説明

ランセット装置

【課題】ランセット装置を、高い費用効率で製造する方法を提示することを目的とし、このランセット装置は、小型であり、穿刺時の痛みを小さくするために穿刺動作を十分に速いスピードで行うことができるようになっており、発生音と衝撃が最大限抑制されており、さらに、駆動バネを付勢する等のユーザが行わなければならない使用前の準備が可能な限り不用であるようになっている。
【解決手段】ランセットは、前記制御ユニットにより設定可能な範囲にある前記ランセットによる穿刺傷の深さが、機械的な停止部によって制限されないよう、振動の反転位置まで穿刺方向に自由に振動できるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に診断のための体液を採取するために、ランセットを穿刺経路に沿って変位させることによって皮膚表面に穿刺傷を形成するランセット装置に関する。このランセット装置は、皮膚表面に向かう穿刺経路に沿ってランセットを穿刺動作させるための駆動力を発生する駆動手段、ランセットを張力がかかった位置に保持するための磁気的保持力を発生する保持手段、および保持力を十分に緩和し、そして駆動手段が発生した駆動力によってランセットを皮膚表面に向けて高速で動かす開始手段を備えたランセット駆動装置を有する。
【0002】
また、本発明は、特に診断のための体液を採取するために、ランセットを穿刺経路に沿って変位させることによって皮膚表面に穿刺傷を形成するランセット装置を操作する方法に関する。このランセット装置はランセット駆動装置を有しており、また、皮膚表面に向かう穿刺経路に沿ってランセットを穿刺動作させるための駆動力を駆動手段が発生し、ランセットを張力がかかった位置に保持するための磁気的保持力を保持手段が発生し、さらに駆動手段が発生した駆動力によってランセットを皮膚表面に向けて高速で動かすために、開始手段が保持力を十分に緩和する。
【0003】
ランセット装置は、例えばインスリンを投与することによって血糖値が特定の設定範囲内に留まるよう血糖値の検査を頻繁に行わなければならない糖尿病患者が必要とする。広範囲な医療実験の結果、毎日少なくとも4回の分析を行う集中治療を採用することによって、長期糖尿病の最重度の合併症(失明に繋がる網膜症など)の劇的な改善が見られることが分かった。
【0004】
ランセット装置のユーザにとっては、一方では穿刺時の痛みが最小限で済むように形成されたランセット装置であること、他方では操作と取扱いが可能な限り簡素化されたランセット装置であることが大きな関心事である。
【背景技術】
【0005】
穿刺時の痛みを最小限に抑えるという要請に対しては、ランセットが皮膚に留まる時間を短縮するために穿刺動作を可能な限り高速で行うことによって対応できる。従来技術においては、駆動にバネを用いることによって、ランセットを高速で動かすことができることが示されている。この種のランセット装置の不都合な点は、穿刺後に手動で駆動バネを付勢しなければならないことに対して、多くのユーザが面倒であると感ずることである。このことは、特に手先の器用さが加齢や病気のために衰えている患者について言える。
【0006】
電動モータを用いて駆動バネを自動的に付勢するように構成されたランセット装置は、ユーザの利便性を向上させることはできるが、電動モータのために大きくなりまた重くなるという不都合を生じる。そのような電動モータを内蔵するランセット装置は、頻繁な検査のために常時持ち歩かなければならないユーザにとっては大きい負担となる。さらに、電動モータのために製造コストも大幅に増大する。
【0007】
また、コイルを用いて駆動力を電磁的に発生させる従来技術によるランセット装置が知られている。この種のランセット装置は、例えば特許文献1と特許文献2に開示されている。電磁力を利用したこの種のランセット駆動装置は、穿刺時の痛みを和らげるために穿刺動作を高速で行うことができるよう、強力な磁界を発生させなければならない。そのためには、比較的強い電流を駆動コイルに流す必要があるが、小型の携帯用装置の場合には、磁界を全く発生させることができない、あるいは大変な努力を払うことによってようやく磁界の発生が可能になる。従って、電磁力利用のランセット駆動装置は、今日までバネによって駆動される機械式駆動装置に対して優位性を確立することができなかった。
【0008】
これらの不都合な点が改良された、電磁力利用のランセット駆動装置は、特許文献3から周知であり、そのランセット駆動装置は、その形状構成が優れていることが知られている。この公開公報は、とりわけ永久磁石を備えた穿刺傷形成駆動装置の基本原理に関するものである。この駆動装置は、永久磁石と、永久磁石の磁界を相殺する電磁コイルを備えることにより、穿刺傷形成器の駆動ユニットの制御ができるようになっている。ランセットは、磁力によって第1の位置に保持されているが、コイルに通電したときに発生する磁界によって磁力が相殺されるために第1の位置に留まることができなくなり、バネによって駆動されて穿刺傷を形成する。この公開公報に記載のランセット装置は、衝撃式穿刺傷形成器とも呼ばれているが、衝撃式穿刺傷形成器のその他の公知実施形態の場合と同様に、穿刺傷の深さを制限するための停止部を有する。このために、下記のような複数の不都合な点が生じる。
【0009】
穿刺動作開始時に好ましくない音が生じ、それは、カチッという大きい音になることもある。このような発生音を、ユーザは、しばしば煩わしく感じたり、驚かされたりすることもあり、そのために、穿刺傷形成に伴う痛みの感覚が鋭敏化する。
【0010】
ランセットシステムに振動が発生し、そして、それが皮膚の組織に刺さったランセットに伝播されるために、痛みを生じるまたは痛みが大きくなる。
【0011】
停止部は完全な非弾性体ではないために、運動エネルギーが停止部からランセットに反動として伝達されるために、ランセットを備えた衝撃式システムは、穿刺動作の軸方向に振動を反射しがちである。この結果、ランセットが身体を複数回出入りすることにもなり、痛みが生じる。
【0012】
これらの望ましくない影響を抑制するために、従来技術においては、種々の複雑な補助装置を設ける必要があるが、そのために、ランセット装置または全体のシステムが大型になり、また製造コストも増大しがちである。
【0013】
この種の穿刺傷形成装置つまりランセット装置を血液分析ユニットと一体化する場合、ランセット動作の「張力を付与すること」と「引き金を引くこと」は、総合的な人間工学に基づいて行われるようになっていることが好ましく、これらの動作は、自動的におよび/または分析装置に必要とされる操作要素を用いてユーザが始動できるようになっている方が有利である。また、電気的な操作要素(スイッチ、ボタン等)は、直接握持することによって操作される機械的操作要素より、装置外面上の人間工学的により望ましい位置に設置することが容易である。しかし、そのような穿刺傷形成装置の場合には、製造コストが大幅に増大する。
【0014】
さらに、経路制御式穿刺傷形成器も公知である(例えばSoftclixの商品名で販売されている)。この穿刺傷形成器は、容易に自動測定システムに接続することが可能であり、また外部機器を装着することもできるが、内部質量の移動を引き起こすための運動エネルギーを最終的には散逸しなければならない。運動エネルギーの散逸は、その機能が優れ、また占有スペースが小さいという理由により、停止部を用いて行われる。これらのシステムは、また、大きい音を発生する。
【0015】
さらに、上述したように、例えば特許文献1には、電動の穿刺傷形成駆動装置が開示されている。これらは、最終的に停止させるための停止部が不要であるために比較的静かであるが、ランセットを動かすために必要な、デバイス質量の運動を含む穿刺傷形成のための運動エネルギーの全てを、電源から直接供給しなければならないという不都合な点を有する。所要の駆動力を発生させるためには大きいインダクタンスが必要になると同時に、電流に急速な変化を生じさせるためには高い電圧が必要であるために、エネルギー源(例えばバッテリ)に加え、高電圧を発生するとともに、穿刺傷形成に必要な大きさのエネルギーを供給することができる電源(例えばキャパシタ)も装置に格納しなければならない。しかしながら、そのような蓄電池のほぼ半分の容量しか実際には使用されない。この供給電力は、総量としてはエネルギー供給量とほぼ同じ大きさである。さらに、移動質量の大きさと、穿刺経路に沿った方向の抵抗つまり摩擦を最小限に抑えることが絶対的に必要になり、そのために、無菌包装された穿刺傷形成要素(ランセット)の包装を取り除くための費用が別途必要になる。上述した二つの要素は、装置全体の嵩を増大させるために、糖尿病患者用の手動式で携帯用の測定システムに殆ど採用されることはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第02/100460号
【特許文献2】米国特許第6364889号明細書
【特許文献3】国際公開第2007/006399号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、巻頭に記載した種類のランセット装置を、高い費用効率で製造する方法を提示することを目的とし、このランセット装置は、小型であり、穿刺時の痛みを小さくするために穿刺動作を十分に速いスピードで行うことができるようになっており、発生音と衝撃が最大限抑制されており、さらに、駆動バネを付勢する等のユーザが行わなければならない使用前の準備が可能な限り不用であるようになっている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的は、巻頭に記載した本発明によるランセット装置を採用することによって達成される。このランセット装置のランセット駆動装置は、ランセットによって形成される穿刺傷の深さを制限する制御ユニットを有する。制御ユニットは、ランセットによって形成される穿刺傷が、穿刺動作開始時に制御ユニットからの指令に基づき所望の深さになるよう、保持力緩和の程度を制御することができる。
【0019】
上述した本発明とは別発明として、巻頭に記載した種類のランセット装置に適用することができる、別のとりわけ有利な特徴としては、制御ユニットによって設定され、実用的な範囲内で穿刺傷の深さが機械的な穿刺傷深さ制限部によって制限されないように、ランセットを穿刺方向の反転位置まで自由振動するように構成することが提案されている。
【0020】
本発明のランセット装置は、穿刺動作に必要なエネルギーを、例えば駆動手段として作用する駆動バネのような機械的要素に蓄えるように構成されたシステムである。保持用の磁力によって張力がかかった状態に保持された駆動バネは、電磁アクチュエータによってその動きを制御/調節することが可能であるが、そのための動力は極めて小さくて済む。このようなランセット装置は、ランセットの動きを制御する電磁アクチュエータを有することが好ましい。電磁アクチュエータは、ランセットによる穿刺動作を調節可能な推進力および/または制動力によって調節して穿刺傷の深さを制限するために、制御ユニットによって作動される。
【0021】
機械的な特性、つまり低内部減衰特性、を有するバネ質量系を基にした、本発明によるランセット装置の一実施形態においては、下記のように製造し、および/または着想を考慮することが好ましい。
【0022】
本発明のランセットは、ランセット式マガジンである、つまりマガジンに格納されていることが好ましいために、ランセット駆動用のプランジャは、比較的大きい質量を有する。ランセットは、バネを介して懸架されていて、後退位置から突出位置のあいだで自由振動する。最前進位置が、ランセットの最大突出量に相当する。バネ機構のバネ定数は、プランジャが後退した張力がかかった位置から始動して、ランセット装置から飛び出し始めたときの速度が約2m/sになるように決められる。
【0023】
また、駆動プランジャは、プランジャの外面または内部に固定された永久磁石を有する。鉄心付き電磁石が、プランジャの後退位置に隣接して配置されている。プランジャの内部または外部に固定された磁石、および鉄心は、プランジャに固定された磁石が鉄心に接触したとき、バネ機構のバネの付勢力に抗してプランジャを後退位置に保持するように構成されている。しかし、プランジャに固定された磁石と鉄心のあいだに、例えば2mmより小さい間隙、好ましくは1.0〜0.5mmのような小さい間隙が存在する限り、鉄心とプランジャに固定された磁石のあいだの引力によって、ランセット駆動用のプランジャを保持するまたは鉄心の方に引き戻すことはできない。
【0024】
プランジャの運動状態を検出するための別のコイルが、プランジャに固定された磁石の振動軌道の一部に、好ましくは振動軌道の全長に亘って、配置されている。この追加コイルの機能は、必要に応じ、コイルを追加することなく、電磁石および/またはそのコイルによって代替させてもよい。
【0025】
装置の組立て完了時または装置に強い衝撃を与えたとき、プランジャは、バネ機構により自由運動をするように懸架される、つまり電磁石の鉄心に当接してはいない。この系を張力がかかった状態に置く場合、電磁石を備えたプランジャは、プランジャに固定された磁石が鉄心に付くまで往復運動させられる。磁石が固定されたプランジャの振動は、電磁石への通電に応答して「増幅」するように構成されていることが好ましい。しかし、プランジャに固定された磁石に応答して鉄心の磁性を反転させる必要はなく、適切な周期で電源をオン/オフすることによって鉄心に向かって加速させる力が発生するように鉄心を構成するだけで十分である。これにより、付随した電気回路を簡素化することができる。
【0026】
磁石が鉄心に付いているとき、励振停止の信号として用いられるピーク電圧が、巻線に印加される。これにより穿刺傷形成系に必要エネルギーが蓄えられてバネが付勢されるために、穿刺傷形成を開始することが可能になる。
【0027】
穿刺傷形成を開始する場合、鉄心が永久磁石とは逆の極性を帯びるよう電磁石にパルス電流が通電され、そのために、保持力がバネの付勢力に抗しきれなくなり、プランジャは鉄心から離脱する。これにより、バネ質量系が前進運動を開始するために、ランセットが任意の無菌保護膜を突き破り、そしてランセットの針先が皮膚を刺す。このとき、振動系からエネルギーが失われる。従って、この系は、このエネルギー損失が、穿刺中に生じるように、例えば運動質量とバネの付勢力の大きさを決定することが好ましい。このエネルギー損失は、また、無菌保護膜の強度、皮膚の針刺抵抗の大きさ、または針先の鋭敏さが異なることにより種々変化するために、系が保有する総エネルギーに対する可能な限り小さい割合だけが補充されるようになっている。このために、プランジャは、大きい質量を有する方が有利である。従って、ランセット先端の突出量は、上述した要因が影響するために殆ど変化しない。しかしながら、このことは、同時に、一旦運動を開始したプランジャは大きい運動エネルギーを保有しているために、プランジャに固定された磁石は、後退運動時に鉄心に再度付くことができることを意味する。
【0028】
また、プランジャに固定された磁石が鉄心に再度確実に付くことができるよう、必要エネルギーの一部を振動系に供給するようになっている方が有利である。このために、振動系は、電磁石または任意の別の検出コイルを用いてプランジャの後退速度を検出し、そしてプランジャに固定された磁石が確実に鉄心に付くよう後退運動の終盤に、例えば中間位置において、制御プロセッサによって正確に電磁石に対する通電が行われる。これにより、磁石は、殆ど気付かれない程の小さい最終速度で、音を立てることもなく鉄心に付着する。このようにして、プランジャは、後退位置に改めて保持される。
【0029】
穿刺動作時のランセットの突出量は、機械的に、例えばランセット突出量の基準となる調節式皮膚接触部を介して、または穿刺を開始するときの電磁石の強さを制御することによって決められる。例えば、電磁石の電流の向きを急速に切り換えて永久磁石に斥力を生じさせることによって、バネ質量系を自由振動により最大突出位置まで移動させる、または穿刺動作が始動するよう電磁石の磁界をゆっくりと強めることによって、例えば2mmだけ鉄心から離間した、軌道の開始部分におけるプランジャの運動が、それに固定された磁石の鉄に対して依然作用する引力によって継続して制動されるように構成されている。これにより、バネ質量系は、エネルギーを失って最大突出位置まで振動しなくなる。このような構成は、駆動バネの付勢力に抗するには不十分ながら、永久磁石が数ミリメータの距離まで接近したときに作用する引力に対して応答することができるよう、鉄心の磁極面の形状を整えることによって可能になる。
【0030】
他の態様としては、自由振動の場合、突出量が設定可能な最小値になるようにバネ質量系を構成することもできる。ランセット駆動用のプランジャは、所望の突出量に達するために必要な振動を起こすよう、電磁石の斥力によって付勢される。この方法を選択する場合、鉄心の磁極面は単純な平面であってよい。
【0031】
両方の実施形態において、ランセット先端の突出量は、電気的付勢装置、つまり制御ユニット、によって穿刺動作開始時のエネルギーを調節することにより決定される。穿刺傷形成のための実際に要するおよび/または主たる駆動力は、バネ機構のバネの付勢力によって得られるが、この穿刺動作は、制御ユニットによって調節される。
【0032】
さらに別の実施形態においては、第2の電磁石または永久磁石が、プランジャに固定された磁石の穿刺動作の前方死点の領域に追加して配置されているが、このために、反転位置に達した後に復帰運動するプランジャにはかなり強い制動力が作用するまたはプランジャは復帰運動方向に加速される。この追加された電磁石または永久磁石は、その機能としては従来技術で穿刺動作の範囲を制限する停止部に相当し、騒音を引き起こすことがなく、また機械的停止部を用いることなく、プランジャの運動を減衰および/または加速することができる。このために、プランジャに特殊な運動曲線を行うようにさせることもできる。
【0033】
しかし、この実施形態の場合、プランジャは、穿刺傷形成を行った後最終的には、通常は後方電磁石の鉄心まで戻ることなく、バネ質量系の自由振動範囲の中間点で停止する場合もある。この位置は、当然のことながらランセットが装置から外部に出る位置よりかなり手前にあるために、ランセットが、装置から外に出ることはない。また、この実施形態においては、使用前に勢いを付けてバネ質量系を始動位置に復帰させなければならないが、そのために大量のエネルギーが消費され、さらに、バネ質量系の運動を止めるために、穿刺傷形成駆動装置に消費したエネルギー量にほぼ相当する大きさのエネルギーを別の制動用電磁石が消費する。この実施形態は、従って、本発明が備える利点の全てを実現することができないと言える。
【0034】
本発明による装置を用いた場合、皮膚表面に刺傷を形成して診断用の体液を採取するために、ランセットを、穿刺経路に沿って変位させることができる。この装置は、ランセットを皮膚表面に向かう穿刺経路に沿って穿刺動作をさせるための駆動力を発生する駆動手段を備えたランセット駆動装置を有する。ランセット駆動装置は、駆動力とは反対の方向に作用する磁気的保持力を発生する磁石、および保持力を十分に緩和し、そして駆動手段が発生した駆動力によってランセットを皮膚表面に向けて高速で動かす開始手段を有する。
【0035】
駆動手段としては駆動バネを用いてもよいが、駆動バネは、磁気的保持力によって張力がかかった状態に保持される。本発明によるランセット装置において、ランセットは、皮膚表面に刺傷形成後、磁気的保持力によって始動位置まで後退させられる。保持力は、例えば電磁石または永久磁石を用いて発生するようになっている。永久磁石が用いられた場合、開始手段は、磁界を発生させるためのコイルを有する方が有利であり、発生した磁界は、少なくとも部分的に、好ましくは完全に永久磁石による保持力を相殺する。永久磁石とコイルを好適な大きさになるよう選択することによって、穿刺傷形成後に、駆動バネを再度張力がかかった状態に置くことができるよう、永久磁石が発生する保持力を強くすることができる。
【0036】
さらに、本発明によるランセット駆動装置の駆動手段には、磁気的に駆動力を発生させるためにコイルを用いてもよい。このコイルは、磁気的保持力を過剰に相殺することができる始動手段としても用いられる。磁気的保持力は、永久磁石によって発生するようにされていることが好ましいが、駆動手段には、その第2の部分として、反対の極性を有する駆動磁石である別の永久磁石を備えていてもよく、これにより、永久磁石による磁界は完全に消勢される。このように、駆動磁石が発生した駆動力は、保持力を発生させる永久磁石によって相殺されるために、コイルに通電しない限り、駆動力が出現することはなく、またランセットの移動も行われない。駆動コイルに電流が流されたとき、コイルの磁界を増強するように重畳された駆動磁石の磁界による駆動力によって、ランセットが高速で動かされる。
【0037】
両方の永久磁石が完全に相殺し合う場合にも、駆動コイルを、極性が反対の2つの永久磁石と組み合わせて用いることにより、駆動コイルだけを用いた場合と比較すると、驚くほど大きい駆動力が得られる。コイルの磁界を、極性が反対の永久磁石の磁界に重畳させることによって、強められた磁界が第1の領域に、そして弱められた磁界が第2の領域に、と局部的に発生する。この局部的に強められた磁界を、軟磁性のコイル鉄心のような駆動要素を磁化するために用いることができる。磁界が駆動要素に作用させる駆動力は、局部的に強められた磁界のために、永久磁石を用いることなくコイルだけを使用した場合より全体としては大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明によるランセット装置の駆動バネが緩和状態にあるときの第1の実施形態の断面図である。
【図2】図1に示した駆動バネが張力がかかった状態にあるときの第1の実施形態の断面図である。
【図3】図1に示した駆動バネが、身体にランセットによる穿刺傷を形成するために伸張状態になったときの第1の実施形態の断面図である。
【図4】図1の実施形態に用いられるコイルに印加される電圧の時間による変化を示す電圧曲線である。
【図5】本発明によるランセット装置の駆動バネが緩和状態にあるときの第2の実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図示した実施形態に基づき、本発明について詳細に説明する。ここで説明する特徴は、本発明の好ましい形態を実現するために個別にまたは組み合わせて用いることができる。
【0040】
図1〜3、および図5に示したランセット装置1は、例えば形成した穿刺傷から採取した体液を分析する定量部を有する多数の種類の分析装置と一体化してもよい。ランセット装置は、また、穿刺傷形成器として用いるために、別の装置に取り付けてもよい。
【0041】
図1〜3に示したランセット装置1の主要な構成要素はランセット駆動装置2であり、ランセット駆動装置2は、ランセットガイドとも呼ばれるプッシュロッド3、駆動バネ4または前進と後退用の一対のバネを備えた駆動手段、鉄ヨーク6を備えたコイル5、およびコイル5と同軸でその内側に配置された永久磁石7を有する。プッシュロッド3は、磁界の中を移動するときに渦電流によってエネルギーの損失が発生することを回避するために、好ましくは磁気的に中立な材料、より好ましくは非導電性材料、とりわけ好ましくはプラスチックを用いて形成される。プッシュロッド3は、永久磁石7および/またはプランジャに固定された磁石7、および交換式ランセット10が装着されたランセット保持部8を担持するとともに、穿刺傷を形成するために、コイルバネとして実施されている駆動バネ4によって、ガイド部11により予め決められた穿刺経路に沿って高速で動かされる。代替の実施形態においては、プッシュロッド3は、鉄またはその他の強磁性体を用いて形成した帯片を担持していてもよい。帯片は、磁界を図2に示した張力がかかった位置に封止することが可能であるが、図2においては、鉄ヨーク6と、鉄ヨーク6を囲繞する磁極片によって封止するようになっている。永久磁石(プランジャに固定された磁石7)として実施されている場合、帯片は、鉄ヨーク6に引き付けられるだけでなく、斥力を受けるとともにコイル5による磁界によってさらに加速するためにも用いられる。
【0042】
ランセット10は、プッシュロッド3のランセット保持部8に着脱可能に取り付けられている。永久磁石7は、プッシュロッド3に対して固定されている。ランセット駆動装置2は、通常は、鉄またはその他の強磁性体を用いて、または永久磁石として形成され、そして、ランセット10を担持したプッシュロッド3に装着される帯片を有していてもよい。磁石7に対向して(また、ガイド部11と同軸に)、鉄ヨーク6とコイル5が、フレーム12に固定されている。プッシュロッド3には、バネ4または前進と後退のための一対のバネが設けられており、その固定端は、フレーム12に固定されている。皮膚接触部13も、また、フレーム12に取り付けられている。コイル5は、保持手段の保持コイルとして用いられるとともに、磁化可能なまたは永久磁石のコイル鉄心6を有する。プッシュロッド3は、鉄ヨーク6によって構成されたコイル鉄心の中に挿通されており、鉄ヨーク6は、プッシュロッド3のためのガイド部11を構成している。
【0043】
ランセット駆動装置2は、駆動バネ4に加えて、ランセット10を後退運動させるための後退用バネを備えていてもよい。駆動バネ4は、後退運動によって再度張力がかかった状態に置かれる。駆動バネ4と後退用バネは、それぞれプッシュロッド3を囲繞するコイルバネとして実施される。駆動バネ4と任意の後退用バネは、それぞれの一端を、図示した実施形態においては拡径部15として実施されている、プッシュロッド3の支持部によって支承されるとともに、他端は、それぞれフレームに固定されている。駆動バネ4と後退用バネは、駆動バネ4が緩和状態になるときに後退用バネが張力がかかった状態に置かれ、後退用バネが緩和状態になるときに駆動バネ4が張力がかかった状態に置かれるように構成されている。「張力の付与」という用語は、本発明においては、特定の作動バネにエネルギーが蓄えられた状態を意味するものとする。そのような状態には、例えば圧縮バネの場合は圧縮することによって、伸張バネの場合には引っ張ることによって、そして板バネの場合には曲げることによって置くことができる。
【0044】
別の実施形態において、駆動手段は、駆動バネ4に加えてまたはそれに替えて、磁化可能なまたは永久磁石として形成されたコイル鉄心を備えた駆動コイルを有していてもよい。例えば、図1に示した鉄ヨーク6を備えたコイル5は、駆動手段としての機能を果たすまたはその一部を担うこともできる。また、駆動コイルと後退用コイルは、同一のコイルであってもよい。
【0045】
図1において、ランセット装置1は、その駆動バネ4が緩和した状態で示されている。ランセット装置を張力がかかった状態に置くためには、プランジャに固定された磁石7が鉄心6に接触するまで(図2)、フィードバック制御によりコイル5に通電してプランジャ3とバネ4とから構成されたバネ質量系の振動を増大させる。この状態のとき、コイル5には通電されていないが、プランジャに固定された磁石7は、バネ4の付勢力に抗して鉄ヨーク6に固定される。
【0046】
プッシュロッド3は、図2では、駆動バネ4が張力が付与させられたときの位置に示されている。駆動バネ4は、ランセット10を担持したプッシュロッド3に作用するコイルバネである。プッシュロッド3および/または駆動バネ4は、コイル5のコイル鉄心または永久磁石と一体化された鉄ヨーク6の磁気的保持力によって上述の位置に保持される。コイルの鉄心は、コイル5に対して固定位置に保持される。ランセット10を穿刺経路に沿って変位させて、とりわけ診断用の体液を採取するための皮膚表面の穿刺傷を形成することができるランセット装置1は、ランセット駆動装置2を有する。ランセット駆動装置2は、ランセットを皮膚表面に向かう穿刺経路に沿って穿刺動作をさせるための駆動力を発生する駆動手段、ランセットを張力がかかった位置に保持するための磁気的保持力を発生する保持手段、保持力を十分に緩和し、そして駆動手段が発生した駆動力によってランセットを皮膚表面に向けて高速で動かす始動手段、およびランセット10によって形成される穿刺傷の深さを制限するための制御ユニットを有し、制御ユニットは、ランセットによる穿刺傷が、穿刺動作の進行中に出される制御ユニットからの指令に基づき所望の深さとなるよう、保持力の緩和の程度を制御することができる。
【0047】
コイル5は、穿刺動作を始動するための開始手段として用いられる。コイル5に電流を流すことによって磁界が生じ、その磁界は、プランジャに固定された磁石7による保持力を相殺して、駆動バネ4を緩和させるよう作用するために、ランセット10を保持したプッシュロッド3が、駆動バネ4が発生した駆動力によって皮膚表面に向けて高速で移動する。
【0048】
図3は、穿刺傷形成時の状態を示す。穿刺傷形成のためにコイル5にパルス電流が通電されたとき、永久磁石7が鉄ヨーク6に作用する保持力が相対的に小さくなる。皮膚14に形成される穿刺傷の深さは、このパルスの強さと継続時間を調節することによって制御ユニットにより制御可能である。必要に応じて、逆方向の電流を所定時間だけ流すことによって、後退時の速度を低速にすることもできる。
【0049】
このために軌道センサまたはその他の種類の位置検出器をコントローラに備える必要はなく、運動方向の速度に関する情報だけが必要であり、その情報は、例えばコイル5の相互誘導を介して得られる。
【0050】
バネを張力がかかった状態に置き、そして穿刺傷の深さを変えるために、「パワー」の大きさを制限することは可能である。例えば電磁的前進力を用いて大きく突出させ、または制動力を用いて突出量を小さくするなどと、穿刺傷の深さを調節するために、始動装置が用いられる。この場合、コイル5は、ランセット10の運動を制御する、ランセット駆動装置2の一種の電磁アクチュエータとして用いられ、このアクチュエータは、前進力および/または制動力を調節してランセットによる穿刺動作を制御することによって、穿刺傷の深さが制限されるよう制御ユニットによる制御の下、駆動される。
【0051】
故障時にあっても、プッシュロッド3を、図1に示した中間位置から、図2に示した張力がかかった状態の始動位置まで復帰させることが可能である。この場合、駆動バネ4、プッシュロッド3、および任意の後退用バネからなる機械系を、コイル5に周期的なサージ電流を流して励起することによって機械的に振動させる。この系を共振振動数で継続的に励起することによって、振動の振幅が大きくなり、ついにはプッシュロッド3が、図2に示した始動つまり初期位置にまで達し、そして磁気的保持力、即ちプランジャに固定された磁石7が鉄ヨーク6に作用させる磁気的保持力、によって張力がかかった位置に保持される。
【0052】
コイル5の誘導性を計測することによって、プランジャに固定された磁石7が鉄ヨークに当接しているか否かが判定できる。また、これにより、プッシュロッド3が、図2に示した張力がかかった位置にあるか否かが確認できる。コイル5の誘導性は、穿刺傷を形成した後、例えば1〜2秒という短時間の中に計測することが好ましい。プッシュロッド3は張力がかかった位置にはないと判定された場合、駆動バネ4とプッシュロッド3からなる機械系は、張力がかかった位置に復帰するための機械的振動をするように制御される。
【0053】
このように、コイル5は、プッシュロッド3の位置を検出するための位置センサとして用いられる。図示したランセット装置1においては、コイル5に流れる電流を遮断するまたは電流の向きを反転するための最適な瞬間が、プッシュロッド3の瞬間的な位置の関数として判定されるよう、別の種類のまたは追加としての位置センサを設けてもよい。コイル電流の制御という簡単な方法に替えて、パルス電流のプロファイルが予め決められているセンサを用いることによって、プッシュロッド3の関数としてコイル電流を制限することも可能である。
【0054】
一般に、磁界は電磁アクチュエータによって発生させる方が有利であり、この磁界は、保持力を部分的に、完全に、または過剰に相殺することによって、ランセット10による穿刺傷の深さを制御する。好ましい実施形態において、電磁アクチュエータは、任意の磁化可能なまたは永久磁石として形成されたコイル鉄心を備えたアクチュエータコイルを有する。好ましい実施形態において、駆動コイル、保持コイルおよびアクチュエータコイルの中の少なくとも2つのコイルは、部品点数を少なくするために同一のコイルである。
【0055】
また、衝撃式穿刺傷形成器についてのここまでの説明で明らかなように、ランセット10の突出量を制限するための機械的停止部は設けられていない。それに替えて、プッシュロッド3とランセット10からなる共振系が、ランセット10を振動の反転位置まで動かすように構成されている。ランセット10を有するプッシュロッド3は、振動の反転位置まで穿刺方向に自由に動くことができるように構成されているために、機械的停止部によってランセット10による穿刺傷の深さが限定されるのではなく、制御ユニットによって、少なくとも実際に形成される穿刺傷の深さの範囲が設定される。図3は、プッシュロッド3が穿刺傷形成位置に移動したときのランセット装置1を示す。穿刺傷形成位置において、例えばプランジャに固定された磁石7のような停止部がガイド部11の限界要素に当接するようなことがないために、穿刺経路も制限されない。勿論、プッシュロッド3とプランジャに固定された磁石7を含む図示した系は、機械的な停止部を有し、停止部は、この系が正常動作の範囲を越えて穿刺方向に動くことを制限する。プッシュロッド3は、例えばユーザによって引き出されることがないよう、鉄ヨーク6に当接する拡径部15を備える。ランセット装置1が適切に使用されている場合、この停止部は、振動の大きさを制限することはない。
【0056】
また、振動を増幅することによって一旦獲得した系のエネルギーは保存される。一旦振動を始めると、プランジャ3は、後退と前進を繰り返す。後退時には殆どエネルギーを消費しないために、エネルギーを補充する必要はない。この事は、従来技術による装置のように、例えば余剰エネルギーが緩衝器で熱に変換して散逸されることなく、次の針刺動作までバネの付勢力として蓄えられることを意味する。保持用の磁石に不都合が生じたときだけ、系に対するエネルギーの補充を行えばよい。ランセット10は、制御ユニットが制御する周期的なサージ電流によって穿刺傷を形成した後に機械的振動を開始することにより、ランセット10を担持したプッシュロッド3は、初期位置つまり張力がかかった位置に復帰して磁気的保持力によりその位置に保持される。従って、ランセット駆動装置2は、ランセット10を穿刺傷形成後に初期位置に復帰させ、そして張力がかかった位置に磁気的保持力によって保持するために、穿刺動作とは反対方向の後退運動中にランセット10を加速するよう、制御ユニットによって制御可能なアクチュエータを有する方が有利である。
【0057】
勿論、図示したランセット装置1においては摩擦力が生じるために、図3に示した針刺状態にあるときに保有するエネルギーと、任意の追加的な後退用バネに蓄えられたエネルギーは、駆動バネ4を新たに張力がかかった状態に置くためには十分ではない。このために、図示した装置において、プッシュロッド3の後退運動は、制御ユニットによって支援される。後退運動中に、プランジャに固定された磁石7をコイル5により加速することによって、プッシュロッド3を図2に示した張力がかかった位置に復帰させるとともに、駆動バネ4を付勢することが可能になる。
【0058】
後退運動を支援するために、穿刺動作を開始するときに用いるコイル5の電流の向きを逆にすることによって極性が反転し、また、プランジャに固定された磁石7の保持力が、コイル5が発生した磁界によって増大するように構成されている。電流の向きを反転させるためには、例えばHブリッジを有する制御ユニットを用いてもよい。極性の切換は、例えばランセット10が穿刺経路の最外部に達したときに行われる。
【0059】
このように、本発明によるランセット装置1は、ランセット駆動装置2とランセット10、とりわけランセット10を担持したプッシュロッド3、ランセット10、および図示した実施形態においては駆動バネ4である駆動手段が、穿刺経路に沿って往復運動する振動系を構成するよう、有利な別の特徴を付加して実施される。ランセット10によって穿刺傷を形成するとき振動系が保有していた振動エネルギーは、穿刺傷形成後に、駆動手段に対する付勢が再開されることにより、その大部分が位置エネルギーに変換され、そして、駆動手段が初期状態になったときに回復するために、保存された運動エネルギーによって次の穿刺傷を形成することが可能になり、補充する必要はない。穿刺傷形成に要するエネルギーは、約1.0〜5.0mJの範囲、典型的には2.5mJである。振動系の振動エネルギーは、穿刺傷形成に要するエネルギーの少なくとも10倍、好ましくは少なくとも50倍、特に好ましくは少なくとも100倍である。
【0060】
ランセット10の穿刺動作と後退運動は、一般に合計で4〜6msの時間継続する。最速の穿刺動作を実現するためには、それ相応の駆動バネ4と、例えば希土類元素で形成した磁石を、磁石7としてプランジャに固定して用いることが好ましい。このように、磁気的保持力を相殺するためには、市販のバッテリより高い電圧および/または大きい電流のバッテリを用いることが好ましい。しかし、市販のバッテリを用いた場合にも、磁気的保持力を相殺することができる強さのパルス電流を、コイル5を制御ユニットによって制御して発生させることができるよう、コイル5は、電流用バッファおよび/または電圧変換器を介してランセット装置1のバッテリのような内蔵電源に接続される。例えば、コンデンサまたは蓄電池、とりわけリチウムポリマー蓄電池は、電流用バッファに好適である。また、好適な電圧変換器は、DC/DCコンバータである。強力なパルス電流を発生させる技術は、例えばカメラのフラッシュに一般的に用いられており、先に説明したランセット装置1にも使用可能であろう。
【0061】
図4は、図1に示した実施形態に用いられたコイル5の電圧曲線である。
【0062】
図5は、本発明によるランセット装置1の代替の実施形態を示す。ランセット装置1は、「リレー方式」のランセット駆動装置2を有し、ランセット駆動装置2は、コイル5が装着されたU字形の鉄ヨーク6と、変位可能つまり前進と後退が可能なプランジャ3のための案内部11を有し、案内部11は、鉄ヨーク6ではなく、むしろそれとは別体の要素に形成されている。ランセット10を担持したプッシュロッド3に作用する駆動バネ4は、この実施形態においてはコイルバネに代えて板バネである。板バネの一端は、フレーム12に挟持して固定されており、他端は、プランジャ3に設けられた受承部17に係合したドッグ16に結合されている。勿論、板バネに加えて、ドッグ16、受承部17またはプランジャ3に係合するコイルバネを設けてもよい。
【0063】
ドッグ16は、コイル5に印加される、時間tによって変化する電圧Uに応じて、鉄ヨーク6に引き付けられるまたは保持される永久磁石7を有する。
【0064】
図5に示した第2の実施形態のその他の特徴について、図1〜3に示した第1の実施形態と同様に説明する。図5は、駆動バネ4が緩和状態にあるときのランセット装置1を示す。ランセット装置を張力がかかった状態に置くために、コイル5と鉄ヨーク6を用いて磁力を発生させ、それにより、永久磁石7は、鉄ヨーク6に接触するまで引き付けられる。この状態になったとき、コイル5への通電は止められるが、永久磁石7は、バネ4の付勢力に抗して鉄ヨーク6に保持/固定される。
【0065】
コイル5は、また、穿刺動作を始動するための開始手段として用いられる。コイル5に電流を流すことによって磁界が発生し、この磁界が、永久磁石7による保持力を相殺するために、駆動バネ4が付勢力を緩和する方向に動作して、ランセット10を担持したプッシュロッド3が、ドッグ16とプッシュロッド3上の受承部17を介して駆動バネ4が発生した駆動力によって、皮膚表面に向けて高速で動かされる。また、皮膚に生じる穿刺傷の深さは、コイル5に流されるパルス電流の強さと継続時間に応じて、制御ユニットによって制御される。さらに、必要に応じ、適切な電力供給を行うことによって、共振系を張力がかかった状態にまで増幅させることは可能である。この点については、図1〜3について行った説明を参照されたい。
【符号の説明】
【0066】
1 ランセット装置
2 ランセット駆動装置
3 プッシュロッド
4 駆動バネ
5 コイル
6 鉄ヨーク
7 永久磁石
8 ランセット保持部
10 ランセット
11 ガイド部
12 フレーム
13 皮膚接触部
14 皮膚
15 拡径部
16 ドッグ
17 受承部
U 電圧
t 時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランセット(10)を穿刺経路に沿って変位させることによって皮膚表面に穿刺傷を形成することができるランセット装置(1)であって、
皮膚表面に向かう穿刺経路に沿って前記ランセット(10)を穿刺動作させるための駆動力を発生する駆動手段を備えたランセット駆動装置(2)と、
前記ランセット(10)を張力がかかった位置に保持するための磁気的保持力を発生する保持手段と、
前記保持力を十分に緩和し、そして前記駆動手段が発生した駆動力によって前記ランセット(10)を皮膚表面に向けて高速で動かす開始手段とを有するランセット装置(1)において、
前記ランセット(10)は、前記制御ユニットにより設定可能な範囲にある前記ランセット(10)による穿刺傷の深さが、機械的な停止部によって制限されないよう、振動の反転位置まで穿刺方向に自由に振動できるように構成されていることを特徴とするランセット装置(1)。
【請求項2】
診断用の体液を採取するために、穿刺傷を形成する請求項1記載のランセット装置(1)。
【請求項3】
前記駆動手段は、前記磁気的保持力によって張力がかかった状態に保持される駆動バネ(4)を有することを特徴とする請求項1または2記載のランセット装置(1)。
【請求項4】
前記ランセット駆動装置(2)は、前記ランセット(10)の運動を引き起こす電磁アクチュエータを有し、前記電磁アクチュエータは、前記制御ユニットによる制御の下、前進力および/または制動力を調節して前記ランセット(10)の穿刺動作を制御することによって、穿刺傷の深さを制限できることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のランセット装置(1)。
【請求項5】
前記電磁アクチュエータは、前記保持力を、部分的に、完全に、または過剰に相殺する磁界を発生させることを特徴とする請求項4記載のランセット装置(1)。
【請求項6】
前記アクチュエータは、穿刺傷形成後に、前記ランセット(10)を初期位置に復帰させ、そして前記磁気的保持力によって張力がかかった位置に保持するために、穿刺方向とは反対の後退方向に前記ランセット(10)を加速するよう前記制御ユニットによって制御可能であることを特徴とする請求項4または5記載のランセット装置(1)。
【請求項7】
前記ランセット駆動装置(2)と前記ランセット(10)、とりわけ、前記ランセット(10)を担持した前記プッシュロッド(3)、前記ランセット(10)、および前記駆動手段は、前記穿刺経路に沿って振動する振動系を構成していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のランセット装置(1)。
【請求項8】
前記駆動手段が、駆動バネ(4)であることを特徴とする請求項7記載のランセット装置(1)。
【請求項9】
前記ランセット(10)による穿刺傷形成時に前記振動系が保有していた振動エネルギーは、穿刺傷形成後に前記駆動手段に対する付勢が再開されることにより、その大部分が位置エネルギーに変換され、そして、前記駆動手段が初期状態になったときに回復するために、保存された運動エネルギーによって次の穿刺傷形成が可能となり、補充の必要がないように実行されることを特徴とする請求項7記載のランセット装置(1)。
【請求項10】
ランセット(10)を穿刺経路に沿って変位させることによって皮膚表面に穿刺傷を形成することができるランセット装置(1)の作動方法であって、
皮膚表面に向かう穿刺経路に沿って前記ランセット(10)を穿刺動作させるための駆動力を駆動手段によって発生するランセット駆動装置(2)と、
前記ランセット(10)を張力がかかった位置に保持するための磁気的保持力を発生する保持手段と、
前記保持力を十分に緩和し、そして前記駆動手段が発生した駆動力によって前記ランセット(10)を皮膚表面に向けて高速で動かす開始手段とを有するランセット装置(1)の作動方法において、
前記ランセット(10)は、前記制御ユニットにより設定可能な範囲にある前記ランセット(10)による穿刺傷の深さが、機械的な停止部によって制限されないよう、振動の反転位置まで穿刺方向に自由に振動できることを特徴とするランセット装置(1)の作動方法。
【請求項11】
前記穿刺傷が、診断用の体液の採取のために形成されることを特徴とする請求項10記載の作動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−167570(P2011−167570A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128569(P2011−128569)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【分割の表示】特願2008−60490(P2008−60490)の分割
【原出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(501205108)エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト (285)
【Fターム(参考)】