のマイクロウェルアレイチップは、例えば、抗原特異的リンパ球を1個単位で検出あるいは回収するために用いることができる。
【0025】
複数のマイクロウェルは同一間隔で縦横に配置されており、所定個数のマイクロウェル毎にマーカーが設けられていることが好ましい。さらに、所定個数のマイクロウェル毎にグループ分けして基板の主表面上に設けられることかもできる。例えば、図1に、25×25のマイクロウェルを1つのクラスタとして、そのクラスタが縦横に3個ずつ配列されたマイクロウェルアレイチップの平面図を示す。クラスタを構成するマイクロウェルの数やクラスタの配列数には特に制限はなく、例えば25×25ウェル/クラスタ、10×10クラスタであることができる。
【0026】
1つのマイクロウェルのグループを構成するマイクロウェルの数には特に制限はないが、例えば、10〜10000の範囲であることができる。
【0027】
マイクロウェルの形状や寸法には特に制限はないが、マイクロウェルの形状は、例えば、円筒形であることができ、円筒形以外に、複数の面により構成される多面体(例えば、直方体、六角柱、八角柱等)、逆円錐形、逆角錐形(逆三角錐形、逆四角錐形、逆五角錐形、逆六角錐形、七角以上の逆多角錐形)等であることもでき、これらの形状の二つ以上を組み合わせた形状であることもできる。例えば、一部が円筒形であり、残りが逆円錐形であることができる。また、逆円錐形、逆角錐形の場合、底面がマイクロウェルの開口となるが、逆円錐形、逆角錐形の頂上から一部を切り取った形状である(その場合、マイクロウェルの底部は平坦になる)こともできる。円筒形、直方体は、マイクロウェルの底部は通常、平坦であるが、曲面(凸面や凹面)とすることもできる。マイクロウェルの底部を曲面とすることができるのは、逆円錐形、逆角錐形の頂上から一部を切り取った形状の場合も同様である。
【0028】
マイクロウェルの形状や寸法は、マイクロウェルに収容されるべき生体細胞の種類(生体細胞の形状や寸法等)を考慮して、1つのマイクロウェルに1つの生体細胞が収容されるように、適宜決定される。
【0029】
1つのマイクロウェルに1つの生体細胞が収容されるようにするためには、例えば、マイクロウェルの平面形状に内接する最大円の直径が、マイクロウェルに収容しようとする生体細胞の直径の0.5〜2倍の範囲、好ましくは0.8〜1.9倍の範囲、より好ましくは0.8〜1.8倍の範囲であることが適当である。
【0030】
また、マイクロウェルの深さは、マイクロウェルに収容しようとする生体細胞の直径の0.5〜4倍の範囲、好ましくは0.8〜1.9倍の範囲、より好ましくは0.8〜1.8倍の範囲であることが適当である。
【0031】
マイクロウェルが円筒形の場合、その寸法は、例えば、直径3〜100μmであることができ、生体細胞がBリンパ球の場合、好ましくは、直径は4〜15μmである。また、深さは、例えば、3〜100μmであることができ、生体細胞がBリンパ球の場合、好ましくは、深さは4〜40μmであることができる。但し、マイクロウェルの寸法は、上述のように、マイクロウェルに収容しようとする生体細胞の直径とのマイクロウェルの寸法の好適な比を考慮して適宜決定する。
【0032】
1つのマイクロウェルアレイチップが有するマイクロウェルの数は、特に制限はないが、生体細胞がリンパ球の場合、抗原特異的リンパ球の頻度が105個に1個から多い場合には約500個であるという観点から、1cm2当たり、例えば、2,000〜1,000,000個の範囲であることができる。
【0033】
本発明のマイクロウェルアレイチップの一例の断面図を図2に示す。基板は例えばガラスであることができ、樹脂などでもよい。樹脂基板は、例えばABS樹脂、ポリカーボネート、ポリプロピレン、FRP、アクリル、PVC、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル、PET、PENなどが挙げられる。
【0034】
マイクロウェル層は、例えば、樹脂により作製されることができ、樹脂としては、例えば、光感光性樹脂あるいは熱可塑性樹脂などが利用できる。光感光性樹脂あるいは熱可塑性樹脂としては、例えば、ノボラック樹脂、ポリビニールフェノール系樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、メタクリル酸メチル樹脂などのポリマーをベースとするフォトレジスト、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂などを挙げることができる。
【0035】
<磁性膜>
マイクロウェルは、その底面の一部または全部に磁性膜を有する。さらに、本発明のマイクロウェルアレイチップは、前記磁性膜以外の磁性部材を有さない。磁性膜形状は特に制限はない。図3に磁性膜形状の例を示す。円や多角形など様々な形状をとることができる。ウェル底面の形状に必ずしもあわせる必要はなく、膜のない領域を作成することで、主表面反対側からウェル内での反応を観察することも可能である。
【0036】
磁性膜は磁性材料により構成され、磁性材料としては、例えば、ニッケルおよびフェライトやコバルト系などの強磁性体を挙げることができる。磁性材料の具体例は後述する。磁性膜の膜厚は、磁性膜に求められる磁力に応じて適宜決定できるが、例えば、0.1〜5μmの範囲である。これら磁性膜は、例えばめっきにより作製することができる。めっき方法は、電気めっき、無電解めっきが挙げられる。電気めっきの場合は、電極となる下地電極が必要であり、無電解めっきの場合は必要ではない。形成された磁性膜を磁界にいれることにより、磁性膜中の磁束密度が高くなる。磁界は、いわゆる永久磁石と呼ばれるものでサマリウムコバルト、ネオジム等や電磁石により形成される。
【0037】
上記のように、磁性膜を電気めっきで作製する場合には、本発明のマイクロウェルアレイチップは、少なくとも基板と磁性膜の間に下地電極を有する。下地電極は、基板と磁性膜の間のみならず、マイクロウェル層と基板にも設けることができる。下地電極は、磁性膜を電気めっき工程で作製する際に利用され、蒸着あるいは無電解めっきなどにより形成される。下地電極の膜厚は、特に限定はないが、例えば、50nm以上300nm以下の範囲であり、さらに80nm以上150nm以下であることが好ましい。なお、磁性膜形成に無電解めっき工程を利用する場合は、下地電極は不要である。
【0038】
本発明のマイクロウェルアレイチップは、上記下地電極または磁性膜の基板とは反対側に反射防止膜を有することができる。反射防止膜とは、金属面などの表面において入射光に対し生じる反射光を軽減し、透過率を向上させる目的で利用される。金属面が下地電極面の例では、下地電極であるクロム膜上に形成される酸化クロム膜が反射防止膜となる。クロム膜と酸化クロム膜はスパッタ蒸着などによって形成されるが、単層のクロム膜を425℃の空気雰囲気中で2時間熱処理することで酸化クロム膜を形成する方法を選択できる。
【0039】
<多層膜>
磁性膜の表面およびマイクロウェル層の表面は、マイクロウェル層を構成する材料からの自家蛍光を抑える遮光膜およびシリカ膜またはパリレン膜からなる多層膜を有する。
【0040】
まず、マイクロウェル層が有するマイクロウェルをコンフォーマルに取り囲むようにした遮光膜を有する。これは、下地の樹脂(基板およびマイクロウェル層)からの自家蛍光を抑制するものであり、本マイクロウェルアレイチップを蛍光顕微鏡などにより観察する際に、バックグラウンドなどにより観察が阻害されるのを防止する。遮光膜は生体に無害である材料が好ましく、例えばシリコンであることができる。遮光膜は、蒸着などにより形成され、1材料による単層膜あるいは2種類以上の材料によって構成される多層膜でもよい。
【0041】
遮光膜の上に、シリカ膜またはパリレン膜を設ける。これによってマイクロウェルアレイチップの最表面はシリカ膜またはパリレン膜により覆われることになる。シリカ膜およびパリレン膜の具体例は後述する。シリカ膜は、一般的に親水性を示すといわれており、シランカップリング処理などを施すことによって表面の親水基と疎水基が置換され、疎水表面が得られる。またパリレン膜は、生体適合性に優れた材料で、埋め込み型医療器具などの表面コーティングに用いられ、表面は疎水性となっている。疎水表面は、抗体などのタンパクが結合しやすい表面であり、本発明によるマイクロウェルアレイチップは、表面のタンパク結合性に優れた表面を有している。
【0042】
本発明のマイクロウェルアレイチップの製造方法について説明をする。ここでは、ガラス基板により作製される製造方法について記述する。
(1) ガラス基板の主表面上に下地電極を蒸着あるいはめっきなどにより形成する。下地電極は、クロム、ニッケルなどの金属、あるいはITO、ZnOなどの透明電極材料あるいはポリアセチレン、ポリアニリン、ポリチオフェンなどの導電性高分子膜などの透明電極材料などガラスと密着性のよい材料を選択する。
(2) 感光性樹脂例えば東京応化工業株式会社ネガレジストPMER N-CA3000PMなどをスピンコートなどにより塗布する。
(3) この感光性樹脂をフォトリソグラフィにてマイクロウェルを形成する。対応する樹脂があれば、ナノインプリント技術を用いて形成しても同じ結果が得られる。
(4) マイクロウェルから露出した下地電極上に電気めっきなどにて、磁性膜を成膜する。磁性膜は、例えばニッケル膜であり、スルファミン酸ニッケル浴などによって形成する。
(5) スパッタ法などにより、シリコンを成膜、その後シリカ膜を成膜する。あるいはシリコンを成膜、パリレン膜を成膜する。膜厚は、それぞれ0.1ミクロン以上であり、用途、樹脂材料により適宜設定できる。
(6) 酸素プラズマクリーニング、オゾン水洗浄、過酸化水素水洗浄、UVオゾン洗浄などにより、表面を清浄化する。このとき、表面に親水基が高密度で存在できるよる配慮する。
(7) 疎水化処理剤、例えばシランカップリング剤に表面を暴露することで、チップ表面を疎水化する。シランカップリング剤は、例えばHMDS(ヘキサメチルジシラザン)を選択することができる。
【0043】
(1)磁性層のめっき
[電気めっき方法]
Ni-P、Ni-B、Co-Ni-P、Co-P系合金、Ni-Fe系合金、Co-Ni-Fe系合金などの電気めっき膜は、磁気特性としては強磁性をしめす。しかしリンを含む例えば8%以上のニッケルめっき膜は、非磁性であり、磁性を発生させるためには熱処理などが必要となるため本発明には最適な手法ではない。
【0044】
例えばニッケル電気めっきは、内部応力の少ないスルファミン酸ニッケル浴にて行われる。そのほかには、硫酸ニッケルを主成分とするワット浴、塩化ニッケルを主成分とするウッド浴などが使われる。以下にスルファミン酸ニッケル浴による本発明における磁性膜の形成方法の概略を示す。
A) サンプルを脱脂処理する。
B) スルファミン酸ニッケル浴を約50℃に暖め、陽極としてニッケル板、陰極として発明品サンプルを浴内に浸漬させる。
C) 約1〜100mAの電流を電極間に10秒から60分程度流す。
D) サンプルを浴から取り出し、水で洗浄を行う。
E) めっき厚は、0.5ミクロンから5ミクロンであり、好ましくは1ミクロンから3ミクロンの間とする。
ニッケル電気めっき法には、他にワット浴なども使用される。
【0045】
[無電解めっき]
無電解めっきによっても磁性膜が形成可能である。例えばNi-P、Ni-B、Co-Ni-P、Co-P系合金、Ni-Fe系合金、Co-Ni-Fe系合金などが挙げられる。Ni-Pの場合、Pの含有量が8%以上では析出状態では非磁性となってしまう。ただし、300℃以上の熱処理を行うと高いPの含有においても磁化される。無電解ニッケルめっき膜は、例えば硫酸ニッケルと次亜リン酸ナトリウムの浴で作製することが可能である。無電解めっきによるとガラスや樹脂基板に直接めっきを行うことが可能である。
【0046】
<反射防止膜の形成>
反射防止膜は、前述のように下地電極または磁性膜の表面において入射光に対し生じる反射光を軽減し、透過率を向上させる目的で利用される。反射防止膜の形成は、下地電極面上に設ける場合には、上記工程(1)と(2)の間に行う。この場合、下地電極となるクロム膜上に形成される酸化クロム膜が反射防止膜となる。クロム膜と酸化クロム膜はスパッタ蒸着などによって形成されるが、単層のクロム膜を425℃の空気雰囲気中で2時間熱処理することで酸化クロム膜を形成する方法を選択できる。
【0047】
光硬化性樹脂を用いてフォトリソグラフィ工程を行う場合、パターンが描かれたフォトマスクを通過した光が、基板表面の金属膜で乱反射し、本来硬化させたくないマスク下の光硬化性樹脂までも露光してしまうことがある。本現象は樹脂の膜厚、露光時間、現像時間を精密に管理することで制御が可能である。しかし、製造工程におけるばらつきを考慮した場合、乱反射による形状異常は極力避ける必要がある。このとき、基板上の金属膜に反射防止膜を形成することで、入射した光のほとんどは基板下へ透過するため上記現象は抑制可能である。さらに、樹脂最表面に金属膜を有する場合、基板表面の金属膜間で多重反射が生じるため、チップ使用時の光学的観察を行う場合において本反射防止膜を有することで抑制することが可能である。ここで例えば金属薄膜はクロム膜であり、反射防止膜は酸化クロム膜が選択できる。また、スピンコートによる塗布型の反射防止膜も利用することができる。例えば日産化学工業株式会社反射防止コーティング剤XHRiCを塗布してもよい。
【0048】
<パリレン膜の形成>
パリレンはパラキシレンの重合体であるポリパラキシリレンである。パリレン膜は、原料であるジパラキリレレンモノマーを蒸発させ、それをさらに熱分解によってラジカルパラキシリレンを生成し、目的のサンプル上でポリパラキシリレンの重合膜として形成される。本材料の特徴として、コンフォーマルな成膜が可能で、ピンホールもなく、疎水性の表面をもつことなどがある。0.2〜1ミクロン程度の膜を形成することで十分な性能が得られる。医療機器に利用される際に問題となる生体への毒性はほとんどなく、アメリカ薬局方(USP)によって定義されているUSPプラスチック・クラスVI試験の生物学的用件を満たしている。表面が疎水性であることから、タンパクとの結合性も良好で、抗体などの結合性能も優れている。本発明においても、蛍光標識付抗体によって、その結合能を確認した。
【0049】
<シリカ膜の形成>
シリカとは、金属シリコンと酸素が結合した二酸化ケイ素あるいは、それを主成分に構成される材料のことである。成膜は、スパッタ蒸着、ポリシラザンなどを用いるコーティングなどにより行われる。スパッタ蒸着では、おもにSiO2ターゲットを利用して成膜する方法がとられる。またポリシラザンは、例えばクラリアント社アクアミカがあり、溶液中のパーヒドロポリシラザンが空気中の水分と反応してシリカガラスに転化する。
【0050】
このようにして成膜されたシリカ膜表面は親水性を示し、さらに酸素プラズマ洗浄、オゾン洗浄、オゾン水洗浄を行うことにより、表面にさらに官能基ヒドロキシル基(OH基)が多く生成されることから超親水性を示す。HMDSなどのシランカップリング剤は、基板表面のヒドロキシル基と置換することで、基板を疎水性とする。疎水性表面はタンパクなどの結合性が高いことから、シリカ膜を成膜することで高い抗体結合能が得られる。
【0051】
本発明のマイクロウェルアレイチップの磁性層は磁化することで、磁気修飾した細胞を含む生体試料を吸引、収容することが可能で、さらにそれを回収することが可能である。
【0052】
<検体細胞をマイクロウェルに収容する方法>
本発明は上記本発明のマイクロウェルアレイの少なくとも一部のマイクロウェルに、検体細胞を収容する方法を包含する。この方法は、
前記検体細胞に磁気ビーズを取り付ける工程、および
磁気ビーズを取り付けた検体細胞をマイクロウェルアレイチップのマイクロウェル層の表面に供給して、1つのマイクロウェルに1つの細胞を収容する工程、
を含む。
【0053】
前記検体細胞に磁気ビーズを取り付ける方法は、公知の方法を適宜利用できる。例えば、細胞表面に存在する分子、例えば表面抗原等に特異的に結合する抗体を介して検体細胞に磁気ビーズを結合させる方法が知られている。検体細胞とその表面分子に特異的な抗体を固定化した磁気ビーズを接触させることにより磁気ビーズを結合させた細胞を得ることができる。また、任意の標識分子を結合させた抗体を検体細胞の表面分子に結合させ、次いで標識物質に結合する分子を固定化した磁気ビーズと接触させることにより検体細胞を間接的に磁気標識することができる。抗体の標識分子とそれに結合する磁気ビーズに固定化された分子は特異的に結合する組み合わせであればよく、ビオチンとストレプトアビジンの組み合わせ等が挙げられる。また、抗体の代わりに細胞表面の受容体のリガンドを結合させた磁気ビーズを用い、目的細胞表面の受容体に結合させることにより磁気ビーズを結合させることもできる。さらには、磁気ビーズを細胞に貪食させることで、細胞表面ではなく細胞内に磁気ビーズを導入することで、細胞を磁気ビーズで標識することも可能である。使用する磁気ビーズは直径10nm〜10μmを使用することができる。磁気ビーズの粒子形状は球状やクラスタ状であることができる。
【0054】
表面抗原としては、ヒトBリンパ球であればCD19、CD20、CD21、CD23等、ヒト形質細胞であればCD38、CD138、ヒトTリンパ球であればCD2、CD3などが利用できる。また、細胞表面のリガンドとしては、Bリンパ球の抗原受容体として機能する細胞表面の抗体のリガンドである抗原、Tリンパ球の抗原受容体のリガンドであるMHC/peptide等をあげることができる。
【0055】
検体細胞に磁気ビーズを取り付け、その磁気ビーズを磁気吸引することで1つのマイクロウェルに1つの検体細胞を収容することが可能である。これにより、例えば、抗原特異的リンパ球などの検体細胞をマイクロウェルに容易に収容することができ、かつマイクロウェルに収容した検体細胞を検体細胞に予め付与しておいた標識を用いて容易に目的とする細胞を選別可能である。
【0056】
上記磁気ビーズを取り付けた検体細胞をマイクロウェルアレイチップのマイクロウェル層の表面に供給して、1つのマイクロウェルに1つの細胞を収容する。磁気ビーズを取り付けた検体細胞は、例えば、緩衝液または培養液に分散された状態で、マイクロウェル層の表面に供給される。上記分散液中の検体細胞の濃度は、マイクロウェルへの収容がスムーズであるとの観点からは、例えば、ウェル数の0.5〜1.5倍の範囲であることが適当である。磁気ビーズを取り付けた検体細胞のマイクロウェル層表面への供給操作は、室温で実施することもできるが、冷却下または加温下で実施することもできる。さらに、磁気ビーズを取り付けた検体細胞のマイクロウェル層表面への供給操作の際に、マイクロウェルアレイチップを静置してもよくまたは適度な振動を加えてもよい。
【0057】
本発明のマイクロウェルアレイチップは磁性層を有するため、磁気ビーズを取り付けた検体細胞が、マイクロウェル底部の磁性層に引きつけられて、検体細胞のマイクロウェルへの収容が促進される。検体細胞のマイクロウェルへの収容を促進するという観点からは、磁性層が有する表面磁束密度は100mT〜500mT程度であることが好ましい。また、磁性層の表面磁束密度が前記範囲に満たない場合には、外部の磁石を併用することか好ましい。磁性層の表面磁束密度が前記範囲を満足する場合でも外部の磁石を併用することはできる。外部の磁石は、マイクロウェルアレイチップの底面の少なくともマイクロウェルアレイが存在する部分を全面または部分的にカバーするものであることが適当である。外部の磁石は、マイクロウェル底部の磁性層に引きつけられて、磁気ビーズを取り付けた検体細胞のマイクロウェルへの収容が促進されるという観点からは、表面磁束密度は100mT〜800mT程度であることが好ましい。
【0058】
検体細胞には、特に限定はないが、例えばリンパ球などの免疫細胞、ガン細胞、ハイブリドーマ、細胞株であり、これら生体細胞を1個単位で検出するために用いられるものである。検体細胞は、抗原特異的リンパ球を含む細胞集団であることができる。
【0059】
<目的細胞の回収方法>
本発明は、上記方法でマイクロウェルに収容した目的細胞を特定し、特定した目的細胞をウェルから回収することを含む目的細胞の回収方法も包含する。
【0060】
目的細胞は、特に限定はないが、例えば、特異的免疫グロブリン産生細胞または特異的サイトカイン産生細胞などの免疫細胞であることができる。
【0061】
マイクロウェルに収容した目的細胞の特定方法は、特に限定はないが、例えば、目的細胞に特異的に標識した蛍光標識を用いて行うことができる。あるいは、マイクロウェルに収容した目的細胞の特定は、特許文献2に記載の抗原特異的抗体分泌細胞等の免疫細胞の検出(スクリーニング)方法であることができる。
【0062】
即ち、本発明のマイクロウェルアレイチップのウェルの周辺の前記主表面の少なくとも一部に、目的細胞が産生する物質の少なくとも一部と結合性を有する物質の被覆層を設け、このマイクロウェルアレイチップのウェルに検体細胞を細胞の培養液とともに収容し、
前記被覆層およびウェルを培養液に浸漬して、培養液に含まれる物質のウェルから前記被覆層への拡散が可能な状態で細胞を培養し、
培養液を除去した後に、検体細胞に含まれる目的細胞によって産生される物質に特異的に結合する標識物質、又は、目的細胞によって産生される物質と結合性を有する物質の被覆層に特異的に結合する標識物質を、前記被覆層に供給し、
前記被覆層の物質に結合した、目的細胞によって産生された物質を、前記標識物質により検出して、目的細胞を特定することにより、目的細胞をスクリーニングする。
【0063】
結合性物質を被覆した表面は、被覆量によっては、結合性物質が緻密に被覆されず、未被覆の表面が存在する場合がある。その場合、細胞が産生した物質が基板の表面に非特異的に結合する場合がある。このような非特異的結合は、検出の感度の精度を低下させる原因となる。そこで、本発明では、ウェルに収容される細胞が産生する物質の少なくとも一部と結合性を有する物質の被覆層を有さない前記主表面の少なくとも一部は、ブロッキング剤でコートされていることが好ましい。ブロッキング剤としては、例えば、細胞膜を構成するホスファチジルコリンの極性基と同一の構造をもつ2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)を構成単位とする水溶性ポリマーLIPIDURE(登録商標)(リピジュア(登録商標))を挙げることができる。
【0064】
特定した目的細胞はウェルから回収する。目的細胞のウェルからの回収は、例えば、以下のように実施できる。
磁性膜を磁界から外し、マイクロマニピュレータによりガラスキャピラリ内に目的細胞を緩衝液または培養液と共に吸引し、任意の容器へ吐出することにより回収できる。
【0065】
本発明では、さらに、回収した目的細胞から、抗原特異的免疫グロブリン遺伝子のmRNAを回収し、抗体cDNAを発現させ、抗原特異的抗体タンパク質を作製することができる。また、サイトカインを産生した細胞よりその細胞が発現しているT細胞受容体遺伝子のmRNAを回収し、T細胞受容体cDNAを回収し、それを別の細胞に導入することによりT細胞受容体タンパク質を発現させることができる。
【0066】
本発明のマイクロウェルアレイチップは、図4に示すようにマイクロウェルの底面には、磁性膜を有している。本磁性膜はマイクロウェル底面のみに局在することで、磁束をマイクロウェル内へ収束させることが可能である。その大きさは、マイクロウェルの開口とほぼ同等であり、マイクロウェル1つにつき1つ以上の磁性スポットパターンにより構成される。その形状は円あるいは多角形あるいはそれらの複数の組み合わせであることができる。本磁性膜によって磁束をマイクロウェルに収束させることによって、磁気ビーズによって修飾された生体細胞は、マイクロウェル内に吸引され、収納される。これにより、チップ上に播種された生体細胞はほぼ1つのマイクロウェルに1細胞が収納されるが、仮に収納されるチップ表面に浮遊している場合は、洗浄作業を行う。洗浄の際も細胞はマイクロウェル底の磁性膜に安定して吸引されているため、ウェルから抜け出すことはない。さらに外部からの磁界を取り除くことによって、マイクロウェルに収容された細胞は容易に回収することも可能である。
【0067】
本発明のマイクロウェルアレイチップは最表面にシリカ膜またはパリレン膜を有するために、表面のタンパク質結合性が優れる。このことを示すために、図5に蛍光標識付き抗体を表面に結合した結果を示す。図5(a)は、本発明によるチップから、最表面のシリカ膜を取り除いたマイクロウェルアレイチップに蛍光標識抗体を結合させたものについての蛍光画像である。また図5(b)は、本発明により製造したシリカ膜付マイクロウェルアレイチップに蛍光標識抗体を結合させたものについての蛍光画像である。さらに図5(c)は、本発明により製造したパリレン膜付マイクロウェルアレイチップに蛍光標識抗体を結合させたものについての蛍光画像である。なお三者ともに、表面に蛍光標識付抗体をのせ、室温で30分間静止放置し、PBS(Phosphate-Buffered Saline)にて洗浄をおこなった後の画像である。これらを比較すると本発明によりシリカ膜やパリレン膜を成膜したマイクロウェルアレイチップは、シリカ膜のないチップよりも蛍光が明るく、より多くの抗体が結合することが確かめられた。本実験結果より、表面にシリカ膜あるいはパリレン膜を有する構造が抗体などのタンパク質を結合しやすくしていることがわかる。そのため、特許文献2に記載の抗原特異的抗体分泌細胞等の免疫細胞の検出方法を利用する目的細胞の特定に非常に有利である。
【0068】
図6は、本発明のマイクロウェルアレイチップを用いて回収した抗体産生細胞の抗体遺伝子可変領域の増幅結果である。磁気ビーズを取り付けずに重力沈降で収容した細胞と同程度の遺伝子増幅効率であることから、本発明を用いて回収した細胞への悪影響等がないことが確認できた。
【実施例】
【0069】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0070】
実施例1
図7に製造方法例を示す。
(1) 基板、例えばガラス基板7aの主表面上に下地電極7bを蒸着あるいは無電解めっきなどにより形成する。下地電極は、クロム、ニッケルなどガラスと密着性のよい材料を選択する。また、非磁性材料であることが好ましい。
(2) 感光性樹脂7c例えば東京応化工業株式会社ネガレジストPMER N-CA3000PMなどを下地電極7b上にスピンコートなどにより塗布する。この感光性樹脂7cにフォトリソグラフィにてマイクロウェル7dを形成する。あるいは、ナノインプリント技術を用いて形成しても同じ結果が得られる。
(3) 電気めっき法によりマイクロウェル7dの底に露出した下地電極7bに磁性膜7eを作製する。磁性膜は、例えばニッケル膜であり、スルファミン酸ニッケル浴などによって形成する。
(4) スパッタ法などにより、シリコン膜7fを成膜する。膜厚は、0.1ミクロン以上であり、用途により適宜設定できる。また、シリコン膜の代わりにステンレス鋼、チタン、チタン合金、アパタイトなども選択できるが、生体への毒性のないものであれば本発明において遮光膜材料が限定されないことはもちろんのことである。
(5) シリコン膜8f上にスパッタ法などによりシリカ膜7gを成膜する。あるいはパリレン膜8gを成膜する。膜厚は、0.1ミクロン以上であり、用途により適宜設定できる。
(6) シリカ膜7gは、酸素プラズマクリーニング、オゾン水洗浄、過酸化水素水洗浄、UVオゾン洗浄などにより、表面を清浄化する。このとき、表面に親水基が高密度で存在できるよう配慮する。パリレン膜7gの場合、本作業および(7)作業は必要としない。
(7) 疎水化処理剤、例えばシランカップリング剤に表面を暴露することで、チップ表面を疎水化する。シランカップリング剤は、例えばHMDS(ヘキサメチルジシラザン)を選択することができる。
【0071】
実施例2
図8に製造方法例を示す。
(1) 基板、例えばガラス基板8aの主表面上に下地電極8bを蒸着あるいは無電解めっきなどにより形成する。下地電極は、クロム、ニッケルなどガラスと密着性のよい材料を選択する。また、非磁性材料であることが好ましい。さらに、反射防止膜8cを形成する。反射防止膜8cは、下地電極8bが例えばクロムであった場合、酸化処理を行うことで形成される。また、日産化学工業株式会社反射防止コーティング剤XHRiCを塗布してもよい。
(2) 感光性樹脂8c例えば東京応化工業株式会社ネガレジストPMER N-CA3000PMなどを反射防止膜8c上にスピンコートなどにより塗布する。この感光性樹脂9cをフォトリソグラフィにてマイクロウェル8dを形成する。あるいは、ナノインプリント技術を用いて形成しても同じ結果が得られる。
(3) 電気めっき法によりマイクロウェル8dの底に露出した下地電極8bに磁性膜8eを作製する。磁性膜は、例えばニッケル膜であり、スルファミン酸ニッケル浴などによって形成する。
(4) スパッタ法などにより、シリコン膜8fを成膜する。膜厚は、0.1ミクロン以上であり、用途、樹脂材料により適宜設定できる。また、シリコン膜の代わりにステンレス鋼、チタン、チタン合金、アパタイト、光学的遮光膜なども選択できるが、生体への毒性のないものであれば本発明において遮光膜材料が限定されないことはもちろんのことである。
(5) シリコン膜8f上にスパッタ法などによりシリカ膜8gを成膜する。あるいはパリレン膜8gを成膜する。膜厚は、0.1ミクロン以上であり、用途により適宜設定できる。
(6) シリカ膜8gは、酸素プラズマクリーニング、オゾン水洗浄、過酸化水素水洗浄、UVオゾン洗浄などにより、表面を清浄化する。このとき、表面に親水基が高密度で存在できるよう配慮する。パリレン膜8gの場合、本作業および(7)作業は必要としない。
(7) 疎水化処理剤、例えばシランカップリング剤に表面を暴露することで、チップ表面を疎水化する。シランカップリング剤は、例えばHMDS(ヘキサメチルジシラザン)を選択することができる。
【0072】
実施例3
図9に製造方法例を示す。
(1) 基板、例えばガラス基板9aの主表面上に下地電極9bを蒸着あるいは無電解めっきなどにより形成する。下地電極9bは、クロム、ニッケルなど金属材料やITOなどの透明電極材料などのガラスと密着性のよい材料を選択する。また、非磁性材料であることが好ましい。
(2) 感光性樹脂9c例えば東京応化工業株式会社ポジレジストOFPR-800などを下地電極9b上にスピンコートなどにより塗布する。この感光性樹脂9cをフォトリソグラフィにて所望の磁性膜パターンと同形に形成する。
(3) 電気めっき法により感光性樹脂9cの底に露出した下地電極9bに磁性膜9dを作製する。磁性膜は、例えばニッケル膜であり、スルファミン酸ニッケル浴などによって形成する。
(4) 感光性樹脂9cを有機溶剤などで除去し、さらに磁性膜9dより露出した下地電極9bをエッチングによって除去する。なお、下地電極が透明電極の場合はこのエッチング作業は不要である。
(5) 感光性樹脂9e例えば東京応化工業株式会社ネガレジストPMER N-CA3000PMや東レ・ダウコーニング株式会社WL-5351に代表される感光性PDMS樹脂などを基板主表面にスピンコートなどにより塗布する。
(6) 感光性樹脂9eをガラス基板9a裏面より露光を行い、マイクロウェル9fを形成する。
(7) スパッタ法などにより、シリコン膜9gを成膜する。膜厚は、0.1ミクロン以上であり、用途により適宜設定できる。また、シリコン膜の代わりにステンレス鋼、チタン、チタン合金、アパタイト、光学的遮光膜なども選択できるが、生体への毒性のないものであれば本発明において遮光膜材料が限定されないことはもちろんのことである。
(8) シリコン膜9g上にスパッタ法などによりシリカ膜9hを成膜する。あるいはパリレン膜9hを成膜する。膜厚は、0.1ミクロン以上であり、用途により適宜設定できる。
(9)シリカ膜9hは、酸素プラズマクリーニング、オゾン水洗浄、過酸化水素水洗浄、UVオゾン洗浄などにより、表面を清浄化する。このとき、表面に親水基が高密度で存在できるよう配慮する。パリレン膜9hの場合、本作業および(10)の作業は必要としない。
(10)疎水化処理剤、例えばシランカップリング剤にマイクロウェルアレイチップ表面を暴露することで、チップ表面を疎水化する。シランカップリング剤は、例えばHMDS(ヘキサメチルジシラザン)を選択することができる。
【0073】
実施例4
図10にナノインプリント技術を用いた製法例を示す。
(1) 基板、例えばガラス基板10aの主表面上に下地電極10bを蒸着あるいは無電解めっきなどにより形成する。下地電極は、クロム、ニッケルなど金属材料やITOなどの透明電極材料などのガラスと密着性のよい材料を選択する。また、非磁性材料であることが好ましい。
(2) 感光性樹脂10c例えば東洋合成工業株式会社PAK-1などを下地電極10b上にスピンコートなどにより塗布する。熱可塑性樹脂を選択することも可能である。
(3) 感光性樹脂10cをナノインプリント技術にてマイクロウェル10dを形成する。このときマイクロウェル10dの底に残膜が発生するため、ドライエッチングなどにより除去する必要がある。
(4) 電気めっき法によりマイクロウェル10dの底に露出した下地電極10bに磁性膜10eを作製する。磁性膜は、例えばニッケル膜であり、スルファミン酸ニッケル浴などによって形成する。
(5) スパッタ法などにより、シリコン膜10fを成膜する。膜厚は、0.1ミクロン以上であり、用途、樹脂材料により適宜設定できる。また、シリコン膜の代わりにステンレス鋼、チタン、チタン合金、アパタイト、光学的遮光膜なども選択できるが、生体への毒性のないものであれば本発明において遮光膜材料が限定されないことはもちろんのことである。
(6) シリコン膜10f上にスパッタ法などによりシリカ膜10gを成膜する。あるいはパリレン膜10gを成膜する。膜厚は、0.1ミクロン以上であり、用途により適宜設定できる。
(7) シリカ膜10gは、酸素プラズマクリーニング、オゾン水洗浄、過酸化水素水洗浄、UVオゾン洗浄などにより、表面を清浄化する。このとき、表面に親水基が高密度で存在できるよう配慮する。パリレン膜10gの場合、本作業および(8)作業は必要としない。
(8) 疎水化処理剤、例えばシランカップリング剤に表面を暴露することで、チップ表面を疎水化する。シランカップリング剤は、例えばHMDS(ヘキサメチルジシラザン)を選択することができる。
【0074】
実施例5
図11に製造方法例を示す。
(1) 基板、例えばガラス基板11aの主表面上に感光性樹脂11bをスピンコートなどにより形成する。感光性樹脂11bは、例えば東京応化工業株式会社ネガレジストPMER N-CA3000PMなどが挙げられる。
(2) 感光性樹脂11bをフォトリソグラフィにてマイクロウェル11cに形成する。あるいは、ナノインプリント技術を用いて形成しても同じ結果が得られる。
(3) 無電解めっき法によりマイクロウェル11cの底に露出した基板11a表面に磁性膜11dを作製する。磁性膜は、例えばニッケル膜であり、Ni-P、Ni-B、Co-Ni-P、Co-P系合金、Ni-Fe系合金、Co-Ni-Fe系合金などが挙げられる。
(4) スパッタ法などにより、シリコン膜11eを成膜する。膜厚は、0.1ミクロン以上であり、用途、樹脂材料により適宜設定できるまた、シリコン膜の代わりにステンレス鋼、チタン、チタン合金、アパタイト、光学的遮光膜なども選択できるが、生体への毒性のないものであれば本発明において遮光膜材料が限定されないことはもちろんのことである。
(5) シリコン膜11e上にスパッタ法などによりシリカ膜11fを成膜する。あるいはパリレン膜11fを成膜する。膜厚は、0.1ミクロン以上であり、用途により適宜設定できる。
(6) シリカ膜11fは、酸素プラズマクリーニング、オゾン水洗浄、過酸化水素水洗浄、UVオゾン洗浄などにより、表面を清浄化する。このとき、表面に親水基が高密度で存在できるよう配慮する。パリレン膜11fの場合、本作業および(7)作業は必要としない。
(7) 疎水化処理剤、例えばシランカップリング剤にマイクロウェルアレイチップ表面を暴露することで、チップ表面を疎水化する。シランカップリング剤は、例えばHMDS(ヘキサメチルジシラザン)を選択することができる。
【0075】
実施例6
磁性膜の効果の確認
(1)磁気ビーズによる細胞の標識
2x106個のマウスBリンパ球に終濃度5μg/mLのビオチン化抗マウスB220抗体を添加して4℃で15分間静置した。PBSで2回洗浄し、不要な抗体を除去した。次に、表面がビオチン化されたマウスBリンパ球に5μLのストレプトアビジンが固定化された直径250nmの磁気ビーズ(Micromod社、粒子度2.5〜3.0 g/cm3)を添加して室温で30分間転倒混和した。さらに、生細胞の蛍光染色剤であるCellTrace Oregon Green 488(invitrogen社)を終濃度1μg/mLで添加して室温で5分間静置し、細胞を蛍光染色した。PBSで2回洗浄し、不要な蛍光染色剤を除去して、磁気標識および蛍光染色されたマウスBリンパ球を得た。
【0076】
(2)細胞の収容
本発明によるマイクロウェルアレイチップは磁性膜のあるもの(実施例2)とないもの(実施例2より磁性膜形成を省いたもの)を用意した。マイクロウェルの寸法は、開口径10ミクロン、深さ12ミクロンである。表面をブロッキングするため、PBSで1/500希釈したLipidure-BL203(5wt%、日本油脂株式会社)を添加した。真空ポンプを利用して減圧することによりチップ表面およびマイクロウェル内に溶液を満たした後、室温で15分間静置した。PBSで洗浄し、余分なブロッキング剤を除去した。各マイクロウェルアレイチップをネオジム磁石(磁束密度500mT)の上に設置し、ウェル数と同数の(1)の細胞を添加して2分間静置した。蛍光顕微鏡(オリンパス株式会社)にてOregon Green 488の蛍光を観察した。
結果、図12に示すように、磁性膜がない場合、細胞は散在しているが、磁性膜がある場合、細胞は整然と並んでおりマイクロウェル内に強制的に収容されていることが確認できた。
【0077】
実施例7
細胞利用率の比較
(1)磁気ビーズによる細胞の標識
ヒト末梢血Bリンパ球をサイトカイン等により刺激し、抗体を分泌するよう分化させた細胞にビオチン化抗ヒトCD38抗体(Milteny Biotec社)を結合させた。次に、細胞表面がビオチン標識されたヒトBリンパ球にストレプトアビジンが固定された直径250nmの磁気ビーズを5μL添加して室温で30分間転倒混和した。さらに、生細胞の蛍光染色剤であるCellTrace Oregon Green 488を終濃度1μg/mLで添加して室温で5分間静置し、細胞を蛍光染色した。PBSで2回洗浄し、不要な蛍光染色剤を除去して、磁気標識および蛍光染色されたヒトBリンパ球を得た。
(2)細胞の収容
シリコン製のマイクロウェルアレイチップ(開口径15ミクロン、深さ17ミクロン)と本発明によるマイクロウェルアレイチップ(実施例2による:開口径15ミクロン、深さ17ミクロン)の表面をブロッキングするため、PBSで1/500希釈したLipidure-BL203を添加した。真空ポンプを利用して減圧することによりチップ表面およびマイクロウェル内に溶液を満たした後、室温で15分間静置した。PBSで洗浄し、余分なブロッキング剤を除去した。シリコン製のマイクロウェルアレイチップにはウェル数の4倍の磁気標識していないヒトリンパ球細胞を添加し、5分間静置した。さらにピペットにより穏やかに撹拌し、5分間静置することを2回繰り返した。本発明によるマイクロウェルアレイチップはネオジム磁石の上に設置し、ウェル数の0.65倍の(1)の細胞を添加して2分間静置した。さらにピペットにより穏やかに撹拌し、2分間静置することを2回繰り返した。次に、各マイクロウェルアレイチップのウェルに収容されなかった余分な細胞をPBSで洗浄し、蛍光顕微鏡にてOregon Green 488蛍光を観察した。
図13にウェル数25x25個の4つクラスタに細胞が収容された様子と各クラスタへの細胞の収容率を示した。結果、細胞の収容率は、シリコン製マイクロウェルアレイチップでは平均50.2%、本発明によるマイクロウェルアレイチップでは平均66.6%であった。さらに、使用した細胞数に対する収容された細胞数の割合を利用率と定義して算出すると、シリコン製マイクロウェルアレイチップでは平均11.8%、本発明によるマイクロウェルアレイチップでは平均92.7%であった。本発明では使用した細胞のほとんどをマイクロウェルに収容できることが確認できた。
【0078】
実施例8
分泌IgG抗体の検出像の比較
(1)磁気ビーズによる細胞の標識
ヒト末梢血Bリンパ球をサイトカイン等により刺激し、抗体を分泌するよう分化させた細胞にビオチン化抗ヒトCD38抗体を結合させた。次に、細胞表面がビオチン標識された2x106個のヒトBリンパ球にストレプトアビジンが固定された直径250nmの磁気ビーズを5μL添加して室温で30分間転倒混和した。さらに、細胞表面の膜型IgG抗体をブロッキングするため、ヤギ抗ヒトIgG抗体(Cappel社)を終濃度10μg/mLで添加して4℃で15分間静置した。PBSで2回洗浄し、不要な抗体を除去して、磁気標識されたヒトBリンパ球を得た。
【0079】
(2)細胞の収容
PBSで希釈した10μg/mLのヤギ抗ヒトIgG抗体をシリコン製のマイクロウェルアレイチップ(開口径15ミクロン、深さ17ミクロン)と本発明によるマイクロウェルアレイチップ(実施例2による:開口径15ミクロン、深さ17ミクロン)の表面に添加し、室温で2時間静置して表面にヒトIgG抗体を捕捉するための抗体をコートした。次に、表面をブロッキングするため、PBSで1/500希釈したLipidure-BL203を添加した。真空ポンプを利用して減圧することによりチップ表面およびマイクロウェル内に溶液を満たした後、室温で15分間静置した。10%FBSを含むRPMI1640培地で洗浄し、余分なブロッキング剤を除去した。シリコン製のマイクロウェルアレイチップと本発明によるマイクロウェルアレイチップに(1)の細胞をそれぞれ重力沈降と磁気吸引により収容した後、ウェルに収容されなかった余分な細胞を、10%FBSを含むRPMI1640培地で洗浄した。
【0080】
(3)分泌IgG抗体の検出
(2)の各マイクロアレイチップに10%FBSを含むRPMI1640培地を満たし、37℃、5%CO2のインキュベーター内で3時間静置した。この間、磁界はかけていない。培養終了後、培地を除去してPBSで洗浄した。細胞から分泌され、表面に捕捉されたヒトIgG抗体を検出するため、PBSで1/1000希釈したCy3標識抗ヒトIgG抗体(Chemicon社)を添加し、室温で30分間静置した。余分な蛍光標識抗体をPBSで洗浄し、蛍光顕微鏡にてCy3蛍光を観察した。
結果、図14に示すように検出像に差異はなく、本発明ではシリコン製のマイクロウェルアレイチップと同様に特定の物質を分泌する細胞をスクリーニングできることが確認できた。
【0081】
実施例9
抗原特異的IgG抗体分泌細胞の取得
(1)磁気ビーズによる細胞の標識
ヒト末梢血Bリンパ球をサイトカイン等により刺激し、抗体を分泌するよう分化させた細胞にビオチン化抗ヒトCD38抗体を結合させた。次に、細胞表面がビオチン標識されたヒトBリンパ球に5μLのストレプトアビジンが固定された直径250nmの磁気ビーズを添加して室温で30分間転倒混和した。さらに、細胞表面の膜型抗体をブロッキングするため、ヤギ抗ヒトIgG抗体(Cappel社)を終濃度10μg/mLで添加して4℃で15分間静置した。PBSで2回洗浄し、不要な抗体を除去して、磁気標識されたヒトBリンパ球を得た。
【0082】
(2)細胞の収容
PBSで希釈した10μg/mLのインフルエンザウイルスHA抗原(Sino Biological社)をシリコン製のマイクロウェルアレイチップ(開口径15ミクロン、深さ17ミクロン)と本発明によるマイクロウェルアレイチップ(実施例2による:開口径15ミクロン、深さ17ミクロン)の表面に添加し、室温で2時間静置して表面に抗原をコートした。次に、表面をブロッキングするため、PBSで1/500希釈したLipidure-BL203を添加した。真空ポンプを利用して減圧することによりチップ表面およびマイクロウェル内に溶液を満たした後、室温で15分間静置した。10%FBSを含むRPMI1640培地で洗浄し、余分なブロッキング剤を除去した。ネオジム磁石上に設置した本発明によるマイクロウェルアレイチップに(1)の細胞を添加し、磁気吸引により収容した後、ウェルに収容されなかった余分な細胞を、10%FBSを含むRPMI1640培地で洗浄した。
【0083】
(3)分泌IgG抗体の検出
(2)の各マイクロアレイチップに10%FBSを含むRPMI1640培地を満たし、37℃、5%CO2のインキュベーター内で3時間静置した。この間、磁界はかけていない。培養終了後、培地を除去してPBSで洗浄した。細胞から分泌され、表面にコートされた抗原に結合した抗原特異的なIgG抗体を検出するため、PBSで1/1000希釈したCy3標識抗ヒトIgG抗体を添加し、室温で30分間静置した。余分な蛍光標識抗体をPBSで洗浄し、蛍光顕微鏡にてCy3蛍光を観察した。
【0084】
(4)単一細胞の回収
蛍光顕微鏡下でHA抗原特異的IgG抗体のCy3蛍光および生細胞のOregon Green 488蛍光を観察し、マイクロマニピュレーター(eppendorf)により目的の抗体分泌細胞を回収した。細胞回収前後の様子を図15に示した。Cy3蛍光は赤色で、Oregon Green 488蛍光は緑色で表示した。細胞を回収したウェルに矢印をつけた。
(5)抗体の発現
回収した細胞からRT-PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction)により抗体遺伝子可変領域を増幅し、抗体遺伝子定常領域を含む発現ベクターに組込んだ。CHO-S細胞(invitrogen社)に抗体遺伝子を導入し、培養上清に発現した抗体がHA抗原に結合するIgG抗体であるかELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)によって検査した。ヒトIgG抗体の検出はペルオキシダーゼ標識抗体によって行い、ペルオキシダーゼの発色基質はOPD(o-phenylenediamine dihydrochloride,測定波長492nm)を使用した。
図16Aに培養上清中のヒトIgG抗体を定量したELISAの結果を、図16BにHA抗原に結合した培養上清中のIgG抗体を検出したELISAの結果を示した。取得した抗体がHA抗原に特異的に結合する抗体であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、細胞を扱う技術分野において有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロウェルアレイチップおよびこのチップへの細胞の収納方法、このチップを用いる細胞の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明者は、これまでシリコン型細胞チップを開発し、すでにその製造方法および抗体スクリーニングシステムにおける特許を取得している(特許文献1、2)。
【0003】
特許文献1に記載の発明は、基板の一方の主表面に複数個のマイクロウェルを有し、前記マイクロウェルは、1つのマイクロウェルに1つの生体細胞のみが収容される形状及び寸法を有し、かつ底面を有するシリコン製のマイクロウェルアレイチップであって、前記マイクロウェルの側壁を含む内面がフロロカーボン膜で被覆されており、かつ1個のマイクロウェルに収容した1個の生体細胞がマイクロウェルから回収されるように用いられる、マイクロウェルアレイチップである(請求項1)。
【0004】
一方、特許文献3には、裏側に磁石が配置され、基板上に磁気ビーズを配置することができる構造を有する細胞固定化基板およびこの基板を用いた細胞の基板への固定化方法が記載されている。請求項1に記載の細胞固定化基板は、基板の任意の特定位置に細胞が固定化されている細胞固定化基板であって、基板の近傍に磁石が配置され、前記磁石により細胞と結合する磁気ビーズが基板に固定され、そして、この磁気ビーズを介して、細胞は分離が自在に基板の任意の特定位置で固定化されているものである。請求項11に記載の細胞固定化方法は、基板の任意の特定位置に細胞を固定化する細胞固定化方法であって、(1)基板の近傍に磁石を配置して、前記磁石により細胞と結合する磁気ビーズを基板に固定化するステップ;(2)細胞を播種して、前記磁気ビーズに細胞を結合させるステップ;および(3)前記磁気ビーズを介して、磁力で基板の任意の特定位置に細胞を固定化するステップ;を含むものである。
【0005】
特許文献4および非特許文献1には、磁気ポールによってその頂上に細胞を固定する方法が提案されている。特許文献4の請求項62には、液体媒体から目的生物粒子の収集方法が記載され、目的生物粒子と結合する外表面を有する磁気応答性タグを上記液体媒体に分散し、次いでこの媒体に磁場を加えて、磁気応答性タグの流れを生じさせ、次いで磁気ポールを有するカートリッジを上記媒体に置き、目的粒子を収集する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4069171号
【特許文献2】特許第4148367号
【特許文献3】特開2006−6281
【特許文献4】WO 01/87458
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“Cell culture arrays using magnetic force-based cell patterning for dynamic single cell analysis”, K.Ino et.al. , Lab on chip, 2008, 8, 134-142
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、今後の臨床における展開を考慮するとシリコン型チップの性能では不十分であることがわかってきた。特許文献1に記載のマイクロウェルアレイチップは、ターゲットとする細胞を効率よくマイクロウェルに収容する機能を有しておらず、重力による細胞の沈降のみにより細胞をマイクロウェルに収容するものである。1回の細胞の播種における細胞の利用率は10%以下であった。そのため、サンプル中に含まれる細胞を効率的に利用できないという課題があった。ウェルに入らなかった細胞を回収し3回程度繰り返し播種することで利用率を向上させる試みもなされている。しかし、この方法によると、細胞の鮮度が落ちる場合があり、また、より少ない採血が必要となる検査用途には応用できなかった。できるだけ少ない採血で患者に負担をかけず、短時間で効率よく細胞を収納できる細胞チップが望まれていた。
【0009】
特許文献3に記載の細胞固定化基板を用いる細胞の固定方法では、磁気ビーズは細胞と結合する機能を有するが、細胞が能動的に磁気ビーズに吸引される機能はない。但し、特許文献3に記載の細胞固定化基板は、特許文献1に記載のマイクロウェルアレイチップと異なり、1つのウェルまたは1つの基板上に1つの細胞を固定化するものではなく、細胞集団を固定化するものであるから、細胞利用効率の非効率という問題が生じる技術ではない。
【0010】
特許文献4に記載の方法によると、目的粒子としての細胞を磁気ポールに強制的に捕捉することが可能である。しかし、特許文献4に記載のカートリッジは、細胞を1つずつ正確に分離するものではない。磁気によって生体細胞を規則正しく固定化する方法が試されているものの、チップ上に播種した細胞を高い利用率で1細胞ずつ規則正しく配列し、なおかつそれを回収し、さらにチップ表面が抗体親和性に優れるものはなかった。
【0011】
特許文献2に記載の細胞スクリーニング法を効果的に利用しようとしたとき、チップ表面は抗体親和性に優れたものである必要がある。本手法によるスクリーニングは、チップ表面の抗体などのタンパク質に結合する蛍光標識付抗原などの蛍光を観察することにより行うため、チップ表面により多くの抗体などのタンパク質が結合することにより感度が向上するものである。しかしながら、例えばチップ基板材料であるシリコン、ガラス、樹脂などの表面は抗体などのタンパク質結合能が本手法に対して十分とはいえず、チップ表面に固定された物質を高感度で観察する必要があるシステムには適していない。
【0012】
そこで本発明の目的は、少量のサンプルで、短時間に効率よくサンプル中の細胞を収納でき、かつチップ表面の抗体などのタンパク質に結合する蛍光標識付抗原などの蛍光を観察することにより行う細胞のスクリーニングに用いるのに適した細胞チップを提供することにある。
【0013】
即ち、本発明の目的は、播種した細胞を高効率で強制的にマイクロウェルへ1細胞ずつ収容させることができ、さらにそれらを容易に蛍光観察系において回収でき、表面の抗体結合性の高いマイクロウェルアレイチップを提供することにある。
【0014】
さらに本発明の目的は上記マイクロウェルアレイチップを用いて、検体細胞を効率よく収容する方法、及び収容した細胞から、さらにチップ表面の抗体などのタンパク質に結合する蛍光標識付抗原などの蛍光を観察することにより目的細胞を特異的かつ効率的に特定し、回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは磁気を使った能動的な方法で細胞を効率よく収納し、かつチップ表面の抗体などのタンパク質に結合する蛍光標識付抗原などの蛍光を観察することにより行う細胞のスクリーニングを利用して目的細胞を回収できることを見出して本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、細胞の利用率は90%以上に向上し、従来のシリコンチップを大きく超える細胞スクリーニング性能を持つ細胞チップを提供できる。さらに本発明の細胞チップは、蛍光観察や細胞スクリーニングにも適したものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1に、25×25のマイクロウェルを1つのクラスタとして、そのクラスタが縦横に3個ずつ配列されたマイクロウェルアレイチップの平面図を示す。
【図2】図2に本発明のマイクロウェルアレイチップの一例の断面図を示す。
【図3】図3に磁性膜形状の例を示す。
【図4】図4に、マイクロウェルの底面に設けた磁性膜(マイクロウェル底面のみに局在)により、磁束をマイクロウェル内へ収束させることが可能であることを示す説明図である。
【図5】図5に蛍光標識付き抗体を表面に結合した結果を示す。
【図6】図6は従来方法によるスクリーニングと磁気ビーズ修飾/磁気吸引によるスクリーニングにより採取した細胞からの遺伝子増幅の比較結果(目的の抗体遺伝子のバンドに矢印)である。
【図7】図7に実施例1の製造方法例を示す。
【図8】図8に実施例2の製造方法例を示す。
【図9】図9に実施例3の製造方法例を示す。
【図10】図10に実施例4の製造方法例を示す。
【図11】図11に実施例5の製造方法例を示す。
【図12】図12は、実施例6における磁気吸引した細胞の検出結果である。
【図13】図13は、実施例7におけるシリコン製マイクロウェルアレイチップと本発明によるマイクロウェルアレイチップに細胞を収容したものである。
【図14】図14は、実施例8におけるシリコン製マイクロウェルアレイチップと本発明によるマイクロウェルアレイチップを用いてヒト末梢血リンパ球からIgG抗体分泌細胞を検出した結果ある。
【図15】図15には実施例9で検出した抗体分泌細胞を回収した例を示す。
【図16】図16Aは、実施例9における培養上清中のヒトIgG抗体を定量したELISAの結果を、図16Bは、実施例9におけるHA抗原に結合した培養上清中のIgG抗体を検出したELISAの結果を示した。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<マイクロウェルアレイチップ>
本発明のマイクロウェルアレイチップは、基板の少なくとも一方の主表面にマイクロウェル層を有し、
前記マイクロウェル層が有する複数のマイクロウェルは、1つのマイクロウェルに1つの生体細胞のみを収容する形状と寸法を有し、
前記マイクロウェルの底面の一部または全部に磁性膜を有し、前記磁性膜以外の磁性部材を有さず、
前記磁性膜の表面および前記マイクロウェル層の表面は、マイクロウェル層を構成する材料からの自家蛍光を抑える遮光膜およびシリカ膜またはパリレン膜からなる多層膜を有する。
【0019】
本発明のマイクロウェルアレイチップは、好ましくは、前記マイクロウェル層は感光性樹脂または熱可塑性樹脂からなる。
【0020】
本発明のマイクロウェルアレイチップは、好ましくは、前記基板と前記マイクロウェル層との間に下地電極層を有する。
【0021】
本発明のマイクロウェルアレイチップは、好ましくは、前記下地電極と前記マイクロウェル層との間に反射防止膜を有する。
【0022】
以下本発明のマイクロウェルアレイチップについて図面に基づいて説明する。
【0023】
<マイクロウェル層>
本発明のマイクロウェルアレイチップは、基板の少なくとも一方の主表面にマイクロウェル層を有する。マイクロウェル層は複数のマイクロウェルを有し、かつ各マイクロウェルは、1つのマイクロウェルに1つの生体細胞のみを収容する形状と寸法を有する。
【0024】
上記生体細胞は、例えば、リンパ球であることができ、本発明のマイクロウェルアレイチップは、例えば、抗原特異的リンパ球を1個単位で検出あるいは回収するために用いることができる。
【0025】
複数のマイクロウェルは同一間隔で縦横に配置されており、所定個数のマイクロウェル毎にマーカーが設けられていることが好ましい。さらに、所定個数のマイクロウェル毎にグループ分けして基板の主表面上に設けられることかもできる。例えば、図1に、25×25のマイクロウェルを1つのクラスタとして、そのクラスタが縦横に3個ずつ配列されたマイクロウェルアレイチップの平面図を示す。クラスタを構成するマイクロウェルの数やクラスタの配列数には特に制限はなく、例えば25×25ウェル/クラスタ、10×10クラスタであることができる。
【0026】
1つのマイクロウェルのグループを構成するマイクロウェルの数には特に制限はないが、例えば、10〜10000の範囲であることができる。
【0027】
マイクロウェルの形状や寸法には特に制限はないが、マイクロウェルの形状は、例えば、円筒形であることができ、円筒形以外に、複数の面により構成される多面体(例えば、直方体、六角柱、八角柱等)、逆円錐形、逆角錐形(逆三角錐形、逆四角錐形、逆五角錐形、逆六角錐形、七角以上の逆多角錐形)等であることもでき、これらの形状の二つ以上を組み合わせた形状であることもできる。例えば、一部が円筒形であり、残りが逆円錐形であることができる。また、逆円錐形、逆角錐形の場合、底面がマイクロウェルの開口となるが、逆円錐形、逆角錐形の頂上から一部を切り取った形状である(その場合、マイクロウェルの底部は平坦になる)こともできる。円筒形、直方体は、マイクロウェルの底部は通常、平坦であるが、曲面(凸面や凹面)とすることもできる。マイクロウェルの底部を曲面とすることができるのは、逆円錐形、逆角錐形の頂上から一部を切り取った形状の場合も同様である。
【0028】
マイクロウェルの形状や寸法は、マイクロウェルに収容されるべき生体細胞の種類(生体細胞の形状や寸法等)を考慮して、1つのマイクロウェルに1つの生体細胞が収容されるように、適宜決定される。
【0029】
1つのマイクロウェルに1つの生体細胞が収容されるようにするためには、例えば、マイクロウェルの平面形状に内接する最大円の直径が、マイクロウェルに収容しようとする生体細胞の直径の0.5〜2倍の範囲、好ましくは0.8〜1.9倍の範囲、より好ましくは0.8〜1.8倍の範囲であることが適当である。
【0030】
また、マイクロウェルの深さは、マイクロウェルに収容しようとする生体細胞の直径の0.5〜4倍の範囲、好ましくは0.8〜1.9倍の範囲、より好ましくは0.8〜1.8倍の範囲であることが適当である。
【0031】
マイクロウェルが円筒形の場合、その寸法は、例えば、直径3〜100μmであることができ、生体細胞がBリンパ球の場合、好ましくは、直径は4〜15μmである。また、深さは、例えば、3〜100μmであることができ、生体細胞がBリンパ球の場合、好ましくは、深さは4〜40μmであることができる。但し、マイクロウェルの寸法は、上述のように、マイクロウェルに収容しようとする生体細胞の直径とのマイクロウェルの寸法の好適な比を考慮して適宜決定する。
【0032】
1つのマイクロウェルアレイチップが有するマイクロウェルの数は、特に制限はないが、生体細胞がリンパ球の場合、抗原特異的リンパ球の頻度が105個に1個から多い場合には約500個であるという観点から、1cm2当たり、例えば、2,000〜1,000,000個の範囲であることができる。
【0033】
本発明のマイクロウェルアレイチップの一例の断面図を図2に示す。基板は例えばガラスであることができ、樹脂などでもよい。樹脂基板は、例えばABS樹脂、ポリカーボネート、ポリプロピレン、FRP、アクリル、PVC、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル、PET、PENなどが挙げられる。
【0034】
マイクロウェル層は、例えば、樹脂により作製されることができ、樹脂としては、例えば、光感光性樹脂あるいは熱可塑性樹脂などが利用できる。光感光性樹脂あるいは熱可塑性樹脂としては、例えば、ノボラック樹脂、ポリビニールフェノール系樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、メタクリル酸メチル樹脂などのポリマーをベースとするフォトレジスト、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂などを挙げることができる。
【0035】
<磁性膜>
マイクロウェルは、その底面の一部または全部に磁性膜を有する。さらに、本発明のマイクロウェルアレイチップは、前記磁性膜以外の磁性部材を有さない。磁性膜形状は特に制限はない。図3に磁性膜形状の例を示す。円や多角形など様々な形状をとることができる。ウェル底面の形状に必ずしもあわせる必要はなく、膜のない領域を作成することで、主表面反対側からウェル内での反応を観察することも可能である。
【0036】
磁性膜は磁性材料により構成され、磁性材料としては、例えば、ニッケルおよびフェライトやコバルト系などの強磁性体を挙げることができる。磁性材料の具体例は後述する。磁性膜の膜厚は、磁性膜に求められる磁力に応じて適宜決定できるが、例えば、0.1〜5μmの範囲である。これら磁性膜は、例えばめっきにより作製することができる。めっき方法は、電気めっき、無電解めっきが挙げられる。電気めっきの場合は、電極となる下地電極が必要であり、無電解めっきの場合は必要ではない。形成された磁性膜を磁界にいれることにより、磁性膜中の磁束密度が高くなる。磁界は、いわゆる永久磁石と呼ばれるものでサマリウムコバルト、ネオジム等や電磁石により形成される。
【0037】
上記のように、磁性膜を電気めっきで作製する場合には、本発明のマイクロウェルアレイチップは、少なくとも基板と磁性膜の間に下地電極を有する。下地電極は、基板と磁性膜の間のみならず、マイクロウェル層と基板にも設けることができる。下地電極は、磁性膜を電気めっき工程で作製する際に利用され、蒸着あるいは無電解めっきなどにより形成される。下地電極の膜厚は、特に限定はないが、例えば、50nm以上300nm以下の範囲であり、さらに80nm以上150nm以下であることが好ましい。なお、磁性膜形成に無電解めっき工程を利用する場合は、下地電極は不要である。
【0038】
本発明のマイクロウェルアレイチップは、上記下地電極または磁性膜の基板とは反対側に反射防止膜を有することができる。反射防止膜とは、金属面などの表面において入射光に対し生じる反射光を軽減し、透過率を向上させる目的で利用される。金属面が下地電極面の例では、下地電極であるクロム膜上に形成される酸化クロム膜が反射防止膜となる。クロム膜と酸化クロム膜はスパッタ蒸着などによって形成されるが、単層のクロム膜を425℃の空気雰囲気中で2時間熱処理することで酸化クロム膜を形成する方法を選択できる。
【0039】
<多層膜>
磁性膜の表面およびマイクロウェル層の表面は、マイクロウェル層を構成する材料からの自家蛍光を抑える遮光膜およびシリカ膜またはパリレン膜からなる多層膜を有する。
【0040】
まず、マイクロウェル層が有するマイクロウェルをコンフォーマルに取り囲むようにした遮光膜を有する。これは、下地の樹脂(基板およびマイクロウェル層)からの自家蛍光を抑制するものであり、本マイクロウェルアレイチップを蛍光顕微鏡などにより観察する際に、バックグラウンドなどにより観察が阻害されるのを防止する。遮光膜は生体に無害である材料が好ましく、例えばシリコンであることができる。遮光膜は、蒸着などにより形成され、1材料による単層膜あるいは2種類以上の材料によって構成される多層膜でもよい。
【0041】
遮光膜の上に、シリカ膜またはパリレン膜を設ける。これによってマイクロウェルアレイチップの最表面はシリカ膜またはパリレン膜により覆われることになる。シリカ膜およびパリレン膜の具体例は後述する。シリカ膜は、一般的に親水性を示すといわれており、シランカップリング処理などを施すことによって表面の親水基と疎水基が置換され、疎水表面が得られる。またパリレン膜は、生体適合性に優れた材料で、埋め込み型医療器具などの表面コーティングに用いられ、表面は疎水性となっている。疎水表面は、抗体などのタンパクが結合しやすい表面であり、本発明によるマイクロウェルアレイチップは、表面のタンパク結合性に優れた表面を有している。
【0042】
本発明のマイクロウェルアレイチップの製造方法について説明をする。ここでは、ガラス基板により作製される製造方法について記述する。
(1) ガラス基板の主表面上に下地電極を蒸着あるいはめっきなどにより形成する。下地電極は、クロム、ニッケルなどの金属、あるいはITO、ZnOなどの透明電極材料あるいはポリアセチレン、ポリアニリン、ポリチオフェンなどの導電性高分子膜などの透明電極材料などガラスと密着性のよい材料を選択する。
(2) 感光性樹脂例えば東京応化工業株式会社ネガレジストPMER N-CA3000PMなどをスピンコートなどにより塗布する。
(3) この感光性樹脂をフォトリソグラフィにてマイクロウェルを形成する。対応する樹脂があれば、ナノインプリント技術を用いて形成しても同じ結果が得られる。
(4) マイクロウェルから露出した下地電極上に電気めっきなどにて、磁性膜を成膜する。磁性膜は、例えばニッケル膜であり、スルファミン酸ニッケル浴などによって形成する。
(5) スパッタ法などにより、シリコンを成膜、その後シリカ膜を成膜する。あるいはシリコンを成膜、パリレン膜を成膜する。膜厚は、それぞれ0.1ミクロン以上であり、用途、樹脂材料により適宜設定できる。
(6) 酸素プラズマクリーニング、オゾン水洗浄、過酸化水素水洗浄、UVオゾン洗浄などにより、表面を清浄化する。このとき、表面に親水基が高密度で存在できるよる配慮する。
(7) 疎水化処理剤、例えばシランカップリング剤に表面を暴露することで、チップ表面を疎水化する。シランカップリング剤は、例えばHMDS(ヘキサメチルジシラザン)を選択することができる。
【0043】
(1)磁性層のめっき
[電気めっき方法]
Ni-P、Ni-B、Co-Ni-P、Co-P系合金、Ni-Fe系合金、Co-Ni-Fe系合金などの電気めっき膜は、磁気特性としては強磁性をしめす。しかしリンを含む例えば8%以上のニッケルめっき膜は、非磁性であり、磁性を発生させるためには熱処理などが必要となるため本発明には最適な手法ではない。
【0044】
例えばニッケル電気めっきは、内部応力の少ないスルファミン酸ニッケル浴にて行われる。そのほかには、硫酸ニッケルを主成分とするワット浴、塩化ニッケルを主成分とするウッド浴などが使われる。以下にスルファミン酸ニッケル浴による本発明における磁性膜の形成方法の概略を示す。
A) サンプルを脱脂処理する。
B) スルファミン酸ニッケル浴を約50℃に暖め、陽極としてニッケル板、陰極として発明品サンプルを浴内に浸漬させる。
C) 約1〜100mAの電流を電極間に10秒から60分程度流す。
D) サンプルを浴から取り出し、水で洗浄を行う。
E) めっき厚は、0.5ミクロンから5ミクロンであり、好ましくは1ミクロンから3ミクロンの間とする。
ニッケル電気めっき法には、他にワット浴なども使用される。
【0045】
[無電解めっき]
無電解めっきによっても磁性膜が形成可能である。例えばNi-P、Ni-B、Co-Ni-P、Co-P系合金、Ni-Fe系合金、Co-Ni-Fe系合金などが挙げられる。Ni-Pの場合、Pの含有量が8%以上では析出状態では非磁性となってしまう。ただし、300℃以上の熱処理を行うと高いPの含有においても磁化される。無電解ニッケルめっき膜は、例えば硫酸ニッケルと次亜リン酸ナトリウムの浴で作製することが可能である。無電解めっきによるとガラスや樹脂基板に直接めっきを行うことが可能である。
【0046】
<反射防止膜の形成>
反射防止膜は、前述のように下地電極または磁性膜の表面において入射光に対し生じる反射光を軽減し、透過率を向上させる目的で利用される。反射防止膜の形成は、下地電極面上に設ける場合には、上記工程(1)と(2)の間に行う。この場合、下地電極となるクロム膜上に形成される酸化クロム膜が反射防止膜となる。クロム膜と酸化クロム膜はスパッタ蒸着などによって形成されるが、単層のクロム膜を425℃の空気雰囲気中で2時間熱処理することで酸化クロム膜を形成する方法を選択できる。
【0047】
光硬化性樹脂を用いてフォトリソグラフィ工程を行う場合、パターンが描かれたフォトマスクを通過した光が、基板表面の金属膜で乱反射し、本来硬化させたくないマスク下の光硬化性樹脂までも露光してしまうことがある。本現象は樹脂の膜厚、露光時間、現像時間を精密に管理することで制御が可能である。しかし、製造工程におけるばらつきを考慮した場合、乱反射による形状異常は極力避ける必要がある。このとき、基板上の金属膜に反射防止膜を形成することで、入射した光のほとんどは基板下へ透過するため上記現象は抑制可能である。さらに、樹脂最表面に金属膜を有する場合、基板表面の金属膜間で多重反射が生じるため、チップ使用時の光学的観察を行う場合において本反射防止膜を有することで抑制することが可能である。ここで例えば金属薄膜はクロム膜であり、反射防止膜は酸化クロム膜が選択できる。また、スピンコートによる塗布型の反射防止膜も利用することができる。例えば日産化学工業株式会社反射防止コーティング剤XHRiCを塗布してもよい。
【0048】
<パリレン膜の形成>
パリレンはパラキシレンの重合体であるポリパラキシリレンである。パリレン膜は、原料であるジパラキリレレンモノマーを蒸発させ、それをさらに熱分解によってラジカルパラキシリレンを生成し、目的のサンプル上でポリパラキシリレンの重合膜として形成される。本材料の特徴として、コンフォーマルな成膜が可能で、ピンホールもなく、疎水性の表面をもつことなどがある。0.2〜1ミクロン程度の膜を形成することで十分な性能が得られる。医療機器に利用される際に問題となる生体への毒性はほとんどなく、アメリカ薬局方(USP)によって定義されているUSPプラスチック・クラスVI試験の生物学的用件を満たしている。表面が疎水性であることから、タンパクとの結合性も良好で、抗体などの結合性能も優れている。本発明においても、蛍光標識付抗体によって、その結合能を確認した。
【0049】
<シリカ膜の形成>
シリカとは、金属シリコンと酸素が結合した二酸化ケイ素あるいは、それを主成分に構成される材料のことである。成膜は、スパッタ蒸着、ポリシラザンなどを用いるコーティングなどにより行われる。スパッタ蒸着では、おもにSiO2ターゲットを利用して成膜する方法がとられる。またポリシラザンは、例えばクラリアント社アクアミカがあり、溶液中のパーヒドロポリシラザンが空気中の水分と反応してシリカガラスに転化する。
【0050】
このようにして成膜されたシリカ膜表面は親水性を示し、さらに酸素プラズマ洗浄、オゾン洗浄、オゾン水洗浄を行うことにより、表面にさらに官能基ヒドロキシル基(OH基)が多く生成されることから超親水性を示す。HMDSなどのシランカップリング剤は、基板表面のヒドロキシル基と置換することで、基板を疎水性とする。疎水性表面はタンパクなどの結合性が高いことから、シリカ膜を成膜することで高い抗体結合能が得られる。
【0051】
本発明のマイクロウェルアレイチップの磁性層は磁化することで、磁気修飾した細胞を含む生体試料を吸引、収容することが可能で、さらにそれを回収することが可能である。
【0052】
<検体細胞をマイクロウェルに収容する方法>
本発明は上記本発明のマイクロウェルアレイの少なくとも一部のマイクロウェルに、検体細胞を収容する方法を包含する。この方法は、
前記検体細胞に磁気ビーズを取り付ける工程、および
磁気ビーズを取り付けた検体細胞をマイクロウェルアレイチップのマイクロウェル層の表面に供給して、1つのマイクロウェルに1つの細胞を収容する工程、
を含む。
【0053】
前記検体細胞に磁気ビーズを取り付ける方法は、公知の方法を適宜利用できる。例えば、細胞表面に存在する分子、例えば表面抗原等に特異的に結合する抗体を介して検体細胞に磁気ビーズを結合させる方法が知られている。検体細胞とその表面分子に特異的な抗体を固定化した磁気ビーズを接触させることにより磁気ビーズを結合させた細胞を得ることができる。また、任意の標識分子を結合させた抗体を検体細胞の表面分子に結合させ、次いで標識物質に結合する分子を固定化した磁気ビーズと接触させることにより検体細胞を間接的に磁気標識することができる。抗体の標識分子とそれに結合する磁気ビーズに固定化された分子は特異的に結合する組み合わせであればよく、ビオチンとストレプトアビジンの組み合わせ等が挙げられる。また、抗体の代わりに細胞表面の受容体のリガンドを結合させた磁気ビーズを用い、目的細胞表面の受容体に結合させることにより磁気ビーズを結合させることもできる。さらには、磁気ビーズを細胞に貪食させることで、細胞表面ではなく細胞内に磁気ビーズを導入することで、細胞を磁気ビーズで標識することも可能である。使用する磁気ビーズは直径10nm〜10μmを使用することができる。磁気ビーズの粒子形状は球状やクラスタ状であることができる。
【0054】
表面抗原としては、ヒトBリンパ球であればCD19、CD20、CD21、CD23等、ヒト形質細胞であればCD38、CD138、ヒトTリンパ球であればCD2、CD3などが利用できる。また、細胞表面のリガンドとしては、Bリンパ球の抗原受容体として機能する細胞表面の抗体のリガンドである抗原、Tリンパ球の抗原受容体のリガンドであるMHC/peptide等をあげることができる。
【0055】
検体細胞に磁気ビーズを取り付け、その磁気ビーズを磁気吸引することで1つのマイクロウェルに1つの検体細胞を収容することが可能である。これにより、例えば、抗原特異的リンパ球などの検体細胞をマイクロウェルに容易に収容することができ、かつマイクロウェルに収容した検体細胞を検体細胞に予め付与しておいた標識を用いて容易に目的とする細胞を選別可能である。
【0056】
上記磁気ビーズを取り付けた検体細胞をマイクロウェルアレイチップのマイクロウェル層の表面に供給して、1つのマイクロウェルに1つの細胞を収容する。磁気ビーズを取り付けた検体細胞は、例えば、緩衝液または培養液に分散された状態で、マイクロウェル層の表面に供給される。上記分散液中の検体細胞の濃度は、マイクロウェルへの収容がスムーズであるとの観点からは、例えば、ウェル数の0.5〜1.5倍の範囲であることが適当である。磁気ビーズを取り付けた検体細胞のマイクロウェル層表面への供給操作は、室温で実施することもできるが、冷却下または加温下で実施することもできる。さらに、磁気ビーズを取り付けた検体細胞のマイクロウェル層表面への供給操作の際に、マイクロウェルアレイチップを静置してもよくまたは適度な振動を加えてもよい。
【0057】
本発明のマイクロウェルアレイチップは磁性層を有するため、磁気ビーズを取り付けた検体細胞が、マイクロウェル底部の磁性層に引きつけられて、検体細胞のマイクロウェルへの収容が促進される。検体細胞のマイクロウェルへの収容を促進するという観点からは、磁性層が有する表面磁束密度は100mT〜500mT程度であることが好ましい。また、磁性層の表面磁束密度が前記範囲に満たない場合には、外部の磁石を併用することか好ましい。磁性層の表面磁束密度が前記範囲を満足する場合でも外部の磁石を併用することはできる。外部の磁石は、マイクロウェルアレイチップの底面の少なくともマイクロウェルアレイが存在する部分を全面または部分的にカバーするものであることが適当である。外部の磁石は、マイクロウェル底部の磁性層に引きつけられて、磁気ビーズを取り付けた検体細胞のマイクロウェルへの収容が促進されるという観点からは、表面磁束密度は100mT〜800mT程度であることが好ましい。
【0058】
検体細胞には、特に限定はないが、例えばリンパ球などの免疫細胞、ガン細胞、ハイブリドーマ、細胞株であり、これら生体細胞を1個単位で検出するために用いられるものである。検体細胞は、抗原特異的リンパ球を含む細胞集団であることができる。
【0059】
<目的細胞の回収方法>
本発明は、上記方法でマイクロウェルに収容した目的細胞を特定し、特定した目的細胞をウェルから回収することを含む目的細胞の回収方法も包含する。
【0060】
目的細胞は、特に限定はないが、例えば、特異的免疫グロブリン産生細胞または特異的サイトカイン産生細胞などの免疫細胞であることができる。
【0061】
マイクロウェルに収容した目的細胞の特定方法は、特に限定はないが、例えば、目的細胞に特異的に標識した蛍光標識を用いて行うことができる。あるいは、マイクロウェルに収容した目的細胞の特定は、特許文献2に記載の抗原特異的抗体分泌細胞等の免疫細胞の検出(スクリーニング)方法であることができる。
【0062】
即ち、本発明のマイクロウェルアレイチップのウェルの周辺の前記主表面の少なくとも一部に、目的細胞が産生する物質の少なくとも一部と結合性を有する物質の被覆層を設け、このマイクロウェルアレイチップのウェルに検体細胞を細胞の培養液とともに収容し、
前記被覆層およびウェルを培養液に浸漬して、培養液に含まれる物質のウェルから前記被覆層への拡散が可能な状態で細胞を培養し、
培養液を除去した後に、検体細胞に含まれる目的細胞によって産生される物質に特異的に結合する標識物質、又は、目的細胞によって産生される物質と結合性を有する物質の被覆層に特異的に結合する標識物質を、前記被覆層に供給し、
前記被覆層の物質に結合した、目的細胞によって産生された物質を、前記標識物質により検出して、目的細胞を特定することにより、目的細胞をスクリーニングする。
【0063】
結合性物質を被覆した表面は、被覆量によっては、結合性物質が緻密に被覆されず、未被覆の表面が存在する場合がある。その場合、細胞が産生した物質が基板の表面に非特異的に結合する場合がある。このような非特異的結合は、検出の感度の精度を低下させる原因となる。そこで、本発明では、ウェルに収容される細胞が産生する物質の少なくとも一部と結合性を有する物質の被覆層を有さない前記主表面の少なくとも一部は、ブロッキング剤でコートされていることが好ましい。ブロッキング剤としては、例えば、細胞膜を構成するホスファチジルコリンの極性基と同一の構造をもつ2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)を構成単位とする水溶性ポリマーLIPIDURE(登録商標)(リピジュア(登録商標))を挙げることができる。
【0064】
特定した目的細胞はウェルから回収する。目的細胞のウェルからの回収は、例えば、以下のように実施できる。
磁性膜を磁界から外し、マイクロマニピュレータによりガラスキャピラリ内に目的細胞を緩衝液または培養液と共に吸引し、任意の容器へ吐出することにより回収できる。
【0065】
本発明では、さらに、回収した目的細胞から、抗原特異的免疫グロブリン遺伝子のmRNAを回収し、抗体cDNAを発現させ、抗原特異的抗体タンパク質を作製することができる。また、サイトカインを産生した細胞よりその細胞が発現しているT細胞受容体遺伝子のmRNAを回収し、T細胞受容体cDNAを回収し、それを別の細胞に導入することによりT細胞受容体タンパク質を発現させることができる。
【0066】
本発明のマイクロウェルアレイチップは、図4に示すようにマイクロウェルの底面には、磁性膜を有している。本磁性膜はマイクロウェル底面のみに局在することで、磁束をマイクロウェル内へ収束させることが可能である。その大きさは、マイクロウェルの開口とほぼ同等であり、マイクロウェル1つにつき1つ以上の磁性スポットパターンにより構成される。その形状は円あるいは多角形あるいはそれらの複数の組み合わせであることができる。本磁性膜によって磁束をマイクロウェルに収束させることによって、磁気ビーズによって修飾された生体細胞は、マイクロウェル内に吸引され、収納される。これにより、チップ上に播種された生体細胞はほぼ1つのマイクロウェルに1細胞が収納されるが、仮に収納されるチップ表面に浮遊している場合は、洗浄作業を行う。洗浄の際も細胞はマイクロウェル底の磁性膜に安定して吸引されているため、ウェルから抜け出すことはない。さらに外部からの磁界を取り除くことによって、マイクロウェルに収容された細胞は容易に回収することも可能である。
【0067】
本発明のマイクロウェルアレイチップは最表面にシリカ膜またはパリレン膜を有するために、表面のタンパク質結合性が優れる。このことを示すために、図5に蛍光標識付き抗体を表面に結合した結果を示す。図5(a)は、本発明によるチップから、最表面のシリカ膜を取り除いたマイクロウェルアレイチップに蛍光標識抗体を結合させたものについての蛍光画像である。また図5(b)は、本発明により製造したシリカ膜付マイクロウェルアレイチップに蛍光標識抗体を結合させたものについての蛍光画像である。さらに図5(c)は、本発明により製造したパリレン膜付マイクロウェルアレイチップに蛍光標識抗体を結合させたものについての蛍光画像である。なお三者ともに、表面に蛍光標識付抗体をのせ、室温で30分間静止放置し、PBS(Phosphate-Buffered Saline)にて洗浄をおこなった後の画像である。これらを比較すると本発明によりシリカ膜やパリレン膜を成膜したマイクロウェルアレイチップは、シリカ膜のないチップよりも蛍光が明るく、より多くの抗体が結合することが確かめられた。本実験結果より、表面にシリカ膜あるいはパリレン膜を有する構造が抗体などのタンパク質を結合しやすくしていることがわかる。そのため、特許文献2に記載の抗原特異的抗体分泌細胞等の免疫細胞の検出方法を利用する目的細胞の特定に非常に有利である。
【0068】
図6は、本発明のマイクロウェルアレイチップを用いて回収した抗体産生細胞の抗体遺伝子可変領域の増幅結果である。磁気ビーズを取り付けずに重力沈降で収容した細胞と同程度の遺伝子増幅効率であることから、本発明を用いて回収した細胞への悪影響等がないことが確認できた。
【実施例】
【0069】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0070】
実施例1
図7に製造方法例を示す。
(1) 基板、例えばガラス基板7aの主表面上に下地電極7bを蒸着あるいは無電解めっきなどにより形成する。下地電極は、クロム、ニッケルなどガラスと密着性のよい材料を選択する。また、非磁性材料であることが好ましい。
(2) 感光性樹脂7c例えば東京応化工業株式会社ネガレジストPMER N-CA3000PMなどを下地電極7b上にスピンコートなどにより塗布する。この感光性樹脂7cにフォトリソグラフィにてマイクロウェル7dを形成する。あるいは、ナノインプリント技術を用いて形成しても同じ結果が得られる。
(3) 電気めっき法によりマイクロウェル7dの底に露出した下地電極7bに磁性膜7eを作製する。磁性膜は、例えばニッケル膜であり、スルファミン酸ニッケル浴などによって形成する。
(4) スパッタ法などにより、シリコン膜7fを成膜する。膜厚は、0.1ミクロン以上であり、用途により適宜設定できる。また、シリコン膜の代わりにステンレス鋼、チタン、チタン合金、アパタイトなども選択できるが、生体への毒性のないものであれば本発明において遮光膜材料が限定されないことはもちろんのことである。
(5) シリコン膜8f上にスパッタ法などによりシリカ膜7gを成膜する。あるいはパリレン膜8gを成膜する。膜厚は、0.1ミクロン以上であり、用途により適宜設定できる。
(6) シリカ膜7gは、酸素プラズマクリーニング、オゾン水洗浄、過酸化水素水洗浄、UVオゾン洗浄などにより、表面を清浄化する。このとき、表面に親水基が高密度で存在できるよう配慮する。パリレン膜7gの場合、本作業および(7)作業は必要としない。
(7) 疎水化処理剤、例えばシランカップリング剤に表面を暴露することで、チップ表面を疎水化する。シランカップリング剤は、例えばHMDS(ヘキサメチルジシラザン)を選択することができる。
【0071】
実施例2
図8に製造方法例を示す。
(1) 基板、例えばガラス基板8aの主表面上に下地電極8bを蒸着あるいは無電解めっきなどにより形成する。下地電極は、クロム、ニッケルなどガラスと密着性のよい材料を選択する。また、非磁性材料であることが好ましい。さらに、反射防止膜8cを形成する。反射防止膜8cは、下地電極8bが例えばクロムであった場合、酸化処理を行うことで形成される。また、日産化学工業株式会社反射防止コーティング剤XHRiCを塗布してもよい。
(2) 感光性樹脂8c例えば東京応化工業株式会社ネガレジストPMER N-CA3000PMなどを反射防止膜8c上にスピンコートなどにより塗布する。この感光性樹脂9cをフォトリソグラフィにてマイクロウェル8dを形成する。あるいは、ナノインプリント技術を用いて形成しても同じ結果が得られる。
(3) 電気めっき法によりマイクロウェル8dの底に露出した下地電極8bに磁性膜8eを作製する。磁性膜は、例えばニッケル膜であり、スルファミン酸ニッケル浴などによって形成する。
(4) スパッタ法などにより、シリコン膜8fを成膜する。膜厚は、0.1ミクロン以上であり、用途、樹脂材料により適宜設定できる。また、シリコン膜の代わりにステンレス鋼、チタン、チタン合金、アパタイト、光学的遮光膜なども選択できるが、生体への毒性のないものであれば本発明において遮光膜材料が限定されないことはもちろんのことである。
(5) シリコン膜8f上にスパッタ法などによりシリカ膜8gを成膜する。あるいはパリレン膜8gを成膜する。膜厚は、0.1ミクロン以上であり、用途により適宜設定できる。
(6) シリカ膜8gは、酸素プラズマクリーニング、オゾン水洗浄、過酸化水素水洗浄、UVオゾン洗浄などにより、表面を清浄化する。このとき、表面に親水基が高密度で存在できるよう配慮する。パリレン膜8gの場合、本作業および(7)作業は必要としない。
(7) 疎水化処理剤、例えばシランカップリング剤に表面を暴露することで、チップ表面を疎水化する。シランカップリング剤は、例えばHMDS(ヘキサメチルジシラザン)を選択することができる。
【0072】
実施例3
図9に製造方法例を示す。
(1) 基板、例えばガラス基板9aの主表面上に下地電極9bを蒸着あるいは無電解めっきなどにより形成する。下地電極9bは、クロム、ニッケルなど金属材料やITOなどの透明電極材料などのガラスと密着性のよい材料を選択する。また、非磁性材料であることが好ましい。
(2) 感光性樹脂9c例えば東京応化工業株式会社ポジレジストOFPR-800などを下地電極9b上にスピンコートなどにより塗布する。この感光性樹脂9cをフォトリソグラフィにて所望の磁性膜パターンと同形に形成する。
(3) 電気めっき法により感光性樹脂9cの底に露出した下地電極9bに磁性膜9dを作製する。磁性膜は、例えばニッケル膜であり、スルファミン酸ニッケル浴などによって形成する。
(4) 感光性樹脂9cを有機溶剤などで除去し、さらに磁性膜9dより露出した下地電極9bをエッチングによって除去する。なお、下地電極が透明電極の場合はこのエッチング作業は不要である。
(5) 感光性樹脂9e例えば東京応化工業株式会社ネガレジストPMER N-CA3000PMや東レ・ダウコーニング株式会社WL-5351に代表される感光性PDMS樹脂などを基板主表面にスピンコートなどにより塗布する。
(6) 感光性樹脂9eをガラス基板9a裏面より露光を行い、マイクロウェル9fを形成する。
(7) スパッタ法などにより、シリコン膜9gを成膜する。膜厚は、0.1ミクロン以上であり、用途により適宜設定できる。また、シリコン膜の代わりにステンレス鋼、チタン、チタン合金、アパタイト、光学的遮光膜なども選択できるが、生体への毒性のないものであれば本発明において遮光膜材料が限定されないことはもちろんのことである。
(8) シリコン膜9g上にスパッタ法などによりシリカ膜9hを成膜する。あるいはパリレン膜9hを成膜する。膜厚は、0.1ミクロン以上であり、用途により適宜設定できる。
(9)シリカ膜9hは、酸素プラズマクリーニング、オゾン水洗浄、過酸化水素水洗浄、UVオゾン洗浄などにより、表面を清浄化する。このとき、表面に親水基が高密度で存在できるよう配慮する。パリレン膜9hの場合、本作業および(10)の作業は必要としない。
(10)疎水化処理剤、例えばシランカップリング剤にマイクロウェルアレイチップ表面を暴露することで、チップ表面を疎水化する。シランカップリング剤は、例えばHMDS(ヘキサメチルジシラザン)を選択することができる。
【0073】
実施例4
図10にナノインプリント技術を用いた製法例を示す。
(1) 基板、例えばガラス基板10aの主表面上に下地電極10bを蒸着あるいは無電解めっきなどにより形成する。下地電極は、クロム、ニッケルなど金属材料やITOなどの透明電極材料などのガラスと密着性のよい材料を選択する。また、非磁性材料であることが好ましい。
(2) 感光性樹脂10c例えば東洋合成工業株式会社PAK-1などを下地電極10b上にスピンコートなどにより塗布する。熱可塑性樹脂を選択することも可能である。
(3) 感光性樹脂10cをナノインプリント技術にてマイクロウェル10dを形成する。このときマイクロウェル10dの底に残膜が発生するため、ドライエッチングなどにより除去する必要がある。
(4) 電気めっき法によりマイクロウェル10dの底に露出した下地電極10bに磁性膜10eを作製する。磁性膜は、例えばニッケル膜であり、スルファミン酸ニッケル浴などによって形成する。
(5) スパッタ法などにより、シリコン膜10fを成膜する。膜厚は、0.1ミクロン以上であり、用途、樹脂材料により適宜設定できる。また、シリコン膜の代わりにステンレス鋼、チタン、チタン合金、アパタイト、光学的遮光膜なども選択できるが、生体への毒性のないものであれば本発明において遮光膜材料が限定されないことはもちろんのことである。
(6) シリコン膜10f上にスパッタ法などによりシリカ膜10gを成膜する。あるいはパリレン膜10gを成膜する。膜厚は、0.1ミクロン以上であり、用途により適宜設定できる。
(7) シリカ膜10gは、酸素プラズマクリーニング、オゾン水洗浄、過酸化水素水洗浄、UVオゾン洗浄などにより、表面を清浄化する。このとき、表面に親水基が高密度で存在できるよう配慮する。パリレン膜10gの場合、本作業および(8)作業は必要としない。
(8) 疎水化処理剤、例えばシランカップリング剤に表面を暴露することで、チップ表面を疎水化する。シランカップリング剤は、例えばHMDS(ヘキサメチルジシラザン)を選択することができる。
【0074】
実施例5
図11に製造方法例を示す。
(1) 基板、例えばガラス基板11aの主表面上に感光性樹脂11bをスピンコートなどにより形成する。感光性樹脂11bは、例えば東京応化工業株式会社ネガレジストPMER N-CA3000PMなどが挙げられる。
(2) 感光性樹脂11bをフォトリソグラフィにてマイクロウェル11cに形成する。あるいは、ナノインプリント技術を用いて形成しても同じ結果が得られる。
(3) 無電解めっき法によりマイクロウェル11cの底に露出した基板11a表面に磁性膜11dを作製する。磁性膜は、例えばニッケル膜であり、Ni-P、Ni-B、Co-Ni-P、Co-P系合金、Ni-Fe系合金、Co-Ni-Fe系合金などが挙げられる。
(4) スパッタ法などにより、シリコン膜11eを成膜する。膜厚は、0.1ミクロン以上であり、用途、樹脂材料により適宜設定できるまた、シリコン膜の代わりにステンレス鋼、チタン、チタン合金、アパタイト、光学的遮光膜なども選択できるが、生体への毒性のないものであれば本発明において遮光膜材料が限定されないことはもちろんのことである。
(5) シリコン膜11e上にスパッタ法などによりシリカ膜11fを成膜する。あるいはパリレン膜11fを成膜する。膜厚は、0.1ミクロン以上であり、用途により適宜設定できる。
(6) シリカ膜11fは、酸素プラズマクリーニング、オゾン水洗浄、過酸化水素水洗浄、UVオゾン洗浄などにより、表面を清浄化する。このとき、表面に親水基が高密度で存在できるよう配慮する。パリレン膜11fの場合、本作業および(7)作業は必要としない。
(7) 疎水化処理剤、例えばシランカップリング剤にマイクロウェルアレイチップ表面を暴露することで、チップ表面を疎水化する。シランカップリング剤は、例えばHMDS(ヘキサメチルジシラザン)を選択することができる。
【0075】
実施例6
磁性膜の効果の確認
(1)磁気ビーズによる細胞の標識
2x106個のマウスBリンパ球に終濃度5μg/mLのビオチン化抗マウスB220抗体を添加して4℃で15分間静置した。PBSで2回洗浄し、不要な抗体を除去した。次に、表面がビオチン化されたマウスBリンパ球に5μLのストレプトアビジンが固定化された直径250nmの磁気ビーズ(Micromod社、粒子度2.5〜3.0 g/cm3)を添加して室温で30分間転倒混和した。さらに、生細胞の蛍光染色剤であるCellTrace Oregon Green 488(invitrogen社)を終濃度1μg/mLで添加して室温で5分間静置し、細胞を蛍光染色した。PBSで2回洗浄し、不要な蛍光染色剤を除去して、磁気標識および蛍光染色されたマウスBリンパ球を得た。
【0076】
(2)細胞の収容
本発明によるマイクロウェルアレイチップは磁性膜のあるもの(実施例2)とないもの(実施例2より磁性膜形成を省いたもの)を用意した。マイクロウェルの寸法は、開口径10ミクロン、深さ12ミクロンである。表面をブロッキングするため、PBSで1/500希釈したLipidure-BL203(5wt%、日本油脂株式会社)を添加した。真空ポンプを利用して減圧することによりチップ表面およびマイクロウェル内に溶液を満たした後、室温で15分間静置した。PBSで洗浄し、余分なブロッキング剤を除去した。各マイクロウェルアレイチップをネオジム磁石(磁束密度500mT)の上に設置し、ウェル数と同数の(1)の細胞を添加して2分間静置した。蛍光顕微鏡(オリンパス株式会社)にてOregon Green 488の蛍光を観察した。
結果、図12に示すように、磁性膜がない場合、細胞は散在しているが、磁性膜がある場合、細胞は整然と並んでおりマイクロウェル内に強制的に収容されていることが確認できた。
【0077】
実施例7
細胞利用率の比較
(1)磁気ビーズによる細胞の標識
ヒト末梢血Bリンパ球をサイトカイン等により刺激し、抗体を分泌するよう分化させた細胞にビオチン化抗ヒトCD38抗体(Milteny Biotec社)を結合させた。次に、細胞表面がビオチン標識されたヒトBリンパ球にストレプトアビジンが固定された直径250nmの磁気ビーズを5μL添加して室温で30分間転倒混和した。さらに、生細胞の蛍光染色剤であるCellTrace Oregon Green 488を終濃度1μg/mLで添加して室温で5分間静置し、細胞を蛍光染色した。PBSで2回洗浄し、不要な蛍光染色剤を除去して、磁気標識および蛍光染色されたヒトBリンパ球を得た。
(2)細胞の収容
シリコン製のマイクロウェルアレイチップ(開口径15ミクロン、深さ17ミクロン)と本発明によるマイクロウェルアレイチップ(実施例2による:開口径15ミクロン、深さ17ミクロン)の表面をブロッキングするため、PBSで1/500希釈したLipidure-BL203を添加した。真空ポンプを利用して減圧することによりチップ表面およびマイクロウェル内に溶液を満たした後、室温で15分間静置した。PBSで洗浄し、余分なブロッキング剤を除去した。シリコン製のマイクロウェルアレイチップにはウェル数の4倍の磁気標識していないヒトリンパ球細胞を添加し、5分間静置した。さらにピペットにより穏やかに撹拌し、5分間静置することを2回繰り返した。本発明によるマイクロウェルアレイチップはネオジム磁石の上に設置し、ウェル数の0.65倍の(1)の細胞を添加して2分間静置した。さらにピペットにより穏やかに撹拌し、2分間静置することを2回繰り返した。次に、各マイクロウェルアレイチップのウェルに収容されなかった余分な細胞をPBSで洗浄し、蛍光顕微鏡にてOregon Green 488蛍光を観察した。
図13にウェル数25x25個の4つクラスタに細胞が収容された様子と各クラスタへの細胞の収容率を示した。結果、細胞の収容率は、シリコン製マイクロウェルアレイチップでは平均50.2%、本発明によるマイクロウェルアレイチップでは平均66.6%であった。さらに、使用した細胞数に対する収容された細胞数の割合を利用率と定義して算出すると、シリコン製マイクロウェルアレイチップでは平均11.8%、本発明によるマイクロウェルアレイチップでは平均92.7%であった。本発明では使用した細胞のほとんどをマイクロウェルに収容できることが確認できた。
【0078】
実施例8
分泌IgG抗体の検出像の比較
(1)磁気ビーズによる細胞の標識
ヒト末梢血Bリンパ球をサイトカイン等により刺激し、抗体を分泌するよう分化させた細胞にビオチン化抗ヒトCD38抗体を結合させた。次に、細胞表面がビオチン標識された2x106個のヒトBリンパ球にストレプトアビジンが固定された直径250nmの磁気ビーズを5μL添加して室温で30分間転倒混和した。さらに、細胞表面の膜型IgG抗体をブロッキングするため、ヤギ抗ヒトIgG抗体(Cappel社)を終濃度10μg/mLで添加して4℃で15分間静置した。PBSで2回洗浄し、不要な抗体を除去して、磁気標識されたヒトBリンパ球を得た。
【0079】
(2)細胞の収容
PBSで希釈した10μg/mLのヤギ抗ヒトIgG抗体をシリコン製のマイクロウェルアレイチップ(開口径15ミクロン、深さ17ミクロン)と本発明によるマイクロウェルアレイチップ(実施例2による:開口径15ミクロン、深さ17ミクロン)の表面に添加し、室温で2時間静置して表面にヒトIgG抗体を捕捉するための抗体をコートした。次に、表面をブロッキングするため、PBSで1/500希釈したLipidure-BL203を添加した。真空ポンプを利用して減圧することによりチップ表面およびマイクロウェル内に溶液を満たした後、室温で15分間静置した。10%FBSを含むRPMI1640培地で洗浄し、余分なブロッキング剤を除去した。シリコン製のマイクロウェルアレイチップと本発明によるマイクロウェルアレイチップに(1)の細胞をそれぞれ重力沈降と磁気吸引により収容した後、ウェルに収容されなかった余分な細胞を、10%FBSを含むRPMI1640培地で洗浄した。
【0080】
(3)分泌IgG抗体の検出
(2)の各マイクロアレイチップに10%FBSを含むRPMI1640培地を満たし、37℃、5%CO2のインキュベーター内で3時間静置した。この間、磁界はかけていない。培養終了後、培地を除去してPBSで洗浄した。細胞から分泌され、表面に捕捉されたヒトIgG抗体を検出するため、PBSで1/1000希釈したCy3標識抗ヒトIgG抗体(Chemicon社)を添加し、室温で30分間静置した。余分な蛍光標識抗体をPBSで洗浄し、蛍光顕微鏡にてCy3蛍光を観察した。
結果、図14に示すように検出像に差異はなく、本発明ではシリコン製のマイクロウェルアレイチップと同様に特定の物質を分泌する細胞をスクリーニングできることが確認できた。
【0081】
実施例9
抗原特異的IgG抗体分泌細胞の取得
(1)磁気ビーズによる細胞の標識
ヒト末梢血Bリンパ球をサイトカイン等により刺激し、抗体を分泌するよう分化させた細胞にビオチン化抗ヒトCD38抗体を結合させた。次に、細胞表面がビオチン標識されたヒトBリンパ球に5μLのストレプトアビジンが固定された直径250nmの磁気ビーズを添加して室温で30分間転倒混和した。さらに、細胞表面の膜型抗体をブロッキングするため、ヤギ抗ヒトIgG抗体(Cappel社)を終濃度10μg/mLで添加して4℃で15分間静置した。PBSで2回洗浄し、不要な抗体を除去して、磁気標識されたヒトBリンパ球を得た。
【0082】
(2)細胞の収容
PBSで希釈した10μg/mLのインフルエンザウイルスHA抗原(Sino Biological社)をシリコン製のマイクロウェルアレイチップ(開口径15ミクロン、深さ17ミクロン)と本発明によるマイクロウェルアレイチップ(実施例2による:開口径15ミクロン、深さ17ミクロン)の表面に添加し、室温で2時間静置して表面に抗原をコートした。次に、表面をブロッキングするため、PBSで1/500希釈したLipidure-BL203を添加した。真空ポンプを利用して減圧することによりチップ表面およびマイクロウェル内に溶液を満たした後、室温で15分間静置した。10%FBSを含むRPMI1640培地で洗浄し、余分なブロッキング剤を除去した。ネオジム磁石上に設置した本発明によるマイクロウェルアレイチップに(1)の細胞を添加し、磁気吸引により収容した後、ウェルに収容されなかった余分な細胞を、10%FBSを含むRPMI1640培地で洗浄した。
【0083】
(3)分泌IgG抗体の検出
(2)の各マイクロアレイチップに10%FBSを含むRPMI1640培地を満たし、37℃、5%CO2のインキュベーター内で3時間静置した。この間、磁界はかけていない。培養終了後、培地を除去してPBSで洗浄した。細胞から分泌され、表面にコートされた抗原に結合した抗原特異的なIgG抗体を検出するため、PBSで1/1000希釈したCy3標識抗ヒトIgG抗体を添加し、室温で30分間静置した。余分な蛍光標識抗体をPBSで洗浄し、蛍光顕微鏡にてCy3蛍光を観察した。
【0084】
(4)単一細胞の回収
蛍光顕微鏡下でHA抗原特異的IgG抗体のCy3蛍光および生細胞のOregon Green 488蛍光を観察し、マイクロマニピュレーター(eppendorf)により目的の抗体分泌細胞を回収した。細胞回収前後の様子を図15に示した。Cy3蛍光は赤色で、Oregon Green 488蛍光は緑色で表示した。細胞を回収したウェルに矢印をつけた。
(5)抗体の発現
回収した細胞からRT-PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction)により抗体遺伝子可変領域を増幅し、抗体遺伝子定常領域を含む発現ベクターに組込んだ。CHO-S細胞(invitrogen社)に抗体遺伝子を導入し、培養上清に発現した抗体がHA抗原に結合するIgG抗体であるかELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)によって検査した。ヒトIgG抗体の検出はペルオキシダーゼ標識抗体によって行い、ペルオキシダーゼの発色基質はOPD(o-phenylenediamine dihydrochloride,測定波長492nm)を使用した。
図16Aに培養上清中のヒトIgG抗体を定量したELISAの結果を、図16BにHA抗原に結合した培養上清中のIgG抗体を検出したELISAの結果を示した。取得した抗体がHA抗原に特異的に結合する抗体であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、細胞を扱う技術分野において有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の少なくとも一方の主表面にマイクロウェル層を有し、
前記マイクロウェル層が有する複数のマイクロウェルは、1つのマイクロウェルに1つの生体細胞のみを収容する形状と寸法を有し、
前記マイクロウェルの底面の一部または全部に磁性膜を有し、前記磁性膜以外の磁性部材を有さず、
前記磁性膜の表面および前記マイクロウェル層の表面は、マイクロウェル層を構成する材料からの自家蛍光を抑える遮光膜およびシリカ膜またはパリレン膜からなる多層膜を有する、マイクロウェルアレイチップ。
【請求項2】
前記マイクロウェル層は感光性樹脂または熱可塑性樹脂からなる、請求項1に記載のマイクロウェルアレイチップ。
【請求項3】
前記基板と前記マイクロウェル層との間に下地電極層を有する1または2に記載のマイクロウェルアレイチップ。
【請求項4】
前記下地電極層は透明電極材料からなる請求項3に記載のマイクロウェルアレイチップ。
【請求項5】
前記下地電極と前記マイクロウェル層との間に反射防止膜を有する請求項3または4に記載のマイクロウェルアレイチップ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のマイクロウェルアレイの少なくとも一部のマイクロウェルに、検体細胞を収容する方法であって、
前記検体細胞に磁気ビーズを取り付ける工程、および
磁気ビーズを取り付けた検体細胞をマイクロウェルアレイチップのマイクロウェル層の表面に供給して、1つのマイクロウェルに1つの細胞を収容する工程、
を含む、前記方法。
【請求項7】
細胞のマイクロウェルへの収容は、基板底部側から外部磁石で磁気ビーズを吸引することで促進する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記検体細胞が免疫細胞、ガン細胞、ハイブリドーマ、または細胞株である請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記検体細胞が抗原特異的リンパ球を含む請求項6または7に記載の方法。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか1項に記載の方法でマイクロウェルに収容した細胞の中から目的細胞を特定し、特定した目的細胞をウェルから回収することを含む目的細胞の回収方法。
【請求項11】
目的細胞が、抗原特異的抗体分泌細胞である請求項10に記載の回収方法。
【請求項12】
目的細胞が、特異的免疫グロブリン産生細胞または特異的サイトカイン産生細胞である請求項10または11に記載の回収方法。
【請求項1】
基板の少なくとも一方の主表面にマイクロウェル層を有し、
前記マイクロウェル層が有する複数のマイクロウェルは、1つのマイクロウェルに1つの生体細胞のみを収容する形状と寸法を有し、
前記マイクロウェルの底面の一部または全部に磁性膜を有し、前記磁性膜以外の磁性部材を有さず、
前記磁性膜の表面および前記マイクロウェル層の表面は、マイクロウェル層を構成する材料からの自家蛍光を抑える遮光膜およびシリカ膜またはパリレン膜からなる多層膜を有する、マイクロウェルアレイチップ。
【請求項2】
前記マイクロウェル層は感光性樹脂または熱可塑性樹脂からなる、請求項1に記載のマイクロウェルアレイチップ。
【請求項3】
前記基板と前記マイクロウェル層との間に下地電極層を有する1または2に記載のマイクロウェルアレイチップ。
【請求項4】
前記下地電極層は透明電極材料からなる請求項3に記載のマイクロウェルアレイチップ。
【請求項5】
前記下地電極と前記マイクロウェル層との間に反射防止膜を有する請求項3または4に記載のマイクロウェルアレイチップ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のマイクロウェルアレイの少なくとも一部のマイクロウェルに、検体細胞を収容する方法であって、
前記検体細胞に磁気ビーズを取り付ける工程、および
磁気ビーズを取り付けた検体細胞をマイクロウェルアレイチップのマイクロウェル層の表面に供給して、1つのマイクロウェルに1つの細胞を収容する工程、
を含む、前記方法。
【請求項7】
細胞のマイクロウェルへの収容は、基板底部側から外部磁石で磁気ビーズを吸引することで促進する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記検体細胞が免疫細胞、ガン細胞、ハイブリドーマ、または細胞株である請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記検体細胞が抗原特異的リンパ球を含む請求項6または7に記載の方法。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか1項に記載の方法でマイクロウェルに収容した細胞の中から目的細胞を特定し、特定した目的細胞をウェルから回収することを含む目的細胞の回収方法。
【請求項11】
目的細胞が、抗原特異的抗体分泌細胞である請求項10に記載の回収方法。
【請求項12】
目的細胞が、特異的免疫グロブリン産生細胞または特異的サイトカイン産生細胞である請求項10または11に記載の回収方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−165738(P2012−165738A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219147(P2011−219147)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【特許番号】特許第4951144号(P4951144)
【特許公報発行日】平成24年6月13日(2012.6.13)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【特許番号】特許第4951144号(P4951144)
【特許公報発行日】平成24年6月13日(2012.6.13)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【Fターム(参考)】
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