説明

マルチリーフコリメータ

【課題】 リーフを薄板状にして分解能を向上しながら駆動機構の簡素化やコスト低減などを図ることができ、リーフの位置ずれへの対応も容易にできるマルチリーフコリメータを提供すること。
【解決手段】 複数のリーフ21を1つの駆動手段31で同時に駆動してもそれぞれのリーフ21に設けた位置保持手段38で所定位置に固定保持できるようにし、しかもそれぞれのリーフ21の位置センサ36で位置を検出することで、位置ずれやその後の再駆動位置決めが容易にできるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マルチリーフコリメータに関し、粒子線によるがん治療における照射野を規制するマルチリーフコリメータで、リーフを薄板状にして分解能を向上しながら駆動機構の簡素化やコスト低減などを図ることができるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
近年、がんの治療に陽子線や素粒子線などの粒子線を用いた治療が行われており、加速器で作られた粒子線ビームを、照射野形成装置でがん患部の形状に加工して照射するようにしている。
【0003】
この照射野形成装置では、加速器から出た粒子線ビームを次のような操作を行ってがん患部の形状にする。
【0004】
まず、加速器から出た粒子線ビームをワブラ電磁石により振動させてドーナツ状にし、次いで、散乱体により、ドーナツ状のビームをより平坦なビームにする。
【0005】
そして、レンジシフタによりエネルギレベルを調整し、線量のピークががん患部に合うように調整するとともに、リッジフィルタによりビームに厚みを持たせる。
【0006】
最後に、加工されたビームをコリメータによりがん患部の形状に合わせるようにして加工が完了する。
【0007】
このような加工されたビームをがん患部の形状に合わせる操作を行うため、コリメータが用いられており、そのひとつにマルチリーフコリメータがある。
【0008】
このマルチリーフコリメータは、例えば特許文献1の従来技術に開示されているものを図4に示すように、粒子線Bを遮蔽できる素材の薄い板状のリーフ1を縦に配置して横に多数枚並べるようにするとともに、横に並べられた1対のリーフ1同士を前後に相対向させる。
【0009】
そして、対向する各リーフ1同士の間隔とその位置を駆動機構で調整することで形成される間の空間2をビームBの照射部分とするとともに、これ以外のリーフ1部分でビームBを遮蔽し、多数のリーフ1の位置を変えることでがん患部の輪郭形状を再現するようにしている。
【0010】
このようなマルチリーフコリメータでは、薄板状のリーフをそれぞれ往復駆動して位置決めする必要があり、その駆動機構として、特許文献2には、図5に示すように、各リーフ1ごとに独立した駆動機構を設ける場合として、リーフ1の上端面にラック3を設け、各リーフ1のラック3に対応してこれとかみ合う各ピニオン4を各モータ5で駆動することで往復動させるようにしたものが開示されている。
【0011】
また、特許文献3には、図6に示すように、複数のリーフ1に対して共通の駆動手段と、この駆動手段の駆動力を複数のリーフ1に対して同時に伝達可能かつ各リーフ1で遮断可能としたもので、具体的には、たとえば右側の各リーフ1では、各リーフ1のコ字状の切り欠き部の下面にそれぞれラック3を取り付け、1台のモータ5で駆動されるピニオン4を複数のラックと3かみ合わせることができるようにするとともに、各リーフ1をそれぞれシリンダ6で昇降できるようにし、所定位置まで移動させたところで上昇させることでピニオン4とラック3との噛み合いを外して動力の伝達を遮断して停止させるようにし、さらに、複数のリーフ1全体をブレーキ板7で押えることでそれぞれの位置を保持できるようにしてある。なお、左側の各リーフでは、ラックを上面に取り付けて下降させることで噛み合いを外すようにしてある。
【特許文献1】特公平7−67491号公報
【特許文献2】特開平11−216197号公報
【特許文献3】特開2002−224230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このようなマルチリーフコリメータを用いて必要な照射野を再現する場合、リーフの厚さと隣接するリーフ間の隙間、すなわちピッチによってアイソセンタ上に投影される照射像の輪郭の精度が影響を受けることからリーフの厚さが薄い方が良く、通常、薄いリーフを多数並べてマルチリーフコリメータを構成するようにしている。
【0013】
このため、各リーフごとの駆動機構を、ラックとモータおよびピニオンとで構成したものでは、リーフの枚数倍のモータを並べて設置しなければならず、大きなスペースおよび多大なコストを必要とするという問題がある。
【0014】
一方、1つの駆動機構で複数のリーフを駆動し、所定位置で駆動力の伝達を遮断し、すべてのリーフの駆動停止後、1つのブレーキ板で保持するものでは、1つのブレーキ板で保持する場合の保持力がそれぞれのリーフごとに個体差が生じ易く、極端な場合には、リーフの位置ずれが生じたり、保持不能となるリーフが生じる可能性がある。
【0015】
また、リーフの位置を1つのモータと同軸のエンコーダで行うようにしており、複数のリーフの1つに位置ずれが生じてもそのずれ量を知ることが難しく、位置ずれ自体を修正することも難しいという問題もある。
【0016】
この発明は、かかる従来技術の有する課題に鑑みてなされたもので、リーフを薄板状にして分解能を向上しながら駆動機構の簡素化やコスト低減などを図ることができ、リーフの位置ずれへの対応も容易にできるマルチリーフコリメータを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記従来技術が有する課題を解決するため、この発明の請求項1記載のマルチリーフコリメータは、照射方向に交差させて相対向し複数のリーフの対向間隔を調整して照射野を形成するマルチコリメータにおいて、前記複数のリーフを同時に駆動する駆動手段と、前記複数のリーフそれぞれに設けられ位置を検出する位置センサと、前記位置センサの検出信号に基づき前記駆動手段による駆動力に抗して前記複数のリーフのそれぞれを個別に固定保持する位置保持手段とからなることを特徴とするものである。
【0018】
このマルチリーフコリメータによれば、複数のリーフを1つの駆動手段で同時に駆動してもそれぞれのリーフに設けた位置保持手段で所定位置に固定保持でき、しかもそれぞれのリーフの位置センサで位置を検出することで、位置ずれやその後の再駆動位置決めが容易にできるようにしている。
【0019】
また、この発明のマルチリーフコリメータは、上記構成に加え、前記駆動手段を、前記複数のリーフに摩擦により駆動力を伝達する摩擦駆動手段で構成したものや前記リーフの開放位置を規制する位置規制手段を設けて構成したものも含まれ、摩擦駆動手段を用いることで、駆動力の遮断を位置保持手段で兼用できるようになり、さらに位置規制手段によって位置センサの校正が容易にできるようになる。
【発明の効果】
【0020】
この発明の請求項1記載のマルチリーフコリメータによれば、複数のリーフを同時に駆動する駆動手段と、各リーフ個別に位置を検出する位置センサと、各リーフ個別に保持する位置保持手段とで構成したので、リーフを個別に保持でき、摩耗などが生じても初期状態と同じ保持力を確保することができる。
【0021】
また、万一、リーフに位置ずれが生じても個別の位置センサで検出することができ、個別の保持機構を開放し、他のリーフに影響を及ぼすことなく簡単に再位置決めを行うことができる。
【0022】
さらに、この発明の請求項2記載のマルチリーフコリメータによれば、摩擦駆動手段を用いることで、駆動力の遮断を位置保持手段で兼用することができ、さらに請求項3記載のマルチリーフコリメータによれば、リーフを位置規制手段に当てることによって位置センサの校正を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、この発明のマルチリーフコリメータの一実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1および図2はこの発明のマルチリーフコリメータの一実施の形態にかかり、図1は右側のリーフのみを示す概念図、図2は1つのリーフを抽出して示す概略斜視図である。
【0024】
このマルチリーフコリメータ20では、粒子線を遮蔽できる素材の薄い板状のリーフ21を縦に配置して横に多数枚並べるようにするとともに、横に並べられたリーフ21同士を相対向させてあり(図では、対向する右側のリーフのみを示してある。)、対向する各リーフ21同士の間隔とその位置を駆動機構30で調整することで形成される間の空間(図では、リーフ左端部に形成される空間)をビームの照射部分とするとともに、これ以外のリーフ21部分でビームを遮蔽し、多数のリーフ21の位置(対向間隔)を駆動機構30で往復動させて変えることでがん患部の輪郭形状に対応する照射野を再現する。
【0025】
このマルチリーフコリメータ20の駆動機構30では、複数のリーフ21を同時に駆動する駆動手段31と、各リーフ21の位置を個別に検出する位置センサ36と、これらの位置センサ36の検出信号に基づき駆動手段31による駆動力に抗して各リーフ21を個別に固定保持する位置保持手段38とで構成される。
【0026】
この駆動機構30の複数のリーフ21を同時に駆動する駆動手段31は、例えば摩擦駆動機構で構成され、各リーフ21の後端に連結された操作ロッド32の上面にモータ33で駆動される摩擦ローラ34を押し当てるようにしてあり、摩擦ローラ34を回転することで、操作ロッド32を往復駆動するようになっており、対向する一方側のリーフ21のすべてを、例えば図1のように右側のリーフ21のすべてを同時に駆動できるようにする。
【0027】
また、この駆動機構30では、各リーフ21を最も引き込んだ開放位置を規制する位置規制手段として、操作ロッド32の後端を当てる当て板35が設けてあり、この当て板35に当てることで、照射野を最大にした開放状態にすることができると同時に、各リーフ21の駆動開始の原点とすることができる。
【0028】
このように往復駆動される各リーフ21の位置を検出するため各リーフ21に個別に位置センサ36が設けてあり、例えば、当て板35の背面に抵抗式の位置センサ36を設け、当て板35を貫通するセンサロッド37を操作ロッド32に連結してある。
【0029】
そして、これら位置センサ36の検出信号が図示しない制御装置に入力されるようになっている。
【0030】
さらに、このように往復駆動される各リーフ21を所定位置に停止させるとともに、固定保持するための位置保持手段として各リーフ21の操作ロッド32の上面と対向してブレーキシュー38が設けられ、各ブレーキシュー38が流体圧シリンダやソレノイドなどで往復駆動され、摩擦ローラ34による駆動力より大きな保持力によって各リーフ21を固定できるようにしてある。
【0031】
したがって、摩擦ローラ34を連続回転させた駆動状態でも、ブレーキシュー38を動作させることで、摩擦ローラ34の駆動力に抗して各リーフ21を停止させ、その位置に保持固定することができる。
【0032】
なお、このブレーキシュー38によって各リーフ21の開放位置を規制するようにし、当て板35を省略することも可能である。
【0033】
このように構成したマルチリーフコリメータ20の駆動機構30では、次のようにして各リーフ21を駆動・位置決めして照射野を設定する。
【0034】
まず、各リーフ21を開放位置に保持するため、各リーフ21を当て板35に当たる状態まで摩擦ローラ34をリーフ21の開方向に回転させて後退させ、ブレーキシュー38を作動させて各リーフ21を保持する。
【0035】
次に、各リーフ21に共通の駆動手段である摩擦ローラ34をリーフ21の閉方向に回転する。この状態では、各リーフ21の個別のブレーキシュー38の固定保持力が摩擦ローラ34の駆動力より大きくしてあるので、各リーフ21は停止状態のままである。
【0036】
この後、各リーフ21の個別のブレーキシュー38を開放し、保持力を解除するとともに、位置センサ36の検出信号をモニタし、所望の位置に達したリーフ21から順に個別のブレーキシュー38を押し当てて固定・保持する。
【0037】
こうしてすべてのリーフ21が所望の位置にセットされたら、摩擦ローラ34の駆動を停止し、照射野の調整が完了する。
【0038】
この後、万一、いずれかのリーフ21に位置ずれが生じたことが位置センサ36で検出された場合には、摩擦ローラ38をずれ方向と反対方向に回転した後、そのリーフ21のブレーキシュー38を開放し、位置センサ36をモニタして所望位置にして再びブレーキシュー38を押し当てて固定・保持する。
【0039】
以上のように、このマルチリーフコリメータ20では、複数のリーフ21を同時に駆動する駆動手段として例えば摩擦ローラ34を設け、各リーフ21の位置を個別に検出する位置センサ36を設けるとともに、各リーフ21を個別に保持固定する位置保持手段としてのブレーキシュー38を設けて構成したので、各リーフ21をブレーキシュー38で個別に保持することができ、ブレーキシュー38やこれを当てる操作ロッド32に摩耗などが生じても初期状態と同等の保持力を確保して保持固定することができる。
【0040】
これにより、各リーフ21に個別に駆動手段を設ける場合に比べ、配置が容易かつ省スペースとなるとともに、構成機器も少なくコスト低減を図ることもできる。
【0041】
また、リーフ21に位置ずれが生じてもこれを個別に設けた位置センサ36により検出することができるとともに、簡単に修正することができる。
【0042】
さらに、リーフ21の開放位置を当て板35に当てることで、規制するようにしたので、これを利用して位置センサ36の原点とするなど校正に利用することができ、高精度の位置決めが可能となる。
【0043】
次に、複数のリーフ21を同時に駆動する駆動手段の他の例について、図3により説明する。
上記実施の形態では、摩擦ローラ34を用いて構成したが、例えば図3に示すように、流体圧力駆動手段40で構成することもでき、1つのシリンダケース41の中に複数のピストン42を装着し、各ピストン42間をシール状態としておき、シリンダケース41に供給・排出する流体によって各ピストン42を同時に往復駆動できるとともに、ブレーキシュー38で固定されたピストン42はその位置で停止させることができるようにしてある。
【0044】
すなわち、ここでは、例えばシリンダケース41を矩形の箱状とし、矩形のピストン42を横に並べてピストン42間をシール状態とし、しかも隣接するピストンが両端に移動して離間してもシール状態が保持できるようにしてある。
【0045】
これにより、シリンダケース41の両端の流体給排口43,44から流体を供給・排出することで各ピストン42を同時に駆動することができ、しかも任意のピストン42を固定状態とすることもできる。
【0046】
このような流体圧力駆動手段40のピストンロッド45にそれぞれリーフ21の操作ロッド22を連結することで、すでに説明した実施の形態と同様にマルチリーフコリメータを構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】この発明のマルチリーフコリメータの一実施の形態にかかる右側のリーフのみを示す概念図である。
【図2】この発明のマルチリーフコリメータの一実施の形態にかかる1つのリーフを抽出して示す概略斜視図である。
【図3】この発明のマルチリーフコリメータの他の一実施の形態にかかる駆動手段のみを抽出して示す概略斜視図である。
【図4】従来のリーフコリメータの側面図および平面図である。
【図5】従来のリーフコリメータの駆動機構の説明図である。
【図6】従来のリーフコリメータの駆動機構の説明図である。
【符号の説明】
【0048】
20 マルチリーフコリメータ
21 リーフ
30 駆動機構
31 駆動手段
32 操作ロッド
33 モータ
34 摩擦ローラ(共通駆動手段)
35 当て板
36 位置センサ(個別位置センサ)
37 センサロッド
38 ブレーキシュー(個別保持開放手段)
40 流体圧力駆動手段(共通駆動手段)
41 シリンダケース
42 ピストン
43,44 流体給排口
45 ピストンロッド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射方向に交差させて相対向し複数のリーフの対向間隔を調整して照射野を形成するマルチコリメータにおいて、
前記複数のリーフを同時に駆動する駆動手段と、前記複数のリーフそれぞれに設けられ位置を検出する位置センサと、前記位置センサの検出信号に基づき前記駆動手段による駆動力に抗して前記複数のリーフのそれぞれを個別に固定保持する位置保持手段とからなることを特徴とするマルチリーフコリメータ。
【請求項2】
前記駆動手段を、前記複数のリーフに摩擦により駆動力を伝達する摩擦駆動手段で構成したことを特徴とする請求項1記載のマルチリーフコリメータ。
【請求項3】
前記リーフの開放位置を規制する位置規制手段を設けて構成したことを特徴とする請求項1または2記載のマルチリーフコリメータ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−61452(P2006−61452A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248088(P2004−248088)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】