説明

マンガンペルオキシダーゼの製造方法

【課題】マンガンペルオキシダーゼの生産性を向上させることができる促進物質を添加した培地を用いて担子菌を培養する、マンガンペルオキシダーゼの製造方法の提供。
【解決手段】マンガン塩を含有する培地で担子菌を培養し、マンガンペルオキシダーゼを製造する方法であって、該培地中のマンガン塩濃度が250〜900μmol/Lであり、該培地は、さらにリグニンの酸分解物あるいは下記一般式(1)で表される化合物又はその塩を含有するマンガンペルオキシダーゼの製造方法(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり;Xは水素原子又は水酸基であり;l及びnは0又は1であり;mは1〜3の整数であり;mが2又は3である場合には複数の−[(CH−OR]は互いに同一でも異なっていても良い。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、担子菌を培養してマンガンペルオキシダーゼを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マンガンペルオキシダーゼは酸化還元酵素の一種であり、ビフェノールの合成に有用であるだけでなく、パルプ漂白やダイオキシンなど有害物質の分解除去への利用が考えられている。マンガンペルオキシダーゼは、白色腐朽菌などの担子菌を培養することによって、その産生物として得ることができるが、その際、培地中のマンガン塩濃度がマンガンペルオキシダーゼの生産性に影響することが従来から知られている(非特許文献1参照)。
【0003】
また、担子菌を培養する際に、培地へ添加することでマンガンペルオキシダーゼの生産性を向上させることができる物質として、ベラトリルアルコールが知られている(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】P.Bonnarme and T.W.Jeffries, Applied and Environment Microbiology Vol.56 P.210−217(1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1には、19.78mg/L(後述のバニラルアセトンを基質とした活性評価法による活性値として1915nmol/min,ml、培地単位体積あたりの産生量)の生産性でマンガンペルオキシダーゼを製造したことが記載されている。しかし、マンガンペルオキシダーゼの生産性を向上させることができるマンガン塩の最適な濃度範囲については記載されておらず、また、マンガン塩及びベラトリルアルコール以外の培地中の成分と、マンガンペルオキシダーゼの生産性との関係についても記載されていない。そして、マンガンペルオキシダーゼの生産性を向上させる物質については、これまでにベラトリルアルコール以外にはほとんど報告されていないのが現状である。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものであり、培地に含まれるマンガン塩などの成分をマンガンペルオキシダーゼの産生に適した濃度範囲に調整し、さらにマンガンペルオキシダーゼの生産性を向上させることができる促進物質を含む培地を用いて担子菌を培養する、生産性の高いマンガンペルオキシダーゼの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、マンガンペルオキシダーゼの産生に最適な培地中のマンガン塩濃度が、従来知られていなかった特定の範囲に存在すること、また、培地中のグルコース濃度にも最適な濃度範囲が存在することを見出した。さらに、マンガンペルオキシダーゼの生産性を向上させることができる促進物質として、特定の構造を有する化学物質群を見出した。その結果、これまでにない高い生産性でマンガンペルオキシダーゼが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、マンガン塩を含有する培地で担子菌を培養し、マンガンペルオキシダーゼを製造する方法であって、該培地中のマンガン塩濃度が250〜900μmol/Lであり、該培地は、さらにリグニンの酸分解物あるいは下記一般式(1)で表される化合物又はその塩を含有することを特徴とするマンガンペルオキシダーゼの製造方法を提供するものである。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり;Xは水素原子又は水酸基であり;l及びnは0又は1であり;mは1〜3の整数であり;mが2又は3である場合には複数の−[(CH−OR]は互いに同一でも異なっていても良い。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、担子菌培養によるマンガンペルオキシダーゼの生産性を、従来に比し飛躍的に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳しく説明する。なお、以下において、単位「mM」は「mmol/L」を、単位「μM」は「μmol/L」をそれぞれ示す。
【0012】
[使用する微生物]
本発明で使用される担子菌としては、例えば、ファネロケーテ(Phanerochaete)属、フレビア(Phlebia)属、レンティヌラ(Lentinula)属、フェルリナス(Phellinus)属などに属する白色腐朽菌を挙げることができる。これらの中でも、ファネロケーテ属に属する菌が好ましい。ファネロケーテ属に属する菌の中でも、好ましいものとして、例えば、ファネロケーテ クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、ファネロケーテ フラヴィド−アルバ(Phanerochaete flavido−alba)、ファネロケーテ ソルディダ(Phanerochaete sordida)、ファネロケーテ マグノリエ(Phanerochaete magnoliae)に属する菌等を挙げることができ、より好ましいものとして、ファネロケーテ クリソスポリウムに属する菌を挙げることができる。具体的には、例えば、ファネロケーテ クリソスポリウムBKM−F−1767(ATCC24725)、ファネロケーテ クリソスポリウムSC26(ATCC64314)、ファネロケーテ クリソスポリウムME446(ATCC34541)、ファネロケーテ クリソスポリウムHHB−6251−sp(ATCC34540)、ファネロケーテ クリソスポリウムOGC101(ATCC201542)、ファネロケーテ クリソスポリウム INA−12(CNCM I−398)、ファネロケーテ クリソスポリウムI−1512 (CNCM I−1512)を挙げることができ、中でも特に好ましいものとしてファネロケーテ クリソスポリウムBKM−F−1767(ATCC24725)が挙げられる。
また、これらを宿主とした遺伝子組換え体であってもよい。
【0013】
[培地成分]
(促進物質)
本発明で用いる培地は、必須成分としてリグニンの酸分解物あるいは下記一般式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)と略記する)又はその塩を含有する(以下、リグニンの酸分解物、化合物(1)、化合物(1)の塩をまとめて促進物質と略記することがある。)。このような促進物質を用いることで、マンガンペルオキシダーゼの生産性を向上させることができる。なかでも、調製や入手の容易さから、化合物(1)又はその塩を用いるのが好ましい。
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり;Xは水素原子又は水酸基であり;l及びnは0又は1であり;mは1〜3の整数であり;mが2又は3である場合には複数の−[(CH−OR]は互いに同一でも異なっていても良い。)
【0016】
式中、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。炭素数1〜3のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。なかでも、マンガンペルオキシダーゼの生産性向上効果に特に優れることから、メチル基又はエチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
Xは水素原子又は水酸基である。
【0017】
lは0又は1であり、0であることが好ましい。
nは0又は1である。
mは1〜3の整数であり、2又は3であることが好ましい。mが2又は3である場合には、複数の−[(CH−OR]は互いに同一でも異なっていても良いが、Rが水素原子であるものとRが炭素数1〜3のアルキル基であるものとが共存している方が好ましい。特にnが0である場合には、複数の−[(CH−OR]について、Rがすべて水素原子でないものが好ましい。一方、nが1であり且つXが水素原子である場合には、複数の−[(CH−OR]について、Rが水素原子であるものを含まないものが好ましい。
【0018】
化合物(1)の中でも好ましいものとして、例えば、下記式(11)〜(17)で表される化合物(以下、それぞれ化合物(11)〜(17)と略記する)が挙げられる。化合物(11)〜(17)は、低濃度でもマンガンペルオキシダーゼの生産性向上効果に優れるだけでなく、可燃性や急性毒性などの危険性が低く安全性にも優れるものであり、その使用に際しては、特殊な操作や設備を必要としない。したがって、安全且つ低コストでマンガンペルオキシダーゼを製造できる。そして、マンガンペルオキシダーゼの生産性向上効果に特に優れることから、化合物(1)の中でもより好ましいものとして、化合物(11)〜(13)及び(17)が挙げられ、特に好ましいものとして化合物(11)が挙げられる。
化合物(1)は、市販品を用いても良いし、常法に従って調製したものを用いても良い。
【0019】
【化3】

【0020】
化合物(1)の塩は、化合物(1)に無機塩基又は有機塩基を作用させることで得られるものであり、例えば、化合物(1)がカルボキシ基や水酸基を有するものであれば、その水素原子が適当なカチオン種で置換されたものである。そして具体的には、例えば、化合物(1)のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。また、化合物(1)の塩として市販品があれば、それを用いても良い。
【0021】
リグニンの酸分解物とは、リグニンに硫酸、塩酸、硝酸等の強酸を作用させて分解処理を行ったものであり、その中には通常、前記化合物(1)が含有されると推測される。そしてリグニンは、例えば、セルロースを前記強酸で処理することで得られるので、バイオマスなど、セルロースを含有する原料を公知の手法により前記強酸で一貫処理すれば、リグニンの酸分解物が得られる。得られたリグニンの酸分解物は、必要に応じて精製してから用いれば良い。処理に用いる強酸としては、硫酸が好ましい。
【0022】
促進物質は、一種を単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせは特に限定されない。
【0023】
促進物質の培地中の濃度は、0.1〜10mMとすることが好ましく、0.2〜5mMとすることがより好ましい。上記範囲の上限よりも高い濃度としても勿論構わないが、このような低い濃度範囲であっても、十分なマンガンペルオキシダーゼの生産性向上効果が得られる。
【0024】
本発明は、マンガンペルオキシダーゼの生産性向上効果を有する物質として、特定の構造を有する化学物質群(化合物(1))をはじめて見出したものである。そして、以下に述べるように最適な濃度のマンガン塩と併用することで、マンガンペルオキシダーゼの生産性を飛躍的に向上させることができるものである。
【0025】
(マンガン塩)
本発明で用いる培地は、必須成分としてさらにマンガン塩を含有する。そして、使用することができるマンガン塩としては、例えば、硫酸マンガン、塩化マンガン、酢酸マンガン、炭酸マンガン、シュウ酸マンガン、硝酸マンガン、リン酸マンガン及びこれらの水和物などが挙げられる。
本発明では、これらマンガン塩の培地中濃度を250μM以上、好ましくは250〜900μM、より好ましくは300〜800μMとなるよう設定することで、担子菌の培養を良好に行うことができ、マンガンペルオキシダーゼの生産性を飛躍的に向上させることができる。担子菌の培養によってマンガンペルオキシダーゼを製造する場合、培地中のマンガン塩濃度がマンガンペルオキシダーゼの生産性に影響を与えることは報告されている(非特許文献1)が、マンガンペルオキシダーゼの生産性を向上させるのに適したマンガン塩濃度についてはこれまで知られておらず、本発明では、例えば、非特許文献1に記載の方法に対して2〜3倍程度の高い生産性でマンガンペルオキシダーゼを製造することができる。
【0026】
(炭素源)
本発明で使用する培地は、炭素源としてグルコースを含むことが好ましい。担子菌の培養で通常使用する炭素源としては、グルコース以外にグリセロール及びセルロースなどが挙げられ、本発明でもこれらを培地に含んでも良いが、培地中のグルコース濃度を好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1〜4質量%、特に好ましくは1.5〜3質量%となるよう設定することで、他の炭素源を用いた場合よりも、担子菌の培養を良好に行うことができ、マンガンペルオキシダーゼの生産性を飛躍的に向上させることができる。マンガンペルオキシダーゼの生産性を向上させるために適切な培地中のグルコース濃度はこれまで知られておらず、本発明では、培地中のグルコース濃度を上記範囲、中でも1.5〜3質量%とすることで、特に高いマンガンペルオキシダーゼの生産性向上効果が得られる。前記の培地成分のマンガン塩濃度、及び炭素源としてのグルコース濃度を最適な条件とすることで、通常の2倍以上のマンガンペルオキシダーゼの生産性向上効果が得られる。
【0027】
(その他の培地成分)
また本発明の培地は、前記の促進物質、マンガン塩及び炭素源以外に、窒素源、ビタミン、リン酸、界面活性剤、緩衝液、マンガン以外の各種金属塩等を含んでいてもよい。例えば、窒素源としては、酒石酸アンモニウムを始めとするアンモニウム塩などが挙げられる。ビタミンとしては、例えば、チアミンなどが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、ツイーン80(Tween80)、ツイーン20(Tween20)、トリトンX−100(TritonX−100)、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。緩衝液としては、例えば、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、酒石酸緩衝液、ホウ酸緩衝液などが挙げられる。マンガン以外の各種金属塩としては、例えば、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト、硫酸亜鉛、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸銅、硫酸第一鉄などの硫酸鉄、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、リン酸二水素カリウムなどのリン酸カリウム、モリブデン酸ナトリウムなど、あるいはこれらの水和物などが挙げられる。
またpH調整剤として、塩酸、硫酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなど、通常使用される各種酸、アルカリを含んでいてもよい。これらの他、キレート剤としてニトリロ三酢酸などを含んでいてもよい。
なお、培地は調製後にオートクレーブ滅菌することが好ましい。
【0028】
[培養条件]
本発明における担子菌の培養方法は、固体培養、液体培養のいずれであってもよいが、培養のし易さから液体培養が好ましい。担子菌の培養に適した培養温度は20〜45℃であるが、35〜37℃程度であることがより好ましい。また、培地のpHは3.5〜7.5が好ましく、4.0〜7.0がより好ましい。pHの調整には各種の緩衝液や塩酸又は硫酸など通常用いられる酸、あるいは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又はアンモニアなど、通常用いられるアルカリを使用することができる。
【0029】
担子菌の培養は、静置培養、振とう培養及び撹拌培養のいずれでも行うことができる。従来、担子菌の培養を撹拌培養で良好に行うことは困難であったが、例えば、培養至適温度±2℃の温度で培養し、次いで当該温度と培養至適温度との差の絶対値より、培養至適温度との差の絶対値が大きくなるようにシフトさせた温度で培養を行うことによって、撹拌培養でも担子菌を良好に培養することができ、マンガンペルオキシダーゼの生産性を向上させることができる。
この時、温度シフトのタイミングは、菌体増殖中期以降となるようにすることが好ましい。ここで菌体増殖中期とは、菌体の増殖が最も活発な対数増殖期を過ぎた直後の時期を指す。そして、撹拌培養とは、菌体を担体等に担持せず培地中に浮遊させた状態とし、撹拌翼等により培地を撹拌しながら菌体を培養することを指す。撹拌培養を行う際の撹拌速度は、培地量等により適宜選択すれば良い。
そして、温度シフト後の培養においては、酸素を含む気体、好ましくは分圧80〜100%の酸素を供給することが好ましい。
【0030】
本発明の製造方法によれば、培地に前記促進物質を含有させ、さらに培地中のマンガン塩濃度を250〜900μmol/Lとすることで、マンガンペルオキシダーゼの生産性を従来よりも飛躍的に向上させることができ、例えば、非特許文献1に記載の方法における生産性の最高値が19.78mg/L(バニラルアセトンを基質とした活性評価法による活性値として1915nmol/min,ml、培地単位体積あたりの産生量)であるのに対して、本発明では25mg/L(バニラルアセトンを基質とした活性評価法による活性値として約2420nmol/min,ml)以上のマンガンペルオキシダーゼが得られる。
また、培地中のグルコース濃度を特に好ましくは1.5〜3.0質量%と設定することで、マンガンペルオキシダーゼの生産性を従来よりも飛躍的に向上させることができる。
特に好適なマンガン塩濃度とグルコース濃度を選択した場合には、約30〜約60mg/L(バニラルアセトンを基質とした活性評価法による活性値として約2900〜約5700nmol/min,ml)程度のマンガンペルオキシダーゼが得られる。
そして、促進物質として安全性にも優れるものが使用できるので、特殊な操作や設備を必要としない。さらに、担子菌の培養は撹拌培養でも良好に行うことができるので、通常汎用される発酵槽を用いることもできる。したがって製造上の制約条件も少ないので、安全且つ低コストでマンガンペルオキシダーゼを製造できる。
なお、マンガンペルオキシダーゼの生産性は、例えば、後述の実施例に記載のように、バニラルアセトンを基質とした活性評価法によるマンガンペルオキシダーゼの活性値を測定することで算出することができる。また、この時得られた活性値を、濃度既知のMnP溶液の活性値と比較することにより、マンガンペルオキシダーゼの濃度mg/Lを算出しても良い。
【実施例】
【0031】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]マンガン塩濃度とマンガンペルオキシダーゼ(MnP)の生産性
(培地)
下記表1に示した各培地1Lを調製した。なお、表1中の6×トレースエレメンツの組成を表2に示した。そして、2L容量の三角フラスコに各培地を入れ、通気性の栓をして121℃、20分間のオートクレーブ処理で滅菌した。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
(培養)
前記の各培地にファネロケーテ クリソスポリウム BKM−F−1767 (ATCC24725)を植菌し、35℃、120rpmで振盪(回転)培養を開始した。3日後、化合物(11)(p−メトキシフェノール)をそれぞれ濃度が1.5mMとなるように186.2mg添加し、栓を通気用チューブの付いたシリコン栓に交換してから、フラスコ内の空気を酸素で置換した。通気用チューブをピンチコックで止め、培養を継続した。その後は1日2回、培養液のサンプリングと前記酸素供給操作を繰り返した。採取したサンプルは下記酵素活性測定に供した。
【0035】
(MnP活性測定)
MnP活性は、4−(4−hydroxy−3−methoxyphenyl)−butene−2−one(バニラルアセトン)を基質とした酸化反応の光学的測定により決定した。すなわち、分光光度計用石英セルを反応容器とし、この反応容器中に、蒸留水389μL、500mM酒石酸ナトリウム(pH5.0)100μL、50mM硫酸マンガン1μL、20mMバニラルアセトン2.5μL、培養液(希釈)サンプル5μLを入れ、これに対し10mM過酸化水素2.5μLを添加することで反応を開始した。
そして、分光光度計UV−1650PC(株式会社島津製作所製)を用いて、反応液のUV334nmにおける吸収の減少をモニタすることで反応初速度を測定した。バニラルアセトンのモル吸光係数として18300M−1cm−1を採用し、MnP活性nmol/min,mlを算出した。また、ここで得られた活性値を、濃度既知のMnP溶液の活性値と比較することにより、培養液サンプル中のMnPの濃度mg/Lも併せて算出した。
試験区a〜fそれぞれにおけるMnPの濃度の最高値を採用し、培地中硫酸マンガン濃度との関係を図1にまとめた。その結果、硫酸マンガン濃度が452.4μMのとき最もMnP活性(生産性)が高く、5625nmol/min,ml(58.1mg/L)となった。
【0036】
[実施例2]グルコース濃度とMnPの生産性
各試験区の培養液組成が下記表3の通りであること以外は実施例1と同様の方法にて担子菌の培養を行い、MnPの活性を測定した。試験区g〜kそれぞれにおけるMnPの濃度の最高値を採用し、培地中グルコース濃度との関係を図2にまとめた。その結果、グルコース濃度が2%のとき最もMnP活性(生産性)が高く、44mg/Lとなった。
【0037】
【表3】

【0038】
[実施例3] 各種促進物質を用いて振とう培養した場合のMnPの生産性(試験区l〜r)
培地組成が下記の通りであること、促進物質として加える化合物種およびその濃度が表4に記載の通りであること以外は、実施例1と同様の方法にて担子菌の培養を行い、MnPの活性を測定した。試験区l〜rそれぞれにおけるMnPの濃度の最高値を採用し、結果を表4にまとめた。いずれの試験区においても25mg/L以上のMnP生産性が認められた。
【0039】
(培地)
水にグルコース(20g)、酒石酸アンモニウム(0.22g)、6×トレースエレメンツ(25.35ml)、リン酸二水素カリウム(2g)、硫酸マグネシウム七水和物(0.5g)、塩化カルシウム二水和物(0.1g)、チアミン塩酸塩(1mg)、酢酸(0.6g)、水酸化ナトリウム(0.2g)、ツイ−ン80(0.5g)を溶解し、塩酸でpH4.5に調整後、更に水を加えて1kgとした。
【0040】
[実施例4]促進物質としてp−メトキシフェノールを用いて撹拌培養した場合のMnPの生産性(試験区s)
下記組成の培地を、pH電極を備えた5L容量発酵槽Bioneer−N型(株式会社丸菱バイオエンジ製)に仕込み、121℃、20分間のオートクレーブ処理で滅菌した。
(培地)
水にグルコース(50g)、酒石酸アンモニウム(0.55g)、6×トレースエレメンツ(63.375ml)、リン酸二水素カリウム(5g)、硫酸マグネシウム七水和物(1.25g)、塩化カルシウム二水和物(0.25g)、チアミン塩酸塩(2.5mg)、酢酸(3g)、水酸化ナトリウム(1g)、ツイ−ン80(2.5g)を溶解し、塩酸でpH4.5に調整後、更に水を加えて2.5kgとした。
【0041】
(培養)
前記発酵槽にファネロケーテ クリソスポリウム BKM−F−1767 (ATCC24725)を植菌し、35℃、空気供給0.5vvm、フルゾーン翼(神鋼パンテック株式会社製)150rpmの条件で撹拌培養を開始した。培養中、培養液のpHは4.5を維持するよう、硫酸及び水酸化ナトリウムを用いて制御した。
3日後、p−メトキシフェノールを最終濃度が0.5mMとなるように155.2mg添加し、空気の供給を停止すると共に、30ml/minで酸素供給を開始した。更にこのとき、培養温度を35℃から28℃にシフトさせた。培養を継続し、経時的に培養液を採取した。採取したサンプルの酵素活性を測定し、MnP濃度を算出した結果、表4に示すように25mg/L以上の生産性が認められた。
【0042】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、安価なマンガンペルオキシダーゼの供給に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1における、培地中の硫酸マンガン濃度とマンガンペルオキシダーゼの生産性との関係を示したグラフである。
【図2】実施例2における、培地中のグルコース濃度とマンガンペルオキシダーゼの生産性との関係を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガン塩を含有する培地で担子菌を培養し、マンガンペルオキシダーゼを製造する方法であって、
該培地中のマンガン塩濃度が250〜900μmol/Lであり、
該培地は、さらにリグニンの酸分解物あるいは下記一般式(1)で表される化合物又はその塩を含有することを特徴とするマンガンペルオキシダーゼの製造方法。
【化1】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり;Xは水素原子又は水酸基であり;l及びnは0又は1であり;mは1〜3の整数であり;mが2又は3である場合には複数の−[(CH−OR]は互いに同一でも異なっていても良い。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物が、下記式(11)〜(17)で表される化合物のいずれか一種以上である請求項1に記載のマンガンペルオキシダーゼの製造方法。
【化2】

【請求項3】
前記培地中のマンガン塩濃度が300〜800μmol/Lである請求項1又は2に記載のマンガンペルオキシダーゼの製造方法。
【請求項4】
前記培地がグルコースを含有し、該培地中のグルコース濃度が1.5〜3.0質量%である請求項1〜3のいずれか一項に記載のマンガンペルオキシダーゼの製造方法。
【請求項5】
前記担子菌がファネロケーテ(Phanerochaete)属に属する菌である請求項1〜4のいずれか一項に記載のマンガンペルオキシダーゼの製造方法。
【請求項6】
前記ファネロケーテ(Phanerochaete)属に属する菌が、ファネロケーテ クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)種に属する菌である請求項5に記載のマンガンペルオキシダーゼの製造方法。
【請求項7】
マンガンペルオキシダーゼの生産性が、25mg/L以上及びバニラルアセトンを基質とした活性評価法による活性値として2420nmol/min,ml以上である請求項1〜6のいずれか一項に記載のマンガンペルオキシダーゼの製造方法。
【請求項8】
前記培養が振とう培養又は撹拌培養である請求項1〜7のいずれか一項に記載のマンガンペルオキシダーゼの製造方法。

【図1】
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【図2】
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