説明

マーカー

【課題】インク供給口のキャップ紛失もなく、インク補充作業に不慣れでも確実にキャッピングができるトルクレンチなどのトルク工具に設けられるマーカーを提供する。
【解決手段】筒状のインクケース2の先端部にマーカー本体3が装着され、インクケース2の後端部に形成したインク供給口7をインクキャップ8で開閉可能に塞ぐマーカー1であって、インクキャップ8とインクケース2の後端部とを連設するヒンジ部9と、ヒンジ部9を支点としてインクキャップ8を閉じ方向に回動することにより、インク供給口7に装入されるインクキャップ8の内側に形成された差し込み栓部8bとを有する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定トルクで締め付けたボルト等の締結部材あるいは所定の箇所にマーキングを施すトルクレンチなどのトルク工具に設けられるマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
締付部材である多数本のねじ締めを必要とする機器等において、上記多数本のねじを締結する締結作業時に締結が完了したねじと、未締結のねじとの区別を明らかにするため、例えばトルクレンチ等によるねじ締め作業時において、ねじの締結が完了すると同時に、その締結完了のねじ頭にマーキングを施し、そのマークの付着によって、締結が完了されているねじであることを認識させることができるようにしたマーカー付きトルクレンチが提案されている(特許文献1)。
【0003】
図4から図7は、マーカー付きトルクレンチの従来例を示す。トルクレンチ本体31は、トルクリミッターをなすトグル機構32を内装したチューブ33と、このチューブ33の先端部に取付けた支軸34に軸支されるヘッド35と、チューブ33の後端部に取付けられているグリップ36を有している。
【0004】
トルクレンチ本体31には、トグル機構32の動作でマーカーを連動させるマーカー駆動機構37が設けられている。このマーカー駆動機構37は、図7に示すように、チューブ33の外側に固定されている支軸ピン38に軸支されているL字形のリンク39を有し、このリンク39の一端は、螺着されている調整ねじ40を介してヘッド35の側面に当接され、またリンク39の他端は、レバー41に球体42を介して当接されている。
【0005】
レバー41の一端は、チューブ33に軸支され、他端は、マーカー機構43のマーカーヘッド44に係合されている。45はマーカー駆動機構37のカバーを示す。
【0006】
図6に示すように、マーカー機構43は、前記ヘッド35内に設けられているラチエット47を有するラチエット筒46の下端に形成されている6角軸部48に、筒状アダプタ49の上端が結合ねじ50によって結合保持されている。筒状アダプタ49の下端部にはソケット51がその軸方向に摺動自在に嵌合されているが、この摺動範囲は、筒状アダプタ49の母線方向に長い透孔52と、この透孔52内に遊嵌されかつソケット51に植設されているガイドピン53によって規制されるものである。
【0007】
マーカーヘッド44には、ラチエット筒46筒状アダプタ49の内部に挿通されるマーカーロッド54の上端を保持し、そのマーカーロッド54の下端には、例えばスポンジに着色インクを含浸せしめたマーカー55を保持するマーカーケース56が、連結ピン57及びOリング58を介して保持されている。
【0008】
なお、59はマーカーロッド54の上下動を許すスプリング、60はレバー41の復元用スプリング、61はソケット51の上端と、筒状アダプタ49に設けた止め輪62との間に介在されて、ソケット51を常に押し下げているスプリングである。63は被締付ねじであるナット、64はそのボルトである。
【0009】
そこで、マーカー機構43を設けているトルクレンチ本体31により、ナット63のねじ締めを行なうとき、図5に示すように、ソケット51をナット63に嵌合し、しかる後トルクレンチ本体31の柄36を往復動作させることでラチエット筒46、筒状アダプタ49を介してソケット51が回転し、ナット63の締付けがなされ、その締付けトルクが所定値に達すればトルクレンチ本体1内のトグル32が動作する。
【0010】
このトグル32が動作することでヘッド35は、支軸34を支点として図4において反時計方向に動作するため、このヘッド35の動作でリンク39が支持ピン38を支点として図7において時計方向に回動する。リンク39の動作により、一端部がレバー支点65に支持されているレバー41は、その他端部が図5において鎖線で示すように押し下げられるため、このレバー41の先端に係合されているマーカーヘッド44が押し下げられる。このマーカーヘッド44が押し下げられることで、マーカーロッド54がスプリング60の弾圧力に抗して押し下げられて、マーカーロッド54の下端に取付けられているマーカー55がボルト64の先端に押し当てられてねじ締めが完了されたことを印すマーキングがなされるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平08−090442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した構成の従来のトルクレンチ用のマーカーは、使い勝手が悪いことから、油性インクを用いた筆記具に似た構造のマーカーが種々提案されている。この改良されたマーカーは、インクが充填されるインクケースの先端部に細長い棒状のマーカー本体を長手方向に移動可能に装着し、前記インクケース内に配置したインクバルブを長手方向に沿って移動可能とし、必要量のインクを前記マーカー本体に供給している。
【0013】
前記インクケースの後端には、インク補充用のインク供給口が形成されていて、このインク供給口を塞ぐ手段として、インク供給口をネジ孔とし、このネジ孔に螺合するネジ部を備えたネジ式キャップ、あるいはインク供給口の内径よりも大径に形成したゴム栓を備え、このゴム栓をインク供給口に差し込むゴム栓式キャップ等が提案されている。
【0014】
しかし、このようなキャップは、インクの補充の際に、どの程度の強さでネジ締め付けたり、押し込んだりして良いかがはっきりとせず、不慣れな作業者では、締め付け不良を招くこともある。また、キャップはインク供給口から取り外す構成となっていたため、キャップの紛失あるいは装着忘れを招くことも考えられる。
【0015】
さらに、ネジキャップの締め付け、およびゴム栓キャップの押し込みにより、前記インクケース内の内圧が高くなり、前記インク供給口とネジとの隙間、前記インク供給口と前記ゴム栓との隙間からインクが泡状となって逆流する場合もある。
【0016】
また、インクを補充する際に、外見からはインクの残量や補充状態が判断できず、補充インクがインク供給口から溢れ出て、初めて満タンになったことを確認することもあった。
【0017】
本発明の目的は、このような従来の問題に鑑み為されたもので、インク供給口のキャップ紛失もなく、インク補充作業に不慣れでも確実にキャッピングができるトルクレンチなどのトルク工具に設けられるマーカーを提供することにある。
【0018】
また、本発明の他の目的は、上述した本発明の目的に加え、インクケース内に充填されているインクの充填状態を外部から容易に確認できるトルクレンチなどのトルク工具に設けられるマーカーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の目的を実現する構成は、所定トルクで締め付け締結部材あるいは所定の箇所にマーキングを施すトルクレンチなどのトルク工具に設けられ、筒状のインクケースの先端部にマーカー本体が装着され、前記インクケースの後端部に形成したインク供給口をインクキャップで開閉可能に塞ぐマーカーであって、前記インクキャップと前記インクケースの後端部とを連設するヒンジ部と、前記ヒンジ部を支点として前記インクキャップを閉じ方向に回動することにより、前記インク供給口に装入される前記インクキャップの内側に形成された差し込み栓部とを有することを特徴とする。
【0020】
上記した構成において、前記差し込み栓部は、外周部に係合突起部を周方向に形成され、前記インク供給口の内端側の内径を前記係合突起部の外径よりも小径に形成したことを特徴とする。
【0021】
上記したいずれかの構成において、前記インクケースの後端部の外周縁部には、閉じ状態にある前記インクキャップの縁に臨む切欠部を形成したことを特徴とする。
【0022】
本発明の他の目的を実現する構成は、上記いずれかの構成において、前記インクケースは、内部に充填しているインクが外部から視認可能な透明あるいは光透過性を有する合成樹脂材により形成され、前記インクケースの外周部に、インク充填量を示すインク目盛を形成したことを特徴とする。
【0023】
また、上記した構成において、前記マーカーと前記切欠部とは軸方向に沿って同一軸線上に形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、インクキャップを紛失することがなくなり、またインク補充時にインクで作業者の手を汚したり、インクの入れ過ぎによるインク漏れを解消でき、簡単で確実にインクキャップを締めることができる。
【0025】
また、インクケース側面に形成したインク目盛を基にインク残量を目視で確認でき、残りの印字回数や次回のインク補充時期を簡単に管理できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態を示すマーカーの縦断面図。
【図2】図1のマーカーのキャップを取り外した状態を示す外観斜視図。
【図3】図2のマーカーのインクケースの外観上面図。
【図4】従来のマーカー付きトルクレンチの上面図。
【図5】図4の正面図。
【図6】図5のマーカー取り付け部の拡大断面図。
【図7】図1のA−A矢視図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1から図3は本発明の実施形態を示す。図1は、本発明の実施形態を示すマーカーの縦断面図、図2は図1のマーカーのキャップを取り外した状態を示す外観斜視図、図3は図2のマーカーのインクケースの外観上面図である。なお、本実施形態のマーカーは図4〜図7に示す従来のマーカー付きトルクレンチに装着可能であることは言うまでもなく、種々の構成のマーカー付きトルクレンチに装着されるものである。
【0028】
本実施形態のマーカー1は、円筒形状に形成されたインクケース2と、インクケース2の先端部に長手方向に移動可能に装着された細長い円柱状のマーカー本体3と、インクケース2の先端部に取り外し可能に装着された細長いマーカーキャップ4と、インクケース2内に配置されたインクバルブ5により構成している。
【0029】
インクケース2は、インクケース本体2aと、インクケース本体2aの前部に接着剤等により接着固定され、インクケース本体2aよりも外径を小径とした先端筒部2bと、先端筒部2bの後端とインクケース本体2aの先端との間に配置され、中央部にインク孔6aを有する仕切り壁6とを有する。
【0030】
仕切り壁6のインク孔6aは、インクバルブ5のバルブ座を構成し、インクバルブ5の弁体5aがインク孔6aに装入されている。
【0031】
インクバルブ5は、円錐台形状に形成されたばね受座5b内に装着されたばね部材5cが弁体5aをマーカー本体3側に向けて付勢している。なお、ばね受座5bは、インクが流通可能に孔部が形成されていて、径方向外方に延びる外端部がインクケース本体2aの内端部に形成した係合段部2cに係合し、ばね受座5bの後方への移動を規制している。
【0032】
すなわち、マーカー本体3が被印字部に当接し、ばね部材5cのばね力に抗して後方へ移動すると、弁体5aを後方へ移動させ、インク孔6aが開いてインクケース2内のインクが先端筒部2bに供給されてマーカー本体3にインクを浸み込ませる。
【0033】
一方、インクケース本体2aの後端部には、インク供給口7が形成され、このインク供給口7を塞ぐようにインクキャップ8がヒンジ部9を介してインクケース2aと一体的に形成されている。
【0034】
インク供給口7は、内端7aの内径を外端7bの内径よりも小径とする円錐台面としている。またインクキャップ8は、インクケース本体2aの外径と同径の外径を有するキャップ本体8aと、キャップ本体8aの内面に形成した円筒形状の差し込み栓部8bと、差し込み栓部8bの外面に周方向に一条形成された係合突起部8cとにより構成される。そして、キャップ本体8aの外周端の一部とインクケース本体2aの後端部の外周端の一部とを薄肉による一体成形で形成したヒンジ部9により連結している。
【0035】
係合突起部8cの外径は、インク供給口7の内端7aの内径よりも大径とし、外端7bの内径よりも小径としている。このため、ヒンジ部9を支点としてキャップ本体8aを閉じ方向に回動すると、インク供給口7の内面に沿って差し込み栓部8bがインク供給口7に入り込み、差し込み栓部8bの外周面に形成した係合突起部8cがインク供給口7の内端7aと係合し、係合突起部8cがインク供給口7の内端7aを通過する際に強く押し込むと、係合突起部8cが内径側に収縮し、内端7aを乗り越える。その際、クリック感が得られるので、インクキャップ8が確実にインク供給口7を閉じたことが体感される。また、係合突起部8cは断面テーパ形状に形成しているので、内端7aを乗り越えると、くさび効果によりインクキャップ8を先端側に向けて付勢する力が発生し、キャップ本体8aがインクケース本体2aの後端部にガタなく被せられる。
【0036】
また、ヒンジ部9は、インク供給口7の内端7aよりも後方に位置しているので、係合突起部8bは、インク供給口7の内端7aに到達する手前までは、斜めに装入されるので、インク供給口7と同軸上を後方から真っすぐに装入される従来のネジキャップおよびゴム栓キャップとは異なり、係合突起部8の先端とインク供給口7の内端7aとの間に隙間が形成される。このため、インクキャップ8の装着に伴うインクケース本体2a内の圧力上昇が避けられ、インクケース本体2a内のインクが吹き出ることが防止される。
【0037】
インクケース本体2aの後端部の外周縁部には、ヒンジ部9と反対側に切欠部10が形成され、この切欠部10に指先を当て、インクキャップ8のキャップ本体8aを爪で押し上げることにより、インクキャップ8を開放可能としている。
【0038】
本実施形態のインクケース2は透明あるいは光透過性を有する合成樹脂により形成されており、インクケース本体2aの外周部には、複数のインク目盛11,12が一体に同一軸線上に形成され、この軸線上に切欠部10が形成されている。
【0039】
インク目盛11は容量100%を表示し、インク目盛12は容量50%を表示する。インクケース本体2内に充填されているインクは、インクケース2aの外部からインクケース2aを透して観察できるので、インク目盛11、12との比較により現在のインク残量が容易に確認できる。このため、残りの印字回数、次回のインク補充時期を簡単に管理することができる。また、これらのインク目盛11、12と、切欠部10の位置からインクキャップ8の開放方向を容易に認識できる。
【0040】
インクケース2a内には、インク吸蔵体(不図示)を内装することができ、インク補充の際にインクキャップ8の開放時にインクがインク供給口7から外に飛び出ることはない。
【0041】
インクキャップ8をインク供給口7から開放しても、ヒンジ部9を介してインクキャップ8はインクケース本体2aの後端部に連結されているので、インクヤップ8の紛失はない。そして、インク目盛11,12を見ながらインクを補充することで、インクケース本体2aからインクを不用意に溢れさせることもなくなり、作業者の手を汚すことがない。
【0042】
また、インク供給口7の開口径については、できるだけ大きくすることで、インクの補充作業が容易になる。
【0043】
本実施形態のマーカー1は、従来例で示したように、筒状アダプタ内に配置され、ボルト等の締め付け部材の締め付けトルクが設定トルク値に達した時に、ソケットに係合しているボルトの頭部に向けて移動し、マーカー本体3がボルトの頭部に当接してマーキングを行う構成の他に、以下に例示する構成にも適用することができる。
【0044】
例えば、前記設定トルク値に達したことで前記マーカーを移動させる移動力をトルクレンチの外部に遠隔操作用のケーブルで取り出し、例えば締め付けるボルトの傍の部材等のマーキングすべき個所に予め磁石などで固定している印字装置にこのケーブルの先端を連結し、印字装置の印字体にこのマーカー1を使用し、前記ケーブルによりマーカー1を移動させて印字を行う。また、締め付けを行うボルトの頭部側面と被締結面の両方に同時にマーキングを施すために、ソケットの軸方向に対して斜めにマーカー1を収容している印字装置をトルクレンチに取り付け、設定トルク値に達した時に印字装置のマーカー1をマーキング箇所に向けて移動させる。
【符号の説明】
【0045】
1 マーカー
2 インクケース
2a インクケース本体 2b 先端筒部 2c 係合段部
3 マーカー本体
4 マーカーキャップ
5 インクバルブ
5a 弁体 5b ばね受座 5c ばね部材
6 仕切り壁
6a インク孔(弁座)
7 インク供給口
7a 内端 7b 外端
8 インクキャップ
8a キャップ本体 8b 差し込み栓部 8c 係合突起部
9 ヒンジ部
10 切欠部
11、12 インク目盛

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定トルクで締め付け締結部材あるいは所定の箇所にマーキングを施すトルクレンチなどのトルク工具に設けられ、筒状のインクケースの先端部にマーカー本体が装着され、前記インクケースの後端部に形成したインク供給口をインクキャップで開閉可能に塞ぐマーカーであって、前記インクキャップと前記インクケースの後端部とを連設するヒンジ部と、前記ヒンジ部を支点として前記インクキャップを閉じ方向に回動することにより、前記インク供給口に装入される前記インクキャップの内側に形成された差し込み栓部とを有することを特徴とするマーカー。
【請求項2】
前記差し込み栓部は、外周部に係合突起部を周方向に形成され、前記インク供給口の内端側の内径を前記係合突起部の外径よりも小径に形成したことを特徴とする請求項1に記載のマーカー。
【請求項3】
前記インクケースの後端部の外周縁部には、閉じ状態にある前記インクキャップの縁に臨む切欠部を形成したことを特徴とする請求項1または2に記載のマーカー。
【請求項4】
前記インクケースは、内部に充填しているインクが外部から視認可能な透明あるいは光透過性を有する合成樹脂材により形成され、前記インクケースの外周部に、インク充填量を示すインク目盛を形成したことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマーカー。
【請求項5】
前記マーカーと前記切欠部とは軸方向に沿って同一軸線上に形成したことを特徴とする請求項4に記載のマーカー。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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