説明

ラテックスの増産方法

【課題】樹木のラテックス生産能力そのものを改善し、ラテックス回収量を効率よく増大させることができるラテックスの増産方法の提供。
【解決手段】ラテックス産生植物からのラテックス回収量を増大させる方法であって、ラテックスの回収前の、乾季後期から雨季終了時までに、ラテックス産生植物の幹又は茎にラテックス増産剤を付着させる工程を有し、前記ラテックス増産剤は、植物ホルモン又はその誘導体である1種類以上の化合物を有効成分とすることを特徴とするラテックスの増産方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラテックス産生植物のラテックス産生を促進する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムは、弾性を有する高分子であり、主にゴムノキの乳管(laticifer)と呼ばれる細胞内で造られているラテックスという乳液を収集し、これに所望の加工をすることにより製造される(例えば、特許文献1参照。)。乳管は、ゴムノキの樹皮内の形成層の外側に年に数層発達する。ラテックスの収集は、一般的に、ゴムノキの幹にナイフ等を用いて溝状に傷をつけて(タッピング)、切断された乳管から流出するラテックスを回収することにより行われている。
【0003】
天然ゴムは、ゴム製品の主原料として、様々な用途において幅広くかつ大量に用いられている。このため、より高収率でラテックスを得る方法の開発が求められている。より大量のラテックスを採取する方法としては、例えば、ゴムノキの幹に対してエチレンやEthephon(2−クロロエチルホスホン酸)による刺激を加える方法がある。エチレン等を樹皮に塗布することにより、乳管から流出してくるラテックスが傷口で凝固することが抑制されるため、より多くのラテックスを採取することができる。
【0004】
一方、ジャスモン酸やジャスモン酸前駆体のリノレン酸等を配合したラノリンを、パラゴムノキの幹に塗布することにより、乳管分化が促進され、乳管数(乳管密度)が増大することが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。ジャスモン酸は、リノレン酸を前駆体として生合成されるジャスミンの香気成分の一つであり、植物の成長阻害作用や老化促進作用を有する植物ホルモンの一種である。特に、傷害を受けた場合や病原菌に感染した場合等に合成が促進されることから、環境ストレスに対する抵抗性獲得に機能的に働く環境ストレス抵抗性誘導ホルモンとして知られている。なお、非特許文献1では、同じく環境ストレス抵抗性誘導ホルモンであるサリチル酸、アブシジン酸、Ethephon(エチレン発生剤)を同様に処理した場合には、ジャスモン酸とは異なり、二次乳管の形成は認められなかったことも報告されている。
【0005】
ジャスモン酸は、植物に対して多様な機能を有しており、その機能を活かして広く応用されている。例えば、果実の熟化や老化促進、休眠打破等を誘導するため、果実栽培等の農業分野においても利用されている。また、農薬の植物体への取り込みを促進し得ることから、農薬の薬理効果促進剤としての利用も報告されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−138102号公報
【特許文献2】特開2000−247810号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ハオ(Hao)、外1名、アナルズ・オブ・ボタニー(Annals of Botany)、2000年、第85巻、第37〜43ページ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エチレン刺激によるラテックスを増産する方法は、幹に対し長期的に使用し続けると樹皮割れが生じ易くなるおそれがある。また、エチレン刺激は、乳管からのラテックスの流出をより円滑にする方法であり、樹木のラテックス生産能力そのものを改善するものではなく、当該方法によるラテックスの増産には限界があり、十分ではない。
【0009】
本発明は、樹木のラテックス生産能力そのものを改善し、ラテックス回収量を効率よく増大させることができるラテックスの増産方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ジャスモン酸のみならず、ジャスモン酸誘導体を、ラテックス回収前の特定の時期にゴムノキの幹又は茎に付着させることにより、乳管形成を効率的に促進し得ること、並びに、ラテックスの生産能力は、ラテックス生合成部位である乳管細胞の数に大きく依存し、乳管形成を促進することにより、回収されるラテックス量を効率的に増大させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)ラテックス産生植物からのラテックス回収量を増大させる方法であって、ラテックスの回収前の、乾季後期から雨季終了時までに、ラテックス産生植物の幹又は茎にラテックス増産剤を付着させる工程を有し、前記ラテックス増産剤は、植物ホルモン又はその誘導体である1種類以上の化合物を有効成分とすることを特徴とするラテックスの増産方法、
(2)前記ラテックス増産剤を付着させる工程を、2週間ごとに、3回以上行うことを特徴とする前記(1)記載のラテックスの増産方法、
(3)前記植物ホルモンが、乳管形成促進作用を有することを特徴とする前記(1)又は(2)記載のラテックスの増産方法、
(4)前記化合物が、ジャスモン酸又はその誘導体であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか記載のラテックスの増産方法、
(5)前記化合物が、下記一般式(I)[式中、Rは炭化水素基であり、Rは水素原子又は炭化水素基である。]で表される化合物であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか記載のラテックスの増産方法、
【0012】
【化1】

[式中、Rは炭化水素基であり、Rは水素原子又は炭化水素基である。]
(6)前記一般式(I)において、Rが炭素数1〜6のアルキル基であり、Rが炭素数1〜6のアルキル基であることを特徴とする前記(5)記載のラテックスの増産方法、
(7)前記ラテックス増産剤は、前記化合物を、水溶性媒体に溶解又は分散させてなることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか記載のラテックスの増産方法、
(8)前記植物がパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか記載のラテックスの増産方法、を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のラテックスの増産方法により、乳管形成を促進し、木本来のラテックス生産能力を向上させることができる。このため、ラテックス回収量を効率よく増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1における、塗布処理前(a)及び塗布処理開始5か月後(b)の塗布部の組織切片のオイルレッド染色像、並びに、塗布処理前及び塗布処理開始5か月後の乳管数(c)を示した図である。
【図2】比較例1における、塗布処理前(a)及び塗布処理開始5か月後(b)の塗布部の組織切片のオイルレッド染色像、並びに、塗布処理前及び塗布処理開始5か月後の乳管数(c)を示した図である。
【図3】比較例2における、塗布処理前(a)及び塗布処理開始4か月後(b)の塗布部の組織切片のオイルレッド染色像、並びに、塗布処理前及び塗布処理開始4か月後の乳管数(c)を示した図である。
【図4】比較例3における、塗布処理前(a)及び塗布処理開始4か月後(b)の塗布部の組織切片のオイルレッド染色像、並びに、塗布処理前及び塗布処理開始4か月後の乳管数(c)を示した図である。
【図5】実施例2及び比較例4〜5における、回収されたパラゴムノキ1本あたりのゴム量(g)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のラテックスの増産方法は、ラテックス産生植物からのラテックス回収量を増大させる方法である。
本発明において、ラテックス産生を促進するラテックス産生植物は、ラテックス(主にポリイソプレン)を産生する植物であれば、特に限定されるものではなく、乳管を有しており、乳管中にラテックスが含まれている植物であってもよく、乳管細胞内ではなく細胞間隙中にラテックスが含まれている植物であってもよい。このようなラテックス産生植物として、例えば、トウダイグサ科のパラゴムノキ(Havea brasiliensis)、セアラゴムノキ(Manihot glaziovii)、クワ科のインドゴムノキ(Ficus elastica)、パナゴムノキ(Castilloa elastica)、ラゴスゴムノキ(Ficus lutea Vahl)、マメ科のアラビアゴムノキ(Accacia senegal)、トラガントゴムノキ(Astragalus gummifer)、キョウチクトウ科のクワガタノキ(Dyera costulata)、ザンジバルツルゴム(Landolphia kirkii)、フンツミアエラスチカ(Funtumia elastica)、ウルセオラ(Urceola elastica)、キク科のグアユールゴムノキ(Parthenium argentatum)、ゴムタンポポ(Taraxacum kok−saghyz)、アカテツ科のガタパーチャノキ(palaguium gatta)、バラタゴムノキ(Mimusops balata)、サポジラ(Achras zapota)、ガガイモ科のオオバナアサガオ(Cryptostegia grandiflora)等が挙げられる。中でも、乳管細胞を有するパラゴムノキ、セアラゴムノキ、ゴムタンポポ等であることが好ましく、より好ましくは工業用天然ゴム原料として汎用されているパラゴムノキである。
【0016】
本発明のラテックスの増産方法は、ラテックスの回収前の、乾季後期から雨季終了時までに、ラテックス産生植物の幹又は茎にラテックス増産剤を付着させる工程を有する。
本発明では、ラテックス増産剤を、乾季後期から雨季終了時までに幹等に付着させることにより、この付着させた部位及びその近傍の乳管の分化形成が効率的に促進され、乳管数が増大することにより、乳管で生産されるラテックス量を増大させることができる。
さらに、ラテックス増産剤を特定の時期に付着させるのみでラテックス量を増大させることができるため、常にラテックス増産剤を付着させる場合と比べて、ラテックス増産剤を付着させる手間や、ラテックス増産剤自体のコストを低減することができる。
【0017】
本発明においてラテックス増産剤は、植物ホルモン又はその誘導体である1種類以上の化合物を有効成分とすることを特徴とする。なお、本発明及び本願明細書において、植物ホルモンとは、低濃度で植物の生理過程を調節し得る物質を意味し、植物体自身が産生する物質であってもよく、人工的に合成されたものであってもよい。
【0018】
本発明においてラテックス増産剤の有効成分となる化合物としては、植物体に作用させた場合に、該植物体の乳管形成を促進させ、乳管数を増大させることができる作用(乳管形成促進作用)を有する植物ホルモン又はその誘導体であることが好ましい。なお、該化合物としては、乳管形成を直接促進させる化合物であってもよく、間接的に促進させる化合物であってもよい。
【0019】
乳管細胞からなる乳管は、ラテックス生合成部位であり、ラテックスの生産能力は、ラテックス生合成部位である乳管細胞の数に大きく依存する。一般的に、乳管細胞の形成は自然環境下での木の生理状態や性質に左右されるものであるが、本発明におけるラテックス増産剤により植物体中の乳管細胞数を増加させることができるため、植物体そのもののラテックス生産能力を向上させ、ラテックス収量を増大させることができる。
【0020】
本発明においてラテックス増産剤の有効成分となる化合物としては、ジャスモン酸及びジャスモン酸誘導体からなる群より選択される1種であることが好ましい。なお、本発明におけるジャスモン酸誘導体は、ジャスモン酸等の公知化合物から公知の合成反応により合成することができる誘導体であって、乳管形成促進作用を有する化合物であれば、特に限定されるものではない。
【0021】
特に、本発明においてラテックス増産剤の有効成分となるジャスモン酸又はジャスモン酸誘導体としては、下記一般式(I)で表される化合物であることが好ましい。
【0022】
【化2】

[式中、Rは炭化水素基であり、Rは水素原子又は炭化水素基である。]
【0023】
一般式(I)中、Rは炭化水素基である。Rの炭化水素基としては、特に限定されるものではなく、飽和炭化水素基であってもよく、不飽和炭化水素基であってもよい。また、直鎖状の炭化水素基であってもよく、分岐鎖状の炭化水素基であってもよく、環状の炭化水素基であってもよい。なお、本発明において、炭化水素基とは、炭素原子と水素原子からなる官能基を意味する。
【0024】
飽和炭化水素基としては、例えば、アルキル基やシクロアルキル基等が挙げられる。また、シクロアルキル基は、単環式基であるモノシクロアルキル基であってもよく、多環式基であるポリシクロアルキル基であってもよい。
のアルキル基としては、炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜6のアルキル基であることがより好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、2−メチルブチル基、ネオペンチル基、1−エチルプロピル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、4−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基等が挙げられる。
のシクロアルキル基としては、炭素数3〜20のシクロアルキル基であることが好ましく、炭素数3〜8のモノシクロアルキル基、炭素数4〜10のポリシクロアルキル基であることがより好ましい。具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等が挙げられる。
【0025】
不飽和炭化水素基としては、例えば、アルケニル基、アルキニル基、アリール基等が挙げられる。
のアルケニル基としては、炭素数2〜20のアルケニル基であることが好ましく、炭素数2〜6のアルケニル基であることがより好ましい。具体的には、ビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、イソブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、3−メチル−2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、5−ヘキセニル基等が挙げられる。
のアルキニル基としては、炭素数2〜20のアルキニル基であることが好ましく、炭素数2〜6のアルキニル基であることがより好ましい。具体的には、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基等が挙げられる。
のアリール基としては、炭素数6〜10のアリール基であることが好ましい。具体的には、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、トリル基、キシリル基等が挙げられる。
【0026】
本発明において、一般式(I)のRとしては、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基であることが好ましい。シクロアルキル基やアリール基等の環状炭化水素基よりも、比較的水溶性媒体へ溶解しやすく、取り扱い性に優れるためである。中でも、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜6のアルキニル基であることが好ましく、炭素数4又は5のアルキル基、炭素数4又は5のアルケニル基、炭素数4又は5のアルキニル基であることがより好ましい。
【0027】
の炭化水素基は、1又は2以上の水素原子が、水酸基、スルホニル基、スルホキシ基等により置換されていてもよい。このような置換基を有する炭化水素基として、具体的には、5―ヒドロキシ―2―ペンテニル基、4―ヒドロキシ―2―ペンテニル基、5―(スルホオキシ)―2―ペンテニル基等が挙げられる。
【0028】
一般式(I)中、Rは水素原子又は炭化水素基である。Rの炭化水素基としては、特に限定されるものではなく、Rにおいて挙げられた炭化水素基と同様のものを用いることができる。
また、Rの炭化水素基は、1又は2以上の水素原子が、水酸基、アルキルオキシ基、スルホニル基、スルホキシ基、ニトロ基、アミノ基等により置換されていてもよい。このような置換基を有する炭化水素基として、ヒドロキシエチル基、ジヒドロキシプロピル基等のヒドロキシアルキル基、メトキシエチル基等のアルキルオキシアルキル基等が挙げられる。
【0029】
本発明において、一般式(I)のRとしては、水素原子、又は直鎖状若しくは分岐鎖状の炭化水素基であることが好ましい。比較的水溶性媒体へ溶解しやすく、取り扱い性に優れるためである。中でも、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のヒドロキシアルキル基、炭素数1〜8のアルキルオキシアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜6のアルキニル基であることがより好ましい。
【0030】
上記一般式(I)で表される化合物は、少なくとも1つの不斉炭素原子を有するため、光学異性体が存在し得る。また、R又はRが不飽和炭化水素基である場合には、シス-トランス異性体が存在し得る。本発明においては、乳管形成促進作用を有する限り、これらの立体異性体のいずれを有効成分としてもよい。
【0031】
なお、上記一般式(I)で表される化合物としては、ジャスモン酸以外のものであることが好ましい。すなわち、Rが(Z)―2―ペンテニル基であり、かつRが水素原子である化合物以外であることが好ましい。
【0032】
また、上記一般式(I)で表される化合物は、いずれも公知化合物又は公知化合物から公知の合成反応により簡便に合成し得る化合物である。したがって、常法により製造することができる。
例えば、上記式(1)において、Rがアルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基であり、かつRがアルキル基である化合物は、2−アルキルシクロペンテン−1−オン、2−アルケニルシクロペンテン−1−オン、又は2−アルキニルシクロペンテン−1−オンとマロン酸のアルキルエステルとをマイケル付加させた後、脱炭酸させることにより容易に得ることができる。また、このようにして製造した化合物に対して、常法に従いアルコール類とエステル交換させてもよい。その他、上記式(1)において、Rが水素原子である化合物は、例えば、上記のように合成したRがアルキル基である化合物を、塩基又は酸で加水分解することにより得ることができる。
【0033】
また、ジャスモン酸又はジャスモン酸誘導体は、塩として本発明におけるラテックス増産剤に有効成分として含有させてもよい。塩としては、ジャスモン酸誘導体等の乳管形成促進作用を阻害しない限り、特に限定されず、無機塩であってもよく、有機塩であってもよい。例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩等の金属塩;アンモニウム塩、グルコサミン塩、エチレンジアミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジエタノールアミン塩、テトラメチルアンモニウム塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩等のアミン塩; 塩酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、燐酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、りんご酸塩、フマ-ル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩等の有機酸塩;及び、グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩等のアミノ酸塩を挙げることができる。
【0034】
本発明においてラテックス増産剤は、1種類の乳管形成促進作用を有する化合物を有効成分とするものであってもよく、2種類以上の乳管形成促進作用を有する化合物を有効成分とするものであってもよい。
【0035】
本発明においてラテックス増産剤の有効成分としては、特に、上記一般式(1)において、RとRが共に炭素数1〜6のアルキル基である化合物であることが好ましい。中でも、Rがn−ペンチル基であり、Rがn−プロピル基であるプロヒドロジャスモンであることがより好ましい。乳管形成促進作用が高く、かつ水に対する溶解性が高いためである。加えて、ジャスモン酸等よりも、比較的安価であり、コストメリットも大きい。例えば、プロヒドロジャスモンを、後述する水溶性媒体に希釈することにより、乳管形成促進効果と植物体への付着の作業性に優れたラテックス増産剤を、安価に製造することができる。
【0036】
本発明においてラテックス増産剤は、有効成分である1種類又は2種類以上の乳管形成促進作用を有する化合物を、適当な媒体に溶解又は分散させて希釈させることにより得ることができる。該媒体は、乳管形成促進作用を有する化合物を、その乳管形成促進作用を阻害することなく十分に溶解又は分散させ得る媒体であれば、特に限定されるものではなく、公知の溶媒の中から、有効成分である化合物の性質、使用方法等を考慮して、適宜選択して用いることができる。
【0037】
該媒体として、例えば、水;カルナバロウ、密ロウ等のワックス類;ラノリン等のグリース類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;メチレンクロリド、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエタン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエ-テル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、エチレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、炭酸ジエチル、エチレングリコールアセテート、マレイン酸ジブチル、コハク酸ジエチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン類;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド類;ニトロエタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物類;アセトニトリル等のニトリル類;及び、ピリジン類等を挙げることができる。
【0038】
本発明においてラテックス増産剤の媒体としては、5〜50℃において液状であるものが好ましい。この温度において液状であれば、十分に粘度が低いため、ラノリン等の粘度が高く半固形状の媒体よりも、より簡便に植物体に付着させることができるためである。具体的には、水、ハロゲン化炭化水素類、ケトン類、アルコール類等の水溶性媒体が好ましい。中でも、水やアルコール類等であることがより好ましい。なお、本発明において水溶性媒体とは、水と容易に混和し得る媒体を意味する。
【0039】
また、本発明においてラテックス増産剤の媒体としては、1種類を用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、水とアルコールとの混合溶液であってもよく、水とケトン類との混合溶液であってもよい。
【0040】
本発明においてラテックス増産剤中の乳管形成促進作用を有する化合物の濃度は、植物体へ付着させた場合に、乳管形成促進効果を奏するために十分な濃度であればよく、乳管形成促進作用を有する化合物の種類、用いる媒体の種類、植物体への付着方法等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、有効成分としてプロヒドロジャスモンを用いた場合には、0.05%(w/v)以上であることが好ましく、0.05〜0.1%(w/v)であることがより好ましい。
【0041】
本発明においてラテックス増産剤の剤型は、植物体に付着させることが可能な剤型であれば、特に限定されるものではなく、液剤、水和剤、エマルジョン、懸濁剤、ゾル剤、ペースト剤、シート剤等を挙げることができる。植物への付着が簡便であるため、液剤、水和剤、エマルジョン、懸濁剤、ゾル剤等であることが好ましく、液剤であることがより好ましい。
【0042】
本発明においてラテックス増産剤は、本発明の効果を阻害しない限り、乳管形成促進作用を有する化合物と媒体のほかに、分散剤、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、保存剤、安定化剤、殺菌剤、殺虫剤、栄養剤等を含有していてもよい。
【0043】
分散剤としては、例えば、公知の界面活性剤の中から適宜選択して用いることができる。界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤のいずれであってもよく、1種類を用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
好ましい分散剤としては、例えば、2種以上のアルキレンオキシドのブロック縮重合体、ポリオキシアルキレンエーテル系化合物、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル系化合物、多価アルコール系脂肪酸エステル化合物、ポリオキシアルキレン多価アルコール系脂肪酸エステル化合物、ポリオキシアルキレンアルキルアミン化合物、アルキルアルカノールアミド化合物等が挙げられる。
【0045】
粘度調整剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose、以下、「CMC」という。)、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子の中から適宜選択して用いることができる。中でも、CMCを用いることが好ましい。
【0046】
本発明においてラテックス増産剤は、本発明の効果を阻害しない限り、乳管形成促進作用を有する化合物以外の他の植物ホルモンを含有していてもよい。このような植物ホルモンとして、例えば、オーキシン類、インドール酢酸、ジベレリン、サイトカイニン、アブシジン酸、ブラシノステロイド類、フロリゲン、サリチル酸等が挙げられる。
【0047】
本発明のラテックス増産剤を、植物の幹又は茎に付着させることにより、乳管の多い場所へ効率的に働きかけることができる。付着方法は、ラテックス増産剤を幹に直接付着させることが出来る方法であれば、特に限定されるものではなく、例えば、有効成分を水溶性媒体に希釈させたラテックス増産剤を、刷毛等を用いて直接幹等に塗布してもよく、スプレー等を用いて噴霧してもよい。また、植物へのラテックス増産剤の付着量は、乳管形成促進効果が得られる量であれば、特に限定されるものではなく、ラテックス増産剤の有効成分の種類や濃度、付着方法、植物の樹齢や種類等を考慮して適宜決定することができる。
【0048】
本発明において、ラテックス増産剤の植物の幹等への付着は、ラテックス回収前の、乾季後期から雨季終了時までに行う。
本発明において、乾季とは、パラゴムノキ等のラテックス産生植物の葉が紅葉する時期をいい、乾季後期とは、該植物の新芽が出る時期をいう。また、雨季とは、該植物の葉が緑色の時期をいう。具体的には、例えばインドネシアのスマトラ島では、通常、乾季が1〜4月、乾季後期が5〜6月、雨季が9〜12月であり、カリマンタン島では、通常、乾季が8〜11月、乾季後期が12〜1月、雨季が2〜5月である。
本発明のラテックス増産方法では、乾季後期から雨季終了時までにラテックス増産剤を植物に付着させることにより、より効率的に植物の乳管形成を促進することができる。上記のような効果が得られる理由は定かではないが、植物において乾季後期から雨季終了時は、乾季のような環境ストレスが低い時期であり、植物自体が成長し、乳管が形成されると考えられる時期であるため、この時期にラテックス増産剤を塗布することにより、より効率的に乳管形成が促進されると考えられる。
【0049】
また、本発明では、乾季後期から雨季終了時以外の時期、例えば、乾季中や、雨季と乾季との中間期(インドネシアのスマトラ島では7〜8月、カリマンタン島では6〜7月)に、さらに、ラテックス増産剤を植物の幹等に付着してもよい。
【0050】
ラテックス増産剤の付着周期及び期間は、特に限定されるものではないが、1〜4週間ごとに2〜20回行うことが好ましく、1〜3週間ごとに2〜10回行うことがより好ましく、2週間ごとに3〜10回行うことがさらに好ましい。
従来法のエチレン刺激による方法の場合には、長期的なエチレン刺激により、幹への悪影響が懸念されていたが、本発明のラテックス増産方法では、本発明のラテックス増産剤による処理期間は乳管が形成されるまでの短期間であるため、植物への負担を顕著に軽減することができる。
【0051】
また、ラテックス増産剤を付着させる工程の前に、前記植物の幹又は茎の一部分のコルク層を剥離し、該部分にラテックス増産剤を付着させることも好ましい。パラゴムノキ等のラテックス産生植物の表面は堅いコルク層で覆われているため、コルク層を剥離して、コルク層の内側にある乳管細胞及び乳管細胞が分化形成される組織(以下、「乳管細胞形成組織」という。)に到達しやすくすることにより、より効率的に乳管形成を促進することができる。
【0052】
本発明において、コルク層とは、ラテックス産生植物の外樹皮に位置し、乳管細胞および乳管細胞形成組織よりも外側に存在する層をいう。
本発明において、剥離されるラテックス産生植物の幹又は茎の一部分としては、該部分に前記ラテックス増産剤を付着させることにより乳管形成促進効果が得られる部分であれば特に限定されるものではないが、タッピングによりラテックスを回収する部分の近傍部分であることが好ましい。
また、剥離する部分の厚さは、乳管細胞および乳管細胞形成組織を傷つけずにコルク層を剥離する厚さであれば、特に限定されるものではない。例えば、パラゴムノキの幹の一部のコルク層を剥離する場合の厚さは、幹の表面から緑色の層が露出するまでの厚さである、1〜5mmであることが好ましい。
コルク層を剥離する方法は、特に限定されるものではなく、樹皮等の剥離に通常用いられる方法を用いて行うことができ、例えば、ナイフ等を用いて幹又は茎の一部分に傷をつけてコルク層を剥離する方法が挙げられる。
また、剥離を行う時期、剥離を行う部分の数は、乳管形成促進効果が得られるものであれば特に限定されるものではなく、ラテックス増産剤の有効成分の種類や濃度、付着方法、植物の樹齢や種類等を考慮して適宜決定することができる。
【0053】
コルク層を剥離した場合の植物へのラテックス増産剤の付着時期は、コルク層を剥離した部分を介してラテックス増産剤が乳管細胞形成組織に好適に到達する時期であれば、特に限定されるものではないが、前記コルク層の剥離の後、2ヶ月以内であることが好ましく、1ヶ月以内であることがより好ましく、前記コルク層の剥離の後、1週間以内であることがさらに好ましく、前記コルク層の剥離の後、1日以内であることが特に好ましく、前記コルク層の剥離の直後であることが最も好ましい。ここでラテックス増産剤の付着時期がコルク層剥離の直後とは、コルク層剥離と、ラテックス増産剤の付着とを、一連の作業として行うことをいう。前記コルク層の剥離の後、上記期間内にラテックス増産剤の付着を行うことにより、剥離したコルク層が回復し、該回復したコルク層により、ラテックス増産剤の乳管細胞形成組織への到達が妨げられることを防ぐことができる。
【0054】
さらに、前記ラテックス増産剤を付着させる工程に併せて、前記植物の幹又は茎にエチレン又はエチレン発生剤を付着させる工程を行うことも好ましい。エチレン又はエチレン発生剤を付着させる工程は、ラテックス増産剤を付着させる工程の前に行ってもよく、ラテックス増産剤を付着させる工程の後に行ってもよく、二つの工程を同時に行ってもよい。
【0055】
ここで、エチレン発生剤としては、該エチレン発生剤を植物の幹又は茎に付着させることにより、エチレンを植物の幹又は茎に付着させた場合と同様の作用を有するものであれば特に限定されないが、Ethephon(エテホン;2−クロロエチルホスホン酸)が好適なものとして挙げられる。植物に付着させたエテホンは、植物の組織に浸透した後に、エチレンへとガス化することが知られている。
また、腐敗する際にエチレンを発生することが知られている、熟したりんご等の果実をエチレン発生源として、エチレン発生剤に代えて用いることもできる。該エチレン発生源を植物の幹又は茎の近傍に静置する等の方法により、本発明の効果を得ることもできる。
【0056】
本発明においてエチレン又はエチレン発生剤は、適当な媒体に溶解又は分散させて用いることができる。媒体としては、前記と同様のものが挙げられる。
また、エチレン又はエチレン発生剤は、本発明の効果を阻害しない限り、分散剤、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、保存剤、安定化剤、殺菌剤、殺虫剤、栄養剤、他の植物ホルモン等を含有していてもよい。分散剤、粘度調整剤、他の植物ホルモンとしては、前記と同様のものが挙げられる。
【0057】
本発明においてエチレン又はエチレン発生剤を植物の幹又は茎に付着させることにより、乳管から流出するラテックスの、傷口における凝固を抑制し、より効率的にラテックスを回収することができる。
付着方法は、エチレン又はエチレン発生剤を幹又は茎に直接付着させることが出来る方法であれば、特に限定されるものではなく、エチレン又はエチレン発生剤の剤型等を考慮して適宜決定することができる。例えば、常温で気体であるエチレンを用いる場合、スプレー等を用いて噴霧することが好ましく、エテホンを用いる場合、水溶性溶媒に分散させたエテホンを、刷毛等を用いて直接幹等に塗布することが好ましい。
また、エチレン又はエチレン発生剤を、タッピングにより傷をつけられた幹または茎に付着させることにより、ラテックスの傷口における凝固が効果的に抑制されるため、好ましい。
【0058】
エチレン又はエチレン発生剤を付着させる幹又は茎の部位は、ラテックスの傷口における凝固を抑制できる部位であれば、特に限定されるものではないが、タッピングによりラテックスを回収する部分の近傍部分であることが好ましい。
エチレン又はエチレン発生剤の付着量は、ラテックス凝固抑制効果が得られる量であれば、特に限定されるものではなく、エチレン又はエチレン発生剤の濃度、付着方法、植物の樹齢や種類等を考慮して適宜決定することができる。
【0059】
また、エチレン又はエチレン発生剤の付着期間及び時期は、長期的なエチレンの刺激による幹等への負担を軽減するため、短期間であることが好ましく、ラテックスを回収する1〜30日前、より好ましくは回収する直前に、1回または数回行うことが好ましい。
【実施例】
【0060】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下「%」とは、特に記載が無い限り、「%(w/v)」を意味する。
【0061】
[製造例1]
プロヒドロジャスモンを有効成分とするラテックス増産剤を調製した。
具体的には、ジャスモメート液剤(明治製菓株式会社製)を、1%CMC溶液を用いて希釈し、50倍希釈溶液(0.1%プロヒドロジャスモン溶液)を調製し、これをラテックス増産剤として用いた。なお、ジャスモメート液剤の組成は、以下の通りである;5%プロヒドロジャスモン、33%1−プロパノール、30%界面活性剤、及び32%水。
【0062】
[実施例1、比較例1〜3]
ラテックス増産剤の付着時期と乳管数との関係について検討した。
(実施例1)
インドネシアのスマトラ島の乾季後期から雨季である2008年9月に、樹齢3年目のパラゴムノキ5本に、上記で調製したラテックス増産剤を付着させた。付着は、幹表面に0.1mL/cmとなるように、刷毛を用いて塗布により行った。その後、2週間に1回、11月まで計4回塗布を行った。
塗布処理前、及び塗布処理開始5週間後において、塗布部の組織切片を作成し、これに対してオイルレッドによる色素染色を行い、塗布部の乳管数を調べた結果を図1に示す。図1(a)は、No.3のパラゴムノキの塗布処理前の染色像であり、図1(b)はNo.3のパラゴムノキの塗布処理開始5か月後の染色像である。図中、矢頭(▲)は、乳管を示す。図1(c)に、塗布処理前及び塗布処理開始5か月後の、5本のパラゴムノキの乳管数を示す。
【0063】
(比較例1)
ラテックス増産剤に代えて、コントロールとして1%CMC溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、乳管数を確認した。
No.3のパラゴムノキの塗布処理前の染色像を図2(a)に、No.3のパラゴムノキの塗布処理開始5か月後の染色像を図2(b)に、塗布処理前及び塗布処理開始5か月後のパラゴムノキ5本の乳管数を図2(c)にそれぞれ示す。
【0064】
(比較例2)
ラテックス増産剤の塗布を、インドネシアのスマトラ島の乾季である2009年2月から2週間に1回、4月まで計4回行った以外は、実施例1と同様にして、乳管数を確認した。
No.3のパラゴムノキの塗布処理前の染色像を図3(a)に、No.3のパラゴムノキの塗布処理開始4か月後の染色像を図3(b)に、塗布処理前及び塗布処理開始4か月後のパラゴムノキ5本の乳管数を図3(c)にそれぞれ示す。
【0065】
(比較例3)
ラテックス増産剤に代えて、コントロールとして1%CMC溶液を用いた以外は、比較例2と同様にして、乳管数を確認した。
No.2のパラゴムノキの塗布処理前の染色像を図4(a)に、No.2のパラゴムノキの塗布処理開始4か月後の染色像を図4(b)に、塗布処理前及び塗布処理開始4か月後のパラゴムノキ5本の乳管数を図4(c)にそれぞれ示す。
【0066】
上記の結果、ラテックス増産剤を用いない場合や、ラテックス増産剤を乾季に塗布した場合、乳管数の増加個体は5個体中2個体に留まるのに対し、ラテックス増産剤を乾季後期〜雨季終了時までに塗布した場合、乳管数の増加個体は5個体中4個体であった。
このことから、プロヒドロジャスモンを有効成分とするラテックス増産剤を、乾季後期から雨季終了時までに付着させることにより、乳管形成が効率的に促進されることが明らかである。
【0067】
[実施例2、比較例4〜5]
ラテックス増産剤の付着時期と乳管数との関係について検討した。
(実施例2)
2010年1月〜3月に、上記実施例1の5本のパラゴムノキを用いて、2日おきに2か月間タッピングを行い、回収されたゴム(ラテックス)量を測定した。各パラゴムノキの2か月間のゴム量の合計量を測定し、5本のパラゴムノキの平均値を、収量(g/tree)とした。結果を、図5に、「乾季後期〜雨季塗布」として示す。
【0068】
(比較例4)
実施例1のパラゴムノキに代えて、比較例2の5本のパラゴムノキを用いた以外は、実施例2と同様にして、回収されたゴム(ラテックス)量を測定した。結果を、図5に、「乾季塗布」として示す。
【0069】
(比較例5)
実施例1のパラゴムノキに代えて、比較例1の5本のパラゴムノキを用いた以外は、実施例2と同様にして、回収されたゴム(ラテックス)量を測定した。結果を、図5に、「塗布なし」として示す。
【0070】
図5の結果から、ラテックス増産剤を用いた場合、ラテックス増産剤を用いていない場合と比較して回収されるゴム量が多く、ラテックス増産剤を用いた場合であっても、乾季後期から雨季終了時までにラテックス増産剤を用いた方が、乾季に用いた場合と比べて、ゴムの収量が10%程度多くなることが確認できた。
このことから、乳管数の増大により、乳管で生産されるラテックス量が増大することが明らかである。
【0071】
以上の結果より、プロヒドロジャスモンを有効成分とするラテックス増産剤を、乾季後期から雨季終了時までに付着させることにより、乳管形成が効率的に促進され、この結果、ラテックス回収量を効率よく増大させ得ることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のラテックスの増産方法は、ラテックス産生植物の乳管数(乳管密度)を増大させ、木本来のラテックス生産能力を向上させることができるため、ラテックス回収量を効率よく増大させることができるため、天然ゴムの産生の分野で特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラテックス産生植物からのラテックス回収量を増大させる方法であって、
ラテックスの回収前の、乾季後期から雨季終了時までに、ラテックス産生植物の幹又は茎にラテックス増産剤を付着させる工程を有し、
前記ラテックス増産剤は、植物ホルモン又はその誘導体である1種類以上の化合物を有効成分とすることを特徴とするラテックスの増産方法。
【請求項2】
前記ラテックス増産剤を付着させる工程を、2週間ごとに、3回以上行うことを特徴とする請求項1記載のラテックスの増産方法。
【請求項3】
前記植物ホルモンが、乳管形成促進作用を有することを特徴とする請求項1又は2記載のラテックスの増産方法。
【請求項4】
前記化合物が、ジャスモン酸又はその誘導体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のラテックスの増産方法。
【請求項5】
前記化合物が、下記一般式(I)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のラテックスの増産方法。
【化1】

[式中、Rは炭化水素基であり、Rは水素原子又は炭化水素基である。]
【請求項6】
前記一般式(I)において、Rが炭素数1〜6のアルキル基であり、Rが炭素数1〜6のアルキル基であることを特徴とする請求項5記載のラテックスの増産方法。
【請求項7】
前記ラテックス増産剤は、前記化合物を、水溶性媒体に溶解又は分散させてなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載のラテックスの増産方法。
【請求項8】
前記植物がパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載のラテックスの増産方法。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−246367(P2011−246367A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119460(P2010−119460)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】