説明

リチウム二次電池用正極活物質およびそれを用いた二次電池

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、非水リチウム二次電池の正極活物質として有効なLiNiO 粉末またはLiNiCoO粉末と、該粉末を主成分とする正極板を用いて充放電を高容量化し負荷特性を向上させたリチウム二次電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、LiNiO を製造する代表的な技術としては、リチウム化合物とニッケル化合物との混合物を750℃程度の温度で15時間酸素気流中で焼成を行って所望のLiNiO を合成し、Liインターカレーション型の結晶構造を発達させ、リチウムイオンの移動を容易にして電池容量を高める方法が知られていた。
【0003】
しかしながらこのような従来の技術にあっては、初期の高容量化のための結晶構造を得る条件の一手段として、他の元素を用いて結晶構造を制御してサイクル性を高めようとしていたが容量の再現性が低く、二次電池の負荷特性が低い等の問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、従来の製造法によって得られた正極活物質には、得られた物質の初期容量の再現性が悪い等の問題があり、LiNiOを正極活物質として用いる非水リチウム二次電池において、初期容量の再現性を確保することと、負荷特性の高い新規な正極活物質を開発することが望まれていた。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は斯かる課題を解決するために鋭意研究した結果、活物質であるLiNiO 粉末中に特定範囲量の選ばれた元素を含有させることによって、充放電の繰り返しによる容量低下を抑制することができることを見いだし、本発明を提供することができた。
【0006】
すなわち、本発明は第1に、Mgを必須成分として含み、下記の式(1):
LixMgyNi1-y-zCoza
[ただし、式中のx、y、zおよびaはそれぞれ、1.05≧x≧0.95、aはほぼ2であり、0.15≧z≧0.02、0.02>y>0.003である]
で表わされる組成を有するLiNiCoO2粉末からなることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質であり、第2に、0.10≧z≧0.05、0.01≧y≧0.005である、第1記載のリチウム二次電池用正極活物質であり、第3に、第1または2に記載のリチウム二次電池正極用活物質を導電剤および結着剤と混練して成形した成形体を正極板として用いてなることを特徴とするリチウム二次電池である。
【0007】
【作用】
一般的にLiNiOの製造は、ニッケル原料とリチウム原料とを混合し、加熱により反応させた後、必要に応じて粉砕・分級する。この場合、ニッケル原料としては水酸化物、塩基性炭酸塩、オキシ水酸化物、酸化物の形態のものが使用可能とされており、一方、リチウム原料としては水酸化物が代表的に使用される。
【0008】
上記原料を混合し、原料中の水分や、OH基等の除去のため500℃程度で仮焼し圧密成形し、750℃前後で焼成することが多い。この場合の雰囲気としては酸素雰囲気が好ましく、焼成によりNi原料を母体としてLiが拡散してLiNiOになると考えられている。
【0009】
しかしながら上記のように製造されたLiNiOは充放電サイクルに伴う容量低下が見られることから、その対策としてはCoのような同族元素を添加することによって固溶相を形成して結晶状態を制御し、電池としての特性を高めることが試みられているが、安定して再現できない上、低下抑制も充分でなかった。
【0010】
本発明は以上の欠点を解消すべく試行錯誤の結果、添加元素としてMgを選びその含有量を制御することにより活物質としての特性改善が可能であることを見いだした。容量の低下は様々な原因に起因するが、現状ではMgによる改善がいかなる機構によるものかは不明である。
【0011】
LiCoO では、Mgの添加により電子伝導度が改善されることによるとされているが、もともとLiCoO に比べて電子伝導度の一桁以上高いLiNiOでは別の作用と考えられている。したがって本発明においては、実験的に特性への量的な影響を検討したところ、
Li(Mg+Ni1−y−z +Co)O(1)
の式で示される組成であって、式中のx、y、zの量を
1.05≧x≧0.95、aはほぼ2
0.15≧z≧0.02ならば0.02>y>0.003
0.02>z ならば0.05>y>0.003
の範囲に制限することによって、これらの目的を達することを見いだしたものである。
【0012】
上記CoとMgの量を%で表わしてCoを横軸、Mgを縦軸とする直交座標上に示すと、本発明の正極活物質用粉末中に占めるCoとMgとの量的関係は図2の如くなる。
【0013】
本発明においては、ニッケルとリチウムの原料としては、それぞれ公知の塩が使用できるが、水酸化物で十分である。原料を混合物として、焼成条件は700〜800℃、保持時間は10〜20時間程度で酸化雰囲気もしくは酸素気流中で熱処理するが、これ以外の条件も場合によっては適用できる。
【0014】
原料中のLi分は焼成によってその0.3%程度が揮発するので、秤量時に補正してもよい。また、焼成後の状態として、外観は黒色の塊となるが、正極用活物質とするためには一般的な装置を用いて上記塊を解砕し、分級することによって必要な粒径とする。
【0015】
リチウムと他の陽イオンとの成分比は、モル比において1/1でなくても、1±0.05/1の範囲であれば、同様の効果が得られるが、式(1)に示す成分以外を少量含んでいても、本発明と同様の効果を有するものは本発明の範疇に含まれる。
【0016】
例えばNi量の一部をCoで置換した場合も同様の効果を得ることができた。一般にCoの添加は主にサイクル性の改善を目的とするが、十分な効果を得るためにはNiの20%程度の置換が必要とされており、一方では初期容量が25%低下してしまう。
【0017】
しかしCoは高価な原料であり、最小限の使用量とすることがコスト上必要である。初期容量とサイクル性の両立は5〜10%の範囲が最適であるとされているが、この場合のサイクル性は実用上充分ではなかった。
【0018】
図3はMgの添加による100サイクル後の容量低下率を示す図である。この図からわかるように、Mgの添加はCo量の広域でサイクル性を改善することが判明し、本発明ではCo量により二領域に大別することにした。まずCoの置換量が2%未満では効果がなく、Co無添加と同様と考えられる。この場合、Mg量は多い程効果的となるが上限は5%である。
【0019】
逆にCo2%以上15%までは同様の効果を有するが、Coが増加するにつれてMg必要量は低下する。すなわちCoが少量でも存在するとMg必要量は減少することになる。したがって本発明では、Coが2%未満の領域ではMgは1〜2%用い、Coが5〜10%域ではMgは1〜0.5%とすることが望ましい。各領域での上限を超えれば、サイクル性が低下してしまうことが確認された。
【0020】
次いで上記方法で得られたLiNiOを正極活物質として用い、これに導電剤としてケッチェンブラック、結着剤としてポリテトラフルオロエチレン(P.T.F.E)を重量比で87:8:5の割合で混練し、成形後圧延を行った。これを正極として用い、負極には黒鉛を用いた。また、セパレーターにはポリプロピレンのフィルムを切り抜いたものを使用し、電解液にはプロピレンカーボネート(PC)とジメトキシカーボネート(DMC)との体積比1:1の混合液に6フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1mol/l 濃度溶解させたものを用いた。成形手法としては、原料をペースト状にして用いる厚膜成形法を用いることもできる。
【0021】
本発明において充放電試験は0.5mA/cm の電流密度で行い、充電は4.2Vでカットし、放電は2.7Vでカットした。充放電2回目までは容量値が安定しないので3回目の放電容量を初期値とした。
【0022】
以下実施例をもって詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0023】
【参考例1】
水酸化マグネシウムをコロイド化させた水溶液に比表面積40m2/g、平均径約17μmの水酸化ニッケルを浸し、濾過した後に300℃で乾燥して表1に示すMgの含有量を有するように調整した。Mg量は水溶液濃度と浸した時間で制御するが、表1のMg含有量は焼成後の粉体の分析値を示す。
【0024】
【表1】



【0025】
原料として7μmの水酸化リチウムLiOH・HOと、上記表1のMg含有水酸化ニッケルとをモル比で、Li/(Ni+Mg)=1.004/1となるように秤量し、混合した。次いで、該混合物を200℃で乾燥させた後に10Kg/cmの圧力で直径25mm厚み3mmに成形し、酸素気流中760℃において10時間熱処理を行って焼成物とした。
【0026】
次いで得られた焼成物を乳鉢内で粉砕することによってLiMgNiOの粉末となしたものを分級して目的とする粉体を得た。これらの粉末をXRD測定したところいずれも二次的な相は確認できなかった。
【0027】
このようにして得られたLiMgNiOを正極活物質として用い、これに導電剤としてケッチェンブラック、結着剤としてポリテトラフルオロエチレンを重量比で87:8:5の割合で混練して、2ton/cmの圧力で直径18mmの円盤状に加圧成形した。
【0028】
この加圧成形体を図1に示す試験セル内の正極2として用い、負極4には黒鉛を用いた他、セパレーター3には、ポリプロピレンのフィルムを切り抜いたものを、電解液には、プロピレンカーボネート(PC)と1,2−ジメトキシエタン(DME)との体積比1:1の混合液に6フッ化リン酸リチウム(LiPF )を1.0mol/l の濃度に溶解させたものを用いた。
【0029】
表1に示すLiMgNiO粉末を用いて、それぞれ別個の正極体を作成して図1の試験セルに組み入れ、充放電試験を行い、得られた初期放電容量と100サイクル後の放電容量を求め、その結果を表1に併せて示した。
【0030】
この結果、Mgの含有量として0.43〜4.75%の範囲内(No.1〜No.5)のものが100サイクル後の放電容量がいずれも145mAh/g 以上であったが、これらの範囲外(No.6〜No.7)のものは140mAh/g 以下であった。
【0031】
【参考例2】
参考例1に示すように水酸化マグネシウムをコロイド化させた水溶液に比表面積40m2/g、平均径約15μmの水酸化ニッケルNi(OH)2を浸して、表2に示すMgの含有量を有するように調整した。
【0032】
【表2】



【0033】
原料として水酸化リチウムと表2に示す平均径15μmのMg含有水酸化ニッケルとを、モル比でLi/(Ni+Mg)=1.003/1となるように秤量し、これらの粉末を水中に投入した後にクエン酸を水酸化リチウムに対して35重量%加え、80℃で攪拌しながら乾燥した。
【0034】
次いで、該乾燥物を2cm程の塊にし酸化気流中750℃において20時間熱処理を行い、得られた焼成物を乳鉢内で粉砕して150メッシュ以下の粉体を得た。これらの粉体の平均径は14μmであった。
【0035】
これらのLiMgNiO2粉体をXRD測定したところ、従来報告されていたLiNiO2と同型のパターンを得た。また、これらの粉体を用いて参考例1と同様の手順で充放電試験を行ったところ、Mg含有量が0.42〜4.65%の範囲(No.8〜No.13)のものは、100サイクル後の放電容量が全て149mAh/g以上となっていた。
【0036】
【参考例3】
水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)と水酸化ニッケルを500℃で熱処理して得た平均径12μmの酸化ニッケル(NiO)とをモル比においてLi/Ni=0.97/1またはLi/Ni=1.04/1となるように秤量し、次いでクエン酸をリチウムとニッケルの合量に対して35重量%添加して、70℃にて混合乾固させた後に冷却した。尚、この混合時にMgを1.5%に相当するように水酸化マグネシウム粉末を添加した。
【0037】
次いでこれらの粉末を攪拌容器から取り出して10mm以下に解砕し充分に乾燥させ、酸素気流中で730℃で15時間熱処理を行い、得られた焼成物を乳鉢で粉砕して、平均径11μmのLiMgNiO を得た。
【0038】
これらの粉末を用いて参考例1と同様の手順で充放電試験を行ったところ、初期放電容量はLi/Ni=0.97/1およびLi/Ni=1.04/1の場合において各々164mAh/gと176mAh/gであり、これらの数値はLi/Ni=1/1の時と同程度の電池特性であった。また100サイクル後の放電容量は12%容量低下の144.3mAh/gと14%容量低下の151.3mAh/gであった。
【0039】
【実施例1】
Ni成分の7%(Mgは1%)をCoで置換した平均粒径16μmの水酸化ニッケルを用いたほかは、すべて参考例1と同様の条件で作成したLiMgNiCoO2の粉末の粒径は15μmであった。
【0040】
これらの粉末を用いて参考例1と同様の手順で充放電試験を行ったところ、初期放電容量は162mAh/gであり、100サイクル後の放電容量は11%低下の144mAh/gであった。
【0041】
【比較例1】
原料としてLiOH・H OとNi(OH) とをモル比でLi/Ni=1.01/1となるように秤量し、これらの粉末をエタノール中で50時間粉砕・混合し、乾燥後酸素気流中750℃において12時間熱処理を行った。尚、この場合、未反応のLiを安定化させるために200℃炭酸ガス中で5時間保持した。
【0042】
次いでこれらの焼成物を参考例1に示すと同様な処理を行ってLiNiO2粉末を得、該粉末を正極体として用いて充放電試験を行った。この結果、初期放電容量は156mAh/gであったが、100サイクル後の放電容量は41.6%低下の91.1mAh/gであった。
【0043】
【発明の効果】
上述のように本発明に従ってMgを含む特定組成の粉末を用いて作製した正極体を内蔵した二次電池は電池特性の高いリチウム二次電池である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る実施例および比較例で作製した試験セルの断面概略図である。
【図2】本発明の正極活物質用粉末におけるCoとMgとの量的関係(%)を示す図である。
【図3】Mg添加による100サイクル後の容量低下率を示す図面である。
【符号の説明】
1 正極缶
2 正極
3 セパレーター
4 負極
5 負極缶
6 絶縁パッキン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mgを必須成分として含み、下記の式(1):
LixMgyNi1-y-zCoza
[ただし、式中のx、y、zおよびaはそれぞれ、1.05≧x≧0.95、aはほぼ2であり、0.15≧z≧0.02、0.02>y>0.003である]
で表わされる組成を有するLiNiCoO2粉末からなることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
0.10≧z≧0.05、0.01≧y≧0.005である、請求項1記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリチウム二次電池正極用活物質を導電剤および結着剤と混練して成形した成形体を正極板として用いてなることを特徴とするリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【特許番号】特許第3578503号(P3578503)
【登録日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【発行日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−337940
【出願日】平成6年12月27日(1994.12.27)
【公開番号】特開平8−185863
【公開日】平成8年7月16日(1996.7.16)
【審査請求日】平成13年11月28日(2001.11.28)
【前置審査】
【出願人】(000224798)同和鉱業株式会社 (550)
【参考文献】
【文献】特開平05−101827(JP,A)
【文献】特開平05−325966(JP,A)
【文献】特開平05−242891(JP,A)