説明

マーキングトルクレンチ

【課題】部品点数を低減でき、且つ全体として小型化及び軽量化を図ることが可能なマーキングトルクレンチの提供。
【解決手段】トルクレンチヘッド9は、ソケット3の装着の際にソケット3から突出するインクカートリッジ6の他端側の進入を許容する貫通孔17を有する。マグネット上5は、トグル機構12の動作によるトルクレンチヘッド9とトルクレンチグリップ8との相対変位の増加に応じて、通常位置から動作位置へ移動する。マグネット上5の動作位置は、装着されたソケット3から突出するマグネット下47の端面と対向する位置に設定される。動作位置のマグネット上5は、マグネット下47との間で発生する反発力により、付勢力に抗してインクカートリッジ6をマーキング位置へ移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マーキングトルクレンチに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ねじの締付作業時に使用するトルクレンチのトグル動作を利用して、被締付けねじの締付終了時に、締付けねじにマーキングを行なうマーカー付きトルクレンチが開示されている。
【0003】
このマーカー付きトルクレンチは、ヘッド内に設けられているラチェットを有するラチェット筒と、ラチェット筒の下端に形成されている4角軸部に結合保持された筒状アダプタと、筒状アダプタの下端部に嵌合されているソケットとを備えている。ナットのねじ締めを行うとき、ソケットをナットに嵌合し、トルクレンチ本体を往復動作させることで、ラチェット筒、筒状のアダプタを介してソケットが回転し、ナットの締付がなされ、その締付トルクが所定値に達すればトルクレンチ本体内のトグルが動作し、ラチェット筒と筒状のアダプタの内部に挿通されているマーカーロッドの下端に取付けられたマーカーがボルトの先端に押し当てられて、ねじ締めが完了されたことを印すマーキングがなされる。
【0004】
【特許文献1】特許第3477221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のマーカー付きトルクレンチでは、ヘッドとソケットとの間にラチェット筒とアダプタとが設けられているため、ヘッドに直接ソケットが装着されている場合に比べて、ヘッドの上端からソケットの下端までの距離が増大する。従って、被締付部材よりも上方のスペースが比較的狭い場合には、被締付部材の周囲とトルクレンチ本体とが干渉してしまい、上記マーカー付きトルクレンチを使用できない可能性がある。
【0006】
また、被締付部材とトルクレンチ本体との距離が、ラチェット筒とアダプタとの分だけ離れてしまうため、被締付部材を大きな締付トルクで締め付ける場合には不向きである。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、部品点数を低減でき、且つ全体として小型化及び軽量化を図ることが可能なマーキングトルクレンチの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明にかかるマーキングトルクレンチは、ソケットと、マーキング部材と、付勢部材と、トルクレンチと、第2の磁性体と、を備える。
【0009】
ソケットは、被締結部材と係合する一端側の係合凹部と、他端側の取付部と、係合凹部と他端側とを貫通する貫通孔と、を有する
マーキング部材は、インクを保持する一端側のスタンプ先端と他端側の第1の磁性体とを有し、ソケットの貫通孔に挿入され、係合凹部から最も離れる初期位置と係合凹部に最も近づくマーキング位置との間で貫通孔の形成方向に沿って移動自在にソケットに支持され、初期位置では、第1の磁性体の他端側の端面がソケットの他端側から突出し、マーキング位置では、ソケットの係合凹部と係合する被締結部材にスタンプ先端が当接してインクを塗布する。付勢部材は、ソケットに支持されたマーキング部材を初期位置に付勢する。
【0010】
トルクレンチは、ソケットの取付部が着脱自在に装着されるヘッド部と、ヘッド部にトグル機構を介して取り付けられた操作部と、を有し、被締結部材に対する操作部からの締付力が所定値に達したときにトグル機構が動作して操作部がヘッド部に対して変位する。
【0011】
第2の磁性体は、第1の磁性体と対向したときに反発力を生じさせる磁極を有し、トグル機構の動作によるヘッド部と操作部との相対変位の増加に応じて、通常位置から動作位置へ移動する。
【0012】
ヘッド部は、ソケットの装着の際にソケットから突出するマーキング部材の他端側の進入を許容するマーキング部材挿入孔を有する。第2の磁性体の動作位置は、装着されたソケットから突出する第1の磁性体の端面と対向する位置に設定され、通常位置は、第1の磁性体の端面と対向しない位置に設定される。動作位置の第2の磁性体は、第1の磁性体との間で発生する反発力により、付勢力に抗してマーキング部材をマーキング位置へ移動させる。
【0013】
上記構成では、マーキング部材がソケットの貫通孔に挿入され、付勢部材によって初期位置に付勢された状態でソケットに支持されている。被締付部材の締付作業時、操作者は、ソケットの取付部をヘッド部に装着する。ソケットの取付部がヘッド部に装着されたとき、マーキング部材がソケットの貫通孔内及びヘッド部のマーキング部材挿入孔内に位置するとともに、第2の磁性体が通常位置に設定されている。係合凹部に被締付部材を係合し、操作部を回転させて被締付部材を締め付けると、被締付部材に対する締付力が所定値に達してトグル機構が動作する。トグル機構が動作すると、操作部がヘッド部に対して変位し、このヘッド部と操作部との相対変位の増加に応じて、第2の磁性体が通常位置から動作位置へ移動してマーキング部材の他端側の第1の磁性体の端面と対向する。第2の磁性体が第1の磁性体の端面と対向すると、第2の磁性体と第1の磁性体との間で反発力が発生し、この反発力によってマーキング部材が付勢力に抗して初期位置からマーキング位置に移動して被締結部材にスタンプ先端が当接し、インクが塗布される。これにより、被締付部材を所定の締付力で締め付けたことを示すマーキングが被締付部材に対してなされるので、適切な締め付けがなされているか否かを目視で確認できる。
【0014】
また、ソケットがヘッド部に直接装着され、マーキング部材がソケットの貫通孔とヘッド部のマーキング部材挿入孔とに跨って移動するため、ソケット内部のみでマーキング部材を移動させる場合に比べて、ソケットの一端から他端までの距離の増大を抑えることができる。従って、係合凹部に係合された被締付部材(ソケットの一端)とトルクレンチ(ソケットの他端)との距離を短く設定することができ、被締付部材を比較的大きな締付トルクで締め付けることができる。
【0015】
また、第2の磁性体の動作位置への移動によってマーキング部材を移動させているため、ソケットの装着されているヘッド部の端部からソケットの装着されていないヘッド部の反対側の端部までの距離の増大を抑えることができ、結果として、ソケットの装着されていないヘッド部の反対側の端部とソケットの一端との距離を短く設定することができる。従って、被締付部材の周囲のスペースが比較的狭い場合であっても、被締付部材の周囲とトルクレンチとを干渉させずに、被締付部材に対してマーキングを行うことができる。
【0016】
さらに、ヘッド部に直接ソケットが装着されるため、ヘッド部とソケットとの間に他の部材を接続する場合に比べて、部品点数を低減できる。
【0017】
このように、ソケットをヘッド部に直接装着し、マーキング部材をソケットの貫通孔とヘッド部のマーキング部材挿入孔とに跨って移動させ、第2の磁性体の動作位置への移動によってマーキング部材を移動させることによって、部品点数を低減でき、且つ全体として小型化及び軽量化を図ることができる。
【0018】
また、マーキング部材を、第2の磁性体と反対の側からマーキング部材挿入孔に挿入する又は引き抜くことができるため、マーキング部材の挿入又は引き抜きの際に第2の磁性体が邪魔になることがない。従って、マーキング部材のマーキング部材挿入孔への挿入及びマーキング部材挿入孔からの取り出しを比較的簡単に行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、部品点数を低減でき、且つ小型化及び軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。図1はトグル機構が動作する前のマーキングトルクレンチを示す図、図2はトグル機構が動作したときのマーキングトルクレンチを示す図、図3はマーキングトルクレンチの一部断面図である。なお、以下の説明における上下方向は、図3中の上下を示している。
【0021】
図1〜図3に示すように、本実施形態にかかるマーキングトルクレンチ1は、トルクレンチ2と、略筒状のソケット3と、リンク機構4と、マグネット上(第2の磁性体)5と、インクカートリッジ(マーキング部材)6と、戻り用スプリング(付勢部材)7と、カバー49等を備えている。
【0022】
トルクレンチ2は、筒状のトルクレンチグリップ(操作部)8と、トルクレンチグリップ8の一端側に支軸8aによって回転可能に取り付けられて一部がトルクレンチグリップ8内に挿入されたトルクレンチヘッド(ヘッド部)9等を有している。
【0023】
トルクレンチグリップ8は、断面が略楕円形状の楕円筒部10と、断面が略円形状の円筒部11とを有する。楕円筒部10は、トルクレンチグリップ8の一端側に配置され、内部にトグル機構12が設けられている。
【0024】
トルクレンチヘッド9は、一端9a側に角ドライブ13を有する。トルクレンチヘッド9の他端側は、楕円筒部10内に挿入されてトグル機構12に連結されている。
【0025】
トグル機構12は、ボルト(被締付部材)14又はナットの締付作業時において、締付力が所定値に達するまでの間は、トルクレンチグリップ8とトルクレンチヘッド9との固定状態を保ち、締付力が所定値に達したときのトグル機構12の動作よってトルクレンチグリップ8とトルクレンチヘッド9との固定状態を解除する。トグル機構12によってトルクレンチグリップ8とトルクレンチヘッド9との固定状態が保たれているとき、トルクレンチヘッド9及びトルクレンチグリップ8は上方から視て略一直線上に並んでいる。一方、トグル機構12の動作によってトルクレンチグリップ8とトルクレンチヘッド9との固定状態が解除されたとき、トルクレンチグリップ8に加わる締付力に対してトルクレンチヘッド9が追従せず、支軸8aを中心として、トルクレンチグリップ8がトルクレンチヘッド9に対して一方向(図1中、時計回り)に所定角度変位する。
【0026】
角ドライブ13は、断面略円形状に形成されてトルクレンチヘッド9に支持される上端部15と、この上端部15から下方に延びてトルクレンチヘッド9の下端面よりも下方に突出した断面略角形状の下端部16とを有している。角ドライブ13は、トルクレンチグリップ8の軸方向に直交する方向に回転軸心を有する。この角ドライブ13の回転軸心上には貫通孔(マーキング部材挿入孔)17が設けられ、下端部16の外側面には、凹状の溝18が設けられている。
【0027】
ソケット3は、上端部(取付部)19と下端部20とこれら上端部19と下端部20とを貫通する貫通孔21とを有し、角ドライブ13の下端部16に着脱自在に連結されている。ソケット3は、上端部19の外径が下端部20の外径よりも大きく形成されている。これら上端部19の外側面と下端部20の外側面との間には、上端部19から下端部20へと順次縮径する傾斜面22が形成されている。上端部19には、スプリング当接部23と一対の貫通孔24とが設けられている。スプリング当接部23は、上端部19の内側面に突出する略環状の部材であり、ソケット3を角ドライブ13の下端部16に連結した状態で角ドライブ13の貫通孔17の下端に挿入される。下端部20には、ボルト14又はナットに係合する断面略角状の係合凹部25が設けられている。このソケット3と角ドライブ13とは、環状のスリーブ26によって連結される。
【0028】
スリーブ26は、ソケット3の上端部19に配置され、内径がソケット3の上端部19と略同じ大きさで形成されている。スリーブ26には、貫通孔24と対向する位置にスプリングプランジャ27が設けられている。
【0029】
スプリングプランジャ27は、スプリングによってスリーブ26の内側に付勢されるピン28を有している。ピン28は、先端が略円弧状に形成され、貫通孔24に挿入されてソケット3の内面から内側に向かって僅かに突出し、下端部16の溝18と係合している。すなわち、ソケット3は、ピン28と溝18との係合によって角ドライブ13に連結保持されている。
【0030】
次に、リンク機構4について説明する。
【0031】
リンク機構4は、固定ピボット29と、略平板状のリンクプレート30と、可動ピボット31と、リンクアーム32と、リンクアーム押さえ33等を有する。
【0032】
固定ピボット29は、略円柱状の下端部34と、この下端部34よりも外径の小さい略円柱状の上端部35とを有する断面略凸字状の部材であり、楕円筒部10の上面に固定されている。すなわち、固定ピボット29は、トグル機構12の動作に伴よるトルクレンチグリップ8とトルクレンチヘッド9との相対変位に応じて、トルクレンチグリップ8とともにトルクレンチヘッド9に対して相対移動する。
【0033】
リンクプレート30は、固定ピボット29よりもトルクレンチヘッド9側且つトルクレンチヘッド9及び楕円筒部10の上方に配置され、トルクレンチヘッド9の軸方向に沿って延びている。リンクプレート30の一端側は、トルクレンチヘッド9の上面に取付ネジ(図示せず)によって固定され、他端側は、楕円筒部10から上方に僅かに離れて配置されている。また、リンクプレート30の一端側には、角ドライブ13よりも大きい貫通孔36が形成されている。
【0034】
可動ピボット31は、略円柱状の下端部37と、下端部37よりも外径の小さい略円柱状の上端部38とを有し、リンクプレート30の他端側上面に固定されている。上端部38の外周面には、溝が設けられており、E形止め輪39が着脱自在に係止される。E形止め輪39は、外径が下端部37の外径よりも大きく形成されている。
【0035】
リンクアーム32は、略矩形板状の非磁性体(例えば、ステンレス)であり、可動ピボット31の上端部38の外径と略同じ大きさの可動ピボット用孔40と、固定ピボット29の上端部35の外径と略同じ大きさの固定ピボット用孔41とを有する。可動ピボット用孔40と固定ピボット用孔41とには、それぞれ可動ピボット31の上端部38と固定ピボット29の上端部35とが挿通され、リンクアーム32は、可動ピボット31によって回転自在に支持されている。リンクアーム32は、トルクレンチグリップ8の軸方向に対して傾いた非作動位置と、トルクレンチグリップ8の軸方向に沿って延びる作動位置との間を回転移動する。また、リンクアーム32の一端側には、リンクアーム押さえ33が配置されている。
【0036】
リンクアーム押さえ33は、潤滑性(他の部材に対する滑動性)のある材質(例えば、真鍮)で形成された略コ字状の部材である。リンクアーム押さえ33は、可動ピボット31よりもトルクレンチヘッド9側でリンクアーム32を跨ぐようにしてリンクプレート30の上面に固定され、リンクアーム32の上方移動を規制している。また、リンクアーム押さえ33の幅方向の端部は、リンクアーム32が非作動位置と作動位置との間で移動し得るようにリンクアーム32の回転移動を規制している。リンクアーム押さえ33の略中央部且つリンクアーム32の下方には支持ネジ42が配置されている。
【0037】
支持ネジ42は、リンクプレート30に対して固定されて、リンクアーム32を下方からスライド移動可能に支持している。すなわち、リンクアーム32は、可動ピボット31に係止されたE形止め輪39とリンクアーム押さえ33とによって上方移動が規制され、可動ピボット31の下端部37と支持ネジ42とによって下方移動が規制されている。
【0038】
マグネット上5は、表面に磁極が設けられた磁性体であり、リンクアーム32の一端部に固定されて下方に向かって突出している。マグネット上5は、角ドライブ13の回転軸心から離れた通常位置と角ドライブ13の回転軸心上に位置する動作位置との間を移動する。
【0039】
インクカートリッジ6は、略円筒形状のインクカートリッジ本体43と、調整ネジ44と、中継芯45と、中継芯45の下端に設けられたスタンプ(スタンプ先端)46と、マグネット下(第1の磁性体)47等で構成され、角ドライブ13の貫通孔17に挿入されている。インクカートリッジ6は、初期位置と初期位置よりも下方のマーキング位置との間を移動する。また、インクカートリッジ6は、ソケット3とともに角ドライブ13の下端側16から取り外しが可能である。
【0040】
インクカートリッジ本体43は、角ドライブ13内に配置されて角ドライブ13に対して上下移動可能である。インクカートリッジ本体43の上端部内側面には雌ネジが切られている。インクカートリッジ本体43は、インクを染み込ませた略円柱状の中綿48を内装している。
【0041】
調整ネジ44は、インクカートリッジ本体43の内径と略同じ大きさの外径を有する略円柱部材であり、外側面に雄ネジが切られている。調整ネジ44は、インクカートリッジ本体43の上端部に螺合され、インクカートリッジ本体43の上端を塞いでいる。調整ネジ44とインクカートリッジ本体43とは、調整ネジ44をインクカートリッジ本体43に対して時計回り又は反時計回りに回転させることで、インクカートリッジ本体43の下端から調整ネジ44の上端までの長さを調整可能である。
【0042】
中継芯45は、特に図示していないが、柔軟性及び耐座屈性を有する合成樹脂で形成された略円筒形状の外筒と、この外筒内に挿入されてインクを染み込ませた内芯とを有し、中綿48の下端部に挿通されている。内芯は、毛細管現象により中綿48のインクをスタンプ46に移動させる機能を有し、例えば、フェルトや繊維集束体や連通孔を有する合成樹脂等で形成されている。
【0043】
スタンプ46は、フェルト等の柔軟性を有する素材で形成されて内芯から供給されたインクを貯留している。スタンプ46及び内芯のインクは、毛細管現象により中綿48のインクを吸引することで補充される。
【0044】
マグネット下47は、マグネット上5と対向したときに反発力が生じるように、表面にマグネット上5と同極の磁極(例えば、マグネット上5がS極であればマグネット下47もS極)が設けられた磁性体であり、調整ネジ44の上端に接続されている。
【0045】
戻り用スプリング7は、角ドライブ13の貫通孔17に配置されている。戻り用スプリング7の上端と下端とは、インクカートリッジ6を角ドライブ13に挿通し、角ドライブ13にソケット3を連結した状態で、それぞれインクカートリッジ本体43の下端とスプリング当接部23とに当接している。すなわち、角ドライブ13にソケット3を連結した状態では、戻り用スプリング7によってインクカートリッジ6が支持されている。
【0046】
カバー49は、断面略コ字状の樹脂部材であり、リンクプレート30に固定されている。カバー49は、リンクプレート30に固定された状態でリンク機構4及びインクカートリッジ6等を上方から覆っている。なお、カバー49は、樹脂部材である場合に限定されず、アルミニウムや銅等の他の材質であってもよい。
【0047】
このように構成されたマーキングトルクレンチ1において、インクカートリッジ6が初期位置のとき、インクカートリッジ本体43の下端が戻りスプリング7に下方から支持され、マグネット下47が角ドライブ13の上端よりも上方に突出し、スタンプ46がボルト14よりも上方に離れて位置している。インクカートリッジ6がマーキング位置のとき、インクカートリッジ本体43が戻り用スプリング7を収縮させ、マグネット下47が角ドライブ13内に位置し、スタンプ46がボルト14に当接する。
【0048】
次に、本実施形態のマーキングトルクレンチ1の動作について説明する。
【0049】
まず、締付トルクがプレセットされたマーキングトルクレンチ1によりボルト14の締め付けを行う際、操作者は、ソケット3の係合凹部25にボルト14を係合する。このとき、トグル機構12によってトルクレンチグリップ8とトルクレンチヘッド9との固定状態が保たれている。この状態では、トルクレンチヘッド9及びトルクレンチグリップ8のそれぞれの中心軸が直線上に並び、リンクアーム32が非作動位置に設定されるとともにマグネット上5が通常位置に設定される。マグネット上5が通常位置にあるとき、マグネット上5とマグネット下47とがトルクレンチ2の幅方向に離れて配置されているため、マグネット上5とマグネット下47とは、互いに磁力の影響を受けない。さらに、インクカートリッジ6が戻り用スプリング7によって下方から支持されて初期位置に設定され、スタンプ46の下端がボルト14よりも上方に離れて配置されている。すなわち、ソケット3の係合凹部25にボルト14を係合した状態では、ボルト14に対してインクが塗布されない。
【0050】
次に、トルクレンチグリップ8を一方向(図1中、時計回り)に回転させてボルト14を締め付けていくと、締付力がプレセットされたトルクに達し、トグル機構12が動作する。トグル機構12が動作すると、トルクレンチグリップ8とトルクレンチヘッド9との固定状態が解除され、トルクレンチヘッド9に対してトルクレンチグリップ8が所定角度変位する。このトルクレンチヘッド9とトルクレンチグリップ8との相対移動に応じて、固定ピボット29が可動ピボット31を中心にしてリンクアーム32を一方向に所定角度回転させる。これにより、非作動位置のリンクアーム32がマーキング位置に達する。このリンクアーム32の回転移動に伴ってマグネット上5がマーキング位置に達し、マグネット下47の略真上でマグネット下47と対向する。なお、可動ピボット31と固定ピボット29との間の距離よりも、可動ピボット31とマグネット上5までの距離の方が大きくなるように設定しているため、可動ピボット31を中心としたリンクアーム32の回転移動によるマグネット上5の移動量は、リンクアーム32の他端の移動量よりも増大される。また、マグネット上5とマグネット下47とが対向したときのスタンプ46の位置は、調整ネジ44をインクカートリッジ本体43に対して時計回り又は反時計回りに回転させてインクカートリッジ本体43の下端から調整ネジ44の上端までの長さを調整することで、適宜変更可能である。
【0051】
マグネット上5とマグネット下47とが対向すると、互いに磁力が作用して反発力が生じる。このとき、リンクアーム32の上方移動が規制されているため上記反発力によってマグネット上5は移動せず、マグネット下47が戻り用スプリング7の付勢力に抗して下方移動する。このマグネット下47の移動に伴ってインクカートリッジ6が下方へ移動し、スタンプ46の下端がソケット3の係合凹部25内に突出してボルト14の上端部に接触し、ボルト14に対してプレセットされた締付トルクで締付作業を行ったことを示すマーキングがなされる。
【0052】
ボルト14の締め付けを終了すると、トグル機構12が動作前の状態(トルクレンチグリップ8とトルクレンチヘッド9との固定状態が保たれている状態)に戻り、トルクレンチヘッド9及びトルクレンチグリップ8が上方から視て略一直線上に並ぶ。そして、リンクアーム32が非作動位置に戻るとともにマグネット上5が通常位置に戻り、マグネット上5とマグネット下47との間に反発力が生じなくなる。これにより、インクカートリッジ6が戻り用スプリング7によって上方に付勢されて初期位置に戻る。
【0053】
なお、インクカートリッジ6は、角ドライブ13からソケット3を取り外すことにより、ソケット3に支持された状態で、角ドライブ13から取り出し可能である。
【0054】
本実施形態によれば、インクカートリッジ6がソケット3の貫通孔21に挿入され、戻り用スプリング7によって初期位置に付勢された状態でソケット3に支持されている。ボルト14の締付作業時、操作者は、ソケット3の上端部19を角ドライブ13の下端部16に装着する。ソケット3の上端部19が下端部16に装着されたとき、インクカートリッジ6がソケット3の貫通孔21内及び角ドライブ13の貫通孔17内に位置するとともに、マグネット上5が通常位置に設定されている。係合凹部25にボルト14を係合し、トルクレンチグリップ8を回転させてボルト14を締め付けると、ボルト14に対する締付力が所定値に達してトグル機構12が動作する。トグル機構12が動作すると、トルクレンチグリップ8がトルクレンチヘッド9に対して変位し、このトルクレンチヘッド9とトルクレンチグリップ8との相対変位の増加に応じて、マグネット上5が通常位置から動作位置へ移動してインクカートリッジ6のマグネット下47の端面と対向する。マグネット上5がマグネット下47の端面と対向すると、マグネット上5とマグネット下47との間で反発力が発生し、この反発力によってインクカートリッジ6が付勢力に抗して初期位置からマーキング位置に移動してボルト14にスタンプ46が当接し、インクが塗布される。これにより、ボルト14を所定の締付力で締め付けたことを示すマーキングがボルト14に対してなされるので、適切な締め付けがなされているか否かを目視で確認できる。
【0055】
また、ソケット3がトルクレンチヘッド9の角ドライブ13に直接装着され、インクカートリッジ6がソケット3の貫通孔21と角ドライブ13の貫通孔17とに跨って移動するため、ソケット3内部のみでインクカートリッジ6を移動させる場合に比べて、ソケット3の上端から下端までの距離の増大を抑えることができる。従って、係合凹部25に係合されたボルト(ソケット3の下端)14とトルクレンチ(ソケット3の上端)2との距離を短く設定することができ、ボルト14を比較的大きな締付トルクで締め付けることができる。
【0056】
また、マグネット上5の動作位置への移動によってインクカートリッジ6を移動させているため、ソケット3の装着されているトルクレンチヘッド9の下端部からソケット3の装着されていないトルクレンチヘッド9の上端部までの距離の増大を抑えることができ、結果として、ソケット3の装着されていないトルクレンチヘッド9の上端部とソケット3の下端との距離を短く設定することができる。従って、ボルト14の周囲のスペースが比較的狭い場合であっても、ボルト14の周囲とトルクレンチ2とを干渉させずに、ボルト14に対してマーキングを行うことができる。
【0057】
さらに、角ドライブ13に直接ソケット3が装着されるため、トルクレンチヘッド9とソケット3との間に他の部材(例えば、アダプタ等)を接続する場合に比べて、部品点数を低減できる。
【0058】
このように、角ドライブ13に直接ソケット3を装着し、インクカートリッジ6をソケット3の貫通孔21と角ドライブ13の貫通孔17とに跨って移動させ、マグネット上5の動作位置への移動によってインクカートリッジ6を移動させることによって、部品点数を低減でき、且つ全体として小型化及び軽量化を図ることができる。
【0059】
また、インクカートリッジ6を、マグネット上5と反対の下方から貫通孔17に挿入する又は貫通孔17から引き抜くことができるため、インクカートリッジ6の挿入又は引き抜きの際にマグネット上5が邪魔になることがない。従って、インクカートリッジ6の貫通孔17への挿入及び貫通孔17からの取り出しを比較的簡単に行うことができる。また、カバー49を取り外す必要がないため、リンク機構にゴミ等が付着するのを防ぐことができる。
【0060】
また、マグネット上5が動作位置にあるとき、マグネット下47と略一直線上に並ぶため、インクカートリッジ6が角ドライブ13内を比較的スムーズに移動する。これにより、インクカートリッジ6を移動させる際に作動不良が発生するのを防止できる。
【0061】
なお、本実施形態では、戻り用スプリング7の付勢力によってインクカートリッジ6を初期位置に戻しているが、例えば、マグネット上5の動作位置から通常位置への移動に伴ってマグネット上5とマグネット下47との間に吸引力が発生するように、マグネット上5及びマグネット下47の磁極を配置し、この吸引力によりマグネット下47を引き寄せることでインクカートリッジ6を初期位置に戻してもよい。
【0062】
また、スプリング当接部23をソケット3に設けた場合を説明したが、例えば、スプリング当接部23をソケット3から独立して設けて、インクカートリッジ6が挿入された角ドライブ13の貫通孔17に取り付けてもよい。かかる構成によれば、ソケット3を角ドライブ13から取り外した際に、インクカートリッジ6が角ドライブ13内に残り、上記独立して設けたスプリング当接部23を貫通孔17から外すことによって、角ドライブ13からインクカートリッジ6を取り出すことができる。
【0063】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、被締付部材に対する締付力が所定値に達したときにトグル機構が動作してヘッド部に対して操作部が変位するトルクレンチに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】トグル機構が動作する前のマーキングトルクレンチを示す図である。
【図2】トグル機構が動作したときのマーキングトルクレンチを示す図である。
【図3】マーキングトルクレンチの一部断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 マーキングトルクレンチ
2 トルクレンチ
3 ソケット
5 マグネット上(第2の磁性体)
6 インクカートリッジ(マーキング部材)
7 戻り用スプリング(付勢部材)
8 トルクレンチグリップ(操作部)
9 トルクレンチヘッド(ヘッド部)
12 トグル機構
14 ボルト(被締付部材)
17 貫通孔(マーキング部材挿入孔)
19 上端部(取付部)
21 貫通孔
25 係合凹部
46 スタンプ(スタンプ先端)
47 マグネット下(第1の磁性体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被締結部材と係合する一端側の係合凹部と、他端側の取付部と、前記係合凹部と前記他端側とを貫通する貫通孔と、を有するソケットと、
インクを保持する一端側のスタンプ先端と他端側の第1の磁性体とを有し、前記ソケットの前記貫通孔に挿入され、前記係合凹部から最も離れる初期位置と前記係合凹部に最も近づくマーキング位置との間で前記貫通孔の形成方向に沿って移動自在に前記ソケットに支持され、前記初期位置では、前記第1の磁性体の他端側の端面が前記ソケットの他端側から突出し、前記マーキング位置では、前記ソケットの前記係合凹部と係合する前記被締結部材に前記スタンプ先端が当接してインクを塗布するマーキング部材と、
前記ソケットに支持された前記マーキング部材を前記初期位置に付勢する付勢部材と、
前記ソケットの前記取付部が着脱自在に装着されるヘッド部と、該ヘッド部にトグル機構を介して取り付けられた操作部と、を有し、前記被締結部材に対する前記操作部からの締付力が所定値に達したときに前記トグル機構が動作して前記操作部が前記ヘッド部に対して変位するトルクレンチと、
前記第1の磁性体と対向したときに反発力を生じさせる磁極を有し、前記トグル機構の動作による前記ヘッド部と前記操作部との相対変位の増加に応じて、通常位置から動作位置へ移動する第2の磁性体と、を備え、
前記ヘッド部は、前記ソケットの装着の際に該ソケットから突出する前記マーキング部材の他端側の進入を許容するマーキング部材挿入孔を有し、
前記第2の磁性体の前記動作位置は、前記装着されたソケットから突出する前記第1の磁性体の前記端面と対向する位置に設定され、前記通常位置は、前記第1の磁性体の前記端面と対向しない位置に設定され、
前記動作位置の前記第2の磁性体は、前記第1の磁性体との間で発生する反発力により、前記付勢力に抗して前記マーキング部材を前記マーキング位置へ移動させる
ことを特徴とするマーキングトルクレンチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−155312(P2010−155312A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335348(P2008−335348)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】