説明

ラテックス増産方法

【課題】収穫効率が低いとされてきた成熟木(特に若年木)におけるラテックス生産性を向上させ、パラゴムノキの生涯のラテックス生産量を向上させることができるラテックス増産方法の提供。
【解決手段】植林後1〜5年のパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)に対し、ジャスモン酸及びその誘導体からなる群から選択される1種以上の化合物を有効成分として含むラテックス増産剤を、ラテックス収穫開始前10ヶ月〜1年2ヶ月の間、幹又は茎に付着させる工程を有することを特徴とするラテックス増産方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラゴムノキの生涯のラテックス生産量を向上させることができるラテックス増産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムは、弾性を有する高分子であり、主にゴムノキの乳管(laticifer)と呼ばれる細胞内で造られているラテックスという乳液を収集し、これに所望の加工をすることにより製造される。乳管は、ゴムノキの樹皮内の形成層の外側に年に数層発達する。ラテックスの収集は、一般的に、ゴムノキの幹にナイフ等を用いて溝状に傷をつけて(タッピング)、切断された乳管から流出するラテックスを回収することにより行われている。
【0003】
天然ゴムは、ゴム製品の主原料として、様々な用途において幅広くかつ大量に用いられている。このため、より高収率でラテックスを得る方法の開発が求められている。
従来、ラテックスを増産するために、植物ホルモンの一種であるジャスモン酸やその誘導体をラテックス生産樹木に施用する技術が提案されている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0004】
特許文献1には、ジャスモン酸系化合物の少なくとも1種を含有することを特徴とする液状樹液分泌促進剤、液状樹液分泌促進剤を樹木類に施用することを特徴とする液状樹液分泌促進方法が開示されている。この特許文献1の実施例には、ウルシの10年木に対し、ジャスモン酸系化合物を施用している。また、ジャスモン酸系化合物の施用時期に関しては、採取予定の30日前から直前に施用することが好ましい、と記載されている。
【0005】
特許文献2には、植物ホルモン又はその誘導体である1種類以上の化合物を有効成分とすることを特徴とするラテックス増産剤、該ラテックス増産剤をラテックス産生植物の幹又は茎に付着させる工程を有することを特徴とするラテックス増産方法が開示されている。前記化合物としては、ジャスモン酸又はその誘導体などが記載されている。この特許文献2の実施例には、プロヒドロジャスモンを有効成分とするラテックス増産剤を、樹齢1年目のパラゴムノキに2ヶ月間塗布した後にラテックスを採集したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−115448号公報
【特許文献2】特開2010−95480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
パラゴムノキからのラテックスの収穫は、パラゴムノキを植林してから、4〜6年目の未成熟木に対し、幹に傷を付けてラテックス採集を開始する。ラテックス採集を開始してから、10〜12年目ごろに木のラテックス収量は最大に達する。一方、ラテックス収穫初期の成熟木(特に若年木)は、ラテックス収量が低い。
【0008】
本発明は、収穫効率が低いとされてきた若年木におけるラテックス生産性を向上させ、パラゴムノキの生涯のラテックス生産量を向上させることができるラテックス増産方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するために、植林後1〜5年のパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)に対し、ジャスモン酸及びその誘導体からなる群から選択される1種以上の化合物を有効成分として含むラテックス増産剤を、ラテックス収穫開始前10ヶ月〜1年2ヶ月の間、幹又は茎に付着させる工程を有することを特徴とするラテックス増産方法を提供する。
【0010】
本発明のラテックス増産方法において、前記化合物は、下記一般式(1)
【0011】
【化1】

【0012】
[式中、Rは炭化水素基であり、Rは水素原子又は炭化水素基である。]
で表される化合物であることが好ましい。
【0013】
前記一般式(1)において、Rが炭素数1〜6のアルキル基であり、Rが炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。
【0014】
本発明のラテックス増産方法において、前記化合物を、水溶性媒体に溶解又は分散させてなるラテックス増産剤を用いることが好ましい。
【0015】
本発明のラテックス増産方法において、植林後2〜3年のパラゴムノキに前記ラテックス増産剤を付着させることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のラテックス増産方法は、植林後1〜5年のパラゴムノキに対し、ジャスモン酸及びその誘導体からなる群から選択される1種以上の化合物を有効成分として含むラテックス増産剤を、ラテックス収穫開始前10ヶ月〜1年2ヶ月の間、幹又は茎に付着させる工程を有することによって、ラテックス収穫開始前の未成熟木の乳管形成を促進させ、乳管数を増大させることができ、ラテックス収穫を開始した成熟木(若年木)におけるラテックス生産性を向上させ、パラゴムノキの生涯のラテックス生産量を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ラテックス増産剤を塗布した実施例1,2と塗布しない比較例のパラゴムノキの乳管数計測結果を示すグラフである。
【図2】ラテックス増産剤を塗布した実施例1,2と塗布しない比較例のパラゴムノキのラテックス収量測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のラテックス増産方法は、植林後1〜5年のパラゴムノキに対し、ジャスモン酸及びその誘導体からなる群から選択される1種以上の化合物を有効成分として含むラテックス増産剤を、ラテックス収穫開始前10ヶ月〜1年2ヶ月の間、幹又は茎に付着させる工程を有することを特徴としている。
【0019】
本発明方法において使用するラテックス増産剤は、ジャスモン酸及びその誘導体からなる群から選択される1種以上の化合物を有効成分として含み、これをパラゴムノキに作用させた場合、パラゴムノキの乳管形成を促進させ、乳管数を増大させることができる作用(乳管形成促進作用)を有する。
【0020】
乳管細胞からなる乳管は、ラテックス生合成部位であり、ラテックスの生産能力は、ラテックス生合成部位である乳管細胞の数に大きく依存する。一般的に、乳管細胞の形成は自然環境下での木の生理状態や性質に左右されるものであるが、本発明方法では。前記ラテックス増産剤によりパラゴムノキの乳管細胞数を増加させることができるため、パラゴムノキそのもののラテックス生産能力を向上させ、ラテックス収量を増大させることができる。
【0021】
本発明方法で用いるラテックス増産剤の有効成分となる化合物としては、下記一般式(1)
【0022】
【化2】

【0023】
[式中、Rは炭化水素基であり、Rは水素原子又は炭化水素基である。]
で表される化合物であることが好ましい。
【0024】
一般式(1)中、Rは炭化水素基である。Rの炭化水素基としては、特に限定されるものではなく、飽和炭化水素基であってもよく、不飽和炭化水素基であってもよい。また、直鎖状の炭化水素基であってもよく、分岐鎖状の炭化水素基であってもよく、環状の炭化水素基であってもよい。なお、本発明において、炭化水素基とは、炭素原子と水素原子からなる官能基を意味する。
【0025】
飽和炭化水素基としては、例えば、アルキル基やシクロアルキル基等が挙げられる。また、シクロアルキル基は、単環式基であるモノシクロアルキル基であってもよく、多環式基であるポリシクロアルキル基であってもよい。
のアルキル基としては、炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜6のアルキル基であることがより好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、2−メチルブチル基、ネオペンチル基、1−エチルプロピル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、4−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基等が挙げられる。
のシクロアルキル基としては、炭素数3〜20のシクロアルキル基であることが好ましく、炭素数3〜8のモノシクロアルキル基、炭素数4〜10のポリシクロアルキル基であることがより好ましい。具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等が挙げられる。
【0026】
不飽和炭化水素基としては、例えば、アルケニル基、アルキニル基、アリール基等が挙げられる。
のアルケニル基としては、炭素数2〜20のアルケニル基であることが好ましく、炭素数2〜6のアルケニル基であることがより好ましい。具体的には、ビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、イソブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、3−メチル−2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、5−ヘキセニル基等が挙げられる。
のアルキニル基としては、炭素数2〜20のアルキニル基であることが好ましく、炭素数2〜6のアルキニル基であることがより好ましい。具体的には、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基等が挙げられる。
のアリール基としては、炭素数6〜10のアリール基であることが好ましい。具体的には、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、トリル基、キシリル基等が挙げられる。
【0027】
本発明において、一般式(1)のRとしては、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基であることが好ましい。シクロアルキル基やアリール基等の環状炭化水素基よりも、比較的水溶性媒体へ溶解しやすく、取り扱い性に優れるためである。中でも、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜6のアルキニル基であることが好ましく、炭素数4又は5のアルキル基、炭素数4又は5のアルケニル基、炭素数4又は5のアルキニル基であることがより好ましい。
【0028】
の炭化水素基は、1又は2以上の水素原子が、水酸基、スルホニル基、スルホキシ基等により置換されていてもよい。このような置換基を有する炭化水素基として、具体的には、5―ヒドロキシー2―ペンテニル基、4―ヒドロキシー2―ペンテニル基、5―(スルホオキシ)―2―ペンテニル基等が挙げられる。
【0029】
一般式(1)中、Rは水素原子又は炭化水素基である。Rの炭化水素基としては、特に限定されるものではなく、Rにおいて挙げられた炭化水素基と同様のものを用いることができる。
また、Rの炭化水素基は、1又は2以上の水素原子が、水酸基、アルキルオキシ基、スルホニル基、スルホキシ基、ニトロ基、アミノ基等により置換されていてもよい。このような置換基を有する炭化水素基として、ヒドロキシエチル基、ジヒドロキシプロピル基等のヒドロキシアルキル基、メトキシエチル基等のアルキルオキシアルキル基等が挙げられる。
【0030】
本発明において、一般式(1)のRとしては、水素原子、又は直鎖状若しくは分岐鎖状の炭化水素基であることが好ましい。比較的水溶性媒体へ溶解しやすく、取り扱い性に優れるためである。中でも、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のヒドロキシアルキル基、炭素数1〜8のアルキルオキシアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜6のアルキニル基であることがより好ましい。
【0031】
前記一般式(1)で表される化合物は、少なくとも1つの不斉炭素原子を有するため、光学異性体が存在し得る。また、R又はRが不飽和炭化水素基である場合には、シス-トランス異性体が存在し得る。本発明においては、乳管形成促進作用を有する限り、これらの立体異性体のいずれを有効成分としてもよい。
【0032】
なお、前記一般式(1)で表される化合物としては、ジャスモン酸以外のものであることが好ましい。すなわち、Rが(Z)―2―ペンテニル基であり、かつRが水素原子である化合物以外であることが好ましい。
【0033】
また、前記一般式(1)で表される化合物は、いずれも公知化合物又は公知化合物から公知の合成反応により簡便に合成し得る化合物である。したがって、常法により製造することができる。
例えば、前記式(1)において、Rがアルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基であり、かつRがアルキル基である化合物は、2−アルキルシクロペンテン−1−オン、2−アルケニルシクロペンテン−1−オン、又は2−アルキニルシクロペンテン−1−オンとマロン酸のアルキルエステルとをマイケル付加させた後、脱炭酸させることにより容易に得ることができる。また、このようにして製造した化合物に対して、常法に従いアルコール類とエステル交換させてもよい。その他、前記式(1)において、Rが水素原子である化合物は、例えば、前記のように合成したRがアルキル基である化合物を、塩基又は酸で加水分解することにより得ることができる。
【0034】
また、ジャスモン酸又はジャスモン酸誘導体は、塩として前記ラテックス増産剤に有効成分として含有させてもよい。塩としては、ジャスモン酸誘導体等の乳管形成促進作用を阻害しない限り、特に限定されず、無機塩であってもよく、有機塩であってもよい。例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩等の金属塩;アンモニウム塩、グルコサミン塩、エチレンジアミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジエタノールアミン塩、テトラメチルアンモニウム塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩等のアミン塩; 塩酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、燐酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、りんご酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩等の有機酸塩;及び、グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩等のアミノ酸塩を挙げることができる。
【0035】
本発明方法で用いるラテックス増産剤は、1種類の乳管形成促進作用を有する化合物を有効成分とするものであってもよく、2種類以上の乳管形成促進作用を有する化合物を有効成分とするものであってもよい。
【0036】
本発明方法で用いるラテックス増産剤の有効成分としては、特に、前記一般式(1)において、RとRが共に炭素数1〜6のアルキル基である化合物であることが好ましい。中でも、Rがn−ペンチル基であり、Rがn−プロピル基であるプロヒドロジャスモンであることがより好ましい。乳管形成促進作用が高く、かつ水に対する溶解性が高いためである。加えて、ジャスモン酸等よりも、比較的安価であり、コストメリットも大きい。例えば、プロヒドロジャスモンを、後述する水溶性媒体に希釈することにより、乳管形成促進効果とパラゴムノキへの付着作業性に優れたラテックス増産剤を、安価に製造することができる。
【0037】
本発明方法で用いるラテックス増産剤は、有効成分である1種類又は2種類以上の乳管形成促進作用を有する化合物を、適当な媒体に溶解又は分散させて希釈させることにより得ることができる。該媒体は、乳管形成促進作用を有する化合物を、その乳管形成促進作用を阻害することなく十分に溶解又は分散させ得る媒体であれば、特に限定されるものではなく、公知の溶媒の中から、有効成分である化合物の性質、使用方法等を考慮して、適宜選択して用いることができる。
【0038】
該媒体として、例えば、水;カルナバロウ、密ロウ等のワックス類;ラノリン等のグリース類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;メチレンクロリド、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエタン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエ-テル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、エチレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、炭酸ジエチル、エチレングリコールアセテート、マレイン酸ジブチル、コハク酸ジエチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン類;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド類;ニトロエタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物類;アセトニトリル等のニトリル類;及び、ピリジン類等を挙げることができる。
【0039】
本発明方法で用いるラテックス増産剤の媒体としては、5〜50℃において液状であるものが好ましい。この温度において液状であれば、十分に粘度が低いため、ラノリン等の粘度が高く半固形状の媒体よりも、より簡便に植物体に付着させることができるためである。具体的には、水、ハロゲン化炭化水素類、ケトン類、アルコール類等の水溶性媒体が好ましい。中でも、水やアルコール類等であることがより好ましい。なお、本発明において水溶性媒体とは、水と容易に混和し得る媒体を意味する。
【0040】
また、前記ラテックス増産剤の媒体としては、1種類を用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、水とアルコールとの混合溶液であってもよく、水とケトン類との混合溶液であってもよい。
【0041】
前記ラテックス増産剤中の乳管形成促進作用を有する化合物の濃度は、パラゴムノキへ付着させた場合に、乳管形成促進効果を奏するために十分な濃度であればよく、乳管形成促進作用を有する化合物の種類、用いる媒体の種類、植物体への付着方法等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、有効成分としてプロヒドロジャスモンを用いた場合には、0.05%(w/v)以上であることが好ましく、0.05〜0.1%(w/v)であることがより好ましい。
【0042】
前記ラテックス増産剤の剤型は、植物体に付着させることが可能な剤型であれば、特に限定されるものではなく、液剤、水和剤、エマルジョン、懸濁剤、ゾル剤、ペースト剤、シート剤等を挙げることができる。植物への付着が簡便であるため、液剤、水和剤、エマルジョン、懸濁剤、ゾル剤等であることが好ましく、液剤であることがより好ましい。
【0043】
前記ラテックス増産剤は、本発明の効果を阻害しない限り、乳管形成促進作用を有する化合物と媒体のほかに、分散剤、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、保存剤、安定化剤、殺菌剤、殺虫剤、栄養剤等を含有していてもよい。
【0044】
分散剤としては、例えば、公知の界面活性剤の中から適宜選択して用いることができる。界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤のいずれであってもよく、1種類を用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
好ましい分散剤としては、例えば、2種以上のアルキレンオキシドのブロック縮重合体、ポリオキシアルキレンエーテル系化合物、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル系化合物、多価アルコール系脂肪酸エステル化合物、ポリオキシアルキレン多価アルコール系脂肪酸エステル化合物、ポリオキシアルキレンアルキルアミン化合物、アルキルアルカノールアミド化合物等が挙げられる。
【0046】
粘度調整剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose,CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子の中から適宜選択して用いることができる。中でも、カルボキシメチルセルロースを用いることが好ましい。
【0047】
前記ラテックス増産剤は、本発明の効果を阻害しない限り、乳管形成促進作用を有する化合物以外の他の植物ホルモンを含有していてもよい。このような植物ホルモンとして、例えば、オーキシン類、インドール酢酸、ジベレリン、サイトカイニン、アブシジン酸、エチレン、Ethephon、ブラシノステロイド類、フロリゲン、サリチル酸等が挙げられる。
【0048】
本発明のラテックス増産方法は、前記ラテックス増産剤を、植林後1〜5年のパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)に対し、ラテックス収穫開始前10ヶ月〜1年2ヶ月の間、幹又は茎に付着させる。前記ラテックス増産剤を幹等に付着させることにより、この付着させた部位及びその近傍の乳管の分化形成が促進され、乳管数が増大することにより、乳管で生産されるラテックス量が増大し、タッピングによって、より大量のラテックスを回収することができる。
【0049】
本発明のラテックス増産方法では、植林後1〜5年のパラゴムノキを対象として、前記ラテックス増産剤を幹等に付着させる。
パラゴムノキからのラテックスの収穫は、一般に、パラゴムノキを植林してから4〜6年目の未成熟木に対し、幹に傷を付けてラテックス採集を開始する。しかし、ラテックス収穫初期の成熟木(特に若年木)は、ラテックス収量が低い。
本発明のラテックス増産方法では、植林後1〜5年のパラゴムノキ未成熟木に対し、前記ラテックス増産剤を付着させることによって、該パラゴムノキの乳管形成を促進させ、乳管数を増大させることができ、成熟木(特に若年木)におけるラテックス生産性を向上させ、パラゴムノキの生涯のラテックス生産量を向上させることができる。
【0050】
植林後1年未満では、ラテックス増産剤を作用させて乳管数の増加を図った場合に、木に負荷がかかり、更に経済性の面から好ましくない。
【0051】
本発明のラテックス増産方法において、前記ラテックス増産剤をパラゴムノキの幹又は茎に付着させる方法は、ラテックス増産剤を幹に直接付着させることが出来る方法であれば、特に限定されるものではなく、例えば、有効成分を水溶性媒体に希釈させたラテックス増産剤を、刷毛等を用いて直接幹等に塗布してもよく、スプレー等を用いて噴霧してもよい。また、パラゴムノキへのラテックス増産剤の付着量は、乳管形成促進効果が得られる量であれば、特に限定されるものではなく、ラテックス増産剤の有効成分の種類や濃度、付着方法等を考慮して適宜決定することができる。
【0052】
本発明のラテックス増産方法において、前記ラテックス増産剤の塗布期間は、パラゴムノキのラテックス収穫開始前10ヶ月〜1年2ヶ月の間であり、ラテックス収穫開始前の1年間程度とすることがより好ましい。
この塗布期間が10ヶ月未満であると、前記ラテックス増産剤による乳管形成促進効果が十分に得られず、ラテックスの増産効果が十分に得られなくなる可能性がある。
【実施例】
【0053】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下「%」とは、特に記載が無い限り、「%(w/v)」を意味する。
【0054】
<ラテックス増産剤の調製>
プロヒドロジャスモンを有効成分とするラテックス増産剤を調製した。
具体的には、ジャスモメート液剤(明治製菓株式会社製)を、1%CMC溶液を用いて希釈し、50倍希釈溶液(0.1%プロヒドロジャスモン溶液)、100倍希釈溶液(0.05%プロヒドロジャスモン溶液)をそれぞれ調製し、これらをラテックス増産剤として用いた。なお、ジャスモメート液剤の組成は、以下の通りである;5%プロヒドロジャスモン、33%1−プロパノール、30%界面活性剤、及び32%水。
【0055】
[実施例1]
植林後3年目のパラゴムノキに、前記の通り調製したラテックス増産剤のうち、50倍希釈溶液を刷毛により、地上20cm〜170cmの幹表面に1mL/cmとなるように、1年間にわたり2週ごとに1回塗布した。この条件で5本のパラゴムノキについて塗布を行った。
塗布開始から1年経過後、塗布部の乳管数(乳管層の数)を調べた。その結果を図1に記す。
また、タッピングにより塗布部分から回収されたラテックス量を測定した。その結果を図2に記す。
【0056】
[実施例2]
ラテックス増産剤として、100倍希釈液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、5本のパラゴムノキに該100倍希釈液を塗布し、1年経過後に塗布部の乳管数、及びラテックス量を調べた。その結果を図1、図2に記す。
【0057】
[比較例]
ラテックス増産剤を塗布せずに、パラゴムノキを栽培し、実施例1及び2と同時に、乳管数、及びラテックス量を調べた。その結果を図1、図2に記す。
【0058】
図1に示す結果から、ラテックス増産剤を塗布した実施例1及び2のパラゴムノキは、塗布開始から1年経過後に、無塗布の比較例と比べ、乳管数の増加が認められた。
また、図2に示す結果から、ラテックス増産剤を塗布した実施例1及び2のパラゴムノキは、塗布開始から1年経過後に、無塗布の比較例と比べ、ラテックス生産量が増加していた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のラテックス増産方法は、収穫効率が低いとされてきたパラゴムノキの成熟木(特に若年木)におけるラテックス生産性を向上させ、パラゴムノキの生涯のラテックス生産量を向上させることができるため、天然ゴムの産生の分野で特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植林後1〜5年のパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)に対し、ジャスモン酸及びその誘導体からなる群から選択される1種以上の化合物を有効成分として含むラテックス増産剤を、ラテックス収穫開始前10ヶ月〜1年2ヶ月の間、幹又は茎に付着させる工程を有することを特徴とするラテックス増産方法。
【請求項2】
前記化合物が、下記一般式(1)
【化1】

[式中、Rは炭化水素基であり、Rは水素原子又は炭化水素基である。]
で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載のラテックス増産方法。
【請求項3】
前記一般式(1)において、Rが炭素数1〜6のアルキル基であり、Rが炭素数1〜6のアルキル基であることを特徴とする請求項2記載のラテックス増産方法。
【請求項4】
前記化合物を、水溶性媒体に溶解又は分散させてなるラテックス増産剤を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のラテックス増産方法。
【請求項5】
植林後2〜3年のパラゴムノキに前記ラテックス増産剤を付着させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のラテックス増産方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−162475(P2012−162475A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22745(P2011−22745)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】