説明

マイクロチップの製造方法、物理マスク、及びマイクロチップ

【課題】密閉系のチャンバーを構成する凹部の底面にだけ足場因子が配されたマイクロチップの製造方法、その製造方法に用いうる物理マスク、及びマイクロチップの提供。
【解決手段】細胞培養用のチャンバー4となる凹部及び流路11となる溝部が表面に形成された基板2、凹部に装入可能な凸部が備えられた物理マスク、並びに凹部及び溝部を覆う天板3を準備して、基板2の表面、凹部及び溝部に、細胞の接着を促す足場因子を吸着させる工程Aと、物理マスクの凸部を基板2の凹部に装入し、前記凸部によって前記凹部の底面の少なくとも一部を覆って、底面に吸着した足場因子を保護する工程Bと、覆った底面以外に吸着した足場因子を除去する工程Cと、凹部に装入した物理マスクを取り外す工程Dと、基板2の表面に天板3を接合させて、凹部及び溝部に蓋をする工程Eと、を含むマイクロチップ1の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養を用いた分析に適したマイクロチップの製造方法、該製造方法において使用しうる物理マスク、及び該マイクロチップに関する。より詳しくは、細胞接着を促す足場因子が配されたマイクロチップの製造方法、該製造方法において使用しうる物理マスク、及び該マイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の微細加工技術やLab on a Chip関連の技術の発展に伴い、1枚のチップ上にアレイ状に構成された微細構造の中で細胞を培養、解析、操作することで、様々な細胞アッセイや細胞操作を効率的に行う方法が報告されている。例えば、本発明者らが報告した非特許文献1やアメリカの研究グループが報告した非特許文献2では、複数の薬剤の細胞毒性を一度に試験することのできるマイクロチップが記載されている。
既報の細胞アッセイ用マイクロチップの多くはポリジメチルシロキサン(PDMS)で製作されているが、PDMS上に直接接着させて培養できる細胞の種類は非常に限られている。様々な細胞に対するアッセイをオンチップで実現するには、個々の細胞に適切な培養環境をマイクロスケールで構築する技術が必要である。また、生体内における細胞機能の発現には、多くの場合、足場因子や液性因子によって構成される複数の分化誘導因子が協調して働いていることが非特許文献3や非特許文献4に記載されている。一般的に、生体から採取した初代培養細胞を生体外で培養するためには、適切な足場因子や液性因子によって構成される培養環境の中で培養する必要がある。また、生体外で幹細胞を特定の細胞に分化誘導するためには、多数の分化誘導因子を複合的なシステムとして作用させる必要がある。さらに、ES細胞の分化誘導能は細胞株ごとに大きく異なることが非特許文献5に報告されている。このように幹細胞の分化誘導プロセスは複雑かつ多様であり、幹細胞を特定の細胞に分化させるための最適な培養環境を、細胞株ごとに網羅的に探索する必要がある。しかしながら、膨大な数の液性因子と足場因子の組み合わせの中から個々の細胞の培養に最適な環境を探索するには、従来技術では非常に煩雑な手作業や高価なロボットが必要となっていた。また、膨大な数の液性因子と足場因子の組み合わせを煩雑な手作業で構築するのは時間がかかり、かつ複数回にわたる試験を行った場合の信頼性が低下しやすいという問題もあった。
【0003】
細胞培養に関するこれらの問題を解決するため、本発明者らは “微小培養環境アレイチップ”を開発し、非特許論文6で報告した。微小培養環境アレイチップは、非特許論文1に記載されている灌流培養マイクロチャンバーアレイチップの一種であり、マイクロチャンバーアレイ、細胞懸濁液および異なる4種類の液性因子を含む培地を導入するためのマイクロ流路、並びに導入ポートを備えている。このマイクロチャンバーアレイは、底部に異なる3種類の細胞接着性タンパク質を修飾したマイクロチャンバー、および修飾していないマイクロチャンバーによって構成されており、合計で4種類の足場因子を、細胞培養の為の足場として提供する。さらに、このマイクロチャンバー内に培地を供給することによって、培地に含まれる4種類の液性因子と4種類の足場因子の組み合わせからなる4×4=16通りの培養環境をマイクロチャンバーアレイ上に構築できる。これら複数の培養環境の中から、細胞培養に適した環境をスクリーニングできる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S. Sugiura, J. Edahiro, K. Kikuchi, K. Sumaru, and T. Kanamori, Biotechnol. Bioeng., 100, 1156 (2008).
【非特許文献2】Z. Wang, M.-C. Kim, M. Marquez and T. Thorsen, Lab Chip, 7, 740 (2007).
【非特許文献3】M. A. Schwartz and M. H. Ginsberg, Nat. Cell Biol., 4, E65 (2002).
【非特許文献4】K. M. Yamada and S. Even-Ram, Nat. Cell Biol., 4, E75 (2002).
【非特許文献5】K. Osafune, et al.,Nat. Biotechnol., 26, 313 (2008).
【非特許文献6】K. Hattori, S. Sugiura, and T. Kanamori, Biotechnology J., 5, 463 (2010).
【非特許文献7】K. Hattori, S. Sugiura and T. Kanamori, Lab Chip, 11, 212 (2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マイクロチップに備えられたチャンバー中で種々の細胞を培養するためには、当該チャンバーの内壁に、細胞接着性タンパク質等の足場因子を配しておくことが望まれる。この際、チャンバー以外の流路に足場因子を配すると、細胞が流路に接着してしまい、流路の詰まり等の不具合を生じる問題がある。そのため、非特許文献7で開示されたマイクロチップの製造方法では、凹部が形成された天板とその凹部を覆う平滑な基板とを接合させてチャンバーを形成する際、ステンシル法によって足場因子のパターニングを行い、足場因子を基板平面のうち天板の凹部に臨む領域に限定して配している。この方法によればチャンバーの底部を構成する基板平面に限定して足場因子を配することができるので、当該マイクロチップに細胞懸濁液を流入させることによって、足場因子が配されたチャンバーの底部に限定して当該細胞を接着させて、培養することができる。
【0006】
しかしながら、上記ステンシル法を用いた場合、ステンシルと基板を位置合わせした後に足場因子のパターニングを行い、ステンシルを剥がし、さらに基板と凹部が形成された天板を位置合わせした後に貼り合わせるといった複雑な製造工程が必要となる問題がある。また、上記方法ではチャンバーを構成する基板の凹部に足場因子を配することができない。チャンバーの底部を構成する平滑な基板に接着した細胞は、流路を流通する液体の流れを受け易く、その物理的な圧力が細胞培養に影響を及ぼす虞がある。このため、密閉系のチャンバーを構成する凹部の底面で細胞培養することが可能なマイクロチップの開発が望まれている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、密閉系のチャンバーを構成する凹部の底面にだけ足場因子が配されたマイクロチップの製造方法、その製造方法に用いうる物理マスク、及びマイクロチップの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載のマイクロチップの製造方法は、細胞培養用のチャンバー及び前記チャンバーに接続された流路が形成されたマイクロチップの製造方法であって、前記チャンバーとなる凹部及び前記流路となる溝部が表面に形成された基板、前記凹部に装入可能な凸部が備えられた物理マスク、並びに前記凹部及び溝部を覆う天板を準備して、前記基板の表面、凹部及び溝部に、細胞の接着を促す足場因子を吸着させる工程Aと、前記物理マスクの凸部を前記基板の凹部に装入し、前記凸部によって前記凹部の底面の少なくとも一部を覆って、前記底面に吸着した前記足場因子を保護する工程Bと、前記覆った底面以外に吸着した前記足場因子を除去する工程Cと、前記凹部に装入した前記物理マスクを取り外す工程Dと、前記基板の表面に前記天板を接合させて、前記凹部及び溝部に蓋をする工程Eと、を含むことを特徴とする。
本発明の請求項2に記載のマイクロチップの製造方法は、請求項1において、前記工程Cにおいて、前記基板の表面及び溝部をプラズマ処理することによって、前記保護した足場因子以外の前記足場因子を除去することを特徴とする。
本発明の請求項3に記載のマイクロチップの製造方法は、請求項2において、前記工程Cにおいて、前記基板の表面及び前記天板の表面をプラズマ処理で活性化した後、前記工程Eにおいて、前記活性化された表面同士を圧着することによって、前記接合を行うことを特徴とする。
本発明の請求項4に記載のマイクロチップの製造方法は、請求項1〜3のいずれか一項において、前記足場因子が、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ゼラチン、又はポリリジンを含むことを特徴とする。
本発明の請求項5に記載の物理マスクは、請求項1〜4のいずれか一項に記載のマイクロチップの製造方法において使用する物理マスクであって、基体と、前記基体表面から突き出すように配された前記凸部とを少なくとも備え、前記凸部は柱状であり、その直径が前記凹部の直径よりも小さく、前記凸部の先端は、前記凹部の底面に密着可能な面形状であり、前記凸部の突き出す高さが、前記凹部の深さよりも長いことを特徴とする。
本発明の請求項6に記載の物理マスクは、請求項5において、前記物理マスクの材質が、ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする。
本発明の請求項7に記載のマイクロチップは、細胞培養用のチャンバーとなる凹部及び前記チャンバーに接続された流路となる溝部が形成された基板と、前記凹部及び溝部を覆う天板と、を少なくとも備えたマイクロチップであって、前記凹部の底面にのみ、細胞接着を促す足場因子が配されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のマイクロチップの製造方法によれば、チャンバー底部にのみ足場因子を配したマイクロチップを簡単な工程で製造できる。
本発明の物理マスクによれば、基体から突き出した凸部を、チャンバーとなる凹部に装入し、凹部の底面に対して凸部の先端の面を密着させることによって、チャンバー底部の足場因子を物理的にマスクして保護することができる。この結果、マスクした領域以外の基板表面に対して物理的若しくは化学的な処理を施すことができ、不要な足場因子を一括して基板表面から除去することができる。
本発明のマイクロチップによれば、シールされて密閉系となっているチャンバーに、流路を通して細胞懸濁液を流入させることによって、当該チャンバーの底部の足場因子に細胞を接着させて培養することができる。足場因子によって当該細胞を安定に維持できるので、チャンバー内に別の溶液を流入させた場合にも、流入の勢いによって細胞が剥離する虞はない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の例のマイクロチップの全体を示す平面図である。
【図2】マイクロチップの要部を拡大した平面図である。
【図3】マイクロチップの要部を拡大した断面図である。
【図4】マイクロチップの要部を示す平面図である。
【図5】マイクロチップの製造に用いる基板、物理マスク及び天板の模式的な断面図である。
【図6】足場因子で表面を修飾した基板の模式的な断面図である。
【図7】足場因子で表面を修飾した基板の凹部に、物理マスクの凸部を装入した状態を示す模式的な断面図である。
【図8】足場因子で表面を修飾した基板の凹部に、物理マスクの凸部を装入した状態で、プラズマ処理を行っている様子を示す模式的な断面図である。
【図9】図8において、基板3についても同時にプラズマ処理を行っている様子を示す模式的な断面図である。
【図10】製造された本発明にかかるマイクロチップの模式的な断面図である。
【図11】基体2に物理マスク30を装入して保持するための固定器具の模式的な断面図である。
【図12】本発明にかかる物理マスクの一例の模式的な断面図である。
【図13】本発明にかかるマイクロチップの製造方法の一例を示す斜視図である。
【図14】本発明にかかるマイクロチップの製造方法の一例を示す斜視図である。
【図15】本発明にかかるマイクロチップの製造方法の一例を示す斜視図である。
【図16】試験結果を示す写真である。
【図17】試験結果を示す写真である。
【図18】試験結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、好適な実施の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
<<マイクロチップ>>
本発明の第1の例であるマイクロチップ1について、図1〜3に示す。
図1は、マイクロチップ1の全体を示す平面図であり、図2はマイクロチップ1の要部を拡大した平面図であり、図3はマイクロチップ1の要部を拡大した断面図である。
以下の説明において、マイクロチップ1の「長手方向」は、図1における矢印tの方向を意味し、マイクロチップ1の「短手方向」は、図1における矢印uの方向を意味するものとする。
【0012】
図2および図3に示すように、マイクロチップ1は、平板状の基板2と、これに重ね合わされる平板状の天板3とによって構成することができる。
基板2の、天板3に対向する面2a(表面2a)には、試料液を導入して、細胞が培養されるチャンバー4となる凹部5が形成されている。
凹部5は、平面視円形の主空間凹部5aと、主空間凹部5aの外周側に、これを囲んで形成された外周空間凹部5bとからなる。外周空間凹部5bは、主空間凹部5aより浅く形成されている。
図3に示すように、チャンバー4は、主空間凹部5a内の空間(主空間部4a)と、外周空間凹部5b内の空間(外周空間部4b)とからなる。
【0013】
図1および図2に示すように、チャンバー4は、複数の行および複数の列からなる行列をなすように2次元的に配列される。
図示例では、合計64のチャンバー部4が、8行および8列からなる行列をなすようアレイ状に配列されている。行を構成するチャンバー4は、長手方向(矢印t方向)に沿って並び、列を構成するチャンバー4は、短手方向(矢印u方向)に沿って並んでいる。各チャンバー4は、互いに間隔をおいて配列されている。
符号9A〜9Hはそれぞれチャンバー部4がなす8つの行を示し、符号10A〜10Hはそれぞれチャンバー部4がなす8つの列を示す。
【0014】
基板2の表面2aには、凹部5(チャンバー4)に連通する入口流路7と出口流路15とが形成されている。
入口流路7は、長手方向に沿って形成された送液流路11と、送液流路11から分岐して各チャンバー4に連通する複数の導入流路12とを有し、これら導入流路12はそれぞれチャンバー部4に接続されているため、貯留部21からの試料液を、送液流路11から導入流路12を経てチャンバー部4に導入することができる。
【0015】
図1および図4に示すように、入口流路7は4つ形成され(入口流路7A〜7Dという)、それぞれが異なる貯留部21(貯留部21A〜21Dという)に接続されている。
入口流路7Aの送液流路11Aは第1行9Aと第2行9Bの間に延在し、入口流路7Bの送液流路11Bは第3行9Cと第4行9Dの間に延在し、入口流路7Cの送液流路11Cは第5行9Eと第6行9Fの間に延在し、入口流路7Dの送液流路11Dは第7行9Gと第8行9Hの間に延在している。
入口流路7Aの送液流路11Aから分岐した第1導入流路12Aは、第1行9Aと第2行9Bの各チャンバー4に接続され、入口流路7Bの送液流路11Bから分岐した第2導入流路12Bは、第3行9Cと第4行9Dの各チャンバー4に接続され、入口流路7Cの送液流路11Cから分岐した第3導入流路12Cは、第5行9Eと第6行9Fの各チャンバー4に接続され、入口流路7Dの送液流路11Dから分岐した第4導入流路12Dは、第7行9Gと第8行9Hの各チャンバー4に接続されている。
【0016】
図4に示すように、マイクロチップ1では、入口流路7A〜7Dが上記構成であるため、貯留部21Aからの試料液6Aを入口流路7Aから第1行9Aおよび第2行9Bのチャンバー4に導入でき、貯留部21Bからの試料液6Bを入口流路7Bから第3行9Cおよび第4行9Dのチャンバー4に導入でき、貯留部21Cからの試料液6Cを第5行9Eと第6行9Fのチャンバー4に導入でき、貯留部21Dからの試料液6Dを第7行9Gと第8行9Hのチャンバー4に導入できる。
したがって、各貯留部に所望の試料液を導入することによって、各チャンバー4に所望の試料液を導入することができる。
【0017】
図1および図4に示すように、出口流路15は、各チャンバー4に連通する複数の導出流路13と、これら複数の導出流路13が接続される排出流路14とを有し、チャンバー4内の液を導出流路13から排出流路14を経て排出部22に排出することができる。排出流路14は長手方向に沿って形成されている。
図4に示すように、出口流路15は、5つ形成され(出口流路15A〜15Eという)、出口流路15Aの排出流路14Aは、第1行9Aの外側(図4における上方)に形成され、出口流路15Bの排出流路14Bは、第2行9Bと第3行9Cの間に延在し、出口流路15Cの排出流路14Cは、第4行9Dと第5行9Eの間に延在し、出口流路15Dの排出流路14Dは、第6行9Fと第7行9Gの間に延在し、出口流路15Eの排出流路14Eは、第8行9Hの外側(図4における下方)に形成されている。
【0018】
図4に示すように、出口流路15Aの導出流路13Aは、第1行9Aのチャンバー4に接続され、出口流路15Bの導出流路13Bは、第2行9Bと第3行9Cのチャンバー4に接続され、出口流路15Cの導出流路13Cは、第4行9Dと第5行9Eのチャンバー4に接続され、出口流路15Dの導出流路13Dは、第6行9Fと第7行9Gのチャンバー4に接続され、出口流路15Eの導出流路13Eは、第8行9Hのチャンバー4に接続されている。
【0019】
導出流路13は、導入流路12に比べて断面積を大きくするか、若しくは導入流路12より短く形成することによって、導入流路12に比べて流通抵抗を小さくすることができる。その結果、チャンバー4内の圧力が過度に上昇するのを防ぐことができる。
図示例では、導入流路12と導出流路13は、凹部5の外周空間凹部5bに連通している。導入流路12と導出流路13の連通箇所は、主空間凹部5aを挟んで向かい合う位置とするのが好ましい。向かい合う位置とすることによって、導入流路12から流入された試料液をチャンバー4内に充分拡散させることがより容易となる。
【0020】
本発明にかかるマイクロチップ1において、チャンバー4を構成する凹部5の底面5cには、足場因子8が配されている(図3参照)。
足場因子8は、底面5cの少なくとも一部の領域に配されていればよく、底面5cの全領域に配されていてもよい。足場因子8が配された領域に細胞が接着するので、当該領域を広くするほど、細胞を接着して培養できる領域が広くなるので好ましい。
【0021】
チャンバー4の底面5cは必ずしも平坦な平面である必要はなく、湾曲した曲面であってもよく、用途に応じた段差や突起が設けられていてもよい。後述する物理マスクの先端の面形状と密着させるために、底面5cは当該面形状にフィットする形状(例えば平坦な面)であることが好ましい。
【0022】
チャンバー4を構成する凹部5において、主空間凹部5aの側面5d又は外周空間凹部5bの底面にも、足場因子8が配されていてもよい。ただし、底面5cに接着した細胞の培養環境(培養条件)と側面5dに接着した細胞の培養環境(培養条件)とは、厳密には異なるので、より正確に培養環境を揃える必要がある場合は、底面5cのみに足場因子8を配することが好ましい。
なお、前述の通り、本発明にかかるマイクロチップ1において、入口流路7及び出口流路15に足場因子8は配されていないので、細胞が流路に接着して当該流路を目詰まりさせてしまうことを防止できる。
【0023】
チャンバー4を構成する天板3の、基板2に対向する面3a(下面3a)の形状は特に制限されず、例えば平坦にすればよい。平坦であると、チャンバー4内を観察することがより容易となりうる。
【0024】
以上で説明したように、本発明にかかるマイクロチップ1は、細胞培養用のチャンバー4となる凹部5及びチャンバー4に接続された流路12,13となる溝部Rが形成された基板2と、凹部5及び溝部Rを覆う天板3と、を少なくとも備えたマイクロチップであって、凹部5の底面5cにのみ、細胞接着を促す足場因子8が配されているものである。
【0025】
マイクロチップ1のチャンバー4に細胞及び緩衝液を含む細胞懸濁液を流入させる方法としては、例えば以下のように行うことができる。
まず、細胞懸濁液を貯留部21に注ぎ、排出部22側を陰圧とすることによって、入口流路7の送液流路11及び導入流路12を介して、前記細胞懸濁液をチャンバー4に引き込むことができる。つぎに、当該細胞懸濁液をチャンバー4に滞留させて、細胞をチャンバー4の底面5cに沈降させる。所定時間のうちに、当該細胞は底面5cに配された足場因子8に接着する。つづいて、再び排出部22側を陰圧とすることによって、出口流路15の導出流路13及び排出流路14を介して、接着しなかった死細胞を含む緩衝液を、チャンバー4から排出部22へ排出することができる。さらに、貯留部21に前記細胞懸濁液に代えて、細胞培養に必要な栄養素等を含む培養液を導入して、排出部22側を継続的に陰圧とすることによって、チャンバー4の底面5cに接着した細胞に対して、必要な養分等を常時供給することができる。また、前記培養液に種々の薬剤を含ませることによって、当該薬剤が当該細胞に与える影響を調べることができる。
【0026】
ここでは、細胞懸濁液を導入流路12を介して流入させる方法を示した。図2に示したように導入流路12は比較的細長い流路となっているので、培養する細胞の種類や大きさによっては、導入流路12を通すことが困難な場合も考えられる。この場合には、上記例とは逆方向に細胞懸濁液を送液して、当該細胞をチャンバー4へ流入させればよい。すなわち、細胞懸濁液を排出部22に導入して、貯留部21を陰圧とし、出口流路15を介して前記細胞懸濁液をチャンバー4に引き込むことができる。上記例と同様に細胞を接着させた後、細胞を懸濁していた緩衝液を入口流路7から排出することができる。
このように、マイクロチップ1の送液の方向は、用途や目的に応じて、適宜調整することができる。
【0027】
本発明にかかるマイクロチップは、図1〜4に示したマイクロチップ1の構成に限られない。貯留部の形状や大きさや数、流路の幅や深さや経路や数、チャンバーの形状や大きさや数等は、当該マイクロチップの用途や目的に応じて適宜設計することができる。
マイクロチップ1のチャンバー4は、図3に示したように、主空間部4aの他に外周空間部4bが設けられている。外周空間部4bが設けられていることにより、チャンバー4内に液体を流入させた際に、チャンバー4内を元々満たしていた気体を全てチャンバー4外へ排出することがより容易にできる。
したがって、本発明にかかるマイクロチップのチャンバーには、主空間部4に加えて外周空間部4bが設けられていることが好ましい。また、外周空間部4bを設けず、主空間部4aだけでチャンバー4を構成してもよい。
【0028】
本発明にかかるマイクロチップ1において、チャンバー4を構成する凹部5の底面5cにのみ足場因子8が配されているので、細胞が入口流路7及び出口流路15に接着することを防止できる。したがって、本発明のマイクロチップを用いることによって、足場因子8が配された凹部5の底面5cに試験対象である細胞を接着させて培養することができ、当該培養細胞に対する薬剤スクリーニング等の試験を、信頼性の高い培養環境(培養条件)で行うことができる。
培養細胞が足場因子を介して接着するメカニズムとしては、細胞表面に存在するインテグリン、カドヘリン等の接着タンパク質が足場因子8に接着することが一因として考えられる。
【0029】
本発明にかかるマイクロチップ1において培養する細胞は、特に限定されず、例えばヒトを含む動物由来の細胞、植物由来の細胞、微生物由来の細胞等を目的に応じて使用できる。
培養可能な細胞の具体例としては、造血幹細胞、骨髄系幹細胞、神経幹細胞、皮膚幹細胞などの体性幹細胞や胚性幹細胞、人工多能性幹細胞等が挙げられる。また、好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球(T細胞、NK細胞、B細胞等)等の白血球や、血小板、赤血球、血管内皮細胞、リンパ系幹細胞、赤芽球、骨髄芽球、単芽球、巨核芽球および巨核球等の血液細胞、内皮系細胞、上皮系細胞、肝実質細胞、膵ラ島細胞等が例示できる。
【0030】
<<マイクロチップの製造方法>>
本発明にかかるマイクロチップの製造方法の第一態様を、図5〜10を参照して説明する。図5〜10は、前述のマイクロチップ1を構成する基板2及び天板3の厚み方向の断面を、単純化した模式図である。
【0031】
本発明にかかるマイクロチップの製造方法の第一態様は、図1に示した細胞培養用のチャンバー4及びチャンバー4に接続された流路12,13が形成されたマイクロチップ1の製造方法の一例であり、少なくとも以下の工程A〜Eの工程を含むものである。
【0032】
まず、図5に示すように、チャンバー4となる第一凹部5、導入流路12(入口流路7)及び導出流路13(出口流路15)となる溝部Rが表面2aに形成された基板2、第一凹部5に装入可能な凸部31が備えられた物理マスク30、並びに第一凹部5及び溝部Rを覆う天板3を準備する。
基板2には、第一凹部5及び溝部Rの他に、貯留部21となる第二凹部5’及び排出部22となる第三凹部5”も形成されている。図5では、図を簡略化するために第一凹部5を1個だけ描いてある。言うまでもないが、第一凹部5、第二凹部5’、第三凹部5”、及び溝部Rは、必要に応じて複数形成されていてよい。
また、天板3には、第二凹部5’及び第三凹部5”に対応する位置にスルーホールTが設けられている。
【0033】
基板2は、公知の方法によって作製されたものを用いることができる。基板2が樹脂製である場合、例えばレプリカモールディング法によって、第一〜第三凹部5,5’,5”及び溝部Rが一括して形成された基板2を作製できる。別の公知方法としては、例えば樹脂、ガラス、シリコン等の材料からなる平板の表面に、フォトリソグラフでレジストマスクを形成し、RIE(Reactive Ion Etching)等のエッチング方法によって、第一〜第三凹部5,5’,5”及び溝部Rを形成することによって、基板2を作製することができる。また、レーザー加工、NC加工、光造形加工、射出成型加工、ナノインプリント加工等の方法を適宜使用することもできる。
【0034】
基板2および天板3の材料は特に制限されず、例えば樹脂(プラスチック)、ガラス、シリコン等が使用できる。チャンバー4内の培養細胞を光学的に観察することが容易であるので、前記材料は透明材料であることが好ましく、具体的には樹脂及びガラスが好ましい。また、プラズマ処理によって基板2及び天板3の表面を活性化して、当該表面同士を圧着することによって、基板2と天板3とを接合できるので、前記材料は樹脂であることがより好ましい。前記樹脂としては、シリコーン系樹脂{例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)}、アクリル系樹脂(例えばポリメタクリル酸メチル)、スチレン系樹脂(例えばポリスチレン)が高い透明性を有するため更に好ましい。
【0035】
PDMSの表面に直に接着できる細胞の種類は極めて少ないので、PDMSからなる基板2を使用することによって、流路に細胞が接着してしまうことを防止できる。またPDMSは酸素透過性が高いので細胞培養用途のマイクロチップを作製する材料として適している。
したがって、基板2及び天板3の材料としては、PDMSが特に好ましい。また、基板2及び天板3のうち、前記細胞懸濁液が接触する箇所のみをPDMSで構成してもよい。基板2及び天板3の材料は同じであっても異なっていてもよく、例えば基板2をPDMS製とし、天板3をガラス製とすることができる。
【0036】
基板2及び天板3のうち、前記細胞懸濁液又は培養液に接触する領域には、撥水処理等の表面加工を施してもよい。撥水処理を行った箇所では、細胞が接着することを抑制できると共に、前記細胞懸濁液や培養液等の液体の流れを一層スムーズにすることができる。前記撥水処理としては、−(CF−CF基を持つパーフルオロアルキル基含有シラン(FAS)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂を用いて、当該表面を被膜する公知の方法が例示できる。
【0037】
[工程A]
図6に示すように、第一態様の工程Aは、基板2の表面2a、第一凹部5、第二凹部5’、第三凹部5”、及び溝部Rに、細胞の接着を促す足場因子8を吸着させる(配する)工程である。
足場因子8は、導入する細胞の接着を促して培養できるものであれば特に制限されず、例えば公知の細胞接着性タンパク質を含むものが使用できる。
【0038】
前記細胞接着性タンパク質としては、例えばコラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ゼラチン、およびポリリジン等が挙げられる。これらの細胞接着性タンパク質は一種だけを用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。なお、前記ポリリジンはペプチドであるが、本明細書及び特許請求の範囲においては、細胞接着性タンパク質と細胞接着性ペプチドとを区別せずに、両方とも細胞接着性タンパク質と呼ぶ。前記細胞接着性ペプチドとしては、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ゼラチン等の細胞接着性タンパク質を加水分解した分解物や、化学合成したポリリジンのペプチド鎖等が例示できる。
【0039】
足場因子8に含まれる細胞接着性タンパク質は、そこに接着する細胞の生理活性に影響を与えることがある。例えば、一の細胞接着性タンパク質においては当該細胞が増殖せず、他の細胞接着性タンパク質においては当該細胞が活発に増殖する、ということがあり得る。したがって、使用する細胞接着性タンパク質については、このような影響を加味して適宜選択することが好ましい。
【0040】
基板2の表面2a、凹部5及び溝部Rに足場因子8を配する方法としては、足場因子8の細胞接着性が損なわれない方法であれば特に制限されず、例えば物理的若しくは化学的に吸着させる方法が好適な方法として挙げられる。具体的には、足場因子8を懸濁又は溶解した塗布液を基板2の表面2a側の全面に塗布する方法が挙げられる。
本発明において、最終的に足場因子8を配する箇所は第一凹部5の底面5cのみであるが、工程Aにおいては、基板2の表面2a側の全面に塗布することが好ましい(図6参照)。底面5cのみに塗布することは比較的困難であり、当該塗布の操作が複雑なものとなってしまうからである。一方、前記全面に塗布する方法は比較的容易であり、当該塗布の操作を簡便化できる。
【0041】
前記塗布液を全面に塗布する方法としては、例えばスピンコート法が挙げられる。また、前記塗布液に基板2を浸漬させる方法も挙げられる。浸漬中に超音波処理等を行うことによって、基板2の表面に付着し得る気泡を除いて、前記全面にムラなくより均一に塗布することができる。
前記足場因子8を表面2a、凹部5及び溝部Rに接触させることによって、接触した面に当該足場因子8を物理的若しくはな化学的に吸着させることができる。
【0042】
前記接触の時間は特に制限されないが、1分以上の接触時間が好ましく、5分以上の接触時間がより好ましく、30分以上の接触時間が更に好ましい。この下限値以上とすることにより、前記吸着をより確実にすることができる。上限値は特に制限されず、例えば10時間程度とすれば、前記吸着をより一層確実にすることができる。
この物理的な吸着によれば、足場因子8が本来有する細胞接着性若しくは生理活性を実質的に損なうことなく、前記全面に吸着させることができる。
【0043】
前記塗布液には、足場因子8の他に、前記吸着を促進させるポリマー等を配合してもよい。前記吸着をより確実に又はより迅速に行うことが可能となり得る。前記ポリマーとしては、公知のポリマーを用いればよい。
【0044】
足場因子8を前記全面に吸着させるために、前記全面に予め高分子材料をグラフト結合させて、この高分子材料を介して足場因子8を前記全面に結合させる方法も可能である。
具体的には、例えばアクリル酸を含む液を前記全面に塗布し、光重合させることによって前記全面にポリアクリル酸をグラフト結合し、次いでこの全面に足場因子8を接触させて足場因子8の有するアミノ基とポリアクリル酸のカルボキシル基とを脱水縮合により結合させる方法(化学的吸着)を採用できる。
【0045】
前記塗布液を塗布することによって足場因子8を前記全面に吸着させた後は、前記塗布液を除去して、水分を基板2から除去して乾燥させることが好ましい。後段の工程における各操作において、当該水分が邪魔になる場合があるためである。前記乾燥の方法は、エアブローや減圧乾燥法等の公知の方法が適用できる。前記乾燥の際、足場因子8も同様に乾燥させてよい。
【0046】
[工程B]
図7に示すように、第一態様の工程Bは、物理マスク30の凸部31を基板2の第一凹部5に装入し、凸部31によって第一凹部5の底面5cの少なくとも一部を覆って、底面5cに吸着した足場因子8を保護する工程である。
【0047】
工程Bでは、図7に示すように、物理マスク30を構成する基体32の表面32aから突き出すように配された凸部31の先端の面31a(以下、端面31aという)を、第一凹部5の底面5cに密着するように押し付けた状態とすることが好ましい。この状態であると、端面31aと底面5cの間にある足場因子8を外部から遮断して、保護することができる。この状態で、後段の工程Cを行うことが好ましい。
【0048】
本発明において、物理マスク30の形状は特に制限されず、その凸部31が第一凹部5に装入可能であり且つ凸部31が第一凹部5の底面5cに配された足場因子8を外部から遮断して保護できるものであればよい。
本発明にかかる物理マスクは、例えば図5〜9に示すように、基体32と、基体32の表面32aから突き出すように配された凸部31とを少なくとも備え、凸部31は円柱状であり、その直径lが第一凹部5の直径Lよりも小さく、凸部31の先端は、第一凹部5の底面5cに密着可能な平坦な面であり、凸部31の突き出す高さhが、第一凹部5の深さHよりも長い、物理マスク30が好適なものとして挙げられる。
【0049】
基板2の第一凹部5のサイズは特に制限されず、例えば直径Lを1000μm〜2000μmとして、深さHを150μm〜300μmとすることができる。この場合、物理マスク30の柱状の凸部31のサイズは、例えば直径mをチャンバー4の直径Lよりも10μm〜50μm小さくして、高さhをチャンバー4の深さHよりも10μm〜50μm大きくすればよい。
【0050】
物理マスク30の凸部31の形状は必ずしも円柱である必要はなく、例えば楕円柱、四角柱、五角柱、六角柱等の柱状であることが好ましい。第一凹部5の形状及び底面5cの形状に合わせて、適宜選択すればよい。凸部31の形状が柱状である場合、柱の側面の一部を削いだ形状としてもよい。例えば、図12に示すように、柱状の凸部31の側面31bを削いだ形状としてもよい。柱状の凸部31の側面31bを削ることによって、後段の工程Cにおいて、第一凹部5の側面5dに配された足場因子8の除去がより容易となり得る。
【0051】
凸部31が基体32から突き出す角度は特に制限されない。凸部31を第一凹部5の底面5cに押し付ける際の圧力負荷が容易となるため、前記角度は基体2の表面32aに対して直角であることが好ましい。
【0052】
図7に示すように、凸部31が基体32の表面32aから突き出す高さhは、基板2の第一凹部5の深さよりも長いことが好ましい。この構成であると、凸部31の端面31aを第一凹部5の底面5cに密着させることがより容易となる。さらにこの構成の場合、物理マスク30の表面32aと基板2の表面2aとの距離Gを0よりも大きくすることができ、後段の工程Cで除去すべき領域に配された足場因子8を物理マスク30が覆ってしまうことを防ぐことができる。
【0053】
前記距離Gは、後段の工程Cにおいて基板の表面2a及び溝部Rに配された足場因子8を除去することが容易となることから、大きいほど好ましい。基板2の表面2aの面積及び物理マスク30の表面32aの面積にもよるが、通常、距離Gの下限値は1μm以上であればよく、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。
前記下限値以上とすることによって、前記プラズマ処理におけるプラズマや前記化学処理におけるアルカリ溶液若しくは酸溶液等の処理液が、基板2と物理マスク30の基体2との隙間に入り込むことがより容易となり、第一凹部5の底面5c以外に配された余分な足場因子8を除去することがより容易となり得る。距離Gの上限値は特に制限されず、例えば50μm〜5mm程度とすることができる。
【0054】
凸部31の端面31aが第一凹部5の底面5cを保護する領域の面積は、広いほど好ましい。保護した領域に配された足場因子8において細胞を培養することができるので、当該領域の面積が広いほど、細胞培養に使用し得る面積が広くなる。例えば、第一凹部5の底面5cの全面積を100%とした場合、保護する領域は60%以上が好ましく、75%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましい。
【0055】
基体2の表面2aに設けられた第一凹部5の個数が複数である場合、物理マスク30を構成する基体32において、凸部31は、当該第一凹部の個数に対応させて、複数設けられていることが好ましい。複数の凸部31を基体32に設ける位置は、基体32を基板2の表面2aに対向させた際に、複数の第一凹部5に複数の凸部31が各々臨む位置とすることが好ましい。この構成であれば、基体2の複数の第一凹部5の各底面5cに配された足場因子8を、一個の物理マスク30によって一括して保護することができる。
【0056】
物理マスク30を構成する基体32の形状は、凸部31を保持して、凸部31を基板2の第一凹部5に装入できるものであれば特に制限されず、例えば平板状、網状、棒状等が挙げられる。基体32が網状である場合、当該網を構成する縦棒と横棒の交点に凸部31を配すればよい。また、基体32が棒状である場合、当該棒の所望の位置に凸部31を配することができる。これらの物理マスクは、例えば樹脂基板を材料とした機械加工によって作製できる。
【0057】
物理マスク30の材質(材料)は、後段の工程Cにおける処理に耐えうる材料であれば特に制限されず、例えば種々の樹脂が適用可能である。図5〜9に示す物理マスク30を構成する基体32は、平板状のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製であり、凸部31も同様にPTFE製である。PTFEは、後段の工程Cにおいて使用しうるプラズマ処理やアルカリ若しくは酸等の化学処理に耐性を有すると共に、剛性を有するので、プラズマ処理時における基板2の変形を防止できるので好ましい。したがって、本発明にかかる物理マスクの材質は、PTFEであることが好ましい。
【0058】
ところで、物理マスク30の凸部31を基板2の第一凹部5内に装入した状態で固定する方法として、例えば図11に示すような固定器具40を使用できる。図11は、固定器具40、物理マスク30及び基体2の模式的な断面図である。
固定器具40は、固定板41及び押さえ板42を備えており、固定板41の表面には基板2を保持可能な凹状の固定部45が設けられている。この固定部45内に基体2を固定し、物理マスク30の凸部31を基体2の第一凹部5に装入した状態で、物理マスク30の基体32の上面32bを押さえ板42によって押さえる。押さえ板42によって基体32を押す圧力は、固定板41の底面に配されたナット44及び押さえ板42の上面に配したネジ43の締め具合によって調整できる。ナット44及びネジ43を配する複数の位置は、基板2の中心に対して点対称とすることが好ましい。押さえ板42による押さえる力を、物理マスク30の基体32の上面に均等に負荷することができる。
【0059】
[工程C]
図8又は図9に示すように、第一態様の工程Cは、基板2の第一凹部5の底面5c以外に吸着した足場因子8を除去する工程である。
図8に示すように、物理マスク30によって第一凹部5の底面5cを保護した状態で、基板2の表面をプラズマ処理することによって、保護された底面5c以外に配された足場因子8を変性又は焼却して、足場因子8の細胞接着性を失わせることができる。
ここで、本発明において「足場因子を除去する」とは、当該足場因子の細胞接着性を除去することを意味し、当該足場因子の物理的実体を完全に除去することだけを意味するものではない。
【0060】
工程Cにおいて足場因子8を除去する方法としては、基板2の損傷を極力抑制しつつ、物理マスク30で保護した領域以外の足場因子8を除去できる方法であれば特に制限されない。例えばプラズマ処理又は化学薬品処理が好適な除去方法として挙げられる。
【0061】
前記プラズマ処理における作動ガス(処理ガス)としては、アルゴンガス、窒素ガス、酸素ガス等のプラズマを用いることができる。当該ガスにはブタジエンガス、炭酸ガス等を混合してもよい。ブタジエンガスを混合することによって、プラズマ処理した基板2の表面2aに薄膜を形成して、当該表面2aの接着性をより高めることができる。また炭酸ガスを混合することによって、前記接着性を調整することもできる。
【0062】
前記化学薬品処理としては、NaOH、KOH等のアルカリ水溶液、塩酸、クロム酸等の酸水溶液、又はハロゲン化炭化水素系溶剤を用いた表面処理が挙げられる。
また、足場因子8の除去方法として、コロナ放電処理、オゾン処理、UV照射処理、電子線照射処理、又は火炎による表面処理等を適用してもよい。
【0063】
工程Cにおいて、物理マスク30によって保護した足場因子8以外の足場因子8を除去する方法としては、別途の乾燥処理が不要なドライプロセスであり、基体2の損傷を最低限で抑えることができるので、プラズマ処理が好ましい。基板2の表面2a及び溝部Rをプラズマ処理することによって、不要な足場因子8を除去できる。
【0064】
[工程D]
第一態様の工程Dは、第一凹部5に装入した物理マスク30を取り外す工程である。
物理マスク30を構成する基体32を引き上げることによって、第一凹部5内に装入して、底面5cに押し付けていた凸部31を引き上げればよい。物理マスク30がPTFE製である場合は、耐久性に優れるので、繰り返し使用できる。
【0065】
[工程E]
図10に示すように、第一態様の工程Eは、基板2の表面2aに天板3を接合させて、第一凹部5及び溝部Rに蓋をする工程である。
基板2の表面2aに対して天板3の下面3aを接合させる方法としては特に制限されず、例えば基板2の表面2aに接着性を付与して、下面3aを圧着させることによって接合させる公知の方法が適用できる。
前記接着性を付与する方法としては、基板2の表面2aに接着剤を塗布する方法、基板2の表面2aをプラズマ処理する方法等が挙げられる。
【0066】
前段の工程Cにおいて、余分な足場因子8を除去するためにプラズマ処理を行う場合、当該プラズマ処理の処理室内に天板3を置いて、足場因子8の除去と同時に、天板3の下面3aをプラズマ処理することが好ましい(図9参照)。
すなわち、本発明のマイクロチップの製造方法では、工程Cにおいて、前記プラズマ処理によって、基板2の表面2a及び天板3の表面3a(下面3a)をプラズマ処理で活性化した後、工程Eにおいて、前記活性化された表面同士を圧着することによって、前記接合を行うことが好ましい。この方法によれば、工程Cにおけるプラズマ処理によって、余分な足場因子8を除去できると共に、基板2の表面2aに天板3を接合させるための前処理を行うことができるので、製造工程をより簡便化して製造効率を高められる。
【0067】
前記プラズマ処理等によって基板2の表面2a及び/又は天板3の下面3aに接着性を付与して、表面2aと下面3aとを合わせて圧着することによって、第一凹部5、第二凹部5’、第三凹部5”及び各溝部Rをシールして、貯留部21、チャンバー4、送液流路11、導入流路12、導出流路13、排出流路14及び排出部22を備えたマイクロチップ1を製造することができる(図10参照)。なお、天板3において、第二凹部5’及び第三凹部5”に対応する位置にはスルーホールTが各々設けられているので、貯留部21及び排出部22は、当該スルーホールTを介して外部に連通している。
【0068】
前記プラズマ処理の強度及び処理時間は、基板2、天板3、足場因子8、及びプラズマの種類によっても異なるが、例えば基板2及び天板3がPDMSであり、足場因子8が前記細胞接着性タンパク質であり、酸素プラズマを用いる場合、前記プラズマ処理は100Wで1秒〜30秒が好ましく、1秒〜20秒がより好ましく、1秒〜10秒が更に好ましい。下限値以上であることにより、足場因子8を充分に除去して、基板2及び天板3の接合面を充分に表面改質して接着性を付与することができる。上限値以下であることにより、基板2及び天板3の損傷を最小限に抑えることができる。
また、前記プラズマ処理における電力としては、100〜200Wが好ましい。前記電力範囲の下限値以上であると一層充分に表面改質することができ、上限値以下であると処理対象である基板及び天板の変形を抑制し易い。前記プラズマを発生させる処理室の圧力としては、5〜10Paが好ましい。前記処理室へのプラズマ作動ガス(処理ガス)の流入量としては、100mL/分〜200ml/分が好ましい。プラズマ処理が適切に行われたことは、例えばPDMS基板の場合、その表面の水接触角が25〜40°となることによって確認できる。
【0069】
本発明にかかるマイクロチップの製造方法は、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、前記工程A〜E以外の工程又はステップを含んでいてもよい。
【実施例】
【0070】
アレイ状に配置された複数の第一凹部5及び溝部Rが表面に形成された基板2をフォトリソグラフィ及びPDMSのレプリカモールディングによって作製した(図13参照)。
基板2の表面に形成した微細構造は、個々に独立した64個のチャンバー4(マイクロチャンバー)となる第一凹部5と合計9本の流路(マイクロ流路)となる溝部Rで構成されている。また、細胞導入ポート21(貯留部21)となる第二凹部5’及び薬剤導入ポート22(排出部22)となる第三凹部5”がそれぞれ4個ずつ形成されている。細胞導入ポート21から細胞懸濁液をマイクロチャンバー内に導入でき、薬剤導入ポート22から異なる液性因子を含む4種類の培地を灌流できるように設計されている。
【0071】
以下の手順で、細胞接着性タンパク質を酸素プラズマによってパターニングすると同時に、プラズマボンディングによってマイクロチップ1を組み立てた。
1)PDMS製の基板2の表面に100W、3秒の条件で酸素プラズマを照射して、基板表面を親水化(活性化)した後、第一凹部5のアレイ全面に100μMのコラーゲン水溶液若しくはフィブロネクチン水溶液を塗布し、3分間、37℃の条件で当該細胞接着性タンパク質(足場因子8)を基板表面に物理的に吸着させた。
2)第一凹部5の形状に寸法が適合する凸部31が、第一凹部5の配置に対応するように基体32の表面に備えられたテフロン(登録商標)製の物理マスク30を、基板2上に位置合わせして置き、各凸部31を各第一凹部5に装入した(図13参照)。
3)第一凹部5以外の領域に吸着した細胞接着性タンパク質を分解除去する目的、及び基板2を構成するPDMS表面の活性化を行う目的で、基体2及び物理マスク30を図示しないホルダー(固定器具)で固定して、酸素プラズマを100W、10秒の条件で照射した(図14参照)。この際、天板3も同時にプラズマ照射した。
4)ホルダーを分解し、物理マスク30を取って、基体2及び天板3を圧着して接合さることによって、各マイクロチャンバー及び流路をシールして、細胞導入ポート21、流路11、チャンバー4、及び薬剤導入ポート22を備えたマイクロチップ1を作製した(図15参照)。
【0072】
上記方法による足場因子8のパターニングの状態を観察するため、蛍光色素であるFITCで標識したコラーゲン又はTRITCで標識したフィブロネクチンを使用して、上記方法によってパターニングした。パターニング後の第一凹部5を蛍光観察したところ、細胞接着性タンパク質の種類に依らず、物理マスク30の凸部31のパターン通りに、すなわちマイクロチャンバー4の底部5cにのみ直径1mm程度の円形スポットで、細胞接着性タンパク質が固定化されていることが確認できた(図16参照)。
【0073】
図16(a)は、FITC標識コラーゲンを吸着させたマイクロチャンバー4を蛍光顕微鏡で観察した写真であり、図16(b)は、プラズマ処理によるパターニング後の写真である。パターニング後のマイクロチャンバー4の底面5cにはFITC標識コラーゲンが除去されずに残っている。一方、底面5c以外に配された当該コラーゲンは、プラズマ処理によって除去されていることが明らかである。
図16(c)は、TRITC標識フィブロネクチンを吸着させたマイクロチャンバー4を蛍光顕微鏡で観察した写真であり、図16(d)は、プラズマ処理によるパターニング後の写真である。パターニングの結果は、コラーゲンの場合と同様である。
【0074】
マイクロチップ1の薬剤導入ポート22に4種類の色素溶液を注入し、20〜100kPaの圧力を印加することによって、マイクロチャンバー4を介して細胞導入ポート21まで流した。注入した4種類の色素溶液は、漏れたり、混じり合わずに、各マイクロチャンバーに導入された(図17参照)。このことは、流路に圧力を印加して液体を流した場合においても当該液体のリークが生じない程度に、基板2と天板3との充分な接着強度(接合強度)が得られたことを意味する。したがって、酸素プラズマ照射によって、物理マスク30で保護した領域以外の細胞接着性タンパク質が充分に分解除去されると共に、除去された細胞接着性タンパク質層の下にあるPDMS基板の表面2aが充分に活性化されて、接合に必要な接着性が付与されたことが明らかである。
【0075】
作製したマイクロチップ1中で、CHO細胞及びNIH3T3細胞の培養を行った。足場因子8としてコラーゲン又はフィブロネクチンを配したマイクロチャンバー4を用いた。各足場因子8を配したチャンバー4において、24時間の静置培養によって各細胞は底面に接着し、進展した。ついで、48時間の灌流培養によって各細胞は増殖した。その結果を図18に示す。
【0076】
図18(a)は足場因子8を配していないマイクロチャンバーにおけるCHO細胞(24時間後)であり、図18(b)は足場因子8を配していないマイクロチャンバーにおけるNIH3T3細胞(24時間後)であり、図18(c,g)はコラーゲンを配したマイクロチャンバー4におけるCHO細胞(24時間後、48時間後)であり、図18(d,h)はコラーゲンを配したマイクロチャンバー4におけるNIH3T3細胞(24時間後、48時間後)であり、図18(e,i)はフィブロネクチンを配したマイクロチャンバーにおけるCHO細胞(24時間後、48時間後)であり、図18(f,j)はフィブロネクチンを配したマイクロチャンバーにおけるNIH3T3細胞(24時間後、48時間後)である。
【0077】
CHO細胞、NIH3T3細胞の何れも、足場因子8の無いPDMS表面2aにはほとんど接着しなかった(図18(a,b))。一方、足場因子8を上記パターニング方法によって配した場合には、細胞が当該足場因子8に接着して増殖した。したがって、当該足場因子8は、上記プラズマ処理の際に物理マスク30によって保護されており、その細胞接着性を失わなかったことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明を用いることで、培養環境を網羅的に解析するマイクロチップを簡便に作製することができ、細胞株ごとに異なる性質を有する幹細胞の分化誘導条件を個別に効率的に探索することが可能となる。したがって患者由来のiPS細胞を特定の組織に分化させ、疾患モデル細胞を作成する際の分化誘導プロセスが劇的に効率化する。将来的には、患者ごとに最適な条件で分化誘導された細胞や組織を用いるテーラーメード再生医療の実現につながると考えられる。また、幹細胞に限らず細胞の機能や運命は、液性因子と足場因子によって構成される外部環境に依存する複雑な細胞内シグナル伝達を経て決定されている。本発明によって実現する新たな研究ツールは、このような複雑な生命システムの動作原理の解明にも利用されていくことが期待される。
【符号の説明】
【0079】
1…マイクロチップ、2…基板、2a…基板の表面、3…天板、3a…天板の下面、T…スルーホール、4…チャンバー、4a…主空間部、4b…外周空間部、5…凹部(第一凹部)、5’…第二凹部、5”…第三凹部、5a…主空間凹部、5b…外周空間凹部、5c…凹部の底面、5d…凹部の側面、R…溝部、H…凹部の深さ、L…凹部の直径、6,6A〜6D…試料液、7,7A〜7D…入口流路、8…足場因子、11,11A〜11D…送液流路、12,12A〜12D…導入流路、13,13A〜13D…導出流路、14,14A〜14D…排出流路、15,15A〜15E…出口流路、21…貯留部、22…排出部、30…物理マスク、31…凸部、31a…凸部の先端の面(端面)、32…基体、32a…基体の表面(下面)、32b…基体の上面、h…凸部の高さ、l…柱状凸部の直径、G…基体表面と基板表面との距離(隙間の距離)、P…プラズマ、40…固定器具、41…固定板、42…押さえ板、43…ネジ、44…ナット、45…固定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養用のチャンバー及び前記チャンバーに接続された流路が形成されたマイクロチップの製造方法であって、
前記チャンバーとなる凹部及び前記流路となる溝部が表面に形成された基板、前記凹部に装入可能な凸部が備えられた物理マスク、並びに前記凹部及び溝部を覆う天板を準備して、
前記基板の表面、凹部及び溝部に、細胞の接着を促す足場因子を吸着させる工程Aと、
前記物理マスクの凸部を前記基板の凹部に装入し、前記凸部によって前記凹部の底面の少なくとも一部を覆って、前記底面に吸着した前記足場因子を保護する工程Bと、
前記覆った底面以外に吸着した前記足場因子を除去する工程Cと、
前記凹部に装入した前記物理マスクを取り外す工程Dと、
前記基板の表面に前記天板を接合させて、前記凹部及び溝部に蓋をする工程Eと、
を含むことを特徴とするマイクロチップの製造方法。
【請求項2】
前記工程Cにおいて、前記基板の表面及び溝部をプラズマ処理することによって、前記保護した足場因子以外の前記足場因子を除去することを特徴とする請求項1に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項3】
前記工程Cにおいて、前記基板の表面及び前記天板の表面をプラズマ処理で活性化した後、前記工程Eにおいて、前記活性化された表面同士を圧着することによって、前記接合を行うことを特徴とする請求項2に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項4】
前記足場因子が、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ゼラチン、又はポリリジンを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のマイクロチップの製造方法において使用する物理マスクであって、
基体と、前記基体表面から突き出すように配された前記凸部とを少なくとも備え、
前記凸部は柱状であり、その直径が前記凹部の直径よりも小さく、
前記凸部の先端は、前記凹部の底面に密着可能な面形状であり、
前記凸部の突き出す高さが、前記凹部の深さよりも長いことを特徴とする物理マスク。
【請求項6】
前記物理マスクの材質が、ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項5に記載の物理マスク。
【請求項7】
細胞培養用のチャンバーとなる凹部及び前記チャンバーに接続された流路となる溝部が形成された基板と、前記凹部及び溝部を覆う天板と、を少なくとも備えたマイクロチップであって、
前記凹部の底面にのみ、細胞接着を促す足場因子が配されていることを特徴とするマイクロチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−235749(P2012−235749A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107592(P2011−107592)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年11月15日 インターネットアドレス「RSC PublishingのLab on a Chip 誌の2011年11巻2号 212−214(http://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2011/LC/c01c00390e)及びSupplementary Material (Electronic supplementary information)(http://www.rsc.org/suppdata/1c/c0/c01c00390e/c01c00390e.pdf)」に発表
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】