説明

マイクロレンズアレイの製造方法及びマイクロレンズアレイ

【課題】2次元的にマイクロレンズを配列したマイクロレンズアレイ或いはその製造方法において、平面的な配置によるレンズ形状(レンズ曲率)のばらつきを抑制する。
【解決手段】マイクロレンズアレイ1は、光学基材Bの周辺部に位置するマイクロレンズの幅W2が光学基材Bの中央部に位置するマイクロレンズの幅W1より小さく、光学基材Bの周辺部に位置するマイクロレンズのレンズ高さt2が光学基材Bの中央部に位置するマイクロレンズのレンズ高さt1より小さい。これにより、光学基材Bにおけるマイクロレンズのレンズ曲率のばらつきを2%以下に抑制している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロレンズアレイの製造方法及びマイクロレンズアレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロレンズアレイは、レンズ径が数百μm以下の微少なレンズ(マイクロレンズ)を1次元又は2次元にアレイ配列したものであり、光エレクトロニクス分野に関連したマイクロオプティクスとして広く実用化されている。
【0003】
マイクロレンズアレイの製造方法としては、石英基板などの光学基材をフォトリソグラフィ工程とエッチング工程を組み合わせて加工する方法が知られている。下記特許文献1に記載された製造方法は、グレースケールマスクと呼ばれる光透過率を段階的に変えたマスクパターンを用いている。これによると、グレースケールマスクを用いて光学基材の表面に形成されたフォトレジスト層を露光し現像することで、そのマスクパターンによってマイクロレンズの形状に対応した立体的なレジストパターンを形成し、このレジストパターンを光学基材と共にドライエッチングすることでマイクロレンズ形状のレジストパターンを光学基材に転写し、光学基材からなるマイクロレンズアレイを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平8−504515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来の製造方法によって、レンズを2次元的に複数配列したマイクロレンズアレイを製造する場合に、マイクロレンズアレイの平面的な寸法を比較的大きくすると、その平面内でエッチング速度のムラが生じ、平面内の有効範囲内でマイクロレンズのレンズ形状(レンズ曲率)にばらつきが生じる問題がある。
【0006】
一般に、レンズ形状のレジストパターンを光学基材と共にドライエッチングすると、フォトレジストと光学基材のエッチングレートの違いによって光学基材の表面に形成されるレンズ形状はレジストパターンの形状と同一形状には成らない。この形状誤差をグレースケールマスクのマスクパターン寸法に反映させて、実際に光学基材の表面に形成されるレンズ形状を所望の形状にすることは既に行われている。しかしながら、このような形状誤差を考慮したマスクパターンを採用した場合であっても、エッチング速度の平面的なムラによるレンズ形状のばらつきには対応できず、マイクロレンズアレイの平面的な寸法を6〜8インチ四方と比較的大きくした場合には、有効径全体で均一なレンズ形状が得られない問題があった。
【0007】
特に、高分解能露光に採用するマイクロレンズアレイは個々のレンズ形状のばらつきを低く(例えば1〜2%以下に)する必要がある。平面的な配置でレンズ形状に大きなばらつきがあると、各マイクロレンズでフォーカス距離や倍率が異なることになり、正確な露光ができない問題が生じる。
【0008】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、2次元的にマイクロレンズを配列したマイクロレンズアレイ或いはその製造方法において、平面的な配置によるレンズ形状(レンズ曲率)のばらつきを抑制すること、言い換えると、マイクロレンズアレイの基板面内でレンズ形状(レンズ曲率)の均一化を図ること、が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、本発明は、以下の構成を少なくとも具備する。
【0010】
光学基材の表面にフォトレジスト層を形成し、該フォトレジスト層をマイクロレンズの形状に対応したマスクパターンを有するフォトマスクを介して露光し現像することで前記光学基材の表面にレンズ形状に対応したレジストパターンを形成し、該レジストパターンを前記光学基材と共にエッチングすることで前記光学基材の表面をマイクロレンズのレンズ形状に加工するマイクロレンズアレイの製造方法であって、前記フォトマスクのマスクパターンは、前記光学基材の表面に2次元的に複数配列されるマイクロレンズに対応しており、前記光学基材の周辺部に位置するマスクパターンの幅を前記光学基材の中央部に位置するマスクパターンの幅より小さくしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、このような特徴を有することで、平面的なエッチング速度のムラによるレンズ形状(レンズ曲率)のばらつきを、マスクパターンの幅(円形パターンの場合はマスクパターンの直径)をマスクパターンの位置に対応して補正することで抑制するものである。一般に、平面的なエッチング速度のムラは、基板の中央付近に対して基板の周辺で遅くなる。したがって、光学基材の表面にエッチング加工によって複数のマイクロレンズアレイを形成する場合、光学基材の表面に形成したレジストパターンの幅(平面的に円形の場合は直径)が均一な場合には、光学基材の周辺部になるほどエッチング不足になり、形成されるマイクロレンズのレンズ高さが低く、レンズの曲率半径は大きくなる。
【0012】
このような平面的なエッチング速度のムラを考慮に入れて、マスクパターンの幅を光学基材の中央部で比較的大きく周辺部で比較的小さくすると、光学基材の表面に形成されるレジストパターンの幅も光学基材の中央部で比較的大きく周辺部で比較的小さくなる。このようなレジストパターンを光学基材と共にエッチングすると、光学基材の周辺部に形成されるマイクロレンズはエッチング速度の遅さでレンズ高さは低くなるが、レンズ径が比較的小さいことで、レンズ高さが低くてもレンズの曲率半径は大きくならない。これによって、レンズ曲率は光学基材の中央部と周辺部で同等になり、レンズ曲率のばらつきが抑制されることになる。
【0013】
このように本発明の製造方法によって得られるマイクロレンズアレイは、光学基材の周辺部に位置するマイクロレンズの幅が光学基材の中央部に位置するマイクロレンズの幅より小さく、光学基材の周辺部に位置するマイクロレンズのレンズ高さが光学基材の中央部に位置するマイクロレンズのレンズ高さより小さくなるが、光学基材の有効径内におけるレンズ曲率のばらつきを最小限(例えば2%以内)に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係るマイクロレンズアレイの製造方法の前提となる工程を示した説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係るマイクロレンズアレイの製造方法に用いるフォトマスクのマスクパターンを示した説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係るマイクロレンズアレイのレンズ形状を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の実施形態に係るマイクロレンズアレイの製造方法の前提となる工程を示した説明図である。本発明の実施形態に係るマイクロレンズの製造方法は、光学基材Bの表面にフォトレジスト層Rを形成し、フォトレジスト層Rをマイクロレンズの形状に対応したマスクパターンMPを有するフォトマスクMを介して露光し現像することで光学基材Bの表面にレンズ形状に対応したレジストパターンRPを形成し(フォトリソグラフィ工程)、レジストパターンRPを光学基材Bと共にエッチングすることで光学基材Bの表面をマイクロレンズ1aのレンズ形状に加工する(エッチング工程)ことが前提になる。
【0016】
この際、所望の光学特性(フォーカス距離や倍率)を有するマイクロレンズを得るためのレンズ設計がなされ、所望のレンズ曲率のレンズ設計データを例えばレンズ幅に対するレンズ高さの曲線で得る。次に、このレンズ設計データに基づいてフォトレジスト設計を行う。前述したようにレジストパターンRPを光学基材Bと共にエッチングしてマイクロレンズを形成する場合に、レジストパターンRPの形状とレンズ形状は同一にはならない。したがって、所望のレンズ形状を得るためには、レジストパターンRPと光学基材Bのエッチングレートの違いを考慮してレンズ設計データを補正したレジストパターンの形状設計データ(パターン幅に対するレジスト高さの曲線;「フォトレジスト設計」)が必要になる。
【0017】
更に、レジストパターンの形状設計データ(フォトレジスト設計)に基づいてフォトマスク設計が行われる。例えば、グレースケールマスクを用いる場合には、一つのマスクパターン内でのパターン幅に対する光透過率の分布によってマスクパターンが設計される。このようにして得たフォトマスクを用いて、フォトリソグラフィ工程を行い、その後エッチング工程を行って光学基材Bの表面にマイクロレンズアレイを形成する。
【0018】
このような製造方法において、マイクロレンズを2次元的に複数配列したマイクロレンズアレイを形成する場合に、光学基材の平面的な寸法を比較的大きくすると、エッチング速度の平面的なムラによって、レンズ形状(レンズ曲率)にばらつきが生じることが確認された。一般的には、前述したエッチング工程でドライエッチングを行うと、基板の中央部でのエッチング速度に対して周辺部でのエッチング速度が遅くなり、中央部と周辺部のレンズ形状を比較すると、周辺部のレンズの曲率半径が中央部のレンズの曲率半径より大きくなるレンズ形状のばらつきが発生する。
【0019】
このようなレンズ形状のばらつきを抑制するために、フォトマスクMのマスクパターンMPを補正する。図2は、本発明の実施形態に係るマイクロレンズアレイの製造方法に用いるフォトマスクのマスクパターンを示した説明図である。図示の例では、フォトマスクMのマスクパターンMPは、光学基材Bの表面に2次元的に複数配列されるマイクロレンズ1aに対応しており、光学基材Bの周辺部に位置するマスクパターンMP2の幅(直径)L2を光学基材Bの中央部に位置するマスクパターンMP1の幅(直径)L1より小さくしている。図示の例は、フォトマスクがグレースケールマスクであり、マスクパターンMP1,MP2は、マスクパターンの内部に径方向に沿った光透過率分布を有している。
【0020】
この際、補正されるマスクパターンMPの幅は、光学基材Bの周辺部に位置するマスクパターンMP2の幅L2を、光学基材Bの表面に形成されるマイクロレンズ1aのレンズ設計データに対応した設定値より小さくしてもよいし、光学基材Bの中央部に位置するマスクパターンMP1の幅L1を、光学基材Bの表面に形成されるマイクロレンズ1aのレンズ設計データに対応した設定値より大きくしてもよい。また、周辺部に位置するマスクパターンMP2の幅L2と中央部に位置するマスクパターンMP1の幅L1は、その平面的な位置に応じて連続的又は段階的に補正されており、結果的にマイクロレンズアレイのレンズ形状のばらつきが最小限に抑制できるように、マスクパターンの設計が補正される。
【0021】
このように補正されたマスクパターンを有するフォトマスクMを用いて前述したフォトリソグラフィ工程を行うと、光学基材B上のレジストパターンRPも光学基材Bの中央部で幅(直径)が大きく周辺部で幅(直径)が小さくなる。このようなレジストパターンRPに対して前述したエッチング工程を行うことで、平面的な位置に対してレンズ形状のばらつきが少ないマイクロレンズアレイを得ることができる。
【0022】
図3は、補正されたフォトマスクを用いてフォトリソグラフィ工程とエッチング工程を行うことで得られるマイクロレンズアレイのレンズ形状(本発明の実施形態に係るマイクロレンズアレイのレンズ形状)を示した説明図である。形成されるマイクロレンズアレイ1は、前述したエッチング工程でエッチング加工された複数のマイクロレンズ1aを光学基材Bの表面に2次元的に配列している。
【0023】
図3(a)に示すように、光学基材Bの中央部に位置するマイクロレンズは、幅(直径)W1、レンズ高さt1、レンズ曲率半径R1に形成される。これに対して、図3(b)に示すように、光学基材Bの周辺部に位置するマイクロレンズは、幅(直径)W2、レンズ高さt2、レンズ曲率半径R2に形成される。ここで、幅W1,W2は、補正されたマスクパターンMP1,MP2によって、W1>W2になり、レンズ高さt1,t2は、平面的なエッチング速度のムラによって周辺部のエッチング速度が遅くなることで、t1>t2になるが、レンズ高さがt1>t2になることを見込んで幅をW1>W2に設定していることでレンズ曲率半径R1,R2はR1≒R2になる。これに対して、マスクパターンMPの補正を行わない場合は、図3(c)に示すように、マイクロレンズの幅W3はW1とほぼ同じになるが、レンズ高さt3はエッチング速度が周辺で遅くなることでt2と同様にt1より小さくなり、この幅W3とレンズ高さt3によって得られるレンズ曲率半径R3はR1より大きくなってしまう。このようなマスクパターンMPの補正を行うことで、光学基材Bの有効径内におけるレンズ曲率のばらつきを2%以下に抑制することが可能になる。
【0024】
マスクパターンの補正を含めたより具体的なマイクロレンズアレイの製造方法を以下に説明する。先ず、マイクロレンズの設計データに基づいてマイクロレンズに対応する均一幅のマスクパターンを有するテストフォトマスクを用い、光学基材Bの表面に形成したフォトレジスト層Rに対してテストフォトマスクを介して露光し現像することで光学基材Bの表面にマイクロレンズに対応するレジストパターンRPを形成する(フォトリソグラフィ工程)。そして、レジストパターンRPを光学基材Bと共にエッチングすることで光学基材Bの表面にマイクロレンズを形成する(エッチング工程)。
【0025】
そして、光学基材Bの表面に形成されたマイクロレンズにおけるレンズ曲率のばらつきを計測し、その計測値に基づいてレンズ曲率のばらつきを抑制するように、マスクパターンMPの幅をマスクパターンの位置に対応して補正し、補正フォトマスクを形成する。この補正フォトマスクを前述したテストフォトマスクに換えて前述したフォトリソグラフィ工程とエッチング工程を行うことで、レンズ形状のばらつきが少ないマイクロレンズアレイを得ることができる。
【0026】
以上説明したように、本発明の実施形態によると、2次元的にマイクロレンズを配列したマイクロレンズアレイ或いはその製造方法において、平面的な配置によるレンズ形状(レンズ曲率)のばらつきを抑制することができ、マイクロレンズアレイの基板面内でレンズ形状(レンズ曲率)の均一化を図ることができる。これによって、高分解能露光に採用する場合にも、各マイクロレンズのフォーカス距離や倍率が一定になり、正確な露光を行うことができる。
【符号の説明】
【0027】
1:マイクロレンズアレイ,1a:マイクロレンズ,
B:光学基材,R:フォトレジスト層,RP:レジストパターン,
M:フォトマスク,MP:マスクパターン,
W1,W2,W3:レンズ幅(直径),
t1,t2,t3:レンズ高さ,
R1,R2,R3:レンズ曲率半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学基材の表面にフォトレジスト層を形成し、該フォトレジスト層をマイクロレンズの形状に対応したマスクパターンを有するフォトマスクを介して露光し現像することで前記光学基材の表面にレンズ形状に対応したレジストパターンを形成し、該レジストパターンを前記光学基材と共にエッチングすることで前記光学基材の表面をマイクロレンズのレンズ形状に加工するマイクロレンズアレイの製造方法であって、
前記フォトマスクのマスクパターンは、前記光学基材の表面に2次元的に複数配列されるマイクロレンズに対応しており、前記光学基材の周辺部に位置するマスクパターンの幅を前記光学基材の中央部に位置するマスクパターンの幅より小さくしたことを特徴とするマイクロレンズアレイの製造方法。
【請求項2】
前記光学基材の周辺部に位置するマスクパターンの幅は、前記光学基材の表面に形成されるマイクロレンズのレンズ設計データに対応した設定値より小さいことを特徴とする請求項1に記載されたマイクロレンズアレイの製造方法。
【請求項3】
前記光学基材の中央部に位置するマスクパターンの幅は、前記光学基材の表面に形成されるマイクロレンズのレンズ設計データに対応した設定値より大きいことを特徴とする請求項1に記載されたマイクロレンズアレイの製造方法。
【請求項4】
前記フォトマスクがグレースケールマスクであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載されたマイクロレンズアレイの製造方法。
【請求項5】
光学基材の表面に複数のマイクロレンズを2次元的に配列したマイクロレンズアレイの製造方法であって、
前記マイクロレンズの設計データに基づいて前記マイクロレンズに対応する均一幅のマスクパターンを有するフォトマスクを用い、前記光学基材の表面に形成したフォトレジスト層に対して前記フォトマスクを介して露光し現像することで前記光学基材の表面に前記マイクロレンズに対応するレジストパターンを形成するフォトリソグラフィ工程と、
前記レジストパターンを前記光学基材と共にエッチングすることで前記光学基材の表面にマイクロレンズを形成するエッチング工程と、
前記光学基材の表面に形成されたマイクロレンズにおけるレンズ曲率のばらつきを計測し、その計測値に基づいて当該レンズ曲率のばらつきを抑制するように、前記マスクパターンの幅を当該マスクパターンの位置に対応して補正した補正フォトマスクを形成する工程と、
前記補正フォトマスクを前記フォトマスクに換えて前記フォトリソグラフィ工程と前記エッチング工程を行うことを特徴とするマイクロレンズアレイの製造方法。
【請求項6】
エッチング加工された複数のマイクロレンズを光学基材の表面に2次元的に配列したマイクロレンズアレイであって、
前記光学基材の周辺部に位置するマイクロレンズの幅が前記光学基材の中央部に位置するマイクロレンズの幅より小さく、
前記光学基材の周辺部に位置するマイクロレンズのレンズ高さが前記光学基材の中央部に位置するマイクロレンズのレンズ高さより小さく、
前記光学基材におけるマイクロレンズのレンズ曲率のばらつきが2%以下であることを特徴とするマイクロレンズアレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−44970(P2013−44970A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183131(P2011−183131)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(500171707)株式会社ブイ・テクノロジー (283)