説明

ラット又はマウスの小核試験用骨髄標本作成方法

【目的】 自動血球分類装置に適したラット又はマウスの小核試験用骨髄標本を、小核の発見を容易にすると共に、特別な技術を要さずに容易に安定して作成できる方法を提供することである。
【構成】 ラット又はマウスから採取した骨髄から有核血球と血小板を除去する工程(1)と、除去後の骨髄から赤血球を収集する工程(2)と、赤血球に希釈液を加える工程(3)と、得られた骨髄液を遠心塗抹する工程(4)とからなる。
【作用】 小核試験に必要な赤血球のみが存在し、しかも血球の分散が均一で単層である骨髄標本を容易に安定して作成できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動血球分類装置に適したラット又はマウスの小核試験用骨髄標本作成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】小核試験は、周知の如く、正染性赤血球に対する多染性赤血球の割合と多染性赤血球における小核出現頻度を調べる試験であり、この試験用のラット又はマウスの骨髄標本作成方法としては、ラット又はマウスから採取した骨髄をスライドグラス上に載せ、約30度傾斜させた引きグラスでスライドグラス上の骨髄を緩慢に且つ薄く引き延ばすことで、スライドグラス上に骨髄を塗抹する方法がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来の方法では、赤血球を含む種々の全ての有核血球が骨髄中に含まれることや、小核の出現頻度が非常に少ないことから、小核の解析に莫大な時間と労力を必要とするという問題点がある。又、引きグラスを用いる塗抹に技術を要するため、骨髄中の血球の分散が均一で単層の標本は熟練者以外にとっては容易に且つ安定して作成することが困難であるという問題点もある。
【0004】従って、本発明の目的は、自動血球分類装置に適したラット又はマウスの小核試験用骨髄標本を、小核の発見を容易にすると共に、特別な技術を要さずに容易に安定して作成できる方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成する本発明のラット又はマウスの小核試験用骨髄標本作成方法は、ラット又はマウスから採取した骨髄から有核血球と血小板を除去する工程(1)と、除去後の骨髄から赤血球を収集する工程(2)と、赤血球に希釈液を加える工程(3)と、得られた骨髄液を遠心塗抹する工程(4)とからなる。
【0006】本発明の方法によれば、従来ラット又はマウスから採取した骨髄をそのまま標本作成試料として供していたのに対し、ラット又はマウス骨髄中の血液の血球成分(赤血球、白血球、血小板)のうち有核血球と血小板のみを除去し、除去後の骨髄から収集した赤血球を用いて小核試験用の標本を作成するので、骨髄標本中に有核血球や血小板は皆無に近く、ほぼ赤血球のみが含まれることになり、小核の発見が容易となる。その上、血球の分散が均一で単層の骨髄標本を容易に安定して作成することができる。
【0007】次に、本発明の作成方法の各工程(1)〜(4)について概説する。
工程(1):ラット又はマウスから有核血球と血小板を除去する方法自体は特に限定はなく、既知の方法で行えば十分である。例えば、遠心法、ナイロン−フィルタ法、デキストラン沈降法、カラム法等が挙げられるが、自動血球分類装置用の標本としてできるだけ赤血球の形態を変化させないという観点からは以下の実施例にも述べるカラム法を用いるのが最適である。
【0008】工程(2):除去後の骨髄から赤血球を収集する方法は、一般的な遠心分離により行う。
工程(3):工程(2)で得られた赤血球に加える希釈液としては、牛胎仔血清、生理食塩水、等張緩衝液、クレブス・リンガーリン酸緩衝液、ハンクス液等が用いられるが、先の有核血球と血小板の除去の場合と同様に赤血球の形態への影響を考慮すると牛胎仔血清が好適である。
【0009】上記希釈液は、標本を作成し易くすることと小核の発見を容易にすることを加味し、赤血球と希釈液からなる骨髄液中の細胞成分(血球)の割合が60〜80%程度、好ましくは70%程度になるまで加える。
工程(4):最後に工程(3)の骨髄液をスライドグラス上に遠心塗抹する。以上の工程(1)〜(4)により、赤血球のみが存在し、且つ血球の分散が均一で単層の小核試験用骨髄標本が作成される。
【0010】
【実施例】以下、本発明のラット又はマウスの小核試験用骨髄標本作成方法を実施例に基づいて説明する。但し、下記はラットに関する実施例である。まず、麻酔下のラットから採血した後、ラットを屠殺し、大腿骨を摘出する。摘出した大腿骨の骨端を切除し、2mlの牛胎仔血清を含むシリンジで骨髄を洗い出し、ピペッティングにより細胞塊をよくほぐし、標本作成用の試料とする。
【0011】次に、得られた骨髄試料は、前記カラム法によって有核血球と血小板を除去する。それには、図1に示すような装置を用いて処理する。即ち、注射器1の底に濾紙片2を敷き、その上にミクロスタリンセルロースとα−セルロースの混合物を詰めカラム3とする。注射器1の下方には、注射器1から流出する液体を受ける試験管5を配しておく。
【0012】このように処理装置を準備した後、カラム3の上からラット骨髄4を流し、有核血球と血小板をカラム3に吸着させて除去する。有核血球と血小板が除去された骨髄は濾紙片2を経て、試験管5内に落下する。注射器1内の骨髄4が無くなったら、牛胎仔血清を注射器1に注いで、血清でカラム3を洗浄する。これを数回繰り返し、カラム3を数回洗う〔工程(1)〕。
【0013】こうして試験管5に溜まった流出液6を取り出し、流出液6中に含まれる血清等の不必要な成分を遠心により赤血球と分離し、赤血球だけを集める〔工程(2)〕。細胞成分の割合が約70%を占めるよう、収集した赤血球に希釈液として牛胎仔血清を加え、骨髄液とする〔工程(3)〕。
【0014】以上の工程によって、約99%の有核血球と約90%の血小板が除去され、殆どが赤血球からなる骨髄液が得られる。そして、得られた骨髄液をスライドグラス上に例えば自動遠心塗抹装置を用いて遠心塗抹する〔工程(4)〕。上記実施例はラットに関するものであるが、マウスについても同等に行えばよい。
【0015】
【発明の効果】本発明のラット又はマウスの小核試験用骨髄標本作成方法は、以上説明したように構成されるので、自動血球分類装置に適したラット又はマウスの小核試験用骨髄標本、即ち小核試験に必要な赤血球のみが存在すると共に血球の分散が均一で単層の標本を、格別な技術を要さずに常に安定して作成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の作成方法においてラット骨髄から有核血球と血小板を除去するためのカラム法に用いる装置を示す図である。
【符号の説明】
1 注射器
2 濾紙片
3 カラム
4 ラット骨髄
5 試験管
6 流出液

【特許請求の範囲】
【請求項1】次の工程(1)〜(4)からなることを特徴とするラット又はマウスの小核試験用骨髄標本作成方法。
(1)ラット又はマウスから採取した骨髄から有核血球と血小板を除去する工程。
(2) 除去後の骨髄から赤血球を収集する工程。
(3) 赤血球に希釈液を加える工程。
(4) 得られた骨髄液を遠心塗抹する工程。

【図1】
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