説明

モーター部品用保護スリーブおよびその製造方法

【課題】寸法安定性に優れたモーター部品用保護スリーブの提供
【解決手段】モーター部品用保護スリーブであって、円筒状の24打ち以上の組紐に製紐されており、かつ初期伸張率が2〜10%であるモーター部品用保護スリーブ。
初期伸張率(%)=[(L1−L0)/L0]×100
前記式において、L0は、温度20℃±3℃かつ湿度65%±3%の雰囲気下で24時間放置したスリーブに荷重を掛けない場合のスリーブ長さ(mm)であり、L1は、温度20℃±3℃かつ湿度65%±3%の雰囲気下で24時間放置したスリーブに荷重150gを掛けた1分後におけるスリーブ長さ(mm)である。保護スリーブとしては、高温耐油性能が50%以上であるのが好ましい。また、この組紐は、組紐の打ち数をNとしたとき2〜(N/4)本のタテ糸をさらに含み、前記組紐が、組紐の長さ方向に前記タテ糸が挿入された組構造であるか、または、伸張下で更に熱処理されているのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーター部品用保護スリーブに関する。とくに、製造工程中における保護スリーブの巻き取り、走行や切断などの機械的な取り扱いや操作において、長さ方向の寸法安定性が高く、ばらつきの少ない保護スリーブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車の排出ガスに含まれる有害物質低減の取り組みと、低燃費化の両立が要請されている。近年では、更に地球規模での環境負荷低減の要請がなされている。このような背景から電気自動車の開発が活発に研究、開発されている。現在、開発が進められたり生産化されている電気自動車としては、高容量二次電池を搭載したピユア電気自動車(PEV)、ガソリンエンジンと高出力二次電池などを組み合わせたハイブリッド自動車(HEV)、更には、燃料電池と高出力二次電池などを組み合わせた燃料電池自動車(FCV)などがある。いずれにおいても、高効率なモーターの開発が必要になっている。前記モーターとしては、駆動用、発電用、充電用などがある。これらモーターには、高効率化の外に、走行安定性の面から品質の安定化も強く望まれている。特に、電気自動車用モーターとしては、一般的な自動車用モーターに比べ、優れた高温耐油性能が求められている。電気自動車用モーターは、効率を良くするため、ATF(オートマチック・トランスミッション・フルード)中に存在する必要がある。ATFは高温になる場合があるので、前記モーターには、ATF中での高温耐熱性が要求される。その他、前記モーターの部品には、均質な性能を有する材料の開発が要請されている。
【0003】
従来からポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維のマルチフィラメント糸を電気絶縁材料に使用することが、提案されている(特許文献1〜3参照)。また、PPS繊維のモノフィラメント糸を用いて保護スリーブを製造することも、提案されている(特許文献4参照)。さらに、電気自動車用としてモノフィラメントとマルチフィラメントを併用した円筒状で柔軟な保護スリーブが提案されている(特許文献5参照)。また、単繊維の繊度が30〜100dtexのフィラメント糸4〜50本のヤーンを円筒状の組み紐構造にした保護スリーブも提案されている(特許文献6参照)。
【特許文献1】特開平8−13300号公報
【特許文献2】特開平10−273825号公報
【特許文献3】特開2001−248075号公報
【特許文献4】特開2001−123324号公報
【特許文献5】特開2004−176243号公報
【特許文献6】特開2007−63730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
保護スリーブを構成する繊維として単糸の太さが太いフィラメントを適正に使用した場合、保護スリーブ形状は扁平状ではなく、円形に開口した弾力のある円筒状のチューブ状になる。このようなチューブ形状の保護スリーブは、保護スリーブ内への部品の挿入性に優れ、モーター部品用保護スリーブとして好適な保護スリーブである。しかしながら、このような保護スリーブは長さ方向についてもバネのように容易に伸び縮みする性質があるため、製紐段階からモーター部品に取り付けられるまでの製造工程において、保護スリーブの寸法変化や形状変化により取り付け作業が容易になるという利点があった。ただし、保護スリーブの寸法変化や形状変化が望ましくない場合、例えば、所定長さになるよう機械で切断する場合、保護スリーブに力がかかると寸法や形状が変化する故に、切断後の保護スリーブの寸法にばらつきが生じるという問題もあった。
【0005】
本発明は、前記問題を解決するため、円筒状の弾力のある特徴を保持しながら、長さ方向の寸法安定性に優れたモーター部品用保護スリーブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、モノフィラメントとマルチフィラメントを併用した外径6〜8φの保護スリーブの初期伸張率は、通常の方法で製紐したものは約15〜35%であり、製紐機やロットなどでばらつきも大きいことを見出した。また、一般的には組紐は内径が大きいほど、また、組目が大きいほど初期伸張率は大きい傾向があることが知られている。この組紐の伸びは組目が伸びることに起因するもので、軽い力でも引っ張ると伸び、また、側面から押さえても伸び、力を除いた場合に変形が完全には元には戻らない特性がある。したがって、前記のように保護スリーブを所定長さになるよう切断する場合に、寸法精度に問題が生じるのである。
【0007】
前記課題を解決するため、本発明のモーター部品用保護スリーブは、
円筒状の24打ち以上の組紐に製紐されており、かつ
初期伸張率が2〜10%である。
【0008】
初期伸張率(%)=[(L1−L0)/L0]×100
前記式において、L0は、温度20℃±3℃かつ湿度65%±3%の雰囲気下で24時間放置した保護スリーブに荷重を掛けない場合の保護スリーブ長さ(mm)であり、
L1は、温度20℃±3℃かつ湿度65%±3%の雰囲気下で24時間放置した保護スリーブに荷重150gを掛けた1分後における保護スリーブ長さ(mm)である。
【0009】
また、本発明のモーター部品用保護スリーブは、高温耐油性能が50%以上であるのが好ましい。
高温耐油性能(%)=(T’/T)×100
前記式において、Tは、処理前の前記保護スリーブの引張強さを意味し、T’は処理後の前記保護スリーブの引張強さを意味する。
前記引張強さとは、JIS L1013−8.5.1における引張強さを意味する。
前記処理とは、前記保護スリーブの全体を、密閉容器中の0.5重量%の水と
99.5重量%のオートマチック・トランスミッション・フルードの混合物中
に入れ、前記容器中の混合物の温度が1000時間の間150℃で維持される
よう前記容器を加温する処理を意味する。
【0010】
また、本発明のモーター部品用保護スリーブは、前記円筒状の24打ち以上の組紐の構成繊維成分として、単糸直径が0.04mm〜0.5mmのフィラメントを含有するのが好ましい。
【0011】
また、本発明のモーター部品用保護スリーブは、前記円筒状の24打ち以上の組紐が、組紐の打ち数をNとしたとき2〜(N/4)本のタテ糸をさらに含み、前記組紐が、組紐の長さ方向に前記タテ糸が挿入された組構造であるのが好ましい。このようなモーター部品用保護スリーブは、以下、第1の保護スリーブと呼ぶことがある。
【0012】
前記第1の保護スリーブは、前記円筒状の24打ち以上の組紐において、前記タテ糸は組紐の断面の円周上において、組紐の中心点に対し、互いに略点対称的に配置されているのが好ましい。
【0013】
また、本発明のモーター部品用保護スリーブは、前記円筒状の24打ち以上の組紐は、伸張下で更に熱処理されているのが好ましい。このようなモーター部品用保護スリーブは、以下、第2の保護スリーブと呼ぶことがある。
【0014】
また、本発明は、円筒状の24打ち以上の組紐を伸張下に非接触で熱処理する工程を含む第2の保護スリーブを製造する方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のモーター部品用保護スリーブは、開口した円筒状で弾力性があり、部品の挿入性を保持しながら、長さ方向に対する伸びを小さくすることで、長尺保護スリーブの走行、巻き取りなどのハンドリング性を向上させるとともに、所定長カットにおける寸法精度の向上とばらつきを低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のモーター部品用保護スリーブのモーター部品とは、モーターを構成する部品を意味し、例えば、コイル、ワイヤー、結束紐などである。本発明のモーター部品用保護スリーブは、そのようなモーター部品を覆って保護するための、円筒状の保護スリーブであり、コイルを保護するためのものが好ましい。前記モーターとしては、自動車用モーター、エアコン、冷蔵庫等の家電用モーター、動力用モーターなどが挙げられ、自動車用モーターが好ましい。前記自動車用モーターとしては、電気自動車用モーター、ガソリン車用モーター、ディーゼル車用モーターなどが挙げられ、電気自動車用モーターが好ましい。
【0017】
本発明のモーター部品用保護スリーブは、例えば、前記モーターの部品を覆って保護することにより、前記モーターの製造に用いることができる。また、本発明のモーター部品用保護スリーブでモーター部品を覆うことにより、モーター部品を保護することもできる。
【0018】
保護スリーブに用いられる繊維素材はとくに限定されないが、耐熱性と高温耐油性能のある素材が好ましく用いられる。耐熱性としては融点が270℃以上、好ましくは280℃以上である。具体的にはポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維またはアラミド繊維が好ましく用いられる。アラミド繊維としてはパラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維があるが、繊維の伸度が高いメタ系アラミド繊維が好ましく用いられる。このほかポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ナイロン9T系や6T系の半芳香族ポリアミドなどの耐熱性繊維も高温耐油性能が本発明の条件を満たせば使用することができる。
【0019】
つぎに本発明の保護スリーブは高温耐油性能を有するのが好ましい。ここで高温耐油性能とは下記方法で測定した数値で50%以上であることを示す。
高温耐油性能(%)=(T’/T)×100
前記式において、Tは、処理前の前記保護スリーブの引張強さを意味し、T’は処理後の前記保護スリーブの引張強さを意味する。
前記引張強さとは、JIS L1013−8.5.1における引張強さを意味する。
【0020】
前記処理とは、前記保護スリーブの全体を、密閉容器中の0.5重量%の水と99.5重量%のオートマチック・トランスミッション・フルードの混合物中に入れ、前記容器中の混合物の温度が1000時間の間150℃で維持されるよう前記容器を加温する処理を意味する。
【0021】
前記高温耐油性能は、耐加水分解性が高いことも意味する。
【0022】
前記高温耐油性能は、50%以上が好ましいく、55%以上であるのがより好ましい。前記高温耐油性能が50%以上の保護スリーブであれば、例えば電気自動車において、長期に渡って安定に作動できるようなモーターが得られるからである。
【0023】
本発明の保護スリーブを構成する繊維形態としては、モノフィラメント、マルチフィラメント、スパン糸が挙げられる。保護スリーブを弾力のある円筒状とするには構成繊維成分に適度な曲げ硬さが必要である。前記構成繊維成分は、太いフィラメント、好ましくは単糸直径が0.04mm〜0.5mm程度(約15〜2700デジテックス)のフィラメントを、モノフィラメントまたはモノマルチフィラメントにして使用してもよい。なお本明細書において、太いフィラメントを複数本合糸したものをモノマルチフィラメントと呼び、通常のより細い単糸(約10デジテックス以下)から構成されるマルチフィラメントと区別する。前記単糸直径は、より好ましくは0.05〜0.3mmである。このフィラメントの断面形状は、丸断面、扁平形状などの異型断面等であっても良い。断面形状が異型断面の場合、前記直径とは短径を意味する。
【0024】
本発明の円筒状の組紐に製紐された保護スリーブは、前記の太いフィラメントを少なくとも一部使用して24打ち以上の打ち数で、いわゆる突き上げ方式により得ることができる。
【0025】
本発明の保護スリーブにおける太いフィラメントの使用比率についてはとくに限定されず、保護スリーブが円筒状になれば良い。前記太いフィラメントの使用比率は、組紐全体に対して通常20〜100重量%が好ましい。前記太いフィラメント以外のフィラメントの繊維比率は、0〜80重量%である。前記太いフィラメント以外の構成繊維成分としてはマルチフィラメント糸が好ましく用いられるが、必要に応じスパン糸も用いることができる。
【0026】
製紐機の打ち数により、保護スリーブの太さ(内径および外径)が主として変化する。前記打ち数は、好ましくは24打ち以上96打ち以下が好ましい。先端部分が組紐の内径に略相当する丸みのある円形または多角形の金属製または木製の棒を用意し、製紐機の中心部において、組み上げられつつある組紐を下からその金属製または木製の棒を垂直方向に上下運動させながら(突き上げ)組み上げることにより、円筒状の保護スリーブを得ることができる。使用する構成繊維成分として前述の太いフィラメントを少なくとも一部使用することにより、扁平につぶれることなく、円筒状の形状が保持された保護スリーブを得ることができる。
【0027】
得られた保護スリーブはチューブ状で弾力があり、部品の挿入性等、保護スリーブとして優れた性能を示す。
【0028】
本発明の保護スリーブは、初期伸張率が2〜10%である。このような保護スリーブは、柔軟性および弾力性を保持し、かつ改善された長さ方向の寸法安定性を有する。ここで初期伸張率は、以下の式により得られる。
初期伸張率=100×(L1−L0)/L0
前記式において、L0は、温度20℃±3℃かつ湿度65%±3%の雰囲気下で24時間放置した保護スリーブに荷重を掛けない場合の保護スリーブ長さ(mm)であり、L1は、温度20℃±3℃かつ湿度65%±3%の雰囲気下で24時間放置した保護スリーブに荷重150gを掛けた1分後における保護スリーブ長さ(mm)である。
【0029】
本発明者らは、前記のように初期伸張率が2〜10%の保護スリーブは、形状や長さ方向の寸法の安定性が大幅に改善できることを見出し、本発明を完成した。前記初期伸長率は、好ましくは4〜8%である。
【0030】
このような特性の保護スリーブは、例えば、組紐の長さ方向にタテ糸が挿入された組構造である保護スリーブ(第1の保護スリーブ)、または、伸張下で更に熱処理されている円筒状の24打ち以上の組紐である保護スリーブ(第2の保護スリーブ)である。
【0031】
まず、組紐の長さ方向にタテ糸が挿入された組構造である保護スリーブ(第1の保護スリーブ)について説明する。本発明の第1の保護スリーブの一例の模式図を図1に示す。図1に示すように、このような保護スリーブは、長さ方向に対し斜め方向に組まれる組糸(図1中の符号1および2)とは別に保護スリーブの長さ方向に直線的にタテ糸(図1中の符号3)が挿入された構造である。製紐時に軌道上を動く組糸とは別に固定したボビンから糸を供給して製紐することにより、タテ糸を軸に内外に組みこまれた構造の、このような保護スリーブを得ることができる。なお、軸になる糸という意味で軸糸とも呼ばれるが、本明細書においてはタテ糸と称する。
【0032】
タテ糸に使用する繊維素材についてはとくに限定されないが、好ましくは高温耐油性能の高い素材を使用し、特に好ましくは組糸と同じ素材を使用する。
【0033】
タテ糸の繊維形態としてはとくに限定されないが、保護スリーブの柔軟性を損なわないマルチフィラメント糸が好ましい。タテ糸の太さについてもとくに限定されないが、100〜1000dtex程度が好ましく、150〜800dtexが好ましい。タテ糸の太さが150dtex以上の場合、保護スリーブの長さ方向の寸法安定化の効果が大きく、また、タテ糸の太さが800dtex以下の場合、保護スリーブの厚みが適度に厚くなり、かつ、柔軟性も保たれるので好ましい。
【0034】
タテ糸の本数は、製紐の打ち数をNとしたとき断面方向に2〜(N/4)本程度であのが好ましく、さらに3〜12本がより好ましい。タテ糸本数が多い場合は、より細い太さのマルチフィラメントをタテ糸として使用するのが望ましい。
【0035】
タテ糸は断面の円周上において、中心点に対し、ほぼ点対称的に配置するのが望ましい。このように配置すると、保護スリーブの曲がりやねじれ、ひずみを生じにくくなるからである。タテ糸を単に追加挿入した場合、タテ糸挿入しない保護スリーブにくらべ目付け(m当たりの重量)は増加することになるので、材料費の観点からタテ糸を必要最小限にとどめるか、設計変更して組糸を細くすることで、材料費の増加を抑え、初期伸張率を低くすることができる。
【0036】
組紐の長さ方向にタテ糸が挿入された組構造である保護スリーブは、好ましくは製紐時あるいは所定長にカットするまでの任意の段階で、熱処理を行うことで形状安定性をさらに増すことができる。
【0037】
次に本発明の伸張下で更に熱処理されている円筒状の24打ち以上の組紐である保護スリーブ(第2の保護スリーブ)に関し、説明する。本明細書における伸張下での熱処理は、組構造を伸ばして熱処理(熱固定)することを意味し、従って、単繊維を延伸することを目的とするものではない。図2に本発明の第2の保護スリーブの一例である、伸張下で更に熱処理されている円筒状の24打ち以上の組紐を模式図で示した。Aが処理前の組構造、BがAを伸張熱処理して組み構造が伸ばされた状態のイメージを示す。好ましい熱処理温度は素材の熱特性にもよるが、保護スリーブ素材のガラス転移点Tg+30℃から保護スリーブ素材の融点Tm―10℃の温度範囲が望ましい。熱処理温度がガラス転移点Tg+30℃以上の場合、熱処理された組紐の熱固定効果が大きく、処理後伸張した保護スリーブが戻りにくくなるため初期伸張率を小さくすることができる。また、熱処理温度が融点Tm―10℃以下の場合、熱処理された組紐の熱による変色、硬化、融着などを抑制することができ、好ましい。保護スリーブ素材がPPSの場合、熱処理温度は例えば約120℃〜260℃程度である。
【0038】
熱処理時の組紐の伸張倍率はとくに限定されず、処理後の保護スリーブの初期伸張率が2~10%になるような条件にすれば良い。組紐を伸張熱処理する場合、処理前の組紐の初期伸張率にもよるが、通常1.05倍から2.0倍程度の伸張率が好ましい。伸張下での熱処理は、所定テンションをかけて伸張する方法を用いてもよい。本発明においては、円筒形状を保持しながら均等に熱処理する必要があるので、空気、水蒸気、窒素などの加熱気体中、組紐に非接触状態で加熱するのが好ましい。また、図2から理解できるように、この伸張下での熱処理前後で組紐の内径と組み目が変化するので、このことを考慮して組紐の設計をするのが好ましい。伸張下での熱処理は、製紐時から所定長にカットするまでの任意の段階で行うことができるが、好ましくは製紐機上で突き上げた直後に、組紐が円筒状の状態で非接触熱処理を行うのが、最も効率的でかつその後の工程での取り扱いが容易になるので好ましい。
【0039】
本発明の保護スリーブ製造の一例を挙げる。まず、56打ちの製紐機の突き上げ直後に約20cm長さのパイプ状ヒーターを設置し非接触で組紐がパイプ内部を通過して熱処理(温度160℃)できるようにした製紐機を用意する。この製紐機において、熱処理なしで内径が7.5mm、初期伸張率が23%の組紐が得られる条件で引き上げ速度のみ1.20〜1.30倍に上げ、伸張下に熱処理することで内径が約5.5mmで初期伸張率が約6%の初期伸張率が低い保護スリーブを得ることができる。熱処理することにより、引き取り速度や張力を上げた際に保護スリーブの形状が固定され、かつ、放置により収縮しづらいため保護スリーブの伸張率は低くなる。
【0040】
熱処理装置を設置し、適正条件で熱処理した場合には、むらが少なく、初期伸張率の低い保護スリーブが安定して得られる。一方、初期伸張率の高い非熱処理保護スリーブを別の工程および装置を用いて伸張下に熱処理することによっても、初期伸張率の低い本発明の保護スリーブを得ることができる。
【0041】
従来の保護スリーブは、例えば機械で保護スリーブをカットする場合、ロット毎に、実寸をチェックして機械を調整していた。しかし、本発明の初期伸張率の低い保護スリーブは、このような調整を省略または軽減できる。さらに、ロット内におけるカット品の寸法ばらつきが小さくできるので、収率向上、検査の軽減が図れるなどのメリットがある。また、製紐における安定性も向上するので調整や検査時間の短縮も図れるので経済的効果が大である。
【0042】
本発明のモーター部品用保護スリーブは、適用されるモーターおよび部品の種類によって異なり、特に限定されないが、一般的には、例えば内径4〜9mm、長さ3〜50cm程度のものである。前記保護スリーブは、電気自動車用には、例えば、内径6〜8mm、長さ3〜50cm程度のものである。
また、長尺の保護スリーブをモーター部品製造現場で必要長さにカットして部品に組み込むこともできる。
【0043】
前記保護スリーブは、最終的にはワニス処理されているのが好ましい。ワニス処理されていれば、前記保護スリーブの絶縁性を強化でき、かつ各種機械的応力に対して抵抗性が向上するからである。前記ワニス処理は、前記保護スリーブに、保護されるモーター部品を挿入した後、または前に行うことができるが、前記挿入の後に行うのが好ましい。前記挿入処理の作業効率がより良いからである。前記ワニス処理は、例えば、前記保護スリーブにモーター部品を挿入した後、前記保護スリーブにワニスをスプレー、滴下、刷毛を用いて塗布し、乾燥させ、硬化させることにより行うことができる。
【0044】
本発明のモーター部品用保護スリーブは、適用されるモーターおよび部品の種類によって異なり、特に限定されないが、一般的には、例えば内径4〜9mm、長さ3〜50cm程度のものである。前記保護スリーブは、電気自動車用には、例えば、内径6〜8mm、長さ3〜50cm程度のものである。
また、長尺の保護スリーブをモーター部品製造現場で必要長さにカットして部品に組み込むこともできる。
【0045】
本発明のモーター部品用保護スリーブは、円筒状の24打ち以上の組紐に製紐されており、かつ初期伸張率が2〜10%であるという特徴を有する。このような本発明のモーター部品用保護スリーブは、円筒状の弾力ある特徴を維持しながら、長さ方向の寸法安定に優れる。また、本発明のモーター部品用保護スリーブは、スリーブの内径および組目(組ピッチ)の変化やばらつきを抑制することもできる。また、本発明のモーター部品用保護スリーブは、ねじれなどの好ましくない変形を抑制することもできる。これらの効果により、本発明のモーター部品用保護スリーブは、保護スリーブの製品収率を高め、従って、生産性を高めることが可能になる。
【0046】
(実施例)
以下実施例および比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下の実施例および比較例における各種測定は以下のようにして測定した。
【0047】
(1)融点または分解温度
DSC法(Differential Scanning Calorimetry:走査型示差熱分析法)を用いて、標準物質とともに試料を10℃/分の上昇温度で加熱し、溶融または分解する温度を測定した。
【0048】
(2)初期伸張率
20cm強の保護スリーブを準備し、20cmの長さでマーキングする。保護スリーブを恒温恒湿(20±3℃、湿度65%±3%)の状態で24時間放置する。保護スリーブの一端を把持し、無荷重の状態で垂直にたらし、マーキングの長さ(L0mm)を測定する。ついで、保護スリーブ下部に150gの荷重を掛け1分後にマーキング部の長さ(L1mm)を測定する。初期伸張率は次式を用いて求めた。
初期伸張率=100×(L1―L0)/L0
(3)高温耐油性能
長さ60cmの前記保護スリーブの全体を、密閉容器中の0.5重量%の水と99.5重量%のオートマチック・トランスミッション・フルード(ATF WS(商品名)、エッソ石油(株)製)の混合物(5リットル)中に入れ、前記容器中の混合物の温度が1000時間の間150℃で維持されるよう前記容器を加温した。この処理前の前記保護スリーブの引張強さ(T)と、処理後の前記保護スリーブの引張強さ(T’)を、JIS L1013−8.5.1法に準じて測定した。得られた各引張強さを、次の式に導入して、高温耐油性能を求めた。5回測定して得られた値の平均値を算出した。
高温耐油性能(%)=(T’/T)×100
ここで、T:処理前の前記保護スリーブの引張強さ
T’:処理後の前記保護スリーブの引張強さ
(4)内径、組目
内径:円錐形のテーパーゲージ(測定器 : 新潟精機製テーパーゲージ710B型(4〜15mm))をテーパー先端が上になるようににして立て、保護スリーブを挿入して軽くのせ、保護スリーブ端面部のゲージを読む。
組目(目/インチ):一辺が1インチのフレームを有する拡大鏡(リネンテスター)を保護スリーブ側面に保護スリーブが変形しない程度に軽く接触させ、1インチ間の組目の数を0.5目まで測る。
測定はいずれも2回の平均とした。
【0049】
(5)保護スリーブ1mあたりの重さ(目付けg/m)
標準状態(温度20±3℃、相対湿度65±3%)で24時間放置した保護スリーブを、50cmの長さに切断した。その重量を測定し、2倍乗じて、保護スリーブ1mあたりの重さを得た。
【0050】
[実施例1]
PPS繊維(東レ(株)製「トルコン」(商品名)、融点=285℃)のマルチフィラメント糸(440dtex、100フィラメント、190タイプ)を2本引きそろえ、これを小巻ボビンに巻いて28本用意した。
【0051】
別に、PPS繊維(東レ・モノフィラメント(株)製、融点=285℃)のモノフィラメント糸(直径=0.25mm)を、小巻ボビンに巻いて28本用意した。さらにタテ糸用としてPPS繊維(東レ(株)製「トルコン」(商品名)、融点度=285℃)のマルチフィラメント糸(440dtex、100フィラメント、190タイプ)1本をそのまま小巻ボビンに巻いたものを3本用意した。
【0052】
これらを丸組織の56打ちの製紐機に交互に仕掛け、タテ糸は別に3本を中心から約120度となる位置に固定セットして軌道状を動く組み糸との間に供給して製紐し、その直後、棒状の治具を連続的に突き上げて円筒状の形になるようにして、タテ糸が3本挿入されたモーター部品用保護スリーブを得た。突き上げからかせ状に巻き取るまでの間でパイプ状ヒーター内(160℃)を非接触で通過することで熱処理した。前記保護スリーブは側面を押さえると弾力性を有していた。保護スリーブの内径、組目、目付けおよび初期伸張率を表1に示した。この保護スリーブの高温耐油性能は91%であった。
【0053】
[比較例1]
実施例1において、タテ糸を使用しないことを除き実施例1と同様に保護スリーブを製造した。表1に実施例1と比較例1の保護スリーブ特性を示した。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すように、実施例1および比較例1の結果から、内径はほぼ同じであるがタテ糸を3本ほぼ等間隔に挿入した実施例1は初期伸張率が6%と比較例1(26%)にくらべ大幅に低くなったことが確認できた。
【0056】
実施例1と比較例1の保護スリーブをカット機械(機械設定長さ250mm)にかけ約50本カットした。カット品から30本サンプリングし、保護スリーブの長さを測定した。表2に平均長、最大長、最小長、レンジ(最大長―最小長)を示した。
【0057】
【表2】

【0058】
表2に示すように、実施例1および比較例1の結果から、本発明のカット品はカット長のばらつきが少なく、安定していることが確認できた。また、同じ機械設定値に対して比較例は実測長さが短く、カット時の伸び縮みが大きいと推定される。
【0059】
[実施例2]
実施例1と同じ56打ち製紐機を使用し、PPS繊維(東レ(株)製「トルコン」(商品名)、融点=285℃)のマルチフィラメント糸(440dtex、100フィラメント、190タイプ)を2本引きそろえ、これを小巻ボビンに巻いて28本用意した。別に、PPS繊維(東レ・モノフィラメント(株)製、融点=285℃)のモノフィラメント糸(直径=0.25mm)を、小巻ボビンに巻いて28本用意した。
【0060】
製紐機に交互に仕掛け、製紐し、その直後、棒状の治具を連続的に突き上げて円筒状の形になるようにして、突き上げからかせ状に巻き取るまでの間でパイプ状ヒーター内(160℃)を非接触で通過させたあと冷却した保護スリーブをニップローラーで張力を掛けながら引き取り、径が6mm(内径5.5mm)となるような引取り条件で製紐した。得られた保護スリーブの内径、組目、目付け、初期伸張率を表3に示した。
【0061】
[比較例2]
48打ち製紐機を使用して、実施例2のマルチフィラメント小巻ボビン24本とモノフィラメント小巻ボビン24本を交互にセットして、通常通り突き上げ6φ(内径5.5mm)の保護スリーブを得た。この保護スリーブの特性を表3に示した。
【0062】
【表3】

【0063】
表3に示すように、実施例2と比較例2の結果から、実施例2は伸張熱処理しているので組目は比較例より小さいが寸法、重量(目付け)はほぼ近似しており、保護スリーブとしての性質は伸張率が低い以外はほとんど差はないことが確認できた。
【0064】
これらの保護スリーブをカット機にかけ390mmを目標に約200本カットし(機械設定値;本発明の保護スリーブ410mm、比較例2の保護スリーブ450mmで比較例は機械設定値と実測値との差が大きい)、100本をサンプリングして長さを計測した。結果を表4および図3(a)および(b)に示した。
【0065】
【表4】

【0066】
表4ならびに図3(a)および(b)に示すように、本発明はカット品の長さばらつきが比較例(従来品)にくらべ大幅改善されていることが確認できた。また、比較例2は長さが規格はずれのものが200本中9本あったが、実施例2においては0本であった。また、機械設定長さと実測長さの差も実施例1の場合と同様、実施例2の方が小さく、送り込み、カットの際の変形が少ないと推定される。
【0067】
[実施例3]
48打ち製紐機を使用し、PPS繊維(東レ(株)製「トルコン」(商品名)、融点=285℃)のマルチフィラメント糸(440dtex、100フィラメント、190タイプ)を2本引きそろえ、これを小巻ボビンに巻いて24本用意した。別に、PPS繊維(東レ・モノフィラメント(株)製、融点=285℃)のモノフィラメント糸(直径=0.25mm)を、小巻ボビンに巻いて24本用意した。
【0068】
製紐機に交互に仕掛け、製紐し、その直後、棒状の治具(直径7.2mm)を連続的に突き上げて円筒状の形になるようにして、突き上げからかせ状に巻き取るまでの間でパイプ状ヒーター内(160℃)を非接触で通過させたあと冷却した保護スリーブを巻き取り機の荷重を50gにして巻き取った。内径、組目、目付け、初期伸張率を表5に示した。得られた保護スリーブをカット機で機械設定300mmで30本カットし、長さを実測し、平均、最大、最小、レンジを求め、表6に示した。
【0069】
[実施例4]
実施例3において巻き取り機の加重を58gにした以外は、実施例3と同様に保護スリーブを製造した。内径、組目、目付け、初期伸張率を表5に示した。得られた保護スリーブをカット機で機械設定300mmで30本カットし、長さを実測し、平均、最大、最小、レンジを求め、表6に示した。
【0070】
[実施例5]
実施例3において巻き取り機の加重を65gにした以外は、実施例3と同様に保護スリーブを製造した。内径、組目、目付け、初期伸張率を表5に示した。得られた保護スリーブをカット機で機械設定300mmで30本カットし、長さを実測し、平均、最大、最小、レンジを求め、表6に示した。
【0071】
[比較例3]
実施例3において巻き取り機の加重を40gにした以外は、実施例3と同様に保護スリーブを製造した。内径、組目、目付け、初期伸張率を表5に示した。得られた保護スリーブをカット機で機械設定300mmで30本カットし、長さを実測し、平均、最大、最小、レンジを求め、表6に示した。
【0072】
【表5】

【0073】
【表6】

【0074】
表5に示すように、実施例3〜5および比較例3の結果から、荷重(張力)により初期伸張率は小さくなる傾向であり、カットした場合の設定値と実測値の差およびカット長のばらつきは初期伸張率が小さい方が小さい傾向であることが確認できた。また、初期伸張率が10%以下の本発明例は10%を超える比較例に比べ、ばらつきが小さいことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のモーター部品用保護スリーブは、モーター製造用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の第1の保護スリーブの1例を示す模式図である。
【図2】本発明の第2の保護スリーブの1例を示す模式図である。
【図3】実施例2および比較例2の保護スリーブ機にかけてカットし、得られたサンプルの長さの頻度を示すグラフである。
【符号の説明】
【0077】
1 組糸
2 組糸
3 タテ糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モーター部品用保護スリーブであって、
円筒状の24打ち以上の組紐に製紐されており、かつ
初期伸張率が2〜10%であるモーター部品用保護スリーブ。
初期伸張率(%)=[(L1−L0)/L0]×100
前記式において、L0は、温度20℃±3℃かつ湿度65%±3%の雰囲気下で24時間放置した保護スリーブに荷重を掛けない場合の保護スリーブ長さ(mm)であり、
L1は、温度20℃±3℃かつ湿度65%±3%の雰囲気下で24時間放置した保護スリーブに荷重150gを掛けた1分後における保護スリーブ長さ(mm)である。
【請求項2】
高温耐油性能が50%以上である請求項1のモーター部品用保護スリーブ。
高温耐油性能(%)=(T’/T)×100
前記式において、Tは、処理前の前記保護スリーブの引張強さを意味し、T’は処理後の前記保護スリーブの引張強さを意味する。
前記引張強さとは、JIS L1013−8.5.1における引張強さを意味する。
前記処理とは、前記保護スリーブの全体を、密閉容器中の0.5重量%の水と
99.5重量%のオートマチック・トランスミッション・フルードの混合物中
に入れ、前記容器中の混合物の温度が1000時間の間150℃で維持される
よう前記容器を加温する処理を意味する。
【請求項3】
前記円筒状の24打ち以上の組紐の構成繊維成分として、単糸直径が0.04mm〜0.5mmのフィラメントを含有する請求項1または2に記載のモーター部品用保護スリーブ。
【請求項4】
前記円筒状の24打ち以上の組紐が、組紐の打ち数をNとしたとき2〜(N/4)本のタテ糸をさらに含み、前記組紐が、組紐の長さ方向に前記タテ糸が挿入された組構造である請求項1〜3のいずれかに記載のモーター部品用保護スリーブ。
【請求項5】
前記円筒状の24打ち以上の組紐において、前記タテ糸は組紐の断面の円周上において、組紐の中心点に対し、互いに略点対称的に配置されている請求項4に記載のモーター部品用保護スリーブ。
【請求項6】
前記円筒状の24打ち以上の組紐は、伸張下で更に熱処理されている請求項1〜3のいずれかに記載のモーター部品用保護スリーブ。
【請求項7】
円筒状の24打ち以上の組紐を伸張下に非接触で熱処理する工程を含む請求項6に記載のモーター部品用保護スリーブを製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−150722(P2010−150722A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332224(P2008−332224)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(504094660)株式会社ゴーセン (11)
【Fターム(参考)】