説明

メルカプトアルキルホスホニウム化合物の製造法

【課題】メルカプトアルキルホスホニウム化合物を製造する方法において、煩雑な操作を必要とせずに従来よりも収率よくメルカプトアルキルホスホニウム化合物を製造する方法を提供する。
【解決手段】ハロゲノアルキルホスホニウム化合物とチオ尿素を反応させてイソチウロニウム塩を合成し、次いでアルカリ分解することにより、容易に単離可能でかつ高収率でメルカプトアルキルホスホニウム化合物が製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メルカプトアルキルホスホニウム化合物の製造法に関するものである。メルカプトアルキルホスホニウム化合物は、各種有機化合物の合成中間体として有用な化合物であり、またフェノール類とケトン類を反応させてビスフェノールを製造する際の助触媒としても有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
メルカプトアルキルホスホニウム化合物の合成法については、報文Archives of Biochemistry and Biophysics、Vol.322、P.60(1995)でメルカプトブチルトリフェニルホスホニウムブロミドの合成法が報告されている。この中ではチオ酢酸と4−ブロモ−1−ブテンを反応させて4−ブロモブチルチオールアセテートを合成し、次いでこれにトリフェニルホスフィンを反応させた後、アルカリ分解してメルカプトブチルトリフェニルホスホニウムブロミドを得ている。この方法では、製造設備にチオ酢酸の臭気を除外する設備が必要になり、また中間体のブロモブチルチオールアセテートはカラムクロマトグラフィーなどで精製する必要がある。更に精製したブロモブチルチオールアセテートとトリフェニルホスフィンを反応させた後も精製するために−20℃に冷却するなど、操作が非常に煩雑である。またこの方法における収率はアルカリ分解前で35〜45%と低く、仮にアルカリ分解工程が効率よく出来たとしても、チオ酢酸や4−ブロモ−1−ブテンに対する収率が悪く、工業的に生産するにはなお改良の余地がある。
【0003】
またメルカプトアルキルホスフィン化合物の合成法については、特開昭50−42024にメルカプトブチルジエチルホスフィンの合成法が報告されている。この中では4−ブロモ−1−ブテンからグリニア試薬を合成し、それにジエチルクロルホスフィンを反応させた後、加水分解、蒸留を経てジエチル(3−ブテニル)ホスフィンを得る。これにチオ酢酸を水銀ランプ照射下で反応させ、更にアルカリ分解を経てメルカプトブチルジエチルホスフィンを得ている。この方法は工程数が多いだけでなく操作が非常に煩雑であるが、この方法を利用してメルカプトアルキルホスホニウム化合物を合成しようとすると、メルカプトアルキルホスフィンを更にホスホニウム化することが必要となる。
【非特許文献1】Archives of Biochemistry and Biophysics、Vol.322、P.60(1995)
【特許文献1】特開昭50−42024
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はメルカプトアルキルホスホニウム化合物を製造する方法において、煩雑な操作を必要とせずに従来よりも収率よくメルカプトアルキルホスホニウム化合物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ハロゲノアルキルホスホニウム化合物とチオ尿素を反応させてイソチウロニウム塩を合成し、次いでイソチウロニウム塩からチオールを合成することにより、容易に単離可能でかつ高収率でメルカプトアルキルホスホニウム化合物が製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法によれば、入手が容易でかつ安価な原料を用いて、中間体の精製等の煩雑な操作を必要とせず、高収率で高純度のメルカプトアルキルホスホニウム化合物を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において用いるハロゲノアルキルホスホニウム化合物は市販されているものを用いても構わないが、第3級ホスフィンとジハロゲノアルカンの反応で容易に得ることができる。例えばTetrahedron Letters、P.5(1979)やTetrahedron、Vol.37、P.2861(1981)では、トリフェニルホスフィンとジハロゲノアルカンを反応させて、ブロモプロピルトリフェニルホスホニウムブロミドやブロモブチルトリフェニルホスホニウムブロミドが収率80%以上で得られることが示されており、このような方法を用いても構わない。
【0008】
本発明におけるハロゲノアルキルホスホニウム化合物とチオ尿素の反応では、用いるチオ尿素はハロゲノアルキルホスホニウム化合物に対して当量以上の量を用いるのが好ましいが、通常は2当量以下、更には1.5当量以下が好ましい。反応溶媒としてはハロゲノアルキルホスホニウムおよびチオ尿素をよく溶解するものであれば特に限定されないが、アルコールや水などを用いればよい。反応温度は30℃〜110℃が好ましく、更には50℃〜100℃で行うのが好ましい。
【0009】
ハロゲノアルキルホスホニウムとチオ尿素の反応により生成したイソチウロニウム塩からチオールを生成させる反応においては、チオールを効率よく生成すればどのような条件でも構わないが、好ましくはアルカリ条件下で行い、用いるものとして水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属水酸化物や、アンモニア、水酸化アンモニウム、アミン等が上げられるがいずれのものを用いても構わない。アルカリ条件下で反応する場合、用いるアルカリの量はイソチウロニウム塩に対して当量以上を用いるが、好ましくは2当量以上を用いる。用いる溶媒としてはイソチウロニウム塩が溶解するものであれば特に限定されないが、好ましくは水を用いる。反応温度は0℃〜100℃が好ましく、更には0℃〜60℃で行うのが好ましい。
【0010】
チオール生成後の処理は、メルカプトアルキルホスホニウム化合物が単離できればどのような方法でも構わない。チオール生成後に固体が析出するようであれば濾過、洗浄、乾燥等の処理でも構わない。また抽出溶媒を用いて抽出してもよく、抽出溶媒としてはメルカプトアルキルホスホニウムをよく溶解するものであれば特に限定されないが、好ましくはクロロホルムまたは塩化メチレンを用い、その後抽出溶媒を留去し目的物を得ることができる。
【0011】
[実施例]
以下、本発明を実施例により、更に具体的に説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0012】
(1)(4−ブロモブチル)トリフェニルホスホニウムブロミドの合成
トリフェニルホスフィン20g、1,4−ジブロモブタン16.5gをトルエン50ml中に溶解し16時間還流を行った。その後濾過して得られた固体をトルエンで洗浄し、乾燥して32.1gの(4−ブロモブチル)トリフェニルホスホニウムブロミドを得た。トリフェニルホスフィンおよび1,4−ジブロモブタンに対する収率はいずれも88%であった。
【0013】
(2)(4−メルカプトブチル)トリフェニルホスホニウムブロミドの合成
(1)で得た(4−ブロモブチル)トリフェニルホスホニウムブロミド11.0g、チオ尿素1.75gを250mlのエタノールに溶解し、約8時間還流を行った。この溶液から約170mlのエタノールを留去し、更に0℃に冷却、放置した後に濾過して得られた固体をクロロホルムで充分に洗浄、乾燥し、イソチウロニウム塩を得た。このイソチウロニウム塩のすべてを充分に脱気したイオン交換水230ml中に溶解し、この中に1.6%水酸化ナトリウム水溶液50mlを、窒素雰囲気下で滴下した。その後、窒素雰囲気下で60℃、2時間攪拌した後室温まで冷却し、この中に5.6%HBr水溶液20mlを添加した。この水相に120mlのクロロホルムを加えて抽出する操作を4回繰り返し、すべてのクロロホルム相を一緒にし、脱溶媒して白色結晶6.0gを得た。この白色結晶のH−NMR測定およびLC−MS測定を行ったところ、(4−メルカプトブチル)トリフェニルホスホニウムブロミドが98%の純度であった。ブロモブチルトリフェニルホスホニウムに対する収率は59%であった。したがってトリフェニルホスフィンおよび1,4−ジブロモブタンに対する収率は52%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲノアルキルホスホニウム化合物とチオ尿素を反応させてイソチウロニウム塩を生成させ、次いでこのイソチウロニウム塩からチオールを生成することを特徴とするメルカプトアルキルホスホニウム化合物の製造法。
【請求項2】
メルカプトアルキルホスホニウム化合物がメルカプトブチルトリフェニルホスホニウム化合物である請求項1記載のメルカプトアルキルホスホニウム化合物の製造法。