説明

モノクローナル抗体の抗腫瘍効果の決定方法

本発明は、前臨床的齧歯類検査におけるモノクローナル抗体の抗腫瘍効果の決定方法、及び付帯検査(side testing)の低減のための前記方法の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前臨床的齧歯類検査におけるモノクローナル抗体の抗腫瘍効果の決定方法、及び付帯検査(side testing)の低減のための前記方法の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
治療的癌処置のためのモノクローナル抗体は、費用及び時間のかかる評価処置を受ける。通常これらは、例えば代表的な腫瘍抗原又はその断片での免役化に由来し、当該腫瘍抗原に対するハイブリドーマ産生モノクローナル抗体を生み出す。さらなる調査評価の前に、時間のかかる精製処置を行わなければならず、その後、最初にインビトロにおいて(in vitro)、そしてその後前臨床的動物研究において評価される。インビトロ研究においては主に、それぞれの腫瘍抗原に対するモノクローナル抗体の結合親和性、及び前臨床的動物検査に必須であるヒト腫瘍細胞への増殖阻害が決定される。しかしながら、インビトロ腫瘍細胞増殖阻害は、常にインビボ(in vivo)異種移植片動物研究における効果と相関するわけではないことがわかっている。インビトロでの良好な抗増殖活性を有する抗体は、前臨床的インビボモデルにおいて全体的に不活性化でき、一方で、インビトロ不活性化抗体が、顕著なインビボ効果を達成し得ることがわかっている。したがって、一般的に、かかる抗体のための前臨床的動物検査は、広範に及び且つ時間がかかり、且つインビトロ研究の予測可能性が不良であるために多数の異なる抗体を検査しなければならない。したがって、前臨床的動物検査の低減、及びより時間のかからない処置は、腫瘍疾患に対するモノクローナル抗体の開発において1つの重要な課題である。
【0003】
Staquet及びGiles-Komar(Hybridoma 2006; 25: 68-74)は、モノクローナル抗体のインビボ評価の方法について記載している。彼等は、マトリゲル中のハイブリドーマをマウスへ皮下から注入した。4日後、腫瘍細胞を同じマウスに皮下から注入し、そして腫瘍増殖を経時で測定した。コントロールハイブリドーマと比較して低減した腫瘍増殖又は腫瘍無増殖により、それぞれのハイブリドーマにより産生されたモノクローナル抗体の抗増殖効果が示唆された。この方法により、非抗腫瘍活性抗体と、抗腫瘍活性抗体を区別することができる。しかしながら、この方法は、抗体間の抗増殖潜在能力の識別ができないか、又は単に不良でしかなく、当該抗体はさらにハイブリドーマから精製しなければならず、且つ、その抗増殖潜在能力のさらなる評価のために再び検査しなければならない。
【発明の概要】
【0004】
本発明の1つの態様は、以下の連続ステップ、
a)齧歯類への腫瘍細胞の適用;
b)経時的な前記齧歯類の腫瘍サイズが100mm3超までの腫瘍サイズの測定;
c)前記齧歯類へのハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体の適用;及び
d)経時的な前記腫瘍形成齧歯類の腫瘍サイズの測定、
を含んでなる、モノクローナル抗体の抗腫瘍効果の決定方法である。
【0005】
本発明による方法は、精製及びインビトロ事前選択後に行われる従来の検査及び優先順位付けと比較して、免役化後の抗腫瘍効果を有する新規な治療抗体を、同定、識別、及び優先順位付けするために、より迅速且つ効率的な手法である。
【0006】
本発明の別の態様は、前臨床的検査の低減のための前記方法の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】Staquetらによる方法(実施例1)を適用した場合、Calu−3異種移植片モデルにおける腫瘍増殖に対する抗体産生ハイブリドーマの効果。
【図2】本発明による新規な方法(実施例2)における、Calu−3異種接移植片モデルにおける腫瘍増殖に対する抗体産生ハイブリドーマの効果。
【図3】本発明の新規な方法(実施例3)における、Calu−3異種移植片モデルにおける腫瘍増殖に対する抗体産生ハイブリドーマの効果。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の1つの実施態様は、以下の連続ステップ、
a)齧歯類への腫瘍細胞の適用;
b)経時的な前記齧歯類の腫瘍サイズが100mm3超までの腫瘍サイズの測定;
c)前記齧歯類へのハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体の適用;及び
d)経時的な前記腫瘍形成齧歯類の腫瘍サイズの測定、
を含んでなる、モノクローナル抗体の抗腫瘍効果の決定方法である。
【0009】
ステップa)において、適用は、好ましくは、皮下、同所的又は静脈内注入であり、より好ましくは、皮下注入であり、腫瘍細胞はヒトであり、齧歯類は好ましくはマウス又はラット、より好ましくはマウスである。
【0010】
ステップb)において、腫瘍サイズは、100mm3と300mm3の間である。
【0011】
ステップc)において、適用は、好ましくはマトリゲル中又は中空繊維中、好ましくはマトリゲル中のハイブリドーマの皮下注入である。
【0012】
副作用のために、齧歯類を犠牲にし、且つさらに調べる、任意のさらなるステップe)が追加される。
【0013】
かかるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体は、腫瘍細胞の細胞表面に発現される腫瘍抗原に結合する抗体であり、本発明の方法において使用される。
【0014】
本明細書において使用される場合「モノクローナル抗体」なる用語は、単一のアミノ酸組成物の抗体分子調製物のことを言う。これは、それぞれの腫瘍抗原で免役化後、「ハイブリドーマ」により産生される。抗原は、免役化のために、例えばマウスもしくはラット、又はその他の動物に任意の好適な手段で導入されてよい。好ましくは、動物は、単独又は適切な免疫調節剤(例えば、CFA)との組合せで、脾臓内、静脈内、腹腔内、皮内、筋肉内、皮下から免疫化される。各々の抗原の用量は、好ましくは、1〜500μgの範囲である。得られるマウスリンパ球を、単離し、そしてハイブリドーマ作製のための標準的プロトコールに基づき、PEG又は電気融合を用いて、ヒトもしくは異種骨髄腫細胞と融合させる。電気融合は、電場の影響により引き起こされ、且つ新規で生存可能な生細胞を創出するための完全な構造(構造、膜、細胞小器官、細胞原形質)を含む、同種もしくは異種起源の2以上の細胞の融合のための、細胞の広範囲のスペクトルのための利用可能である、細胞膜の可逆的な構造的電荷に基づく。これは、本発明による方法に適するハイブリドーマ産生モノクローナル抗体をもたらす。
【0015】
本明細書で使用される場合、「結合」又は「特異的結合」なる用語は、インビトロアッセイにおける、好ましくはCHO細胞発現野生型抗原での細胞ベースのELISAにおける、腫瘍抗原のエピトープへの抗体の結合のことを言う。結合は、10-8M以下、好ましくは10-13M〜10-9Mの結合親和性(KD)のことを意味する。抗原への抗体の結合は、BIAcoreアッセイ(Pharmacia Biosensor AB, Uppsala, Sweden)により調べることができる。結合の親和性は、ka(抗体/抗原複合体から抗の抗体の結合速度定数)、kD(解離定数)、及びKD(kD/ka)なる用語により定義される。
【0016】
本発明による方法は、複数の理由から精製抗体の従来的な検査よりも改善を呈する(表1も参照されたい):抗体精製前の優先順位付けにより、最も有効で、最も注目されるハイブリドーマのみがさらなる特徴付けのために精製されるだけでよく、これは、(多くの精製抗体が試験されなければならない場合と比較して)抗体精製数の顕著な低減を意味し、新規な治療抗体の開発を加速し、且つ治療抗体開発のために必要な一般的な検査労力を低減させる。低産生性ハイブリドーマの抗体は、さらなる評価については無視されることが多く(この無視は、十分に精製された抗体の取得を困難にさせるハイブリドーマの作製率が低いことに起因し、治療的特性に起因するものではない)、治療特性の評価のためにより容易に利用可能である。
【0017】
【表1】

【0018】
本発明のさらなる態様は、前臨床齧歯動物検査の低減のための方法であり、
a)ハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体の抗腫瘍効果の評価のために、上記のモノクローナル抗体の抗腫瘍効果の決定のための方法を使用すること、及び
b)1〜3つのモノクローナル抗体、好ましくは1つのモノクローナル抗体を、さらなる前臨床的評価のために優先順位付けすること、
を特徴とする。
【0019】
かかるさらなる前臨床評価は、同じか又はその他のいずれかの前臨床的動物検査においてなされることができる。早期の優先順位付けの本方法を用いることにより、前臨床動物検査において精製抗体の広いスペクトルを広く検査するかわりに、少数のモノクローナル抗体薬物候補だけを、さらなる前臨床動物検査において評価するだけでよい。すなわち、齧歯類における前臨床動物検査のうち最大50%までの低減が達成できる。
【0020】
以下の例及び図は、本発明の理解の支援のために提供され、本発明の真の範囲は、添付の請求の範囲に示される。修正は本発明の要旨から逸脱することなく示される手法で行うことができる。
【実施例1】
【0021】
ヒト肺腫瘍異種移植片における抗HEE3抗体産生ハイブリドーマの効果(Sraquetらの方法)
【0022】
Staquet及びGiles-Komarにより発表された方法に基づき、HER3に対する抗体を産生する4つの異なるハイブリドーマを、メスのBALB/cヌードマウスに注入した。ハイブリドーマ(5×10e5)を100マイクロリッターのマトリゲルと4℃で混合し、すぐに肩領域に皮下注入した。Ag8細胞をコントロールとして容易した。その一週間後、細胞表面上でのHer3抗原を発現するCalu−3腫瘍細胞(5×10e6/100マイクロリッター)を反対の方に皮下から注入した。その後、腫瘍容量を10日間キャリパーで観測した。
【0023】
図1は、ハイブリドーマから分泌される抗体が腫瘍増殖を抑制することを示唆する。しかしながら、腫瘍容量に基づき、差異が測定されないため、抗腫瘍効果に関して異なるハイブリドーマの優先順位付けすることができない。
【実施例2】
【0024】
ヒト肺腫瘍異種移植片における抗HER3抗体産生ハイブリドーマの効果(新規な最適方法)
【0025】
Calu−3腫瘍細胞(5×10e6/100マイクロリッター)をメスBalb/cヌードマウスに皮下注入した。44日後、腫瘍保持マウスを無作為化し、そして異なる群に分割した。腫瘍容量の平均は130mm3であった。StaquetとGiles-Komarにより記載された方法とは対照的に、ハイブリドーマ産生抗Her3抗体は、マトリゲルと混合され、腫瘍細胞注入とは逆の部位に皮下注入された。さらに、2つのハイブリドーマ(クローン31及びクローン33)をこの実験に含めた。抗原Ag8細胞をハイブリドーマコントロールとして使用した。
【0026】
図2は、23日後、ハイブリドーマクローン33、12及び29の注入が、最も強力な抗腫瘍効果を誘導することを実証する。対照的に、クローン18、30、及び31は、腫瘍の増殖に効果を発揮せず、予想通り、ハイブリドーマAg8を無効化した。この最適化方法は、その抗腫瘍効果に関して異なるハイブリドーマの選択を可能にする。
【0027】
図1と図2の比較は、新規な方法は、Staquet及びGiles-Komarにより、記載される方法よりも優れていることを実証する。この出願は、確立した腫瘍を保持するマウスへのハイブリドーマの注入についての記載があり、ハイブリドーマにより分泌される抗体の効果について、臨床的状況をより適切に反映して結論を出すことができる。
【実施例3】
【0028】
ヒト肺腫瘍異種接合片におけるハイブリドーマ上清から精製された抗体の抗腫瘍効果の評価
【0029】
本実施例では、治療抗体の開発のための従来のアプローチについて記載し、且つ実施例2において記載された実験の結果を補助する。
【0030】
Her3抗原に対する抗体は、6つの異なるハイブリドーマの上清から精製されている。これらの抗体を、関連する異種移植片における抗腫瘍活性について試験した。
【0031】
Calu−3腫瘍細胞(5×10e6/100マイクロリッター)をメスBalb/cヌードマウスに皮下注入した。35日後、腫瘍保持マウスを無作為化し、そして異なる群に分割した。腫瘍容量の平均は80mm3であった。マウスに、腹腔内注入により異なる抗体を、1週間に1回、5週間の処置をした。腫瘍容量を、全研究期間にわたってキャリパーで1週間に2回観測した。クローン12に由来する抗体(腫瘍増殖阻害66%)、クローン33に由来する抗体(腫瘍増殖阻害50%)、及びクローン29に由来する抗体(腫瘍増殖阻害47%)を、腫瘍増殖抑制について最も有効なものとして同定した。対照的に、クローン18、30、及び31に由来する抗体は効果がなかった(図3)。
【0032】
図2と図3の比較は、確立した腫瘍を有するマウスに注入されているハイブリドーマが、関連するハイブリドーマの上清から精製された精製抗体の治療効果と同等の抗腫瘍活性を発揮することを実証している。
【0033】
さらに、効果のないハイブリドーマについて、ハイブリドーマ由来の精製抗体は、腫瘍増殖を縮小させなかった。これらの結果は、改善した方法の妥当性を実証している。
【0034】
これは、当該精製には、評価及び優先順位付けがもはや必要ないという、治療抗体の評価について実験的成果の明確な低減を意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の連続ステップ、
a)齧歯類への腫瘍細胞の適用;
b)経時的な前記齧歯類の腫瘍サイズが100mm3超までの腫瘍サイズの測定;
c)前記齧歯類へのハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体の適用;及び
d)経時的な前記腫瘍形成齧歯類の腫瘍サイズの測定、
を含んでなる、モノクローナル抗体の抗腫瘍効果の決定方法。
【請求項2】
e)副作用のために、前記齧歯類を犠牲にし、且つさらに調べる、さらなるステップを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
a)ハイブリドーマ産生モノクローナル抗体の抗腫瘍効果の評価のために請求項1に記載の方法を使用すること、且つ
b)1〜3つのモノクローナル抗体、好ましくは1つのモノクローナル抗体を、さらなる前臨床的評価のために優先順位付けすること、
を特徴とする、前臨床的齧歯動物検査の低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−503186(P2012−503186A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527251(P2011−527251)
【出願日】平成21年9月21日(2009.9.21)
【国際出願番号】PCT/EP2009/006781
【国際公開番号】WO2010/031578
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】