説明

モリブデン酸アンモニウムの製造方法

アンモニア性モリブデン酸水溶液を硫化水素ガスと大気圧よりも高い圧力(superatmospheric pressure)で硫化水素がもはや溶液に吸収されなくなるまで反応させて実質的にそのすべてがテトラチオモリブデン酸アンモニウムである固体からなるスラリーを生成する工程を含み、前記溶液と前記ガスが密閉系にあり、前記ガスの流れが高圧で制限されており、その後反応生成物を高温で元素硫黄の存在下で加熱して所望の生成物を生成する工程を含む式(NH42Mo313・nH2O(式中、nは0、1又は2である。)のポリチオモリブデン酸アンモニウムの製造方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリチオモリブデン酸アンモニウム又はその水和物の製造方法に関するものであり、特に、排他的ではないが、式(NH42Mo313・nH2Oのポリチオモリブデン酸アンモニウムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリチオモリブデン酸アンモニウムは潤滑油用ジチオカルバミン酸モリブデン添加剤の製造における前駆体としての用途が知られている。
米国特許第3,764,649号には、モリブデン酸アンモニウム及び多硫化アンモニウムのアンモニア性(ammoniacal)水溶液を175〜220℃及び300〜700psigで反応させることによる、式3MoS4・2NH4OHのポリチオモリブデン酸アンモニウムの製造方法が開示されている。米国特許第4,604,278号には、アンモニア性モリブデン酸溶液を硫化水素ガスと閉鎖系で反応させることによる、テトラチオモリブデン酸アンモニウムの製造方法が教示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これまで、ポリチオモリブデン酸アンモニウムを製造するために商業的に行われてきた方法は硫酸アンモニウムの使用を含み、それは除去する必要がある望ましくない不純物としてチオ硫酸アンモニウムを生成する。
したがって、チオ硫酸アンモニウムを生成しない方法が強く望まれており、それは技術的な進歩である。さらに、商業的スケールで経済的にポリチオモリブデン酸アンモニウムを製造するより簡便な方法も求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、(a)アンモニア性モリブデン酸水溶液を硫化水素ガスと大気圧よりも高い圧力(superatmospheric pressure)で硫化水素がもはや前記溶液に吸収されなくなるまで反応させる工程を含み、前記溶液と前記ガスが閉鎖系にあり、前記ガスの流れが高圧で制御されており、
(b)工程(a)の反応生成物を、175℃を超える温度で、閉じた反応器で、元素硫黄の存在下で、及び4〜7MPa(600〜1000psig)の圧力下で、加熱する工程(heat soaking)を含む式(NH42Mo313・nH2O(式中、nは0、1又は2である。)のポリチオモリブデン酸アンモニウム又はその水和物の製造方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
アンモニア性モリブデン酸アンモニウム溶液は、好ましくは多硫化アンモニウムを含み、多硫化アンモニウムは(NH42S及び元素硫黄S8の混合物を含み、前記溶液において、原料モリブデン源はMoO3、(NH42Mo27又は(NH46Mo724であってもよい。モリブデン濃度は1リットル当たり5〜300グラムのMoであってもよい。
好ましくは、アンモニア性モリブデン酸水溶液を、30〜350kPa(5〜50psig)の範囲の圧力で硫化水素ガスと反応させる。アンモニア性モリブデン酸水溶液を、1〜6時間硫化水素ガスと反応させてもよい。アンモニア性モリブデン酸溶液と硫化水素ガスとの反応に必要な時間は反応容器のサイズ、添加したモリブデンの量及び硫化水素ガスの圧力に依存する。
【0006】
工程(a)の生成物は、実質的にそのすべてがテトラチオモリブデン酸アンモニウムである固体及び母液からなるスラリーである。テトラチオモリブデン酸アンモニウムは出発モリブデンの一部を含み、母液はモリブデンの残りを含む。
アンモニア性モリブデン酸溶液と硫化水素ガスとの反応は閉鎖系で行われる。したがって、反応する硫化水素のみがガス源から流れ、無駄なガスは生じない。硫化水素ガスラインのガス流量調節器は密封反応タンク内の圧力を所望の圧力で維持する。硫化水素はテトラチオモリブデン酸アンモニウムの生成反応によって使い尽くされるため、タンク内部の圧力は事実上減少する。これは、圧力が所望の圧力で安定化されるまで、硫化水素ガス流量調節器がタンクにより多くのガスを送れるようにする。硫化水素は反応するため、より多く反応タンクに送られる。テトラチオモリブデン酸アンモニウムの生成反応は発熱であり、温度は20〜30℃まで反応の間上昇する。反応容器の温度が下がり始めると、それは、反応が完了したことを示す。したがって、反応タンクの内容物は平衡に達し、硫化水素ガスの流れは停止する。
【0007】
次いで、元素硫黄を得られるスラリーに添加し、次いで175℃を超える温度及び4〜7MPa(600〜1000psig)で加熱する(heat soaked)。好ましくは、スラリーを175〜200℃の温度で加熱する(heat soaked)。加熱(heat soaking)工程はモリブデンの酸化状態を変化させ、テトラチオモリブデン酸アンモニウムを式(NH42Mo313・nH2Oの所望のポリチオモリブデン酸アンモニウムに変換する。
有利には、工程(b)は同じ反応容器で工程(a)に続いて行われる工程(a)のプロセスの継続である。
工程(b)の加熱(heat soaking)工程後、反応混合物を分離及び洗浄前に冷却する。適切には、反応混合物を少なくとも60℃に、好ましくは室温又は周囲温度に冷却する。
次いで、冷却した反応混合物を、任意の標準方法で分離して母液の大部分から固体を除去する。好ましい分離方法は濾過である。固体ポリチオモリブデン酸アンモニウムを水洗し、結晶を35℃以下の温度で真空乾燥する。好ましくは、母液及び先浄水をプロセスに戻してリサイクルする。
【0008】
上述のプロセスは元素硫黄のテトラチオモリブデン酸アンモニウムスラリーへの添加を含むが、別の方法として、元素硫黄を、別の反応物として、工程(a)の開始時に、すなわち、硫化水素添加前に添加してもよい。この場合、工程(a)において硫化水素ガスとの反応のための反応器に硫化アンモニウム溶液又はリサイクルした母液を添加する前に、元素硫黄をあらかじめ硫化アンモニウム溶液又はリサイクルした母液と混合してもよい。
本発明の方法はいくつかの利点を提供する:複数処理工程を排除し、副生成物の量をより少なくし、より多くの母液をプロセスにリサイクルし、それによって処分コストを削減し、洗浄水溶液の量を減らし、ポリチオモリブデン酸アンモニウムの生成物収量をより高くする。
【実施例】
【0009】
(実施例)
この新規方法は高圧容器で行われる反応を必要とする。原料をすべて1つの容器に入れることができ、又はMOX(酸化モリブデン(molybdic oxide))粉末を別の容器でML(母液)と一緒にあらかじめ混合し、次いでメイン反応器に入れることもできる(MOXをMLとともにあらかじめ添加して30〜60分間混合するとサイクル時間を短縮できる)。メイン反応器への添加を完了した後、反応器を密封し、不活性ガス(N2)でパージし、硫化水素ガスを反応器に供給する。170〜350kPa(25〜50psig)の圧力を維持し、冷却水を反応器ジャケット及び/又はコイルに与える。発熱反応が完了したら、H2S供給を停止し、内容物を加熱する。反応器における圧力は、温度が上がると内容物の蒸気圧とともに増加する。反応生成物を加熱(heat soaked)し、次いで冷却する。バッチが完了し、冷却されたら、固体を濾過により回収し、次いで乾燥する。次いで、材料が乾燥したことを確認した後、それを直接スーパーサック(super-sacks)に落とす/詰めることができる。順序及びサイクル時間について、以下の表を参照のこと。
【0010】
(反応器への添加)
MLリサイクリングを用いる以下の配合量は、バッチ当たり約1メートルトンのATM(ポリチオモリブデン酸アンモニウム生成物)を生成する。
【表1】

【0011】
第1バッチが出発母液をもたないことは明らかである。多硫化アンモニウムをその代わりに加える必要がある。続くバッチで、ほとんどの濾液又はMLを用いて必要な量の酸化モリブデン(molybdic oxide)反応物を溶解する。この溶液を別の多硫化アンモニウムと混合して新しい反応溶液を調製する。
以下はATMプロセスの個々の工程のためのサイクル時間の控えめな見積もりである。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)アンモニア性モリブデン酸水溶液を硫化水素ガスと大気圧よりも高い圧力でH2Sがもはや前記溶液に吸収されなくなるまで反応させる工程を含み、前記溶液と前記ガスが閉鎖系にあり、前記ガスの流れが高圧で制御されており、
(b)工程(a)の反応生成物を、175℃を超える温度で、閉じた反応器で、元素硫黄の存在下で、及び4〜7MPa(600〜1000psig)の圧力下で、加熱する工程を含む式(NH42Mo313・nH2O(式中、nは0、1又は2である。)のポリチオモリブデン酸アンモニウムの製造方法。
【請求項2】
製造されるポリチオモリブデン酸アンモニウムが(NH42Mo313である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
アンモニア性モリブデン酸溶液がMoO3、(NH42S及び元素硫黄を含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
工程(b)の加熱が開始される前に、元素硫黄が工程(a)の反応生成物に添加される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
工程(a)における圧力が30〜350kPa(5〜50psig)である、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
工程(b)における温度が175〜200℃である、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の方法によって製造される式(NH42Mo313・nH2O(式中、nは0、1又は2である。)のポリチオモリブデン酸アンモニウム生成物。

【公表番号】特表2007−513851(P2007−513851A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−536154(P2006−536154)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【国際出願番号】PCT/GB2004/004359
【国際公開番号】WO2005/044729
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(500010875)インフィニューム インターナショナル リミテッド (132)
【Fターム(参考)】