説明

マーキングトルクレンチ

【課題】部品点数を低減でき、且つ全体として小型化及び軽量化を図ることが可能なマーキングトルクレンチの提供。
【解決手段】インクカートリッジ2は、インクを保持するスタンプ58を有し、ソケット3の反対側から角ドライブ20に装着され、スタンプ58は、貫通孔23を介して貫通孔31へ進入し、係合部33と係合するボルト19に当接してインクを塗布するマーキング位置まで移動する。リンク機構4、マグネット上5、キャップ7、フック8、カートリッジケース9、マグネット下10及びブッシュ28は、トグル機構18の動作によるトルクレンチヘッド15とトルクレンチグリップ13との相対変位の増加に応じて、スタンプ58をマーキング位置へ移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マーキングトルクレンチに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ねじの締付作業時に使用するトルクレンチのトグル動作を利用して、被締付けねじの締付終了時に、締付けねじにマーキングを行なうマーカー付きトルクレンチが開示されている。
【0003】
このマーカー付きトルクレンチは、ヘッド内に設けられているラチェットを有するラチェット筒と、ラチェット筒の下端に形成されている4角軸部に結合保持された筒状アダプタと、筒状アダプタの下端部に嵌合されているソケットとを備えている。ナットのねじ締めを行うとき、ソケットをナットに嵌合し、トルクレンチ本体を往復動作させることで、ラチェット筒、筒状のアダプタを介してソケットが回転し、ナットの締付がなされ、その締付トルクが所定値に達すればトルクレンチ本体内のトグルが動作し、ラチェット筒と筒状のアダプタの内部に挿通されているマーカーロッドの下端に取付けられたマーカーがボルトの先端に押し当てられて、ねじ締めが完了されたことを印すマーキングがなされる。
【0004】
【特許文献1】特許第3477221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のマーカー付きトルクレンチでは、ヘッドとソケットとの間にラチェット筒とアダプタとが設けられているため、ヘッドに直接ソケットが装着されている場合に比べて、ヘッドの上端からソケットの下端までの距離が増大する。従って、被締付部材よりも上方のスペースが比較的狭い場合には、被締付部材の周囲とトルクレンチ本体とが干渉してしまい、上記マーカー付きトルクレンチを使用できない可能性がある。
【0006】
また、被締付部材とトルクレンチ本体との距離が、ラチェット筒とアダプタとの分だけ離れてしまうため、被締付部材を大きな締付トルクで締め付ける場合には不向きである。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、部品点数を低減でき、且つ全体として小型化及び軽量化を図ることが可能なマーキングトルクレンチの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明にかかるマーキングトルクレンチは、ソケットと、トルクレンチと、インクカートリッジと、連動手段と、を備えている。
【0009】
ソケットは、被締結部材と係合する一端側の係合凹部と、他端側の取付部と、係合凹部と他端側とを貫通する貫通孔と、を有する。トルクレンチは、ソケットの取付部が着脱自在に装着され取付部を装着した状態で貫通孔と連通する連通孔が設けられたヘッド部と、ヘッド部にトグル機構を介して取り付けられた操作部と、を有し、被締結部材に対する操作部からの締付力が所定値に達したときにトグル機構が動作して操作部がヘッド部に対して変位する。
【0010】
インクカートリッジは、インクを保持するマーキング部を有し、ソケットの反対側からトルクレンチに装着され、マーキング部は、連通孔を介して貫通孔へ進入し、係合凹部と係合する被締付部材に当接してインクを塗布するマーキング位置まで移動する。連動手段は、トグル機構の動作によるヘッド部と操作部との相対変位の増加に応じて、マーキング部をマーキング位置へ移動させる。
【0011】
また、インクカートリッジは、ヘッド部に装着されてもよく、連動手段は、トグル機構の動作によるヘッド部と操作部との相対変位の増加に応じて、インクカートリッジをソケットの回転軸方向に沿って移動させてもよい。
【0012】
また、インクカートリッジは、操作部に装着されてもよく、連動手段は、トグル機構の動作によるヘッド部と操作部との相対変位の増加に応じて、インクカートリッジをソケットの回転軸と直交する方向に移動させてもよい。
【0013】
また、インクカートリッジは、操作部に固定されるインクカートリッジ本体と、インクカートリッジ本体とマーキング部とを接続する中継芯と、を有してもよく、連動手段は、トグル機構の動作によるヘッド部と操作部との相対変位の増加に応じて、中継芯を移動させてもよい。
【0014】
上記構成によれば、インクカートリッジがソケットの反対側からトルクレンチに装着されて、マーキング部がヘッド部の連通孔を介してソケットの貫通孔へ進入している。被締付部材の締付作業時、操作者は、係合凹部に被締付部材を係合し、操作部を回転させて被締付部材を締め付けると、被締付部材に対する締付力が所定値に達してトグル機構が動作する。トグル機構が動作すると、操作部がヘッド部に対して変位し、このヘッド部と操作部との相対変位の増加に応じて、連動手段がインクカートリッジをマーキング位置へ移動させる。インクカートリッジがマーキング位置にあるとき、係合凹部と係合する被締付部材にマーキング部が当接してインクを塗布する。これにより、被締付部材を所定の締付力で締め付けたことを示すマーキングが被締付部材に対してなされるので、適切な締め付けがなされているか否かを目視で確認できる。
【0015】
また、ソケットがヘッド部に直接装着され、マーキング部がソケットの貫通孔とヘッド部の連通孔とに跨って移動するため、ソケット内部のみでマーキング部を移動させる場合に比べて、ソケットの一端から他端までの距離の増大を抑えることができる。従って、係合凹部に係合された被締付部材(ソケットの一端)とトルクレンチ(ソケットの他端)との距離を短く設定することができ、被締付部材を比較的大きな締付トルクで締め付けることができる。
【0016】
さらに、ヘッド部に直接ソケットが装着されるため、ヘッド部とソケットとの間に他の部材を接続する場合に比べて、部品点数を低減でき、全体として軽量化を図ることができる。
【0017】
このように、ソケットをヘッド部に直接装着し、マーキング部をソケットの貫通孔とヘッド部の連通孔とに跨って移動させることによって、部品点数を低減でき、且つ全体として小型化及び軽量化を図ることができる。
【0018】
また、インクカートリッジがソケットと反対の側でトルクレンチに装着されているため、上記被締付部材にマーキングを行うための機能をソケットに設ける必要がない。すなわち、一般的なソケットを使用して、被締付部材に対するマーキングを行うことができる。
【0019】
さらに、インクカートリッジを、ソケットと反対の側からトルクレンチに着脱できるため、インクカートリッジのトルクレンチへの着脱の際にソケットが邪魔になることがない。従って、インクカートリッジのトルクレンチへの着脱を比較的簡単に行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、部品点数を低減でき、且つ全体として小型化及び軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。図1は第1の実施形態のマーキングトルクレンチを示す図、図2は第1の実施形態のマーキングトルクレンチの一部断面図である。なお、以下の説明における上下方向は、図2中の上下を示している。
【0022】
図1及び図2に示すように、本実施形態にかかるマーキングトルクレンチ1は、トルクレンチ2と、ソケット3と、リンク機構(連動手段)4と、マグネット上(連動手段)5と、インクカートリッジ6と、キャップ(連動手段)7と、フック(連動手段)8と、カートリッジケース(連動手段)9と、マグネット下(連動手段)10と、スプリング11と、カバー12等を備えている。
【0023】
トルクレンチ2は、筒状のトルクレンチグリップ(操作部)13と、トルクレンチグリップ13の一端側に支軸14によって回転可能に取り付けられて一部がトルクレンチグリップ13内に挿入されたトルクレンチヘッド(ヘッド部)15等を有している。
【0024】
トルクレンチグリップ13は、断面が略楕円形状の楕円筒部16と、断面が略円形状の円筒部17とを有する。楕円筒部16は、トルクレンチグリップ13の一端側に配置され、内部にトルクレンチヘッド15に連結されたトグル機構18が設けられている。円筒部17は、トルクレンチグリップ13の他端側に配置されている。
【0025】
トグル機構18は、ボルト(被締付部材)19又はナットの締付作業時において、締付力が所定値に達するまでの間は、トルクレンチグリップ13とトルクレンチヘッド15との固定状態を保ち、締付力が所定値に達したときのトグル機構18の動作よってトルクレンチグリップ13とトルクレンチヘッド15との固定状態を解除する。トグル機構18によってトルクレンチグリップ13とトルクレンチヘッド15との固定状態が保たれているとき、トルクレンチヘッド15及びトルクレンチグリップ13は上方から視て略一直線上に並んでいる。一方、トグル機構18の動作によってトルクレンチグリップ13とトルクレンチヘッド15との固定状態が解除されたとき、トルクレンチグリップ13に加わる締付力に対してトルクレンチヘッド15が追従せず、支軸14を中心として、トルクレンチグリップ13がトルクレンチヘッド15に対して一方向(図1中、時計回り)に所定角度変位する。
【0026】
トルクレンチヘッド15の一端側には角ドライブ20が設けられ、この角ドライブ20には筒状のソケット3が着脱自在に連結されている。
【0027】
角ドライブ20は、トルクレンチヘッド15に回転自在に支持される支持部21と、この支持部21から下方に延びてトルクレンチヘッド15の下端面よりも下方に突出した断面略角形状の取付部22とを有している。角ドライブ20は、トルクレンチグリップ13の長手方向に直交する方向に回転軸心を有する。この角ドライブ20の回転軸心上には、角ドライブ20の上端面から下端面に向けて段階的に縮径する貫通孔(連通孔)23が設けられ、取付部22の外側面には、凹状の溝24が設けられている。
【0028】
貫通孔23は、角ドライブ20の支持部21に形成された上部貫通孔25と、この上部貫通孔25の下方に形成されて上部貫通孔25よりも径が小さい中間貫通孔26と、中間貫通孔26の下方に形成されて上部貫通孔25よりも径が小さい下部貫通孔27とを含む。上部貫通孔25には、外径が角ドライブ20の上部貫通孔25と略同じ大きさで形成されたブッシュ28が挿通され、角ドライブ20の内面に固定されている。ブッシュ(連動手段)28は、潤滑性を有する略円筒形状の部材(例えば、真鍮)である。
【0029】
ソケット3は、上端部(取付部)29と、下端部30と、上端部29と下端部30とを貫通する貫通孔31とを有し、上端部29の外径が下端部30の外径よりも大きく形成されている。これら上端部29と下端部30との間は、上端部29から下端部30へと順次縮径する傾斜面が形成されている。ソケット3の上端部29には、一対の貫通孔32が形成され、下端部30には、ボルト19又はナットに係合する係合部(係合凹部)33が設けられている。ソケット3と取付部22とは、環状のスリーブ34によって連結保持される。
【0030】
スリーブ34は、ソケット3の上端部29に配置され、内径がソケット3の上端部29と略同じ大きさで形成されている。スリーブ34には、貫通孔32と対向する位置にスプリングプランジャ35が設けられている。
【0031】
スプリングプランジャ35は、スプリングによってスリーブ34の内側に付勢されるピンを有している。ピン36は、先端が略円弧状に形成され、貫通孔32に挿入されてソケット3の内面から内側に向かって僅かに突出し、取付部22の溝24と係合している。すなわち、ソケット3は、ピン36と溝24との係合によってソケット3に連結保持されている。
【0032】
次に、リンク機構4について説明する。
【0033】
リンク機構4は、固定ピボット37と、略平板状のリンクプレート38と、可動ピボット39と、リンクアーム40と、リンクアーム押さえ41等を有する。
【0034】
固定ピボット37は、略円柱状の下端部42と、この下端部42よりも外径の小さい略円柱状の上端部43とを有する断面略凸字状の部材であり、楕円筒部16の上面に固定されている。すなわち、固定ピボット37は、トグル機構18の動作に伴よるトルクレンチグリップ13とトルクレンチヘッド15との相対変位に応じて、トルクレンチグリップ13とともにトルクレンチヘッド15に対して相対移動する。
【0035】
リンクプレート38は、固定ピボット37よりもトルクレンチヘッド15側且つトルクレンチヘッド15及び楕円筒部16の上方に配置され、トルクレンチヘッド15の軸方向に沿って延びている。リンクプレート38の一端側は、トルクレンチヘッド15の上面に取付ネジ(図示せず)によって固定され、他端側は、楕円筒部16から上方に僅かに離れて配置されている。また、リンクプレート38の一端側には、角ドライブ20の外径よりも径が大きい貫通孔44が形成されている。
【0036】
可動ピボット39は、略円柱状の下端部45と、下端部45よりも外径の小さい略円柱状の上端部46とを有し、リンクプレート38の他端側上面に固定されている。上端部46の外周面には、溝が設けられており、E形止め輪47が着脱自在に係止される。E形止め輪47は、外径が下端部45の外径よりも大きく形成されている。
【0037】
リンクアーム40は、非磁性体(例えば、ステンレス)であり、リンクプレート38に沿って延びる下板部48と、この下板部48の一端から上方に延びる中板部49と、この中板部49の上端からキャップ7に向かって延びる上板部50とを有する。リンクアーム40は、トルクレンチグリップ13の軸方向に対して傾いた初期位置(図1中、二点鎖線で示す)と、トルクレンチグリップ13の軸方向に沿って延びるマーキング位置(図1中、実線で示す)との間を回転移動する。
【0038】
下板部48の他端側には、可動ピボット39の上端部46の外径と略同じ大きさの可動ピボット用孔51と、固定ピボット37の上端部43の外径と略同じ大きさの固定ピボット用孔52とが設けられている。可動ピボット用孔51と固定ピボット用孔52とには、それぞれ可動ピボット39の上端部46と固定ピボット37の上端部43とが挿通され、リンクアーム40は、可動ピボット39によって回転自在に支持されている。また、下板部48の一端側には、リンクアーム押さえ41が設けられている。
【0039】
リンクアーム押さえ41は、潤滑性(他の部材に対する滑動性)のある材質(例えば、真鍮)で形成された略コ字状の部材である。リンクアーム押さえ41は、可動ピボット39よりもトルクレンチヘッド15側でリンクアーム40を跨ぐようにしてリンクプレート38の上面にネジ53によって固定され、リンクアーム40の上方移動を規制している。また、リンクアーム押さえ41の幅方向の端部は、リンクアーム40が通常位置と動作位置との間で移動し得るようにリンクアーム40の回転移動を規制している。リンクアーム押さえ41の略中央部且つリンクアーム40の下方には支持ネジ54が配置されている。
【0040】
支持ネジ54は、リンクプレート38に対して固定されて、リンクアーム40を下方からスライド移動可能に支持している。すなわち、リンクアーム40は、可動ピボット39に係止されたE形止め輪47とリンクアーム押さえ41とによって上方移動が規制され、可動ピボット39の下端部45と支持ネジ54とによって下方移動が規制されている。
【0041】
マグネット上5は、表面に磁極が設けられた磁性体であり、上板部50の下面に取付固定されて下方に向かって突出している。マグネット上5は、角ドライブ20の回転軸心から離れた初期位置と角ドライブ20の回転軸心上に位置するマーキング位置との間を移動する。
【0042】
インクカートリッジ6は、略円筒形状のインクカートリッジ本体55と、インクカートリッジ本体55の下端に設けられてインクカートリッジ本体55に対して上下移動自在な高さ調整スリーブ56と、高さ調整スリーブ56内に挿通された中継芯57と、中継芯57の下端に固定されたスタンプ(マーキング部)58等で構成される。インクカートリッジ6は、ブッシュ28に挿入されてブッシュ28に対して上下移動可能であり、初期位置と初期位置よりも下方のマーキング位置との間を移動する。
【0043】
インクカートリッジ本体55は、上端が閉塞するとともに下端が開口している。インクカートリッジ本体55には、インクを染み込ませた略円柱状の中綿59が内装されている。インクカートリッジ本体55の下端は、インクカートリッジ本体55の上端及び中綿59よりも小さな径で形成され、内面には雌ネジが切られている。
【0044】
高さ調整スリーブ56は、略管状の部材であり、外径がインクカートリッジ本体55の下端の内径と略同じ大きさに設定された上端部60と、外径がソケット3の下部貫通孔27の径と略同じ大きさに設定されて上端部60から下方に向かって延びる下端部61とを有する。上端部60の外側面には、雄ネジが切られている。この高さ調整スリーブ56の上端部60には、角ドライブ20の中間貫通孔26と略同じ外径に設定されたロックナット62が螺合されている。高さ調整スリーブ56の上端部60はインクカートリッジ本体55の下端に螺合され、高さ調整スリーブ56とインクカートリッジ本体55とは、高さ調整スリーブ56をインクカートリッジ本体55に対して時計回り又は反時計回りに回転させることで、インクカートリッジ本体55の上端から高さ調整スリーブ56の下端までの長さを調整可能である。そして、高さ調整スリーブ56の上端部60に設けられたロックナット62をインクカートリッジ本体55の下端に対して締め付けることで、インクカートリッジ本体55と高さ調整スリーブ56とを固定可能である。
【0045】
中継芯57は、特に図示していないが、合成樹脂で形成された略円筒形状の外筒と、この外筒内に挿入されてインクを染み込ませた内芯とを有し、高さ調整スリーブ56内に挿通されている。中継芯57の上端は、高さ調整スリーブ56の上端よりも上方に延びて中綿59に挿通されている。中継芯57の下端は、高さ調整スリーブ56の下端よりも下方に延びている。この中継芯57の下端には、スタンプ58が設けられている。内芯は、毛細管現象により中綿59のインクをスタンプ58に移動させる機能を有し、例えば、フェルトや繊維集束体や連通孔を有する合成樹脂等で形成されている。
【0046】
スタンプ58は、フェルト等の柔軟性を有する素材で形成されて内芯から供給されたインクを貯留している。スタンプ58の外径は、高さ調整スリーブ56の下端部61の外径と略同じ大きさに設定されている。スタンプ58及び内芯のインクは、毛細管現象により中綿59のインクを吸引することで補充される。
【0047】
キャップ7は、断面略コ字状(キャップ状)の部材であり、インクカートリッジ本体55の上方に配置されて、インクカートリッジ本体55の上端を覆っている。キャップ7の外周面には、凹状の溝63が設けられている。
【0048】
フック8は、略平板状の部材であり、キャップ7の溝63に係止される略円弧状の円弧部64と、略矩形板状の取付部65とを有する。
【0049】
カートリッジケース9は、フランジ状の非磁性体(例えば、ステンレス)であり、円筒部66と円板部67とを有する。円筒部66は、ブッシュ28の上端部外側面に装着されて、ブッシュ28に対して上下方向にスライド移動自在である。円板部67は、円筒部66の上端から外側に向かって延びてフック8の取付部65に対向配置されている。円板部67と取付部65とは、ローレットネジ68によって着脱自在に固定されている。また、円板部67には略円形状の貫通孔69が設けられ、この貫通孔69にはリンクプレート38の上面から上方に延びる略円柱状のガイドピン70が挿通されている。このガイドピン70によってカートリッジケース9のブッシュ28に対する回転移動が規制される。また、円板部67には、マグネット下10と、スプリング11とが設けられている。
【0050】
マグネット下10は、円板部67の上端面に固定されている。マグネット下10は、マグネット上5と対向したときに反発力が生じるように、表面にマグネット上5と同極の磁極(例えば、マグネット上5がS極であればマグネット下10もS極)を有している。
【0051】
スプリング11は、一端が円板部67の下面に設けられた凹状の溝(図示せず)に当接し、他端がリンクプレート38の上面に当接している。スプリング11は、カートリッジケース9の下方移動に伴って収縮し、カートリッジケース9を上方に向かって付勢する。
【0052】
カバー12は、断面略コ字状の樹脂部材であり、ローレットネジ71及びノックピン72によってリンクプレート38に着脱自在に固定されている。カバー12は、リンクプレート38に固定された状態でリンク機構4やインクカートリッジ6等を上方から覆っている。なお、カバー12は、樹脂部材である場合に限定されず、アルミニウムや銅等の他の材質であってもよい。また、ローレットネジ71及びノックピン72によってカバー12を固定する場合に限定されず、スプリングプランジャによってカバー12を固定してもよい。
【0053】
ローレットネジ71は、頭部側面にギザ状の滑り止めが形成され、カバー12の着脱の際に工具等を用いずに締緩が可能となっている。また、ノックピン72は、カバー12をリンクプレート38に固定する際の位置決め部材である。
【0054】
このように構成されたマーキングトルクレンチ1において、インクカートリッジ6が初期位置のとき、インクカートリッジ本体55の下端が上部貫通孔25内に位置し、ロックナット62が中間貫通孔26の上端部に位置し、スタンプ58がボルト19よりも上方に離れて位置している。なお、このスタンプ58の位置は、高さ調整スリーブ56をインクカートリッジ本体55に対して時計回り又は反時計回りに回転させてインクカートリッジ本体55の上端から高さ調整スリーブ56の下端までの長さを調整することで、係合部33に係合するボルト19の高さに合わせて適宜変更可能である。インクカートリッジ6がマーキング位置のとき、インクカートリッジ本体55の下端が中間貫通孔26内に位置し、ロックナット62が中間貫通孔26の下端に位置し、スタンプ58がボルト19に当接する。
【0055】
次に、本実施形態のマーキングトルクレンチ1の動作について説明する。
【0056】
締付トルクがプレセットされたマーキングトルクレンチ1によりボルト19の締め付けを行う際、操作者は、ソケット3の係合部33にボルト19を係合する。このとき、トグル機構18によってトルクレンチグリップ13とトルクレンチヘッド15との固定状態が保たれている。この状態では、トルクレンチヘッド15及びトルクレンチグリップ13のそれぞれの中心軸が直線上に並び、リンクアーム40が初期位置に設定されるとともにマグネット上5が初期位置に設定される。マグネット上5が初期位置にあるとき、マグネット上5とマグネット下10とがトルクレンチ2の幅方向に離れて配置されているため、マグネット上5とマグネット下10とは、互いに磁力の影響を受けない。さらに、カートリッジケース9がスプリング11によって下方から支持されてインクカートリッジ6が初期位置に設定され、スタンプ58の下端がボルト19よりも上方に離れて配置されている。すなわち、ソケット3の係合部33にボルト19を係合した状態では、ボルト19に対してインクが塗布されない。
【0057】
次に、トルクレンチグリップ13を一方向(図1中、時計回り)に回転させてボルト19を締め付けていくと、締付力がプレセットされたトルクに達し、トグル機構18が動作する。トグル機構18が動作すると、トルクレンチグリップ13とトルクレンチヘッド15との固定状態が解除され、トルクレンチヘッド15に対してトルクレンチグリップ13が所定角度変位する。このトルクレンチヘッド15とトルクレンチグリップ13との相対移動に応じて、固定ピボット37が可動ピボット39を中心にしてリンクアーム40を一方向に所定角度回転させる。これにより、初期位置のリンクアーム40がマーキング位置に達する。このリンクアーム40の回転移動に伴ってマグネット上5がマーキング位置に達し、マグネット下10の略真上でマグネット下10と対向する。なお、可動ピボット39と固定ピボット37との間の距離よりも、可動ピボット39とマグネット上5までの距離の方が大きくなるように設定しているため、可動ピボット39を中心としたリンクアーム40の回転移動によるマグネット上5の移動量は、リンクアーム40の他端の移動量よりも増大される。マグネット上5とマグネット下10とが対向すると、互いに磁力が作用して反発力が生じる。このとき、リンクアーム40の上方移動が規制されているため上記反発力によってマグネット上5は移動せず、マグネット下10がスプリング11の付勢力に抗してインクカートリッジケース9を下方移動させる。このインクカートリッジケース9の下方移動に伴ってインクカートリッジ6がマーキング位置へ移動し、スタンプ58の下端がソケット3の係合部33内に突出してボルト19の上端部に当接する。これにより、ボルト19に対してプレセットされた締付トルクで締付作業を行ったことを示すマーキングがなされる。
【0058】
ボルト19の締め付けを終了すると、トグル機構18が動作前の状態(トルクレンチグリップ13とトルクレンチヘッド15との固定状態が保たれている状態)に戻り、トルクレンチヘッド15及びトルクレンチグリップ13が上方から視て略一直線上に並ぶ。そして、リンクアーム40及びマグネット上5がともに初期位置に戻り、マグネット上5とマグネット下10との間に反発力が生じなくなる。これにより、インクカートリッジケース9がスプリング11によって上方に付勢されてインクカートリッジ6が初期位置に戻る。
【0059】
また、ローレットネジ71を緩めてカバー12を取り外し、さらに、ローレットネジ68を緩め、フック8を旋回(回転)させることでキャップ7とカートリッジ本体55とを取り外し、インクカートリッジ本体55をトルクレンチ2の上方へ移動させて、高さ調整スリーブ56、中継芯57及びスタンプ58を角ドライブ20から引き抜くことによって、インクカートリッジ6の取り外しが可能である。
【0060】
本実施形態によれば、インクカートリッジ6がソケット3の反対側から角ドライブ20に装着されて、スタンプ58が角ドライブ20の貫通孔23を介してソケット3の貫通孔31へ進入している。ボルト19の締付作業時、操作者は、係合部33にボルト19を係合し、トルクレンチグリップ13を回転させてボルト19を締め付けると、ボルト19に対する締付力が所定値に達してトグル機構18が動作する。トグル機構18が動作すると、トルクレンチグリップ13がトルクレンチヘッド15に対して変位し、このトルクレンチヘッド15とトルクレンチグリップ13との相対変位の増加に応じて、リンク機構4、マグネット上5、キャップ7、フック8、カートリッジケース9、マグネット下10及びブッシュ28がインクカートリッジ6をマーキング位置へ移動させる。インクカートリッジ6がマーキング位置にあるとき、係合部33と係合するボルト19にスタンプ58が当接してインクを塗布する。これにより、ボルト19を所定の締付力で締め付けたことを示すマーキングがボルト19に対してなされるので、適切な締め付けがなされているか否かを目視で確認できる。
【0061】
また、ソケット3が角ドライブ20の取付部22に直接装着され、インクカートリッジ6がソケット3の貫通孔31と角ドライブ20の貫通孔23とに跨って移動するため、ソケット3内部のみでスタンプ58を移動させる場合に比べて、ソケット3の下端から上端までの距離の増大を抑えることができる。従って、係合部33に係合されたボルト19(ソケット3の下端)とトルクレンチ(ソケット3の上端)2との距離を短く設定することができ、ボルト19を比較的大きな締付トルクで締め付けることができる。
【0062】
さらに、角ドライブ20の取付部22に直接ソケット3が装着されるため、角ドライブ20とソケット3との間に他の部材を接続する場合に比べて、部品点数を低減でき、全体として軽量化を図ることができる。
【0063】
このように、ソケット3を角ドライブ20の取付部22に直接装着し、スタンプ58をソケット3の貫通孔31と角ドライブ20の貫通孔23とに跨って移動させることによって、部品点数を低減でき、且つ全体として小型化及び軽量化を図ることができる。
【0064】
また、インクカートリッジ6がソケット3と反対の側でトルクレンチ2に装着されているため、上記ボルト19にマーキングを行うための機能をソケット3に設ける必要がない。すなわち、一般的なソケット3を使用して、ボルト19に対するマーキングを行うことができる。
【0065】
さらに、インクカートリッジ6を、ソケット3と反対の側から角ドライブ20に着脱できるため、インクカートリッジ6の角ドライブ20への着脱の際にソケット3が邪魔になることがない。従って、インクカートリッジ6の角ドライブ20への着脱を比較的簡単に行うことができる。
【0066】
次に、本発明の第2の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0067】
図3は第2の実施形態のトルクレンチとリンク機構を示す図、図4は第2の実施形態のマーキングトルクレンチを示す図、図5は第2の実施形態のマーキングトルクレンチの一部断面図である。なお、第1の実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。また、以下の説明における上下方向は、図5中の上下を示している。
【0068】
本実施形態では、インクカートリッジ本体74を楕円筒部16上に配置して楕円筒部16の軸方向に沿ってスライド移動させている。すなわち、本実施形態では、インクカートリッジ73の動きが第1の実施形態と異なる。このようにインクカートリッジ本体74を、楕円筒部16上に配置して楕円筒部16の軸方向に沿って移動させることにより、トルクレンチ2上方のインクカートリッジ本体74の配置スペースを比較的小さくできる。また、本実施形態では、角ドライブ75の形状が第1の実施形態と異なる。
【0069】
図3〜図5に示すように、角ドライブ75は、トルクレンチヘッド15に回転自在に支持される支持部76と、この支持部76から下方に延びてトルクレンチヘッド15の下端面よりも下方に突出した断面略角形状の取付部77とを有している。角ドライブ75は、トルクレンチグリップ13の軸方向に直交する方向に回転軸心を有し、この角ドライブ75の回転軸心上には貫通孔(連通孔)78が設けられている。支持部76の上面は、後述する中継芯85の移動の際に生じる摩擦を低減するために面取り加工(R状の加工)により断面略円弧状に形成され、貫通孔78は、支持部76の略中央部から上端に向かって拡径している。取付部77の外側面には凹状の溝が設けられ、取付部77には筒状のソケット79が着脱自在に連結される。
【0070】
ソケット79は、上端部(取付部)79aと下端部79bとを貫通する貫通孔80と、係合部(係合凹部)81と、スタンプガイド82と、一対の貫通孔83とを有する。ソケット79と取付部77とは、環状のスリーブ34によって連結保持される。係合部81は、ソケット79の下端部79bに形成されてボルト19又はナットに係合する。スタンプガイド82は、潤滑性を備えた部材で形成され、係合部81の上方且つソケット79内に配置されてソケット79に固定されている。
【0071】
インクカートリッジ73は、調整ネジ84と、調整ネジ84の一端側に螺合される略円筒形状のインクカートリッジ本体74と、インクカートリッジ本体74の一端に挿入された中継芯85と、中継芯85の一端に接続されたスタンプ(マーキング部)86等で構成されている。インクカートリッジ73は、初期位置とマーキング位置との間を移動する。
【0072】
調整ネジ(例えば、六角穴付きボルト)84は、略円柱状の一端部87と、この一端部87よりも外径の大きい他端部88とを有する。一端部87の外側面には雄ネジが切られており、他端部88には六角形状の凹部89が設けられている。
【0073】
インクカートリッジ本体74は、一端が開口し、他端が調整ネジ84の一端に螺合されている。インクカートリッジ本体74には、インクを染み込ませた略円柱状の中綿90が内装されている。調整ネジ84とインクカートリッジ本体74とは、調整ネジ84をインクカートリッジ本体74に対して時計回り又は反時計回りに回転させることで、インクカートリッジ本体74の一端から調整ネジ84の他端までの長さを調整可能である。
【0074】
中継芯85は、特に図示していないが、柔軟性及び耐座屈性を有する合成樹脂で形成された略円筒形状の外筒と、この外筒内に挿入されてインクを染み込ませた内芯とを有している。内芯は、フェルトで形成されている。中継芯85は、インクカートリッジ本体74の軸上に配置されて中綿90に接続される上端部91と、この上端部91に直交する方向に延びる下端部92と、これら上端部91と下端部92とを接続する湾曲部93とを有する。内芯は、毛細管現象により中綿90のインクをスタンプ86に移動させる機能を有し、例えば、フェルトや繊維集束体や連通孔を有する合成樹脂等で形成されている。
【0075】
スタンプ86は、フェルト等の柔軟性を有する素材で形成されて内芯から供給されたインクを貯留している。スタンプ86及び内芯のインクは、毛細管現象により中綿90のインクを吸引することで補充される。
【0076】
リンク機構(連動手段)94は、略円柱状の固定ピボット95と、このピボット95に回転自在に支持されたリンクプレート96と、可動ピボット97と、プッシュロッド98と、ガイドブロック99と、カートリッジブロック100と、スプリングプランジャ101と、ストロークピン104等を有している。
【0077】
固定ピボット95は、楕円筒部16の上面に固定されている。
【0078】
リンクプレート96は、楕円筒部16の幅方向に沿って延びる略L字状の板部材であり、一端部102と他端部103とを有する。リンクプレート96は、楕円筒部16の幅方向に沿って延びる初期位置と、初期位置から一方向(図3中、時計回り)に回転したマーキング位置との間を移動可能である。リンクプレート96の他端部103には、リンクプレート96に回転自在に支持された略円柱形状のストロークピン104が設けられている。
【0079】
可動ピボット97は、略円柱形状の部材であり、リンクプレート96の一端部102とトルクレンチヘッド15の他端に連結されている。可動ピボット97は、トルクレンチヘッド15とトルクレンチグリップ13との相対変位に伴って、初期位置のリンクプレート96を一方向に回転させてマーキング位置へ移動させる。
【0080】
ストロークピン104は、略円柱状の部材であり、リンクプレート96に回転自在に支持されている。
【0081】
プッシュロッド98は、略円柱状の部材であり、楕円筒部16の幅方向の端部上方に配置されて、ストロークピン104の下端に固定されている。
【0082】
ガイドブロック99は、楕円筒部16の幅方向の端部且つストロークピン104よりも楕円筒部16の一端側に固定されて、プッシュロッド98の一端部をスライド移動可能に支持している。これらガイドブロック99及びプッシュロッド98により、リンクプレート96の回転運動が楕円筒部16の軸方向に沿った直線運動に変換される。
【0083】
カートリッジブロック100は、ストロークピン104よりも楕円筒部16の他端側に配置され、楕円筒部16上に支持されている。プッシュロッド98の移動に連動し、楕円筒部16の軸方向に沿って、固定ピボット95側の動作位置と、この動作位置よりも固定ピボット95から離れた非動作位置との間をスライド移動する。カートリッジブロック100は、ロッド固定部105とネジ係合部106とを有している。
【0084】
ロッド固定部105は、プッシュロッド98の他端部を固定する。ネジ係合部106は、断面略コ字上に形成されている。ネジ係合部106の一端側には、調整ネジ84の一端部87の外径と略同じ幅の略U字状の切り欠き部107が設けられており、ネジ係合部106の他端部には、切り欠き部107に対向してスプリングプランジャ101が設けられている。
【0085】
スプリングプランジャ101は、スプリングによって切り欠き部107に向かって付勢されるピン108を有している。ピン108は、先端が略円弧状に形成され、調整ネジ84の一端部87を切り欠き部107に上方から差し込んだ状態で調整ネジ84の他端部88の凹部89と当接し、調整ネジ84をネジ係合部106の一端側に付勢する。すなわち、切り欠き部107に差し込まれた調整ネジ84は、スプリングプランジャ101に係合して上方移動が規制される。
【0086】
カバー109は、断面略コ字状の樹脂部材であり、中継芯ガイド110を有する。カバー109は、スプリングプランジャ111によってカバー支持部材112に着脱自在に固定されている。カバー109は、カバー支持部材112に固定された状態でリンク機構94やインクカートリッジ73等を上方から覆っている。なお、カバー109は、樹脂部材である場合に限定されず、アルミニウムや銅等の他の材質であってもよい。また、カバー109を、ローレットネジ及びノックピンによって固定してもよい。
【0087】
スプリングプランジャ111は、カバー支持部材112に向かって付勢する略円弧状のピン113を有し、スプリングプランジャ111とカバー支持部材112との係合状態は、カバー109をカバー支持部材112に対して上方移動させることで、工具等を用いずに解除可能となっている。
【0088】
中継芯ガイド110は、カバー109の内側面にネジ114によって固定されている。中継芯ガイド110は、カバー支持部材112にカバー109を固定した状態で中継芯85の湾曲部93に対向配置される傾斜面115を有する。また、傾斜面115と対向する湾曲部93には、潤滑性を備えた略円筒形状の中継芯ブッシュ116が固定されている。これら傾斜面115と中継芯ブッシュ116とは、インクカートリッジ73の移動に伴う湾曲部93の曲げ変形を抑制する。
【0089】
このように構成されたマーキングトルクレンチ117において、トグル機構18が動作していない非動作状態のとき、トグル機構18によってトルクレンチグリップ13とトルクレンチヘッド15との固定状態が保たれ、リンクプレート96が初期位置に設定され、カートリッジブロック100が非動作位置に設定され、インクカートリッジ73が初期位置に設定され、スタンプ86がボルト19よりも上方に離れて位置している。なお、このスタンプ86の位置は、調整ネジ84をインクカートリッジ本体74に対して時計回り又は反時計回りに回転してインクカートリッジ本体74の一端から調整ネジ84の他端までの長さを調整することで、係合部81に係合するボルト19又はナットの高さに合わせて適宜変更可能である。
【0090】
トグル機構18が動作すると、トルクレンチグリップ13とトルクレンチヘッド15との固定状態が解除され、トルクレンチヘッド15に対してトルクレンチグリップ13が所定角度変位する。このトルクレンチヘッド15に対するトルクレンチグリップ13の相対変位に伴って、可動ピボット97が初期位置のリンクプレート96を固定ピボット95を中心に一方向(図4中、時計回り)に回転させてマーキング位置へ移動させる。リンクプレート96がマーキング位置に移動することでプッシュロッド98がカートリッジブロック100を動作位置へ移動させる。カートリッジブロック100が非動作位置から動作位置に移動することにより、インクカートリッジ73が調整ネジ84とともに押圧されてマーキング位置に移動し、スタンプ86がボルト19に当接する。なお、可動ピボット97と固定ピボット95との間の距離よりも、可動ピボット97とストロークピン104までの距離の方が大きくなるように設定しているため、可動ピボット97を中心としたリンクプレート96の回転移動によるストロークピン104の移動量は、可動ピボット97の移動量よりも増大される。
【0091】
締付トルクがプレセットされたマーキングトルクレンチ117によりボルトの締め付けを行う際の動作について説明する。まず、操作者は、ソケット79の係合部81にボルト19を係合する。このとき、マーキングトルクレンチ117は、非動作状態、すなわち、トルクレンチグリップ13とトルクレンチヘッド15との固定状態が保たれ、リンクプレート96が初期位置に設定され、カートリッジブロック100が非動作位置に設定され、インクカートリッジ73が初期位置に設定され、スタンプ86がボルト19よりも上方に離れて位置している。すなわち、ソケット79の係合部81にボルト19を係合した状態では、ボルト19に対してインクが塗布されない。
【0092】
次に、トルクレンチグリップ13を回転させてボルト19を締め付けると、締付力がプレセットされたトルクに達し、トグル機構18が動作してマーキングトルクレンチ117が動作状態となる。すなわち、トルクレンチグリップ13とトルクレンチヘッド15との固定状態が解除され、トルクレンチヘッド15に対してトルクレンチグリップ13が所定角度変位し、リンクプレート96がマーキング位置に設定され、カートリッジブロック100が動作位置に設定され、インクカートリッジ73がマーキング位置に設定される。これにより、スタンプ86の下端がボルト19の上端部に当接し、ボルト19に対してプレセットされた締付トルクで締付作業を行ったことを示すマーキングがなされる。
【0093】
ボルト19の締め付けを終了すると、トグル機構18が動作前の状態(トルクレンチグリップ13とトルクレンチヘッド15との固定状態が保たれている状態)に戻り、トルクレンチヘッド15及びトルクレンチグリップ13が上方から視て略一直線上に並ぶ。これにより、リンクプレート96が初期位置に戻り、リンクプレート96が初期位置に戻ることによって、カートリッジブロック100が非動作位置に戻り、インクカートリッジ73が初期位置に戻る。
【0094】
また、カバー支持部材112に対してカバー109を上方に移動させてカバー109を取り外し、さらに、スプリングプランジャ101と調整ネジ84との係合状態を解除してインクカートリッジ本体74をトルクレンチグリップ13の上方へ移動させて、中継芯85及びスタンプ86を角ドライブ75から引き抜くことによって、インクカートリッジ73の取り外しが可能である。
【0095】
本実施形態によれば、インクカートリッジ73がソケット79の反対側からトルクレンチグリップ13に装着されて、スタンプ86が角ドライブ75の貫通孔78を介してソケット79の貫通孔80へ進入している。ボルト19の締付作業時、操作者は、係合部81にボルト19を係合し、トルクレンチグリップ13を回転させてボルト19を締め付けると、ボルト19に対する締付力が所定値に達してトグル機構18が動作する。トグル機構18が動作すると、トルクレンチグリップ13がトルクレンチヘッド15に対して変位し、このトルクレンチヘッド15とトルクレンチグリップ13との相対変位の増加に応じて、リンク機構94及びストロークピン104がインクカートリッジ73をマーキング位置へ移動させる。インクカートリッジ73がマーキング位置にあるとき、係合部81と係合するボルト19にスタンプ86が当接してインクを塗布する。これにより、ボルト19を所定の締付力で締め付けたことを示すマーキングがボルト19に対してなされるので、適切な締め付けがなされているか否かを目視で確認できる。
【0096】
また、ソケット79が角ドライブ75の取付部77に直接装着され、スタンプ86がソケット79の貫通孔80と角ドライブ75の貫通孔78とに跨って移動するため、ソケット79内部のみでスタンプ86を移動させる場合に比べて、ソケット79の下端から上端までの距離の増大を抑えることができる。従って、係合部81に係合されたボルト19(ソケット79の下端)とトルクレンチ(ソケット79の上端)2との距離を短く設定することができ、ボルト19を比較的大きな締付トルクで締め付けることができる。
【0097】
さらに、角ドライブ75の取付部77に直接ソケット79が装着されるため、角ドライブ75とソケット79との間に他の部材を接続する場合に比べて、部品点数を低減でき、全体として軽量化を図ることができる。
【0098】
このように、ソケット79を角ドライブ75の取付部77に直接装着し、スタンプ86をソケット79の貫通孔80と角ドライブ75の貫通孔78とに跨って移動させることによって、部品点数を低減でき、且つ全体として小型化及び軽量化を図ることができる。
【0099】
また、インクカートリッジ73がソケット79と反対の側でトルクレンチグリップ13に装着されているため、上記ボルト19にマーキングを行うための機能をソケット79に設ける必要がない。すなわち、一般的なソケット79を使用して、ボルト19に対するマーキングを行うことができる。
【0100】
さらに、インクカートリッジ73を、ソケット79と反対の側からトルクレンチグリップ13に着脱できるため、インクカートリッジ73のトルクレンチグリップ13への着脱の際にソケット79が邪魔になることがない。従って、インクカートリッジ73のトルクレンチグリップ13への着脱を比較的簡単に行うことができる。
【0101】
次に、本発明の第3の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0102】
図6は第3の実施形態のマーキングトルクレンチのを示す図、図7は第3の実施形態のマーキングトルクレンチの一部断面図である。なお、第1の実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。また、以下の説明における上下方向は、図7中の上下を示している。
【0103】
本実施形態では、インクカートリッジ本体119を楕円筒部16の軸方向に沿って配置して楕円筒部16に対して着脱自在に固定している。すなわち、本実施形態では、インクカートリッジ118の動きが第1の実施形態と異なる。このようにインクカートリッジ本体119を、楕円筒部16上に配置することにより、トルクレンチ2上方のインクカートリッジ本体119の配置スペースを比較的小さくできる。また、本実施形態では、角ドライブ120の形状が第1の実施形態と異なる。
【0104】
図6及び図7に示すように、角ドライブ120は、トルクレンチヘッド15に回転自在に支持される支持部121と、この支持部121から下方に延びてトルクレンチヘッド15の下端面よりも下方に突出した断面略角形状の取付部122とを有している。角ドライブ120は、トルクレンチグリップ13の軸方向に直交する方向に回転軸心を有し、この角ドライブ120の回転軸心上には、支持部121の上面から取付部122の下面に向けて段階的に縮径する貫通孔(連通孔)123が設けられている。取付部122の外側面には凹状の溝124が設けられ、取付部122には筒状のソケット3が着脱自在に連結される。
【0105】
貫通孔123は、角ドライブ120の支持部121に形成された上部貫通孔125と、この上部貫通孔125の下方に形成されて上部貫通孔125よりも径が小さい下部貫通孔126とを含む。
【0106】
さらに、本実施形態におけるマーキングトルクレンチ163は、リンク機構(連動手段)127と、マグネット上(連動手段)144と、ロッド(連動手段)145と、調整スリーブ150と、マグネット下(連動手段)152と、スプリング161と、カバー162等を備えている。
【0107】
リンク機構127は、固定ピボット128と、略平板状のリンクプレート129と、可動ピボット130と、リンクアーム131と、リンクアーム押さえ132等を有する。
【0108】
固定ピボット128は、略円柱状の下端部133と、この下端部133よりも外径の小さい略円柱状の上端部134とを有する断面略凸字状の部材であり、楕円筒部16の幅方向の一端部上面に固定されている。すなわち、固定ピボット128は、トグル機構18の動作に伴よるトルクレンチグリップ13とトルクレンチヘッド15との相対変位に応じて、トルクレンチグリップ13とともにトルクレンチヘッド15に対して相対移動する。
【0109】
リンクプレート129は、固定ピボット128よりもトルクレンチヘッド15側且つトルクレンチヘッド15及び楕円筒部16の上方に配置され、トルクレンチヘッド15の軸方向に沿って延びている。リンクプレート129の一端側は、トルクレンチヘッド15の上面に溶接等によって強固に接合され、他端側は、楕円筒部16から上方に僅かに離れて配置されている。また、リンクプレート129の一端側には、角ドライブ120の外径よりも径が大きい貫通孔135が形成されている。
【0110】
可動ピボット130は、略円柱状の下端部136と、下端部136よりも外径の小さい略円柱状の上端部137とを有し、楕円筒部16の幅方向の一端部に配置されている。可動ピボット130は、楕円筒部16よりも上方に僅かに離れた位置でリンクプレート129の他端に固定され、楕円筒部16に対して移動可能である。上端部137の外周面には、溝が設けられており、E形止め輪138が着脱自在に係止される。E形止め輪138は、外径が下端部136の外径よりも大きく形成されている。
【0111】
リンクアーム131は、非磁性体(例えば、ステンレス)であり、リンクプレート129に沿って延びる下板部139と、この下板部139の一端から上方に延びる中板部140と、この中板部140の上端から角ドライブ120の上方に向かって延びる上板部141とを有する。リンクアーム131は、トルクレンチグリップ13の軸方向に沿って延びる初期位置(図6中、実線で示す)と、トルクレンチグリップ13の軸方向に対して傾いたマーキング位置(図6中、二点鎖線で示す)との間を回転移動する。
【0112】
下板部139の他端側には、可動ピボット130の上端部137の外径と略同じ大きさの可動ピボット用孔142と、固定ピボット128の上端部134の外径と略同じ大きさの固定ピボット用孔143とが設けられている。可動ピボット用孔142と固定ピボット用孔143とには、それぞれ可動ピボット130の上端部137と固定ピボット128の上端部134とが挿通され、リンクアーム131は、可動ピボット130によって回転自在に支持されている。また、可動ピボット130の上端には、E形止め輪138が着脱自在に係止される。
【0113】
マグネット上144は、表面に磁極が設けられた磁性体であり、上板部141の下面に固定されて下方に向かって突出している。マグネット上144は、角ドライブ120の回転軸心から離れた初期位置と角ドライブ120の回転軸心上に位置するマーキング位置との間を移動する。
【0114】
ロッド145は、略円筒形状のマグネット支持部146と、このマグネット支持部146から下方に向かって延びる略円筒形状の挿入部147とを有している。
【0115】
マグネット支持部146は、外径が角ドライブ120の上部貫通孔125の径と略同じ大きさに設定され、角ドライブ120の上方に配置されている。マグネット支持部146は、上端から下端に向けて段階的に縮径する上下貫通孔148と、外側面と内側面とを貫通する中継芯挿入孔149とを有している。
【0116】
挿入部147は、外径が角ドライブ120の下部貫通孔126の径と略同じ大きさに設定されて、下部貫通孔126に挿入されている。挿入部147は、下部貫通孔126内を上下方向に移動自在である。挿入部147は、内径が後述する中継芯154の外径と略同じ大きさに設定されている。また、挿入部147の下端部内面には雌ネジが切られている。このように構成されたロッド145は、マグネット支持部146が角ドライブ120の上方に突出した非動作位置と、この動作位置から下方に移動してマグネット支持部146が上部貫通孔125内に位置する動作位置との間を移動する。
【0117】
調整スリーブ150は、略円筒形状の部材であり、ロッド145の下方に配置されている。調整スリーブ150の上端部外側面には雄ネジが切られ、調整スリーブ150の上端は挿入部147の下端部に螺合されている。調整スリーブ150とロッド145とは、調整スリーブ150をロッド145に対して時計回り又は反時計回りに回転させることで、ロッド145の上端から調整スリーブ150の下端までの長さを調整可能である。そして、調整スリーブ150の上端部に設けられたロックナット151をロッド145の下端に対して締め付けることで、ロッド145と調整スリーブ150とを固定可能である。
【0118】
マグネット下152は、略円柱状の部材であり、上下貫通孔148に挿入されてマグネット支持部146の内面に固定されている。マグネット下152は、マグネット上144と対向したときに反発力が生じるように、表面にマグネット上144と同極の磁極(例えば、マグネット上144がS極であればマグネット下152もS極)を有している。
【0119】
インクカートリッジ118は、略円筒形状のインクカートリッジ本体119と、インクカートリッジ本体119の一端に設けられた中継芯ガイド153と、インクカートリッジ本体119の一端に挿入された中継芯154と、中継芯154の一端に接続されたスタンプ(マーキング部)155等で構成されている。
【0120】
インクカートリッジ本体119は、一端が開口し、他端が閉塞している。インクカートリッジ本体119は、楕円筒部16の幅方向の他端部に配置され、楕円筒部16の軸方向に沿って延びている。インクカートリッジ本体119には、インクを染み込ませた略円柱状の中綿156が内装されている。
【0121】
中継芯ガイド153は、断面略U字状の部材であり、インクカートリッジ本体119の一端に接続されている。中継芯ガイド153は、リンクプレート129の幅方向の他端部に固定された支持部材157によって下方から支持されている。すなわち、インクカートリッジ本体119は、中継芯ガイド153を介して支持部材157によって支持されている。
【0122】
中継芯154は、特に図示していないが、柔軟性及び耐座屈性を有する合成樹脂で形成された略円筒形状の外筒と、この外筒内に挿入されてインクを染み込ませた内芯とを有している。中継芯154は、中綿156に接続され、インクカートリッジ本体119の一端から中継芯挿入孔149に向かって延びる上端部158と、調整スリーブ150及びロッド145内に配置されインクカートリッジ本体119の軸方向に直交する方向に延びる下端部159と、上下貫通孔内148且つマグネット下152よりも下方に配置され上端部158と下端部159とを接続する屈曲部160とを有する。内芯は、毛細管現象により中綿156のインクをスタンプ155に移動させる機能を有し、例えば、フェルトや繊維集束体や連通孔を有する合成樹脂等で形成されている。中継芯154は、初期位置(図7中実線で示す)とマーキング位置(図7中二点鎖線で示す)との間を移動する。
【0123】
スタンプ155は、フェルト等の柔軟性を有する素材で形成されて内芯から供給されたインクを貯留している。スタンプ155及び内芯のインクは、毛細管現象により中綿156のインクを吸引することで補充される。
【0124】
スプリング161は、上部貫通孔125に配置され、一端が角ドライブ120に当接するとともに他端がマグネット支持部146の下端面に当接している。
【0125】
カバー162は、断面略コ字状の樹脂部材であり、特に図示していないローレットネジ及びノックピンによってリンクプレート129に着脱自在に固定されている。カバー162は、リンクプレート129に固定された状態でリンク機構127及びインクカートリッジ118等を上方から覆っている。また、カバー162の内面には、潤滑性を有するリンクアーム押さえ132が設けられている。このリンクアーム押さえ132は、カバー162がリンクプレート129に固定された状態で、リンクアーム131の上板部141の上方移動を規制している。なお、カバー162は、樹脂部材である場合に限定されず、アルミニウムや銅等の他の材質であってもよい。また、カバー162を、スプリングプランジャ等によって固定してもよい。
【0126】
ローレットネジは、頭部側面にギザ状の滑り止めが形成され、カバー162の着脱の際に工具等を用いずに締緩が可能となっている。
【0127】
このように構成されたマーキングトルクレンチ163において、トグル機構18が動作していない非動作状態のとき、トグル機構18によってトルクレンチグリップ13とトルクレンチヘッド15との固定状態が保たれ、トルクレンチヘッド15及びトルクレンチグリップ13のそれぞれの中心軸が直線上に並び、リンクアーム131が初期位置に設定されるとともにマグネット上144が初期位置に設定される。さらに、ロッド145が非動作位置に設定されてマグネット支持部146が角ドライブ120から上方に向かって突出し、スタンプ155がボルト19よりも上方に離れて位置している。なお、このスタンプ155の位置は、調整スリーブ150をロッド145に対して時計回り又は反時計回りに回転させてロッド145の上端から調整スリーブ150の下端までの長さを調整することで、係合部33に係合するボルト19又はナットの高さに合わせて適宜変更可能である。
【0128】
トグル機構18が動作すると、トルクレンチグリップ13とトルクレンチヘッド15との固定状態が解除され、トルクレンチヘッド15に対してトルクレンチグリップ13が所定角度変位する。このトルクレンチヘッド15に対するトルクレンチグリップ13の相対変位に伴って、固定ピボット128が可動ピボット130を中心にしてリンクアーム131を一方向(図6中、時計回り)に所定角度回転させる。これにより、初期位置のリンクアーム131がマーキング位置に達する。このリンクアーム131の回転移動に伴ってマグネット上144がマーキング位置に達し、マグネット下152の略真上でマグネット下152と対向する。なお、可動ピボット130と固定ピボット128との間の距離よりも、可動ピボット130とマグネット上144までの距離の方が大きくなるように設定しているため、可動ピボット130を中心としたリンクアーム131の回転移動によるマグネット上144の移動量は、リンクアーム131の他端の移動量よりも増大される。マグネット上144とマグネット下152とが対向すると、互いに磁力が作用して反発力が生じる。このとき、リンクアーム131の上方移動が規制されているため上記反発力によってマグネット上144は移動せず、マグネット下152がスプリング161の付勢力に抗してロッド145を下方移動させ、動作位置に設定する。このロッド145の下方移動に伴って中継芯154が初期位置からマーキング位置へ移動する。
【0129】
締付トルクがプレセットされたマーキングトルクレンチ163によりボルト19の締め付けを行う際の動作について説明する。
【0130】
まず、操作者は、ソケット3の係合部33にボルト19を係合する。このとき、マーキングトルクレンチ163は非動作状態、すなわち、トグル機構18によってトルクレンチグリップ13とトルクレンチヘッド15との固定状態が保たれ、リンクアーム131が初期位置に設定されるとともにマグネット上144が初期位置に設定され、ロッド145が非動作位置に設定されるとともに中継芯154が初期位置に設定され、スタンプ155がボルト19よりも上方に離れて位置している。従って、ソケット3の係合部33にボルト19を係合した状態では、ボルト19に対してインクが塗布されない。
【0131】
トルクレンチグリップ13を一方向に回転させてボルト19を締め付けていくと、締付力がプレセットされたトルクに達し、トグル機構18が動作する。トグル機構18が動作すると、トルクレンチグリップ13とトルクレンチヘッド15との固定状態が解除され、トルクレンチヘッド15に対してトルクレンチグリップ13が所定角度変位する。このトルクレンチヘッド15とトルクレンチグリップ13との相対移動に応じて、初期位置のリンクアーム131がマーキング位置に達し、このリンクアーム131の回転移動に伴ってマグネット上144がマーキング位置に移動し、マグネット上144とマグネット下152とが対向する。これにより、マグネット上144とマグネット下152との磁力が互いに作用して反発力が生じ、ロッド145が動作位置に移動する。このロッド145の動作位置への移動に伴って中継芯154が初期位置からマーキング位置へ移動し、スタンプ155の下端がボルト19の上端部に当接する。これにより、ボルト19に対してプレセットされた締付トルクで締付作業を行ったことを示すマーキングがなされる。
【0132】
ボルト19の締め付けを終了すると、トグル機構18が動作前の状態(トルクレンチグリップ13とトルクレンチヘッド15との固定状態が保たれている状態)に戻り、トルクレンチヘッド15及びトルクレンチグリップ13が上方から視て略一直線上に並ぶ。そして、リンクアーム131が初期位置に戻るとともにマグネット上144が初期位置に戻る。これにより、マグネット上144とマグネット下152との間に反発力が生じなくなり、ロッド145がスプリング161によって上方に付勢されて非動作位置に戻る。ロッド145が非動作位置に戻ることによって、中継芯154が初期位置に戻る。
【0133】
また、ローレットネジを緩めてカバー162を取り外し、インクカートリッジ本体119をトルクレンチグリップ13の上方へ移動させて、ロッド145、調整スリーブ150、中継芯154及びスタンプ155を角ドライブ120から引き抜くことによって、インクカートリッジ118の取り外しが可能である。
【0134】
本実施形態によれば、インクカートリッジ118がソケット3の反対側からトルクレンチグリップ13に装着されて、スタンプ155が角ドライブ120の貫通孔123を介してソケット3の貫通孔31へ進入している。ボルト19の締付作業時、操作者は、係合部33にボルト19を係合し、トルクレンチグリップ13を回転させてボルト19を締め付けると、ボルト19に対する締付力が所定値に達してトグル機構18が動作する。トグル機構18が動作すると、トルクレンチグリップ13がトルクレンチヘッド15に対して変位し、このトルクレンチヘッド15とトルクレンチグリップ13との相対変位の増加に応じて、リンク機構127、マグネット上144、ロッド145、調整スリーブ150及びマグネット下152がインクカートリッジ118をマーキング位置へ移動させる。インクカートリッジ118がマーキング位置にあるとき、係合部33と係合するボルト19にスタンプ155が当接してインクを塗布する。これにより、ボルト19を所定の締付力で締め付けたことを示すマーキングがボルト19に対してなされるので、適切な締め付けがなされているか否かを目視で確認できる。
【0135】
また、ソケット3が角ドライブ120の取付部122に直接装着され、スタンプ155がソケット3の貫通孔31と角ドライブ120の貫通孔123とに跨って移動するため、ソケット3内部のみでスタンプ155を移動させる場合に比べて、ソケット3の下端から上端までの距離の増大を抑えることができる。従って、係合部33に係合されたボルト19(ソケット3の下端)とトルクレンチ(ソケット3の上端)2との距離を短く設定することができ、ボルト19を比較的大きな締付トルクで締め付けることができる。
【0136】
さらに、角ドライブ120の取付部122に直接ソケット3が装着されるため、角ドライブ120とソケット3との間に他の部材を接続する場合に比べて、部品点数を低減でき、全体として軽量化を図ることができる。
【0137】
このように、ソケット3を角ドライブ120に直接装着し、スタンプ155をソケット3の貫通孔31と角ドライブ120の貫通孔123とに跨って移動させることによって、部品点数を低減でき、且つ全体として小型化及び軽量化を図ることができる。
【0138】
また、インクカートリッジ118がソケット3と反対の側でトルクレンチグリップ13に装着されているため、上記ボルト19にマーキングを行うための機能をソケット3に設ける必要がない。すなわち、一般的なソケット3を使用して、ボルト19に対するマーキングを行うことができる。
【0139】
さらに、インクカートリッジ118を、ソケット3と反対の側からトルクレンチグリップ13に着脱できるため、インクカートリッジ118のトルクレンチグリップ13への着脱の際にソケット3が邪魔になることがない。従って、インクカートリッジ118のトルクレンチグリップ13への着脱を比較的簡単に行うことができる。
【0140】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明は、被締付部材に対する締付力が所定値に達したときにトグル機構が動作してヘッド部に対して操作部が変位するトルクレンチに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】第1の実施形態におけるマーキングトルクレンチを示す図である。
【図2】第1の実施形態におけるマーキングトルクレンチの一部断面図である。
【図3】第2の実施形態のトルクレンチとリンク機構を示す図である。
【図4】第2の実施形態におけるマーキングトルクレンチを示す図である。
【図5】第2の実施形態におけるマーキングトルクレンチの一部断面図である。
【図6】第3の実施形態におけるマーキングトルクレンチを示す図である。
【図7】第3の実施形態におけるマーキングトルクレンチの一部断面図である。
【符号の説明】
【0143】
1 マーキングトルクレンチ
2 トルクレンチ
3 ソケット
4 リンク機構(連動手段)
5 マグネット上(連動手段)
6 インクカートリッジ
7 キャップ(連動手段)
8 フック(連動手段)
9 カートリッジケース(連動手段)
10 マグネット下(連動手段)
13 トルクレンチグリップ(操作部)
15 トルクレンチヘッド(ヘッド部)
18 トグル機構
19 ボルト(被締付部材)
23 貫通孔
28 ブッシュ(連動手段)
29 上端部(取付部)
31 貫通孔(連通孔)
33 係合部(係合凹部)
58 スタンプ(マーキング部)
73 インクカートリッジ
78 貫通孔(連通孔)
79 ソケット
79a 上端部(取付部)
80 貫通孔
81 係合部(係合凹部)
86 スタンプ(マーキング部)
94 リンク機構(連動手段)
117 マーキングトルクレンチ
118 インクカートリッジ
119 インクカートリッジ本体
123 貫通孔(連通孔)
127 リンク機構(連動手段)
144 マグネット上(連動手段)
145 ロッド(連動手段)
152 マグネット下(連動手段)
154 中継芯
155 スタンプ(マーキング部)
163 マーキングトルクレンチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被締結部材と係合する一端側の係合凹部と、他端側の取付部と、前記係合凹部と前記他端側とを貫通する貫通孔と、を有するソケットと、
前記ソケットの前記取付部が着脱自在に装着され該取付部を装着した状態で前記貫通孔と連通する連通孔が設けられたヘッド部と、該ヘッド部にトグル機構を介して取り付けられた操作部と、を有し、前記被締結部材に対する前記操作部からの締付力が所定値に達したときに前記トグル機構が動作して前記操作部が前記ヘッド部に対して変位するトルクレンチと、
インクを保持するマーキング部を有し、前記ソケットの反対側から前記トルクレンチに装着され、前記マーキング部は、前記連通孔を介して前記貫通孔へ進入し、前記係合凹部と係合する前記被締付部材に当接してインクを塗布するマーキング位置まで移動するインクカートリッジと、
前記トグル機構の動作による前記ヘッド部と前記操作部との相対変位の増加に応じて、前記マーキング部を前記マーキング位置へ移動させる連動手段と、を備えた
ことを特徴とするマーキングトルクレンチ。
【請求項2】
請求項1に記載のマーキングトルクレンチであって、
前記インクカートリッジは、前記ヘッド部に装着され、
前記連動手段は、前記トグル機構の動作による前記ヘッド部と前記操作部との相対変位の増加に応じて、前記インクカートリッジを前記ソケットの回転軸方向に沿って移動させる
ことを特徴とするマーキングトルクレンチ。
【請求項3】
請求項1に記載のマーキングトルクレンチであって、
前記インクカートリッジは、前記操作部に装着され、
前記連動手段は、前記トグル機構の動作による前記ヘッド部と前記操作部との相対変位の増加に応じて、前記インクカートリッジを前記ソケットの回転軸と直交する方向に移動させる
ことを特徴とするマーキングトルクレンチ。
【請求項4】
請求項1に記載のマーキングトルクレンチであって、
前記インクカートリッジは、前記操作部に固定されるインクカートリッジ本体と、該インクカートリッジ本体と前記マーキング部とを接続する中継芯と、を有し、
前記連動手段は、前記トグル機構の動作による前記ヘッド部と前記操作部との相対変位の増加に応じて、前記中継芯を移動させる
ことを特徴とするマーキングトルクレンチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−155316(P2010−155316A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335355(P2008−335355)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】