説明

ユーカリ属植物の挿し木苗生産方法

【課題】発根能に優れたユーカリ属の挿し穂を得ることにより、ユーカリ属の効率的なさし木苗生産を可能とする。
【解決手段】挿し穂として、最大直径(R)に対する軸方向長さ(T)の比(T/R)が、0.9以上のものを用いる。このような挿し穂は発根能が高く、しかも、健全な根を形成する可能性が高い。また、T/R比が0.9以上であって、Rが15mm以上又はTが20mm以上あり、更に、生重量(W)が100mg以上の挿し穂を用いれば、この可能性は極めて高くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーカリ属植物のクローン苗を挿し木法により生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーカリ属(Eucalyptus)は、被子植物モクレン綱のバラ亜綱フトモモ目フトモモ科ネズミモドキ亜科に属し、オーストラリア大陸を中心とするオセアニア地域を原産地とする木本植物で、生長性、環境適応性、耐病虫害性等、優れた特性を備えた多くの樹種がこのユーカリ属に含まれる。
【0003】
このため、ユーカリ属は、原産地であるオセアニア地域ばかりではなく、南アフリカ、南米、アジア、地中海沿岸、米国西海岸等で広く栽培され、製紙用パルプ原料、建材・薪炭材、緑化樹木等、種々の用途に用いられている。中でも、近年の環境意識の高まりから、ユーカリ属は製紙用パルプの原料として注目を集め、ユーカリプタス・グロブラス(Eucalyptus globulus(以下、E.グロブラスと略記する。))、ユーカリプタス・ニテンス(Eucalyptus nitens(以下、E.ニテンスと略記する。))、ユーカリプタス・シトリオドーラ(Eucalyptus citriodora(以下、E.シトリオドーラと略記する。))、ユーカリプタス・グランディス(Eucalyptus grandis(以下、E.グランディスと略記する。))、ユーカリプタス・ユーロフィラ(Eucalyplus europhylla(以下、E.ユーロフィラと略記する。))、ユーカリプタス・カマルドレンシス(Eucalyptus camaldulensis(以下、E.カマルドレンシスと略記する。))、又はこれらを片親とするユーカリ属の雑種が、オーストラリア、ブラジル、チリ、南アフリカ等で、盛んに植林されるようになってきた。そこで、均一な性質を持つ苗を大量に生産し、供給するための最も適した方法として、挿し木法による苗の生産が検討されている。
【0004】
挿木は、人為的に切断された植物組織(挿し穂)の切断部位を発根床に挿し入れて、発根床内で発根させ、独立した一個の植物体を作り出す伝統的な栄養繁殖方法である。この方法は、草本植物から木本植物に到るまで、親植物と同一の遺伝的性質を備えた個体、即ち、クローン苗を大量に作出・増殖する方法として普及している。しかし、全ての植物がこの方法で繁殖できるわけではない。この方法を用いても、挿し穂が全く発根しなかったり、その発根率が極めて低く、繁殖することができない種や品種は数多くあり、殊にユーカリ属では、E.カマルドレンシス等の一部の種を除き、総体的に発根性が悪いことが知られている。
【0005】
従って、ユーカリ属において、挿し穂からの発根性を向上させることは、その大量生産を考える上で重要な課題である。このような課題を解決するため、本発明者らは先に、炭素源を含まない液体培地を用い、炭酸ガス濃度を一定範囲に保ちつつ、挿し穂を培養容器内で培養することにより、発根を行わせる方法を提案した(特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】 特開2001−186814
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記方法によれば、難発根性樹種に適用した場合でも、その挿し穂からの発根率は大きく向上する。
【0008】
しかしながら、挿し穂からの発根性は、その挿し穂自体の能力にも大きく左右される。このため、特に、ユーカリ属のような難発根性樹種においては、発根能に優れた挿し穂を得ることが、挿し穂からの発根性向上を図る上で必要となってくる。
【0009】
本発明は、かかる観点に立ち、発根能に優れたユーカリ属の挿し穂を得ること、そして、それによって挿し穂からの発根性向上を図り、ユーカリ属の効率的な挿し木苗生産を可能とすること、ひいては、ユーカリ属の挿し木による大量生産を可能とすること、を課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究の結果、挿し穂のサイズに着目し、このサイズが一定の規格値以上である挿し穂は優れた発根能を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明は、母樹より挿し穂を採取し、次いでこの挿し穂を発根させて挿し木苗を生産する際に、挿し穂として、最大直径(R)に対する軸方向長さ(T)の比(T/R)が、0.9以上のものを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、発根能に優れたユーカリ属の挿し穂を容易に選抜し、得ることができる。
【0013】
従って、本発明によれば、ユーカリ属の挿し穂からの発根性を向上させることができ、その効率的な挿し木苗生産が可能となる。
【0014】
更に、本発明によれば、優れた性質を持ちながら、挿し木による増殖が困難であったユーカリ属の樹種について、挿し木による大量生産が可能となり、産業的な利用にも道が開かれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の挿し木苗生産方法は、ユーカリ属植物であれば、特に制限なく適用することができる。ユーカリ属植物の代表的な種としては、例えば、E.グロブラス、E.ニテンス、E.シトリオドーラ、E.グランディス、E.ユーロフィラ及びE.カマルドレンシス等が知られているが、これら以外の種や、更には種間雑種であっても、本発明を適用することができる。もっとも、本発明は、ユーカリ属の中でも難発根性の種に適用することで、その効果を一層発揮する。
【0016】
本発明において挿し穂を採取するための母樹(以下、挿し穂採取用母樹ともいう。)としては、組織培養苗、挿し木苗、接ぎ木苗又は実生苗を用いることができる。これらの中で、挿し木苗は、本発明の挿し木苗生産方法により得られた挿し木苗であっても構わない。これらの苗は定法により得ることができる。
【0017】
ちなみに、ユーカリ属の組織培養苗は、多芽体や苗条原基を経由して得る方法が良く知られている。例えば、多芽体を経由して組織培養苗を得るには、概ね次のようにして行えばよい。
【0018】
まず、材料とする個体より当年枝又は萌芽枝を採取し、これを適当な大きさに切り分けて0.1〜5.0%の次亜塩素酸に5〜30分間浸漬し、殺菌を行う。このとき、材料としては、当年枝を接ぎ穂として接ぎ木することにより展開してくる、新梢を用いることもできる。殺菌後の材料は、滅菌水で洗浄してから節ごとに切り分けて、ショ糖1〜5重量%、植物ホルモンとしてベンジルアミノプリン(以下、BAPと略す。)0.01〜0.5mg/l、ゲランガム0.2〜0.25重量%を含有するムラシゲスクーグ(以下、MSと略す。)培地(pH6.0〜7.0)に置床し、20〜30℃で、植物培養用蛍光灯を用い、2000〜20000ルクスの光を18時間/日照射しつつ、数週間培養して腋芽を展開させる。この腋芽を、上記と同様の温度と光条件の下、上記培地又は上記培地に、植物ホルモンとして、BAPの他、カイネチン(以下、Kと略す。)やナフタレン酢酸(以下、NAAと略す。)を添加した培地を用いて3〜4週間間隔で継代培養すると、多芽体が形成されるので、この多芽体から伸長してくる不定芽を切取って発根させることにより、組織培養苗が得られる。このとき、発根は、植物ホルモンとしてインドール酪酸(以下、IBAと略す。)又はインドール酢酸(以下、IAAと略す。)0.1〜10mg/lを含有する2〜32倍希釈のMS培地(pH5.7〜5.8)を発根用培地とし、この発根用培地で川砂、園芸用ガラス繊維、園芸用ウレタン樹脂、園芸用発泡フェノール樹脂等の多孔性基材を湿潤させておいたものに、多芽体から得られた不定芽の基部を挿しつけ、上記と同様の温度と光条件の下、培養環境中の炭酸ガス濃度を300〜1500ppmに制御しつつ、3〜4週間培養することにより、行えばよい。なお、不定芽を切取った後の多芽体は、適当に分割して多芽体形成に用いた培地と同一組成の培地で培養すれば、維持し、増殖させることができる。
【0019】
本発明の挿し穂としては、挿し穂採取用母樹より芽又はこの芽が伸長して生じる茎葉を採取し、用いることができる。この目的のため、挿し穂採取用母樹は、その頂芽を切除して栽培するとよい。このようにして栽培することにより、腋芽が多く生じるので、母樹一本につき得られる挿し穂の数も多くなる。
【0020】
なお、挿し穂採取用母樹としては、上記のようにして頂芽を切除した後の地上部高さが、5〜60cm、特に10〜30cmであるものを用いることが好ましい。この程度の地上部高さの苗を挿し穂採取用母樹として用いれば、発根能が高く、健全な根を形成し得る挿し穂を、効率良く取得することができる。
【0021】
ユーカリ属植物の場合、通常、頂芽を切除した後の地上部高さが5〜60cmの苗であれば1〜16程度の節を、10〜30cmの苗であれば3〜10程度の節を持っており、腋芽が生じる場合は、この節の部分から生じる。従って、頂芽を切除した後の地上部高さが5cmより小さいと、母樹一本につき得られる挿し穂の数が極端に少なくなるので、好ましくない。一方、この地上部高さが60cmより大きくても、腋芽は上部の節からしか生じず、また、生じる腋芽は、挿し穂としての発根能にも、健全な根の形成能にも劣る傾向にあるので、好ましくない。さらに、地上部高さが60cmより大きい挿し穂採取用母樹を得るには、それだけの期間をかけて栽培する必要があるので効率が悪く、また、母樹自体に傷や微生物等による障害を受ける可能性が高くなるので、この点からも好ましくない。
【0022】
また、一般に、発根能が高く、健全な根を形成する挿し穂は、健全な挿し穂採取用母樹より得られる。従って、挿し穂採取用母樹自体も、適正な栄養条件・環境条件の下、栽培することが好ましい。例えば、給水は、挿し穂採取用母樹を栽培している培養土が極端に乾かないように、1日1回程度毎日行い、施肥は週に1回程度行うことが好ましい。肥料としては、「ハイポネックス」等の市販の液肥を用いることもできる。その場合は、500〜2000倍程度に原液を希釈したものを与えればよい。温度は、日中で15〜40℃、特に20〜30℃に保つことが好ましい。なお、ユーカリ属は比較的暖かい気候を好むので、一日の最低温度が5℃を下回らないように注意する必要がある。湿度は、相対湿度が50%以上に保たれることが好ましいが、通常は、湿度を特別に管理する必要はない。但し、相対湿度が30%以下の状態が何日も続くような環境は好ましくない。光量は、50〜1200μmol/S/m、特に200〜1000μmol/S/mあることが好ましいが、通常の温室で栽培する場合は、これも特別に管理する必要はない。但し、一日のうち数時間にわたって、光量が2000μmol/S/mとなるような環境は好ましくない。
【0023】
このように適正な栄養条件・環境条件を保ちつつ、挿し穂採取用母樹の栽培を効率的に行うには、この挿し穂採取用母樹を、それぞれ1本づつ育苗ポット等に鉢植えし、ポット苗として栽培するとよい。ポット苗は、給水や施肥等の管理が容易であり、また、その生育状態や季節に対応して、例えば、温室から戸外へと、又は、戸外から温室へと、これを移動させることができるので、温度、湿度、光量等の管理も容易である。また、複数の挿し穂採取用母樹を同時に栽培している場合において、そのうちの一本の挿し穂採取用母樹に病気やカビ等、感染性の障害が発生したときでも、他の挿し穂採取用母樹全体を、容易に感染から保護することができる。
【0024】
この場合において、挿し穂採取用母樹を植えるポットは、容量50〜2000ml、特に容量70〜350mlのものが好ましい。容量が50mlよりも小さいポットを用いると、ポット中の培養土が水や液肥を十分に保持できないため、乾燥しやすく、また、栽培される挿し穂採取用母樹の根張りも悪くなり、健全な挿し穂採取用母樹、ひいては、発根能が高く、健全な根を形成する挿し穂を得ることが困難となる。一方、容量が2000mlより大きいポットは、これに培養土を入れた場合は相当に重くなるため作業性が悪い。また、このような大型のポットに挿し穂用母樹を1本づつ植えたのでは、挿し穂採取用母樹1本当たりの占有面積、給水量、施肥量等も大きくなるため、経済性が悪くなる。
【0025】
本発明では、挿し穂として、最大直径(R)に対する軸方向長さ(T)の比(T/R)が、0.9以上のものを用いる。このようなT/R比を有する挿し穂は、発根能が高く、しかも、健全な根を形成する可能性が高いからである。また、T/R比が0.9以上であって、Rが15mm以上又はTが20mm以上あり、更に、生重量(W)が100mg以上の挿し穂であれば、この可能性は極めて高くなる。但し、Tは35mm以下、Wは200mg以下であることが好ましい。TやWがこれ以上大きい挿し穂を挿し穂採取用母樹から得るには、挿し穂採取用母樹の芽や茎葉をそれだけ長期間生長させなければならならないので効率が悪く、また、このような挿し穂は、発根能、健全な根の形成能とも、必ずしも高いとは言えないからである。なお、本発明において、R、T及びWは、いずれも、挿し穂採取用母樹より採取された直後の、挿し穂の最大直径、軸方向長さ及び重量を意味する(R及びTについては、図1参照)。
【0026】
このようなT、R、Wを有する挿し穂は、前記したように、挿し穂採取用母樹より芽又は茎葉を採取し、これらを選抜することで得ればよい。このとき、挿し穂は2枚以上、できれば4〜6枚の葉を有するものを用いるのが好ましい。このような挿し穂は、より一層優れた発根能、健全な根の形成能を示すからである。
【0027】
こうして得られた挿し穂は、定法により発根させて、苗とすることができる。例えば、培地として、IBA0.1〜20mg/lを含有する2〜32倍希釈のMS培地(pH5,7〜5.8)を用い、この培地で湿潤させた園芸用ウレタン樹脂、園芸用発泡フェノール樹脂等の多孔性基材に、挿し穂基部を挿し付け、炭素源として炭酸ガスを、培養環境中の濃度が300〜1500ppmとなるように供給しつつ培養することで、発根させ、苗とすることができる。もっとも、このとき培地は、上記培地成分に寒天又はゲランガムを加え、固化させた固体培地を用いても構わない。この場合には、園芸用ウレタン樹脂、園芸用発泡フェノール樹脂等の多孔性基材を用いる必要がない。また、炭素源として炭酸ガスを用いる代わりに、上記培地成分にショ糖を加えたものを用いても構わない。この場合には、培養環境中に炭酸ガスを供給する必要はないが、無菌環境下で培養を行う必要がある。
【0028】
さらに、挿し穂は、赤土(赤玉土)、川砂、山砂、日向土、鹿沼土、バーミキュライト、パーライト、ピートモス、水ごけ等、一般的な培養土を単独で、又は適宜配合し、水や市販の液肥を加えて湿潤させたものに、その基部を挿し付けて培養することによっても、発根させ、苗とすることができる。
【0029】
[作用]
挿し穂の発根にあたっては、その挿し穂内部に、エネルギー源としてのデンプンや、細胞の分化・増殖を促す植物ホルモンが、一定量以上存在することが必要とされる。従って、ある程度の大きさ、ある程度の生重量のない挿し穂は、発根能が劣り、健全な根も形成され難いものとなると考えられる。
【0030】
しかし、大きくて重い挿し穂が、必ずしも、発根能が高く、健全な根を形成するとは限らない。植物ホルモンは植物の頂芽付近、デンプンは主に葉で合成されるため、挿し穂が大きくなると、これらの成分が、発根の起こる部位、即ち挿し穂の基部まで到達するのに時間がかかること、また、この発根部位まで到達したとしても、発根に十分な量が確保できないこと、更には、大きくて重い挿し穂では、代謝量や蒸散量も大きいため、挿し穂基部からの水分や栄養分の吸収が追いつかないこと等が、その原因と考えられる。
【0031】
そこで、本発明者らは、発根能と健全な根の形成能とに優れた挿し穂の選抜基準を種々検討し、その結果、最大直径と軸方向長さとで挿し穂を把握し、これらの要素が一定の関係を満たす場合、その挿し穂は上記二つの能力を兼ね備えたものである可能性が高いことを見出し、本発明を完成した。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本願発明をさらに詳細に説明する。
【0033】
[実施例1]
生長性より選抜されたチリ産E.グロブラスの系統Ch−1より、多芽体を経由して得られた組織培養苗を、楔形のビニールポットに入れた培養土に移植して順化し、給水を1日1回、液肥を週1回与えつつ3〜6ヶ月間育苗した後、地上部高さが25cmとなるように頂芽を切除して、これを挿し穂採取用母樹とし、以下の実験に用いた。なお、このとき、ビニールポットの容量は150ml、培養土としては、赤玉土:日向土:鹿沼土を1:1:1の割合で配合し、混合したものを用いた。
【0034】
上記のようにして得られた挿し穂採取用母樹30本を、5本づつA〜Gのグループに分け、そのそれぞれのグループについて1日1回の給水と週1回の施肥を行いながら、更に栽培を続けた。そして、Aグループの挿し穂採取用母樹については、腋芽が軸方向長さ約1.0cmに生長した時点でこれを採取し、軸方向長さ1.0cmの挿し穂60個を得た。同様にして、Bグループの挿し穂採取用母樹からは、軸方向長さ1.5cmの挿し穂50個、Cグループの挿し穂採取用母樹からは、軸方向長さ2.0cmの挿し穂48個、Dグループの挿し穂採取用母樹からは、軸方向長さ3.0cmの挿し穂55個、Eグループの挿し穂採取用母樹からは、軸方向長さ5.0cmの挿し穂50個、Fグループの挿し穂採取用母樹からは、軸方向長さ7.0cmの挿し穂30個、Gグループの挿し穂採取用母樹からは、軸方向長さ10cmの挿し穂4個を得ることができた。
【0035】
これらの挿し穂を、IBA1.5mg/lを含有する8倍希釈のMS培地で湿潤させた園芸用発泡フェノール樹脂に、その基部を挿し付け、温度26℃、湿度約60%、炭酸ガス濃度1000ppmの培養室にて、植物培養用蛍光灯を用い、2000(下辺)〜20000(上辺)ルクスの光を18時間/日照射ししつつ培養し、1ヶ月後、各グループごとの発根率を調査した。
【0036】
結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1より明らかなように、B〜Fグループにおいては、多くの挿し穂を採取することができ、また、採取された挿し穂は30%以上の発根率を示した。一方、Aグループでは、多くの挿し穂を採取することはできたが、これらの挿し穂は全く発根しなかった。Gグループでは、採取できた挿し穂の数も少なく、その発根率も低かった。
【0039】
[実施例2]
生長性より選抜されたチリ産E.グロブラスの系統Ch−10より、多芽体を経由して得られた組織培養苗を、実施例1と同様にして順化、育苗し、挿し穂採取用母樹を得た。
【0040】
得られた挿し穂採取用母樹10本を、1日1回の給水と週1回の施肥を行いながら2〜4週間栽培した後、無作為に腋芽を採取し、速やかに、その一つ一つの軸方向長さ(T)、最大直径(R)及び生重量(W)を測定してから、これらの挿し穂について、実施例1と同様にして培養を行い、3週間後にその発根の有無を調査した。図2〜4は、その結果を、T、R及びWとの関係で表したグラフである。グラフ中一つの点が、挿し穂一個に対応する。
【0041】
図2〜4より明らかなように、発根が観察された挿し穂は、全てT/R比が0.9以上のものであり(図2)、一方、発根が観察されなかった挿し穂のうち、Rが15mm以上でWが100mg以上のもの、又は、Tが20mm以上でWが100mg以上のものは、殆ど存在しなかった(図3及び図4)。従って、T/R比が0.9以上の挿し穂は、優れた発根能を有する可能性が高く、特に、T/R比が0.9以上であって、Rが15mm以上又はTが20mm以上あり、更に、生重量(W)が100mg以上の挿し穂は、その可能性が極めて高いと考えられる。
【0042】
[実施例3]
生長性より選抜されたチリ産E.グロブラスの系統Ch−5より、多芽体を経由して得られた組織培養苗を、実施例1と同様にして順化した後、3本づつA〜Gのグループに分け、1日1回の給水、週1回の施肥を行いながら、Aグループについては0.8ヶ月間育苗することにより、頂芽切除後の地上部高さが10cmの挿し穂採取用母樹を、Bグループについては1.6ヶ月間育苗することにより、頂芽切除後の地上部高さが15cmの挿し穂採取用母樹を、Cグループについては3ヶ月間育苗することにより、頂芽切除後の地上部高さが35cmの挿し穂採取用母樹を、Dグループについては4ヶ月間育苗することにより、頂芽切除後の地上部高さが45cmの挿し穂採取用母樹を、Eグループについては5ヶ月間育苗することにより、頂芽切除後の地上部高さが65cmの挿し穂採取用母樹を、Fグループについては6ヶ月間育苗することにより、頂芽切除後の地上部高さが80cmの挿し穂採取用母樹を、そしてGグループについては8ヶ月間育苗することにより、頂芽切除後の地上部高さが100cmの挿し穂用採取母樹を得た。なお、このとき、育苗ポットは、A〜Dグループについては容量200mlのものを、E〜Gグループについては容量1000mlのものを使用した。培養土としては、実施例1と同様のものを用いた。
【0043】
上記のようにして得られた、A〜Gグループの挿し穂採取用母樹各3本は、それぞれ、1日1回の給水と週1回の施肥を行いながら栽培し、その栽培後、3週間目から7週間目の間に、軸方向長さ約3.5cmの腋芽を挿し穂として採取した。表2に、上記期間内に採取することができた、軸方向長さ3.5cmの挿し穂の数を、挿し穂採取用母樹1本あたりの個数として、各グループごとの平均値で示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2より明らかなように、A〜Gグループのいずれにおいても、挿し穂採取用母樹1本あたり、平均して5個以上の挿し穂を採取することができ、採取された挿し穂の数は、Eグループが最も多かった。F及びGグループの挿し穂採取用母樹では、挿し穂となり得る腋芽は上から10〜20cmの間に集中して生じるため、その地上部高さは高いものの、挿し穂はそれほど多く採取できなかった。また、地上部高さの高い挿し穂採取用母樹を得るには、育苗期間も長くかかるため、挿し穂の採取にこのような母樹を使用することは効率的でない。従って、挿し穂採取用母樹としては、一本あたり得られる挿し穂の数と、その母樹を得るために必要とされる期間との観点から、A〜Eグループ、特にB及びCグループのものが好ましいと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】 挿し穂の最大直径(R)と軸方向長さ(T)を示す図であり、(A)は挿し穂を横から見た模式図、(B)は挿し穂を真上から見た模式図である。
【図2】 挿し穂のT/R比及びWと、その挿し穂の発根の有無との関係を示すグラフである。
【図3】 挿し穂のR及びWと、その挿し穂の発根の有無との関係を示すグラフである。
【図4】 挿し穂のT及びWと、その挿し穂の発根の有無との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母樹より挿し穂を採取し、次いでこの挿し穂を発根させて行うユーカリ属植物の挿し木苗生産方法であって、挿し穂として、最大直径(R)に対する軸方向長さ(T)の比(T/R)が、0.9以上のものを用いることを特徴とする、ユーカリ属植物の挿し木苗生産方法。
【請求項2】
挿し穂として、更に、最大直径(R)が15mm以上で、かつ、生重量が100mg以上のものを用いることを特徴とする、請求項1に記載のユーカリ属植物の挿し木苗生産方法。
【請求項3】
挿し穂として、更に、軸方向長さ(T)が20mm以上で、かつ、生重量(W)が100mg以上のものを用いることを特徴とする、請求項1に記載のユーカリ属植物の挿し木苗生産方法。
【請求項4】
挿し穂を採取する母樹として、頂芽を切除した後の地上部高さが5〜60cmのものを用いることを特徴とする、請求項1、請求項2又は請求項3に記載のユーカリ属植物の挿し木苗生産方法。
【請求項5】
挿し穂を採取する母樹として、組織培養苗、挿し木苗、接ぎ木苗又は実生苗を用いることを特徴とする、請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4に記載のユーカリ属植物の挿し木苗生産方法。
【請求項6】
ユーカリ属植物が、ユーカリプタス・グロブラス(Eucalyptus globulus)、ユーカリプタス・ニテンス(Eucalyptus nitens)、ユーカリプタス・シトリオドーラ(Eucalyptus citriodora)、ユーカリプタス・グランディス(Eucalyptus grandis)、ユーカリプタス・ユーロフィラ(Eucalyptus europhylla)、ユーカリプタス・カマルドレンシス(Eucalyptus camaldulensis)、又はこれらを片親とするユーカリ属の雑種であることを特徴とする、請求項1、請求項2、請求項3、請求項4又は請求項5に記載のユーカリ属植物の挿し木苗生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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