説明

マーキングトルクレンチのスタンプカートリッジのインク充填装置

【課題】使用頻度が相違する複数のスタンプカートリッジに対して、中綿を損傷させることなく、簡単な作業によって適正量のインクを同時に補充する。
【解決手段】インク流通管12の上端12aは、タンク本体15のインク流下孔17を介して上貯留室22と連通し、下端12bは、補充器本体24のインク流入孔24に挿入されて下貯留室30と連通する。バルブ14はインク流通管12を開閉する。補充器本体24の複数のカートリッジ挿入孔26は、スタンプ先端7から挿入されたスタンプカートリッジ1を所定の姿勢で保持する。カートリッジ挿入孔26に保持されたスタンプカートリッジ1のスタンプ先端7は、インク流通管12の下端12bよりも下方位置まで下貯留室30へ進入し、下貯留室30のインクに浸る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マーキングトルクレンチに着脱自在に装着されて使用されるスタンプカートリッジのインク充填装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの生産ラインでは、ボルトやナットなどの締結部品を締め付けた際に、締め付け済を示すために塗料をボルトの頭部などに塗布する場合があり、規定のトルクで締め付けられた締結部品に対して、自動的にマーキングを行うマーキング機能付きトルクレンチ(以下、マーキングトルクレンチを称する)が知られている。マーキングトルクレンチの内部にはスタンプカートリッジが装着され、規定のトルクで締め付けられた瞬間に、スタンプカートリッジのスタンプ先端が締結部品に押し付けられ、印がスタンプされる。
【0003】
スタンプに使用されるインクは、スタンプカートリッジの内部の中綿に含有され、使用回数及び時間によって減少する。このため、スタンプカートリッジ内のインクを定期的に補充する必要がある。インクの補充は、スタンプカートリッジを分解し、スポイトや注射器などを用いて中綿に直接インクを注入することにより行うことができる。
【0004】
【特許文献1】実開昭57−189780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、スタンプカートリッジを分解して中綿に直接インクを注入する方法では、インクの補充作業が煩雑であり、多数のスタンプカートリッジにインクを補充する場合、作業に長時間を要する。また、スタンプカートリッジ間で使用回数(使用頻度)が相違していると、インクの減少量も相違するため、インクを定期的に補充する場合、各スタンプカートリッジに対して適正量のインクを補充することが難しい。また、インクの補充量が中綿の吸収許容量を超えてしまうと、インクが溢れて作業者の手やカートリッジ本体が汚れてしまう。さらに、スポイトや注射器を中綿に直接押し当ててインクを注入するため、中綿を損傷させてしまう可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、使用頻度が相違する複数のスタンプカートリッジに対して、中綿を損傷させることなく、簡単な作業によって適正量のインクを同時に補充することが可能なマーキングトルクレンチのスタンプカートリッジのインク充填装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、本発明の第1の態様は、中綿を収容するカートリッジ本体と、中綿に接触する一端側の内端からカートリッジ本体の外部で露出する他端側のスタンプ先端まで延びるスタンプ芯と、を有し、マーキングトルクレンチに着脱自在に装着されるスタンプカートリッジのインク充填装置であって、インクタンクと、インク補充器と、インク流通管と、バルブとを備える。
【0008】
インクタンクは、インクを貯留するための上貯留室を区画するタンク本体と、タンク本体の上部に形成されて上貯留室に貫通するインク供給孔と、タンク本体の下部に形成されて上貯留室に貫通するインク流下孔と、インク供給孔を開閉するタンク開閉部材と、を有する。
【0009】
インク補充器は、インクタンクの下方に配置され、インクを貯留するための下貯留室を区画する補充器本体と、補充器本体の上部に形成されて下貯留室に貫通するインク流入孔と、補給器本体に形成されて下貯留室に貫通する複数のカートリッジ挿入孔と、を有する。
【0010】
インク流通管は、インクタンクのインク流下孔を介して上貯留室と連通する上端と、インク補充器のインク流入孔に挿入されて下貯留室と連通する下端と、を有する。
【0011】
バルブは、インク流通管を開閉する。
【0012】
カートリッジ挿入孔は、スタンプ先端から挿入されたスタンプカートリッジを、所定の姿勢で保持し、カートリッジ挿入孔に保持されたスタンプカートリッジのスタンプ先端は、インク流通管の下端よりも下方位置まで下貯留室へ進入する。
【0013】
上記構成を備えたインク充填装置を使用する場合、まず、バルブを閉じた状態で、インクタンクのタンク開閉部材を開いてインク供給孔から上貯留室にインクを供給する。インクの供給が終了したらタンク開閉部材を閉じ、続いてバルブを開ける。バルブの開放により、上貯留室のインクがインク流通管を通ってインク補充器の下貯留室に流下する。下貯留室のインクの液面がインク流通管の下端に達すると、上貯留室から下貯留室へのインクの流下が止まり、充填可能初期状態となる。
【0014】
次に、スタンプカートリッジをスタンプ先端からカートリッジ挿入孔に挿入し、カートリッジ挿入孔に保持させることにより、スタンプカートリッジへのインクの補充を行う。インクの補充は、カートリッジ挿入孔の数を上限として、複数のスタンプカートリッジに対して同時に行うことができる。スタンプカートリッジがカートリッジ挿入孔に保持された状態で、スタンプ先端は、インク流通管の下端よりも下方位置まで進入して下貯留室のインクに浸かる。スタンプ先端がインクに浸かると、毛細管現象によってスタンプ先端から内端へ向かってスタンプ芯内をインクが移動し、中綿にインクが補充される。中綿のインク含有量が適正量に達すると、毛細管現象によるインクの移動が止まり、インクの補充が完了する。
【0015】
スタンプカートリッジへのインクの補充によって下貯留室のインクの液面が下がり、インク流通管の下端が露出すると、下貯留室の空気がインク流通管を通って上貯留室へ移動するとともに、上貯留室のインクがインク流通管を通って下貯留室へ流下し、上記充填可能初期状態が維持される。
【0016】
なお、上貯留室のインクが減少した場合には、上記充填可能初期状態の設定時と同様に、バルブを閉じた状態で、インクタンクのタンク開閉部材を開いてインク供給孔から上貯留室にインクを供給し、インクの供給が終了したらタンク開閉部材を閉じ、続いてバルブを開ける。
【0017】
本発明の第2の態様は、上記スタンプカートリッジのインク充填装置であって、インクタンクと、インク補充器と、インク流通管と、空気流通管と、バルブとを備える。
【0018】
インクタンクは、インクを貯留するための上貯留室を区画するタンク本体と、タンク本体の上部に形成されて上貯留室に貫通するインク供給孔と、タンク本体の下部に形成されて上貯留室に貫通するインク流下孔と、タンク本体の下部に形成されて上貯留室に貫通する上空気流通孔と、インク供給孔を開閉するタンク開閉部材と、を有する。
【0019】
インク補充器は、インクタンクの下方に配置され、インクを貯留するための下貯留室を区画する補充器本体と、補充器本体の上部に形成されて下貯留室に貫通するインク流入孔と、補充器本体の上部に形成されて下貯留室に貫通する下空気流通孔と、補給器本体に形成されて下貯留室に貫通する複数のカートリッジ挿入孔と、を有する。
【0020】
インク流通管は、インクタンクのインク流下孔を介して上貯留室と連通する上端と、インク補充器のインク流入孔に挿入されて下貯留室と連通する下端と、を有する。
【0021】
空気流通管は、インクタンクの上空気流通孔に挿入されて上貯留室と連通する上端と、インク補充器の下空気流通孔に挿入されて下貯留室と連通する下端と、を有する。
【0022】
バルブは、インク流通管を開閉する。
【0023】
空気流通管の上端は、インク流通管の上端よりも上方位置まで上貯留室へ進入し、インク流通管の下端は、空気流通管の下端よりも下方位置まで下貯留室へ進入する。
【0024】
カートリッジ挿入孔は、スタンプ先端から挿入されたスタンプカートリッジを、所定の姿勢で保持し、カートリッジ挿入孔に保持されたスタンプカートリッジのスタンプ先端は、空気流通管の下端よりも下方位置まで下貯留室へ進入する。
【0025】
上記構成を備えたインク充填装置を使用する場合、まず、バルブを閉じた状態で、インクタンクのタンク開閉部材を開いてインク供給孔から上貯留室にインクを供給する。なお、インクの供給は、インクの液面が空気流通管の上端に達する前に終了する。インクの供給が終了したらタンク開閉部材を閉じ、続いてバルブを開ける。バルブの開放により、上貯留室のインクがインク流通管を通ってインク補充器の下貯留室に流下する。下貯留室のインクの液面が空気流通管の下端に達すると、上貯留室から下貯留室へのインクの流下が止まり、充填可能初期状態となる。
【0026】
次に、スタンプカートリッジをスタンプ先端からカートリッジ挿入孔に挿入し、カートリッジ挿入孔に保持させることにより、スタンプカートリッジへのインクの補充を行う。インクの補充は、カートリッジ挿入孔の数を上限として、複数のスタンプカートリッジに対して同時に行うことができる。スタンプカートリッジがカートリッジ挿入孔に保持された状態で、スタンプ先端は、空気流通管の下端よりも下方位置まで進入して下貯留室のインクに浸かる。スタンプ先端がインクに浸かると、毛細管現象によってスタンプ先端から内端へ向かってスタンプ芯内をインクが移動し、中綿にインクが補充される。中綿のインク含有量が適正量に達すると、毛細管現象によるインクの移動が止まり、インクの補充が完了する。
【0027】
スタンプカートリッジへのインクの補充によって下貯留室のインクの液面が下がり、空気流通管の下端が露出すると、下貯留室の空気が空気流通管を通って上貯留室へ移動するとともに、上貯留室のインクがインク流通管を通って下貯留室へ流下し、上記充填可能初期状態が維持される。
【0028】
なお、上貯留室のインクが減少した場合には、上記充填可能初期状態の設定時と同様に、バルブを閉じた状態で、インクタンクのタンク開閉部材を開いてインク供給孔から上貯留室にインクを供給し、インクの供給が終了したらタンク開閉部材を閉じ、続いてバルブを開ける。
【0029】
このように、上記第1及び第2の態様によれば、使用頻度が相違する複数のスタンプカートリッジであっても、各スタンプカートリッジをインク補充器のカートリッジ挿入孔にそれぞれ挿入しておくという極めて簡単な作業によって、適正量のインクを確実に補充することができる。
【0030】
また、下貯留室のインクの使用量(スタンプカートリッジへの補充量)に応じて、インク流通管を介して上貯留室から下貯留室へインクが適宜補充されるので、上貯留室のインクの量が下貯留室への流下が不能となる下限量に達するまでの間は上貯留室へのインクの供給を行う必要がなく、インクの補充作業に関与する時間を大幅に削減することができる。
【0031】
また、中綿にスポイトや注射器などの冶具を直接押し当てる必要がないため、中綿を損傷させてしまうことがない。
【0032】
なお、カートリッジ挿入孔は、スタンプ先端から挿入されたスタンプカートリッジを、ほぼ垂直に起立した姿勢で保持してもよく、また下貯留室に向かって斜め下方に傾斜した姿勢で保持してもよい。スタンプカートリッジが傾斜した姿勢で保持される場合、下方のスタンプ先端から上方の中綿へのインクの移動に対する重力の影響を緩和することができ、インク充填時間の短縮化を図ることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、使用頻度が相違する複数のスタンプカートリッジに対して、中綿を損傷させることなく、簡単な作業によって適正量のインクを同時に補充することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本実施形態のインク充填装置によってインクの補充が行われるスタンプカートリッジを模式的に示す断面図、図2は本実施形態のインク充填装置を模式的に示す断面図、図3は図2のインク充填装置においてバルブを開けた状態を示す側面図である。なお、図3では、インク補充器とスタンプカートリッジとを断面で示している。
【0035】
図1に示すように、スタンプカートリッジ1は、カートリッジ本体2と中綿3とスタンプ芯4とカートリッジキャップ5とを有する。カートリッジ本体2は中空形状を有し、その内部に中綿3が収容されている。スタンプ芯4の一端側はカートリッジ本体2の一端側に挿入されて保持され、その先端(内端)6は中綿に接触している。スタンプ芯4の他端側はカートリッジ本体2から先端(スタンプ先端)7まで直線状に延びて露出している。カートリッジキャップ5は、カートリッジ本体2の他端側を閉止する。
【0036】
中綿3は、インクを吸収して保持する機能を有する素材によって形成されている。また、スタンプ芯4は、毛細管現象によってインクを移動させる機能を有する素材によって形成されている。スタンプ芯4の素材としては、例えば、フェルトや、スポンジ状の多孔質ゴムの他、筆状に束ねられた細長い合成樹脂などが好適である。
【0037】
スタンプカートリッジ1は、規定のトルクで締め付けられた締結部品に対して自動的にマーキングを行うマーキングトルクレンチに着脱自在に装着され、規定のトルクで締め付けられた瞬間に、スタンプ先端7が締結部品に押し付けられ、中綿3から毛細管現象によって移動したインクにより印がスタンプされる。
【0038】
図2及び図3に示すように、インク充填装置10は、インクタンク11とインク補充器12とインク流通管13とバルブ14とを備える。
【0039】
インクタンク11のタンク本体15は、上壁部19と底壁部20と周壁部21とを有し、これらの内面はインクを貯留するための上貯留室22を区画する。なお、本実施形態では、タンク本体15の周壁部21を、上貯留室22のインクの量を外部から視認できるように、透過性を有する樹脂やガラスによって形成しているが、不透明な素材によって形成してもよい。
【0040】
タンク本体15の上壁部19には、インク供給孔16を区画する円筒状のキャップ装着部23が突設され、インク供給孔16は、タンク本体15の上部で上貯留室22に貫通する。開閉キャップ(タンク開閉部材)18は、キャップ装着部23に着脱自在に装着される。例えば、キャップ装着部23の外周面と開閉キャップ18の周壁の内周面とに、相互に螺合する雄ネジ部(図示省略)と雌ネジ部(図示省略)とが形成されている場合、開閉キャップ18は、閉方向に回転することによってキャップ装着部23に装着され、開方向(開方向の反対方向)に回転させることによってキャップ装着部23から取り外される。開閉キャップ18は、キャップ装着部23に装着された状態でインク供給孔16を閉止し、キャップ装着部23から取り外された状態でインク供給孔16を開放する。タンク本体15の底壁部20には、上貯留室22に貫通するインク流下孔17が形成されている。
【0041】
インク補充器12は、インクタンク11の下方に配置されている。インク補充器12の補充器本体24は、上壁部27と周壁部28と底壁部29とを有し、これらの内面はインクを貯留するための下貯留室30を区画する。補充器本体24の上壁部27には、下貯留室30に貫通するインク流入孔25が形成されている。補充器本体24の周壁部28には、下貯留室30に向かって斜め下方に延びて下貯留室30に貫通する複数のカートリッジ挿入孔26が形成されている。カートリッジ挿入孔26は、スタンプ先端7から挿入されたスタンプカートリッジ1のスタンプ芯4を、下貯留室30に向かって斜め下方に傾斜した姿勢で保持する。なお、本実施形態では、スタンプ芯4を傾斜した姿勢で保持しているが、カートリッジ挿入孔26がスタンプカートリッジ1を保持する角度θは、0°<θ≦90°の範囲であればよく、例えば、ほぼ垂直に起立した姿勢で保持してもよい。
【0042】
インク流通管12の上端12aは、タンク本体15のインク流下孔17に嵌着されて上貯留室22と連通し、下端12bは、補充器本体24のインク流入孔25を挿通して下貯留室30へ進入している。カートリッジ挿入孔26に保持されたスタンプカートリッジ1のスタンプ先端7は、インク流通管12の下端12bよりも下方位置まで下貯留室30へ進入する。
【0043】
バルブ14は、インク流通管12の中間部に設けられ、バルブ操作部31の上下動に応じてインク流通管12の内部管路を開閉する。バルブ操作部31が下方へ回転移動すると、インク流通管12が閉止され、バルブ操作部31が上方へ回転移動すると、インク流通管12が開放される。
【0044】
タンク本体15は、補充器本体24から延びる支持枠32に固定されている。なお、インク流通管12がインクタンク11を支持するために充分な強度を有する場合、支持枠32は省略可能である。
【0045】
インクタンク11の上方には、カバー33が配置されている。カバー33は、タンク本体11に装着された開閉キャップ18を覆う下方の禁止位置(図2に示す)と、開閉キャップ18を開放する上方の許容位置(図3に示す)との間で移動自在に支持枠32に支持されている。カバー33が禁止位置に配置された状態では、開閉キャップ18がカバー33によって覆われるため、開閉キャップ33を容易に開閉することができない。なお、開閉キャップ18の移動方向は、上下方向に限定されるものではなく、回転方向や斜め方向であってもよい。
【0046】
カバー33は、リンク部材(カバー移動手段)34を介してバルブ操作部31に連結されている。リンク部材34は、バルブ14の開動作(バルブ操作部34の下方への回転移動)に連動してカバー33を禁止位置に移動させ、バルブ14の閉動作(バルブ操作部34の上方への回転移動)に連動してカバー33を許容位置に移動させる。
【0047】
このようなインク充填装置10を使用する場合、まず、バルブ14を閉じた状態で、インクタンク11の開閉キャップ33を開けてインク供給孔16から上貯留室22にインクを供給する。インク22の供給が終了したら開閉キャップ33を閉じ、続いてバルブ14を開ける。バルブ14の開放により、上貯留室22のインクがインク流通管12を通ってインク補充器12の下貯留室30に流下する。下貯留室30のインクの液面がインク流通管12の下端12bに達すると、上貯留室22から下貯留室30へのインクの流下が止まり、充填可能初期状態となる。
【0048】
なお、開閉キャップ33を開ける際にバルブ14を閉じるのは、バルブ14を開放した状態で開閉キャップ33を開けてしまうと、上貯留室22のインクがインク流通管12を介して無制限に下貯留室30に流下し、カートリッジ挿入孔26からインクが溢れてしまうためである。
【0049】
次に、スタンプカートリッジ1をスタンプ先端7からカートリッジ挿入孔26に挿入し、スタンプ芯4をカートリッジ挿入孔26に保持させることにより、スタンプカートリッジ1へのインクの補充を行う。インクの補充は、カートリッジ挿入孔26の数を上限として、複数のスタンプカートリッジ1に対して同時に行うことができる。スタンプカートリッジ1がカートリッジ挿入孔26に保持された状態で、カートリッジ挿入孔26はスタンプカートリッジ1によって概ね塞がれ、スタンプ先端7はインク流通管12の下端12bよりも下方位置まで進入して下貯留室30のインクに浸かる。スタンプ先端7がインクに浸かると、毛細管現象によってスタンプ先端7から内端6へ向かってスタンプ芯4内をインクが移動し、中綿3にインクが補充される。中綿3のインク含有量が適正量に達すると、毛細管現象によるインクの移動が止まり、インクの補充が完了する。
【0050】
スタンプカートリッジ1へのインクの補充によって下貯留室30のインクの液面が下がり、インク流通管12の下端12bが露出すると、下貯留室30の空気がインク流通管12を通って上貯留室22へ移動するとともに、上貯留室22のインクがインク流通管12を通って下貯留室30へ流下し、上記充填可能初期状態が維持される。
【0051】
なお、本実施形態では、インク流通管12によって下貯留室30のインクの液面の位置を所定位置(インク流通管12の下端12bとほぼ同じ位置)に維持させているため、インク流通管12の管路全域の中の最小径を、下端12bが露出した際の空気の移動を許容する大きさ(最小限界値)以上に設定する必要がある。この最小限界値は、インクの特性(粘度や表面張力の経時変化など)に応じて規定される。また、最小径を最小限界値よりも過大に設定しておけば、下端12bが露出した際に空気を確実に移動させることができるが、この場合、下貯留室30に流下する単位時間あたりのインクの量も増大するため、この流下時に下貯留室30のインクの液面が波を打ってしまい、スタンプ芯4が必要以上にインクに浸かって汚れてしまう可能性が生じる。また、インク流通管12の最小径は、インクの特性に応じて規定される最小限界値を超えて、且つ必要以上に過大とならない大きさに設定されている。
【0052】
また、上貯留室のインクが減少した場合には、上記充填可能初期状態の設定時と同様に、バルブ14を閉じた状態で、インクタンク11の開閉キャップ18を開けてインク供給孔16から上貯留室22にインクを供給し、インクの供給が終了したら開閉キャップ18を閉じ、続いてバルブ14を開ける。
【0053】
本実施形態によれば、使用頻度が相違する複数のスタンプカートリッジ1であっても、各スタンプカートリッジ1をインク補充器12のカートリッジ挿入孔26にそれぞれ挿入しておくという極めて簡単な作業によって、適正量のインクを確実に補充することができる。
【0054】
下貯留室30のインクの使用量(スタンプカートリッジ1への補充量)に応じて、インク流通管12を介して上貯留室22から下貯留室30へインクが適宜補充されるので、上貯留室22のインクの量が下貯留室30への流下が不能となる下限量に達するまでの間は上貯留室22へのインクの供給を行う必要がなく、インクの補充作業に関与する時間を大幅に削減することができる。
【0055】
中綿3にスポイトや注射器などの冶具を直接押し当てる必要がないため、中綿3を損傷させてしまうことがない。
【0056】
インク充填中のスタンプカートリッジ1(スタンプ芯7)は、下貯留室30に向かって斜め下方に傾斜した姿勢に保持される。このため、下方のスタンプ先端7から上方の中綿3へのインクの移動に対する重力の影響を緩和することができ、インク充填時間の短縮化を図ることができる。
【0057】
また、バルブ14が開放されているときは、カバー33が禁止位置に配置されるため、開閉キャップ18を容易に開けることができず、開閉キャップ18を開けるためには、バルブ14を閉じて、カバー33を禁止位置から許容位置へ移動させなければならない。従って、開閉キャップ33を開ける際に、誤ってバルブ14を先に開けてカートリッジ挿入孔26からインクを流出させてしまうことを未然に防止することができる。
【0058】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図4は本実施形態のインク充填装置を模式的に示す断面図、図5は図4のインク充填装置においてバルブを開けた状態を示す側面図である。なお、図5では、インク補充器とスタンプカートリッジとを断面で示している。また、第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0059】
図4及び図5に示すように、インク充填装置40は空気流通管41を備える。タンク本体15の底壁部20には、上貯留室22に貫通する上空気流通孔42が形成され、補充器本体24の上壁部27には、下貯留室30に貫通する下空気流通孔43が形成されている。空気流通管41の上端41aは、タンク本体15の上空気孔42に挿入され、インク流通管12の上端12aよりも上方位置となる上貯留室22の上部まで進入し、上貯留室22と連通する。空気流通管41の下端41bは、補充器本体24の下空気孔43に挿入され、下貯留室30の上部へ進入し、下貯留室30と連通する。インク流通管12の下端12bは、空気流通管41の下端41bよりも下方位置まで下貯留室30へ進入する
本実施形態では、上記第1実施形態と異なり、空気流通管41によって下貯留室30のインクの液面の位置を所定位置に維持させている。すなわち、下貯留室30にインクが無く、上貯留室22にインクが供給された状態で、開閉キャップ33が閉じられ、バルブ14が開けられると、上貯留室22のインクがインク流通管12を通ってインク補充器12の下貯留室30に流下する。そして、下貯留室30のインクの液面が空気流通管41の下端41bに達すると、上貯留室22から下貯留室30へのインクの流下が止まり、充填可能初期状態となる。また、インクの使用によって空気流通管41の下端41bが露出すると、下貯留室30の空気が空気流通管41を通って上貯留室22へ移動するとともに、上貯留室22のインクがインク流通管12を通って下貯留室30へ流下し、上記充填可能初期状態が維持される。
【0060】
従って、上記第1実施形態のように、インク流通管12の最小径を、最小限界値を考慮して設定する必要がなく、下貯留室30のインクの液面の波打ち現象を確実に抑制することができる。
【0061】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0062】
例えば、中綿3が保持できるインクの最大量やインクの補充速度は、スタンプカートリッジ1の角度が水平方向へ変化するほど増大するため、上記第1及び第2実施形態において、カートリッジ挿入孔26が保持するスタンプカートリッジ1の角度を変更可能に構成し、スタンプカートリッジ1が装着されるマーキングトルクレンチの使用頻度などの条件に応じて、スタンプカートリッジ1の保持角度を適宜設定してもよい。
【0063】
また、リンク部材34に代えて又は加えて、上下方向に延びるガイドに沿って上下動するスライダやカムなどにより、カバー33を移動させてもよい。
【0064】
また、上記第2実施形態において、空気流通管41を上下方向に移動自在に構成し、下貯留室30のインク量を適宜変更して設定してもよい。
【0065】
また、複数のカートリッジ挿入孔26を有しインク流入孔25や下空気流通孔42を有さない補充器本体(以下、単体の補充器本体と称する)を1又は複数用意し、インク充填装置10の補充器本体24と単体の補充器本体とを同一平面上に配置し、それらの下貯留室30同士を連結管によって連通させることにより、単体の補充器本体のみを追加するだけで、同時に補充可能なスタンプカートリッジ1の本数を増やすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のインク充填装置は、マーキングトルクレンチに装着されるスタンプカートリッジのインク補充に広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】第1及び第2実施形態のインク充填装置によってインクの補充が行われるスタンプカートリッジを模式的に示す断面図である。
【図2】第1実施形態のインク充填装置を模式的に示す断面図である。
【図3】図2のインク充填装置においてバルブを開けた状態を示す側面図である。
【図4】第2実施形態のインク充填装置を模式的に示す断面図である。
【図5】図4のインク充填装置においてバルブを開けた状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0068】
1:スタンプカートリッジ
2:カートリッジ本体
3:中綿
4:スタンプ芯
6:スタンプ芯の内端
7:スタンプ芯のスタンプ先端
10,40:インク充填装置
11:インクタンク
12:インク補充器
13:インク流通管
13a:インク流通管の上端
13b:インク流通管の下端
14:バルブ
15:タンク本体
16:インク供給孔
17:インク流下孔
18:開閉キャップ(タンク開閉部材)
22:上貯留室
24:補充器本体
25:インク流入孔
26:カートリッジ挿入孔
30:下貯留室
31:バルブ操作部
33:カバー
34:リンク部材(カバー移動手段)
41:空気流通管
41a:空気流通管の上端
41b:空気流通管の下端
42:上空気流通孔
43:下空気流通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中綿を収容するカートリッジ本体と、前記中綿に接触する一端側の内端から前記カートリッジ本体の外部で露出する他端側のスタンプ先端まで延びるスタンプ芯と、を有し、マーキングトルクレンチに着脱自在に装着されるスタンプカートリッジのインク充填装置であって、
インクを貯留するための上貯留室を区画するタンク本体と、このタンク本体の上部に形成されて前記上貯留室に貫通するインク供給孔と、前記タンク本体の下部に形成されて前記上貯留室に貫通するインク流下孔と、前記インク供給孔を開閉するタンク開閉部材と、を有するインクタンクと、
前記インクタンクの下方に配置され、インクを貯留するための下貯留室を区画する補充器本体と、この補充器本体の上部に形成されて前記下貯留室に貫通するインク流入孔と、前記補給器本体に形成されて前記下貯留室に貫通する複数のカートリッジ挿入孔と、を有するインク補充器と、
前記インクタンクの前記インク流下孔を介して前記上貯留室と連通する上端と、前記インク補充器の前記インク流入孔に挿入されて前記下貯留室と連通する下端と、を有するインク流通管と、
前記インク流通管を開閉するバルブと、を備え
前記カートリッジ挿入孔は、前記スタンプ先端から挿入された前記スタンプカートリッジを、所定の姿勢で保持し、
前記カートリッジ挿入孔に保持された前記スタンプカートリッジの前記スタンプ先端は、前記インク流通管の下端よりも下方位置まで前記下貯留室へ進入する
ことを特徴とするマーキングトルクレンチのスタンプカートリッジのインク充填装置。
【請求項2】
中綿を収容するカートリッジ本体と、前記中綿に接触する一端側の内端から前記カートリッジ本体の外部で露出する他端側のスタンプ先端まで延びるスタンプ芯と、を有し、マーキングトルクレンチに着脱自在に装着されるスタンプカートリッジのインク充填装置であって、
インクを貯留するための上貯留室を区画するタンク本体と、このタンク本体の上部に形成されて前記上貯留室に貫通するインク供給孔と、前記タンク本体の下部に形成されて前記上貯留室に貫通するインク流下孔と、前記タンク本体の下部に形成されて前記上貯留室に貫通する上空気流通孔と、前記インク供給孔を開閉するタンク開閉部材と、を有するインクタンクと、
前記インクタンクの下方に配置され、インクを貯留するための下貯留室を区画する補充器本体と、この補充器本体の上部に形成されて前記下貯留室に貫通するインク流入孔と、前記補充器本体の上部に形成されて前記下貯留室に貫通する下空気流通孔と、前記補給器本体に形成されて前記下貯留室に貫通する複数のカートリッジ挿入孔と、を有するインク補充器と、
前記インクタンクの前記インク流下孔を介して前記上貯留室と連通する上端と、前記インク補充器の前記インク流入孔に挿入されて前記下貯留室と連通する下端と、を有するインク流通管と、
前記インクタンクの前記上空気流通孔に挿入されて前記上貯留室と連通する上端と、前記インク補充器の前記下空気流通孔に挿入されて前記下貯留室と連通する下端と、を有する空気流通管と、
前記インク流通管を開閉するバルブと、を備え
前記空気流通管の上端は、前記インク流通管の上端よりも上方位置まで前記上貯留室へ進入し、
前記インク流通管の下端は、前記空気流通管の下端よりも下方位置まで前記下貯留室へ進入し、
前記カートリッジ挿入孔は、前記スタンプ先端から挿入された前記スタンプカートリッジを、所定の姿勢で保持し、
前記カートリッジ挿入孔に保持された前記スタンプカートリッジの前記スタンプ先端は、前記空気流通管の下端よりも下方位置まで前記下貯留室へ進入する
ことを特徴とするマーキングトルクレンチのスタンプカートリッジのインク充填装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のインク充填装置であって、
前記タンク開閉部材を覆う禁止位置と、前記タンク開閉部材を開放する許容位置との間で移動自在なカバーと、
前記バルブの開動作に連動して前記カバーを前記禁止位置に移動させ、前記バルブの閉動作に連動して前記カバーを前記許容位置に移動させるカバー移動手段と、を備えた
ことを特徴とするマーキングトルクレンチのスタンプカートリッジのインク充填装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れかに記載のインク充填装置であって、
前記カートリッジ挿入孔は、前記スタンプカートリッジを、前記下貯留室に向かって斜め下方に傾斜した姿勢で保持する
ことを特徴とするマーキングトルクレンチのスタンプカートリッジのインク充填装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−155311(P2010−155311A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335346(P2008−335346)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】