説明

マイクロポンプの製造方法

【目的】 ダイアフラム、流路、及びバルブ部を形成したシリコン基板をガラス基板等でサンドイッチした構造を有するマイクロポンプにおいて、液体のプライミング性と気泡抜け性を向上、また、経時後も安定した効果を持たせる事にある。
【構成】 マイクロポンプを構成後、水溶性塩類、または多価アルコール類の一種以上を含む液を注入、乾燥する事によって、マイクロポンプ内面部に上記物質を付着させる事を特徴とする。
【効果】 マイクロポンプ内表面部に吸着された水溶性塩類、または多価アルコール類が水溶液に対して湿潤性を有するために、容易にポンプ内へ液体を流入させる事が出来、気泡の排出性も向上した物が得られた。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、マイクロポンプの製造方法に関し、特にマイクロマシニング技術を応用した精密流体制御用デバイスとして、医療、分析等の分野で実用が期待されているマイクロポンプの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】上記の様なマイクロマシニング技術は、高度な新技術分野を開拓するものとして現在、進展中のものである。
【0003】マイクロマシニング技術の応用として、多くの分野への適用が考えられるが、具体的に実用化を目指して研究が進んでいる分野としてマイクロポンプやマイクロバルブ等の流体制御デバイスがある。
【0004】マイクロマシニング技術によるマイクロポンプについては、日経エレクトロニクスNo.480(1989年8月21日発行)の第135頁〜第138頁に、その構成を含めた解説が記載されており、駆動方法として圧電方式、熱膨張方式等の方式があるが、基本的な構造は、図2に示す様にシリコン基板を両側からエッチングしてダイアフラム部、流路部、バルブ部を形成し三次元構造に加工した後、このシリコン基板21をガラス基板22、23でサンドイッチし、陽極接合法等で接合一体化する事により、流路とバルブを形成したマイクロポンプを作製出来る。
【0005】この様な構造のマイクロポンプは、医療用、分析用等、液体の定量吐出に使用が可能であるが、使用時にマイクロポンプの表面の濡れ性、注入時の気泡抜け性が重要であり、従来はシリコン表面に熱酸化処理を施していた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、前記の従来技術では、水溶液に対するマイクロポンプ表面の濡れ性が不充分で、特に経時的にマイクロポンプの内側表面が濡れ性に関して不活性となり、その性能が劣化する傾向にあり、使用しない期間が長い場合に、溶液のプライミング性(注入性)が悪く、図2の様に気泡26が巻き込まれマイクロポンプキャビティー中に残ってしまう事があった。
【0007】本発明は、この様な課題を解決するもので、マイクロポンプ内面の液濡れ性を向上し、また経時的にも安定したものとし、液体のプライミングを行う際にマイクロポンプキャビティー内に容易に、気泡残りなく液体を流入させる事を目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するために、本発明のマイクロポンプの製造方法は、エッチングによりダイアフラム、流路、バルブ部を形成したシリコン基板、及びガラス基板等を接合、組立する事によりマイクロポンプとして構成させた後、ポンプ中に水可溶性塩または、多価アルコール類の一種以上を含む溶液を一旦注入し、乾燥する事によって、ポンプの液体と接する面に水可溶性塩または、多価アルコール類を付着させた事を特徴とする。
【0009】
【作用】本発明によれば、ポンプの液体と接する内面部に、水可溶性塩または、多価アルコール類を残留付着させる事によって、一定期間保管後の使用において、水溶液を注入する際にポンプ内面部に付着している物質が水溶液との親和性が良いために、ポンプ内壁部を浸透いて容易にマイクロポンプ内に水溶液を流入させる事が可能になり、気泡の残留を無くす事が出来た。
【0010】
【実施例】
(実施例1)図1は、本発明に基づくマイクロポンプの製造工程を説明するための概略工程断面図である。
【0011】図1(a)は、シリコン基板を熱酸化膜(二酸化シリコン)をパターニング、マスクとして、摂氏60度に加温した30重量%水酸化カリウム溶液で両面からエッチングする事により、ダイアフラム部、流路部、バルブ部等マイクロポンプ構造体を形成したものであり、マイクロポンプは、シリコン基板上に複数個形成されている。
【0012】このシリコンの構造体11を、一旦マスクとして用いた熱酸化膜をフッ酸により除去した後、バルブ部の上面に再度、熱酸化、フォトリソにより予圧となる熱酸化膜12を1.0ミクロン形成する(図1(b))。
【0013】次に、シリコン構造体基板11へ、ホウケイ酸系ガラス基板13、14を両側から陽極接合法(摂氏350度、700V)によりサンドイッチ状に接合する。
【0014】その後、ダイシング等により個々のマイクロポンプに分離し、最後にダイアフラム部に駆動用ピエゾ素子15と、液体のイン、アウト用のパイプ16を取り付けて完成させた(図1(c))。
【0015】この様にして作製したマイクロポンプ中に、生理食塩水(0.9重量%塩化ナトリウム)を一旦注入し、排出、乾燥する事によって、マイクロポンプキャビティー内面部に塩化ナトリウム薄層17を付着させる。
【0016】このマイクロポンプを用いて薬液18をプライミングすると、容易に流入させる事ができ、気泡の排出も問題なく行える様になった(図1(d))。
【0017】(実施例2)実施例1と同様のプロセスにより、ダイアフラム部、流路部、バルブ部等マイクロポンプ構造体を複数個形成したシリコン基板のバルブ部上面に、熱酸化、フォトリソにより予圧となる熱酸化膜を1.2ミクロン形成する。
【0018】このシリコン構造体基板へ、ホウケイ酸系ガラス基板を両側から陽極接合法(摂氏320度、800V)によりサンドイッチ状に接合する、次に、個々のマイクロポンプに分離し、最後にダイアフラム部駆動用ピエゾ素子と、液体のイン、アウト用のパイプを取り付けて完成させたこのマイクロポンプ中に、0.3重量%のグリセリン水溶液を一旦注入し、排出、乾燥する事によって、マイクロポンプキャビティー内面部に微量のグリセリン層を付着させる。
【0019】このマイクロポンプを用いて薬液をプライミングすると、容易に溶液の注入、気泡の排出を行う事が出来る様になった。
【0020】(実施例3)実施例1と同様のプロセスにより、ダイアフラム部、流路部、バルブ部等マイクロポンプ構造体を複数個形成したシリコン基板のバルブ部上面に、熱酸化、フォトリソにより予圧となる熱酸化膜を1.5ミクロン形成し、このシリコン構造体基板へ、ホウケイ酸系ガラス基板を両側から陽極接合法(摂氏350度、600V)によりサンドイッチ状に接合した。
【0021】次に、個々のマイクロポンプに分離し、最後にダイアフラム部駆動用ピエゾ素子と、液体のイン、アウト用のパイプを取り付けて完成させたこのマイクロポンプ中に、0.5重量%のエチレングリコール水溶液を一旦注入し、排出、乾燥する事によって、マイクロポンプキャビティー内面部に微量のエチレングリコール層を付着させる。
【0022】このマイクロポンプへ薬液をプライミングすると、容易に流入させる事が可能になり、気泡の排出も問題なく行う事が出来る様になった。
【0023】実施例においては、一部の水可溶性塩、あるいは多価アルコールを使用した場合について述べたが、他の塩類、多価アルコール類を単独または、複数混合した溶液を用いポンプ内面部に付着させた場合も、液体の注入性に対して充分に効果があり、気泡の排出性も著しく改善させる事が出来た。
【0024】
【発明の効果】以上述べた様に、本発明によればマイクロポンプを構成させた後、水溶性塩類または、多価アルコール類の一種以上を含む液体を一旦注入、乾燥する事によって、マイクロポンプの内面部に上記物質を吸着、残留させ、マイクロポンプへ薬液等を注入する時に、容易に液体を流入させる事が可能になり、実用における気泡残り等の問題をなくす事ができた。
【0025】特に、長期保管後においても、この様な効果を継続して得る事が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1、2、3によるマイクロポンプの製造工程及び、液体の流入状態を示す断面図。
【図2】従来技術によるマイクロポンプへの液体の流入状態を示す断面図。
【符号の説明】
11、21 シリコン基板
12 熱酸化膜
13、14、22、23 ガラス基板
15、24 ピエゾ素子
16 パイプ
17 塩化ナトリウム薄層
18、25 流入液体
26 残留気泡

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ダイアフラム、流路及びバルブ部を形成したシリコン基板をガラス基板等でサンドイッチした構造を有するマイクロポンプにおいて、ポンプ中に水可溶性塩の一種以上を含む溶液を一旦注入し、乾燥する事によってポンプの液体と接する面に該塩類を付着させた事を特徴とするマイクロポンプの製造方法。
【請求項2】 ダイアフラム、流路及びバルブ部を形成したシリコン基板をガラス基板等でサンドイッチした構造を有するマイクロポンプにおいて、ポンプ中に多価アルコールまたは、多価アルコール化合物の一種以上を含む溶液を一旦注入し、乾燥する事によってポンプの液体と接する面に該多価アルコール類を付着させた事を特徴とするマイクロポンプの製造方法。
【請求項3】 ポンプ中に注入する溶液が、生理食塩水である事を特徴とする請求項1記載のマイクロポンプの製造方法。
【請求項4】 ポンプ中に注入する溶液が、エチレングリコール、またはグリセリンの水溶液である事を特徴とする請求項2記載のマイクロポンプの製造方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開平5−306683
【公開日】平成5年(1993)11月19日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−268828
【出願日】平成4年(1992)10月7日
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)