説明

マグネタイト含有シリコーンゴム組成物

【課題】 マグネタイト含有エラストマー組成物を高温環境において使用すると、黒色から茶色や赤褐色に変色して外観品質を損なう場合がある。本願発明は、そのような変色を防止したマグネタイト含有シリコーンゴム組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 シリコーンゴムにマグネタイトを配合し、さらに酸化亜鉛を配合して変色を防止したマグネタイト含有シリコーンゴム組成物とする。シリコーンゴム100重量部にマグネタイトを100〜1000重量部を配合し、さらに酸化亜鉛を1〜100重量部配合して変色を防止することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱や電磁波などの外部からの印加エネルギーに対して、その人為的制御を可能とするエラストマー組成物に関し、具体的にはエラストマー組成物に付加価値として電磁波遮蔽性、電波吸収特性などの物理的特性を、配合設計という手段によって高効率に制御可能とするマグネタイト含有シリコーンゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、移動体通信やETCシステムなどの社会的整備が進み、電波吸収性を有するゴム製品への要求も高まってきた。従来、エラストマーからなるゴム製品の電波吸収性を高めるためには軟磁性粉やフェライトが多用されていた。しかし、これらの充填材をゴム製品に配合しても、高周波に対しての効果的な電波吸収は本質的な困難であった。このため、ギガヘルツ帯域以上の周波数に対応させるためには、エラストマーへの充填限界配合量までの充填をさせることが、電波吸収体として認知しうるための前提条件となりつつあった。だが、それでも良好な吸収能力を得ることは難しかった。
【0003】
そこで、本願出願人は、特許文献1にかかる特許出願において、エラストマーに特定のマグネタイトを配合する事により、高効率で電波吸収性能を発揮するマグネタイト含有エラストマー組成物を提案した。
【特許文献1】特開2007−45975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかるエラストマー組成物においては、前述の従来技術の欠点が解消され、柔軟性を失うことなく高周波帯にも対応できる広帯域型電波吸収性能を有する応用範囲の広いエラストマー組成物が得られた。しかし、その後の検討によると、当該エラストマー組成物を長時間高温状態にさらすと、組成物の表面が変色し、またその内部までも変色が進行する事が明らかとなった。
【0005】
特に、エラストマー成分としてシリコーンゴムを採用する際には、当該エラストマー組成物を高温で架橋したり、高温環境で使用する事が多く、当該マグネタイト含有シリコーンゴム組成物を200℃以上の温度領域で2次架橋したり、使用したりすると、黒色から茶色あるいは赤褐色に変色してしまい、外観上の問題となることがあった。
【0006】
従って、本発明の目的は、柔軟性を失うことなく優れた広帯域型電波吸収性能を有するマグネタイト含有シリコーンゴム組成物を提供すると共に、高温環境において当該シリコーンゴム組成物の変色を防止することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、鋭意検討の結果、上記変色が、黒色であるマグネタイト(Fe3O4)が、180〜400℃で茶色のガンマ酸化第二鉄(Fe)に変化(酸化)することに起因するものであることを発見した。そして、当該マグネタイト含有シリコーンゴム組成物に酸化亜鉛(ZnO)を添加すると、上記マグネタイトの酸化変色反応を防止することができ、高温環境におけるマグネタイト含有シリコーンゴム組成物の変色が防止できることを見出して、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、シリコーンゴムにマグネタイトを配合し、さらに酸化亜鉛を配合して変色を防止したことを特徴とするマグネタイト含有シリコーンゴム組成物である(請求項1)シリコーンゴム100重量部にマグネタイトを100〜1000重量部を配合し、さらに酸化亜鉛を1〜100重量部配合して変色を防止したことを特徴とするマグネタイト含有シリコーンゴム組成物とすることが好ましい(請求項2)。
【0009】
また、本発明は、酸化亜鉛を配合することにより、マグネタイト含有シリコーンゴム組成物の変色を防止する方法である(請求項3)。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、当該マグネタイト含有シリコーンゴム組成物からなるゴム製品を高温環境で使用しても、ゴム製品が変色することが防止でき、製品の外観品質を損なうことがないという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明には、多様なシリコーンゴム組成物が好ましく使用できる。シリコーンゴム組成物とは、ポリオルガノシロキサンであり、ジメチル系シロキサン、フェニル系シロキサンのミラブル型と称されるものが特に好適であり、これらのシリコーンゴム1種または2種類以上組み合わせたものが使用できる。また、液状シリコーンゴムも本発明のシリコーンゴムとして使用できる。
【0012】
本発明において上記シリコーンゴム成分に混合されるマグネタイトは化学式Fe3O4で示され、工業的製造方法はいくつか提案され実施されている。その方法のひとつに、乾式法の熱分解方式を経て製造されたヘマタイトを原料として得たマグネタイトの中に、エラストマーに配合すると特異的電波吸収特性に優れるものがあることを、本願出願人は、特許文献1において提案した。即ち、マグネタイトとして、熱分解法により製造されたヘマタイトを還元処理して得たマグネタイトであり、更に該マグネタイトの結晶長辺断面の大きさが10〜100nmの範囲にあり、断面に結晶不連続面が少なくとも一面以上存在するものを使用することがエラストマー組成物の電磁波吸収特性を高める上で好ましい。
【0013】
粉体としてのマグネタイトの大きさは一次粒子径として0.1〜2.0μmであることが望ましく、0.1μm未満であると一次粒子径同士の凝集傾向が強まり、結果として大きな粒子径のマグネタイトを配合しているのと何ら変わりのない結果を示すため好ましくない。反対に2.0μmを超えると結晶内部の断面長辺寸法にバラツキが生じて特に電波吸収能に悪影響を及ぼすため好ましくない。
【0014】
マグネタイトは一次粒子が凝集した二次粒子の構成をとることが多い。二次粒子径を解砕せずに配合する場合は、二次粒子径範囲をD50として0.5〜10μm、D90として10〜50μmとすると良好な分散が望める。これらの粒子径測定はレーザー法で行った数値を基にしている。
【0015】
マグネタイトの配合部数は、所望される製品の特性や使用するポリマーすなわちエラストマー成分により一律には規定できないが、エラストマー成分100重量部に対し、マグネタイトが100重量部以下であると電波吸収性の効果的な発現が望みにくく、1000重量部を超えると配合設計によっては充填が不可能となり、製品に弾性や可撓性が失われるという欠点が認められる。一般的には、電波吸収性を付与するためには400〜700重量部が好適な配合部数となる。
【0016】
シリコーンゴム組成物に前述のマグネタイトを配合し、コンパウンド化したものを加熱成型することにより、柔軟性を失うことなく高周波帯にも対応できる広帯域型電波吸収性能を有する応用範囲の広いシリコーンゴム組成物が得られる。
【0017】
本発明のエラストマー組成物に配合される酸化亜鉛(ZnO)は、亜鉛(Zn)と酸素(O)との化合物で、外観白色の物質である。通常、酸化亜鉛は、イオン結合してできるイオン結晶であり、具体的には、亜鉛原子が電子2個失って亜鉛イオンとなり、電子を2個受け取った酸素原子とともに酸化物イオンとなってできている。酸化亜鉛の結晶では、イオン間に大きい空隙があり、他の原子が侵入しやすい構造となっている。酸化亜鉛の結晶構造は、陰イオンと陽イオンが1:1で結合してできる、いわゆるウルツ鉱型結晶構造に属する。格子構造により、圧電特性がある。また、亜鉛イオンまたは酸素空孔によってn型半導体となる。
【0018】
酸化亜鉛は、ゴム用の添加剤としては、特に、天然ゴム、ニトリルゴム、ブチルゴムなどを硫黄にて加硫する場合の加硫促進助剤(活性剤)として知られており、通常は3〜5重量部配合される。しかしながら、シリコーンゴムのように付加架橋や過酸化物架橋により架橋するエラストマーには、通常、加硫促進助剤として添加されることはない。従来、ゴムの加硫促進助剤として用いられる酸化亜鉛は、フランス法やアメリカ法で製造されたものであり、また湿式法で製造された微粒子酸化亜鉛などもある。本発明に使用する酸化亜鉛は、いずれの製造方法によるものであっても良い。
【0019】
本発明においては、マグネタイトを含有するシリコーンゴム組成物に酸化亜鉛を配合することにより、長期高温状態にさらしても変色しにくいシリコーンゴム組成物が得られる。酸化亜鉛の配合量は、シリコーンゴム100重量部にマグネタイトを100〜1000重量部を配合した場合では、酸化亜鉛を1〜100重量部とすることが好ましい。
酸化亜鉛以外の金属酸化物、具体的には、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、酸化チタン、酸化セリウム、水酸化セリウム、炭酸カルシウムなどを配合処方した場合には、十分な変色防止効果が得られなかった。
【0020】
酸化亜鉛を配合することによって、高温環境におけるマグネタイト含有エラストマー組成物の変色、即ちマグネタイトの酸化が防止されるメカニズムは、明らかではないが、上記のように、酸化亜鉛が特有の結晶構造を有するイオン結晶であるために、高温環境において、酸化亜鉛に電気的な変化が生じ、これがマグネタイトの酸化防止に効果的に寄与したものでないかと推察する。
【0021】
本発明のマグネタイトを含有するエラストマー組成物は、各成分を任意の順序で配合し、十分に混合することにより調製できる。混合は、ニーダー、二本ロール、二軸混練押出機、及び各種ミキサーその他の混練機を使用して行うことができる。
【0022】
本発明のマグネタイトを含有するシリコーンゴム組成物を製造するための方法には、従来公知の方法を広く採用できる。例えば、得られたマグネタイトを含有するゴム組成物は、加熱により架橋させることで、ゴム成型体を得ることができる。架橋は任意の金型内で行うことにより、所望の形状のゴム成型体とすることができ、またゴム組成物を押出成型後、必要に応じて加熱槽を通過させることにより、連続的に帯状のゴム成型体を得ることもできる。また、加熱は2段階以上に分けて行うこともでき、加熱方法としては、熱風加熱、誘電加熱等、様々な方法が適用可能である。
【0023】
なお、上記実施形態の説明においては、シリコーンゴムをエラストマー成分として使用する場合について述べたが、酸化亜鉛がマグネタイトの変色を防止する効果は、シリコーンゴムに配合した場合に限られるものではなく、他のエラストマーに配合した場合にも得られる。即ち、エラストマー成分として、フッ素ゴムや、熱可塑性エラストマーなとのエラストマーを使用することもできる。高温環境で使用する場合には、特にフッ素ゴムが好適に使用できる。
【実施例】
【0024】
次に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの例によりなんら限定されるものではない。本文中の部とは全て重量部を意味する。実施例及び比較例の配合及び試験結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
(実施例)シリコーンゴムとして、末端がトリメチルシリル基で閉塞されメチルビニルシロキサンユニットを0.12モル%含有するポリジメチルシロキサン 100部(モメンティブ パフォーマンス マテリアルズ ジャパン合同会社製)に、マグネタイトとして、D50で4μm、D90で21μmであり熱分解法により製造されたヘマタイトを還元処理して得られ、結晶長辺寸法範囲が29〜66nmであり、結晶部に不連続面が少なくとも一面以上有しているマグネタイト(日本重化学工業株式会社製 商品名「MGR−22」)を400部配合し、さらに、酸化亜鉛として第2種ZnO(正同化学工業株式会社製)を20部配合して、加圧ニーダーを用いてコンパウドを得た。これにオープンロールにて2,5−ジメチル−2,5−ジターシャリーブチルパーオキシヘキサンを0.6部加えて、シート状に分出しした。規定の金型を用い160℃×10分間のプレス架橋を行い、その後ゴムを200℃の恒温槽に4時間入れて二次架橋を完成させて、600mm×600mm×3mmおよび200mm×200mm×1mmのシート状ゴム試料片を得た。
【0027】
(比較例1)比較例1として、酸化亜鉛を配合しない他は、実施例と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試料片を得た。
【0028】
(比較例2)比較例2として、酸化亜鉛20部の代わりに、酸化チタン(A−100:石原産業株式会社製)を20部配合した他は、実施例と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試料片を得た。
【0029】
実施例及び比較例として得られたゴム試料片を用いて、電磁波吸収性と高温環境における変色性の評価を行った。
【0030】
電磁波吸収性の評価は、複素比誘電率と複素比透磁率と電波反射減衰量を測定して行った。複素比誘電率と複素比透磁率の測定はベクトルネットワークアナライザーを用い、同軸導波管法で行った。同軸導波管にある試料ホルダーに規定の試料サイズに調整し終端負荷を付けて電波を入射させ、反射減衰量と位相角を測定し算出した。電波反射減衰量の測定は自由空間法の一つであるアーチ法と呼ばれる図1に示す装置で行った。この装置は電波暗室内に設置されている。アーチ支持台に送信と受信のアンテナを設け、電磁は入射角度を変化させ試料の入射角45度においてのTE波を用いて斜入射特性を計測した。測定周波数は1、5、10、15GHzでの値を記録した。反射減衰量の測定にはネットワークアナライザーを使用した。計算方法は、まず試料と等しい面積を持つステンレス板を置き、この反射減衰量を測定する。金属は電波を完全反射するためにこの測定値を基準値として、ステンレス板の上に置いた組成物試料の反射減衰量を同様に測定し、差分を電波吸収量とした。
【0031】
変色の比較には、サンプルシートを250℃の熱風乾燥機に2時間投入して、その前後のサンプル表面の色差を測定した。変色の度合いを示すものとして色差計を使用し、測定結果ΔEで表した。
また、1次加硫(160℃)後のサンプルと2次加硫(200℃)後のサンプルの表面状態をパワーハイスコープ(株式会社ハイロックス社製)により、サンプルシートの表面を20倍に拡大して撮影・観察して評価した。実施例の1次加硫後のサンプルを図2に、2次加硫後のサンプルを図3に示す。比較例1の1次加硫後のサンプルを図4に、2次加硫後のサンプルを図5に示す。比較例2の1次加硫後のサンプルを図6に、2次加硫後のサンプルを図7に示す。
【0032】
以下、評価結果を述べる。電磁波吸収性については、いずれの評価試料においても、1、5、10、15GHzで高い電磁波吸収特性を示した。即ち、酸化亜鉛や酸化チタンを配合することによる顕著な電磁波吸収性の差異は認められなかった。
【0033】
また、1次加硫後と2次加硫後のサンプルシートの表面状態を観察すると、酸化亜鉛を配合した実施例については、色相が黒色のままであり、2次加硫の前後で色合いの変化があまりなかった。一方、比較例1と比較例2のサンプルシートについては、2次加硫の前後で黒色から茶褐色に変色してしまった。また、色差計による測定の結果(ΔE)においても、実施例のシートでは変色がかなり抑えられており、比較例1の変色が激しいこと、比較例2でもかなり変色してしまっていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、優れた電波吸収性能を有するマグネタイト含有シリコーンゴム組成物を提供することができると共に、特に高温環境において当該シリコーンゴム組成物の変色を防止することができ、外観品質に優れたゴム製品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】アーチ法による電磁波反射減衰量の測定方法を示す概念図である。
【図2】実施例のシートサンプルの1次加硫後の表面の写真である。
【図3】実施例のシートサンプルの2次加硫後の表面の写真である。
【図4】比較例1のシートサンプルの1次加硫後の表面の写真である。
【図5】比較例1のシートサンプルの2次加硫後の表面の写真である。
【図6】比較例2のシートサンプルの1次加硫後の表面の写真である。
【図7】比較例2のシートサンプルの2次加硫後の表面の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴムにマグネタイトを配合し、
さらに酸化亜鉛を配合して変色を防止したことを特徴とするマグネタイト含有シリコーンゴム組成物。
【請求項2】
シリコーンゴム100重量部にマグネタイトを100〜1000重量部を配合し、
さらに酸化亜鉛を1〜100重量部配合して変色を防止したことを特徴とするマグネタイト含有シリコーンゴム組成物。
【請求項3】
酸化亜鉛を配合することにより、マグネタイト含有シリコーンゴム組成物の変色を防止する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−149800(P2009−149800A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329968(P2007−329968)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000108498)タイガースポリマー株式会社 (187)
【Fターム(参考)】