説明

マイクロニードルシート及びその使用方法並びに製造方法

【課題】ニードルを皮膚内に刺したら、直ちにシートだけを除去し、ニードルのみを皮膚内に残すことができる。
【解決手段】シート14の面に支持された生分解性のニードル12を皮膚内に刺して使用するマイクロニードルシート10であって、ニードル12シート14に近い根元部12Bは先端部12Aよりも脆く形成されており、皮膚16内にニードル12を刺した状態でシート14を皮膚表面に沿って引っ張る力で破壊する脆性度であるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロニードルシート及びその使用方法並びに製造方法に係り、特に薬剤を含有したニードルを皮膚に刺すことにより、皮膚表層又は皮膚角質層において簡便且つ安全に薬剤を投与できるマイクロニードルシートの技術改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高アスペクト比の微小針であるニードルがシート表面に支持されたマイクロニードルシートは、機能性シートとして様々な分野で応用されている。
【0003】
マイクロニードルシートの代表例としては医療技術分野で使用されている経皮吸収シートがある。このマイクロニードルシートは、機能性物質としての薬剤が含有されたニードルを用いることで、患者の皮膚表面又は皮膚角質層を介して、薬剤を患者に効率的に投与することができる。
【0004】
例えば、特許文献1は、薬剤を含む先端部と、当該先端部よりも生体内での溶解速度が大きい根元部とにより構成される二層構造のマイクロニードルを有するマイクロニードルシートを開示している。このマイクロニードルシートを患者皮膚に貼り付けると、患者体内に挿入されたマイクロニードルのうち根元部が優先的に患者体内に溶解するので、マイクロニードルのうち先端部だけを患者体内に残留させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−194288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された従来のマイクロニードルシートでは、皮膚内に刺したマイクロニードルの根元部が体内で溶解するまでシートを皮膚に貼り付けたままにしなくてはならないという欠点がある。このため、例えば、女性がマイクロニードルシートを外部に露出している顔、足、手等に使用する場合、シートが見えるのを嫌がる女性が多い。特に顔に使用する場合にシートが残存することは美的感覚からも問題がある。
【0007】
この場合、従来のマイクロニードルシートは、シートを引っ張ってニードルの根元部を無理に破壊してシートを除去しようとすると、シートを引っ張る力でニードルが皮膚表面から突出すると共に、皮膚内に残るニードル部分が少なくなってしまう。
【0008】
また、従来のマイクロニードルシートは、シートの皮膚面側には粘着層があって皮膚に接着されるようになっている。しかし、粘着性が悪くなるとシートが剥がれ易くなるため、シートの剥がれと一緒にニードルも抜けてしまうという問題がある。
【0009】
このような背景から、マイクロニードルシートのニードルを皮膚に刺したら、直ちにシートだけを簡単に除去し、ニードルのみを皮膚内に残すことのできるマイクロニードルシートが要望されている。
【0010】
上記の要望は、ニードルに薬剤を含む経皮吸収シートに限らず、例えば針治療の道具として使用される置き針についても同様のことがいえる。この置き針は、シートに支持されたニードルを体の壺に刺すことで簡便な針治療として利用されているが、通常2〜3日は置き針をつけたままにするため、シートが見えると見栄えが悪くなる。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ニードルを皮膚内に刺したら、直ちにシートだけを除去し、ニードルのみを皮膚内に残すことのできるマイクロニードルシート及びその使用方法並びに製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、シートの面に支持された生分解性のニードルを皮膚内に刺して使用するマイクロニードルシートであって、前記ニードルの前記シートに近い根元部は先端部よりも脆く形成されており、前記皮膚内にニードルを刺した状態で前記シートを前記皮膚表面に沿って引っ張る力で破壊できる脆性度であることを特徴とするマイクロニードルシートを提供する。
【0013】
本発明のマイクロニードルシートによれば、ニードルを皮膚内に刺した後、直ちにシートを皮膚に沿って引っ張ることにより、ニードルの根元部が破壊する。これにより、シートをニードルから除去して、ニードルのみを皮膚内に残すことができる。また、皮膚内に残ったニードルは生分解性があるので、体内で溶解してなくなる。
【0014】
これにより、本発明のマイクロニードルシートを外部に露出している顔、足、手等に使用する場合であっても、マイクロニードルシートを使用しているかが外見からは分からなくすることができる。
【0015】
なお、ニードルの根元部が脆性を有するようにする方法としては、脆性な材料を使用することもできる。また、根元部の形状、例えば根元部に切り込み形状を入れたり細くしたりして、折れ易くすることで脆性を有するようにしてもよい。
【0016】
本発明において、前記根元部の脆性度を曲げ降伏応力で表したときに該曲げ降伏応力は、0.5MPa以上10MPa以下であることが好ましい。
【0017】
根元部の曲げ降伏応力が0.5MPa未満では破壊され易過ぎるために成形自体が困難になる。また、根元部の曲げ降伏応力が10MPaを超えると、皮膚内にニードルを刺した状態でシートを皮膚表面に沿って引っ張る力で破壊されにくく(折れにくく)なるため、ニードルが根元部以外で破壊したり、ニードルからシートを除去したときにニードルが皮膚表面から突出したりし易くなる。
【0018】
したがって、根元部材料の曲げ降伏応力が0.5MPa以上10MPa以下の脆性であれば、シートを引っ張る力で容易且つ確実に根元部を破壊してニードルのみを皮膚表面から突出しないように皮膚内に残すことができる。
【0019】
本発明において、前記根元部の曲げ降伏応力は、前記根元部よりもニードル先端側である先端部の曲げ降伏応力の1/2以下であることが好ましい。
【0020】
このように、先端部に対する根元部の曲げ降伏応力を1/2以下に規定することで、シートを皮膚の表面に沿って引っ張ったときに根元部のみを容易且つ確実に破壊することができ、先端部は破壊されずに皮膚内に残すことができる。先端部に対する根元部の曲げ降伏応力を1/3以下にすることが一層好ましい。
【0021】
ここで、ニードルの根元部とは、ニードルの基端(シート面)から先端までのニードル全長のうち、基端位置から1/3以内の部分を言う。また、根元部の曲げ降伏応力は根元部のうち最も曲げ降伏応力が小さい箇所での応力であり、先端部の曲げ降伏応力は先端部のうち最も曲げ降伏応力が大きい箇所での応力である。
【0022】
本発明において、前記先端部にはゼラチンを含むと共に、前記根元部には糖類又は糖類とゼラチンの混合物を含むことが好ましい。
【0023】
これは、先端部に含まれるゼラチンは生分解性を有すると共に水溶性であり、ゼラチン水溶液を乾燥することにより収縮して硬くなるので、皮膚に刺すに足る硬度を必要とする先端部の材料として好適である。また、糖類はゼラチンと同様に生分解性を有すると共に水溶性であるが、糖類水溶液を乾燥してもゼラチンほど硬くならずに脆性を有するので、根元部の材料としては好適である。また、根元部の材料として糖類のみでは脆性が大きくなり過ぎて問題がある場合には、ゼラチンと糖類とを適度に混合した混合物を含むようにすることで脆性度を調整できる。
【0024】
本発明において、前記根元部には気泡が含有されていてもよい。
【0025】
これは根元部の脆性度を調整する方法の1つであり、含ませる気泡の量を調整することで脆性度を調整することができる。例えば、根元部の材料をゼラチンで形成してもゼラチン内に気泡が含有されることで、脆性度を大きくすることができる。
【0026】
本発明において、前記根元部の前記シート側には、該根元部を支持する根元支持部が形成されていることが好ましい。
【0027】
これは、ニードルを皮膚に刺したとき、皮膚の弾性による反発力があるため、ニードルの全長が皮膚内に刺すことは困難であり、ニードルの基端位置(ニードル先端の反対側)で破壊されるとニードルが皮膚表面から飛び出した状態になり易い。
【0028】
しかし、本発明では、根元部のシート側に根元支持部を形成するようにしたので、シートを皮膚の表面に沿って引っ張ったときにニードルの基端位置から少し先端側が破壊する。一方、根元支持部はシートと一緒に除去される。これにより、シートを除去した後、ニードルが皮膚表面から飛び出し難くなる。この場合、根元部は、前記ニードル全長の基端位置から100〜200μmの位置にニードル全長の5〜30%の層厚みに形成されていることが好ましい。
【0029】
即ち、ニードルを先端部と根元部と根元支持部の3層構造にした場合には、根元支持部によって根元部が基端位置から100〜200μm先端側に寄った位置に形成されることが好ましい。
【0030】
これは、ニードルを皮膚に刺したとき、皮膚の弾性によって皮膚表面から100〜200μmだけニードルが飛び出す傾向があるため、根元部をニードル全長の基端位置から100〜200μmの位置にニードル全長の5〜30%の層厚みに形成しておけば、シートを除去した後、ニードルが皮膚表面から飛び出すことを確実に防止できる。
【0031】
本発明において、前記先端部は略円錐形状又は略角錐形状であると共に、前記根元部は略円柱形状又は略角柱形状であることが好ましい。
【0032】
これは、先端部は皮膚に刺さり易くするために先端が先鋭な円錐形状又は角錐形状であることが好ましいが、ニードル全体を円錐又は角錐形状にすると、根元部の径が太くなり破壊され難くなる。本発明では根元部を円柱形状又は角柱形状にしたので、先端部の皮膚に刺さり易い性能を確保しながら、根元部が破壊され易くすることができる。
【0033】
本発明において、前記シートの前記皮膚面側には滑り層が形成されていることが好ましい。シートの皮膚面側に滑り層が形成されていることで、シートを皮膚の表面に沿って引っ張ったときに、皮膚とシートの摩擦を小さくできる。なお、特に断らなかったが、本発明のマイクロニードルシートのシートには従来のように皮膚に接着させる粘着層は必要ない。
【0034】
本発明において、前記シートには該シートを引っ張るときに指で摘む摘まみ部が形成されていることが好ましい。
【0035】
マイクロニードルシートは、製品サイズが小さくシートを引っ張り難いが、シートに指で摘む摘まみ部を形成したので、容易且つ正確に引っ張ることができる。これにより、根元部を精度良く破壊することができるので、引っ張った際にニードル全体が皮膚から抜けてしまうことを防止できる。この場合、摘まみ部には、指を挿入するリングが形成されていることが一層好ましい。
【0036】
本発明において、前記先端部には薬剤が含有されていることが好ましい。
【0037】
これは、マイクロニードルシートを経皮吸収シートとして使用する場合であり、先端部に薬剤を含有させることで、皮膚内に残存したニードルの先端部から体内に薬剤を投与でき、しかもシートを除去できるのでマイクロニードルシートを使用していることが外見上分からなくできる。
【0038】
なお、先端部に薬剤を含まない、例えば置き針としてマイクロニードルシートを使用する場合にも、置き針を使用していることが外見上分からなくできる。
【0039】
本発明の請求項13は前記目的を達成するために、請求項1〜12の何れか1のマイクロニードルシートの使用方法であって、ニードルを皮膚内に刺す穿刺工程と、前記シートを指で掴んで前記皮膚の表面に沿って引っ張り、前記ニードルの脆性な根元部を破壊する破壊工程と、前記シートを前記皮膚表面から除去して前記ニードルのみを皮膚内に残すシート除去工程と、を備えたことを特徴とするマイクロニードルシートの使用方法を提供する。
【0040】
請求項13は、本発明のマイクロニードルシートの使用方法を特定したものである。
【0041】
本発明の請求項14は前記目的を達成するために、シートの面に支持された生分解性のニードルを皮膚内に刺して使用するマイクロニードルシートの製造方法において、モールド表面に、薬剤と前記ニードルの先端部を形成する先端部材料とを含む先端部用溶解液を付与する第1の付与工程と、前記付与した先端部用溶解液を、前記モールドの針状凹部内に充填する第1の充填工程と、前記モールドの表面に残存した先端部用溶解液の残存液を除去する第1の除去工程と、前記先端部用溶解液の残存液が除去された後のモールド表面に、前記ニードルの根元部を形成する根元部材料を含む根元部用溶解液を付与する第2の付与工程と、前記付与した根元部用溶解液を、前記針状凹部内の空間部に充填すると共に前記モールド表面に連続して根元部用溶解液の板状面を形成する第2の充填工程と、前記先端部用溶解液及び前記根元部用溶解液を乾燥して固化する乾燥工程と、前記先端部と前記根元部とにより構成されるニードル成形品をモールドから剥離する剥離工程と、前記ニードル成形品の前記板状面に前記シートを貼り付けるシート貼付け工程と、を備えたことを特徴とするマイクロニードルシートの製造方法を提供する。
【0042】
請求項14は本発明のマイクロニードルシートの製造方法を特定したもので、この製造方法によって本発明のマイクロニードルシートを製造することができる。
【0043】
本発明の製造方法において、前記根元部の前記シート側に、前記根元部を支持する根元支持部を成形する工程を備えることが好ましい。
【0044】
また、本発明の製造方法において、前記シートは、前記ニードル成形品に貼り付ける粘着層部分と、前記粘着層を有しないと非粘着層部分とで構成されており、前記粘着層部分を前記ニードル成形品に貼り付けて剥離することにより、前記剥離工程と前記シート貼付け工程とを一度に行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、ニードルを皮膚に刺したら、直ちにシートだけを除去し、ニードルのみを皮膚内に残すことができる。したがって、例えば、女性がマイクロニードルシートを外部に露出している顔、足、手等に使用する場合でも、外見上分からなくすることができる。また、シートの剥がれと一緒にニードルも抜けてしまうという従来の問題も解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明のマイクロニードルシートの一態様を示す断面図
【図2】本発明のマイクロニードルシートの別態様を示す断面図
【図3】マイクロニードルシートの使用方法の説明図
【図4】マイクロニードルシートの使用方法のステップ図
【図5】マイクロニードルシートのシートを説明する説明図
【図6】マイクロニードルシートの補助冶具の説明図
【図7】マイクロニードルシートの製造方法のステップ図
【図8】加圧充填装置を説明する説明図
【図9】遠心法による余剰溶解液除去装置を説明する説明図
【図10】実施例の試験結果の説明図
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、添付図面に従って本発明のマイクロニードルシート及びその使用方法並びに製造方法についての好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0048】
なお、本発明のマイクロニードルシートは、機能性を有するシートとして様々な分野に適用可能であるが、本実施の形態では医療技術分野で使用されている経皮吸収シートとしての例で説明する。
【0049】
図1はマイクロニードルシートの構造例の一例を示す断面図である。
【0050】
図1に示すように、マイクロニードルシート10は、微小針のニードル12がシート(例えば樹脂製シート)14面上に垂直に支持される。ニードル12の数は1本以上あればよく、通常は、複数本のニードル12がシート14面上に格子状に配列される。
【0051】
ニードル12は、薬剤を含む先端部12Aと薬剤を含まない根元部12Bとで構成され、皮膚内に刺されたニードルの皮膚表面に近い根元部12Bは、シート14を皮膚表面に沿って引っ張る力で破壊できる脆性度を有する。
【0052】
ここで、ニードル12の根元部12Bとは、図1に示すように、ニードル12の基端(シート面)から先端までのニードル全長(H)のうち、基端位置から1/3以内の部分を言う。そして、ニードル12を先端部12Aと根元部12Bとの2層構造で形成した場合には、根元部12B以外のニードル部分が先端部12Aになる。
【0053】
根元部12Bの材料の脆性度を曲げ降伏応力で表したときに、曲げ降伏応力が0.5MPa以上10MPa以下の範囲であることが好ましく、2MPa以上6MPa以下の範囲であることがより好ましい。また、ニードル12の先端部12Aと根元部12Bとを曲げ降伏応力の相対的な関係で見た場合には、根元部12Bの曲げ降伏応力は先端部12Aにおける曲げ降伏応力の1/2以下、より好ましくは1/3以下であることが好ましい。
【0054】
これは、先端部12Aはニードル12を皮膚内に刺すときに破壊されない(折れない)だけの硬度が必要であり、根元部12Bはシート14を皮膚の表面に沿って引っ張ったときに破壊される(折れる)ための脆性が必要であるからである。したがって、根元部12Bの曲げ降伏応力を先端部12Aの1/2以下に規定することで、ニードル12を皮膚内に確実に刺すことができ、且つシート14を皮膚の表面に沿って引っ張ったときに根元部12Bのみを容易且つ確実に破壊することができる。これにより、先端部12Aのみが破壊されずに皮膚内に残る。
【0055】
ここで、根元部12Bの曲げ降伏応力は根元部12Bのうち最も曲げ降伏応力が小さい箇所での応力であり、先端部12Aの曲げ降伏応力は先端部12Aのうち最も曲げ降伏応力が大きい箇所での応力である。ニードル12の根元部12Bが脆性を有するようにする方法としては、脆性な材料を使用することもできる。また、根元部12Bの形状、例えば根元部に切り込み形状を入れたり細くしたりして折れ易くすることで脆性を有するようにしてもよい。
【0056】
そして、先端部12A及び根元部12Bの曲げ降伏応力を材料の選択により規定する場合には、次の方法で曲げ降伏応力を測定する。
【0057】
即ち、先端部12Aを形成する先端部材料又は根元部12Bを形成する根元部材料を曲げて降伏するときの力を、次の手順で測定する。
【0058】
(1)溶解液の調整…先端部又は根元部の材料を50℃の温水に溶解して20%(固形分)濃度の溶解液を調整する。
【0059】
(2)測定シートの作製…溶解液を型に注入後、乾燥させることにより幅10mm、厚み1mmの測定シートを作製する。
【0060】
(3)曲げ試験…離間した一対の載置台同士の間に測定シートを架設し、測定シートの上から測定シートに対して荷重をかけたときに測定シートが降伏するときの応力を測定する。
【0061】
また、ニードル12の先端部12Aを構成する先端部材料は、生体内で分解されやすい材料(生分解性材料)であると共に、生体適合性を有する材料(生体適合材料)であることが好ましい。具体的には、ゼラチン、アガロース、ペクチン、ジェランガム、カラギナン、キサンタンガム、アルギン酸、でんぷん、セルロースなどのゲル化性を有するポリマー(ゲル化性ポリマー)や、アクリルやポリスチレンなどのポリマーを使用することができる。これらの先端部材料の中でも、曲げ降伏応力が15〜25MPa(平均20MPa)であると共に、水溶性のゼラチンを用いることが好ましい。ゼラチン以外の先端部材料の曲げ降伏応力については記載しなかったが、上記したように、ニードル12を皮膚内に刺すときに破壊しないだけの硬度が必要であり、ゼラチンの曲げ降伏応力の下限である15MPa以上を満足する先端部材料を使用することが好ましい。
【0062】
ニードル12の根元部12Bを構成する根元部材料は、生体内で分解されやすい材料(生分解性材料)であると共に、生体適合性を有する材料(生体適合材料)であることが好ましい。また、根元部材料は、上記したように脆性を有することが必要であり、糖類を含む材料を好ましく使用することができる。具体的な糖類の種類としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース等の単糖類や、ラクトース、マルトース、スクロース、トレハロース等の二糖類や、デキストリン、デンプン、プルラン等の多糖類を使用することができる。根元部材料のうち曲げ降伏応力が比較的小さな材料としてはデキストリンがあり、曲げ降伏応力は0.5〜1MPa(平均0.75MPa)の範囲である。根元部材料のうち曲げ降伏応力が比較的大きな材料としてはプルランがあり、曲げ降伏応力は7〜10MPa(平均8.5MPa)の範囲である。
【0063】
したがって、根元部材料としては、糖類の種類を適切に選択すれば糖類のみで構成することも可能であるが、上記した先端部材料に上記した根元部材料を混合して曲げ降伏応力が0.5MPa以上10MPa以下の範囲になるように調整することが好ましい。例えば、ゼラチンとデキストリンとを1:1の比率で混合した混合物の曲げ降伏応力は10〜15MPa(平均12.5MPa)になり、1:2の比率で混合した混合物の曲げ降伏応力は6〜10MPa(平均8MPa)の範囲になる。また、ゼラチンとデキストリンとを1:3の比率で混合した混合物の曲げ降伏応力は4〜6MPa(平均5MPa)の範囲になる。このように、根元部材料に先端部材料を混合することにより、根元部12Bの曲げ降伏応力を適切に調整することができ、且つ先端部12Aと根元部12Bとの密着性向上にも寄与する。なお、根元部材料の曲げ降伏応力が0.5MPa未満であると、破壊され易く、成形自体が困難になる。
【0064】
ニードル12の形状は、例えば、円柱や角柱などの柱形状や、円錐または角錐などの錐形状や、柱形状と錐形状とを組み合わせた形状(「錐柱形状」と呼ぶ。)や、これらに準ずる形状であってもよい。しかし、図1のように、錐形状の先端部12Aと、柱形状の根元部12B及とを有する錐柱形状のニードル12であることが一層好ましい。
【0065】
ニードル12は、患者に与える痛みを軽減する観点から、先端が鋭く尖った高アスペクト比の構造体であることが好ましい。例えば、ニードル12の幅(直径)は50〜200μmであることが好ましく、ニードル12の先端の曲率半径は10μm以下であることが好ましい。ニードル12の高さは100〜2000μmであることが好ましい。また、ニードル12のアスペクト比は、2以上10以下であることが好ましい。ここで、ニードル12のアスペクト比Aは、図1に示すように、ニードル12の長さHと幅(直径)Dを用いて、A=H/Dにより定義される。なお、ニードル12の長さはシート14面からの突起長さHを意味する。
【0066】
また、シート14は、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)等の樹脂製シートを好適に使用できる。
【0067】
図2は、マイクロニードルシート10の別態様であり、根元部12Bのシート14側に根元支持部12Cを設けることにより、ニードル12を3層構造に形成したものである。この場合、根元支持部12Cの曲げ降伏応力は先端部12Aと同等であることが好ましい。
【0068】
このように、ニードル12に根元支持部12Cを設けることにより、根元部12Bを所定距離だけ先端部12A側に寄ることになる。どの程度寄せるかは、ニードル全長の基端位置から100〜200μmの位置まで寄せ、この位置からニードル全長の5〜30%の層厚みを有して形成されることが好ましい。また、ニードル全長における先端部12A、根元部12B、及び根元支持部12Cとの層厚み比率で見た場合、40〜70%を先端部12Aとし、5〜30%を第1の根元部12Bとし、残りを根元支持部12Cとすることが好ましい。
【0069】
次に、上記の如く構成された図1のマイクロニードルシート10を使用して、本発明のマイクロニードルシート10の使用方法を説明する。
【0070】
図3に示すように、マイクロニードルシート10のニードル12を皮膚16内に刺した後、直ちに、シート14を上から左手の指18で押圧しながら、シート14端部の摘まみ部14Aを右手の2本の指20、20で摘んで、皮膚16の表面に沿って矢印方向に引っ張る。これにより、ニードル12の脆性な根元部12Bが破壊(折れる)してシート14がニードル12から除去される。この場合、破壊された根元部のうちシート側の根元部はシート14と一緒に除かれる。これにより、ニードル12のみ、特に薬剤が含有される先端部12Aを皮膚16内に残すことができる。また、皮膚16内に残ったニードル12は生分解性があるので、生体内で溶解してなくなる。
【0071】
この使用方法の各ステップを図4の模式図で更に説明すると、図4(A)のように、マイクロニードルシート10のニードル12を皮膚に押し当てた状態で図4(B)のように、シート14を上から押圧してニードル12を皮膚16内に刺す。次に、図4(C)のように、シート14を押圧した状態で皮膚16表面に沿って引っ張る。これにより、図4(D)に示すように、ニードル12のみが皮膚16内に残り、シート14は除去される。
【0072】
上記使用方法において、ニードル12を皮膚16内に刺したとき、皮膚16の弾性による反発力がある。したがって、ニードル12の全長を皮膚16内に刺すことは困難であり、一般的に、皮膚16表面からニードル12が100〜200μm程度飛び出す。したがって、根元部12Bの折れる位置によっては、皮膚16内に残ったニードル12が皮膚表面から飛び出した状態になることも考えられる。この場合には、図2に示したマイクロニードルシート10を使用すれば、根元部12Bはニードル全長の基端位置から100〜200μmの位置に5〜30%の層厚に形成されているので、皮膚16内に残ったニードル12が皮膚16表面から飛び出すことを効果的に防止できる。
【0073】
これにより、本発明のマイクロニードルシート10を外部に露出している顔、足、手等に使用する場合であっても、マイクロニードルシート10を使用しているかが外見からは分からなくすることができる。
【0074】
また、上記マイクロニードルシート10の使用において、マイクロニードルシート10自体が小さいものなので、シート14を引っ張りにくいという欠点があるが、図5及び図6のように改良することで、シート14を引っ張り易くすることができる。
【0075】
図5(A)は、シート14を指で摘む面積を大きくしたものであり、ニードル12が配列支持されるニードル配列領域22(破線部分)の反対側に、2本の指で摘み易い面積の摘まみ部14Aを設けたものである。
【0076】
図5(B)は、摘まみ部14Aをリング形状にしたものであり、例えば人指し指をリング内に差し込むことにより、シート14を引っ張り易くなる。
【0077】
また、図6は、シート14を皮膚16の表面に沿って引っ張ったときにニードル12の根元部12Bを確実に破壊(折る)するための補助冶具24を設けたものである。
【0078】
図6(A)に示すように、補助冶具24は、ニードル12の根元部12Bの層厚みよりも薄い金属製又はプラスチック製の薄板形状に形成される。薄板形状に形成された補助冶具24の先端面にはニードル12が挿入される穴26が穿設され、後端面には補助冶具24を押さえ付ける押さえ部28が形成される。補助冶具24に形成される穴26の大きさはニードル12の根元部12Bの径よりも大きいことが好ましい。また、図6(A)の補助冶具24を使用するマイクロニードルシート10は、シート14面上に縦横3本ずつ合計9本のニードル12が格子状に配列された場合であり、補助冶具24の先端面にもニードル12に対応する穴26が9個形成される。
【0079】
この補助冶具24の使用方法は、マイクロニードルシート10の9本のニードル12を補助冶具24の穴26にそれぞれ挿入した状態で、図6(B)のようにニードル12を皮膚16内に刺す。そして、補助冶具24の押さえ部28を左手の指18で押えつけた状態で右手の2本の指20、20によりシート14を皮膚表面に沿って矢印方向に引っ張る。これにより、ニードル12の根元部12Bには補助冶具24による切断力が付与されるので、根元部12Bを確実に破壊することができる。したがって、マイクロニードルシート10と補助冶具24とをセットにしたセット商品として販売することが好ましい。
【0080】
次に、図2のマイクロニードルシート10を製造する製造方法について説明する。
【0081】
まず、図7(a)に示すように、針状凹部30を有するモールド32の表面32Aに、薬剤と先端部材料とが水やアルコール等の溶媒に分散又は溶解した第1の溶解液34を付与する(溶解液付与工程)。針状凹部30は、モールド32の表面32Aに比べて窪んだ領域であり、針状凹部30の形状は、図2で説明したニードル形状の反転型形状に形成される。
【0082】
モールド32の材質は特に限定されないが、成形されたニードル成形品の剥離時の損傷を防止する観点から、シリコンゴム等の剥離性が良好な樹脂を用いることが好ましい。
【0083】
第1の溶解液34の付与方法として、バー塗布、スピン塗布、スプレー塗布などの塗布方式や、インクジェット記録装置を用いた滴下方式が挙げられる。特に、インクジェット記録装置の滴下方式で必要量を滴下する方法が好ましい。
【0084】
第1の溶解液34の付与量は、先端部12Aがニードル12の所望領域に形成されるように、第1の溶解液34における先端部材料の濃度を考慮して適宜調節される。また、第1の溶解液34における先端部材料の濃度は、成形性を損なわずに短時間で溶媒を揮発させる観点から、10〜50質量%の範囲であることが好ましい。
【0085】
本明細書において、「薬剤」とは、人体に対して何らかの有利な作用を及ぼす効能がある物質を総称するものであり、例えば、インシュリン、ニトログリセリン、ワクチン、抗生物質、喘息薬、鎮痛剤・医療用麻薬、局所麻酔剤、抗アナフェラキシー薬、皮膚疾患用薬、睡眠導入薬、ビタミン剤、禁煙補助剤、美容薬(例えばヒアルロン酸)等を指す。
【0086】
また、第1の溶解液34は、薬剤及び先端部材料以外にも種々の添加剤を含んでいてもよい。例えば、患者体内に薬剤をより効率的に吸収させる観点から、薬剤と併せてアジュバンドを添加してもよい。
【0087】
次に、図7(b)に示すように、モールド表面32A上の第1の溶解液34を、針状凹部30内に充填する(溶解液充填工程)。第1の溶解液34を針状凹部30内に充填する方法として、加圧法が通常使用される。
【0088】
図8は加圧充填装置を示す図である。同図に示す加圧充填装置50は、流入口58及び排出口60を備える耐圧容器52と、耐圧容器52の内部に設けられた台座54と、耐圧容器52に加圧流体を送り込むコンプレッサー56とを含む。この加圧充填装置50を以下の手順で動作させることで、第1の溶解液34を針状凹部30内に充填することができる。即ち、第1の溶解液34を注型したモールド32が台座54に載置された状態で、コンプレッサー56により、流入口58を介して耐圧容器52に加圧流体を送り込む。加圧流体は、気体又は液体を用いることができる。加圧流体として使用可能な気体には、空気を挙げることができるが、第1の溶解液34への加圧流体の溶解を防止する観点から、第1の溶解液34に対する溶解率が低い気体を選択することが好ましい。第1の溶解液34の揮発による粘度上昇を防止する観点から、第1の溶解液34の溶媒と同種の液体を耐圧容器52の内部に予め溜めておき、耐圧容器52の内部が当該液体の蒸気で飽和した状態にすることが好ましい。
【0089】
上記の手順に従って、加圧充填装置50を動作させることにより、第1の溶解液34が針状凹部30内に迅速に充填される。
【0090】
また、第1の溶解液34の充填方法としては、加圧法の他に減圧法を採用することも可能であるが、減圧法についてはニードル12の根元部12Bを成形するところで説明する。
【0091】
次に、モールド表面32A上に残存している第1の溶解液34Aを遠心法により除去する(余剰溶解液除去工程)。即ち、図9の余剰溶解液除去装置33に示すように、モールド32を回転テーブル36上に固定し、回転テーブル36を回転装置39で回転することにより、遠心力でモールド表面32A上に残存している第1の溶解液34Aを飛散させる。これにより、図7(c)に示すように、モールド表面32A上に残存している第1の溶解液34が除去される。なお、モールド表面32A上に残存している第1の溶解液34を除去する方法としては、遠心法に限定されず、例えばモールド表面32Aの側方から風を吹いて飛ばす方法や、ヘラ等で掻き取る方法があるが、遠心法が特に好ましい。また、モールド表面32Aから除去した溶解液は再利用することができる。
【0092】
次に、モールド32を乾燥装置(図示せず)に入れて針状凹部30内に充填された第1の溶解液34を乾燥する(溶解液乾燥工程)。この場合、上記した加圧充填装置50内に熱風を吹き込める構造にしておいて、耐圧容器52を乾燥容器として使用することができる。これにより、図7(d)のように、第1の溶解液34の溶媒が除去されて収縮固化するので、針状凹部30内には次の根元部材料を充填するための空間部38が形成される。但し、余剰溶解液除去工程により空間部38が形成されていれば乾燥工程は必要ではない。
【0093】
次に、図7(e)に示すように、第1の溶解液34が針状凹部30内で固化されたモールド表面32A上に、ニードル12の根元部12Bを形成するための根元部材料を水・アルコールなどの溶媒に分散又は溶解した第2の溶解液40を付与する(溶解液付与工程)。付与方法としては、バー塗布、スピン塗布、スプレー塗布などの塗布方式や、インクジェット記録装置による滴下方式が挙げられるが、インクジェット記録装置による滴下方式が特に好ましい。第2の溶解液40の付与量は、根元部12Bがニードル12の所望領域に形成されるようにする。具体的には、上記したように、ニードル全長の基端位置から100〜200μmの位置にニードル全長に対して5〜30%の層厚に形成されることが好ましい。このように形成されるように、第2の溶解液40における根元部材料の濃度を考慮して適宜調節される。
【0094】
次に、第1の溶解液34の場合と同様に、第2の溶解液40について溶解液充填工程→余剰溶解液除去工程→溶解液乾燥工程を繰り返す。これにより、図7(f)のように、第1の溶解液34が固化した層の上に第2の溶解液40の固化した層が積層されると共に、次に充填する根元支持部12Cを形成するための空間部38が形成される。
【0095】
かかる根元部12Bの形成において、根元部12Bは、ニードル12全体において最も大きな脆性を有する部位として成形する必要があるので、必要な脆性を得るために、第2の溶解液40の充填を加圧法に代えて減圧法で行う方法もある。減圧法は特に図示しないが、第2の溶解液40を減圧下でモールド表面32A上に付与した後に大気圧に戻す方法である。減圧法は、第2の溶解液40に使用する溶媒の種類に揮発性の溶媒を使用することにより減圧下で沸騰して発泡し、成形された根元部12Bの内部に気泡が混入する。したがって、この減圧法を巧みに利用することで、根元部12Bに気泡が含有されてポーラスになるので、脆性が大きくなる。どの程度の減圧度にすればどの程度の脆性になるかは、予め予備試験等において試験するとよい。
【0096】
次に、根元支持部12Cを形成するための第3の溶解液42を使用して、溶解液付与工程→溶解液充填工程→溶解液乾燥工程を行う。これにより、図7(g)に示すように、根元部12Bのシート14側に根元支持部12Cが形成される。根元支持部12Cは、図7(g)から分かるように、針状凹部30に充填された第3の溶解液42がモールド表面32Aに連続した薄膜状の板状部42Aを形成するT字状の層として形成される。したがって、溶解液除去工程を行わなくてもよいか、あるいはモールド表面32Aに第3の溶解液42が薄膜状に残存する程度に遠心法を行うとよい。これにより、先端部12Aと、根元部12B及び根元支持部12Cから成る3層構造のニードル成形品44が成形される。
【0097】
最後に、図7(h)に示すように、ニードル成形品44の板状部42Aに粘着シートを張り付けてシート14ごと剥離する(剥離工程)。これにより、図7(i)に示すマイクロニードルシート10が得られる。
【0098】
この場合、本発明のマイクロニードルシート10は、上記使用方法で説明したように、ニードル12を皮膚16内に刺した後、直ちにシート14を除去してニードル12のみを体内に残す目的で製造されたものである。したがって、図7(j)に示すように、シート14の粘着層はニードル12が配列されたニードル配列領域22のみに存在することが好ましい。
【0099】
ニードル成形品44の剥離方法としては、上記説明した粘着シートの場合に限らず、ニードル成形品44の裏面に吸盤を吸着させて剥離する方法などが挙げられる。この場合には、吸盤でモールド32から剥離されたニードル成形品44に後からシート14を貼り付ける必要があり、シート14の貼付面側に滑り層を備えたシートを貼り付けることが好ましい。これにより、皮膚16の表面に沿ってシート14を引っ張る際に、皮膚面に対して滑り層が滑るので、シート14を引っ張り易くすることができる。
【0100】
なお、上記したマイクロニードルシートの製造方法では、図2に示す3層構造のニードル12の場合で説明した。しかし、図1の2層構造の場合には、先端部12Aを成形した上に、根元部12Bを成形すればよく、基本的な製造方法は同様である。
【0101】
以上、本発明の一実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【実施例】
【0102】
本実施例では、上述の実施形態の製造方法により、以下に示すようにマイクロニードルシートを作製した。
【0103】
[試験サンプル1]
<モールドの作製>
まず、φ250μmの針金状金属を用い、その先端300μmの部分を先端曲率半径5μmの円錐形状に研削加工した。そして、40mm×40mm角の平滑な銅板の中央部に穴をあけた後、前記の如く先端を切削加工した1本目の針金状金属の先端を穴から1000μm突出させて固定した。同様に、針金状金属を、1本目の針金状金属を基準として、ピッチ500μmにて格子状に配列した。即ち、銅板の面に対して垂直に10本×10本で格子状に針金状金属を配列させて固定し、原版とした。この原版を用いて、シリコンゴム(信越シリコーン型取り用RTVゴム)にて転写品(原版の反転型)を作製し、転写品の周囲部分を切り落とすことにより、45mm×45mm角で厚みが5mmのモールド(型)32を作成した。即ち、モールド32には、10×10の格子配列をした針状凹部30がモールド表面32Aから窪んだ穴として形成されている。
【0104】
<第1〜第3の溶解液の調製>
ゼラチン(新田ゼラチン732)を水で溶解し、20質量%の水溶液とした。そして、40℃で攪拌した後、同温度で3時間保温し、この液中に、薬剤としてアスコルビン酸を1%添加したものを、先端部12Aを成形するための第1の溶解液34とした。なお、アスコルビン酸を添加しないものを第3の溶解液42とした。また、第2の溶解液40は、ゼラチンとデキストリンを1:3の質量混合比で混合したものを用いた。
【0105】
<第1の溶解液の付与及び充填工程>
シリコンゴム製のモールド32の表面32Aに、インクジェット記録装置を用いて第1の溶解液34を1.5mL滴下した。そして、ジャケットにより内部を40℃まで加熱した加圧充填装置50の中にモールド32を入れて、コンプレッサからの圧縮空気により、耐圧容器52内の圧力を0.5MPa(0.4〜1.0MPa)として3分間(2〜4分間)保持した。なお、括弧内は好ましい圧力範囲及び保持時間である。
【0106】
これにより、第1の溶解液34を、モールド32の針状凹部30に充填した。この後、針状凹部30に入りきらずに、モールド表面32Aに残存した第1の溶解液34Aを、余剰溶解液除去装置33によりモールド32を3000rpm(2000〜4000rpm)にて10秒間(6〜20秒間)回転させることで除去した。なお、括弧内は好ましい回転数及び保持時間である。
【0107】
<第1の溶解液の乾燥工程>
充填工程を終えた後の加圧充填装置50を乾燥装置に代用して、耐圧容器52の中のモールド32に60℃(40〜70℃)の温風を当てて、針状凹部30に充填された第1の溶解液34を2時間(1〜4時間)乾燥処理した。なお、括弧内は好ましい熱風温度及び乾燥時間である。これにより、針状凹部30の第1の溶解液34が収縮固化し、ニードル12の先端部12Aが成形される。
【0108】
<第2の溶解液の付与工程〜乾燥工程>
上記説明した第1の溶解液の付与工程〜乾燥工程と同様な方法で、根元部12Bを成形する。即ち、根元部12Bを成形する第2の溶解液40をモールド表面32Aに1mL滴下する。そして、加圧充填装置50で針状凹部30の前記成形した先端部12Aの上に形成された空間部38に充填した後、余剰溶解液除去装置33によりモールド32を回転させて、モールド表面32Aに残存する第2の溶解液40の残存液を除去する。そして、加圧充填装置50を乾燥装置に代用して、耐圧容器52の中のモールド32に60℃(40〜70℃)の温風を当てて、針状凹部30の空間部38に充填された第2の溶解液40を1時間(0.5〜2時間)乾燥処理した。これにより、針状凹部30内の先端部12Aの上に、根元部12Bが成形されると共に、針状凹部30の根元部12Bの上に次の根元支持部12Cを成形するための空間部38が形成される。
【0109】
<第3の溶解液の付与工程〜乾燥工程>
さらに、上記と同様に、根元支持部12Cを成形するための第3の溶解液42をモールド表面32Aに3mL滴下し、加圧充填装置50で針状凹部30に充填した後、加圧充填装置50を代用した乾燥装置で60℃、30分の乾燥処理を行った。なお、第3の溶解液42の場合には、モールド表面32Aに根元支持部12Cの一部分である板状部42Aを形成する必要があるので、モールド表面32Aに薄膜が形成される程度に第3の溶解液42の余剰液を除去した。これにより、先端部12Aと、根元部12B及び根元支持部12Cとから3層構造のニードル成形品44が作成される。
【0110】
<ニードル成形品の剥離工程>
ニードル成形品44の板状部42Aに、ニードル配列領域22のみに粘着層を有するシート14を貼りつけて、シート14ごとニードル成形品44をモールド32から剥離する。これにより、マイクロニードルシート10が製造される。このマイクロニードルシート10のニードル12は、先端部12Aに相当する部分の層厚み(長さ)が約600μm、根元部12Bに相当する部分の層厚みが約200μm、根元支持部12Cに相当する部分の層厚みが約150μm(板状部42Aも含まない)となった。このように製造したマイクロニードルシート10を試験サンプル1とした。
【0111】
試験サンプル1のニードル全長(板状部42Aも含む)は1000μmであり、根元部12Bの曲げ降伏応力は6MPaであった。更に、根元部12Bの曲げ降伏応力は先端部12Aの曲げ降伏応力20MPaの1/3.3であった。
【0112】
[試験サンプル2]
上記試験サンプル1における第2の溶解液40を、デキストリンに置き換えて、他は同様にしてマイクロニードルシートを製造したものを試験サンプル2とした。試験サンプル2における根元部12Bの曲げ降伏応力は0.5MPaであった。
【0113】
[試験サンプル3]
上記試験サンプル1における第2の溶解液40を、ゼラチンとデキストリンを1:3の質量混合比で混合したものに置き換えて、他は同様にしてマイクロニードルシートを製造したものを試験サンプル3とした。試験サンプル3における根元部12Bの曲げ降伏応力は4.5MPaであった。
【0114】
[試験サンプル4]
試験サンプル4は、上記試験サンプル1における第2の溶解液40を、ゼラチンに置き換えて、他は同様にしてマイクロニードルシートを製造したものを試験サンプル4とした。即ち、試験サンプル4はニードル全体の曲げ降伏応力が20MPaのゼラチンで製造した場合である。
【0115】
[試験サンプル5]
試験サンプル5は、上記試験サンプル1における第2の溶解液40を、曲げ降伏応力が10MPaのプルランに置き換え、他は同様にしてマイクロニードルシートを製造した場合である。
【0116】
[試験サンプル6]
試験サンプル6は、上記試験サンプル1における第2の溶解液40を、ゼラチン:デキストリン=1:1の混合比率の混合溶液に置き換え、他は同様にしてマイクロニードルシートを製造した場合である。ゼラチン:デキストリンを1:1に混合した場合の曲げ降伏応力は12MPaであった。
【0117】
[シート除去試験方法]
上記の如く製造した試験サンプル1〜6について、以下の(1)〜(3)の手順でシート除去試験を行い、皮膚表面に沿って引っ張る力でニードルの根元部を容易且つ確実に破壊するための好ましい脆性度を調べた。評価項目としては、「皮膚内に残ったニードルの長さ」と「ニードルの刺さり具合」を評価した。
【0118】
(1)マイクロニードルシートを擬似皮膚に、シートの上から指で押しつけて刺す。
【0119】
(2)次に、シート表面を指で皮膚側に押さえつけたまま、ニードルの根元部が破壊(折れる)するまでシートを水平方向に引っ張って、シートを除去する。
【0120】
(3)擬似皮膚から飛び出ている針の長さ、及びシートに残った針の長さを測定し、「皮膚内に残ったニードルの長さ」を計算すると共に、目視にて「ニードルの刺さり具合」を評価した。
【0121】
[シート除去試験結果]
試験結果を図10の表に示す。なお、図10の表には「皮膚内に残ったニードルの長さ」を10本×10本(合計100本)の平均で示してある。
【0122】
図10の表から分かるように、試験サンプル1は、「皮膚内に残ったニードルの長さ」の平均は約800μmであり、ニードル全長(1000μm)のうちの殆どを皮膚内に残すことができた。また、「ニードルの刺さり具合」としては、10本×10本(合計100本)の全てのニードルが、皮膚表面から飛び出しておらず、良好であった。この結果から、ニードルの根元部の曲げ降伏応力が6MPaの場合、シートを引っ張る力で容易且つ確実に根元部を破壊してニードルのみを皮膚表面から突出しないように皮膚内に残すことができる。
【0123】
試験サンプル2は、「皮膚内に残ったニードルの長さ」の平均は約820μmであり、ニードル全長(1000μm)のうちの殆どを皮膚内に残すことができた。また、「ニードルの刺さり具合」としては、10本×10本(合計100本)の全てが、皮膚表面から飛び出しておらず、良好であった。この結果から、ニードルの根元部の曲げ降伏応力が0.5MPaの場合、シートを引っ張る力で容易且つ確実に根元部を破壊してニードルのみを皮膚表面から突出しないように皮膚内に残すことができる。
【0124】
試験サンプル3は、「皮膚内に残ったニードルの長さ」の平均は約815μmであり、ニードル全長(1000μm)のうちの殆どを皮膚内に残すことができた。また、「ニードルの刺さり具合」としては、10本×10本(合計100本)の全てが、皮膚表面から飛び出しておらず、良好であった。この結果から、ニードルの根元部の曲げ降伏応力が4.5MPaの場合、シートを引っ張る力で容易且つ確実に根元部を破壊してニードルのみを皮膚表面から突出しないように皮膚内に残すことができる。
【0125】
試験サンプル4は、「皮膚内に残ったニードルの長さ」の平均は約200μmと極めて短く、「ニードルの刺さり具合」も10本×10本(合計100本)のうちの半分以上がシートと一緒に皮膚から抜け出てしまっていた。この結果から、ニードルの根元部を先端部と同じ材料で形成した場合、シートを引っ張る力で破壊しないか、破壊したとしてもニードルの皮膚表面に近い根元部以外の部分が破壊していることが分かる。
【0126】
試験サンプル5は、「皮膚内に残ったニードルの長さ」の平均は約600μmであり、ニードル全長の半分以上を皮膚内に残すことができた。また、「ニードルの刺さり具合」において皮膚表面からの飛び出しも少なかった。この結果から、ニードルの根元部の曲げ降伏応力が10MPaの場合、根元部の脆性度は略満足できる結果であった。
【0127】
試験サンプル6は、「皮膚内に残ったニードルの長さ」の平均は約500μmであり、ニードル全長の半分が皮膚内に残ったが、「ニードルの刺さり具合」において皮膚表面からの飛び出しが目立った。この結果から、ニードルの根元部の曲げ降伏応力が12MPaの場合、根元部の脆性度が不十分ないことが分かる。
【0128】
以上の試験結果から分かるように、根元部12Bの材料として、試験サンプル4及び6よりも十分脆い材料を用いた試験サンプル1〜3及び5では、シートを皮膚表面に沿って水平方向に引っ張ることにより、根元部12Bを容易且つ確実に破壊(折る)することができ、ニードル12のみを皮膚16内に残すことができた。
【0129】
したがって、シートを引っ張ったときに根元部を容易且つ確実に破壊させるためには、ニードルの根元部を先端部よりも脆性度を大きくすることが必要であり、更には根元部12Bの曲げ降伏応力としては、試験サンプル5の10MPa〜試験サンプル3の0.5MPaの範囲が好ましいことが分かった。
【符号の説明】
【0130】
10…マイクロニードルシート、12…ニードル、12A…先端部、12B…根元部、12C…根元支持部層、14…シート、14A…シートの掴かみ部、16…皮膚、18、20…手の指、22…ニードル配列領域、24…補助冶具、26…穴、28…補助冶具の押さえ部、30…モールドの針状凹部、32…モールド、33…余剰溶解液除去装置、34…第1の溶解液、36…回転テーブル、39…回転装置、40…第2の溶解液、42…第3の溶解液、44…ニードル成形品、50…加圧充填装置、52…耐圧容器、54…台座、56…コンプレッサ、58…流入口、60…排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートの面に支持された生分解性のニードルを皮膚内に刺して使用するマイクロニードルシートであって、
前記ニードルの前記シートに近い根元部は先端部よりも脆く形成されており、前記皮膚内にニードルを刺した状態で前記シートを前記皮膚表面に沿って引っ張る力で破壊できる脆性度であることを特徴とするマイクロニードルシート。
【請求項2】
前記根元部の脆性度を曲げ降伏応力で表したときに、該曲げ降伏応力は、0.5MPa以上10MPa以下であることを特徴とする請求項1のマイクロニードルシート。
【請求項3】
前記根元部の曲げ降伏応力は、前記根元部よりもニードル先端側である先端部の曲げ降伏応力の1/2以下であることを特徴とする請求項2のマイクロニードルシート。
【請求項4】
前記先端部にはゼラチンを含むと共に、前記根元部には糖類又は糖類とゼラチンの混合物を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1のマイクロニードルシート。
【請求項5】
前記根元部には気泡が含有されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1のマイクロニードルシート。
【請求項6】
前記根元部の前記シート側には、該根元部を支持する根元支持部が形成されていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1のマイクロニードルシート。
【請求項7】
前記根元部は、前記ニードル全長の基端位置から100〜200μmの位置にニードル全長の5〜30%の層厚みに形成されていることを特徴とする請求項6のマイクロニードルシート。
【請求項8】
前記先端部は略円錐形状又は略角錐形状であると共に、前記根元部は略円柱形状又は略角柱形状であることを特徴とする請求項3〜7の何れか1のマイクロニードルシート。
【請求項9】
前記シートの前記皮膚面側には滑り層が形成されていることを特徴とする請求項1〜8の何れか1のマイクロニードルシート。
【請求項10】
前記シートには該シートを引っ張るときに指で摘む摘まみ部が形成されていることを特徴とする請求項1〜9の何れか1のマイクロニードルシート。
【請求項11】
前記摘まみ部には、指を挿入するリングが形成されていることを特徴とする請求項10のマイクロニードルシート。
【請求項12】
前記先端部には薬剤が含有されていることを特徴とする請求項1〜11の何れか1のマイクロニードルシート。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか1のマイクロニードルシートの使用方法であって、
ニードルを皮膚内に刺す穿刺工程と、
前記シートを指で摘んで前記皮膚の表面に沿って引っ張り、前記ニードルの脆性な根元部を破壊する破壊工程と、
前記シートを前記皮膚表面から除去して前記ニードルのみを皮膚内に残すシート除去工程と、を備えたことを特徴とするマイクロニードルシートの使用方法。
【請求項14】
シートの面に支持された生分解性のニードルを皮膚内に刺して使用するマイクロニードルシートの製造方法において、
モールド表面に、薬剤と前記ニードルの先端部を形成する先端部材料とを含む先端部用溶解液を付与する第1の付与工程と、
前記付与した先端部用溶解液を、前記モールドの針状凹部内に充填する第1の充填工程と、
前記モールドの表面に残存した先端部用溶解液の残存液を除去する第1の除去工程と、
前記先端部用溶解液の残存液が除去された後のモールド表面に、前記ニードルの根元部を形成する根元部材料を含む根元部用溶解液を付与する第2の付与工程と、
前記付与した根元部用溶解液を、前記針状凹部内の空間部に充填すると共に前記モールド表面に連続する板状部を形成する第2の充填工程と、
前記先端部用溶解液及び前記根元部用溶解液を乾燥して固化する乾燥工程と、
前記先端部と前記根元部とにより構成されるニードル成形品をモールドから剥離する剥離工程と、
前記ニードル成形品の前記板状面に前記シートを貼り付けるシート貼付け工程と、を備えたことを特徴とするマイクロニードルシートの製造方法。
【請求項15】
前記根元部の前記シート側に、前記根元部を支持する根元支持部を成形する工程を備えたことを特徴とする請求項14のマイクロニードルシートの製造方法。
【請求項16】
前記シートは、前記ニードル成形品に貼り付ける粘着層部分と、前記粘着層を有しないと非粘着層部分とで構成されており、前記粘着層部分を前記ニードル成形品に貼り付けて剥離することにより、前記剥離工程と前記シート貼付け工程とを一度に行うことを特徴とする請求項14又は15のマイクロニードルシートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−233674(P2010−233674A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82975(P2009−82975)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】