説明

マイクロプラズマジェット反応器、及びマイクロプラズマジェット発生装置

【課題】従来よりもジェットの長さの長い窒素ラジカルジェットを形成することのできるマイクロプラズマジェット反応器、及びマイクロプラズマジェット発生装置を提供する。
【解決手段】板状のセラミック誘電体4と、その内部に配設された導電膜3とから形成され、所定の間隙を隔てて積層されてなる第一電極2aと第二電極2bを有する。そして、窒素ガスを導入して流通させるガス導入流通部21を形成するガス導入流通部形成部が隔壁板9及び保持部材7によって設けられている。プラズマ反応器1は、ガス導入流通部21から貫通孔15を流通して単位電極2a,2b間に窒素ガスを導入し、単位電極2a,2b間に電圧を印加することによって、単位電極2a,2b間外へ窒素ラジカルジェットを放出する。非放電部12が放電部11を囲むように設けられ、窒素ラジカルジェットを囲むように窒素ガスを放出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロプラズマジェットを発生するマイクロプラズマジェット反応器、及びマイクロプラズマジェット反応器を備えたマイクロプラズマジェット発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二枚の電極間に誘電体を配置し高電圧の交流、あるいは周期パルス電圧をかけることにより、無声放電が発生し、これによりできるプラズマ場では活性種、ラジカル、イオンが生成され、気体の反応、分解を促進することが知られており、これをエンジン排気ガスや各種の焼却炉排気ガスに含まれる有害成分の除去に利用できることが知られている。また、プラズマジェットを形成し、その生成したプラズマジェットによって、被加工物の加工や各種の表面処理が行われている。
【0003】
そして、従来の高温プラズマ加工法に対し、プラズマジェットを局所的に絞って発生させるマイクロプラズマジェットが知られている(例えば、特許文献1参照)。マイクロプラズマジェットは、各種の加工や表面処理の適用へ期待されており、例えばマイクロチップ等、各種材料の高速加工や、局所領域の表面処理成膜、微小部材のエッチング、プラスチックシート類の連続表面改質や連続洗浄、プラスチック類およびガラス類の接着強度向上のための改質処理等に適用可能である。
【0004】
図7A及びに図7Bに従来のマイクロプラズマジェット反応器を示す。図7Aはガス流通方向に垂直な平面で切断した断面図、図7Bは、ガス流通方向に沿った平面で切断した断面図である。板状のセラミック誘電体4と、セラミック誘電体4の内部に配設された導電膜3とから形成された単位電極が、間隙を形成して積層されている。この間隙にガスを流通させ、ナノパルス幅の電源と組合せることにより、活性の高い窒素ラジカルジェットを形成することができる。
【0005】
【特許文献1】特開2007−188748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図7A及び図7Bに示すような平行平板型の電極構成で、1mm以下のマイクロギャップ(間隙)を形成し、ナノパルス幅の電源と組合せることにより、活性の高い窒素ラジカルジェットを形成すると、ジェト長さが数mmと短く、リモートプラズマ法による表面改質では、性能発現するために時間を要していた。表面改質効率を高めるために、ラジカル量を多くし、ジェットを長くするには、プラズマ電位の低い酸素分子を取り込まず、窒素ラジカルのみをジェット化することが有効であることは知られていたが、装置が大型化し、細かなラジカルジェット化は困難であった。
【0007】
本発明の課題は、装置を大型化せずに、容易に従来よりもジェットの長さの長い窒素ラジカルジェットを形成することのできるマイクロプラズマジェット反応器、及びマイクロプラズマジェット発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、セラミックスの積層印刷マイクロ加工技術を応用することで、窒素ラジカルジェットを囲むように窒素ガスを放出するようにマイクロプラズマジェット反応器を構成することにより上記課題を解決しうることを見出した。特に、ガス通路、プラズマ発生部、等を絶縁性の高いセラミックスで一体で構成することにより、より効率の高いプラズマジェットが得られることを見出した。すなわち、本発明によれば、以下のマイクロプラズマジェット反応器、及びマイクロプラズマジェット発生装置が提供される。
【0009】
[1] 板状のセラミック誘電体と、前記セラミック誘電体の内部に配設された導電膜とから形成され、互いに対向して所定の間隙を隔てて積層されてなる少なくとも一組の板状の単位電極を有し、一組の前記単位電極である第一電極と第二電極との間の前記単位電極間の前記間隙に窒素ガスを導入し、前記単位電極間に電圧を印加することによって前記単位電極間を放電部としてプラズマを発生させて、前記単位電極間外へ窒素ラジカルジェットを放出するように構成され、さらに前記放電部を流通する前記窒素ガスと分離して並列に窒素ガスを流通させ、前記単位電極間外へ放出される前記窒素ラジカルジェットを囲むように前記窒素ガスを放出するための非放電部を形成する非放電部形成部が前記放電部の周囲に設けられたマイクロプラズマジェット反応器。
【0010】
[2] 前記第一電極と前記第二電極が互いに対向して形成された前記間隙の少なくとも一部を前記放電部とし、前記第一電極と前記第二電極のそれぞれの対向面とは反対の面側に、非放電部が形成された前記[1]に記載のマイクロプラズマジェット反応器。
【0011】
[3] 前記第一電極及び前記第二電極のそれぞれの前記導電膜が対向する対向領域と対向しない非対向領域とを分離する分離部が前記間隙に設けられ、前記間隙の前記対向領域を前記放電部とし、前記非対向領域を前記非放電部とする前記[2]に記載のマイクロプラズマジェット反応器。
【0012】
[4] 前記単位電極の、前記単位電極間の前記間隙とは反対側の面側に、保持部材によって間隙を隔てて保持された隔壁板を備え、前記保持部材及び前記隔壁板によって前記非放電部が形成された前記[1]〜[3]のいずれかに記載のマイクロプラズマジェット反応器。
【0013】
[5] 一組の前記単位電極間の前記間隙とは反対面側に窒素ガスを導入して流通させるガス導入流通部を形成するガス導入流通部形成部が設けられ、前記単位電極には、前記ガス導入流通部に面した前記単位電極の前記反対面であるガス導入流通部側面から前記間隙側の単位電極間側面へと貫通する複数の貫通孔が形成され、前記ガス導入流通部から前記貫通孔を流通して前記単位電極間に前記窒素ガスを導入し、前記単位電極間に電圧を印加することによって前記単位電極間を放電部としてプラズマを発生させる前記[1]に記載のマイクロプラズマジェット反応器。
【0014】
[6] 一組の前記単位電極間の前記間隙とは反対側の面側に、保持部材によって間隙を隔てて保持され、複数の貫通孔を有する第一隔壁板を備え、前記保持部材及び前記第一隔壁板によって前記ガス導入流通部が形成され、さらに、前記第一隔壁板の前記ガス導入流通部とは反対側の面側に、保持部材によって間隙を隔てて保持された第二隔壁板を備え、前記保持部材及び第二隔壁板によって、前記窒素ラジカルジェットを囲むように窒素ガスを放出するためのガス放出流通部が形成された前記[5]に記載のマイクロプラズマジェット反応器。
【0015】
[7] 前記ガス導入流通部は、ガス流通方向において前記ガスの導入側と反対側端部が閉鎖部とされている前記[6]に記載のマイクロプラズマジェット反応器。
【0016】
[8] 前記放電部は、前記ガス導入流通部の導入側と反対端部の前記閉鎖部側が開口部とされて前記ガスを排出する前記[7]に記載のマイクロプラズマジェット反応器。
【0017】
[9] 前記貫通孔は、前記単位電極に少なくともガス流通方向に並んで形成されている前記[5]〜[8]のいずれかに記載のマイクロプラズマジェット反応器。
【0018】
[10] 前記[1]〜[9]のいずれかに記載のマイクロプラズマジェット反応器を内部に備え、さらに前記窒素ガスを導入するガス導入部及び端子接続部を備えたマイクロプラズマジェット発生器に、ナノパルス電源を接続したマイクロプラズマジェット発生装置。
【発明の効果】
【0019】
単位電極間を放電部とし、非放電部形成部を放電部の周囲に設けることにより、単位電極間外へ放出される窒素ラジカルジェットを囲むように窒素ガスを放出することができる。これにより、単位電極外に放出される窒素ラジカルジェットを従来よりも長く形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0021】
(実施形態1)
図1、図2A、及び図2Bに本発明の実施形態1のマイクロプラズマジェット反応器(以下、単にプラズマ反応器ともいう)を示す。図1は、分解図であり、図2Aは、ガス流通方向に垂直な平面で切断した断面図、図2Bは、ガス流通方向に沿った平面で切断した断面図である。
【0022】
マイクロプラズマジェット反応器1は、板状のセラミック誘電体4と、セラミック誘電体4の内部に配設された導電膜3とから形成され、互いに対向して所定の間隙を隔てて積層されてなる一組の板状の単位電極2である第一電極2aと第二電極2bを有する。第一電極2aと第二電極2bとの間隙は、2mm以下、好ましくは、0.1〜1mmとされている。そして、第一電極2a及び第二電極2bのそれぞれの導電膜3が対向する対向領域と対向しない非対向領域とを分離する分離部8が間隙に設けられている。また、単位電極2a,2bの、単位電極2a,2b間の間隙とは反対側の面側に、保持部材7によって間隙を隔てて保持された隔壁板9を備える。つまり、プラズマ反応器1は、隔壁板9、第一電極2a、第二電極2b、隔壁板9の順に保持部材7を介して間隙を有する状態で一体として形成されている。
【0023】
上記の構成により、プラズマ反応器1は、一組の単位電極2である第一電極2aと第二電極2bとの間の間隙に窒素ガスを導入し、単位電極2a,2b間に電圧を印加することによって単位電極2a,2b間を放電部11としてプラズマを発生させて、単位電極2a,2b間外へ窒素ラジカルジェットを放出する。また、第一電極2aと第二電極2bとの間隙は、導電膜3の対向領域を放電部11とし、非対向領域を非放電部12として分離部8によって分離されている。さらに、一組の単位電極間の間隙とは反対側の面側の隔壁板9と保持部材7によって非放電部12が形成されている。つまり、隔壁板9及び保持部材7は、非放電部12を形成する非放電部形成部である。図2Aの断面図においては、非放電部12が放電部11を囲むように、放電部11の左右に分離部8を介して、上下に単位電極2を介して設けられている。上記のように、本発明のプラズマ反応器1は、第一電極2aと第二電極2bが互いに対向して形成された間隙の少なくとも一部を放電部11、間隙のその他の部分を非放電部12とし、さらに第一電極2aと第二電極2bのそれぞれの対向面とは反対の面側に、非放電部12が形成されている。非放電部12は、放電部11を流通する窒素ガスと分離して並列に窒素ガスを流通させ、単位電極間2外へ放出される窒素ラジカルジェットを囲むように窒素ガスを放出する。
【0024】
本実施形態に用いられる導電膜3は、導電性に優れた金属を主成分とすることが好ましく、例えば、導電膜3の主成分としては、タングステン、モリブデン、マンガン、クロム、チタン、ジルコニウム、ニッケル、鉄、銀、銅、白金、及びパラジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を好適例として挙げることができる。なお、本実施形態において、主成分とは、成分の50質量%以上を占めるものをいう。導電膜3は、上記金属成分に、セラミック基材成分あるいはガラス成分を添加したサーメットとすることが、一体焼成で、基材と導電膜の密着性を向上することに適することもある。
【0025】
単位電極2を構成する導電膜3の厚さとしては、導電膜3と基材との密着性確保の理由から、0.001〜0.1mmであることが好ましく、さらに、0.005〜0.05mmであることが好ましい。
【0026】
単位電極2において、導電膜3は、テープ状のセラミック誘電体4に塗工されて配設されたものであることが好ましく、具体的な塗工の方法としては、例えば、印刷、ローラ、スプレー、静電塗装、ディップ、ナイフコータ等を好適例としてあげることができる。このような方法によれば、塗工後の表面の平滑性に優れ、且つ厚さの薄い導電膜3を容易に形成することができる。
【0027】
導電膜3をテープ状のセラミック体に塗工する際には、導電膜3の主成分として挙げた金属の粉末と、有機バインダーと、テルピネオール等の溶剤とを混合して導体ペーストを形成し、上述した方法でテープ状のセラミック誘電体4に塗工することで形成することができる。また、テープ状のセラミック誘電体4との密着性及び焼結性を向上させるべく、必要に応じて上述した導体ペーストに添加剤を加えてもよい。
【0028】
また、単位電極2を構成するセラミック誘電体4(テープ状のセラミック体)は、上述したように誘電体としての機能を有するものであり、導電膜3がセラミック誘電体4の内部に配設された状態で用いられることにより、導電膜3単独で放電を行う場合と比較して、アーク等の片寄った放電を減少させ、ファインストリーマ放電を複数の箇所で生じさせることが可能となる。このような複数のファインストリーマ放電は、アーク等の放電に比して流れる電流が少ないために、消費電力を削減することができ、さらに、誘電体が存在することにより、単位電極2間に流れる電流が制限されて、温度上昇を伴わない消費エネルギーの少ないノンサーマルプラズマを発生させることができる。
【0029】
セラミック誘電体4は、誘電率の高い材料を主成分とすることが好ましく、例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化珪素、ムライト、コージェライト、チタン−バリウム系酸化物、マグネシウム−カルシウム−チタン系酸化物、バリウム−チタン−亜鉛系酸化物、窒化珪素、窒化アルミニウム等を好適に用いることができる。これらの材料の中から、被処理流体の各成分の反応に適した強さのプラズマを発生させるのに適した材料を適宜選択し、それぞれを組み合わせて単位電極とすることが好ましい。また、耐熱衝撃性にも優れた材料を主成分とすることによって、プラズマ発生電極を高温条件下においても運用することが可能となる。
【0030】
例えば、酸化アルミニウム(Al)にガラス成分を添加した低温焼成基板材料(LTCC)に導体として銅メタライズを用いることができる。銅メタライズを用いるため、抵抗が低く、放電効率の高い電極が造られるため、電極の大きさを小さくできる。そして、熱応力を回避した設計が可能となり、強度が低い問題が解消される。また、チタン酸バリウム、マグネシウム−カルシウム−チタン系酸化物、バリウム−チタン−亜鉛系酸化物等の誘電率の高い材料で電極を造る場合、放電効率が高いため、電極の大きさを小さくできるため、熱膨脹が高いことによる熱応力の発生を、小さくできる構造体設計が可能である。
【0031】
セラミック誘電体4の比誘電率は、発生させようとするプラズマの強さにより適宜決定することができるが、通常、2.5〜50の範囲で選択することが好ましい。
【0032】
また、セラミック誘電体4をテープ状のセラミック体から形成するときには、テープ状のセラミック体の厚さについては、特に限定されることはないが、0.1〜3mmであることが好ましい。テープ状のセラミック体の厚さが、0.1mm未満であると、隣接する一対の単位電極2間の電気絶縁性を確保することができないことがある。また、テープ状のセラミック体の厚さが3mmを超えると、小型化の妨げになるとともに、電極間距離が長くなることによる負荷電圧の増大につながり効率が低下することがある。
【0033】
テープ状のセラミック体は、セラミック基板用のセラミックグリーンシートを好適に用いることができる。このセラミックグリーンシートは、グリーンシート製作用のスラリー又はペーストを、ドクターブレード法、カレンダー法、印刷法、リバースロールコータ法等の従来公知の手法に従って、所定の厚さとなるように成形して形成することができる。このようにして形成されたセラミックグリーンシートは、切断、切削、打ち抜き、連通孔の形成等の加工を施したり、複数枚のグリーンシートを積層した状態で熱圧着等によって一体的な積層物として用いてもよい。
【0034】
上述したグリーンシート製作用のスラリー又はペーストは、所定のセラミック粉末に適当なバインダー、焼結助剤、可塑剤、分散剤、有機溶媒等を配合して調整したものを好適に用いることができ、例えば、このセラミック粉末としては、アルミナ、ムライト、コージェライト、ジルコニア、シリカ、窒化珪素、窒化アルミニウム、セラミックガラス、ガラス等の粉末を好適例として挙げることができる。また、焼結助剤としては、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム等を好適例として挙げることができる。なお、焼結助剤は、セラミック粉末100質量部に対して、3〜10質量部加えることが好ましい。可塑剤、分散剤及び有機溶媒については、従来公知の方法に用いられている可塑剤、分散剤及び有機溶媒を好適に用いることができる。
【0035】
また、セラミック誘電体4の気孔率は、0.1〜10%であることが好ましく、さらに0.1〜1%であることが好ましい。このように構成することによって、セラミック誘電体4を備えた単位電極2間に効率よくプラズマを発生させることが可能となり、省エネルギー化を実現することができる。
【0036】
図6に示すように、以上の構成のセラミック一体型として形成されたプラズマ反応器1を内部に備え、さらに窒素ガス供給源35からの窒素ガスを導入するガス導入部31及び端子接続部32を金属枠等により備えたマイクロプラズマジェット発生器100を作製する。そして、マイクロプラズマジェット発生器100の端子接続部32にナノパルス電源36を接続したマイクロプラズマジェット発生装置101とする。
【0037】
なお、ナノパルス電源とは、パルス半値幅を1マイクロ秒以下に制御でき、一対の電極に対してパルス電圧を印加する電源である。周期的に電圧が加えられる電源であれは用いることができる。中でも、(a)ピーク電圧が1kV以上で、かつ1秒当たりのパルス数が1以上のパルス波形、(b)ピーク電圧が1kV以上で、かつ周波数が1以上の交流電圧波形、(c)電圧が1kV以上の直流波形、又は、(d)これらのいずれかを重畳してなる電圧波形、を供給することができる電源であることが好ましい。そして、ピーク電圧1〜20kVの電源であることが好ましく、ピーク電圧が5〜10kVの電源を用いることが更に好ましい。パルス幅は、半値幅で50〜300ns程度であることが好ましい。このような電源としては、例えば、静電誘導型サイリスタ(SIサイリスタ)を用い、誘導エネルギー蓄積型の高電圧パルス電源等を挙げることができる。
【0038】
以上のようなマイクロプラズマジェット発生装置101によって、窒素ガスを放電部11及び非放電部12の一方の端部から他方の端部へと流通させつつ、第一電極2a及び第二電極2bに、独立して制御された電力を投入することにより、第一電極2a及び第二電極2b間にプラズマを発生させ、放電部11の下流側端部から窒素ラジカルジェットを放出させることができる。下流側端部から放出される窒素ラジカルジェットは、非放電部12の下流側端部から放出される窒素ガスに囲まれているため、従来よりも、より長いジェットとなることができる。
【0039】
なお、窒素ラジカルは高い活性エネルギーを持ち、かつラジカル寿命が長いのが特徴であり、本発明のプラズマ反応器1によって長いジェットを作ることが可能となる。よって処理対象は、シート状の物だけに限らず、数cmの凹凸のあるものも表面処理することができる。また、プラズマ反応器1は、大気から酸素を取り込まない構造であるため、毒性のあるオゾンが発生せず、排気の必要がない。さらにオゾンや酸素プラズマを含まないため、それらに弱い材料の表面処理が可能である。例えば天然ゴムを含んだような材料にオゾンによる表面改質処理はできないが、本発明のプラズマ反応器1の窒素プラズマを用いれば可能である。
【0040】
(実施形態2)
次に、図3A及び図3Bに、本発明の実施形態2のプラズマ反応器1を示す。図3Aは、ガス流通方向に垂直な平面で切断した断面図、図3Bは、ガス流通方向に沿った平面で切断した断面図である。
【0041】
実施形態2のプラズマ反応器1は、実施形態1のプラズマ反応器1と同様に、板状のセラミック誘電体4と、セラミック誘電体4の内部に配設された導電膜3とから形成され、互いに対向して所定の間隙を隔てて積層されてなる一組の板状の単位電極2である第一電極2aと第二電極2bを有する。第一電極2aと第二電極2bとの間隙は、2mm以下、好ましくは、0.1〜1mmとされている。そして、第一電極2a及び第二電極2bのそれぞれの導電膜3が対向する対向領域と対向しない非対向領域とを分離する分離部8が間隙に設けられている。
【0042】
そして、一組の単位電極2a,2b間の間隙とは反対面側に窒素ガスを導入して流通させるガス導入流通部21を形成するガス導入流通部形成部が設けられている。具体的には、一組の単位電極2a,2b間の間隙とは反対側の面側に、保持部材7によって間隙を隔てて保持される隔壁板を備え、保持部材7及び隔壁板9によってガス導入流通部21が形成されている。単位電極2a,2bには、ガス導入流通部21に面した単位電極2a,2bの反対面であるガス導入流通部側面2sから間隙側の単位電極間側面2tへと貫通する複数の貫通孔15が形成されている。隔壁板9及び保持部材7は、ガス導入流通部(非放電部12)21を形成するガス導入流通部形成部である。
【0043】
貫通孔15は、単位電極2に少なくともガス流通方向に並んで形成されている。ガス流通方向に並んで貫通孔が形成されているため、放電部11のどの部位にも、処理前のガスが導入されるため、プラズマ反応は放電部11のどの位置でも効率良く行われ、密度の高い窒素ラジカルジェットを形成することができる。
【0044】
以上の構成により、プラズマ反応器1は、ガス導入流通部21から貫通孔15を流通して単位電極2a,2b間に窒素ガスを導入し、単位電極2a,2b間に電圧を印加することによって単位電極2a,2b間を放電部11としてプラズマを発生させて、単位電極2a,2b間外へ窒素ラジカルジェットを放出する。実施形態2のプラズマ反応器1においても、非放電部12が放電部11を囲むように、放電部11の左右に分離部8を介して、上下に単位電極2を介して設けられている。非放電部12は、放電部11を流通する窒素ガスと分離して並列に窒素ガスを流通させ、単位電極間2外へ放出される窒素ラジカルジェットを囲むように窒素ガスを放出する。
【0045】
(実施形態3)
図4、図5A、及び図5Bに本発明の実施形態3のプラズマ反応器1を示す。図4は、分解図であり、図5Aは、ガス流通方向に垂直な平面で切断した断面図、図5Bは、ガス流通方向に沿った平面で切断した断面図である。
【0046】
実施形態3のプラズマ反応器1は、実施形態1,2のプラズマ反応器1と同様に、板状のセラミック誘電体4と、セラミック誘電体4の内部に配設された導電膜3とから形成され、互いに対向して所定の間隙を隔てて積層されてなる一組の板状の単位電極2である第一電極2aと第二電極2bを有する。第一電極2aと第二電極2bとの間隙は、2mm以下、好ましくは、1〜0.1mmとされている。そして、第一電極2a及び第二電極2bのそれぞれの導電膜3が対向する対向領域と対向しない非対向領域とを分離する分離部8が間隙に設けられている。
【0047】
そして、一組の単位電極2a,2b間の間隙とは反対面側に窒素ガスを導入して流通させるガス導入流通部21を形成するガス導入流通部形成部が設けられている。具体的には、一組の単位電極2a,2b間の間隙とは反対側の面側に、保持部材7によって間隙を隔てて保持され、複数の貫通孔15を有する第一隔壁板9aを備え、保持部材7及び第一隔壁板9aによってガス導入流通部21が形成されている。つまり、第一隔壁板9a及び、単位電極2と第一隔壁板9aとを介する保持部材7は、ガス導入流通部(非放電部)21を形成するガス導入流通部形成部である。
【0048】
さらに、第一隔壁板9aのガス導入流通部21とは反対側の面側に、保持部材7によって間隙を隔てて保持された第二隔壁板9bを備え、保持部材7及び第二隔壁板9bによって、窒素ラジカルジェットを囲むように窒素ガスを放出するためのガス放出流通部22が形成されている。つまり、第二隔壁板9b及び、第一隔壁板9aと第二隔壁板9bとを介する保持部材7は、ガス放出流通部(非放電部12)22を形成するガス放出流通部形成部である。
【0049】
貫通孔15は、単位電極2に少なくともガス流通方向に並んで形成されており、ガス導入流通部21は、ガス流通方向においてガスの導入側と反対側端部が閉鎖部17とされている。ガス流通方向に並んで貫通孔15が形成されているため、放電部11のどの部位にも、処理前のガスが導入されるため、プラズマ反応は放電部11のどの位置でも効率良く行われ、密度の高い窒素ラジカルジェットを形成することができる。放電部11は、ガス導入流通部21の導入側と反対端部の閉鎖部17側が開口部18とされてガスを排出する。
【0050】
以上の構成により、プラズマ反応器1は、ガス導入流通部21から貫通孔15を流通して単位電極2a,2b間に窒素ガスを導入し、単位電極2a,2b間に電圧を印加することによって単位電極2a,2b間を放電部11としてプラズマを発生させて、単位電極2a,2b間外へ窒素ラジカルジェットを放出する。実施形態3のプラズマ反応器1においても、非放電部12が放電部11を囲むように、放電部11の左右に分離部8を介して、上下に単位電極2を介して設けられている。非放電部12は、放電部11を流通する窒素ガスと分離して並列に窒素ガスを流通させ、単位電極間2外へ放出される窒素ラジカルジェットを囲むように窒素ガスを放出する。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
93%アルミナの厚さ0.25mmテープを用い、外形幅50mm、ガス流通方向60mmで、ギャップ0.5mmの一体型マイクロプラズマジェット反応器1を作製した。放電電極層(第一電極2a、第二電極2b)は、厚さ0.01mm、48mm×40mmのタングステン導体膜(導電膜3)をアルミナテープ片面に印刷し、その上に印刷していないアルミナテープを積層し、厚さは0.5mmとした。反対電極と対向する導体面積(第一電極2aと第二電極2bの対向する部分の導体面積)が、48mm×20mmとなるように第一電極2a及び第二電極2bを左右対称に配置した。放電部11の外側には、ギャップ0.5mmのガス通路(非放電部12)を設けるようにアルミナシートを加工し、放電電極層、ガス通路層と一体に加圧接合し、一体型の成形体を得た。1500℃N−H雰囲気で焼成し、一体型のセラミック製マイクロプラズマジェット反応器を得た(図2A,2B参照)。
【0053】
(比較例1)
実施例1と同じ93%アルミナの厚さ0.25mmテープを用い、外形幅30mm、ガス流通方向60mmで、ギャップ0.5mmの一体型マイクロプラズマジェット反応器1を作製した(図7A,7B参照)。放電部11は、幅20mm、ガス流通方向48mm、高さ0.5mmで、実施例1の反応器と同じ容積である。
【0054】
以上の実施例1及び比較例1のマイクロプラズマジェット反応器に、ガス導入部、端子接続部等を有する金属枠を備えたマイクロプラズマジェット発生器とし、さらにナノパルス電源を接続したマイクロプラズマジェット発生装置を作製し、プラズマを発生させた。電極間外に放出された窒素ラジカルジェットは、実施例1が20mm、比較例1が5mmとなり、本発明の実施例1は、良好なジェットを形成することができた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のマイクロプラズマジェット反応器は、各種の加工や表面処理に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施形態1のプラズマ反応器を示す分解図である。
【図2A】本発明の実施形態1のプラズマ反応器をガス流通方向に垂直な平面で切断した断面図である。
【図2B】本発明の実施形態1のプラズマ反応器をガス流通方向に沿った平面で切断した断面図である。
【図3A】本発明の実施形態2のプラズマ反応器をガス流通方向に垂直な平面で切断した断面図である。
【図3B】本発明の実施形態2のプラズマ反応器をガス流通方向に沿った平面で切断した断面図である。
【図4】本発明の実施形態3のプラズマ反応器を示す分解図である。
【図5A】本発明の実施形態3のプラズマ反応器をガス流通方向に垂直な平面で切断した断面図である。
【図5B】本発明の実施形態3のプラズマ反応器をガス流通方向に沿った平面で切断した断面図である。
【図6】マイクロプラズマジェット発生装置を示すブロック図である。
【図7A】従来のプラズマ反応器をガス流通方向に垂直な平面で切断した断面図である。
【図7B】従来のプラズマ反応器をガス流通方向に沿った平面で切断した断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1:マイクロプラズマジェット反応器(プラズマ反応器)、2:単位電極、2a:第一電極、2b:第二電極、2s:ガス導入流通部側面、2t:単位電極間側面、3:導電膜、4:セラミック誘電体、7:保持部材、8:分離部、9:隔壁板、9a:第一隔壁板、9b:第二隔壁板、11:放電部、12:非放電部、15:貫通孔、17:閉鎖部、18:開口部、21:ガス導入流通部、22:ガス放出流通部、31:ガス導入部、32:端子接続部、35:窒素ガス供給源、36:ナノパルス電源、100:マイクロプラズマジェット発生器、101:マイクロプラズマジェット発生装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のセラミック誘電体と、前記セラミック誘電体の内部に配設された導電膜とから形成され、互いに対向して所定の間隙を隔てて積層されてなる少なくとも一組の板状の単位電極を有し、
一組の前記単位電極である第一電極と第二電極との間の前記単位電極間の前記間隙に窒素ガスを導入し、前記単位電極間に電圧を印加することによって前記単位電極間を放電部としてプラズマを発生させて、前記単位電極間外へ窒素ラジカルジェットを放出するように構成され、
さらに前記放電部を流通する前記窒素ガスと分離して並列に窒素ガスを流通させ、前記単位電極間外へ放出される前記窒素ラジカルジェットを囲むように前記窒素ガスを放出するための非放電部を形成する非放電部形成部が前記放電部の周囲に設けられたマイクロプラズマジェット反応器。
【請求項2】
前記第一電極と前記第二電極が互いに対向して形成された前記間隙の少なくとも一部を前記放電部とし、前記第一電極と前記第二電極のそれぞれの対向面とは反対の面側に、非放電部が形成された請求項1に記載のマイクロプラズマジェット反応器。
【請求項3】
前記第一電極及び前記第二電極のそれぞれの前記導電膜が対向する対向領域と対向しない非対向領域とを分離する分離部が前記間隙に設けられ、前記間隙の前記対向領域を前記放電部とし、前記非対向領域を前記非放電部とする請求項2に記載のマイクロプラズマジェット反応器。
【請求項4】
前記単位電極の、前記単位電極間の前記間隙とは反対側の面側に、保持部材によって間隙を隔てて保持された隔壁板を備え、前記保持部材及び前記隔壁板によって前記非放電部が形成された請求項1〜3のいずれか1項に記載のマイクロプラズマジェット反応器。
【請求項5】
一組の前記単位電極間の前記間隙とは反対面側に窒素ガスを導入して流通させるガス導入流通部を形成するガス導入流通部形成部が設けられ、
前記単位電極には、前記ガス導入流通部に面した前記単位電極の前記反対面であるガス導入流通部側面から前記間隙側の単位電極間側面へと貫通する複数の貫通孔が形成され、
前記ガス導入流通部から前記貫通孔を流通して前記単位電極間に前記窒素ガスを導入し、前記単位電極間に電圧を印加することによって前記単位電極間を放電部としてプラズマを発生させる請求項1に記載のマイクロプラズマジェット反応器。
【請求項6】
一組の前記単位電極間の前記間隙とは反対側の面側に、保持部材によって間隙を隔てて保持され、複数の貫通孔を有する第一隔壁板を備え、前記保持部材及び前記第一隔壁板によって前記ガス導入流通部が形成され、
さらに、前記第一隔壁板の前記ガス導入流通部とは反対側の面側に、保持部材によって間隙を隔てて保持された第二隔壁板を備え、前記保持部材及び第二隔壁板によって、前記窒素ラジカルジェットを囲むように窒素ガスを放出するためのガス放出流通部が形成された請求項5に記載のマイクロプラズマジェット反応器。
【請求項7】
前記ガス導入流通部は、ガス流通方向において前記ガスの導入側と反対側端部が閉鎖部とされている請求項6に記載のマイクロプラズマジェット反応器。
【請求項8】
前記放電部は、前記ガス導入流通部の導入側と反対端部の前記閉鎖部側が開口部とされて前記ガスを排出する請求項7に記載のマイクロプラズマジェット反応器。
【請求項9】
前記貫通孔は、前記単位電極に少なくともガス流通方向に並んで形成されている請求項5〜8のいずれか1項に記載のマイクロプラズマジェット反応器。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のマイクロプラズマジェット反応器を内部に備え、さらに前記窒素ガスを導入するガス導入部及び端子接続部を備えたマイクロプラズマジェット発生器に、ナノパルス電源を接続したマイクロプラズマジェット発生装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【公開番号】特開2009−245646(P2009−245646A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88101(P2008−88101)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)