ヤドリギレクチンに対する個体の応答性を判定する方法
【課題】ヤドリギレクチンまたはヤドリギレクチン一本鎖に対する個体の応答性を判定し、ヤドリギレクチンの膜結合レセプターの発現が,対応する応答性を特徴づける方法を提供する。
【解決手段】ヤドリギレクチン又はヤドリギ一本鎖に対する個体の応答性を判定するインビトロ方法のために、ヤドリギレクチンの炭水化物結合サブユニットの膜結合レセプターへの特異結合により媒介され、レセプターはα2−6グルコシド結合によりガラクトースに結合している末端N−アセチル−ノイラミナーゼにより特徴付ける。判定は、この特定のグルコシル化を量的又は質的に特異的に検出する。
【解決手段】ヤドリギレクチン又はヤドリギ一本鎖に対する個体の応答性を判定するインビトロ方法のために、ヤドリギレクチンの炭水化物結合サブユニットの膜結合レセプターへの特異結合により媒介され、レセプターはα2−6グルコシド結合によりガラクトースに結合している末端N−アセチル−ノイラミナーゼにより特徴付ける。判定は、この特定のグルコシル化を量的又は質的に特異的に検出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ヤドリギレクチンまたはヤドリギレクチン一本鎖に対する個体の応答性を判定する方法に関する。本発明の方法においては,ヤドリギレクチンに対する特異的膜結合レセプターの発現が,対応する応答性を特徴づける。
【背景技術】
【0002】
本明細書においては種々の文献が引用されている。引用されている文献の開示内容(すべての製造元の記述および指針等を含む)を本明細書の一部としてここに引用する。
【0003】
ヤドリギレクチンは,リシンに関連するタイプIIリボソーム不活性化蛋白質(RIP)であり,2つの蛋白質鎖から形成される(Barbieriら,1993)。ここでは,A鎖は酵素的rRNA−N−グリコシダーゼ活性を有し,B鎖は炭水化物結合活性を有する。E.coli中で提供される組換えヴィスクミン(rViscumin)が当業者に知られている(EP0751221B1)。特に,E.coliで製造される組換えヴィスクミンは単一物質として臨床的に開発されている。その一次構造に関しては,組換えヴィスクミンはヤドリギ植物に見いだすことができるML−I,ML−IIまたはML−IIIには正確に対応していない。記載されている組換えヴィスクミン配列とは別に,元の遺伝子中の点突然変異により改変されたさらに別のヤドリギレクチン変種が存在し,これはその一次構造においてわずかに異なると仮定すべきである。組換えヴィスクミンは,本来のヤドリギレクチンの変種であると考えることができ,ML−I,ML−IIおよびML−III配列の混合物として理解することができる。
【0004】
蛋白質の細胞毒性/細胞増殖抑制性活性には,ヤドリギレクチンの両方の鎖の活性が必要である。ここでは,最初の工程,すなわち細胞の表面への分子の結合が特に重要である。
【0005】
リシンの場合と同様に,ヤドリギレクチン(およびE.coliにおいて組換え的に製造された組換えヴィスクミン;Eckら,1999a,Eckら,1999b)もガラクトース/ラクトース特異性を有すると言われている(Olsnesら,1982;Leeら,1992;Gilleronら,1998)。この場合,末端ガラクトースの,および続く糖のグリコシド結合の種類は,これまで,レクチンの特異性には重要ではないと記載されてきた(Leeら,1994;Guptaら,1996)。
【0006】
その炭水化物特異性において異なる種々のヤドリギレクチン(ML−I,−IIおよび−III)が文献に記載されている(Franz,1986)。ここでは,ガラクトース/ラクトースに対する特異性(ML−I)は,ガラクトース/ラクトースおよびN−アセチルガラクトサミンの混合された形(ML−II)から,N−アセチルガラクトサミンにより強く結合する(ML−III)ヤドリギレクチンまで様々であることが議論されている。組換えヴィスクミンはガラクトース/ラクトース結合活性を有しており,これは種々のELISA様の方法により検出することができる(Eckら,1999b)。ヤドリギレクチンの他の炭水化物結合活性は,これまでのところ,非常に初歩的なことしか記載されておらず,部分的には非常に相反するものであった。例えば,Wuら(1995aおよび1995b)は,ML−Iがヒトα1−酸性糖蛋白質またはフェツインのいずれかに結合する能力は,脱シアリル化された対応物を用いたときに著しく減少することを観察した。これに対し,著者らは,ラットからのシアロ糖蛋白質を脱シアリル化された形で試験に用いたときには,結合が増加し,完全に沈殿することを見いだした。しかし,Wuらにより導き出された結論は,シアル酸を有するかまたは脱シアリル化蛋白質を用いたときの結
果が矛盾するため,解釈することができない。さらに,蛋白質のグリコシル化は均一ではないことに注意すべきである。脱シアリル化のプロセスは化学的プロセスであり,製造元の指針によって様々である。脱シアリル化サンプルにおいては,例えば,末端位置にシアル酸を有する蛋白質の残留物が存在し,これは結果を誤って伝える。いずれにしても,オリゴ糖Neu5Acα2−3/Neu5Acα2−6Gal−β1−4Glcを競合剤として用いたときに,蛋白質ヤドリギレクチン相互作用を低下させることができたため,ML−Iのシアル酸に対する特異性が議論された。しかし,沈殿実験の競合の結果をまとめた表においては(マイクロ沈殿手法),同じ設定の試験を用いれば,種々の糖蛋白質(ヒトα−1酸性糖蛋白質;フェツイン,アシアロRSL)によるML−Iの沈殿は,ラクトースおよびNeu5Acα2−3/Neu5Acα2−6Gal−β1−4GlcとGalβ1−4GlcNAcとの混合物のいずれによっても,ほぼ同じ濃度で妨害することができることが印象的である。ML−Iのシアル酸に対する特異性は,これらのデータからは明確に見ることができない。これはまた,シアル酸を末端位置に有するアシアロRSLおよびフェツインで得られた結果は完全に同一である傾向にあるという理由による。
【0007】
ほぼ同じ時に,Debrayら(1994)は,セファロース4Bに固定化したML−IのO−3またはO−6シアリル化ラクトースまたはシアロ−N−グリコシルペプチドに対する親和性は,N−アセチル−ラクトースアミンタイプのオリゴ糖および糖ペプチドと比較してわずかに増加していたことを示すことができた。ここでは,Debrayら(1994)は,ヒト起源(例えば,尿,ヒト血清トランスフェリン,ヒトα−1産生糖蛋白質)から部分的に単離したオリゴ糖および糖ペプチドを用いた。Debrayらは,ヤドリギレクチンIを固定化したカラム(ML−Iセファロース)で実験を行った。彼らは,試験した糖を評価するとき,3つの因子を区別した。画分1(FNR)はヤドリギレクチンと相互作用を示さず,PBS中でカラムの溶出体積中に溶出された。第2の画分(FR)は,やはりPBSを用いたがやや遅れて溶出された。したがって,これらの2つの画分の糖は,カラムに固定化されたレクチンと相互作用する能力に関してわずかに異なる。実際に結合した画分(FE)は,PBSバッファー中150mMガラクトースでのみ溶出することができた。結果は決定的なものではない。著者らは,例えば,シアル酸α2−6を末端ガラクトース残基に結合させているのであれば,FRと比較してFNRの溶出は遅れると議論している(糖16(FR)および17(FNR)を参照)。しかし,糖15(FR)において見られるように,二重シアル酸標識によっては,カラム上のML−Iにより強く結合する物質を得ることはできなかった。しかし,当業者にとっては,FRと比較したFNRの遅延を明確に議論することは困難である。すなわち,わずかの遅延(FR)はカラムに結合した蛋白質との非特異的相互作用(例えば疎水性相互作用)に起因し,ヤドリギレクチンの特異性によるものではないようである。カラムをPBSバッファー+150mMNaCl+150mMガラクトース(FE)ですすいだ後,試験した構造のうち2つのみが溶出された。これらの2つの構造は,ウシのサイログロブリンまたはキジバトのオボムコイドから単離された。著者らが用いた,主として構造Gal(β1−4)GlcNAc−を含む他のすべての構造と異なり,これらの構造は,α1−4またはα1−3のいずれかにより第2のガラクトースに結合した2つのガラクトース残基を末端に有する。
【0008】
Leeら(1994)は,ML−Iの認識についての第2の糖残基の関連性を記載した。彼らは,ML−Iによる糖構造の認識を4つのグループに分け,第2の位置にあるGlcNAc構造が糖の認識を非常に低下させることを示すことができた。彼らは,ML−Iは末端糖残基β−D−Gal−(1−2)−β−D−Gal−を有する糖類に対して最も高い親和性を有することを見いだした。β1−3−結合ガラクトースもまた,同様に優れた特異性を示した。Leeら(1994)はβ1−4−結合ガラクトースを試験していないが,Debrayら(1994)の仕事から,これらもまたML−Iに対して高い特異性を有するはずであると結論づけることができる。
【0009】
しかし,Debrayら(1994)の研究を評価する場合,カラムに固定化されたヤドリギレクチンを用いて実験を行ったことに注意しなければならない。観察された糖と固定化レクチンとの相互作用は,非生理学的実験系である。すなわち,溶液に溶解したヤドリギレクチンまたは組換えヴィスクミンとレセプターとの相互作用に関して,直接結論づけることは不可能である。
【0010】
Leeら(1994),Debrayら(1994)およびWuら(1995)によりヤドリギレクチンの特異性に関して提示されるデータは相互に矛盾しており,ヤドリギレクチンのNeu5Acに対する特異性の決定的な証拠と考えることはできない。データが,規定された試験条件下で得られたものではないことが特に問題である。特に,このことは,用いた蛋白質の質が技術的な理由により均一な炭水化物構造を有することがなかったことと関連する。
【0011】
Leeら(1992)による知見に基づいて,Galaninaら(1997)は,ヤドリギレクチンを構造的に明確なネオグリココンジュゲートとカップリングさせる実験系を設計した。この系においては,合成オリゴ糖がヤドリギレクチンの結合を逆転させる競合的効力を試験した。しかし,この系で得られた結果もまた不均一であった。ラクトースの競合的効力は予測されたように示された。N−アセチル−ラクトースアミンとの競合は,同様の結果をもたらした。さらに,シアリル−ラクトースの天然に生ずる異性体も実験された。しかし,この場合には,α2−3シアリル化異性体はα2−6シアリル化異性体より競合活性が高いが,ラクトースまたはN−アセチルラクトースアミンの競合活性より明らかに低かった。さらに,著者らは,N−アセチル−ノイラミン酸単独では阻害活性を有していなかったと述べている。
【0012】
競合実験に基づく研究の分析においては,試験された天然に生ずる糖蛋白質が可溶性蛋白質のみを含むことが印象的である。記載される実験においては,膜結合糖蛋白質は試験されなかった。
【0013】
ヤドリギレクチンのみならず,例えば,他のラクトース/ガラクトース特異的蛋白質,例えば,リシンまたはガレクチンもまた,アシアロフェツイン結合蛋白質として記述される。この特性はまた,定量にも用いることができる(Vangら,1986)。Guptaら(1996)は,蛋白質リシン,ガレクチンまたはヤドリギレクチン(ここではViscum albumアグルチニンと称される)の相互作用をより詳細に記載することができた。彼らは,3つの蛋白質すべてがアシアロフェツインと明確な複合体を形成することを見いだした。ヤドリギレクチンまたはリシンの標的細胞への結合を担うレセプターはまだ知られていない。
【0014】
1982年に,Balb/c3T3細胞でコレラ毒素のレセプターが同定された(Critchleyら,1982)。これはガングリオシドGM1であった。この仕事に基づいて,この分野では,他のトキシン/レクチンのレセプターの探索も試みられた。ここでは,リシンおよびピーナッツアグルチニンについて,ヒトリンパ球上のレセプターが糖蛋白質であることを示すことができたが,トウゴマアグルチニンおよび大豆アグルチニンは糖蛋白質およびガングリオシドにほぼ同じ程度に結合する(Turpinら,1984)。モノシアロガングリオシドGM1(末端ガラクトースを有する)を挿入したモデル膜を用いる実験において,2つの蛋白質,すなわちリシンおよびヤドリギレクチンとの非常に非特異的な相互作用のみが観察され,加えたタイプIIRIPに依存して膜の透過性を明確に区別することはできなかった(Pohlら,1998a)。さらに,Pohlら(1998b)は,リシンおよびヤドリギレクチンの両方ともベヒクルとベヒクルの融合を誘導することができたことを観察した。しかし,膜融合は標的細胞によるこれらの蛋白質の取り込みを担うものではないため,誘導誘導のモデルは,ヤドリギレクチンまたはリシン
のインビボでの取り込みには重要な関連性はない。既に,1990年にTonevitskyらは,ガングリオシドGM1はレセプターとは考えられないことを示した。Utsumiら(1987)は,GM1含有リポソームへのリシンの結合を報告しており,これは競合物質であるラクトースを加えたときには観察されなかった。
【0015】
Samalら(1995)は,ヤドリギレクチンは,リシンと同様に,血液血小板と凝集することを観察した。しかし,この分析にしたがえば,ヤドリギレクチンは血液血小板から単離されたリポソームを凝集せず,前記リポソームはリシンにより凝集される。著者らは,これらのレクチンのレセプターの可能性については議論していない。
【0016】
1994年に,変質した細胞の変化した表面構造を利用しうることが見いだされた(Gottsteinら,1994;Usui&Hakomori,1994)。例えば,イムノトキシンは治療法として示唆され,このイムノトキシンは,特定の糖脂質または糖蛋白質構造に対するモノクローナル抗体からなり,これは好ましくは変質した細胞にのみ存在し,リシンの毒性成分(リシンA鎖)である(Gottsteinら,1994;Usui&Hakomori,1994)。このモデルは,トキシンを標的細胞中に輸送することができる細胞特異的ベヒクルの重要性を強調する。
【0017】
リシンの場合,炭水化物に結合するB鎖は,明確に同定されていないが偏在的に生ずるレセプターとしてのそのようなベヒクルの要件を満たさない。この所見は,患者をリシンで治療したときに記述されている副作用を説明する。
【0018】
ヤドリギレクチンは,リシンとは異なり,偏在しないレセプターに結合するように見えるため,B鎖が融合トキシンの輸送用ベヒクルである可能性が示唆された。細胞毒性化合物を有する組換えヴィスクミンのB鎖の対応する融合蛋白質は欧州特許出願EP1012256A1に記載されている。したがって,対応する治療剤の有効かつ標的化された用途のために,ヤドリギレクチンまたは組換え的に製造された組換えヴィスクミンのB鎖が結合するレセプターを同定することが望ましい。
【0019】
ヤドリギ抽出物(Viscum albumの抽出物)を治療薬として用いることは,既に数百年前から知られていた。ここでは,これらの抽出物の活性成分としてレクチンと称される成分が同定されている。これらのレクチンは,脂質または蛋白質が結合した形においても,非常に特異的な炭水化物構造を認識することができ,それに結合することができる蛋白質である。ヤドリギレクチンは,クラスIIリボソーム不活性化蛋白質として特徴づけられており,その2つのサブユニットが相互作用する場合にのみ薬理学的に有効である。ここでは,特異的炭水化物結合特性を有する配列モチーフを有するヤドリギレクチンのB鎖が,蛋白質の標的細胞内への輸送を担う。標的細胞においては,次にAサブユニットが細胞においてその酵素的rRNA−N−グリコシダーゼ活性によりリボソーム代謝をブロックし,このようにして,かかる細胞においてプログラムされた細胞死(アポトーシス)を誘導する。
【0020】
ヤドリギ植物およびここから得られる抽出物の,疾患を治療するための作用のモードは,欧州特許EP0602686B1に記載されている。今世紀の初めから,ヤドリギ調製物は癌治療において用いられており,成功するか否かはまちまちである(Bocci,1993;Gabiusら,1994;Gabius&Gabius,1994;Ganguly&Das,1994)。Hajtoら(1989,1990)はまた,治療効果は特にいわゆるヤドリギレクチン(ヴィスクミン,Viscum albumアグルチニン,VAA)により媒介されることを示すことができた。細胞毒性効果に加えて,今日では,特に(非特異的)免疫刺激が議論されており,腫瘍患者の併用される療法に,およびフォローアップ治療に,その有効な効果が利用されている。内因性エンドルフィンの放出に
よりそのような患者の生活の質の改善がもたらされる可能性がある(HeinyandBeuth,1994)。
【0021】
多数のインビトロ分析(Hajtoら,1990;Mannelら,1991;Beuthら,1993)およびインビボ分析(Hajto,1986;Hajtoら,1989,Beuthら,1991;Beuthら,1992)および臨床試験(Beuthら,1992)は,ヤドリギレクチンにより媒介される炎症性サイトカイン(TNF−α,IL−1,IL−6)の放出の増加および免疫系の細胞性成分(TH−細胞,NK−細胞)の活性化を証明した。
【0022】
今日では,60kDaのヤドリギレクチン蛋白質が,ヤドリギ抽出物の活性の本質であると考えられており,蛋白質は生化学的方法により抽出物から得ることができる(Franzら,1977;Gabiusら,1992)。ML蛋白質は2つの共有結合的にS−S結合したサブユニットからなり,ここで,蛋白質のA鎖はリボソームの酵素的不活性化を担い(Endoら,1988),この蛋白質のB鎖は炭水化物結合を担う。生物学的活性はB鎖のレクチン活性を得ることと相関している(Hajtoら,1990)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の基礎となる技術的課題は,これまで組換えヴィスクミンまたは類似の化合物の投与を含む治療法が個体の疾患または病気の治療に適しているか否かについて予測することが可能ではなかったことである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
この技術的課題は,本発明の特許請求の範囲に示される態様により解決された。
【0025】
すなわち,本発明は,ヤドリギレクチンまたはヤドリギレクチン一本鎖に対する個体の応答性を判定するインビトロ方法に関し,この方法は,膜結合レセプターを量的および/または質的に特異的に検出する工程を含み,レセプターは,α2−6グリコシド結合によりガラクトース(Gal)に結合している末端N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)により特徴づけられる。
【0026】
すなわち,本発明にしたがえば,好ましくはヤドリギレクチンまたはヤドリギ一本鎖に対する個体の応答性を判定するインビトロ方法が記載され,この応答性はヤドリギレクチンの炭水化物結合サブユニットの,膜結合レセプターへの特異的結合により媒介され,レセプターは,α2−6グリコシド結合によりガラクトース(Gal)に結合している末端N−アセチル−ノイラミン酸(Neu5Ac)により特徴づけられる。判定は,この特定のグリコシル化を量的および/または質的に特異的に検出することを含む。
【0027】
"ヤドリギレクチン"との用語は,本明細書に記載され当業者に知られる天然のヤドリギレクチンおよび組換えヤドリギレクチンの両方を含み,上述のヤドリギレクチン一本鎖は,好ましくはヤドリギレクチンB鎖またはそのフラグメントを含む。
【0028】
本発明に関して,"応答性"との用語は,単一の細胞,細胞集団,細胞のクラスター,組織,臓器または生物の反応を誘発することを表し,この反応は,疾患または病気の治癒に好都合なものである。さらに,"応答性"との用語はまた,組換えヴィスクミンまたは類似の化合物の予防的な適用における,個体細胞,細胞集団,細胞のクラスター,組織,臓器または生物の感受性を含む。したがって,それぞれの標的細胞の応答性は,有効な治療効果または予防効果と結びつけられる。好ましくは,"応答性"は,ヒト細胞,細胞集団,細胞のクラスター,組織,臓器またはヒト生物の感受性を含む。
【0029】
"特異的結合"との用語は,例えば,"鍵と鍵穴の原理"により特徴づけられる。リガンド(ヤドリギレクチン)および標的分子(膜結合レセプター)は,互いに特異的に適合する構造ないしモチーフを有する。その一例は,抗体の抗原結合部位と相互作用する抗原決定基(エピトープ)である。したがって,特異的結合は,より万能の非特異的結合と対照的なものである。互いに特異的に結合する相互作用パートナーの構造が知られている場合,これと相互作用する適当なパートナーの可能な好ましい構造または特定の構造要素についての結論を得ることができる。
【0030】
本発明は,ヤドリギレクチン,特に組換えヴィスクミンの特異的相互作用のパートナーを提供する。
【0031】
"ヤドリギレクチンの炭水化物結合サブユニット"との用語は,ヤドリギレクチンの膜結合レセプターに特異的に結合するヤドリギレクチンのB鎖の配列モチーフを表す。これらのモチーフはLangerら(2000)に記載されている。リシンの炭水化物結合サブユニットと同様に,ヤドリギレクチンのB鎖もまた2つのドメインから形成される。これらのドメインはそれぞれ3つのサブドメインに分けられる。ドメインは1および2と称され,サブドメインはα,βおよびγと称される。リシンについては,すべてのサブドメインはおそらくは細菌の炭水化物結合構造に由来するものであろうと記載されている(Rutenberら1987)。リシンとヤドリギレクチンのB鎖の高い構造的同一性のため(62%の同一性および70%の相同性,Eckら,1999),この所見は,ヤドリギレクチンにも適用可能であるように見える。Langerら(2000)によれば,リシンとヤドリギレクチンの炭水化物結合サブユニットの異なる特異性は,そのサブドメインにおける相違のためである。特に,1αサブドメインにおいて残基D23およびW38,1βにおいて残基Y68,Y70,Y75およびF79,およびサブドメイン2γにおいて残基D235,Y249が存在する(番号付けについてはEckら(1999a)を参照)。
【0032】
本発明に関して,"膜結合レセプター"との用語は,α2−6グリコシド結合を介してガラクトース(Gal)に結合している末端N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)により特徴づけられる膜結合構造を表す。対応する膜結合構造の例は,細胞の膜にアンカリングされた蛋白質またはペプチドである。この定義は,貫膜蛋白質および膜付随蛋白質およびペプチドの両方を含む。それ自体膜の一部であるか,または膜に付随している脂質もまたそのような構造の例である。本明細書に記載される膜結合構造は,糖蛋白質(グリコシル化された蛋白質)および糖脂質の一部であってもよい。
【0033】
この点に関して,"膜"との用語は,明示的にすべての膜性の細胞性脂質二重層を含む。したがって,小胞体(ER),ゴルジ装置の膜,核膜,小胞および空胞の膜および細胞外膜も含まれる。
【0034】
当該技術分野においては,α2−6グリコシド結合を介してガラクトース(Gal)に結合している末端N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)でグリコシル化された蛋白質が記載されている。しかし,これらのグリコシル化された蛋白質は,可溶性蛋白質/血清蛋白質であり(例えば,Hanasakiら,1995を参照),これはヤドリギレクチンの薬理学的効果にも作用のモードにも関係ない。本発明は,グリコシル化された膜結合構造を最初に開示するものである。
【0035】
ヤドリギレクチンの炭水化物結合サブユニットの特異的標的構造として,α2−6グリコシド結合を介してガラクトース(Gal)に結合している末端N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)を同定することにより,単独で,またはLangerら(2000)
の教示と組合わせて,例えば,当業者が部位特異的突然変異によりリシンの炭水化物結合サブユニットを変化させることを可能とする。このようにして変異させたペプチド/蛋白質は,もはやリシン特異的標的構造には結合しないが,ヤドリギレクチン特異的標的構造には結合する。
【0036】
かかるグリコシル化の量的および/または質的検出の例は当業者に知られており,例えば,この例を示す本明細書の実施例7および図9に記載されている。そのような方法には,例えば,実施例に示されるような改変したウエスタンブロット分析が含まれる。さらに,そのような方法には,ラジオイムノアッセイ(RIA),サンドイッチ(イムノメトリックアッセイ)およびウエスタンブロットアッセイ,IRMA(免疫ラジオイムノメトリックアッセイ),EIA(酵素イムノアッセイ),ELISA(酵素結合イムノソルベントアッセイ),FIA(蛍光イムノアッセイ),CLIA(化学発光イムノアッセイ),アグルチニン化アッセイおよびフローサイトメトリ法等の手法が含まれる。
【0037】
本発明の方法は,とりわけ,ヤドリギレクチン療法の有効性を予測することを可能とする。この方法は,ヤドリギレクチン,好ましくは組換えヴィスクミンを用いる治療法がある種の細胞,ある種の細胞集団またはある種の組織,臓器または生物にける疾患の治療において原理的に成功すると予測されるか否かについての予見をすることを含む。例えば,本発明の方法を用いて腫瘍細胞において上述のグリコシル化が同定されれば,組換えヴィスクミンは細胞に結合し,細胞に吸収され,細胞毒性効果を発揮することができる。さらに,本発明の方法により,ある個体におけるヤドリギレクチン療法の有効性の予測が可能となる。結論として,患者の群において,個々のレスポンダー(治療法に応答する患者)を非レスポンダーから区別することができる。したがって,そのような予測の方法は,当業者に知られ,ハーセプチンによる乳癌患者の治療の前に行われている試験と同様の目的を達成することができる。抗体調製物ハーセプチンの投与を用いる治療を行う前に,患者がEGF−レセプターHer−2を有しているか否かを試験しなければならない。この点に関して,FDA(US Food and Drug Administration)は,特に2つの試験方法(免疫組織化学染色(IHC)および蛍光インシトゥーハイブリダイゼーション(FISH))を認可している(この点については,例えば,Thomsonら(2001)を参照)。同様に,ヤドリギレクチン療法,特に組換えヴィスクミンを用いる治療に対する個々のレスポンダーを認識および/または判定するために,そのような方法および本明細書に記載される他の手法を,本発明の教示にしたがって用いることができる。
【0038】
本発明の方法を行うためには,液体のサンプル,特に体液のサンプル,細胞,細胞集団または組織を用いることができる。これらのサンプルは血液サンプルまたは体液の他のサンプルに由来するものであってもよく,組織サンプル,個体細胞または播種性の腫瘍細胞であってもよい。そのようなサンプルの例,およびこれらをどのようにして取り出すかの手法は,本明細書においてさらに別の態様に関連してより詳細に記載される。
【0039】
本発明の方法はまた,患者の群において初期にレスポンダーを認識することを可能とする。このようにして,治療を始める前に大きな遅れを伴わずに容易に実施することができる試験において,治療の成功を評価することが可能である。本発明の方法のこの特徴は,疾患経済学の観点に関して特に意味がある。コストがかかるが個々の患者には有効でないかもしれない治療を回避することができる。このようにして,組換えヴィスクミンを用いる治療の成功が疑わしいように見える個々の患者について,治療が有効な場合には許容される副作用を回避することができる。
【0040】
実施例に記載されるように,本発明の基礎をなす試験においては,ヤドリギレクチンおよびリシンがスフィンゴ糖脂質(GSL)に結合することを明確に示すことができた。本
発明は,ヤドリギレクチン(特に組換えヴィスクミン)とリシンの結合特異性の量的および質的相違を示すことを初めて可能としたものである。2つの蛋白質により認識される炭水化物構造の概略図を図1に示す。
【0041】
実施例に示されるように,特別の試験において,ヤドリギレクチン(特に組換えヴィスクミン)の主たる特異性は末端ガラクトースではないことが示された。図2−5および7は,異なる移動剤中での異なる移動特性によって予め中性および酸性GSLが分離されているDCプレート(TLCアッセイ)における,結合したリシンまたは組換えヴィスクミンの改変ウエスタンブロット/免疫学的検出を示す。リシンは,末端ガラクトースを有する中性GSL(Lc2,nLc4,nLc6,Gg4)(表1;図4B,レーンb)に対して明らかな特異性を示すが,組換えヴィスクミンは驚くべきことにGalβ1−4Glcβ1−1Cer(この場合Cerはセラミドを意味する)に非常に弱い結合しか示さない(表1;図2A,レーンb,一晩インキュベートした後に染色なし)。
【0042】
しかし,驚くべきことに,この用量は,組換えヴィスクミンにより非常によく認識され,リシンによっては全く認識されないN−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)が末端に存在するガングリオシドの群にはあてはまらないことが示された(表1;図2B,レーンb;図5B,レーンb,染色なしを参照)。さらに,驚くべきことに,組換えヴィスクミンによるレセプター構造の認識には,N−アセチルノイラミン酸が中性の糖構造の末端ガラクトースに,α2−6(認識される)またはα2−3(認識されない)で結合しているかが重要であることが見いだされた(実施例および図を参照)。
【0043】
本発明の特徴である,Neu5Ac−α2−6−GalコンフィギュレーションにおけるN−アセチルノイラミン酸の特異的認識は,モノクローナル抗体のエピトープ認識における特異性を連想させ,このことはこれまでヤドリギレクチンについては述べられていない。リシンおよび組換えヴィスクミンの全く異なる特異性もまた驚くべきものであり,当業者には予測しえないものであった。試験した2つのタイプII−リボソーム不活性化蛋白質の異なる認識モチーフは表1にまとめられている。当該技術分野における技術水準から,リシンおよびヤドリギレクチン(特に組換えヴィスクミン)の両方とも,仮に結合するとしてもむしろガラクトースを末端糖残基として有する中性GSLに結合すると結論づけることができた。
【0044】
本発明の方法の好ましい態様においては,レセプターは,α2−6−シアリル化ガラクトースの後に少なくとも1つのN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)を含むガングリオシド,すなわち,ガラクトースへのα2−6結合N−アセチルノイラミン酸の後に少なくとも1つのN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)を含むガングリオシドを含む。しかし,以下に説明するように,続くN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)はNeu5Acα2−6−Gal構造の後に,直接的および間接的のいずれで存在していてもよい。すなわち,本発明に関して,本発明の方法は,構造Neu5Acα2−6−Gal−Y−[GlcNAc]x−Cerを含むガングリオシドレセプターの(構造)認識に基
づくことが可能である。Yは,例えば,さらに別のガラクトース(Gal)を含むことができる。
【0045】
本発明に関して,"ガングリオシド"との用語は,セラミドオリゴ糖を含む酸性シアル酸を表す。炭水化物成分はN−アシルスフィンゴシン(=セラミド)のC1−OH基に対するグリコシド結合により結合している。ガングリオシドは,長鎖(例えば,IV3nLc
4,VI3nLc6,等)および分枝鎖(GM1またはGM2)のいずれであってもよい
(Voet and Voet(1992),特にこの文献の271ページの図)。
【0046】
本発明の方法のさらに別の好ましい態様においては,レセプターは,構造Neu5Ac
α2−6−Gal−[Gal/GlcNAc]x−Cer(Cerはセラミドである)を
有するガングリオシドを含む。本明細書に記載される方法においては,Neu5Acα2−6−[Galβ1−4GlcNAcβ1−3]xGalβ1−4Glcβ1−1Cer
が特に好ましい。
【0047】
ガングリオシドを構造的に特徴付ける一般的方法は,現在のところ,xが6以下である場合にのみガングリオシドを正確に分析することができる。ヤドリギレクチンの炭水化物結合サブユニットは末端糖構造を認識する。したがって,変数xの値は,原理的には特異的結合には重要ではない。好ましくは,変数は最大で10の値を有する。さらに,変数は好ましくは6以下の値を有し,より好ましくは5,4,3,2または1の値を有する。さらに,分枝鎖ガングリオシドの場合,xの値は個々のまたはすべての鎖で異なっていることが好ましい。
【0048】
また,本発明の方法の1つの態様において,レセプターは,構造Neu5Acα2−6−[Galβ1−4GlcNAcβ1−3]xGalβ1−4Glcβ1−1Cerを有
するガングリオシドを含むことが好ましく,構造Neu5Acα2−6Galβ1−4GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glcβ1−1Cer,またはガングリオシドNeu5Acα2−6Galβ1−4GlcNAcβ1−3Galβ1−4GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glcβ1−1Cerが特に好ましい。この好ましい態様もまた,直鎖および分枝鎖のガングリオシドを含む。
【0049】
さらに別の好ましい態様にしたがえば,レセプターは細胞膜結合性である。
【0050】
本発明の方法のこの態様は,細胞外膜の一部を形成するかまたはこれに結合している膜結合レセプターの分析を記載する。特に,かかる態様は,糖蛋白質または糖脂質であるレセプターを含む。
【0051】
さらに別の好ましい態様においては,ヤドリギレクチンは組換えヤドリギレクチン/組換えヴィスクミンである。
【0052】
上述したように,文献では天然に生ずる種々のヤドリギレクチンを区別している(ML−I,−IIおよび−III)。これらは,その炭水化物特異性において異なる(Franz,1986)。ここでは,ガラクトース/ラクトースの特異性(ML−I)は,ガラクトース/ラクトースおよびN−アセチルガラクトサミンの混合物形(ML−II)から,N−アセチルガラクトサミンにより強く結合するヤドリギレクチン(ML−III)に変化することが議論されている。E.coli中で与えられる組換えヤドリギレクチン/組換えヴィスクミンは当業者に知られている(EP0751221B1;Eckら,1999aおよび1999b)。組換えヴィスクミンの一次構造は,ヤドリギ植物に見いだすことができるML−I,ML−IIまたはML−IIIとは正確には対応していない。記載される組換えヴィスクミンの配列とは別に,元の遺伝子の別の部位の変異により改変されている他のヤドリギレクチン変種が存在し,これはその一次構造においてわずかに異なるかもしれないことが想定される。組換えヴィスクミンは本来のヤドリギレクチンの変種であると考えることができ,ML−I,ML−IIおよびML−III配列の混合物であると理解することができる。
【0053】
さらに,この態様は,欧州特許出願EP A 21012256に記載される組換えヴィスクミンに基づく組換え融合蛋白質を含む。
【0054】
さらに,本発明の1つの態様においては,好ましくは,組換えヤドリギレクチンは配列番号1,配列番号3または配列番号5で示されるポリヌクレオチドによりコードされるア
ミノ酸配列を含む。
【0055】
さらに別の好ましい態様は,1またはそれ以上のポリヌクレオチドによりコードされる組換えヤドリギレクチンを含む。
【0056】
本発明の方法の好ましい態様においては,組換えヤドリギレクチンはまた,配列番号2,配列番号4または配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはその機能的フラグメントを含む。
【0057】
本発明に関して,"機能的フラグメント"との用語は,アミノ酸配列(配列番号)をもって示されるポリペプチドと同じ生物学的機能を有する,上述のポリペプチドのフラグメントを表す。ヤドリギレクチン,特に組換えヴィスクミン,およびヤドリギレクチンの既知のサブユニットの機能は,本明細書に既に記載した。"機能"には,本明細書に記載されるヤドリギレクチンレセプターに対する,ヤドリギレクチン,特にヤドリギレクチンのB鎖の特異的結合特性も含まれる。すなわち,ヤドリギレクチンB鎖のフラグメント,特に本明細書に記載されるヤドリギレクチンレセプターとの特異的な相互作用を媒介しうるフラグメントも含まれる。
【0058】
この点に関して,"同じ生物学的機能"との用語は,例えば,細胞においてポリペプチドのフラグメントまたは誘導体が言及されているペプチドと同じシグナルを誘導することを表す。フラグメントの例は,規定される機能または特定の補欠分子団を有するペプチドドメインである。"同じ生物学的機能"には,細胞毒性,免疫刺激(天然および適応性免疫系の両方),サイトカインの放出の刺激,抗原性,表面マーカー(例えばNK細胞のCD56)の発現または活性化の誘導,アポトーシスまたはエンドルフィン刺激の誘導も含まれる。
【0059】
さらに別の好ましい態様においては,組換えヤドリギレクチンはまた,配列番号2,配列番号4または配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはこれらの機能的フラグメントをコードする1またはそれ以上のポリヌクレオチドによりコードされるものから構成される。ただし,遺伝コードを考慮すればその配列は縮重している。
【0060】
本明細書において初めて記載されるヤドリギレクチンレセプターは,実施例に記載されるように細胞試験においても役割を果たす。細胞が組換えヴィスクミンによる治療に対して異なるように反応することを示すことができた。特に,腫瘍細胞または腫瘍細胞に由来する細胞は,実施例に記載されるように,組換えヴィスクミンによる処理に対して特異的な生化学的反応を示す。
【0061】
実施例に記載される実験により,本明細書に開示されるレセプターに対する組換えヴィスクミンの特異性を明確に同定することも可能であった。さらに,組換えヴィスクミンがリシンと比較して量的に異なる炭水化物特異性を有することが明確に示された。
【0062】
本発明の基礎をなし,実施例に記載されている実験においては,腫瘍細胞または腫瘍細胞株が上述のヤドリギレクチン,特に組換えヴィスクミンに対する特異的レセプターを発現することが示された。
【0063】
本発明の方法の別の態様は,ヤドリギレクチンに対する応答性を判定するためのインビトロ方法であり,この方法は,シアリルトランスフェラーゼを量的および/または質的に決定することを含む。
【0064】
シアリルトランスフェラーゼは,真核生物細胞においてグリコシル化された構造の末端
グリコシル化を担う。これらの酵素の活性は,ゴルジ装置(トランスゴルジコンパートメント)に見いだされた。酵素はシアル酸残基の転移を触媒する。そのようなシアリルトランスフェラーゼの酵素活性は,例えば変性性細胞(癌細胞)において,ペプチドおよび/または脂質の特異的グリコシル化を触媒する。細胞または組織サンプルにおけるそのようなシアリルトランスフェラーゼの存在は,細胞の変性を示すものと考えることができる。これは,サンプル中のこれらのシアリルトランスフェラーゼの酵素活性を検出する場合にはより当てはまる。
【0065】
シアリルトランスフェラーゼを量的および/または質的に決定するための分子生物学および蛋白質生化学的方法は,文献から当業者に知られている(例えば,Mulhardt(2000)およびRehm(2000)を参照)。分子生物学的方法は,例えばRT−PCR手法,RNAse保護アッセイ,ノザンブロットまたはサザンブロット分析である。蛋白質生化学的方法は,例えば,トランスフェラーゼ活性を検出するための方法,ならびにウエスタンブロット分析,または"プロテオーム分析"との用語でまとめることができる他の手法等の方法である。
【0066】
さらに,個々の細胞のシアリルトランスフェラーゼの量的決定は,例えば,播種性の腫瘍細胞を含むことができる。個々の細胞分析は当業者に知られており,EP A 111009938およびKlein(1999)に記載されている。
【0067】
対応するシアリルトランスフェラーゼの例は,β−ガラクトシドα−2,6−シアリルトランスフェラーゼ(E.C.2.4.99.1)(α2−6STN)である。α2−6STNは,47kDaの貫膜蛋白質である。肝細胞はまた41kDA型の前記酵素を分泌する。可溶型α2−6STNは血清糖蛋白質であり,これは急性期反応物の群に割り当てられており,病原性プロセスにおいて役割を果たす(多くの癌腫,例えば結腸癌および子宮頸癌において活性が増強されている)。既知の形の酵素のアミノ酸配列およびこれらをコードするヌクレオチド配列は当業者に知られている(受託番号L29554(Rattus norvegicus),X75558(Gallus gallus),NM_003032(Homo sapiens)およびNM_009175(Mus musculus)を参照)。
【0068】
本明細書に記載される,本発明にしたがう方法は,特異的検出試薬を用いて行うことができる。そのような特異的検出試薬は,本明細書に記載されるヤドリギレクチンレセプターと相互作用または結合することができる。かかる相互作用または結合は,直接的であっても間接的であってもよいが,本明細書に記載されるレセプターに特異的でなければならない。本発明の特に好ましい試薬は,特異的抗体,抗体フラグメントまたは抗体誘導体,アプタマー,炭水化物結合分子(例えば,ペプチドおよび/または蛋白質)であり,ここで,試薬は,本明細書に記載されるヤドリギレクチンレセプターまたはその特定の成分(例えば,本明細書において定義され,アルファ2−6グリコシド結合を介してガラクトースに結合している末端N−アセチルノイラミン酸)を認識および/または結合することができなければならない。好ましくは,これらの検出試薬は標識されており,標識としては,放射性物質,蛍光色素,ビオチン−(ストレプト)アビジン,ルシフェラーゼ,CAT,ベータ−ガラクトシダーゼ,アルカリホスファターゼ,ペルオキシダーゼ,さらに別の酵素標識,ジギトニン,一般の染料等が挙げられる。しかし,本発明の方法はまた,本明細書に記載されるレセプターの間接的検出によっても実施することができる。レセプターの検出は実施例に例示されており,上述したように,RIA,ELISA,CLIA,FIA,ELLA,TLC試験,組織学的方法,直接および間接(免疫)蛍光法またはフロースルー法(例えば,FACS分析,フローサイトメトリ,BIAcore)等の方法も含むことができる。
【0069】
別の態様においては,本発明は,上述のレセプターを特異的に認識または結合する物質,好ましくは,抗体,抗体誘導体,抗体フラグメント,アプタマーおよび炭水化物結合ペプチドまたは蛋白質からなる群より選択される物質を含む診断用組成物に関する。しかし,本発明にしたがって,レクチン,例えば標識したレクチンを診断目的に用いることもできる。この場合には,特に,本明細書に記載されるレセプターに特異的に結合しうる標識したレクチンを用いる。
【0070】
特定の標的構造を認識するかまたは結合する抗体(ポリクローナルまたはモノクローナル)を製造する方法は当業者に知られている。神経性疾患において役割を果たすガングリオシドGD1およびGD2に対するモノクローナル抗体の製造は,Magnaniら(1982),Turら(2001)およびPanら(2001)に記載されている。そのような抗体の特異性の検出は,例えば,薄層クロマトグラフィー後の免疫染色に基づく重層アッセイにより行うことができる(Muthing and Muhlradt(1988),Muthing and Kemminer(1996),Muthing(1998))。かかる方法は,任意にELISAと組み合わせてもよい。
【0071】
本明細書に記載される方法において用いるべき抗体は,好ましくは,本明細書に開示される膜結合レセプター構造に特異的に結合するモノクローナル抗体(またはそのフラグメントまたは誘導体)である。実施例においてはそのような抗体を得る方法が示される。例えば,実施例において59.33.3,59.33.5および59.33.6と表される抗体は,本明細書に記載されるα2−6シアリル化ネオラクト系ガングリオシド,すなわち,本明細書に記載される(組換え)ヤドリギレクチンのレセプターに対する抗体である。
【0072】
抗体は,例えば,IgG,IgA,IgD,IgMのタイプの抗体でありうる。特に好ましい抗体は,ブダペスト条約にしたがって2002年12月20日に名称59.33.3としてDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ),Brunswickに寄託された受託番号のハイブリドーマ/ハイブリドーマ細胞株から得ることができる。
【0073】
本明細書に記載される診断用組成物および医薬組成物(下記参照)はまた,本明細書に記載される抗体からこれを修飾することにより得られる抗体を含んでいてもよい。このようにして,当業者に知られる手法を用いて,本明細書に記載される抗体のCDR(相補性決定領域;3つの相補性決定領域CDR1,CDR2およびCDR3は抗体またはT−細胞レセプターのV−ドメインの末端のループである。これらは抗原またはペプチド:MHC複合体と直接接触する)を単離し,かかるCDRを異なる構造を有する抗体に挿入することができる。すなわち,59.33.3抗体(IgM)からCDRを単離して,このCDRを他のイムノグロブリン,例えばIgG,好ましくはIgG1構造中に組み込むことが可能である。これらの方法(例えば,CDRグラフティング)は当業者によく知られている。したがって,本明細書に記載される抗体はまた,キメラ抗体,ヒト化抗体または一本鎖抗体または一本鎖抗体フラグメント,例えばscFvコンストラクトを含む。しかし,そのような抗体の修飾は,本明細書に詳細に記載される抗体59.33.3,59.33.5または59.33.6の修飾に限定されない。用いるべき抗体は,本明細書に記載される(組換え)ヤドリギレクチン((組換え)ヴィスクミン)のレセプターに特異的に結合する全ての抗体/抗体分子,抗体フラグメントまたは抗体誘導体でありうる。
【0074】
抗体フラグメント,例えば,Fv,F(ab’)2およびFabは,無傷の蛋白質(抗
体)を,例えばプロテアーゼによりまたは化学的切断により切断することにより生成することができる。また,切断型の遺伝子を設計してもよい。例えば,F(ab’)2フラグ
メントの一部をコードするキメラ遺伝子は,H−鎖のCH1ドメインおよびヒンジ領域を
コードするDNA配列,およびその後に翻訳停止コドンを含み,このことにより切断型の分子が得られる。
【0075】
"抗体誘導体"との用語は,上述の抗体の修飾された形を記述する。これらの修飾には,抗体またはそのフラグメントの化学的修飾,特に生化学的修飾,好ましくは蛋白質生化学的修飾が含まれる。ここでは,抗体,抗体フラグメントおよびそれらの誘導体を特徴づける共通の特徴は,特定の標的構造の認識および/または結合である。本発明にしたがえば,前記標的構造は,本明細書に記載されるヤドリギレクチンの膜結合レセプターである。
【0076】
アプタマーおよびその特定の特性は,例えば,Hermann and Patel(2000)に概説されている。アプタマーを単離する方法もまた,当該技術分野の技術水準から当業者に知られている。
【0077】
本明細書においては,"炭水化物結合ペプチド"との用語は,医薬組成物を製造するための使用に関連する本発明の態様におけるものと同様に定義される。
【0078】
診断用組成物のさらに別の好ましい態様においては,物質を検出可能なように標識する。物質の検出可能な標識の例は当業者に知られている。これには,例えば,放射性標識,酵素標識または蛍光標識が含まれる。ビオチニル化およびアビジンまたはストレプトアビジンを用いる検出も,対応する好ましい態様の一例である。
【0079】
本発明の1つの態様は,本発明にしたがう診断用組成物を用いて,個体細胞,細胞集団または細胞の集合,組織,臓器または生物中の細胞が,ヤドリギレクチンの機能的レセプターを有するか否かを分析することを含む。
【0080】
さらに別の態様においては,本発明はまた,上述の物質を用いて,機能的ヤドリギレクチンレセプターを検出するための診断剤を製造することに関する。
【0081】
本明細書に記載され,実施例で実験されたレセプターの検出における本発明の診断剤の使用は,細胞について行うことがさらに好ましい。
【0082】
実施例に示されるように,α2−6グリコシド結合を介してガラクトース(Gal)に結合している末端N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)を発現する腫瘍細胞は,ヤドリギレクチン,特に組換え的に製造したヤドリギレクチン(組換えヴィスクミン)に対するレスポンダーとして特に適している。
【0083】
好ましい態様においては,調べる細胞は腫瘍細胞である。これらの腫瘍細胞のより好ましいものは,動物細胞,好ましくは哺乳動物に由来する腫瘍細胞であり,さらに好ましくはヒトに由来する腫瘍細胞である。さらに好ましくは,これらの細胞は,白血病細胞,小細胞または非小細胞肺癌,結腸癌,CNS癌腫,黒色腫,卵巣癌,腎臓癌,前立腺癌,乳癌,膀胱癌,胃癌,膵臓癌または精巣の癌腫である。
【0084】
本発明のさらに別の好ましい態様においては,細胞は生検材料に由来するものである。生検材料を回収する方法は当業者に知られている。この記述は,細胞を個人または患者から取り出す種々のタイプの回収方法を含む。生きた細胞である細胞が好ましい。これらには,例えば,細い針を用いて行う生検(細針吸引),パンチ生検,固体組織部分の除去(例えば外科手術法により)または組織全体(例えば副腎)のサンプルがある。種々の回収手法は,例えば,Kremerら(1999),Pichlmayr and Lohlein(1991),Niethard and Pfeil(1997),Malte(1998)およびBonkに記載されている。
【0085】
また好ましい態様においては,細胞は血液サンプルから単離される。血液サンプルからの細胞の単離に加えて,本発明のまた好ましい態様においては,胸水,腹水サンプル,洗浄水,尿サンプル,精液サンプルまたは脊髄液および脳液からのサンプルから細胞を単離する。
【0086】
治療計画を立てる前に,または治療の経過中に,例えば癌患者の組換えヴィスクミンに対する応答性を判定するために,患者から組織を取り出す。また,特定の適応症に関して堅実な統計学的基礎を有する陳述をすることができるように,(異なる)患者の回収されたサンプル/保存されたサンプル(多くの病院でパラフィンブロックバンクとして保存され,適応症にしたがって分類されている)に頼ることも可能である。
【0087】
これらの組織は,例えば,凍結乾燥されるか,ホルムアルデヒド溶液中に保存されるか,または低温保存により得ることができ(意図的な凍結,例えば,糖溶液等の低温保護溶液で潅流した後),次に当業者に知られる方法にしたがってさらに加工し,例えば,パラフィンブロック中に保存することができる。サンプルから出発して,顕微鏡で調べるのに適した切片を調製する。次に,特定の抗原,すなわち,本明細書で定義される(組換え)ヤドリギレクチンのレセプターの存在について,これらの切片を当業者によく知られる方法で調べる(例えば,LSAP法(ELISAに類似する方法),またはDAKO(Hamburg)のENVISION法を用いることにより)。これを実施するためには,本明細書に記載されるレセプターのエピトープ"CD75s"を特異的に認識する抗体,例えば,mAb59.33.3または他の2つのmAbs59.33.5または59.33.6を用いることにより,患者からのサンプルを用いて行うことができる。抗体は,例えば500ng/mlから10μg/mlの濃度で用いることができ,次に結合した抗体を二次抗体または他の検出方法を用いて検出することができる。例えば,アルカリホスファターゼとともに提供されるポリデキストラン結合抗マウスIgM抗体を用いることができる。すなわち,健康な組織と変性性組織とを比較することが可能であり,また,患者または特定の腫瘍適応症の場合には,組換えヴィスクミンを用いる治療が有望であるか否かを区別することが可能である。さらに,(組換え)ヤドリギレクチン((組換え)ヴィスクミン)を用いる治療が成功したか否かを検出することができ,すなわち,治療の経過をモニターすることができる。
【0088】
さらに,本明細書に記載される発明は,他の診断方法,例えば,とりわけ,細針生検材料および異種移植細胞株または他の細胞株の試験を可能とする。
【0089】
細胞は,例えば,96ウエルプレート中で固定し,実施例8に記載されるように,ELISAと類似する方法において,膜結合/膜安定性CD75sモチーフ(組換えヴィスクミン結合モチーフ,すなわち,本明細書に記載される膜結合レセプター構造のモチーフ)の存在について調べることができる。試験に用いることができる別の方法はFACS分析である。この方法では,細胞のプールからある種の表面抗原を有する細胞を取り出すことができる(細針生検の場合には特に興味深い)。すなわち,特異的抗体または抗体誘導体,例えば,本明細書に記載されるmAbs59.33.3,59.33.5または59.33.6を用いることにより最初に細胞を用いる。次に,結合した抗体(これは,好ましくは,限定されないが,500ng/ml−10μg/mlの濃度で用いることができる)を,FITCまたは他の方法により(蛍光)標識した二次抗体,例えば抗マウスIgM抗体とともに,自動化セルソーター(例えば,Becton Dickinson社製)に入れる。この方法においては,特定の細胞集団を分離するために,標的細胞上に存在する第2のエピトープを(蛍光)標識抗マウスIgM抗体とは異なる抗体で標識する。したがって,この場合には2回標識された細胞のみを特異的に選択することができる。このことにより,組換えヴィスクミンによる治療に関して患者を予測する別の可能性が提供され
る。
【0090】
さらに,対応する細胞集団の何パーセント(2回染色した細胞対第2抗体でのみ染色された細胞)が所望のCD75sエピトープを有するかについての情報を得ることができる。そのような分析から,疾患の微量残留物が存在するか否かを評価するかまたは調べることができる。さらに,他の抗腫瘍剤と組換えヴィスクミンとの組み合わせ療法をインビトロで試験して,患者に適用する準備をすることができる。
【0091】
本明細書に記載される診断方法はまた,溶解した膜構造の分析を含む。とりわけ,例えば,新鮮な固定していない生検材料を界面活性剤(例えば,TritonX−100(登録商標),TritonX−112(登録商標),Tween80(登録商標),Tween20(登録商標),オクチルグリコシド等)で処理し,例えば,ウエスタンブロッティングにより,またはELISA/RIA試験の形で,溶解物を分析することが可能である。このことは,界面活性剤による溶解物を,本明細書に記載される(組換え)ヤドリギレクチン((組換え)ヴィスクミン)の膜結合レセプターが元々存在していたかについて試験しうることを意味する。対応する分析のための十分な方法は当業者に知られている。
【0092】
さらに別の態様においては,本発明は,上で定義したレセプターの1つに特異的に結合するかまたは認識する物質を,増殖性疾患(例えば癌),ウイルス疾患(例えば,ヘルペス,HIV),自己免疫疾患または神経性疾患を治療するための医薬組成物の製造のために用いることに関し,ここで,レセプター結合物質またはレセプター認識物質は,抗体,抗体誘導体,抗体フラグメント,アプタマー,低分子量物質および炭水化物結合ペプチドからなる群より選択される。好ましくは,レセプター結合物質またはレセプター認識物質は,ヤドリギレクチンおよび/または組換えヴィスクミンのB鎖のそのレセプターへの結合を阻害するかまたは弱めることができる。
【0093】
本発明の文脈においては,"阻害する"との用語は,完全な阻害ならびに部分的な阻害を記述する。すなわち,この用語は,ヤドリギレクチンおよび/または組換えヴィスクミンが,特異的レセプターとして同定された炭水化物構造に結合することを完全に妨害することを含む。さらに,ヤドリギレクチンおよび/または組換えヴィスクミンのレセプターへの結合を弱める能力もまた含まれる。
【0094】
医薬組成物を製造するための上述の物質は,ヤドリギレクチンではなく,特にヤドリギレクチンのB鎖ではない。
【0095】
本発明のこの態様は,さらに好ましくは,"薬学的に許容しうる担体"および/または希釈剤との組み合わせでもよい医薬組成物の処方に関する。特に適した薬学的に許容しうる担体の例は当業者に知られており,緩衝化食塩水,水,エマルジョン,例えば,水中油エマルジョン,各種の界面活性剤,滅菌溶液等が含まれる。そのような担体を含む医薬組成物は,既知の慣用の方法を用いて製剤することができる。これらの医薬組成物は,適当な投与量で個体に投与することができる。投与は,経口または非経口的に行うことができ,例えば,静脈内,腹腔内,皮下,筋肉内,局所,鼻腔内,気管支内または皮膚内に,またはカテーテルを用いて動脈内に投与することができる。投与の種類は臨床的因子に応じて担当医師が決定することができる。投与の種類は種々の因子,例えば,患者の身長または体重,体表面積,年齢,性別または一般的状態により異なり,また,投与される特定の物質,投与の持続時間および種類,および同時に投与される可能性のある他の医薬品等によっても異なることは当業者に知られている。典型的な投与量は,例えば,0.001−1,000μgの範囲内であり,特に上述の因子を考慮する場合にはこの例示的範囲より高いかまたは低い範囲も考えられる。一般に,本発明の組成物を規則的に投与する場合,投与量は1日または1回投与間隔あたり10ng−10mgユニットの範囲内であるべきで
ある。組成物を静脈内投与する場合には,投与量は1ng−0.1mgユニット/kg体重/分の範囲内であるべきである。
【0096】
組成物は,局所的に投与しても全身的に投与してもよい。非経口投与用の製剤は,滅菌した水性のまたは非水性の溶液,懸濁液および乳濁液を含む。非水性希釈剤の例は,プロピレングリコール,ポリエチレングリコール,植物油,例えば,オリーブ油,および有機エステル組成物,例えば,エチルオレエートであり,これらは注射用に適している。水性担体には,水,アルコール性水性溶液,乳濁液,懸濁液,食塩水および緩衝化媒体が含まれる。非経口的担体には,塩化ナトリウム溶液,リンゲルデキストロース,デキストロースおよび塩化ナトリウム,リンゲル乳酸および結合油が含まれる。静脈内担体には,例えば,液体用補充物,栄養および電解質(例えば,リンゲルデキストロースに基づくもの)が含まれる。本発明の組成物はさらに,保存剤および他の添加剤,例えば,抗微生物化合物,抗酸化剤,キレート剤および不活性ガスを含むことができる。さらに,意図される用途により,インターロイキン,成長因子,分化因子,インターフェロン,走化性蛋白質または非特異的免疫調節剤等の化合物を含んでいてもよい。特に好ましくは,細胞増殖抑制剤,抗生物質およびこれらの組み合わせを含むことができる。製造される医薬組成物または医療用製品は,上述の病気の1つまたは疾患の1つの予防または治療に用いることができる。
【0097】
抗体,抗体フラグメント,抗体誘導体およびアプタマーの製造および単離の方法は,上述した従来技術から当業者には知られており,上記でより詳細に説明されている。
【0098】
本発明にしたがえば,ヤドリギレクチンまたは組換えヴィスクミンのB鎖に対応する物質またはこれらの誘導体は,レクチンおよび炭水化物結合ペプチドの群には含まれない。しかし,この態様は,とりわけ,生化学的修飾および/または分子生物学的修飾(例えば特異的突然変異誘発)により,その結合特性に関して,本明細書に記載されるレセプターに対するB鎖の結合特性に適合するよう改変されている他のレクチンを含む。
【0099】
さらに,別の好ましい態様においては,レセプター結合物質および/またはレセプター認識物質を,放射性,細胞毒性または細胞増殖抑制性効果を有する化合物と結合させる。
【0100】
この態様においては,放射性,細胞毒性または細胞増殖抑制性効果を有する化合物への物質の結合の種類は,その物質および化合物によって異なる。好ましくは,両方とも,例えば,ペプチドまたは蛋白質である。この場合には,結合は,好ましくは,1またはそれ以上のペプチド結合および/またはジスルフィド結合により行う。
【0101】
放射性物質で標識したモノクローナル抗体(mAb)またはサイトカインは,放射性免疫物質の例である。さらに好ましい態様においては,対応する物質を,レクチン,トキシンまたはトキソイド,好ましくは細菌由来のもの(例えば,破傷風トキソイド,破傷風毒素,ジフテリア毒素,コレラ毒素,シュードモナスエキソトキシン,シュードモナストキソイド,百日咳毒素,百日咳トキソイド,クロストリジウムエキソトキシンまたはクロストリジウムトキソイド),または植物由来のもの(タイプIRIP,例えば,サポリンまたはゲロニン,またはタイプIIRIP,例えば,リシンまたはタイプIIRIPのA鎖またはタイプIRIPのA鎖,これはタイプIIRIPと相同である)と結合させる。さらに,放射性,細胞毒性または細胞増殖抑制性効果を有する他の低分子量分子(小分子),および上述したもの以外の高分子もまた含まれる。
【0102】
"高分子"との用語は,高い分子複雑性または高い分子量を有する分子を表す。これらは,好ましくは,生物分子,例えば,バイオポリマー,特に蛋白質,オリゴペプチドまたはポリペプチドであるが,DNA,RNA,オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド,
補欠分子団,脂質,オリゴ糖および多糖類,およびこれらの改変物,ならびに合成分子も含まれる。蛋白質は,好ましくは融合蛋白質をも含む。ペプチドまたは蛋白質との用語には,天然のおよび合成のペプチドまたは蛋白質が含まれる。天然の蛋白質の例には,とりわけ,抗体,抗体フラグメント,その特定のリガンドに結合するレセプター,その特定のレセプターと相互作用するペプチド性リガンド,または,蛋白質および補酵素等の特定の基質と相互作用するペプチドドメイン,および他のペプチドまたは酵素等が含まれる。さらに,組換え的に製造された形の上述の蛋白質またはペプチドもまた含まれる。対応して,天然のペプチドには,とりわけ,特定のアフィニティーリガンドと相互作用する上述の蛋白質のフラグメントが含まれる。合成の蛋白質またはペプチドには,発現させるように導かれた偽遺伝子またはそのフラグメント,およびランダムなアミノ酸配列を有する蛋白質またはペプチドが含まれる。
【0103】
"低分子量分子"との用語は,上で定義した高分子より低い分子複雑性を有する分子を表す。文献においては,"小分子"または"低分子量分子"との用語は一貫して用いられていない。WO89/03041およびWO89/03042においては,7,000g/molまでの分子量を有する分子を小分子と記述している。しかし,一般には,50−3,000g/mol,より一般には75−2,000g/mol,最も一般的には100−1,000g/molの分子量の範囲を示す。当業者は,以下の文献からその例を知ることができる:WO86/02736,WO97/31269,US−A−5928868,US−A−5242902,US−A−5468651,US−A−5547853,US−A−5616562,US−A−5641690,US−A−4956303およびUS−A−5928643。
【0104】
オリゴマーまたは小有機分子,例えば,オリゴペプチド,オリゴヌクレオチド,炭水化物(グリコシド),イソプレノイドまたは脂質構造は,そのような小分子の例として挙げることができる。文献においては,ほとんどの場合,そのような小分子の定義は分子量に基づく。
【0105】
本発明の別の好ましい態様においては,レセプター結合物質および/またはレセプター認識物質に結合した上述の化合物はペプチドである。
【0106】
本発明にしたがう使用のさらに別の好ましい態様においては,レセプター結合物質および/またはレセプター認識物質は,免疫エフェクター機能を誘導することができるさらに別のドメインを含む。
【0107】
本発明の文脈においては,"免疫エフェクター機能"との用語は,とりわけ,レセプター(標的細胞)を有する細胞の排除につながる免疫系のエフェクター機能を記述する。排除は,好ましくは,プログラムされた細胞死(アポトーシス)の誘導であるが,また,標的細胞の壊死性排除であってもよい。細胞死を検出するためのインビトロ方法は当業者に知られている(とりわけ,Dulatら(2001)を参照)。
【0108】
そのような免疫エフェクター機能の誘導は,好ましくは,生物の免疫系のために標的細胞を標識するシグナルの誘導である。好ましくは,標的細胞は,この誘導によってのみ免疫系により認識される。この誘導により,細胞が免疫系によってより良く認識されることがさらに好ましい。免疫系による標的細胞の認識またはより良い認識により,標的細胞の治療が可能となる。
【0109】
好ましい態様においては,誘導される免疫エフェクター機能は細胞性エフェクター機能である。細胞媒介性免疫エフェクター機能の例は,エフェクター−T−細胞,単球またはマクロファージによる標的細胞の排除である。特に,細胞性エフェクター機能には,MH
C媒介性およびFc−レセプター媒介性エフェクター機能が含まれる。
【0110】
別の好ましい態様においては,誘導される免疫エフェクター機能は体液性エフェクター機能である。免疫系の体液性エフェクター機能の例は,抗体媒介性反応または補体系の反応である。この点に関して,標的細胞のオプソニン化の誘導は本発明の好ましい態様である。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】組換えヴィスクミンおよびリシンの種々のレセプターの可能な構造の概略図である。
【図2】種々の細胞画分における組換えヴィスクミン特異的ガングリオシドの同定のためのTLC試験の図である。
【図3】単離されたガングリオシド上の炭水化物に対する組換えヴィスクミンの結合特異性を明確化するためのTLC試験の図である。
【図4】リシンに特異的な結合モチーフを同定するためのTLC試験の図である。
【図5】リシンのガングリオシドへの結合のTLC試験の図である。
【図6】種々の感受性細胞株を用いる細胞毒性試験の図である。
【図7】組換えヴィスクミンに対する感受性と組換えヴィスクミンに特異的なガングリオシドバンドの出現との半定量的相関の図である。
【図8】特定のガングリオシドとのプレインキュベートによる,組換えヴィスクミンに対して非感受性の細胞株CHO−K1に関する感受性化の図である。
【図9】マイクロタイタープレートに吸着させた中性GSLおよびガングリオシドを用いる組換えヴィスクミンの酵素結合レクチンアッセイ(ELLA)の図である。
【図10】免疫に用いたガングリオシド抗原に対する特異的抗体の同定の図である。
【図11】ネオラクト系の抗α2−6シアリル化モノクローナルガングリオシド抗体の特性決定の図である。
【図12】ネオラクト系の抗α2−6シアリル化モノクローナルガングリオシド抗体のさらなる特性決定の図である。
【図13】糖蛋白質上の組換えヴィスクミンのCD75sの認識の検出の図である。
【図14】糖蛋白質上の組換えヴィスクミンのCD75sの認識の検出の図である。
【発明を実施するための形態】
【0112】
図1: 組換えヴィスクミンおよびリシンの種々のレセプターの可能な構造(概略図)
リシン(図1A)および組換えヴィスクミン(図1B)のレセプターの概略図。示されるものは,図2および3および図4および5にまとめられているTLC重層アッセイの結果の解釈の結果である。Gal=ガラクトース,GlcNAc=N−アセチル−グルコサミン,Glc=グルコース,Cer=セラミド,Sialic=シアル酸。組換えヴィスクミンのレセプターは末端α2−6結合シアル酸残基を有するガングリオシドである。リシンにより認識される構造(図1A)の認識は,組換えヴィスクミンによっては行われない。
【0113】
図2: 種々の細胞画分における組換えヴィスクミン特異的ガングリオシドの同定のためのTLC試験
組換えヴィスクミンと,ヒト顆粒球の中性GSL(A)およびガングリオシド(B)とのTLC重層結合試験。(A)レーンa:15μgの中性GSLのクロマトグラム(オルシノールで染色,完全糖染色);レーンb:対応する重層アッセイ。(B)レーンa:ヒト顆粒球からの15μgのヒトガングリオシドのクロマトグラム(レゾルシノールで染色,シアル酸染色);レーンb:対応する重層アッセイ。
【0114】
図3: 単離されたガングリオシド上の炭水化物に対する組換えヴィスクミンの結合特異性を明確化するためのTLC試験
(A)レゾルシノール染色(実施例1);(B)抗IV6nLc4Cer抗血清のTL
C重層試験(実施例1);(C)組換えヴィスクミンのTLC重層試験(実施例2):すべてのTLCアッセイは,HPLCで精製したα2−3−およびα2−6−シアリル化ネオラクト系モノシアロガングリオシドを用いて行った。適用は3つのクロマトグラムすべてについて同一である:レーンa:15μgのヒト脳ガングリオシド(HBG);レーンb:15μgのヒト顆粒球ガングリオシド(HGG);レーンc:4μgのIV3nLc
4Cer(HGG1);レーンd:4μgのVI3nLc6Cer(HGG2);レーン
e:4μgのIV6nLc4Cer(HGG3);レーンf:8μgのVI6nLc6CerおよびIV6nLc4Cer。
【0115】
図4: リシンに特異的な結合モチーフを同定するためのTLC試験
中性GSLを用いる(A)オルシノール染色および(B)リシンTLC重層試験。適用は両方のクロマトグラムについて同一である。レーンa:ヒト赤血球からの10μgの中性GSL:レーンb:ヒト顆粒球からの15μgの中性GSL;レーンc:MDAY−D2細胞からの20μgの中性GSL。
【0116】
図5: リシンのガングリオシドへの結合のTLC試験
ガングリオシドを用いる(A)オルシノール染色および(B)リシンTLC重層試験。レーンa:10μgのヒト脳ガングリオシド(HBG);レーンb:8μgのヒト顆粒球ガングリオシド(HGG)。
【0117】
図6: 種々の感受性細胞株を用いる細胞毒性試験
組換えヴィスクミンの生物学的活性の説明:HL−60細胞(点),5637細胞(三
角)およびCHO−K1細胞(白丸)の生存率を,組換えヴィスクミン濃度に対して示す。生存率はWST−1の比色反応により測定し,未処理対照と比較した%生存細胞として示す。最大の半分の細胞毒性は曲線の変曲点に対応し,これを測定可能な変数とした。これらのIC50値は,HL−60については66pg/ml,5637細胞については690pg/mlと計算された。CHO−K1細胞は,測定に適用した組換えヴィスクミン濃度である300ng/mlまでの組換えヴィスクミンに対して非感受性であると考えられる。
【0118】
図7: 組換えヴィスクミンに対する感受性と組換えヴィスクミンに特異的なガングリオシドバンドの出現との半定量的相関
インビトロで増殖させた細胞株からのガングリオシドを用いる(A)オルシノール染色,および(B)抗IV6nLc4Cer抗血清TLC重層試験。(A)レーンa:7μg
のヒト顆粒球ガングリオシド(HGG);レーンb:1x107個のCHO−K1細胞か
らのガングリオシド;レーンc:4x107個の5637細胞からのガングリオシド;レ
ーンd:4x107個のHL−60細胞からのガングリオシド;レーンe:10μgのヒ
ト脳ガングリオシド(HBG)。(B)レーンa:0.134μgのヒト顆粒球ガングリオシド(HGG);レーンb:1x107個のCHO−K1細胞からのガングリオシド;
レーンc:1x107個の5637細胞からのガングリオシド;レーンd:1x107個のHL−60細胞からのガングリオシド;レーンe:10μgのヒト脳ガングリオシド(HBG)。レーンaは,ネオラクト系の特異的ガングリオシドの同定のための陽性対照IV6nLc4Cer(C24脂肪酸,物質1)およびIV6nLc4Cer(C16脂肪酸,物質2)を示す。
【0119】
図8: 特定のガングリオシドとのプレインキュベートによる,組換えヴィスクミンに対して非感受性の細胞株CHO−K1に関する感受性化
増加する量のヒト顆粒球ガングリオシドをウエルに入れ,ここでCHO−K1細胞を成長させ,48時間インキュベートした。細胞を無血清培地(薄い灰色のバンド)または血清含有培地(濃いバンド)のいずれかで洗浄し,次に300ng/mlの組換えヴィスクミンでさらに48時間処理した。生存率はWST−1を用いて測定し,未処理対照(ガングリオシドおよび組換えヴィスクミンを加えない)に対する%で表した。
【0120】
図9: マイクロタイタープレートに吸着させた中性GSLおよびガングリオシドを用いる組換えヴィスクミンの酵素結合レクチンアッセイ(ELLA)
異なる起源からのGSLの量は,左から右に以下のバンドに対応する:
A) ヒト赤血球からの中性GSL:10,5,2.5,1.25および0μg
B) ヒト顆粒球からの中性GSL:15,7.5,3.75,1.9および0μg
C) MDAY−D2細胞からの中性GSL:20,10,5,2.5および0μg
D) ヒト脳ガングリオシド(HBG):10,5,2.5,1.25および0μg
E) ヒト顆粒球ガングリオシド(HGG):10,5,2.5,1.25および0μg
【0121】
図10: 免疫に用いたガングリオシド抗原に対する特異的抗体の同定
種々のハイブリドーマクローンを薄めた後にELISAでIgM(A)およびIgG(B)の産生について試験した。ELISAは実施例8に記載されるようにして行った。基質溶液のインキュベート時間を変化させた(15分間,30分間,45分間,60分間,120分間および180分間)。クローン33.3,33.5および33.6は,IgMに対して明らかなタイターを示した(A)。試験したクローンのいずれにおいても,IgGに対するタイターは検出できなかった(B)。
【0122】
図11: ネオラクト系の抗α2−6シアリル化モノクローナルガングリオシド抗体の特性決定
mAbクローンの認識モチーフの特性決定のためのTLC重層アッセイ。実施例2に記載されるように,DCプレート上で分離されたヒト顆粒球ガングリオシド(4μg/レーン)を検出するために,図10に既に示したクローンを,その認識モチーフについて調べた。クローン59.33.3,59.33.5および59.33.6は,組換えヴィスクミンと同一の結合または認識モチーフを示す。
【0123】
図12: ネオラクト系の抗α2−6シアリル化モノクローナルガングリオシド抗体のさらなる特性決定
(A)ヒト顆粒球から単離したネオラクト系の中性GSL(15μg/レーン),(B)グロボ系(ヒト赤血球より;10μg/レーン)および(C)ガングリオ系(MDAY−D2細胞より;10μg/レーン)を用いるTLC重層アッセイ。実験方法は実施例9に記載される。図12A−Cのそれぞれの最初の3つのレーンにおいては,mAbクローン50.33.3,59.33.5および59.33.6を用いた。図12A−Cのレーン4の陽性対照は,適用した中性GSLの末端糖構造のそれぞれに対する特異的抗体との反応を反映する。レーン5においては,ヤギ由来のポリクローナル抗血清(Muthingら,Glycobiology 12,485−497を参照)を試験した。レーン1−3で試験したmAbクローンの交叉反応性は無視することができる。
【0124】
図13: 糖蛋白質上の組換えヴィスクミンのCD75sの認識の検出
それぞれ1μgの対応する蛋白質。レーンT:トランスフェリン,Neu5Aca2−6Galβ1−4GlcNAc残基を有する可溶性蛋白質,およびレーンAF:アシアロフェツイン,(Galβ1−4GlcNAc−残基およびGalβ1−3GalNAc−Ser/Thr)をSDSゲルに負荷し,次にニトロセルロース膜に写した。次にこれをウエスタンブロット手法において,組換えヴィスクミン(1μg/ml)により,次に抗A鎖mAbTA5およびアルカリホスファターゼ標識抗マウスIgGにより,CD75s構造の検出を試みた(実施例2を参照)。Mは標識の痕跡を反映する。分子量はkDaで示される。
【0125】
図14: 糖蛋白質上の組換えヴィスクミンのCD75sの認識の検出
それぞれ1μgの対応する蛋白質。レーンT:トランスフェリン,Neu5Aca2−6Galβ1−4GlcNAc残基を有する可溶性蛋白質,レーンAF:アシアロフェツイン,(Galβ1−4GlcNAc−残基およびGalβ1−3GalNAc−Ser/Thr)をSDSゲルに適用し,次にニトロセルロース膜に写した。次に,実施例9に記載されるように,ウエスタンブロットにおいて,mAb59.33.3および59.33.5を用いてCD75s構造の検出を試みた。
【0126】
【表1】
【0127】
以下の実施例は,本発明を例示する。
実施例1: スフィンゴ糖脂質を分離および検出し,これらを特異的に検出するための薄層クロマトグラフィー
中性GSLはヒト顆粒球,ヒト赤血球およびMDAY−D2細胞から回収し,ガングリオシドはヒト顆粒球およびヒト脳から回収した(図2,図4,図5および図7)。分析にはHPLC精製サンプルを用いた(図3)。対応するサンプルは,シリカゲルでコーティングした薄層クロマトグラフィープレート(HPTLCプレート,10x10cm,0.2mm厚さ,Merck,Darmstadt#5633)で分離した。中性GSLは溶媒1(クロロホルム/メタノール/水,120/70/17 v/v/v)中で,ガングリオシドは溶媒2(クロロホルム/メタノール/水120/85/20 v/v/v+2mMCaCl2)中で分離した。中性GSLはオルシノールで染色し,ガングリオシドは
オルシノールまたはレゾルシノールのいずれかで染色した(Svennerholm,1956,1957)。ヒト顆粒球およびMDAY−D2細胞からの中性GSL,およびヒト顆粒球からのガングリオシドはDCプレート上で二本のバンドとして現れる。
【0128】
個々のガングリオシドを同定するために,特異的抗血清を用いて,Muthing and Muhlradt(1988)およびMuthing(1998)にしたがって,免疫染色法を行った。ポリクローナル抗IV6nLc4Cer抗血清を用いてネオラクト
系の末端α2−6−シアリル化ガングリオシドを同定した。これを行うために,最初にプレートをポリイソブチルメタクリレート(Rohm,Darmstadt)で固定した。次に,プレートをPBS(20mMリン酸,150mMNaCl,pH7.2)+1%BSA(溶液A)中でブロッキングした。次に,上で同定したポリクローナル抗血清を溶液A中1:1,000希釈で用い,次に溶液B(PBS+0.05%Tween20)で3回洗浄した。結合した抗血清は,溶液A中1:2,000希釈の二次抗血清ウサギ抗トリIgYで検出した。次に,これを溶液Bで3回,グリシンバッファー(0.1Mグリシン,1mM ZnCl2,1mM MgCl2,pH10.4)で1回洗浄した。検出は,グリシンバッファー中の0.05%(w/v)5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸を用いて行った。別のTLC試験において用いた対照ガングリオシドは詳細に特性決定されており,ヒト血液細胞または培養細胞からの種々の単離物に由来する組換えヴィスクミンに特異的なガングリオシドの同定において参照物質として用いた(Muthingら,1994;Muthing and Kemminer,1996;Schwartzら,1985;Muthing and Cacic,1997)。
【0129】
実施例2: 中性GSLまたはガングリオシドに結合した炭水化物結合蛋白質(例えばリシンおよび組換えヴィスクミン)を特異的に検出するためのTLC試験
薄層クロマトグラフィープレートで分離した中性GSLまたはガングリオシドをPBS−Tween80(0.1g/L Tween80,PBS中)で洗浄した。次に,組換えヴィスクミンまたはリシン蛋白質溶液(1μg/ml,PBS−T80中)でコーティングを行い,1時間インキュベートした。次に,溶液B(実施例1を参照)で洗浄し,次にプレートを溶液A(実施例1を参照)中で15分間インキュベートした。次に,結合した組換えヴィスクミンは,モノクローナルAbTA5(1μg/ml,溶液A中)(Tonevitzkyら1995に記載)を用いて認識し,または結合したリシンは,ウサギ抗リシン抗血清(Sigma#R−1254(溶液A中1:200希釈))で認識した。結合した抗体の検出は,それぞれマウスまたはウサギイムノグロブリンに対する二次抗体を用いて,実施例1に記載されるようにして行った。
【0130】
実施例3: 種々の細胞株の組換えヴィスクミンに対する感受性の比較
培養:
CHO−K1細胞(ATCC CCL−81)およびHL−60細胞(ATCC CCL−240)は,DMEMおよびHam’sF12培地の1:1混合物中で成長させた。
ヒト膀胱癌細胞株5637(ATCC HTB−9)はRPMI1640中で培養した。細胞の培養は,Mockelら(1997)に記載される標準的な条件下で行った。組換えヴィスクミンに対する細胞株の感受性は,インビトロ細胞毒性試験において確認した。それぞれウエルあたり8x103個の5637細胞,1x104個のCHO−K1細胞および1.8x104個のHL−60細胞を96ウエルプレート(Nunc)に播種し,増加
する濃度の組換えヴィスクミンとともに,最終容量100μlで10%CO2雰囲気で3
7℃で72時間インキュベートした。すべての測定は6回の判定で行った。72時間後,生きている細胞を検出するために,10μlのWST−1をピペットで加えた(Ishiyamaら,1993;Mockelら,1997)。細胞は着色塩とともに37℃で4時間インキュベートし,次にThermomax(Molecular Devices)で450nmで測定した。ここでは,染料の量は生きている細胞の数に直接比例する。図6は,増加する組換えヴィスクミン濃度に対する種々の細胞集団の生存曲線を示す。
【0131】
細胞株HL−60(点)は,組換えヴィスクミンに非常に高い感受性をもって反応するヒト前骨髄細胞株であり,IC50値は66pg/mlである。膀胱癌細胞株5637(三角)においてはIC50の測定値は690pg/mlであり,ハムスター細胞株CHO−K1(白丸)は300ng/mlまでの試験濃度では組換えヴィスクミンに対して感受性を示さなかった。種々の細胞株の組換えヴィスクミンに対する感受性は,図7において潜在的レセプターが生ずることと相関しうる。図7Aは,それぞれの場合に用いた細胞株の完全ガングリオシド分画のオルシノール染色薄膜クロマトグラムを示す。図7Bは,抗Neu5Acα2−6Galβ1−4GlcNAc−R抗血清を用いる潜在的組換えヴィスクミンレセプターの特異的免疫学的検出(重層アッセイ)を示す。図7Bのレーンb,cおよびdにおいては,それぞれCHO−K1,5637およびHL−60細胞の同一の細胞数のガングリオシドの量を負荷した。図7Bのレーンbにおいて,組換えヴィスクミンに非感受性であるCHO−K1細胞はこのレベルの潜在的レセプターに対しては特異的バンドを示さない。一方,同じ細胞数を負荷した場合,最も感受性の高い細胞株(HL−60)は最も強い二重のバンドを示す。
【0132】
TLC重層アッセイにおいて観察された,試験したレクチンの異なる特異性から,リシンおよびヤドリギレクチン(特に組換えヴィスクミン)の,インビボまたは培養細胞におけるそれらのレセプターへの結合の挙動について結論を得ることができる。この実施例は,CHO−K1細胞株は試験した300ng/mlまでの濃度の組換えヴィスクミンに対して非感受性であることを示す(図6を参照)。しかし,組換えヴィスクミンに特異的なガングリオシド(Neu5Acα2−6Gal構造)をCHO−K1細胞の膜に導入することにより,組換えヴィスクミンに対して非常に感受性の低いこれらの細胞が感受性となった(図8を参照)。
【0133】
実施例4: 特異的ガングリオシドとのプレインキュベーションによる細胞株の感受性化(図8を参照)
CHO−K1細胞を96ウエルプレートに細胞密度5x103細胞/ウエルで播種した
。細胞は無血清X−Vivo培地(Biowhittaker)で37℃で24時間培養した。次に,培地を廃棄し,0(対照),25,50,100および200μMのヒト顆粒球ガングリオシド画分を含むX−Vivo培地で置き換えた。ガングリオシドをCHO−K1細胞の膜に取り込ませるために,細胞を細胞培養条件下で37℃で48時間保持した。次に,細胞を無血清X−Vivoまたは5%FCSを含有するX−Vivoのいずれかでよく洗浄した。次に,細胞を組換えヴィスクミン(300ng/ml)で48時間処理した。細胞の生存率はWST−1染色により定量し,未処理対照(組換えヴィスクミンおよびガングリオシドを加えない)と相関させた。サンプルは最終容量100μl/ウエルで三重に成長させた。
【0134】
実施例5: インビトロで増殖させた細胞のガングリオシドの精製および細胞株における特異的ガングリオシドの存在と組換えヴィスクミンに対する感受性との相関
続くGSLまたはガングリオシドの単離のために細胞重量を示す:CHO−K1細胞(ATCC CCL−81)およびHL−60細胞(ATCC CCL−240)はDMEMとHam’sF12培地との1:1混合物中で培養した。細胞は50mg/Lのゲンタマイシンおよび2.5mg/LのアンホテリシンBの存在下で培養した。5637細胞の培養は,175cm2フラスコ中で行った。HL−60およびCHO−K1細胞は,Du
varら(1996)およびMuthingら(1996b)に記載されるようにして,1L−スピナーフラスコ中で培養した。生理学的パラメータは以下のとおりである:37℃,pH7.2,酸素燻蒸,撹拌速度:40rpm。最終細胞密度に達した後に細胞を回収し,PBSで2回洗浄し,次にクロロホルム/メタノール抽出を行った(実施例1を参照)。ヒト膀胱癌細胞株5637(ATCC HTB−9)は,RPMI1640中で培養した。Ledeen and Yu(1982),Muthingら(1987)またはDuvarら(1997)に記載されるように,陰イオン交換クロマトグラフィーを用いる標準的方法により,DEAEセファロースCL−6Bでガングリオシドを単離した。リン脂質のサポニン化のためには,ガングリオシドを1N NaOH中で37℃で1時間インキュベートした。次に,ガングリオシド画分を酢酸で中和し,透析した。ラクトビーズ6RS−8060(Macherey&Nagel,Duren,Germany)(Uenoら,1987)への吸着クロマトグラフィーによりさらなる精製工程を行った。次に,細胞溶解物からガングリオシド画分を分離したとき,細胞の数が常にほぼ同じであると仮定した。すなわち,特定のガングリオシドの存在に関して,半定量的であるということが可能であった。検出は,実施例1に記載されるように,ポリクローナル抗IV6n
Lc4Cer抗血清を用いて免疫学的に行った。
【0135】
実施例6: ネオラクト系の末端α2−3−およびα2−6−シアル化ガングリオシドの精製
Fractogel EMD TMAE−650−S(MERCK,Darmstadt)を充填したカラムにヒト顆粒球(HGG)からのガングリオシドを加える。TMAEに結合したガングリオシドは,酢酸アンモニアの直線勾配を用いて溶出し,プールし,脱イオン化する。末端α2−3−シアル化(HGG1およびHGG2)および末端α2−3−シアル化ネオラクト系モノシアロガングリオシド(HGG3およびHGG4)の4つの画分を得た。すべてのガングリオシドは,薄層クロマトグラフィーで二本のバンドとして分離された。この相違は,セラミド単位によるものであり,上側バンドはC24脂肪酸で,下側バンドはC16脂肪酸でエステル化されたものである。この方法で表すことができるすべてのガングリオシドの構造は既に特性決定されている(Muthingら,1993;Muthingら,1996,Metelmannら,2000)。精製したガングリオシドは,図3に示されるように分離され,組換えヴィスクミンの炭水化物結合特異性をより詳細に特徴づけるために参照された。
【0136】
実施例7:酵素結合レクチンアッセイ(ELLA)
ELLAは,対応する中性GSLまたはガングリオシドで室温でコーティングされたプレート(NUNC MaxiSorp F96,Wiesbaden)で行った。ウエルに100μlメタノール中の対応するGSLを加えた。GSL保存溶液から出発して,1:2希釈を調製した。これには以下のGSLが含まれる:ヒト赤血球の中性GSL:10,5,2.5および1.25μg;ヒト顆粒球の中性GSL:15,7.5,3.75および1.9μg;MDAY−D2細胞からの中性GSL:20,10,5および2.5μg;ヒト脳ガングリオシド(HBG):10,5,2.5および1.25μg;ヒト顆粒球ガングリオシド(HGG):10,5,2.5および1.25μg。次に,乾燥雰囲気下でメタノールを蒸発させた(45分間,37℃)。以降のすべての工程は実施例2に記載されるTLC重層アッセイと同様にして行った。すべてのインキュベーションは,10
0μlの容量で行った。GSLをコーティングしたプレートを,PBS−Tween80(登録商標)(0.01mg/ml)とともに15分間インキュベートし,次に1μgの組換えヴィスクミン(PBS−Tween80に溶解)とともに1時間インキュベートした。その後,プレートをPBS−Tween20(登録商標)(0.01mg/ml)で洗浄し,次にPBSとともに15分間インキュベートした。次に,サンプルをネズミ抗ML−1Aモノクローナル抗体TA5(1μg/ml,PBS中)とともに1時間インキュベートした。PBS−Tween20(登録商標)でさらに3回洗浄した後,PBS中で1:2000希釈の抗マウスIgG(アルカリホスファターゼ結合)とともに1時間インキュベートした。PBS−Tween20(登録商標)でさらに3回洗浄した後,基質である4−ニトロフェニルリン酸二ナトリウムx6H2O(16mM,0.1Mグリシンバ
ッファー中,pH10.4)との反応により比色検出を行った。プレートを25℃で20分間インキュベートした後に,マイクロタイタープレートリーダーで405nmで測定した。
【0137】
予測されなかったことに,組換えヴィスクミンのへの結合は,ネオラクト系のGSLの末端でα2−6−結合ガラクトースがNeu5Ac(ヒト顆粒球からのHGG画分)に曝露されているスフィンゴ糖脂質(GSL)においてのみ見られた。種々の起源(ヒト顆粒球および赤血球,MDAY−D2細胞)からの,それぞれが末端ガラクトース残基を有する他のすべての中性GSLおよびガングリオ系のヒト脳ガングリオシドは,用いた最高濃度においても結合を示さなかった。
【0138】
実施例8: ネオラクト系のα2−6−シアリル化ガングリオシドに対するモノクローナル抗体の製造
ネオラクト系のα2−6−シアリル化ガングリオシドは白血球(全血からのバフィコート)から単離した。ガングリオシドの精製は,実施例5に記載されるようにして行った。追加の工程においては,これらのネオラクト系のα2−6−シアリル化ガングリオシドを抗原として用いて,2x3匹のマウスを免疫した。抗原はサイズが小さいために単独では免疫原効果を有しないため,これらはいわゆるハプテンとともにマウスに投与した。ここでは,2つの方法を平行して行った。方法1においては,メチル−BSAを1mg/mlの濃度でハプテンとして用いた。3匹のマウスに異なる量の抗原を与えた(5,10および20μg)。マウスは既知の間隔で免疫し,10日間の間隔でさらに合計2回ブースターを行った。方法2においては,リポソームとリポ多糖(LPS)の混合物をハプテンとして用いた。この場合にも,異なる濃度の抗原(5,10および20μg)を,マウスに10日間の間隔で3回与えた。
【0139】
2つの方法で免疫した合わせて6匹のマウスのうち,3匹のマウスの血液中で抗原に対する陽性のタイターを検出することができた。メチル−BSAのハプテンを用いた調製物は陰性であった。リポソーム中リポ多糖のハプテンを用いた調製物は,投与した抗原の用量に関係なくすべて陽性であった。マウスを犠牲死させ,脾臓細胞を用いて融合を行った。融合アッセイの上清をDC重層アッセイ(実施例1および2に記載)およびELISAで調べた。この工程においては,実施例7に記載されるように,マイクロタイタープレートを50μlメタノール中1μgのHGGガングリオシド(ヒト顆粒球ガングリオシド)でコーティングした。50μlの対応する血漿サンプルまたは融合アッセイの上清を希釈せずにコーティングされたプレートに加え,25℃で60分間インキュベートした。次に,PBS−Tで3回洗浄した。アルカリホスファターゼで標識した抗マウス−IgGまたは抗マウス−IgM抗体を用いてIgMまたはIgGを検出した。基質p−NPPの反応は,実施例7に記載されるようにして行った。次に,陽性タイターの融合アッセイをクローンレベルで希釈した。図10Aは,3つの陽性IgMクローン(59.33.3,59.33.5および59.33.6)の検出を示す。また,IgGの産生についてすべてのクローンを調べたが,IgGに対しては陽性反応を示さなかった(図10B)。
【0140】
実施例9: ネオラクト系の抗α2−6−シアリル化モノクローナルガングリオシド抗体の特性決定
ネオラクト系のα2−6−シアリル化ガングリオシドは常にその末端にNeu5Acα2−6−Galを持つ。別のモチーフ(これもまた本発明において記載される)は,Neu5Acα2−6−Galβ1−4GlcNAc−R;("R"は残基を表す)のガングリオシド構造を有する。このモチーフは,文献ではCD75sと記述される(Schwartz−Albiez(2000),J.Biol.Regul.Homeost.Agents 14,284−285)。図11は種々のIgMクローンを用いるDC重層アッセイを示し,これは実施例8に記載されるようにしてELISAで試験した。ここでは,ヒト顆粒球(HGG)からのガングリオシドを薄層クロマトグラフィーを用いて分離した。アッセイは実施例2に記載されるようにして行った。ここでは,4μgのHGGを分離した。プレートに結合した抗CD75smAbの検出は,実施例8に記載されるようにして行った。クローン59.33.3,59.33.5および59.33.6は,この試験においても陽性シグナルを示した。3つのクローンはすべて同じガングリオシド(IV6
nLC4およびIV6nLC6)を認識し,したがって,組換えヴィスクミン(図2Bb
)と同一の結合挙動を有していた。予測される,糖構造のコア部分に対する3種類の抗体の交叉反応性は,ヒト顆粒球からのネオラクト系(1レーンあたり15μg;図12A),またはグロボ系(ヒト赤血球より,10μg/レーン,図12B)およびガングリオ系(MDAY−D2細胞より;10μg/レーン;図12C)からの単離された中性GSLを用いることにより,実験的に無視することができた。実験方法は,上述したものと同一であった。図12A−Cのそれぞれについて,最初の3つのレーンにおいては,mAbクローン59.33.3,59.33.5および59.33.6を用いてシグナルを検出することができなかった。3つの場合すべてにおいて,末端α2−6結合シアル酸がないため,特異的シグナルが得られなかった。図12A−Cのレーン4の陽性対照は,負荷した中性GSLのそれぞれの末端糖構造に対する特異的抗体との反応を反映する。レーン5においては,ヤギからのポリクローナル抗血清(Muthing(2002)Glycobiology 12,485−497を参照)を加えた。この抗血清は,元々はネオラクト系のα2−6−シアリル化ガングリオシドに対して調製したものであり,ここで適用した抗原の多くに対して交叉反応性を示す。このことは,特にこの抗血清を患者からの材料の試験に用いる場合に偽陽性シグナルにつながる可能性がある。レーン1−3に示される,モノクローナル抗体59.33.3,59.33.5および59.33.6を用いた結果は,そのような望ましくない交叉反応性は生じず,これはより重要であると考えなければならない。mAb−クローン59.33.3は,ブダペスト条約にしたがって,2002年12月20日にDSMZ,Brunswickに受託番号として寄託した。
【0141】
実施例10:糖蛋白質上のCD75sの検出
モノクローナル抗体59.33.3および59.33.5(図14)および組換えヴィスクミン(図13)それ自体について,糖蛋白質上のCD75sモチーフの検出に用いることができるかどうかを試験した。ここでは,各1μgの対応する蛋白質をSDSゲルに適用し,次にニトロセルロースに写した:レーンT:トランスフェリン(NeuSAca2−6Galβ1−4GlcNAc−残基を有する可溶性蛋白質),およびレーンAF:アシアロフェツイン(Galβ1−4GlcNAc残基およびGalβ1−3GalNAc−Ser/Thr)。次に,組換えヴィスクミン(1μg/ml)および次に抗A鎖mAb TA5およびアルカリホスファターゼで標識した抗マウスIgGを用いてウエスタンブロットによりCD75s構造の検出を試みた(実施例2を参照)。蛋白質をニトロセルロースに写した後にmAb59.33.3および59.33.5によるCD75sエピトープの結合/認識を調べる場合には,実施例9に記載されるようにして行った。トランスフェリンはmAb59.33.3および59.33.5により,および組換えヴィスクミンにより明白に認識される。試験した抗体クローン59.33.3および59.33.
5のいずれも,糖蛋白質トランスフェリン上のCD75sモチーフをエピトープとして認識する。
【0142】
参考文献
【表2】
【0143】
【表3】
【0144】
【表4】
【0145】
【表5】
【0146】
【表6】
【0147】
【表7】
【0148】
【表8】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ヤドリギレクチンまたはヤドリギレクチン一本鎖に対する個体の応答性を判定する方法に関する。本発明の方法においては,ヤドリギレクチンに対する特異的膜結合レセプターの発現が,対応する応答性を特徴づける。
【背景技術】
【0002】
本明細書においては種々の文献が引用されている。引用されている文献の開示内容(すべての製造元の記述および指針等を含む)を本明細書の一部としてここに引用する。
【0003】
ヤドリギレクチンは,リシンに関連するタイプIIリボソーム不活性化蛋白質(RIP)であり,2つの蛋白質鎖から形成される(Barbieriら,1993)。ここでは,A鎖は酵素的rRNA−N−グリコシダーゼ活性を有し,B鎖は炭水化物結合活性を有する。E.coli中で提供される組換えヴィスクミン(rViscumin)が当業者に知られている(EP0751221B1)。特に,E.coliで製造される組換えヴィスクミンは単一物質として臨床的に開発されている。その一次構造に関しては,組換えヴィスクミンはヤドリギ植物に見いだすことができるML−I,ML−IIまたはML−IIIには正確に対応していない。記載されている組換えヴィスクミン配列とは別に,元の遺伝子中の点突然変異により改変されたさらに別のヤドリギレクチン変種が存在し,これはその一次構造においてわずかに異なると仮定すべきである。組換えヴィスクミンは,本来のヤドリギレクチンの変種であると考えることができ,ML−I,ML−IIおよびML−III配列の混合物として理解することができる。
【0004】
蛋白質の細胞毒性/細胞増殖抑制性活性には,ヤドリギレクチンの両方の鎖の活性が必要である。ここでは,最初の工程,すなわち細胞の表面への分子の結合が特に重要である。
【0005】
リシンの場合と同様に,ヤドリギレクチン(およびE.coliにおいて組換え的に製造された組換えヴィスクミン;Eckら,1999a,Eckら,1999b)もガラクトース/ラクトース特異性を有すると言われている(Olsnesら,1982;Leeら,1992;Gilleronら,1998)。この場合,末端ガラクトースの,および続く糖のグリコシド結合の種類は,これまで,レクチンの特異性には重要ではないと記載されてきた(Leeら,1994;Guptaら,1996)。
【0006】
その炭水化物特異性において異なる種々のヤドリギレクチン(ML−I,−IIおよび−III)が文献に記載されている(Franz,1986)。ここでは,ガラクトース/ラクトースに対する特異性(ML−I)は,ガラクトース/ラクトースおよびN−アセチルガラクトサミンの混合された形(ML−II)から,N−アセチルガラクトサミンにより強く結合する(ML−III)ヤドリギレクチンまで様々であることが議論されている。組換えヴィスクミンはガラクトース/ラクトース結合活性を有しており,これは種々のELISA様の方法により検出することができる(Eckら,1999b)。ヤドリギレクチンの他の炭水化物結合活性は,これまでのところ,非常に初歩的なことしか記載されておらず,部分的には非常に相反するものであった。例えば,Wuら(1995aおよび1995b)は,ML−Iがヒトα1−酸性糖蛋白質またはフェツインのいずれかに結合する能力は,脱シアリル化された対応物を用いたときに著しく減少することを観察した。これに対し,著者らは,ラットからのシアロ糖蛋白質を脱シアリル化された形で試験に用いたときには,結合が増加し,完全に沈殿することを見いだした。しかし,Wuらにより導き出された結論は,シアル酸を有するかまたは脱シアリル化蛋白質を用いたときの結
果が矛盾するため,解釈することができない。さらに,蛋白質のグリコシル化は均一ではないことに注意すべきである。脱シアリル化のプロセスは化学的プロセスであり,製造元の指針によって様々である。脱シアリル化サンプルにおいては,例えば,末端位置にシアル酸を有する蛋白質の残留物が存在し,これは結果を誤って伝える。いずれにしても,オリゴ糖Neu5Acα2−3/Neu5Acα2−6Gal−β1−4Glcを競合剤として用いたときに,蛋白質ヤドリギレクチン相互作用を低下させることができたため,ML−Iのシアル酸に対する特異性が議論された。しかし,沈殿実験の競合の結果をまとめた表においては(マイクロ沈殿手法),同じ設定の試験を用いれば,種々の糖蛋白質(ヒトα−1酸性糖蛋白質;フェツイン,アシアロRSL)によるML−Iの沈殿は,ラクトースおよびNeu5Acα2−3/Neu5Acα2−6Gal−β1−4GlcとGalβ1−4GlcNAcとの混合物のいずれによっても,ほぼ同じ濃度で妨害することができることが印象的である。ML−Iのシアル酸に対する特異性は,これらのデータからは明確に見ることができない。これはまた,シアル酸を末端位置に有するアシアロRSLおよびフェツインで得られた結果は完全に同一である傾向にあるという理由による。
【0007】
ほぼ同じ時に,Debrayら(1994)は,セファロース4Bに固定化したML−IのO−3またはO−6シアリル化ラクトースまたはシアロ−N−グリコシルペプチドに対する親和性は,N−アセチル−ラクトースアミンタイプのオリゴ糖および糖ペプチドと比較してわずかに増加していたことを示すことができた。ここでは,Debrayら(1994)は,ヒト起源(例えば,尿,ヒト血清トランスフェリン,ヒトα−1産生糖蛋白質)から部分的に単離したオリゴ糖および糖ペプチドを用いた。Debrayらは,ヤドリギレクチンIを固定化したカラム(ML−Iセファロース)で実験を行った。彼らは,試験した糖を評価するとき,3つの因子を区別した。画分1(FNR)はヤドリギレクチンと相互作用を示さず,PBS中でカラムの溶出体積中に溶出された。第2の画分(FR)は,やはりPBSを用いたがやや遅れて溶出された。したがって,これらの2つの画分の糖は,カラムに固定化されたレクチンと相互作用する能力に関してわずかに異なる。実際に結合した画分(FE)は,PBSバッファー中150mMガラクトースでのみ溶出することができた。結果は決定的なものではない。著者らは,例えば,シアル酸α2−6を末端ガラクトース残基に結合させているのであれば,FRと比較してFNRの溶出は遅れると議論している(糖16(FR)および17(FNR)を参照)。しかし,糖15(FR)において見られるように,二重シアル酸標識によっては,カラム上のML−Iにより強く結合する物質を得ることはできなかった。しかし,当業者にとっては,FRと比較したFNRの遅延を明確に議論することは困難である。すなわち,わずかの遅延(FR)はカラムに結合した蛋白質との非特異的相互作用(例えば疎水性相互作用)に起因し,ヤドリギレクチンの特異性によるものではないようである。カラムをPBSバッファー+150mMNaCl+150mMガラクトース(FE)ですすいだ後,試験した構造のうち2つのみが溶出された。これらの2つの構造は,ウシのサイログロブリンまたはキジバトのオボムコイドから単離された。著者らが用いた,主として構造Gal(β1−4)GlcNAc−を含む他のすべての構造と異なり,これらの構造は,α1−4またはα1−3のいずれかにより第2のガラクトースに結合した2つのガラクトース残基を末端に有する。
【0008】
Leeら(1994)は,ML−Iの認識についての第2の糖残基の関連性を記載した。彼らは,ML−Iによる糖構造の認識を4つのグループに分け,第2の位置にあるGlcNAc構造が糖の認識を非常に低下させることを示すことができた。彼らは,ML−Iは末端糖残基β−D−Gal−(1−2)−β−D−Gal−を有する糖類に対して最も高い親和性を有することを見いだした。β1−3−結合ガラクトースもまた,同様に優れた特異性を示した。Leeら(1994)はβ1−4−結合ガラクトースを試験していないが,Debrayら(1994)の仕事から,これらもまたML−Iに対して高い特異性を有するはずであると結論づけることができる。
【0009】
しかし,Debrayら(1994)の研究を評価する場合,カラムに固定化されたヤドリギレクチンを用いて実験を行ったことに注意しなければならない。観察された糖と固定化レクチンとの相互作用は,非生理学的実験系である。すなわち,溶液に溶解したヤドリギレクチンまたは組換えヴィスクミンとレセプターとの相互作用に関して,直接結論づけることは不可能である。
【0010】
Leeら(1994),Debrayら(1994)およびWuら(1995)によりヤドリギレクチンの特異性に関して提示されるデータは相互に矛盾しており,ヤドリギレクチンのNeu5Acに対する特異性の決定的な証拠と考えることはできない。データが,規定された試験条件下で得られたものではないことが特に問題である。特に,このことは,用いた蛋白質の質が技術的な理由により均一な炭水化物構造を有することがなかったことと関連する。
【0011】
Leeら(1992)による知見に基づいて,Galaninaら(1997)は,ヤドリギレクチンを構造的に明確なネオグリココンジュゲートとカップリングさせる実験系を設計した。この系においては,合成オリゴ糖がヤドリギレクチンの結合を逆転させる競合的効力を試験した。しかし,この系で得られた結果もまた不均一であった。ラクトースの競合的効力は予測されたように示された。N−アセチル−ラクトースアミンとの競合は,同様の結果をもたらした。さらに,シアリル−ラクトースの天然に生ずる異性体も実験された。しかし,この場合には,α2−3シアリル化異性体はα2−6シアリル化異性体より競合活性が高いが,ラクトースまたはN−アセチルラクトースアミンの競合活性より明らかに低かった。さらに,著者らは,N−アセチル−ノイラミン酸単独では阻害活性を有していなかったと述べている。
【0012】
競合実験に基づく研究の分析においては,試験された天然に生ずる糖蛋白質が可溶性蛋白質のみを含むことが印象的である。記載される実験においては,膜結合糖蛋白質は試験されなかった。
【0013】
ヤドリギレクチンのみならず,例えば,他のラクトース/ガラクトース特異的蛋白質,例えば,リシンまたはガレクチンもまた,アシアロフェツイン結合蛋白質として記述される。この特性はまた,定量にも用いることができる(Vangら,1986)。Guptaら(1996)は,蛋白質リシン,ガレクチンまたはヤドリギレクチン(ここではViscum albumアグルチニンと称される)の相互作用をより詳細に記載することができた。彼らは,3つの蛋白質すべてがアシアロフェツインと明確な複合体を形成することを見いだした。ヤドリギレクチンまたはリシンの標的細胞への結合を担うレセプターはまだ知られていない。
【0014】
1982年に,Balb/c3T3細胞でコレラ毒素のレセプターが同定された(Critchleyら,1982)。これはガングリオシドGM1であった。この仕事に基づいて,この分野では,他のトキシン/レクチンのレセプターの探索も試みられた。ここでは,リシンおよびピーナッツアグルチニンについて,ヒトリンパ球上のレセプターが糖蛋白質であることを示すことができたが,トウゴマアグルチニンおよび大豆アグルチニンは糖蛋白質およびガングリオシドにほぼ同じ程度に結合する(Turpinら,1984)。モノシアロガングリオシドGM1(末端ガラクトースを有する)を挿入したモデル膜を用いる実験において,2つの蛋白質,すなわちリシンおよびヤドリギレクチンとの非常に非特異的な相互作用のみが観察され,加えたタイプIIRIPに依存して膜の透過性を明確に区別することはできなかった(Pohlら,1998a)。さらに,Pohlら(1998b)は,リシンおよびヤドリギレクチンの両方ともベヒクルとベヒクルの融合を誘導することができたことを観察した。しかし,膜融合は標的細胞によるこれらの蛋白質の取り込みを担うものではないため,誘導誘導のモデルは,ヤドリギレクチンまたはリシン
のインビボでの取り込みには重要な関連性はない。既に,1990年にTonevitskyらは,ガングリオシドGM1はレセプターとは考えられないことを示した。Utsumiら(1987)は,GM1含有リポソームへのリシンの結合を報告しており,これは競合物質であるラクトースを加えたときには観察されなかった。
【0015】
Samalら(1995)は,ヤドリギレクチンは,リシンと同様に,血液血小板と凝集することを観察した。しかし,この分析にしたがえば,ヤドリギレクチンは血液血小板から単離されたリポソームを凝集せず,前記リポソームはリシンにより凝集される。著者らは,これらのレクチンのレセプターの可能性については議論していない。
【0016】
1994年に,変質した細胞の変化した表面構造を利用しうることが見いだされた(Gottsteinら,1994;Usui&Hakomori,1994)。例えば,イムノトキシンは治療法として示唆され,このイムノトキシンは,特定の糖脂質または糖蛋白質構造に対するモノクローナル抗体からなり,これは好ましくは変質した細胞にのみ存在し,リシンの毒性成分(リシンA鎖)である(Gottsteinら,1994;Usui&Hakomori,1994)。このモデルは,トキシンを標的細胞中に輸送することができる細胞特異的ベヒクルの重要性を強調する。
【0017】
リシンの場合,炭水化物に結合するB鎖は,明確に同定されていないが偏在的に生ずるレセプターとしてのそのようなベヒクルの要件を満たさない。この所見は,患者をリシンで治療したときに記述されている副作用を説明する。
【0018】
ヤドリギレクチンは,リシンとは異なり,偏在しないレセプターに結合するように見えるため,B鎖が融合トキシンの輸送用ベヒクルである可能性が示唆された。細胞毒性化合物を有する組換えヴィスクミンのB鎖の対応する融合蛋白質は欧州特許出願EP1012256A1に記載されている。したがって,対応する治療剤の有効かつ標的化された用途のために,ヤドリギレクチンまたは組換え的に製造された組換えヴィスクミンのB鎖が結合するレセプターを同定することが望ましい。
【0019】
ヤドリギ抽出物(Viscum albumの抽出物)を治療薬として用いることは,既に数百年前から知られていた。ここでは,これらの抽出物の活性成分としてレクチンと称される成分が同定されている。これらのレクチンは,脂質または蛋白質が結合した形においても,非常に特異的な炭水化物構造を認識することができ,それに結合することができる蛋白質である。ヤドリギレクチンは,クラスIIリボソーム不活性化蛋白質として特徴づけられており,その2つのサブユニットが相互作用する場合にのみ薬理学的に有効である。ここでは,特異的炭水化物結合特性を有する配列モチーフを有するヤドリギレクチンのB鎖が,蛋白質の標的細胞内への輸送を担う。標的細胞においては,次にAサブユニットが細胞においてその酵素的rRNA−N−グリコシダーゼ活性によりリボソーム代謝をブロックし,このようにして,かかる細胞においてプログラムされた細胞死(アポトーシス)を誘導する。
【0020】
ヤドリギ植物およびここから得られる抽出物の,疾患を治療するための作用のモードは,欧州特許EP0602686B1に記載されている。今世紀の初めから,ヤドリギ調製物は癌治療において用いられており,成功するか否かはまちまちである(Bocci,1993;Gabiusら,1994;Gabius&Gabius,1994;Ganguly&Das,1994)。Hajtoら(1989,1990)はまた,治療効果は特にいわゆるヤドリギレクチン(ヴィスクミン,Viscum albumアグルチニン,VAA)により媒介されることを示すことができた。細胞毒性効果に加えて,今日では,特に(非特異的)免疫刺激が議論されており,腫瘍患者の併用される療法に,およびフォローアップ治療に,その有効な効果が利用されている。内因性エンドルフィンの放出に
よりそのような患者の生活の質の改善がもたらされる可能性がある(HeinyandBeuth,1994)。
【0021】
多数のインビトロ分析(Hajtoら,1990;Mannelら,1991;Beuthら,1993)およびインビボ分析(Hajto,1986;Hajtoら,1989,Beuthら,1991;Beuthら,1992)および臨床試験(Beuthら,1992)は,ヤドリギレクチンにより媒介される炎症性サイトカイン(TNF−α,IL−1,IL−6)の放出の増加および免疫系の細胞性成分(TH−細胞,NK−細胞)の活性化を証明した。
【0022】
今日では,60kDaのヤドリギレクチン蛋白質が,ヤドリギ抽出物の活性の本質であると考えられており,蛋白質は生化学的方法により抽出物から得ることができる(Franzら,1977;Gabiusら,1992)。ML蛋白質は2つの共有結合的にS−S結合したサブユニットからなり,ここで,蛋白質のA鎖はリボソームの酵素的不活性化を担い(Endoら,1988),この蛋白質のB鎖は炭水化物結合を担う。生物学的活性はB鎖のレクチン活性を得ることと相関している(Hajtoら,1990)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の基礎となる技術的課題は,これまで組換えヴィスクミンまたは類似の化合物の投与を含む治療法が個体の疾患または病気の治療に適しているか否かについて予測することが可能ではなかったことである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
この技術的課題は,本発明の特許請求の範囲に示される態様により解決された。
【0025】
すなわち,本発明は,ヤドリギレクチンまたはヤドリギレクチン一本鎖に対する個体の応答性を判定するインビトロ方法に関し,この方法は,膜結合レセプターを量的および/または質的に特異的に検出する工程を含み,レセプターは,α2−6グリコシド結合によりガラクトース(Gal)に結合している末端N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)により特徴づけられる。
【0026】
すなわち,本発明にしたがえば,好ましくはヤドリギレクチンまたはヤドリギ一本鎖に対する個体の応答性を判定するインビトロ方法が記載され,この応答性はヤドリギレクチンの炭水化物結合サブユニットの,膜結合レセプターへの特異的結合により媒介され,レセプターは,α2−6グリコシド結合によりガラクトース(Gal)に結合している末端N−アセチル−ノイラミン酸(Neu5Ac)により特徴づけられる。判定は,この特定のグリコシル化を量的および/または質的に特異的に検出することを含む。
【0027】
"ヤドリギレクチン"との用語は,本明細書に記載され当業者に知られる天然のヤドリギレクチンおよび組換えヤドリギレクチンの両方を含み,上述のヤドリギレクチン一本鎖は,好ましくはヤドリギレクチンB鎖またはそのフラグメントを含む。
【0028】
本発明に関して,"応答性"との用語は,単一の細胞,細胞集団,細胞のクラスター,組織,臓器または生物の反応を誘発することを表し,この反応は,疾患または病気の治癒に好都合なものである。さらに,"応答性"との用語はまた,組換えヴィスクミンまたは類似の化合物の予防的な適用における,個体細胞,細胞集団,細胞のクラスター,組織,臓器または生物の感受性を含む。したがって,それぞれの標的細胞の応答性は,有効な治療効果または予防効果と結びつけられる。好ましくは,"応答性"は,ヒト細胞,細胞集団,細胞のクラスター,組織,臓器またはヒト生物の感受性を含む。
【0029】
"特異的結合"との用語は,例えば,"鍵と鍵穴の原理"により特徴づけられる。リガンド(ヤドリギレクチン)および標的分子(膜結合レセプター)は,互いに特異的に適合する構造ないしモチーフを有する。その一例は,抗体の抗原結合部位と相互作用する抗原決定基(エピトープ)である。したがって,特異的結合は,より万能の非特異的結合と対照的なものである。互いに特異的に結合する相互作用パートナーの構造が知られている場合,これと相互作用する適当なパートナーの可能な好ましい構造または特定の構造要素についての結論を得ることができる。
【0030】
本発明は,ヤドリギレクチン,特に組換えヴィスクミンの特異的相互作用のパートナーを提供する。
【0031】
"ヤドリギレクチンの炭水化物結合サブユニット"との用語は,ヤドリギレクチンの膜結合レセプターに特異的に結合するヤドリギレクチンのB鎖の配列モチーフを表す。これらのモチーフはLangerら(2000)に記載されている。リシンの炭水化物結合サブユニットと同様に,ヤドリギレクチンのB鎖もまた2つのドメインから形成される。これらのドメインはそれぞれ3つのサブドメインに分けられる。ドメインは1および2と称され,サブドメインはα,βおよびγと称される。リシンについては,すべてのサブドメインはおそらくは細菌の炭水化物結合構造に由来するものであろうと記載されている(Rutenberら1987)。リシンとヤドリギレクチンのB鎖の高い構造的同一性のため(62%の同一性および70%の相同性,Eckら,1999),この所見は,ヤドリギレクチンにも適用可能であるように見える。Langerら(2000)によれば,リシンとヤドリギレクチンの炭水化物結合サブユニットの異なる特異性は,そのサブドメインにおける相違のためである。特に,1αサブドメインにおいて残基D23およびW38,1βにおいて残基Y68,Y70,Y75およびF79,およびサブドメイン2γにおいて残基D235,Y249が存在する(番号付けについてはEckら(1999a)を参照)。
【0032】
本発明に関して,"膜結合レセプター"との用語は,α2−6グリコシド結合を介してガラクトース(Gal)に結合している末端N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)により特徴づけられる膜結合構造を表す。対応する膜結合構造の例は,細胞の膜にアンカリングされた蛋白質またはペプチドである。この定義は,貫膜蛋白質および膜付随蛋白質およびペプチドの両方を含む。それ自体膜の一部であるか,または膜に付随している脂質もまたそのような構造の例である。本明細書に記載される膜結合構造は,糖蛋白質(グリコシル化された蛋白質)および糖脂質の一部であってもよい。
【0033】
この点に関して,"膜"との用語は,明示的にすべての膜性の細胞性脂質二重層を含む。したがって,小胞体(ER),ゴルジ装置の膜,核膜,小胞および空胞の膜および細胞外膜も含まれる。
【0034】
当該技術分野においては,α2−6グリコシド結合を介してガラクトース(Gal)に結合している末端N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)でグリコシル化された蛋白質が記載されている。しかし,これらのグリコシル化された蛋白質は,可溶性蛋白質/血清蛋白質であり(例えば,Hanasakiら,1995を参照),これはヤドリギレクチンの薬理学的効果にも作用のモードにも関係ない。本発明は,グリコシル化された膜結合構造を最初に開示するものである。
【0035】
ヤドリギレクチンの炭水化物結合サブユニットの特異的標的構造として,α2−6グリコシド結合を介してガラクトース(Gal)に結合している末端N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)を同定することにより,単独で,またはLangerら(2000)
の教示と組合わせて,例えば,当業者が部位特異的突然変異によりリシンの炭水化物結合サブユニットを変化させることを可能とする。このようにして変異させたペプチド/蛋白質は,もはやリシン特異的標的構造には結合しないが,ヤドリギレクチン特異的標的構造には結合する。
【0036】
かかるグリコシル化の量的および/または質的検出の例は当業者に知られており,例えば,この例を示す本明細書の実施例7および図9に記載されている。そのような方法には,例えば,実施例に示されるような改変したウエスタンブロット分析が含まれる。さらに,そのような方法には,ラジオイムノアッセイ(RIA),サンドイッチ(イムノメトリックアッセイ)およびウエスタンブロットアッセイ,IRMA(免疫ラジオイムノメトリックアッセイ),EIA(酵素イムノアッセイ),ELISA(酵素結合イムノソルベントアッセイ),FIA(蛍光イムノアッセイ),CLIA(化学発光イムノアッセイ),アグルチニン化アッセイおよびフローサイトメトリ法等の手法が含まれる。
【0037】
本発明の方法は,とりわけ,ヤドリギレクチン療法の有効性を予測することを可能とする。この方法は,ヤドリギレクチン,好ましくは組換えヴィスクミンを用いる治療法がある種の細胞,ある種の細胞集団またはある種の組織,臓器または生物にける疾患の治療において原理的に成功すると予測されるか否かについての予見をすることを含む。例えば,本発明の方法を用いて腫瘍細胞において上述のグリコシル化が同定されれば,組換えヴィスクミンは細胞に結合し,細胞に吸収され,細胞毒性効果を発揮することができる。さらに,本発明の方法により,ある個体におけるヤドリギレクチン療法の有効性の予測が可能となる。結論として,患者の群において,個々のレスポンダー(治療法に応答する患者)を非レスポンダーから区別することができる。したがって,そのような予測の方法は,当業者に知られ,ハーセプチンによる乳癌患者の治療の前に行われている試験と同様の目的を達成することができる。抗体調製物ハーセプチンの投与を用いる治療を行う前に,患者がEGF−レセプターHer−2を有しているか否かを試験しなければならない。この点に関して,FDA(US Food and Drug Administration)は,特に2つの試験方法(免疫組織化学染色(IHC)および蛍光インシトゥーハイブリダイゼーション(FISH))を認可している(この点については,例えば,Thomsonら(2001)を参照)。同様に,ヤドリギレクチン療法,特に組換えヴィスクミンを用いる治療に対する個々のレスポンダーを認識および/または判定するために,そのような方法および本明細書に記載される他の手法を,本発明の教示にしたがって用いることができる。
【0038】
本発明の方法を行うためには,液体のサンプル,特に体液のサンプル,細胞,細胞集団または組織を用いることができる。これらのサンプルは血液サンプルまたは体液の他のサンプルに由来するものであってもよく,組織サンプル,個体細胞または播種性の腫瘍細胞であってもよい。そのようなサンプルの例,およびこれらをどのようにして取り出すかの手法は,本明細書においてさらに別の態様に関連してより詳細に記載される。
【0039】
本発明の方法はまた,患者の群において初期にレスポンダーを認識することを可能とする。このようにして,治療を始める前に大きな遅れを伴わずに容易に実施することができる試験において,治療の成功を評価することが可能である。本発明の方法のこの特徴は,疾患経済学の観点に関して特に意味がある。コストがかかるが個々の患者には有効でないかもしれない治療を回避することができる。このようにして,組換えヴィスクミンを用いる治療の成功が疑わしいように見える個々の患者について,治療が有効な場合には許容される副作用を回避することができる。
【0040】
実施例に記載されるように,本発明の基礎をなす試験においては,ヤドリギレクチンおよびリシンがスフィンゴ糖脂質(GSL)に結合することを明確に示すことができた。本
発明は,ヤドリギレクチン(特に組換えヴィスクミン)とリシンの結合特異性の量的および質的相違を示すことを初めて可能としたものである。2つの蛋白質により認識される炭水化物構造の概略図を図1に示す。
【0041】
実施例に示されるように,特別の試験において,ヤドリギレクチン(特に組換えヴィスクミン)の主たる特異性は末端ガラクトースではないことが示された。図2−5および7は,異なる移動剤中での異なる移動特性によって予め中性および酸性GSLが分離されているDCプレート(TLCアッセイ)における,結合したリシンまたは組換えヴィスクミンの改変ウエスタンブロット/免疫学的検出を示す。リシンは,末端ガラクトースを有する中性GSL(Lc2,nLc4,nLc6,Gg4)(表1;図4B,レーンb)に対して明らかな特異性を示すが,組換えヴィスクミンは驚くべきことにGalβ1−4Glcβ1−1Cer(この場合Cerはセラミドを意味する)に非常に弱い結合しか示さない(表1;図2A,レーンb,一晩インキュベートした後に染色なし)。
【0042】
しかし,驚くべきことに,この用量は,組換えヴィスクミンにより非常によく認識され,リシンによっては全く認識されないN−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)が末端に存在するガングリオシドの群にはあてはまらないことが示された(表1;図2B,レーンb;図5B,レーンb,染色なしを参照)。さらに,驚くべきことに,組換えヴィスクミンによるレセプター構造の認識には,N−アセチルノイラミン酸が中性の糖構造の末端ガラクトースに,α2−6(認識される)またはα2−3(認識されない)で結合しているかが重要であることが見いだされた(実施例および図を参照)。
【0043】
本発明の特徴である,Neu5Ac−α2−6−GalコンフィギュレーションにおけるN−アセチルノイラミン酸の特異的認識は,モノクローナル抗体のエピトープ認識における特異性を連想させ,このことはこれまでヤドリギレクチンについては述べられていない。リシンおよび組換えヴィスクミンの全く異なる特異性もまた驚くべきものであり,当業者には予測しえないものであった。試験した2つのタイプII−リボソーム不活性化蛋白質の異なる認識モチーフは表1にまとめられている。当該技術分野における技術水準から,リシンおよびヤドリギレクチン(特に組換えヴィスクミン)の両方とも,仮に結合するとしてもむしろガラクトースを末端糖残基として有する中性GSLに結合すると結論づけることができた。
【0044】
本発明の方法の好ましい態様においては,レセプターは,α2−6−シアリル化ガラクトースの後に少なくとも1つのN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)を含むガングリオシド,すなわち,ガラクトースへのα2−6結合N−アセチルノイラミン酸の後に少なくとも1つのN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)を含むガングリオシドを含む。しかし,以下に説明するように,続くN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)はNeu5Acα2−6−Gal構造の後に,直接的および間接的のいずれで存在していてもよい。すなわち,本発明に関して,本発明の方法は,構造Neu5Acα2−6−Gal−Y−[GlcNAc]x−Cerを含むガングリオシドレセプターの(構造)認識に基
づくことが可能である。Yは,例えば,さらに別のガラクトース(Gal)を含むことができる。
【0045】
本発明に関して,"ガングリオシド"との用語は,セラミドオリゴ糖を含む酸性シアル酸を表す。炭水化物成分はN−アシルスフィンゴシン(=セラミド)のC1−OH基に対するグリコシド結合により結合している。ガングリオシドは,長鎖(例えば,IV3nLc
4,VI3nLc6,等)および分枝鎖(GM1またはGM2)のいずれであってもよい
(Voet and Voet(1992),特にこの文献の271ページの図)。
【0046】
本発明の方法のさらに別の好ましい態様においては,レセプターは,構造Neu5Ac
α2−6−Gal−[Gal/GlcNAc]x−Cer(Cerはセラミドである)を
有するガングリオシドを含む。本明細書に記載される方法においては,Neu5Acα2−6−[Galβ1−4GlcNAcβ1−3]xGalβ1−4Glcβ1−1Cer
が特に好ましい。
【0047】
ガングリオシドを構造的に特徴付ける一般的方法は,現在のところ,xが6以下である場合にのみガングリオシドを正確に分析することができる。ヤドリギレクチンの炭水化物結合サブユニットは末端糖構造を認識する。したがって,変数xの値は,原理的には特異的結合には重要ではない。好ましくは,変数は最大で10の値を有する。さらに,変数は好ましくは6以下の値を有し,より好ましくは5,4,3,2または1の値を有する。さらに,分枝鎖ガングリオシドの場合,xの値は個々のまたはすべての鎖で異なっていることが好ましい。
【0048】
また,本発明の方法の1つの態様において,レセプターは,構造Neu5Acα2−6−[Galβ1−4GlcNAcβ1−3]xGalβ1−4Glcβ1−1Cerを有
するガングリオシドを含むことが好ましく,構造Neu5Acα2−6Galβ1−4GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glcβ1−1Cer,またはガングリオシドNeu5Acα2−6Galβ1−4GlcNAcβ1−3Galβ1−4GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glcβ1−1Cerが特に好ましい。この好ましい態様もまた,直鎖および分枝鎖のガングリオシドを含む。
【0049】
さらに別の好ましい態様にしたがえば,レセプターは細胞膜結合性である。
【0050】
本発明の方法のこの態様は,細胞外膜の一部を形成するかまたはこれに結合している膜結合レセプターの分析を記載する。特に,かかる態様は,糖蛋白質または糖脂質であるレセプターを含む。
【0051】
さらに別の好ましい態様においては,ヤドリギレクチンは組換えヤドリギレクチン/組換えヴィスクミンである。
【0052】
上述したように,文献では天然に生ずる種々のヤドリギレクチンを区別している(ML−I,−IIおよび−III)。これらは,その炭水化物特異性において異なる(Franz,1986)。ここでは,ガラクトース/ラクトースの特異性(ML−I)は,ガラクトース/ラクトースおよびN−アセチルガラクトサミンの混合物形(ML−II)から,N−アセチルガラクトサミンにより強く結合するヤドリギレクチン(ML−III)に変化することが議論されている。E.coli中で与えられる組換えヤドリギレクチン/組換えヴィスクミンは当業者に知られている(EP0751221B1;Eckら,1999aおよび1999b)。組換えヴィスクミンの一次構造は,ヤドリギ植物に見いだすことができるML−I,ML−IIまたはML−IIIとは正確には対応していない。記載される組換えヴィスクミンの配列とは別に,元の遺伝子の別の部位の変異により改変されている他のヤドリギレクチン変種が存在し,これはその一次構造においてわずかに異なるかもしれないことが想定される。組換えヴィスクミンは本来のヤドリギレクチンの変種であると考えることができ,ML−I,ML−IIおよびML−III配列の混合物であると理解することができる。
【0053】
さらに,この態様は,欧州特許出願EP A 21012256に記載される組換えヴィスクミンに基づく組換え融合蛋白質を含む。
【0054】
さらに,本発明の1つの態様においては,好ましくは,組換えヤドリギレクチンは配列番号1,配列番号3または配列番号5で示されるポリヌクレオチドによりコードされるア
ミノ酸配列を含む。
【0055】
さらに別の好ましい態様は,1またはそれ以上のポリヌクレオチドによりコードされる組換えヤドリギレクチンを含む。
【0056】
本発明の方法の好ましい態様においては,組換えヤドリギレクチンはまた,配列番号2,配列番号4または配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはその機能的フラグメントを含む。
【0057】
本発明に関して,"機能的フラグメント"との用語は,アミノ酸配列(配列番号)をもって示されるポリペプチドと同じ生物学的機能を有する,上述のポリペプチドのフラグメントを表す。ヤドリギレクチン,特に組換えヴィスクミン,およびヤドリギレクチンの既知のサブユニットの機能は,本明細書に既に記載した。"機能"には,本明細書に記載されるヤドリギレクチンレセプターに対する,ヤドリギレクチン,特にヤドリギレクチンのB鎖の特異的結合特性も含まれる。すなわち,ヤドリギレクチンB鎖のフラグメント,特に本明細書に記載されるヤドリギレクチンレセプターとの特異的な相互作用を媒介しうるフラグメントも含まれる。
【0058】
この点に関して,"同じ生物学的機能"との用語は,例えば,細胞においてポリペプチドのフラグメントまたは誘導体が言及されているペプチドと同じシグナルを誘導することを表す。フラグメントの例は,規定される機能または特定の補欠分子団を有するペプチドドメインである。"同じ生物学的機能"には,細胞毒性,免疫刺激(天然および適応性免疫系の両方),サイトカインの放出の刺激,抗原性,表面マーカー(例えばNK細胞のCD56)の発現または活性化の誘導,アポトーシスまたはエンドルフィン刺激の誘導も含まれる。
【0059】
さらに別の好ましい態様においては,組換えヤドリギレクチンはまた,配列番号2,配列番号4または配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはこれらの機能的フラグメントをコードする1またはそれ以上のポリヌクレオチドによりコードされるものから構成される。ただし,遺伝コードを考慮すればその配列は縮重している。
【0060】
本明細書において初めて記載されるヤドリギレクチンレセプターは,実施例に記載されるように細胞試験においても役割を果たす。細胞が組換えヴィスクミンによる治療に対して異なるように反応することを示すことができた。特に,腫瘍細胞または腫瘍細胞に由来する細胞は,実施例に記載されるように,組換えヴィスクミンによる処理に対して特異的な生化学的反応を示す。
【0061】
実施例に記載される実験により,本明細書に開示されるレセプターに対する組換えヴィスクミンの特異性を明確に同定することも可能であった。さらに,組換えヴィスクミンがリシンと比較して量的に異なる炭水化物特異性を有することが明確に示された。
【0062】
本発明の基礎をなし,実施例に記載されている実験においては,腫瘍細胞または腫瘍細胞株が上述のヤドリギレクチン,特に組換えヴィスクミンに対する特異的レセプターを発現することが示された。
【0063】
本発明の方法の別の態様は,ヤドリギレクチンに対する応答性を判定するためのインビトロ方法であり,この方法は,シアリルトランスフェラーゼを量的および/または質的に決定することを含む。
【0064】
シアリルトランスフェラーゼは,真核生物細胞においてグリコシル化された構造の末端
グリコシル化を担う。これらの酵素の活性は,ゴルジ装置(トランスゴルジコンパートメント)に見いだされた。酵素はシアル酸残基の転移を触媒する。そのようなシアリルトランスフェラーゼの酵素活性は,例えば変性性細胞(癌細胞)において,ペプチドおよび/または脂質の特異的グリコシル化を触媒する。細胞または組織サンプルにおけるそのようなシアリルトランスフェラーゼの存在は,細胞の変性を示すものと考えることができる。これは,サンプル中のこれらのシアリルトランスフェラーゼの酵素活性を検出する場合にはより当てはまる。
【0065】
シアリルトランスフェラーゼを量的および/または質的に決定するための分子生物学および蛋白質生化学的方法は,文献から当業者に知られている(例えば,Mulhardt(2000)およびRehm(2000)を参照)。分子生物学的方法は,例えばRT−PCR手法,RNAse保護アッセイ,ノザンブロットまたはサザンブロット分析である。蛋白質生化学的方法は,例えば,トランスフェラーゼ活性を検出するための方法,ならびにウエスタンブロット分析,または"プロテオーム分析"との用語でまとめることができる他の手法等の方法である。
【0066】
さらに,個々の細胞のシアリルトランスフェラーゼの量的決定は,例えば,播種性の腫瘍細胞を含むことができる。個々の細胞分析は当業者に知られており,EP A 111009938およびKlein(1999)に記載されている。
【0067】
対応するシアリルトランスフェラーゼの例は,β−ガラクトシドα−2,6−シアリルトランスフェラーゼ(E.C.2.4.99.1)(α2−6STN)である。α2−6STNは,47kDaの貫膜蛋白質である。肝細胞はまた41kDA型の前記酵素を分泌する。可溶型α2−6STNは血清糖蛋白質であり,これは急性期反応物の群に割り当てられており,病原性プロセスにおいて役割を果たす(多くの癌腫,例えば結腸癌および子宮頸癌において活性が増強されている)。既知の形の酵素のアミノ酸配列およびこれらをコードするヌクレオチド配列は当業者に知られている(受託番号L29554(Rattus norvegicus),X75558(Gallus gallus),NM_003032(Homo sapiens)およびNM_009175(Mus musculus)を参照)。
【0068】
本明細書に記載される,本発明にしたがう方法は,特異的検出試薬を用いて行うことができる。そのような特異的検出試薬は,本明細書に記載されるヤドリギレクチンレセプターと相互作用または結合することができる。かかる相互作用または結合は,直接的であっても間接的であってもよいが,本明細書に記載されるレセプターに特異的でなければならない。本発明の特に好ましい試薬は,特異的抗体,抗体フラグメントまたは抗体誘導体,アプタマー,炭水化物結合分子(例えば,ペプチドおよび/または蛋白質)であり,ここで,試薬は,本明細書に記載されるヤドリギレクチンレセプターまたはその特定の成分(例えば,本明細書において定義され,アルファ2−6グリコシド結合を介してガラクトースに結合している末端N−アセチルノイラミン酸)を認識および/または結合することができなければならない。好ましくは,これらの検出試薬は標識されており,標識としては,放射性物質,蛍光色素,ビオチン−(ストレプト)アビジン,ルシフェラーゼ,CAT,ベータ−ガラクトシダーゼ,アルカリホスファターゼ,ペルオキシダーゼ,さらに別の酵素標識,ジギトニン,一般の染料等が挙げられる。しかし,本発明の方法はまた,本明細書に記載されるレセプターの間接的検出によっても実施することができる。レセプターの検出は実施例に例示されており,上述したように,RIA,ELISA,CLIA,FIA,ELLA,TLC試験,組織学的方法,直接および間接(免疫)蛍光法またはフロースルー法(例えば,FACS分析,フローサイトメトリ,BIAcore)等の方法も含むことができる。
【0069】
別の態様においては,本発明は,上述のレセプターを特異的に認識または結合する物質,好ましくは,抗体,抗体誘導体,抗体フラグメント,アプタマーおよび炭水化物結合ペプチドまたは蛋白質からなる群より選択される物質を含む診断用組成物に関する。しかし,本発明にしたがって,レクチン,例えば標識したレクチンを診断目的に用いることもできる。この場合には,特に,本明細書に記載されるレセプターに特異的に結合しうる標識したレクチンを用いる。
【0070】
特定の標的構造を認識するかまたは結合する抗体(ポリクローナルまたはモノクローナル)を製造する方法は当業者に知られている。神経性疾患において役割を果たすガングリオシドGD1およびGD2に対するモノクローナル抗体の製造は,Magnaniら(1982),Turら(2001)およびPanら(2001)に記載されている。そのような抗体の特異性の検出は,例えば,薄層クロマトグラフィー後の免疫染色に基づく重層アッセイにより行うことができる(Muthing and Muhlradt(1988),Muthing and Kemminer(1996),Muthing(1998))。かかる方法は,任意にELISAと組み合わせてもよい。
【0071】
本明細書に記載される方法において用いるべき抗体は,好ましくは,本明細書に開示される膜結合レセプター構造に特異的に結合するモノクローナル抗体(またはそのフラグメントまたは誘導体)である。実施例においてはそのような抗体を得る方法が示される。例えば,実施例において59.33.3,59.33.5および59.33.6と表される抗体は,本明細書に記載されるα2−6シアリル化ネオラクト系ガングリオシド,すなわち,本明細書に記載される(組換え)ヤドリギレクチンのレセプターに対する抗体である。
【0072】
抗体は,例えば,IgG,IgA,IgD,IgMのタイプの抗体でありうる。特に好ましい抗体は,ブダペスト条約にしたがって2002年12月20日に名称59.33.3としてDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ),Brunswickに寄託された受託番号のハイブリドーマ/ハイブリドーマ細胞株から得ることができる。
【0073】
本明細書に記載される診断用組成物および医薬組成物(下記参照)はまた,本明細書に記載される抗体からこれを修飾することにより得られる抗体を含んでいてもよい。このようにして,当業者に知られる手法を用いて,本明細書に記載される抗体のCDR(相補性決定領域;3つの相補性決定領域CDR1,CDR2およびCDR3は抗体またはT−細胞レセプターのV−ドメインの末端のループである。これらは抗原またはペプチド:MHC複合体と直接接触する)を単離し,かかるCDRを異なる構造を有する抗体に挿入することができる。すなわち,59.33.3抗体(IgM)からCDRを単離して,このCDRを他のイムノグロブリン,例えばIgG,好ましくはIgG1構造中に組み込むことが可能である。これらの方法(例えば,CDRグラフティング)は当業者によく知られている。したがって,本明細書に記載される抗体はまた,キメラ抗体,ヒト化抗体または一本鎖抗体または一本鎖抗体フラグメント,例えばscFvコンストラクトを含む。しかし,そのような抗体の修飾は,本明細書に詳細に記載される抗体59.33.3,59.33.5または59.33.6の修飾に限定されない。用いるべき抗体は,本明細書に記載される(組換え)ヤドリギレクチン((組換え)ヴィスクミン)のレセプターに特異的に結合する全ての抗体/抗体分子,抗体フラグメントまたは抗体誘導体でありうる。
【0074】
抗体フラグメント,例えば,Fv,F(ab’)2およびFabは,無傷の蛋白質(抗
体)を,例えばプロテアーゼによりまたは化学的切断により切断することにより生成することができる。また,切断型の遺伝子を設計してもよい。例えば,F(ab’)2フラグ
メントの一部をコードするキメラ遺伝子は,H−鎖のCH1ドメインおよびヒンジ領域を
コードするDNA配列,およびその後に翻訳停止コドンを含み,このことにより切断型の分子が得られる。
【0075】
"抗体誘導体"との用語は,上述の抗体の修飾された形を記述する。これらの修飾には,抗体またはそのフラグメントの化学的修飾,特に生化学的修飾,好ましくは蛋白質生化学的修飾が含まれる。ここでは,抗体,抗体フラグメントおよびそれらの誘導体を特徴づける共通の特徴は,特定の標的構造の認識および/または結合である。本発明にしたがえば,前記標的構造は,本明細書に記載されるヤドリギレクチンの膜結合レセプターである。
【0076】
アプタマーおよびその特定の特性は,例えば,Hermann and Patel(2000)に概説されている。アプタマーを単離する方法もまた,当該技術分野の技術水準から当業者に知られている。
【0077】
本明細書においては,"炭水化物結合ペプチド"との用語は,医薬組成物を製造するための使用に関連する本発明の態様におけるものと同様に定義される。
【0078】
診断用組成物のさらに別の好ましい態様においては,物質を検出可能なように標識する。物質の検出可能な標識の例は当業者に知られている。これには,例えば,放射性標識,酵素標識または蛍光標識が含まれる。ビオチニル化およびアビジンまたはストレプトアビジンを用いる検出も,対応する好ましい態様の一例である。
【0079】
本発明の1つの態様は,本発明にしたがう診断用組成物を用いて,個体細胞,細胞集団または細胞の集合,組織,臓器または生物中の細胞が,ヤドリギレクチンの機能的レセプターを有するか否かを分析することを含む。
【0080】
さらに別の態様においては,本発明はまた,上述の物質を用いて,機能的ヤドリギレクチンレセプターを検出するための診断剤を製造することに関する。
【0081】
本明細書に記載され,実施例で実験されたレセプターの検出における本発明の診断剤の使用は,細胞について行うことがさらに好ましい。
【0082】
実施例に示されるように,α2−6グリコシド結合を介してガラクトース(Gal)に結合している末端N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)を発現する腫瘍細胞は,ヤドリギレクチン,特に組換え的に製造したヤドリギレクチン(組換えヴィスクミン)に対するレスポンダーとして特に適している。
【0083】
好ましい態様においては,調べる細胞は腫瘍細胞である。これらの腫瘍細胞のより好ましいものは,動物細胞,好ましくは哺乳動物に由来する腫瘍細胞であり,さらに好ましくはヒトに由来する腫瘍細胞である。さらに好ましくは,これらの細胞は,白血病細胞,小細胞または非小細胞肺癌,結腸癌,CNS癌腫,黒色腫,卵巣癌,腎臓癌,前立腺癌,乳癌,膀胱癌,胃癌,膵臓癌または精巣の癌腫である。
【0084】
本発明のさらに別の好ましい態様においては,細胞は生検材料に由来するものである。生検材料を回収する方法は当業者に知られている。この記述は,細胞を個人または患者から取り出す種々のタイプの回収方法を含む。生きた細胞である細胞が好ましい。これらには,例えば,細い針を用いて行う生検(細針吸引),パンチ生検,固体組織部分の除去(例えば外科手術法により)または組織全体(例えば副腎)のサンプルがある。種々の回収手法は,例えば,Kremerら(1999),Pichlmayr and Lohlein(1991),Niethard and Pfeil(1997),Malte(1998)およびBonkに記載されている。
【0085】
また好ましい態様においては,細胞は血液サンプルから単離される。血液サンプルからの細胞の単離に加えて,本発明のまた好ましい態様においては,胸水,腹水サンプル,洗浄水,尿サンプル,精液サンプルまたは脊髄液および脳液からのサンプルから細胞を単離する。
【0086】
治療計画を立てる前に,または治療の経過中に,例えば癌患者の組換えヴィスクミンに対する応答性を判定するために,患者から組織を取り出す。また,特定の適応症に関して堅実な統計学的基礎を有する陳述をすることができるように,(異なる)患者の回収されたサンプル/保存されたサンプル(多くの病院でパラフィンブロックバンクとして保存され,適応症にしたがって分類されている)に頼ることも可能である。
【0087】
これらの組織は,例えば,凍結乾燥されるか,ホルムアルデヒド溶液中に保存されるか,または低温保存により得ることができ(意図的な凍結,例えば,糖溶液等の低温保護溶液で潅流した後),次に当業者に知られる方法にしたがってさらに加工し,例えば,パラフィンブロック中に保存することができる。サンプルから出発して,顕微鏡で調べるのに適した切片を調製する。次に,特定の抗原,すなわち,本明細書で定義される(組換え)ヤドリギレクチンのレセプターの存在について,これらの切片を当業者によく知られる方法で調べる(例えば,LSAP法(ELISAに類似する方法),またはDAKO(Hamburg)のENVISION法を用いることにより)。これを実施するためには,本明細書に記載されるレセプターのエピトープ"CD75s"を特異的に認識する抗体,例えば,mAb59.33.3または他の2つのmAbs59.33.5または59.33.6を用いることにより,患者からのサンプルを用いて行うことができる。抗体は,例えば500ng/mlから10μg/mlの濃度で用いることができ,次に結合した抗体を二次抗体または他の検出方法を用いて検出することができる。例えば,アルカリホスファターゼとともに提供されるポリデキストラン結合抗マウスIgM抗体を用いることができる。すなわち,健康な組織と変性性組織とを比較することが可能であり,また,患者または特定の腫瘍適応症の場合には,組換えヴィスクミンを用いる治療が有望であるか否かを区別することが可能である。さらに,(組換え)ヤドリギレクチン((組換え)ヴィスクミン)を用いる治療が成功したか否かを検出することができ,すなわち,治療の経過をモニターすることができる。
【0088】
さらに,本明細書に記載される発明は,他の診断方法,例えば,とりわけ,細針生検材料および異種移植細胞株または他の細胞株の試験を可能とする。
【0089】
細胞は,例えば,96ウエルプレート中で固定し,実施例8に記載されるように,ELISAと類似する方法において,膜結合/膜安定性CD75sモチーフ(組換えヴィスクミン結合モチーフ,すなわち,本明細書に記載される膜結合レセプター構造のモチーフ)の存在について調べることができる。試験に用いることができる別の方法はFACS分析である。この方法では,細胞のプールからある種の表面抗原を有する細胞を取り出すことができる(細針生検の場合には特に興味深い)。すなわち,特異的抗体または抗体誘導体,例えば,本明細書に記載されるmAbs59.33.3,59.33.5または59.33.6を用いることにより最初に細胞を用いる。次に,結合した抗体(これは,好ましくは,限定されないが,500ng/ml−10μg/mlの濃度で用いることができる)を,FITCまたは他の方法により(蛍光)標識した二次抗体,例えば抗マウスIgM抗体とともに,自動化セルソーター(例えば,Becton Dickinson社製)に入れる。この方法においては,特定の細胞集団を分離するために,標的細胞上に存在する第2のエピトープを(蛍光)標識抗マウスIgM抗体とは異なる抗体で標識する。したがって,この場合には2回標識された細胞のみを特異的に選択することができる。このことにより,組換えヴィスクミンによる治療に関して患者を予測する別の可能性が提供され
る。
【0090】
さらに,対応する細胞集団の何パーセント(2回染色した細胞対第2抗体でのみ染色された細胞)が所望のCD75sエピトープを有するかについての情報を得ることができる。そのような分析から,疾患の微量残留物が存在するか否かを評価するかまたは調べることができる。さらに,他の抗腫瘍剤と組換えヴィスクミンとの組み合わせ療法をインビトロで試験して,患者に適用する準備をすることができる。
【0091】
本明細書に記載される診断方法はまた,溶解した膜構造の分析を含む。とりわけ,例えば,新鮮な固定していない生検材料を界面活性剤(例えば,TritonX−100(登録商標),TritonX−112(登録商標),Tween80(登録商標),Tween20(登録商標),オクチルグリコシド等)で処理し,例えば,ウエスタンブロッティングにより,またはELISA/RIA試験の形で,溶解物を分析することが可能である。このことは,界面活性剤による溶解物を,本明細書に記載される(組換え)ヤドリギレクチン((組換え)ヴィスクミン)の膜結合レセプターが元々存在していたかについて試験しうることを意味する。対応する分析のための十分な方法は当業者に知られている。
【0092】
さらに別の態様においては,本発明は,上で定義したレセプターの1つに特異的に結合するかまたは認識する物質を,増殖性疾患(例えば癌),ウイルス疾患(例えば,ヘルペス,HIV),自己免疫疾患または神経性疾患を治療するための医薬組成物の製造のために用いることに関し,ここで,レセプター結合物質またはレセプター認識物質は,抗体,抗体誘導体,抗体フラグメント,アプタマー,低分子量物質および炭水化物結合ペプチドからなる群より選択される。好ましくは,レセプター結合物質またはレセプター認識物質は,ヤドリギレクチンおよび/または組換えヴィスクミンのB鎖のそのレセプターへの結合を阻害するかまたは弱めることができる。
【0093】
本発明の文脈においては,"阻害する"との用語は,完全な阻害ならびに部分的な阻害を記述する。すなわち,この用語は,ヤドリギレクチンおよび/または組換えヴィスクミンが,特異的レセプターとして同定された炭水化物構造に結合することを完全に妨害することを含む。さらに,ヤドリギレクチンおよび/または組換えヴィスクミンのレセプターへの結合を弱める能力もまた含まれる。
【0094】
医薬組成物を製造するための上述の物質は,ヤドリギレクチンではなく,特にヤドリギレクチンのB鎖ではない。
【0095】
本発明のこの態様は,さらに好ましくは,"薬学的に許容しうる担体"および/または希釈剤との組み合わせでもよい医薬組成物の処方に関する。特に適した薬学的に許容しうる担体の例は当業者に知られており,緩衝化食塩水,水,エマルジョン,例えば,水中油エマルジョン,各種の界面活性剤,滅菌溶液等が含まれる。そのような担体を含む医薬組成物は,既知の慣用の方法を用いて製剤することができる。これらの医薬組成物は,適当な投与量で個体に投与することができる。投与は,経口または非経口的に行うことができ,例えば,静脈内,腹腔内,皮下,筋肉内,局所,鼻腔内,気管支内または皮膚内に,またはカテーテルを用いて動脈内に投与することができる。投与の種類は臨床的因子に応じて担当医師が決定することができる。投与の種類は種々の因子,例えば,患者の身長または体重,体表面積,年齢,性別または一般的状態により異なり,また,投与される特定の物質,投与の持続時間および種類,および同時に投与される可能性のある他の医薬品等によっても異なることは当業者に知られている。典型的な投与量は,例えば,0.001−1,000μgの範囲内であり,特に上述の因子を考慮する場合にはこの例示的範囲より高いかまたは低い範囲も考えられる。一般に,本発明の組成物を規則的に投与する場合,投与量は1日または1回投与間隔あたり10ng−10mgユニットの範囲内であるべきで
ある。組成物を静脈内投与する場合には,投与量は1ng−0.1mgユニット/kg体重/分の範囲内であるべきである。
【0096】
組成物は,局所的に投与しても全身的に投与してもよい。非経口投与用の製剤は,滅菌した水性のまたは非水性の溶液,懸濁液および乳濁液を含む。非水性希釈剤の例は,プロピレングリコール,ポリエチレングリコール,植物油,例えば,オリーブ油,および有機エステル組成物,例えば,エチルオレエートであり,これらは注射用に適している。水性担体には,水,アルコール性水性溶液,乳濁液,懸濁液,食塩水および緩衝化媒体が含まれる。非経口的担体には,塩化ナトリウム溶液,リンゲルデキストロース,デキストロースおよび塩化ナトリウム,リンゲル乳酸および結合油が含まれる。静脈内担体には,例えば,液体用補充物,栄養および電解質(例えば,リンゲルデキストロースに基づくもの)が含まれる。本発明の組成物はさらに,保存剤および他の添加剤,例えば,抗微生物化合物,抗酸化剤,キレート剤および不活性ガスを含むことができる。さらに,意図される用途により,インターロイキン,成長因子,分化因子,インターフェロン,走化性蛋白質または非特異的免疫調節剤等の化合物を含んでいてもよい。特に好ましくは,細胞増殖抑制剤,抗生物質およびこれらの組み合わせを含むことができる。製造される医薬組成物または医療用製品は,上述の病気の1つまたは疾患の1つの予防または治療に用いることができる。
【0097】
抗体,抗体フラグメント,抗体誘導体およびアプタマーの製造および単離の方法は,上述した従来技術から当業者には知られており,上記でより詳細に説明されている。
【0098】
本発明にしたがえば,ヤドリギレクチンまたは組換えヴィスクミンのB鎖に対応する物質またはこれらの誘導体は,レクチンおよび炭水化物結合ペプチドの群には含まれない。しかし,この態様は,とりわけ,生化学的修飾および/または分子生物学的修飾(例えば特異的突然変異誘発)により,その結合特性に関して,本明細書に記載されるレセプターに対するB鎖の結合特性に適合するよう改変されている他のレクチンを含む。
【0099】
さらに,別の好ましい態様においては,レセプター結合物質および/またはレセプター認識物質を,放射性,細胞毒性または細胞増殖抑制性効果を有する化合物と結合させる。
【0100】
この態様においては,放射性,細胞毒性または細胞増殖抑制性効果を有する化合物への物質の結合の種類は,その物質および化合物によって異なる。好ましくは,両方とも,例えば,ペプチドまたは蛋白質である。この場合には,結合は,好ましくは,1またはそれ以上のペプチド結合および/またはジスルフィド結合により行う。
【0101】
放射性物質で標識したモノクローナル抗体(mAb)またはサイトカインは,放射性免疫物質の例である。さらに好ましい態様においては,対応する物質を,レクチン,トキシンまたはトキソイド,好ましくは細菌由来のもの(例えば,破傷風トキソイド,破傷風毒素,ジフテリア毒素,コレラ毒素,シュードモナスエキソトキシン,シュードモナストキソイド,百日咳毒素,百日咳トキソイド,クロストリジウムエキソトキシンまたはクロストリジウムトキソイド),または植物由来のもの(タイプIRIP,例えば,サポリンまたはゲロニン,またはタイプIIRIP,例えば,リシンまたはタイプIIRIPのA鎖またはタイプIRIPのA鎖,これはタイプIIRIPと相同である)と結合させる。さらに,放射性,細胞毒性または細胞増殖抑制性効果を有する他の低分子量分子(小分子),および上述したもの以外の高分子もまた含まれる。
【0102】
"高分子"との用語は,高い分子複雑性または高い分子量を有する分子を表す。これらは,好ましくは,生物分子,例えば,バイオポリマー,特に蛋白質,オリゴペプチドまたはポリペプチドであるが,DNA,RNA,オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド,
補欠分子団,脂質,オリゴ糖および多糖類,およびこれらの改変物,ならびに合成分子も含まれる。蛋白質は,好ましくは融合蛋白質をも含む。ペプチドまたは蛋白質との用語には,天然のおよび合成のペプチドまたは蛋白質が含まれる。天然の蛋白質の例には,とりわけ,抗体,抗体フラグメント,その特定のリガンドに結合するレセプター,その特定のレセプターと相互作用するペプチド性リガンド,または,蛋白質および補酵素等の特定の基質と相互作用するペプチドドメイン,および他のペプチドまたは酵素等が含まれる。さらに,組換え的に製造された形の上述の蛋白質またはペプチドもまた含まれる。対応して,天然のペプチドには,とりわけ,特定のアフィニティーリガンドと相互作用する上述の蛋白質のフラグメントが含まれる。合成の蛋白質またはペプチドには,発現させるように導かれた偽遺伝子またはそのフラグメント,およびランダムなアミノ酸配列を有する蛋白質またはペプチドが含まれる。
【0103】
"低分子量分子"との用語は,上で定義した高分子より低い分子複雑性を有する分子を表す。文献においては,"小分子"または"低分子量分子"との用語は一貫して用いられていない。WO89/03041およびWO89/03042においては,7,000g/molまでの分子量を有する分子を小分子と記述している。しかし,一般には,50−3,000g/mol,より一般には75−2,000g/mol,最も一般的には100−1,000g/molの分子量の範囲を示す。当業者は,以下の文献からその例を知ることができる:WO86/02736,WO97/31269,US−A−5928868,US−A−5242902,US−A−5468651,US−A−5547853,US−A−5616562,US−A−5641690,US−A−4956303およびUS−A−5928643。
【0104】
オリゴマーまたは小有機分子,例えば,オリゴペプチド,オリゴヌクレオチド,炭水化物(グリコシド),イソプレノイドまたは脂質構造は,そのような小分子の例として挙げることができる。文献においては,ほとんどの場合,そのような小分子の定義は分子量に基づく。
【0105】
本発明の別の好ましい態様においては,レセプター結合物質および/またはレセプター認識物質に結合した上述の化合物はペプチドである。
【0106】
本発明にしたがう使用のさらに別の好ましい態様においては,レセプター結合物質および/またはレセプター認識物質は,免疫エフェクター機能を誘導することができるさらに別のドメインを含む。
【0107】
本発明の文脈においては,"免疫エフェクター機能"との用語は,とりわけ,レセプター(標的細胞)を有する細胞の排除につながる免疫系のエフェクター機能を記述する。排除は,好ましくは,プログラムされた細胞死(アポトーシス)の誘導であるが,また,標的細胞の壊死性排除であってもよい。細胞死を検出するためのインビトロ方法は当業者に知られている(とりわけ,Dulatら(2001)を参照)。
【0108】
そのような免疫エフェクター機能の誘導は,好ましくは,生物の免疫系のために標的細胞を標識するシグナルの誘導である。好ましくは,標的細胞は,この誘導によってのみ免疫系により認識される。この誘導により,細胞が免疫系によってより良く認識されることがさらに好ましい。免疫系による標的細胞の認識またはより良い認識により,標的細胞の治療が可能となる。
【0109】
好ましい態様においては,誘導される免疫エフェクター機能は細胞性エフェクター機能である。細胞媒介性免疫エフェクター機能の例は,エフェクター−T−細胞,単球またはマクロファージによる標的細胞の排除である。特に,細胞性エフェクター機能には,MH
C媒介性およびFc−レセプター媒介性エフェクター機能が含まれる。
【0110】
別の好ましい態様においては,誘導される免疫エフェクター機能は体液性エフェクター機能である。免疫系の体液性エフェクター機能の例は,抗体媒介性反応または補体系の反応である。この点に関して,標的細胞のオプソニン化の誘導は本発明の好ましい態様である。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】組換えヴィスクミンおよびリシンの種々のレセプターの可能な構造の概略図である。
【図2】種々の細胞画分における組換えヴィスクミン特異的ガングリオシドの同定のためのTLC試験の図である。
【図3】単離されたガングリオシド上の炭水化物に対する組換えヴィスクミンの結合特異性を明確化するためのTLC試験の図である。
【図4】リシンに特異的な結合モチーフを同定するためのTLC試験の図である。
【図5】リシンのガングリオシドへの結合のTLC試験の図である。
【図6】種々の感受性細胞株を用いる細胞毒性試験の図である。
【図7】組換えヴィスクミンに対する感受性と組換えヴィスクミンに特異的なガングリオシドバンドの出現との半定量的相関の図である。
【図8】特定のガングリオシドとのプレインキュベートによる,組換えヴィスクミンに対して非感受性の細胞株CHO−K1に関する感受性化の図である。
【図9】マイクロタイタープレートに吸着させた中性GSLおよびガングリオシドを用いる組換えヴィスクミンの酵素結合レクチンアッセイ(ELLA)の図である。
【図10】免疫に用いたガングリオシド抗原に対する特異的抗体の同定の図である。
【図11】ネオラクト系の抗α2−6シアリル化モノクローナルガングリオシド抗体の特性決定の図である。
【図12】ネオラクト系の抗α2−6シアリル化モノクローナルガングリオシド抗体のさらなる特性決定の図である。
【図13】糖蛋白質上の組換えヴィスクミンのCD75sの認識の検出の図である。
【図14】糖蛋白質上の組換えヴィスクミンのCD75sの認識の検出の図である。
【発明を実施するための形態】
【0112】
図1: 組換えヴィスクミンおよびリシンの種々のレセプターの可能な構造(概略図)
リシン(図1A)および組換えヴィスクミン(図1B)のレセプターの概略図。示されるものは,図2および3および図4および5にまとめられているTLC重層アッセイの結果の解釈の結果である。Gal=ガラクトース,GlcNAc=N−アセチル−グルコサミン,Glc=グルコース,Cer=セラミド,Sialic=シアル酸。組換えヴィスクミンのレセプターは末端α2−6結合シアル酸残基を有するガングリオシドである。リシンにより認識される構造(図1A)の認識は,組換えヴィスクミンによっては行われない。
【0113】
図2: 種々の細胞画分における組換えヴィスクミン特異的ガングリオシドの同定のためのTLC試験
組換えヴィスクミンと,ヒト顆粒球の中性GSL(A)およびガングリオシド(B)とのTLC重層結合試験。(A)レーンa:15μgの中性GSLのクロマトグラム(オルシノールで染色,完全糖染色);レーンb:対応する重層アッセイ。(B)レーンa:ヒト顆粒球からの15μgのヒトガングリオシドのクロマトグラム(レゾルシノールで染色,シアル酸染色);レーンb:対応する重層アッセイ。
【0114】
図3: 単離されたガングリオシド上の炭水化物に対する組換えヴィスクミンの結合特異性を明確化するためのTLC試験
(A)レゾルシノール染色(実施例1);(B)抗IV6nLc4Cer抗血清のTL
C重層試験(実施例1);(C)組換えヴィスクミンのTLC重層試験(実施例2):すべてのTLCアッセイは,HPLCで精製したα2−3−およびα2−6−シアリル化ネオラクト系モノシアロガングリオシドを用いて行った。適用は3つのクロマトグラムすべてについて同一である:レーンa:15μgのヒト脳ガングリオシド(HBG);レーンb:15μgのヒト顆粒球ガングリオシド(HGG);レーンc:4μgのIV3nLc
4Cer(HGG1);レーンd:4μgのVI3nLc6Cer(HGG2);レーン
e:4μgのIV6nLc4Cer(HGG3);レーンf:8μgのVI6nLc6CerおよびIV6nLc4Cer。
【0115】
図4: リシンに特異的な結合モチーフを同定するためのTLC試験
中性GSLを用いる(A)オルシノール染色および(B)リシンTLC重層試験。適用は両方のクロマトグラムについて同一である。レーンa:ヒト赤血球からの10μgの中性GSL:レーンb:ヒト顆粒球からの15μgの中性GSL;レーンc:MDAY−D2細胞からの20μgの中性GSL。
【0116】
図5: リシンのガングリオシドへの結合のTLC試験
ガングリオシドを用いる(A)オルシノール染色および(B)リシンTLC重層試験。レーンa:10μgのヒト脳ガングリオシド(HBG);レーンb:8μgのヒト顆粒球ガングリオシド(HGG)。
【0117】
図6: 種々の感受性細胞株を用いる細胞毒性試験
組換えヴィスクミンの生物学的活性の説明:HL−60細胞(点),5637細胞(三
角)およびCHO−K1細胞(白丸)の生存率を,組換えヴィスクミン濃度に対して示す。生存率はWST−1の比色反応により測定し,未処理対照と比較した%生存細胞として示す。最大の半分の細胞毒性は曲線の変曲点に対応し,これを測定可能な変数とした。これらのIC50値は,HL−60については66pg/ml,5637細胞については690pg/mlと計算された。CHO−K1細胞は,測定に適用した組換えヴィスクミン濃度である300ng/mlまでの組換えヴィスクミンに対して非感受性であると考えられる。
【0118】
図7: 組換えヴィスクミンに対する感受性と組換えヴィスクミンに特異的なガングリオシドバンドの出現との半定量的相関
インビトロで増殖させた細胞株からのガングリオシドを用いる(A)オルシノール染色,および(B)抗IV6nLc4Cer抗血清TLC重層試験。(A)レーンa:7μg
のヒト顆粒球ガングリオシド(HGG);レーンb:1x107個のCHO−K1細胞か
らのガングリオシド;レーンc:4x107個の5637細胞からのガングリオシド;レ
ーンd:4x107個のHL−60細胞からのガングリオシド;レーンe:10μgのヒ
ト脳ガングリオシド(HBG)。(B)レーンa:0.134μgのヒト顆粒球ガングリオシド(HGG);レーンb:1x107個のCHO−K1細胞からのガングリオシド;
レーンc:1x107個の5637細胞からのガングリオシド;レーンd:1x107個のHL−60細胞からのガングリオシド;レーンe:10μgのヒト脳ガングリオシド(HBG)。レーンaは,ネオラクト系の特異的ガングリオシドの同定のための陽性対照IV6nLc4Cer(C24脂肪酸,物質1)およびIV6nLc4Cer(C16脂肪酸,物質2)を示す。
【0119】
図8: 特定のガングリオシドとのプレインキュベートによる,組換えヴィスクミンに対して非感受性の細胞株CHO−K1に関する感受性化
増加する量のヒト顆粒球ガングリオシドをウエルに入れ,ここでCHO−K1細胞を成長させ,48時間インキュベートした。細胞を無血清培地(薄い灰色のバンド)または血清含有培地(濃いバンド)のいずれかで洗浄し,次に300ng/mlの組換えヴィスクミンでさらに48時間処理した。生存率はWST−1を用いて測定し,未処理対照(ガングリオシドおよび組換えヴィスクミンを加えない)に対する%で表した。
【0120】
図9: マイクロタイタープレートに吸着させた中性GSLおよびガングリオシドを用いる組換えヴィスクミンの酵素結合レクチンアッセイ(ELLA)
異なる起源からのGSLの量は,左から右に以下のバンドに対応する:
A) ヒト赤血球からの中性GSL:10,5,2.5,1.25および0μg
B) ヒト顆粒球からの中性GSL:15,7.5,3.75,1.9および0μg
C) MDAY−D2細胞からの中性GSL:20,10,5,2.5および0μg
D) ヒト脳ガングリオシド(HBG):10,5,2.5,1.25および0μg
E) ヒト顆粒球ガングリオシド(HGG):10,5,2.5,1.25および0μg
【0121】
図10: 免疫に用いたガングリオシド抗原に対する特異的抗体の同定
種々のハイブリドーマクローンを薄めた後にELISAでIgM(A)およびIgG(B)の産生について試験した。ELISAは実施例8に記載されるようにして行った。基質溶液のインキュベート時間を変化させた(15分間,30分間,45分間,60分間,120分間および180分間)。クローン33.3,33.5および33.6は,IgMに対して明らかなタイターを示した(A)。試験したクローンのいずれにおいても,IgGに対するタイターは検出できなかった(B)。
【0122】
図11: ネオラクト系の抗α2−6シアリル化モノクローナルガングリオシド抗体の特性決定
mAbクローンの認識モチーフの特性決定のためのTLC重層アッセイ。実施例2に記載されるように,DCプレート上で分離されたヒト顆粒球ガングリオシド(4μg/レーン)を検出するために,図10に既に示したクローンを,その認識モチーフについて調べた。クローン59.33.3,59.33.5および59.33.6は,組換えヴィスクミンと同一の結合または認識モチーフを示す。
【0123】
図12: ネオラクト系の抗α2−6シアリル化モノクローナルガングリオシド抗体のさらなる特性決定
(A)ヒト顆粒球から単離したネオラクト系の中性GSL(15μg/レーン),(B)グロボ系(ヒト赤血球より;10μg/レーン)および(C)ガングリオ系(MDAY−D2細胞より;10μg/レーン)を用いるTLC重層アッセイ。実験方法は実施例9に記載される。図12A−Cのそれぞれの最初の3つのレーンにおいては,mAbクローン50.33.3,59.33.5および59.33.6を用いた。図12A−Cのレーン4の陽性対照は,適用した中性GSLの末端糖構造のそれぞれに対する特異的抗体との反応を反映する。レーン5においては,ヤギ由来のポリクローナル抗血清(Muthingら,Glycobiology 12,485−497を参照)を試験した。レーン1−3で試験したmAbクローンの交叉反応性は無視することができる。
【0124】
図13: 糖蛋白質上の組換えヴィスクミンのCD75sの認識の検出
それぞれ1μgの対応する蛋白質。レーンT:トランスフェリン,Neu5Aca2−6Galβ1−4GlcNAc残基を有する可溶性蛋白質,およびレーンAF:アシアロフェツイン,(Galβ1−4GlcNAc−残基およびGalβ1−3GalNAc−Ser/Thr)をSDSゲルに負荷し,次にニトロセルロース膜に写した。次にこれをウエスタンブロット手法において,組換えヴィスクミン(1μg/ml)により,次に抗A鎖mAbTA5およびアルカリホスファターゼ標識抗マウスIgGにより,CD75s構造の検出を試みた(実施例2を参照)。Mは標識の痕跡を反映する。分子量はkDaで示される。
【0125】
図14: 糖蛋白質上の組換えヴィスクミンのCD75sの認識の検出
それぞれ1μgの対応する蛋白質。レーンT:トランスフェリン,Neu5Aca2−6Galβ1−4GlcNAc残基を有する可溶性蛋白質,レーンAF:アシアロフェツイン,(Galβ1−4GlcNAc−残基およびGalβ1−3GalNAc−Ser/Thr)をSDSゲルに適用し,次にニトロセルロース膜に写した。次に,実施例9に記載されるように,ウエスタンブロットにおいて,mAb59.33.3および59.33.5を用いてCD75s構造の検出を試みた。
【0126】
【表1】
【0127】
以下の実施例は,本発明を例示する。
実施例1: スフィンゴ糖脂質を分離および検出し,これらを特異的に検出するための薄層クロマトグラフィー
中性GSLはヒト顆粒球,ヒト赤血球およびMDAY−D2細胞から回収し,ガングリオシドはヒト顆粒球およびヒト脳から回収した(図2,図4,図5および図7)。分析にはHPLC精製サンプルを用いた(図3)。対応するサンプルは,シリカゲルでコーティングした薄層クロマトグラフィープレート(HPTLCプレート,10x10cm,0.2mm厚さ,Merck,Darmstadt#5633)で分離した。中性GSLは溶媒1(クロロホルム/メタノール/水,120/70/17 v/v/v)中で,ガングリオシドは溶媒2(クロロホルム/メタノール/水120/85/20 v/v/v+2mMCaCl2)中で分離した。中性GSLはオルシノールで染色し,ガングリオシドは
オルシノールまたはレゾルシノールのいずれかで染色した(Svennerholm,1956,1957)。ヒト顆粒球およびMDAY−D2細胞からの中性GSL,およびヒト顆粒球からのガングリオシドはDCプレート上で二本のバンドとして現れる。
【0128】
個々のガングリオシドを同定するために,特異的抗血清を用いて,Muthing and Muhlradt(1988)およびMuthing(1998)にしたがって,免疫染色法を行った。ポリクローナル抗IV6nLc4Cer抗血清を用いてネオラクト
系の末端α2−6−シアリル化ガングリオシドを同定した。これを行うために,最初にプレートをポリイソブチルメタクリレート(Rohm,Darmstadt)で固定した。次に,プレートをPBS(20mMリン酸,150mMNaCl,pH7.2)+1%BSA(溶液A)中でブロッキングした。次に,上で同定したポリクローナル抗血清を溶液A中1:1,000希釈で用い,次に溶液B(PBS+0.05%Tween20)で3回洗浄した。結合した抗血清は,溶液A中1:2,000希釈の二次抗血清ウサギ抗トリIgYで検出した。次に,これを溶液Bで3回,グリシンバッファー(0.1Mグリシン,1mM ZnCl2,1mM MgCl2,pH10.4)で1回洗浄した。検出は,グリシンバッファー中の0.05%(w/v)5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸を用いて行った。別のTLC試験において用いた対照ガングリオシドは詳細に特性決定されており,ヒト血液細胞または培養細胞からの種々の単離物に由来する組換えヴィスクミンに特異的なガングリオシドの同定において参照物質として用いた(Muthingら,1994;Muthing and Kemminer,1996;Schwartzら,1985;Muthing and Cacic,1997)。
【0129】
実施例2: 中性GSLまたはガングリオシドに結合した炭水化物結合蛋白質(例えばリシンおよび組換えヴィスクミン)を特異的に検出するためのTLC試験
薄層クロマトグラフィープレートで分離した中性GSLまたはガングリオシドをPBS−Tween80(0.1g/L Tween80,PBS中)で洗浄した。次に,組換えヴィスクミンまたはリシン蛋白質溶液(1μg/ml,PBS−T80中)でコーティングを行い,1時間インキュベートした。次に,溶液B(実施例1を参照)で洗浄し,次にプレートを溶液A(実施例1を参照)中で15分間インキュベートした。次に,結合した組換えヴィスクミンは,モノクローナルAbTA5(1μg/ml,溶液A中)(Tonevitzkyら1995に記載)を用いて認識し,または結合したリシンは,ウサギ抗リシン抗血清(Sigma#R−1254(溶液A中1:200希釈))で認識した。結合した抗体の検出は,それぞれマウスまたはウサギイムノグロブリンに対する二次抗体を用いて,実施例1に記載されるようにして行った。
【0130】
実施例3: 種々の細胞株の組換えヴィスクミンに対する感受性の比較
培養:
CHO−K1細胞(ATCC CCL−81)およびHL−60細胞(ATCC CCL−240)は,DMEMおよびHam’sF12培地の1:1混合物中で成長させた。
ヒト膀胱癌細胞株5637(ATCC HTB−9)はRPMI1640中で培養した。細胞の培養は,Mockelら(1997)に記載される標準的な条件下で行った。組換えヴィスクミンに対する細胞株の感受性は,インビトロ細胞毒性試験において確認した。それぞれウエルあたり8x103個の5637細胞,1x104個のCHO−K1細胞および1.8x104個のHL−60細胞を96ウエルプレート(Nunc)に播種し,増加
する濃度の組換えヴィスクミンとともに,最終容量100μlで10%CO2雰囲気で3
7℃で72時間インキュベートした。すべての測定は6回の判定で行った。72時間後,生きている細胞を検出するために,10μlのWST−1をピペットで加えた(Ishiyamaら,1993;Mockelら,1997)。細胞は着色塩とともに37℃で4時間インキュベートし,次にThermomax(Molecular Devices)で450nmで測定した。ここでは,染料の量は生きている細胞の数に直接比例する。図6は,増加する組換えヴィスクミン濃度に対する種々の細胞集団の生存曲線を示す。
【0131】
細胞株HL−60(点)は,組換えヴィスクミンに非常に高い感受性をもって反応するヒト前骨髄細胞株であり,IC50値は66pg/mlである。膀胱癌細胞株5637(三角)においてはIC50の測定値は690pg/mlであり,ハムスター細胞株CHO−K1(白丸)は300ng/mlまでの試験濃度では組換えヴィスクミンに対して感受性を示さなかった。種々の細胞株の組換えヴィスクミンに対する感受性は,図7において潜在的レセプターが生ずることと相関しうる。図7Aは,それぞれの場合に用いた細胞株の完全ガングリオシド分画のオルシノール染色薄膜クロマトグラムを示す。図7Bは,抗Neu5Acα2−6Galβ1−4GlcNAc−R抗血清を用いる潜在的組換えヴィスクミンレセプターの特異的免疫学的検出(重層アッセイ)を示す。図7Bのレーンb,cおよびdにおいては,それぞれCHO−K1,5637およびHL−60細胞の同一の細胞数のガングリオシドの量を負荷した。図7Bのレーンbにおいて,組換えヴィスクミンに非感受性であるCHO−K1細胞はこのレベルの潜在的レセプターに対しては特異的バンドを示さない。一方,同じ細胞数を負荷した場合,最も感受性の高い細胞株(HL−60)は最も強い二重のバンドを示す。
【0132】
TLC重層アッセイにおいて観察された,試験したレクチンの異なる特異性から,リシンおよびヤドリギレクチン(特に組換えヴィスクミン)の,インビボまたは培養細胞におけるそれらのレセプターへの結合の挙動について結論を得ることができる。この実施例は,CHO−K1細胞株は試験した300ng/mlまでの濃度の組換えヴィスクミンに対して非感受性であることを示す(図6を参照)。しかし,組換えヴィスクミンに特異的なガングリオシド(Neu5Acα2−6Gal構造)をCHO−K1細胞の膜に導入することにより,組換えヴィスクミンに対して非常に感受性の低いこれらの細胞が感受性となった(図8を参照)。
【0133】
実施例4: 特異的ガングリオシドとのプレインキュベーションによる細胞株の感受性化(図8を参照)
CHO−K1細胞を96ウエルプレートに細胞密度5x103細胞/ウエルで播種した
。細胞は無血清X−Vivo培地(Biowhittaker)で37℃で24時間培養した。次に,培地を廃棄し,0(対照),25,50,100および200μMのヒト顆粒球ガングリオシド画分を含むX−Vivo培地で置き換えた。ガングリオシドをCHO−K1細胞の膜に取り込ませるために,細胞を細胞培養条件下で37℃で48時間保持した。次に,細胞を無血清X−Vivoまたは5%FCSを含有するX−Vivoのいずれかでよく洗浄した。次に,細胞を組換えヴィスクミン(300ng/ml)で48時間処理した。細胞の生存率はWST−1染色により定量し,未処理対照(組換えヴィスクミンおよびガングリオシドを加えない)と相関させた。サンプルは最終容量100μl/ウエルで三重に成長させた。
【0134】
実施例5: インビトロで増殖させた細胞のガングリオシドの精製および細胞株における特異的ガングリオシドの存在と組換えヴィスクミンに対する感受性との相関
続くGSLまたはガングリオシドの単離のために細胞重量を示す:CHO−K1細胞(ATCC CCL−81)およびHL−60細胞(ATCC CCL−240)はDMEMとHam’sF12培地との1:1混合物中で培養した。細胞は50mg/Lのゲンタマイシンおよび2.5mg/LのアンホテリシンBの存在下で培養した。5637細胞の培養は,175cm2フラスコ中で行った。HL−60およびCHO−K1細胞は,Du
varら(1996)およびMuthingら(1996b)に記載されるようにして,1L−スピナーフラスコ中で培養した。生理学的パラメータは以下のとおりである:37℃,pH7.2,酸素燻蒸,撹拌速度:40rpm。最終細胞密度に達した後に細胞を回収し,PBSで2回洗浄し,次にクロロホルム/メタノール抽出を行った(実施例1を参照)。ヒト膀胱癌細胞株5637(ATCC HTB−9)は,RPMI1640中で培養した。Ledeen and Yu(1982),Muthingら(1987)またはDuvarら(1997)に記載されるように,陰イオン交換クロマトグラフィーを用いる標準的方法により,DEAEセファロースCL−6Bでガングリオシドを単離した。リン脂質のサポニン化のためには,ガングリオシドを1N NaOH中で37℃で1時間インキュベートした。次に,ガングリオシド画分を酢酸で中和し,透析した。ラクトビーズ6RS−8060(Macherey&Nagel,Duren,Germany)(Uenoら,1987)への吸着クロマトグラフィーによりさらなる精製工程を行った。次に,細胞溶解物からガングリオシド画分を分離したとき,細胞の数が常にほぼ同じであると仮定した。すなわち,特定のガングリオシドの存在に関して,半定量的であるということが可能であった。検出は,実施例1に記載されるように,ポリクローナル抗IV6n
Lc4Cer抗血清を用いて免疫学的に行った。
【0135】
実施例6: ネオラクト系の末端α2−3−およびα2−6−シアル化ガングリオシドの精製
Fractogel EMD TMAE−650−S(MERCK,Darmstadt)を充填したカラムにヒト顆粒球(HGG)からのガングリオシドを加える。TMAEに結合したガングリオシドは,酢酸アンモニアの直線勾配を用いて溶出し,プールし,脱イオン化する。末端α2−3−シアル化(HGG1およびHGG2)および末端α2−3−シアル化ネオラクト系モノシアロガングリオシド(HGG3およびHGG4)の4つの画分を得た。すべてのガングリオシドは,薄層クロマトグラフィーで二本のバンドとして分離された。この相違は,セラミド単位によるものであり,上側バンドはC24脂肪酸で,下側バンドはC16脂肪酸でエステル化されたものである。この方法で表すことができるすべてのガングリオシドの構造は既に特性決定されている(Muthingら,1993;Muthingら,1996,Metelmannら,2000)。精製したガングリオシドは,図3に示されるように分離され,組換えヴィスクミンの炭水化物結合特異性をより詳細に特徴づけるために参照された。
【0136】
実施例7:酵素結合レクチンアッセイ(ELLA)
ELLAは,対応する中性GSLまたはガングリオシドで室温でコーティングされたプレート(NUNC MaxiSorp F96,Wiesbaden)で行った。ウエルに100μlメタノール中の対応するGSLを加えた。GSL保存溶液から出発して,1:2希釈を調製した。これには以下のGSLが含まれる:ヒト赤血球の中性GSL:10,5,2.5および1.25μg;ヒト顆粒球の中性GSL:15,7.5,3.75および1.9μg;MDAY−D2細胞からの中性GSL:20,10,5および2.5μg;ヒト脳ガングリオシド(HBG):10,5,2.5および1.25μg;ヒト顆粒球ガングリオシド(HGG):10,5,2.5および1.25μg。次に,乾燥雰囲気下でメタノールを蒸発させた(45分間,37℃)。以降のすべての工程は実施例2に記載されるTLC重層アッセイと同様にして行った。すべてのインキュベーションは,10
0μlの容量で行った。GSLをコーティングしたプレートを,PBS−Tween80(登録商標)(0.01mg/ml)とともに15分間インキュベートし,次に1μgの組換えヴィスクミン(PBS−Tween80に溶解)とともに1時間インキュベートした。その後,プレートをPBS−Tween20(登録商標)(0.01mg/ml)で洗浄し,次にPBSとともに15分間インキュベートした。次に,サンプルをネズミ抗ML−1Aモノクローナル抗体TA5(1μg/ml,PBS中)とともに1時間インキュベートした。PBS−Tween20(登録商標)でさらに3回洗浄した後,PBS中で1:2000希釈の抗マウスIgG(アルカリホスファターゼ結合)とともに1時間インキュベートした。PBS−Tween20(登録商標)でさらに3回洗浄した後,基質である4−ニトロフェニルリン酸二ナトリウムx6H2O(16mM,0.1Mグリシンバ
ッファー中,pH10.4)との反応により比色検出を行った。プレートを25℃で20分間インキュベートした後に,マイクロタイタープレートリーダーで405nmで測定した。
【0137】
予測されなかったことに,組換えヴィスクミンのへの結合は,ネオラクト系のGSLの末端でα2−6−結合ガラクトースがNeu5Ac(ヒト顆粒球からのHGG画分)に曝露されているスフィンゴ糖脂質(GSL)においてのみ見られた。種々の起源(ヒト顆粒球および赤血球,MDAY−D2細胞)からの,それぞれが末端ガラクトース残基を有する他のすべての中性GSLおよびガングリオ系のヒト脳ガングリオシドは,用いた最高濃度においても結合を示さなかった。
【0138】
実施例8: ネオラクト系のα2−6−シアリル化ガングリオシドに対するモノクローナル抗体の製造
ネオラクト系のα2−6−シアリル化ガングリオシドは白血球(全血からのバフィコート)から単離した。ガングリオシドの精製は,実施例5に記載されるようにして行った。追加の工程においては,これらのネオラクト系のα2−6−シアリル化ガングリオシドを抗原として用いて,2x3匹のマウスを免疫した。抗原はサイズが小さいために単独では免疫原効果を有しないため,これらはいわゆるハプテンとともにマウスに投与した。ここでは,2つの方法を平行して行った。方法1においては,メチル−BSAを1mg/mlの濃度でハプテンとして用いた。3匹のマウスに異なる量の抗原を与えた(5,10および20μg)。マウスは既知の間隔で免疫し,10日間の間隔でさらに合計2回ブースターを行った。方法2においては,リポソームとリポ多糖(LPS)の混合物をハプテンとして用いた。この場合にも,異なる濃度の抗原(5,10および20μg)を,マウスに10日間の間隔で3回与えた。
【0139】
2つの方法で免疫した合わせて6匹のマウスのうち,3匹のマウスの血液中で抗原に対する陽性のタイターを検出することができた。メチル−BSAのハプテンを用いた調製物は陰性であった。リポソーム中リポ多糖のハプテンを用いた調製物は,投与した抗原の用量に関係なくすべて陽性であった。マウスを犠牲死させ,脾臓細胞を用いて融合を行った。融合アッセイの上清をDC重層アッセイ(実施例1および2に記載)およびELISAで調べた。この工程においては,実施例7に記載されるように,マイクロタイタープレートを50μlメタノール中1μgのHGGガングリオシド(ヒト顆粒球ガングリオシド)でコーティングした。50μlの対応する血漿サンプルまたは融合アッセイの上清を希釈せずにコーティングされたプレートに加え,25℃で60分間インキュベートした。次に,PBS−Tで3回洗浄した。アルカリホスファターゼで標識した抗マウス−IgGまたは抗マウス−IgM抗体を用いてIgMまたはIgGを検出した。基質p−NPPの反応は,実施例7に記載されるようにして行った。次に,陽性タイターの融合アッセイをクローンレベルで希釈した。図10Aは,3つの陽性IgMクローン(59.33.3,59.33.5および59.33.6)の検出を示す。また,IgGの産生についてすべてのクローンを調べたが,IgGに対しては陽性反応を示さなかった(図10B)。
【0140】
実施例9: ネオラクト系の抗α2−6−シアリル化モノクローナルガングリオシド抗体の特性決定
ネオラクト系のα2−6−シアリル化ガングリオシドは常にその末端にNeu5Acα2−6−Galを持つ。別のモチーフ(これもまた本発明において記載される)は,Neu5Acα2−6−Galβ1−4GlcNAc−R;("R"は残基を表す)のガングリオシド構造を有する。このモチーフは,文献ではCD75sと記述される(Schwartz−Albiez(2000),J.Biol.Regul.Homeost.Agents 14,284−285)。図11は種々のIgMクローンを用いるDC重層アッセイを示し,これは実施例8に記載されるようにしてELISAで試験した。ここでは,ヒト顆粒球(HGG)からのガングリオシドを薄層クロマトグラフィーを用いて分離した。アッセイは実施例2に記載されるようにして行った。ここでは,4μgのHGGを分離した。プレートに結合した抗CD75smAbの検出は,実施例8に記載されるようにして行った。クローン59.33.3,59.33.5および59.33.6は,この試験においても陽性シグナルを示した。3つのクローンはすべて同じガングリオシド(IV6
nLC4およびIV6nLC6)を認識し,したがって,組換えヴィスクミン(図2Bb
)と同一の結合挙動を有していた。予測される,糖構造のコア部分に対する3種類の抗体の交叉反応性は,ヒト顆粒球からのネオラクト系(1レーンあたり15μg;図12A),またはグロボ系(ヒト赤血球より,10μg/レーン,図12B)およびガングリオ系(MDAY−D2細胞より;10μg/レーン;図12C)からの単離された中性GSLを用いることにより,実験的に無視することができた。実験方法は,上述したものと同一であった。図12A−Cのそれぞれについて,最初の3つのレーンにおいては,mAbクローン59.33.3,59.33.5および59.33.6を用いてシグナルを検出することができなかった。3つの場合すべてにおいて,末端α2−6結合シアル酸がないため,特異的シグナルが得られなかった。図12A−Cのレーン4の陽性対照は,負荷した中性GSLのそれぞれの末端糖構造に対する特異的抗体との反応を反映する。レーン5においては,ヤギからのポリクローナル抗血清(Muthing(2002)Glycobiology 12,485−497を参照)を加えた。この抗血清は,元々はネオラクト系のα2−6−シアリル化ガングリオシドに対して調製したものであり,ここで適用した抗原の多くに対して交叉反応性を示す。このことは,特にこの抗血清を患者からの材料の試験に用いる場合に偽陽性シグナルにつながる可能性がある。レーン1−3に示される,モノクローナル抗体59.33.3,59.33.5および59.33.6を用いた結果は,そのような望ましくない交叉反応性は生じず,これはより重要であると考えなければならない。mAb−クローン59.33.3は,ブダペスト条約にしたがって,2002年12月20日にDSMZ,Brunswickに受託番号として寄託した。
【0141】
実施例10:糖蛋白質上のCD75sの検出
モノクローナル抗体59.33.3および59.33.5(図14)および組換えヴィスクミン(図13)それ自体について,糖蛋白質上のCD75sモチーフの検出に用いることができるかどうかを試験した。ここでは,各1μgの対応する蛋白質をSDSゲルに適用し,次にニトロセルロースに写した:レーンT:トランスフェリン(NeuSAca2−6Galβ1−4GlcNAc−残基を有する可溶性蛋白質),およびレーンAF:アシアロフェツイン(Galβ1−4GlcNAc残基およびGalβ1−3GalNAc−Ser/Thr)。次に,組換えヴィスクミン(1μg/ml)および次に抗A鎖mAb TA5およびアルカリホスファターゼで標識した抗マウスIgGを用いてウエスタンブロットによりCD75s構造の検出を試みた(実施例2を参照)。蛋白質をニトロセルロースに写した後にmAb59.33.3および59.33.5によるCD75sエピトープの結合/認識を調べる場合には,実施例9に記載されるようにして行った。トランスフェリンはmAb59.33.3および59.33.5により,および組換えヴィスクミンにより明白に認識される。試験した抗体クローン59.33.3および59.33.
5のいずれも,糖蛋白質トランスフェリン上のCD75sモチーフをエピトープとして認識する。
【0142】
参考文献
【表2】
【0143】
【表3】
【0144】
【表4】
【0145】
【表5】
【0146】
【表6】
【0147】
【表7】
【0148】
【表8】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤドリギレクチンまたはヤドリギレクチン一本鎖に対する個体の応答性を判定するためのインビトロ方法であって,膜結合レセプターを量的および/または質的に特異的に検出する工程を含み,レセプターはα2−6グリコシド結合によりガラクトース(Gal)に結合した末端N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)により特徴づけられる方法。
【請求項2】
レセプターが,ガラクトースにα2−6結合で結合したN−アセチルノイラミン酸の後に少なくともN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)を含むガングリオシドを含む,請求項1記載の方法。
【請求項3】
レセプターが,Neu5Acα2−6−Gal−[Gal/GlcNAc]X−Cerの
構造のガングリオシドを含む,請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
レセプターが,Neu5Acα2−6−[Galβ1−4GlcNAcβ1−3]XGa
lβ1−4Glcβ1−1Cerの構造を有するガングリオシドを含む,請求項1−3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
レセプターが,Neu5Acα2−6Galβ1−4GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glcβ1−1Cerの構造を有するガングリオシド,またはNeu5Acα2−6Galβ1−4GlcNAcβ1−3Galβ1−4GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glcβ1−1Cerの構造を有するガングリオシドを含む,請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
レセプターが細胞膜結合性である,請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ヤドリギレクチンが組換えヤドリギレクチン/組換えヴィスクミンである,請求項1−6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
組換えヤドリギレクチンが,配列番号1,配列番号3または配列番号5に示されるポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列を含む,請求項7記載の方法。
【請求項9】
組換えヤドリギレクチンが,配列番号2,配列番号4または配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドであるか,またはその機能的フラグメントを含む,請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
ヤドリギレクチンに対する応答性を判定するためのインビトロ方法であって,少なくとも1つのシアリルトランスフェラーゼを量的および/または質的に判定することを含む方法。
【請求項11】
請求項1−9において定義されるレセプターを特異的に認識するかまたはこれに結合し,抗体,抗体誘導体,抗体フラグメント,アプタマー,低分子量物質および炭水化物結合性ペプチドの群より選択される物質を含む診断用組成物。
【請求項12】
物質が検出可能なように標識されている,請求項11記載の診断用組成物。
【請求項13】
抗体がモノクローナル抗体である,請求項11または12記載の診断用組成物。
【請求項14】
モノクローナル抗体が,2002年12月20日にDSMZ Braunschweigに受託番号DSMで寄託されたハイブリドーマ細胞株から回収しうる,請求項13記載の
診断用組成物。
【請求項15】
請求項11−14のいずれかにおいて定義される物質の,機能的ヤドリギレクチンレセプターを検出するための診断剤の製造における使用。
【請求項16】
診断剤が,請求項1−8のいずれかにおいて定義されるレセプターを細胞で検出するために用いられる,請求項15記載の使用。
【請求項17】
細胞が腫瘍細胞である,請求項16記載の使用。
【請求項18】
細胞が生検材料に由来する,請求項16または17記載の使用。
【請求項19】
細胞が血液サンプルから単離されたものである,請求項16または17記載の使用。
【請求項20】
請求項1−6のいずれかに記載のレセプターに特異的に結合するかまたはこれを認識する物質の,増殖性疾患,ウイルス疾患,自己免疫疾患または神経疾患の治療用の医薬組成物の製造における使用であって,レセプター結合物質またはレセプター認識物質が,抗体,抗体誘導体,抗体フラグメント,アプタマー,低分子量物質および炭水化物結合ペプチドからなる群より選択されることを特徴とする使用。
【請求項21】
レセプター結合物質および/またはレセプター認識物質が,放射性,細胞毒性または細胞増殖抑制効果を有する化合物に結合している,請求項20記載の使用。
【請求項22】
レセプター結合物質および/またはレセプター認識物質に結合している化合物がペプチドである,請求項21記載の使用。
【請求項23】
抗体がモノクローナル抗体である,請求項20または21記載の使用。
【請求項24】
モノクローナル抗体が,2002年12月20日にDSMZ Braunschweigに受託番号DSMで寄託されたハイブリドーマ細胞株から回収しうる,請求項23記載の使用。
【請求項25】
レセプター結合物質および/またはレセプター認識物質が免疫エフェクター機能を誘導しうるさらに別のドメインを含む,請求項20−24のいずれかに記載の使用。
【請求項26】
誘導された免疫エフェクター機能が細胞性エフェクター機能である,請求項25記載の使用。
【請求項27】
誘導された免疫エフェクター機能が体液性エフェクター機能である,請求項26記載の使用。
【請求項1】
ヤドリギレクチンまたはヤドリギレクチン一本鎖に対する個体の応答性を判定するためのインビトロ方法であって,膜結合レセプターを量的および/または質的に特異的に検出する工程を含み,レセプターはα2−6グリコシド結合によりガラクトース(Gal)に結合した末端N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)により特徴づけられる方法。
【請求項2】
レセプターが,ガラクトースにα2−6結合で結合したN−アセチルノイラミン酸の後に少なくともN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)を含むガングリオシドを含む,請求項1記載の方法。
【請求項3】
レセプターが,Neu5Acα2−6−Gal−[Gal/GlcNAc]X−Cerの
構造のガングリオシドを含む,請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
レセプターが,Neu5Acα2−6−[Galβ1−4GlcNAcβ1−3]XGa
lβ1−4Glcβ1−1Cerの構造を有するガングリオシドを含む,請求項1−3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
レセプターが,Neu5Acα2−6Galβ1−4GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glcβ1−1Cerの構造を有するガングリオシド,またはNeu5Acα2−6Galβ1−4GlcNAcβ1−3Galβ1−4GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glcβ1−1Cerの構造を有するガングリオシドを含む,請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
レセプターが細胞膜結合性である,請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ヤドリギレクチンが組換えヤドリギレクチン/組換えヴィスクミンである,請求項1−6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
組換えヤドリギレクチンが,配列番号1,配列番号3または配列番号5に示されるポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列を含む,請求項7記載の方法。
【請求項9】
組換えヤドリギレクチンが,配列番号2,配列番号4または配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドであるか,またはその機能的フラグメントを含む,請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
ヤドリギレクチンに対する応答性を判定するためのインビトロ方法であって,少なくとも1つのシアリルトランスフェラーゼを量的および/または質的に判定することを含む方法。
【請求項11】
請求項1−9において定義されるレセプターを特異的に認識するかまたはこれに結合し,抗体,抗体誘導体,抗体フラグメント,アプタマー,低分子量物質および炭水化物結合性ペプチドの群より選択される物質を含む診断用組成物。
【請求項12】
物質が検出可能なように標識されている,請求項11記載の診断用組成物。
【請求項13】
抗体がモノクローナル抗体である,請求項11または12記載の診断用組成物。
【請求項14】
モノクローナル抗体が,2002年12月20日にDSMZ Braunschweigに受託番号DSMで寄託されたハイブリドーマ細胞株から回収しうる,請求項13記載の
診断用組成物。
【請求項15】
請求項11−14のいずれかにおいて定義される物質の,機能的ヤドリギレクチンレセプターを検出するための診断剤の製造における使用。
【請求項16】
診断剤が,請求項1−8のいずれかにおいて定義されるレセプターを細胞で検出するために用いられる,請求項15記載の使用。
【請求項17】
細胞が腫瘍細胞である,請求項16記載の使用。
【請求項18】
細胞が生検材料に由来する,請求項16または17記載の使用。
【請求項19】
細胞が血液サンプルから単離されたものである,請求項16または17記載の使用。
【請求項20】
請求項1−6のいずれかに記載のレセプターに特異的に結合するかまたはこれを認識する物質の,増殖性疾患,ウイルス疾患,自己免疫疾患または神経疾患の治療用の医薬組成物の製造における使用であって,レセプター結合物質またはレセプター認識物質が,抗体,抗体誘導体,抗体フラグメント,アプタマー,低分子量物質および炭水化物結合ペプチドからなる群より選択されることを特徴とする使用。
【請求項21】
レセプター結合物質および/またはレセプター認識物質が,放射性,細胞毒性または細胞増殖抑制効果を有する化合物に結合している,請求項20記載の使用。
【請求項22】
レセプター結合物質および/またはレセプター認識物質に結合している化合物がペプチドである,請求項21記載の使用。
【請求項23】
抗体がモノクローナル抗体である,請求項20または21記載の使用。
【請求項24】
モノクローナル抗体が,2002年12月20日にDSMZ Braunschweigに受託番号DSMで寄託されたハイブリドーマ細胞株から回収しうる,請求項23記載の使用。
【請求項25】
レセプター結合物質および/またはレセプター認識物質が免疫エフェクター機能を誘導しうるさらに別のドメインを含む,請求項20−24のいずれかに記載の使用。
【請求項26】
誘導された免疫エフェクター機能が細胞性エフェクター機能である,請求項25記載の使用。
【請求項27】
誘導された免疫エフェクター機能が体液性エフェクター機能である,請求項26記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−156699(P2010−156699A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11328(P2010−11328)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【分割の表示】特願2003−555206(P2003−555206)の分割
【原出願日】平成14年12月20日(2002.12.20)
【出願人】(504135907)ビスカム・アーゲー (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【分割の表示】特願2003−555206(P2003−555206)の分割
【原出願日】平成14年12月20日(2002.12.20)
【出願人】(504135907)ビスカム・アーゲー (2)
【Fターム(参考)】
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