説明

リグノセルロース系バイオマスからメタンガスを生成するための微生物担持担体の作製方法

【課題】リグノセルロース系バイオマスをメタン発酵に供する前段階でのエネルギー消費を抑えながらも、リグノセルロース系バイオマスのメタン発酵を促進することのできる微生物担持担体を作製する。
【解決手段】嫌気性セルロース分解菌及び酢酸資化性メタン菌を少なくとも含む微生物群集が添加された懸濁液に微生物を担持し得る担体を添加すると共に、懸濁液にリグノセルロース系バイオマスを添加して微生物群集によりリグノセルロース系バイオマスの分解反応を進行させる工程を含むようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース系バイオマスからメタンガスを生成するための微生物担持担体の作製方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、リグノセルロース系バイオマス、特に稲藁等の藁からメタンガスを生成するのに好適な微生物担持担体の作製方法と、この微生物担持担体を利用したメタンガス生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース、ヘミセルロース及びリグニンを含むバイオマスであるリグノセルロース系バイオマスは、地球上に存在する主要なバイオマスであり、カーボンニュートラルなエネルギー源としての利用の拡大が望まれている。
【0003】
リグノセルロース系バイオマスとしては、例えば、針葉樹材、広葉樹材、非樹木系材及びその廃棄物等が挙げられる。この中でも特に、非樹木系材の廃棄物に該当する稲、大麦、小麦及びトウモロコシ等の藁が世界各国において毎年大量に発生し、その処分に苦慮している。このことはわが国においても例外ではない。わが国では主要農産物である稲の非可食部として稲藁が毎年大量に発生し、その処分に苦慮している状況にある。そこで、稲藁等の藁の有効利用が切望されている状況にある。
【0004】
ところで、リグノセルロース系バイオマスをエネルギー源として利用する方法の一つとして、メタン発酵によりリグノセルロース系バイオマスを炭素源としてメタンガスを生成し、このメタンガスをエネルギーとして利用することが提案されている。ところが、リグノセルロース系バイオマスに含まれる難分解物質であるリグニンによってセルロースとヘミセルロースの生物分解が阻害されてしまうことから、リグノセルロース系バイオマスを直接メタン発酵に供しても、メタンガスを高効率に生成できないことが問題となっていた。
【0005】
そこで、この問題を解決する方法として、リグノセルロース系バイオマスに何らかの前処理を施すことにより、生物分解されやすい状態としてから、メタン発酵に供する方法が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1では、リグノセルロース系バイオマスを白色腐朽菌を用いて腐朽させた後、腐朽化されたバイオマスを耐圧容器に入れて高温(180℃以下)の蒸気を導入して一定時間保持してから耐圧容器を一気に大気解放してバイオマスを破砕(蒸煮爆砕処理)し、破砕されたバイオマスをメタン発酵に供するようにしている。
【0007】
また、特許文献2では、リグノセルロース系バイオマスを乾燥・微細化する手段と、乾燥・微細化過程にあるバイオマスを供給オゾンと反応させて含有リグニンを分解するオゾン反応手段とを有するオゾンリアクターによって、リグノセルロース系バイオマスを前処理してから、メタン発酵に供するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−237164号公報
【特許文献2】特開2005−81317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、白色腐朽菌による腐朽処理を行う上で白色腐朽菌に適した環境(温度・湿度)を維持するためのエネルギーや、蒸煮爆砕処理に用いる高温水蒸気を発生させるためのエネルギーを必要とすることから、リグノセルロース系バイオマスをメタン発酵に供する前段階でエネルギーが消費されて、リグノセルロース系バイオマスからのエネルギー生産効率が低下してしまうという問題を抱えていた。
【0010】
特許文献2に記載された方法においても、オゾンを発生させるためのエネルギーが必要であり、リグノセルロース系バイオマスをメタン発酵に供する前段階でエネルギーが消費されて、リグノセルロース系バイオマスからのエネルギー生産効率が低下してしまうという特許文献1と同様の問題を抱えていた。
【0011】
また、上記の通り、リグノセルロース系バイオマスは地球上に存在する主要なバイオマスであることから入手が容易であると共に、特に稲藁等の藁については、その有効利用が切望されている状況にある。かかる状況下、リグノセルロース系バイオマスをメタン発酵に供する前段階でのエネルギー消費を抑えながらも、リグノセルロース系バイオマスからのメタンガス生成を効率よく行うことのできる技術を確立することができれば、新たなエネルギー生産技術として極めて有効なものとなる。
【0012】
そこで、本発明は、リグノセルロース系バイオマスをメタン発酵に供する前段階でのエネルギー消費を抑えながらも、リグノセルロース系バイオマスのメタン発酵を促進することのできる微生物担持担体を作製する方法を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、リグノセルロース系バイオマスをメタン発酵に供する前段階でのエネルギー消費を抑えながらも、リグノセルロース系バイオマスのメタン発酵を促進させて、メタンガス生成を効率よく行うことのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる課題を解決するため、本願発明者等は鋭意研究を行った。まず、メタン発酵液に稲藁を添加してメタン発酵を行った。その結果、水理学的滞留時間を15日(有機物負荷量:620mgCOD/L/日)に設定して15日間経過した後、水理学的滞留時間を10日(有機物負荷量:970mgCOD/L/日)に設定すると、メタンガス生成速度が徐々に低下することが確認された。ところが、メタン発酵液に稲藁と共に炭素繊維不織布を添加して同様の実験を行ったところ、意外にも水理学的滞留時間を10日に設定してもメタンガス生成速度が低下することなく、実験終了時の45日目まで増加し続けることが確認された。
【0015】
また、本願発明者等は、炭素繊維不織布の添加の有無によるメタン発酵状態の差異を確認すべく各種分析を行ったところ、炭素繊維不織布を添加しなかった場合には、メタン発酵液中に揮発性脂肪酸が大量に蓄積していた。これに対し、炭素繊維不織布を添加した場合には、メタン発酵液中における揮発性脂肪酸の蓄積が殆ど見られなかった。このことから、リグノセルロース系バイオマスを直接メタン発酵に供すると、揮発性脂肪酸が蓄積し易く、このことが、メタンガス生成速度が徐々に低下した要因であることを突き止めると共に、炭素繊維不織布をメタン発酵液に添加することで、揮発性脂肪酸の蓄積を防ぐ効果があることを知見するに至った。
【0016】
そこで、本願発明者等は、炭素繊維不織布をメタン発酵液に添加することにより揮発性脂肪酸の蓄積を防ぐことが出来る理由を探るべく、炭素繊維不織布に付着している菌叢を遺伝子工学的に解析した。その結果、揮発性脂肪酸をメタンガスに変換することのできる酢酸資化性メタン菌が炭素繊維不織布に優占的に担持されていることを確認した。さらに、嫌気性セルロース分解菌が炭素繊維不織布に担持されていることも確認した。
【0017】
本願発明者等は、この解析結果から、炭素繊維不織布等の微生物を担持し得る疎水性担体に嫌気性セルロース分解菌を担持させると共に、酢酸資化性メタン菌を担持させて、セルロース分解能とセルロースの分解産物である揮発性脂肪酸の蓄積抑制能及び揮発性脂肪酸からのメタンガス生成能を備えた微生物担持担体を作製できることを知見した。さらに、この微生物担持担体を利用してリグノセルロース系バイオマスのメタン発酵を行うことで、リグノセルロース系バイオマスから効率よくメタンガスを生成できることを知見し、本願発明を完成するに至った。
【0018】
即ち、本発明のリグノセルロース系バイオマスからのメタンガス生成用の微生物担持担体の作製方法は、嫌気性セルロース分解菌及び酢酸資化性メタン菌を少なくとも含む微生物群集が添加された懸濁液に微生物を担持し得る担体を添加すると共に、懸濁液にリグノセルロース系バイオマスを添加して微生物群集によりリグノセルロース系バイオマスの分解反応を進行させる工程を含むようにしている。
【0019】
ここで、本発明の微生物担持担体の作製方法において、微生物群集には、嫌気性セルロース分解菌及び酢酸資化性メタン菌に加えて、さらに水素資化性メタン菌及び糖分解菌の少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0020】
また、本発明の微生物担持担体の作製方法において、懸濁液はメタン発酵汚泥またはメタン発酵汚泥含有液であることが好ましい。
【0021】
さらに、本発明の微生物担持担体の作製方法において、疎水性担体が炭素繊維であることが好ましい。
【0022】
また、本発明の微生物担持担体の作製方法において、リグノセルロース系バイオマスは藁であることが好ましく、稲藁であることがさらに好ましい。
【0023】
次に、本発明のリグノセルロース系バイオマスからのメタンガス生成方法は、本発明の作製方法により得られた微生物担持担体を用いてリグノセルロース系バイオマスをメタン発酵処理するようにしている。
【0024】
また、本発明のメタンガス生成方法は、メタン発酵液に、酢酸資化性メタン菌が担持された疎水性担体とリグノセルロース系バイオマスとを投入してメタン発酵処理するようにしている。
【0025】
ここで、本発明のメタンガス生成方法において、リグノセルロース系バイオマスは藁であることが好ましく、稲藁であることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の微生物担持担体の作製方法によれば、リグノセルロース系バイオマスを直接メタン発酵に供しても、これを効率よく分解してメタンガスを生成させることができる微生物担持担体を作製することができる。したがって、リグノセルロース系バイオマスをメタン発酵に供する前段階でエネルギーを消費することなく、リグノセルロース系バイオマスからのメタンガス生成を効率よく行うことができる。しかも、本発明の微生物担持担体の作製方法によれば、担体に微生物を担持させる過程においてもリグノセルロース系バイオマスを分解しながらメタンガスを生成させることができるという利点がある。
【0027】
また、本発明のメタンガス生成方法によれば、リグノセルロース系バイオマスを直接メタン発酵に供するようにしているので、リグノセルロース系バイオマスをメタン発酵に供する前段階でエネルギーを消費することなく、リグノセルロース系バイオマスからのメタンガス生成を効率よく行うことができる。
【0028】
さらに、本発明の微生物担持担体の作製方法及びメタンガス生成方法によれば、地球上に存在する主要なバイオマスであるリグノセルロース系バイオマスを原料としていることから、原料の入手を容易なものとして、メタンガス生成の簡便性をより高めることができる。また、わが国をはじめとして世界各国で毎年大量に発生してその処分が問題となっている稲藁等の藁をエネルギー源として有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】リアクターの運転条件(OLR、HRT)を示す図である。
【図2】ガス生成速度の経時変化を示す図である。
【図3】揮発性脂肪酸(VFA)濃度の経時変化を示す図である。
【図4】実施例1と比較例1におけるCOD除去効率の違いを示す図である。
【図5】実施例1と比較例1におけるSS除去効率の違いを示す図である。
【図6】溶解性糖の量の経時変化を示す図である。
【図7】T−RFLPにより古細菌群集構造を解析した結果を示す図である。
【図8】T−RFLPにより細菌群集構造を解析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0031】
<微生物担持担体の作製方法>
本発明のリグノセルロース系バイオマスからのメタンガス生成用の微生物担持担体の作製方法は、嫌気性セルロース分解菌及び酢酸資化性メタン菌を少なくとも含む微生物群集が添加された懸濁液に微生物を担持し得る担体を添加すると共に、懸濁液にリグノセルロース系バイオマスを添加して微生物群集によりリグノセルロース系バイオマスの分解反応を進行させる工程を含むようにしている。
【0032】
本発明に使用される微生物群集は、嫌気性セルロース分解菌及び酢酸資化性メタン菌を少なくとも含めばよく、嫌気性セルロース分解菌及び酢酸資化性メタン菌のみからなる微生物群集を使用してもよいし、嫌気性セルロース分解菌及び酢酸資化性メタン菌とこれら以外の微生物を含む微生物群集を使用してもよい。例えば、人工的に培養された嫌気性セルロース分解菌と酢酸資化性メタン菌のみによって微生物群集を構成するようにしてもよいし、嫌気性セルロース分解菌及び酢酸資化性メタン菌の双方を含む汚泥や土壌を微生物群集として用いてもよいし、嫌気性セルロース分解菌を含む汚泥や土壌と酢酸資化性メタン菌を含む汚泥や土壌を混ぜて形成した微生物群集を用いるようにしてもよい。
【0033】
嫌気性セルロース分解菌としては、嫌気環境で進行するメタン発酵過程においてセルロース分解能を発揮する公知または新規の微生物を使用することができる。例えば、クロストリジウム(Clostridium)属の微生物を使用することができるが、これに限定されるものはない。
【0034】
嫌気性セルロース分解菌を担体に担持させることによって、微生物担持担体にセルロース分解能を付与することができる。
【0035】
酢酸資化性メタン菌としては、嫌気環境で進行するメタン発酵過程において酢酸類からメタンガスを生成する能力を発揮する公知または新規の微生物を使用することができる。例えば、メタノサルシナ(Methanosarcina)属の微生物を使用することができ、Methanosarcina thermophilaを好適に使用することができるが、酢酸資化性メタン菌はこれに限定されるものではない。
【0036】
酢酸資化性メタン菌を担体に担持させることによって、セルロースの分解産物である酢酸、プロピオン酸及び酪酸等の揮発性脂肪酸からメタンガスを生成させることができると共に、揮発性脂肪酸を消費させてその蓄積を防ぐことができる。さらに、セルロースの分解産物である揮発性脂肪酸が消費される結果として、セルロースから揮発性脂肪酸が生成される反応が進行し易くなる。したがって、セルロースの分解反応の進行を促進させることができる。
【0037】
ここで、本発明に使用される微生物群集には、さらに水素資化性メタン菌及び糖分解菌の少なくともいずれかをさらに含むようにしてもよい。
【0038】
水素資化性メタン菌としては、嫌気環境で進行するメタン発酵過程において水素及び二酸化炭素からメタンガスを生成する能力を発揮することのできる公知あるいは新規の微生物を使用することができる。例えば、メタノバクテリウム(Methanobacterium)属の微生物やメタノサーモバクター(Methanothermobacter)属の微生物を使用することができ、Methanobacterium formicicumやMethanothermobacter thermautotrophicusを好適に使用することができる。但し、水素資化性メタン菌はこれらに限定されるものではない。
【0039】
水素資化性メタン菌を担体に担持させることによって、セルロースの分解産物である水素及び二酸化炭素からメタンガスを生成させることができる。また、セルロースの分解産物である水素及び二酸化炭素が消費される結果として、セルロースから水素及び二酸化炭素が生成される反応が進行し易くなる。したがって、セルロースの分解反応の進行を促進させることができる。
【0040】
糖分解菌としては、嫌気環境で進行するメタン発酵過程においてセルロース及びヘミセルロースの分解生成物である糖類、例えばグルコース等を分解する能力を発揮することのできる公知あるいは新規の微生物を使用することができる。例えば、グルコース分解菌であるアナエロバクルム(Anaerobaculum)属の微生物を使用することができる。但し、糖分解菌はこれに限定されるものではない。
【0041】
糖分解菌を担体に担持させることによって、セルロースの分解産物であるグルコース等の糖類が分解されて消費される結果として、セルロースから糖類が生成される反応が進行し易くなる。したがって、セルロースの分解反応の進行を促進させることができる。
【0042】
ここで、本発明に使用する微生物群集としては、メタン発酵汚泥が好適である。メタン発酵汚泥には、通常、嫌気性セルロース分解菌、酢酸資化性メタン菌、水素資化性メタン菌及び糖分解菌が含まれており、担体にこれらの微生物を担持させてリグノセルロース系バイオマスからのメタンガス生成を極めて効率よく実施することができる微生物担持担体の作製が可能となる。
【0043】
また、微生物群集としてメタン発酵汚泥を用いた場合、担体に担持される細菌群集の多様化が起こることが確認されている。したがって、担体に担持される細菌群集の多様化がリグノセルロース系バイオマスからのメタンガス生成効率の向上に何らかの形で寄与していることも考えられる。
【0044】
微生物群集が添加された懸濁液は、微生物群集を例えば水、好適には微生物の生育に好ましい無機塩類等を溶解した水に微生物群集を添加して調製される。また、微生物群集の添加量は、特に限定されるものではないが、懸濁液の流動性が十分に確保されながらも懸濁液中の微生物の存在量をできるだけ高めることのできる量とすることが好適である。例えば、微生物群集として、メタン発酵汚泥を用いる場合には、微生物群集:水=4:1(体積比)としたメタン発酵汚泥含有液とすることが好適であるが、この混合比に限定されるものではない。また、水を添加せずにメタン発酵汚泥そのものを懸濁液として用いるようにしてもよいし、メタン発酵汚泥に微生物の生育に好ましい無機塩類等を直接添加したものを懸濁液として用いるようにしてもよい。
【0045】
本発明に使用されるリグノセルロース系バイオマスは特に限定されるものではなく、針葉樹材、広葉樹材、非樹木系材及びその廃棄物等を使用することができる。具体的には、スギ、エゾマツ、カラマツ、クロマツ、トドマツ、ヒメコマツ、イチイ、ネズコ、ハリモミ、イラモミ、イヌマキ、モミ、サワラ、トガサワラ、アスナロ、ヒバ、ツガ、コメツガ、ヒノキ、イチイ、イヌガヤ、トウヒ、イエローシーダー(ベイヒバ)、ロウソンヒノキ(ベイヒ)、ダグラスファー(ベイマツ)、シトカスプルース(ベイトウヒ)、ラジアータマツ、イースタンスプルース、イースタンホワイトパイン、ウェスタンラーチ、ウェスタンファー、ウェスタンヘムロック及びタマラック等の針葉樹材、アスベン、アメリカンブラックチェリー、イエローポプラ、ウォールナット、カバザクラ、ケヤキ、シカモア、シルバーチェリー、タモ、チーク、チャイニーズエルム、チャイニーズメープル、ナラ、ハードメイプル、ヒッコリー、ピーカン、ホワイトアッシュ、ホワイトオーク、ホワイトバーチ、レッドオーク、アカシア及びユーカリ等の広葉樹材、稲、サトウキビ、麦、トウモロコシ、パイナップル、オイルパーム、ケナフ、綿、アルファルファ、チモシー、タケ、ササ、テンサイ等の非樹木系材料、及びこれらの廃棄物が挙げられる。この中でも特に、非樹木系材の廃棄物に該当し、世界各国で毎年大量に発生している稲、麦(大麦、小麦)、トウモロコシ等の藁を好適に使用でき、特にわが国で毎年大量に発生している稲藁を使用することがさらに好適である。
【0046】
本発明に使用される微生物を担持し得る疎水性担体は、微生物を担持することのできる三次元構造を有するもの、例えば、高い空隙率によって多大な表面積が確保されている担体を使用することができる。具体的には、例えば、空隙率が25%〜98%を使用すればよいが、空隙率が50%〜98%のものをより好適に使用でき、空隙率が98%のものをさらに好適に使用することができる。そして、疎水性を確保するための担体の素材としては、炭素製、ポリエチレン製、ポリプロピレン製のものを好適に使用することができ、特に炭素製のものを好適に使用することができる。炭素製の素材は、高い空隙率の確保が容易であり、例えば炭素繊維不織布は、高い空隙率(98%)を確保し易く、しかも安価に入手でき、好適である。
【0047】
尚、微生物を担持し得る疎水性担体の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、シート状、球状、チューブ状等とすればよい。また、微生物を担持し得る疎水性担体は、その全体を上記素材で形成する必要はなく、例えば基材表面を上記素材で覆ったものを微生物を担持し得る疎水性担体として使用するようにしてもよい。
【0048】
微生物群集が添加された懸濁液に対するリグノセルロース系バイオマスの添加量は、懸濁液に含まれる微生物群集の量(微生物数)に応じて最適な量が変化するので、その値は一概には規定できないが、懸濁液中の微生物群集によるメタン発酵反応の進行速度が低下したり、停止したりすることのない有機物負荷となる量とすればよい。尚、リグノセルロース系バイオマスは、そのまま添加してもよいが、粉砕処理して懸濁液との接触面積を高めてから添加することで、セルロースの分解反応を促進させることができ、好適である。
【0049】
微生物群集が添加された懸濁液に対する微生物を担持し得る疎水性担体の添加量は、特に限定されるものではないが、微生物を担持し得る疎水性担体を懸濁液に添加し過ぎると、懸濁液の流動性が確保し難くなるので、懸濁液の流動性を確保し得る範囲で添加することが好適である。
【0050】
微生物群集が添加された懸濁液にリグノセルロース系バイオマスを添加することにより、懸濁液中の微生物群集によるリグノセルロース系バイオマスの分解反応が進行する。この分解反応が進行する中で、微生物を担持し得る疎水性担体に、嫌気性セルロース分解菌及び酢酸資化性メタン菌、さらには水素資化性メタン菌及び糖分解菌の少なくともいずれかが徐々に担持され、特に酢酸資化性メタン菌が優占的に担持される。また、微生物群集としてメタン発酵汚泥を用いた場合には、担体上に多様な細菌群集が担持される。また、この過程でリグノセルロース系バイオマスを分解しながらメタンガスを生成させることができる。尚、リグノセルロース系バイオマスの分解反応を進行させるために、懸濁液は嫌気状態に維持しておく。また、反応進行中は懸濁液を攪拌することが好ましい。
【0051】
ここで、微生物群集が添加された懸濁液と微生物を担持し得る疎水性担体との接触時間は、懸濁液中の微生物群集の量(微生物数)やリグノセルロース系バイオマスの添加量(有機物負荷量)に応じて最適な時間が変化することから、一概には規定できないが、基質であるリグノセルロース系バイオマスの全量がメタンに変換されたと仮定した場合のガス発生量の70%以上のガス発生が達成されるに至るまでの時間、具体的には、負荷したCOD(mg換算)を0.35倍することで算出されるガス発生量(mL)の70%以上のガス発生が達成されるに至るまでの時間、つまり、少なくとも負荷したCOD(mg換算)の0.245倍のガス発生量(mL)が達成されるに至るまでの時間とすることが好適である。
【0052】
本願発明者等の実験によると、メタン発酵汚泥200gを添加した懸濁液250mLについて、水理学的滞留時間を15日とし、有機物負荷量を620mgCOD/L/日とした場合、6日間でミリグラム換算のCODの0.35倍のガス発生量(mL)の70%以上のガス発生が達成されることが確認されている。
【0053】
ここで、懸濁液の有機物負荷量は、常時一定としてもよいが、時間が経過するにつれて、微生物を担持し得る疎水性担体に所望の微生物が徐々に担持されて、メタン発酵処理能が少しづつ向上するので、有機物負荷量は少しづつ上昇させてもよい。この場合、微生物群集が添加された懸濁液と微生物を担持し得る疎水性担体との接触時間を短縮することができる。
【0054】
<メタンガスの生成方法>
本発明の作製方法により得られた微生物担持担体を用いてリグノセルロース系バイオマスをメタン発酵処理することで、リグノセルロース系バイオマスからメタンガスを効率よく生成することができる。
【0055】
リグノセルロース系バイオマスは、直接メタン発酵に供すると、メタン発酵液に揮発性脂肪酸が蓄積してメタン発酵の進行が遅くなったり、停止したりし易い。このことが、リグノセルロース系バイオマスからメタンガスを効率よく生成することのできない要因となっていた。本発明の作製方法により得られる微生物担持担体には、揮発性脂肪酸を消費してメタンガスを生成する酢酸資化性メタン菌が優占的に担持されている。したがって、揮発性脂肪酸を消費してメタン発酵液に揮発性脂肪酸が蓄積するのを防ぎながら、メタンガスを生成することができる。しかも、セルロースの分解産物である揮発性脂肪酸が消費される結果として、セルロースから揮発性脂肪酸が生成される反応が進行し易くなる。したがって、セルロースの分解反応の進行を促進させることができる。
【0056】
また、微生物担持担体に水素資化性メタン菌が担持されている場合には、セルロースの分解産物である水素及び二酸化炭素からメタンガスを生成させることができる。また、セルロースの分解産物である水素及び二酸化炭素が消費される結果として、セルロースから水素及び二酸化炭素が生成される反応を進行させ易くなる。したがって、セルロースの分解反応の進行を促進させることができる。
【0057】
さらに、微生物担持担体に糖分解菌を担体に担持させることによって、セルロースの分解産物であるグルコース等の糖類が分解されて消費される結果として、セルロースから糖類が生成される反応を進行させ易くなる。したがって、セルロースの分解反応の進行を促進させることができる。
【0058】
また、微生物群集としてメタン発酵汚泥を用いて作製した微生物担持担体には、嫌気性セルロース分解菌、酢酸資化性メタン菌、水素資化性メタン菌及び糖分解菌が担持されていることから、リグノセルロース系バイオマスからのメタンガス生成を極めて効率よく実施することができる。しかも、この場合には、微生物担持担体に多様な細菌群集が担持される。この多様な細菌群集がリグノセルロース系バイオマスからのメタンガス生成効率の向上に何らかの形で寄与していることも考えられる。
【0059】
尚、本発明の作製方法により得られた微生物担持担体は、水、好適には微生物の生育に好ましい無機塩類等を溶解した水に添加してメタン発酵を行うようにしてもよいし、既存のメタン発酵槽のメタン発酵液に添加してメタン発酵を行うようにしてもよい。また、本発明の微生物担持担体の作製方法とメタンガス生成方法を連続して行うようにしてもよい。即ち、本発明の作製方法により得られた微生物担持担体を微生物群集が添加された懸濁液に接触(浸漬)させたまま、リグノセルロース系バイオマスを添加してメタン発酵を進行させるようにしてもよい。
【0060】
リグノセルロース系バイオマスは、上記と同様のものを用いることができる。本願発明者等の実験によれば、リグノセルロース系バイオマスとして、乾燥重量でセルロースを32〜37%、ヘミセルロースを29〜37%及びリグニンを5〜15%含む稲藁を直接メタン発酵に供しても、メタンガスを効率よく生成できた。したがって、リグノセルロース系バイオマス全般について、本発明を適用できるものと考えられるが、この組成と類似あるいは同様の組成を有する藁等のリグノセルロース系バイオマスを特に好適に使用できる。また、メタン発酵液との接触面積を増大させてセルロース分解反応を促進させる上で、粉砕処理することが好適であるが、粉砕処理することなく、未処理のままメタン発酵に供してもよい。
【0061】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、少なくとも嫌気性セルロース分解菌及び酢酸資化性メタン菌が担持された疎水性担体を用いてリグノセルロース系バイオマスをメタン発酵処理するようにしていたが、酢酸資化性メタン菌のみが担持された疎水性担体をメタン発酵液に投入すると共に、メタン発酵液にリグノセルロース系バイオマスを投入してメタン発酵処理するようにしてもよい。メタン発酵液には、嫌気性セルロース分解菌が含まれているので、酢酸資化性メタン菌が担持された疎水性担体をメタン発酵液に投入することで、リグノセルロース系バイオマスを分解しながらも、揮発性脂肪酸の蓄積を抑えて、効率よくメタンガス生成を行うことができる。しかも、メタン発酵処理を行う中で、担体にはメタン発酵液中の嫌気性セルロース分解菌が付着し、さらには、担体に担持される細菌群集の多様化が起こることから、これらの効果によっても、メタンガス生成を効率よく行うことができるようになる。
【0062】
尚、酢酸資化性メタン菌のみが担持された疎水性担体は、例えば、酢酸資化性メタン菌あるいは酢酸資化性メタン菌を含む微生物群集が添加された懸濁液に酢酸資化性メタン菌のメタン生成源となる物質である揮発性脂肪酸を添加し、上記と同様の微生物を担持し得る疎水性担体を懸濁液に浸漬することで作製することができる。懸濁液と疎水性担体の接触時間については、上記と同様の方法で決定することができる。また、リグノセルロース系バイオマスについても、上記と同様のものを用いることができる。
【実施例】
【0063】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0064】
<実施例1>
リアクター内に稲藁基質とメタン発酵液と炭素繊維不織布を収容し、稲藁からのメタンガス生成について検証した。
【0065】
<比較例1>
リアクター内に炭素繊維不織布を収容しなかった以外は、実施例1と同様の条件として、稲藁からのメタンガス生成について検証した。
【0066】
<実験方法>
実施例1及び比較例1は、以下に具体的に説明する方法で実施した。
【0067】
(1)稲藁基質の調製
日本の農場より入手した稲藁を2mm未満に細断した。この稲藁を以下のように配合して稲藁基質を調製した。尚、酵母エキスは和光純薬工業株式会社製のものを使用し、DSMZミディアム131微量元素溶液(以下、微量元素溶液と呼ぶ)及びDSMZミディアム141ビタミン溶液(以下、ビタミン溶液と呼ぶ)はDSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen and Zellkulturen)製のものを使用した。
[稲藁基質の組成(水1L中の組成)]
稲藁 :10g/L
KHPO:0.8g/L
HPO:1.6g/L
NHCl :1g/L
NaHCO:2g/L
MgCl・6HO: 0.1g/L
CaCl・2HO: 0.2g/L
NaCl: 0.8g/L
酵母エキス: 1g/L
微量元素溶液: 10mL/L
ビタミン溶液: 10mL/L
【0068】
稲藁基質のCODcr(重クロム酸塩を用いた場合の化学的酸素要求量)はおよそ11870mgCODcr/Lであった。
【0069】
(2)リアクターの構成
デュラン社製の250mL容ガラス瓶をリアクターとして用いた。このガラス瓶を6本用意し、そのうちの3本を実施例1の実験に使用し、残りの3本を比較例1の実験に使用した。これらのガラス瓶に、生ゴミからの安定したガス生成が行われていた好熱性嫌気性消化槽(メタン発酵槽)内から採取した汚泥をそれぞれ等量ずつ(200g)入れ、さらに稲藁基質をそれぞれ50mL添加した。
【0070】
実施例1の実験に使用した3本のガラス瓶には、さらに2枚の炭素繊維不織布(タイプ:ピッチ、空隙率:約98%、径:30.0mm、高さ:70.0mm、厚さ:2.4mm、以下、CFTと呼ぶ。)を入れた。
【0071】
また、各ガラス瓶には、リアクターを攪拌しながら運転するための攪拌子を収容した。
【0072】
各ガラス瓶は収容物を全て入れた後、窒素ガス置換してからシリコーンゴム栓で密封し、ガラス瓶内の嫌気環境を確保した。
【0073】
(3)リアクターの運転条件
リアクターは、セミバッチモードで運転した。具体的には、実験開始から15日目までは、3日に1回、シリンジを用いてガラス瓶内の内容物を50mL抜き取り、50mLの稲藁基質を新たに添加した。実験開始16日目から実験開始45日目までは、この操作を2日に1回行った。この運転条件により、実験期間中のOLR(有機物負荷量、図1中の◆)及びHRT(水理学的滞留時間、図1中の■)は図1に示す通りとなった。
【0074】
また、上記操作を行う際に、0.5NのNaOH水溶液を適宜添加して、ガラス瓶内の内容物のpHを7.5付近に維持した。実験期間中は、リアクターを55℃に維持した。また、実験期間中は、ガラス瓶内の内容物を電磁攪拌機により攪拌し続けた。
【0075】
(4)化学成分分析
バイオガス生成量は、水上置換法により測定した。また、バイオガスの組成分析は、ガスクロマトグラフィー(Agilent製、装置名6890N)により行った。
【0076】
また、シリンジにより抜き取られたガラス瓶内の内容物について、低級脂肪酸濃度及びグルコース濃度を分析した。揮発性脂肪酸濃度分析は、液体クロマトグラフィー(GLサイエンス製、装置名GL-7400)により行った。グルコース濃度分析は、アンスロン法により分光光度計を用いて行った。
【0077】
さらに、実験終了後(45日目)のガラス瓶内の内容物について、COD(化学的酸素要求量)とSS(浮遊固形分量)の分析を行った。COD分析は、JIS K 0120−20(HACH製、装置名DR800)により行った。SS分析は、JIS K 0102−14.1(ヤマト製、装置名DN63)により行った。
【0078】
(5)生物学的分析
実験終了後(45日目)、各ガラス瓶内から内容物を採取し、生物学的分析に供した。また、CFTをリン酸緩衝生理食塩水に浸漬して振とう処理し、CFT付着物をリン酸緩衝生理食塩水に移行させて生物学的分析に供した。これらの試料に含まれる微生物群の16S rRNA遺伝子のコピー数の量をリアルタイムPCRを用いて定量分析した。具体的には、採取した試料を遠心分離処理して微生物群を沈降させ、トリス−EDTA緩衝液 (pH8.0、100mM トリスHCl、40mM EDTA)に懸濁した。DNAはドデシル硫酸ナトリウム及びフェノール−クロロホルム−イソアミルアルコール溶液(25:24:1 v/v)の存在下、微生物群から繰り返しビーズ衝突させて抽出し、次いで、抽出DNAをQIAamp DNAミクロキット(キアゲン社製)で精製した。これを、TaqMan リアルタイムPCTに供して微生物群の16S rRNA遺伝子のコピー数を定量分析した。プライマー/プローブセットは以下の通りとした。尚、このプライマー/プローブセットは、以下の論文に記載されているものである(Takai, K., K. Horikoshi (2000). "Rapid detection and quatification of members of archaeal community by quantitative PCR using fluorogenic probes." Appl. Environ. Microbiol. 66(11): 5066-5072.、Sawayama, S., Tsukahara K, Yagishita T (2006). "Phylogenetic description of immobilized methanogenic community using real-time PCR in a fixed-bed anaerobic digester." Bioresour. Technol. 97(1): 69-76.)。
・原核生物用プライマー/プローブセット:
Uni340F/Uni806R/Uni516F
・メタン菌用プライマー/プローブセットセット:
S-P-MArch-0348-S-a-17/S-D-Arch-0786-A-a-20/S-P-MArch-0515-S-a-25
【0079】
また、末端断片長多型解析(T−RFLP)により、全菌のうち古細菌を除く細菌の群集構造と、全菌のうち細菌を除く古細菌の群集構造とを解析した。具体的には、細菌のフォーワードプライマーとして5’末端で6-FAMでラベルされたBa27fを用い、リバースプライマーとしてBa907rを用い、古細菌のフォーワードプライマーとしてAr109fを用い、リバースプライマーとして5’末端で6-FAMでラベルされたAr912rtを用いて、50μLの反応混合物中でPCRを行い、PCR単位複製配列物を得た。PCR単位複製配列物はWizard SV Gel and PCR Clean-Up System (プロメガ社製)で精製した後、細菌の制限酵素としてMspI(New England BioLabs社製)を用い、古細菌の制限酵素としてTaqI(New England BioLabs社製)を用いて消化した。この精製消化物を内部サイズ標準としてDNAサイズ標準GeneScan-500 ROX Size Standard (Applied Biosystems社製)を用いた。3130xl Genetic Analyzer(Applied Biosystems社製)により、末端断片長多型解析を実行した。尚2%未満の成分については、データから取り除いた。
【0080】
さらに、クローン解析を行った。具体的には、T−RFLPと同様の条件でPCRを行い、PCR産物を精製してpGEM−T Easy ベクター(プロメガ社製)にライゲートさせた。プラスミドはEscherichia coli JM109細胞に組み込み、そのクローンをランダムに選択して、BigDye Terminator cycle sequencing chemistryを用いたABI 3130xl sequencer(アプライドバイオシステムズ)によりシーケンシングを行った。
【0081】
<実験結果>
(1)ガス成分分析結果
ガス生成速度の経時変化に関し、実施例1と比較例1の結果を図2に示す。実験開始(0日)〜15日目までは、実施例1の方がガス生成速度が若干速かったものの、顕著な差は見られなかった。しかし、HRTを10日として負荷を上昇させた16日目以降ではガス生成速度に顕著な差が見られた。即ち、比較例1では、ガス生成速度が徐々に低下し、最終日(45日目)には73mL/L/日まで低下したにも関わらず、実施例1では、最終日までガス生成速度が徐々に増加し続け、終には257mL/L/日まで上昇した。
【0082】
さらに、最終日(45日目)のガス中のメタン濃度を測定したところ、比較例1では、メタン濃度(体積)が56±1%だったのに対し、実施例1ではメタン濃度(体積)が72±2%であり、実施例1の方が圧倒的にメタン濃度が高いことが明らかとなった。
【0083】
以上の結果から、メタン発酵液を収容したリアクターにCFTを投入することで、稲藁からのガス生成速度を向上させる効果と、より高負荷(少なくともHRT10日)での運転を可能にする効果と、ガス中のメタン濃度を向上させる効果(メタン生成量を向上させる効果)を奏することが明らかとなった。
【0084】
(2)揮発性脂肪酸濃度分析結果
揮発性脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)濃度の経時変化に関し、実施例1と比較例1の結果を図3に示す。実施例1では、全期間において揮発性脂肪酸が殆ど検出されなかった。これに対し、比較例1では、揮発性脂肪酸が全期間において検出され、特に実験期間の後半に向かうに伴い、その濃度が上昇する傾向が見られた。また、比較例1において蓄積している揮発性脂肪酸の大部分は酢酸であることが確認された。
【0085】
以上の結果から、メタン発酵液を収容したリアクターにCFTを投入することで、揮発性脂肪酸がリアクター内の内容物であるメタン発酵液中に蓄積するのを防ぐ効果を得られることが明らかとなった。
【0086】
また、上記のガス成分分析結果を加味すると、比較例1では、揮発性脂肪酸の蓄積によってセルロースの分解が阻害され、その結果としてガス生成速度が非常に低くなったのに対し、実施例1では揮発性脂肪酸の蓄積が殆ど無いためセルロースの分解が阻害されることなくむしろ促進され、その結果としてガス生成速度が向上したものと考えられた。
【0087】
(3)COD分析及びSS分析結果
COD除去効率及びSS除去効率に関し、実施例1と比較例1の結果をそれぞれ図4及び図5に示す。図4及び図5から明らかなように、実施例1の方が圧倒的にCOD除去効率及びSS除去効率が優れていた。
【0088】
以上の結果から、メタン発酵液を収容したリアクターにCFTを投入することで、COD除去効率及びSS除去効率を向上させる効果、つまり、稲藁分解効率を向上させる効果を奏することが明らかとなった。
【0089】
(4)グルコース濃度分析結果
グルコース濃度に関し、実施例1と比較例1の結果を図6に示す。実験期間中において、グルコース濃度に殆ど差は見られなかった。
【0090】
しかしながら、上記の通り、メタン発酵液を収容したリアクターにCFTを投入することで、稲藁分解効率を向上させる効果を奏することを勘案すると、実際には、実施例1の方がより多くのグルコースを分解しているものと考えられた。即ち、稲藁分解効率が向上すれば、稲藁の分解生成物たるグルコースの生成量も増加するので、実施例1の方が比較例1よりもグルコース生成量が多かったと考えられる。それにも関わらず、実験期間中において、両者のグルコース濃度に差が見られなかったということは、実施例1の方がグルコースをより多く分解したことで、グルコース生成量が少ない比較例1と同等のグルコース濃度まで低減できたことを意味していると考えられた。
【0091】
以上の結果から、メタン発酵液を収容したリアクターにCFTを投入することで、稲藁の分解生成物たるグルコース分解能を向上させる効果を奏することが明らかとなった。
【0092】
(5)原核生物とメタン菌の定量PCR結果
比較例1の発酵液及び実施例1の発酵液に存在していた原核生物及びメタン菌の定量PCRによるコピー数、実施例1のCFTに保持されていた原核生物及びメタン菌の定量PCRによるコピー数を確認した結果を表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
比較例1の発酵液及び実施例1の発酵液に存在していた原核生物及びメタン菌の定量PCRによるコピー数に大きな差は見られなかった。このことから、実施例1と比較例1の間の実験結果の相違は、CFTに担持されている微生物により奏されていることが示唆された。
【0095】
(6)T−RFLPによる古細菌群集構造の比較
末端断片長多型解析(T−RFLP)により、全菌のうち、細菌を除く古細菌の群集構造を比較した。結果を図7に示す。図7中、Aは比較例1の発酵液中の細菌、Bは実施例1の発酵液中の細菌、Cは実施例1のCFT上に保持されていた細菌に関する結果である。
【0096】
また、TAクローニングにより古細菌群集の構造を解析した結果を表2に示す。
【0097】
【表2】

【0098】
図7及び表2に示される結果から、CFT上には、メタノサルシナ(Methanosarcina)属に属するMethanosarcina thermophilaが優占的に保持されており、さらに、メタノサーモバクター(Methanothermobacter)属に属するMethanothermobacter thermautotrophicus、メタノバクテリウム(Methanobacterium)属に属するMethanobacterium formicicumが保持されていた。特に、メタノサルシナ(Methanosarcina)属に属するMethanosarcina thermophilaは発酵液と比較すると圧倒的に高い割合でCFT上に保持されていた。
【0099】
ここで、メタノサルシナ属に属する微生物は酢酸資化性メタン菌であり、メタノサーモバクター属及びメタノバクテリウム属に属する微生物は水素資化性メタン菌である。したがって、CFT上に酢酸資化性メタン菌を優占的に担持させることができ、さらに、水素資化性メタン菌を担持させることも可能であることが明らかとなった。
【0100】
そして、上記の通り、実施例1では、揮発性脂肪酸の蓄積が抑えられて、メタンガス生成が持続したものと考えられた。このことを勘案すると、発酵液にCFTを接触させることによって、CFTに酢酸資化性メタン菌を優占的に担持させることができる結果として、発酵液中の揮発性脂肪酸の蓄積が抑えられて、メタンガス生成を持続させることができるものと考えられた。
【0101】
さらに、この結果から、酢酸資化性メタン菌は発酵液中のような親水性の環境よりも、疎水性の環境において保持・増殖させやすいことが明らかとなった。このことから、CFTに限らず、ポリエチレンやポリプロピレンといった疎水性の担体上に酢酸資化性メタン菌を優占的に担持できるものと考えられた。また、水素資化性メタン菌についても、疎水性の担体上に保持できるものと考えられた。
【0102】
(7)T−RFLPによる細菌群集構造の比較
末端断片長多型解析(T−RFLP)により、全菌のうち、古細菌を除く細菌の群集構造を比較した。結果を図8に示す。図8中、Aは比較例1の発酵液中の細菌、Bは実施例1の発酵液中の細菌、Cは実施例1のCFT上に保持されていた細菌に関する結果である。
【0103】
また、TAクローニングにより細菌群集の構造を解析した結果を表3に示す。
【0104】
【表3】

【0105】
まず、TAクローニングの結果から、CFT上には、クロストリジウム(Clostridium)属に属する微生物であるClostridium thermocellum近縁種(相同性85・86%)やClostridium cellulolyticum近縁種(相同性81%)が保持されていた。また、アナエロバクルム(Anaerobaculum)属に属する微生物であるAnaerobaculum mobileが保持されていた。
【0106】
ここで、クロストリジウム属に属する微生物は嫌気性セルロース分解菌である。また、アナエロバクルム(Anaerobaculum)属に属する微生物は、糖類、特にグルコースを分解する糖分解菌である。したがって、CFT上に嫌気性セルロース分解菌を担持させることが可能であり、さらに、糖分解菌を担持させることも可能であることが明らかとなった。
【0107】
また、図8に示される結果から、Aで検出されたフラグメントは8種であったのに対し、Bでは10種、Cでは11種であり、BとCで得られたフラグメントの合計は14種であることが確認された。この結果から、CFTを備えたリアクター内では細菌が多様化が見られることが明らかとなった。
【0108】
また、A、B及びCのいずれにおいても、84、92、148、262、464および545bpの6種のフラグメントが検出された。これに対し、BとCでは、Aでは検出されなかった82、91、132、199、270、277、280及び465bpの8種のフラグメントが検出された。したがって、CFTを備えた実施例1の細菌群集は、CFTを備えていない比較例1の細菌群集とは明らかに相違していることが明らかとなった。
【0109】
したがって、微生物群集としてメタン発酵汚泥を用い、メタン発酵液にCFTを添加することで、CFT上で細菌群集を多様化させてセルロース分解を促進できる可能性が示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性セルロース分解菌及び酢酸資化性メタン菌を少なくとも含む微生物群集が添加された懸濁液に微生物を担持し得る担体を添加すると共に、前記懸濁液にリグノセルロース系バイオマスを添加して、前記微生物群集により前記リグノセルロース系バイオマスの分解反応を進行させる工程を含むことを特徴とするリグノセルロース系バイオマスからメタンガスを生成するための微生物担持担体の作製方法。
【請求項2】
前記微生物群集がさらに水素資化性メタン菌及び糖分解菌の少なくともいずれかを含む請求項1に記載の微生物担持担体の作製方法。
【請求項3】
前記懸濁液がメタン発酵汚泥またはメタン発酵汚泥含有液である請求項3に記載の微生物担持担体の作製方法。
【請求項4】
前記疎水性担体が炭素製の担体である請求項1〜3のいずれか1つに記載の微生物担持担体の作製方法。
【請求項5】
前記リグノセルロース系バイオマスが藁である請求項1〜4のいずれか1つに記載の微生物担持担体の作製方法。
【請求項6】
前記リグノセルロース系バイオマスが稲藁である請求項5に記載の微生物担持担体の作製方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法により得られた微生物担持担体を用いてリグノセルロース系バイオマスをメタン発酵処理することを特徴とするリグノセルロース系バイオマスからのメタンガス生成方法。
【請求項8】
メタン発酵液に、酢酸資化性メタン菌が担持された疎水性担体とリグノセルロース系バイオマスとを投入してメタン発酵処理することを特徴とするリグノセルロース系バイオマスからのメタンガス生成方法。
【請求項9】
前記リグノセルロース系バイオマスが藁である請求項7または8に記載のメタンガス生成方法。
【請求項10】
前記リグノセルロース系バイオマスが稲藁である請求項9に記載のメタンガス生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−115120(P2011−115120A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277886(P2009−277886)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】