説明

リアクトル支持構造

【課題】放熱性に優れ、NV特性に優れたリアクトルの支持構造を提供する。
【解決手段】コア体22にコイル24が巻回されたリアクトルを、150℃以下の融解点をもつ潜熱蓄熱材により形成されたポッティング部材28により筐体26に支持してリアクトル装置を構成する。このリアクトル装置を昇圧コンバータに用いることにより、昇圧コンバータの駆動によりコイル24が発熱しても、潜熱蓄熱材の融解熱により効果的に吸熱することができる。また、融解によりポッティング部材28が液化したときには、リアクトルからの振動を減衰させて筐体26(車体)に伝わらないようにするから、NV特性を良好なものとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアにコイルが巻回されてなるリアクトルをケースに支持するリアクトル支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のリアクトル支持構造としては、コア体の周囲にコイルが巻回されてなるリアクトルをケース(筐体)に収容したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このリアクトル支持構造では、予めボビンに巻回されて一体化されたコイル(ボビンコイル)をケースの底面に接着し、そこにエポキシ樹脂などの樹脂材料を注入してポッティング材を形成している。ここで、ボビンはポッティング材よりも熱伝導率が大きいものが用いられており、これにより、放熱性を向上させることができるとしている。また、ポッティング材として振動伝達率の小さい樹脂材料を用いることで、コア体からケースに伝わる振動を減衰させ、NV(Noise and Vibration)特性を良好なものとすることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−272584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したリアクトル支持構造では、熱伝導率が大きいボビンをケース底面に直接に接着するから、コイルの発熱を効率良く放熱することができるものの、ボビンを樹脂材料により形成されたポッティング材によりケースに支持するから、樹脂材料による振動伝達率ではコア体からケースに伝わる振動を十分に減衰させることができない場合がある。
【0005】
本発明のリアクトル支持構造は、放熱性に優れ、NV特性に優れたリアクトルの支持構造を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のリアクトル支持構造は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のリアクトル支持構造は、
コアにコイルが巻回されてなるリアクトルをケースに支持するリアクトル支持構造において、
融解点が前記リアクトルの使用温度範囲内に設定された潜熱蓄熱材を介して前記リアクトルを前記ケースに支持する
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明のリアクトル支持構造では、潜熱蓄熱材が固体から液体へ相変化する際に熱を吸収する特性を有するため、リアクトルの温度が潜熱蓄熱材の融解点に達したときに、潜熱蓄熱材の相変化に伴ってリアクトルの発熱を吸収することができ、リアクトルの温度上昇を抑制することができる。また、潜熱蓄熱材が液化すると、液化状態の潜熱蓄熱材によりコアやコイルからのノイズの伝達を遮断することができるから、振動や騒音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例であるリアクトル支持構造を用いたリアクトル装置20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】リアクトル装置20を備えるモータ駆動回路10の構成の概略を示す構成図である。
【図3】車両の加減速走行時におけるリアクトル温度の推移を示す説明図である。
【図4】潜熱蓄熱材が液化したときのノイズ伝搬の様子を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明の一実施例としてのリアクトル支持構造を用いたリアクトル装置20の構成の概略を示す構成図であり、図2は、リアクトル装置20を備えるモータ駆動回路10の構成の概略を示す構成図である。
【0012】
リアクトル装置20は、例えば、電気自動車に搭載される走行用モータ12を駆動するモータ駆動回路10に組み込まれている。モータ駆動回路10は、図2に示すように、三相交流により駆動するモータ12と、モータ12を駆動するインバータ14と、インバータ14が接続された高圧側の電力ライン15とバッテリ16が接続された低圧側の電力ライン17とに接続され低圧側の電力ライン17の電圧を昇圧して高圧側の電力ライン15に供給する昇圧コンバータ18とを備える。
【0013】
インバータ14は、図2に示すように、6つのトランジスタT1〜T6と、トランジスタT1〜T6に逆方向に並列接続された6つのダイオードD1〜D6と、により構成されている。トランジスタT1〜T6は、それぞれ高圧側の電力ライン15の正極母線と負極母線とに対してソース側とシンク側になるよう2個ずつペアで配置されており、対となるトランジスタ同士の接続点の各々にモータ12の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。したがって、電力ライン15の正極母線と負極母線との間に電圧が作用している状態で対をなすトランジスタT1〜T6のオン時間の割合を制御することによって三相コイルに回転磁界を形成でき、モータ12を回転駆動することができる。
【0014】
昇圧コンバータ18は、図2に示すように、2つのトランジスタT7,T8と、トランジスタT7,T8に逆方向に並列接続された2つのダイオードD7,D8と、リアクトル装置20とからなる昇圧回路として構成されている。2つのトランジスタT7,T8は、それぞれ高圧側の電力ライン15の正極母線と高圧側の電力ライン15および低圧側の電力ライン17の負極母線とに接続されており、その接続点にリアクトル装置20のコイル24が接続されている。また、リアクトル装置20のコイル24と低圧側の電力ライン17の負極母線とにはそれぞれバッテリ16の正極端子と負極端子とが接続されている。したがって、トランジスタT7,T8をオンオフ制御することにより、低圧側の電力ライン17の電力を昇圧して高圧側の電力ライン15に供給したり、高圧側の電力ライン15の電力を降圧して低圧側の電力ライン17に供給したりすることができる。
【0015】
リアクトル装置20は、図示するように、例えばアルミニウムなどの金属により形成されたケースとしての筐体26と、例えば珪素鋼板が積層されて形成されたコア体22と、コア体22の周囲に巻回されたコイル24と、コア体22とコイル24との間を絶縁するよう設けられたボビン25と、コア体22およびコイル24(リアクトル)を筐体26内で支持するポッティング部材28と、を備えており、筐体26が車体に取り付けられることにより車体に固定されている。
【0016】
筐体26は、コア体22およびコイル24を収容可能な箱体であり、内部はリアクトルを収容した状態で図示しない蓋体が被せられて密閉されている。また、筐体26の底部には、図示しないが、循環する冷却水との熱交換によってコア体22およびコイル24を冷却する冷却器の循環管路が設けられている。
【0017】
コイル24は、バッテリ16の正極端子とトランジスタT7,T8の接続点とに接続されており、昇圧コンバータ18のリアクトルとして機能する。
【0018】
ポッティング部材28には、潜熱蓄熱材(相変化蓄熱材)が用いられている。潜熱蓄熱材は、温度が融解点未満のときには固定の状態であり、温度が融解点に達すると、固体の状態から液体の状態に相変化する。このとき、潜熱蓄熱材が周囲から熱を吸収することにより、コイル24が冷却される。本実施例では、潜熱蓄熱材として、融解点がリアクトル装置20の使用温度範囲の上限温度よりも低い温度(例えば、150℃以下)のものを採用するものとした。図3に、車両の加減速走行時におけるリアクトル温度の推移を示す。リアクトル温度(コイル24の温度)は、コイル24に比較的大きな電流が流れる加減速走行時に大きく上昇するが、潜熱蓄熱材の融解点に達して相変化する際に吸熱されるため、温度上昇を効果的に抑制できることがわかる。また、図4に、潜熱蓄熱材が液化したときのノイズ伝搬の様子を示す。昇圧コンバータ18は、トランジスタT7,T8のスイッチングに伴う交番磁界によりコア体22やコイル24を振動させる。ポッティング部材28が固体状態のときには、コア体22やコイル24の振動はポッティング部材28を介して車体に伝搬し(図4(a)参照)、乗員に振動や騒音を感じさせる。一方、コイル24の熱によりポッティング部材28が液化すると、コア体22やコイル24の振動は液化状態のポッティング部材28により減衰されるため(図4(b)参照)、乗員に振動や騒音を感じさせないようにすることができる。
【0019】
以上説明した実施例のリアクトル支持構造を用いたリアクトル装置20によれば、コア体22にコイル24が巻回されたリアクトルを、潜熱蓄熱材で形成されたポッティング部材28により筐体26に支持するから、昇圧コンバータ18の駆動(トランジスタT7,T8のオンオフ駆動)によりコイル24が発熱しても、潜熱蓄熱材の融解熱により効果的に吸熱することができる。しかも、融解によりポッティング部材28が液化したときには、リアクトルからの振動を減衰させて筐体26に伝わらないようにするから、NV特性を良好なものとすることができる。
【0020】
実施例では、本発明を、電気自動車に搭載された昇圧コンバータのリアクトルに適用するものとしたが、これに限られず、エンジンとモータとを備えるハイブリッド自動車に搭載されたコンバータのリアクトルに適用するものとしてもよい。また、車両以外の駆動装置が備えるリアクトルに適用するものとしても構わない。
【0021】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、コア体22が「コア」に相当し、コイル24が「コイル」に相当し、筐体26が「ケース」に相当する。なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0022】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、リアクトル装置の製造産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0024】
10 モータ駆動回路、12 モータ、14 インバータ、15 高圧側の電力ライン、16 バッテリ、17 低圧側の電力ライン、18 昇圧コンバータ、20 リアクトル装置、22 コア体、24 コイル、25 ボビン、26 筐体、28 ポッティング部材、T1〜T6,T7,T8 トランジスタ、D1〜D6,D7,D8 ダイオード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアにコイルが巻回されてなるリアクトルをケースに支持するリアクトル支持構造において、
融解点が前記リアクトルの使用温度範囲内に設定された潜熱蓄熱材を介して前記リアクトルを前記ケースに支持する
ことを特徴とするリアクトル支持構造。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−38324(P2013−38324A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175046(P2011−175046)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】