説明

モジュール構造物、モジュール工法

【課題】設備機器部品を小部屋内の設計箇所において仮支持するとともに、床面との干渉を最小限に抑制し、床面の塗装等、床面に関する作業を効率的に行うことが可能なモジュール構造物及びモジュール工法を提供する。
【解決手段】プラントを構成する小部屋104に配置する設備機器部品14を吊り下げ可能とされ、前記設備機器部品14の前記小部屋104内の設計上の配置位置に対応して長さが調整されたワイヤーロープ16と、前記小部屋104に配置されるとともに前記ワイヤーロープ16が取り付けられることにより前記設備機器部品14を吊り下げるビーム12と、を備え、前記設備機器部品14を前記配置位置に仮支持可能とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モジュール構造物及び前記モジュール構造物を用いたモジュール工法に関わり、特に原子力発電などのプラント建設に好適なモジュール構造物及びモジュール工法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントなどのプラントは、鉄筋コンクリート構造の建屋であり、設備機器毎など複数の小部屋に区分けされている。従来のプラントの建設工法は、大別すると、プラント建屋を設備機器の取り付け毎など任意に区分けした小部屋を複数形成する工程と、形成した各小部屋内に据え付ける配管・設備機器の取り付け工程がある。
【0003】
図12、図13、図14に従来技術のプラントの建設工程の説明図を示し、図12(a)は側壁打設工程、図12(b)は設備機器搬入工程、図12(c)は設備機器部品搬入工程、図13(a)は足場建設工程、図13(b)は天井打設工程、図13(c)は吊り具取り付け工程、図14(a)は足場撤去工程、図14(b)は塗装工程である。
【0004】
図12(a)に示すようにプラント建屋を区分けした小部屋104は、コンクリートによる床面106の打設が完了した後、側壁108を形成するための作業用足場130を組み立てる。そしてコンクリートによる側壁108の打設が完了した後、作業用足場130を撤去する。次に図12(b)に示すように天井面から大型クレーンを用いて小部屋104内に設置する設備機器110を搬入し、図12(c)に示すように、配管等の設備機器部品14を搬入する。
【0005】
そして、図13(a)に示すように、天井作業用の足場132を設置するとともに、設備機器部品14を足場132に配置する。次に図13(b)に示すように小部屋104の天井面にコンクリートを枠型に打設して天井134を形成する。そして、図13(c)に示すように天井134に吊り具136を取り付ける。
【0006】
次に図14(a)に示すように、設備機器部品14を吊り具136により吊り下げるとともに、吊足場138を吊り具136に吊り下げる。また既に取り付けた足場132(または吊足場138)を用いて、小部屋104の側壁108の塗装を行なったのち、足場132を撤去する。
【0007】
そして図14(b)に示すように床面106や腰壁(側壁108)の塗装を行なう。このように小部屋104においては、設備機器部品14を設備機器110に本設する前に小部屋104の床面106や側壁108に塗装を施している。
このような従来の建設工法では次のような課題があった。
【0008】
(1)小部屋104の側壁108を施工した際のコンクリート壁打設用の作業用足場130が屋内に残っているため、天井面の開口スペースが小さくなる。従ってコンクリート壁打設用の作業用足場130と大型クレーンで吊り下げられた設備機器部品14が互いに干渉してしまい小部屋104内に搬入する物量が制約されてしまう。また1回の搬入量が制限されるため、大型クレーンを用いた搬入を複数行わなければならない場合がある。
【0009】
(2)側壁108の近辺に設備機器110を取り付ける際に、予め設置したコンクリート壁打設用の作業用足場130を移動させてから取り付け作業を行わなければならず、作業用足場130を移動する作業が多発する。このような足場の移動は解体及び組み立てを行うことがあり、建築工程が一端中断してしまう。
【0010】
(3)大型クレーンによる搬入は、設備機器部品14を一時的に床面106に仮置きしている。このため設備機器110の施工が進むに従って仮置きする場所が確保できなくなり前述同様に建築工程が一端中断してしまう。
このように従来の建設工法ではコンクリートの打設期間と設備機器110の搬入期間が重なり、建設工程に大きく影響していた。
【0011】
一方、建設工期を短縮化するために予め設備機器部品を取り付けたモジュール構造物を適用した建設工法がある。このようなプラント設備の建設工法として特許文献1、2が開示されている。
【0012】
特許文献1に開示された配管モジュール工法は、予め外部の工場で機器、配管等を構造体に組み付けてユニット化しておき、機器室の床を施工した後、ユニットを搬送して、据え付けし、配管、空調ダクト等を連結させて、工事の簡素化、迅速化を図っている。
【0013】
特許文献2に開示された配管モジュール工法は、天板に吊下手段を介して構成部品を吊るし、構成部品の吊下状態を保ちながら、走行用レールを移動し、クレーンで引き上げて設置場所に移送している。
【0014】
しかしながら特許文献1に開示の配管モジュール工法は、工場で本設の操作架台に各種の機器類、配管類を設計箇所に組み付けて本設し、現場に搬入して、配管モジュールごと溶接等により固定している。このため、小部屋において本設の操作架台が計画されていない現場には、配管を正規の位置に設定することができず、モジュール工法が適用することができないエリアが多々あった。また工場からの搬送できるモジュールの大きさ、重量に制約があること、及び搬送コストの上昇等の問題があった。
【0015】
特許文献2に開示の配管モジュール工法は、吊下手段で構成部品を吊り下げることにより、構成部品の転倒防止用の部材や仮設補強材を設ける必要がなく、形成又は分解の手間を省略化させることができる。しかし吊下手段は、上下に重なる構成部品を吊り下げることができないため、適用が限定されてしまうという問題がある。また構成部品の重なりが多い場合には、位置合わせの精度が得られない問題があった。
【0016】
図15に特許文献3のモジュール構造物の説明図を示す。特許文献1、特許文献2の問題点を解決するため、特許文献3においては、小部屋に配置する設備機器部品14を設計箇所に仮支持し、前記設備機器部品14の取り付け及び前記小部屋を形成するための足場を構成するサポート部材202と、前記サポート部材202を固定するとともに、前記小部屋の内部空間に搬入可能な箱状のフレーム204と、を備えたモジュール構造物200が開示されており、同様の技術が特許文献4または5にも開示されている。
【0017】
このサポート部材202及びフレーム204によるモジュール構造物200は、小部屋に配置すると既に床面に配置された設備機器との干渉を回避しつつ自立する。よって、このモジュール構造物200に支持された設備機器部品14は、小部屋内の設計箇所において仮支持されることになる。
【0018】
特許文献3のモジュール構造物200は、設備機器部品14を仮支持しているため、小部屋に搬入して本設する際に埋込金物等の基礎や、既設配管との位置調整をすることが容易である。またモジュール構造物200のサポート部材202は、設備機器部品14を仮支持すると共に、据付作業及び建設兼用の足場を構成しているため、前記据付けと平行して小部屋の施工作業を行うことができると共に、据え付け箇所に新たに足場を設ける必要がなく、建設工期の短期化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開昭62―228975号公報
【特許文献2】特開2000−72379号公報
【特許文献3】特開2010−275782号公報
【特許文献4】特開2003−13621号公報
【特許文献5】特開2003−41661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかし、特許文献3のモジュール構造物200を用いた場合、小部屋における設備機器部品14の設備機器110への本設の前にモジュール構造物200を足場として小部屋の側壁や床面を塗装する工事をすることになるが、モジュール構造物200を構成するサポート部材202やフレーム204が小部屋の床面に多数配置されることになるので、塗装工事が困難になる、という問題があった。
【0021】
そこで、本発明は上記問題点に着目し、設備機器部品を仮支持するとともに、床面の塗装する工事を容易に行うことが可能なモジュール構造物及びモジュール工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するため、本発明に係るモジュール構造物は、第1には、プラントを構成する小部屋に配置する設備機器部品を吊り下げ可能とされ、前記設備機器部品の前記小部屋内の設計上の配置位置に対応して長さが調整された吊り下げ手段と、前記小部屋に配置されるとともに前記吊り下げ手段が取り付けられることにより前記設備機器部品を吊り下げるビームと、を備え、前記設備機器部品を前記配置位置に仮支持可能とすることを特徴とする。
上記構成により、設備機器部品及び設備機器部品を吊り下げる吊り下げ手段を小部屋の床面から浮かせることができるので、床面の塗装工事を容易に行うことができる。
【0023】
第2には、前記ビームは、前記小部屋の側壁に配置され、前記小部屋の内部空間側に露出した支持部材により支持されたことを特徴とする。
上記構成のように、ビームを支持部材により支持することにより、従来技術のように設備機器部品を仮支持するサポート部材が床面に多数配置されることはないので、床面の塗装工事を容易に行うことができる。
【0024】
第3には、前記ビームには、第2のビームが吊り下げられ、前記吊り下げ手段は、前記ビーム及び前記第2のビームに取り付けられたことを特徴とする。
上記構成により、第2のビームが小部屋で設置される高さより低い設置位置となる設備機器部品を第2のビームに吊り下げることができ、これにより、吊り下げ手段の長さを短くして、設備機器部品の揺れを小さくし、破損の虞を低減することができる。
【0025】
第4には、前記ビームは、前記ビームに接続され、前記小部屋の床面に立設可能な支柱により支持されたことを特徴とする。
上記構成のように、ビームを支柱により支持することにより、側壁に特別な工事を施すことなく設備機器部品を仮支持可能となるとともに、床面の塗装工事を容易に行うことができる。
【0026】
第5には、前記支柱の前記ビームより低くなる位置には第2のビームが接続され、前記吊り下げ手段は、前記ビーム及び前記第2のビームに取り付けられたことを特徴とする。
上記構成により、第2のビームが小部屋で設置される高さより低い設置位置となる設備機器部品を第2のビームに吊り下げることができ、これにより、吊り下げ手段の長さを短くして、設備機器部品の揺れを小さくし、破損の虞を低減することができる。また支柱を第2のビームにより連結することになるのでモジュール構造物の剛性を高め、設備機器部品を多数吊り下げることができる。
【0027】
第6には、前記ビームは、前記小部屋の側壁に配置され、前記小部屋の内部空間側に露出した支持部材、及び、前記ビームに接続され、前記小部屋の床面に立設可能な支柱により支持されたことを特徴とする。
例えば側壁の一方が未だ打設中であったり、養生期間が短く強度が確保できない場合には、上記構成のように、側壁の他方のみに支持部材を配置してビームの長手方向の一端を支持部材により支持し、他端を支柱により支持することができる。よって側壁の形成状況に応じてビームの支持方法を変更することができる。
【0028】
第7には、前記ビームの長手方向の中央部は、前記小部屋の床面に配置された第2の支柱により支持されたことを特徴とする。
上記構成により、ビームの撓みを防止して設備機器部品をビームに多数吊り下げることができる。
【0029】
第8には、前記設備機器部品の真下に配置される第2の設備機器部品と、前記設備機器部品上を跨ぐように配置され前記第2の設備機器部品を支持するとともに前記吊り下げ手段により吊り下げられるフレームと、を備えることを特徴とする。
上記構成により、設備機器部品と、第2の設備機器部品との鉛直方向の干渉を考慮することなく、両者を独立にビームに吊り下げることができる。
【0030】
一方、本発明に係るモジュール工法は、第1には、プラントを構成する小部屋に搬入する設備機器部品の前記小部屋内の設計上の設置箇所に対応するように長さが調整された吊り下げ手段により前記設備機器部品を吊り下げるとともに、前記吊り下げ手段をビームに取り付け、前記設備機器部品が吊り下げられた状態で前記ビームを前記小部屋に搬入することにより、前記設備機器部品を前記設置箇所に仮支持することを特徴とする。
上記構成により、設備機器部品及び設備機器部品を吊り下げる吊り下げ手段を小部屋の床面から浮かせることができるので、床面の塗装工事を容易に行うことができる。
【0031】
第2には、前記ビームを、前記小部屋の側壁に配置され、前記小部屋の内部空間側に露出した支持部材、および/もしくは、前記ビームに接続され、前記小部屋の床面に立設可能な支柱により支持することを特徴とする。
【0032】
ビームを支持部材により支持する場合は、従来技術のように設備機器部品を仮支持するサポート部材が床面に多数配置されることはないので、床面の塗装工事を容易に行うことができる。またビームを支柱により支持する場合は、側壁に特別な工事を施すことなく設備機器部品を仮支持可能となるとともに、床面の塗装工事を容易に行うことができる。さらに、例えば側壁の一方が未だ打設中であったり、養生期間が短く強度が確保できない場合には、側壁の他方のみに支持部材を配置してビームの長手方向の一端を支持部材により支持し、他端を支柱により支持することができる。よって側壁の形成状況に応じてビームの支持方法を変更することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る、モジュール構造物及びモジュール工法によれば、設備機器部品を小部屋内の設計箇所において仮支持するとともに、床面との干渉を最小限に抑制することができるので、床面の塗装等、床面に関する作業を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】原子力発電プラントの説明図である。
【図2】第1実施形態のモジュール構造物の説明図である。
【図3】第1実施形態のモジュール構造物を用いた建設工法の説明図であり、図3(a)は組み立て工程、図3(b)は搬送工程である。
【図4】第1実施形態のモジュール構造物を用いた建設工法の説明図であり、図4(a)は玉掛け工程、図4(b)は吊り上げ工程である。
【図5】第1実施形態のモジュール構造物を用いた建設工法の説明図であり、図5(a)は吊り込み工程、図5(b)はビームの設置工程である。
【図6】第2実施形態のモジュール構造物の説明図である。
【図7】第3実施形態のモジュール構造物の説明図である。
【図8】第4実施形態のモジュール構造物の説明図である。
【図9】第1実施形態のモジュール構造物の第1変形例の説明図である。
【図10】第1実施形態のモジュール構造物の第2変形例の説明図である。
【図11】第1実施形態のモジュール構造物の第3変形例の説明図である。
【図12】従来技術のプラントの建設工程の説明図であり、図12(a)は側壁打設工程、図12(b)は設備機器搬入工程、図12(c)は設備機器部品搬入工程である。
【図13】従来技術のプラントの建設工程の説明図であり、図13(a)は足場建設工程、図13(b)は天井打設工程、図13(c)は吊り具取り付け工程である。
【図14】従来技術のプラントの建設工程の説明図であり、図14(a)は足場撤去工程、図14(b)は塗装工程である。
【図15】特許文献3のモジュール構造物の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
本発明のモジュール構造物及び建設工法の実施形態を添付の図面を参照しながら、以下詳細に説明する。
【0036】
図1は原子力発電プラントの説明図である。図2は第1実施形態に係るモジュール構造物の説明図である。図1に示すように、本発明のモジュール構造物の搬入対象となるプラントの一例として、原子力発電プラント100を対象として以下説明する。原子力発電プラント100は、中心部の原子炉圧力容器102のほか多数の設備機器110から構成されており、原子炉圧力容器102の周囲には、設備機器110毎など複数に区分けされた小部屋104が形成されている。小部屋104には、各種の設備機器110および多数の配管(設備機器部品14)が取り付けられる。小部屋104は、初め床面106(図2参照)と側壁108(図2参照)がコンクリート等により打設され、設備機器110及び設備機器部品14の搬入が完了すると天井が打設され、その後小部屋104内部の塗装工事がなされる。
【0037】
第1実施形態のモジュール構造物10は、水平方向に延びるビーム12に設備機器部品14が載置、若しくは吊り下がった形状を有している。ビーム12は、その水平方向に延びる長手方向が小部屋104内に収まる程度の寸法を有し、曲げ応力に対する剛性の高い例えばトラス構造を有する部材により形成されている。
【0038】
吊り下げ手段となるワイヤーロープ16は、チェーン等で形成され、一端がビーム12に接続されている。そしてワイヤーロープ16の他端は、設備機器部品14に接続される。設備機器部品14は、ワイヤーロープ16に吊り下げられて、小部屋104内で仮支持されるものである。そして、ワイヤーロープ16の長さを調整することにより、設備機器部品14をその設計上の設置位置に仮支持することができる。また一つの設備機器部品14の異なる位置にワイヤーロープ16をそれぞれ接続することにより、設備機器部品14の高さ位置のみならず、その向きも固定することができる。吊足場18は、水平方向に長手方向を有し、小部屋104における設備機器部品14の設備機器110への本設時や側壁108の塗装時の足場として用いられ、吊チェーン20によりビーム12から吊り下げられている。
【0039】
一方、小部屋104の側壁108には支持部材22が配置されている。支持部材22は、小部屋104の側壁108に埋め込まれる埋め込み部材である。支持部材22は、作業者がビーム12上を歩行できるスペースを確保できる程度に天井面から低くなる位置において埋め込まれるとともに、小部屋104の内部空間に露出するように配置される。また支持部材22は、例えば小部屋104の互いに対向する一対の側壁108において、高さが互いに一致するように配置される。そして支持部材22の上面にビーム12の長手方向の両端が乗る形で、ビーム12は支持部材22に支持される。なお、支持部材22は、側壁108のコンクリートによる打設と共に配置することが望ましい。そして、図2において支持部材22は一対配置されているが、小部屋104に搬入するビーム12の本数に対応して複数配置される。
【0040】
図3、図4、図5に第1実施形態のモジュール構造物を用いた建設工法の説明図であり、図3(a)は組み立て工程、図3(b)は搬送工程、図4(a)は玉掛け工程、図4(b)は吊り上げ工程、図5(a)は吊り込み工程、図5(b)はビームの設置工程を示す。
【0041】
次に、本実施形態のモジュール構造物10を組立・搬入する工程について説明する。モジュール構造物10は小部屋104のある原子力発電プラント100とは別の工場112等で組み立てられたのち輸送用の車両120により搬送され、大型クレーンにより小部屋104に搬送される。
【0042】
工場112では、ビーム12及び設備機器部品14を吊り上げる天井クレーン114、モジュール構造物10を組み立てる際、及び搬送する際にビーム12を支持する支柱116、支柱116が立設される定盤118が配置されている。
まず図3(a)に示すように、定盤118上に支柱116を立設する。そしてあらかじめ吊足場18を取り付けたビーム12を天井クレーン114により吊り上げ、支柱116に支持・接続する。
【0043】
次に、設備機器部品14を吊り上げ、設備機器部品14の設計箇所に仮支持するように長さが調整されたワイヤーロープ16を用いて、設備機器部品14をビーム12に吊り下げる。その際、設備機器部品14の向きも固定できるように一つの設備機器部品14の互いに異なる位置においてそれぞれワイヤーロープ16を接続して吊り下げる。
【0044】
なお、設備機器部品14のうち、小部屋での設計箇所がビーム12より高くなるものは、ビーム12を吊り上げる前にビーム12上に結束手段(不図示)等を用いて取り付けておく。そして、吊足場18、設備機器部品14、支柱116、ビーム12からなる構造物を天井クレーン114により吊り上げ輸送用の車両120の荷台に載置し、小部屋104(大型クレーンが設置された場所)まで搬送する(図3(b))。
【0045】
一方、小部屋104においては、図5(a)に示すように、小部屋104の側壁108の打設の際にビーム12の支持位置に対応する高さ位置に支持部材22を埋め込み、支持部材22を側壁108に固定させる。また小部屋104にはモジュール構造物10が支持する設備機器部品14の接続先となる設備機器110を搬入する。
【0046】
次に、図4(a)に示すように、大型クレーン(クレーンフック122)の届く位置に輸送用車両が到着すると大型クレーンによる玉掛け工程となる。玉掛け工程では、大型クレーンの先端のクレーンフック122に係留されるワイヤーロープ124により長手方向の両端が支持され長手方向が水平に保たれる天秤126と、天秤126の長手方向の互いに異なる位置にそれぞれ取り付けられた複数のチェーンブロック128を用いる。
【0047】
ワイヤーロープ124、天秤126、チェーンブロック128が一体となった状態でクレーンフック122にワイヤーロープ124を係留させるとともにチェーンブロック128をビーム12に接続する。そして図4(b)に示すように、ビーム12と支柱116との接続を解除した上でビーム12を、吊足場18及び設備機器部品14とともに吊り上げ、図5(a)に示すように、小部屋104の真上まで運ぶ。
【0048】
そして、図5(b)に示すように、クレーンフック122を吊り下げて、ビーム12を支持部材22上に載置・接続する。この状態でビーム12とチェーンブロック128との接続を解除するとともに、設備機器部品14を既に搬入された設備機器110に仮止めすることにより、モジュール構造物10を組立・搬入する工程は終了する。これにより、設備機器部品14は、小部屋104内の設計箇所において仮支持される。
【0049】
その後は、ビーム12や吊足場18を足場として天井の設置工事を行なったり、床面106、側壁108等の塗装工事を行なうことができる。このように、ビーム12を支持部材22により支持することにより、従来技術のように設備機器部品14を仮支持するサポート部材が床面に多数配置されることはないので、床面106の塗装工事を容易に行うことができる。
【0050】
図6に第2実施形態のモジュール構造物の説明図を示す。第2実施形態のモジュール構造物30は、第1実施形態のビーム12、吊足場18、設備機器部品14からなる構造物は共通に用いるが、小部屋104の側壁108に支持部材22を配置する代わりに、支柱32を床面106のビーム12の長手方向の両端や中央部の真下となる位置にそれぞれ立設し、ビーム12をこの支柱32により支持する構成を有している。
【0051】
本実施形態において、支柱32は支保工のように一定の強度・剛性を有するものが好ましい。そしてこの支柱32の上端にビーム12を載置・接続する。本実施形態のように、ビーム12を支柱32により支持することにより、側壁108に特別な工事を施すことなく設備機器部品14を仮支持可能となるとともに、床面106の塗装工事を容易に行うことができる。
【0052】
さらに第2実施形態のモジュール構造物30においては、ビーム12より低い高さ位置において両端が支柱32に支持された第2のビーム34を備え、設備機器部品14は第2のビーム34上に取り付け可能となっている。第2のビーム34は、第2のビーム34上に取り付けられる設備機器部品14の小部屋104内の設計箇所となるように、支柱32に接続する高さ位置が調整される。これにより、設備機器部品14のビーム12に吊り下げる個数を削減することができる。また、第2のビーム34が小部屋104で設置される高さより低い設置位置となる設備機器部品14を第2のビーム34に吊り下げることができ、これにより、ワイヤーロープ16の長さを短くして、設備機器部品14の揺れを小さくし、破損の虞を低減することができる。また支柱32を第2のビーム34により連結することになるのでモジュール構造物30の剛性を高め、設備機器部品14を多数吊り下げることができる。
【0053】
本実施形態のモジュール構造物30の搬入は、ビーム12、支柱32、第2のビーム34、設備機器部品14によるモジュール構造物30を工場112で組み立てたのち搬送し、大型クレーンで小部屋104に導入し、支柱32を床面106に立設させることにより、設備機器部品14を小部屋104内の設計箇所で仮支持することができる。
【0054】
図7に第3実施形態のモジュール構造物の説明図を示す。第3実施形態のモジュール構造物40は、第1実施形態のビーム12、吊足場18、設備機器部品14からなる構造物は共通に用い、第1実施形態の支持部材22と、第2実施形態の支柱32を用いたものである。すなわち、ビーム12の長手方向の一端は支持部材22により支持され、ビーム12の長手方向の一端の反対側の他端は支柱32により支持されている。
【0055】
小部屋104によっては設備機器110、設備機器部品14を部屋全体に配置せず、小部屋104の一部のみに配置する場合がある。また互いに対向する側壁108の一方が未だ打設中(作業用足場130が未だ配置されている)であったり、養生期間が短く強度が確保できない場合がある。
【0056】
よって、本実施形態のように、互いに対向する側壁108の他方のみに支持部材22を配置してビーム12の長手方向の一端を支持部材22により支持し、他端を支柱32により支持することができる。よって側壁108の形成状況に応じてビーム12の支持方法を変更することができる。なお、支柱32は、工場112での組み立て時にビーム12に取り付けても良いし、予め床面106に立設し、ビーム12を搬入する際にビーム12に接続しても良い。
【0057】
図8に第4実施形態のモジュール構造物の説明図を示す。第4実施形態のモジュール構造物50は、設備機器部品14の真下に配置される第2の設備機器部品52と、設備機器部品14上を跨ぐように配置され第2の設備機器部品52を支持するとともにワイヤーロープ16により吊り下げられるフレーム54と、を備える構成を有している。第2の設備機器部品52は、設備機器部品14と同等のものであるが、設備機器部品14とは別体の構成要素であり、設備機器部品14の真下の位置を設計箇所とするものである。よってビーム12と第2の設備機器部品52との間に設備機器部品14が入り込むことになるため、第2の設備機器部品14をビーム12に吊り下げることが困難となる。
【0058】
そこで本実施形態では、第2の設備機器部品52をフレーム54を介して吊り下げる。フレーム54は、棒状の部材を箱型の格子状に組み合わせたものであり、少なくとも格子の上端を構成する部材56が設備機器部品14上を跨ぐように配置される。すなわち、設備機器部品14は、フレーム54が形成する格子の内部で浮いた状態となる。一方、第2の設備機器部品52は、例えばフレーム54が形成する格子の下端となる部材58に締結手段(不図示)等を用いて固定される。そしてフレーム54にはワイヤーロープ16が接続され、ビーム12に吊り下げられる。これにより、設備機器部品14と、第2の設備機器部品52との鉛直方向の干渉を考慮することなく、両者を独立にビーム12(第2のビーム34)に吊り下げることができる。なお、第3実施形態、第4実施形態は同時に実現可能であり、第1実施形態、第2実施形態において適用可能である。
【0059】
図9に第1実施形態の第1変形例の説明図を示す。小部屋104によってはその天井までの高さが低い場合や設備機器部品14を高い位置に仮支持する必要のない場合がある。この場合は、第1変形例のように、支持部材22を側壁108の中間の高さ位置に配置し、ビーム12には吊足場18を接続しない構成とすることができる。
【0060】
図10に第1実施形態の第2変形例の説明図を示す、第2変形例においては、ビーム12の長手方向の中央部が、小部屋104の床面106に配置された第2の支柱60により支持されている。第2の支柱60は、支柱32と同様に支保工等により形成されている。第2の支柱60は工場112でのモジュール構造物10の組み立て時にビーム12に取り付けても良いし、予め小部屋104の床面106に立設してもよい。これにより、ビーム12の撓みを防止して設備機器部品14をビーム12に多数吊り下げることができる。また第2の支柱60が複数ある場合には、第2の支柱60同士を補助ビーム62により接続して第2の支柱60間での剛性を高めるとともに補助ビーム62に設備機器部品14を取り付けることができる。本変形例は、第2実施形態、第3実施形態にも適用できる。
【0061】
図11に第1実施形態の第3変形例に説明図を示す。第3変形例においては。ビーム12に吊チェーン64を用いて第2のビーム34を吊り下げ、第2のビーム34上に設備機器部品14を配置した構成となっている。このような構造物の組立は、まず、ビーム12上に設備機器部品14を取り付けるとともに吊チェーン64により第2のビーム34をビーム12に接続した状態で、ビーム12を第2のビーム34が吊り上がる直前の状態となる高さまで天井クレーン114(図3(a)参照)により吊り上げる。
【0062】
そして第2のビーム34上に設備機器部品14を取り付けてビーム12を更に吊り上げることにより第2のビーム34を吊り上げ、ビーム12を支柱116(図3(a)参照)に載置・接続する。そして、天井クレーン114を用いて別の設備機器部品14を搬入し、ビーム12または第2のビーム34にワイヤーロープ16を用いて吊り下げればよい。
【0063】
このような構成とすることにより、第2のビーム34が小部屋104で設置される高さより低い設置位置となる設備機器部品14を第2のビーム34に吊り下げることができ、これにより、ワイヤーロープ16の長さを短くして、設備機器部品14の揺れを小さくし、破損の虞を低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
設備機器部品を小部屋内の設計箇所において仮支持するとともに、床面との干渉を最小限に抑制し、床面の塗装等、床面に関する作業を効率的に行うことが可能なモジュール構造物及び建設工法として利用できる。
【符号の説明】
【0065】
10………モジュール構造物、12………ビーム、14………設備機器部品、16………ワイヤーロープ、18………吊足場、20………吊チェーン、22………支持部材、30………モジュール構造物、32………支柱、34………第2のビーム、40………モジュール構造物、50………モジュール構造物、52………第2の設備機器部品、54………フレーム、56………部材、58………部材、60………第2の支柱、62………補助ビーム、64………吊チェーン、100………原子力発電プラント、102………原子炉圧力容器、104………小部屋、106………床面、108………側壁、110………設備機器、112………工場、114………天井クレーン、116………支柱、118………定盤、120………車両、122………クレーンフック、124………ワイヤーロープ、126………天秤、128………チェーンブロック、130………作業用足場、132………足場、134………天井、136………吊り具、200………モジュール構造物、202………サポート部材、204………フレーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントを構成する小部屋に配置する設備機器部品を吊り下げ可能とされ、前記設備機器部品の前記小部屋内の設計上の配置位置に対応して長さが調整された吊り下げ手段と、
前記小部屋に配置されるとともに前記吊り下げ手段が取り付けられることにより前記設備機器部品を吊り下げるビームと、を備え、
前記設備機器部品を前記配置位置に仮支持可能とすることを特徴とするモジュール構造物。
【請求項2】
前記ビームは、前記小部屋の側壁に配置され、前記小部屋の内部空間側に露出した支持部材により支持されたことを特徴とする請求項1に記載のモジュール構造物。
【請求項3】
前記ビームには、第2のビームが吊り下げられ、前記吊り下げ手段は、前記ビーム及び前記第2のビームに取り付けられたことを特徴とする請求項2に記載のモジュール構造物。
【請求項4】
前記ビームは、前記ビームに接続され、前記小部屋の床面に立設可能な支柱により支持されたことを特徴とする請求項1に記載のモジュール構造物。
【請求項5】
前記支柱の前記ビームより低くなる位置には第2のビームが接続され、前記吊り下げ手段は、前記ビーム及び前記第2のビームに取り付けられたことを特徴とする請求項4に記載のモジュール構造物。
【請求項6】
前記ビームは、前記小部屋の側壁に配置され、前記小部屋の内部空間側に露出した支持部材、及び、前記ビームに接続され、前記小部屋の床面に立設可能な支柱により支持されたことを特徴とする請求項1に記載のモジュール構造物。
【請求項7】
前記ビームの長手方向の中央部は、前記小部屋の床面に配置された第2の支柱により支持されたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のモジュール構造物。
【請求項8】
前記設備機器部品の真下に配置される第2の設備機器部品と、
前記設備機器部品上を跨ぐように配置され前記第2の設備機器部品を支持するとともに前記吊り下げ手段により吊り下げられるフレームと、
を備えることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のモジュール構造物。
【請求項9】
プラントを構成する小部屋に搬入する設備機器部品の前記小部屋内の設計上の設置箇所に対応するように長さが調整された吊り下げ手段により前記設備機器部品を吊り下げるとともに、前記吊り下げ手段をビームに取り付け、
前記設備機器部品が吊り下げられた状態で前記ビームを前記小部屋に搬入することにより、前記設備機器部品を前記設置箇所に仮支持することを特徴とするモジュール工法。
【請求項10】
前記ビームを、前記小部屋の側壁に配置され、前記小部屋の内部空間側に露出した支持部材、および/もしくは、前記ビームに接続され、前記小部屋の床面に立設可能な支柱により支持することを特徴とする請求項9に記載のモジュール工法。

【図1】
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【図8】
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【図15】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−207430(P2012−207430A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73223(P2011−73223)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)