説明

マーガリン及びスプレッド、並びにこれらの製造方法

【課題】乳化剤の使用を極力少量に抑え、脂肪分が低く、風味と物性の良好なマーガリン及びスプレッドを提案する。
【解決手段】重合度が5〜29のイヌリンを95%以上の割合で含んだイヌリン組成物が1〜60重量%の割合で配合されているマーガリン及びスプレッド。重合度が5〜29のイヌリンを95%以上の割合で含んだイヌリン組成物と、油脂及び乳化剤を含んだ組成物を調合して乳化した乳化液を、殺菌、冷却、混練してマーガリン及びスプレッドを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マーガリンや、スプレッド、特に、低脂肪のマーガリン、スプレッド等と、これらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マーガリン、スプレッド等の油中水型乳化組成物において低脂肪を実現するためには、従来、乳化力の強い乳化剤を多量に使用する方法や、膜乳化処理で二重乳化する方法等が適用されていた。これらの従来で採用されていた方法によって製造されたスプレッド等には、製品の口溶けが十分でない、物性の滑らかさが不足する、食パンに塗布すると水っぽくて湿りがちになる等々の問題が生じることがあった。
【0003】
マーガリン、スプレッド等の油中水型乳化組成物であって、低脂肪のものに関しては、以前から、次のような提案がされていた。
【0004】
特開平5−49398号公報(特許文献1)「高水分油中水型乳化油脂組成物」には、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチンで構成された乳化剤を使用して調製された低脂肪スプレッドが記載されている。
【0005】
特開平6−237690号公報(特許文献2)「低脂肪油中水型乳化油脂組成物及びその製造方法」には、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ゼラチンで構成された 乳化剤や安定剤を使用して調製された 低脂肪スプレッドが記載されている。
【0006】
特開平11−243856号公報(特許文献3)「低脂肪スプレッド及びその製造方法」には、化工澱粉を使用せず、乳タンパク質濃縮物を使用して調製された低脂肪スプレッドが記載されている。
【0007】
特開平4‐210578号公報(特許文献4)「ポリフラクタンを含有する低カロリー食品」には、油脂(生クリーム等)の代替物として、ポリフラクタンを使用して調製された低カロリー食品が記載されている。
【0008】
特開平3‐280857号公報(特許文献5)「低カロリー食品」には、重合度が30〜70、粒径が3〜80μmのフラクタン(イヌリン等)で調製されたペースト状組成物を含む、低カロリー食品が記載されている。
【0009】
特開平3‐280856号号公報(特許文献6)「ペースト状組成物の製造法」には、重合度が10〜100(好ましくは30〜70)のフラクタン(イヌリン等)を、熱水(80℃以上)で溶解するなどして調製されたペースト状組成物が記載されている。
【0010】
特表平9‐500781号公報(特許文献7)「凝集組成物、その製造方法及び前記組成物を含有する食品」には、フラクタン(イヌリン等)を高剪断力で溶解・分散して調製されたクリーム構造が記載されている。
【0011】
イヌリンでチコリ(キク科の植物)等から得られた天然の抽出物は公知であり、特表2002−517216号公報(特許文献8)には、この天然の抽出物であるイヌリンを配合したスプレッドが提案されている。
【0012】
また、特表平6‐510906号公報 (特許文献9)「クリーム構造を有しフルクタンを含有する組成物、これら組成物の製造方法、およびその用途」には、イヌリンがチコリ(植物)の抽出物に限定されているが、イヌリンの食品への適用が記載されている。
【0013】
また、イヌリンで酵素調製物も 公知であり、例えば、本願の出願人は、特開2007‐209268号公報(特許文献10)において、清涼飲料(野菜飲料、緑茶飲料、アミノ酸飲料、豆乳飲料等)での収斂味の低減や、アイスクリーム、ゼリー、プリン、羊羹、キャラメル、パン、ソーセージ等の口当たりや後味の改善にイヌリンで酵素調製物を用いる提案を行っている。
【特許文献1】特開平5−49398号公報
【特許文献2】特開平6−237690号公報
【特許文献3】特開平11−243856号公報
【特許文献4】特開平4‐210578号公報
【特許文献5】特開平3‐280857号公報
【特許文献6】特開平3‐280856号号公報
【特許文献7】特表平9‐500781号公報
【特許文献8】特表2002−517216号公報
【特許文献9】特表平6‐510906号公報
【特許文献10】特開2007‐209268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
この発明は、風味と物性の良好なマーガリン及びスプレッドを提案することを目的にしている。
【0015】
特に、乳化剤の使用を極力少量に抑え、脂肪分が低く、風味と物性の良好なマーガリン及びスプレッドとこれらの製造方法を提案することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願の発明者等は、乳化剤の使用を極力少量に抑えることを目指して乳化剤の代替物の用途の開発とその調製方法を検討した。
【0017】
その上で、本願の発明者等は、乳化剤の代替物を配合したマーガリン及びスプレッドであって低脂肪のもの及び、これらの製造方法の開発を検討した。更に、乳化剤の代替物を配合したマーガリン及びスプレッドであって低脂肪のもの風味と物性の向上を検討した。
【0018】
そして、従来から油中水型乳化組成物の製造に使用されていた食物繊維の一種であるイヌリンに注目し、特定のイヌリンを使用することによって、乳化剤の使用を極力少量に抑え、脂肪分が低く、風味と物性の良好なマーガリン及びスプレッドを製造することが可能であることを見出して本願発明を完成させたものである。
【0019】
本願の発明者等は、乳化剤の代替物の候補として、イヌリン(製品名:フジFF、フジ日本精糖(株)製)を検討した。イヌリンは食物繊維の一種であり、フジFF(製品名)は砂糖を原料とし、酵素処理により調製される。マーガリン、スプレッドに所定量のフジFF(製品名)を配合することにより、保水性が向上され、乳化剤の配合量を極力低減しながら、低脂肪のマーガリン、スプレッドを製造できた。
【0020】
チコリ等の従来のイヌリンでは、溶解度が低いため、マーガリンやスプレッドに従来のイヌリンを配合する際に、その配合量が限定されてしまう。また、従来のイヌリンを多めに配合すると、甘味が強すぎるばかりでなく、ザラついた舌触りとなるため、風味面や物性面で課題があった。
【0021】
これに対してフジFF(製品名)では、従来のイヌリンに比べて溶解度が高く、甘味が弱いため、上述の課題を解決して、風味面や物性面で優れた効果を発揮する。
【0022】
請求項1記載の発明は、重合度が5〜29のイヌリンを95%以上の割合で含んだイヌリン組成物が1〜60重量%の割合で配合されているマーガリン及びスプレッドである。
【0023】
請求項2記載の発明は、油脂を15〜42重量%の割合で含んでいる請求項1記載のマーガリン及びスプレッドである。
【0024】
請求項3記載の発明は、乳化剤としてHLB(hydrophile-Lipophile Balance)が2〜5のグリセリン脂肪酸エステルを0.1〜3.0重量%、HLB(hydrophile-Lipophile Balance)が2以下の ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.01〜1.0重量%の割合で併用していることを特徴とする請求項1又は2記載のマーガリン及びスプレッドである。
【0025】
請求項4記載の発明は、重合度が5〜29のイヌリンを95%以上の割合で含んだイヌリン組成物と、油脂及び乳化剤を含んだ組成物を調合して乳化した乳化液を、殺菌、冷却、混練してマーガリン及びスプレッドを製造する方法である。
【0026】
請求項5記載の発明は、前記イヌリン組成物を60〜100℃で溶解・保持することを特徴とする請求項4記載のマーガリン及びスプレッドを製造する方法である。
【0027】
請求項6記載の発明は、冷却後の乳化液を混練処理を行う混練機に向けて送り出す高圧ポンプの出口圧力を0.1〜5.0MPaに制御することを特徴とする請求項4又は5記載のマーガリン及びスプレッドを製造する方法である。
【0028】
請求項7記載の発明は、冷却後の乳化液を混練処理を行う混練機に向けて送り出す高圧ポンプの出口圧力を0.5〜4.0MPaに制御することを特徴とする請求項6記載のマーガリン及びスプレッドを製造する方法である。
【0029】
請求項8記載の発明は、混練処理を行う混練機の出口温度を10〜35℃に制御することを特徴とする請求項4乃至7のいずれか一項記載のマーガリン及びスプレッドを製造する方法である。
【0030】
請求項9記載の発明は、混練処理を行う混練機の出口温度を20〜30℃に制御することを特徴とする請求項8記載のマーガリン及びスプレッドを製造する方法である。
【発明の効果】
【0031】
この発明によれば、乳化剤の使用を極力少量に抑え、脂肪分が低く、風味と物性の良好なマーガリン及びスプレッドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
(本願発明に使用するイヌリン)
イヌリンは一般式GFn(G:グルコース、F:フラクトース、n:フラクトースの数(n≧2))で表される分岐のないフラクタンである。一般に重合度の異なるイヌリンの集合体として販売されているが、個々の重合度のイヌリンに着目した場合、重合度の大きさにより性質は異なり、低重合体(特に重合度4以下)は甘味を呈し、高重合体(特に30以上)は水に溶けづらい特徴を持っている。そのため、集合体においても、その重合度の分布が加工特性や味質・食感に影響を与える。
【0033】
本発明において使用するイヌリン組成物は、重合度5〜29のイヌリンを95%以上含むイヌリン組成物、すなわち、異なる重合度の集合体であるイヌリン組成物において重合度5〜29のイヌリンが95%以上を占めるイヌリン組成物である。
【0034】
本発明において使用するイヌリン組成物は、スクロースにイヌリン合成酵素のような糖転移酵素を作用させて合成されるものである。
【0035】
本発明で使用する酵素的に合成されるイヌリン組成物の具体的な製法はWO03/027304に記載しているとおりであるが、その要旨は次に説明するとおりである。
【0036】
このイヌリン組成物は、イヌリン合成酵素をスクロースに接触させることにより製造される。なお、ここで、イヌリンとは、スクロースのフルクトース側にD-フルクトースがβ−(2→1)結合で順次、脱水重合した多糖類であって、グルコースに2分子以上のフルクトースが重合したものを意味し、2〜4分子のフルクトースが重合した低重合度のFOS(フルクトオリゴサッカライド)も含むものである。
【0037】
上記において、イヌリン合成酵素を「スクロースに接触させる」とは、スクロースを炭素源として含有する原料溶液にイヌリン合成酵素を添加し、これらが反応液中でスクロースを基質としてイヌリンを生成し得る条件下で反応させることを意味する。
【0038】
ここで、イヌリン合成酵素は、スクロースをイヌリンに変換することができる基質特異性を有する酵素であれば、いずれの酵素をも使用することができる。
【0039】
その一例として、スクロースに作用してイヌリンを生成するが、ケストース、マルトース、ラクトース、トレハロース、セロビオースには作用しない作用及び基質特異性を有するイヌリン合成酵素が挙げられる。
【0040】
また、イヌリン合成酵素としては、微生物が産生する酵素が相当するが、当該酵素を産生する微生物の培養液若しくは培養菌体又はその処理物も含まれる。
【0041】
上記酵素としては、具体的には、WO02/00865に記載されているバチラス(Bacillus)sp.217C−11株(FERM BP-7450)の培養液若しくは培養菌体又はその処理物から得られるものを用いることができる。
【0042】
このバチラスsp.217C−11株の培養法及び酵素の調製方法について、以下で簡単に説明する。
【0043】
この培養法において培地に添加する炭素源としては、通常に使用されるものを適当な濃度で使用すればよい。例えば、スクロース、グルコース、フルクトース、マルトース等の糖質を単独又は混合して用いることができるが、最も好ましい炭素源はスクロースである。これを主炭素源とした液体培地を用いて培養することにより当該酵素活性は向上する。
【0044】
窒素源としては、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーン・スティープ・リカー等の有機窒素源のほか、硫酸、硝酸、リン酸のアンモニウム塩等の無機窒素源を単独又は混合して用いることができる。
【0045】
無機塩類としては、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、鉄等の硫酸塩、塩酸塩、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩等をそれぞれ単独で、又は組合せて用いることができる。
【0046】
更に必要に応じて、アミノ酸、ビタミン等の通常の培養に用いられる栄養源等も適宜用いることができる。
【0047】
具体的な培地としては、スクロースを0.5〜2%(w/v)、ペプトンを1%、酵母エキスを0.5%、リン酸2カリウムを0.2%で含む、pHが7〜8の液体培地を用いることができる。
【0048】
培養は振とう式で、又はジャー・ファーメンターを用いて通気条件下で行うことができる。培地のpHは6〜9の範囲が好ましく、培養温度は25℃〜37℃の範囲が好ましく、培養時間は微生物が増殖し得る以上の時間であればよく、5〜96時間、好ましくは15〜72時間である。
【0049】
バチラスsp.217C−11株を先に示した培地で培養後、遠心分離により除菌し、その後に培養上清を分画分子量が30000の限外濾過膜を用いて濃縮し、反応用の酵素液として使用することができる。この、バチラスsp.217C−11株由来のイヌリン合成酵素は、以下の理化学的性質を有するものである。
【0050】
分子量:45,000〜50,000
至適温度:40〜50℃
熱安定性:45℃を越えると徐々に失活し始め、50℃で70%、60℃
で40%の残存活性を示す。
【0051】
至適pH:7〜8(45℃)
pH安定性:pH6以上で安定。
【0052】
なお、このイヌリン合成酵素は、スクロースに作用してイヌリンを生成するが、ケストース、マルトース、ラクトース、トレハロース、セロビオースには作用しない作用及び基質特異性を有するものである。
【0053】
イヌリン合成酵素の濃度は、反応液中のスクロース(基質)を十分に利用し得る濃度であればよく、例えば、スクロース40〜60%(w/w)の場合、イヌリン合成酵素の活性が0.4unit/mlの反応液となる濃度とするのが好ましいい。スクロースを基質としてイヌリンを生成するのに適切な条件は、pHが6〜8の範囲の反応液を用いるのが好ましい。更に該反応液のpHを保つためにリン酸緩衝液を用いることもできる。反応時間は、イヌリン合成酵素の使用量等により適宜変更することができるが、通常、0.1〜100時間、好ましくは、0.5〜72時間である。
【0054】
得られるイヌリンの平均重合度の分析は、以下のようにして行うことができる。
【0055】
なお、重合度とは、イヌリン中のサッカライド単位(フルクトース及びグルコース単位)の数であり、平均重合度は、例えば、以下のようにして、HPLC、GC、HPAEC等の通常の分析法によって求めた分析結果のピークのトップを平均重合度とすることができる。カラムとして、例えば、信和化工製のULTRON PS-80N(8×300mm)(溶媒;水、流速;0.5ml/min、温度;50℃)あるいは、TOSOH製のTSK-GEL G30000 PWXL(7.8×300mm)(溶媒;水、流速;0.5ml/min、温度;50℃)を用い、検出器として示差屈折計を使用することによって確認された、生成イヌリンの重合度を標準物質として、例えば、植物由来のイヌリンであるオラフティ社のラフテリンST(平均重合度11)とラフテリンHP(平均重合度22)を用いて作成した検量線により求めることができる。なお、イヌリンの重合度の分析に関しては、Loo等(Critical Reviews in Food Science and Nutrition、 35(6)、525−552(1995)の方法に基づいて実施することができる。
【0056】
上記イヌリンの製造法において、(1)スクロース濃度の調整、(2)イヌリン合成酵素をスクロースに接触させる際の温度の調整、(3)スクロースの追添加、により、生成されるイヌリンの平均重合度を調節することができる。
【0057】
上記(1)について更に説明すると、スクロース濃度の調整は、イヌリン合成酵素をスクロースに接触させてイヌリンを合成するに際し、生成するイヌリンの平均重合度に対応して行なわれる。具体的なスクロース濃度は、例えば、3〜68%(w/w)、好ましくは10〜60%(w/w)の範囲であるが、スクロース濃度を上記の範囲内で低く設定することによって、得られるイヌリンの平均重合度を高めることができる。例えば、反応温度が15℃の場合、原料のスクロース濃度が50%のときに得られるイヌリンの平均重合度は10であるのに対し、原料のスクロース濃度が20%のときに得られるイヌリンの平均重合度は18である。また、反応温度が37℃の場合、原料のスクロース濃度が60%のときに得られるイヌリンの平均重合度は9であるのに対し、原料のスクロース濃度が20%のときに得られるイヌリンの平均重合度は20である。従って、スクロース濃度を適宜設定することによって、所望の平均重合度のイヌリンを得ることができる。
【0058】
本発明で使用する上述のイヌリンは、従来の加熱水の使用なしに、又は剪断を行うことなく、常温水を加え、通常の撹拌処理を行うことにより、滑らかな食感を持つクリーム状イヌリン組成物を得ることができるものである。
【0059】
本発明で使用する上述のイヌリンは、従来のものと比べ、加熱水の使用も不要であり、剪断の必要もなく製造方法が極めて簡便で、コストもかからず、甘味がほとんどなく、ざらつき感もない、滑らかな高濃度のイヌリンを含むクリーム状のイヌリン組成物である。そして、このクリーム状のイヌリン組成物は食物繊維をより多く含むため、低カロリー、低脂肪であり、これらクリーム状のイヌリン組成物を含む食品の摂取は、肥満や成人病の防止対策につながることとなる。
【0060】
以上に説明したイヌリンを使用する本発明のマーガリン及びスプレッドは、重合度が5〜29のイヌリンを95%以上の割合で含んだイヌリン組成物が1〜60重量%の割合で配合されているものである。
【0061】
前記の重合度が5〜29のイヌリンを95%以上の割合で含んだイヌリン組成物におけるイヌリンの平均重合度の一例としては、16をあげることができる。
【0062】
重合度が5〜29のイヌリンを95%以上の割合で含んだイヌリン組成物を使用すると、マーガリン、スプレッド等へ大量に配合しても甘味が強くならず、塩味を感じやすくなるので有利である。
【0063】
前記のイヌリン組成物が1〜60重量%の割合で配合されていることが望ましい理由は、マーガリン、スプレッド等で口溶けを良好に感じやすくなるからである。かかる観点から、前記のイヌリン組成物の配合される割合は、5〜50重量%が好ましく、8〜40重量%がより好ましく、10〜35重量%が更に好ましい。
【0064】
前記の本発明のマーガリン及びスプレッドは、油脂を15〜42重量%の割合で含んでいるものとすることができる。
【0065】
油脂の配合割合が前記の範囲であることの望ましい理由は、マーガリン、スプレッド等の低脂肪タイプとして風味や食感を良好に感じやすくなるからである。かかる観点から、前記のマーガリン及びスプレッドへ配合される油脂の割合は、15〜40重量%が好ましく、18〜40重量%がより好ましく、20〜35重量%が更に好ましい。
【0066】
以上に説明した本発明によるマーガリン及びスプレッドにおいては、乳化剤としてHLBが2〜5のグリセリン脂肪酸エステルを0.1〜3.0重量%、HLBが2以下の ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.01〜1.0重量%の割合で併用することができる。
【0067】
このようにすると、マーガリン、スプレッド等の低脂肪タイプとして乳化状態が安定し、風味や食感を滑らかに感じやすいので有利である。かかる観点から、前記のマーガリン及びスプレッドへ配合されるHLBが2〜5のグリセリン脂肪酸エステルの割合は、0.1〜2.0重量%が好ましく、0.2〜1.0重量%がより好ましく、0.2〜0.5重量%が更に好ましい。そして、前記のマーガリン及びスプレッドへ配合されるHLBが2以下の ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの割合は、0.05〜0.8重量%が好ましく、0.08〜0.5重量%がより好ましく、0.08〜0.3重量%が更に好ましい。
【0068】
なお、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(PGPR)は、強力な油中水型の乳化剤であり、低脂肪・高水分の油中水型の乳化系で従来から一般的に使用されているものである。
【0069】
以上に説明した本発明によるマーガリン及びスプレッドは、従来の低脂肪スプレッドに比べて、製品の口溶けが良好で、物性に滑らかさがあり、ボロつかずに、展延性が良好である。また、食パンに塗布した際に湿らず、カリッとした食感を得ることができる。更に、超低脂肪にもかかわらず、離水や転相せず、風味成分のフレーバーリリースを強く感じるものになっている。
【0070】
以上に説明した本発明によるマーガリン及びスプレッドは、重合度が5〜29のイヌリンを95%以上の割合で含んだイヌリン組成物と、油脂及び乳化剤を含んだ組成物を調合して乳化した乳化液を、殺菌、冷却、混練して製造することができる。
【0071】
この本発明によるマーガリン及びスプレッドを製造する方法においても、前記の重合度が5〜29のイヌリンを95%以上の割合で含んだイヌリン組成物におけるイヌリンの平均重合度の一例としては、16をあげることができる。
【0072】
重合度が5〜29のイヌリンを95%以上の割合で含んだイヌリン組成物を使用すると、マーガリン、スプレッド等へ大量に配合しても甘味が強くならず、塩味を感じやすくなるので有利である。また、重合度が5〜29のイヌリンを95%以上の割合で含んだイヌリン組成物を使用すると、従来のイヌリン組成物に比べて、水溶性が高いため、クリーム状のイヌリン組成物を安定して調製でき、マーガリン、スプレッド等へ大量に配合しても、イヌリン等の成分が分離するなどして品質が悪くなることがないので有利である。
【0073】
また、前記のイヌリン組成物が1〜60重量%の割合で配合されていることが望ましい理由は、マーガリン、スプレッド等で口溶けを良好に感じやすくなるからである。
【0074】
前述した本発明によるマーガリン及びスプレッドを製造する方法において、乳化工程、殺菌工程、冷却工程、混練工程は、マーガリン及びスプレッドの製造において従来から行われていたものとすることができる。
【0075】
なお、混練工程には、この技術分野で一般的に使用される混練機、例えば、マーガリン製造機(卓上ホモミキサー、プロセッサー、コンビネーター等)を使用することができる。
【0076】
前記の本発明によるマーガリン及びスプレッドを製造する方法において、乳化工程が終了するまでにおいては、前記のイヌリン組成物を60〜100℃で溶解・保持することが望ましい。
【0077】
前記のイヌリン組成物を60〜100℃で溶解・保持することにより、高剪断力を必要とせずに、撹拌力のみで、イヌリン組成物を最終製品たる本発明によるマーガリン及びスプレッドへ安定的に混合・分散することができる。
【0078】
以上に説明した本発明によるマーガリン及びスプレッドを製造する方法において、冷却後の乳化液を混練処理を行う混練機に向けて送り出す高圧ポンプの出口圧力を0.1〜5.0MPaに制御することが望ましい。冷却後の乳化液(マーガリン、スプレッド)は300〜700mPa・s(cp)(60〜70℃)程度の高粘度になっている。このように高粘度になっている冷却後の乳化液を混練処理を行う混練機に向けて送り出す高圧ポンプの出口圧力を前述した圧力範囲に制御すると、マーガリン、スプレッド等で脂肪粒径をコントロールしやすく、風味や食感を滑らかに感じやすくなって有利だからである。かかる観点から、冷却後の乳化液を混練処理を行う混練機に向けて送り出す高圧ポンプの出口圧力は0.5〜4.0MPaに制御することがより好ましく、1.3〜3.0MPaに制御することが更に好ましい。
【0079】
また、以上に説明した本発明によるマーガリン及びスプレッドを製造する方法において、混練処理を行う混練機の出口温度を10〜35℃に制御することが望ましい。冷却後の乳化液(マーガリン、スプレッド)は300〜700mPa・s(cp)(60〜70℃)程度の高粘度になっている。このように高粘度になっている乳化液を混練処理を行う混練機から送り出す際の出口温度を前述した温度範囲に制御すると、乳化液で適度な流動性を維持できる上に、マーガリン、スプレッド等で転相しにくく、物性が安定することになって有利だからである。かかる観点から、混練処理を行う混練機の出口温度は20〜30℃に制御することがより好ましく、23〜28℃に制御することが更に好ましい。
【0080】
以上に説明した本発明によるマーガリン及びスプレッドを製造する方法によって製造した本発明のマーガリン及びスプレッドは、従来の低脂肪スプレッドに比べて、製品の口溶けが良好で、物性に滑らかさがあり、ボロつかずに、展延性が良好である。また、食パンに塗布した際に湿らず、カリッとした食感を得ることができる。更に、超低脂肪にもかかわらず、離水や転相せず、風味成分のフレーバーリリースを強く感じるものになっている。
【0081】
以下、本発明の好ましい実施例について説明するが、本発明は、前述した好ましい実施形態及び、後述の実施例に限定されることなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々の形態に変更可能である。
【実施例1】
【0082】
(重合度5〜29のイヌリンの調製)
原料である砂糖溶液の濃度を45%に調製し、55℃にて、前述したバチラスsp.217C−11株由来のイヌリン合成酵素を添加し、緩やかに撹絆しながら2日間の酵素反応を行った。
【0083】
なお、反応から24時間目に原料溶液を追添加し、更に反応を続け、スクロースの残量が糖組成で10%程度になった時点で反応を終了させた。
【0084】
反応終了液は加熱により酵素を熱変性させ、活性炭ろ過による脱色工程、逆浸透膜による低分子糖類の除去工程、イオン交換樹脂による脱塩工程を経て精製を行い、噴霧乾燥よって純度97%以上の粉末を得ることができる。
【0085】
このようにして得られる酵素合成イヌリンの重合度について前述した方法によって分析を行ったところ、平均重合度は16、重合度分布は5〜29で、重合度5〜29のイヌリンの占有率は96.2%であった。
【0086】
なお、イヌリン製品の重合度の分布状態はイオンクロマト分析装置を用いて測定したものである。
【0087】
(本発明の低脂肪スプレッド=マーガリン)の調製)
以下のように配合成分(重量%)を準備した。
【0088】
前記のように調製したイヌリン組成物(重合度が5〜29のイヌリンを96.2%含むイヌリン組成物):28.4%
油脂:25%(液油:18%、硬化油:7%)
HLBが3のグリセリン脂肪酸エステル:0.3%
HLBが2以下のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(PGPR):0.09%
食塩:1.8%
香料:0.21%
配合水:適量。
【0089】
配合水を75℃以上に加温した後に、食塩、イヌリン組成物を溶解させ、水相部を調製した。
【0090】
調合タンクのジャケットを約75℃に制御しながら、水相部を構成する前記の配合成分以外(油相部)を撹拌・混合(調合)し、ここへ、水相部を低流量で添加した。そのまま15分間以上、加温・撹拌・分散を継続しながら乳化させた。このとき、乳化液の粘度は300〜700mPa・s(cp)(60〜70℃)であった。
【0091】
この乳化液を殺菌、冷却、混練して、本発明の低脂肪スプレッド(マーガリン)を得た。なお、冷却後の乳化液を混練処理を行う混練機(コンビネーター)に向けて送り出す高圧ポンプの出口圧力は1.3〜2.4MPaとした。また、マーガリン製造機の出口温度を23〜28℃とし、乳化工程の循環時間を15〜30分間に設定して、本発明の低脂肪スプレッド(マーガリン)を得た。
【0092】
この低脂肪スプレッド(マーガリン)は離水や転相せずに、滑らかな組織であった。口溶けは良好で、風味成分のフレーバーリリースを強く感じた。食パンに約10gを塗布して、トースターで焼いたところ、カリッとした食感を得られた。この食パンの食感や風味は、従来の低脂肪スプレッドでは実現できなかったものである。
【0093】
(比較試験例)
以下の表1〜表5記載の配合、調製方法で実施例2〜実施例16、比較例1〜比較例9のマーガリンを調製した。
【0094】
なお、各配合における液油、硬化油は、実施例1と同じく、それぞれ、「大豆油、ナタネ油」、「大豆硬化油(融点: 39℃)」であり、乳化剤には、HLBが3のグリセリン脂肪酸エステルを表中の濃度で使用した。また、各配合におけるイヌリンは、実施例1と同じく、実施例1で調製したイヌリン組成物(重合度が5〜29のイヌリンを96.2%含むイヌリン組成物)である。
【0095】
そして、実施例1の配合を基本とし、油脂(合計)、乳化剤、イヌリンの配合割合を実施例2〜実施例16、比較例1〜比較例9のように変動させたことに応じて、実施例1における配合水の割合を変動させた。
【0096】
また、実施例1と同じく、冷却後の乳化液を混練処理を行う混練機に向けて送り出す高圧ポンプの出口圧力は1.3〜2.4MPa、混練機を使用する場合の出口温度を23〜28℃、乳化工程の循環時間を15〜30分間とした。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【0097】
実施例2〜実施例16、比較例1〜比較例9より、以下の点が確認できた。
【0098】
油脂濃度が37.7%(重量)と高い場合、乳化剤が0.09%(重量)で、イヌリンを10.0%(重量)(実施例2)、イヌリンを20.0%(重量)(実施例3)で、スプレッド(マーガリン)を製造することができた。
【0099】
油脂濃度が30.0%(重量)の場合、乳化剤が0.09%(重量)で、イヌリンを20.0%(重量)で配合して、スプレッド(マーガリン)を製造することができた(実施例4。なお、乳化剤が0.09%(重量)で、イヌリンを20.0%(重量)で配合しても、製造方法が手混ぜの場合、転相が生じた(比較例2)。また、実施例4と同じく、プロセッサーで製造した場合にも、イヌリンが10.0%(重量)では転相が生じた(比較例1)。
【0100】
油脂濃度が25.0%(重量)の場合、実施例5、6、表2(実施例7〜12)のように、イヌリンを20.0%〜28.4%(重量)で配合して、スプレッド(マーガリン)を製造することができた。なお、実施例5、比較例3にあるように、油脂濃度が25.0%(重量)、イヌリンが20.0%(重量)の場合、乳化剤は0.09%(重量)より高いことが望ましい。また、実施例6〜実施例12、比較例5より、製造方法としては手混ぜよりも、プロセッサーやコンビネーターを使用することが望ましい。
【0101】
一方、表3(実施例13〜16)、表5(比較例6〜9)にあるように、油脂濃度が20%(重量)以下では、イヌリンの濃度のみを高めても、スプレッド(マーガリン)を製造することは難しかったが、乳化剤の濃度を高めることで、スプレッド(マーガリン)を製造することができた。
【0102】
以上の比較試験例を踏まえ、本願の発明者等が実験したところによれば以下の事項を確認できた。なお、以下の記載における成分割合はいずれも重量%である。
【0103】
油脂が約38%(例えば、35〜40%)のマーガリン類では、乳化剤を約0.08〜0.25%、イヌリンを約8%以上(例えば、約8〜30%)に設定することで製造できた。このとき、乳化剤の添加量として0.08〜0.20%が好ましく、0.09〜0.18%がより好ましく、0.09〜0.14%がさらに好ましかった。そして、イヌリンの添加量として10〜30%が好ましく、10〜25%がより好ましく、12〜22%がさらに好ましかった。
【0104】
ここで、乳化剤の添加量を増やしすぎると、マーガリン類の滑らかさ(組織)や口溶け(風味)に悪影響を及ぼすこともある。また、イヌリンの添加量を増やしすぎると、マーガリン類の粘度が極端に上昇してしまい、製造適性に悪影響を及ぼすこともあり、更には、マーガリン類の品質へ悪影響を及ぼすこともある。そのため、これらの観点を勘案しながら、乳化剤の添加量やイヌリンの添加量を設定することが必要となる。
【0105】
油脂が約30%(例えば、28〜33%)のマーガリン類では、乳化剤を約0.08〜0.25%、イヌリンを約20%以上(例えば、約15〜30%)に設定することで製造できた。このとき、乳化剤の添加量として0.08〜0.20%が好ましく、0.09〜0.18%がより好ましく、0.09〜0.14%がさらに好ましかった。そして、イヌリンの添加量として15〜28%が好ましく、18〜25%がより好ましく、18〜22%がさらに好ましかった。
【0106】
油脂が約25%(例えば、23〜27%)のマーガリン類では、乳化剤を約0.08〜0.25%、イヌリンを約25%以上(例えば、約25〜40%)に設定することで製造できた。このとき、乳化剤の添加量として0.09〜0.20%が好ましく、0.10〜0.18%がより好ましく、0.10〜0.14%がさらに好ましかった。そして、イヌリンの添加量として25〜35%が好ましく、26〜33%がより好ましく、27〜30%がさらに好ましかった。
【0107】
油脂が約20%(例えば、18〜22%)のマーガリン類では、乳化剤を約0.14〜0.25%、イヌリンを約25%以上(例えば、約25〜40%)に設定することで製造できた。このとき、乳化剤の添加量として0.15〜0.23%が好ましく、0.16〜0.23%がより好ましく、0.16〜0.20%がさらに好ましかった。そして、イヌリンの添加量として28〜40%が好ましく、29〜38%がより好ましく、30〜35%がさらに好ましかった。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明では、以下の産業上の利用可能性が考えられる。
【0109】
(1)イヌリンの保水効果を利用することで、保存中だけでなく製造中においても、マーガリン、スプレッド等の離水や転相を防止でき、製造工程の安定性が飛躍的に向上する。
【0110】
(2)マーガリン、スプレッド等の製造に、従来のマーガリン類の製造工程や設備をそのまま適用できるため、調合から充填までを連続的に処理できる。
【0111】
(3)低脂肪のマーガリン、スプレッド等にもかかわらず、通常の脂肪濃度のマーガリン、スプレッド等と同等の風味や物性(食感)を達成できる。
【0112】
(4)前記(1)〜(3)を商業規模で安定的に実現できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合度が5〜29のイヌリンを95%以上の割合で含んだイヌリン組成物が1〜60重量%の割合で配合されているマーガリン及びスプレッド。
【請求項2】
油脂を15〜42重量%の割合で含んでいる請求項1記載のマーガリン及びスプレッド。
【請求項3】
乳化剤としてHLBが2〜5のグリセリン脂肪酸エステルを0.1〜3.0重量%、HLBが2以下の ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.01〜1.0重量%の割合で併用していることを特徴とする請求項1又は2記載のマーガリン及びスプレッド。
【請求項4】
重合度が5〜29のイヌリンを95%以上の割合で含んだイヌリン組成物と、油脂及び乳化剤を含んだ組成物を調合して乳化した乳化液を、殺菌、冷却、混練してマーガリン及びスプレッドを製造する方法。
【請求項5】
前記イヌリン組成物を60〜100℃で溶解・保持することを特徴とする請求項4記載のマーガリン及びスプレッドを製造する方法。
【請求項6】
冷却後の乳化液を混練処理を行う混練機に向けて送り出す高圧ポンプの出口圧力を0.1〜5.0MPaに制御することを特徴とする請求項4又は5記載のマーガリン及びスプレッドを製造する方法。
【請求項7】
冷却後の乳化液を混練処理を行う混練機に向けて送り出す高圧ポンプの出口圧力を0.5〜4.0MPaに制御することを特徴とする請求項6記載のマーガリン及びスプレッドを製造する方法。
【請求項8】
混練処理を行う混練機の出口温度を10〜35℃に制御することを特徴とする請求項4乃至7のいずれか一項記載のマーガリン及びスプレッドを製造する方法。
【請求項9】
混練処理を行う混練機の出口温度を20〜30℃に制御することを特徴とする請求項8記載のマーガリン及びスプレッドを製造する方法。

【公開番号】特開2010−29120(P2010−29120A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195763(P2008−195763)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【出願人】(502281585)フジ日本精糖株式会社 (14)
【Fターム(参考)】