説明

マイクロ波放電装置

【課題】マイクロ波放電装置において、プラズマの自発放電が可能であり、安定持続放電ための放電空間をより自由に設計可能とする。
【解決手段】マイクロストリップ線路の1つの終端にはプラズマを励起する励起用電極3aを備え、他の終端にはプラズマを安定して生成する放電用電極4aを備え、放電空間3b,4bが形成される。放電空間3bは大気圧下でプラズマの自発放電が容易となるように電極3a,2a間距離が短い。放電空間3b,4bは励起用電極3aに励起された励起用プラズマによって安定放電プラズマが誘発されるように互いに近接配置されている。放電素子2の回路インピーダンスは、プラズマ励起前は励起用電極3aに電力が流入し、放電用電極4aにプラズマが誘発されたときは放電用電極4aに電力が流入するように設定されている。電極の役割分担により、プラズマの自発放電が容易となると共に、安定持続放電ための放電空間をより広くできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧プラズマを生成するマイクロ波放電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大気圧中において、マイクロ波が伝搬するマイクロストリップ線路の終端部にマイクロ波によって大気圧プラズマを生成するようにしたマイクロ波放電装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この装置は、マイクロストリップ線路の横断面において、マイクロストリップ線路を構成する2つの導体を近接させた隙間を形成し、その近接した導体間に電界を集中させることにより自発放電と自発放電後の安定持続放電とを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−107829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したマイクロ波放電装置においては、放電空間が、自発放電を可能とするために近接させた導体間の隙間に限定されるので、生成されるプラズマの容積を増やしたり、形状を変えたりする設計の自由度が殆どないという問題がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解消するものであって、プラズマの自発放電が可能であり、安定持続放電ための放電空間の設計自由度が増したマイクロ波放電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、本発明のマイクロ波放電装置は、マイクロストリップ線路の終端部にマイクロ波によって大気圧プラズマを生成するマイクロ波放電装置において、マイクロストリップ線路を分岐し、その分岐した線路の1つの終端にはプラズマを励起するための励起用電極を備え、他の終端にはプラズマを安定して生成するための放電用電極を備え、励起用電極と放電用電極とは、励起用電極に励起されたプラズマによって放電用電極にプラズマが誘発されるように互いに近接して配置されており、マイクロストリップ線路の入力端にマイクロ波の電力が供給されたときに、プラズマ励起前は励起用電極に電力が流入し、放電用電極にプラズマが誘発されたときは当該放電用電極に電力が流入するように、入力端から見たマイクロストリップ線路全体の回路インピーダンスが設定されていることを特徴とする。
【0007】
このマイクロ波放電装置において、マイクロストリップ線路の分岐点から励起用電極に至るまでのインピーダンスが分岐点より前のマイクロストリップ線路のインピーダンスと同等であり、分岐点から放電用電極に至るまでのマイクロストリップ線路のインピーダンスが分岐点より前のマイクロストリップ線路のインピーダンスよりも大きいか、または小さく、励起用電極にプラズマが励起されることにより、そのプラズマが励起される前の分岐点より後のマイクロストリップ線路のインピーダンスが分岐点より前のマイクロストリップ線路のインピーダンスよりも大きいか、または小さくなり、放電用電極にプラズマが誘発されることにより、そのプラズマが誘発される前の分岐点より後のマイクロストリップ線路のインピーダンスが分岐点より前のマイクロストリップ線路のインピーダンスと同等となるように、分岐点より後の各マイクロストリップ線路のインピーダンスが設定されていることが好ましい。
【0008】
このマイクロ波放電装置において、分岐点より後の一方のマイクロストリップ線路の終端部での導体間の距離は、他方のマイクロストリップ線路の終端部のそれに比べて短く形成されていてもよい。
【0009】
このマイクロ波放電装置において、マイクロストリップ線路の入力端に供給されるマイクロ波の周波数を、励起用電極によるプラズマ励起時と放電用電極によるプラズマ生成時とで切り替えるようにしてもよい。
【0010】
このマイクロ波放電装置において、マイクロストリップ線路からの反射電力を計測する電力計測部と、電力計測部による計測結果に基づいてマイクロ波の入力電力を制御する電力制御部と、を備えてもよい。
【0011】
このマイクロ波放電装置において、マイクロストリップ線路からの反射電力を迂回させるサーキュレータと、サーキュレータによって迂回された反射電力をマイクロストリップ線路に供給する方向性結合器と、を備えてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のマイクロ波放電装置によれば、励起用電極にプラズマを励起して放電用電極にプラズマを誘発するように電極の役割を分担したので、プラズマの自発放電が容易となると共に、安定持続放電ための放電空間をより広くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係るマイクロ波放電装置についての平面図、(b)は同装置の断面図、(c)は同装置の正面図。
【図2】(a)は同装置のマイクロ波伝送回路のインピーダンスの説明図、(b)はプラズマ生成後の同インピーダンスの説明図。
【図3】(a)は同装置の放電用電極についてのインピーダンスのプラズマ誘発前後のスミスチャート、(b)は同装置の励起用電極についてのインピーダンスのプラズマ誘発前後のスミスチャート。
【図4】同装置の変形例の平面図。
【図5】同装置の他の変形例のブロック構成図。
【図6】同装置のさらに他の変形例のブロック構成図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係るマイクロ波放電装置について、図面を参照して説明する。図1乃至図3は、一実施形態に係るマイクロ波放電装置1を示す。マイクロ波放電装置1は、図1(a)(b)(c)に示すように、誘電体基板20とその両面の導体21,22で構成されるY分岐したマイクロストリップ線路(以下、単に線路ともいう)を備えて成る放電素子2に、マイクロ波の入力端子11を備えたものである。誘電体基板20は、四角形状を有し、その下面には通常接地電位とされる幅広の導体21が下面全面に形成され、上面には線路を形成する導体22が形成され、導体22は分岐点PにおいてY分岐してそれぞれ線路となる導体3,4が形成されている。導体22の入力端22a側には、導体21,22にマイクロ波電力を入力するための入力端子11が設けられている。入力端子11には、例えば、マイクロ波源10からの電力を供給する同軸ケーブルが接続される。
【0015】
Y分岐した線路の1つの終端にはプラズマを励起するための励起用電極3aを備え、他の終端にはプラズマを安定して生成するための放電用電極4aを備えている。すなわち、Y分岐した導体3,4は、それぞれ誘電体基板20の端部で端面に沿って下面方向に延設され、励起用電極3a、および放電用電極4aとなる。下面の導体21は、励起用電極3aと放電用電極4aとが形成されている誘電体基板20の端面に沿って上面方向に延設され、励起用電極3aと放電用電極4aのそれぞれの対向電極21aとなる。励起用電極3aと対向電極21aの間の空間は放電空間3bとなり、放電用電極4aと対向電極21aの間の空間は放電空間4bとなる。放電空間3bは、大気圧下でプラズマの自発放電が容易となるように電極3a,2a間距離が短くされており、この空間で生成されるプラズマを励起用プラズマと称する。放電空間4bは、大気圧プラズマの自発放電はできないが容積の大きなプラズマが生成されるように電極4a,2a間距離が長くされており、この空間で生成されるプラズマを安定放電プラズマと称する。
【0016】
励起用プラズマは、安定放電プラズマを誘発するためのプラズマである。励起用電極3aと放電用電極4aとは、励起用電極3aに励起された励起用プラズマによって放電用電極4aに安定放電プラズマが誘発されるように、互いに近接して配置する。また、入力端から見た線路全体の回路インピーダンスは、入力端子11にマイクロ波電力が供給されたとき、プラズマ励起前は励起用電極3aに電力が流入し、放電用電極4aにプラズマが誘発されたときは放電用電極4aに電力が流入するように設定する。プラズマ生成前後のインピーダンスの設定について、以下に述べる。
【0017】
放電前においては、放電素子2における各線路のインピーダンスは、図2(a)に示すように、線路の分岐点Pから励起用電極3aに至るまでのインピーダンスが分岐点Pより前の線路のインピーダンスと同等とされている。例えば、各線路のインピーダンスZは、分岐前を50Ωとし、分岐後も50Ωとすればよい。また、分岐点Pから放電用電極4aに至るまでの線路のインピーダンスが分岐点Pより前の線路のインピーダンスよりも大きいか、または小さくされている。例えば、分岐前が50Ωであり、分岐後は大きく1kΩとすればよい。
【0018】
放電後においては、図2(b)に示すように、励起用電極3aにプラズマ31が励起されることにより、そのプラズマ31が励起される前の分岐点Pより後の線路のインピーダンスが分岐点Pより前の線路のインピーダンスよりも大きいか、または小さく設定する。例えば、各線路のインピーダンスZは、分岐前が50Ωであり、分岐後は(10+jβ)Ωに従って小さくなるように設定すればよい。また、放電用電極4aにプラズマ41が誘発されることにより、そのプラズマ41が誘発される前の分岐点Pより後の線路のインピーダンスが分岐点Pより前の線路のインピーダンスと同等となるように、分岐点Pより後の各線路のインピーダンスが設定されている。例えば、分岐前が50Ωであり、分岐後も50Ωとなるように設定すればよい。
【0019】
上述の内容をスミス図表で見ると、放電用電極4aにおいては、図3(a)に示すように、放電前から放電後の状態への変化は、矢印曲線a,bに従って、インピーダンスマッチングの外れた状態からマッチングのとれた状態へと遷移する変化となる。また、励起用電極3aにおいては、図3(b)に示すように、放電前から放電後の状態への変化は、矢印曲線c,dに従って、インピーダンスマッチングのとれた状態からマッチングの外れた状態へと遷移する変化となる。
【0020】
上述の各マイクロストリップ線路の放電空間3b,4bに至るまでのインピーダンスや、励起用プラズマ31、安定放電プラズマ41を含むインピーダンスは、高周波回路シミュレーションやプラズマの測定に基づいて設計することができる。本実施形態によれば、励起用電極3aにプラズマを励起して放電用電極4aにプラズマを誘発するように電極の役割を分担したので、放電素子2におけるプラズマの自発放電が容易となる。また、電極の役割を分担したことにより、安定持続放電ための放電空間4bをより広くすることができ、容積のより大きなプラズマを生成することができる。
【0021】
図4は、マイクロ波放電装置1の変形例を示す。この変形例は、線路の入力端に供給されるマイクロ波の周波数を、励起用電極3aによるプラズマ励起時と放電用電極4aによるプラズマ生成時とで切り替える入力切替回路12を備えている。それぞれのプラズマに対して、どのような周波数とするかについては、各線路およびプラズマの各インピーダンスの周波数依存性を測定またはシミュレーション計算によって求めて、その結果に基づいて決定すればよい。この変形例によれば、各プラズマに適した電力供給ができるので、電力ロスを減らすことができ、より安定したプラズマを生成して維持することができる。
【0022】
図5は、マイクロ波放電装置1の他の変形例を示す。この変形例は、放電素子2の線路からの反射電力W1を計測する電力計測部13と、電力計測部13による計測結果に基づいてマイクロ波の入力電力を制御する電力制御部14と、を備えている。電力計測部13は、サーキュレータ13aを備えており、マイクロ波源10からの供給電力W0は、サーキュレータ13aを介して放電素子2に供給される。放電素子2からの反射電力W1は、サーキュレータ13aによって電力計測部13に迂回されて電力測定がなされる。その測定結果は、マイクロ波源10に内蔵した、またはマイクロ波源10に外付けした電力制御部14に送られる。電力制御部14は、その計測結果に基づいて、反射電力W1が減少するように、マイクロ波の入力電力を制御する。この変形例によれば、外乱の影響を抑制してより安定したプラズマを生成することができる。
【0023】
図6は、マイクロ波放電装置1のさらに他の変形例を示す。この変形例は、放電素子2の線路からの反射電力W3を迂回させるサーキュレータ15と、サーキュレータ15によって迂回された反射電力W3を線路に供給する方向性結合器16と、を備えている。マイクロ波源10からの供給電力W0は方向性結合器16に入力される。方向性結合器16は、供給電力W0と反射電力W3の合算された電力W2をサーキュレータ15に入力する。サーキュレータ15は電力W2を放電素子2に入力すると共に、放電素子2から反射電力W3を方向性結合器16に入力する。方向性結合器16のかわりに、第2のサーキュレータを用いてもよい。この変形例によれば、反射電力の悪影響や電力ロスを減らして効率的にプラズマを生成することができる。
【0024】
なお、本発明は、上記構成に限られることなく種々の変形が可能である。例えば、上述した実施形態や変形例の構成を互いに組み合わせた構成とすることができる。マイクロストリップ線路は、Y分岐だけでなく、多分岐、例えば、3分岐として、1つの励起用電極と、その両側の放電用電極を備えるようにしてもよい。また、順次、より容積の大きなプラズマをカスケード的に生成できるように、励起用電極や放電様電極を備えるようにしてもよい。また、励起用プラズマを生成する際にマイクロ波電力をパルス化するパルス化回路を備えるようにしてもよい。パルス化したマイクロ波により、時間平均の電力を抑えて、励起用プラズマをより容易に励起でき、安定放電プラズマが誘発された後は、パルスでないマイクロ波で放電すればよい。
【符号の説明】
【0025】
1 マイクロ波放電装置
2 放電素子
22 マイクロストリップ線路
22a 入力端
3 励起用電極側のマイクロストリップ線路
3a 励起用電極
4 放電用電極側のマイクロストリップ線路
4a 放電用電極
13 電力計測部
14 電力制御部
16 サーキュレータ
15 方向性結合器
P 分岐点
W5,W6 反射電力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロストリップ線路の終端部にマイクロ波によって大気圧プラズマを生成するマイクロ波放電装置において、
前記マイクロストリップ線路を分岐し、その分岐した線路の1つの終端にはプラズマを励起するための励起用電極を備え、他の終端にはプラズマを安定して生成するための放電用電極を備え、
前記励起用電極と放電用電極とは、前記励起用電極に励起されたプラズマによって前記放電用電極にプラズマが誘発されるように互いに近接して配置されており、
前記マイクロストリップ線路の入力端にマイクロ波の電力が供給されたときに、プラズマ励起前は前記励起用電極に電力が流入し、前記放電用電極にプラズマが誘発されたときは当該放電用電極に電力が流入するように、前記入力端から見たマイクロストリップ線路全体の回路インピーダンスが設定されていることを特徴とするマイクロ波放電装置。
【請求項2】
前記マイクロストリップ線路の分岐点から前記励起用電極に至るまでのインピーダンスが前記分岐点より前のマイクロストリップ線路のインピーダンスと同等であり、
前記分岐点から前記放電用電極に至るまでのマイクロストリップ線路のインピーダンスが前記分岐点より前のマイクロストリップ線路のインピーダンスよりも大きいか、または小さく、
前記励起用電極にプラズマが励起されることにより、そのプラズマが励起される前の前記分岐点より後のマイクロストリップ線路のインピーダンスが前記分岐点より前のマイクロストリップ線路のインピーダンスよりも大きいか、または小さくなり、
前記放電用電極にプラズマが誘発されることにより、そのプラズマが誘発される前の前記分岐点より後のマイクロストリップ線路のインピーダンスが前記分岐点より前のマイクロストリップ線路のインピーダンスと同等となるように、
前記分岐点より後の各マイクロストリップ線路のインピーダンスが設定されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波放電装置。
【請求項3】
前記分岐点より後の一方のマイクロストリップ線路の終端部での導体間の距離は、他方のマイクロストリップ線路の終端部のそれに比べて短く形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマイクロ波放電装置。
【請求項4】
前記マイクロストリップ線路の入力端に供給されるマイクロ波の周波数を、前記励起用電極によるプラズマ励起時と前記放電用電極によるプラズマ生成時とで切り替えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のマイクロ波放電装置。
【請求項5】
前記マイクロストリップ線路からの反射電力を計測する電力計測部と、
前記電力計測部による計測結果に基づいてマイクロ波の入力電力を制御する電力制御部と、を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のマイクロ波放電装置。
【請求項6】
前記マイクロストリップ線路からの反射電力を迂回させるサーキュレータと、前記サーキュレータによって迂回された反射電力を前記マイクロストリップ線路に供給する方向性結合器と、を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のマイクロ波放電装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−234662(P2012−234662A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101185(P2011−101185)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)